速報 No.2016-04P パーティクル濃度測定装置事件【拒絶審決の判断を知財高裁が取り消した裁判例】 言渡年月日 平成 28 年 3 月 16 日 裁判所 知的財産高等裁判所 第 2 部 裁判長裁判官 清水 節 事件番号 平成 27 年(行ケ)第 10129 号 出願・権利 (原審:不服 2014-6561 号事件) 特願 2010-135838 号 発明の名称 「パーティクル濃度測定装置」 事件名 審決取消請求事件 関連条文 特許法 29 条 2 項 キーワード 結論 請求認容(拒絶審決取消) 進歩性、一致点、相違点 【事実関係】 本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求の不成立審決に対する取消訴訟である。主な 争点は、進歩性判断(一致点・相違点の認定,相違点の判断)の誤りの有無である(その他の争 点については省略)。 [本願補正発明:請求項1] 実質的に環状の仕切り(10)を有し,この仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相 対的に流れるようにした測定領域形成部と, 争点(一致点の認定の誤り及び相違点の看過) 前記開口内部に面状の光膜(FL)を形成する光膜形成手段(12A、12B)と, 前記光膜を通過する粒子の散乱光を受光して粒子を検出する,前記光膜に対する位置が固定で ある粒子検出撮像カメラ手段(15)と, 前記光膜を単位時間に通過する気流の容積に対する,前記粒子検出撮像カメラ手段により検出 された粒子の総数に基づき,粒子濃度を算出する演算手段(22)と, を有するとともに, 争点(相 違点2の 前記粒子濃度c,c=n/(r×v×T)の式により算出する, 判断の誤 ことを特徴とするパーティクル濃度測定装置。 パーティクル濃度: り) 空気中に浮遊した塵埃等の粒子濃度 ここで式内の各変数の定義は以下のとおりである。 c:粒子濃度 n:粒子数 r:計測領域面積(前記粒子検出撮像カメラ手段の検出対象領域) v:気流速度(気流速度検出器から与えられる気流速度) T:計測時間 (浅村注:請求項1内の参照符号は、筆者の独自判断で加入) 空間:枠体の開口部内に形成 気体の流れ カメラ 光膜形成手段 仕切り 光膜 引用発明 本願補正発明 1 http://www.asamura.jp 速報 No.2016-04P 【判断のポイント】 原告は、「開口内部を直交して気体が流れる場合には,観察 方向からの見かけ位置(カメラからの奥行方向)においてパー ティクルPの座標値が異ならないため,パーティクルの飛来方 向及び飛来速度を知ることができない。加えて,引用発明にお いて,開口部42の開口面に直交して気体が流れるようにした のであれば,飛来方向の検出が不要となってしまい,引用発明 の作用効果を滅却することになる」ことを理由に、引用発明の 「枠体」が、本願補正発明の「仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れ るようにした測定領域形成部」に相当するとの審決の認定は、誤りがあると主張した。(*相違点2に関する原告の主張は省略) 知財高裁は、以下の2点について、審決の判断に誤りがあると指摘し、審決を取り消した。 1.一致点の認定の誤り及び相違点の看過について 知財高裁は、引用発明の前提(解決課題)について、「引用発明は,パーティクルの飛来方向 が不明であるからこそ,その飛来方向を検出しようとするものである。・・・そうすると,引用 発明は,パーティクルを運ぶ気流の方向が不明であることを前提とするものであり,特定の方向 からの気流を前提とはしていないものである。」と認定した。 次に、本願補正発明について、「一方,本願補正発明の測定領域形成部は,特許請求の範囲の 記載において,仕切りにより区画された開口内部を「直交して」気体が相対的に流れるようにし たものと特定され,さらに,粒子濃度cを算出する際の気流の容積(分母)がr×v×T(r: 計測領域面積,v:気流速度,T:計測時間T)で算定され,rとは開口内部の面積にほかなら ず,この算出方法で粒子濃度を算出できるのは,開口内部を通過する気体の流れの方向が開口面 に直交する方向のみの場合であるから・・・本願補正発明は,仕切りにより区画された開口内部 を直交して気体が相対的に流れるようにしたものに限定されていると認められる。」 と認定した。 そして、上述した認定に基づき、「引用発明の枠体の開口部42の開口面を通過する気流の方 向は,あらかじめ特定されないのに対し,本願補正発明の開口内部を通過する気体の流れの方向 は,開口面に直交する方向に限定されている。したがって,引用発明の「枠体」は,本願補正発 明の「仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形 成部」には相当しない。」として、審決の一致点の認定には誤りがあるとした。 2.相違点2の判断の誤りについて 知財高裁は、引用発明(特開2005-114664号公報)について、「引用発明2におい て粒子数N自体のカウントはされていないと認められる。引用発明2の濃度測定方法と,カウン タにより粒子総数を求め,これを,計測領域面積と気流速度と計測時間により求めた気流の容積 で除して粒子濃度を求める本願補正発明の濃度測定方法・・・とは,異なる方法である。」とし て、相違点2の判断には誤りがあるとした。 【コメント】 本願補正発明と引用発明の技術的意義の違いが認められて、一致点の認定の誤りおよび相違点 2についての誤りが認められた。引用発明の構成を変更すると、引用発明の解決課題が解決でき なくなるので、 当業者は本願発明を容易に想到できないという趣旨の原告の主張が反映された判 決であり、進歩性の論理づけを検討する上で実務的に参考になると思われる。 以上 浅村特許事務所では、様々な知的財産情報を提供しております。ここをクリックしてご覧ください。 2 http://www.asamura.jp
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