廃棄物処理と経済的合理性

名城論叢
101
2006 年9⽉
廃棄物処理と経済的合理性
孫
瑩,槌
⽥
敦
はじめに
Ⅰ.⽇本の廃棄物問題とリサイクル政策
1.庶⺠のリサイクル運動の消滅
2.名古屋市のごみ⾏政
Ⅱ.各国の廃棄物政策とリサイクル
1.ドイツのごみ問題
2.デンマークのごみ問題
3.韓国のごみ問題
4.中国のごみ問題
Ⅲ.リサイクルを廃棄物処理から分離する
1.廃棄物対策のためのリサイクル
2.拡⼤⽣産者責任
3.過剰リサイクルの問題
4.リサイクルとは,廃棄物の中に資源を求める⾏為
5.市場経済によるリサイクル
6.再使⽤を誘導するための新品等購⼊税
Ⅳ.経済的合理性のある廃棄物処理とは
1.外部費⽤の⾏政負担
2.廃棄物問題の理論
3.内部化のための商品取引税等の検討
4.科学的合理性のある廃棄物処理
結論
はじめに
まず,このリサイクル政策は市⺠と⾃治体に⼤
きな作業負担を強いた。また,このリサイクル
今⽇,世界的な経済発展に伴い,⼤量⽣産,
費⽤を商品の⽣産者,販売者,消費者,そして
⼤量消費,⼤量廃棄の時代となり,処分場の枯
⾏政にどのように負担させるべきかについて混
渇など廃棄物問題が世界各国で深刻になった。
乱がある。さらに,
採算にあわないリサイクル,
この問題を解決するために,いわゆるリサイク
過剰供給になるリサイクル,資源エネルギーを
ルが⼀番良い対策と考えられた。先進国も途上
多消費するリサイクルでは経済的合理性を失っ
国もこの⽅針にしたがって,
「ごみゼロ社会」
=
ている。
「資源循環型社会」を夢みてリサイクル政策が
進められた。
しかし,このリサイクル政策には問題が多い。
この論⽂では,以上の各点について,⽇本と
世界各国の廃棄物処理とリサイクル政策の⻑所
と短所を分析した上で,廃棄物処理から採算の
102 第7巻
第2号
とれるリサイクルを分離し,残りの廃棄物につ
た PTA などの団体は,鉄など 645 団体,瓶 364
いては経済的・科学的合理性のある処理・処分
団体,⽸ 333 団体もあった。庶⺠の善意のリサ
をおこなうよう提案する。
イクル運動が回収業者による資源回収の機構を
なお,本論⽂では,主として⽣活系⼀般廃棄
物(ごみ)の問題を扱う。事業系⼀般廃棄物や
壊し,⾏政主導のリサイクルだけを残したので
⑴
ある 。
産業廃棄物についても同様に考えることができ
るとき,まとめて廃棄物ということにする。
なぜ庶⺠の善意のリサイクル運動が失敗した
のか?
実は資源のリサイクルは環境問題では
なく,経済の問題である,すなわち需要と供給
Ⅰ.⽇本の廃棄物問題とリサイクル政策
の問題である。需要を超して集められた回収品
は⾃由財(free goods)であって資源ではない。
⽇本ではごみ処理費⽤は極めて⾼価である。
「まだ使える。もったいない」と考えることは
そして,ごみ対策のために導⼊されたリサイク
正しいが,それは経済⾏為を伴わない個⼈の範
ルにより,この費⽤はますます⾼騰している。
囲でのみ正しいのである。他⼈に資源を供給す
るという商⾏為に素⼈や⾏政が⼿を出して過剰
1.庶⺠のリサイクル運動の消滅
1970 年代,⽇本経済の⾼度成⻑に伴いごみが
に供給し,⽇本に存在した古来からのリサイク
ルシステムを壊してしまったのである。
⽇本のリサイクル⾏政の代表としての名古屋
⼤量に発⽣した。そのごみを減らす⽬的でリサ
イクル運動が始まった。その意図は「まだ使え
市のごみ⾏政を以下に論ずる。
るのにもったいない」であった。⾏政はこの庶
⺠のリサイクル運動を利⽤してごみの減量を図
2.名古屋市のごみ⾏政
ろうとした。
⑴
ごみ⾮常事態宣⾔
80 年代後半には,全国の町内会,PTA など
名古屋市では,愛岐処分場を始め3ヶ所の処
で,新聞紙,雑誌,古鉄などの廃品回収運動が
分場でごみを埋め⽴てていたが,2001 年度中に
広がった。ところが,このリサイクル運動は,
これらの処分場が満杯になると⾒込まれた。そ
めでたく⼤成功というわけにはいかなかった。
こで,名古屋港⻄の藤前⼲潟を新たな処分場に
住⺠の⾃主的リサイクル運動と⾏政主導のリサ
する計画をたてた。しかし,多⽅⾯の反対によ
イクルによって,⼤量の回収品が集められた結
り 1999 年1⽉この埋めたて事業を断念するこ
果,回収品の過剰供給となった。そうなれば,
とになった。これにより名古屋市はごみ減量に
当然回収品の価格は下がる。価格が下がれば,
迫られた。
回収業者は⽣活できないので廃業していった。
1999 年2⽉,名古屋市は 2000 年度中に 20 万
回収業者が廃業すると,せっかく住⺠運動や
トンのごみ減量⽬標を掲げて「ごみ⾮常事態」
地⽅⾃治体が廃品を回収してもそれを必要とす
を宣⾔した。そして⼤都市としては全国に先が
る ⼯ 場 へ 届 け る こ と が で き な い。90 年 代 に
けて容器包装リサイクル法を完全実施すること
⼊ってからは,回収業者が来てくれないという
とし,
「空き瓶・空き⽸などの資源回収の拡⼤」
,
理由でリサイクルの住⺠運動はどんどん消えて
「集団資源回収の活性化」
,1⽇ 100g 容器包装
いった。92 年8⽉の経済企画庁の調査による
減量を合⾔葉に市⺠に「ごみ減量チャレンジ
と,リサイクル運動が盛んになったはずの 89
100」運動を呼びかけた。
∼ 92 年の3年間に,リサイクル運動を中⽌し
廃棄物処理と経済的合理性(孫・槌⽥) 103
⑵
磁⽯で鉄とアルミを除き,ふるいにかけて残っ
容器包装リサイクル法の完全実施
それから5年後,名古屋市は,市⺠,事業者
たものは全量焼却し,ふるいを通ったガラス⽚
たちの協⼒と地域役員の尽⼒により,ごみを
などと焼却灰だけを処分場に廃棄している。将
26%も減少させ,資源回収量を2倍以上とし,
来はこれらも熔融固化するので,毎年 30 万ト
埋め⽴て量を3分の1にしたと発表した。
ンもあった埋め⽴て量は,いずれ2万トン程度
【図表1】に⺬すように,90 年代には 90 ∼
になるとしている。
100 万トンあったごみは 2000 年には 79 万ト
このように,市⺠に「燃えないごみ」として
ン,さらに 2004 年には 73 万トンというように
厳しく分別させておきながら,これを「燃して
減少した
⑵.⑶
。⽇本の⼤都市の中で名古屋市(⼈
いる」点は問題だが,この完全焼却により処分
⼝ 220 万⼈)の市⺠⼀⼈⼀⽇当たりごみ量,埋
場に廃棄する量を減らしていることは評価して
め⽴て量は⼀番少ない。世界でも最も少ないグ
よいであろう。
ループの中に⼊っている。
ところで,ごみの量を急に少なくできたのは,
⑶
ごみ処理の費⽤
名古屋市⺠が⽣活態度を変えたからではない。
名古屋市は,
【図表2】に⺬すように,資源ご
ごみの中でも重量の⼤きい紙ごみを資源ごみと
みの回収・運搬・選別の費⽤を全額負担してい
名前を変えて別扱いにしたからである。資源ご
る 。資源ごみの名古屋市の負担する費⽤は,
みを含めたごみの総量は減っていない。また埋
空き瓶は ㎏ あたり 65 円,空き⽸ 102 円,ペッ
め⽴て量の少ないのは,
【図表1】の焼却率に⺬
トボトルは 140 円,紙パックは 96 円,プラス
したように,市⺠に分別させた「燃えないごみ」
チック製容器包装は 139 円,紙製容器包装は 89
⑷
も徹底して焼却しているからである 。
⑸
円である。⼀⽅,このリサイクルでの再⽣費⽤
名古屋市のごみ焼却率は 1990 年では他の⾃
はペットボトルは 74 円,プラスチック製容器
治体と同様に 80%程度であったが,ごみ⾮常事
包装は 91 円,紙製容器包装は 51 円であるが,
態宣⾔後焼却量を増やし続け,2003 年度では
その⼀部は名古屋市も負担している。
97%にも達した。その⽅法は,市⺠に「燃えな
名古屋市は他都市と同様,資源収集協⼒団体
いごみ」として分別させたごみを破砕し,電気
に補助⾦を⽀給している 。名古屋市が資源回
図表1
⑷
名古屋市(220 万⼈)の⼀般廃棄物
(単位:万 t)
1985 年
1990 年
1995 年
1998 年
1999 年
2000 年
2001 年
2002 年
2003 年
⼀般廃棄物
焼却(焼却率)
不燃物
焼却灰
埋⽴量
74
93
97
102
92
79
76
75
76
60(81)
74(80)
79(81)
88(86)
82(89)
74(94)
72(95)
72(96)
74(97)
14
19
18
14
9
5
4
3
2
10
13
13
14
12
10
9
9
9
24
32
31
28
22
15
13
12
11
(出所)名古屋市環境局『名古屋ごみレポート』2001 年 p3,2004 年 p31
注)四捨五⼊のため数値が⼀致しない場合がある
104 第7巻
第2号
図表2
名古屋市のごみ処理費⽤
(単位:百万円)
事項
1998
職員の⼈件費
収集・処分
資源収集 ①
合計 ③
16,080
9,254
1,699
27,033
① / ③(%)
6.3
1999
2000
16,302 15,500
6,456 9,921
2,661
5,835
25,419 31,256
10.3
18.7
2001
2002
