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動的内部統制論 ……………………………………………………………… 柴 田
英 樹
1
公共財の図形的理論:その算術的説明
………………………………………………………… 赤 城 国 臣
19
銀行貸出市場の寡占化と金融政策
―静学モデルによる分析―
………………………………………………………… 山 本 康 裕
25
海外直接投資関数の推計
………………………………………………………… 小谷田 文 彦
41
愛知県東海市のまちづくり指標 (∼2007年9月)
―自治体行政における社会指標型ベンチマーキングの活用―
………………………………………………………… 児 山 正 史
51
情報化社会における市民のプライバシー保護
∼労働者の私用メールに対する監視と不法行為責任を中心に∼
………………………………………………………… 日 野 辰 哉
77
法律行為による基本権制約の限界
………………………………………………………… 福 田 健太郎
91
「憲法学」 と 「政策学」 −研究者の任務は変化したのか?
………………………………………………………… 堀 内 健 志 109
………………………………………………………………………………………… 117
動的内部統制論
柴
田
英
樹
はじめに
第一章 2つの内部統制論
第二章 内部統制概念の変遷
第三章 静的内部統制論の意義と限界
第四章 動的内部統制論の意義と拡張
まとめとして
現代は 「内部統制の時代」 と呼ばれている。 内部統制は会計監査の見地から従来も重視されてい
たが、 現在のように注目されてこなかった。 では何故、 最近、 このように内部統制が注目されるよ
うになったのだろうか。 その理由は、 内部統制報告制度が法制化1され、 上場企業に義務付けられ
るようになったからである。 また、 経営者の作成した内部統制報告書が単に報告されるだけでなく、
その記載内容が外部監査人により監査されるようになった点も内部統制が社会的に注目されるよう
になった要因といえよう。
内部統制は企業の自主性に委ねることが当然であるにもかかわらず、 その内部統制について実態
をまとめた内部統制報告書がどうして法制化されるようになったか、 また内部統制報告書制度の導
入によってどのように内部統制が見直されるようになったかを調査・研究することは非常に重要で
ある。 本稿ではそうした点を含め、 内部統制をどのような観点から考察するべきであるかについて
検討することにしたい。
内部統制は 「企業等の組織体にとっても効率的かつ効果的に組織が機能するために必要な仕組み
ないしはプロセス」 である。 内部統制は経営者によって構築されたシステムであり、 経営管理シス
テムと密接不可分の関係にある。 内部統制概念がわかりにくい理由は、 経営管理システムと切り離
すことが難しいことが一因として挙げられよう。 また、 内部統制は外部監査人による会計監査にとっ
ても非常に重要な概念であり、 もし内部統制が存在し、 有効に運用されていなければ、 外部監査人
1金融商品取引法で内部統制報告制度が義務付けようになった
(第24条の4の4第1項)。
1
は試査2に基づく現在行なわれているような効率的な会計監査を実施することは不可能なことはい
うまでもない。 近代監査では企業の大規模化とともに内部統制システムが充実し、 これを基礎とし
て経営管理や会計監査が発達・進歩してきたことはいうまでもないが、 近年、 内部統制はますます
企業不正の防止の観点からその重要性が増大してきていることに注目する必要がある。 このように
内部統制の重要性が増大している理由は何故であるかについて明確に答えられる人は、 現代監査の
本質を習得している人であろう。
この答えは外部監査人が各企業等の組織体の内部統制を理解し、 それに依存しなければ、 不正を
許さない会計監査が立ち行かなくなるからである。 すなわち、 外部監査人にとって内部統制の有効
性の検証に会計監査の大半を要する事態になっているということである。 そしてこのような内部統
制への依存度は現代監査では78割に達してきているのである。 こうした内部統制への依存が会
計監査の大部分を占めるようになった理由は大きくは2つある。 1つは内部統制に依存しないで会
計監査を行うことは実質的に経済的にも、 物理的にも不可能なためである。 会計専門家である監査
人の人数には限界があり、 また監査人が投入することができる監査資源の1つである監査時間にも
物理的な限界がある。 実際に被監査企業にも多くの監査人が一度に監査に来られても対応すること
ができる担当経理マンの人数に限界があり、 さらには監査を行う場所 (会議室や応接室など) にも
限界があるという事情もある。 こうした様々な限界がありながらも会計監査を有効に遂行するため
には、 内部統制の信頼性にかなりの程度依存しなければならないのが現状である。 もう1つの理由
は会計監査の結果である監査報告書の提出を迅速に求められるようになってきているからである。
監査の結果をまとめた監査報告書の提出時期が早まれば、 当然、 その前に監査を終了していなけれ
ばならない。 そのためにはすべての事項を詳細に監査するのではなく、 効率的な監査の実施が必要
となり、 重要な虚偽表示のリスクのある勘定科目などを重点的に監査するリスク・アプローチにな
らざるを得ない。 そして重要な虚偽表示のリスクの監査を有効に行うためには内部統制の信頼性に
依存しなければならなくなる。
内部統制は企業等の組織体にとって必要欠くべからざるものである。 ここで内部統制とは何かに
ついてもう一度考えてみたい。 「内部」 とは、 その言葉の通り、 企業等の組織体の内部のことであ
る。 企業等の組織体の内部の体制がその組織の目的を実現とする方向にしっかりと維持・運営され
ていなければ、 その組織体は誤った方向に進んでいってしまう可能性がある。 次に 「統制」 とは、
企業等の業務が無秩序に行われるのではなく、 組織が定めたルールに従って従業員が行動すること
を意味している。 そこで組織体として企業の通常の業務が問題なく、 その企業の目的とする正しい
2正式には試験的照査といわれる。
全部の項目を検証するのではなく、 一部の項目を母集団から抽出し、 その妥当性
を検証することにより、 母集団全体の適切性を判断する手法である。
2
方向に向かって進んでいるかに関して経営者自らがチェック体制を充実させ、 その状況を検討する
ことが必要である。 なぜならば、 企業等の組織体の内部統制がしっかりと整備され、 適切に運営さ
れていなければ、 企業等の組織体に生ずる業務上の問題が顕在化ないし潜在化してしまい、 それら
の問題点やリスクを改善ないし改良することが困難であるばかりか、 組織体自体が時には一度に重
要な虚偽表示のリスクに曝されたり、 またある時は徐々に組織を浸食し、 崩壊することにもなりか
ねないのである。 つまり、 「内部統制」 とは、 企業等の組織体の内部の体制がその組織の目的を達
成するために、 組織内での構成員である従業員に課したルールであり、 その社内ルールの遵守状況
や有効性を検証する組織体制のことであり、 さらにはその検証プロセスをも包含した仕組みをいう。
経営者に内部統制の状況を十分にチェックする時間がないという問題点は、 経営者がスタッフ組
織である内部監査を充実させることにより回避することは可能である。 ところが、 こうした内部監
査の充実は直接的に企業の収益の増大や経費の削減とは結び付かず、 むしろ間接的な経費が嵩むこ
とがあるために、 従来は重視されず、 ないがしろにされてきた側面がある。
内部統制をコントロールする責任があるのは経営者であり、 業務上のリスクが存在する場合にお
いて経営者はそのリスクが存在している事実に早期に気づき、 適切な対応を迅速にとれば、 業務上
のリスクが大きく拡大し、 企業が危機に直面していくことを防ぐことが出来る。 しかし、 現状とし
て経営者は四六時中内部統制の状況だけをチェックしているわけではなく、 多忙な経営者の時間の
うちでかなりの少量の時間がこうした内部統制の状況を調査する時間として割かれているに過ぎな
い。 経営者が消費する他の多くの時間は、 経営上の戦略的な意思決定などの経営判断に使用されて
いると指摘できよう。
内部統制概念はここ最近で大きく見直され、 概念的に大きく拡張してきている。 従来は内部統制
の概念の中に入っていなかったような概念も内部統制の中に組み込まれてきている。 その例として
は社長等の経営者の姿勢、 資質あるいは経営方針などが挙げられる。 これを統制環境3という。 統
制環境は、 組織体の気風を決定し、 組織体を構成する人々の統制に対する意識に影響を与える。 そ
れは内部統制の他のすべての構成要素の基礎をなすとともに、 規律と構造を提供する4。
この章ではこうした内部統制概念の大幅な拡張を取り上げる前に、 内部統制の基本的な考え方が
2つに分別されることについて検討していきたい (内部統制概念の拡張に関しては第四章で取り上
げる)。 内部統制に対する2つの基本的な考え方とは、 1つは静的に内部統制を見る見方である。
もう1つは動的に内部統制を見る見方である。 そこで前者を静的内部統制論と呼び、 後者を動的内
部統制論と呼ぶことにする (図表1−1を参照のこと)。
静的内部統制論とは、 内部統制組織を構築し、 さらに企業等の組織体の内部ルールを厳密に作成
し、 文書化することに主眼をおく考え方である。 一方、 動的内部統制論とは、 企業等の組織体のルー
3従来は内部統制の構成要素として考えていなかったが、最近では内部統制の構成要素の1つであると考えられている。
4松井[2005]、
29頁。
3
ルを文書化したものが有効にルール通りに従業員によって運用されているかに主眼をおく考え方で
ある。 このように定義すると、 前者は内部統制の整備論であり、 後者は内部統制の運用論とみられ
るかもしれないがそうではない。 より厳密な定義については後述する。 もちろんこれらの両者とも
必要であることはいうまでもない。 しかし、 企業等の内部統制が有効に運用されていると見える場
合であっても、 企業等において内部ルールが適切に文書化されているかといえば、 そうでないケー
スが少なくない。
特に日本企業は暗黙のルールなどで業務が遂行されていることが多い。 重要な事柄であってもい
ちいち文書化せずに口頭で伝えたりする日本的な文化が存在しているのである。 こうしたケースに
おいて内部統制の整備状況と運用状況の両者の検証が必要であるといってみたところでそれほど意
味はない。 まず文書化されていない重要なルールを分類・整理し、 社内ルールの文書化を優先する
ことが何よりも重要と考えられるからである。
一方、 アングロ・サクソン企業では日本企業以上に契約社会を前提にして業務を遂行しており、
社内ルールの文書化も進んでいる。 ただ、 社内ルールの文書化が進んでいることとその運用状況が
従業員の業務の遂行上で有効に機能していることとは別ものである。 社内ルールの文書化が進んで
いることをもって、 内部統制の運用状況が優れており、 社内ルールに従った運用状況の検証も十分
に行われているかといえば、 そうとはいいきれない。 つまり、 形式面での内部統制に関しては、 日
本よりも以前に株式会社制度が発達してきたアングロ・サクソン企業に長幼の序があるに過ぎない。
また、 アングロ・サクソンの文化には、 日本と比べて契約社会が根付いており、 他者との関係にお
いて文書化の必要性や重要性が十分に認識されている (図表1−2を参照のこと)。
静的内部統制においても、 社内の業務ルールの整備状況の他にルールの運用状況についても検証
を行う。 しかし、 内部統制の運用状況のチェックといってもその運用結果をチェックすることに重
点がある。 一方、 動的内部統制とは、 プロセスを重視して業務ルールの運用状況が効率的かつ効果
的に遂行されているかを検証する仕組みであるといえよう。 結果よりもプロセスを重視することか
ら 「動的」 という言葉を使用することにしたのである。 動的内部統制論はプロセス思考内部統制論
である。 現在は、 監査ばかりでなく、 5の認証取得においてもプロセス思考が重視されてきて
いる。 しかし、 内部統制に関して法や
法6ではいまだ結果に重点がおかれている点につ
いてその問題点を指摘せざるを得ない (金融商品取引法の中の
法に関しては図表1−3を参
照のこと)。 ただ、 内部統制の基本的構成要素としてモニタリングが入っている点で、 プロセス思
考を無視している訳ではないことは明確である。 モニタリングとは、 常時監視という意味である。
モニタリングは次の2つの側面がある。 1つは業務プロセスを継続的に監視することにより異常事
態を発見する役割である。 もう1つは常時カメラ等の機器で磁気的に記憶しておき、 問題となる事
象が発生した場合に、 その時間帯の行動記録等を詳細に検証して、 その事態が誰により、 何故発生
5ここでいう
とは国際標準化機構
(
) によって公表されているシステ
ム規格を意味する。 具体的には、 品質管理規格 (
9000シリーズ) や環境管理規格 (
14000シリーズ) などがあ
る。
6金融商品取引法の中で
法は内部統制報告書制度として取り入れられている (川村[2007]、 28頁)。
4
したしたか等を事後的に調査することが可能になるようにすることである。
5
!
内部統制概念は大きく分ければ、 経営統制と会計統制とに分けられる。 経営の観点から重視され
るのは、 経営統制の方である。 また、 会計監査の観点からは、 当然に会計統制が重視される。
内部統制は企業等の組織体の業務を効率的かつ効果的に遂行するために経営者によって構築され
た仕組みであるから、 もともとは経営統制に重点がおかれていたと考えられる。 しかし、 会計監査
の面が重視されてくるにつれて、 会計統制の側面から内部統制を再構築することが必要となってき
ている。
内部統制の重要性に関しては50年近く前から会計監査において認識されてきた7。 マウツ&シャ
ラフは1961年に出版した著書“
”で 「内部統制は人間である」 としてい
る8。 しかし、 現在は何も人間が関与していなくてもコンピュータにより内部統制を運用状況を検
証することは可能である。 ただ、 このようなコンピュータ・システムを作るのは人間であるから、
「内部統制は人間である」 というマウツ&シャラフの考え方は最終的に正しい答えである。
そこで内部統制概念が現在までどのような変遷を辿ってきたかを検討することにより、 最もふさ
7マウツ&シャラフは、
監査理論の構造
いる (近澤[1987]、 200頁)。
8
[1961]、 145
6
において、 内部統制の監査に関する監査報告書の公表について言及して
わしい現代の内部統制観は何かを解明することにしたい。
(
:連邦準備委員会) の要請に基づき
(
:米国会計士協会、 現在のアメリカ公認会計士協会
の前身) が1917年に公表した
統一会計
は、 内部統制を内部牽制システムとして認識していた9。
は、 1929年に公表した
財務諸表の検証
において、 「内部牽制システムとは会計システム
であり、 監査人は、 内部牽制の有効性を確かめるために、 会計システムの基本的な重要事項を付随
的に検証する」 と定義した10。
さらに
は、 1936年に公表した
独立公監査人による財務諸表の検査
において、 「内部統制
は、 内部牽制と統制システムから成る」 と定義した。 は、 その3年後の1939年に、 監査基準書
第1号 監査手続きの拡張 を公表した。 そして従来の 「内部牽制および統制システム」 という用
語を 「内部統制システム (
)」 に変更した11。
(
:アメリカ公認会計士協会) は、
1949年に公表した特別報告書 内部統制−調整された組織の諸要素ならびに経営者および独立公会
計士にとっての重要性 において、 次のように定義した12。
内部統制は、 資産の保全、 会計データの正確性および信頼性の点検、 業務効率の増進、 経営
方針の遵守を促進するために企業内部で採用されている組織計画ならびに調整のためにすべて
の方法および手段で構成される。
経営者は、 これらの諸要素を整備し、 定期的に点検し、 欠陥を是正する責任を負っている。
当該特別報告書は、 「資産の保全」 および 「会計データの正確性と信頼性」 という従来の内部統
制の概念である会計的領域に関する管理制度に 「業務効率の増進」 および 「経営方針の遵守」 とい
う業務管理面を加えて内部統制の概念を大きく拡大した13。
この調査報告書は内部統制を広義に定義するとともに、 財務諸表監査において、 公認会計士が関
与する内部統制の領域を明らかにした14。
9川村[2007]、
33頁。
33頁。
11川村[2007]、 34頁。
12実際に
から
になったのは、 1957年6月であるが、 一般に1949年の特別報告書は
によって作成され
たということが多い。 日下部[1969]、 80頁、 173頁。 近澤[1987]、 188頁。
13川村[2007]、 34頁。 日下部[1969]、 173頁。
14鳥羽[2005]、 25頁。
10川村[2007]、
7
は、 1958年11月に公表した監査手続書第29号
独立監査人の内部統制
において、 「内部
統制は、 経営管理の手段であり、 会計的機能および経営的機能を有している」 と定義した15。
内部統制の領域における制度上の最大のメルクマールは、 1977年12月の法 (海外不正行為防
止法) の制定である16。 その制定の背景には、 ウォーターゲート事件を契機として、 企業による政
治に関する不正支払が大きな社会問題化していたという社会的状況がある。
法は1934年証券取引所法の適用を受ける公開会社およびその経営者に対して外国の政府、 公
務員、 政党職員への贈賄行為を禁止しただけでなく、 規制下にある企業に対して、 記帳とそれ
に対する内部統制システムの整備・運用を義務づけた17。 こうして内部統制の整備・運用が法定さ
れることになったのである。
静的内部統制の意義としては、 内部統制を時点で捉えるので分析が容易であることが挙げられる。
そして詳細に検証することが可能になるメリットがある。 ある特定の時点の監査に合致しているの
は情報の監査18である。 もちろん実態の監査19によって時点監査ができない訳ではないが、 外部監査
人が決算日において種々の業務の局面を監査するのは不可能である。
内部統制は有効に機能していることは経営者にとって必要であるばかりか、 外部監査人にとって
も重要なことである。 なぜなら、 外部監査人は内部統制が有効であるほど、 それだけ多く内部統制
の信頼性に依存することができるからである。
従来から内部統制の整備状況や内部統制の運用状況について外部監査人はその信頼性や有効性を
チェックすることが必要とされ、 実際に内部統制の信頼性や有効性の検証を実施してきた。 まず外
部監査人は内部統制の整備状況、 すなわち経営者が社内ルールを明確な形で文書化し、 内部統制が
有効に機能するような組織体制づくりを行っているかを検証しなければならない。 次に、 外部監査
人は内部統制の運用状況のチェックとして文書化された社内ルールが有効に運用されていることを
確かめることが必要である。 このようにいうと内部統制の整備・運用状況の検証は外部監査人が行
うべき業務であるようだが、 これには前提がある。 つまり、 内部統制の整備状況に関しても、 ある
いは内部統制の運用状況に関しても経営者が第一義的に検証することが必要であるということであ
る。 外部監査人は経営者の検証した内部統制の整備・運用状況に関する内部統制報告書を評価する
15川村[2007]、
34∼35頁。
16町田[2004]、
173∼174頁。
17町田[2004]、
173∼174頁。 川村[2007]、 36頁。
18経済実態を表した会計情報等の経営情報の適切性を検証することをいう。
19経済実態そのものが適切に機能しているかどうかを検証することをいう。
8
責任がある。 すなわち、 経営者がまとめた結果としての内部統制報告書の検証の義務がある。 この
検証に際して法のように実態の監査を要求している場合と
法のように情報の監査のみを
要求している場合とがある。 結果としてまとめた内部統制報告書の監査であるためどうしても静態
的にならざるを得ない。 また、 「内部統制の検証が決算日で行う必要がある20」 ことも内部統制が静
態的となる根拠となろう。
会計監査にとっての一番の使命は、 企業等の組織体が公表する財務諸表が適正に表示されている
かどうかについて外部監査人が批判的に意見を表明することであると言われてきた。 すなわち、 財
務諸表に対する適否の意見表明が外部監査人の主たる目的とされてきたのである。 そして財務諸表
の虚偽表示を外部監査人が明らかにすることは副次的な目的であると言われてきた。 このような考
え方が大きく変化した一番の原因は、 エンロン事件21の影響であるといわなければならない。
静的内部統制の限界は、 内部統制の整備状況や運用状況を結果の側面から見るために、 プロセス
上の問題点やリスクを見過ごす可能性が高いことである。 これは静的内部統制が決算日時点での業
務プロセスの結果を重視しているものの途中経過をそれほど重視していないことからくる限界であ
る。 つまり、 現在では財務諸表への適否の意見表明と財務諸表に与える不正摘発とは主たる監査目
的として考えられている。
また、 経営者は内部統制に対して大きな支配力ないしは影響力があるために結果を模糊したり、
偽装することが可能である。 つまり、 企業の財務内容を表した結果である財務諸表が経営者により
粉飾されると同様に、 内部統制も結果を模糊ないし偽装される危険性が残っているのである。 内部
統制監査は財務諸表監査と時期が重なり、 効率的に監査が困難である。
内部統制報告書を作成する際に経営者が留意する必要がある業務は財務報告に係る内部統制の評
価及び監査に関する実施基準によると次の3つである。
①購買システム (仕入と買掛金管理)
②販売システム (売上と売掛金管理)
③在庫システム (在庫の入庫・出庫と残高管理)
これらの3つの業務プロセスに関して経営者が内部統制を構築し、 従業員により効率的かつ効果
的に内部統制が運用されているかどうかの状況を評価し、 内部統制報告書に記載する必要がある。
これらの業務システムは財務報告においても重要な勘定科目 (仕入れ、 買掛金、 売掛金、 商品勘
定) であることはいうまでもない。
これら3つ以外にも重要な業務プロセスがあるにもかかわらず、 3つの業務プロセスに焦点が当
てられているため、 静的内部統制には限界がある。 従来の内部統制の信頼性の検証においては、 こ
20
法である金融商品取引法第193条の2第2項。
212001年12月に倒産した全米第7位の売上高を誇る大手エネルギー会社エンロンは様々な手法を用いて、
粉飾決算を
行っていた。 また、 経営者だけでなく、 監査法人や弁護士事務所もこの巨額の不正に加担していた。 柴田[2002]、
113∼117頁。 柴田[2007]、 141∼156頁。
9
れら3つの業務プロセス以外の現金預金、 固定資産、 給与などにいついても検証を行っていた。
エンロン事件の結果、 内部統制の位置づけが大きく変化した。 その変化はどのように見るべきだ
ろうか。 会計監査ではエンロン事件以前も内部統制の重要性は認識されていた。 エンロン事件後に
大規模な企業不正が二度と起こらないように米国では法22が導入され、 内部統制の監査が外部
監査で義務付けられるようになった。 これにより従来の内部統制の位置づけがどのように変化した
のだろうか。
従来においては、 外部監査人が内部統制を監査していたといっても、 その内部統制の検証結果の
適正性を外部に公表することはなかった。 内部統制の信頼性が低い場合には、 外部監査人は試査の
範囲を拡大することにより財務諸表の信頼性の監査を実施してきたのである。 しかし、 法によ
り外部監査人が内部統制の監査を通常の監査報告書とは別に内部統制監査報告書の形で公表するこ
とが必要になった。 これは重要かつ大きな変化である。 つまり、 従来であれば、 内部統制がしっか
りと整備・運用されていなくても外部監査人はそのことを特段取り上げて監査報告書上で指摘する
ことはなかったのである。 ところが法以後は内部統制の監査が義務付けられたことにより、 内
部統制の整備・運用状況に問題があれば外部監査人は新たに公表が義務付けられた内部統制報告書
22サーベンス・オクスリー法の略であり、
10
2002年7月にブッシュ大統領が調印した企業改革法のことである。
に経営者により記載された内部統制の状況が適正に記載されているかについての監査意見を監査上
指摘することになった23。
こうした内部統制に関する問題点を外部監査人に指摘されないために、 経営者は積極的に内部統
制を整備し、 有効に運用し、 内部統制報告書に適切に記載することが必要になったのである。
経営者が内部統制として考えている領域と外部監査人が内部統制として考えている領域には大き
な差異がある。 もちろん経営者が内部統制と考えている領域が本来の内部統制の領域といえるもの
である。 では監査人は経営者の考える領域と何故違うものを内部統制と考える必要があるのだろう
か。 1つは経営者の内部統制に対する期待と監査人の内部統制に対する期待とが異なっていること
が挙げられよう。 経営者はあくまでも企業の経営が効率的にかつ効果的に行われるように内部統制
を利用するのである。 それに付随して法令への遵守や財務報告の信頼性の確保が行なわれるに過ぎ
ない。 一方、 監査人は企業の経営を財務数値に写し出した財務諸表が適正に表示されているかを判
断するために内部統制を利用するのである。
議論をより具体的にするためにレポート24 における内部統制の定義から考えてみよう。
レポートでは内部統制を 「経営業務の有効性及び効率性の向上、 事業活動に関わる法令等の
遵守、 財務報告の信頼性の確保のために、 合理的な保証を提供することを意図した、 事業体の
取締役会、 経営者およびその他の構成員によって遂行されるプロセスである」 と定義してい
る25。 これは経営者から見た内部統制の定義である。 監査人から見た定義では 「財務報告の信頼性
の確保を目的としたプロセス」 である。 監査人にとって経営の効率性及び有効性や法令の遵守は財
務諸表の信頼性の観点からだけ見るに過ぎない。 このように監査人にとって内部統制はあくまでも
財務諸表の適正性の観点から勘案されたものである。
そしてもう1つの両者の内部統制についての相違は決定的に異なる点がある。 経営者の姿勢とい
うような通常は経営者が内部統制の範囲としては考えていないものを監査人は自らが勘案しなけれ
ばならない内部統制の領域に入れていることである。 経営者の姿勢は経営者にとって内部統制の範
囲に入らないことは当然である。 内部統制システムは企業の経営が効率的かつ効果的に行われるこ
とができるために経営者自身が構築した仕組みであり、 そこに経営者の姿勢は入りようがないから
である。 ところが監査人の観点からは内部統制が有効に機能しているかどうかが重要であり、 こう
したことを判断する材料として、 内部統制システムそのものを検証の対象にするだけではなく、 内
部統制を取り巻く状況も重要な判断材料になる。 そこで米国監査基準書 ()26 はこのような経
営者の姿勢、 資質や経営方針など内部統制を取り巻く状況を統制環境と名付け、 監査人が勘案しな
23 金融商品取引法で経営者の作成した内部統制報告書を公認会計士または監査法人が監査することが制度化された
(第193条の2第2項)。
24アメリカにおいて、
1992年と1994年に公表された、 不正な財務報告をなくすために設けられたトレッドウェイ委員
会の支援組織委員会が作成したレポートである。 町田[2004]、 135頁。
25
レポートは、
鳥羽・八田・高田[1996]で翻訳され、 内部統制の定義は17∼18頁で記載されている。
11
ければならない内部統制の領域に加えたのである。
すなわち、 会計監査の立場からは内部統制の領域が財務報告に関しては広く考えられている。 こ
れはあくまでも監査人にとって内部統制の枠内に経営者の姿勢を入れた方が内部統制自体を理解し
やすいからである。 言い換えれば、 内部統制は経営者の思想や考え方そのものが制度化されたもの
であり、 外部監査人にとって経営者の姿勢や考え方が理解できなければ内部統制を理解することが
困難である。 したがって、 経営者自身が内部統制を検討する際において経営者自身の姿勢が内部統
制に入っていなくても問題はない。 むしろ経営者が自身の姿勢を自己監査することになっていれば
そのこと自体に問題があるといえよう。
動的内部統制の意義は、 業務プロセスを効率的かつ効果的に検証することである。 内部統制には、
静的側面と動的側面の両方があるが、 動的内部統制論は動的側面を重視する考え方である。 何故、
動的側面を重視するかといえば、 内部統制は動的側面を見なければその全貌を解明することができ
ないからである。 そのためには実態の監査を実施することが必要である。 もちろん内部監査人は実
態の監査を実施しているが、 外部監査人も実態の監査を実施する必要がある。
従来の財務諸表監査では外部監査人に内部統制に関する何ら監査も義務付けていなかった。 しか
し、 現代では企業が大規模化したこともあり、 外部監査人が精密監査 (精査27) を行なうことは実
際上、 不可能である。 したがって、 内部統制の信頼性に依存した試査に基づいた会計監査を行なっ
てきた。 内部統制の信頼性の検証に際しては、 外部監査人は情報の監査だけでなく、 実態の監査を
行なってきた。
ところが米国の法においては、 外部監査人は情報の監査と実態の監査を従来どおり行なうこ
とになったが、 日本の
法では状況が一変した。 これは二重責任の原則を厳格に解釈し、 外部
監査人が実態の監査を行なうことを禁止し、 情報の監査のみしか行なわないことにしたためである。
これは財務諸表監査や継続企業の前提の監査と共通した考え方である。
エンロン事件で監査が厳しくなったにかかわらず、 日本では監査が縮小されたということは非常
に不思議な現象といわねばならない。 これは先にも述べたように二重責任の原則を守った結果であ
るが、 外部監査人が行なう監査は情報の監査のみとするのは形式的な考え方になりつつあることを
認識しなければならない。 内部統制を情報のみ、 すなわち経営者の作成した内部統制報告書のみを
監査対象とするのでは、 内部統制の全貌が検証できない危険性がある。 この点は
法の大きな
問題点である。
26
55
§319 は財務諸表の利用者である投資家の期待ギャップを縮小するために新しいを次々と
公表した。 55 財務諸表監査における内部統制構造の考察 における内部統制の概念の転換もその1つであ
る (1988年4月に
により公表)。 この監査基準書で、 従来の内部統制システムという用語を内部統制構造に変
更し、 次のように定義した。 「企業の内部構造は、 特定の企業目的の達成に関して合理的保証を提供するためにデザ
インされた方針および手続きで構造されており、 内部統制構造は、 統制環境、 会計システム、 統制手続という3つの
要素で構成されている。」
27監査項目をすべて詳細に検証することをいう。
12
プロセス重視で内部統制を検証するという動的内部統制観は、 結果重視で内部統制を検証する静
的内部統制観に比べて問題の対処が迅速に行いやすいという大きなメリットが存在する。 また、 動
的内部統制観はプロセスを重視するので経営者が恣意性を介入させている場合には、 経営者はその
事実を誤魔化すことが困難であるので、 その事実が明らかになる。 ここに静的内部統制と動的内部
統制の一番重要な相違がある。
最近、 内部統制概念はその概念を大きく拡張させている。 これは従来は内部統制は経営者に従属
していると考えられてきた。 現在もこれを明確な形で否定している訳ではないが、 内部統制の一部
として経営者も考えられてきているように思う。 これは法で経営者不正も内部統制で防止する
ことから推量することができる。 従来の考え方であれば内部統制機能を強化しても、 経営者不正は
防止できないと考えられてきた。 ところが法は経営者不正を防止する方策として内部統制を中
心に考えられている。 これは従来のような内部統制に対する考え方が大きく変わったことを意味し
ている。
内部統制の概念を拡張し、 経営者も内部統制を支配することが困難である形にしたことにより、
法の精神は生きてくるのである。 では内部統制を支配するのは誰であろうか。 これは取締役会
になると考えられる。 つまり、 経営者を監視する役割の取締役会が内部統制をコントロールするこ
とになるのである。 こうして従来以上に取締役会の機能が強化されることになったのである。 そこ
でコーポレート・ガバナンス (企業統治) はこれまで以上に重要性を増している。
13
本稿では、 内部統制を決算日時点でみる静的なタイプとプロセスの観点からみる動的なタイプの
2つの基本的な考え方に大別し、 内部統制の本質を解明するように試みてきた。 こうした筆者の意
図が十分に言及することができたかはわからないが、 内部統制を見る考え方はある程度示すことが
できたのではないかと考えている。
また、 静的内部統制論を重視している現状に対して、 動的内部統制論を展開する必要性を説いた。
このような考え方に対し、 異議を差し挟む論者もいるだろう。 その根拠としては次のようなことが
考えられる。 財務諸表の見方は、 企業の大規模化や投資家の増大により静態論28中心の考え方から
動態論29中心の考え方に変化してきた。 その意味では財務諸表に関する考え方に対して動態論を中
心に考えるのであれば、 それにふさわしい内部統制システムとは動的なタイプといえよう。
しかし、 現在は動態論的な考え方から投資家などの企業の外部利害関係者に対する利用者指向に
沿った情報提供という観点に進化し、 また旧来の静態論的な考え方とも異なる新静態論的な考え方
が主流になりつつある。 こうした現状を勘案すれば新静態論的な考え方に適合する内部統制システ
ムは静的なタイプではなかろうか。 それを動的なタイプが適合しているとするのは誤った見方であ
り、 理論構築を再検討する必要があるという批判である。
確かにこのような批判はある程度、 新静態論的な会計学の新潮流を見ながらも、 内部統制の本質
観を検討しており傾聴に値すると思う。 しかし、 国際的な会計の潮流が新静態論的な考え方になる
なら、 内部統制の考え方も同じように静的タイプの内部統制観が正しいとするのはあまりにも形式
的な判断に過ぎないのではなかろうか。
以上をまとめると次のようになる (図表5−1参照の事)。 静態論は貸借対照表中心の考え方で
あり、 これに対して動態論は損益計算書中心の考え方である。 投資家などの企業の外部利害関係者
にとっては企業に投資するかどうかの意思決定に際して企業の収益力を判断することができる損益
計算書が重視されてきたこともあり、 動態論が脚光を浴びるようになったのである。
ところが、 損益計算書は経営者の恣意性の介入により損益の金額が歪められる事が多くなり、 投資
家等の企業の外部利害関係者にとって投資意思決定の判断材料として必ずしも優れた会計情報とは
いえなくなってきた。 そしてこれまで取得原価主義会計を中心とする財務諸表の主役の座から降ろさ
れていた貸借対照表が再度、 脚光を浴びることになったのである。 この理由は貸借対照表が企業の価
値を表わしており、 貸借対照表情報の方が企業を買収するに際して有用な会計情報を提供できる点に
ある。 ただし、 これまでの貸借対照表は過去情報が中心であった点を改善することが必要である。 従
来のまま取得原価主義を金科玉条のようにして維持し続けることは最新情報の提供の見地から有用な
情報を企業が提供しているとはいえず、 取得原価主義会計では迅速な判断するために必要な情報とし
て投資家にはあまり役立たない。 そのため、 貸借対照表に時価会計情報を一部導入し、 有価証券等
28財産目録を中心とする考え方である。
貸借対照表を財産目録の様に使用する。
貸借対照表は当期の損益には関わらない残余が計上されており、 次期以降
に損益となるものが表された当期と次期とを結ぶ連結環として考える。
29損益計算書を中心とする考え方である。
14
における評価原則とすることにより、 貸借対照表は再び主役の座に復帰したのである。
こうした背景は内部統制の見方においても同様に静的内部統制が必要であるということには直接的
に結びつかない事柄である。
外部監査人は内部統制をどのように検証しているのだろうか。 この検証の方法には2つの方法があ
る。 1つは内部統制を間接的に検証する方法であり、 もう1つはそれを直接的に検証する方法である。
従来の内部統制の検証がどうだったかを考えてみよう。 外部監査人は内部統制を検証し、 内部統
制の実態の監査を行なっていた。 ところがJ
法では、 内部統制は間接的に検証することになっ
てしまった。 つまり、 経営者が内部統制の検証を行なった結果をまとめた内部統制報告書を検証す
ることになったのである。 これは二重責任の原則を死守するための措置ではあるが、 従来よりも後
退した形になってしまった感は否めない。
一方、 X法を最初に導入したアメリカでは、 ダイレクト・レポーティング30の実施がなされて
いる。 つまり、 外部監査人自らが内部統制の実態を監査するのである。 これは従来の会計監査と変
わらないため、 内部統制の監査が後退したことにはならない。 むしろ内部統制の監査結果を内部統
制監査報告書の形で公表することになったため、 監査が前進したと言えよう。 以上の点をまとめて
みると、 図表5−2のようになる。
30監査人が自ら財務報告財務報告に係る内部統制の有効性を評価して直接に意見を表明する
(川村[1997]、 78頁)。
15
今後の課題として日本の内部統制システムと欧米の内部統制システムの調査・研究を進めていき
たい。 特に日本では見える形でなくても内部統制システムが構築・運用されている場合がある。 こ
のようなことは外部から検証することが難しく、 今後は認められなくなるであろう。 日本の内部統
制システムの特殊性について十分に検討し、 あるべき方向を考察することが必要である。
欧米では見える形で内部統制システムが構築・運用されているが、 今後、 どのように欧米の内部
統制システムが進化していくかを検討することが必要である。 なぜならば、 日本の内部統制システ
ムの未来図を見ることができるからである。
これらの検討においては日本の内部統制システムと日本文化、 特に日本文化が多種な構造を有し、
それ故に特有の柔軟性を持つという認識31は重要ではないかと考えている。 また、 欧米の内部統制
システムと欧米文化、 特に欧米社会は多様な民族文化の存在を前提とした多文明社会であり、 多様
な価値体系の確立32との関係についても考察していくことを今後の課題としたい。
31佐々木[1997]、
25頁。
32佐々木[1997]、
325頁。
16
・
[1961] :
“
”
6
1961 (近澤[1987]:マウツ&シャラフ著、 近澤弘治監訳
監査理論の構造
中央経済社、 1987
年11月。)
・川村眞一
内部統制と内部監査
同文舘出版、 2007年6月。
・日下部[1969]:日下部與市
新会計監査詳説
・佐々木[1997]:佐々木高明
日本文化の多重構造
・柴田[2007]:柴田英樹
粉飾の監査風土
・柴田[2002]:柴田英樹
変革期の監査風土
中央経済社、 1969年2月。
小学館、 1997年3月。
プログレス、 2007年7月。
プログレス、 2002年12月。
・鳥羽・八田・高田[1996]:鳥羽至英・八田進二・高田敏文共訳、 トレッドウェイ委員会組織委員会 内部統制の統
合的枠組み
理論篇
白桃書房、 1996年5月。
・鳥羽[2005]:鳥羽至英
内部統制の理論と実務
・町田[2007]:町田祥弘
内部統制の知識
国元書房、 2005年4月。
・町田[2004]:町田祥弘
会計プロフェッションと内部統制 税務経理協会、 2004年3月。
・松井[2005]:松井隆幸
内部監査
日本経済新聞社、 2007年3月。
同文舘出版、 2005年5月。
17
18
公共財の図形的理論:その算術的説明
赤
城
国
臣
私的財に関する
のボックス・ダイアグラムは、 経済学上、 余りにも有名である。
この思考道具の経済学への導入は、 我々の思考過程を容易にしてくれた。 (1967) が外部性の議論に導入した三角形ボックス・ダイアグラムも、 前者と同様、 経済学研究者
の思考を容易にしてくれる枠組みであるのは、 言うまでもない。 そのような思考道具を
は、
どのようにして着想したのだろうか?それは、 次節で見るように、 公共財に関して
(1955) が示した図解の延長線上にある。 それゆえ、 公共財 (それを外部性と置き換え
ても同じだが) の議論に新たな図形的説明を付加した功績は、 に帰せられるべきであろう。
この小論で問うのは、 その図解が
(1954) の説明として適切なのかどうか、 整合的な
のかどうかである。 なぜなら、 この論文において陰関数で定式化されている部分が、 (1955) の図解では、 多分に陽表的に説明されていて、 両者のトレースが厳密には必ずしも容易で
はないからである。
そこで、 この小論では、 両者を結ぶ輪を示し、 この問題の理解に資したいと思う。 具体的には、
の図解に忠実な数学モデルを展開して、 その結果が
(1954) の数学モデルから
導出される結果に等しくなることを示したい。 以下、次節では、二人二財モデルに関する
(1955) の図解を示す。 3節では、 (1954) を二人二財モデルとして展開し、 の作図を一部陽表的に理解しても、 が得られることを論じよう。
図解に当たって、 この経済社会には、 が定義する純粋公共財と私的財の二つの財だけ
が存在するものと仮定する。 これら二つの財の量をそれぞれxとyで表すことにしよう。 また、 こ
の社会には、 αとβの二人だけがいる。
今、 下添え字で、 ある経済主体を表そう。 純粋公共財の消費量を、 経済主体αとβについて
と
とし、 その供給量を
とする。 は、 純粋公共財を各経済主体が等量を同時に消費
できる財と定義しているから、
(2−1)
19
なる関係がある。 また、 二人が消費する私的財の量を
と
、 その供給量を
とすると、 私的
財では、 消費における排除性の性質があるから
(2−2)
が成り立っている。
(1954) は、 これら2財の生産関係について、 「生産可能性フロンティア」 を導入し、
図2−1のような形状を採り、 原点に凹になるものと仮定している。 図2−1では、 横軸に純粋公
共財の量を、 縦軸には私的財の量を取っている。 今、 生産可能性フロンティアを次のように表そう。
(2−3)
これらの財を消費する消費者αとβの効用関数
を、 それぞれ次のように表す。
(2−4)
(2−5)
(2−5) 式を図に表すと、 βの無差別曲線は、 図2−2 (a) のような形状となる。 また、 (2−
20
4) 式を図に表しても、 βのそれと同様の形状になるものと想定している。
図2−2 (a) では、 生産可能性フロンティアとβの無差別曲線を同じ図の上に描いている。 こ
の図で、 任意の純粋公共財の量を所与として、 生産可能性フロンティア上の私的財の生産水準から、
βの無差別曲線上の私的財の消費量を縦に引いて、 αが消費できる私的財の量を求める。 引き続き
純粋公共財の量を連続的に変化させていって、 αが消費できる私的財の量を求め、 その結果を図に
表したのが、 図2−2 (b) 「αの消費可能性フロンティア」 である。
21
解くべき問題は、 αの無差別曲線がαの消費可能性フロンティアに接する点を見出すことである。
その接点では、 βの効用水準を所与としてαの効用が極大にされているから、 接点は、 最適
点である。 このようにして、 公共財の供給に関する
最適条件、 所謂
を得るこ
とができる。 すなわち、 次式が成り立っている。
αとβの限界代替率の和=限界転形率
(2−6)
ところで、 (2−3) (2−4) (2−5) の各式から、 限界転形率αとβの限界代替率は、 そ
れぞれ次のように求めることができる。
(2−7−1)
(2−7−2)
(2−7−3)
(2−7−1) 式の左辺に付したは、 左辺が (2−3) 式の限界転形率であることを表している。
また、 (2−7−2) と (2−7−3) 式の左辺に付したαやβは、 左辺が (2−4) と (2−5)
式の限界代替率であることを表している。 従って、 (2−7−1) から (2−7−3) までの式を
用いれば、 (2−6) 式は、
(2−8)
となる。
最後に、 次の点に言及しておきたい。 こうして導出されたαの消費可能性フロンティアは、 βの
ある水準の効用の値に対応している。 これを図2−2 (a) に重ね合わせて考えよう。 今、 Oβを
βの原点とし、 そこから下の方向に私的財の量を、 純粋公共財の量を生産可能性フロンティアの湾
曲した形状に沿って測ろう。 このように測ると、 純粋公共財の量は、 湾曲した生産可能性フロンティ
アの点から横軸に垂線を下ろした際に、 横軸で読み取る量になっている。 このようにOβをβの原
点として考えると、 αの消費可能性フロンティア上のどの点でも、 βの効用水準は一定なのだから、
αの消費可能性フロンティアをβの無差別曲線と読み直すことができる。 ここに、 の三角
形のボックス・ダイアグラム構想の契機が見出せる。
の図解に忠実に、 (2−3) 式を
(3−1)
22
と陽関数で表せば、 生産可能性フロンティアの限界転形率は
(3−2)
となる。 また、
(2−5) 式でβの効用水準βを所与とするyβをxβの関数として
(3−3)
と陽表的に表すと、 βの限界代替率は、 次のようになる。
(3−4)
以上から、 αの消費可能性フロンティアは、 (2−2) (3−1) (3−3) を考慮すると
(3−5)
と表される。 従って、 (1955) は、 αが解く問題を、 実際には (3−5) の条件の下で
効用関数 (2−4) を極大にすることと定式化していることになる。 今、 ラグランジュ乗数をλと
すると、 ラグランジュ関数は
と表すことができる。 これを解いて整理して、
(3−6)
を得るが、 (3−2) (3−4) の両式を考慮すると、 (3−6) 式は、
となり、 (2−8) 式が得られる。
以上、 小論では、 第一に
(1955) に忠実に定式化して、 その図解が
の
導出に十分であったことを示した。 いずれにせよ、 は、 各経済主体の限界代替率の
和が、 生産可能性フロンティアの限界転形率に等しくなることである。 また論証の過程で、
の図解が
のそれの延長線上にあると理解されることを示した。
23
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1967),
90−103%
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1954), 387−89%
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0
0
, 37(12
1955), 550−56%
24
銀行貸出市場の寡占化と金融政策
―静学モデルによる分析―
山
本
康
裕
オーバーバンキングの解消が議論されて久しい。 キャッチアップ型の高度経済成長期を終え、 成
熟期をむかえた日本経済には、 リスクを伴う技術開発を支えるリスクマネーが必要であろう。
しかし、 近年の大手行を中心とした銀行の統合は、 金融システムの改革ではなく、 経営統合から
得られるコストカットや寡占化による超過利潤を不良債権処理費用に充てる緊急避難的な方策では
なかろうか?その意味では、 短期的には銀行の統合は致し方ないと考える。 そうであれば、 長期的
には、 現状以上の銀行市場の寡占化は進行しない可能性があり、 その寡占化の帰結を現時点で分析
する必要性は薄いのかもしれない。
星・カシャップ (2006) によれば、 成熟期をむかえた日本経済において、 伝統的な銀行業務の金
融市場における役割は縮小する事は避けられない。 現在の大手行を中心とした合併は、 グループ内
の証券会社、 保険会社なども統合させ、 巨大な金融グループを形成する事で、 金融市場における自
らの存在感を守る意図を感じる。 大手行は、 伝統的な銀行業務だけでなく証券業務、 保険業務、 年
金資金などの資産管理業務をも統合し、 銀行の店頭にて、 様々な金融商品が取引されるワン・ストッ
プ・ショッピング () を可能とする戦略を図っている。 この戦略によりオーバーバンキングは
解消されるのかもしれない。 しかし、 星・カシャップ (2006) によれば、 この戦略が成功、 失
敗しようとも、 大手行と地方銀行の経営統合、 合併が進行するようである。 結局は、 銀行市場の寡
占化は進行する事となる。
戦略が成功すれば、 より多種多様な顧客を求めて、 大手金融グループは、 地方銀行の取り込
みを図る。 戦略が失敗すれば、 大手行は伝統的銀行業務に回帰し、 規模の経済を念頭に、 より
大きな顧客基盤を求めて地方銀行の吸収を目指すであろう。 この事は、 オーバーバンキングの解消
につながるのであろうか。 どちらにしても、 日本の金融市場の現状から、 銀行間の統合は進捗する
ようである。 従って、 銀行貸出市場における寡占化の帰結を議論する事は、 意味があると考える。
