ROAD TEST No 5160 VOLKSWAGEN GOLF R フォルクスワーゲン・ゴルフR 最上級ホットハッチである割に、いささか型にはまった印象の強いゴルフRだが、 エンジンとプラットフォームの全面刷新により、先代の物足りなさを払拭できただろうか。 photo: Stan Papior WE LIKE.............................アジャストしやすいハンドリングと優れたステアリング、完全に解除可能なESP、4WDホットハッチとしては割安な価格 WE DON’T LIKE.........状況によって悪化する乗り心地、万人好みとはいえない夜間のインテリアの雰囲気、V6ほど魅力的ではないサウンド 専用デザインのバンパーがなければR モデルと認識するのはむずかしそうだ。 突き出した顎が作り出す低いプロファ イルも目を引くが、このモデルでは大き なエアインテークが何より特徴的だ。 104 AUTOCAR 08/2014 Rには自動ハイトコントロール付きのバイキセノンヘッドラ イトのほか、新開発のハウジング一体型LEDデイタイムラ ンプが与えられている。その特徴的なU 字発光パターン は、ほかのゴルフとの差別化ポイントとなっている。 ※掲載車両は英国仕様であり、 装備その他が日本仕様と異なる場合があります。 クローム仕上げのミラーハウジングは、標準のRス タイリングパックに含まれる。日本仕様ではボディ カラーは4色が用意されており、パールホワイトの みが有料オプションとなっている。 Rモデルには18インチのアルミホイールと 225/40タイヤを標準装備する。テスト車は 欧州でオプション設定されている19インチ を装着していた。 Volkswagen Golf R ROAD TEST MODEL TESTED HISTORY テスト車両概要 ●モデル名: フォルクスワーゲン・ゴルフR[価格/発売時期と ()内は日本仕様5ドア] ●車両本体価格:529.8万円 ●日本発売時期:2014年2月20日 ●最高出力:300ps/5500-6200rpm(280ps/5100-6500rpm) ●最大トルク:38.7kgm/1800-5500rpm(38.7kgm/1800-5100rpm) ●0-97km/h加速:4.8秒 ●113-0km/h制動距離:52.6m ●最大求心加速度:0.92G ●テスト平均燃費:10.2km/ℓ ●二酸化炭素排出量:149g/km VWはRモデルでさえもあくまで慎ましくあり たいようで、バッジはとくに凝ったデザインで はない。フロントとリヤの見慣れた場所に、控 えめな “R”バッジが付く。 Rのリヤ3面のウィンドウには、3ドア/5 ドアともにUVカット機能を持つプライバ シーガラスを標準装備している。 “R” のルーツはラリー? 2世代目となるゴルフRの直 接的な先祖といえばゴルフⅣ およびⅤに設定されたR 32で あろう。 トップレンジへの4WD 採用を決定付けたモデルで、 いずれも6 気筒を搭載してい た。ゴルフⅢの重量増加を排 気量拡大で解消すべく、VR 6 グレードで FFと組み合わせら れたエンジンである。 しかしゴ ルフⅡの、1 . 8ℓ直 4 スーパー チャージャーと4WDを積んだ ラリーも、Rのルーツといえる。 ゴルフⅡラリーは4WDと1.8ℓ機械過給エンジンを搭載。 ゴルフに4本出しエグゾーストパイプが装着されるのはこれが スモーク仕上げのテールライトはホットハッチ はじめてだ。本数だけでも目立っているが、光輝くクローム の定番アイテムだ。RはLED光源を備える。中 フィニッシュがさらに目を引く。 央を走る明るい色の細い帯部分は、ターンシ グナルとして機能する。 www.autocar.jp 105 ON THE INSIDE コンパクトに収められたエアバッグのおかげで、 ステアリ われわれとしては普通のハンドブレーキのほうが好みだが、 電動式採用の結 R専用シートは横方向のサポート性と長距離での快適性をうまく両立して ングホイールには多数のスイッチ類が配置できる。 果として得られたセンターコンソールの余裕については認めざるを得ない。 いる。ルックスも上々の仕上がりだ。 