13,642 13.358
8,377
7,383
8,605
7,755
30,624 28,496
27.1
27.2
2003
13,209
7,200
7,542
27,951
27.0
(出所)名古屋市環境局「事業概要」2000 年度 p32 ⾴,2003 年度 p31 ⾴より
収団体に出している補助⾦は次のとおりであ
億円も増額した。その原因は,資源収集費⽤が
る。⼀般⽅式(PTA・⼦供会等)では,雑誌6
69 億円も増額したからである。
円/㎏,その他4円/㎏である。学区協議会⽅式
これを詳しく⾒てみると,1998 年度の場合,
では,団体に対し,1円/㎏,回収業者に対し,
ごみ処理費⽤総額が 270 億円で,そのうち資源
4円/㎏,
「ステーション⽅式」の場合,団体に
収集費⽤は 17 億円であり,その割合は6%で
対し,3円/㎏,回収業者に対し,2円/㎏であ
あったが,2001 年度には総額 306 億円に対して
る。リサイクルステーション回収は従量制で1
資源収集費⽤は 86 億円とその 27%にもなっ
回開催あたり 10,000 円+ 5000 円×トン数であ
た。その後,各項⽬の費⽤削減の努⼒が認めら
る。市が処理すると⼀般ごみでは平均1トンあ
れるが,資源収集の割合は変わっていない。
たり 55,000 円程度,つまり㎏あたり 55 円かか
収集や選別に費⽤がかかることだけが問題な
ることから費⽤のかからない集団回収に依存し
のではない。ごみから資源ごみを除いた結果,
ていると市は説明する。しかし,資源ごみの収
発熱量の⾼いプラスチック(全体の 40%)など
集と選別で要する費⽤はペットボトルやプラ容
が除かれて,焼却炉が燃えにくくなってしまっ
器について㎏あたり 140 円,その他でも 65 円
た。そこでごみを燃焼するのに都市ガスなどの
から 102 円までかかっている。処分の kg あた
燃料の投⼊が必要になり,焼却費が⾼くつくよ
り 55 円に⽐べて費⽤の節約になっているわけ
うになった。つまり,リサイクルで資源ごみを
ではない。
過剰に回収することは,燃料という資源を過剰
ごみリサイクルのほうがごみ処理費⽤よりも
⾼くつくことを名古屋市のごみ処理費⽤から⺬
⑷
⑹
に消費することになるのである 。
1998 年度と 2002 年度を⽐較して,電⼒の投
すことにしよう 。2001 年度名古屋市⼀般会計
⼊量は 1.8 倍,ガス投⼊量は 3.6 倍,軽油投⼊
予算総額は,1兆 1097 億円,そのうち環境費が
量は 1.35 倍に増えて燃料購⼊量が増加してし
659 億円と全体の 5.9%を占めている。また,
まい,さらに売電量が 0.67 倍に減ってしまっ
ごみ処理費が環境費に占める割合は,46%で,
た。そのため名古屋市の売電利益は,容器包装
306 億円となっている。
【図表2】に⺬したよう
リサイクル法の実施以前の年間 12.1 億円
(1998
に,容器包装リサイクル法を採⽤しなかった
年度)から 7.4 億円(2001 年度)と5億円近く
1998 年度と完全採⽤した 2001 年度を⽐べて,
減ってしまったのである。
職員の⼈件費は 24 億円減額し,ごみ収集費⽤
「容器包装リサイクル法」は事業者負担によ
も9億円減額しているのに,総処理費⽤は 36
るリサイクルに⼀歩踏み込んだ点で⼤きな前進
廃棄物処理と経済的合理性(孫・槌⽥) 105
であると⾔われている。しかし,最も経費のか
⑴
ごみ分別とその料⾦
かる収集,選別を市町村の役割とし,企業活動
カールスルーエ市が家庭から定期的に収集す
である筈のリサイクルに補助⾦を出させ,さら
るごみは,⽣ごみ,資源ごみ,⼀般ごみの3種
にごみ焼却のエネルギーや費⽤を増やさせるな
類である。すべての建物に資源ごみ,⼀般ごみ
ど,
「拡⼤⽣産者責任」とは名ばかりで,資源化
のコンテナが置かれている。⽣ごみコンテナは
に熱⼼な市町村ほど財政負担が重くなるのであ
市街地では義務だが,郊外では任意である。
る。名古屋市はその報告書「名古屋ごみレポー
⽣ごみ(庭の剪定枝も含む)のコンテナは無
ト ’03 版」で,容器包装リサイクル法を完全実
料であって,市はこれで堆肥を作り,処分地の
施したこと影響について,市町村が「資源化貧
表⼟として利⽤している。
乏」になりかねないと⾃嘲している。
資源ごみの⾦属,⽊材,プラスティク,そし
この章のまとめとして,市町村がリサイクル
てグリーンマークのついた包装容器などは⺠間
事業をおこなうことによって,ごみ処理費⽤が
企業が分別して利⽤する。約 20%のリサイク
減るのであればともかく,現状のように⽀出が
ル不能品は廃棄処分される。資源ごみコンテナ
増え,また収⼊が減って,税⾦の投⼊をさらに
は有料で,⼩は 6.14 ユーロ(80ℓ)から,⼤は
増やすのでは,本来の⾏政の⽬的に反し,不当
61.72 ユーロ(1100ℓ)まで5段階に分かれて
ということになる。
いる。⼀般ごみコンテナは資源ごみコンテナの
約2倍の料⾦となっている。したがって,市⺠
Ⅱ.各国の廃棄物政策とリサイクル
前章で,⽇本では⾏政の負担する廃棄物処理
またはリサイクルの費⽤が異常に⾼騰している
はこの3つのコンテナに上⼿に分別することで
家計を助けている。新聞・雑誌・ダンボールは
資源ごみコンテナに⼊れるのではなく,無料の
古紙収集⽇に出す。
と述べたが,この章ではヨーロッパや韓国では
グリーンマークのついた包装容器は,製造す
拡⼤⽣産者責任という考えを導⼊して,廃棄物
る企業が DSD 社にライセンス料⾦を⽀払った
処理またはリサイクルの費⽤を⽣産者に負担さ
もので,DSD 社がそのリサイクルに責任をもっ
せることにより,⽣産者に廃棄物処理またはリ
ている。通常は,DSD 社の委託業者が収集す
サイクルの費⽤削減への動機を与える努⼒をし
るが,カールスルーエ市では資源ごみとして収
ていることを述べる。
集し,DSD 社に渡している。
諸外国の中で中国だけは特殊である。中国で
は廃棄物処分費が極めて安い。その原因は中国
⑵
の⼟地が国有であるためその使⽤料が処分費⽤
ガラス,電池,薬品類,危険物,タイヤ,⾐
に現れないことによる。中国の各都市は都市の
周辺に処分場や仮置き場がいたるところに現れ
て,困っている。
建物のコンテナ以外のごみ収集
料品などは別扱いである。
ガラス瓶などは預かり⾦(デポジット)制が
採⽤されている。瓶はスーパーや飲料店に持っ
ていって預かり⾦を返してもらう。スーパーの
1.ドイツのごみ問題
飲料品コーナーに並ぶミネラルウォーター,リ
家庭ごみの収集・処理はドイツでは市町村の
業務であるが,そのシステムは若⼲異なる。こ
⑺
こではカールスルーエ市の例を⺬す 。
ンゴジュース,オレンジジュース,ビール類は
それぞれ瓶の規格が統⼀されていて,
⾞で来て,
ケースごとまとめ買う⼈が多い。預かり⾦つき
106 第7巻
第2号
のガラス瓶,ペットボトルは買った店に持って
そこでこのごみを作業場に運んで分別しなおさ
いくと預かり⾦を現⾦で返してくれる。
なければならない。また,各⼾に置くコンテナ
預かり⾦のない瓶は,市内多数ヶ所に設置さ
の種類を増やせば,それだけ収集⾞を頻繁に⾛
れたガラスビン収集コンテナに⾊分け(無⾊,
らせなければならない。これは交通渋滞や⼤気
茶⾊,緑⾊の3⾊)して捨てる。コンテナは「瓶
汚染の原因となる。
の蓋はとる。陶磁器類は不可。哺乳瓶など耐熱
以上述べたようにドイツでは⽣ごみ,粗⼤ご
ガラスは不可。捨ててよい時間帯は平⽇の8時
み,
新聞紙を除いて消費者にごみ発⽣者責任
(有
から夜8時まで」などの注意事項が書かれてい
料)または企業に拡⼤⽣産者責任が完徹されて
る。デポジット制度とガラス瓶収集コンテナシ
いて,⾏政は負担しないという原則が貫かれて
ステムのおかげで,ガラス瓶の収集率は⾮常に
いる。
⾼い。
電池は市内各所に設置された収集ボックスに
2.デンマークのごみ問題
⼊れるか,⼗数ヶ所あるごみ収集ステーション
デンマークでは健康や環境に配慮しなければ
に⾃分で持っていく。薬品類,危険物,タイヤ
活動の⾃由は憲法上制限される。そして,ごみ
なども,やはりこのステーションを利⽤する。
を処理する責任は地⽅⾃治体にあるが,汚染者
まだ使える古着や靴は市内に設置されている
負担の原則は例外なしにすべての産業に適⽤さ
古着収集コンテナに⼊れる。コンテナの多くは
れている。ごみ処理の⽅法は⽇本と同様に焼却
⾚⼗字や慈善団体が運営に関与し,収益は社会
であるが,危険なものは焼却しない政策が徹底
福祉に役⽴てられる。
している。そして資源循環型社会の実現を⽬指
タンスや机などの粗⼤ごみは,道路ごとに年
2回ある粗⼤ゴミの⽇に出しておくと,清掃局
し,事業者には拡⼤⽣産者責任として再使⽤,
⑻
再利⽤(リサイクル)を義務化している 。
が収集してくれる
(無料)
。このシステムによっ
て粗⼤ゴミの不法投棄は減るが,粗⼤ごみの⽇
⑴
になると地区の道路はごみだらけになってしま
通常のごみについては,全ての製品の廃棄物
うという。
ごみ処理と地⽅⾃治体
にリサイクルを義務付け,リサイクルできない
こうしてみていくと,ドイツでもごみの分別