一般的に市場の寡占化は望ましいとは言えない。 銀行の統合は、 貸出金利の上昇、 預金金利の低
下、 貸出供給量の低下などを引起すであろう。 このような観点から銀行市場の競争度の変化が金融
*本論文は、
2007年度日本金融学会秋季大会において、 早稲田大学
晝間文彦先生から貴重なコメントを頂いた。 記
して、 感謝したい。
25
市場やマクロ経済に与える影響を分析した先行研究が多数存在する。 (1997)
によれば、 銀行間の競争度の上昇は、 貸出金利を下降させ、 預金金利は上昇、 その結果銀行の利鞘
は縮小する。 その意味で銀行の競争度の上昇は、 社会的効用を高め、 金融政策の有効性は増大する
と述べている。 また、 渡辺・澤田 (2002) は、 同様の観点から銀行の寡占化は、 預金金利の下落と
貸出金利の上昇を招き、 社会的効用を低める弊害があるとしている。 彼らは、 他業種も含め、 銀行
市場への新規参入を促す事で、 その弊害を回避できるとしている。 上記も含め多くの先行研究が、
当然であるが、 銀行の競争度の上昇は、 貸出金利の低下、 預金金利の上昇により銀行の利鞘が縮小
すると論じている。 この銀行間の競争度の変化が如何なる効果を持つかを分析している理論面から
の先行研究は大きく分けて2つのタイプに分けられる。 まず、 第1のタイプの先行研究は、 銀行間
の競争度の変動が、 マクロ経済のパフォーマンスに如何なる影響をもたらすかを分析している。 第
2のタイプの先行研究は、 銀行間の競争度の上昇が、 マネーサプライに如何に影響するかを論じて
いる。
前者の先行研究には、 (2004) と
(1998) がある。 両者は、 銀行貸出
市場において情報の非対称性が存在する事を前提に議論を展開している。 (2004) は、 貸出市場における情報の非対称性を回避するには、 コストを掛けても銀行が借手のプ
ロジェクトを事前・事後ともに審査する必要性があるとしている。 しかし、 銀行の寡占度が大きく
なれば、 銀行に超過利潤が発生し、 大きな内部留保が形成される。 この状況にいたれば、 銀行が企
業の
を調査するインセンティブが縮小し、 十分な調査が実行されない。 そこでは、 借手に
が発生し、 劣悪なプロジェクトが実行され、 結果的にマクロ経済のパフォーマンスが
悪化する。 このマクロ経済のパフォーマンスが悪化するという意味で、 銀行間の競争度の低下は、
金融政策の有効性を下落させる事となる。
(1998) は、 貸出市場の競争度が低下すれば、 貸手たる銀行は、 借手の
を貸出
金利に転嫁する事が可能となり、 銀行はその事で情報の非対称性による損失を回避する。 貸出金利
は
の転嫁分上昇し、 市場で高金利が形成されるため、 資本蓄積が過小となり、 その結
果、 経済成長率が抑制されると結論付けている。 この経済成長率が低下するという意味で、 銀行間
の競争度の低下は、 金融政策の有効性を低下させると主張する。
銀行の競争度とマクロ経済のパフォーマンスの関係を論じた
(2004) と
(1998) は、
銀行の競争度↑ (↓) →金融政策の有効性↑ (↓)
と主張している。
銀行間の競争度とマネーサプライの関係を論じた後者のタイプの先行研究には、 (1985
) とスティグリッツ・グリーンワルド (2003) がある。 (1985 ) によれば、 銀行間の
競争度の上昇は、 貸出金利と預金金利の利鞘を縮小させる。 貸出金利が下落しているため、 調達コ
ストの低い中央銀行借入による貸出実行であっても収益は十分ではない。 よって、 金利が変動した
26
としても貸出による収益は低位安定的となり、 銀行による銀行準備の需要量は大きく変動しない。
銀行の準備金が安定的であるならば、 中央銀行は、 マネーサプライの管理が容易になり、 その意味
で、 金融政策の有効性は高まるとしている。 つまり
銀行の競争度↑ (↓) →金融政策の有効性↑ (↓)
と主張している。
それに対して、 スティグリッツ・グリーンワルド (2003) は
銀行の競争度↑ (↓) →金融政策の有効性↓ (↑)
と逆の関係を主張する。 銀行間の競争度が高まれば、 貸出金利と預金金利のスプレッドは大幅に縮
小する。 従って、 中央銀行が金利を変動させても、 スプレッドは変化しないので、 銀行が預金量・
貸出量を変動させるインセンティブは小さく、 銀行の活動に変化が生じない可能性がある。 よって、
銀行の競争度の上昇は、 金融政策の有効性を引下げると論じ、 (1985 ) 等の主張と正反
対の議論を展開している。
実証分析の先行研究は、 銀行の競争度ではなく、 市場の集中度と貸出量の関係を分析している。
(2005) は、 金融政策が有効であるという状況を 「公定歩合の上昇が銀行貸出額
の減少をもたらす」 と規定した。 彼らは、 銀行貸出市場を都市部と地方に分割して、 各市場の銀行
の集中度をハーフフィンダール指数 (
) により計測した。 そして、 市場の集中度が高ければ、
金融政策が有効であるという推定結果を提示している。 筒井・佐竹・内田 (2005) では、 日本の都
市銀行のデータを用いて
を導出し、 銀行貸出市場の集中度と総貸出額の関係を分析している。
その結果は、 と総貸出額の関係は、 ケースバイケースであり、 単純な因果関係ではない事を提
示している。
本論は、 (1985 ) とスティグリッツ・グリーンワルド (2003) と同様に、 理論的に銀
行間の競争度と金融市場の関係を論じてゆく。 分析対象は、 銀行貸出市場に限定する。 その貸出市
場で、 銀行の数が減少、 つまり銀行の統合が進行してゆくと、 貸出供給量の変動とその変動率がい
かに変化するかを分析する。 また、 銀行の統合が進捗してゆくと、 コールレートの変動により、 貸
出供給量とその変動率がいかに変化するかを考察する。 例えば、 コールレートの上昇は、 貸出供給
量を減少させると予想できる。 もし、 その減少額及び減少率が、 銀行統合が進行する状況で、 小さ
くなれば、 銀行間の競争度の低下は、 金融政策の効果を低めることになる。 これは、 (1985 ) が提示した銀行間の競争度と金融政策の効果に正の関係が存在するという含意と合致す
る。 逆に貸出供給量の減少額及び減少率が、 銀行統合が進行する状況で、 大きくなれば、 銀行間の
競争度の低下は、 金融政策の効果を高めることになる。 これは、 スティグリッツ・グリーンワルド
(2003) が提示した銀行の競争度と金融政策の効果に負の関係が存在するという含意と整合的にな
る。 本論では、 これらの因果関係を求めるため、 銀行貸出市場におけるクールノー・ナッシュ均衡
27
を導出する。
銀行間の競争度と金融政策の関係が判明すれば、 将来的に日本の銀行市場において起こると予想
される地方銀行を舞台とした再編・統合に関し、 何らかの含意を提示できると思料する。
本節では、 銀行貸出市場は独占的競争状態にあるものと仮定し、 クールノー・ナッシュ均衡によ
りその均衡値を導出する。 その均衡の総貸出を銀行の数やコールレートで微分する事で、 銀行貸出
市場の競争度と総貸出額の関係を導出する。
銀行貸出市場に行の銀行が存在するものとする。 銀行は、 お互いの生産活動を所与として利益
最大化を図っていると仮定する。 本節では、 その均衡解を導出する。
銀行は、 当期の利益を最大化するように貸出額を決定する。 その最大化問題は、 下記のように
定式化される。
(1)
=1…
:銀行の番号
π:第銀行の利益
:第銀行の貸出額
:第銀行の預金額 :第銀行のコールマネー
:預金金利
:コールレート
:銀行が直面する逆需要関数
(2)
:第銀行の費用関数
(3)
銀行の費用関数は、 貸出残高の増加に伴い逓増する費用と貸出額の増加が規模の経済を生む費
用を合計した上記 (3) 式と設定する。
下記の (4) 式は、 規制を考慮した第銀行のバランスシートを定式化したものである。
α:自己資本比率
:信用乗数
28
(5)
(4)
(5) 式により
(6)
(7)
が成立する。
ここで、 銀行はコール市場においてベースマネーを調達するものとする。 ベースマネーの供給額
は、 中央銀行によりコール市場でマクロ的に実行される。 コール市場においては、 無担保コール取
引のように、 資金の出し手と取り手が直接資金を授受する取引形態が存在する。 従って、 不良債権
等が原因で、 コール市場において資金調達に困難を伴う銀行が存在しうる。
そこで、 銀行を下記のような2つのタイプに分類する。
タイプ1銀行:コール市場における資金調達に障害のない銀行
タイプ2銀行:コール市場における資金調達に上限のある銀行
また、 銀行貸出市場を、 市場に参加する全ての銀行がタイプ1銀行である1とタイプ1と
タイプ2銀行が混在する2に分けて分析してゆく。
タイプ1銀行の最適化問題は下記のように設定される。
(8)1
(8) 式に (6) 式を代入する。 そして、 その (8) 式を1 により最適化して、 タイプ1銀行の反応
関数を導出する。
タイプ1の反応関数:
(9)
この反応関数から均衡の総貸出額は下記となる。
(10)2
:1における総貸出額
1各変数に表示するサブスクリプト「 1 」は、
2補論
その変数がタイプ1銀行の変数であることを示す。
(1) 参照
29
次項では、 タイプ1とタイプ2銀行が存在する2におけるクールノー・ナッシュ均衡を導
出する。
タイプ2銀行がコール市場において調達できるコールマネーには、 不良債権等の財務上の問題点
^2があるものと仮定する。 よって、 タイプ2銀行に関しては利益最大化問題の端点解
から、 上限
のみを分析の対象とする。 よって、 タイプ2銀行の貸出2 は、
(11)
^2と等しいとする。
となり、 貸出額の上限
タイプ1銀行の反応関数は前項により、 「
」である。
この2では、 タイプ1銀行は−
行、 タイプ2銀行が
行、 存在すると仮定する。 また簡
^2を行うと仮定する。 従って、 総貸出額は、
単化のためタイプ2銀行は、 同一の貸出額
、
となる。 タイプ1銀行の反応関数は下記のように書き換えられる。
(12)
この (12) 式から2のクールノー・ナッシュ均衡におけるの総貸出額2 が導出される。
(13)3
次節では、 1の均衡解 1と2の均衡解 2に関して比較静学を行う。
!"#$%&
本節では、 2節で得られた1の総貸出額 1と2における総貸出額 2に関する比較
静学を行う。 下記の表1が比較静学の結果である。 比較静学の符号条件は、 >
、 >
を仮定して
導出した。 >
、 >
は、 貸出金利が資金調達金利より大きい事を意味し、 強い仮定ではないと考
える。
3補論
30
(2) 参照
注) 5、 6、 7
1と
2では異なった符号をとる。
1から7は下記のように定義される。
:総貸出額を銀行の数
で微分
:銀行統合による総貸出額の変動率を
で微分
:総貸出額をコールレート
で微分
:金利変動による総貸出の変動額をタイプ1銀行の数
で微分
:金利変動による総貸出の変動率をタイプ1銀行の数で微分
:金利変動による総貸出の変動額をタイプ2銀行の数
で微分
:金利変動による総貸出の変動率をタイプ2銀行の数で微分
上記の比較静学の結果から、 銀行間の競争度が低下 (↓↓) する時の総貸出額の変動を分析す
る。
4補論
(3) 参照
31
本項では1における比較静学の結果から、 銀行間の競争度が低下すると貸出市場に如何な
る変動が起こりうるかを分析してゆく。 分析の結果は下記となる。
①銀行統合の推進は、 より大きな信用収縮をもたらす。
より、 銀行の統合 (
↓) は総貸出額を減少させる。 また、
より、 銀行
の統合の進行は、 貸出額の減少率を高める。 よって、 銀行統合の推進は、 その進行につれて、 より
大きな信用収縮をもたらす。
②銀行統合の進行は、 金融政策の効果を抑制する。 ただし、 銀行の統合は金利変動から生じる貸出
の減少率には影響を与えない。
より、 コールレートの上昇は、 総貸出額を減少させる。 また、
統合の進行は、 金利上昇による総貸出額の減少額を抑制させる。 しかし、
より、 銀行
より、
銀行統合が進行してもその減少率は不変である。
1における銀行統合は、 優良行同士の合併である。 銀行の統合が進む中で、 コールレート
を引上げる場合、 この統合が進めば進むほどコールレート引上げによる貸出額の減少額は小さくな
る。 その理由は下記である。 調達金利の上昇に応じて銀行は貸出額を減少させなければならない。
しかし、 そもそも優良行同士の合併自身が貸出額を大きく減少させるため、 銀行が調達金利の上昇
により追加的に貸出額を減少させる金額は微少で済むのである。
以上2点が、 全ての銀行がコール市場における資金調達に障害のないケースで得られる含意であ
る。
本項では2において、 銀行間の競争度が低下すると貸出市場に如何なる影響が生じるかを
分析してゆく。 分析の結果は下記となる。
①銀行の統合は、 信用収縮を発生させる。
より、 銀行の統合 (
↓) は総貸出額を減少させる。 また、
32
である。
優良な銀行とそうではない銀行が混在する2においても銀行間の統合は総貸出を減少させる。
しかも、 1と同様に、 銀行統合の進展は、 総貸出額の減少率を拡大させる。
②タイプ1銀行間での統合の進行は、 金融政策の効果を抑制させる。
タイプ2銀行間での統合の進行は、 金融政策の効果を拡大する。
より、 コールレートの上昇は総貸出額を減少させる。 また、
により、 銀行の統合 (↓) は金利上昇による総貸出の減少額
及び
と減少率
を下落させる。 つまり、 タイプ1銀行間での統合の進行は、 金融政策の効果を抑制させ
る。 2においてタイプ1銀行間の統合が金融政策の効果を減少させる理由は、 1と同
様に、 優良行同士の合併はより大きな信用収縮が発生する。 従って、 コールレートの引上げに伴う
銀行貸出の減少額は小幅になる。 また、2では銀行統合の進行が、貸出額の減少率
をも下落させると言う意味で、 1よりも、 銀行の統合は金融政策の効果をより抑制する。
また、
貸出減少額
、 及び
と貸出減少率
より、 タイプ2銀行内での統合の進行 (↓) は、
を上昇させる。 よって、 タイプ2銀行内での統合の進行
は、 金融政策の効果を拡大する。 この結果は、 優良行同士の合併とは異なる結果である。
優良ではない銀行同士の合併は、 総貸出額に及ばす効果を正とするか負とするかは明確ではな
5
い 。 よって、 このケースでは、 優良行同士の合併とは異なり、 コールレートの引き上げによる総
貸出額の減少は、 銀行統合による貸出額の減少にて補われる事がない可能性がある。
銀行貸出市場に優良な銀行とそうではない銀行が混在する状況下では、 銀行統合のありかたで、
金融政策の効果は異なってしまう。 例えばコールレートの引き上げは、 貸出供給量を減少させるが、
その減少額は、 優良な銀行間の統合であれば、 抑制される。 つまり、 タイプ1銀行同士の合併は金
融政策の効果を抑制する。 しかし、 優良ではない銀行間の統合であれば、 貸出供給量の減少額と減
少率は拡大し、 コールレートの上昇はより大きな信用収縮を招いてしまうのである。 このケースの
5補論
(3)
33
銀行統合は金融政策の効果を拡大させる。
銀行貸出市場の競争度が変動する事の意味を、 2節で導出したクールノー・ナッシュ均衡解を3
節で比較静学する事で提示した。
銀行統合の効果に関しては、
である。 この事は、 銀行統合は、 貸出
供給量を減少させ、 その進行と共に貸出供給量の減少率が大きくなる事を意味する。 つまり銀行統
合の進行は大きな信用収縮を発生させる。
また、 コールレートの上昇は、 全てのケースで
であり、 総貸出額を減少させる。 しかし、
銀行統合が、 このコールレートの変化による総貸出額の変動額
と変動率
にいかな
る影響を与えるかはケースバイケースである。 全ての銀行がコール市場における資金調達に障害の
ない1では、
であり、 銀行統合は、 金利変動による総貸出額の
変化額を減少させるが、 その変化率には影響を与えない。
また、 コール市場における資金調達に障害のないタイプ1銀行と資金調達に上限のあるタイプ2
銀行が混在する2においては銀行統合の金融政策に与える効果は以下となる。 銀行統合がタ
イプ1銀行間で行われるなら、 変動額は
であり1と同様であるが、 変動率
であり、 1とは異なっている。 つまりこのケースの銀行間の統合は、 金利
上昇による貸出の減少額及び減少率を抑制する。 よって、 銀行間の統合が貸出額の減少率を引下げ
るという意味で、 このケースの銀行統合は、 金融政策の効果をより大きく抑制する。 この結果は、
「銀行の競争度↑ (↓) →金融政策の有効性↑ (↓) 」 としている
(1985 ) と整合的で
ある。
2において銀行統合がタイプ2銀行間で実行されるケースでは、 金融政策の効果は上記の
34
結果と異なっている。 このケースの銀行統合は、
、 及び
であり、
金利上昇による総貸出額の減少額及び減少率を拡大させる。 この事は、 優良とはいえない銀行間の
統合は、 金融政策の効果を拡大させる事を意味し、 スティグリッツ・グリーンワルド (2003) の分
析結果である 「銀行の競争度↑ (↓) →金融政策の有効性↓ (↑) 」 と合致する。
上記を鑑みると、 銀行の競争度の変化は、 貸出市場において様々な結果をもたらしうる。 例えば、
優良とは言い難いタイプ2銀行間の合併とコールレートの引下げは大きな信用拡大を生じさせる可
能性がある。 一方、 優良である銀行間の統合の進行は、 コールレートの引下げにより信用拡大を生
じさせが、 貸出額の上昇額及び上昇率は緩和させると考えられる。 これは、 優良行同士の合併は大
きな信用収縮を発生させるため、 コールレート引き下げの効果を弱めてしまうからであろう。
1と2の分析結果から、 銀行の資金調達に関わる制約を明示的に考慮すれば、 貸出
市場の競争度の低下が、 如何なる時に、 金融政策の効果を減少させ、 又は増大させうるかを提示で
きる。 この事は、 本論の分析がより包括的な含意を持ちうる事を意味するであろう。
上記の分析から、 まず銀行統合の進行が大きな信用収縮を生む可能性は十分考慮されるべきであ
ろう。 また、 銀行が置かれている資金制約を考慮せず、 その競争度を変更すれば、 金融政策におい
て予想外の結果が生じる可能性がある。 よって、 オーバーバンキングの解消のために銀行の統合を
進行させるなら、 中央銀行及び金融監督当局は、 個々の銀行が直面している資金調達環境を明確に
把握し、 そのショックを減殺するようケースバイケースで慎重な対応をすべきであろう。
本論においては、 自己資本比率を規制によるものと考え、 外生的に扱っている。 しかし、 自己資
本比率は貸出額と同時決定され得るものであろう。 より詳細な分析を行うためには、 自己資本比率
は内生変数として定式化されるべきであろうと思料する。 また、 銀行間の統合が銀行主導で行われ
る場合、 銀行経営者が将来時点の収益性を考慮した結果が合併・統合につながるのであろう。 よっ
て、 動学的分析も必要となる。 そして、 本論においては、 同一タイプの銀行間における合併のみを
分析対象としている。 より精緻な分析を行うためには、 優良行と不良行間の統合をも含めて議論す
る必要がある。 これらは、 残された課題といたしたい。
(1) 1の総貸出額 1の導出
タイプ1銀行の反応関数
両辺を
回足し合わせると、
35
(2) 2の総貸出額 2の導出
タイプ1の反応関数より
(12)
ここで、
とおき、 両辺を−回足し合わせる
(13)
(3) 比較静学の結果
・1の比較静学
36
・2の比較静学
「
」 は 2の分子より正である。
37
分子第1項は、 >
、 >
という仮定より符号は負であり、 第2項の符号は正より、 分数全体の
符号が正か負か決定できない。
“
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'
'
!
”
.
!
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7
)
4
++
537"
552
岩田一政・浜田宏一 (1980)
金融
金融政策と銀行行動
黒田晃生 (2006)
入門
第4版
鹿野嘉昭 (2006)
日本の金融制度
東洋経済新報社
東洋経済新報社
第2版
東洋経済新報社
.
スティグリッツ・
グリーンワルド著・内藤純一・家森信善
新しい金融理論
38
―信用と情報の経済学―
訳 (2003)
東京大学出版会
筒井義郎・佐竹光彦・内田浩史 「都市銀行における効率性仮説」
独立行政法人
経済産業研究所
日本銀行金融研究所 (2004)
05
027
新しい日本銀行【増補版】
星岳雄・・カシャップ著・鯉渕
賢
訳 (2006)
渡辺努・澤田充 「銀行統合と企業向け融資」 齋藤誠
その機能と業務 有斐閣
日本金融システム進化論 日本経済新聞社
編
日本の金融再生戦略
中央経済社、 237
276
39
40
海外直接投資関数の推計
小谷田
文
彦
本論文の目的は、 企業データによる海外直接投資関数の推計を行い、 通常の設備投資と海外直接
投資の誘因の違いを明らかにすることである。
通常の設備投資と海外直接投資とでは、 その誘因が異なることが考えられる。 もっとも大きな違
いは、 投資に関する取引費用である。 企業が国境を越えて投資を行う場合には、 社会、 文化、 制度
等に関する本国との違いを考慮しなければならない。 これらに対処するための様々な企業活動は取
引費用の増大に直結することになる。
企業の意思決定における合理性には限界があることが普通であるから、 海外の文化等への対応に
おいて、 事前にその全てを予測することは難しい。 また、 さまざまな状況を予測し、 契約を行うこ
とにも多大な費用がかかる。 企業はこの限定合理性が生み出す取引費用の増大を無視することが出
来ない。 また、 海外直接投資における問題への対処法は市場で取引される財であることが稀なので、
企業の海外への進出に際しては内部化による進出、 つまり直接投資が指向されることになる。
また、 海外直接投資を行う当該企業の外で活動し、 当該企業に出資しようとする経済主体にとっ
て、 内部化を指向して海外に進出した企業の私的情報の把握は、 その企業の外からでは、 いっそう
難しくなる。 これは外部からの資金制約の問題を引き起こす。 よって、 進出企業には海外進出に関
して内部資金の活用が求められるようになる。 この資金制約の問題は、 設備投資に比べて、 海外直
接投資の方がより深刻であることが想像できる。 そして、 もし、 資金制約が海外直接投資に対して
深刻な問題であるのならば、 内部資金の潤沢な企業ほど、 海外直接投資に優位性があることになる。
本論文においては、 企業ベースの投資関数を海外直接投資、 国内の設備投資の双方に関して推計
し、 その誘因の違いと資金制約の影響を検討する。
多くの投資関数の推計は、 当該期間の設備投資のフローとストックの割合をトービンのを用い
て説明することによってなされる。 本論文においても、 この手法を援用し、 トービンのの値が海
外直接投資、 設備投資にどのように影響を与えるのかを比較する。
トービンのを用いた分析に関する先行研究は極めて多いが、 近年の我が国の企業を対象にした
41
成果として、 福田他 (2005) が注目される。 福田他は、 通常はデータの制約から分析が難しい非上
場企業の設備投資について、 トービンのを用いて推計を行っている。 また、 海外における近年の
例として、 (2004) がある。 この論文は、 欧州諸国から米国への直接投資に注目
し、 やはりトービンのを援用した分析を行っている。 この論文においては、 分析がマクロベース
でなされている。
先行研究の多さにも関わらず、 海外直接投資を企業ベースのデータを用いて分析した例は少ない。
それは、 推計において、 いくつかの困難が伴うからである。 もっとも大きな困難は、 海外直接投資
の企業ベースのフローを計測することの難しさである。 公表されているデータにおいて個別の海外
子会社の設備投資増加分を知ることは出来ない。 このことが、 この分野の先行研究が少ない理由で
あると考える。
洞口 (1992) は、 海外直接投資が 「他の金融項目と比較して際立っているのは 永続的な株式取
得
による
企業経営への実効的な発言権の確保 」 であり、 直接投資は 「何らかの程度で継続性
をそなえていなければならない」 としている。 この定義から考えても、 海外直接投資が必ずしも実
体を伴う設備投資であるとは限らない。 そこで本論文では、 海外子会社の設備投資を数量化する問
題を回避するために、 海外子会社の資本金による推計を試みた。
確かに、 海外子会社の資本金がそのまま設備投資に結びつく保証はない。 しかし、 本国の進出企
業から考えれば、 海外子会社設立のために行った当該年の資本の投下は、 その企業の 「会計上の海
外直接投資」 に他ならない。 本論文においては、 ある年を選び、 その年に設立された企業の資本金
をその年の海外直接投資の増加分と捉え、 これを投資関数における投資のフロー部分に当てはめる
ことにより、 海外投資関数の推計を行った。
また、 企業の資金と投資の問題に関しては、 企業のキャッシュフローとの関係が論じられること
が多い。 (1986) は、 企業内部に豊富なキャッシュフローがある状態においては経営者が収
益性の低い投資案件に投資する可能性があることを指摘している。 これは、 企業の所有者である株
主がその代理人である経営者の行動を十分に監視できないために、 経営者が自らの利益に従って投
資案件を決定してしまう状況を想定している。 この問題は、 フリーキャッシュフローによる過剰投
資問題と解釈される1。
つまり、 所有と経営の分離が存在すると、 豊富な内部資本市場の存在によってモラルハザードの
問題が生じる。 そして、 外部からの監視コストが高すぎる場合、 さらに、 その使途に関する意思決
定が経営者のみによって行われる場合には、 投資計画は企業の所有者である株主の利潤最大化に結
びつかない可能性がある。 具体的な例を挙げると、 経営者は、 企業の利潤最大化ではなく、 成長率、
市場でのシェア、 名声等を高めるために、 内部資本を活用してしまうかもしれない。
また、 フリーキャッシュフロー問題とは反対に、 企業の投資は、 資金制約に直面する可能性もあ
る。 なぜなら、 企業の外部において資本の供給を行う主体は企業の私的情報を十分に把握していな
いと資金供与を行うことが出来ないが、 通常、 企業の私的情報は外部に対して閉ざされているから
1我が国におけるフリーキャッシュフロー問題の実証分析として、
42
宮島、 蟻川、 斉藤 (2001) がある。
である。 この資金制約問題は、 研究開発投資のような情報の非対称性がより深刻な投資においてさ
らに深刻となる。 この研究開発投資と内部資本市場の関係についての先行研究に
(2002) があ
る。
また、 (2006) は、 経営者の意思決定に注目し、 研究開発投資と負債による資金調達
には相反する効果が存在するとも指摘している。 (2006) は負債比率の上昇は、 経営者
に対する規律として働き、 利益を生むような経営計画に経営者を向かわせるため、 研究開発投資の
ような投資がより実行される可能性があることを指摘している。
以下においては、 (2004) に従ったモデルを示す。
時点0における、 代表的企業のネットキャッシュフローの割引現在価値 0は、
として表される。
ここで、 は進出企業の保有する企業特有の優位性
は国内物価水準、 は資本ストック、 (
)、 (・) は資本の調整コスト、 は海外の物価水準、
は国内投資額、 は為
替レート、 !は進出地域の優位性 (
"
)、 #
は海外直接投資額を示す。
また、 資本ストックは、
として示せるとする。 ここで、 δは資本減耗率である。
以上から、 現在価値ハミルトニアン関数は、
として、 定式化される。 一階の条件は、 #
、 について、
となり、 国内投資フロー、 海外直接投資フロー、 資本ストック、 国内、 海外の物価水準の関数とな
る。
・
=0となることを想定すると、
また、 に関して一階の条件を求め、 長期においては$
43
と示せる2。
これらの条件から、
が導かれる。 以下においては、 このモデルをもとに海外直接投資、 国内投資関数を推計する。
海外直接投資のデータは、 海外進出企業総覧 (東洋経済新報社) を用いている。 本論文において
は、 1999年に注目し、 この年に設立された海外子会社の資本金に出資企業の出資比率をかけた値を
直接投資額として用いている。
1999年を選択した理由は、 近年において、 この年の製造業各社の海外直接投資が大きいからであ
る。 対象は製造業であり、 産業区分は、 海外進出企業総覧に従っている3。 対象企業は一部上場企
業である。
財務データに関しては、 会社年鑑 (日本経済新聞社) を参照した。 さらに株式に関する情報、 各
企業の研究開発投資額、 設備投資額に関しては、 日経会社情報 (日本経済新聞社) を用いている。
これらのデータを用いて、 以下のようなモデルを推計する。
ここで、 は1999年におけ
、 、 、 る、 企業
の資本金で示される直接投資額、 有形固定資産額、 トービンの、 研究開発費売上高比率、
負債総資産比率、 海外進出の対象がアジアである時のダミー4、 西欧等である時のダミー5、 産業分
類ダミーを示している。 また、 この推計と比較するために、
も推計する。 ここで、 の1999年における設備投資額である。
は、 企業
以上の推計においては、 企業の資金制約を示す変数として、 企業の負債と総資産の比率、 各企業
に対する社債の格付をダミーとして加えている。 負債総資産比率は、 企業の内部留保の代理変数と
2実際にハミルトニアン関数の一階の条件から上記のような関数を導くためには、
資本の調整コストを極めて特殊な
関数形に仮定する必要がある。 理論における先行研究でもこの問題は散見され、 通常、 最適化の過程で調整コスト
の項が都合よく処理できるように関数形が設定されていることが多い。
3具体的には、
食品、 繊維、 木材・家具、 パルプ・紙、 出版・印刷、 石油・石炭、 ゴム・皮革、 鉄鋼、 非鉄金属、 金
属製品、 機械、 電気・電子機器、 輸送用機器・造船、 自動車・部品、 精密機器、 の各産業である。
4各企業が、
アジア諸国 (インド、 パキスタン、 バングラディシュ、 スリランカ、 中東諸国を除く) に進出している
場合に1とした。
5各企業が、
44
西ヨーロッパ諸国、 カナダ、 米国に進出している場合に1とした。
して採用した。 また、 社債の格付を加えた理由は、 この格付の存在が企業の資金調達の容易さを示
すのではないかと考えたからである。 社債の格付が存在することは、 その企業の財務の健全性を外
部に対して示すことになる。 このことは、 企業の資金調達における情報の非対称生の緩和に繋がる
ことが推察される6。
トービンのに関しては、 企業の市場価値を計算する必要がある。 分子に当たる企業価値につい
ては、 1999年の当該企業の株価の最高値と最安値を用いてその平均を計算し、 その値を企業の株価
発行残高に掛け、 その値に負債総額を加えることによって求めた。 また、 分母については、 各企業
の有形固定資産に無形固定資産を加えることによって求めた7。
また、 このトービンのは、 企業によっては極端に高い値を取ることも判明した8。 ここでは、
トービンのの値が10を超えた場合、 その企業にダミー変数を新たに付与した。 このダミー変数が、
である。 最後の、 は各産業のダミーを示している。
推計結果は表3に示されている。 この結果を見ると、 設備投資に関する投資関数においては、 トー
ビンのが有意に正であるのに対し、 海外直接投資関数においては、 有意とならない結果となった。
研究開発投資については、 海外直接投資は、 有意水準10%で正となった一方で、 設備投資に関して
は有意とならなかった。 また、 ダミーについては、 海外直接投資関数において、 西欧諸国への進出
を示すダミーが正で有意となった。 さらに、 トービンのの大きい企業に関するダミーは、 海外直
接投資関数でのみ、 正で有意となった。
トービンのの値が設備投資関数において、 正で有意となったことは先行研究通りである。 しか
し、 海外直接投資関数で有意とならなかったことから、 同じ投資であったとしても、 設備投資と海
外直接投資が異なった誘因によって行われていることが分る。 海外直接投資は、 進出企業が保有し
ているレントがその進出の根拠として論じられる。 進出企業の保有する技術の代理変数として、 研
究開発費売上高比率を導入したが、 この変数は海外直接投資関数で有意に正となった。 このことは、
海外直接投資がより強く、 企業の保有する無形の資産によって左右されることを示唆している。
企業の資金制約を示す変数は有意とはならなかった。 これは予想外の結果であるが、 そもそも、
企業のキャッシュフローを単に負債総資産比率で表現することに問題があるとも言える。 キャッシュ
フローに関しては、 さまざまな代理変数が提案されており、 さらに近年はキャッシュフローに特化
した統計指標も登場していることから、 検討が必要な変数であると考える9。
さらに、 トービンのが大きい企業で構成されたダミーが海外直接投資関数でのみ有意で正となっ
6格付には様々なランクが存在するが、
7福田他
8この理由は、
9福田
ここでは格付が存在する場合を1、 そうでない場合を0として処理した。
(2005) は分子の値として、 各企業の利益の流列を時系列で推計している。
トービンのの分母が簿価であるのに対して、 分子は時価となっているからであると考えられる。
(2005) は、 キャッシュフローを、 減価償却費
経常利益
法人税等引当金、 として表現している。 また、 理論
的には、 売上高
流動資産
減価償却費で、 前述の値を正規化することが望ましいことを指摘している。
45
た。 このことは、 この変数が設備投資関数では有意にならなかったことと相まって興味深い結果と
言える。 以下は仮説であるが、 一般的にトービンのの値が海外直接投資を促進する誘因とはなら
なかったとしても、 この値が極端に高い企業に限れば海外直接投資に対する強い誘因を持っている
可能性がある。 トービンのが高いということは、 市場からの評価が高い企業とも考えることが出
来る。 このことから、 市場評価の高い企業ほど、 海外直接投資の誘因が大きい可能性が考えられる。
産業ダミーに関しては、 どの産業に関しても有意な値を取ることはなかった。
本論文においては、 企業の海外直接投資と設備投資に関する関数を推計することにより、 それぞ
れの投資に対する企業の誘因の違いを浮き彫りにすることをその目標としていた。 また、 海外直接
投資に関連する問題として、 情報の非対称性が生み出す資金制約の問題と海外直接投資の関係を論
じた。
結果として、 トービンの、 研究開発投資に関する係数の有意性の違いからこの二つの投資が異
なった誘因によって行われていることが明らかとなった。 また、 資金制約については、 有意な結果
を得ることが出来なかった。
資金制約については、 前節で述べたように、 さらに適切なキャッシュフローの指標によって検証
する必要がある。 また、 このデータはクロスセクションであり、 当該年度の特徴に大きく影響を受
ける。 今後は、 パネルデータ化したデータや、 一定の期間の平均値によって推計することにより、
より頑健な結果を導きたいと考えている。
また、 海外直接投資に関わらず、 資金制約が問題になるときには、 企業間関係の問題を論じなく
ては十分ではない。 福田他 (2005) は非上場企業とメインバンクの健全性に関して多くの議論を行っ
ている。
海外直接投資に関しても、 企業間関係の側面を議論することは重要であると考える。 例えば、 進
出企業が属する系列やメインバンク、 垂直統合の程度なども論じるべき問題であると考える。
また、 設備投資と海外直接投資の意思決定の違いを表出させる目的で導入した研究開発費はストッ
クであることが望ましいはずであり、 この変数についても考え直す必要があると考えている。
福田慎一、 粕谷宗久、 中島上智 (2005) 「非上場企業の設備投資の決定要因:金融機関の健全性および過剰債務問題
の影響」、 日本銀行ワーキングペーパーシリーズ、 05
2。
洞口治夫 (1992) 日本企業の海外直接投資 、 東京大学出版会
宮島英昭、 蟻川靖浩、 斉藤直 (2001) 「日本型企業統治と 「過剰」 投資−石油ショック前後とバブル経済期の比較分
析−」、 フィナンシャルレビュー、 、 139
168。
46
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愛知県東海市のまちづくり指標 (∼2007年9月)
―自治体行政における社会指標型ベンチマーキングの活用―
児
山
正
史
はじめに
第1章 まちづくり指標
第2章 総合計画
第3章 まちづくり大会
第4章 青森県の政策マーケティングとの比較
おわりに
本稿は、 愛知県東海市の 「まちづくり指標」 が、 2007年9月までに同市の行政においてどのよう
に活用されたか、 その原因は何かを明らかにする。
東海市のまちづくり指標は、 社会指標型ベンチマーキング (
) の一例である(1)。 ベ
ンチマーキングとは、 比較や測定のための参照点 (ベンチマーク) を設定し、 それに照らして現状
を評価すること、 また、 その結果を意味する。 社会指標型ベンチマーキングは、 自治体や地域社会
の望ましい状態 (例えば、 識字率の水準) を特定し、 それに対して進度を測定するものである。 東
海市のまちづくり指標は、 青森県の政策マーケティングの影響を受けて作成されたが、 行政での活
用は青森県よりも進んだと評価されている(2)。
東海市のまちづくり指標については、 すでに概要が紹介されている (千葉 2005 、 後 2005、
三海
2007
など) 。 まちづくり指標は、 2002年から2003年にかけて、 東海市市民参画推進委員会
(以下、 市民参画推進委員会) によって作成され、 2002∼2003年度策定の第5次東海市総合計画
(以下、 第5次総合計画または総合計画) の骨格として活用された。 2004年度以降も、 東海市まち
づくり市民委員会 (以下、 まちづくり市民委員会または市民委員会) が 「まちづくり大会」 を通じ
て行政での活用を促進している。
本稿は、 東海市のまちづくり指標の行政での活用状況とその原因を、 特に青森県の政策マーケティ
ングと比較して明らかにする。 社会指標型ベンチマーキングを行政で活用することについては、 一
般に多くの困難が指摘されている。 先行した青森県においても、 政策マーケティングの行政での活
用に関してさまざまな困難が生じた。 本稿は、 特に、 青森県の政策マーケティングで生じた困難に
東海市がどのように対処したかという視点から、 東海市のまちづくり指標の行政での活用を分析す
51
る。
本稿の構成は次のとおりである。 第1章では、 まちづくり指標やその作成過程を概観する。 第2
章では、 総合計画の策定におけるまちづくり指標の活用状況とその原因を分析する。 第3章では、
まちづくり大会を通じた行政での活用の促進について記述する。 第4章では、 東海市のまちづくり
指標と青森県の政策マーケティングを比較する。
本章では、 まちづくり指標の内容と、 それを作成した市民参画推進委員会、 そして、 まちづくり
指標の作成過程を概観する。
東海市のまちづくり指標は、 5つの基本理念と6つの政策分野のマトリックスに、 38の生活課題
と99の指標が位置づけられるという体系である。 5つの基本理念 (キーワード) とは、 安心、 快適、
いきいき、 ふれあい、 活力であり、 6つの政策分野とは、 生活環境、 保健・医療・福祉、 教育・学
習、 産業、 都市基盤、 市民参加・行財政である。 例えば、 「安心−生活環境」 の欄には、 「大気汚染、
ばいじん、 汚臭がなく、 空気がきれいである」 など5つの生活課題が位置づけられている。 また、
この生活課題に対応して、 「20歳以上の特定疾病患者数」 など3つの指標が掲げられている。
そして、 99の指標のそれぞれについて、 基準値、 現状値、 めざそう値、 役割分担値が設定されて
いる。 基準値は2002年度の数値、 現状値は2003年度以降の現状を示す数値、 めざそう値は2002年度
から5年後 (2007年度)、 10年後 (2012年度) に目指す数値である。 役割分担値とは、 指標の改善
に貢献する8つの主体 (個人・家庭、 NPO・市民団体、 コミュニティ・町内会、 企業・農協・商
工会議所、 学校、 市、 県・国、 その他) の役割分担の比率を示す数値である。 (ガイドブック 2004
6
14など)
本稿では、 99の指標だけでなく、 5つの基本理念、 38の生活課題、 各指標の基準値・現状値・め
ざそう値・役割分担値も含めて、 広い意味で 「まちづくり指標」 と呼ぶ。
まちづくり指標は市民参画推進委員会によって作成された。 この委員会は、 「市民の視点に立っ
たまちづくりを推進するための必要事項の調査・審議」 を目的として、 2002年2月に発足し、 2004
年3月まで活動した。 なお、 2004年6月からは、 後継のまちづくり市民委員会が活動している。
市民参画推進委員会の委員は合計50人で、 うち25人が公募委員、 25人が推薦委員であった。 また、
50人のうち47人が東海市民、 3人が市外の学識経験者で、 会長は学識委員の後房雄氏 (名古屋大学
大学院教授) が務めた。
委員会には、 幹事会、 分野別の部会、 役割別の部会が設けられていた。 幹事会は、 会長と各部会
の正副部会長等の20人からなっていた。 分野別の第1∼第5部会は、 それぞれ、 都市基盤、 保健・
医療・福祉、 生活環境、 教育・学習、 産業を扱った。 また、 役割別の 「ひろめたい部会」 「編集部
52
会」 「パートナーシップ部会」 は、 それぞれ、 指標の普及活動、 指標の数値の推移などを記載した
まちづくりガイドブック
の作成、 まちづくり大会と後継委員会組織の検討を担当した。 (東海市
市民参画7、 参画委活動報告書33
59
61、 千葉
2005
102、 参画委経過)
市民参画推進委員会は、 2002年4月から7月にかけて、 委員と若年層の市民からなる小グループ
での話し合いを行い、 生活課題を洗い出した。 その結果、 95の生活課題が出された。 これらは7つ
のグループに区分され、 各グループにキーワードがつけられた。
次に、 委員会は、 8月に市民アンケート (3500人) を実施した。 アンケートの設問は、 7つのキー
ワードから4つを選択、 各キーワードに属する生活課題から4つを選択、 95の生活課題の重要度を
5段階評価するというものであった。 このアンケート結果に基づいて、 キーワードを5位まで採用
し、 各キーワードに属する生活課題も5位まで採用した。 また、 重要度の高い生活課題を13位まで
採用し、 合計38の生活課題を選定した。
そして、 委員会は、 10月から12月にかけて、 生活課題の達成度を点検するための99の指標を設定
した。 さらに、 各指標について、 2003年2∼3月に現状値を算出し、 3∼4月にめざそう値、 役割
分担値を設定した。 めざそう値と役割分担値は、 各分野の関係者・当事者 (計100人) へのアンケー
103、 後 2005 112
113、 参画委活動報告書3
4
57
58、 ガイド
トなどに基づいて設定した。 (千葉 2005 102
ブック
2005
127)
本章では、 第5次総合計画の内容と策定過程を概観した上で、 まちづくり指標が総合計画の策定
においてどのように活用されたか、 また、 その原因は何かを明らかにする。
(1) 内容
2002∼2003年度に策定された第5次総合計画は、 基本構想−基本計画−実施計画という体系であ
る。
まず、 基本構想は、 2004∼2013年度の10年間の構想である。 ここには、 東海市の将来像として、
「元気あふれる 快適都市」 というテーマと、 「共に創る 安心 快適 いきいき都市」 というキャッ
チフレーズが掲げられている。 また、 将来像を実現する5つの理念として、 安心、 快適、 いきいき、
ふれあい、 活力が挙げられている。 そして、 施策の大綱として、 5つの理念を柱に53の施策が示さ
31)
れている。 (総合計画22
次に、 基本計画は、 基本構想と同じ10年間の計画である。 ここでは、 施策の体系が組み替えられ、
53の施策が6つの分野 (生活環境、 保健・医療・福祉、 生涯学習、 産業、 都市基盤、 市民参加・行
財政) ごとに示されている。 各施策の下には単位施策が設けられ、 各単位施策には成果指標が設定
されている。 そして、 各成果指標について、 現状値、 めざそう値 (5年後、 10年後) が記載され、
53
41
175)
一部の成果指標については役割分担値も示されている。 (同34
最後に、 実施計画は、 3年間の計画が毎年策定されている。 ここには、 5つの理念別に実施事業
計画の名称が記載されるとともに、 6つの分野別に実施事業計画の名称、 事業費、 事業内容が記載
3
7
9
25など)
されている。 (第4次実施計画1
(2) 策定過程
第5次総合計画の策定は、 主に東海市総合計画策定会議 (以下、 総合計画策定会議または策定会
議) が担った。 策定会議は、 東海市総合計画案を調査検討するために置かれる組織である。 策定会
議の委員長は助役が務め、 委員には各部門の部長・次長級の職員が任命された。 策定会議には策定
幹事会と策定部会が置かれた。 策定幹事会は策定部会の部会長・副部会長で構成された。 策定部会
は、 分野別の5部会 (生活環境・産業、 保健・医療・福祉、 生涯学習、 都市基盤、 市民参加・行財
200)
政) とフレーム部会の計6部会からなっていた。 (総合計画195
また、 総合計画に関する調査・審議を行うため、 東海市総合計画審議会が置かれた。 委員は、 学
190)
識経験者、 各団体の代表、 議員などである。 (同188
策定会議と策定幹事会は、 2002年5月に初会合を開き、 9月から2003年6月にかけて総合計画の
素案を作成した。 そして、 7月から10月にかけて総合計画審議会が審議・答申し、 12月の議会で基
本構想が議決された。 (同202)
(1) まちづくり指標と総合計画
まちづくり指標は、 総合計画の骨格として活用された (千葉 2005 103、 後 2005 112、 参画委活
動報告書16、 第16回参画委4市長)。 まちづくり指標の5つの基本理念 (キーワード) は総合計画の理
念として、 38の生活課題は施策として、 99の指標は成果指標として反映されている (総合計画14)。
第1に、 まちづくり指標の5つの基本理念 (キーワード) は、 基本構想の5つの理念として採用
された。 そして、 基本構想では、 この5つの理念を柱に施策の大綱が示されている (ただし、 基本
計画では、 施策の体系は分野別に示されている)。 まちづくり指標の5つのキーワードのうち3つ
は、 基本構想のキャッチフレーズにも含まれている。
第2に、 まちづくり指標の38の生活課題は、 総合計画の施策に反映された。 総合計画の53の施策
は、 生活課題を尊重した39の市民施策(3)に、 市の行政が必要と考えた14の施策を加えたものである。
総合計画の冊子では、 市民施策は青色の文字で記載され、 市の行政の施策から区別されている。
第3に、 まちづくり指標の99の指標は、 基本計画の成果指標として採用された。 基本計画の成果
指標は、 99の指標に市の行政が43の指標を加えたものである。 また、 まちづくり指標から採用され
た99の成果指標については、 まちづくり指標と同じめざそう値と役割分担値が記載されている。
54
(2) 活用の経緯
①活用の方針
総合計画の策定は、 初期の段階から、 市民参画推進委員会の活動と連携しながら行われた (総合
計画14)。
市民参画推進委員会では、 2002年2月の第1回全体会で、 2002∼2003年度に総合計画の全体見直
26助役)。 これをうけて、 会長から、 総合計画を作る時
しをすることが紹介された (第1回参画委25
期と委員会の議論が並行するので、 当然、 5年後・10年後を目指した総合計画と5年後・10年後の
まちづくり指標がずれていたらおかしく、 内容的にうまく結びつける必要があることは明らかであ
る (同26後) という発言があった。 また、 4月の全体会・幹事会でも、 会長から、 まちづくり指標
と総合計画が矛盾するものであったらおかしく、 つながるのが自然である (第3回参画委5後) とい
う発言があり、 助役からも、 委員会の提言を総合計画に盛り込みたい (第1回参画幹事会3助役) とい
う意向が示された。
総合計画策定会議でも、 5月の第1回会合において、 策定会議が市民参画推進委員会の部会と連
携することや、 市民参画推進委員会がまちづくり指標の作成を通して住民の意思を総合計画に反映
させる役割を担っている (第1回策定会議5企画政策課長) ということが説明された。
また、 同月の第1回策定幹事会では、 目標値の設定に応じて方向性が全く変わることもあるので、
目標値を早めに決めてほしい (第1回策定幹事会1幹事) という意見が出されたのに対して、 事務局か
ら、 市民参画推進委員会で目標値を決定する前に総合計画で決定してしまうと市民が誤解してしま