COMMUNICATION コミュニケーション Bluetooth電話接続機能を標準装備する。 接続 は簡単に確立され、 通話クオリティは良好である。 ただし、 タイヤノイズが多少うるさく、 必ずしも通話 環境としては良好とはいえない。 で地図をスクロールできるが、 最新のスマートフォン ほどスムーズには動かない。 また、 このスクリーンは 指を近づけると検知して操作ボタンを表示し、 離す とそのボタンが消える。 ENTERTAINMENT エンターテインメント Discover Proインフォテイメントシステムには、 オー ディオのアップグレードは含まれない。 だが、 標準で GPSナビゲーション も8スピーカーとCD/DVDプレーヤー、 AM/FMラ SDカードやMP3 欧州仕様ではオプション、 日本仕様では標準装備 ジオとワンセグ地上デジタルTV、 のDiscover Proナビゲーションシステムは、 8イン プレーヤーなど多くのデバイスと接続可能な外部 DSRC (ITSスポッ ト対応システム) チのカラータッチスクリーンを備え、 地図情報と交 入力が備わる。 通標識を表示できる。画面を指先で操作すること やETCの車載器も標準装備だ。 NAVIGATION 106 AUTOCAR 08/2014 Volkswagen Golf R ROAD TEST 0.28 869mm 380 1270 litres n mi m ax 0m m m 0 6 0m 96 2631mm 64% 1436mm n mi ax mm m 810 0mm 109 950m m サイズはどれくらい? 820m 1000m m min m max HOW BIG IS IT? 768mm 39% 36% 4268mm VISIBILITY TEST 視認性テスト 8.8º obscured 前後にパーキングセンサー を標準装備する。視認性は 全方向ともまずまずだ。 ヘッドライトはとくにハイビー ムが秀逸の出来だが、 ロービ ームも良好である。 1541mm 1799mm HEADLIGHTS たいていのドライバーが容易に良好なポジションを得られる。シートも素晴らしい。ただし、ステアリ ングホイールのリムはフラットボトムではないほうが、われわれとしては好みだ。 Turning circle: 10.9m FRONT 1515mm 9.2º obscured 190mm 真っ直ぐに配置されており適正である。2ペダル だが、望めばブレーキペダルを左足で操作する ことも可能だ。 標準的なシート位置での 足元スペース:820mm Centre ステアリングホイールとペダルの配置 50mm WHEEL AND PEDAL ALIGNMENT このクラスのスタンダードに照らし合わせるなら後席の居住性は良好な部類に入るのだが、3ドアモ デルでは乗降時に窮屈さを強いられる。 “ス タンダードなホットハッチ” の枠を超えるような定義の 意匠と技術 DESIGN&ENGINEERING ★★★★★★★★☆☆ 不明確なカテゴリーは、近頃ますます これまでのRモデルは、ベーシック 曖昧になってきている。その一端を占 なゴルフの延長線上にある非常に魅 めているのがフォルクスワーゲン・ゴ 力的なバリエーションだった。デザイ ルフGTIよりもほんの少し高い価格で ンの意図は今回もまったく同じで、VW 280psを得た新型セアト・レオン・クプ のデザインチーフは「上品さとスポー ラであり、 もう一端にはメルセデス・ベ ティさ、それに自制と差別化のバラン ンツ、 より正確にはAMGが、途方もな ス」 と表現している。 く高額でハイスペックなA45を投入し その手段もこれまでどおりだ。専用 幅:980-1260mm 高さ:400-780mm 奥行き:740-1630mm た。そして、それらによって支配され のフロントバンパーと大型化されたイ たあとのごく狭いエリアこそが今回の ンテーク、手直しされたグリル、たくま テーマである。新型ゴルフRは、そこに しさを増したシル、もっと見栄えのい 属する資格が十分あるだろう。 