JANPORA Japan NPO Research Association Discussion Papers 「市民」という言葉はどのように使われてきたか ―国会図書館雑誌記事索引の分析から― 澤村 明 Discussion Paper 2013-001-J Japan NPO Research Association 「市民」という言葉はどのように使われてきたか ―国会図書館雑誌記事索引の分析から― 澤村 明 Discussion Paper 2013-001-J March 2013 Japan NPO Research Association 「市民」という言葉はどのように使われてきたか −国会図書館雑誌記事索引の分析から− * 澤村 明 新潟大学経済学部† The Trend of Usage of Word “Citizen” in Japan: Analysis of the Titles of Journals in National Diet Library, Japan Akira Sawamura Faculty of Economics, Niigata University 「市民」という言葉は,かつては左翼的なニュアンスがあるとされてきた.しかしながら,阪神淡路大震災 を契機に,ボランティアや NPO が日本でも認知されるようになった.そうした変化を定量化に把握できない かの試みとして,国会図書館の雑誌記事索引を対象に,簡単なテキストマイニングを行なうことで用法の変 遷を解析する. キーワード:NPO,市民,左翼,テキストマイニング In Japan, it is said that the word “Citizen” is alike left wing. But after the Great Earthquake of Kobe in 1995, many Japanese awake the existence of volunteer and NPO. I examine to analyze such change by simple textmining for the title data of journals in National Diet Library, Japan . Key words: NPO, Citizen, Left wing, Text-mining * 本稿は,澤村 (2012) 執筆時に行なった分析である.同書は一般書であるので簡潔な紹介に留めたため,改めて執筆した. † 新潟大学経済学部准教授 〒 950-2181 新潟市西区五十嵐二の町 8050 E-mail:[email protected] 1. はじめに 暦年 通称 NPO 法,特定非営利活動促進法は法案段階で は市民活動促進法案という名称であった.それを当 時,自民党参院議員であった村上正邦が「市民」と いう言葉に拒否反応を示したために,急遽, 「特定非 営利活動」という言葉を作ったというのは,よく知 られていよう 1.つまり「市民=左翼」というイメー ジだったのである.しかし昨今, 「在日特権を許さな い市民の会」という団体は,在日朝鮮人・韓国人に は一般の日本国籍の人にはない特権がある,それが 許せないと抗議活動をしている.この「市民」を名 乗る団体を左翼だと感じる人はいないだろう 2. 「市民」や「市民社会」の定義については,さまざ まに論じられてきた.たとえば,山口 (2004),佐伯 (1997) はそれぞれ左右の立場から論じられているし, 植村 (2010) は新書ながら重厚な市民社会史である. 本稿では,このように抱かれている用語「市民」の イメージについて,戦後の雑誌記事の見出しから分析 を試みる. 2. 使用するデータと分析内容 「市民」という用語は,どのように使われてきたか. 本稿では,国会図書館 Web サイトの雑誌記事索引を 用い, 「市民」 と記載された雑誌記事の見出しの動向を, 出現割合と,共に出現する用語の変遷を調べる 3. 