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速報 No.2014-07P 1 http://www.asamura.jp/ 医療用ゴム栓組成物事件

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速報 No.2014-07P
医療用ゴム栓組成物事件【進歩性を否定した拒絶審決を破棄した裁判例】
言渡年月日
平成 25 年 3 月 21 日
裁判所
知的財産高等裁判所 第 2 部
裁判長裁判官 塩月 秀平
事件番号
平成 24 年(行ケ)第 10241 号
出願・権利
(原審:不服 2011-5681 号)
特願 2005-238059 号
発明の名称:
「医療用ゴム栓組
成物」
事件名
審決取消請求事件
関連条文
特許法 29 条 2 項
キーワード
結論
請求認容(審決取消)
進歩性、一致点、相違点、数値限定条件範囲、技術的課題、技術的思想
【事実関係】
本件は、拒絶査定不服審判請求時の補正にかかる発明(補正発明)の進歩性を否定した審決が
取り消された事例である。
◆補正前の請求項1(補正前発明)
「スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体100質量部に対して,軟化剤160
~200質量部,ポリプロピレン15~40質量部を配合した組成物であって,該組成物のJIS K 6253A
に規定する硬さが30~45であることを特徴とする医療用ゴム栓組成物。」
◆本件補正後の請求項1(補正発明)
「質量平均分子量が30万~50万であるスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合
体100質量部に対して,・・・医療用ゴム栓組成物。」
◆審決の理由の要点
引用例1(特開2001-258991号公報)には、「重量平均分子量が20万~40万であるスチレン・
エチレン・ブチレン・スチレンブロック(SEBS)共重合体100部に対して、パラフィン系オイル
50~300部、ポリオレフィン樹脂10~50部を配合し、JIS(DURO)のA硬度が20~70である組成物」
という発明(引用発明)が記載されている。
引用発明と補正発明とでは、SEBS共重合体の質量平均分子量(相違点1)、軟化剤とポリオレ
フィンの配合量(相違点3)、JIS K 6253Aに規定する硬さ(相違点4)の数値範囲においてそ
れぞれ相違する。しかし、補正発明の数値範囲は引用発明と一部重複するか又は全て含まれてお
り、各数値限定条件範囲において、補正発明が格別に顕著かつ臨界的に優れた作用・効果を奏す
るものともいえない。したがって、補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものである。
【判断のポイント】
1.補正発明について
輸液バッグなどに用いられる医療用ゴム栓組成物としては、成形性が良いこと、輸液バッグに
輸液を注入等するための注射針が容易に刺し通せること(針刺し性)、針をゴム栓から引き抜い
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たときに輸液が針穴から漏れないこと(液漏れ性)、ゴム栓に刺通した針が簡単に抜けないこと
(針保持性)が要求される。補正発明は、成形性(特に射出成形性)、針刺し性、液漏れ性、針
保持性の何れも良好なゴム栓が得られるという効果を有する。本件明細書には上記効果を裏付け
る試験結果(表2)として、質量平均分子量が約40万のSEBSを使用した実施例1ないし3では液
漏れ性が良好であったのに対し、同約25万のSEBSを使用した比較例1では若干の液漏れがあり、
SEBSに代えてSEPS共重合体を使用した比較例2、3では顕著な液漏れがあったと記載されている。
<本願の表2>
2.引用発明について
(1)引用発明の針刺止栓の基本構造
針刺止栓5は、針30を差し込む針刺部分11と、針刺
部分11の材料より剛性が高く、針刺時の応力が外部に
伝播することを防止し、針刺部分11を区画するための
外周部分を有した止栓本体10とで構成されている。
引用例1には、針刺部分11を針刺方向(A)に撓ま
せて成形した実施例1(図3、4)では針を抜いた後の液漏れがないのに
対し、針刺部分11を撓ませずに成形した例(比較例)では液漏れが見られたというテスト結果が
...
記載されている。この記載に接した当業者は、引用例1に記載された針刺し止栓のうち、液漏れ
..........................................
のない針刺し止栓を得るためには
、止栓本体の成形時に針刺部分を針の針刺方向に撓ませて成
.........
