試験問題に登場する励ましの言葉をかけるキャラクター 画像が

試験問題に登場する励ましの言葉をかけるキャラクター
画像が受験者に及ぼす影響に関する検討
Study about influence of characters inserted in test papers that
encourage examinees on their performance
加藤 尚吾*
加藤 由樹**
赤堀 侃司***
Shogo Kato*
Yuuki Kato**
Kanji Akahori***
東京女子大学現代教養学部/教育テスト研究センター*
東京福祉大学教育学部/教育テスト研究センター**
白鴎大学教育学部/教育テスト研究センター ***
School of Arts and Sciences, Tokyo Woman's Christian University
/ Center for Research on Educational Testing (CRET)*
School of Education, Tokyo University of Social Welfare
/ Center for Research on Educational Testing (CRET)**
Faculty of Education, Hakuoh University
/ Center for Research on Educational Testing (CRET)***
<あらまし> コンピュータベースの試験(CBT)では,試験問題の提示や解答方法の制
約が,紙ベースの試験に比べて小さいといえる.例えば,画像や動画を用いることもでき
る.本研究は,その効果を検討するための第一段階として行われた.試験の始めや途中で
人物画像等から発せられる励ましの言葉を挿入することで,受験者の緊張を和らげ,リラ
ックスして試験を受けられるのか,あるいは逆にネガティブな影響があるのか,さらに課
題の遂行に影響があるのか,紙ベースの実験を実施して検討した.その結果,人物画像に
よる励ましの挿入は,課題の成績や受験者の感情に悪影響を与える可能性が示された.
<キーワード>
コンピュータベースの試験 (CBT)
1. はじめに
キャラクター
励まし
イラスト
わち,試験中の緊張を軽減しリラックスする
コンピュータベースの試験(CBT)が,今
ためのアイデアとして,問題の途中でキャラ
後さまざまな場面で導入されると考えられる.
クター画像が現れて励ましなどの声掛けをす
現在,教育テスト研究センター(CRET)で
ることの効果を検討したいと考えた.
は,CBT に関してさまざまな角度から研究を
本稿では,その効果を検討するための第一
行っている.その中で,本研究は,試験中の
段階の実験結果を報告する.この実験では,
緊張やリラックスに関する検討を報告する.
紙ベースの試験問題の始めや途中に,人物画
一般的に,受験者の多くは,試験中に緊張
像などから発せられる励ましの言葉を提示す
や疲労を生じていると考えられる.それは,
ることで,受験者の緊張を軽減し,リラック
紙ベースの試験でも CBT でも同様であろう.
スして試験を受けることができるのか,ある
しかし,CBT には,紙ベースの試験では困難
いはその逆に,ネガティブな影響があるのか
であった技術を,緊張を軽減するために組み
を調べた.さらに,画像を用いることによっ
込むことができる.例えば,試験問題の中に
て課題の遂行に影響があるのかも調べた.
画像や動画を適宜表示することが可能である.
最近,難解な理論などを漫画で学習できる
2. 目的
さまざまな教材が書店に並んでいる.これら
本研究では,十分な時間が与えられれば正
の教材は学習場面で用いるものであるが,本
答できる,単純ではあるが単調で面倒でイラ
研究では,キャラクター画像を試験問題に用
イラするような試験問題を準備し,被験者に
いることの効果を検討するものである.すな
解答を求める実験を行った.なお,この試験
問題の始まりや途中で現れる励ましの言葉の
本実験の課題は,簡単な足し算 10 つで構
提示に関して,表 1 に示した 4 つの条件を設
成された計算問題(例えば,「175
+ 97 +
定し,影響について検討した.
753 + 86 + 924」)に関する小問題 5 題
と,500 文字の無意味綴り(例えば,「・・・
表1
本実験で検討した条件
どげした。ならずか、のかゃちぼうぎゃくじ
男子が励ましの言葉を発するイラストを用
のうお・・・」)の書き写しに関する小問題 5
いる条件(以下,「男子条件」と略す)
題を行うものであった.
