第2回 ニューヨークの子どもたちのサマーキャンプ

ニューヨーク街角事情
第
第2
2回
回
ニューヨークの 子どもたちの
サマーキャンプ
常陽銀行ニューヨーク駐在員事務所
1.はじめに
アメリカの学校は、日本と異なり9月に新学期が始まり、6月に終業します。下図はニューヨーク市
の公立学校(小・中・高校)の年間スケジュールです。6月下旬に学校が終業してから9月初旬の新学
期開始までが夏休みとなります。
私立校に通う子どもたちは、公立校よりも2週間早く夏休みに入ります。
夏休みは、子どもたちにとって長い休暇です。毎日宿題に追われる学校生活の忙しさから解放され、
普段はなかなか出来ない体験やスポーツ、旅行などの楽しみが満載です。今回は、マンハッタンのアッ
パーイースト地区に住む子どもたちの夏休みの過ごし方をご紹介します。
ニューヨーク市の公立学校(小・中・高校)の年間スケジュール
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2.マンハッタンの子どもたちの夏休み
マンハッタン北東部に位置する
アッパーイースト地区は、私立・公立
の小中学校・高校が数多く所在し、人
口22万人のうち14%を18歳未満が占
める住宅街です。治安が良く教育水準
も高いことから、マンハッタンでも屈
指の人気居住区です。
マンハッタンではニューヨーク市
の法令により、自分の身の回りや危険
に対応できない子どもは、一人で外を
出歩いたり、家で留守番したりしては
いけないことになっています。小学校
の登下校は親または親に代わる成人ケ
アギバー(ベビーシッターやナニー1)
が付き添います。
日本では夏休みが短いこともあり、
夏休みが始まると観光地や行楽地は混
雑し、住宅地では子どもたちをたくさ
ん見かけるようになります。一方、マ
プールで夏休みを過ごす子供たち
ンハッタンでは、小さい子どもたちが
一人で歩き回ることができません。こ
のため、長い夏休みの間は、大人と一緒に過ごすか、サマーキャンプに行くのが一般的です。
夏休みの6月から9月までの間、マンハッタンでは家族でニューヨーク郊外の別荘地に移動し、親は
別荘地からマンハッタンの職場に通勤することも少なくありません。
3.多様なサマーキャンプのプログラム
マンハッタンの大半のサマーキャンプは、公立校が夏休みに入る6月下旬から始まります。
サマーキャンプのプログラムは、1歳半から用意されています。小学校低学年以下の子どもたちは、
家から歩いて通える距離のプログラムに参加します。
中高学年になると、アイスホッケー、ゴルフ、サッカー、野球、水泳、ロッククライミングなどのスポー
ツから、演劇、ダンス、プログラミングまで様々なプログラムを選択できるようになります。
市が運営する水泳教室、市内のスポーツ施設で開催されるサマーキャンプのほか、スクールバスに乗っ
て郊外まで行く日帰りの「デイキャンプ」
、ニューヨークから離れた他の州に泊りがけで行く「スリープ
アウェイキャンプ」など、多種多様なプログラムがあります。
マンハッタン内は空間や施設に限りがあるので、より広い施設でのびのびと活動できるように、子ど
1 親に代わって子供の身の回りの世話をするパートタイム又はフルタイムの専属従事者。
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もたちが成長していくに従い、郊外や他州
のキャンプを選ぶようになります。
「デイキャンプ」とは日帰りで通うサマー
キャンプのことで、主に私立学校、市、業
者が運営しています。1歳半の子どもを対
象にした半日プログラムから、小学生高学
年を対象とした終日プログラムまでありま
す。
6月下旬になると、キャンプに行く子ど
もたちを乗せたスクールバスが、マンハッ
タンの碁盤の目を東西南北に行き交います。
子どもたちが乗り降りする際、スクールバ
スは赤いランプを点滅し停車します。
スクールバスがひとたび点滅を始めたら、
それが止むまで反対車線も含めて全ての交