いホイール、そして本数の多いテール “EA 888” を搭 GTIに採用されている ホットハッチというニッチ市場にお パイプが与えられている。R32ほどに 載しているのだ。当然ながら、GTI 用 4 WDシステムの“ 4モーション”は最 いて常に脚光を浴び続けてきたGTI は印象的ではないが、GTIよりも力強 からの変更箇所は多い。シリンダー 新バージョンの第5世代のハルデック を擁するVWには長い歴史があり、定 く、それでいていたずらに攻撃的では ヘッドを新設計したほか、 ピストンやイ ス製多板湿式クラッチであり、アップ 評も築いている。そんな彼らが、GTIよ ない。 なかなか上出来だ。 ンジェクションバルブ、ターボチャー デートされた電子補助デバイスも備 り上位のモデルを送り出してきた。充 メカニズムにおける最大の変更点 ジャーのモディファイを受けた結果、 えている。GTIと同様、サスペンション 実した装備と控えめなスタイルを持つ はこれまでのものより大きくて軽い 出力は先代30ps増の300ps/5500- はフロントがマクファーソン・ストラッ 4輪駆動車で、価格設定の巧妙な、大 MQBプラットフォームの採用だが、も 6200 rpm にも達している。効率性 ト、 リヤがマルチリンク式だが、 どちら も構造的なところから手直しされ、剛 トランクルームはクラス最大というわけではないが、後席を起こした状態で380ℓ、シートを倒すと 1270ℓの容積があり、ライバルに引けをとらない。スクエアな形状も使いやすい。 ら選択する (日本仕様はDSGのみ)。 人のユーザーを想定した一台だ。決し うひとつ、エンジンも挙げられよう。 の向上も歓迎したい。CO ₂排出量が てラフな暴れ馬ではない。果たしてそ チューニングが行き着くところまで行 34g/kmも改善されているのだ。 性アップが図られている。また、車高 の新型は、成熟しすぎて走りまで控え き着いた旧世代 4気筒の “EA113” に これまで同様、 トランスミッションは はGTIよりもさらに5mm低い。電動ア めになってはいないだろうか? 代わり、最新のRではゴルフⅤ以降の 6段のM/TもしくはDSGのどちらかか シストが付いたステアリングはギヤ比 www.autocar.jp 107 ON THE ROAD TRACK NOTES サーキットテスト 可変式で、ロック・トゥ・ロックはわずか 2.1回転である。 T3 ■ドライサーキット フォルクスワーゲン・ゴルフR ラップタイム:1 分 17 秒 4 T6 T2 T5 BMW M135i 参考タイム:1 分 15 秒 9 室内 INTERIOR ★★★★★★★★☆☆ スタンダード仕様のゴルフⅦのとて T1 T4 今回のテストでは、 ドライサーキットとい いながらも路面を雨が流れるような状 況だった。 しかし、ゴルフRの安定性と 走行性能によって、速く、自信を持って 走らせることができた。 T7 Start/finish もシンプルで上品な室内に、Rモデル では速さと洗練を目指したハッチバッ クによく見られる変更が加えられてい ブレーキは酷使されてもよく耐え、煙が 上がるほど攻めるまで、フェードも感じら れなかった。 4 駆システムが必要なときにパワーをリ ヤへ配分してくれるので、 トラクションは どんな状況下においても素晴らしい。 る。デザインの多少異なる計器類、形 状が工夫されたステアリングホイー ル、アルミ仕上げのペダル、光沢のあ ■ウェットサーキット フォルクスワーゲン・ゴルフR ラップタイム:1分14秒0 る樹脂製トリムなどだ。 また、シートも 冠水したストレートでもトラクションは素 晴らしく、 また最初のコーナーの立ち上が りでもトルクステアはなかった。 アルカンターラとレザーで仕上げられ た新たなもので、 グリップとサポート性 T5 BMW M135i 参考タイム:1分19秒8 T6 T7 T3 素晴らしく楽しい。VWのエンジニアた ちはこのゴルフを磨き上げ、パワーをリ ヤにも送ることでトラクションを確保し ている。 グリップのバランスも秀逸だ。 T4 T8 T2 T1 Start/finish ストレートエンドでブレーキを残してターンインす ると、フロントのタックインが出てかなり楽しめる。 