形させる必要があると理解すると認められる。
(2)引用発明の針刺部分を構成する材料の組成
引用例1には、針刺部分を構成する材料のベースポリマーとして、SEBS系、SEPS系又はSEBS
とSEPSとの混合物系が例示されているが、実施例のうちエラストマーBはベースポリマーの分子
量において、またエラストマーCはベースポリマーの種類において上記材料の条件から外れてい
る。そして、引用例1には、エラストマーAを使用した場合には液漏れテストの結果が良好であ
ったが、エラストマーBやCを使用した場合には液漏れがあったことが記載されている。
このこ
...............................
とから、引用例1には、引用
発明の針刺部分を構成する材料を使用しなかった場合(エラスト
.........................................
.
マーB、C)
は
、
たとえ針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形したとしても
、
.............................
針刺し止栓からの液漏れがあることの技術的課題が示されているということができる。
3.補正発明の容易想到性について
(1)引用例1から認定すべき発明について
補正発明は、
医療用ゴム栓組成物の組成と組成物の硬さを発明特定事項とするものであるから、
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引用例1において補正発明と対比すべき発明は、引用例1に記載された技術的事項から、
針刺部
.................
分の組成及びその硬さを抽出した構成である。しかし、引用
発明が十分な液漏れ性能等の確保
..........................................
といった目的を達成するためには
、止栓本体の成形時に針刺部分を針の針刺方向に撓ませて成
.......................
...................
形されたものであることが必要と解されるのに対し
、補正発明では針刺部分を撓ませることは
...........................
...............
前提とされていないという点で技術思想が異なるものであり
、
このような差違を考慮しないま
..........................................
ま上記認定の構成に包含されるからといって
、その中の特定の構成を引用発明として認定する
.........
のは相当ではない。
(2)補正発明と引用例1に記載の構成物の対比
補正発明の医療用ゴム栓組成物は、SEBS共重合体をベースポリマーとする組成物であるのに対
し、引用例1のベースポリマーはスチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物であって
共役ジエンがイソプレン及びブタジエンから選択される1種以上のものであるから、両者はベー
スポリマーの成分において相違する。
(3)相違点についての判断
本願明細書に記載された8種のゴム栓組成物(実施例1~3、比較例1~5)は、いずれも引
用例1の針刺部分の組成及び硬さを満たすものであるが、
引用例1の記載によれば、これら8種
....................
の組成物を使用して製造した針刺部分は、これを針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形す
......
ることにより液漏れが生じない針刺し止栓を得ることができる。
一方、本願明細書の記載によれば、これら8種の組成物の中で、補正発明に係るベースポリマ
ーの種類及び分子量、軟化剤及びポリプロピレンの配合量、
並びに硬さに特定された組成物(実
................................
施例1~3)のみが、針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を成形するという手法を
......
用いなくとも、液漏れのない医療用ゴム栓を得ることができるというものである。
そうすると、補正発明は、引用例1に記載の上記組成物におけるベースポリマーの種類及び分
子量などを特定の範囲に限定することにより、
針刺部分を針の針刺方向に撓ませて針刺し止栓を
成形するという手法を用いなくとも液漏れのない医療用ゴム栓を得ることができる効果を見出
したということができる。補正発明の構成は、前記の技術的課題からの発想に伴うものであり、
そのような発想である技術的思想が引用例1には記載も示唆もない以上、そのような発想と離れ
た組成物が引用例1に記載されているとしても、そこに補正発明の構成が容易想到であると認め
............
るまでの発明としての構成が記載されているということはできない。
審決は、補正発明の技術的
..........................................
課題と
引用例
1に記載の技術的課題の対比を誤り、補正発明と対比すべき技術的思想がないの
....
......................................
に引用例1に記載の事項を漫然と抽出して補正発明と対比すべき引用発明として認定した誤り
...
があり、ひいては補正発明を引用例1に記載の引用発明から容易に想到しうるものと誤って判断
したものというべきである。
【コメント】
本件では、引用発明の技術的課題を詳細に検討した結果、補正発明とは技術思想が異なるか
ら、数値範囲が重複するというだけの理由で補正発明の進歩性を否定することはできない、と認
定した。数値限定範囲が先行技術と重複又は近似する場合の進歩性の主張(反論)において有益
な事例と言える。
以上
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