素材の使⽤を禁⽌するとともに,リサイクル製
は優に 30 種類を超えるが,⽇本との⼤きな違
品の⼀定割合の使⽤を義務付け,容器包装のリ
いは市⺠の負担である。街⾓の決まった場所に
サイクルを徹底している。飲料容器について
ゴミ袋を置く⽇本に対して,ドイツはごみ収集
は,デポジット制となっている。
⾞が各建物を回る「各⼾収集」が基本で,収集
家庭から排出されるごみのうちリサイクル可
⾞が集めるのは先述した3種類だけである。そ
能なものは,市内の分別回収センターに集めら
のほかリサイクルできるごみ,特殊なごみ,粗
れて分別される。そのほかのごみは市町村の責
⼤ごみなどは別ルートで収集という2本⽴てに
任で(直営または⺠間委託によって)収集し,
なっている。
処理施設で処理される。
名古屋市のように,⽇常的に 22 種類もの細
ガラス瓶・ペットボトルといったリターナブ
かい分別を市⺠に強制しないのは理由がある。
ル容器を中⼼に市⺠らに対して製造者・輸⼊業
まず,⼀般市⺠の分別能⼒には限界があるので,
者への引渡し義務,及び製造者・輸⼊業者に対
家庭でのごみ分別はどうしても不完全になる。
して回収と再使⽤義務が課されており,リター
廃棄物処理と経済的合理性(孫・槌⽥) 107
ナブル容器のリユースがきっちりとシステム化
なった。その結果として埋めたてごみ及び焼却
されている。
ごみの量は,1987 年には 400 万トンであったの
また,飲料容器としてはリターナブル容器し
か認められていない。そのため,使い捨てのス
チール⽸・アルミ⽸・ペットボトルは存在せず,
に 1990 年には 380 万トンへ,1993 年には 310
万トンへと減少している。
デンマークのごみの処理費⽤は⼀般家庭で⽉
少なくとも飲料容器に関しては,使い捨て容器
5000 円程度であり,ドイツの⽉ 1400 円に⽐べ
のリサイクル問題は存在しない。
て⾼い。
⑵
ごみ収集料と廃棄物税
⑶
デポジット制度
デンマークでは市⺠はごみ収集料と廃棄物税
デンマークでは容器に関しては,リターナブ
(ごみ処分料)を払わなければならない。ごみ
ル瓶が中⼼となっている。デポジット料⾦は,
収集料は⼀世帯年間 1400 DKK(DKK = 20 円)
,
ガラス瓶の場合⼤きさにより 25 ∼ 40 円(例え
廃棄物税は 1000 ∼ 1500 DKK くらいで,双⽅
ばビール瓶やコーラ瓶は1本 30 円くらい),
合わせて6万円程度となる。
ペット容器の場合,⼤で約 80 円,⼩で約 40 円
ごみ収集料はごみの量に応じて段階的に決め
であり,同じリターナブル容器であってもガラ
られている。ただし,プラスチック,ガラス,
ス瓶のほうが優遇されている。そして,リター
⾐類,⾦属,紙,ダンボール,有害ごみ,⾃転
ナブル容器のほうが他の容器より低額となって
⾞や冷蔵庫などは各市町村の 15 種類のコンテ
いる。リターナブルビン以外の容器について
ナに持ち込むと無料である。
は,ガラス・プラスチック容器,⾦属製容器,
廃棄物税とは埋め⽴てまたは焼却料⾦であ
カートン容器または各種材料の薄型容器,ミル
る。1987 年導⼊されたときの税額はトン当た
ク⽤使い捨て容器などの区分に応じて課徴⾦も
り 40 DKK でしかなかったが,その後埋めたて
課されている。例えば紙コップ,プラスチック
ごみについては,トン当たり 195 DKK の廃棄
のナイフ・フォークは⼩売価格に 33%の税⾦が
物税を⽀払う。焼却ごみについてはトン当たり
課されている。このような課税によって使い捨
160 DKK の廃棄物税を⽀払う。可燃ごみの混
て⾷器の抑制策がとられている。
⼊したごみの埋め⽴てについては,トン当たり
610 DKK と⾼くしてごみの分別を促進させて
いずれにせよ,これら容器の 95%以上がデポ
ジット制度によって回収されている。
いた。しかし,1997 年から可燃物の分別を義務
化し,混合ごみの埋め⽴てはできないことと
⑷
なった。
すでに述べたように,デンマークではリユー
ごみの排出と回収
また 1997 年より埋めたて廃棄物税はトン当
ス・リサイクルをせずに焼却処分・埋めたて処
たり 285 DKK に,焼却廃棄物税はトンあたり
分という終末処理に回される狭義のごみには経
210 DKK に増税されたが,発電を伴う焼却ご
済的負担のかかる政策がとられている。した
みについてはトン当たり 160 DKK に据え置か
がって,⼀般市⺠も企業も努めて通常ごみの発
れている。この税⾦は資源が回収されれば返却
⽣を抑えようとし,通常ごみを出した場合は出
されることになっている。
来るだけリサイクル過程に乗せる⽅法で⾏動し
この廃棄物税が適⽤されて下⽔汚泥,建築廃
ようとする。その結果,徹底した分別回収の
材等のリサイクルが著しく促進されるように
ルートに乗らず,しかも有害でない狭義のごみ
108 第7巻
第2号
だけが,終末処理に回されるという意味でごみ
⾦制度の預かり⾦料率は,製造業者や輸⼊業者
質が確保されるとともに,終末処理に回される
が実際にごみを回収・処理するための費⽤より
ごみ量の低減に直結することになる。
も極めて低い⽔準に設定されていたことから,
こうした徹底した分別回収による再資源化の
リサイクルへの誘導機能が乏しく,効果をあげ
システムは,市⺠⽣活の隅々までいきわたって
ていないことが分かった。そこで,この制度は
いる。市⺠は資源化できるごみを,⾃ら分別し
2003 年に廃⽌され,新しく⽣産者に政府が定め
て細かく種類ごとに分けられた回収ボックスに
た量までリサイクルを促す「⽣産者責任再活⽤
持ち込む。それらには⼿数料・廃棄物税が課さ
制度」が導⼊された 。
⑼
れず,その費⽤は事業者が負担する。しかし,
⽣産者責任再活⽤制度は,⼀定⽔準までリサ
市町村による回収ルートに回せば有料となり,
イクルを確保しようとする規制的性格が強い。
ごみ収集料を⽀払わなければならない。週1回
⽣産者が⾏政の定める「再活⽤義務量」までリ
の⾃治体回収に家庭から排出されるごみ(ただ
サイクルを⾏わなかった場合,リサイクル未履
し,そのうち粗⼤ごみ = 100 × 50 × 50 cm を超
⾏に対して「再活⽤賦課⾦」が課される。こう
える⼤きさのものを除く)を 120ℓ袋で排出す
した意味で再活⽤賦課⾦は再活⽤義務量の遵守
ると⼀世帯年間 900 DKK(1万 8000 円)となっ
を促すための罰⾦の性格を持っている。
てしまう。
ここで⽣産者とは原材料製造業者,製品製造
このように,デンマークのごみ処理の特徴は
者,包装材製造者,流通販売業者などを含む広
⼿数料と税⾦による消費者の負担でなされ,リ
い意味での製造・販売業者を⺬す。製品を製
サイクルへの誘導がなされている。即ち,バー
造・輸⼊した業者に再活⽤の責任を持たせ,包
ジン資源を⼤量に使ったり,使い捨て容器を⽣
装材の場合は包装材を使⽤した内容物の製造・
産・販売・消費することによって⾃治体が焼却・
輸⼊業者に再活⽤の責任を持たせる。また,廃
埋めたて処理量を増やすと⼿数料や税⾦が増え
棄物管理法(第2条6)で,ごみを再使⽤(Re-
るシステムとなっている。その結果,消費者は
use)もしくは再⽣利⽤(Recycle)するための
リサイクル過程にのらない素材を⽤いた商品の
活動,そして環境部令にエネルギー回収活動が
購⼊を控えるようになり,いきおい家庭から排
定められている。
出されるごみがリサイクル過程に乗る⽐率が多
【図表3】に⺬すように,この⽣産者責任再活
くなり,最終的に焼却・埋めたて処分に回すご
⽤制度によって,リサイクルセンターの⾚字は
み量が低減することになる。
⼤幅に減少した。即ち,韓国では,罰⾦により
リサイクルのための費⽤を業者の経済に内部化
3.韓国のごみ問題
する⽅向にあるといえる。
韓国では,1992 年「廃棄物預置⾦制度」が施
⾏された。廃棄物預置⾦制度とは,製造業者,
4.中国のごみ問題
輸⼊業者,もしくはそれらの事業者団体が,⾃
中国は現在⾼度経済成⻑の段階にある。この
ら⽣産・販売した製品・容器を回収・処理する
急速な経済成⻑によって深刻な公害問題に直⾯
ことを⽬的として,政府にその量に応じて⾦銭
している。特に⽔質と⼤気の汚染,都市のごみ
を預け,その回収・処理程度に応じて政府から
はまったなしの状況にある。中国の急成⻑の背
その預かり⾦(⺠法上の利⼦を含む)を返還さ
景には,農業を主体とした伝統的な経済からの
れる仕組みとなっている。しかし,廃棄物預置
転換のために,各地に⼩都市を建設し,その⼩
廃棄物処理と経済的合理性(孫・槌⽥) 109
図表3
A リサイクリングセンターのリサイクル収益性
(単位:百万ウォン)
売上
リサイクル費⽤
経常費⽤
減価償却費⽤
利⼦等⾦融費⽤
経常収益
1998
1999
2000
2001
2002
1,246
3,213
561
1,122
1,530
− 1,967
2,352
4,105
1,065
1,122
1,918
− 1,753
2,372
2,262
1,140
1,122
1,792
− 1,681
2,874
4,218
1,520
1,122
1,639
− 1,407
2,711
4,323