1.9s 2.7 3.7s 4.8 6.2s 0 129 7.8s 12.0s 113 2.7s 3.5 4.4 5.5 6.7s 129 8.3s 10.0s 5s 12.2s 10s スの速いタッチスクリーンが備わって 193km/h 209km/h 225km/h いる。 “比較的” という前置きは、 “車載 15.0s 18.6s 23.5s 31.8s デバイスとしては” という意味だ。いず 20s 177km/h 193km/h 14.5s 17.5s 15s 25s 209km/h 30s 21.6s テスト車に装備された6段DSGは、 25.9s 20s 10m WET れはスマートフォン並みに反応するも のが出てくるだろう。 225km/h 25s レバーでマニュアル変速する際にド ライバーを悩ませる。 シフトアップとシ フトダウンは前後を逆にするべきだ。 48-0km/h 9.8m 0 満も聞かれはしたが、そんな感想を漏 スイッチ類は合理的に配置され、中 ■制動距離 97-0km/h 制動時間:2.94 秒 DRY もっと手前に引き寄せたかったとの不 央には操作に対して比較的レスポン 15s 145 161km/h ぎないようにステアリングホイールを 177km/h 10s 48km/h 64 80 97 0 145 161km/h 9.7s 5s BMW M135i 全員が、快適なドライビングポジション らしたのはひとりだけである。 フォルクスワーゲン・ゴルフR 113 は感じさせない。本誌テスターのほぼ を得られた。シートバックが直立しす ■発進加速 テストトラック条件:湿潤路面 / 気温 10℃ 0-402m 発進加速:13.4 秒(到達速度:169.3km/h) 0-1000m 発進加速:24.6 秒(到達速度:212.6km/h) 48km/h 64 80 97 に優れ、かつ長時間乗車でも、不快さ 80-0km/h 26.9m 20m 10.0m 48-0km/h 113-0km/h 52.6m 30m 40m 27.5m 80-0km/h 50m 55.0m 113-0km/h だが、通常のD ポジションとスポーツ ポジションとの切り替えは、単純なレ バー操作のみで済むので使いやす い。 また、ステアリングホイールにはシ フトパドルが標準装備されている。 ON THE LIMIT 限界時の挙動 108 ゴルフRの素直な反応とフィードバック る場面のほうが多かった。 の領域に達することはほとんどないだろ スロットルを 的なニュートラル特性を示す。 には、1990 年代中頃のラリーレプリカの ハードなブレーキングでもほとんどノー う。大鎌で刈るようにコーナーをクリアし、 オフにしつつターンインすると4輪駆動シ 面影が感じられる。それほどまでに鋭く、照 ズダイブせず、 ターンインはシャープで正 迅速なレスポンスとフィードバックを与え ステムがパワーを前後に振り分け、そこか 準が絞り込まれたクルマだ。そのため、路 確だ。ステアリングは、 クイックなギヤレシ てくれる。サーキットでもなければ限界を ら再びパワーを加えれば4 輪ドリフトに持 ち込める。 とくにウェットではそうだ。現代 面の悪い道ではハーシュネスやキックバッ オにもかかわらず直感的である。 突破してやろうなどとは思わないはずだ。 クが気がかりになることもあったが、非常 操舵初期にはアンダーステア傾向を見 そして、 トラック上でその限界を超える のホットハッチで、ほかにこれほどの鋭さ に研ぎ澄まされていると好意的に感じられ せるが、限界自体はとても高く、公道でそ と、ゴルフRはハッチバックとしては驚異 と熱さを持つクルマは多くない。 AUTOCAR 08/2014 Volkswagen Golf R ROAD TEST 乗り心地は硬く、ときとして 扱いにくさをのぞかせる。 たいていの大人には十分な広さの ぐ。 ゴルフRはDSGによって魅力的な 路上に水の流れができるようなコン リヤシートや、実用的なトランクスペー ギヤシフトが提供された、素晴らしい ディションの “ドライ” テスト用コースに イックだが、反応は直感的で、電動ア スは通常のゴルフと変わらず、競合車 ホットハッチである。 