うので、 1∼2月に目標値を設定するスケジュールにしている (同1事務局) という説明があった。
そして、 市民が作る目標値に行政が合わせていく形ならば、 市民の意見の方向が見えなければ動き
ようがない (同4幹事) という発言もあり、 市民参画推進委員会の作業を待つ姿勢が見られた。
このような連携の姿勢は最後まで維持され、 策定会議・策定幹事会では、 市民参画推進委員会と
の調整がとれているかどうかを確認する発言が何度かあった (第10回策定幹事会1鰐部清掃センター所長、
第11回策定幹事会2坂環境経済部次長、 第7回策定会議2環境経済部長)。
②活用の方法
まちづくり指標を総合計画の策定において具体的にどのように活用するかは、 当初は決まってい
26後)、 次のように決定されていった。
なかったが (第1回参画委26後、 第3回参画委4
第1に、 まちづくり指標の基本理念 (キーワード) と基本構想のキャッチフレーズとの関係につ
いては、 2002年8月の策定幹事会において、 キーワードをそのままの言葉でなくても採用せざるを
得ない (第4回策定幹事会4事務局) という見解が示された。 そして、 市民参画推進委員会が行ったア
ンケートで上位3位までを占めた 「安心」 「快適」 「いきいき」 を採用することになった (第4回策
定会議2事務局)。 なお、 アンケートで支持率が低く、 市民になじみのない言葉だとされた 「共創」
も、 5つのキーワードをつなぐ言葉として入れられた (第7回策定幹事会2会長、 同3事務局)。
第2に、 まちづくり指標の生活課題を総合計画の施策に反映する方法については、 2002年12月の
策定幹事会において、 市民参画推進委員会の会長を務めていた後房雄氏が説明した。 すなわち、 38
55
の生活課題を必要なら修正して施策にするとともに、 5つのキーワードからトップダウンで考えて
2後) ということである。 この方法に従い、 総
必要な施策を新たに取り上げる (第5回策定幹事会1
合計画の施策は、 38の生活課題を反映した39の施策と、 市の行政が必要と考えた14の施策を加えた
ものとなった。
第3に、 まちづくり指標のめざそう値と役割分担値はそのまま基本計画に記載されたが、 これに
ついては次のような議論があった。
まず、 めざそう値については、 財政的な制約などから達成困難なものもあり、 修正が必要である
という意見が相次いだ。 市職員からは次のような意見が出された。 市民の要望を100%受けるのは
財政的な面もあり検討が必要である、 あくまで市職員として責任ある目標値を設定しなくてはなら
ない、 市民参画推進委員会は決定機関ではないため、 その意見は参考にして、 あくまで行政が作る
計画の助言を頂く (第1回策定幹事会1事務局)、 財政不況の中で数値を上げるのは困難なため、 目標
値の見直しの必要がある (第8回策定幹事会1神野財政課長)、 都市基盤は過去10年間はバブル期であり、
この現状値をもとに目標値を考えるのは危険である、 委員会へ市の現況をフィードバックする必要
がある (同2兼井都市建設部次長) などである。
これらの意見に対しては、 金がないと数値の上がらないものばかりではないので、 すべてが難し
いとは考えていない (第8回策定幹事会1事務局)、 まちづくり指標に行政が毎年全責任を抱える必要
はない (第5回策定会議3後) という説明がなされ、 結局、 めざそう値は基本計画にそのまま記載さ
れた。
しかし、 2003年10月の最後の策定会議でも、 めざそう値の記載を不安視する発言が相次いだ。 め
ざそう値が高いものもあるが、 今後の取り扱いはどのように行っていくのか (第7回策定会議2総務
部長)、 成果指標が市民の目に触れて問題はないのか (同2環境経済部長)、 達成できなくてもかまわ
ないという認識でよいのか (同2教育部長) などである。 これらに対して、 事務局からは、 努力目標
として管理していく、 最大限努力して達成できない場合は仕方がないと思う (同2事務局) という回
答があった。
次に、 分担値については、 理解しにくい、 少人数の市民参画推進委員と行政担当者で作ったもの
に信憑性があるか (第9回策定幹事会3船橋水道部次長) という意見が出された。 その一方で、 市民の
やるべきことを市民に考えてもらうようなシステムを作りたい、 市民がやるべきことなのに指標の
達成度が低かったときに行政が責められては困るので、 載せることは良いのではないか (同2野村
総務部次長) という意見も出された。 そして、 まちづくり指標を反映した99の指標については、 分
担値が記載された。
まちづくり指標は総合計画の骨格として活用されたが、 市民参画推進委員会がそのために積極的
に活動したわけではない。 2002年12月の全体会では、 会長から、 総合計画にまちづくり指標のほと
んどが採用されると思う (第8回参画委15後) という見通しが示され、 2003年4月の幹事会でも、 38
の生活課題に対応する施策を総合計画の骨格にする形で総合計画の素案ができている (第7回参画幹
56
事会18後) ということが紹介された。 しかし、 委員からは、 私は総合計画案の作成にどう関わった
のかがよく分からないし、 知らされていない (同24若子) という発言もあった。
まちづくり指標が総合計画の骨格として活用された原因は、 次の3つに整理することができる。
第1に、 まちづくり指標の作成と総合計画の策定の時期が一致したこと、 第2に、 市長が市民参画
推進委員会やまちづくり指標を重視し、 総合計画の策定に活用する意向を示したこと、 第3に、 市
民参画推進委員会と総合計画策定会議が組織的・人的に緊密に連携したことである。
(1) 時期の一致
まちづくり指標の作成と総合計画の策定は時期が一致していた。 先述のように、 2002年2月の市
民参画推進委員会の第1回全体会では総合計画を策定することが紹介され、 5月には総合計画策定
会議の第1回全体会・幹事会が開催された。 そして、 市民参画推進委員会では、 総合計画の策定と
委員会の議論が並行するので、 当然、 両者を結びつける必要があると述べられた。
ただし、 このような時期の一致は、 まちづくり指標の総合計画策定での活用にとって有利な面ば
かりではなかった。 すなわち、 委員会の2年間の活動を経てから総合計画を作るというスケジュー
ルは許されていないので、 委員会での議論を全面的に総合計画に活かすことはタイミング的に難し
い (第3回参画委31後) ということである。 また、 先述のように、 策定会議が委員会の作業を待つこ
ともあった。 そして、 総合計画策定スケジュールによる時間的制約の中で、 生活課題や施策にとっ
ての有効性を基準にした事業の精査は不十分なままに止まらざるを得なかった (後 2005 98) と
も述べられている。
(2) 市長の意向
2001年に当選した市長は、 市民参画推進委員会やまちづくり指標を重視し、 総合計画の策定に活
用する意向を示した。
まず、 市民参画推進委員会とまちづくり指標は、 市長の公約に基づくものであった。
2001年5月、 現市長が 「市民参画の推進」 を選挙公約に掲げて初当選し、 7月には市民参画推進
準備室 (10月から市民参画推進室) を設置した (千葉 2005 102、 参画委活動報告書14、 第1回参画委3
市長)。 そして、 12月から翌年1月にかけて委員を公募した上で、 2月に市民参画推進委員会を設
置した (千葉 2005 102、 参画委経過)。 市民参画推進委員会の16回の全体会のうち、 4回には市長が
出席し、 9回には助役が出席した (各回会議録)。
市民参画推進委員会の会長に就任した後房雄氏は、 委員会設置に先立つ講演や第1回委員会で、
市民参画の手段として成果指標を作成することを提案した。 後氏によると、 市民参加は今はやりで、
委員の公募などは行われているが、 実質的に市民参加まで行くのは難しい。 そこで、 自分達で目標
を設定し、 自分達も加わってそれを実現するという自治の原型に近づくための有力な手段として、
成果指標を提案した。 成果指標を使うことによって、 選挙で掲げられた基本方針の方向に進んでい
28、 第1回参画委6
8後) と述べられた。
るかどうかを根拠を持って議論できる (後・上山 2004 23
次に、 市民参画推進委員会の活動やまちづくり指標を総合計画の策定に活用することは、 市長の
57
意向であった。 2002年4∼5月の市民参画推進委員会の幹事会では、 委員会において市民参加の形
で総合計画の議論をすることが東海市の方からの提案である (第1回参画幹事会3後) ということや、
まちづくり指標を重視する形で総合計画を作ることが市長の意向である (第2回参画幹事会11後) と
いうことが紹介された。 2004年3月の最後の委員会でも、 まちづくり指標を是非とも第5次総合計
画の基本として据えたいということで取り入れた (第16回参画委4鈴木市長) という発言があった。
また、 まちづくり指標を総合計画で活用することには職員の抵抗があったが、 最終的には市長の
公約の具体化であることが決め手になったと言われている (千葉 2005 103)。 市民参画推進委員会
の幹事会でも次のようなやりとりがあった。 市民参画推進室長から、 第5次総合計画はこれまでと
全く異なる作り方をしていて職員は混乱している、 99の指標を達成するための事業をどうしたらい
いか非常に悩んでいる (第8回参画幹事会25山本室長) という発言があった。 これに対して、 委員から、
市長が公約で言っているので、 やはり市民としてはやってもらいたいと思う (同25若子) という意
見が出され、 室長からも、 もちろんやらなければいけない、 そこに職員の苦労、 重たい荷物がある
(同25山本室長) という回答があった。
(3) 組織的・人的な連携
まちづくり指標を作成した市民参画推進委員会と総合計画策定会議は、 当初から組織的、 人的に
緊密に連携していた。
まず、 組織的な連携として、 市民参画推進委員会とその事務局を担当した市民参画推進室は、 当
初は企画部に置かれ、 2002年4月からは助役直轄とされた (第1回参画委26助役、 第3回参画委3助役)。
企画部企画政策課は総合計画策定会議・幹事会の事務局を担当する組織であり、 助役は総合計画策
定会議の委員長である (総合計画195)。
市民参画推進委員会の全体会や幹事会には、 特に総合計画の素案が固まるまでの時期には、 助役、
企画部長、 企画政策課長がたびたび出席した(4)。 また、 2002年9月以降の全体会、 2002年7月以降
の幹事会の会議録は、 企画政策課の職員が閲覧、 押印した (各回会議録)。 さらに、 市民参画推進委
員会の各部会には、 当初は総合計画策定会議の正副部会長が、 途中からは次長・課長クラスの職員
が出席した (第1回策定会議8事務局、 第7回参画幹事会39山本市民参画推進室長)。
次に、 人的な連携として、 2002年3月まで市民参画推進室長を務めていた職員が、 4月に企画部
次長に任命され、 2003年4月には企画部長となった。 また、 2003年3月まで市民参画推進室の統括
主幹を務め、 市民参画推進委員会のすべての全体会・幹事会に出席していた職員が、 4月に企画政
策課長に任命された (各回会議録、 第15回参画委26近藤企画政策課長)。
さらに、 市民参画推進委員会の会長を務めていた後房雄氏は、 総合計画策定の委託を受けたNP
10後)
Oの代表理事でもあり、 両者をうまくつなぐ形で総合計画の策定に活かしたい (第3回参画委4
と述べていた。 そして、 後氏は、 NPOの代表理事として、 総合計画策定会議・幹事会に出席し、
まちづくり指標を総合計画の策定に活用する方法を説明するなどした (第3回策定幹事会1、 第5回策
定幹事会1
3、 第5回策定会議3)。
58
以上、 まちづくり指標が総合計画の骨格として活用された3つの原因を挙げたが、 これらは相互
に関連している。
まず、 まちづくり指標の作成と総合計画の策定の時期が一致していたため、 指標の作成から総合
計画の策定までの間に市長が交代するといったことはなかった。 また、 市民参画推進委員会の全体
会・幹事会に初回から企画部門の部長・課長が出席するなど、 まちづくり指標を総合計画の策定に
活用するための連携を当初からとることができた。
次に、 まちづくり指標の作成と総合計画の策定を同時期に行うことは、 市長の意向であった。 市
長は、 2002年2月に市民参画推進委員会を設置し、 総合計画を2年間前倒しして2002∼2003年度に
策定することにした(5)。 また、 市民参画推進委員会と総合計画策定会議の連携を可能にした組織編
成、 人事異動、 NPOへの委託の決定は、 市長の権限に属する事項である。
本章では、 総合計画策定後、 まちづくり指標の行政での活用を促進するために開催されている
「まちづくり大会」 の背景と内容、 そして、 行政側の動きを見ていく。
「まちづくり大会」 とそれを開催している 「まちづくり市民委員会」 は、 市民参画推進委員会が
検討、 提案したものである。 また、 市民参画推進委員会は、 まちづくり大会の先駆けとして 「まち
づくりキックオフ大会」 を開催した。
(1) 市民参画推進委員会での検討
市民参画推進委員会では、 2003年3月頃から、 まちづくり指標に関する行政側と市民側の議論の
場を設けることや、 市民側の後継組織を作ることが検討された。 前者は2003年度の 「まちづくりキッ
クオフ大会」 と2004年度以降の 「まちづくり大会」 であり、 後者は2004年度に発足した 「まちづく
り市民委員会」 である。
①行政と市民の議論の場
市民参画推進委員会では、 まちづくり指標の活用の柱として、 毎年最低1回、 指標の新しい数値
が出た時点で、 数値の変化について行政側と市民側で議論することを定例化することが提案された。
市長や各部局の責任者が行政の活動や結果を説明し、 市民側からも市の行政の1年間の活動を評価
28後、 第11回参画委8後)
するという場である。 (第7回参画幹事会19後、 第10回参画委12
行政と市民の議論の場を設けることの意義は次のように説明された。 行政の活動がまちづくり指
標に焦点を当てた形で行われなければ、 市民活動だけでは数値は改善しないので、 市の行政が変わ
らなければならない。 これは行政の自己改革として行われることも必要だが、 市民側から行政側に
働きかけることも重要である。 このような議論の場は、 青森県にもない、 東海市のまちづくり指標
11後、 第9回参画幹事会15
16後) と述べられた。
の非常に重要な特徴である (第14回参画委10
59
②キックオフ大会
行政と市民の議論は、 本格的には新しい数値が出た後の2004年度から行うこととされたが、 2003
年度にもキックオフ (開始) の大会を行い、 年1回の検討会の第1回目とすることが提案された。
(第8回参画幹事会14後、 第7回参画幹事会20後、 第11回参画委8後、 第12回参画委5後)
キックオフ大会には次の2つの目的があった。
第1に、 まちづくり指標を市政運営の重要な指標にすることを市長が正式に表明するということ
である (第14回参画委12後)。 まちづくり指標は行政評価という性格が一番中心なので、 行政評価を
受ける最高責任者である市長の同意がなければその仕組みは動かない。 そこで、 市民が設定した指
標に基づいて市が行政評価を毎年受け、 それを参考に行政を改善していくシステムを運用すること
24後) ということである。
を、 市長に正式に表明してもらう (第10回参画幹事会23
第2に、 行政の各部局・各職員にまちづくり指標を浸透させることである。 この点については次
のように説明された。 市長が宣言しても、 行政の各部局や1人1人の行政職員がどれだけ本気で受
け取るか次第で全く意味が変わってくる。 各部局がそれぞれの指標について責任を負う立場にあり、
指標について活動の成果を評価されるということを、 日常的に意識しながら仕事をするところまで
浸透しなければならない。 評価されても行動が変わらないのでは意味がなく、 評価に照らして部局
や行政職員の活動が修正されていくメカニズムを作ることがまちづくり指標の非常に重要な意味で
ある。 そこで、 来年以降、 指標について各論の部分で議論することを覚悟してもらい、 行政の各職
28後) ということである。
員にまちづくり指標をきちんと受け止めてもらう場を設定する (同26
③後継組織
行政と市民の議論の場への市民側の参加者として、 2003年度は市民参画推進委員会という受け皿
22
23後) と指摘された。
があるが、 2004年度以降の体制を考える必要がある (第7回参画幹事会20
そして、 その一例として、 埼玉県志木市が 「市民委員会」 という名称でボランタリーな第2市役
所を作っていることが紹介された。 これは、 市政面に関する調査・研究をボランタリーで行う市民
団体であるが、 市役所と同じような形で企画、 総務、 生活環境など9つの部会を作り、 252人の市
民が参加して市役所と対応する形で調査・提言を行っているというものである (同23後)。 なお、 後
継組織の姿が具体化した2003年12月頃から、 将来的には市民主体の活動になることが予定されてい
30濱田、 同30佐治主幹)。
た (第11回参画幹事会27
(2) まちづくりキックオフ大会
2003年10月、 「まちづくりキックオフ大会」 が開催された。 大会では、 市長のあいさつ、 まちづ
くり指標の活用方法に関する意見発表会、 分野別意見交換会などが行われた。 参加者は、 委員35人、
17)
職員50人、 一般 (その他) 165人であった。 (参画委活動報告書13
市長からは、 まちづくり指標を大変評価していること、 総合計画の中にまちづくり指標の考え方
をすべて入れること、 行政内部でもまちづくり指標を高めるために事業展開していること、 計画・
実施・評価の仕組みの中で市民と行政が議論し合うことですばらしいまちづくりができると確信し
60
ていることなどが表明された (同16)。 また、 分野別意見交換会では、 5つの分野ごとに、 委員、 職
員、 その他の参加者が、 まちづくり指標の数値を改善するための方策などについて話し合った (同
18
22)。
(1) まちづくり市民委員会
まちづくり指標を作成し、 まちづくりキックオフ大会を開催した市民参画推進委員会は、 2003年
度で活動を終了し、 2004年6月に後継組織として 「まちづくり市民委員会」 が発足した。 市民委員
会は、 まちづくり指標の数値の推移などを記載した まちづくりガイドブック の編集や、 年2∼
3回の 「まちづくり大会」 の開催などを行っている。
市民委員会は、 東海市の要綱に基づいて設置され、 委員は市長から委嘱されている。 委員 (任期
2年、 再任可) は、 当初、 公募38人、 推薦12人の計50人だったが、 2期目の2006年度からはすべて
公募となった。 市は委員会の運営に必要な費用を負担するが、 委員活動は無償であり、 活動への対
価は支給されない。
委員会は、 総会、 全体会を開催するほか、 幹事会、 部会を置き、 プロジェクトチームを置くこと
もできる。 幹事会、 部会には、 市との連携を図るため、 市職員の出席が認められている。 部会は、
総合計画に対応した6つの分野ごとに置かれている。 プロジェクトチームは、 まちづくり大会やガ
イドブック編集に関するものなどが置かれている。
2006年4月には、 それまで企画政策課が担ってきた事務局を独立させ、 市民活動センターの中に
設置した。 事務局長と事務局次長は、 委員のうちから会長が指名し、 給与が支給される。 (千葉 2005
103、 三海
2007 34、 市民委設置要綱、 市民委規約、 市民委会議予定)
(2) 評価・提案・確認の大会
まちづくり市民委員会は、 年2∼3回の 「まちづくり大会」 を開催している。 大会は 「評価の大
会」 「提案の大会」 「確認の大会」 に分けられ、 それぞれ6∼7月、 9∼10月、 3月に開催される(6)。
「評価の大会」 では、 まちづくり指標の変化から生活課題の改善状況やまちづくりの進み具合を評
価し、 「提案の大会」 では、 生活課題の改善に効果のある事業等を委員会が提案し、 「確認の大会」
では、 委員会の提案がまちづくりにどのように反映されたかを確認する。 大会には、 委員30∼40人、
市職員70∼110人、 一般市民等30∼80人程度(7)が出席している。
大会の内容は毎年少しずつ異なるが、 おおむね次のようなものである。
「評価の大会」 では、 市長による現状の報告、 委員会による評価の発表、 参加者間の意見交換な
どが行われる。 市長の報告では、 指標の数値が改善・悪化したものの比率などが簡単に紹介される。
また、 市民委員会と市の行政の双方から、 指標の数値の推移、 改善・悪化の評価、 原因の分析、 今
後の方策などを記載した評価書 (委員会からは
まちづくりの進み具合の確認表 、 行政からは
施策の進み具合一覧表 ) が提出される。 そして、 全体会や分科会では、 委員、 市職員、 一般市民
等の間で意見交換が行われる。
61
「提案の大会」 では、 委員会からの提案の発表、 市長のコメント、 意見交換・質疑応答などが行
われる。 委員会からは、 提案事業の内容や効果を記載した提案書が出される。 2006年度と2007年度
の提案書には、 提案事務事業、 活動、 直接の結果、 短期・中期・長期・最終成果の関係を示したロ
ジックモデル(8)も記載された。 そして、 市長のコメントでは、 提案を行政の各部局で十分に検討し
たい、 予算に取り込んでいきたい、 提案に沿った事業も重要な要素と位置づけている、 来年度予算
に反映できるか真摯に受け止めて考えていきたい、 などの発言があった。
「確認の大会」 では、 提案への対応状況の確認、 市長のあいさつ、 意見交換などが行われる。 委
員会からは、 提案に関する市の対応 (特に予算への反映) や他団体への働きかけなどを記載した確
認書が提出される。 (市民委大会)
これらの大会の前後には部会が開かれ、 評価、 提案、 確認の内容が検討される。 部会は、 2006年
度には各13∼30回、 平均20回開催された (市民委会議予定)。 部会には、 市職員が出席し、 事業の説
明などを行うこともある (各回会議録)。
先述のように、 総合計画の策定時には、 生活課題・施策に照らした事業の精査が不十分であった
とも言われている。 そこで、 総合計画策定後、 市民委員会やまちづくり大会による協働型のマネジ
メント・サイクルを回すことで、 事業の再点検を行っている (後 2005 100、 2005 98) と述べら
れている。 行政側も、 市民委員会による評価・提案の仕組みを生かして、 施策に対してより効率的・
効果的に貢献する事業を設定した実施計画を策定している (第4次実施計画1など) と述べている。
2006年度後半からは、 行政側でもロジックモデルを作成し、 実施計画の策定に活用する動きが見
られる。(9)
2006年10月、 企画政策課がロジックモデルの作成を試行し、 2007年5月、 研修を行った上で、 各
課にロジックモデルの作成を依頼した。 各課は5月末までに第1次案を提出し、 6月前半に企画政
策課がチェックした。 企画政策課は、 行政ではなく市民の立場からの表現にする、 飛躍がある部分
を埋める、 説得力のあるものにするなど、 各課に再検討を依頼した。 各課は6月後半に再検討し、
7月中旬には各施策に関係する複数の課間の調整を行った。 そして、 7月下旬に各施策の主管課が
第2次案 (最終案) を提出した。 なお、 今回作成されたロジックモデルは、 まだ問題が多いという
理由で公表されていない。
ロジックモデルの作成にあたっては、 特に他の関係課との調整が困難であったと言われている。
また、 ロジックモデル作成の参考文献が少なく、 分かりやすいマニュアルの作成も困難であったと
されている。 各課からは、 ロジックモデルの作成はいつも頭の中で行っている作業であり、 なぜこ
のようなことをする必要があるのか、 という反応もあったとのことである。 今後、 ロジックモデル
の作成が続けられるかどうか不安もあると述べられている。
ロジックモデルの活用方法としては、 実施計画策定、 予算編成、 事務事業評価での活用が考えら
れているが、 詳細は未定である。 これらのうち、 実施計画策定での活用は、 2007年度に一部開始さ
れた。
62
実施計画の策定は次のような手順で行われる。 まず、 8月に企画政策課が担当課から新規・拡大・
削除事業のヒアリングを行い、 9月初めに1次査定を行う。 そして、 9月中旬から10月にかけて、
復活要望、 査定を行う。 実施計画に記載された事業は、 予算編成の際に優先的に扱われることになっ
ている。
2007年度の実施計画策定は、 基本的には従来どおりの方法で行われたが、 一部についてはロジッ
クモデルが活用された。 2008年度には全体で活用したいというのが企画政策課の意向である。
なお、 2007年度はまちづくり指標の1回目のめざそう値の年度であり、 2008年度は第5次総合計
画の前期5年が終わる年度であることから、 2007∼2008年度には後期基本計画の策定が予定されて
いる。 ただし、 単位施策の組み替えなどの大幅な変更はなく、 めざそう値をすでに達成した指標の
見直しや、 単位施策の表現の修正など、 必要最小限の変更にとどまる予定である。 従って、 ロジッ
クモデルを活用する機会は、 当面、 実施計画の策定時となる。
本章では、 東海市のまちづくり指標を青森県の政策マーケティング(10)と比較する(11)。 第1節では、
総合計画の策定(12)における活用状況を比較し、 両者の相違の原因を分析する。 第2節では、 青森県
の政策マーケティング委員会が行政での活用に関して直面した困難に、 東海市がどのように対処し
たかを明らかにする。
(1) 活用状況
東海市のまちづくり指標は総合計画の骨格として活用されたが、 青森県の政策マーケティングは
総合計画の策定において断片的に活用されるにとどまった。
東海市では、 まちづくり指標の5つの基本理念、 38の生活課題、 99の指標が、 総合計画の5つの
理念、 39の市民施策、 99の成果指標に反映され、 その上で、 行政が14の施策と43の指標を追加した。
また、 まちづくり指標から採用された99の成果指標については、 まちづくり指標と同じめざそう値
と役割分担値が記載された。
これに対して、 青森県では、 総合計画の主要部分は分野別の小委員会の議論を積み上げて作成さ
れた。 そして、 答申の素案が開発審議会で決定された後に指標が検討され、 政策マーケティングの
指標の一部が取り入れられた (政策マーケティングの指標は66、 総合計画の指標は68、 両者に共通
の指標は19である)。 総合計画の各指標には 「期待値」 (目標値) が掲げられているが、 これは、 政
策マーケティングのめざそう値とは別に、 県民・県職員を対象としたアンケート調査に基づいて設
定されたものである。 各指標には分担値は掲げられていないが、 各主体 (行政、 県民、 企業、 地域、
団体など) の役割が記述されている。
東海市と青森県では、 総合計画の位置づけも異なっている。 東海市の総合計画は、 行政の総合計
画であり、 行政が行政の責任を果たすための活動の計画 (第3回参画委29後) である。 これに対して、
青森県の総合計画は、 県庁と県民の取り組みの方向を示すもの (青森総合計画6) と位置づけられて
63
いる。 なお、 東海市でも、 行政中心の総合計画ではなく、 NPO、 企業、 コミュニティ、 住民など
の支援を行政がやっていき、 その中で一体となって町を作るという総合計画があってもいいのでは
ないか (第3回参画委31若子) との意見も出されたが、 採用されなかった。
(2) 相違の原因
東海市のまちづくり指標が総合計画の骨格として活用された原因は、 まちづくり指標の作成と総
合計画の策定との時期の一致、 市長の意向、 市民参画推進委員会と総合計画策定会議の組織的・人
的な連携であった。 青森県では、 これらの条件は東海市ほどには満たされていなかった。
①時期の一致
東海市では、 まちづくり指標の作成と総合計画の策定の時期が一致したが、 青森県では、 政策マー
ケティング委員会が1999年5月に発足してから、 2003年11月に総合計画の策定が庁議了解されるま
での間に、 約4年半が経過していた。 このことは、 次のような点で、 総合計画策定における政策マー
ケティングの活用を困難にした。
第1に、 知事が交代したことである。 東海市では、 2001年5月に当選した市長が市民参画推進委
員会を設置し、 同じ市長の下で総合計画が策定された。 これに対して、 青森県では、 政策マーケティ
ング委員会を設置した前知事が2003年5月にスキャンダルで辞職し、 6月に当選した現知事の下で
総合計画が策定された(13)。
第2に、 総合計画策定の時期に、 政策マーケティングが再構築の時期を迎えたことである。 政策
マーケティングは、 2005年度を一応の区切りとしており、 めざそう値も2005年度に実現したい水準
として設定されていた。 そこで、 2003年11月に政策マーケティングの再構築が始まり、 2004年11月
に報告書が提出された。 東海市では、 まちづくり指標の作成と総合計画の策定が同時期に行われた
ため、 両者を結びつけることが当然視されたが、 政策マーケティングは、 開始から4年以上が経過
し、 再構築の議論も始まっていたため、 総合計画に取り入れることが当然であるとは言い難かっ
た(14)。 また、 総合計画の策定と政策マーケティングの再構築の時期が一致したことから、 両者の作
業を結びつけることも模索されたが、 結局、 時間的な制約により断念することになった(15)。
②トップの意向
東海市では、 市長が市民参画推進委員会やまちづくり指標を重視し、 総合計画の策定に活用する
意向を示したが、 青森県では、 知事が政策マーケティングをそれほど重視することはなく、 総合計
画の策定に活用する意向も示さなかった。
青森県でも、 当初は、 知事が政策マーケティングをある程度重視していた。 政策マーケティング
委員会の1回目の会合 (1999年5月) には知事が出席し、 1999年11月の委員会では、 指標を使って
目標を達成していく政策づくりへの知事の理解も深く、 その都度進捗状況を報告している (青森Ⅰ
第3回11青山) ということが職員から紹介された。 また、 政策マーケティング委員会の事務局を担当
した政策推進室は、 1995年に初当選した前知事が企画部調整課を改組して設けたものであり、 2001
64
12
5
2001
3
6 知事)。
年には企画部から独立して知事直轄とされた (青森県議会定例会 1995
しかし、 知事が政策マーケティング委員会に出席したのは初回だけであった。 また、 前知事の下
では、 政策マーケティング委員会の設置前に、 1997∼2006年度を計画期間とする総合計画 ( 新青
森県長期総合プラン ) が策定されており、 政策マーケティングを総合計画の策定に活用する具体
的な動きは生じなかった。
そして、 2003年5月には前知事が辞職し、 6月の選挙で当選した現知事の下で総合計画が策定さ
れた。 2004年1月には、 総合計画の主要部分を分野別の小委員会の議論の積み上げによって作成す
ることや、 答申の素案を決定した後で指標を検討することが、 知事も出席した開発審議会で決定さ
れた。 その後、 小委員会では政策マーケティングの活用も提言されたが、 総合計画の策定方法は基
本的に変更されなかった。 そして、 2005年度末には、 政策マーケティング委員会が廃止された。
③組織的・人的な連携
東海市では、 市民参画推進委員会と総合計画策定会議が組織的・人的に緊密に連携していたが、
青森県では、 政策マーケティング委員会と総合計画の策定者との連携は、 東海市ほど強くはなかっ
た。
まず、 政策マーケティング委員会の事務局を担当した政策推進室は、 1999年に企画部から独立し、
知事直轄となっていた。 2004年4月には、 政策推進室が廃止され、 政策マーケティング委員会の事
務局は企画政策部企画調整課に移ったが、 この時点ではすでに上述のような総合計画の策定方法が
決まっていた。
政策マーケティング委員会の委員のうち2人は、 総合計画の策定委員会の委員を務め、 うち1人
は策定委員会の委員長に就任した。 しかし、 策定委員会の第1回会合が開かれた2004年4月下旬に
は、 すでに開発審議会で策定方法が決定され、 小委員会も各2∼3回開催されていた。
2004年3月の政策マーケティング委員会では、 委員長から、 総合計画の策定方法がどうなるのか
良く分からない、 見えない (青森Ⅲ第2回分科会20中橋) という発言があった。 策定委員会の委員長に
就任した委員からも、 政策マーケティングは計画部門にさえ浸透していない (青森Ⅲ第6回26佐々木)
ということが紹介された。
青森県の政策マーケティング委員会は、 政策マーケティングの行政での活用に関してさまざまな
困難を経験した (児山 20062007)。 本節では、 東海市がこれらの困難にどのように対処したかを
分析する。 以下、 ベンチマーキングの方法と内容、 行政での活用を進める方法、 委員会の位置と役
割、 行政での活用方法、 に分けて記述する。
(1) ベンチマーキングの方法と内容
青森県の政策マーケティング委員会では、 指標 (点検項目、 評価指標) をどのように選定するか、
目標値 (めざそう値) をどのように設定するか、 分担値をどのように解釈するかが議論された。
65
①指標の選定
政策マーケティング委員会では、 指標の選定方法について次のような議論があった。
第1に、 行政に期待される役割を考慮すると、 少数者の意見も取り入れる必要があるのではない
かという意見が出された。 そこで、 重要度 (回答者の平均値) だけでなく最重要率 (「最重要」 を
選んだ回答者の比率) に基づいて指標 (点検項目) を選定することになった。 その結果、 「離別、
死別、 家族離散のときにも暮らしが成り立つ」 など、 マイノリティの問題が浮かび上がってきたと
される。
東海市の市民参画推進委員会でも、 青森では弱者の意見もどんどん上がっているのではないか
(第3回参画幹事会38若子)、 特に福祉分野では対象者とそうでない人の開きがあるのではないか (第5
回参画委6山根) という指摘があった。 しかし、 これに対しては、 アンケート調査は市民全体から平
均的ニーズを聞くのが目的であり、 少数の人のニーズは別の方法で把握する (同6後) という説明
があり、 少数者の意見を指標の選定の際に意識的に取り入れることはなかった。
第2に、 青森県では、 行政での活用を容易にするため、 社会的注目を集めそうな指標を選定する
かどうかが議論された。 そして、 そのような意図を持った指標も入れることになった。 これに対し
て、 東海市では、 意図を持った指標を入れるという主張はなく、 47人の委員の意見ではなく10万人
の東海市民の平均的な意見を根拠にすることが指標の強みである (第5回参画委17後) と述べられた。
第3に、 青森県では、 行政で活用しやすいように行政の事業と対応した指標を選ぶかどうかが議
論されたが、 行政で活用しにくくても住民のニーズを反映した指標を選ぶことになった。 東海市で
も、 問題解決の手段 (電子カルテ、 グループホームなど) を特定するような指標の設定の仕方を避
20
30
31後)。
け、 最終的なアウトカムを測る指標を設定することが確認された (第7回参画委19
第4に、 青森県では、 住民のニーズと行政の事業を結びつけるため、 ロジックモデルを検討し、
中間的な指標を選定する必要性や、 その困難が議論された。 住民のニーズを反映した指標は行政の
事業から遠いので、 両者を媒介する中間的な指標を選定する必要があるという意見が出される一方
で、 両者の関係は論理的・客観的には決まらず、 政治家や政党が公約として出すなど政治の役割が
必要になるとも指摘された。 東海市では、 総合計画の策定時にはこのような議論はなかったが、
2006年度に市民委員会がロジックモデルを作成し、 行政側も2006年度後半からロジックモデルの作
成を開始した。 ただし、 問題が多いため公表できない状態であり、 また、 中間的な指標は設定され
ていない。
②目標値の設定
政策マーケティング委員会では、 目標達成へ向けた活動に行政を巻き込むため、 目標値 (めざそ
う値) の設定に行政を参加させるかどうかが激しく議論された。 結局、 行政が目標値の設定への参
加を拒否したため、 県内の実務家と委員会関係者が設定した。 しかし、 目標値の設定に行政が参加
しなかったことは、 政策マーケティングの行政での活用が進まない原因としてしばしば指摘された。
東海市でも、 目標値 (めざそう値) は各分野の関係者・当事者と市民参画推進委員会の市民委員
が設定した。 この点については、 行政の担当者が一番よく分かっているので、 参考意見として行政
66
の意見も聞くことが望ましいのではないか (第10回参画委16宮本) という発言もあったが、 それ以上
の議論にはならなかった。 そして、 行政が参加せずに設定された目標値は、 そのまま総合計画に取
り入れられた。 行政側からは、 財政的な制約などから達成が困難なものもあるという意見が相次い
だが、 これに対しては、 行政が全責任を抱える必要はない、 最大限努力して達成できない場合は仕
方がない、 という説明がなされた。
③分担値の解釈
政策マーケティングとまちづくり指標には、 各主体 (個人・家庭、 NPO、 町内会、 企業、 学校、
市、 県、 国など) の役割分担の比率を示す分担値が記載されている。 そして、 青森県では、 分担値
によって県の行政の役割が相対化され、 行政での活用が進まないという面もあった。
東海市でも、 このような可能性は認識されていた。 どの主体の役割が大きいということを強調し
ても、 他の主体が重要ではないという話になる (第12回参画委23後)、 相手に対する適度な責任追及
と他者への責任転嫁は紙一重である (後・上山 2004 68) と述べられていた。 また、 市職員からは、
市民がやるべきことなのに指標の達成度が低かったときに行政が責められては困るので、 分担値を
総合計画に載せることは良いのではないか、 という発言もあった。
しかし、 東海市では、 行政の役割は分担値の数字以上に大きいと解釈された。 行政の役割分担値
は10数%でも、 民間の主体とは違い、 市長の下で1つの組織体になっているため動かしやすく、 そ
の意味で実質的には数字以上の大きな責任を持っている (第10回参画委30後、 第8回参画幹事会23後) と
いうことである。 他にも、 分担値の考え方をとっているので、 行政の側が責任を果たすために、 ま
ちづくり指標を前提に総合計画を策定する (第8回参画委3後)、 市民の活動で世の中が突然変わる
というほどの力はないので、 行政の活動を変えることで指標を良くするという話にまずは行くべき
38後) という見解が示された。 なお、 生活課題を改善するための主体は
である (第11回参画幹事会37
コミュニティにあるべきだと思う (第Ⅰ期第6回市民幹事会2委員) という意見も出されたが、 各主体
の中で特に指標の改善に大きな役割を持つのは行政である (同2後助言者) という説明がなされた。
ただし、 役割分担値に掲げたさまざまな主体、 特にコミュニティへの働きかけが、 今後の重要な課
題になるとも述べられている (三海 2007 35)。
以上のように、 東海市のまちづくり指標の内容と作成方法は、 青森県の政策マーケティングと同
様に、 あるいはそれ以上に、 行政で活用しにくいものであった。 少数意見に配慮した指標や、 社会
的注目を集めそうな指標、 行政の事業に近い指標を選ぶことはなく、 目標値の設定に行政は参加し
なかった。 また、 各主体の役割分担値も記載されている。
しかし、 このような使いにくさは、 まちづくり指標が行政で活用されない原因にはならなかった。
その一因は、 分担値の数字以上に行政の役割が大きいと解釈されたことであると考えられる。
ただし、 住民のニーズに近い指標と行政の事業をどのように結びつけるかという課題は残されて
いる。 行政はロジックモデルの作成を始めたが、 まだ問題が多く公表できない状態であり、 また、
中間的な指標は設定されていない。
67
(2) 活用促進の方法
青森県では、 政策マーケティングの行政での活用を進める方法として、 ①目標値と現状値のギャッ
プを示して行政に衝撃を与える、 ②行政職員との会合を通じて活用を働きかける、 ③行政のトップ
が職員に活用を命令する、 ④予算・人事制度を改革し、 活用した部門・職員が利益を得るようにす
る、 というものが挙げられた。 しかし、 それぞれに難点があった。
①数値の衝撃
政策マーケティング委員会では、 目標値と現状値のギャップを示せば行政に衝撃を与え、 行政も
活用せざるを得なくなるという見方もあったが、 実際には行政の反応は鈍いものであった。 東海市
ではこのような見方はなかった。
②行政職員との会合
青森県では、 2001∼2004年度に、 政策マーケティング委員会が県庁職員との会合 (セッション)
を通じて行政での活用を進めようとした。 東海市でも、 キックオフ大会やまちづくり大会、 その前
後の各部会において、 市職員と委員らが意見交換を行っている(16)。
行政職員との会合の内容として、 政策マーケティング委員会では次のようなものが議論または実
施された。 第1に、 目標値の達成度について行政に説明責任が生じることを伝える、 第2に、 目標
値に近づくための政策を行政が持っているかどうか自己点検を呼びかける、 第3に、 指標の数値に
表れた問題の原因や解決策を考える、 第4に、 指標と行政の活動を結びつけるロジックモデルを検
討する、 第5に、 政策マーケティングの活用状況について職員から意見聴取する、 というものであ
る。
東海市では、 上記のうち、 第1 (目標値の達成度についての行政の説明)、 第2 (目標値に近づ
くための政策の自己点検)、 第3 (指標の変化の原因分析や解決策の検討)、 第4 (ロジックモデル
の検討) の内容の会合が行われている。 評価の大会では、 市民委員会と行政の双方から、 指標の数
値の推移、 改善・悪化の評価、 原因の分析、 今後の方策などを記載した評価書が提出される。 また、
提案の大会では、 ロジックモデルを記載した提案書が市民委員会から提出される。 そして、 大会や
その前後の部会では、 評価や提案について行政と市民委員会の間で意見交換が行われている。
ところで、 青森県では、 行政職員との会合をその後の政策形成にどのようにつなげるかが課題と
なった。 会合の場ではさまざまな意見が出されても、 単なる実験で終わってしまい、 政策形成につ
ながらないということが何度も指摘された。
この課題に対処する方法として、 政策マーケティング委員会では、 会合に基づいて政策提案・予
算要求することが議論されたが、 1回の会合では無理である、 行政への陳情になるという問題が指
摘された。 また、 特定のテーマについて行政内に連絡会議を設置するよう提案することなども議論
されたが、 行政の動きは外発的・個別的・短期的ではなく内発的・全体的・長期的に作り出すべき
であるという反対意見が出され、 実施されなかった。
東海市では、 提案の大会で市民委員会が具体的な事業を提案し、 半年後の確認の大会で提案への
68
行政の対応状況を確認している。 青森県では、 政策提案・予算要求は1回の会合では無理であると
されたが、 東海市では、 市民委員会の各部会が事前に検討を重ねた上で提案している (部会には市
職員が出席することもある)。 また、 提案・確認の大会を通じて行政の動きを外発的・個別的・短
期的に作り出すことについては、 東海市では特に問題とされなかった。 ただし、 キックオフ大会の
分科会については、 行政への陳情の場になるという課題も指摘された (第Ⅰ期第3回市民幹事会2)。
なお、 青森県では、 会合への職員の協力を得るため、 組織ではなく個人としての意見を出しても
らうことにしたが、 組織の代表者の意見を聞きたいという要求もあった。 東海市のまちづくり大会
には、 職員が多数参加し、 行政側から組織として評価書が提出されている。
③トップからの命令
青森県では、 知事が部長に政策マーケティングと事務事業の関係を考えさせることも提案された
が、 トップダウンでは変化が表面的なものにとどまるという限界も指摘された。 また、 知事の交代
もあり、 政策マーケティングを総合計画の策定に活用する意向を知事が示すことはなかった。
東海市では、 市長が市民参画推進委員会やまちづくり指標を重視し、 総合計画の策定に活用する
意向を示した。 その後も、 市長がまちづくり大会に出席して、 評価の大会では指標の数値が改善・
悪化した比率を報告し、 提案の大会では市民委員会の提案を重視する旨の発言をしている。
その結果、 まちづくり指標は総合計画の骨格として活用された。 また、 評価の大会では行政側も
評価書を提出し、 確認の大会では市民委員会の提案への対応状況が公表されている。
④予算・人事制度の改革
青森県では、 予算・人事制度を改革し、 政策マーケティングの活用が各部門・各職員の利益に結
びつくような仕組みを作ることも提案された。 そうしなければ日本の行政には本当に浸透しない、
とも述べられた。 しかし、 このような改革はトップが決断しなければできないという問題も指摘さ
れ、 実際には行われなかった。
東海市では、 予算・人事制度の改革は委員会では議論されなかったが、 市民参画推進委員会の会
長が、 講演の中で市長と部長の契約という方式を示していた。 すなわち、 市長と部長の間で、 市長
が一定の枠予算と人員について裁量権を委ねる代わりに、 各部長が自分の担当する10程度のまちづ
くり指標について成果を約束する協定書を作り、 署名するというものである。 さらに、 部長と課長
の間でも、 単位施策・事務事業に関する指標に基づいた契約が結ばれるとされている (後・上山
2004 71)。
このような方式は東海市でも導入されていないが、 まちづくり指標の活用を予算に結びつける動
きは始まっている。 2007年度にはロジックモデルが実施計画の策定に一部活用され、 2008年度には
全体で活用したいという意向も示されている。 実施計画に記載された事業は予算編成で優先的に扱
われるため、 ロジックモデルを用いてまちづくり指標と事業の関係をうまく説明することが予算の
獲得につながることになる。 また、 各施策に関連する事業間で予算を組み替える裁量を各部門に与
えれば、 市長−部長−課長の契約という方式に近づいていく。
69
以上のように、 東海市では、 まちづくり指標の行政での活用を進めるために、 トップダウンの方
法とボトムアップ的な方法が組み合わされている。 総合計画での活用は主に市長の意向で進められ、
まちづくり大会には市長が出席してまちづくり指標や委員会の意見を重視する姿勢を見せている。
その一方で、 まちづくり大会や委員会の各部会では、 市職員と委員らが分野ごとに意見交換を行っ
ている。
今後、 長期的には、 市長の交代後もトップダウンによる活用促進が続くかどうか、 それなしにま
ちづくり指標の行政での活用が続くかどうかが課題となる (まちづくり指標が廃止される可能性も
ある)。 まちづくり指標の活用を行政内部に浸透させるための1つの方法は、 予算・人事制度の改
革であり、 その動きも見られるが、 今のところ小規模なものにとどまっている。
(3) 委員会の位置と役割
青森県では、 政策マーケティング委員会の位置と役割について、 行政との距離、 行政での活用促
進の優先度、 委員会の活動範囲が議論された。
①行政との距離
政策マーケティング委員会では、 行政と距離を置くことにより評価の客観性・信頼性を確保する
か、 行政に接近することにより行政での活用を進めやすくするかが議論された。 委員会は、 行政の
要綱に基づいて設置されたが、 将来的に独立の第三者機関になることも視野に入れて、 行政から意
識的に距離を置こうとした。 しかし、 行政との距離が開きすぎていることが、 行政での活用が進ま
ない一因として指摘された。
東海市の市民参画推進委員会は、 行政の要綱に基づいて設置され、 総合計画策定会議と緊密に連
携した。 市民参画推進委員会の分野別の5部会は、 第4次総合計画の5分野と対応していた。 この
点については、 5部会を作ってしまったことが気になる、 総合計画の見直しに位置づけているから
無理があるのではないか、 計画作りと市民参画の活動はうまく合わないのではないか、 という指摘
もあった (第2回参画委39玉村)。 しかし、 たまたま総合計画で使っている分野を使ったが、 必ずしも
総合計画が前提にあってそれに合わせて委員会を運営していくということではない (同42後) と説
明された。
まちづくり市民委員会も、 行政の要綱に基づいて設立され、 委員は市長から委嘱され、 第5次総
合計画と対応した分野別の6部会が設けられている。 2006年度には事務局が独立したが、 委員会運
営の費用は市が負担している。
このように、 東海市の委員会は行政と近い距離を保っているが、 このことによって評価の客観性