1,685
1,122
1,516
− 1,612
2003
2004
3,199
3,768
1,980
404
1,384
− 569
3,150
3,207
1,702
260
1,245
− 57
注:1ウォン=約 0.1 円(2004 年平均為替レート)
出所:李秀澈「韓国の⽣産者責任再活⽤制度」『名城論叢』2005 年 10 ⽉ p80 より作成
都市を基点として⼯業化を進めるといった政策
利⽤リスト」では税減免等の優遇政策を受けら
をとっている。この政策は経済発展には⼤きな
れる範囲が規定された(2004 年に更新)。その
成果を上げているが,都市における⼤量⽣産,
他リサイクル⼗五計画というリサイクル推進策
⼤量消費で発⽣する⼤量のごみ問題が残される
があるが,⽇本の容器包装リサイクル法等に相
こととなった。
当するようなリサイクル法はない。
計画経済時代の国営廃品回収業は 90 年代か
⑴
ら回収種類や回収量の減少などにより縮⼩して
中国都市におけるごみ処理の現状
中国都市のごみ処理では,1980 年ごろから
いる。これは,これまでの国営から,私営企業
1990 年までは全国都市のごみ処理率は2%で
あるいは出稼ぎの農⺠が⼤都市の廃品回収,リ
あった。1990 年代に⼊ると都市ごみ処理⽔準
サイクルの主体を担うようになったためと考え
は 向 上 し た。1999 年 全 国 都 市 ご み 運 送 量 は
られる。回収の対象は,古紙,⾦属スクラップ
1.14 億トン,各種のごみ処理場は 696ヶ所,ご
など価値の⾼いものに集中し,低品位の廃プラ
み処理は 27.7 万トン/⽇,
ごみ処理率は 63.4%
スッチクや廃タイヤ,電池などは回収されてい
になった。1986 ∼ 1999 年の間に都市ごみ輸送
ない 。また近年古紙,古鉄,古ペットボトルな
量の平均増加率は 6.5%であり,都市⼈⼝増加
どの資源ごみは,品質もよくて安い⽇本の廃品
率とほぼ同じである。環境衛⽣建設固定資産投
を買っている(例えば朝⽇新聞 2006 年1⽉7
資額も増⼤している。70 年代には 10 年間に
⽇)。⽇本からの資源ごみの購⼊が中国の資源
13.1 億元(1元 = 13 円)が投⼊されており,80
ゴミの回収を妨げているのである。
⑾
年代には 10 年間 45.3 億元が投⼊され,更に 90
⑽
年代初めの3年に 70.1 億元が投⼊された 。し
⑶
かし,⼈⼝が多いから1⼈1年あたりの⾦額に
中国のごみ処理管理体系はまだ計画経済に影
すると,極めて安価である。
中国ごみ有料制度
響され,ごみ無害化処理に適応してない。社会
市場経済制度が中国に確⽴されるにしたがっ
⑵
中国のリサイクル
て,ごみ処理を国家公益事業としての補助⾦に
中国のリサイクル産業への免税措置は国内リ
よる管理制度から,主に市場経済によるごみ有
サイクル産業の育成,促進のため,1994 年から
料制度にするとしている。その理由は,ごみ輸
始まっている。1996 年に公布された「資源総合
送と処理の費⽤は地⽅政府の負担であるが,多
110 第7巻
第2号
くの地⽅政府はこれらの費⽤を負担できない状
トン程度とされているが,中国の⼟地の価格が
態に陥っているからである。
存在しないとしてもこの価格の差はあまりにも
ごみ処理の規模はごみ発⽣者の⽀払能⼒と関
⼤きすぎる。企業,事業会社に対して処分場内
係する。ごみ有料制度を始めた都市の例とし
への廃棄物搬⼊は 10 元 / トンの料⾦を徴収し
て,北京市は⼀世帯毎⽉に3元(39 円)のごみ
ているけれども,都市区環衛局に運送された都
処理費を徴収している。経済が発達している都
市市⺠の⽣活ごみは無料である,残額は市が負
市では市⺠の収⼊も⾼いので,ごみ処理費を徴
担している 。この処分場は,市政府からの補
収してごみ処理の資⾦を補うことが可能であ
助⾦で維持されている。
る。先進国のごみ処理費は⼀世帯年収の 0.3%
②浦東新区⽣活ごみ焼却場
⒀
程度であるから,中国のごみ処理費も毎世帯の
浦東新区環衛局の統計によれば,浦東新区の
年収(1⼈平均 6000 ∼ 15,000 元)の 0.3%と
ごみ運送量は 1989 年の 384 ⾞トンから 1996 年
して,年間払うべきごみ費⽤は 18 ∼ 45 元程度
の 1,728 ⾞トンまでに増加した(1⾞トン=
と⾒られる。したがって,中国都市市⺠の収⼊
0.46 トン)
。この問題を解決するためにフラン
⽔準では,このごみ処理の費⽤を⽀払う能⼒が
ス政府の融資とフランスの技術で⽣活ごみ焼却
あると⾒られる。これにより,ごみ処理原価に
場が建設され,2001 年末から運営と発電を始め
適応するごみ費⽤徴収制度を作り,ごみ無害化
た 。この焼却場の⾯積は約 22,000 m ,総投資
処理と市場化,産業化を達成すべきという指摘
額は 66,900 万元で,フランス政府からの融資
⑿
もある 。
⒁
2
額が 3017 万ドル(1ドル= 8.3 元)
,設備費⽤
(輸⼊設備を含む)は総投資額の約 46%であ
⑷
廃棄物処理の具体例
る。
中国は近年ごみ処理のために多くのごみ処理
この焼却場のごみ処理量は1⽇ 1,000 トンで
場を建設した,以下に2ヶ所の処理場を例とし
あり,30 年間の運転及び浦東新区の補助⾦投⼊
て⺬す。
により,30 年間の平均ごみ処理費⽤は約 150 元
①杭州市天⼦嶺廃棄物処理場
/ トンになり,そのうち運転費⽤は約 100 元 /
中国において初めての⽣活ごみ衛⽣埋めたて
トンである(補助燃料費を含まず)
。
標準によって建設した処分場として浙江省杭州
この焼却によりごみは 80%以上減量し,浦東
市の天⼦嶺廃棄物処理場がある。この処分場は
新区内の⽣活ごみ輸送料は年間 3000 万元も節
杭 州 市 の 北 郊 外 に あ り,⼀ 番 近 い 村 ま で
約された。また,この焼却による発電収⼊によ
1.4 km,市の中⼼部まで 18 km になる。処分場
り,
フランス政府からの融資が返済されている。
の使⽤年限は 13 年で,1⽇あたりのごみ処理
中国では,
国が⼟地所有権をもっているので,
量は 2000 ∼ 4000 トンである。
⼟地に値段をつけることができない,したがっ
天⼦嶺廃棄物処理場の総投資額 8500 万元は
て,処分場のごみ処理原価は焼却場より安い。
杭州市都市維持費から⽀払われた。この廃棄物
しかしながらそのままにすると,処分場の枯渇
処分場が事業会社として杭州市市容環境衛⽣局
問題にもなるし,政府からの補助⾦がないと維
に所有され,杭州市天⼦嶺廃棄物処理総場が管
持できない。⼀⽅,焼却場の場合は投資額も処
理している。廃棄物処理原価は約 20 元 / トン
理原価も処分場より⾼いが,焼却による発電の
(⼯事投資,解体⼯事及び特定項⽬投資費⽤を
収益が⾼く,焼却場の使⽤期限も処分場より⻑
含まず)である。⽇本では処理費⽤は5万円 /
いので,投資の回収と運転が維持できる。その
廃棄物処理と経済的合理性(孫・槌⽥) 111
ため,ごみの埋め⽴てより焼却のほうが経済的
需要と供給という商業則の範囲でなされるべき
に⾒れば効率は良いと考えられている。
である。資源の適正供給量は均衡価格により決
まる。この量を超えて無理にリサイクルして再
⑸
都市がごみに包囲される
⽣資源を供給することは,その再⽣資源だけで
近年中国の⽣活ごみの処理⽅法は,埋め⽴て
なく⽯油などその他の資源の過剰消費となり,
が 49%,焼却及び堆肥製造が5%で,残りの
社会の物質循環に混乱をもたらすことになる。
46%は都市のまわりや川や湖の⼟⼿などに投棄
⽇本のリサイクル⾏政はこの原則を完全に無
されている。このような不適正な投棄により,
視しており,
間違っていることについて述べる。
全国の約3分の2の都市において「ごみが都市
を包囲する」という現象が起きている。その原
1.廃棄物対策のためのリサイクル
因はすでに述べたように中国の⼟地は国のもの
リサイクルは廃品の中から資源を獲得する⾏
なので値段をつけることができないからであ
為であるから,商取引によりなされれば,良質
る。⼟地は⼈の所有権にも使⽤権にもならない
の廃品は適正に供給され,その過剰消費は防⽌
ので⼤事にされていない。ますます増えたごみ
される。⽇本では,以前はこの原則にしたがっ
の無断放置は環境汚染を引き起こし,農⺠から
て,古紙,古鉄,使⽤済みガラス瓶などの廃品
の苦情も増えた。しかし,その放置された廃棄
が有価物として回収されて再利⽤され,採算の
物の処理費⽤がかさみ,処理されない状況であ
取れない粗悪な廃品は廃棄処分されていた。こ
る。
こには何の問題もなかった。
中国政府は近年廃棄物処理のため様々な政策
ところが,⽂明の⾼揚により,廃棄処分され
を発表している。しかし,その中で⼀番の問題
る廃棄物の量が増え,処分場の枯渇問題が⽣じ
は中国の⼟地に値段がないことである。この国
て,これを解決するために廃棄物を再び資源と
有⼟地の問題を解決しない限り中国の廃棄物問
してリサイクルすればよいとの安易な思想が蔓
題を根本的に解決できないだろう。
延した。本来の資源獲得のためのリサイクルで
はなく,
廃棄物対策としてのリサイクルである。