て、 コーナリングフォースが0.9G以上 シストにもかかわらず純粋なフィール に引けをとらない。 ングは直進位置から外れるととてもク ライバル車、あるいは過去のゴルフ に達する走りを繰り返した結果、最終 を伝えてくれる。アダプティブシャシー VR6やR32と比べたときに欠けてい 的に煙を上げてしまったブレーキは、 コントロールはモードを切り替えるご るのは、多気筒エンジンならではのサ 通常のサーキット走行会では配慮する とにダンパーを引き締め、スロットルレ 動力性能 PERFORMANCE ★★★★★★★★☆☆ ウンドである。 これを補うべく用いられ 必要があるだろう。だが、公道での制 スポンスを鋭くし、ステアリングのアシ サーキットテストは路面を雨水が流 たのがサウンドアクターだ。ホッケー 動能力は素晴らしい。 スト力を減らす。それに伴い乗り心地 れるコンディション下で行われたが、 パック大の共鳴装置がフロントウィン 加速タイムの計測では 4 輪駆動のア ドウ基部のウェザーパネル下にあり、 ドバンテージが明確だった。VWの公 それが振動して共鳴し、 より排気量の は硬くなり、もっともハードなセッティ 乗り心地と操縦安定性 RIDE&HANDLING ★★★★★★★★★☆ ングでは路面状況によってはひどい ことになる。だが、 より角が取れたゴル 称値は0 -100 km/hが4 . 9 秒である。 大きいエンジンに似た音を発生する。 VWのGTIブランドがフォードのST フGTIには欠けている鋭さと俊敏性は われわれは2名乗車で燃料満タン、 し 疑似的な装置としては、決して悪い に通じるポジションだとすれば、Rモデ 大いに歓迎すべきだ。 かもウェット路面という悪条件ながら、 ものではないし、本誌テスターの大半 ルはRSに相当する。 より極限的で、 よ 身内だけでなく、おおかたの前輪駆 0-97km/hで4.8秒を記録した。 はこれを気に入った。 しかし、メーカー り活発なクルマだ。そして VWはゴル 動車と比べても魅力的だ。 ヴォグゾー ほかの数値についても、それに劣ら 公認の手法ではないが、 ゴルフⅥの一 フRの運動性能を、彼らの制約の範囲 ル・アストラVXRやセアト・レオン・クプ ず見事なものだ。0 - 402 mの13 . 4 秒 部オーナーがそうしているように2~ 内で、そのポジションにふさわしい領 ラには勝っており、フィールと熱中度 は、2 代目フォード・フォーカスRSより 3分の作業でそれを無効にしてみたと 域にまで拡げることを許容した。 にかけてはルノー・メガーヌRSに肉薄 も1秒近く速い。48-113km/h加速も ころ、 ターボの作動音がよりはっきりと ゴルフRの振る舞いはGTIのそれに している。 ゴルフRのアプローチはや 4.3秒と、フォーカスRSの4.9秒をしの 聞こえるようになった。 比べてはるかに強烈である。ステアリ や古風だが、路面に食いつき、安定し UNDER THE SKIN ハイテク4輪制御 VWのXDS+システ ムは、擬似的なLSD として機能する。 ゴルフRの4輪駆動システムである “ハルデックス5” の心臓部に埋め込まれた 湿式多板クラッチは、今やお馴染みのデバイスといえるだろう。電動油圧ポンプを 使って作動し、 コントロールユニットが必要な状況であると判断すると、 トルクのほ ぼ100%をリヤアクスルに送ることも可能だ。 VWがいうところの “特定の運転状況” 、言葉を換えればアグレッシブなコーナ リングの際には、反応速度とリヤに送られるトルクの最適化が行われ、いっそう ニュートラルなハンドリングバランスが達成されるという。 また、スタビリティコントロールと一体化された電子制御ディファレンシャルシス テム (EDS) によって、前後車軸間のディファレンシャルとともに、左右輪間のディ ファレンシャルでも擬似的な差動制限が働くという。空転する内輪にブレーキをか け、路面をグリップしている外輪に駆動力を伝えるのがその内容だ。4輪EDSとし て知られているこのシステムには、 ゴルフGTIと同じくXDS+が統合されている。 