が低下したようには見えない。 例えば、 市民参画推進委員会は、 まちづくり指標の5つの理念を選
定する際に、 市長の公約にもあった 「共創」 をアンケート結果に基づいて落とすという判断をした
(第4回参画幹事会13宮本、 後、 第5回参画委10後)。 また、 市民委員会が作成した評価書には、 行政に対
する厳しい評価も記述されている。 ただし、 市民委員会が発足してから2年ほどの間は、 中立性を
疑われることもあったと言われている(17)。
70
②行政での活用促進の優先度
政策マーケティング委員会では、 行政での活用促進と行政以外の主体での活用促進のどちらを優
先するかが議論された。 当初は、 委員会が行政の要綱に基づく組織であることから、 比較的働きか
けやすいと思われた行政での活用の促進を優先した。 しかし、 行政での活用が進まなかったため、
行政以外の主体での活用をまず進めるという構想も浮上した。 そして、 委員会の最終年度には、 行
政での活用に関する議論や活動はほとんど行われなくなった。
東海市の市民参画推進委員会は、 総合計画策定での活用よりも市民・民間での活用の促進に力を
入れたが(18)、 これは、 行政以外での活用を優先したというよりも、 総合計画策定での活用が順調に
進んだためである。 市民参画推進委員会は、 市民向けの活動では微妙な立場にあり、 提案はしたい
26後) と述べられていた。 また、 市民委員会では、
が押し付けがましいのはよくない (第14回参画委20
生活課題を改善する主体はコミュニティにあるという意見も出されたが、 これに対しては、 市民委
員会の活動とまちづくりは別に考えた方がよい、 市民委員会は市長が設置したものであり、 委員は
委嘱されているので市に対して提案がしやすいが、 コミュニティや個人に物を言う権限はない (第
Ⅰ期第6回市民幹事会2後助言者) という説明もなされた。 なお、 2007年5月の幹事会では、 市民委員
会は行政をターゲットに活動してきた (第Ⅱ期第2回市民幹事会2横田) と述べられている。
③活動範囲
政策マーケティング委員会では、 行政での活用方法をどこまで具体的に示すかが議論された。 当
初は、 行政での活用方法は行政自身が検討すべきであるという立場をとっていたが、 活用が進まな
いことから、 委員会がより具体的に示す必要があると認識するようになった。 しかし、 委員会が事
業の組み合わせや役割分担などの膨大な話を示すことはできないという能力の限界も指摘された。
東海市では、 まちづくり指標の生活課題を総合計画の施策に反映する方法を、 市民参画推進委員
会の会長がNPOの代表理事として策定会議で説明した。 また、 市民委員会は提案の大会で具体的
な事業を提案している。 青森県の政策マーケティング委員会は15人前後の委員からなり、 機能別の
分科会が設けられていたのに対して、 東海市の市民委員会は50人以上の委員からなり、 分野別の部
会が設けられているという違いがある。
以上のように、 東海市の委員会は、 行政との近い距離を保ち、 その立場を活かしているが、 それ
によって評価の客観性が低下したようには見えない。 ただし、 信頼性には影響があったとも言われ
ている。 また、 東海市の委員会は行政に対して具体的な事業を提案しているが、 これは、 50人以上
の委員が年間20回程度集まることによって成り立っている。
(4) 活用方法
青森県では、 政策マーケティングの活用方法として、 予算編成での活用、 事務事業評価との連結、
総合計画策定での活用が議論された。 委員会では、 予算や事務事業と直接結びつけることも提案さ
れたが、 計画策定が間に入らなければ形式的なものになるという問題が指摘された。 そして、 総合
71
計画の策定が政策マーケティングの活用の最大の機会と捉えられた。 ただし、 県民の生活実感から
見た価値の体系である政策マーケティングと、 さまざまな価値の体系を総合しなければならない総
合計画は、 体系・機能が異なるという見方もあった。 また、 政策マーケティングが総合計画に反映
されても、 総合計画が必ずしも各部局の計画に反映されないという問題も指摘された。 結局、 政策
マーケティングは、 総合計画の策定に断片的に活用されるにとどまった。
東海市のまちづくり指標は、 当初から総合計画の骨格として活用された。 その際、 まちづくり指
標の基本理念・生活課題・指標を総合計画の理念・市民施策・成果指標として取り入れた上で、 行
政が施策・成果指標を追加するという方法がとられた。 まちづくり指標が総合計画の骨格となった
ことにより、 指標の数値が改善したかどうかを評価された時に行政としても責任が持てる (第10回
参画委30後) という意義が指摘された。 ただし、 施策と事業の関係については、 事業の精査が不十
分であったとも言われている。 また、 第5次総合計画は代表的な事業だけを挙げており、 その他の
事業が実現しないわけではない (第6回策定会議3事務局) という解釈もあった。
総合計画策定後、 市民委員会やまちづくり大会の仕組みを活かして、 事業を精査し、 実施計画を
策定していると述べられている。 また、 ロジックモデルを作成し、 それを実施計画の策定に活用す
ることにより、 間接的に予算編成に結びつける動きもある。
以上のように、 東海市のまちづくり指標は、 まず総合計画の骨格として活用され、 その後、 総合
計画を媒介に予算・事務事業との結びつきが図られている。
本稿は、 愛知県東海市のまちづくり指標が、 2007年9月までに同市の行政においてどのように活
用されたか、 その原因は何かを明らかにしてきた。
東海市のまちづくり指標は、 第5次総合計画の骨格として活用された。 その原因は、 第1に、 ま
ちづくり指標の作成と総合計画の策定の時期が一致したこと、 第2に、 市長が市民参画推進委員会
やまちづくり指標を重視し、 総合計画の策定に活用する意向を示したこと、 第3に、 まちづくり指
標を作成した市民参画推進委員会と総合計画策定会議が組織的・人的に緊密に連携したことである。
ただし、 短期間のうちに市長の意向で活用されたことにより、 まちづくり指標の生活課題や基本計
画の施策に照らした事業の精査が不十分であるという課題も残された。
総合計画の策定後も、 市民委員会がまちづくり大会を通じて行政での活用を促進している。 まち
づくり大会は、 評価の大会で市民委員会と行政の双方が現状を評価し、 提案の大会で委員会が事業
を提案し、 確認の大会で行政の対応状況を確認するという仕組みである。 行政側でも、 ロジックモ
デルを作成し、 実施計画の策定に一部活用する動きが見られる。
東海市のまちづくり指標を青森県の政策マーケティングと比較すると、 行政での活用が進んだ主
な原因は以下の4つに整理することができる。
第1に、 まちづくり指標が行政の総合計画の骨格として活用されたことである。 これによって、
行政とその他の主体が役割を分担するまちづくり指標は、 行政が実施の責任を持つ総合計画の一部
となった (基本構想は議会の議決も受けた)。 そして、 総合計画の進行管理という形で、 まちづく
72
り指標の行政での活用を進めることが可能になった (行政側の評価書は 施策の進み具合一覧表
という題名である)。 これに対して、 青森県の政策マーケティングは、 行政と住民の取り組みを示
した総合計画に、 断片的に活用されるにとどまった。
第2に、 東海市では、 まちづくり大会という仕組みを通じて、 市長、 市民委員会、 議員らが、 行
政の各部門・各職員にまちづくり指標の活用を促している。 青森県の政策マーケティング委員会も、
職員との会合 (セッション) を通じて行政での活用を進めようとしたが、 単なる実験の場で終わっ
てしまい、 その後の政策形成につながらないという限界があった。 東海市のまちづくり大会は、 次
の3点において青森県のセッションと異なっている。 第1に、 市長が出席し、 まちづくり指標の活
用に積極的な姿勢を表明している。 第2に、 市民委員会の提案への行政の対応状況を事後的に確認
している。 第3に、 公開の場で行われ、 議員や一般市民も参加している。 このように、 「上」 「後」
「外」 から、 行政の各部門・各職員にまちづくり指標の活用を強く迫る仕組みがとられている。
第3に、 東海市長が、 公約に基づき、 まちづくり指標を行政で活用する意志を示したことである。
東海市のまちづくり指標は、 青森県の政策マーケティング以上に行政で活用しにくいものであるが、
市長の政治的意志により総合計画の骨格として活用された。 総合計画の策定後も、 市長は市民委員
会を設置し、 まちづくり大会に出席している。 青森県では、 前知事にとって政策マーケティングの
優先度はそれほど高くなく、 現知事の下ではそれがさらに低下した。
第4に、 東海市の委員会は、 まちづくり指標の行政での活用の促進をためらわなかった。 行政だ
けでなくその他の主体も役割を担うことを示す分担値は、 青森県では行政の役割を相対化させる意
味を持ったが、 東海市では行政の役割は数字以上に大きいと解釈された。 また、 青森県では、 セッ
ション後の行政の動きは内発的・全体的・長期的に作り出すべきであるとされたが、 東海市ではそ
のような議論はなく、 市民委員会がまちづくり大会で具体的な事業を提案し、 半年後に行政の対応
状況を確認するという仕組みをとっている。 青森県では、 委員会が将来的に独立する可能性や、 評
価の客観性・信頼性への影響を考慮して、 行政から意識的に距離を置こうとしたが、 東海市の委員
会は行政と近い距離を保ち、 その立場を活かそうとしている。
東海市のまちづくり指標は、 青森県の政策マーケティングと比較すると行政での活用が進んだが、
課題も残されている。 長期的には、 市長の交代後もまちづくり指標の作成や行政での活用が続くか
どうかが課題である。 市長の交代に備えてまちづくり指標を行政内部に浸透させるための1つの方
法は、 まちづくり指標を予算編成に活用し、 指標の活用が各部門の利益に結びつくようにすること
である。 ただし、 指標と予算を直結すると形式的になるため、 計画策定を媒介にする必要があると
も指摘されている。 東海市では、 ロジックモデルを作成し、 実施計画の策定に一部活用する動きも
見られる。 当面は、 ロジックモデルの改善と公表、 中間指標の設定、 実施計画策定での全体的な活
用が課題として挙げられる。
73
(1) 社会指標型ベンチマーキングの概要については (児山 2006 58) を参照。
(2)
青森県の政策マーケティングについては (児山
20062007
2007 ) を参照。 政策マーケティング委員会
(2004年3月) では、 東海市の取組みを見ると、 東海市の組立てがうまくいき、 青森県の取組みがうまくいって
いないという感覚になる、 後から追いかけてきて一気に走り抜いてしまった (青森Ⅲ第2回分科会24中橋) と述
べられていた。 ただし、 一気にやっているということは、 安定した仕組みではないかもしれない (同) とも述べ
られた。
(3)
生活課題のうち 「障害者や高齢者を持つ家族への支援がされている」 に対応する施策は、 「障害者を持つ家族
を支援する」 「高齢者を持つ家族を支援する」 に分割されている。 (ガイドブック
2004 6、 総合計画16)
(4) 総合計画の素案は2003年6月7日に策定会議で審議された。 その前日には市民参画推進委員会の第6回幹事会
が開催されたが、 この時点では既に素案は固まっていたと思われる。 それ以前 (2003年4月まで) に開催された
11回の全体会のうち、 助役、 企画部長、 企画政策課長が出席したのは、 それぞれ8回、 10回、 4回である。 同じ
く7回の幹事会のうち、 助役、 企画部長、 企画政策課長が出席したのは、 それぞれ6回、 3回、 5回である。
2003年4月までの全体会・幹事会には、 助役、 企画部長、 企画政策課長のいずれかが必ず出席していた。 (各回
会議録)
(5) 市長は、 東海市の第4次総合計画は1996年から2006年までの10カ年計画であるが、 2年間前倒しして2004年度
から第5次総合計画をスタートさせたい (第1回策定会議3
4市長) と述べていた。
(6) 2004年度の 「評価の大会」 は、 6月に発足した市民委員会の活動期間を保証するため、 8月に開催された。 ま
た、 2004年度の 「確認の大会」 は、 4月に市長選挙を控え本格的な予算編成ができなかったため、 2005年6月に
開催された (後
2005 100
101)。 2007年度の 「評価の大会」 は開催されなかったが、 これは、 前年度、 評価
作業を続ける中で提案の方向まで検討するようになっていたので、 評価の大会を省き、 引き続いて提案の作業に
入ったためである (市民委員会の横田迪男事務局長)。
(7)
一般市民等には、 議員8∼16人 (2006年度以降、 それ以前は不明)、 市外からの傍聴者50人程度 (2007年度、
それ以前は不明) を含む。 2007年度の提案の大会の出席者は、 委員40人、 市職員110人、 一般市民11人、 議員13
人、 傍聴者53人などであった。 (市民委大会)
(8)
ロジックモデルとは、 施策・事業の活動内容とその最終目標との間に存在する論理的連鎖をフローチャート
などで表現したものである。 まちづくり指標を含む社会指標は、 行政の複数の部門や行政以外の主体が関わるも
のが多いため、 行政の個々の事業との関係が複雑・間接的になる。 そこで、 社会指標と現場の評価指標をつなぐ
ために、 中間的な指標やロジックモデルを用いることが提唱されている。 詳細については (児山
2006
58
59
76) を参照。 なお、 東海市のまちづくり指標に関しても、 理想を言えばロジックモデルを使った評価に基づ
く事業の精査を徹底して行った上で総合計画の施策体系を構築しておく方が望ましい (後
2005 98) と述べ
られている。
(9) 本節の以下の記述は、 東海市企画部企画政策課の森本誠二主査、 浅井貴史主事からの聞き取り (2007年10月1
日) による。
(10) 青森県の政策マーケティングシステムを構築・運営した政策マーケティング委員会は、 1999年に青森県の要綱
に基づいて発足し、 2000年度から2005年度まで
グブック
政策マーケティングブック
を発行した。
政策マーケティン
には、 「県民がより満足した人生を送れる青森県」 という目標の下に、 4つの政策目標 (「もしやの不
安の少ない暮らし」 など)、 27の点検項目 (「災害や緊急時への不安が少ない」 など)、 66の評価指標 (「原子力関
連施設に不安を感じる人の割合」 など) が掲げられている。 また、 それぞれの評価指標について、 基準値 (2000
年度の現状値)、 現状値 (各年度の数値)、 めざそう値 (2005年度に実現したい水準)、 分担値 (個人・家庭、 N
PO・町内会、 市町村、 県、 国などの役割分担の比率) が記載されている。 政策マーケティング委員会は、 政策
マーケティングの県庁での活用を促進するために、 2001∼2004年度に県庁職員との会合 (「セッション」) を開催
するなどした。 なお、 委員会は2005年度限りで廃止された。 詳細については (児山
74
2006
2007) を参照。
(11) 東海市のまちづくり指標は青森県の政策マーケティングをモデルにしていた。 市民参画推進委員会の会長に就
任した後房雄氏は、 委員会設置に先立つ講演で、 成果指標の一例として政策マーケティングを挙げていた (後・
上山
2004
25)。 また、 市民参画推進委員会でも、 第1回全体会・幹事会で青森県の事例が紹介され (第1回
参画委10後、 第1回参画幹事会4後)、 その後もしばしば言及された (第2回参画委14
34玉村など)。 なお、 市民
参画推進委員会の学識委員の1人である玉村雅敏氏は、 政策マーケティング委員会の委員も務めていた。 青森県
の政策マーケティングという先例があったことも、 東海市のまちづくり指標の活用が進んだ1つの原因であると
考えられる。
(12) 青森県では、 2003年11月、 総合計画の策定が庁議了解され、 2004年1月、 総合計画について調査審議する青森
県総合開発審議会 (以下、 開発審議会) が開催された。 開発審議会には新青森県基本計画策定委員会 (以下、 策
定委員会) が設けられ、 策定委員会には4つの小委員会が設けられた。 各小委員会と策定委員会は、 2004年2∼
9月に各5∼7回の会合を開き、 答申案を作成した。 そして、 2004年9月の開発審議会で答申が決定され、 これ
に基づいて総合計画 ( 生活創造推進プラン ) が作成され、 11月に庁議決定、 12月に県議会議決が行われた。 詳
細については (児山
2007) を参照。
(13) 市民参画推進委員会でも、 政策マーケティングを作った時の知事が辞めて新しい知事になり、 その知事がどう
位置づけるかということもまだはっきりしない (第15回参画委15後) と心配されていた。
(14) 政策マーケティング委員会では、 システムを作ってから4、 5年経っており、 これだけ雇用が不安定になって
いるので、 数字や組み立ても変わるかもしれない、 政策マーケティングを組み立て直してから計画を作るのが自
然である (青森Ⅲ第2回分科会20中橋) とも述べられた。
(15) 2003年10∼11月の委員会では、 政策マーケティングの再構築と総合計画の策定、 特にアンケート調査を関連づ
けて行うことが主張された (青森Ⅲ第3回28中橋、 同第1回分科会12
13
15
21
27中橋)。 しかし、 2004年2∼3
月の委員会では、 再構築の議論がまだ詰められておらず、 総合計画の策定を遅らせるわけにもいかないことから、
両者を結びつけることは物理的に無理であるという結論になった (同第5回18中橋、 同第2回分科会2
9中橋)。
なお、 総合計画策定のために2004年1月に行われたアンケートの設問は、 政策マーケティング委員会が1999年5
∼6月に行ったアンケートと同様の設問を含んでいるが、 前者は後者と比べて県民の生活から遠いという違いも
ある (児山
2007 111
112)。
(16) 市民参画推進委員会では、 政策マーケティング委員会の委員と県庁職員が話し合う試みを行っているというこ
とが紹介された (第15回参画委15後)。
(17) 市民委員会の横田迪男事務局長の話。
(18)
市民参画推進委員会は、 市民への普及活動として説明会を46回開催し (参画委活動報告書33)、 市民・民間の
活動を提案する
まちづくりのためのアクションプラン
を作成した (アクションプラン)。 また、 まちづくり
指標の改善に貢献する市民活動の資金を支援する 「市民活動促進事業」 も提案した (参画委活動報告書29、 第11
回参画委10
11後、 第14回参画委3後)。
(著者名五十音順)
文中では、 (
後房雄
) を用いて、 著者名、 発表年 (
)、 ページ、 の順に示した。
2005 「市民が作った市政の通信簿:東海市まちづくり指標」、
2005 「協働型マネジメント・サイクル」、
ガバナンス 、 7月、 112
113。
ガバナンス 、 8月、 100
101。
2005 「ツリー型ロジック・モデル:最終成果を達成するための事業編成」、
後房雄、 上山信一 2004
ガバナンス 、 12月、 98
99。
市民が作った市政の通信簿:東海市まちづくり指標のすべて (市民フォーラム21・NP
Oセンター)
児山正史
2006
「青森県政策マーケティング委員会の7年 (1) ―自治体行政における社会指標型ベンチマーキン
75
グの活用―」、 人文社会論叢 (社会科学篇) 、 第16号、 57
77。
2007 「青森県政策マーケティング委員会の7年 (2・完) ―自治体行政における社会指標型ベンチマーキン
グの活用―」、 人文社会論叢 (社会科学篇) 、 第17号、 131
153。
2007 「青森県の政策マーケティングと総合計画策定―自治体行政における社会指標型ベンチマーキングの活
人文社会論叢 (社会科学篇) 、 第18号、 107
118。
用―」、
千葉茂明
2005 「市民が作成した
まちづくり指標
をベースに市政を展開―愛知県東海市」、 ガバナンス 、 1月、
101
103。
三海厚
2007
「市民が作った指標を活かし
協働と共創
ガバナンス 、 4月、 でまちづくり:愛知県東海市」、
32
35。
(略称五十音順)
文中では略称で示した。 表示方法は著書・論文等に準ずる。
青森総合計画:青森県企画政策部企画課
生活創造推進プラン∼暮らしやすさのトップランナーをめざして∼ (2005
年)
アクションプラン:東海市市民参画推進委員会編
まちづくりのためのアクションプラン
(東海市市民参画推進委
員会、 2004年)
ガイドブック
2004:東海市市民参画推進委員会編
まちづくりガイドブック (平成15年度版) (2004年)
2005:東海市まちづくり市民委員会編
まちづくりガイドブック2005
参画委活動報告書:東海市市民参画推進委員会編
(2005年)
東海市市民参画推進委員会活動報告書
(東海市市民参画推進委
員会、 2004年)
参画委経過: 「東海市市民参画推進委員会の経過」 (市民委員会ホームページ)
市民委会議予定: 「会議予定」 (市民委員会ホームページ)
市民委規約: 「東海市まちづくり市民委員会規約」 (市民委員会ホームページ)
市民委設置要綱: 「東海市まちづくり市民委員会設置要綱」 (市民委員会ホームページ)
市民委大会: 「大会」 (市民委員会ホームページ)
総合計画:東海市企画部企画政策課
第5次東海市総合計画 (東海市) (東海市ホームページ)
第4次実施計画: 第5次東海市総合計画
東海市市民参画:東海市市民参画推進室
第4次実施計画
平成19年度∼平成21年度
(東海市ホームページ)
東海市の市民参画
委員会等の会議録を参照した場合は、 (第16回参画委3後) のように示した。 これは、 「第16回市民参画推進委員会
の会議録3ページの後氏の発言」 を意味する。 「参画幹事会」 は市民参画推進委員会の幹事会、 「策定会議」 は総合計
画策定会議、 「策定幹事会」 は総合計画策定幹事会、 「市民幹事会」 は市民委員会の幹事会を意味する。 市民委員会は、
第Ⅰ期が2004∼2005年度、 第Ⅱ期が2006∼2007年度である。 「青森」 は青森県の政策マーケティング委員会、 それに
続く 「Ⅰ」 「Ⅲ」 は第Ⅰ期、 第Ⅲ期を意味する。 第Ⅰ期は1999∼2000年度、 第Ⅲ期は2003∼2004年度である。 政策マー
ケティング委員会の 「分科会」 はシステム検討分科会である。
議会の会議録を参照した場合は、 (青森県議会定例会
1995
12
5 知事) のように示した。 これは 「1995年12月5
日の青森県議会定例会での知事の発言」 を意味する。
東海市の委員会等の会議録は、 同市の情報公開条例に基づき請求し、 写しを入手した。 青森県の政策マーケティン
グ委員会の会議録は、 青森県のホームページで入手した。 議会の会議録はホームページで入手した。
76
情報化社会における市民のプライバシー保護
∼労働者の私用メールに対する監視と不法行為責任を中心に∼
日
野
辰
哉
《目次》
Ⅰ. 問題設定
1. はじめに
2. 私的メールをめぐる判決についての疑問
(1) 労務提供過程におけるメールのプライバシー該当性
(2) 違法性判断とその背景
(3) 問題提起と本稿の立脚点
Ⅱ. 最高裁判決を中心としたプライバシー保護の検討
1. 早稲田大学名簿提出事件判決の検討
(1) 事件の概要と判決理由
(2) プライバシーと単純な個人識別情報
(3) 最高裁判決における違法性判断の理解
a) 反対意見および原審との対比
b) プライバシー保護に関する従来の最高裁の判断枠組みとの関連
2. まとめ
Ⅲ. 結論
《本論》
個人情報保護法 (以下、 保護法) の制定後も企業からの個人情報の流出が止まらない1。 個人情
報保護法により、 個人情報データーベースに個人情報が登録されている個人が5000人を超える企業
1個人情報保護法が05年に全面的に施行されてから約1年後の状況について、
宇賀克也 「個人情報保護法の施行状況
と今後の課題」 国民生活36巻4号6頁 (2006年)。
77
(保護法2条3項 「個人情報取扱事業者」) (個人情報保護施行令2条) は、 その内部において個人
情報保護法に規定される安全管理措置等、 様々な措置を講じることが義務付けられている (保護法
20条以下)。 それにもかかわらず、 毎日のように、 個人情報の漏洩が報道されている。
社外からの不正侵入、 コンピュータウィルスによる汚染といった社外からの脅威のほかに、 社内
から情報の流出する事件が目を引く2。 実際に内部からの情報漏洩により損害賠償を請求された企
業があとをたたない事態を踏まえ、 企業の中には、 労働者の管理を一層強めている3。 例えば、 労
働者が会社のパソコンを使用している際に、 管理者等の専用パソコンのモニターに労働者の使用状
況が映し出される、 といった形で常時監視されている事態が報道されている。 労働者が社外に向け
て送信したメールや添付書類についても、 指定された単語が含まれている場合には、 当該メールが
管理者に転送されるシステムが構築される事例も報告されている4。 個人情報保護法が、 本来は個
人の自由を保護する事を目的とするにもかかわらず、 労働者の管理を強化する端緒となっている。
2007年3月に発覚した、 大日本印刷から863万件もの個人情報の流出した事件において、 情報セ
キュリティの面での管理の甘さが指摘されており、 このような場合にはより一層厳重な管理体制の
構築が望まれることは、 個人情報保護法の趣旨に沿うものといえる5。 他方で、 労働者によるパソ
コンの利用状況を常時監視することが、 例え常時監視についての事前の告知があったとしても適法
であるのか疑問がないわけではない。
いうまでもなく、 労働者にもプライバシーが対企業との関係においても、 保護されるべきであり、
本来、 個人情報保護法も、 この方向での活用が期待されているはずである。 今後もパソコンを利用
する傾向が一層強まれることを考えれば、 会社所有のパソコンを用いてのメールの保護が、 労働者
のプライバシー保護の観点から検討される必要があろう。
(1) 労務提供過程におけるメールのプライバシー該当性
社事業部事件の発端はいささかユニークなものであった6。 社事業部に勤務する原告1は、
同事業部事業部長を務める被告から飲食の誘いを度々受けていたため、 への嫌悪感をつづる内
2個人情報漏洩事件のうち、
内部に起因する事件が約80を占めるとも言われている。 岡村久道 「変貌する社会と個
人情報の保護のあり方」 国民生活36巻4号13頁 (2006年)。
3
会員の個人情報が、
委託業務を実際に行っていた者により外部に持ち出され、 恐喝未遂事件に利用され
た事件において、 一人当たり6000円の慰謝料請求が認められた。 流出した個人情報は451万人分であると報道されて
いる。 大阪地判平成18年5月19日判時1948号122頁。 エステティックサロン
によりホームページの製作・保守の業
務委託を受けた第三者により顧客情報が外部から自由に閲覧可能になった事件で、 が使用者責任を問われ、 一人
2万2千円∼3万5千円の慰謝料請求が認められた。 この事件で流出した個人情報は、 約3万件ともいわれる。 東京地判
平成19年2月8日判時1964号113頁。
4朝日新聞2007年4月19日付朝刊
5井田香奈子
「ウェブが変える (下) 社員をネット監視」。
「止まらない個人情報流出」 国民生活37巻7号36頁 (2007年)。
6東京地判平成13年12月3日労判826号76頁。
頁。 荒木尚志
メディア判例百選
子・
734号6頁。
78
永野仁美・ジュリ1243号153頁。 小畑史子
労働法判例百選第7版
46
234頁。 砂押以久子・労判827号29頁。 藤内和公・法時75巻5号100頁。 真嶋理恵
容のメールを夫2宛に送信するつもりが、 誤ってに送られることとなった。 これに対しては、
1のメールを監視するようになり、 1がパスワードを変更すると、 会社の
部に1らのメールを
宛に転送するよう依頼した。 なお、 社事業部では、 職場でのメールの監視・調査活動に関する
ルールは周知徹底されていなかった。
1らは、 によるセクシャルハラスメント行為および1らの私的メールを無断で閲読したこと
による不法行為に基づく損害賠償請求を提起した。
裁判所は、 まず、 私的メールのプライバシー該当性について次のように判断した。
「会社のネットワークシステムを用いた電子メールの私的使用に関する問題は、 通常の電子装
置におけるいわゆる私的電話の制限の問題とほぼ同様に考えることができる。 すなわち、 勤労者
として社会生活を送る以上、 日常の社会生活を営む上で通常必要な外部との連絡の着信先として
会社の電話装置を用いることが許容されるのはもちろんのこと、 さらに、 会社における職務の遂
行の妨げとならず、 会社の経済的負担も極めて軽微なものである場合には、 これらの外部からの
連絡に適宜即応するために必要かつ合理的な限度の範囲内において、 会社の電話装置を発信に用
いることも社会通念上許容されていると解するべきであり、 そのことは、 会社のネットワークシ
ステムを用いた私的電子メールの送受信に関しても基本的に妥当するというべきである。」 「社員
の電子メールの私的使用が前記イの範囲にとどまるものである限り、 その使用について社員に一
切のプライバシー権がないとは言えない。」
裁判所は、 次に、 メールに対するプライバシー権の保護の程度について次のように判断する。
「社内ネットワークシステムを用いた電子メールの送受信については、 一定の範囲でその通信
内容等が社内ネットワークシステムのサーバーコンピューターや端末内に記憶されているもので
あること、 社内ネットワークシステムには当該会社の管理者が存在し、 ネットワーク全体を適宜
監視しながら保守を行っているのが通常であることに照らすと、 利用者において、 通常の電話装
置の場合と全く同程度のプライバシー保護を期待することはできず、 当該システムの具体的情況
に応じた合理的な範囲での保護を期待し得るに止まるものというべきである。」
まず本判決の意義は、 社内ネットワークシステムを利用しての私的メールに対してプライバシー
保護が認められたということである。 この事件と反対の立場とる日経クイック情報事件判決7にお
いて裁判所は、 就業時間内での私的メールが従業員の職務遂行義務違反に当たるとして、 一切のプ
ライバシー保護を認めていない。 社事業部事件において、 裁判所は、 「会社における職務遂行の
妨げとならず、 会社の経済的負担も極めて軽微なものである場合」、 「一切のプライバシー権がない
7東京地判平成14年2月26日労判825号50頁。
もっとも、 判決では、 「プライバシー」 に言及せず、 「精神的自由」 とい
う表現が用いられている。
79
とはいえない。」 ことを認める。
但し、 電子メールは、 サーバーや端末に記録として残り、 なおかつ、 ネットワーク管理者による
ネットワークの保守管理の存在により、 電話の私的使用と比べてプライバシー保護の程度が低いと
する。 電話と比較して、 メールへのアクセスの容易さが、 プライバシー保護への期待、 秘匿性が弱
まるという裁判所の論理には、 いささか難があるように思われる。 むしろ、 こうしたデータへの他
者からのアクセス (情報の収集の他に・蓄積・保存・加工・利用) の容易さが、 従来とは異なる方
法で、 個人情報を保護すべきであると思われる8。 また、 このように理解することが、 以下で示す
ように、 データ保護をめぐる近年の下級審判決や最高裁判決の動向にも沿うものであると思われる。
この社事業部事件と類似の判断枠組みのもとで従業員の私的メールのプライバシー保護を認
めた事件として、 グレイワールド事件判決がある9。 この判決では、 「労働者は、 労働契約上の義務
として就業時間中は職務に専念すべき義務を負っているが、 労働者といえども個人として社会生活
を送っている以上、 就業時間中に外部と連絡を取ることが一切許されないわけではなく、 就業規則
等に特段の定めがない限り、 職務遂行の支障とならず、 使用者に過度の経済的負担をかけないなど
社会通念上相当と認められる限度で使用者のパソコン等を利用して私用メールを送受信しても上記
職務専念義務に違反するものではないと考えられる。」 という判断を示している10。
社事業部事件判決そしてグレイワールド事件判決において、 就業規則などで予め私的メール
の取り扱いについて明記している場合、 私的メールに対するプライバシー保護が不法行為における
損害賠償請求において認められることになるのか否か、 という論点が浮かび上がる。 これは保護法
と不法行為に基づく損害賠償請求との関連の問題であるが、 極めて形式的な事前の同意が、 会社側
の不法行為責任の成立を当然に否定するとはいえないと思われるが、 ここではこれ以上触れること
はしない11。
(2) 違法性判断とその背景
裁判所は、 最後に、 この私的メールに対する監視行為に関する違法性の判断枠組みを次のよう
に示す。
「職業上従業員の電子メールの私的使用を監視するような責任ある立場にない者が監視した場
合、 あるいは、 責任ある立場にある者でも、 これを監視する職務上の合理的必要性が全くないの
に専ら個人的な好奇心等から監視した場合あるいは社内の管理部署その他の社内の第三者に対し
て監視の事実を秘匿したまま個人の恣意に基づく手段方法により監視した場合など、 監視の目的、
本件の評釈者は、 メールの秘匿性を把握するための比較の素材として、 電話よりも手紙を挙
げ、 私的メールのプライバシーの要保護性の高さが指摘されている。 砂押以久子・労判827号37頁。
9東京地判平成15年9月22日労判870号83頁。
10荒木は、 職務専念義務違反を、 労働時間中のメールの私的利用を抽象的職務専念義務違反と懲戒等の措置を根拠付
ける具体的職務専念義務違反とに分けるという理解を示す。 荒木尚志 「判例評釈」 堀部政男=長谷部恭男編 メディ
ア判例百選 (有斐閣、 2006年) 234頁。
11二関辰郎 「個人情報の第三者提供と不法行為の正否」 法時78巻8号94頁 (2006年)。
8砂押を始めとして、
80
手段及びその態様等を総合考慮し、 監視される側に生じた不利益とを比較衡量の上、 社会通念上
相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、 プライバシー権の侵害となると解するのが相
当である。」
まず、 裁判所は、 不法行為責任の要件である違法性を判断する枠組みを提示している。 「監視の
目的、 手段及びその態様等を総合考慮し、 監視される側に生じた不利益とを比較衡量の上、 社会通
念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、 プライバシー権の侵害となる」 とあるよう
に、 使用者側の企業秩序の維持と従業員側のプライバシー権との比較衡量を行うことを求める。
次に、 「社会通念上相当な範囲を逸脱した監視の具体例」 として、 メールを監視する立場にない
者が監視した場合の他に (地位)、 監視する地位にある者でも、 職務上の合理的必要性がないにも
かかわらず専ら個人的好奇心から監視する場合 (監視の目的・動機)、 社内の管理部署その他社内
の第三者に対して監視を秘匿したまま個人の恣意に基づく手段方法により監視した場合 (監視の方
法) を挙げているところから判断するに、 相当問題のある監視の態様 (目的や動機、 方法) でない
限り、 会社による労働者のプライバシー侵害は認められないこととなる。
このような違法性の判断枠組みは、 一般市民のプライバシー侵害をめぐる不法行為責任における
それと一見すると共通するように思われる。 例えば、 殺人・強盗殺人等の罪で起訴されていた少年
の経歴・交友関係等の情報が、 仮名を用いて、 雑誌に記載されたため、 少年の名誉・プライバシー
侵害に基づく損害賠償請求がなされた裁判がある。 週刊文春事件判決といわれる裁判である12。
最高裁は、 「プライバシー侵害については、 その事実を公表されない法的利益とこれを公表する
理由とを比較衡量し、 前者が後者に優越する場合に、 不法行為が成立する」 という一般的な判断枠
組みを示した。 その上で、 最高裁は、 より具体的に、 「本件記事が週刊誌に掲載された当時のの
年齢や社会的地位、 当該犯罪行為の内容、 これらが公表されることによってのプライバシーに属
する情報が伝達される範囲とが被る具体的被害の程度、 本件記事の目的や意義、 公表時の社会的
状況、 本件記事において当該情報を公表する必要性など、 その事実を公表されない法的利益とこれ
を公表する理由に関する諸事情を個別具体的に審理し、 これらを比較衡量して判断することが必要
である。」 と述べる。
両者は、 確かに審査の密度について違いがあるものの、 プライバシー情報を開示する利益と非開
示にする利益とを比較衡量 (以下では、 総合考慮方式とする。) することでは共通性を有する。 し
かし、 先の最高裁の判断枠組みの背景には、 人格権としてのプライバシー権と雑誌における記事の
掲載という表現の自由・報道の自由という憲法上の価値のバランシングという、 極めて困難な判断
が迫られている。 報道をめぐるプライバシー侵害に関しては、 その不法行為責任の認定において、
総合考慮方式を採用することに十分な理由がある。
他方で、 社事業部事件判決では、 労働者のプライバシー権と対抗関係にある監視者の法益が
12最二小判平成15年3月14日民集57巻3号229頁。
角田美穂子・法セ585号113頁。 高佐智美・法セ582号114頁。 飯室勝
彦・法セ582号106頁。 飯塚和之・ 786号75頁。
81
示されていない。 労働者の私用メールに対する会社の調査行為が不法行為に該当するかが問われた
日経クイック事件判決において、 裁判所は、 企業が企業秩序を定立し維持する権限を有し、 労働者
は労働契約の締結により当然に企業秩序の遵守義務を負うとする。 労働者が企業秩序違反行為を行っ
た場合に、 企業は当該違反行為を調査する権限を有し、 但し、 「上記調査や命令も、 それが企業の
円滑な運営上必要かつ合理的なものであること、 その方法態様が労働者の人格や自由に対する行き
すぎた支配や拘束でないことを要」 すると判示する13。 この日経クイック事件判決から判断するに、
裁判所は、 社事業部事件判決においても、 メールの監視者側の法益として企業秩序の維持を想
定していたと思われる。 問題は、 この使用者の企業秩序維持という利益が、 報道の自由や表現の自
由に相当するものと言えるのか否かである。
仮に、 使用者の企業秩序維持という利益の背後には、 財産権や営業の自由という憲法上の権利が
あるとしたとしても、 次に問題となるのは、 総合考慮方式という枠組みを採用することが果たして
妥当なのか、 である14。
(3) 問題提起と本稿の立脚点
労働者のプライバシー保護について、 市民一般のそれと比較して 「特殊性」 が語られ、 大幅の制
限に服さざるを得ないことが指摘されている。 「労働契約は、 労働力を対象とする継続的契約関係
であり、 使用者は労務指揮権を行使して労働力を利用するため、 それに関連する労働者の個人情報
を取得し、 利用することが必要不可欠である15。」
このような労働者の置かれている特殊な情況を踏まえて、 労働者に固有のプライバシー概念を想
定することも、 あるいは必要なのかもしれない。
しかし、 可能な限り、 一般市民と同じプライバシー保護が労働者についても認める方向も考える
べきと思われる。 少なくとも、 本稿で問題とする、 業務用の機器を用いて、 業務と関係のない私用
メールに対する監視の不法行為責任の有無につき、 この労働者の置かれている特殊性が考慮される
べきかは一考を要する。 またこうした考えは、 2003年に制定された個人情報保護法の方向性にも沿
うものと思われる。 この保護法は、 行政機関だけでなく、 一定数以上の個人データを保有する企業
についても、 個人識別情報の適正な管理に関する基本事項について規定する法律である16。 但し、
本稿は、 あくまでも、 個人のプライバシー保護を不法行為の局面に限定して考えるものであるから、
13前掲注
(7) 59頁。
14菅野和夫
労働法 第7版補正版
(弘文堂、 2006年) 358頁∼362頁によれば、 判例は、 企業秩序全体が企業および
労働契約の本質そのものに根ざしているとする。 この企業の秩序維持権限の限界については、 山田省三 「雇用関係と
労働者のプライバシー」
15竹地潔
講座 21世紀の労働法 6 労働者の人格と平等 (有斐閣、 56頁) を参照した。
「労働者のプライバシー保護」 角田邦重=毛塚勝利=浅倉むつ子編
労働法の争点 第3版
(有斐閣、 2004
年) 111頁。 募集・採用に際しての応募者の様々な情報の収集、 労務提供過程における労働条件の決定のため、 そし
て、 法令上または契約上の企業に課せられた多様な配慮義務の履行のため、 企業は労働者の個人情報を収集する必要
に迫られるという、 労働契約関係の特殊性が挙げられている。 山田・前掲論文、 60頁。
16もっとも、
個人情報保護法の規定が抽象的に過ぎるということで、 実際の運用で混乱が生じ、 過剰規制の問題が発
生していることが新聞等で報道されている。 朝日新聞2007年6月18日付 「進む過剰な匿名化」。
82
この保護法との関連について考察を行わない17。
本稿は、 プライバシー概念を明記した最高裁判決におけるプライバシー保護の到達点から、 会社
の機器を用いた労働者の私用メールに対する会社の監視行為の不法行為責任を構成する判断要素を
検討するものである。 そこで以下では、 プライバシー保護に関する最高裁判決の一つの到達点とい
える、 早稲田大学名簿提出事件最高裁判決を中心に検討する事とする。
(1) 事件の概要と判決理由
被告 (学校法人早稲田大学) が設置する早稲田大学は、 江沢民国家主席の講演会を開催するこ
とを計画し、 関係機関と打ち合わせの上、 学生に参加を呼びかけた。 その際に、 早稲田大学は、 警
視庁から警備のために本件講演会に出席する者の名簿を提出するよう求められた。 これに対して早
稲田大学は、 内部での議論の末、 名簿提出を決めた。 講演会参加の申込みの時点では、 このような
警視庁への名簿提出について何ら言及もなく、 学籍番号、 氏名、 住所及び電話番号の名簿への記載
が参加者学生に求められた。 原告らは、 講演会に参加し、 その際、 大声で叫ぶなどしたため、 私
服警察官により現行犯逮捕され、 大学からは譴責処分に付された。 らは、 本件名簿の写しが無断
で警視庁に提出されたとして、 損害賠償請求をした。
一審・二審ともに、 本件個人情報がプライバシーであることを認める一方で、 請求それ自体は棄
却した。 これに対して最高裁は、 本件個人情報のプライバシー性を認め、 原審におけるプライバシー
侵害を理由とする損害賠償請求に関する部分を棄却するとし、 原審に差し戻した。
まず、 早稲田大学が警視庁に提出した情報について、 最高裁は次のような判断を示した。
「学籍番号、 氏名、 住所及び電話番号は、 早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報で
あって、 その限りにおいては、 秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。 ……しかし、
このような個人情報についても、 本人が、 自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたく
ないと考えることは自然なことであり、 そのことへの期待は保護されるべきであるから、 本件個
人情報は、 上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。」
次に、 最高裁は、 違法性判断につき次の様な判断を示す。
17アメリカにおける労働者の電子メールに対する監視については、
竹地潔 「電子メールのモニタリングと嫌がらせメー
ル」 日本労働法学会誌90号 (1997年) 43頁がある。
18最二小判平成15年9月12日民集57巻8号973頁。
高佐智美・法セ588号118頁、 内野正幸・法教281号146頁。 井上則之・
判例セレクト2003 (法教282号別冊付録) 3頁。 前田陽一
平成15年重要判例解説
89頁。 高井裕之・同11頁。 前田
陽一・判タ1144号89頁。 水野謙・判例セレクト2003 (法教282号別冊付録) 21頁。 浜田純一
メディア判例百選
頁。 杉原則彦・曹時56巻11号227頁。
83
94
「早稲田大学は、 上告人らの意志に基づかずにみだりにこれを他者に開示することは許されな
いというべきであるところ、 同大学が本件個人情報を警察に開示することをあらかじめ明示した
上で本件講演会参加希望者に本件名簿へ記入させるなどして開示について承諾を求めることは容
易であったものと考えられ、 それが困難であった特別の事情がうかがわれない本件においては、
本件個人情報を開示することについて上告人らの同意を得る手続を執ることなく、 上告人らに無
断で本件個人情報を警察に開示した同大学の行為は、 上告人らが任意に提供したプライバシーに
係る情報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり、 上告人らのプライバシーを
侵害するものとして不法行為を構成するものというべきである。 原判決の説示する本件個人情報
の秘匿性の程度、 開示による具体的な不利益の不存在、 開示の目的の正当性と必要性などの事情
は、 上記結論を左右するものではない。」
以下では、 早稲田大学名簿提出事件での最高裁の示した判断枠組みを、 これまでの諸判例の中に
位置づけることとする。
(2) プライバシーと単純な個人識別情報
まず、 不法行為をめぐる最高裁判決において、 プライバシー概念を明示した判決がでたのはここ
数年のことである。 ①関西電力事件判決19、 ②週刊文春事件判決20、 そして差止請求に関するもので
はあるが③ 石に泳ぐ魚
事件判決21がそれである。
これらの事件においてプライバシーの対象として指摘された事柄が何であったのかを見ておく。
①では、 従業員を会社内部で孤立させ、 監視の対象とする過程において、 退社後の尾行やロッカー
にある私物の写真撮影を、 「職場における自由な人間関係を形成する自由を不当に侵害するととも
に、 その名誉を毀損するものであり、 また被上告人丙川らに対する行為はそのプライバシーを侵害
するもの」 と評価し、 退社後の従業員の行動やロッカーにある私物を 「自由な人間関係の形成に自
由」 「名誉」 とともに 「プライバシー」 として認めている。
②では、 犯行時少年であった原告の犯行態様 (犯人情報)、 そして、 年齢・少年院歴・家族関係・
離婚歴・暴力団員との交友関係 (履歴情報) について、 最高裁は、 「本件記事に記載された犯人情
報及び履歴情報は、 いずれもの名誉を毀損する情報であり、 また他人にみだりに知られたくない
のプライバシー情報に属する情報であると言うべき。」 と述べている。
③では、 差止請求の対象となる小説に登場する人物について、 「顔面に完治の見込みのない腫瘍」
があること、 高額の寄付を募る問題のある団体として描かれる新興宗教に入信していたという虚偽
の事実があること、 父親が 「講演先の韓国でスパイ容疑で逮捕された経歴」 を持つという記述が、
原告の名誉毀損、 プライバシー及び名誉感情の侵害に当るという判断が示されている。
また、 実質的にみて、 審理においてプライバシーに相当する法益侵害を理由とする損害賠償請求
19最三小判平成7年9月5日判時1546号115頁。
20最二小判平成15年3月14日民集57巻3号229頁。
21最三小判平成14年9月24日判時1802号60頁。
84
が審理に付された事件がいくつかある。 なかでも、 先に挙げた②事件判決において、 プライバシー
侵害に基づく不法行為成立の成否について言及する中で引用された事件、 すなわち、 ノンフィクショ
ン 逆転 事件判決が注目される22。 この事件では、 原告の前科等に関わる事実の公表が問題となっ
ていた。
このように①から③でプライバシー権により保護されるべきとして挙げられた事柄は、 広く捉え
れば、 「他人の知られたくない私生活上の事実又は情報」 ということができよう。 センシティブ情
報が秘匿性の高い事実ないし情報という意味であるとすれば、 ①について、 ロッカーにあった私物
が所持人の思想・信条に関わるものであることや、 ②が履歴情報であるなど、 センシティブ情報と
いってもよいと思われる情報である。 これに対して、 早稲田大学名簿提出事件では、 判決理由中で
も指摘があるように、 必ずしも、 秘匿性が高いとは言い難い情報の提供の適否が問われているとこ
ろに、 特徴の一つがあったと言える。 しかし、 下級審で審理されたいくつかの事件を見ると、 既に、
非センシティブ情報の開示の適否が問われた事件があったことがわかる23。
下級審判決のなかには、 住所、 氏名、 電話番号などの個人情報が本人の予期しない者に開示され
たことに起因する損害賠償請求事件が、 90年代から徐々に出始めてきていることが注目される。