女子が励ましの言葉を発するイラストを用
いる条件(以下,「女子条件」と略す)
3.5. 実験の手続き
鉛筆が励ましの言葉を発するイラストを用
の計算問題と 5 題の書き写し問題が交互に配
いる条件(以下,「鉛筆条件」と略す)
置された試験問題の冊子を,被験者に配付し
キャラクターのイラストがなく,励ましの言
た.実験の説明に続いて,被験者は 10 題の
葉のみを用いる条件(以下,「キャラクター
問題を解いた.なお,各小問題に 5 分間の制
なし条件」と略す)
限時間を設けた.また,各小問題の前に 1 分
図 1 に,本実験の流れを示す.まず,5 題
間の休憩を設け,この時間に,励ましの言葉
を読めるように,励ましの言葉のページを課
3. 方法
題の冊子に差し込んだ.なお,被験者は,実
3.1. 被験者
験者の合図があるまで,問題冊子の先のペー
本実験の被験者は,リクルート会社によっ
て集められた 44 名の大学生(男性 21 名,女
性 23 名)であった.被験者は,上述の 4 条
件に従い,各 11 名の 4 群に分けられた.す
なわち,4 群は,
「男子条件群」,
「女子条件群」,
「鉛筆条件群」,そして「キャラクターなし条
件群」であった.
3.2. 実験で用いた励ましの言葉
全ての群で,それぞれ 10 回の励ましの言
葉を,課題の始まりと課題の間に挿入した.
すなわち,この実験の試験問題は,10 の小問
題から成り,それぞれの前に励ましの言葉を
入れた.10 回の励ましの言葉を表 2 に示す.
3.3. 実験で用いたキャラクターのイラスト
本実験では,3 条件において,それぞれキ
ャラクターを用いた.使用したキャラクター
のイラストの例を表 3 に示す.なお,それぞ
れの条件で用いられたイラストは,同じキャ
ラクター(例えば,男子)ではあるが,上述
のように励ましの言葉の記述が 10 回あるた
め,表情などの異なる 10 種類を用意した.
3.4. 実験で用いた課題
ジを開くことを禁じられた.
表2
本実験で用いた励ましの言葉
初めは,計算問題です.落ち着いてがんばっ
てください.
2 つ目は,文を正確に書き写す問題です.慎
重にがんばってください.
3 つ目は,再び計算問題です.頭を切り替え
てがんばってください.
4 つ目は,再び文を正確に書き写す問題です.
丁寧にがんばってください.
5 つ目は,計算問題です.折り返し地点です.
がんばってください.
6 つ目は,文章を正確に書き写す問題です.
折り返し地点を過ぎました.がんばってくだ
さい.
7 つ目は,計算問題です.手を抜かず,がん
ばってください.
8 つ目は,文章を正確に書き写す問題です.
ミスをしないようにがんばってください.
9 つ目は,計算問題です.計算問題はこれで
終わりです.最後までがんばってください.
10 つ目は,文章を正確に書き写す問題です.
最後の問題です.最後までお疲れ様でした.
表3
キャラクターのイラストの例
について述べる.
男子
1)計算問題(解答数,正答数)
条件
2)書き写し問題(書き写しの文字数)
群
3)実験後の質問紙(5 段階評定,自由記述)
以下に,これらの分析結果を示す.
4.1. 計算問題の結果
女子
各群の計算問題の解答数を図 2 に,正答数
条件
を図 3 に示す.
群
結果から,全体的な傾向として,女子条件
群の解答数,正答数が,他の条件群に比べて
有意に少ないことが示された.
鉛筆
条件
群
*
10
8
4
1 分休(励ましの言葉 1)~
2
計算問題 1(5 分)~
0
*
9.51
8.71
8.16
6
開始(実験の説明)~
**
8.96
1 分休(励ましの言葉 2)~
書き写し問題1 (5 分)~
1 分休(励ましの言葉 3)~
計算問題 2 (5 分)~
1 分休(励ましの言葉 4)~
図2
書き写し問題 2 (5 分)~
各群の計算問題の解答数
(F(3,316)=5.62, p<0.01, LSD,
1 分休(励ましの言葉 5)~
**p<0.01, *p<0.05)
計算問題 3 (5 分)~
1 分休(励ましの言葉 6)~
書き写し問題 3 (5 分)~
10
1 分休(励ましの言葉 7)~
8
計算問題 4 (5 分)~
6
1 分休(励ましの言葉 8)~
4
書き写し問題 4 (5 分)~
2
1 分休(励ましの言葉 9)~
0
*
7.71
*
6.85
*
7.71
7.67
計算問題 5 (5 分)~
1 分休(励ましの言葉 10)~
書き写し問題 5 (5 分)~
実験後アンケート
終了
図1
本実験の流れ
4. 結果
本稿は,以下の 3 つに関して分析した結果
図3
各群の計算問題の正答数
(F(3,316)=2.15, p<0.10, LSD, *p<0.05)
4.2. 書き写し問題の結果
書き写し問題において,各群が書き写した
文字数を図 4 に示す.