4輪駆動システムの“ハルデッ クス5”は、油圧をカップリング に“プリロード”することで、よ り素早いトルク伝達を行える。 これはアンダーステアを減らし、機敏さをより高めるメカニズムである。 また、 ゴルフRでは、ESCボタンを3秒間押し続けると電子制御スタビリティコン トロールを完全に解除することができる。特筆すべきは、 これがGTIをはじめとす るほかのどのゴルフでもできないことだ。 www.autocar.jp 109 DATA LOG SPECIFICATIONS 計測テストデータ ■今月の数字 143kg ■メカニカルレイアウト 鋼板製モノコックに前マク ファーソン・ストラット/ 後 マルチリンクのサスペン ションを組み合わせるアー キテクチャーは標準モデ ルと同様だ。ターボユニッ トと最新の 4 WDシステム が Rらしい 高 性 能の源で ある。日本仕様のトランス ミッションは6段DSGのみ となる。 55 litres 2006 年にV 6を搭載して登場した ゴルフR 32は、最新のゴルフRより 140kg以上も重かった。 1.8sec ウェットコンディションで計測した ドライでのメ 0 - 402 m のタイムは、 ガーヌRSのそれをしのぐ。 ■シャシー/ボディ 406 55 355 38.7kgm /1800-5500rpm 304 48 300ps /5500-6200rpm 41 253 35 203 28 152 21 101 14 51 7 0 0 Engine (rpm) 2000 4000 6000 Torque (kgm) 駆動方式:フロント横置き4輪駆動 形式:直列4気筒ターボ, 1984cc ブロック/ヘッド:アルミ軽合金 ボア×ストローク: φ82.5×92.8mm 圧縮比:9.3:1 バルブ配置:4バルブDOHC 最高出力:300ps/5500-6200rpm 最大トルク:38.7kgm/1800-5500rpm 許容回転数:6600rpm 馬力荷重比:201ps/t トルク荷重比:25.9kgm/t 比出力:151ps/ℓ ■エンジン性能曲線 Power output (ps) ■エンジン 0 構造:スティールモノコック 車両重量:1495/1410kg(実測) 抗力係数:0.28 ホイール:8.0J×19 タイヤ:235/35R19 ブリヂストン・ポテンザRE050 スペアタイヤ:テンパー ■変速機 形式:6段DCT ギヤ比/1000rpm時車速〈km/h〉 ①2.92/8.7②1.83/14.0③1.31/20.0 ④0.97/26.4⑤1.04/34.1⑥0.81/43.6 最終減速比:4.77(1-4), 3.44(5-6) 8000 ていながら敏捷でシャープだ。腰が据 わっているが反応がいい。 もちろんそれは、前輪のみに限られ ない駆動方式も関係している。同程度 の高出力を持つFWDのライバルは、 パワーをかけると前輪が流れはじめる ため、破綻を防ぐべくオーバーアシス トなステアリングを備える。対するゴ ルフRは、通常時はほぼFF状態だが、 前輪のトラクションが不足すると後輪 へと駆動力が分配される。 その油圧システムは電子制御で、 必要とあれば全パワーをリヤタイヤに ■燃料消費率 オートカー実測値 総平均 ツーリング 動力性能計測時 メーカー公表値 市街地 郊外 混合 燃料タンク容量 現実的な航続距離 CO₂排出量 消費率 10.2km/ℓ 11.9km/ℓ 4.5km/ℓ 消費率 11.4km/ℓ 17.0km/ℓ 14.5km/ℓ 55ℓ 558km 149g/km ■サスペンション 振ることもできる。 これによってチュー ■静粛性 前:マクファーソン・ストラット /コイル+スタビライザー 後:4リンク/コイル+スタビライザー アイドリング:46dB 3速最高回転時:73dB 3速48km/h走行時:62dB 3速80km/h走行時:64dB 3速113km/h走行時:67dB ■ステアリング 形式:ラック&ピニオン (電動アシスト) ロック・ トゥ・ロック:2.10回転 最小回転半径:5.45m ■安全装備 ABS, 切り替え式ESC, 8エアバッグ Euro N CAP/5つ星 乗員保護性能:成人94%, 子供89% 歩行者保護性能:65% 安全補助装置性能:71% ■ブレーキ 前: φ340mm通気冷却式ディスク 後: φ310mm通気冷却式ディスク ニング幅は大きく広がり、スロットルで 調整できる、コントロールが楽しいク ルマになっている。 