まず、 マンション購入者の勤務先の名称とその電話番号が、 マンション販売業者により、 マンショ
ン管理会社に開示された事件において、 当該個人情報がプライバシーに該当するか否かが問われて
いた。 そして、 小説
宴のあと
事件判決24で示されたプライバシー該当性についての一般的判断
枠組みに同意し、 本件個人情報が 「必ずしも、 私生活に限られた事実と言いがたい面があることは
否定できない。」 としながらも、 プライバシーの権利を 「自己に関連する情報の伝播を、 一定限度
にコントロールすることをも保障することをその基本的属性とするものと解される」 と再構成し、
プライバシー性を認めた25。
次に、 電話の加入者がに対して電話帳に本人の氏名、 電話番号、 住所を掲載しないよう明示
的に依頼したにもかかわらず掲載した事件がある26。 この個人情報については、 先の事件と同じ枠
組みの下で慎重な審理を行い、 プライバシー性が認められている。
最後にネット掲示板に本人に無断で氏名、 職業の他に勤務地の住所・電話番号が掲載された事件
において、 裁判所は、 先に示したプライバシー該当性についての判断枠組みを示しながら、 当該個
人情報が、 により作成される地域別の職業別電話帳に掲載されていることから、 「必ずしも純
22最三小判平成6年2月8日民集48巻2号149頁。
23プライバシー該当性の判断について、
当該情報がセンシティブであるか否かという事情にそれほど大きな意味がな
いという指摘について、 林田清明・北法54巻2号541頁、 吉野夏己 「個人情報の提供と責任」 竹田稔=堀部政男編 名
誉・プライバシー保護関係訴訟法 (青林書院、 2001年) 387頁。
24東京地判昭和39年9月28日判時385号12頁。 公表された事柄がプライバシーに該当するか否かについて、 裁判所は、
① 「私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること」、 ② 「一般人の感
受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること、 ③一般の
人に未だ知られていない事柄であることを必要とし、 このような公開によって当該私人が実際に不快・不安の念を覚
えたことを必要とする。」 と指摘していた。
25東京地判平成2年8月29日判時1382号92頁。
26東京地判平成10年1月29日判時1646号102頁。
85
粋な私生活上の事柄であるとはいい難い面がある。」 としながらも、 当該業務と関連づけて個人情
報が公開されているに過ぎず、 本人にしてみれば、 当該情報が右目的との関連でのみ伝播すること
を期待し、 「公開目的と関係のない者にまで知られたくないと欲することは決して不合理なことで
はな」 いという。 確かに、 インターネットに氏名、 勤務地の住所、 電話番号が掲示されることは、
診察を希望する目的を持たない不特定多数の者の目に触れることになり、 場合によっては悪戯電話
などの嫌がらせの危険が生じ、 たとえ電話帳で既に公開されている個人情報ではあったとしても、
当該情報にアクセスすると想定される者の範囲が異なり、 その性質が異なるといえる。
このように下級審において、 個人情報の保護が問題となる判決が続く中で、 刑事事件ではあるが、
最高裁でプライバシー保護と個人情報の関連について注目すべき判断を行った事件がある。 それが
外国人指紋押捺拒否事件判決である27。
最高裁は、 「指紋は、 指先の紋様であり、 それ自体では個人の私生活や人格、 思想、 信条、 良心
等個人の内面に関する情報となるものではないが、 性質上万人不同性、 終生不変性をもつもので、
採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシーが侵害される危険性がある。」
と指摘するように、 指紋が必ずしも要保護性の高いセンシティブ情報であるとはいえないとしなが
らも、 用いられ方によってはプライバシー情報となること、 換言すれば、 当該情報が用いられる文
脈ないし社会状況により、 プライバシーとして保護されることを指摘していた。
また、 不法行為に基づく損害賠償責任が肯定された事件において、 最高裁は、 明示的にプライバ
シーという概念を用いることなく、 配布されたビラの末尾に記載された氏名、 住所、 電場番号等に
ついて 「私生活の平穏などの人格的利益」 という指摘を行っている28。
早稲田大学名簿提出事件で問題となった個人情報は、 最高裁自身が指摘するように、 秘匿性の必
要が高くない情報であり、 情報開示の態様についても、 不特定多数に対する公開 (公表型) ではな
く限られた者への公開 (非公表型) であったが、 名簿の提出先が、 本人にとっても開示して欲しく
ない相手方=警視庁であったという文脈が、 プライバシー該当性についての判断に大きな影響を与
えた事は否定できないであろう29。
プライバシーにより保護される事柄に質的な相違があると同時に、 プライバシーにより保護され
る法益の類似性をも指摘することが出来よう。 その類似性とは、 私生活上の平穏を享受する利益と
でもいうべき法益のことである。
(3) 最高裁判例における違法性判断の理解
a) 反対意見および原審との対比
ここでは、 本件における最高裁の違法性判断について原審および反対意見と対比させながら、 そ
の位置づけを行う。 但し、 原審は、 基本的に第一審判決における違法性判断に従っているのでここ
27最三小判平成7年12月15日刑集49巻10号842頁。
28最一小判平成元年12月21日民集43巻12号2252頁。
29棟据快行=山野目章夫=木村邦明=本橋春紀=大石泰彦
「プライバシーをめぐる今日的状況とプライバシー理論の
現在」 法時48巻4号15頁 (2006年) 山野目発言。 水野謙・判例セレクト2003、 21頁。
86
では、 基本的に第一審判決をみることとする。
第一審判決は、 「私生活上の情報を開示する行為が、 直ちに違法性を有し、 開示者が不法行為責
任を負うことになると考えるのは相当ではなく、 諸般の事情を総合考慮し、 社会一般の人々の感受
性を基準として、 当該開示行為に正当な理由が存し、 社会通念上許容される場合には違法性がなく、
不法行為責任を負わないと判断すべきである。」 と説示し、 社会一般の人々の感受性を基準に諸般
の事情を総合考慮することを求める (以後、 これを総合考慮審査方式とする。)。 その上で、 判決で
は諸般の事情として、 「①当該情報の内容、 性質、 プライバシーの権利ないし利益として法的に保
護される程度、 度合い、 ②情報主体が開示行為により被った不利益の内容、 程度、 ③開示行為の目
的、 その必要性の程度、 ④開示の方法、 態様等」 が挙げられている30。
最高裁判決での反対意見は、 どうであろうか。 当該情報の性質、 法的保護の必要性の程度、 情報
提供の目的、 情報開示の方法・態様、 情報主体の被る不利益の内容といった諸事情に言及し、 これ
らの総合考慮を決する基準としての社会通念が語られていることから、 基本的には原審の立場、 即
ち総合考慮方式と同じものと判断することができる。 これらと比較すると、 最高裁多数意見の特徴
が浮かび上がってくる。 即ち、 本人同意手続の不存在→特別の支障の有無→不法行為成立、 という
いわば 「自己情報コントロール方式」 という新たな判断枠組みを提示しているかのように見えるの
である。
更に、 多数意見の末尾にある 「原判決の説示する本件個人情報の秘匿性の程度、 開示による具体
的な不利益の不存在、 開示の目的の正当性と必要性などの事情は、 上記結論を左右するに足りない。」
という説示は、 最高裁判決の特異性を支えているようにも思われる。
また、 この判決をもってして、 最高裁は自己情報コントロール権型の判断枠組みを採用したとい
う見方を示す判例評釈があるが、 まさにこの見方をしているものであろう。 しかし、 他方で、 開示
の目的や必要性を一切考慮することなく、 直ちに不法行為と認定される事は、 情報の活用という点
ではやや硬直的に過ぎる判断ではないか、 という疑問もまた生じてくるのである31。
b) プライバシー保護に関する従来の最高裁の判断枠組みとの関連
早稲田大学名簿提出事件の原審、 そして反対意見が採用した総合考慮方式は、 これまでのプライ
バシー保護に関する事件の多くで採用されていた判断枠組みに従っていることがわかる。
週刊文春事件において、 最高裁は、 「また、 プライバシーの侵害については、 その事実を公表さ
れない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、 前者が後者に優越する場合に不法行為が成
立するのであるから、 ……本件記事が週刊誌に掲載された当時のの年齢や社会的地位、 当該犯罪
行為の内容、 これらが公表されることによってのプライバシーに属する情報が伝達される範囲と
30東京地判平成13年10月17日民集57巻8号1037頁。
原審では、 地裁判決で示された諸般の事情に含まれる要素の他に、
「当該個人情報の収集目的と開示の目的との間の関連性の有無、 程度等」 が付け加えられている。 東京高判平成14年7
月14日民集57巻8号1069頁。
31浜田純一
「判例評釈」 堀部政男=長谷部恭男
メディア判例百選
(有斐閣、 2005年) 94頁。 高佐智美・法セ588号
118頁。
87
が被る具体的被害の程度、 本件記事の目的や意義、 公表示の社会的状況、 本件記事において当該
情報を公表する必要性など、 その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由に関する諸事
情を個別具体的に審理し、 これを比較衡量して判断することが必要である32。」 と説示している。
また、 「ノンフィクション
逆転 」 事件判決においても、 最高裁は、 「前科等にかかわる事実に
ついては、 これを公表されない利益が法的保護に値する場合があると同時に、 その公表が許される
べき場合もあるのであって、 ある者の前科等にかかわる事実を実名を使用して著作物で公表したこ
とが不法行為を構成するか否かは、 その者のその後の生活状況のみならず、 事件それ自体の歴史的
又は社会的な意義、 その当事者の重要性、 その者の社会的活動及びその影響力について、 その著作
物の目的、 性格等に照らし実名使用の意義及び必要性をも併せて判断すべきもので、 その結果、 前
科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合には、 その公表によって被っ
た精神的苦痛の賠償を求めることができるものといわなければならない33。」 と述べるように、 基本
的に同じ判断枠組みを示している。
こうしたプライバシーに言及した最高裁判決をみる限りでは、 社事業部事件判決も基本的に
はこの総合考慮方式に従っているということが言える。
プライバシー保護に関する最高裁の一連の判決と比較して、 早稲田大学名簿提出事件が総合考慮
方式を採用しなかった理由を、 前田は、 「自己が欲しない他者に対して個人情報が同意なく開示さ
れた事案であり、
表現・報道の自由
との調整が問題とならない類型であることが影響している
34
と見ることもできる。」 と説明する 。 確かに、 本件で専ら問題となっているのは、 一連の個人情報
を記した名簿を管理する早稲田大学が外部の第三者、 即ち警察に名簿を提供したということであり、
これまでのプライバシー侵害の問われた事件とは、 様相を異にしていることは間違いない。 それで
は、 最高裁は本件で、 新聞・雑誌による報道の自由や小説などの表現の自由とは関わらない、 プラ
イバシー保護が問われる事件の類型についての新たな判断枠組み (自己情報コントロール方式) を
示したといえるのであろうか。
このような見方とは異なる理解も既に示されている。 内野は、 多数意見による反対意見に対する
応答を、 「“これらの事情は考慮しなくてもよい”という趣旨に読まれるおそれもある。 しかし、 そ
れは“これらの事情を考慮しても、 なおかつ……”と読まれるべきであろう。」 と解する35。 杉原は、
プライバシー侵害による不法行為の成否につき、 「プライバシー情報の多様性、 外延の曖昧さを考
慮するならば、 プライバシー侵害による不法行為の成否は、 プライバシー情報該当性と侵害態様の
違法性を相関的に考慮し、 そこで不法行為の要件を充足する場合に、 違法性阻却事由を検討すると
いう判断枠組みに従って判断することになる。」 と、 不法行為の違法性判断についての通説である
32最二小判平成15年3月14日民集57巻3号229頁。
33もっとも、
この判決では、 プライバシーという文言は一切使われず、 「前科等にかかわる事実の公表によって、 新
しく形成している社会生活の平穏を害されその更正を妨げられない利益」 と規定されている。 参照前掲注 (22) 149
頁。
34前田陽一
「プライバシー侵害の不法行為に関する最近の二つの最高裁判決」 判タ1144号95頁 (2004年)。
35内野正幸・法教281号146頁。
88
相関関係説、 換言すれば総合考慮方式に従っていると理解している36 37。 その上で、 定型的判断と
しての違法性と、 違法性阻却事由を踏まえた上での個別的判断としての違法性とを分け、 前者につ
いて、 当該個人情報の秘匿性の程度、 開示の公益性、 要人警護の必要性から一般的に講演会主宰者
と警察機関の情報交換が予測される事からの推定的同意の有無を考慮し、 結論として定型的違法を
認め、 後者について、 本人の承諾を得る手続を踏まえない特段の事情を否定し個別的違法性の存在
を指摘する。
このように、 本件最高裁判決についての理解を、 表現の自由や報道の事由との対抗関係にない事
案に特殊な判断枠組みを提示したものと理解するのではなく、 あくまでも従来のプライバシー侵害
事件判決で見られた総合考慮方式の枠組みの中で捉えるとする場合、 考慮要素として挙げられた
「本人同意の有無」 は、 いかに位置づけられるのであろうか。
住所や氏名そして電話番号といった個人情報については、 一定範囲の者の間での流通を前提にし
つつも、 その範囲を超えた不特定者 (必ずしも多数ではない。) への情報の伝播による私生活の平
穏の侵害 (それが具体的なものであれ抽象的なものであれ) が考えられ得る事案について、 他の判
断要素と比較してとりわけ重要な考慮要素になる、 と考えることが出来るように思われる。
この判断要素は、 先の社事業部事件においても、 考慮すべき要素として無視することのでき
ないものであるはずである。 早稲田大学名簿提出事件最高裁判決に指摘されているように、 当該個
人情報の要保護性の程度に関係なく、 違法性の有無が判断されるべきである。 即ち、 まず、 社
事業部事件判決のように、 私用メールの要保護性の点を重視すべきではない。 その上で違法性判断
につき、 まず第一次的に、 会社側は、 当該情報の監視・開示について本人の同意を得るべきことが
指摘されなければならない。
これまでの検討をまとめると次のようになる。
まず、 氏名、 住所、 電話番号、 学籍番号といった一定範囲の人々にとっては周知の個人情報で、
必ずしもセンシティブ情報でなくとも、 プライバシー該当情報として保護される場合があり、 それ
を示したのが早稲田大学名簿提出事件最高裁判決であった。 まず、 ここに労働者の私用メールにつ
いてのプライバシー保護の共通性を見出す事が出来る。 というのも、 社事業部事件判決は、 会
社の電話とネットワークシステムの比較から、 当該情報のプライバシーの保護の程度の低さに言及
しており、 まさに早稲田大学名簿提出事件で問われた情報について要保護性の低さと共通点を見る
ことができる。
その上で、 この早稲田大学名簿提出事件最高裁判決は、 違法性の判断枠組みについて、 本人同意
の有無のみに言及しており、 小説や雑誌メディアによるプライバシー侵害が問題とされる場合の最
高裁で用いられた従来からの違法性の判断枠組みとは、 全く様相を異にするものといえた。 有力な
36我妻栄
事務管理・不当利得・不法行為
(1937年、 日本評論社) 120頁。
37杉原則彦・曹時56巻11号227頁。
89
見解によれば、 報道の自由や表現の自由といった憲法上の価値とプライバシー権の対抗関係の中で、
最高裁は、 より慎重な判断を行うために、 多くの考慮事項を踏まえた利益衡量、 即ち総合考慮方式
を採用してきたのである。 他方で、 早稲田大学による名簿提供は、 要人警護という公益目的がある
とはいえ、 決して憲法上の権利の保護が関係するものではない。 従って、 違法性判断において、 従
来の最高裁の示した枠組み、 即ち、 総合考慮方式を採用する必要がなくなることとなる。
しかし、 早稲田大学名簿提供事件最高裁判決における違法性判断を、 総合考慮方式の延長上に位
置づける見解もある。 我々は、 この理解に労働者のプライバシー保護についての二つ目の共通の土
台を見出すことができることとなる。 即ち、 問題となる情報が本人の欲しない他者に伝播する場合
には、 当該情報のプライバシーの保護の程度に関係なく、 本人の同意の有無、 本人の同意を得る事
の出来ない特段の事情の有無が、 多くの判断要素の中でも、 最も考慮すべき要素となるのである。
Ⅰで社事業部事件判決を検討したように、 労働者の私的メールに対する監視行為の不法行為
成立につき示された違法性判断は、 表現の自由や報道の自由が係る事例におけるプライバシー保護
に関する最高裁判決に沿うものではある。 しかし、 現時点での最高裁でのプライバシー保護の水準
から見ると、 労働者の私用メールに対する会社の監視行為の不法行為責任の判断枠組みには問題が
あるように思われる。 メールの作成者である本人にしてみれば、 業務と関連のない私用メールが企
業に監視されることを快く思う者はまずいないであろう。 最高裁判決では、 プライバシーに該当す
る情報の要保護性の程度に関係なく、 本人の望まない者への情報の提供には、 必ず本人同意の手続
を要求している。 この点については、 労働者の私用メールに対する会社の監視行為の不法行為責任
の有無を判断する際に是非とも考慮されるべきであると思われる。
その上で、 必ずしも外に向けて開かれているとは言いがたい日本の企業内部において、 労働者の
同意が、 果たして真実のものであるか否かが更に問われる必要があるように思われる38。 同意に関
する真実性は、 意図的に曖昧な説明を行い同意を得る場合のほかに、 周囲から圧力をかけて半強制
的に同意を調達するといった場合に、 改めて問題となろう39。
38東京地判平成15年5月28日判タ1136号114頁。
39その他の事項についての労働者のプライバシー保護については、
働者のプライバシー保護」 法時78巻4号61頁 (2006年)。
90
砂押以久子 「労働契約締結・履行過程における労
法律行為による基本権制約の限界
福
田
健太郎
1. はじめに
2. 公序良俗論の再構成
3. 3段階の統制
4. おわりに
私法秩序を憲法秩序の中に取り込み、 私法の解釈を国法体系の頂点に位置する憲法のコントロー
ルの下に置こうとする見解が近時有力に唱えられているが1、 現在の民法学の一つの大きな潮流を
形成しつつあるといってよい。 これらの見解は、 民法の解釈を憲法的価値によって正当化しようと
するものであり、 私法の独自性を強調する伝統的な立場から決別し、 民法解釈の原理的な転換を志
向するものといえる。
民法2条は 「この法律は、 個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、 解釈しなければならない」
と規定しているところ、 この2つの理念、 とりわけ個人の尊重は憲法全体を貫く基本理念であるこ
とを考えると、 民法自体が憲法的価値による正当化を求めているということができ、 本来であれば
同条が制定されたときにこのような動きが見られても不思議ではなかったが、 伝統的な理解では、
同条が解釈の標準として意味を持つのは主として家族法の領域においてであるとされていたことも
あって2、 憲法を民法全体の解釈基準として捉える見解が登場するにはなお時間を要した3。 憲法と
民法の関係について、 民法学の側において本格的な議論が始まったのは年代に入ってからで
ある。
1基本権保護義務の観点から議論を展開するものとして、
山本敬三 「現代社会におけるリベラリズムと私的自治 ()
(・完) ――私法関係における憲法原理の衝突――」 論叢巻号頁以下、 巻号頁以下 (年) があり、
憲法と民法の階層秩序に着目してこの旨を述べるものとして、 潮見佳男
民法総則講義
頁 (有斐閣・年)
がある。
2我妻栄
新訂 民法総則
頁 (岩波書店・年)、 幾代通
民法総則
第版
頁 (青林書院新社・
年)
など。
3むしろ、
同条については、 私法の自由主義的法思想を理念として宣言した点に意義を見出していたように思われる
(我妻・前掲注 () 頁)。
91
憲法と民法をめぐる近時の議論は、 特に公序良俗領域におけるそれを中心に発展してきた4。 そ
こでは、 類型論を基礎にした伝統的な公序良俗論が批判され、 なぜ公序良俗違反になるのかという
根本的な問いを基礎にして、 従来並列的になされてきた分類が見直された。 そして、 第三者による
侵害から個人の基本権を保護するために国家は積極的な措置をとらなければならないとする基本権
保護義務の考えのもと、 公序良俗規範が問題となる場面をつに再分類する枠組みが示されるに至っ
ている5。 法令型―政策実現型公序良俗や裁判型―基本権保護型公序良俗などと呼ばれるものがそ
れであるが、 これらの分類を通じて、 公序良俗論に関する理論的な枠組みは着実に整理されてきて
いるといえる。
ところで、 憲法によって保障された基本権が法律行為を通じて他の私人によって制約ないしは侵
害されるとき、 理論的にも実践的にも、 どこまでが許される制約でどこからが違法な侵害となるか
ということが必然的に問題となる。 この点について、 上記の見解は、 私人間の紛争を基本権同士の
衝突と捉えたうえで、 どの程度の基本権の制約があれば裁判所が介入すべきなのか、 また、 その介
入の程度はどの程度でなければならないのかということを基本的な視点として、 具体的な衡量準則
を提示しようとしている。 過少保護の禁止と過剰介入の禁止という準則がそれである。
ところが、 論者自身が認めているように、 過少保護の禁止についての具体的な判断基準は、 まだ
十分には解明されていない状況にある6。 過剰介入の禁止については比例原則という形で判断基準
が既に確立されていることと対照的である。 しかし、 法律行為による基本権制約について、 どこま
でが許される制約で、 どこからが違法な侵害となるのかは、 まさにこの 「過少保護の禁止」 準則の
適用場面である。 また、 法律行為の適法性を扱う際に、 論理的な順序として第一次的に問題となる
のは、 過剰介入の禁止ではなく、 過少保護の禁止の準則である。 そうすると、 「過少保護の禁止」
準則について、 具体的な判断基準を定立するための作業を行なうことは、 今なお意義を有するもの
といわなければならない7。
本稿は、 以上の問題意識をもとに、 判断基準定立の準備作業として、 フランスの議論を紹介する
ものである。 フランスでは、 近時、 ヨーロッパ人権条約の私法領域への介入を通じて浸透してきて
いる基本権への理解を背景に、 裁判例の詳細な分析を通じて、 許される基本権制約と違法な基本権
公序良俗論の再構成 頁以下 (有斐閣・年) 初出、 「公序良俗論の再構成」 奥田昌道先生還暦記
念 民事法理論の諸問題 下巻 頁以下 (成文堂・年) 。 もっとも、 公序良俗の問題を憲法秩序との関係で論
じようとする見解自体は既に年代に登場していた。 そこでは、 公序良俗違反が問題となる事案の分類基準を憲
法規範に求める考え方が採られていた。 米倉明 「法律行為 () ――公序良俗違反の法律行為」 法教号頁 (
年)。
5山本・前掲注 (
) 頁。
6山本・前掲注 (
) 頁 初出、 「基本権の保護と公序良俗」 京都大学法学部百周年記念論文集刊行委員会編 京
都大学法学部創立百周年記念論文集 第
巻 民事法 頁以下 (有斐閣・年) 。
7 もとより、 各論的には様々な基準が示されている。 例えば、 暴利行為論については、 当事者の 「関係・状況」 と
「利得」 の大きさを中心的ファクターとし、 これを相関的に考慮するという見解が主張されているし (大村敦志 公
序良俗と契約正義 頁 有斐閣・年 )、 退職後の競業避止義務についても、 ①労働者の地位・職務が義務を
課すのにふさわしいこと、 ②前使用者の正当な秘密・情報の保護を目的とするなど、 就業規則の必要性があること、
③対象職種・期間・地域から見て職業活動を不当に制約しないこと、 ④適切な代償が存在すること、 の点を総合的
に考慮する形で有効か無効かの判断が行われているとされる (土田道夫 雇用関係法 (労働法概説Ⅰ) 頁 弘
文堂・年 )。
4山本敬三
92
侵害とを区別するための一般的な基準を提示する見解が登場している。 実際の裁判例の分析を通じ
て判断基準を抽出するというアプローチを採っているが8、 理論面からの検討とは両輪をなすもの
であり、 参考になるものと思われる9。
まず、 本稿の問題意識を鮮明にするため、 基本権制約の限界について従来の学説がどのような見
解を表明してきたのかということを概観する。 この問題についての議論は公序良俗の土俵でなされ
ることになるため、 条をめぐる議論を中心に見ていくことになる。 もっとも、 公序良俗に関す
る議論の裾野は広く、 その整理をするだけでも膨大な紙面を必要とするため、 網羅的に採り上げる
ことはできない。 ここでは、 本稿の問題意識に沿って、 法律行為による基本権侵害がどこまで許さ
れるかという視点から一般論を展開している学説を中心に、 学説の状況を概観することにする。
従来の公序良俗論は、 我妻説に代表されるように、 判例に現れた事案をいくつかの類型に分類し、
整理するものが中心であった。 ここでは、 どのような行為が公序良俗に違反するものと判断される
のかという観点から、 裁判例を、 ①人倫に反するもの、 ②正義の観念に反するもの、 ③他人の無思
慮・窮迫に乗じて不当の利を博する行為、 ④個人の自由を極度に制限するもの、 ⑤営業自由の制限、
⑥生存の基礎たる財産を処分すること、 ⑦著しく射倖的なもの、 に分類して紹介がなされていた。
問題となる事案を各類型に分類し整理するというこの傾向は、 分類方法こそ異なれ、 その後の学説
にも引き継がれていった。
これらの学説に共通することは、 何が公序良俗違反かというところに重点が置かれ、 その一般的
な基準を定立することには慎重であったということである。 むしろ一般的基準が立てられないとこ
ろに公序良俗規範の意義を見出していたといえる。
このような動きに対し、 年代から主張されている経済的公序論をも参考に、 なぜ公序良俗
違反なのか、 すなわち、 どのような理由があれば裁判所は憲法上の自由である契約自由を制限する
8公序良俗規範は定型的な判断基準を抽出できないからこそ意義があるともいえるが、
どういう要素がどの方向に作
用するのかという方向性を提示することも予測可能性を確保するためには必要なことである。
9なお、 どのような類型の紛争を念頭に置いた議論かということが問題となるも、 本稿では、 山本・前掲注 (
) 頁のいう裁判型−基本権保護型公序良俗を中心に検討することにする。
我妻・前掲注 (
) 頁以下。 我妻類型の詳細とその問題点については、 椿久美子 「我妻類型とその現代的変容」
椿寿夫=伊藤進編 公序良俗違反の研究――民法における総合的検討―― 頁以下 (日本評論社・
年) など
を参照。
現在の状況については、 山本敬三 「民法における公序良俗論の現況と課題」 民商
巻号頁以下 (
年) に
詳しい。
我妻・前掲注 (
) 頁は、 「第条は、 抽象的規定であることがその生命である」 とする。
93
ことが許されるのかということを、 憲法秩序に遡って明らかにしようとする見解が現れている。 山
本敬三による一連の論稿がそれである。
本稿の問題意識と共通するところが大きいのがいわゆる裁判型―基本権保護型公序良俗であり、
これはまさに憲法の私人間適用が問題となる場面に他ならないのであるが、 論者はここで、 第三者
による侵害から個人の基本権を保護するために国家は積極的な措置をとらなければならないという
国家の基本権保護義務を基底に据えて、 具体的な衡量準則の確定に着手する。 そこでは、 ①問題と
なっている契約の拘束力をそのまま認めることが一方当事者Aの基本権に対する侵害を帰結し、 過
少保護の禁止に反することにならないか、 また、 ②そこでAの基本権を保護するために公序良俗規
範を適用することが過剰介入の禁止に反することにならないか――他方当事者Bの基本権に対して
過度に介入することにならないか――という大まかな判断枠組みが示され、 次にそれらの枠組みに
ついて、 具体的な判断基準が示されることになる。
まず、 過剰介入の禁止についてであるが、 これについては具体的な判断基準がすでに確立してい
るとされる。 行政法の領域で警察比例の原則として古くから認められてきた比例原則がそれである
が、 論者によると、 この比例原則は、 ①適合性の原則――手段が目的の達成に適したものであるこ
とを要請する――、 ②必要性の原則――手段が目的の達成に必要不可欠であることを要請する――、
③均衡性の原則 (狭義の比例原則) ――目的と手段が均衡を失していないことを要請する――の三
つの部分原則を通じて具体化され、 過剰介入の禁止に関する一般的な基準として機能するという。
ところが、 もう一方の過少保護の禁止については、 その判断枠組みが、 日本においてはもちろん、
ドイツにおいてもまだほとんど明らかにされていない。 そこで、 「何が
過少
な保護かは、 侵害
を受けているAの基本権だけをみていても決まら」 ず、 「その契約におけるAの基本権とBの基本
権の衡量によって決ま」 り、 その際には 「Aの基本権に対する制約の制度が大きければ大きいほど、
Bの基本権を保護することの重要性が大きくなければならない」 という、 衡量時に必ず依拠しなけ
ればならない共通の原則に従わなければならないとする。 そして、 ① 「Aの基本権がどの程度制約
されるか」、 ② 「その契約をそのまま有効にすることによってBの基本権を保護することがどの程
度重要か」 という要素を衡量することで過少保護の禁止に該当するか否かを決しようとする。
このように、 法律行為による基本権制約がどの程度まで許容されるのかということについて、 基
本権という視点から判断基準を提示しようとする動きが登場してはいるものの、 本格的な検討は今
後の議論に委ねられているといえよう。
フランス民法典6条は 「公の秩序および善良の風俗に関する法律は、 個別の合意をもって除外す
山本・前掲注
() 頁以下。
山本・前掲注
() 頁以下。
94
ることはできない」 と規定するが、 契約の成立という観点からみると、 立法者が一定の契約につい
て有効性の要件を規定している場合を除いて、 条に規定された要件以外の有効要件はない。
によると、 契約の公序良俗への合致は条の要件に統合されなければならず、 もし
公序が契約の成立に関して問題となるのであれば、 その尊重がなされなければならないのは、
や
を通じてであるという。 すなわち、 当該契約が公序良俗に適合しているか否かを判断
することができるのは
と
を通じてのみであるという。 実際、 多くの概説書においては、
や
の項目で、 契約の公序良俗適合性の問題が扱われている。 もっとも、 概説書の中に
は、 や
と並んで、 公序良俗を独立の項目として採り上げているものも見られる。 以下
では、 代表的な概説書における叙述を確認することにする。
多くの概説書は、 契約の公序良俗適合性の問題について一般的な基準を立てることに消極的であ
る。 そこでは、 伝統的公序の問題として、 国家や家族などの政治的公序に関する叙述が、 また、
現代的公序問題として、 指導的公序や保護的公序などの経済的公序に関する叙述がなされ、 それぞ
れについて判例の動向等が記されている。 しかし、 それ以上の段階に踏み込むものは少なく、 わず
かに濫用条項の問題に関して、 法律の規定に沿った基準が提示されているにとどまる。 もちろん、
何をもって公序良俗違反と判断するかということを一般的・抽象的に定義することは極めて困難な
ことであることを考えると、 このような態度にも理由がある。 それゆえ、 学説の中には、 抽象的な
定式にこだわることは無駄であるとする指摘も見受けられる。
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フランスの公序論を紹介するものとして、 後藤巻則 「フランス法における公序良俗論とわが国への示唆」 椿=伊藤
編・前掲注 () 頁以下 初出、 「フランス法における公序良俗論とわが国への示唆」 法時巻号頁以下
(年) 、 難波譲治 「フランスの判例における公序良俗」 椿=伊藤編・前掲注 () 頁以下 初出、 「フラン
ス判例における公序良俗」 法時巻号頁以下 (年) が挙げられる。
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このように、 概説書レベルでは、 フランスにおいても一般的な基準についてそれほど意識的に議論
されているわけではない。 現実問題として、 特に経済的公序の領域においては立法の役割が大きく、
その限りで司法判事の果たす役割が低下するため、 かかる傾向もやむを得ないということもできよう。
しかし、 当然のことながら、 司法の役割が重要であるということを否定するものは見られない。
このような状況の中、 法律行為によって基本権が侵害されている場合にどのように対処すべきな
のかという問題について正面から議論する見解が現れている。 による研究がそれ
であるが、 大要は以下のとおりである。
現在、 破毀院は、 国内法秩序において、 ヨーロッパレベルにおける基本権の反射効を確立しよう
としている。 このような基本権の水平的な拡大傾向は、 法律行為理論に対しても少なからず影響
を与えつつある。 もともと垂直的な側面しかもたない基本権が水平的な効果をもつと、 法律行為と
基本権が衝突する場面が出現することになる。 それゆえそのための調整準則が必要となる。 すな
わち、 ここでは、 個別的な解法リストを用意すること以上に、 あらゆる場合に適用できる論証方法
を提案することが問題となるのである。
論者はここで、 許される基本権制約と容認できない基本権侵害とを分ける基準として、 ①侵害の
正当性、 ②侵害の比例性、 ③侵害の非本質性の三つを挙げる。 基本権侵害が正当なものであるとは、
問題となっている法律行為を正当化する適切な理由がなければならないということを意味する。 そ
れゆえ、 この段階では、 自由に対する行為の影響を検討することは問題とならず、 非難される侵害
を許す可能性があるかどうかを検討することが問題となるのである。 探求すべきは、 干渉を正当化
する理由があるかということである。
侵害の比例性というのは、 様々な領域で議論されているとおり、 探求された目的に対して最も侵
害の度合いが少ない手段が選択されなければならないという意味である。 今日のヨーロッパ人権シ
ステムにおいても、 比例性の要件は、 自由をもっとも侵害しない方法が選ばれるべきであるとい
うこと、 また、 干渉が引き起こす損害は、 それが生じさせる利益との関係で衡平であることを前
提としている。
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うかということである」 と述べるが、 ここでは、 基本権を制約する法律行為をどのように扱うかという問題が他でも
ない司法に課せられているのである。
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て基本権の本質が侵害されている場合には、 そのような制約は許容されないということを意味する
ものである。 論者は、 侵害が正当かつ比例的であっても、 それが権利の本質を侵害するものであっ
た場合、 問題となっている自由の穏やかな侵害といえるのか、 と疑問を呈する。 問題となってい
る基本権の完全な消滅と引換に与えられた正当な利益を完全に実現することを認める侵害類型を想
像することができるため、 この問題は、 まさに提起される価値のあるものなのだとする。
この見解によると、 三つの要件を充たした場合に初めて、 問題となっている基本権制約が効力を
もつものとして認められるというのであるが、 基本権制約の限界について一般的基準を提示したも
のとして注目されよう。 とりわけ、 最後の要件は、 従来あまり意識されてこなかった問題であった
だけに興味深いものといえる。 以下では、 上記①∼③の基準について、 の分析に
そって細部を見ていくことにしたい。
ここでは、 干渉を正当化する理由があるかということが問題となる。 何をもって理由があるとい
えるかについては当然のことながら争いがあるも、 具体的なケースで確認すると以下のようになる。
年に判断されたケースでは、 使用者が、 安全上の理由から、 グラインダーや穿孔器、 帯鋸を
扱う男性労働者に、 長い髪を切るか、 ネットに入れるよう要求した。 労働者がそれを拒絶し解雇さ
れたため、 彼は個人の自由を侵害するものであるとして損害賠償を求めた。 アルジャントゥイユ労
働裁判所は労働者の請求を一部認めたが、 パリ控訴院は、 本件措置が労働者の安全確保のためのも
のであるとする使用者側の理由の正当性を認める方向で判断を下した。
また、 年には、 アントニー小審裁判所が、 危険な動物の保有を一般的に禁止したの内
規について判断を下すことになった。 の内規に、 危険な動物を飼ってはならないという条項
があったにもかかわらず賃借人がそれに従わなかったため、 賃貸人が解除を請求したという事案で、
ここでは、 かかる内規が、 特別法である年7月9日の法律条に抵触しないかということが
問題となった。 賃貸人は動物保有の禁止を正当化するため、 ①内規の目的は、 あらゆる攻撃を予防
し賃借人の安全に配慮することであり、 ②アメリカン・スタッフォードシャー・テリアやロットワ
イラーなどが危険な動物で人になつきやすい動物でないことは明らかである、 と主張した。 小審裁
判所は、 種類や攻撃性を考慮せず人になつきやすい犬の保有を賃貸人は禁止することができず、 あ
らゆる犬の危険性のみに依拠して一般的禁止を規定する内規は年7月9日法の制裁を免れな
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いとして、 「危険性」 に基づく規制を書かれないものとした。
は、 この2つのケースの分析を通じて、 裁判例において、 法律行為に由来する侵害の
正当化が、 基本権を侵害する 「利益」 の正当化を経ていることを明らかにする。 そして、 かかる利
益は正当なものであると同時に現実的なものでなければならないとする。 以下、 順に見ていくこと
にする。
正当な利益の存在は基本権制約の正当な理由となりうるが、 それはしばしば主観的なものである
ため、 示された利益が正当なものかどうか判断することは困難である。 この点、 立法者があらかじ
め基本権に対する制約を正当化する利益を示していれば、 基本的には立法者の立場に従えばよい。
例えば、 公衆衛生法典
−5条は、 得られる利益が予見しうるリスクを正当化する等の場合
を除いて、 妊婦や産婦に対する医学的検査を認めていないし、 民法典−条は、 「医学目的もし
くは科学研究のためにしか」 人の特性についての遺伝的検査を認めていない。 また、 労働法の領域
では、 労働法典
−条が 「内部規則は、 達成すべき仕事の性質によって正当化されない制限
を、 人格的権利、 個人の自由、 集団の自由に対して課すことができない」 としている。 すなわち、
「達成すべき仕事の性質」 が基本権を制約する正当事由となっているのである。 もっとも、 全ての
立法準則が必要な基準を提供しているわけではないため、 立法に頼らずに必要な準則を導き出すこ
とが求められることになる。
基本権制約を正当化するいくつかの場面を抽象的に提示することは可能であるが、 そのなかでも
もっとも異論が少ないと思われるのが、 「問題となっている制約が、 それを受けた人の利益を考慮
して、 不問に付される場合」 である。 この場面においては、 ある者Aが別の者Bの基本権を制約
したとしても、 その制約がBの利益に直結する。 例えば、 医療契約などは、 基本的に人体に関する
ものであるが、 それは身体の完全性を侵害されるように思われる者の健康を回復させる目的を有し
ている。 企業内部においてなされる一定の強制についても同様である。 例えば、 一定の衣服の着用
義務などは、 一見個人の自由を侵害するもののように思えるが、 危険な機械の操作に起因する危険
から労働者を保護する目的を持っている場合が多い。 すなわち、 そこで探求されているのは、 身
体の完全性尊重に対する権利の保障である。
もっとも、 本件については、 賃借人の保有
する犬が他人に著しい損害を与えていたため、 賃貸借契約上の義務違反を理由に解除請求が認められている。
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(a) 具体例で確認してみよう。 まず基本権侵害を正当化しない場合である。 ①免責条項等に代
表されるところの行き過ぎた利益追求と、 ②人種差別の問題について見てみることにする。
まず、 ①についてであるが、 人体に生じた損害に対する責任を負わない条項が例として挙げられ
る。 本来であれば負うことになる賠償義務をあらかじめ特約で排除しておこうとするものである。
では、 この場合に損害賠償義務を逃れる者の利益は、 基本権──ここでは、 損害賠償を受ける権利
──に対する侵害を正当化することができるものなのであろうか。 この点について、 現在では、 何
人もその身体の尊重を受ける権利を有するとする民法典−1条は有力な判断材料になるが、 裁
判所はこの規定ができる前に、 既にこの種の規定を激しく非難していた。 トゥールーズ控訴院は、
いかなる事故があっても保証しない旨の掲示がアトラクション (乗り物) の乗車口に記載されてい
たという事案において、 「人体の完全性は合意の対象として考えることはできず、 そのような条項
は価値がない」 として、 免責を主張する控訴人らの主張を退けたのである。
次に、 ②についてであるが、 遺言書の追記に、 受贈者がユダヤ人と結婚した場合は贈与を取り消
すと規定していた事件が例として挙げられる。 セーヌ民事裁判所は、 「この規定は、 受遺者が自ら
選んだ者と婚姻する自由を侵害するのみならず…年月日フランス共和国憲法がもたらす
公序準則をも侵害するものである。 憲法は、 フランス人民が新たに、 何人も人種・宗教・信条の区
別なく、 不可譲かつ不可侵の権利を有すると宣言したと規定している」 と述べ、 遺言に挿入された
このような条件は無効であるとした。
(b) では、 逆に、 正当な利益とは具体的にどのようなものを指すのであろうか。 民法典−
4条4項は、 「遺伝病の予防と治療を目的とする研究は別として」 と規定しているが、 ここから、 健
康の維持は基本権の制約を正当化する利益となることがうかがえよう。 ここでは、 体調を改善させ
るために個人の身体の完全性を (一時的に) 傷つけることはより価値のあることなのかということ
が問題となっているのであるが、 瀕死の人は、 明らかに、 人間であることに固有の自由を享受する
ことができないのであるから、 健康の保護というのはその正当性に疑いのかからない目的といえる。
前述のような人体への干渉を目的とする合意も、 それが生命・健康の保護を目的とする限りにおい
て正当化される。 民法典−3条が述べる 「医学的な必要性」 とは、 この趣旨をいうものである。
安全の確保についても同様のことが言える。 人の安全を守るという目的は正当と評価されるに値
する。 安全がなければ、 基本権の具体的な行使も危ういものになるからである。 安全の確保はそれ
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夜間灯りなしで距離があるまま放っておいたため、 参加者が転倒して怪我をしたという事案において、 重大なフォー
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しているように思われる。
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題となった事案で、 当該通達の規定は、 危険な核生産物の取扱いに特化された――それゆえ、 継続
的に機能しなければならない――工場に適用される安全措置について規定するものであるから、
「企業労働者のストライキ権行使に影響を及ぼしたとしても」 そのような規定は労働法典
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条が定義する内部規則の適用領域内にあるとして、 当該規定が内部規則として規定されること
を認めた行政の決定を是認した地方行政裁判所の判断を支持した。
しかし、 当然のことながら、 判断が難しいケースも存在する。 は、 この点について、
年月日の破毀院大法廷判決を例に出して問題点を指摘している。 カトリック系の私立学
校に勤務していた女性教諭が離婚しその後再婚したため解雇されたという事案であるが、 教諭側は、
婚姻の自由や信教の自由といった憲法上保障されている基本的自由を私生活の場において行使した
ことを理由とする解雇は誤りであり、 学校の宗教的性格は婚姻の自由に対する侵害を正当化する十
分な理由とならないと主張した。 これに対して、 破毀院は、 「職務上必要な例外的な場合を除いて、
使用者は婚姻の自由を侵害してはならない」 という一般論を提示しつつも、 本件契約において、 学
校側の宗教的確信は教諭も認識しており、 契約に自発的に組み込まれたものといえるから、 この状
況は教諭に対抗できる例外的な場合に当たるとした。 そのうえで、 使用者側のフォートは教諭が立
証しなければならないところ、 「学校は、 その固有の性格と評価を維持し、 企業の適正な歩みを守
るために行動したのであり、 控訴院は、 学校がいかなるフォートも犯さなかったと判断することが
できた」 として破毀申立を退けた。
ここで注目すべきは、 首席検事の論告である。 は、 第二の婚姻が
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基本権制約が正当化されることもある。 ある男性がオペラにコーデュロイのズボンと半
袖の開襟シャツを着用して入場しようとしたところ、 チケットに記載されていた夜会用礼服を着用していないという
理由で入場を拒否されたという事案で、 エクサン―プロヴァンス大審裁判所は、 「チケットに記載されていた 夜会
用礼服着用 という注意書きは、 確かにタキシードや燕尾服を着用することを義務付けるものではないが、 上演され
るトーンと調和する服装、 ここでは少なくとも 平服 (ダークスーツに白いシャツ、 ネクタイ) を着用することを
要求して」 おり、 「これらの夕べは、 優雅で通の雰囲気を望む世界中からの音楽好きを魅了するものであ」 り、 「 大
衆 の祭典ではなく、 選ばれた人々 の祭典なのである」 から、 原告は劇場内に普段着で入場させることを主張す
る根拠を欠くとした ('()*"
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の詳細は不明であるが、 外国人賃借人が自国のテレビ放送を受信するため賃借物件にパラボラアンテナを設置しよう
としたと思われる事案において、 裁判所は、 賃貸人が 「不動産の正面に設置されるパラボラアンテナによって間違い
なく侵害される不動産の調和と美観を、 重大かつ正当な動機として援用することができる」 と判示した (* ,
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現実的に施設固有の教育目的を危険に晒すということが証明されていない以上、 使用者が夫婦結合
の不可解消性という教会法準則と結びついたカトリック施設であるという事実だけで、 婚姻の自由
という公序原則に違反しているということを認め、 再婚したという理由で労働者を解雇することは
相当ではない、 と主張した。 まさに、 ここでは、 現実的利益が正当性判断の重要な要素となってい
るのである。
基本権制約を正当化する際に現実的利益を要求することは、 ①正当な利益の要求を客観化し、 ②
偽りの正当化を暴くことに繋がる。 まず、 ①についてであるが、 ここでは年のパリ控訴院判
決が参考になる。 ある内縁カップルが共同で靴屋の支配人として従事するという労働契約が結ばれ
た――企業と男性間、 企業と女性間でそれぞれ契約が締結された――が、 この契約にはカップルの
一方が別居した場合はもう一方の契約も解除されるという内容の条項が含まれていた。 そこで、 こ
のような条項は別居の自由等を侵害するものではないかということが争われた。 労働法典
−
2条は、 従来の判例法理を確認する形で 「何人も、 達成すべき任務の性質によって正当化され得な
