工業会活動 IAQGボルドー会議について 2.会議の概要 1.はじめに IAQGボルドー会議が、 2011年10月24日∼27 IAQG会議はまず、評議会(Council)の下 日にフランスで開催された。 IAQG(International 位組織の会議が開催される。評議会では評議 Aerospace Quality Group) (図1及び図2参照)は、 会の下位組織の重要な活動報告や議決案件が 世界の主要な航空宇宙メーカーが互いの信頼 審議される。評議会の議決権保有メンバーは、 に基づいて強固な協力体制を構築・維持する アジア太平洋セクター6社(日本4社(MHI、 ことにより、価値創造の流れの全段階におい KHI、FHI、IHI)、中国1社(AVIC)、韓国1社 て品質の著しい改善とコストの削減を実現す (KAI))、ア メ リ カ セ ク タ ー 10 社(Boeing、 る活動を推進することを目的に1998年に設立 GE Aviation 等)、ヨ ー ロ ッ パ セ ク タ ー 10 社 された組織である。IAQG会議は、年2回(春、 (Airbus、Rolls-Royce等)である。今回の評議 秋)開催され、今回は通算30回目にあたる。 会はオブザーバを含め約120名の参加があっ IAQGは航空当局、防衛当局及び宇宙機関等 た。総会(General Assembly)は、評議会翌日 のステークホルダーとの関係構築を通じて、 の最終日に開催され、品質関連の各種講演、 IAQGが制定している9100関連規格およびそ 各種ワークショップを通じて全世界の航空宇 の第三者認証制度をステークホルダーに認 宙業界の品質関連のコミュニケーションを図 知・受容して貰うことも目標の1つとしてい る場となっている。今回は、10月24日∼26日 る。以下に今回の会議について概要を報告す の間で各下位組織会議が、10月27日に評議会 る。 が開催された。なお、総会開催はヨーロッパ セクターの判断により見送られた。 図1 IAQG組織 38 平成23年12月 第696号 Council:評議会 Leadership Team:リーダーシップチーム Communications:コミュニケーションチーム Operating Management System:運営管理チーム Finance:財務管理チーム Strategy Working Group:戦略検討ワーキンググループ(戦略検討委員会) Improvement Strategy:改善戦略部会 Requirements:規格要求分科会 Product & Supply Chain Improvement:製品及びサプライチェーン改善分科会 People Capability:要員能力分科会 Performance:パフォーマンス評価分科会 Relationship Growth Strategy:関係強化戦略部会 Civil Authorities - Production:航空当局(製造)関係強化分科会 International Space Forum:国際スペースフォーラム Defense Relationship:防衛当局関係強化分科会 Maintenance, Repair&Overhaul(MRO) : MRO(整備・修理・オーバーホール)関係強化分科会 Trade Associations Relationship:業界団体関係強化分科会 Other Party Management Team:国際航空宇宙認証制度管理チーム 図2 IAQG組織(機能別) 今回のボルドー会議は3セクターから約180 中国:AVIC<4> 名の参加者があった。アジア太平洋セクター 韓国:KAI<1> からの参加組織は以下の通りである(< >内 インドネシア、台湾、オーストラリア: は参加人数)。なお、日本の参加者は総勢20 不参加 名で参加組織は、JABを除き、JAQG(Japanese Aerospace Quality Group)のメンバーである。 日本:MHI<4>、KHI<3>、FHI<2>、 IHI < 4 >、MELCO < 1 >、HIREC 以下に今回の会議における評議会、並びに 評議会の下位組織の主要な会議(分科会等) の概要を紹介する。 <1>、JAB(認定機関)<1>、BSK(認 証機関)<1>、JQA(認証機関)<1>、 SJAC<2> 3.評議会 評議会はIAQGの活動戦略などを決定する 39 工業会活動 最上位の会議体であり、IAQGメンバー各社 注目された。また、2012年10月に開催される の品質担当副社長及び品質保証部長クラスな IAQG名古屋会議につき、SJAC宮部常務が紹 どの上位マネジメントが参加し、重要案件の 介を行った。 審議を行い投票メンバーによる議決を行って いる。