表4
結果,女子条件群の書き写し文字数が,他
実験後アンケートの質問項目
1.試験への取り組みについて
の条件群に比べて有意に少ないことが示され
(質問 1-1) あなたは,どの程度真剣に,この試験
た.
に取り組みましたか.
(質問 1-2) あなたは,どの程度緊張感を持って,
350
300
250
200
150
100
50
0
**
**
318.65
303.42
この試験に取り組みましたか.
**
(質問 1-3) あなたにとって,この試験は,どの程
316.85
253.84
度イライラするものでしたか.
(質問 1-4) あなたは,この試験を,どの程度達成
できたと思いますか.
2.励ましの言葉(キャラクターのせりふ)
について
それぞれの問題の前に,励ましの言葉(キ
ャラクターの励まし)がありました.
(質問 2-1) あなたは,これらの励ましの言葉を,
図4
各群の書き写し問題の書き写し文字数
(F(3,316)=12.33, p<0.01, LSD, **p<0.01)
4.3. 実験後アンケートの結果
課題終了後に行ったアンケートの質問項
目を表 4 に示す.これらはすべて 5 段階評定
(1 まったく当てはまらない,5 とても当て
どの程度意識しましたか.
(質問 2-2) あなたは,これらの励ましの言葉によ
って,どの程度がんばろうと思いましたか.
(質問 2-3) あなたは,これらの励ましの言葉によ
って,どの程度リラックスできましたか.
表5
実験後アンケートの結果
はまる)で尋ねられた.アンケート結果を,
男 子
女 子
鉛 筆
キャラク
表 5,図 5 に示す.
条 件
条 件
条 件
ターなし
群
群
群
条件群
アンケート結果より次のことがわかった.
質問 1-1 より,女子条件群は,他の条件群に
質問 1-1
4.55
4.00
4.64
4.45
比べて,真剣に取り組めなかった.質問 1-2
質問 1-2
2.09
2.36
2.64
1.73
より,鉛筆条件群は,他の条件群に比べて緊
質問 1-3
2.55
2.36
2.18
2.64
張感を持って取り組めた.質問 1-3 より,鉛
質問 1-4
3.36
3.64
3.55
3.64
筆条件群は,他の条件群に比べてイライラし
質問 2-1
3.27
3.36
3.00
2.18
なかった.質問 2-1 より,イラスト(3 種す
質問 2-2
2.55
2.73
3.09
2.45
べて)があると,励ましの言葉を意識した.
質問 2-3
2.82
2.91
3.00
2.73
質問 2-2 より,鉛筆条件群は,他の条件群に
比べて頑張る気持ちになった.
自由記述のカテゴリー分類より,励ましの
また,励ましの言葉の挿入について,実験
言葉について否定的なコメントは多くなかっ
後アンケートの自由記述で尋ねた結果をカテ
た.どちらかというと,肯定的あるいは言及
ゴリー分類した.カテゴリーは,励ましの言
していないコメントが多かった.
葉に関すること,キャラクターに関すること
しかし,キャラクターについては,特に女
それぞれについて,
「肯定的なコメント」,
「否
子条件群に否定的なコメントが多くみられた.
定的なコメント」,「中立あるいは記述なし」
男子条件群も女子条件群に比べれば少ないが,
とした.コメントの分類の例を表 6 に示す.
否定的なコメントが目立つ結果であった.そ
また,それらの結果を表 7,図 6 に示す.
れに対して,鉛筆条件群は良くも悪くも特に
意識しないようであった.
表6
自由記述のコメントの例と分類
ってしまうなどの悪影響があるのではないか,
励ましの言葉に関して
ということが本実験の結果から考えられる.
肯定的
少しやる気が出ました
試験は学習に比べて緊張するし,その緊張を
否定的
イラッときてしまいました
維持しないといけないのが一般的である.す
キャラクターに関して
なわち,緊張感のない試験は考えにくい.緊
キャラクターの存在はとても有効だ
張を維持しなくてはならないときに,緊張を
った
和らげるような漫画イラストは,真剣に試験
神経を逆なでされている気がした
に臨んでいる受験者にとって不協和音を生じ
肯定的
否定的
させるのかもしれない.著者らのテキストコ
表7
実験後アンケートの自由記述の分類
ミュニケーションにおける顔文字と感情の強
男子条
女子条
鉛筆条
キャラ
さの研究においても,感情を強く感じるよう
件群
件群
件群
クター
なとき,すなわち強い怒りを感じているとき
(11 名)
(11 名)
(11 名)
なし条
や非常に罪悪を感じているときに,真剣さが
件群
表現できないなどの理由から顔文字を使わな
(11 名)
い傾向が示された (Kato et al. 2009).