い、 そして目的と比例しない制限によって、 人格権あるいは個人・集団の自由を侵害することがで
きない」 と規定するが、 本件では、 使用者側が、 達成すべき任務の性質――本件では、 支店の健全
な共同経営を確保すること――を援用することができるかが問題となった。 パリ控訴院は、 会社の
利益の現実性が欠けているとして、 かかる条項を無効とした。 使用者は、 店の規模が一組の支配
人を必要としているということを正当化できなかった。
また、 基本権制約を正当化するために架空の正当な利益が主張されることがしばしば見うけられ
る (前記②の問題)。 それゆえ、 「現実性の要求」 はここでは偽りの正当化を暴くという機能を果た
すのである。 すなわち、 正当な利益という文言がマジックワードとなって恣意的に基本権侵害が正
当化されることを防止しているのである。 パリ控訴院年月日判決が参考になる。 航空会社
が女性客室乗務員に対して原則として独身でいることを義務付けるいわゆる独身条項の有効性が問
題となった事案である。 航空会社は、 客室乗務員の仕事は通常の家族生活と両立しない等、 様々な
主張を行った。 そして、 これらは一見すると正当な目的と評価することも可能なものであった。 し
かし、 控訴院は、 競合他社は既婚者でも雇用しておりそのような弊害は生じていないとし、 そのう
えで、 かかる独身条項に含まれている、 妊婦の解雇を禁止するという刑事制裁を伴う公序に関する
法定の規定を避けることという隠された目的を暴き、 航空会社側の主張を退けた。 すなわち、 提
出された正当化理由は現実的なものではないとしたのである。
このように、 現実的利益を要求することは、 結果として、 偽りの正当化を排除することに繋がる。
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求は、 多くのケースにおいて、 解雇の現実的理由の要求に相当する。
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しかし、 問題となっている利益が現実的なものか否かを判断することは容易ではない。 この点に関
して、 現実の裁判例に即していうと、 例えば、 ランス控訴院が、 競業避止条項は 「その職業的知識、
企業内の役割、 与えられた責任によって、 労働者が、 使用者の競争相手となり得る者に特別の専門
的能力を届けることができるということが立証される場合にしか有効にならない」 と指摘してい
るように、 現実的利益といえるか否かは当該利益に 「現実的な危険」 が切迫しているか否かという
ことによって判断できるように思われる。 破毀院も、 「労働者の職務に鑑みると、 競業避止条項は
企業の正当な利益保護に不可欠のものであるとは言えない」 として、 現実的危険の存在が競業避
止条項の有効性判断の前提となるということを認めているように思われる。 すなわち、 ここでは、
「企業にとって特別の競争上の危険」 が必要とされているのである。 従って、 労働者が 「下級職
についており、 競争相手の通常の職務執行の範囲において旧使用者にとって打撃となる特殊で秘匿
性のある情報へのアクセスを有していな」 ければ、 競業避止条項は無効なのである。
(a) 次に比例性 (比例原則) の要件について検討する。 比例原則の歴史は古く、 その淵源はロー
マ法にまで遡ることができるが、 直接的にはプロイセン一般ラント法に適用されてからの警察法・
行政法領域において発達してきた概念である。 フランスにおいても、 労働法典
−2条に代
表されるように、 実定法のレベルで比例原則が取り込まれている。 によると、 この基準
は当該制約手段が必要最小限度のものか、 すなわち不可欠なものかというところで問題となる。 こ
こでは、 探求された目的を達成するためのより侵害的でない他の方法が存在するときは、 当該基本
権制約は比例的ではないということを確認することが重要である。 既に、 公法の領域では、 「比例
原則は、 自由の行使の統制を…社会調和や公序の保護に厳格に不可欠なものに限定することにある」
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危険の存在は、
ある条項が予防的に作用する際にも必要となる。 例えば、 盗難の危険を防止するために所持品等の
検査が許されるかという問題で、 コンセイユ・デタは、 問題となっている企業は、 金属工業・貴金属化学に特化され
た企業であるから、 「盗難という個別の危険が存在し、 たとえ金属の存在を探知する装置による職員の統制は人格権
を侵害するものであるとしても、 その侵害は、 この場合、 盗難防止という特殊な必要性によって正当化される」 と判
示し、 内部規則の目的の正当性を盗難の危険に関連させて評価した ( )
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い基本権制約は、 現実的利益の要求に応えるものではないのである。
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クラウス・シュテルン
(小山剛訳) 「過度の侵害禁止 (比例原則) と衡量命令 ()」 名城巻号頁 (年)。
ヨーロッパ人権裁判所判例との関係でも検討すべき点が多い。
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102
と述べられているところであるが 、 私法の領域でも、 破毀院が不可欠性という文言を用いて事案
の解決に当たる例が見うけられる。 ある企業の企業委員会が休暇手当ての分配方法を変更し、 前年
度の所得税申告書を要求するようになったため、 この措置の是非が争われたという事案で、 破毀院
は、 「所得税の申告書は本質的に嫡出・非嫡出という家族状況、 財産状況、 負債状況といった情報
を含むものである」 という控訴院の判決を引用し、 このような申告書は休暇手当ての分配のために
不可欠のものではないとして、 かかる取扱いを民法典9条違反とした。 不可欠性の要求は常に明
示されているというわけではないが、 判断の基礎に据えられていることは確かである。
(b) 基本権制約が正当な利益の保護のためになされ、 それが必要最小限度の手段を用いてなさ
れたものであったとしても、 当該手段によって制約される利益の程度が保護される利益のそれと比
べて過大であれば、 当該制約は比例的とはいえない。 他の手段と比べるだけでなく、 当該手段によっ
てもたらされる不利益と被保護利益との関係も問題とされなければならない。 すなわち、 比例的で
あるためには、 当該制約が不可欠か否かというだけではなく、 問題となっている制約が衡平である
かということも重要な要素となる。
このような衡平性についての基本的な発想は、 それ自体、 古くから指摘されていることである。
破毀院は既に年の時点で、 この発想を判決文中に示している。 すなわち、 顔から産毛を除去
するために放射線療法を施したところ顎の皮膚に完治不能の損傷を与えてしまったため損害賠償請
求がなされたという事案において、 産毛除去という僅かな結果のために、 この身体の不完全性をよ
り悪化させるリスクを患者が負うことは全く要請されず、 医師は患者の要請を拒絶すべきであった
とした原判決を支持し、 医師からの破毀申立を退けた。 判決が行った利益と危険との比較は、 ま
さに比例的コントロールについて述べたものといえる。 そして、 この考えは近時では競合避止条項
の領域にまで拡大してきている。 年1月4日の破毀院商事部判決が、 「3年間、 ヴェルサイユ
市役所から直線距離で半径キロメートル以内においてはタクシー業務をしてはならない」 とす
る条項について、 「問題となっている条項が、 たとえ時間的・場所的に制限されているとしても、
契約の目的に照らして比例性を欠くかどうか調べることもなく判断を下した」 控訴院はその判決に
適法な基礎を与えていないとした。 ここでは、 比例性判断にあたって、 当該競業避止条項によって
生じる不利益と、 生じる利益とを比較衡量する必要性が説かれている。 すなわち、 前者の程度は
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例えば、 労働法領域においては、 労働者の長期の疾病 (による欠勤) が解雇の正当な理由となりうることを破毀院
も限定的に認めているが、 それは、 かかる欠勤が人員の交代を不可避的に生じさせることになると評価されるからで
ある (1,-
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)。 ここでは、 契約関係の解
消が不可欠であるときに、 私生活尊重の権利に踏み込んでいく可能性が認められている。 しかしながら、 このような
対応は、 もし一時的な配置転換で事が足りるのであれば、 比例性の要件に合致していないということになる。 それゆ
え、 裁判所には、 企業が置かれている客観的状況の 「深刻さ」 を評価することが要請されているのである (1,-
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103
後者の程度を超えてはならないとされているのである。
このように、 衡平性の要件は、 比例性判断の際に不可欠のものとなっているが、 当然のことなが
ら、 基本権制約によって得られる利益、 損失をどのように評価するのか、 またそれをどのように衡
量するのかということについては判断が難しい。 しかしながら、 このことは、 一般論としても比
例性の要件が基本権制約の限界を画する手段として妥当性を欠くということにはならない。 比例原
則自体は、 法の一般原則として古くから活用されてきたものであり、 も 「個人の間の自発
的な約束は、 その約束の使用を必要とする様々な必要性との関係で比例的でなければならない」 と述べ、 比例的統制の必要性を指摘しているのである。
は、 以上の二つの基準に加えて、 侵害の非本質性というもうひとつの基準を提示して
いる。 ここで問題となるのは、 問題となっている行為が最初の二つの段階をクリアした場合、 す
なわち当該制約が正当で比例的である場合に、 それだけでその制約が適法なものと評価されるのか
ということである。 達成しようとする利益があまりに重要なものであるために、 一方の基本権の消
滅までもが正当かつ衡平とされる場合が観念できないわけではない。 裁判所はまだこのような問題
について十分咀嚼したうえで判断を下しているわけではないが、 一部にこの問題を意識した主張が
なされている事件も見うけられる。 例えば、 年5月6日のパリ控訴院判決の事案がそれであ
るが、 ある不動産の共有規則では、 当該建物でいかなる職業・商業を行おうが自由だが、 音と臭い
この要件を満たせば、 基本権が制約することも可能となりうるということである。 ! !"
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原因の一つは、 そのような利益・損失の評価が、 仮定的な性質を有していることにある。 とりわけ人体を目的とす
る契約が問題となっている場合に顕著に現れる。 パリ控訴院年月日判決が参考になる (# $
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)。 控訴院は、 形成外科手術が問題となった事案で、 「外科医は…患
者の意思がどうであれ、 手術によって患者が受けるリスクと期待できる利点との間にある明らかな非比例性を理由と
して、 手術を拒絶すべきであった」 と判断した。 ここでは、 利益、 損失を厳密に評価することができないことを前提
に、 「明らかな」 という一語を入れることで不都合性を回避しようとしたものと評価できるのである。 もちろん、 利
益や損失、 あるいはその間の衡平についての評価が大体において一致する場合も存在する。 パラボラアンテナの設置
が問題になったストラスブール大審裁判所年月日判決を紹介しよう。 これは、 マグレブ出身のカップルが、
パラボラアンテナを個人でバルコニーに設置したところ、 賃貸人である)$*+がこれに反対したという事案である。
当該不動産に共通のケーブルネットワークを利用することもできたのであるが、 それではアラブの番組を見ることが
できなかったため、 不動産の外観を犠牲にしてパラボラアンテナの設置に踏み切ったのであった。 )$*+は、 不動
産の内的ネットワーク接続が整っている以上個人のアンテナ設置に反対することが出来るとする年!月'日の法
律第 !号 (当時) を盾にとったが、 裁判所は、 以下のように判断し、 賃貸人側の請求を退けた。 すなわち、 表現の
自由を保障するヨーロッパ人権条約
条には、 情報収受の自由も含まれ、 この自由を制限するためには、 その制限
が保護しようとしている権利の重要性と比較して比例的でなければならないところ、 所有者のコントロールの下でケー
ブル敷設を促進するという所有者の利益は、 カップルが受ける制約を正当化するほどには十分ではないとしたのであ
る (&(
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無記名の囲み記事によると、 この
種の紛争は現実には多いが、 裁判例として公表されるものは少ないという)。
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逆にいえば、
104
と埃を出す商業だけは禁止されていた。 当該建物でレストランを営もうと思っていた数名の共有権
者は、 かかる共有規則は商業の本質を奪うものであると主張した。 裁判所は正面からこの主張に
応えることはしなかったが、 この主張から問題の所在の一端を垣間見ることができる。
そうすると、 ここでの問題の核心は、 現実問題としてどのような自由制約が権利の本質を侵害し
ているものと評価されるのかということである。
いかなる基準をもって本質部分の侵害と評価すべきなのかということについては争いがあろうが、
そのような行為があれば通常は本質的部分の侵害と評価されるというものと、 通常は必ずしも本質
部分の侵害とはならないが、 その者との関係では本質的部分の侵害と評価されるものが観念できよ
う。 は、 前者についてのアプローチを客観的アプローチ、 後者についてのそれを主観的
アプローチと名付けている。
ここでは、 通常であれば当該行為は基本権の本質部分を侵害するものとして評価されるというも
のについて検討することにする。 この問題についても一般論として何らかの基準を立てることは難
しい。 しかしながら、 基本権を完全に消滅させてしまうようなものがここに含まれることについて
異論はないであろう。
例えば、 独身条項や強制居住条項が挙げられる。 前者は現在では
年7月
日法によって禁
止されているが、 婚姻の自由の本質を侵害するものである。 婚姻の自由は、 個人に開かれた選択可
能性の中にあるのであり、 具体的には、 公式に結合するのか、 独身でいるのか、 それとも内縁関係
をとるのかを選択するのかということを自由に選択できるということの中にある。 それゆえ、
あらゆる結合を禁止することはこの自由を奪うことにほかならない。 選択の余地を奪ってしまうと
いう意味で、 独身条項は、 権利行使の際に主体に与えられている操作の余地の 「制限」 としては評
価されないのである。 同様に、 強制居住条項も、 ヨーロッパ人権条約第4議定書2条が保障する居
所選択の自由を否定するものであるから、 それは許容される 「制限」 とはならない。
基本権を完全に消滅させる別の例として、 あらゆる訴権行使を禁止する条項が挙げられる。 憲法
院が、 人権宣言
条と関連付けて、 裁判に対する権利は基本権的特権を構成するとしているとこ
ろである。 そして、 このような条項が公序違反であるということについては、 裁判例が示すとお
りである。 アンジェ控訴院は、 年に、 総会の決定に対して裁判所にいかなる不服申立もする
ことができないとする約款は公序に反するとしているし、 最近では、 ヴェルサイユ控訴院が、 す
べての訴権を一般的に禁止する条項を公序違反と判示している。 破毀院も、 すでに
年の段階
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105
で、 「賃貸人が賃借人に賃貸物を使用・維持させる義務を負うことは、 賃貸借契約の本質である」
と述べ、 「賃借人は、 賃貸借期間中、 賃貸人に対して損害賠償を請求することを、 そして、 賃貸人
に対して、 いかなる理由であれ裁判所に提訴することを放棄する」 と規定する条項を非難してい
る。 すなわち、 賃貸人が履行を怠ったときに賃借人が有する 「賃貸人を裁判で訴える権利」 は賃
貸借契約の本質から導かれる権利であり、 この権利を排除することは、 基本権の本質部分を侵害す
ることになるのである。
労働に対する権利の制約については、 かつて
が述べたように 「それぞれの事例において、 問
題となっている合意が、 仕事をして生きていくために不可欠な最低限の自由を尊重しているかいな
いか探求すること」 が必要である。 労働に対する権利について、 侵すことのできない本質がある
とすれば、 それはまさにこの最低限度の自由といえよう。 もっとも、 社会には様々な人が存在する
ため、 客観的には同程度の制約を課せられたとしても、 その制約が当該個人の基本権に与える影響
は異なる。 それゆえ、 ある特定の者についてのみ、 基本権の本質部分の侵害となる場合が存在しう
る。 極論すれば、 完全に同じ二つの契約に現れている同じ条項の効力が、 個人Bに対してと個人A
に対してとで異なるということがある。 このような条項の効力は、 制約される側の事情によって大
きく左右され、 制約主体の意図とは無関係であるため、 制約主体が当該制約は労働の自由に対する
許容される範囲内の制約と考えていた場合でも、 本質部分に触れている場合がある。
破毀院審理部は、 かつて、 「本件の事実の下では、 この条項は、 その効果において、 植民地と4
年の期間に限定されているが、 商業・産業の自由に反するのみならず、 人間的自由と生存権を侵害
するものである」 としたインドシナ控訴院の判断を支持し、 本質的侵害の考慮に好意的な判断を下
したことがある。
本質的侵害の問題について説明するのに最も適しているのは、 競業避止条項が問題となる事案で
ある。 例えば、 年の破毀院社会部判決は、 ある条項の規定が一定の期間、 種類、 部門に限定
されていても、 その条項が労働者をしてカメルーン国内であらゆる仕事を得ることを不可能にする
場合には、 違法となると示している。 また、 年にパリ控訴院が述べたように、 競業避止条項
は、 いかなる場合でも労働者を失業に追い込んだり、 排除したりする効果をもつものではない。
すなわち、 活動して生きることを合意で禁止することは労働の自由の本質そのものを侵害するもの
とされているのである。
基本権の本質的侵害に関する最近の例は、 不可譲条項についてのものである。 所有権は憲法的価
値を有する基本権であるが 、 譲渡の自由は財産支配の最高の表現なのであるから、 そこに極度の
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106
制約を持ち込むことはできない。 譲渡の自由を奪うことは、 まさに所有権の本質的侵害といえるの
である (民法典−1条参照)。
違約金条項に関するものが挙げられる。 違約金条項とは、 労働者が受けた職業訓練にかかった費
用を使用者が負担するかわりに、 労働者は一定の期間仕事にとどまる義務を負い、 あるいは、 訓練
にかかった費用を使用者に返還する義務を負うというものである。 労働者は契約を解消したけれ
ば違約金を支払わなければならないので、 労働の自由に対する侵害といえなくもない。 しかし、 そ
のような条項は形式的には立法者によって禁じられていないし、 労働者の訓練のために投下した、
使用者の、 投資に対する採算が取れるようにするという正当な関心によって正当化される。 また、
この条項は、 額と期間が明らかに過度でなければ比例的である。 そして、 本質性の問題について、
仮に労働者が使用者の所に拘束されていても、 活動を明白に妨げられるということにはならないの
であるから、 労働の自由の本質的な侵害という結論に至ることは難しい。 別の所で専門能力を活用
する可能性、 企業を立ち上げる可能性が、 条項の期間内において一時的に妨げられるにすぎないの
である。
以上に見たように、 は、 基本権の水平的拡散という現象を念頭におきつつ、 膨
大な数の裁判例を分析し、 一定の衡量準則の抽出することに成功している。 ①侵害の正当性、 ②侵
害の比例性、 ③侵害の非本質性という判断基準がそれであるが、 まず分析手法それ自体は積極的に
評価されてよい。 冒頭で述べたように、 現実の裁判例から一定の規範を抽出する作業は、 純粋に理
論的な考察と両輪をなすものであり、 その重要性に疑問の余地はないからである。
問題は、 フランスの裁判例が果たして上記の3つの基準によって説明できるのかということで
ある。 確かに、 裁判例を (極めて限定的にではあるが) 眺める限り、 基本権制約の限界を定める基
準として、 当該制約が正当な利益を保護するためになされていることと、 当該制約が目的との関係
で比例的であることという2つの基準が存在し、 また機能していることは疑いない。 しかし、 非
本質性の要件は、 論者自身が認めているとおり、 裁判例によって明示的に示されたものではないた
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用語の問題にすぎないが、 以上の基準は、 基本権の制約を正当化するための基準であるため、 ここでは 「侵害」 で
はなく 「制約」 という文言を用いることにしたい。
とりわけ、 第一の基準は、 #
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の指摘にも繋がるものである。 .
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(1)は、 法律の規定が
なくても尊重されなければならない倫理法則があり、 人は 「正当な動機」 (
) なくして生命・人格・自由
を処分してはならないと述べ、 ##
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) が必要だと説いている。
107
め、 この要件を独立に認める必要があるのかということを慎重に検討する必要がある。
まず、 非本質性の要件を認めるということは、 本質的な侵害がなければ基本権の制約も許される
という結論を認める方向に行きかねない。 わずかであっても、 基本権に対する侵はすべて、 制裁さ
れるものであるということを信じなければならないと述べる者もおり、 この批判に応接すること
は不可欠である。
また、 何をもって本質的と判断するかという基準自体が曖昧であることも否定できない。 基本権
を永続的に侵害する行為は基本権の本質を侵害するものと評価されやすいが、 公衆衛生法典
−1条の要件に基づく臓器提供が有効であることに争いはない。 不妊手術についても、 出産を不
可能にするものであるから禁止されるのかというとそういうわけではない (公衆衛生法典
−
1条参照)。 このように、 とりわけ生命倫理が絡んでくる問題については、 基本権に対する永続的
侵害という点のみを根拠にして、 本質性の要件を充足させるわけにはいかないのである。
加えて、 この要件の大部分は比例性の判断の場で考慮することが可能である。 基本権の本質を侵
害するような法律行為は、 比例性要件の要素のひとつである衡平性を欠くと評価される場合が多い
であろう。
このように考えると、 非本質性の要件を独立の要件として認めず、 それ以外の要件に吸収される
べきであるとする見解にも理由があるように思える。
しかしながら、 まず、 単一の対象に焦点をあてることにある段階、 つまり、 受けた侵害の度合い
を判断する場に、 比例性の要件を持ち込むことは厳密にいうと妥当ではない。 比例性のテストは、
前述の通り、 複数の対象を衡量して妥当なものを導き出すというところに本質があるからである。
また、 比例性判断のみでは、 基本権からその本質を奪うような行為を確実に除去することができな
い可能性がある。 そして、 本質性の議論は、 基本権の本質を侵害しなければいかなる制約も許さ
れるという文脈でなされているのではなく、 たとえ正当性要件や比例性要件を満たしていたとして
も、 基本権の本質を侵害するような行為を適法と認めることはできないという文脈でなされている
ことを考えると、 最後の安全弁として本質性の要件を独立の要件として掲げることにも一定の意義
があるように思われる。
当然のことながら、 以上の衡量準則を無批判に受け入れたり、 日本の裁判例をこの分析に盲目的
に当てはめたりすることは慎まなければならない。 しかし、 フランスにおいても基本権相互の調整
という視点に立ってこの問題を正面から取り扱おうとする傾向が現れてきていることは強調されて
余りあることであり、 基本権をベースにした衡量の必要性が意識されてきているのは事実である。
議論は緒についたばかりということができ、 今後の展開を注視することにしたい。
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比例原則を用いた衡量を重視している。
108
「憲法学」と「政策学」−研究者の任務は変化したのか?
堀
内
健
志
[目次]
1序、 理論憲法学時代の終焉か
2認識論的憲法学
3理論と実践
4世紀末のポストモダン論議
5羅針盤のない航海
6ドイツ憲法学とアメリカ実践論
7試行錯誤からのスタート
8政策学の隆盛
9古典的 「国家」 学の学問的成果は無用か
10観察者の視点と関与者の立場
11結びに代えて、 法科大学院生向けの憲法教育
a今次の司法制度改革とそれに伴なう法曹教育体制の改正、 法科大学院の導入などによって、 こ
のところ従来の憲法学教育にもすでにじわりじわりと大きな変動が感じられるようになってきてい
る。
かかる動向は、 もちろん 「法学」 分野全体へ向けられたものであろうが、 ここでは専門分野の関
係でとくに公法学に限定してしか扱い得ない。 また近年の変化が単に教育制度の変革にのみその原
因があるということではなく、 おそらくは世紀末以来今日にまで続いているグローバリゼーション
や規制緩和などといった世界的な潮流のなかで物事を考えないといけないよりスケールの大きな問
題をも背景としていることであろうが、 これらの諸問題にもここでは深入りすることはできない。
b近年、
法学教室
連載の 「演習」 コーナーで取り上げられる話題は、 単に憲法の基礎的理解
だけではとうてい答えに辿り着くのが難しいものが多いように感じられる。 我々研究者からみてそ
うであるから、 大学院生を含め、 学生の水準からみたらおそらく大半の読者には個々の話題をその
ようなものとして、 つまり新知識として記憶する対象になっているのではなかろうか。 たとえ、 出
109
題者側の意図は、 柔軟な思考能力の涵養のため、 また、 単なる憲法解釈論的な知識ではなくどのよ
うな問題解決があり得るかという政策論にも及ぶ判断能力を試そうとしているのであるとしてもで
ある。 二・三年と限られた時間のなかで憲法の基礎的知識を精確に理解することすらままならない
のが現状ではないか。
さらには、 そこに答案作成術として、 この辺の論点にも触れておいてスペースを稼ぐ方が得策で
あるといったアドヴァイスもある。 これは、 わずかばかりの持てる知識をいかにうまくこねくりま
わすかという、 法曹実務家に求められそうな実践的訓練になるのかもしれないが、 その分しかし、
いい加減な学問的知見でも何とかなるという誤解を与えかねないのではないか。
c 「憲法」 について、 一般には常識的に何らかの知識や情報を持っていることが多いが、 しかし、
きちんとした理論としての 「憲法学」 は、 逆にそれだけにそう簡単ではなく、 入りやすいがものに
し難いというふうに言われる。 また、 通説的に説かれている学説であっても吟味するとかなり問題
を含んでいるものが少なからずあり、 その辺の検討はどれ一つとっても研究者にとってライフワー
クとなりうるほどの深い研究を必要としているのである。
例えば、 ある企業を国有化する法律を 「措置法律」 であるとする前提に 「立法」 の一般性という
要請があるが、 これは今日カビ臭い時代遅れの理論であると説明される。 従ってそれは憲法違反と
いうに及ばぬというのである ( 法学教室 293号132−3頁)。
さて、 しかし、 伝統学説がそもそもそのように説いたことがあるだろうか。 「法律の一般性」 と
は、 名宛人、 事件 (案) ともに不特定数に向けられている法律は、 排他的立法所管であることを意
味する。 うえの 「法律」 はある会社に向けられているが、 個別人間に向けられたものではなく、
「個別法律」 に当たらない。 また、 そのような 「措置法律」 は伝統学説によっても初めからなんら
違憲の法律ではない。
このような伝統学説すら正しく理解せずして応用問題に慣れよと言うのは、 学問を完全に無視す
るもので学問の名に値しない。 伝統学説を研究するにせよ、 それを克服するにせよ、 その基礎概念
たる 「法律の一般性」 じしんを明確にしなくてはならぬことは、 学界においてすでに二十年も前に
指摘されている (堀内 立憲理論の主要問題 (多賀出版、 昭和62年) 所収論文)。 それを何と心得
ておられるのか。
そればかりではない。 憲法94条のいう 「法律の範囲内」 での条例制定権と地方自治法14条1項の
「法令に違反しない限り」 での条例制定との区別もわかっていないようである ( 法学教室
303号
112−3頁)。 「留保」 (排他的所管) と 「優位」 (競合的所管) 両原理の勉強からもう一度始めなく
てはなるまい。
もっとも、 念のため言うが、 この憲法94条の 「法律の範囲内で」 と地方自治法14条1項の 「法令
に違反しない限りにおいて」 とは、 「同様に解すべきものである」 と、 権威ある書物が述べている
ので (松本英昭
新版逐条地方自治法
なくてはならないのである。
110
(学陽書房、 平成13年) 120頁)、 そのこと自身を問題にし
aわが国の戦後から昭和60年代までの公法学は、 ドイツのとりわけG. イェリネク、 H. ケルゼ
ン、 C. シュミットなどに代表される国法学を背景として展開されてきた。 G. イェリネクの国家
学にはその後の様々の憲法学方法論の端緒が認められると言える。 こうした学問的憲法学は、 当時
の東北大学法学部におられたそうそうたる諸先生方によって研究され、 その成果が後学の学徒へ伝
授された。 そこでは、 学問としての 「憲法学」 とはどのようなものかということが究明された。
b 「法規範と事実」 を巡る 「法」 の認識、 「政治的決断」 との関係など、 「憲法学」 をどのように
構築するのか、 その基礎的問題が精力的に議論された。 理論的一貫性の指摘は、 そのような帰結を
開陳することに学問的意義があり、 政策実践的課題を解決するための処方箋を
提案
することを意図するものではなかった。
a伝統的な学問観によると、 科学的研究およびその研究成果とその応用・技術とは区別されて、
前者はそれ自身価値を有し、 憲法上 「学問の自由」 の保障対象となる。 「真理探究」 は時々の時流・
政治的権力に左右されるべきではなく、 そのことが 「人類の真の進歩」 に寄与するものであると考
えられた。 目先の現実的目的に役立つとか、 利害得失の視点で善し悪しが決まるものではない。
ところが、 近年の現状はどうであろうか。 役所の部署には何々 「戦術会議」 や 「政策審議室」 と
いう看板が目につくようになっているが、 大学においても、 世紀転換期の大学改革前後から 「政策
学部」 「公共政策学科」 など従来の学部学科にはみられなかった名称が付されるようになっている。
そればかりか、 伝統的な哲学、 歴史学、 文学などの現実社会に直接役立つことが乏しい学問分野は、
社会貢献度が低いとか、 就職率が低いとかといって定員が縮小されたり、 大学の生き残りのために
低く評価が下されたりする。 他方、 高度の専門職業人の養成を目指す法科大学院や公共政策大学院、
会計専門職大学院などが次々と作られる。 大学では、 学生アンケートによる講義内容の評価がなさ
れ、 また社会貢献などについて自己評価が求められる。
bこれらすべてがナンセンスだというのではない。 社会がそのようなものを求めていて、 その要
請に応えるべく大学・役所なども変化してきているといえよう。 いずれにもせよ、 しかし、 学問・
研究が当面の目的・問題に対処すべく目先の効用に囚われていることは否定できない。 実践主義、
プラグマティズムのグローバリゼーションということであろうか。
ここでは実践的でない理論の意義は認められない。 このような変化はどのようにして起こったの
であろうか。
aベルリンの壁の崩壊、 東西ドイツの統合、 ソ連など東側諸国の自由主義化など、 世紀末の世界
111
的大変動を経て、 1990年代において今後どのような体制がもたらされるかという問題状況の中で、
ポストモダン論議も盛んに行われた。 西欧ヨーロッパ文明に変わるどのような体制が登場するのか
が占われた。 西欧型現代民主制の限界論や異なるイスラム社会・文化との関連はどのようになるの
かが議論された。 そのなかの一つの主張であった、 西欧文化の崩壊、 全体主義国家の台頭という線
は、 しかし実現しなかった。
むしろ、 後進国における飢餓、 貧困、 エイズなど病気の蔓延、 環境破壊、 人口問題、 食料不足、
医療的救済の必要や世界経済のグローバリゼーション・規制緩和の進行による失業者の増大、 農村
の崩壊、 地震等の自然災害の発生といった世界的社会不安、 危機状態において、 西欧文明の根底に
ある 「人間の尊厳」 という価値原理の普遍性が改めて認識されることになった。
bしかしまた、 他方では現代大衆民主制のもとにおいて、 従来の 「憲法原理」 が今日の状況にそ
のままの形で通用するのかといえば、 実はそうではなく、 大幅な見直しが必要とされた。 例えば、
「国家・社会」 の近代国家的な二元的構造は民主国家に適合しないとか、 また、 「行政法原理」 にも
及ぶところの 「法の支配」 原理による再構成が必要であるとか、 さらには形式的な 「法律の一般性」
というものが人間の実質的平等原理に適合しないような社会状況になっているとか、 司法的救済制
度が 「行政権」 優位の制度になっていて充分な国民の救済をもたらしていないということ。 行政手
続の過程で住民や利害関係人の意見を配慮する必要性があるとか、 行政の情報公開が必要であると
いったことなど。
cこのようにして、 ポストモダン論議は、 結局 「人間の尊厳」 という普遍原理を維持しながらも、
その具体的 「処方箋」 において、 従来の伝統学説ではだめであるということに落ち着くごとくであ
る。 が、 しからば、 どのような法理が新たに構築・提示されうるのか。 これが今後の課題というこ
とになる。 しかし、 その具体的新提言は決して簡単ではない。
a世紀転換期において、 物事の判断にこれまでの理論、 思考法がもはや通用しない、 新しい時代
を迎えたと言われている。 憲法学の分野でも、 伝統学説はもう古くなっていて、 そのままでは使え
ないとも言われる。 いつの時代でも、 社会的変動のなかで従来の思考モデルがそのままいつも通用
するのではなく、 絶えず変化に対応するような作業が必要であることは言うまでもない。 が、 とり
わけ今日の状況においてそのことが著しいものがあると指摘される。
b憲法学上の法理のなかで、 さきにも触れた 「法律の一般性」 のほか、 そもそも 「憲法」 規範の
名宛人に関してそれが 「私人」 間の 「法関係」 にも効力が及ぶのかといういわゆる 「基本的人権の
私人間効力」 論、 「公法・私法」 の区別、 そしてこれと関連する 「立法」 概念である 「権利命題」
や 「組織法・行態法」 の区別など 「近代立憲主義憲法」 「近代国家」 の諸原理がいずれもその妥当
性が問われることになる。
cこれらの諸原理から離れて、 では全く白紙でもって 「憲法」 論を新たに構築できるものであろ
うか。 これがまさしく当面の課題であろう。
112
aうえにみたごとき伝統学説の諸法理は、 実は、 わが国において主として西欧、 なかんずくドイ
ツ公法学の影響のもと形成されてきたものであった。
戦後の公法学は、 アメリカの強い影響下にある。 敗戦後アメリカ占領軍の統治、 「日本国憲法」
の制定に際して占領軍の影響が決定的であったことなどから、 憲法はじめ公法上の諸法制も大きく
方向転換することになった。 もっとも、 当初はしばらく従来の伝統的思考がそのまま維持されたし、
法制度も一機に切り替わった訳ではなかった。 むしろ、 実質的には、 このつい近年になって、 つま
り、 世紀末の変革期になって、 「この国のかたち」 の変革の際に、 行政改革や地方分権一括法など
とともに、 平成の大改革 (革命) として、 まさになだれ打って変革が表面化している。
b行政法の分野において、 行政手続法の制定、 情報公開法制の整備など 「行政の透明化、 公正化」
のための諸法制はアメリカ法の影響によるものである。 また、 伝統的な 「法律による行政の原理」
についても 「法の支配」 原理による克服の試みもなされている。 行政事件訴訟法の改正で、 原告適
格の拡大、 義務付け・差止訴訟の新設、 確認訴訟の明示、 執行停止の要件の緩和、 仮の義務付け・
仮の差止制度の新設、 出訴期間の延長等による行政訴訟の機能不全を是正し、 国民の権利利益の実
効的救済手続きの整備が計られた。 現実にどのように運用されるかは今後にかかっているが、 これ
らによって、 西欧大陸流の伝統的行政訴訟法に対しての大幅な方向転換がなされたことになる。
cここには立ち入ることはできないが、 実は、 このような変化は、 わが国においてのみならず、
伝統学説の本拠地であるドイツやさらにフランスの行政法においても見られるようである。 さきに
みた行政裁判制度の改革や行政手続法、 情報公開法制は今日西欧に広く採用されているようである。
公法学におけるグローバリゼーションともいえる傾向であろう。
世紀の転換期にあたり、 伝統学説がそのままでは妥当性を持ち得ないという状況のもとで、 頼る
べき基準・理論が見あたらない。 その場合、 物事の決定はどのようにして進められていくことにな
るのだろうか。
当面は、 現状を見極めながら個々に判断して行かざるを得ない。 そのようないわば試行錯誤によ
る判断の際に、 つまり、 依拠するべき理論が与えられていず、 社会、 市民の考え方も一様でない、
同一性 (アイデンティティー) を見いだしがたい状況では、 どうするかといえば、 結局はその問題
に利害を有するものが話し合いをして決めていくという事になる。 その場合何よりの正当化を担保
するものは手続きの公正さということになる。 そのような公正な手続きによって決められたことに
ついては、 内容が正しいという評価が与えられる。 この内容をほかに何らかの理念や正義、 価値で
もって批判することはできない。 結果的には、 多数決による決定が正当性を与えられる。 民主的決
定だということになる。 ここには競争原理が働き、 負けたもの、 弱者の意見は通用しない。 弱肉強
食の結果となる。
113
実は、 この考え方は、 アメリカの手続的正義論に親和的であること言うまでもない。 戦後の占領
地統治後アメリカ戦略がわが国の諸法制に大きな影響を与えてきたことはその通りであるが、 近年
の社会的変化のなかでは、 そのような考え方が実際にも適合的な状況をもたらしているということ
も言えるであろう。
aこのようにして、 現実の諸問題に対処するために模範となすべき理論が与えられないときは、
自然の成り行きとして、 当面の事態を切り抜けるための 「処方箋」 は何かという、 政策論が学問の
対象となり、 また研究者にその解明が求められてくる。 「政策学部」 「政策学科」 が登場していると
いうことまえにも指摘した通りである。
b私がいる講座名が 「公共政策」 であり (修士課程が 「地域政策」 の分野)、 そして独立大学院
「地域社会」 研究科博士課程は 「地域政策研究」 講座となっている。 が、 「公共政策」 講座は従来の
伝統的な 「法学・政治学」 の研究者が多いし、 「地域社会研究科」 も純粋の 「政策」 研究者ばかり
が顔をそろえているわけではない。
それでも、 当初心配したほどではなく研究テーマを拝見すると 「病院の現場における看護師の役
割」 やその 「生涯教育」、 中国における終末医療、 地域振興策としての整備新幹線問題などの総合
的研究などこれまでの狭い個別領域の研究ではなかなか捉えきれなかった学際的研究成果が認めら
れるようである。
c伝統的 「憲法学」 を長年研究してきたものとして 「政策学」 とどのようにつきあうのか、 その
しっかりした理解を持ってその両者にとって実り豊かな関係を確立する必要がある。
aさて、 憲法学において、 「政策学」 的アプローチが入り込んできていること、 前に言及したが、
その特徴の一つとして、 実定憲法解釈論において、 裁判所の置かれている立場、 つまりは 「立法」
に拘束された議論をするのか、 それとも 「立法論」 としてあるべき理想像は何かという議論をする
のかを截然と区別せずに渾然一体として議論されるようになったことが挙げられよう。 しかも、 研
究者においてそうなのである。
これは、 ひとつにはドイツの憲法裁判所判例の研究の影響であろうか。 しかし、 これはわが国現
行法制と制度が同じではない。 学習用の演習設問の中で憲法条項をそのように定めたらどうなるか
といった設定が多くなっていることや、 裁判例中に 「立法の不作為」 論が目立って多くなってきて
いることなどにもその傾向が伺われる。
bドイツにおいて、 伝統的な 「一般国家学」 が、 今日学問分野として 「死亡宣告」 されたものと
いわれる。 これに対してC. シュタルク教授が、 「国家」 学存立の意義は失われておらず、 EUの
存在が決して 「一般国家学」 を否認するものではないとして批判し、 むしろこの超国家連合を認識
114
するためにも寄与するものであることを強調しているという (兎原明 「 一般国家学 (
) の存在理由」 大東文化大学法学研究所報 26号 (2006年3月) 1頁以下)。
cそもそも、 学問上の理論とは、 ある憲法学上の対象をできるだけ客観的にその位置を精確に説
明するために有用であると考えられる。 対象を絶対化し、 またそれが新しい現象によってそれを捉
える枠組み自体が消滅するというものであってはいけない。 EUという超国家連合の登場によって、
それを適切に説明するために 「一般国家学」 は有効に機能することが求められるのであり、 それ自
身が 「死亡」 するというものであってはならない。 例えば、 G. イエリネクの 「一般国家学」 は、
単に近代国家だけでなく、 その考察は古代ギリシャ以来の面々と続く国家群に及んでいる。 「国家」
が存在する限り 「国家」 学は必要である。 何らかのその時の政策目的のために 「国家学」 があるの
ではない。
aうえのごとき意味での 「憲法学」 は、 その対象となる現象をできるだけ客観的・体系的に説明
することを本質とする。 そのために様々の方法論が展開されるのである。 このような所与の対象を
考 察 す る の で あ る か ら 、 こ れ を R . ア レ ク シ ー ( 簡 約 に は 、 37(1990) 9
26、 堀内訳
「R. アレクシー
法実証主義批判 」
弘前大学人文社会論叢 (社会科学篇) 3号 (1999年) 31
47
頁参照) にならって観察者の視点と呼ぶことにする。
これに対して、 すでに見たような、 例えば裁判官として判決を書く場合や国民が政治的意思を表
明する立場は観察者ではなくて、 ここではやはりR. アレクシーにならうと関与者として振る舞う
ということになる。
bこのいずれの観点が、 「憲法学」 にとり絶対的に正しいというわけではない。 伝統学説の学問
観は、 前者に徹してきたきらいがあり、 これはこれで誤ったものではない。 が、 今日の 「政策学」
には、 それでは物足りない。 国民の側が国家生活に積極的に参加して、 自ら国家のあるべき方向・
基準を創設したいという意思を反映している。 また、 従来の法理をそのままでは使えないという現
状もある。 この後者の視点は、 今日の現代民主制国家のもと不可欠のものとなっている。 が、 重要
なことは、 「政策学」 的願望で客観的理論である 「憲法学」 の有用・無用を語ってはならず、 両者
を都合よく混用してはならないということである。
今日の憲法状況は、 「日本国憲法」 制定後60年を経て、 様々の面から見直し論議が高まっている。
憲法の 「政策学」 的論議や勉強も大いにやってよい。 また、 「公法学」 全般を見渡しても 「行政法」
の 「基本原理」 である 「法律による行政の原理」 が 「法の支配」 論によって克服され得るのかといっ
た問題にも直面している。 あるべき 「立法」 像の研究は大いに結構である。 ただ、 長年月経て蓄積
115
された学的知見というものは、 それなりの重みがあり、 法科大学院の初学学生水準ではその精確な
る理解にまず力を注ぐだけでも時間が必要であろう。 教育・研究者にあっても伝統学説の理解が必
ずしも充分でないということもあり得る。 結論的に言えば、 個人の 「政策判断」 開陳の前に理論的
憲法学情報を国民に対して絶えず精確に提供し続けなくてはならず、 研究者に期待される任務は増
えることこそあれ、 理論研究をないがしろにしてよいということにはなり得ない。
116
1
2
3
4
5
6
7
8
目下の研究テーマ
著書・論文・その他
研究発表・講演ほか
学外集中講義
海外出張・研修
科学研究費補助金等, 競争的研究資金
共同研究
弘前大学人文学部で主催の学会・研究会
117
1 現在の研究テーマ
●
亀ヶ岡文化研究
●
亀ヶ岡式土器の文様の研究
2 著書・論文ほか
● 共編著
亀ヶ岡文化遺物実測集(3)−弘前大学人文学部日本考古学研究室研究報告5
、 1∼175頁、 弘前大学人文学部、 平成
18年3月。
●
共編著 青森県三戸郡三戸町杉沢遺跡発掘調査報告書−弘前大学人文学部日本考古学研究室研究報告6 、 弘前大学人文学部
附属亀ヶ岡文化研究センター、 平成19年3月 (予定)。
●
共編著 亀ヶ岡文化研究論文など−弘前大学人文学部日本考古学研究室研究報告7
弘前大学人文学部附属亀ヶ岡文化研究セ
ンター、 平成19年3月 (予定)。
3 研究発表・講演
●
青森県の縄文遺跡群 、 世界遺産を目指す会、 2007年1月27日
●
環状列石を作った人々の祭りの道具 、 鹿角市教育委員会、 2007年2月3日
●
亀ヶ岡文化に於ける情報伝達 、 平成19年度青森県地学教育学会、 2007年4月28日
●
亀ヶ岡文化の話 、 平川市教育委員会、 2007年12月15日
6 競争的研究資金
● 学部長裁量経費 「亀ヶ岡文化研究センター事業運営」
●
地域連携研究費 「亀ヶ岡文化の研究とそれに基づく展示活動の運営・研究」
7 共同研究
●
「亀ヶ岡文化の研究とそれに基づく展示活動の運営・研究」 (亀ヶ岡文化研究センター)
1 現在の研究テーマ
● ドイツ観念論思想における 「宗教」 論の研究
1 現在の研究テーマ
● 東アジア仏教絵画史
●
東北の美術
●
文化政策
2 著書・論文ほか
[論文]
●
「
」 5、
(「東アジアの経絵について」
佛教美術史學
集, 韓国佛教美術史學會), 2007年11月, 399∼428
[その他]
●
「知られざる日本美術 竹森節堂筆 呉子胥奮戦図」、
美術の窓
2007年7月号, 2007年6月, 94∼95
3 研究発表・講演
●
「東アジアの経絵について」 第9回韓国佛教美術史学会, 2007年4月13日、 通度寺聖寶博物館
5 海外出張
● 韓国
通度寺聖宝博物館 2007年4月11日∼15日 韓国佛教美術史学会で招待講演および高麗写経調査のため
●
韓国 国立中央博物館, 東國大学校博物館・中央佛教博物館ほか 2007年8月29日∼9月2日 高麗写経調査のため
6 科学研究費補助金
● 基盤研究(
) 「鎌倉時代経絵の研究」、 課題研究番号18250076 (研究代表者 須藤弘敏)
7 共同研究等
● 青森県下寺院文化財悉皆調査 (19年度は南津軽郡藤崎町, 田舎館村, 大鰐町ほか)
118
青森県
第5
1 現在の研究テーマ
● アフリカの在来農業と農耕民社会の変化に関する生態人類学的研究、 在来知識、 移動性と社会
2 著書・論文ほか
● 杉山祐子 (2007) 「アフリカ地域研究における生業とジェンダー−中南部アフリカを中心に」
ジェンダー人類学を読む
世
界思想社
144
169
●
杉山祐子 (2007) 「「ミオンボ林ならどこへでも」 という信念について−焼畑農耕民ベンバの移動性に関する考察」、 河合香吏
生きる場の人類学 京都大学学術出版会
239
269
編
●
杉山祐子 (2007) 「焼畑農耕民社会における 自給
のかたちと柔軟な離合集散−ザンビア、 ベンバにおける アフリカ・モ
ラル・エコノミー 」、 アフリカ研究 70号、 日本アフリカ学会
103
118
●
(2007)
!