今回の評議会は、リーダーシップチー 議決案件については下記の7件が上程され、 すべての案件が承認された。 ム会議報告、セクター・レポート、会計報告、 −IAQG会長の交代 戦略検討ワーキンググループ会議、各分科会 −2012年IAQG予算案 活動の進捗報告や活動に伴う議決案件の審議 −IAQG憲章(IAQG Charter)の改定 が行われた他、冒頭にEASA(European Aviation −IAQG運営手順関連 4件 Safety Agency)Certification DirectorのNorbert IAQG 会 長 の 交 代 は、現 会 長 の Boeing 社 Lohl博士による講演「EASA Safety Review – Wayne Brown氏がSAFRAN社の品質保証担当 Key Messages to Industry」があった。これは、 副社長 Xavier Sahut D izarn氏を新会長に推薦 前述のようにIAQGが航空当局(FAA、EASA し、全会一致で承認された。 等)との関係構築を通じて、IAQGが制定し IAQG 憲 章(IAQG Charter)の 改 定 は、 ている9100関連規格およびその第三者認証制 IAQGの法人化に伴い“Leadership Team”を 度を航空当局に認知・受容して貰うことを目 “Executive Committee”に名称変更するもので 標の1つとしているが、そのための相互理解 ある。構成員の変更はない。 活動の一環である。 セクター・レポートにおいては、アジア太 評議会最後のIAQG新会長の総括コメント 平 洋 セ ク タ ー リ ー ダ ー(伊 藤 直 彦 氏(FHI の中で、各種IAQG活動の推進リーダーへの QMS推進室長))より、当セクターの最新の 感謝が示されるとともに、IAQG会長交代に 活動状況、JAQGの活動状況を報告した。中 関連して、離任したWayne Brown氏(Boeing社) 国が2012年春までにCAQG(Chinese Aerospace のこれまでの貢献に対する特別な感謝が示さ Quality Group)を立ち上げる予定である事が れた。 アジア太平洋セクター・レポート IAQG名古屋会議紹介の様子 評議会の様子 40 平成23年12月 第696号 4.分科会等 今後の規格の管理要領等を議論した。また今 評議会に先だって開催された分科会などの 後5ヵ年のIAQG戦略については、JAQG(MHI 会議のうち、代表的なものにつき概要を紹介 河本正博氏)よりワンページ・プランでのロー する。 ドマップ案が提示された。本ロードマップ案 は、現在のIAQG戦略をより具体的かつ分か (1)リーダーシップチーム会議(Leadership りやすく表現したものであり、今後、コミュ Team Meeting) ニケーションチームとも連携を取り継続して リーダーシップチーム会議は、IAQG会長、 協議していくこととなった。JAQGとして、 各セクターリーダー、財務責任者、各セクター 今後も積極的に関与していく予定である。 の事務局等から構成され、主にIAQGの組織 運営に関連する重要事項を討議し、その結果 (3)規格要求分科会(Requirements) が必要に応じ評議会に上程される。今回の 本分科会では、世界的に航空宇宙業界で普 リーダーシップチーム会議では、IAQG会長 及している9100規格(国内ではJIS Q 9100規 の交代、IAQGの財務状況、IAQG法人化検討 格)をはじめ、製品とプロセスの整合性・完 結 果、IAQG 憲 章 の 変 更 等 が 協 議 さ れ た。 全性を改善していくための業界における品質 IAQG法人化については、①外部の個人/法人 要求事項を規格として作成・維持推進してい との契約主体として法人格をもつ必要がある る。今回のボルドー会議では、IAQG作成の こと、及び②IAQGの各種活動の法的責任が 要求事項・ガイダンス文書類を規格要求分科 個人に帰することがないようにする という 会の所掌とすること、及び各規格の改正検討 二つを主目的に2008年から検討を進めている 作業状況が報告された。また、先のニューオ ものである。2012年3月からの法人化を目指 リンズ会議に引続き、規格関連帳票や支援文 す方針である。 書の提供方法の改善に関わる協議等がなされ た。日本からは、9100規格の展開支援文書類 (2)戦略検討ワーキンググループ(Strategy について改訂・新規発行したことを報告した。 Working Group) 戦略検討ワーキンググループは、各セク また、先のニューオリンズ会議で改訂作成 ターリーダー、分科会のリーダー等から構成 に着手することが決定された9102規格(初回 され、下位の組織(図2参照)の活動を統括 製品検査要求事項)については、3日間の会 するとともに、IAQGの上位戦略を検討し、 議が開催された。