以上述べたように各国の廃棄物処理およびリ
多くの研究者や⾏政は,このリサイクルを廃棄
サイクルの⽅法は様々であり,それぞれ複雑で
物対策の基本と位置づけ,これにより天然資源
ある。つまり最良の廃棄物処理の⽅法を未だ⾒
の消費を抑えることと廃棄物の排出を最⼩化す
出せておらず,各国が模索している状況といえ
ることにより,環境への負荷を限りなくゼロに
る。以下にこの問題をどのようにすべきかを論
近づけることであるとした 。
ずることとする。
⒂
このリサイクルによるごみゼロキャンペーン
は,限りある資源を浪費して⼤量⽣産・⼤量消
Ⅲ.リサイクルを廃棄物処理から分離す
る
経済価値のある廃品(くず)をこの章で扱う。
費・⼤量廃棄する現代の経済の流れに対する反
省が動機になっていた。そして,その延⻑線上
で「循環型社会形成推進基本法」が 2000 年5⽉
に成⽴した。これは従来の規制的⼿法に代え
リサイクルとは,廃品の中に資源を⾒いだし,
て,各経済主体の⾃主的な取り組みを奨励し,
それを採掘する⾏為である。したがって,リサ
廃棄物の減量やリサイクルをおこなうことによ
イクルも,鉱⼭から資源を得ることと同様に,
り,廃棄物問題に対処しようとするものであっ
112 第7巻
第2号
りや裁断くずが発⽣する。そのくず紙は製紙⼯
た。
ここで,資源循環型社会とは,⽣産→流通→
場に売られていた。しかし,⼀般消費者の廃品
消費→廃棄という⼀⽅向の動脈システムで形成
はほとんどすべて廃棄されていたのである。し
されるこれまでの社会を,廃棄→⽣産への靜脈
たがって,欧⽶ではリサイクル運動やリサイク
システム(リサイクル)をつなげて循環の輪を
ル⾏政に意味があった。⽇本の研究者の多くは
閉じ,ごみゼロ社会を達成する経済社会のこと
この基本的な違いに理解が⾜りない。
をいう。具体的には,廃棄物の発⽣を抑制し,
さらにリユース(再使⽤)やリサイクル(再⽣
2.拡⼤⽣産者責任
利⽤)を促進するシステムを社会の中に構築し
現在の⽇本では,家庭系廃棄物(ごみ)を減
ていくべきだというわけである。つまり,資源
量する⽬的で,消費者に過度の負担を強いてい
循環型社会は,廃棄物を減らすことで環境保全
る。名古屋の場合,市指定のごみ袋に⼊れるの
に寄与するだけでなく,
「廃棄物」の持つ資源と
だが,⼀般ごみ 16 種類,資源ごみ6種類,計 22
しての潜在⼒を顕在化させ,循環利⽤する社会
種類も市⺠に分別させる。同じ品質のごみでも
⒃
を⽬標とした 。
この多くの研究者や⾏政の考えは,欧⽶の研
究者の考えを⽇本に直輸⼊したものであった
が,その出発点からして間違えていた。
容器包装かそれ以外かで別にしなければならな
い。
ヨーロッパでも,リサイクル運動に消費者の
協⼒を求めているが,Ⅰ章で述べたドイツの例
⽇本では昔から資源獲得のためのリサイクル
で明らかなように,⽇常的にはそれぞれの家庭
は当たり前のことであった。リサイクル運動が
の前にある3種類のコンテナに⽣ごみと資源ご
始まる前でも古紙はほぼ半分が回収されてい
みと⼀般ごみの3種類に分別して⼊れるだけで
た。それは⽇本の紙は,パルプと古紙を半々で
ある。その他のごみについては収集ボックスか
混ぜて作っていて,古紙にはその半分の需要が
収集ステーションまたは収集⽇に街路に雑多に
あったからである。古鉄や古銅はほぼ完全回収
置くだけである。この中から回収業者が資源を
だったし,ビール瓶はもちろん,酒瓶,醤油瓶
回収するのである。
などほとんどの⾷品⽤ガラス瓶は 10 回以上再
⽇本では,多くの場合ごみは無料で排出でき
使⽤されていた。全ては消費者と回収業者(⼩
る。有料制の⾃治体でも,申し訳程度の⾦額で
売店を含む)との有価取引であって,リサイク
ある。ドイツでは昔から⺠間収集であって有料
ル運動などする必要はまったくなかった。
である。しかし,そのコンテナの使⽤料⾦は安
ところが,ヨーロッパから輸⼊したリサイク
ル運動とリサイクル⾏政によって,Ⅰ章で述べ
い。これでその処分作業は経済的に成り⽴って
いる。
たように,回収品の過剰供給となり,価格が下
この⽇本とヨーロッパの考え⽅の違いは,ご
がり,回収業者の⼤量廃業となり,⽇本のリサ
み処理またはリサイクルの費⽤を誰が負担する
イクルシステムは完全に破壊されてしまった。
のかという点である。⽇本ではこの費⽤のほと
⼤失敗だったのである。
んどは⾏政が負担する。つまり地⽅税の納税者
しかし,欧⽶では事情が違う。確かに欧⽶で
が負担する。ヨーロッパでは拡⼤⽣産者責任と
も以前からリサイクルはあった。だがそれは,
いう考え⽅で,⾏政の負担を少なくする。前章
⽣産⼯程で⼤量に発⽣する廃棄物のリサイクル
で述べたように,韓国でもこの拡⼤⽣産者責任
であった。たとえば,新聞社では⼤量の試し刷
の考え⽅を導⼊して廃棄物処理やリサイクルに
廃棄物処理と経済的合理性(孫・槌⽥) 113
要する費⽤は事業者負担とする⽅向である。し
たに⽣じた廃棄物を⽐べる必要もある。しか
かし,⽇本では,⾏政が廃棄物処理費⽤の⼤部
し,これらの検討がなされていない。
分を負担し,商⼈と⽣産者が費⽤の少しでも負
新ペット樹脂は kg あたり 200 円程度である
担すれば拡⼤⽣産者責任を果たしたことにして
が,再⽣ペット樹脂は kg 2 ∼ 3 円程度であっ
いる。
た。最近はこの再⽣ペット樹脂は中国に輸出さ
れていて,kg 10 円程度になった。しかし,そ
の再⽣に必要な費⽤はⅠ章で述べたように,名
3.過剰リサイクルの問題
「リサイクルしてごみゼロ社会を建設しよう」
古屋市の負担は kg 140 円,事業者の負担は 74
という考え⽅は,あまりにも安易過ぎる。まず,
円,計 214 円である。製造原価が製品価格の 20
この考え⽅は,物質保存の法則という物理学の
倍もするとんでもない産業が⽇本に存在してい
法則に真っ向から反している。資源の消費をゼ
るのである。この製造原価の⾼さは,別の資源
ロにできない以上,いかにリサイクルしようと,
の⼤量消費を⺬しているのである。
使⽤した資源は気化した分を除いて必ず廃棄物
になるからである。
「ごみゼロ」は,以上述べたように達成不可能
な⽬標であって,このような⽬標を揚げる政策
さらに,エントロピー増⼤の法則という物理
は,社会を混乱に導くだけである。しかもリサ
法則により,閉じたサイクル(closed cycle)は
イクルできるから良いとして商品の使い捨て傾
不可能であることを無視している。これは「永
向がさらに進んでいる。また,その使い捨てら
久機関の禁⽌」としてよく知られていることで
れたごみを膨⼤なマンパワーやエネルギーを投
ある。つまり,リサイクルして廃棄物を資源に
⼊して回収してリサイクルする―いわゆる⼤量
戻す作業は全体としてエントロピーの増⼤で
廃棄・⼤量リサイクル―ということになり⾮効
あって,
【図表4】に⺬すように,別の資源を追
率であるし,ライフサイクル全体で⾒た環境負
加的に消費し,別の廃棄物と廃熱を余計に発⽣
荷も増⼤することになる。
⒄
これまで,⼤量廃棄社会の問題が指摘され,
させることになる 。
例えば,ペット樹脂は⽯油を原料とする。そ
その代替としてリサイクルは望ましいとされが
の再⽣では,ペット樹脂を再⽣するために新た
ちであった。しかし,実際にそれへの取り組み
に消費する⽯油と⽐較して,価値判断しなけれ
が進められるにつれて,リサイクルに伴う新し
ば,無意味なことをすることになる。そして,
い問題が顕在化することになり,リサイクルの
使⽤済みペット樹脂とこれを再⽣するために新
意義と限界についてのより厳密な検討が求めら
れるようになった。つまり,リサイクルを促進
資源
別の資源
すれば資源循環型社会が形成されると単純に⾔
⒅
うことは出来ないのである 。
4.リサイクルとは,廃棄物の中に資源を求め
廃棄物
別の廃棄物と廃熱
る⾏為
そもそも,リサイクルは廃棄物対策の⼿段で
エントロピー増減なし
エントロピー増大
図表4 廃棄物をリサイクルするには,別の資
源を消費しなければならない
はなく,資源獲得の⼿段である。以前,⽇本に
は多数の回収業者が,⼯場や事業所ばかりか,
⼀般家庭を訪問し,不⽤品を買い集め,これを
114 第7巻
第2号
⽣産者に資源として供給し,
⽣計を⽴てていた。
そして注意すべきは,リサイクルを過剰に繰
⼀般家庭から特に⾼い値段をつけて買ったの
り返すことにより,例えば分離が不⼗分になる
は,アカと称する銅鍋などの銅製品であった。
ために製品性状が劣化するなど,プロセスに⼤
そして,これで電線などが作られていた。
きなひずみを⽣じる可能性もある。経済性を無
また,以前には古⽼はしばしば「捨てるのは
もったいない」と若者をしかった。古⽼には物
視した,過剰なリサイクルには弊害を伴う可能
⒇
性があることを認識しておくべきである 。
を⼤切にする気持ちもないわけではないが,む
すでに述べたように,リサイクルは経済⾏為
しろ,⾦銭を⼤切にする気持ちのほうが主で
であるから,収益を⽬的にしてリサイクルする
あった。つまり,新しく買うと所持⾦が減るこ
のが最も⾃然な姿である。⼈件費の⾼騰でそれ
とになるからである。