記事総数 「市民」記事数 1975 105,219 181 1976 109,871 250 1977 114,960 183 1978 113,841 128 1979 123,506 170 1980 128,055 196 1981 130,976 183 1982 135,231 244 1983 128,532 245 1984 99,123 187 1985 101,517 174 1986 102,054 167 1987 102,548 170 1988 103,279 162 1989 103,275 175 1990 105,258 183 1991 105,553 200 1992 105,241 248 1993 106,453 215 1994 107,152 242 1995 109,377 287 1996 187,027 568 1997 246,742 868 1998 260,392 881 1999 315,480 1,073 2000 361,980 1,212 2001 367,884 1,205 2002 367,368 1,172 2003 368,437 1,424 2004 366,623 1,313 表 1 記事総数と「市民」記事出現数 (1975 年以降 ) 出所:国会図書館 Web 雑誌記事索引より筆者作成 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1 朝日新聞 1997 年 11 月 13 日. 1985 1990 1995 2000 2004 図 1 見出しに「市民」とある記事数の推移 出所:国会図書館 Web 雑誌記事索引より筆者作成 2 この団体については,安田浩一 (2012) に詳しい. 2 % 0.45 4. 「市民」という用語は他のどのような用語と近い か 0.4 0.35 0.3 次に,雑誌の見出しに「市民」という言葉が現れた とき,他にどのような用語が伴出するかについて 4, 簡単なテキストマイニングを行なった. ただし,以下の時代区分でカテゴライズしている. すなわち,昭和 30 年代 (1955 〜 64) は 10 年間,昭 和 40 年代前半 (1965 〜 69) から平成初年代前半 (1990 〜 94) は 5 年区切り,1995 と 96 年は阪神淡路大震災 直後なので 2 年で集計.97 年以後は各年データである. これは社会的に回顧する場合に,昭和何年代,昭和何 年代前半後半とくくることが一般的であることと,記 事総数・ 「市民」出現回数も時代が下がるに連れて増 加するため,各カテゴリ間のサンプル数の差を多少な り縮めるためである. 伴出回数が高いほうから5位までの用語が,時代と 共にどのように変化したか図化したのが図3である. 用語上の 16.4 などの数字は伴出率である.使用した ソフトは KH Coder である.なお「市民」と「市民社会」 は別の言葉として扱っている.また同ソフトでは言葉 の間の係り結びを解析することも可能であるが,記事 見出しは文法通りでないことが多いため,そこまでは 分析していない. 次に,どのような他の言葉と共に用いられたか,で ある.昭和 30 年代から 21 世紀まで一貫して伴出度 合いが高いのは, 「社会」である.前述のように「市 民社会」は一語として別の扱いなので, 「市民が輝く 社会をめざして」のような用例ということになる.見 たところ伴出する割合が減少しているようであるが, 各区分年次の冒頭年を説明変数, 「社会」の伴出率を 被説明変数とした単回帰分析を行なったところ,有意 な結果はえられなかった. 昭和 30 年代には「革命」が登場しているが,その 後は再び現れない.昭和 40 年代から登場する「運動」 は昭和 60 年代まで5位以内に存在するが, 平成になっ てからは姿を消す.変わりに平成7年(1995)以降 しばらくは「活動」が登場する. その他, 平成 13 年(2001)に「世紀」が登場するなど, その年次特有の用語の登場が散見される. 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2004 図2 記事総数に対する「市民」出現割合推移 出所:国会図書館 Web 雑誌記事索引より筆者作成 3. 出現の傾向 この記事索引に収録される総記事数データは 1975 年以降のみ公表されているが,その年の 105,219 件 から 2004 年の 366,623 と増加しており,その中での 「市民」登場件数は,表 1 のとおりである.なお,見 出しに「市民」とある記事数は遡って 1955 年から検 索が可能で,その登場数の推移をグラフ化したものが 図 1 である. 記事総数という母集団そのものが増えているのだか ら, 「市民」という記事も増えて当然である.そこで, 比較可能な 1975 年以上の出現割合を図化したものが 図 2 である. 図 1 では,1995 年から急速に増加しているように 見えるが,比率で見た図 2 ではさほどではない.