アメリカセクター及びヨー その成果を評議会に上程する機能を持ってい ロッパセクターともに5∼6名の代表者が参加 る。各種の分科会活動の進捗・会議の結果は、 し、アジアパシフィックセクターからも延べ 本ワーキンググループ会議での報告・審議を 4名が参加した。先のニューオリンズ会議で 経て必要に応じて評議会に上程される。 寄せられた各セクターからのコメントの検討 会議では、2011年度のIAQGの各戦略課題 に加え、各メンバーより現行規格の不明確な に対する進捗状況が報告され懸案事項に対し 要求事項など今後検討しなければならない項 ては、個々に会議メンバーで方針を決定した。 目の提案や検討の参考としてメンバーの所属 主要な課題・懸案事項としては9100:2009規格 会社における運用事例等の紹介の他、SCMH への移行スケジュールや、力量管理の進め方、 で 掲 載 さ れ て い る 9102 に 関 連 す る FAQ や 41 工業会活動 SCMH資料についても改訂版検討チームが担 完 成 し て い る 資 料 に つ い て は IAQG ウェ ブ 当することになるなど、かなり活発な討議が (http://www.sae.org/iaqg/)に一般公開中である。 行われた。今後は、通常のIAQG会議に加えて、 対面会議や電話会議で検討を進める予定と なっているが、対応する作業量も多くなると 予想されるためJAQGとしても対応メンバー 注)SCMHはJAQGにて順次和訳中であり、作成した SCMH和訳版はJAQG会員専用ウェブ(http://sjacjaqg.kir.jp/)に掲載している。今回のボルドー会 議の評議会でも「SCMH和訳版」が紹介された。 を確定し、積極的に参画していく予定である。 (5)要員能力分科会(People Capability) なお、審査の要求事項となる9101規格につ 本分科会では、組織の要員能力を高めて、 いて、今回のボルドー会議に合わせて9101規 人に起因する品質不適合を削減すべく、世界 格検討チーム会議が開催され、リーダーの (*) 的に共通した、 “BoK” の概念を取りいれた MHI 河本正博氏により進行された(チームメ 力 量 管 理 に 関 す る 一 連 の PDCA(Plan-Do- ンバー参加率100%)。アジア太平洋セクター Check-Act)サイクル(必要な力量の定義=> (国内)からは認証機関メンバーとしてJQAか 力量の評価=>必要な教育 =>認証)構築を目 ら も 参 加 が あ っ た。会 議 で は、I S O / I E C 指した検討を行っている。今回のボルドー会 17021:2011へ対応する9101E改正版コンセプ 議では、以下の方向で検討を進めることが再 ト、新規FAQ候補及び認証期間メンバーから 確認された。 の9100:2009審査フィードバック等について協 議した。 (a)専門家(Authentication Body)が作成し たBoK(案)を本分科会で検討、審議し、 航空・宇宙・防衛業界のガイドライン (4)製品及びサプライチェーン改善分科会 (Product and Supply Chain Improvement) 本 分 科 会の中心的なテーマであるSCMH (Supply Chain Management Handbook)は、サ プライヤー(供給者)のための、ガイダンス として制定する。 (b)制 定 さ れ た BoK は、SCMH(Supply Chain Management Handbook)を通じて 公開する。 (c)公開されたBoKは、 各社のニーズに応じ、 文書、トレーニング資料、ベストプラクティ 以下に示す各組織固有の要求を満たす スを集めたものである。SCMHの有効利用によ ため、自由に用いる事が出来る。 り、品質関連規格に対するサプライチェーン ○実施すべき仕事内容の定義、説明 の適合性の改善と改善活動の向上が期待でき ○雇用者の技術・技能の向上 るものであり、SCMHの整備・普及はIAQGの ○Skill評価 重要な活動の1つとなっている。今回の分科会 ○人事評価 では、現在開発中の資料の進捗状況確認や今 ○教育計画 後の開発資料、展開・促進方法の検討、戦略 ○各組織における力量管理システムの 検討ワーキンググループでアクションアイテ 構築 ムとなった項目についての処置方針/状況等 (d)制定した“BoK”を最適かつ適切な状 を中心に議論された他、日本からアジア太平 況で維持していくためのプロセスを確 洋セクター内のSCMH活動(主にJAQG SCMH 立する。 