が難しくなっても,リサイクルはこの原則を踏
近代⼯業の本質は廃棄物をいかに上⼿に再利
まえてなされなければならない。
⽤するかというところにある。何らかの作業を
ところで,容器包装リサイクル法は,地⽅⾃
して,原料から製品を作る場合,それだけでは
治体(⾏政)に参加を義務づけていないが,こ
近代⼯業は成⽴しない。必ず出る廃棄物を新た
れを無視できない社会的⾵潮となっていて,⾏
に加⼯しなおして,主製品に匹敵する製品を
政はこのリサイクルのために⾼額出費してい
⒆
作ったとき,初めて近代⼯業になる 。
る。
戦後の⽇本の化学⼯業の場合,ほとんどの特
しかし,リサイクルは資源を求める⾏為で
許をアメリカが持っていて,割り込む余地はな
あって企業活動である。したがって,これに⾏
かった。そこで⽇本の化学⼯業は,廃棄物に⽬
政が⽀出することは,税⾦で企業活動を援助す
をつけた。例えば,海⽔から苛性ソーダを作る
ることを意味する。まして,リサイクルのため
と塩素ガスが廃棄物として出てくる。これを⽤
の⽀出は廃棄処理のための⽀出よりも余計にか
いて,塩化ビニールを作った。このようにして,
かるのだから,この⾏政の⽀出は不当なのであ
アメリカでは捨てていた廃棄物を利⽤して,⽇
る。
本の化学⼯業は世界に伸びていった。要する
に,儲けるために企業はリサイクルして成功し
5.市場経済によるリサイクル
たのである。このように⼀般家庭から⼤⼯場ま
前述したように,リサイクルは廃品から資源
でリサイクルは経済的な理由によりなされてき
を⾒出す⾏為である。リサイクルしようとする
た。
廃品が資源であるか廃棄物であるかの違いを区
リサイクルする理由は資源の節約であるが,
別できるのは,売り物になるかどうかを判断で
どこまでリサイクルすべきかは,製品の価格,
きる回収業者である。昔の⽇本では市⺠がリサ
新たな廃棄物の処理費⽤,リサイクルのための
イクルセンターへ廃品を持っていかなくても,
設備投資と運転コスト,不純物対策のコスト,
回収業者が家庭に訪問して古紙と古鉄と古銅な
回収までの期間,そして⾦利など,総合的に決
ど廃品を買い取った。古新聞と古雑誌は値段が
定されることになる。社会の中でどこまでリサ
違うので,主婦達は新聞と雑誌などに分別して
イクルをするべきか,という意思決定について
回収業者に渡していた。
も,このような経済原則に基づいておこなわれ
現在の消費者による⾃主的回収では,消費者
るべきである。したがって,リサイクルするか
には品質の良い資源と悪い資源の区別がつかな
しないかは経済的判断によると⾔えよう。
いため,
たとえば紙であればなんでも供給する。
廃棄物処理と経済的合理性(孫・槌⽥) 115
その混在した品質の悪い古紙から不純物を取り
単な作業だけで,再使⽤可能なガラス瓶にこの
除くために製紙⼯場では⽯油燃料と⽔と多くの
新品等購⼊税やワンウェイ容器追加税は有効で
種類の薬品を使⽤し,廃棄物を⼤量に発⽣させ
ある。
ることになった。
ガラス瓶は,実は廃棄物としてもっとも困っ
つまり,リサイクルは商業である。昔の⽇本
た存在である。これは,ペットボトルや紙パッ
のように良い品質の廃品は⾼い価格で売れ,悪
クと違って,焼却できないから減容できない。
い品質の廃品は安い価格でも売れないのであれ
したがって,廃棄すれば使⽤した量だけ全量処
ば,消費者は回収業者から品質の違いを教わる
分場に流れ込むことになる。たとえば,1997 年
ことができて分別することになり,
消費者側も,
度に使⽤された年間 58 億本(1本 600 グラム)
回収業者も,⽣産者側も品質の良い廃品(くず)
のビール瓶がすべて処分場に投棄されたとすれ
を取引できて,関係者はみんな利益を得た。
ば,
ガラスの⽐重を空隙を含めて 2.0 とすると,
品質が悪く商品価値のない廃品(ごみ)をリ
その量は 174 万⽴⽅メートルとなり,⼀般廃棄
サイクルするには,⽯油や薬品を余計に消費し,
物処分場の残余容量の約1%に相当する。他の
汚泥など廃棄物を余計に排出することになるの
ガラス瓶やガラス器具も含めればガラスの投棄
だから,これらは無理にリサイクルすることは
だけで処分場はたちまち埋まってしまうことに
ない。これらの採算の取れないごみは適切に廃
なる。
棄処理するべきである。「くず」と「ごみ」は違
ところが,ガラス瓶は簡単に洗浄できるので
うのである。⾏政がリサイクルに介⼊して,こ
繰り返し使⽤できる。20 回使⽤可能とすれば,
れらのくずとごみを⼀緒にして,これらを過剰
ガラス瓶は処分場の枯渇問題にほとんど影響し
に供給して⽇本のリサイクルシステムを壊して
ないことになる。そのうえ,傷物や破損のガラ
しまったのである。
ス瓶でも同種の物がまとまって回収されれば,
⾏政はリサイクル事業をしてはいけない。経
もう⼀度溶かして同じガラス瓶に戻せるから,
済的価値のある廃品のリサイクルはすべて⺠間
処分場にほとんど流れないので,再使⽤できな
の商取引に任せ,⾏政の廃棄物処理から分離す
くとも傷物や破損のガラス瓶の回収も有効なの
ることにより,古紙,古鉄などの資源回収は復
である。
活して,昔の⽇本のように⾃由な取引で資源回
収がなされることになる。
現在でも,古ビール瓶は市場経済の条件が満
たされ,それぞれの当事者にとってリサイクル
は義務ではなく,利益となっている。消費者は
6.再使⽤を誘導するための新品等購⼊税
古ビール瓶1本あたり5円で酒屋に売る(20 年
廃品の中に資源を求めるリサイクルは,回収
前は1本 10 円)
。酒屋は問屋または瓶商にいく
された廃品の⽅が,新しく作った商品よりも経
らか加算して売る。問屋または瓶商はビール会
済的に優位である場合になされる。この条件は
社にこれをまとめて売る。ビール会社はこれを
新品や輸⼊品を購⼊する業者に新品等購⼊税
洗浄して再使⽤する。これはしばしば⽇本型デ
(容器新品税)およびワンウェイ容器追加税を
ポジットと誤解されるが,これは売買である。
課す
ことによっても得られる。
売買とデポジットの違いは,売買では誰もが得
この課税により,新品を購⼊するよりも回収
をする関係であるが,デポジットでは誰かが損
品を再使⽤する⽅が安くなるので,容器包装の
をすることになるという点で⼤きな違いがあ
多数回使⽤を誘導できる。特に,洗うという簡
る。
116 第7巻
第2号
ビール瓶でこの売買のシステムが維持された
の違いは,再使⽤の場合,需要が⼀定であれば,
のは,飲⾷店に瓶ビールの需要があるからであ
過剰供給問題が存在しないことは強調してよい
る。その理由は使⽤済みビール瓶を酒屋が引き
であろう。
取ってくれるので,廃棄物処理費⽤がかからな
このように,課税によって,市場経済の条件
いからである。しかも,買ってくれるので利益
が復活し,再使⽤にもっとも適した古ガラス瓶
になるからである。
が有効に再使⽤され,また処分場に向かうガラ
⽇本酒瓶も以前は古瓶1本 30 円程度で,古
ス⽚の排出を抑制することができる。
ビール瓶と同様の回収がなされていた。しか
この場合,それぞれの当事者にとってリサイ
し,⾼級酒造業者は新瓶を求め,低級酒造業者
クルは善意または義務ではなく,利益を得ると
は紙パックを求めたので,回収品は需要を失っ
いう⽅法でなされることも強調しておきたい。
て買いとられなくなり,関係者の誰もが儲かる
以上述べたように,価格のある廃品(=くず)
という条件が崩れて,再使⽤されなくなったの
は,廃棄物処理から完全に分離して,通常の商
である。その他飲料容器も同様である。
品取引とすることができるのである。次の章
そこで,すべての包装容器について,その新
で,経済価値のない残りの廃棄物(=ごみ)を
品に対しそれぞれ 10 ∼ 100 円の容器新品税を
どのように処理すべきかについて述べることに
課税すると,古ガラス瓶はすべての新しい包装
する。
容器よりも⼗分に安価となり,ガラス瓶の再使
⽤は復活できる。
Ⅳ.経済的合理性のある廃棄物処理とは
これにより,飲料容器だけでなく,化粧品や
⾷品容器にも繰り返し使⽤することが可能なガ
この章では,経済価値のない廃棄物問題を論
ラスの再使⽤がなされ,使⽤済みガラス容器の
ずる。その処理に要する費⽤は廃棄物になる商
市場経済的流通が復活する。このように,善意
品取引の外部不経済である。この廃棄物処理で
のリサイクルに期待するのではなく,課税に
の⾏政の負担を商品取引責任として商品取引に
よって関係者全員が売買の利益を得るという形
内部化する。これにより,商品の過剰⽣産と過
で⾃然にリサイクルがなされることになる。
剰供給を抑え,資源の過剰消費と廃棄物の⼤量
こうして通常の容器包装廃棄物の処分は適正
発⽣を抑制できることを⺬す。
化され,再使⽤容器が復活することになるが,
これだけでは⾼級⽇本酒やビンに詰めてから熟
1.外部費⽤の⾏政負担
成させる⾼級ワインなどのワンウェイ新ビンを
⑴
発⽣者責任
減らすことはできない。この場合,Ⅱ章で述べ
廃棄物問題は,商品取引という経済活動に
たが,デンマークでは使い捨て⾷器には 33%の
よって,商品が販売者から購⼊者(消費者)の
課税をするように,⾼額のワンウェイ容器税の
所有となり,その消費のあと,その商品が不要