34"
$
91
113
#
●
杉山祐子 (2007) 現代アフリカにおける焼畑農耕民の生態と生活の論理−ザンビアのミオンボ林帯に住むベンバの事例から−
京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科博士論文
●
杉山祐子 (2007) 「食物の道、 お金の道、 敬意の道−アフリカのミオンボ林帯に住む焼畑農耕民ベンバにおける資源化のプロ
セスと貨幣の役割」、 資源人類学05 貨幣と資源
弘文堂 147
188
3 研究発表・講演
● 日本アフリカ学会第44回学術大会ポスター発表 「ベンバの呪い」、 2007年5月24日∼25日、 長崎ブリックホール
7 共同研究
● 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、 「人類社会の進化史的基盤研究(1)」
1 現在の研究テーマ
● カタコンベに関する包括的研究
2 著書・論文ほか
● 宮坂朋 「ローマ・カタコンベの天井装飾」、
(人文科学篇) 第17号、 2007年3月、 1
12
弘前大学人文学部人文社会論叢
3 研究発表・講演
● 宮坂朋 「半開の扉ヴィア・ラティーナ・カタコンベ墓室%
壁画」、 第60回美術史学会全国大会研究発表、 2007年5月25日、 九
州国立博物館
4 学外集中講義
①名古屋大学 (2007年8月20∼24日)
5 海外出張・研修、 そのほかの海外での活動
①ローマ出張 (2007年3月21∼4月3日)
6 科学研究費補助金
①科学研究費補助金基盤(")一般 「ヴィア・ラティーナ・カタコンベ壁画に関する包括的研究」
1 現在の研究テーマ
● 北方史、 近世墓、 亀ヶ岡文化
2 著書・論文ほか
● 単著 「東北地方出土の安行系・滋賀里系土器からみた地域間交流」、
ムラと地域の考古学
97∼111頁
同成社 2006年12
月
●
単著 「平泉文化と北方交易1−北奥出土のガラス玉−」、 平泉文化研究年報
●
単著 「タマサイ・ガラス玉に関する型式学的検討」、
7
アイヌ文化の成立と変容
1∼13頁
岩手県教育委員会 2007年3月
653∼678頁
法政大学国際日本学研究所
2007年3月
●
単著
●
単著 「大洞系・類大洞系・非大洞系土器の検証」、 考古学談叢
「本州アイヌの考古学的痕跡」、 アイヌ文化の成立と変容
797∼823頁
法政大学国際日本学研究所
287∼312頁
六一書房
2007年3月
2007年5月
119
●
共著 「墓標からみた江戸時代の人口変動」、
●
共著 「十三湊遺跡の近世陶磁器」、 津軽十三湊遺跡−中世前期港湾施設の調査
日本考古学 24 21∼39頁 日本考古学協会 (澁谷悠子と共著) 2007年10月
第157次調査報告書ほか−
166∼214頁
中央大学文学部日本史研究室 (西沢宏予と共著) 2007年2月
●
単著 「津軽地方の晩期集落」、 平成17∼18年度科学研究費補助金基盤()1研究成果報告書
展と地域性
●
東日本縄文・弥生時代集落の発
6∼14頁 2007年3月
共著 「東京都港区金地院遠野南部家28代義顔墓所改葬報告」、 岩手考古学 19
113∼126頁
岩手考古学会
(藤田俊雄と
共著) 2007年7月
●
編共著
供養塔の基礎的調査に基づく飢饉と近世社会システムの研究 、 平成16年度∼18年度科学研究費補助金 (基盤研究
()(2)) 研究成果報告書 2007年2月
●
共編著 津軽の近世墓標 、 弘前大学人文学部文化財論ゼミナール調査報告Ⅶ 2007年3月
3 研究発表・講演
●
「流通①北海道・東北」
ンター主催 瀬戸蔵
シンポジウム江戸時代のやきもの−生産と流通
財団法人瀬戸市文化振興事業団埋蔵文化財セン
2006年12月
●
「岩手の近世考古資料とその特質」
●
「副葬品にみる遠野南部氏」
岩手考古学会第37回大会記念講演 花巻市イーハトーブ館
●
「やきものにみる根城南部氏」
●
「宮城県内の層位的資料による後期末から晩期初頭の縄文土器編年」
2007年2月
平成18年度第4回博物館講座 遠野市立博物館市 2007年2月
八戸市博物館歴史講座 2007年5月
第5回海峡土器編年研究会
青森県観光物産館
2007年7月
6 科学研究費補助金
● 基盤研究(
) 「近世墓と人口史料による社会構造と人口変動に関する基礎的研究」 (研究代表者)
7 共同研究
● 平泉文化研究機関整備事業に係る共同研究者 (岩手県教育委員会)
1 現在の研究テーマ
● 口承文化
● 唱導文化と民俗
●
女性の身体と出産をめぐる民俗
2 著書・論文ほか
[論文]
●
山田厳子 「 起源
の刷新− 「 伝説
における
別伝
の創造と享受−」
口承文芸学会編・発行
口承文芸研究
30号
2007年3月 45∼57頁
●
山田厳子 「聴く力−丸山久子の昔話調査−」
●
山田厳子 「青森県における仏教唱導空間と習俗− 「女の正月」 と地獄絵の開帳−」
口承文芸学会編・発行 口承文芸研究 30号 2007年3月 177∼183頁
国文学−解釈と鑑賞−
2007年9月号
(特集 「唱導文化の展望」) 165∼174頁
[研究ノート、 報告書、 その他]
●
山田厳子 「青森県における仏教唱導空間と儀礼」 ( 付
山斎 (唱導) 研究
●
2007年9月
ハングル語訳・中国語訳) 韓国霊山斎保存会編・発行
仏教儀礼霊
215∼218頁
山田厳子 「津軽三味線ー青森県津軽地方ー」 第48回東北・北海道民俗芸能大会実行委員会編
民俗芸能大会記録
2007年3
月3∼6頁
●
山田厳子 「弘前市と中津軽郡の概要」 青森県教育委員会編 青森県祭り・行事調査報告書
●
山田厳子 「黒石市・平川市と南津軽郡の概要」 青森県教育委員会編
●
山田厳子 「七か所かける」 青森県教育委員会編 青森県祭り・行事調査報告書
●
山田厳子 「黒石市浅瀬石のオシラ講」 青森県教育委員会編 青森県祭り・行事調査報告書
●
山田厳子 「交通・交易」 青森県史編さん民俗部会編 青森県史民俗編 資料下北 77∼86頁
2007年3月 44∼45頁
青森県祭り・行事調査報告書 2007年3月 56∼57頁
2007年3月 54∼55頁
2007年3月 60頁
3 研究発表・講演
● 山田厳子 「試される母―近代における異常出生譚の受容と展開―」 口承文芸学会第53回例会
シンポジウム 「口承研究と女
性」 シンポジスト 2007年1月13日 於:日本大学文理学部100周年記念館
●
山田厳子 「青森県における仏教唱導空間と儀礼」 韓国東方大学院大学・日本国立歴史民俗博物館共催
国際学術会議 「仏教儀礼霊山斎 (唱導) 研究」 シンポジスト
4 学外集中講義
● 北海道教育大学大学院釧路校
2007年9月8日∼11日
120
2007年9月1日
於:韓国梵音大学
霊山斎保存会第5回
5 海外出張・研修、 そのほかの海外での活動
● 人間文化研究機構連携研究 「ユーラシアと日本:交流と表象」 「唱導文化の比較研究」 班による韓国出張
2007年8月31日∼
9月2日
6 科学研究費補助金、 そのほかの競争的研究資金など
● 科学研究補助金基盤研究C 「第二次世界大戦下のオシラサマ信仰と民間巫者」 (研究代表者)
7 共同研究
● 国立歴史民俗博物館共同研究 「日本における民俗研究の形成と発展に関する基礎研究」
●
人間文化研究機構連携研究 「ユーラシアと日本:交流と表象」 「唱導文化の比較研究」 班
1 現在の研究テーマ
● イタリア美術の歴史 (とくに16世紀前半のマニエリスム)
3 研究発表・講演
● ルネサンス研究会 (学習院女子大学、 二〇〇七年七月十四日) 題目 「ジュリオ・カミッロ
劇場のイデア
におけるマニエ
リスム」
6 科学研究費補助金
● 萌芽研究 (平成一九年∼) 「修辞学、 詩学、 俗語文学におけるマニエリスム的造形原理の実証的・文献学的研究」 (研究代表
者)
1 現在の研究テーマ
● T. S. エリオットの評論を含めた詩作品を英国の文学史の流れの中だけでなくヨーロッパ精神史を踏まえながら研究して
いくこと。
1 現在の研究テーマ
● ハインリヒ・フォン・クライストの作品とその思想について
●
ロマン派絵画の象徴的表現について
1 現在の研究テーマ
● 中国古典詩の詩跡、 歳時記、 弘前の鷹城吟社の研究
2 著書・論文
[著書]
●
石原溪泉漢詩選
鷹城吟社刊、 2007年3月、 全169頁 (一部、 他の人の序文等を含む)
[論文]
●
「正確な読解と綿密な調査の 「基本」 を求む―竹内実編著
岩波漢詩紀行辞典
論評―」
中国詩文論叢
第25集、
2006年12月 207∼218
●
「中国詩跡考1 (安徽省)」 人文社会論叢 (人文科学篇)
第17号、 2007年2月 13∼29
3 研究発表・講演
●
「中国歴代の地理総志に見る詩跡の著録とその展開―安徽省宣城市区・池州市、 および山東省済南市区を通して―」、 稲取、 9月5日、 科研費の研究会
6 科学研究費補助金
● 科学研究費基盤 「詩跡 (歌枕) 研究による中国文学史論再構築―詩跡の概念・機能・形成に関する研究― 」 (研究代表者)
121
1 現在の研究テーマ
● ゲーテ
ファウスト
研究
2 著書・論文ほか
[論文]
●
「 ファウスト第一部
における 「時間」 の諸相 − 「近代的人間」 ファウスト、 あるいは近代と時間 −」、 東北ドイツ文学
研究 第50号、 2007年5月、 33−72頁
●
「道化メフィスト −
ファウスト
における道化的視点の意義 −」、 ドイツ文学 第133号、 2007年10月、 167−183頁
[エッセイ]
●
「パンドラと希望」、 ゲーテ年鑑 第49巻、 2007年10月、 155−159頁
6 科学研究費補助金
● 平成19年度文部科学省科学研究費助成金、 基盤研究 (C)、 「新しい
ファウスト 研究における〈道化論〉的視座の可能性」
1 現在の研究テーマ
●
漢訳西学書の研究
●
風景論・景観論の研究
●
幾何原本 翻訳研究
2 著書・論文ほか
●
「島邦男著 殷墟卜辞研究 中国語版の刊行に寄せて」、 人文社会論叢
●
●
第18号、 2007年3月。
「東海西海 心同理同−記念徐光啓及び 幾何原本 翻訳四百周年国際学術研討会参加記」 ( 東方 出稿済み)
「 幾何原本 的成立及其在東亞的伝播−以概念的翻訳和公理思想為中心−」 ( 記念徐光啓及
幾何原本
翻訳四百周年国際
研討会論文集 出稿済み)
2 研究発表・講演
● 2007年6月29日、 第二回東西交渉史国際集会 「近世東アジアの多様な方向性−中国・朝鮮・日本と西洋との関係にお
いて−」 (弘前大学) にて 「韓国所蔵漢訳西学書の書誌学的考察」 と題する研究発表。
●
2007年8月6日∼8日 「詩跡 (歌枕) 研究による中国文学史論再構築−詩跡の概念・機能・形成に関する研究」 (科研費
基盤B研究会、 東伊豆稲取稲取荘にて) 「景観形成における詩跡の位相−中国での調査をふまえて−」 と題する研究報
告
●
2007年10月16∼18日、 人間文化研究機構・国際日本文化研究センター・北京大学共催国際シンポジウム 「文化の
往還−東アジアにおける近代諸概念の生成と展開」 (北京大学) にて 「概念の翻訳と生成− 幾何原本
巻一 「界説公理」 を
中心として−」 と題する研究発表。
●
2007年11月6日∼11日、 中国復旦大学、 上海交通大学、 中国科学院上海生命科学研究所、 徐家区人民政府、 新民
晩報 社連合主催 「記念徐光啓及 幾何原本 翻訳四百周年国際研討会」 (上海斯波特ホテル) にて、 「 幾何原本 的成立及
其在東亞的伝播−以概念的翻訳和公理思想為中心−」 (中国語) と題する研究発表
5 海外出張
● 07年10月15日∼20日、 中国北京市
●
07年11月06日∼11日 中国上海市
6 科学研究費補助金、 そのほかの競争的研究資金など
● 科学研究費基盤 (
19年度) (代表)
●
科学研究費基盤 (19年度) (分担)
●
学術国際振興基金 (H19年度学術の活性化推進事業)
7 共同研究
●
「 幾何原本 翻訳 (ラテン語−漢語) 研究
●
「東アジア近代学問思想研究」
●
「東アジアにおける知の再編と生成」 (国際日本文化研究センター) 研究プロジェクト共同研究員
8 弘前大学人文学部主催の学会・研究会等
● 2007年6月29日、 第二回東西交渉史国際集会 「近世東アジアの多様な方向性−中国・朝鮮・日本と西洋との関係にお
いて−」 組織、 主催
●
2007年11月29日、 四方田犬彦氏による 「鈴木清純の世界−日本的美の本質−」 弘前大学講演会組織委委員
●
ナショナリズム研究会 (弘前大学)
122
1 現在の研究テーマ
● 西洋古典古代の医学と哲学思想との間の影響関係をめぐる思想文化史的研究
●
医学・医療に関する倫理思想史的研究
●
アリストテレスを中心とした西洋古代の生物学理論についての哲学・思想史的研究
2 著書・論文ほか
[論文]
●
今井正浩 (単著) 「ヒポクラテス 伝統医学論
理解をめぐって−」 日本科学史学会編
●
第20章における反哲学的人間観−前5世紀ギリシアの医学思想における人間
科学史研究 第46巻 (
242) 2007年夏号 [岩波書店刊] 78∼90
今井正浩 (単著) 「ヘレニズム期の科学思想−アレクサンドリアとローマの医学」 内山勝利責任編集
哲学の歴史
第2巻
[中央公論新社刊] 316∼349
/
625∼630
[研究成果報告書]
●
今井正浩 (単著)
ギリシアの医学思想と人間−同時代の哲学的人間観との比較研究−
平成16年度∼平成18年度科学研究
費補助金・基盤研究 (C) 研究成果報告書 (全3章/65頁)
3 研究発表
[学会発表]
●
今井正浩 (単著) 「ギリシアの医学思想における汎生説 (パンゲネシス) の系譜」 日本科学史学会第54回年会・総会
2007年5月26日∼27日/京都産業大学
6 科学研究費補助金
● 平成18年度科学研究費補助金・基盤研究 (C) [研究代表者:今井正浩] 「ギリシアの医学思想と人間−同時代の哲学的人間
観との比較研究−」
●
平成19年度科学研究費補助金・基盤研究 (C) [研究代表者:今井正浩] 「ギリシア人の人間観への医学思想の影響をめぐる
思想文化史的研究」
7 共同研究
● 第11回ギリシャ哲学セミナー 「初期ギリシャ哲学」
2007年9月8日∼9日/東京大学
8 講演等
● 公開講座 「言語とコミュニケーション−その文化と思想−」
演題 「新約聖書とキリスト教の言語観− ヨハネ福音書 を中心に−」 2007年10月27日/弘前大学八戸サテライト
1 現在の研究テーマ
● フランス文学における催眠術の影響について
●
シュルレアリスム
2 著書・論文ほか
[論文]
●
「理論と実践のはざまにおかれた文学作品−モーパッサンの幻想小説を読むための試論−」
人文社会論叢
(人文科学編)
第18号 (2007年8月31日) 1∼19
1 現在の研究テーマ
● 日本倫理思想史における情念論および方法論
2 著書・論文ほか
●
「伊藤仁斎における天について」 (韓国語、 翻訳:林泰弘)
儒教文化研究
第11輯
成均館大学 (韓国) 儒教文化研究所発
行、 2007年3月、 27∼49
同論文 (中国語、 翻訳:麗菊) 儒教文化研究国際版 第7輯 105∼117
3 研究発表・講演
●
「隠遁と老い」 日本倫理学会共通課題シンポジウム 「老い」、 新潟大学、 2007年10月14日
6 科学研究費補助金
● 科学研究費基盤研究 (C) 「日本倫理思想史における情念の総合的研究」 (研究代表者:木村純二)
123
7 共同研究
● 科学研究費基盤研究 (B) 「東アジアにおける文明の衝突と 「天」 の観念の変容」 (研究代表者:井上厚史) の研究分担者
1 現在の研究テーマ
● 大正期ロマン主義文学についての修辞学的研究
3 研究発表・講演
●
「森外における反復− 舞姫
的主題の哀悼と救済」、 森外研究会、 大妻女子大学、 2007年8月23日
7 共同研究
● 第二回東西交渉史国際研究集会 「近世東アジアの多様な方向性−中国・日本・朝鮮・西洋との関係において」 (司会)、 弘前
大学、 2007年6月29日
8 弘前大学人文学部主催の学会・研究会等
● 四方田犬彦氏特別講義 「鈴木清順の世界」 (司会)、 弘前大学五十周年創立会館、 2007年11月29日
1 現在の研究テーマ
● アメリカ文学
大衆文化論
1 現在の研究テーマ
● 句構造の非対称性・線形化と構造的依存関係に関する理論的・実証的研究
3 研究発表・講演
● 弘前大学ドリーム講座
英語学への招待 青森県立五所川原高等学校 平成18年12月
●
弘前大学人文学部公開講座 言語とコミュニケーション−その文化と思想−
大学八戸サテライト
●
模擬講義
「英語を科学する−情報のしくみと語順」 弘前
3月
英語学への招待 青森県立八戸東高等学校 9月
5 海外出張・研修、 そのほかの海外での活動
● 第69回アメリカ言語学会[
()] 2007出席 (
) (200
7年1月4日−1月11日)
7 共同研究
● 研究課題
言語とコミュニケーション−その文化と思想に関する調査・研究プロジェクト
(平成19年度弘前大学人文学部学
部長裁量経費:グループ等での共同研究)
1 現在の研究テーマ
● 世界諸言語の言語類型地理論的研究
2 著書・論文ほか
●
「
と言語類型論 − 世界言語地図に基づく言語研究」 一般言語学論叢
●
第9号31
40頁
「書評:
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7
」
言語研究 (日本言語学会) 第130号131
138頁
6 科学研究費補助金、 そのほかの競争的研究資金など
● 平成18∼21年度文部科学省科学研究費補助金
基盤研究(): 「地理情報システムによる世界諸言語の言語類型地理論的研
究」 (研究代表者:山本秀樹、 研究分担者:乾秀行、 研究協力者:松本克己)
●
平成19年度学部長裁量経費 「言語とコミュニケーション−その文化と思想に関する調査・研究プロジェクト」 (研究分担者)
124
1 現在の研究テーマ
● 観客論的視点から見たイギリス・ルネサンス演劇のマルティプル・プロット構造の研究
3 研究発表・講演
● 出張講義: 「弘前大学ドリーム講座−シェイクスピアと英語文化の伝統」 (於、 青森県立田名部高等学校)、 2006年12
月12日
●
研究発表:
リア王
と 「自然」 の概念−シェイクスピアの翻訳について」、 土曜会 (於、 弘前大学)、 2007年3月31
日
●
●
講演: 「シェイクスピア文学を旅する」 (於、 青森ワシントンホテル内青森文化センター)、 2007年4月∼9月
研究発表: 「シェイクスピアにおける
ネイション
と
ステイト
の概念について−
ヴェニスの商人
を例に」 (
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)、 ナショナリズム研究会 (於、 弘前大学)、
2007年9月28日
●
出張講義: 「ことばの意味と辞書の引き方−&'(と
を参考にして」 (於、 青森県立弘前南高等学校)、 2007年
10月11日
●
講演: 「シェイクスピア文学とキリスト教思想−
ヴェニスの商人
を手がかりとして」、 平成19年度弘前大学人文学部学
部長裁量経費八戸サテライト公開講座 「言語とコミュニケーション−その文化と思想」 (於、 財団法人八戸地域地場産業振興
センター [ユートリー])、 2007年10月27日
6 科学研究費補助金、 そのほかの競争的研究資金など
● 平成19年度弘前大学人文学部長裁量経費、 「言語とコミュニケーション−その文化と思想に関する調査研究プロジェクト」
(研究代表者).
1 現在の研究テーマ
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2 著書・論文ほか
論文
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’21世紀教育フォーラム
第2号
2007年3月
3 研究発表・講演
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’第38回東北新英語教育研究
会 「特別ワークショップ」 弘前総合学習センター 2007年6月23日
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’第57回青森県教育のつどい 「外国語分科会」 弘前市立第3中
学校 2007年11月3日
6 科学研究費補助金、 そのほかの競争的研究資金など
●
「科学研究費補助金」
研究課題名
「実践的英語運用能力向上の方策に関する研究」
7 共同研究等
● 平成19年度青森県高等学校教育研究会 (外国語) 研究大会 $
弘前文化センター 2007年8月16日
●
●
第57回青森県教育のつどい 「外国語分科会」 研究協力者 弘前市立第3中学校 2007年11月3日
平成19年度全国英語教育研究団体連合会福島大会兼東北六県英語教育研究大会 $
郡山市ビッグパレットふくしま
2007年11月10日
1 現在の研究テーマ
● 現代フランスの政治、 社会、 外交
●
1930年代∼1950年代の小説
125
1 現在の研究テーマ
● 映像の中の 「場所 (空間)」 研究
3 研究発表・講演
● あおもりツーリズム人づくり大学 「はやて」 (弘前大学生涯学習研究教育センター主催) : 「映画から考える地域の魅力とツー
リズム」 2007年9月20日
4 学外集中講義
● 放送大学青森学習センター 「フランス語入門I」 (面接授業) 2007年2月7日∼8日
5 海外出張・研修、 そのほかの海外での活動
● (デュッセルドルフ)
(パリ) 映像資料/文献資料検索
2007年
8月24日∼9月14日
6 科学研究費補助金、 そのほかの競争的研究資金など
● 文部科学省科学研究費補助金 (萌芽研究) 映画における 「場所」 に関する記号論的研究−青森で撮影された劇映画の中の
「青森」 −
8 弘前大学人文学部主催の学会・研究会等
● 平成18年度学術国際振興基金助成事業: 「国際政治漫画家シャパット氏公開講演会」 (代表) 2007年4月24日∼4月28日
●
平成19年度人文学部長裁量経費:公開講座
四方田犬彦氏講演 「鈴木清順の世界」 運営委員 (企画
運営補助) 2007年11月29
日
1 現在の研究テーマ
●
チャールズ・ディケンズ研究
2 著書・論文ほか
●
ディケンズ鑑賞大事典
●
イギリス小説と文化研究
●
物語理論研究
(ディケンズ・フェロウシップ日本支部編) 南雲堂、 2007年5月、 「バーナビー・ラッジ」 の項目
執筆
1 現在の研究テーマ
● 中世における天台談義書の研究
●
了翁と鉄眼版一切経
●
天神信仰と文芸
2 著書・論文ほか
論文:
●
「中世における僧侶の学問
●
「 鷲林拾葉抄 所引連歌考
談義書という視点から
」 弘前大学国語国文学 第28号
天台僧尊舜の文学的環境と連歌師の交渉
」
2007年3月 30∼52
感性文化研究所紀要
第3号 2007年4月
1∼54
●
「了翁の一切経寄進について
年7月
叡山文庫生源寺蔵鉄眼版一切経と天台宗寺院への寄進
」
山家学会紀要
第9号
2007
32∼35
東京
21∼36
その他:
●
「違いを楽しもう!
知る喜びと学習意欲
」
月刊国語教育
第27巻7号 (通巻327号)
2007年9月
法令出版
●
「了翁禅師の一切経寄進について」 了翁禅師没後300年記念誌 了翁禅師
2007年10月
秋田県湯沢市 了翁禅師没後
三百年記念事業実行委員会
3 研究発表・講演
●
「天台僧尊舜における狂言綺語観について」 (弘前大学国語国文学会、 弘前大学) 2007年12月2日
●
「了翁禅師とその業績」 (了翁禅師没後三百年記念事業 記念講演会 湯沢文化会館2007年6月1日)
4 学外集中講義
● 茨城大学
集中講義 「日本思想史特講Ⅱ」 2007年8月7日∼9日
●
放送大学青森学習センター 「古典文学にみる日本の神様・仏様」 (面接授業) 2007年6月23日∼24日
126
1 現在の研究テーマ
● 中国の現代小説と 「私小説」
●
中国のニューウェーブ映画研究
●
翻訳論
3 研究発表・講演
●
講演 「異文化体験について」 青森県総合学校教育センター 2007年7月25日
5 海外出張・研修、 そのほかの海外での活動
● 北京映画学院、 北京映画製作所において取材活動
2007年3月28日∼30日
8 弘前大学人文学部主催の学会・研究会等
● 平成19年度人文学部長裁量経費:公開講座
四方田犬彦氏講演 「鈴木清順の世界」 (代表者、 企画
運営) 2007年11月29日
●
「ナショナリズム研究会」 において口頭発表 2007年12月6日
1 現在の研究テーマ
● フランス語フランス語 (教育学) 教授法
4 学外集中講義等
● 山形大学人文学部
2007年8月6日∼8月9日
●
秋田大学教育文化部
2007年4月∼2008年3月
1 現在の研究テーマ
● 日本近世史の研究
2 著書・論文ほか
[監修・編著・共著]
●
編著 新青森市史 資料編5 近世 (3) 青森市 2006年12月 1∼785
●
監修 図説 五所川原・西北津軽の歴史
●
編著 図説 青森・東津軽の歴史
●
共編著 日本三景への誘い 清文堂出版 2007年2月 1∼193
●
共著
究
●
●
2006年12月 1∼255
2007年1月 1∼255
環境資源のワイズユースによる地域コミュニティの再生と持続可能な地域づくりに関する調査研
報告書 環境省総合環境政策局・秋田県 2007年3月 1∼169
共著
究
国土施策創発調査
郷土出版社
郷土出版社
国土施策創発調査
環境資源のワイズユースによる地域コミュニティの再生と持続可能な地域づくりに関する調査研
報告書個別調査編 環境省総合環境政策局・秋田県 2007年3月 1∼302
共著 青森県の歴史
(4刷) 山川出版社 2007年6月 1∼366
[論文]
●
「山と飢饉−近世後期津軽領の山林統制と天明飢饉−」 関根達人編
社会システムの研究
科研報告書
供養塔の基礎的調査に基づく飢饉と近世
2007年3月 27∼51
[その他]
●
●
共著 「史料紹介
酒田大じしんの次第 (国立歴史民俗博物館蔵) −文化象潟地震のかわら版−」
号 2007年3月
53∼59
監修 「あおもりの道
広報番組
弘前大学國史研究
第122
道に歴史あり!−吉田松陰の足跡とあおもり−」 青森朝日放送 第3話
2007年1月20日放送
3 研究発表・講演
[講演]
●
金沢市 「不朽の災害教訓
稲むらの火
の虚像と実像」 科学技術振興機構 (
) 社会技術研究開発センター
2007年7月16
日
●
京都市 「世界遺産白神山地の18世紀」 国際日本文化研究センター 2007年10月26日
127
6 科学研究費補助金
● 科学研究費補助金
基盤研究2 「歴史資料による白神山地の景観と環境の変容に関する研究」 (代表) (平成19年度)
7 共同研究
●
「国土施策創発調査
環境資源のワイズユースによる地域コミュニティの再生と持続可能な地域づくりに関する調査研究」
環境省総合環境政策局・秋田県総務企画部
●
「18世紀日本の文化状況と国際環境」
国際日本文化研究センター
8
●
2007年度弘前大学国史研究会大会 2007年9月8日
1 現在の研究テーマ
● 現代ドイツの政治文化・近代社会論
2 研究発表・講演
[学会報告]
●
「メルケル時代のドイツ」 東北ドイツ文学会第50回研究発表会 2007年11月10日
1 現在の研究テーマ
● ガンディーの思想及び歴史的再評価、 サルヴォダヤ運動、 ガンディーを巡る日本とインドの関係
2 著書・論文ほか
[論文]
●
「
−
−」
弘前大学人文学
部人文社会論叢 人文科学篇 、 第18号、 2007年8月31日、 31−46
3 研究発表・講演
りんご王国こうぎょくカレッジ:
●
「南アジア世界の魅力とガンディー」、 コミュニティFMアップルウェーブ、 2007年7月15日放送 (7月22日再放送)
放送大学面接授業:
●
「南アジア世界の魅力とガンディー」、 青森学習センター、 2007年12月1∼2日
弘前大学生涯学習教育研究センター主催公開講座 「今、 アジアの動きがおもしろい」 :
●
「世界経済をリードする現代のインド−変貌する現代インド社会−」、 八戸市公民館、 2007年12月14日
4 学外集中講義
●
「国際関係と日本」、 青森県立保健大学
5 海外出張・研修
[海外出張]
●
インド (マハートマ・ガンディーと日本を巡る交流史の調査)、 2007年8月8日∼9月16日
●
弘前大学ナショナリズム研究会
8
1 現在の研究テーマ
● ニュージーランド文学におけるポストコロニアル・アイデンティティの形成
2 著書・論文ほか
●
「始まりの場所としてのダニーデン−ルース・ダラスと距離の問題」、
周縁地域の自己認識
弘前大学出版会、 2007年、
120∼139
●
「もっと知りたい!ニュージーランド①留学のすすめ」、 英語教育
大修館書店、 2007年10月号、 56 7
1∼5
●
「もっと知りたい!ニュージーランド②マオリの世界」、 英語教育
大修館書店、 2007年11月号、 56 8
1∼5
●
「もっと知りたい!ニュージーランド③差異と学校教育」、 英語教育 大修館書店、 2007年12月号、 56 9
1∼5
128
3 研究発表・講演
[講演]
●
「クジラの島の少女の世界―マオリと文学」、 「マーオリ楽園の神々展特別講演会」 東京国立博物館、 2007年2月4日
5 海外出張・研修
●
オークランド大学、 オークランド工科大学にて海外研修 2007年3月
1 現在の研究テーマ
● 平和研究、 平和運動、 歴史教育、 戦争責任論
2 著書・論文ほか
[論文]
●
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)、 2007年11月、 77
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7 共同研究
●
「東アジアにおける国際協調的歴史教育システムの構築に関する政治教育学的研究」 名古屋大学 (プロジェクトリーダー)、
学習院大学、 早稲田大学、 韓神大学校 (韓国)、 ロワン大学 (米国)、 華東師範大学 (中国)
1 現在の研究テーマ
● 現代中国の高齢者福祉と社会保障に関する研究
●
台湾における高齢者福祉の変容
2 著書・論文ほか
● 科学研究費補助金研究成果報告書 「現代中国の高齢者福祉と社会保障に関する研究」 2007年3月
5 海外出張・研修
● 2007年2月9日∼13日
中華人民共和国 (上海市)
6 科学研究費補助金
● 科学研究費補助金
基盤研究% (平成15∼18年度) 「現代中国の高齢者福祉と社会保障に関する研究」 (研究代表者)
1 現在の研究テーマ
● 東アジア地域史・中国史・朝鮮王朝史
2 著書・論文ほか
[論文]
●
荷見守義 「明代遼東守巡道考」 山根幸夫教授追悼記念論叢 明代中国の歴史的位相 汲古書院、 2007年6月、 111−140
●
荷見守義 「明朝档案にみる安楽・自在知州」 中央大学人文科学研究所・人文研紀要 61、 2006年9月、 35−67
3 研究発表・講演
[研究発表]
●
山形市 「明代の 「巡按遼東」 をめぐって」 2007年5月27日 第56回東北中国学会大会 (山形大学)
●
弘前市 「明朝辺政における遼東と朝鮮」 2007年6月29日 第2回東西交渉史国際研究集会 (弘前大学)
●
八王子市 「中朝関係における遼東の位置∼高麗との関連で∼」 2007年7月7日
国際ワークショップ
10∼14世紀の東アジア
国際交流 (中央大学)
●
札幌市 「海商と僧侶の海」 2007年7月14日
科学研究費補助金基盤研究(一般) 「近代移行期の港市における奴隷・移住者・
混血児−広域社会秩序と地域秩序−」 研究会報告 (北海道大学)
5 海外出張・研修
● 8月20日∼30日
中国沿海調査(上海・福州・泉州・廈門・スワトウ・広州)
6 科学研究費補助金
● 平成19∼22年度・科学研究費補助金基盤研究(
)(一般) 「近代移行期の港市における奴隷・移住者・混血児−広域社会秩序
と地域秩序−」 (代表:弘末雅士)(分担)
129
7 共同研究
● 中央大学人文科学研究所共同研究チーム「档案の世界」平成16年度∼20年度
●
中央大学人文科学研究所共同研究チーム「情報の歴史学」平成18年度∼22年度
1 現在の研究テーマ
● 10∼14世紀の中央アジアにおける税役制度, 交通制度, 文書行政システム, 宗教教団の経済的・文化的活動の解明
●
中央アジア出土古代トルコ語・モンゴル語文献の解読研究
2 著書・論文ほか
[論文]
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610
70
●
松井太 「回鶻語 12
3
與高昌回鶻王國税役制度的淵源」 新疆吐魯番地區文物局 (編)
際學術研討會論文集
吐魯番學研究
第二届吐魯番學國
上海辭書出版社, 2006
10
/
/1960
202
[書評]
●
松井太 「舩田善之著 「元代の命令文書の開読について」」 法制史研究 56
2007
3
/
/
2730
274
●
松井太 「赤坂恒明 「カラホト文書と元朝下のチャガタイ王族」 (第5回中央ユーラシア研究会, 2007年5月26日)」 イスラーム
地域研究東京大学拠点 「中央ユーラシアのイスラームと政治」 (
/
4
5
5
666
0
1
7
/5
1
0
5
5
5
20075
070526
)
[雑纂]
●
松井太 「和寧郡忠愍公廟碑」 内陸アジア諸言語資料の解読によるモンゴルの都市発展と交通に関する総合研究 ニュースレ
ター01
2007
6
//
250
35
●
松井太 「非漢字資料と西域仏教 (上・中・下)」 東奥日報
朝刊, 2007年8月1日∼8月3日
3 研究発表・講演
● 898
/
:
6
0
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2007年9月12日, 38
<
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1
1
5 海外出張・研修
● 新疆維吾爾自治区博物館・吐魯番地区博物館・敦煌研究院においてシルクロード出土文物資料の調査 (科学研究費) 2007年8
月11日∼8月31日
●
新疆維吾爾自治区博物館・吐魯番地区博物館において, ベゼクリク千仏洞出土非漢語文献の調査・研究 (科学研究費) 2007
年10月29日∼11月8日
7 共同研究
● 代表 「中央アジア出土古代ウイグル語税役制度関係文書の歴史学・文献学的研究」 科研費・若手研究(>
), 2006∼2008年度
●
分担 「中国新疆のウルムチ・トゥルファン両博物館所蔵非漢文古文献の研究」 (代表:梅村坦) 科研費・基盤研究(>), 2007
∼2010年度
●
分担 「シルクロード東部地域における貿易と文化交流の諸相」 (代表:森安孝夫) 科研費・基盤研究(), 2005∼2008年度
●
分担 「内陸アジア諸言語資料の解読によるモンゴルの都市発展と交通に関する総合研究」 (代表:松田孝一) 科研費・基盤研
究(>), 2005∼2007年度
●
代表 「中央アジア学術研究ワークショップ・シルクロード出土文物研究の新展開」 平成19年度学術国際振興基金2 (学術の
活性化推進事業)
8
●
「シルクロード出土文物研究の新展開」 (主催:弘前大学人文学部アジア史研究室・龍谷大学西域文化研究会, 共催:新潟大
学超域研究機構プロジェクト) 2007年7月15日∼7月16日, 弘前大学・青森県立美術館
1 現在の研究テーマ
● 中世地中海世界の農村構造と領主制の展開過程をめぐる比較総合研究
130
2 著書・論文ほか
[論文]
●
足立孝 「アラゴン王国東部辺境における城塞・定住・権力構造 (1089∼1134) [上]」
人文社会論叢 (人文科学篇) 第18号,
2007年, 33
54頁
●
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2007 (
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[その他]
●
足立孝 「地中海研究における史料論の可能性− 「紀元千年」 と史料論的方法論のゆくえ−」 / 「「王文書史料論」 へのコメン
ト」
西欧中世比較史料論研究
平成17年度研究成果年次報告書 (科学研究費補助金 [基盤研究9]), 2006年, 22
24, 65
66
頁
●
新刊紹介 「アントニオ・ドミンゲス・オルティス著 (立石博高訳)
スペイン
三千年の歴史
(昭和堂, 2006年)」
史学雑
誌 第116編第9号, 2007年, 99
100頁
4 学外集中講義
●
「紀元千年頃の西地中海世界− 「ガリシアからローヌ川まで」 再考−」 福岡大学, 2007年7月30日∼8月2日
6 科学研究費補助金
● 代表: 「中世初期スペインの農村構造と領主制の展開過程をめぐる比較総合研究」 (文部科学省科学研究費補助金・若手研究
(B))
●
分担: 「西欧中世比較史料論研究」 (代表:岡崎敦, 日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究 (B) (1))
1 現在の研究テーマ
● マルコフ決定モデル
1 現在の研究テーマ
● 哲学
2 著書・論文ほか
その他:新聞連載書評エッセイ 「あんな本こんな本」
●
山田史生著 寝床で読む 論語
20067
12 陸奥新報
●
永井均著 <子ども>のための哲学
20077
01 陸奥新報
●
池上彰著
おしえて!ニュースの疑問点
20077
02 陸奥新報
●
リチャード・ドーキンス著 祖先の物語
20077
03 陸奥新報
●
寺田寅彦著 どんぐり
20077
04 陸奥新報
●
スティーブン・ジェイ・グールド著 アダムのへそ
20077
05 陸奥新報
●
立花隆著 僕はこんな本を読んできた
20077
06 陸奥新報
●
オリバー・サックス著 妻を帽子とまちがえた男
20077
07 陸奥新報
●
ギルバート・ライル著 心の概念
20077
08 陸奥新報
●
福岡伸一著 生物と無生物のあいだ
20077
09 陸奥新報
●
本川達雄著 ゾウの時間ネズミの時間
20077
10 陸奥新報
●
カント著 純粋理性批判
20077
11 陸奥新報
3 研究発表・講演
● 研究発表 「内的であるとはどのようなことか」 哲学会第46回研究発表大会 (於:東京大学)
20077
107
27
131
1 現在の研究テーマ
● 英語学習に必要な言語学的視点とは何か
●
二つの外国語学習と母国語の関係
2 著書・論文ほか
●
「日本語と英語と韓国語」 と 「韓国語と英語と日本語」 −日本人大学生と韓国人大学生の外国語学習−、
人文社会論叢
(人文科学篇) 第17号
4 学外集中講義
● 放送大学青森学習センタ面接授業
2007年4月21日、 22日
1 現在の研究テーマ
● 災害時の日本語研究
●
外国人児童への教育のための言語政策研究
●
地域社会の言語変容と言語意識の相関研究
●
グローバル社会における日本語の役割研究
●
近代日本の学校教育と国語政策研究
2 著書・論文ほか
●
「やさしい日本語」 の有効性と安全性検証実験解説書 (弘前大学人文学部社会言語学研究室)
●
日本語学研究事典 (明治書院)
「日本語研究法・共時」 「音節」 「音素」 「モーラ」 「方言コンプレックス」 「東北地方の方言」 の項目を執筆
●
「被災地の72時間−外国人への災害情報を 「やさしい日本語」 で伝える理由」 やさしい日本語が外国人の命を救う−情報弱
者への情報提供の在り方を考える (やさしい日本語研究会)
●
「方言主流社会の継続相と結果相−散テルと散テラと散テマタ」 日本語学・方言文法全国地図をめぐって 26巻11号 (明治
書院)
3 研究発表・講演
● 講演 「災害時の
やさしい日本語 での情報伝達の有効性」 福島県市町村国際交流協会ネットーワーク会議 (福島市)
●
講演 「 やさしい日本語
●
パネリスト 「日本の言語外交4−欧州連合におけるドイツの言語政策」
が被災者の心の負担を軽減する」 青森県市町村国際交流主管課長会議 (青森県庁・青森市)
4 学外集中講義
● 群馬県立女子大学 (日本語学特殊講義)
5 海外出張・研修、 そのほかの海外での活動
● 1997年北米大陸カリフォルニア大地震における100年目の情報伝達調査
6 科学研究費補助金、 そのほかの競争的研究資金など
● 災害時の外国人のための 「やさしい日本語」 と社会的ニーズへの言語学的手法の適用 (基盤研究 (
))
●
日本の言語外交 (弘前大学人文学部フォーラム)
7 共同研究
● 災害時の外国人のための 「やさしい日本語」 研究
●
日本の言語外交研究
8 弘前大学人文学部主催の学会・研究会等
● 日本の言語外交4
●
弘前大学国語国文学会
1 現在の研究テーマ
● 近代化の社会心理学
2 著書・論文ほか
●
「「糞肛門」 の出現:マッサージ、 身体の資源化・資源の身体化の現場から」 菅原和孝編 資源人類学09 身体資源の共有
弘文堂 191
229
●
「交渉・治療儀礼・占い:北西ケニア・牧畜民トゥルカナにおける問題−解決の3つのモード」
183
192
132
ストレス科学21 (4),
●
「津軽の人生、 トウキョウを作り、 津軽に生きる:高度経済成長期、 親方に連れられた出稼ぎ」
弘前大学人文学部
人文
社会論叢 , 17
31
55
●
「規範としての身体:弘前大学新入生 「病気のとき、 どうしましたか」 調査から」
弘前大学保健管理概要 27
5
19
3 研究発表・講演
●
「トゥルカナの怒り・ベンバの呪い」
●
「質的研究では 「事実」 をどのように考えるのか」
日本アフリカ学会第44回学術大会 2007年5月27日、 於長崎ブリックホール
日本質的心理学会第4回大会、 自主シンポジウム、 発表者、 2007年9
月30日、 於奈良女子大学
4 学外集中講義
● 北海道医療大学大学院博士課程 「医療人類学特論」、 2007年11月23・24日、 於北海道医療大学大学院サテライトキャンパス
●
岩手県立大学 「文化人類学」、 2007年2月13∼16日、 於岩手県立大学
5 海外出張・研修、 そのほかの海外での活動
●
科研費基盤研究 「難民キャンプ設置による社会変動への地元の対応に関する学際的研究」 による調査、 ケニア共和国、 2007
年8月11日∼9月22日
6 科学研究費補助金、 そのほかの競争的研究資金など
● 科研費基盤研究 「難民キャンプ設置による社会変動への地元の対応に関する学際的研究」、 代表者
●
科研費基盤研究 「アフリカ牧畜社会におけるローカル・プラクティスの復権
活用による開発研究の新地平」 (代表者:太田
至)、 分担者。
7 共同研究
● 特定領域研究
「資源の分配と共有に関する人類学的統合領域の構築:象徴系と生態系の連関をとおして」 (代表者:内堀
基光)、 身体資源班 (代表者:菅原孝和)、 研究協力者
8 弘前大学人文学部主催の学会・研究会等
● 公開講座・ 「津軽、 場の力
地の記憶」、 2007年8月4日、 於弘前大学創立50周年記念会館みちのくホール、 発表・コメンテー
ター
1 現在の研究テーマ
● 文字表記と音韻現象の関係
●
コンピュータ利用教育
3 研究発表・講演
●
「弘前大学入学者の英語能力の実態」 弘前大学高大連携シンポジアム 2007年8月7日 弘前大学
●
「
を通じた授業公開」 弘前大学
広報シンポジアム 2007年11月15日 弘前大学
1 現在の研究テーマ
●
東アフリカ牧畜社会における民族問題や難民問題、 資源をめぐる競合などについて考えています。
2 著書・論文ほか
● 曽我亨
2006年 「過去を写生する−歴史への生態人類学的接近法−」
●
曽我亨
アフリカ研究 69:121
136
2007年 “
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137
139
●
曽我亨 2007年 「<稀少資源>をめぐる競合という神話−資源をめぐる民族関係の複雑性をめぐって」 松井健編 自然の資
源化 (資源人類学 第6巻) 、 205
249、 弘文堂。
3 研究発表・講演
● 2006年12月
指定話題提供者、 @
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9
8
7
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B
7
国際シンポジウム
資源の
分配と共有に関する人類学的統合領域の構築 東京外国語大学
●
2007年7月
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;
7
7
B
7
C
第16回国際エチオピア学会、 トロンハイム大学、 ノ
ルウェー
●
●
2007年7月 指定討論者、 第23回日本霊長類学会大会公開シンポジウム 「暴力と平和の霊長類学」 滋賀県立大学
2007年7月
指定話題提供者、 「霊長類学と人類学D
稀少資源をめぐる競合ドグマをめぐって」 第2回人類学関連学会協議会合
同シンポジウム 「人間=ヒトの謎をめぐって」 (担当学会:日本霊長類学会) 滋賀県立大学
133
4 学外集中講義
● 放送大学面接集中講義 (2007年2月15−16日)
5 海外出張・研修、 そのほかの海外での活動
● 2007年6月29日∼7月10日
ノルウェー国 (トロンハイム) :国際エチオピア学会
●
2007年8月12日∼9月21日 エチオピア連邦民主国:現地調査
6 科学研究費補助金、 そのほかの競争的研究資金など
● 科学研究費補助金・基盤研究 (研究代表者)
東アフリカ牧畜社会における 「稀少資源をめぐる競合」 ドグマの人類学的再
検討
●
●
特定領域研究 (研究分担者) 資源の分配と共有に関する人類学的統合領域の構築
科学研究費補助金・基盤研究 (研究分担者)
アフリカ牧畜社会におけるローカル・プラクティスの復権/活用による開発
研究の新地平
●
科学研究費補助金・基盤研究 (研究分担者)
難民キャンプ設置による社会変動への地元の対応に関する学際的研究
7 共同研究
● 特定領域研究 (内堀基光代表)
資源の分配と共有に関する人類学的統合領域の構築
●
国立民族学博物館共同研究 (松井健代表) 生業活動と生産構造の社会的布置の研究
●
東京外国語大学研 (河合香吏代表) 人類社会の進化史的基盤研究
1 現在の研究テーマ
● 親密性の変容
●
メディア環境の変容と生活世界
●
若者文化
2 著書・論文ほか
●
羽渕一代、 2007 「ネットコミュニケーションの現在」 富田英典・南田勝也・辻泉編
デジタルメディア・トレーニング
有
斐閣選書
●
羽渕一代、 2007 「ケータイの誕生」 富田英典・南田勝也・辻泉編 デジタルメディア・トレーニング
有斐閣選書
3 研究発表・講演
● 2007 Ⅷ
2007!