通は停止しなければなりません。写真のよ
ゴルフも選択プログラムの一つ
うに、一方通行の通りをスクールバスが並
んで走行することも珍しくなく、朝夕の時
間帯は一般の自動車はなかなか前に進めません。
スクールバスでキャンプに到着した子どもたちは、曜日毎、週別に組まれたスケジュールやイベント
に基づき、それぞれにコーチがついて、水泳、サッカー、テニスなど様々な活動にチャレンジします。
キャンプ初日に初めて会った人たちとも日を追うにつれて仲良くなり、生活の世話をしてくれる若い
カウンセラーやコーチなど、普段の学校生活では接することのない人たちとの交流で社会性が身につき
ます。
∼キャンプの一日のスケジュール(例)∼
8:00 ∼ 8:30 スクールバスでお迎え
9:00 ∼ 10:00 【スポーツ】水泳教室
10:15 ∼ 11:30 【スポーツ】
テニス又はサッカー
11:45 ∼ 12:45 ランチ
(金曜日屋外バーベキュー)
13:00 ∼ 13:45 【芸術】演劇
(今年はブロードウェイ
“オリバー”の劇)
14:00 ∼ 14:45 【スポーツ】水泳
マンハッタンの夏の風物詩であるスクールバス
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低学年のうちは、少人数のグループでお
決まりのプログラムを行います。多くのサ
マーキャンプでは、1日2回水泳教室があ
ります。サマーキャンプの間に、親の参観
日があり、発表会に向けてグループで演劇
の準備するプログラムもあります。
高学年になると、マイナーリーグの野球
の試合や娯楽施設などに遠足に行くキャン
プのほか、各人の興味に合ったスポーツの
集中プログラムに参加できるキャンプがあ
ります。野球、サッカー、ロッククライミ
歌と台詞を覚えて演劇を発表
ング、ゴルフ、器械体操、ジップライン、
レースカーなど、キャンプ毎にそれぞれの
特色を打ち出したプログラムでキャンプ参加者を惹きつけます。
「スリープアウェイキャンプ」とは、数週間単位で開催される宿泊型のサマーキャンプです。キャンプ
業者が、小学校3年生、4年生から高校生までの子ども向けに開催しているのが一般的です。
夏休みに入ると、大きなボストンバッグや寝袋を持った子どもたちが、サマーキャンプに向けて出発
する姿を見かけるようになります。参加者の多くは、8週間から12週間のあいだ、メイン州、マサチュー
セッツ州など近郊の他州(車で4∼6時間の距離)で、同年代の子どもたちとキャンプ場の寮で過ごし
ます。
キャンプでは、原則電子機器の持ち込みは禁止されています。普段はスマートフォン、電子ゲームな
どと切っても切れない生活を送っている子どもたちですが、様々なアクティビティへの参加を通じて、
都会では体験し得ない豊かな自然と触れ合うことができます。
4.おわりに
夏休みの過ごし方は、各家庭の考え方、家族の出身地または経済事情などによって十人十色です。と
はいえ、マンハッタンの子どもたちにとって、親が子どもの頃に行っていたデイキャンプやスリープア
ウェイキャンプを体験することは、ごく一般的な夏休みの過ごし方です。
しかし、リーマン・ショック後は、名門サマーキャンプ場でも、以前のように毎年1月に予約が一杯
になることは難しくなっています。1930年から続く老舗のサマーキャンプ運営会社が経営譲渡をするな
ど、サマーキャンプを取り巻く状況も変わってきました。
時代の変化に伴って、プログラミングを取り入れたテクノロジー関係のサマーキャンプも増えてきま
した。「マインクラフト」や「スクラッチ」など、日本でも人気のあるプログラムに挑戦するキャンプは、
今年のサマーキャンプの中で特に勢いを見せています。
9月になると新学期が始まり、子どもたちは宿題と格闘する生活に戻ります。長く寒い冬を乗り切る
ためにも、夏休みにはのびのびと過ごして欲しいものです。
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