追加が必要となる。これは差別化の強化であ
の廃品になって廃棄されることにより発⽣す
る。
る。つまり,廃棄物問題は,この商品取引に責
ところで,リサイクルには,製品を洗うなど
の簡単な操作でそのまま使⽤する再使⽤と⼀旦
任があり,販売者と購⼊者がともに売買の利益
を得たことの外部不経済である。
素材に戻してこれに輸⼊などの新原料を加える
これまで,⽇本ではこの廃棄物という外部不
再利⽤という⽅法がある。この再使⽤と再利⽤
経済問題について⼗分に考察することなく,安
廃棄物処理と経済的合理性(孫・槌⽥) 117
易に⾏政の負担で処理してきた。その根拠は衛
つまり,ごみ有料化は⼀般消費者にごみ問題の
⽣問題である。廃棄物を放置すれば汚染が発⽣
意識を改⾰することに役⽴てるという効果しか
し,住⺠に被害が発⽣する。そして,汚染が発
なく,ごみ処理の作業と責任はやはり⾏政の負
⽣してからでは,⾏政は巨額の費⽤を必要とす
担となっている。つまり,⽣活ごみの有料化で
る。そのため,廃棄物を可能な限り早い時期に
は⾏政の負担という外部不経済は解消されな
処理して,衛⽣を確保する必要があり,その責
い。
任は⾏政にある。したがって,⽇本では⾏政負
担による廃棄物の処理は,その⾏政の負担を軽
くするために必要だったのである。
しかしながら,この⽅法による⾏政の負担も,
⼤量の廃棄物を発⽣する現代社会においては巨
額になり,その⽀払能⼒の限界に近づいている。
2.廃棄物問題の理論
そこで,商品取引により発⽣する廃棄物とい
う外部不経済を理論的に整理し,その原則に
戻って廃棄物処理を考察する。
ある商品の需要に対して,その商品を供給す
そのため,1970 年に 19 品⽬の産業廃棄物が指
る⾏為は,
【図表5】の需要曲線と供給曲線によ
定され,これを発⽣する企業の負担とすること
り⺬すことができる。ここで,両曲線の交点を
になった。そして,1990 年代から,19 品⽬以外
均衡点 E(R,P)とする。P は均衡価格,R は
の事業系廃棄物についても,それまでは⾏政負
適正供給量を⺬す。ここで R が適正供給量と
担であったものを事業者負担に切り替える措置
呼ばれる理由は,これ以上商品が供給されるこ
が多数の地⽅⾃治体で実施されることになっ
とはなく,資源が過剰に使⽤されないことをこ
た。
の均衡価格が保証するからである。
名古屋市では,事業者が⼀般廃棄物の処理を
この商品は,購⼊後消費者の使⽤によって廃
名古屋市に委託するとき ㎏ 当たり 55 円の処理
棄物になる。この廃棄物が消費者⾃⾝の負担で
⼿数料を名古屋市に⽀払わなければならない。
適正に処理されるならば,別に問題ではない。
もしも,事業者がこの費⽤を惜しんで不法投棄
これにより,消費者は処理費⽤を⽀払うことに
や違法焼却すれば犯罪者として摘発されるの
なり,その結果は商品取引での⽀払能⼒を減ら
で,この発⽣者負担の原則は⽐較的簡単に実施
すことになり,
需要が減って需要曲線は下がり,
されることになった。
均衡点は左にずれ,資源の過剰使⽤は抑制され
しかしながら,⼀般消費者にこの発⽣者負担
るからである。
の原則を適⽤すると,⾏政はその不法投棄に悩
ところがこの廃棄物の処理費⽤を消費者が負
むことになる。この不法投棄を放置すれば,そ
担しないで⾏政が負担すると,
【図表6】に⺬す
の撤去などで⾏政には⼤きな費⽤負担となる。
ように,この廃棄物の処理費⽤(単価は OD)
そこで,この費⽤を消費者の負担とし,ごみ料
は商品取引の外,つまり外部費⽤であって,商
⾦の引き上げをすれば,
さらに不法投棄が増え,
品取引⾃体を修正するものではない。したがっ
⾏政の出費はさらに増えることになる。そし
て,商品取引は抑制されることなく,商品は過
て,取り締まれば,⽇本中犯罪者だらけになる。
剰に供給され,資源は過剰に消費され,廃棄物
したがって,ごみ有料化を実施している地⽅
は過剰に排出されることになる。
⾃治体でも,せいぜい 40 リットル⼊りのゴミ
ここで,課税によりこの外部不経済を商品取
袋で 20 円を徴収する程度であって,この徴収
引に内部化する。
【図表5】の供給曲線に【図表
により処理費⽤を賄うことにはなっていない。
6】の廃棄物の処理費⽤を税⾦として加算して
118 第7巻
第2号
価格
価格
価格
需要曲線
需要曲線
供給曲線
P
P'
P
E
D
O
R
図表5
商品取引
新供給曲線
E'
供給量
廃棄物処理の限界費用
O
図表6
供給曲線
E
供給量
O
廃棄物の処理費⽤
図表7
R' R
供給量
内部化された商取引
内部化した新供給曲線と需要曲線を【図表7】
その前に,商品取引への内部化による廃棄物処
に⺬す。この両曲線の交点,つまり新均衡点
理の制度を確⽴する必要がある。
E’(R’, P’)で商品取引すれば,商品の供給は R
から R’に抑えられ,資源の過剰消費は抑制され
3.内部化のための商品取引税等の検討
る。
⑴
課税の⽬的
この内部化は,課税のほか規制,罰⾦によっ
商品取引に内部化するために商品取引税を課
てもなされる。⼀般に,規制と課税では課税の
す。これは前章で述べたリサイクルを推進する
ほうが内部化に適しているが,すでに述べたよ
ための新品等購⼊税とは異なる。新品等購⼊税
うにドイツでは拡⼤⽣産者責任によって規制と
は,業者間の取引に課税する⼀般政策税であっ
いう⽅法でこの内部化を⾏い,⾏政が廃棄物の
て,国庫に納付される。
負担をしないという意味で⼀定の成果を収めて
これに対し,この商品取引税は,⾏政がその
いる。デンマークでは規制に課税という⽅法も
税収をごみ処理費⽤に当てる⽬的税であって,
加えている。韓国では,罰⾦により廃棄物事業
商品の価値に加算し,商品を消費者に販売した
体の⾚字(つまり⾏政の負担)が⼤幅に減った
者から徴収する。その税⾦は⾏政の別の機関に
という意味で,内部化の⽅向として評価される。
預け,ごみを処理する費⽤に⽤いる。そうする
ところが,⽇本では,廃棄物処理の内部化が
と⾏政がごみを処理するとき⼀般税を使わなく
⾜りない。その結果,名古屋市が「資源化貧乏」
てもよくなる。このようにして商品取引への外
と⾃嘲するように,⾏政の廃棄物対策で,⾏政
部不経済は内部化される。
の負担は増加する⼀⽅である。したがって,⽇
結果としてこの商品取引税を払うのは消費者
本の廃棄物⾏政は,商品の過剰供給と資源の過
であるが,これはごみの排出者責任と考えるこ
剰消費をそのままにする悪⾏政ということにな
とができる。すなわちごみが⽣じてからその費
る。⽇本でこのようなことが可能なのは,⽇本
⽤を負担するのではなく,ごみになる商品を購
の庶⺠は⽐較的裕福で,このような無駄な出費
⼊したときそのごみ処理費⽤を⽀払うのであ
を許し,⾼価な地⽅税に耐えることができるか
る。商品に廃棄物処理のための商品取引税をつ
らである。いずれ,増税によって庶⺠の⽣活が
けると元の値段より⾼くなるので消費者の購買
破壊されることになるだろうから,そのとき⾏
欲を抑える効果がある。つまり⼤量⽣産,⼤量
政は廃棄物処理に費⽤を出すことができなく
消費,⼤量廃棄という問題の解決法にもなる。
なって,汚染蔓延という事態になるであろう。
この商品取引税は,すでに述べたようにリサ
廃棄物処理と経済的合理性(孫・槌⽥) 119
⑹
イクル誘導のための新品等購⼊税とは⽬的も課
きれば⾃然に返すことができる 。これによっ
税対象も異なるので⼆重課税ではない。
て,処分場に投棄する廃棄物の量を減らすこと
ができる。そして,無害化できない廃棄物とな
⒄
る資源の利⽤は禁⽌する 。
⑵
規制と罰⾦
以下に,この廃棄物の性質にしたがって,科
税⾦や規制は法律により強制されることにな
学的合理性のある廃棄物処分の⽅法を考えるこ
るが,違反には,⾼額の罰⾦を⽀払わせなけれ
とにする。これにより,廃棄物処理の経済的合
ば,規制も,課税も有効な内部化とはならない。
理性を達成する基礎が得られることになる。
例えば,不法投棄について,
アメリカのスーパー
ここで廃棄物を返す対象としての⾃然は,⽣
ファンド法では,不法投棄が発⾒されたときに
態系,⼤気,⼤地または海洋である。この⾃然
は,不法投棄した業者及びその廃棄物の発注者
に上⼿に返すと,⾃然の物質循環によって,ふ
に原状回復を命ずる。これに応じないときは,
たたび資源が作られる。多くの研究者は,リサ
⾏政が代執⾏して,割増⾦を不法投棄業者とそ
イクルによって⼈間社会の範囲で資源を再⽣す
の発注者に⽀払わせる。⾏政の作業は⼀般に⺠
ることばかり論じているが,⾃然の物質循環に
間の作業よりも⾼くなるから,不法投棄者とそ
よって資源が再⽣されることこそ注⽬すべきで
の発注者は⾃⼰が作業するよりもはるかに⾼額
ある。リサイクルではなくサイクルである。
の負担を強いられることになる。また,Ⅱ章で
述べた韓国の⽣産者責任再活⽤制度も,規定さ
⑴
廃棄物を⽣態系に返す
れたリサイクル量を完成できない企業には罰⾦
⼈間だけが廃棄物を排出するのではない。す
を⽀払わせる。つまり,規制や課税による内部
べての動物も排出している。その種類は⾷べ残
化は罰⾦の制度があって初めて有効に機能する