購入と維持 BUYING&OWNING ★★★★★★★★☆☆ ゴルフGTI( 383 . 3 万円) を比較的 高価なホットハッチにしようというフォ ルクスワーゲンの戦略によって、Rも やや高めに値付けされている感は否 ■発進加速 ■中間加速 〈秒〉 めない。日本仕様 5ドアの529 . 8 万円 ■最高速 実測車速mph(km/h) 秒 30(48) 1.9 mph(km/h) 20-40(32-64) 2nd 3rd 2.1 3.0 4th - 5th - 6th - 40(64) 2.7 30-50(48-80) 2.0 2.6 3.6 5.4 - 50(80) 3.7 60(97) 40-60(64-97) - 2.6 3.5 4.7 7.0 4.8 70(113) 6.2 50-70(80-113) - 2.7 3.7 4.9 6.5 80(129) 7.8 60-80(97-129) - 3.0 3.7 5.2 6.9 90(145) 9.7 70-90(113-145) - - 3.8 5.4 7.5 100(161) 12.0 80-100(129-161) - - 4.3 5.6 8.4 110(177) 15.0 90-110(145-177) - - - 6.0 9.4 120(193) 18.6 100-120(161-193) - - - 6.8 10.0 130(209) 23.5 110-130(177-209) - - - 8.4 - 140(225) 31.8 120-140(193-225) - - - - - 150(241) - 130-150(209-241) - - - - - 160(257) - 140-160(193-257) - - - - - 1 2 3 4 5 6 というプライスは、同じランニングギ 58km/h 6600rpm 92km/h 6600rpm 129km/h 6600rpm 174km/h 6600rpm アに広く高級なインテリアとブランド バリューが加味されたアウディS3のス ポーツバック ( 560 . 0 万円) より30 万 円ほど、 よりパワフルだが後輪駆動の より20万 BMW M135( i 549.0万円) 円弱だけ抑えられているに過ぎない 225km/h 6600rpm のだ。 ゴルフRはその価格以上の美点 250km/h* 5720rpm を多く備えるが、プレミアムブランドの * claimed 競合車に対する金銭的アドバンテー ジは、思ったよりもよりも小さい。 5ドア+DSGの日本仕様の燃費は、 ROAD TEST 一部バックナンバーは www.autocar.jp に掲載されています。 110 AUTOCAR 08/2014 注意事項:馬力荷重比とトルク荷重比の計算にはメーカー公称車両重 量を使用しています。 © Autocar 2014. テスト結果は権利者の書 面による承諾なしに転用することはできません。 メーカー公称値で 14 . 4 km/ℓだ。わ れわれは巡航で 11. 9 km/ℓ、平均で 10.2km/ℓを記録した。 Volkswagen Golf R ROAD TEST ROAD TEST No 5160 Volkswagen Golf R AUTOCAR VERDICT ●オートカーの結論 ★★★★★★★★★☆ 「スーパーハッチに求めるものすべてが このゴルフRには備わっている」 TESTERS’ NOTES ●テスターのひと言コメント 日本では標準装備のDiscover Proナ ビゲーションシステムは欧州ではオプ ションだ。1グレード下で15 万円以上安 価なDiscoverだとタッチスクリーンが2 インチほど小さく、 しかも音声認識が使 えない。 ニック・キャケット 夜間はアンビエントライトの一部として、 ドアにブルーの細い帯が点灯する。