図 2 のデータを元に,1994 年以前 10 年の増加率と阪神淡 路大震災の起きた 1995 年以降 10 年の増加率に統計 的に有意な差があるか,係数ダミーを用いて検定した ところ,下記の結果をえた. T=-13.48+30.08ti+30.75Diti (-0.11) (1.56) (2.22) T:出現率 ti:年次 (1,2,...11=95 年 ,...20) Di:大震災後ダミー (0,1:i ≧ 11 で1) ()内は T 値, 自由度調整済み決定係数は 0.84 であり, 有意水準5%レベルで震災後,出現割合の増加率が上 がったという結果となった. 5.考察 3 国会図書館 Web は、https://ndlopac.ndl.go.jp. 調査 4 「伴出」とは考古学の用語で,遺跡から遺物が出土する 日は、2010 年 12 月 23、24、26、27 日。 際に伴って出てくることを指す. 3 年代 1位 2位 16.4 10.93 昭和 30 年代 社会 生活 22.1 昭和 40 年代 運動 前半 3位 8.66 革命 都市 昭和 40 年代 30.69 後半 18.64 15.64 市民社会 昭和 50 年代 23.89 前半 11.95 昭和 50 年代 21.63 後半 昭和 60 年代 15.96 平成 7-8 年 20.13 8.43 意識 13.44 21.64 平成 2-6 年 25.33 4位 まず,雑誌記事総数は 1975 年以降,増加傾向にあ るが,その中で「市民」という言葉を使った記事見出 しの出現割合は増加しており,さらに阪神淡路大震災 以後増加傾向に拍車がかかったと統計的にいえる. 昭和 30 年代には, 「市民」という言葉と「革命」と いう言葉は近しかったといえなくもない.その意味で は,冒頭に紹介した村上正邦の感覚は,間違っている とはいえない.が,その後は「運動」と結びついた期 間から「活動」と結びつくように変化している.この あたりは,社会学会では批判も多い高田 (1998) によ る「市民運動から市民活動への変容」の表れともいえ よう. なお,今回の分析は,記事見出しに「市民」という 言葉がどのように登場するかの分析のみに留まる.伴 出する他の用語との関係が肯定的なのか否定的なのか は見ていない.これは記事見出しという紋切り型の一 文ともいえないフレーズのみの分析であり,そこまで は踏み込めないからである.しかし今後,戦後の新聞 記事全文テキストデータなどのビッグデータが利用可 能になれば,より詳細なテキストマイニングが可能に なろう. 5位 7.97 問題 12.53 13.21 設計 10.55 12.5 教育 生活 11.33 11.12 20.39 12.67 12.05 現代 9.78 8.75 8.03 市民社会 8.03 企業 11.12 司法 9.68 9.68 市民社会 参加 11.64 11.84 12.26 活動 10.5 7.51 9.89 日本 7.07 地域 参考文献 8.58 平成 9 年 25.84 14.33 13.36 10.31 教育 植村邦彦 (2010)『市民社会とは何か 基本的概念の 系譜』平凡社新書. 佐伯啓思 (1997)『 「市民」とは誰か 戦後民主主義を 問いなおす』PHP 新書. 澤村明 (2012)「市民と政府」 ,大西潤編著『 〈政府〉 の役割を経済学から問う』法律文化社. 高田昭彦 (1998)「現代市民社会における市民運動の 変容−ネットワーキングの導入から『市民活動』 ・ NPO へ−」青井和夫他編『現代市民社会とアイデ ンティティ』梓出版社,pp.160-185. 山口定 (2004)『市民社会論』有斐閣. 安田浩一 (2012)『ネットと愛国 在特会の「闇」を 追いかけて』講談社. 8.69 平成 10 年 21.4 10.81 平成 11 年 14.2 14.03 NPO 8.37 研究 10.13 環境 11.59 9.6 市民社会 8.92 9.14 世紀 9.53 10.22 11.81 平成 12 年 19.89 司法 平成 13 年 21.95 9.45 11.41 まちづくり 平成 14 年 15.76 10.66 平成 15 年 17.59 14.19 8.24 7.62 8.75 7.33 活動 地域 14.13 13.21 医療 6.54 都市 研究 11.05 8.38 7.88 10.96 平成 16 年 19.84 地域 9.81 図3 伴出語上意5位の推移(括弧内は伴出率) 出所:国会図書館 Web 雑誌記事索引より筆者作成 4
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