しと糞尿と死体である。彼らはそれをいたると
のである。
ころに撒き散らしている。しかし,それは他の
動物と植物と微⽣物に利⽤される。これにより
4.科学的合理性のある廃棄物処理
廃棄物処理に経済的合理性を得るには,その
廃棄物の処理に科学的合理性を必要とする。
⽣態系が作られ,廃棄物を排出した動物のえさ
に戻っている。
この⽣態系の物質循環でのすべての課程はエ
ントロピーの増⼤であるが,そこで発⽣したエ
資源から廃棄物への流れを【図表8】に⺬す。
ントロピーはすべて廃熱と⽔蒸気になり,⼤気
この流れの最終点である処分場の枯渇問題を多
と⽔の循環により宇宙に低温放熱として廃棄さ
くの⼈々ははリサイクルで解決しようとした
れる。⽣態系・⼤気・⽔の循環は⾃然の物質循
が,それは失敗であった。たしかに,リサイク
環である 。
ルは廃棄物の発⽣を遅らせることになるから減
⼈間も動物の⼀種である。したがって,⼈間
量⼿段として有効ではあるが,それはⅢ章で述
の廃棄物も動物の廃棄物と同じ⽅法で処理する
べたように廃品の商取引の範囲でしか成⽴しな
のが合理的であり,かつてはそのようにしてき
い。ここで無理にリサイクルすると資源をます
た。⼈間の廃棄物はすべて⽣活圏の外に放置
ます浪費することになる。
し,後は⾃然にまかせてきたのである。
このような経済的な価値がなく,リサイクル
この⽅法は,中⼩都市や町村の⽣ごみに適⽤
しても意味のない廃棄物であっても,無害化で
できる。これをそのまま⼭林に運んで放置すれ
120 第7巻
第2号
自然
大気
消費
経済財
不要物
社会の物質循環
分別
焼却
廃棄物
社会
採取
資源
自然の物質循環
図表8
(出所)⼩林純⼦・槌⽥敦
生態系
大地・海洋
処分場
⾃然と社会の間の物質の流れ
名城論叢
2004 年
第5巻1号 p88
ば,野⽣動物が⾷べて⼭林に糞をばらまき,⼭
投棄していたが,
2003 年では⼀般廃棄物の 97%
林を豊かにしてくれる。しかし,⼤都市ではこ
を焼却することにより,焼却灰9万トン,不燃
の⽣態系に返す⽅法が使えないので,死体とと
物2万,計 11 万トンと処分場への投棄量を約
もに(2)で述べる⼤気に返す⽅法を使う。
1/3 に減量したのである。
⼈間の糞尿は伝染病の問題があるため,ばら
このようにして,価値のあるくず回収で残さ
まく訳にはいかない。匂いの問題を含め対策を
れた価値のないごみを完全焼却する場合,ごみ
すれば⾃然にそのまま返すことも,肥料として
の分別は,①⽣ごみ,②普通のごみ,③危険物・
利⽤することもできる。糞尿を⽣態系に返すた
毒物,④粗⼤ごみの4種類でよいことになる。
めの科学技術開発は今後の重要課題であろう。
地⽅では⽣ごみは⼭地へ,⼤都市ではそのまま
焼却,普通ごみと粗⼤ごみは,破砕・ふるい・
⑵
廃棄物を⼤気に返す
磁⼒で分別して残りの可燃成分は完全焼却す
⼈間が利⽤する資源の⼤部分は化⽯燃料を含
る。これによりごみの焼却に必要な燃料費を節
めて⽯油または動植物から得た物である。この
約できて,しかも発電による収⼊を増やすこと
主成分は,⽔素,炭素,窒素,酸素であるから,
ができる。
焼却すれば,⽔蒸気,⼆酸化炭素,窒素ガスに
このことは,化⽯燃料の⽯油と太陽光で得ら
なり,⼤気と同じ成分であって無害であるから,
れた動植物を物体として利⽤し尽くした上で,
⼤気にそのまま返すことができる。そして,こ
そのエネルギーを最終的に発電に使うことにな
れはふたたび光合成や窒素同化作⽤によって⽣
る。これは⽯油⽕⼒発電と太陽光発電であっ
態系に戻る。つまり,焼却は廃棄物減量のもっ
て,
これ以上の資源の有効利⽤はないと⾔える。
とも有効な⽅法である。
名古屋市は,
【図表1】に⺬したように,1990
年では年間 30 万トン程度の廃棄物を処分場に
この発電収益で廃棄物処理の費⽤を減らすこ
とができるので,この章で述べた商品取引税を
減らすことができる。
廃棄物処理と経済的合理性(孫・槌⽥) 121
⑶
廃棄物を⼤地または海洋に返す
現在名古屋市には焼却灰の熔融施設はない。
上の観点から全て⾏政の責任である。⽇本では
その処分の費⽤も⾏政が負担する。
そこで焼却灰の⼀部を⺠間施設に委託して熔融
しかしながら,このごみは,商品取引によっ
固化し,残りの焼却灰はそのまま処分場に投棄
て販売者から消費者に渡った商品の使⽤結果で
している。しかし,計画中の熔融施設が完成す
あって,この処理処分によって⾏政が負担した
れば,処分場に投棄する必要がなくなり,熔融
費⽤は商品取引による販売者と消費者の得た利
固化物を⼈⼯砂として⼤地と海洋に返すことが
益の外部費⽤である。したがってⅣ章(廃棄処
できる。特に,名古屋に近い渥美湾には,⼟砂
分)で商品取引に課税して⾏政の負担(外部不
採掘した深い⽳があり,そのため⻘潮が発⽣し
経済)を商品取引に内部化する必要があること
て漁業被害となっているが,これを埋めもどす
を⺬した。これは商品取引責任または本来の意
材料として使うこともできる。
味での拡⼤⽣産者責任である。
このようにして,科学的合理性のある廃棄物
さらに,経済的合理性のある廃棄物の処理を
処理をおこなうことにより,経済的合理性のあ
おこなうには,科学的合理性のある廃棄物処理
る廃棄物処理が可能となるのである。
が必要となる。この科学的合理性のある廃棄物
処理とは,⾃然の物質循環の中に社会の物質循
結論
これまでのごみ処理とリサイクルの問題は混
乱していた。Ⅰ章(⽇本のごみ)とⅡ章(各国
環を収めることである。すなわち,⼈間だけの
ためのリサイクルではなく,⾃然のサイクルに
なることであって,これが可能であることを⺬
した。
のごみ)で⺬したように,この⼆つの問題の扱
以上のように本論⽂はリサイクルと廃棄物の
い⽅は種々様々である。各国も⽇本もともに拡
処理を,価値のある廃品(=くず)の問題と価
⼤⽣産者責任をかかげるが,この解釈は,⾏政
値のない廃棄物(=ごみ)の問題の2つに完全
は⼀切負担しないというものから,⽇本のよう
に分離するべきことを提起し,またそれが可能
に⾏政の負担を認め,事業者は⼀部でも負担す
であることを⺬したものである。
ればよいとするものまで雑多である。
(本⽂は,名城⼤学⼤学院経済研究科での孫瑩
そこで,この論⽂では,この廃棄物処理とリ
サイクルの⼆つの問題を明確に区別することに
の修⼠論⽂に,指導教員であった槌⽥敦と孫瑩
が加筆して作成したものである)
。
した。リサイクルとは,廃品の中に価値のある
資源を⾒出す⾏為であって利益を⽣む⾏為であ
る。したがって,Ⅲ章(リサイクル)において,
引⽤⽂献
⑴
槌⽥敦『エコロジー神話の功罪』ほたる出版,
1998 年,p20
リサイクルは純粋の経済⾏為であり,鉱⼭から
鉱⽯を⾒出す⾏為と変わらない。そしてリサイ
クルで扱うくずは全て有価物であり,リサイク
ルは完全に⺠間に任せることが可能であること
を⺬した。また⾏政がリサイクル事業に⼀切⼿
を出してはいけないことを⺬した。
このようにすると,資源としての価値のない
ごみが残されることになるが,この処理は衛⽣
⑵
名古屋市環境局『名古屋市ごみレポート』2000 年
⑶
名古屋市環境局『事業概要資料編』平成 13 年(2001
年)度,平成 15 年(2003 年)度
⑷
岡本克則「名古屋市におけるごみ⾏政について」
名城論叢 2002 年第3巻第2号 pp83 ∼ 101
⑸
名古屋市環境局『決算委員会資料』2001 年9⽉6)
⑹
⼩林純⼦・槌⽥敦「廃棄物⾏政の失敗と商取引の
役割」名城論叢 2004 年5巻1号 pp65 ∼ 91
122 第7巻
⑺
第2号
松⽥雅央『環境先進国ドイツの今』学芸出版社
2004 年 pp86 ∼ 96
⑻
pp227-228
⒃
関東弁護⼠会連合会『弁護⼠が⾒た北欧の環境戦
略と⽇本』⾃治体研究社 2001 年 pp141 ∼ 187
⑼
李
⑽
⒄
秀澈「韓国の⽣産者責任再活⽤制度」名城論
叢 2005 年第6巻第2号 p61,66
⼩林純⼦・槌⽥敦「廃棄物問題と商取引責任」名
城論叢 2004 年第5巻第2号 pp17 ∼ 32
⒅
植⽥和弘『循環型社会の社会経済システムと公共
政策』有斐閣
張益,陶華『ごみ処理処置技術及び⼯程実例』中
国化学⼯業出版社 2002 年 p6
⑾
⒆
蒼蒼社 2005 ∼ 2006 年 p105
宝島社
⒇
張益,陶華『ごみ処理処置技術及び⼯程実例』中
国化学⼯業出版社 2002 年 p10
2000 年 p183
槌⽥敦『環境保護運動はどこが間違っているのか』
中国環境問題研究会編『中国環境ハンドブック』
⑿
植 ⽥ 和 弘『 循 環 型 社 会 ハ ン ド ブ ッ ク 』有 斐 閣
2001 年 p5
1992p46
安井⾄『リサイクルの百科辞典』丸善 2002 年 p2
∼3
加藤峰之・槌⽥敦「市場経済による無理のないリ
⒀
同上
p293,298
サイクルを」名城商学第 49 巻第3号 1999 年 pp113
⒁
同上
p309
∼ 155
⒂
信沢由之「ゼロエミッションの考え⽅」,⼭⾕修作
『 循 環 型 社 会 の 公 共 政 策 』中 央 経 済 社 2002 年
槌⽥敦『新⽯油⽂明論』農⽂協 2002 年 pp91 ∼
104