WG活動)の進捗状況について紹介した。既に 42 *BoK:Body of Knowledge、必要とされる知識体系 平成23年12月 第696号 ISO9001の6.2.2項「能力、教育・訓練及び もセクターを代表してIAQG活動へ参画し、 認識」に関する要求には、「組織は必要能力 国内業界へのフィードバック及びさらなる活 を明確にする」とされているが、その基準は 動活性化を推進していく。 示されていなく、各社(組織)が独自に定量 的に定義している。この現状から考えると、 (7)国際航空宇宙認証制度管理チーム(Other BoKの概念を導入した「標準化された能力の Party Management Team(OPMT) ) 定義」は重要であり必要である。 OPMTは、9100認証制度の運用に必要な規 具体的には、本分科会において、まず、① 格の作成、9100関連認証制度の検討・(各セ 専門家がBoK(案)を作成する際の遵守事項 クター間の)相互監視等を行っており、9100 をまとめ、専門家にBoK(案)の作成を依頼 認証制度運用において重要な役割を担ってい する、②本分科会がBoK(案)を検討、審議し、 る。現在は、9100:2009規格の認証機関による ガイドラインとして制定する際の内部規定を 移行審査が開始され、組織における認証が 作成する手順で活動が進められる。現在の活 9100:2009規格へ移行している。今回のOPMT 動はBoK作成における初期の重要な段階に当 では、9100:2009規格への移行が3セクターに たり、JAQGとしても本活動に主体的に取組 おいて当初の移行期限である2012年の7月1日 んで行く。 までに、組織のOASIS登録完了遅れが起こら ないよう協議を行った。その結果、OPMT・ (6)国際スペースフォーラム(International 認 証 機 関・認 定 機 関 が 連 携 し て 組 織 の Space Forum) 9100:2009移行状況をモニターすることで、移 スペースフォーラムは、9100規格の宇宙品 行が確実に行われるよう移行補足ルールに反 質要求への取り込みと業界への展開を目的と 映することが合意された。また、今後の9100 し、2003年より発足し、今回で第18回目の開 認証制度の3本柱のひとつをなす9104-1規格 催となる。各国の主要宇宙機メーカーに加え、 (航空宇宙 品質マネジメントシステムの審 ステークホルダーである各宇宙機関(NASA、 査登録制度に関する要求事項)がボルドー会 ESA、JAXA)もメンバーとして積極的に対 議 中 に 3 セ ク タ ー に よ り 承 認 さ れ た た め、 応し、情報交換の場に止まらず、IAQG各活 2012年の第一四半期中の新規格発行に目処が 動へ参加し業界側からの提案を活発に行って 立った。この9104-1規格の移行スケジュール いるのが特徴である。今回は、各セクター内 の策定がこれからのOPMTの課題と言える。 の活動ステータス確認、IAQG各ワーキング また、今回のOPMTではアジア太平洋セク チームでの参画状況の確認、将来計画の協議 ターとアメリカセクターによりヨーロッパセ 及びこれに沿った今年度のワークプラン作成 クターの9100認証制度の監査が実施された。 を行った。その他、ベストプラクティス情報 検出された指摘事項等に関しては、是正対策 の共有として、NASA最新プロジェクトへの を実施することにより今後の改善につなげて 対応、米国内小規模ササプライヤ向けQMS標 行く。 準(AS9003) 、欧州スペースデブリへの対応 標準化等の報告及び各内容に対する協議が行 われた。 JAQGスペースフォーラムとしては、今後 5.おわりに IAQGは、世界共通の航空宇宙品質マネジ メントシステム規格(9100規格)をはじめと 43 工業会活動 す る 関 連 規 格 の 制 定 に 加 え、“O n T i m e , 昨年から端緒について、EASAは昨年12月に On-Quality Delivery(OTOQD)”を効率的に達 レ ギ ュ レ ー シ ョ ン Part 21 に お い て「Other 成することを目標に活動を展開している。 Party Control」を容認することが盛り込まれて 日本では、防衛省やJAXAには着実に9100 いる。今後も、航空当局との話し合いを継続 規格(JIS Q 9100)が浸透しつつある。航空 し、関係構築を緊密にすることで進展を図り 当局については、FAA/EASA/IAQGの協議が たいと考える。 〔(社)日本航空宇宙工業会 航空宇宙品質センター 事務局 部長 菅野 義就〕 44
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