励
キ
励
キ
励
キ
励
キ
したがって,学習場面において漫画などの
ま
ャ
ま
ャ
ま
ャ
ま
ャ
イラストを多用した教材が有効であったとし
し
ラ
し
ラ
し
ラ
し
ラ
ても,試験では決して同じことがいえないと
の
ク
の
ク
の
ク
の
ク
考えられる.また,リラックスが成績につな
言
タ
言
タ
言
タ
言
タ
がるという研究はあるが,試験は別なのかも
葉
ー
葉
ー
葉
ー
葉
ー
しれない.
肯定的
5
3
3
2
5
2
8
否定的
2
5
0
8
1
2
2
中立,記
4
3
8
1
5
7
1
述なし
6. まとめと課題
本研究では,紙ベースの試験問題の始めや
途中に,人物画像などから発せられる励まし
の言葉を提示することで,受験者の緊張を軽
5. 考察
最近は,難解な理論などを漫画で学習する
さまざまな教材が販売され,人気が高いよう
である.また,マニュアルにおいて挿絵を用
いることが,挿絵に関連するテキストの記憶
を促進することを示した研究がある (島田・
北島 2008).さらに,Web 上で漫画教材を作
るためのシステムの開発の研究もある
(Takeuchi et al. 2009).これらは学習場面に
焦点を当てている.本研究は,学習場面では
なく,試験場面に,漫画のようにキャラクタ
ー画像を用いることの効果を検討した.
その結果,試験のような緊張感のある場面
において,試験とは直接関係のない女子や男
子のキャラクターを用いることはポジティブ
な効果がないばかりではなく,受験者をイラ
イラさせたり,適度な緊張感が崩れ,気が散
減し,リラックスして試験を受けることがで
きるのか,あるいはその逆に,ネガティブな
影響があるのかを調べた.さらに,画像を用
いることによって課題の遂行に影響があるか
も調べた.なお,男子,女子,鉛筆が励まし
の言葉を発するイラストを用いる 3 つの条件,
およびキャラクターのイラストがなく,励ま
しの言葉のみを用いる条件の計 4 つの条件で
検討した.分析により,女子のキャラクター
の条件において,他の条件よりも課題の成績
が低かった.また,キャラクターがあること
は,励ましの言葉を意識させるが,特に女子
や男子のキャラクターから励ましの言葉を発
せられることは,受験者をイライラさせたり,
馬鹿にされている気持ちにさせるのではない
か,という結果が得られた.
しかし,これらの結果については,より多
くのサンプル数によって継続的に検討する必
states and emoticons in mobile phone
email communication in Japan.
International Journal on E-Learning,
8(3), pp. 385-401
島田英昭, 北島宗雄 (2008) 挿絵がマニュア
ルの理解を促進する認知プロセス-動機
づけ効果と精緻化効果-. 教育心理学研
究, 56:474-486
Takeuchi, T., Kato, S., Kato, Y. and Wakui,
要がある.また,使用する課題やキャラクタ
ーの種類,キャラクターの役割(例えば,問
題を読み上げる)によっても結果に違いが出
ることが予想される.さらに,キャラクター
やイラストとリラックスや緊張感,試験の成
績などの因果関係についても明らかにする必
要がある.今後も様々な角度からの検討が必
要であろう.
T. (2009) Manga-based beginner-level
text books; proposal of a website for
参考文献
their creation. Proceedings of
Kato, S., Kato, Y., & Scott, D. J. (2009)
Relationships between emotional
ED-MEDIA 2009, pp.3222-3227
5
男子条件群
女子条件群
鉛筆条件群
4
キャラクターなし条件群
3
2
1
質問1-1
質問1-2
質問1-3
質問1-4
質問2-1
質問2-2
質問2-3
図 5 実験後アンケートの結果
100%
中立、記述なし
90%
否定
80%
肯定
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
キャラクター
励ましの言葉
キャラクター
励ましの言葉
キャラクター
励ましの言葉
キャラクター
励ましの言葉
0%
(11名)
(11名)
(11名)
(11名)
男子条件群
女子条件群
鉛筆条件群
キャラクターなし条
件群
図 6 実験後アンケートの自由記述の分類