テス ターからは「まるで1980年代のナイトク ラブのようだ」 との声も上がった。 マット・プライアー SPEC ADVICE ●購入にあたっての助言 日本仕様は5ドアの6 段 DSGのみの設 定となっているが、3ドアはまだしもM/ T は導入してほしいところだ。アダプ ティブシャシーコントロールの標準装備 は歓迎するが、19インチホイールが用 意されないのは残念である。 ゴ ルフGTIに乗って、もしも期待したほどの刺激が得 れた選択となり得るクルマがあるとすれば、唯一、ルノー・ られなかったと失望を感じたことが過去にあったと メガーヌRSくらいのものだろう。 しかし、デイリーユース しても、新型ゴルフRに対してそのような気持ちを抱くこ も加味するなら、より幸せになれるのはゴルフRのほうだ。 とはないだろう。この最強のゴルフは、フォルクスワーゲ しかるべき道路や走行会においてはあらゆる類の楽しさ ンのクルマに期待される洗練性に、ベストなホットハッチら をもたらしてくれるクルマでありながら、日常の走りでは しい荒々しさとドライバーへのアピールを最高のバランス 自分と大切な人を快適に運んでくれる。洗練度と荒々しさ でブレンドした一台である。 の絶妙なブレンドという点で、このゴルフRはまぎれもなく 300ps近いパワーを持つ前輪駆動車でゴルフRより優 讃えられてしかるべき名車だ。 TOP FIVE 1st 3rd 2nd JOBS FOR THE FACELIFT ●マイナーチェンジ時に望むこと ・DSGのセレクターレバーはシフトアッ プとシフトダウンの方向を入れ替えて ほしい。 ・全般的な乗り心地をもっとしなやかに してほしい。 ・エンジンサウンドをもっと魅力的にし てほしい。 4th 5th RENAULT VOLKSWAGEN FORD BMW SEAT ルノー メガーヌR.S. フォルクスワーゲン ゴルフR 3ドア フォード フォーカスST-3 BMW M135i セアト レオン・クプラSC 車両価格 最高出力 最大トルク 0-97km/h加速 最高速度 燃料消費率 (混合) 車両重量 (公称値) CO₂排出量 396.0万円 265ps/5500rpm 36.7kgm/3000rpm 6.9秒 255km/h 12.2km/ℓ 1430kg 190g/km 529.8万円 (5ドア) 300ps/5500-6200rpm 38.7kgm/1800-5500rpm 4.8秒 250km/h (リミッター) 14.5km/ℓ 1495kg 149g/km 邦貨換算約380万円 250ps/5500rpm 36.6kgm/1750-4400rpm 6.3秒 248km/h 13.9km/ℓ 1437kg 169g/km 566.0万円 320ps/5800rpm 45.9kgm/1300-4500rpm 5.5秒 250km/h (リミッター) 13.3km/ℓ 1540kg 175g/km 邦貨換算約420万円 280ps/5350-6600rpm 35.7kgm/1750-5300rpm 5.9秒 250km/h (リミッター) 15.2km/ℓ 1441kg 149g/km われわれは こう考える ゴルフRよりもパワーは低いが、 ドラ イビングの楽しさという点では依然 として王者だ。 上品で楽しい。 しかし、偉大なるメ ここでは多少場違いな印象ながら、 後輪駆動のメリットはある。 しかし、 ゴルフGTIが比較対象であれば、 わ ガーヌによって、 クラストップの座に オールラウンドという点ではゴルフR シャシーがゴルフRほどには研ぎ澄 れわれならこちらを選ぶ。 だが、 相手 就くことは阻まれた。 を脅かす。 まされていない。 がゴルフRとなれば話は別だ。 結論 ★★★★★★★★★☆ ★★★★★★★★★☆ Mégane R. S. Golf R 3dr Focus ST-3 ★★★★★★★★☆☆ M135i ★★★★★★★★☆☆ Leon Cupra SC ★★★★★★★★☆☆ www.autocar.jp 111
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