"
#
5 海外出張・研修、 そのほかの海外での活動
●
2007年2月25日∼3月9日 ケニア共和国:携帯電話会社へのヒアリング
●
2007年7月31日∼8月2日 韓国:ギャラップ社にて韓国全国調査うちあわせ
●
2007年8月11日∼9月20日 ケニア共和国:メディア利用行動調査
6 科学研究費補助金、 そのほかの競争的研究資金など
● 科学研究費若手 (B) 「モバイルメディア急速普及過程が社会関係と社会秩序に及ぼす影響に関する社会学的研究」
1 現在の研究テーマ
● 地域間交通における運輸施設の効率的配置
●
交通施設整備や交通政策が地域経済に与える効果の計測方法の開発
2 著書・論文ほか
●
大橋忠宏・安藤朝夫: 「地域に複数の空港は必要か:アクセスコストと輸送密度の経済性を考慮した航空旅客市場モデル分
析」, 国際交通安全学会誌 $$%
&
32(3), 206'
215, 2007年10月.
3 研究発表・講演
● 石倉智樹, 「空港近接地域における航空ネットワーク形成分析手法の検討」 への討論, 第20回応用地域学会発表大会 (於:広
島大学, 2006年12月).
●
斎藤参郎, 中嶋貴昭, 奥薗晶子, 溝上智己, 佐藤貴裕, 「回顧的出向頻度パネルデータを用いた商業施設撤退前後の回遊行動
の変化:セレクトショップの都市エクイティへの寄与の計測」 への討論, 平成19年度日本不動産学会秋季全国大会 (於:北
海道大学, 2007年11月).
6 科学研究費補助金、 そのほかの競争的研究資金など
● 大橋忠宏 (代表), 「地域間交通における運輸施設の効率的配置に関する基礎的研究」, 科学研究費補助金 (若手研究
,
134
17730149), 17−19.
●
大橋忠宏 (代表), 「弘前市公共交通将来計画調査研究」, 受託研究 (弘前市), 平成19年度.
1 現在の研究テーマ
● 若年者の就業
●
人間関係ネットワークと地域移動
2 著書・論文ほか
● (2006)
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216*
223
●
石黒格
2007
青森県出身者の県外進学に関わる要因:県内外進学者の比較から
人文社会論叢社会科学篇 (弘前大学人文
学部) 第18号
69*
79
●
石黒格・村上史朗 2007 関係性が自己卑下的自己呈示に及ぼす効果 社会心理学研究
第23巻1号
33*
44
●
石黒格・村上史朗 2007
●
李永俊・石黒格、 「若年者の就業状況と意識に関する調査研究報告書」
「態度と行動の共有が自己卑下的自己呈示に及ぼす効果」
社会心理学研究
第23巻2号
130*
139
弘前大学人文学部附属雇用政策研究センター (第1
章の一部、 ならびに5、 6章を担当)
3 研究発表・講演
● 石黒格・村上史朗
2007
態度と行動の 「共有」 が自己卑下的自己呈示に及ぼす効果
第54回日本グループダイナミクス学
会大会
6 科学研究費補助金、 そのほかの競争的研究資金など
● 学術国際振興基金助成 (学術の活性化推進事業)
地方若年者の就業状況と労働意識の調査研究 (李永俊・石黒格の連名)
7 共同研究
● 若年者の就業状況と意識に関する調査 (李永俊・石黒格)
●
仕事・生活とこころの健康に関する調査 (李永俊・石黒格)
1 現在の研究テーマ
● 設備配置問題のモデル化と解法アルゴリズム
●
混合組立ラインの投入順序づけ問題の発見的解法
2 著書・論文ほか
論文:
●
「混合組立ラインの投入順序づけの方法」, 日本経営工学会論文誌, 第58巻, 第4号, 257*
266頁 (2007年10月)
その他:
●
「分散オフィスと協働性」, オフィスジャパン, 2007年春季号, 6*
7頁
3 研究発表・講演
研究発表:
●
「隣接選好を考慮した近傍作成法を用いた設備配置問題に関する研究」, 日本経営工学会平成19年度春季大会予稿集, 160*
161頁 (2007年5月) 於・成蹊大学
●
「隣接選好順位を利用した設備配置問題の解法」, 平成19年度日本設備管理学会春季研究発表大会論文集, 93*
96頁 (2007年6
月) 於・青山学院大学
●
「セル型設備配置問題のための遺伝的アルゴリズムとシミュレーテッドアニーリングによる解法」, 日本経営工学会平成19年
度秋季研究大会予稿集, 188*
189頁 (2007年10月) 於・小樽商科大学
●
「大規模な配置問題のための+および,+による解法アルゴリズムの開発」, 平成19年度日本設備管理学会秋季研究発表大会
論文集, 125*
128頁 (2007年11月) 於・神戸市産業振興センター
6 科学研究費補助金、 そのほかの競争的研究資金など
● 科学研究費補助金基盤研究 (C) 「設備配置問題解法のための進化的なアルゴリズムの研究」 (研究代表者)
7 共同研究
●
「設備配置問題解法のための進化的なアルゴリズムの研究」
135
1 現在の研究テーマ
● 部分地区の空間的連担性および均質性を保証する地区区分方法の開発
●
ポイントパターン分析法の比較
●
高齢者人口密度と周辺施設までの近接性の関係の分析
2 著書・論文ほか
● 増山 篤 (2007)
「商業・医療施設へのアクセシビリティと高齢者の居住パターンとの関係 −千葉県浦安市を対象とした実
証分析−」, 都市計画論文集, 42(2), 72
79
3 研究発表・講演
講演:
●
「
による高齢者居住と商業・医療施設への近接性に関する分析」, 2007年9月21日, 於 青森国際ホテル, 平成19年度
セミナー (主催 国土交通省)
研究発表:
●
「ポイントとして表現される建築物や施設の空間的分布パターンを分析する方法間の独立性」, 2007年11月10日, 於 北海道
大学, 平成19年度日本不動産学会秋期全国大会
1 現在の研究テーマ
●
企業経営における提示、 提案型での消費や需要の創出プロセスの経営史的研究
●
企業理念の地域性および国際性の歴史的交差に関する研究
●
りんごの消費や需要の創出をめぐる歴史文化的研究
2 著書・論文ほか
● 四宮俊之 「りんごの消費や需要における歴史文化性をめぐって」、
中国と日本におけるりんご産業の棲み分け戦略に関する
基礎的調査研究・平成17−18年度科学研究費補助金 (基盤研究海外) 研究成果報告書、 研究代表者・黄孝春 、 2007年3月、
58−79頁。
7 共同研究
● 日本と中国におけるりんご産業の棲み分け戦略に関する基礎的調査研究 (研究代表者:黄孝春)
1 現在の研究テーマ
● 医療マーケティングの実態分析から得る法則性の追求
2 著書・論文ほか
[著書]
●
保田宗良・香取薫 「マーケティングの新視点と情報処理」、 日本教育訓練センター、 3月、 3
118。
[論文]
●
保田宗良 「医療用医薬品流通の動向と今後の変革について」、 日本消費経済学会年報第28集、 日本消費経済学会、 3月、 127
133。
3 研究発表・講演
●
「医薬品流通の視点による医療マーケティングの若干の考察」、 日本消費経済学会全国大会、 於中央学院大学、 2007年5月20
日。
●
「医療マーケティングの新視点からの若干の考察」、 日本消費経済学会東日本大会、 於北星学園大学、 2007年9月29日。
4 学外集中講義
● 秋田大学
企業と経営() 8月6日−10日
5 海外出張・研修
● 12月22日−26日
マレーシア
136
●
2月16日−18日、 7月14日−16日
●
3月29日−3月31日 韓国
●
8月31日−9月3日
●
11月23日−26日 フィリピン
中国
ベトナム
6 競争的資金
● 弘前大学教育学部経済教育センター配分
7 共同研究
● 世界へ発信!津軽 「うるおい、 うるわし」 事業プロジェクト
弘前商工会議所
●
鍛冶町・鍛造刃物産業構築 「津軽打刃物」 ブランド展開プロジェクト 弘前商工会議所
●
東北経営・会計研究会 11月10日−11日 於弘前市 いわき荘
8
1 現在の研究テーマ
● 多国籍企業における海外子会社の研究
●
北欧における産学官連携と地域経済活性化に関する研究
2 著書・論文ほか
●
森樹男 「グローバル企業の組織」
新グローバル経営論
単著, 安室憲一先生還暦記念論文集編集委員会編, 2007年3月, 95
111, 白桃書房
●
森樹男 「のビジネスモデル」 ビジネスモデル・シンキング , 単著, 安室憲一編著, 2007年5月, 54−64, 文眞堂
●
森樹男 「
のビジネスモデル」
ビジネスモデル・シンキング , 単著, 安室憲一編著, 2007年5月, 65−78, 文眞堂
3 研究発表・講演
[研究発表]
●
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82006
●
森樹男 「北欧における産学官連携と国際ビジネス∼スウェーデンのケース∼」, 国際ビジネス研究学会第14回全国大会, 2007
年10月28日, 於 高崎経済大学
[講演など]
●
森樹男「イントロダクション∼観光と地域振興∼」, あおもりツーリズム人づくり大学はやて(弘前大学・青森県主催), 2007
年6月28日, 於 弘前大学
●
森樹男「新田次郎著 八甲田山死の彷徨
から読み解く企業経営」, シニアサマーカレッジ20072007年9月11日於
弘前大
学
5 海外出張・研修
● 2006年12月5日∼11日, フライブクル (スイス)
●
2007年1月12∼20日, セイナヨキ, ミッケリ (フィンランド)
●
2007年2月17∼24日, コペンハーゲン, ハーニング (デンマーク)
●
2007年3月1日∼11日, ストックホルム, カールスタッド, エステルスンド (スウェーデン)
●
2007年9月11日∼26日, ストックホルム, カールスタッド, スンネ (スウェーデン)
6 競争的資金
● 平成19年度学術国際振興基金 (学術の国際交流推進事業) 「地域経済の活性化と大学の役割∼北欧における地域と大学の関わ
りのケースから∼」 (共同研究者 小谷田文彦)
7 共同研究
●
「青森県の産学連携と企業動向の基礎調査−国際競争力の強化のために−」, 弘前大学大学院地域社会研究科 (共同研究者,
佐々木純一郎, 内山大史, 黄孝春)
8
●
雇用政策研究センター・ビジネス講座 「企業誘致と雇用創出」, 講師 並木精密宝石㈱青森黒石工場 工場長 渡辺一弥氏・
並木精密宝石 (株) 青森黒石工場+マネージャー
山本繁明氏, 2007年11月26日, 於
弘前大学
137
1 現在の研究テーマ
● 設備投資の断続性に関する実証分析。
●
設備投資の断続性と企業生産効率性に関する実証分析。
3 研究発表・講演
[研究発表]
●
設備投資スパイクのデュレーション分析、 2006年12月、 日本学術振興会基盤研究A (松田芳郎代表) 「法人企業統計調査と事
業所・企業統計調査のミクロデ−タの統合新統計の編成と解析研究」 研究会報告。
●
機械設備の更新投資と資本年齢、 2007年3月、 日本経営財務研究学会東日本部会報告。
6 競争的資金
● 平成19年度学術国際振興基金・若手研究者助成、 「青森県の製造業における生産設備年齢と設備投資戦略に関する実証研究」
1 現在の研究テーマ
● ベンチャー企業の経営戦略について
3 研究発表・講演
●
ベンチャー企業のビジネスモデル
日本経営学会関西部会報告 (2006年12月2日) 於:兵庫県立大学
1 現在の研究テーマ
● 企業分析
企業評価
業績評価
国際課税
2 著書・論文ほか
[著書]
●
ベーシック税務会計 創成社
2007年5月 (共著)
[論文・研究ノート]
●
「移転価格税制の変遷−1990年代初頭までの展開を中心として−」 人文社会論叢 (社会科学編)
2007年8月
7 共同研究
●
法人税法(特に国際課税)及び所得税法の研究 (共著出版に向けたもの)
1 現在の研究テーマ
● 会計選択の国際化、 退職給付会計の実証的研究
2 著書・論文ほか
● 中村文彦 「不正な財務報告と会計選択」
会計
第172刊・第1号 2007年7月 40∼53頁
6 科学研究費補助金
● 文部科学省科学研究費若手研究 (B) 「退職給付の導入と日本企業システムの変容に関する研究」 (課題番号18730431)
1 現在の研究テーマ
● 会計監査
環境会計
粉飾決算
監査風土
2 著書・論文ほか
[著書]
●
粉飾の監査風土
(単著)、 プログレス刊、 平成19年7月
[論文]
●
「日本的監査風土を巡る一考察」 (弘前大学経済研究)、 平成18年12月
●
「環境会計の再構築への考察」 人文社会論叢 (社会科学篇)
●
「変革すべき企業風土と監査風土」 人文社会論叢 (社会科学篇)
138
第17号、 平成19年2月
第18号、 平成19年8月
3 研究発表・講演
●
「粉飾の境界」 第27回日本産業科学学会 関東部会、 平成19年3月17日
4 学外集中講義
● 福島大学経済経営学類 「財務諸表監査論」
1 現在の研究テーマ
● 環境サプライチェーン・マネジメントにおける会計情報システムに関する研究
●
バイオマス政策・事業プロセスの評価モデルに関する研究
●
情報セキュリティマネジメントにおける会計モデルに関する研究
2 著書・論文ほか
●
「環境会計情報システムの動向と展開−欧州と日本の企業への導入モデルを考慮して−」
人文社会論叢 (社会科学篇)
第
18号、 2007年8月。
3 研究発表・講演
●
「林間型バイオマス政策・事業評価モデルの構築方法」 第2回日本学会研究発表会 (於:東京大学)、 2007年3月。
●
「地方自治体における環境ストック・フローマネジメント−エコバジェットとバイオマス環境会計の連携−」 日本地方自治
研究学会第24回全国大会 (於:尾道大学)、 2007年9月。
●
●
「バイオマス政策・事業評価のための環境会計モデル」 弘前大学経済学会第32回大会 (於:弘前大学)、 2007年10月。
「林間型バイオマス政策・事業と環境会計−日本のケースを中心として−」 日本会計研究学会東北部会 (於:弘前大学)、
2007年11月。
6 科学研究費補助金
● 文部科学省科学研究費補助金
若手研究 (スタートアップ) (2007年度∼2008年度)
7 共同研究
● 文部科学省
一般・産業廃棄物・バイオマスの複合処理・再資源化プロジェクト 2003年度−2007年度 (2005年7月から産官
学連携研究員、 2006年12月から業務協力者として活動)
1 現在の研究テーマ
●
「海からの歴史」 を中心とする海洋経済史研究
●
Ph. Dollinger, La Hanseの日本語翻訳 (共同)
2 著書・論文ほか
[その他]
●
「組合活動のあり方」
全大教 全国大学高専教職員組合、 第220号、 2007年10月10日
3 研究発表・講演
●
「弘前大学の現状と課題」 弘前大学職員組合、 教研集会 「弘前大学の未来を拓くために」 2007年12月7日、 弘前大学
理工学部第8講義室
8
●
弘前大学経済学会第28回大会、 2007年10月27日、 弘前大学
1 現在の研究テーマ
●
資本蓄積論、 労働過程論
3 研究発表・講演
●
「接客労働の統制」 経済理論学会第55回大会 (於横浜国立大学), 2007年10月20日
139
8
●
第32回弘前大学経済学会大会、 10月27日。
1 現在の研究テーマ
● 近代日本における官営工業の実証的研究
3 研究発表・講演
●
「日清戦後経営期における製鐵所と呉造兵廠」 製鐵所文書研究会、 2007年8月4日、 於;弘前プリンスホテル
6 科学研究費補助金
● 平成19年度基盤研究B (1) 「官営八幡製鐵所創立期の再検討」 (分担)
7 共同研究
● 製鐵所文書研究会
1 現在の研究テーマ
●
日本と中国のリンゴ産業に関する比較研究
●
中国のビール産業の高度化に関する調査研究
3 研究発表・講演
●
「中国における日本産農産物の購入者像と一般消費者の認識に関する一考察−山東省青島市における日本産りんご販売会で
のアンケート調査結果より−」 日本農業市場学会全国大会、 成田拓未氏、 黄孝春の共同報告、 愛媛大学、 2007年7月
●
「中国経済と持株会社−青島ビールの経営組織を中心に」 京都大学シンポジュウム 「東アジアの持株会社」、 京都大学、
2007年7月
●
“
”中国農業部国際合作司・陝西省果業管理局主催、 、 陝西省洛川県、 2007年9月
5 海外出張・研修
● 2007年9月20日−29日中国陝西省、 に出席、 発表
6 競争的資金
● 平成19年度学術国際振興基金
7 共同研究
● アジア経済研究所
中国産業企業研究会外部委員
1 現在の研究テーマ
●
金融システムとマクロ経済の関係性
3 研究発表・講演
● 山本康裕(2007) 「銀行の統合は、 貸出市場と金融政策にいかなる影響を持ちうるか?」 日本金融学会秋季大会報告論文
志社大学
同
2007年9月8日
8
●
数量経済学研究会 5月31日、 7月26日
開催 弘前大学
1 現在の研究テーマ
● リカードの経済理論の研究
2 著書・論文ほか
[書評]
●
福田進治 「
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(
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.
)
$
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01
!2005」 経済学史研究 第49巻第1号、 1802
181
頁、 2007年6月
140
3 研究発表・講演
[研究発表]
●
福田進治 「リカードの経済学の再検討−拙著
リカードの経済理論
の主要な論点−」 第16回経済思想研究会、 宮城・東北
大学、 2007年5月
●
福田進治 「自然法学と古典学派−労働価値理論の系譜−」 経済学史学会東北部会・第28回例会、 宮城・宮城学院女子大学
[討論]
●
藤本正富・福田進治 「ミルの国際貿易論」 第10回京阪経済研究会、 京都・京都キャンパスプラザ、 2007年5月
●
久松太郎・福田進治 「トレンズの技術進歩論」 第10回京阪経済研究会、 京都・京都キャンパスプラザ、 2007年5月
●
八木尚志・福田進治 「福田進治 リカードの経済理論
●
中川雅之・加藤誠一・福田進治 「政府はなぜ必要か?−シミュレーションでの授業−」 経済教育ワークショップ
弘前、 青
●
福田進治・石井穣・水田健 「福田進治
をめぐって」 第13回リカードウ研究会、 東京・明治大学、 2007年7月
森・弘前大学教育学部附属小学校、 2007年8月
リカードの経済理論
をめぐって」 経済理論史研究会、 東京・専修大学、 2007年9月
[講演]
●
福田進治 「イギリスの金融の歴史−金本位制をめぐる論争とジェントルマンの役割−」 青森県消費者問題研究会・平成19年
度総会、 青森・秀寿司、 2007年4月
6 科学研究費補助金
● 科学研究費補助金・基盤研究 (C) 「日本のリカードウ研究史−比較史的視点を交えて−」 (平成18年∼19年、 研究代表者・
千賀重義)
1 現在の研究テーマ
● 企業の研究開発投資、 海外直接投資、 多角化の決定要因について
2 著書・論文ほか
● 舟岡史雄, 徳井丞次, 小谷田文彦, 「研究開発戦略と企業の財務構造」,
我が国企業の国際競争力強化に向けた知的財産戦略
の評価に関する調査研究報告書−知的財産統計に関する調査研究−
●
財団法人知的財産研究所, 108
1192007
舟岡史雄, 徳井丞次, 小谷田文彦, 「研究開発活動の効率性と 「特許の薮」」,
アンチコモンズの悲劇に関する諸問題の分析
報告書 財団法人知的財産研究所, 41
53, 2006
1 現在の研究テーマ
● 企業買収, 買収防衛策の経済分析
2 著書・論文ほか
[論文]
●
(飯島裕胤, 家田崇)“
”!
"
(応用経済学研究), 1, 近刊 (査読有, 掲載許可ページ等詳細は, 来年度
再報告する.)
3 研究発表・講演
[学会報告]
●
飯島 裕胤 (2007) 「買収防衛策としての第三者割当増資:株主価値を高める可能性」 日本経済学会2007年度秋季大会 (9月24
日, 日本大学)
●
「買収防衛策の導入とチーム・インセンティブ問題」 日本応用経済学会2007年度秋季大会 (11月18日, 中央大学)
1 現在の研究テーマ
●
地域の雇用問題
●
自殺の経済的な要因について
2 著書・論文ほか
● 李永俊・佐々木純一郎・紺屋博昭 (2006) 「地域の雇用問題を考える−北東北3県の現状と課題−」
弘前大学経済研究 第29
号, 1−13頁。
141
●
李永俊 (2007) 「青森県の若年労働市場における反復求職の背景」
人文社会論叢 (社会科学篇) (弘前大学) 第18号, 143−
154頁。
●
李永俊・石黒格 (2007)
若年者の就業状況と意識に関する調査研究報告書
弘前大学人文学部附属雇用政策研究センター報
告書、 2。
3 研究発表・講演
●
「雇用、 人口、 医療、 どうなる青森」 青森県の将来を憂うる会シンポジューム、 2007年3月17日、 於青森市アウガ
●
●
「地域の若年者の就業実態とその問題点」 日本経済学会2007年度秋季大会, 2007年9月24日、 於日本大学。
「少子高齢化の実態−各国の現状と日本の動向−」、 弘前大学生涯学習センター・公開講座
高齢化社会を考えよう 、 2007
年10月17日、 於三沢市公会堂。
●
●
「少子高齢化と日本の未来」 市民公開講座、 2007年10月21日、 於弘前温清老人福祉センター
「青森県に生きる若者たち」 青森県の労働市場と雇用創出 第3回弘前大学人文学部附属雇用政策研究センターフォーラム、
2007年10月28日、 於弘前大学創立50周年記念会館みちのくホール
●
「地方で生きる若年非正規雇用者の実態とその問題点」
働くもののいのちと健康を守る
第3回東北セミナー基調講演、
2007年11月10日、 於浅虫温泉南部屋。
6 競争的資金
● 学術国際振興基金 「地方中高年層の就業状況と生活意識に関する調査研究」
●
弘前大学機関研究 「都市に暮らす地方出身の若者の就業状況と地元意識に関する調査研究」
7 共同研究
●
「地方中高年層の就業状況と生活意識に関する調査研究」 人文学部附属雇用政策研究センター内共同研究
●
「都市に暮らす地方出身の若者の就業状況と地元意識に関する調査研究」 人文学部附属雇用政策研究センター内共同研究
8
●
第3回弘前大学人文学部附属雇用政策研究センターフォーラム 青森県の労働市場と雇用創出 、 2007年10月28日、 於弘前大
学創立50周年記念会館みちのくホール
●
第3回 雇用政策研究センター・ビジネス講座 企業誘致と雇用創出 、 弘前大学人文学部附属雇用政策研究センター、 2007
年1月19日、 於弘前商工会議所
●
第4回 雇用政策研究センター・ビジネス講座 企業誘致と雇用創出 、 弘前大学人文学部附属雇用政策研究センター、 2007
年11月26日、 於弘前大学創立50周年記念会館
●
数量経済学研究会、 2007年4月19日、 2007年6月7日、 2007年7月26日、 於弘前大学人文学部
1 現在の研究テーマ
●
●
「憲法」 概念と憲法学
現代民主制下の議院内閣制論
2 著書・論文ほか
[論文]
●
「基本的人権の私人間効力論の再構成をめぐって」
●
「明治憲法前の法令の効力」 別冊ジュリスト 憲法判例百選 (第5版) Ⅱ
人文社会論叢 (社会科学篇) 17号 (弘前大学、 2007年) 61
79頁
●
「 地方自治・分権 再考―憲法学研究成果と行政実務解釈との間のアンビヴァレンツ」 人文社会論叢 (社会科学篇) 18号
(有斐閣、 2007年) 472
473頁
(弘前大学、 2007年) 81−105頁
●
「 行政 の控除説は、 現代議会主義民主制に矛盾しない−最新版 ドイツ国法学
号 (青森法学会、 2007年) 140
146頁
4 学外集中講義
● 八戸大学 (行政法)
●
放送大学 (憲法)
●
弘前福祉短期大学 (法学)
142
教科書の説明を読む」
青森法政論叢 8
1 現在の研究テーマ
● ヨーロッパ極右の台頭と凋落
2 著書・論文ほか
[書評]
●
「信仰と研究と実践と
書評 宮田光雄思想史論集 」 週刊読書人 (2007年2月2日付)
1 現在の研究テーマ
●
社会学 (地域社会学・農村社会学・都市社会学・環境社会学・社会理論)
2 著書・論文ほか
●
「人口から見る津軽の人生――世代の転換と継承をめぐって」 2006年12月、
●
●
「「昭和30年代」 への憧憬」
津軽学 第2号、 150−166頁、 津軽に学ぶ会.
[季刊] 平成19年冬号、 №40.
砂子瀬・川原平を歩いた人びと菅江真澄・平尾魯仙・津軽民俗の会 砂子瀬・川原平の生活文化記録集第3号 2007年3月、
執筆・編集.
●
「書評 山本努・辻正二・稲月正 現代の社会学的解読 イントロダクション社会学 」 2007年3月、 社会分析 34号、 222−
225頁.
●
「書評 秋田義信 青森県 名字 (苗字) 散策 」 2007年3月、 東奥日報.
●
「書評 湯浅陽一 政策公共圏と負担の社会学 」 2007年5月、 地域社会学会年報19 ハーベスト社、 211−212頁.
●
「地域伝統の知恵継承を 縮む社会第5部 選択8」 2007年6月29日、 東奥日報2面.
●
「ブナ原生林・白神山地と人との関わり−青森県目屋地域の薪炭生産とマタギ熊狩について−」 2007年9月、
生物の科学
遺伝 第61巻第5号、 37−42頁.
●
「白神山地の神秘性
●
「過疎高齢化問題と公共交通
平尾魯仙と森山泰太郎」 2007年9月、
2007年秋の号、 12.
白神山地ビジターセンターだより
青森県のフィールドから」 2007年11月、
運輸と経済
第67巻第11号、 66−73頁.
3 研究発表・講演
● 公開講座
津軽学津軽 「場のちから、 地の記憶」 2007年8月4日、 「語り合い」 コーディネーター、 弘前大学人文学部・津軽に
学ぶ会.
●
「社会科地域教材開発講座−十和田市周辺−」 2007年8月8日∼9日、 青森県総合学習教育センター.
●
「青森は近代化も青森流だった」 2007年8月31日、 サロン土あおもり244回例会、 ホテル青森3Fはまなす.
●
「砂子瀬・川原平を歩いた人々∼菅江真澄・平尾魯仙・津軽民俗の会」、 2007年10月、 弘前大学文化祭.
●
●
「急速高齢化の人口分析」 2007年10月、 弘前大学総合文化祭 「陸奥湾を科学する」.
北東北まほろばシンポジウム 「青森の魅力を専門の立場から語る」、 コーディネーター、 2007年10月、 男女共同参画プラザ.
7 共同研究
● 公開講座 「岩木川∼みず・ひと・しぜん」 運営委員会事務局
●
平川マイバスの会理事 (「平川バス・ひと・まち懇談会」 を通じた地域公共交通に関する研究:国際交通安全学会との共同)
●
弘前市総合計画策定委員会委員
●
青森県パートナーシップ推進委員会員
●
にしめや地産ブランド育成委員会委員
●
ブナ再生実行委員会
●
津軽ダム広報室運営委員会員・砂川学習館運営委員会委員
●
鰺ヶ沢町マッチングファンド運営に関する共同研究 (鰺ヶ沢町、 法人・グリーンエネルギー青森)
●
弥生リゾート跡地利活用に関する前提条件調査 (弘前市、 船沢公民館)
●
あおもり県民政策研究 「青森県内過疎地域の限界集落化の検証と政策課題
西南日本の過疎高齢化とは異なる我が県の現
状を解読し、 独自の政策課題を抽出する」
8 学会活動
● 日本都市社会学会 (理事、 編集委員、 学会賞選考委員会委員)
143
1 現在の研究テーマ
● 地方自治体の行政評価・政策評価
2 著書・論文ほか
[論文]
●
「青森県政策マーケティング委員会の7年 (2・完) −自治体行政における社会指標型ベンチマーキングの活用−」、
人文
社会論叢 (社会科学篇) 、 第17号、 2007年2月、 131
153
●
「青森県の政策マーケティングと総合計画策定−自治体行政における社会指標型ベンチマーキングの活用−」、
人文社会論
叢 (社会科学篇) 、 第18号、 2007年8月、 107
118
1 現在の研究テーマ
● 都市の貧困に関する社会学的研究
●
中心−周縁における就業構造の変容に関する実証研究
2 著書・論文ほか
[論文]
●
山口恵子・山下祐介、 2007年2月、 「地方都市におけるファミリーコースの変遷と都市空間の再編・変容−津軽地域/弘前市を
事例に (二) −」
●
人文社会論叢 (社会科学篇)
17号、 81
129頁
山口恵子、 2007年2月、 「建設業の日雇労働市場の変容−建設業事業主調査より−」 現代日本における都市下層の動態に関す
る実証的研究 (2003−2006年度科学研究費補助金基盤研究()研究成果報告書)、 2
31頁
●
山口恵子、 2007年3月、 「建設下請業者の求人方法−寄せ場/出稼ぎ/飯場−」
周縁地域における近代との出会い
(2003−
2006年度科学研究費補助金基盤研究()研究成果報告書)、 87
110頁
[その他]
●
山口恵子、 2007年8月、 「ホームレスの人々を取り巻く支援と排除−自立支援法制定以降に注目して−」
生活経済政策
号、 10
13頁
●
山口恵子、 2007年9月、 麦倉哲 ホームレス自立支援システムの研究
●
山口恵子、 2007年11月、 生田武志 ルポ最底辺
書評、
書評、
日本都市社会学会年報
25号、 115
117頁
図書新聞 2845号、 1
2頁
3 研究発表・講演
● 秋田県立大館国際情報学院高等学校・出張講義 (2月13日)
●
青森県立弘前南高等学校・出張講義 (10月11日)
4 学外集中講義
●
「ソーシャルワーク各論Ⅳ (社会福祉調査法)」 弘前学院大学
6 科学研究費補助金
● 文部省科学研究費補助金 「建設産業における若年不安定就業層の実態に関する社会学的研究」 (研究代表)
●
文部省科学研究費補助金 「現代日本における都市下層の動態に関する実証的研究」 (研究分担) 2007年3月迄
●
文部省科学研究費補助金 「周縁地域における近代との出会い」 (研究分担) 2007年3月迄
7 共同研究
●
「周縁地域における近代との出会い」 弘前大学人文学部内教員
1 現在の研究テーマ
● 過失犯における注意義務概念
●
刑法における情報の保護
2 著書・論文ほか
[論文]
●
「情報の刑法的保護」
人文社会論叢 (社会科学篇) (弘前大学人文学部、 2007年) 18号119
142頁
4 学外集中講義
● 青森中央学院大学 「刑事法」 夏季集中講義
144
127
1 現在の研究テーマ
● 東北地方の法律サービス提供構造に見る司法改革の影響
●
裁判および裁判官に対する民主的統制
●
大都市以外における弁護士の業務スタイル
●
司法書士の動向と裁判関連業務への取組み
●
アジア諸国の司法制度とその機能
2 著書・論文ほか
[論文]
●
飯考行 「日本における裁判官選任制度の再定位−メリットセレクションの継受と変容−」 青森法政論叢8号 (2007年8月) 62
90頁
●
飯考行 「北東北の弁護士業務と法的ニーズの間」 法社会学67号 (2007年9月) 91
108頁
●
飯考行 「地方のリーガル・サービス−青森県の事例から」 法学セミナー636号 (2007年11月) 16
20頁
[研究成果報告書]
●
飯考行 「ベトナムの司法改革−ドイモイ政策以降を中心に−」 科学研究費補助金特定領域研究() 「アジア法整備支援−体
制移行国に対する法整備支援のパラダイム構築−」 報告書第7巻 法整備支援と司法改革 (2007年3月) 105
163頁
[学界回顧]
●
飯考行 「司法問題」 法律時報79巻13号 (2007年11月) 341
354頁
[学会記録]
●
飯考行 「東アジアの法社会学の可能性」 日本法社会学会学会報77号 (2007年9月) 10
11頁
[書評]
●
飯考行 「榊原信次著 ベトナム法整備支援体験記−ハノイで暮らした1年間 」 法学セミナー626号 (2007年1月) 124頁
3 研究発表・講演
[研究発表]
●
飯考行 「ベトナムにおける
裁判監督
制度の動向と意義−監督審を中心に−」 民主主義科学者協会法律部会春合宿研究会
(2007年3月29日)
●
飯考行 「司法書士による簡易裁判所訴訟代理等関係権限行使の態様とその規定要因−北東北地方を中心に−」 日本法社会学
会2007年度学術大会 (2007年5月13日)
●
飯考行 「ベトナムにおける 裁判統制
●
飯考行 「ベトナム」 (ミニシンポジウム・現存 (旧) 社会主義国における 「裁判統制制度」 の改革についての比較検討) 比較
制度の改革動向−監督審の存続理由は何か」 体制転換と法研究会 (2007年5月19日)
法学会第70回総会 (2007年6月2日)
●
飯考行、 、 日本法社会学会関東研究支部 (2007年6月30
日)
●
飯考行 「北東北3県の法律サービスに見る司法改革の影響と
法化
状況」 学術国際振興基金助成事業に係る公開報告会
(2007年7月6日)
●
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、 2007年7月25日)
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(2007年7月26日)
#
[講演]
●
飯考行 「高齢者に係わる国の制度−医療保険と介護保険を中心に−」 下北文化会館 (2007年8月3日)
[出演]
●
飯考行 「裁判員制度がやってくる」 *アップルウェーブ・りんご王国こうぎょくカレッジ (弘前大学学生 (五日市健佑、 高
田毅、 村山彰彦) とともに、 2007年7月12日収録、 10月21日放送、 同月28日再放送)
4 学外集中講義
● 岩手大学人文社会科学部前期集中講義 「基礎法」 担当 (2007年9月18−21日)
●
青森県立黒石高等学校専攻科看護科後期集中講義 「社会保障制度と生活者の健康 (関係法規) 担当) (2007年10−12月)
●
放送大学面接授業 「これから始まる裁判員制度」 担当 (八戸サテライトスペース、 2007年11月24−25日)
5 海外出張・研修
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(ベルリン法社会学国際学術大会参加・報告、 2007年7月25−28日)
145
6 科学研究費補助金
● 平成18年度学術国際振興基金
1① 「北東北3県の法律サービス提供構造に見る司法改革の影響と
●
法化
状況」 (研究代表)
平成19−21年度科学研究費補助金若手研究() 「東北地方の法律サービス提供構造に見る司法改革の影響と
法化
状況」
(研究代表)
●
平成19−20年度科学研究費補助金萌芽研究 「非行少年の自立支援 学生ボランティア にみる司法・教育・福祉の連携」 (研
究分担)
7 共同研究
● 弁護士社会構造研究会 「弁護士プロフェッションの社会構造に関する実証研究」 メンバー
1 現在の研究テーマ
● 独占禁止法
●
フランチャイズ規制法
●
米国反トラスト法
2 著書・論文ほか
● 2006
12 「
と連邦反トラスト法」 須網隆夫・土田和博編
政府規制と経済法規制改革時代における独禁法
と事業法 日本評論社 (2006) 131∼152頁。
●
2007
6 「アンプル用生地管の輸入妨害が私的独占に該当するとされた事例−ニプロ株式会社に対する審判審決 (平成18年6月
5日 平成12年 (判) 第8号 )」
●
公正取引 第680号 (2007) 62∼65頁。
2007
8 「経済法判例研究会(第147回)
入札談合において基本合意の立証とアウトサイダーの存在が問題となった事例−地方
公共団体発注ストーカ炉入札談合事件[公取委平成18
6
27審決]」
●
ジュリスト 第1339号 (2007) 166∼169頁。
2007
10 「若手が読み解く○○法16 「経済法」 2005年独禁法大改正の影響と今後の動向」
法と民主主義
第422号 (2007) 46
∼51頁。
1 現在の研究テーマ
● 行政訴訟における集合利益の法的構成
●
●
行政法における民営化:保育所民営化の法的統制とその構造
科学技術の発展とその行政法による制御
2 著書・論文ほか
●
「情報化社会における市民のプライバシー保護∼」
●
人文社会論叢 (社会科学篇) 19号投稿中
「私人によるパチンコ出店妨害と行政規制の可能性」 東北法学投稿中
3 研究発表・講演ほか
● 第10回青森法学会 「薬害における国の被害者拡大責任∼福岡
型肝炎訴訟判決の検討を中心に∼」
4 学外集中講義
● 福島大学
行政政策学類 行政法・総論 夏季集中
1 現在の研究テーマ
● 人権条約と民法
●
私人間における基本権保護のあり方
2 著書・論文ほか
[論文]
●
「損害賠償債権とヨーロッパ人権条約」
人文社会論叢 (社会科学篇) 第18号47頁 (2007年8月)
3 研究発表・講演
[学会報告]
●
「基本権の水平的拡散と衡量準則」 青森法学会 (青森県立保健大学、 2007年9月)
146
執筆者紹介
柴
田
英
樹 (会計監査論/ビジネスマネジメント講座)
赤
城
国
臣 (公共経済学/経済システム講座)
山
本
康
裕 (マクロ経済学/経済システム講座)
小谷田
文
彦 (産業組織論/経済システム講座)
児
山
正
史 (行政学/公共政策講座)
日
野
辰
哉 (行政法/公共政策講座)
福
田
健太郎 (民法/公共政策講座)
堀
内
健
志 (憲法学/公共政策講座)
(五十音順)
人文社会論叢 (社会科学篇)
隆
第
号
今 井 正
浩
年 月 日
内 海
淳
◎池
熊
田 憲
野 真規子
長谷川 成
一
平 野
潔
宮 坂
森
編 集
社会連携委員会
発 行
弘前大学人文学部
弘前市文京町番地
印 刷
株式会社新印刷興業
朋
樹
男
(◎委員長)
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