関西情報化実態調査 (平成18年度 日本自転車振興会補助事業) 布施 匡章(調査グループ) 関西地域の各分野における情報化の実態を把握し、課題を整理することによって、関西 地域の情報化振興に寄与することを目標として、平成17年度から3ヵ年計画で調査を実施 している。平成18年度は、昨年度の調査範囲である企業・自治体のIT利活用と情報セキュ リティ対策に加えて、政府の提唱する「IT新改革戦略」で重要項目と位置付けられた医療 分野、教育分野の情報化と、関西のIT産業の動向についても調査範囲とし、より広範で詳 細な調査を行った。 その結果、企業・自治体に比べて、教育・医療分野ではIT利活用は進んでおらず、また、 すべての部門においてコンプライアンス対応が今後の課題であることが確認された。 1.調査の概要 らも抽出し、併せて18社のヒアリング調査を行った。 (1) 企業・自治体に対するアンケート調査 上場企業、中小企業、自治体に対し、IT利活用、 (3) 調査範囲の拡大(医療、教育、IT産業) 今年度は、調査範囲を拡大して、 「IT新改革戦略」 CIO(最高情報責任者)に求められる能力、IT人材 で重要項目と位置付けられた医療分野、教育分野 育成、大規模災害時の業務継続対策、情報セキュ の情報化と、関西のIT産業の動向調査について調 リティ対策等に関するアンケート調査を実施した。 査した。 (表1参照) 教育分野の情報化について、コンピュータの設 置状況等を把握する「学校における教育の情報化 表1 アンケート回収実績 送付件数 回収件数 の実態等に関する調査」 (文部科学省、平成17年度) 回収率(昨年度) では、関西2府5県は下位に位置している。その 上場企業 734 96 13. 1%(11. 2%) 一方で環境整備は十分でないものの、授業等での 自 治 体 260 112 43. 1%(43. 9%) 活用は、西高東低とも言われている。それらを踏 中小企業 3896 709 18. 2%(20. 0%) 総 数 4890 907 18. 5%(19. 9%) (2) ヒアリング調査 上場企業と自治体については、アンケート結果 まえ、環境整備が充実していない中でも、学校現 場の授業等で実践的に活用している事例を取り上 げ、導入・活用に際しての目的意識、効果、課題、 将来展望等についてヒアリング調査を行い、教育 の情報化の促進への参考とした。 より、設問項目中、特徴的な取り組みのみられた 医療分野については、地域・広域での医療情報 それぞれ5社、5団体を抽出し、ヒアリング調査 のネットワーク活用に焦点を当て、先進的な取り を行った。 組みを行う病院の関係者に対してヒアリング調査 中小企業に関しては、アンケート結果より、積 極的にIT導入を図り問題意識の高い企業を抽出し、 を行い、医療情報化の進展状況ならびに情報化が 遅れている要因を調べた。 選定を行った。また、業種の偏りを考慮して、IT 関西のIT産業の動向調査としては、統計データ 化による経営革新支援事業採択企業や文献調査か から関西のIT産業の現状を把握するとともに高速 1 電力線通信(PLC)、ゲームソフト産業、放送と通 材流動化、人員整理)の点では、図2のとおり今 信の融合、ICカードビジネスといった関西に特徴 年度調査においてもIT以外で実現しているとの回 のあるハード系、ソフト系IT産業関連団体に対する 答が多く、達成度が低いという結果が得られた。 ヒアリング調査によって把握し、将来展望を行った。 経営手法・経営スタイル 100. 0% 2.企業と自治体の情報化 I T投資効果分析 60. 0% 企業と自治体の情報化を比較するために、IT利活用 組織形態 上場企業ステージ3 40. 0% の進展度合いを測る指標として、平成15年に経済産業 省が発表した評価指標「IT利活用ステージ」を用いて 80. 0% システム利用スキル 20. 0% 上場企業ステージ2 人材 0. 0% (図1) 、企業のIT利活用段階を初期段階から共同体最 上場企業ステージ1 適化状態までのステージ1∼4に分類し、ステージご I T部門の体制 情報共有 との利活用の状況をチャートに示し、分析した。自治 体版IT利活用ステージは、主に自治体経営という視点 変化への対応・BPR 取引関係 により作成しており、評価項目は企業版と同じく「組 織形態」、「人材、評価制度」等とし、企業における 「顧客」を自治体では「住民」と読み替えた。 図2 ステージごとの平均点分布(上場企業) また、業種別で見ると、流通業のIT利活用ステ ージが低く、IT投資による効率化は、間接部門人 員の減少、トラブル発生率の減少、情報伝達の速 度、情報共有という面で効果があったとの回答が 得られた。 上場企業ヒアリング調査からは、基幹システム にERP*を導入した事例があり、いずれも、基幹業 務の全体最適と効率化が進んだと評価した回答が 得られた。同時に、業務フローの刷新が行われて 出所:経済産業省「CIOの機能と実践に関するベストプラクティス懇 談会」報告書(H18.12) 。但し数値は経済産業省「企業のIT化ステー ジとITガバナンスに関する企業動向調査(H18.3)より 図1 IT利活用ステージイメージ (1) 上場企業 1)IT利活用 今年度の上場企業アンケートからIT利活用ステ ージを見たところ、経営資源の選択と集中のため にITを活用しているという回答が昨年度に比べて いるが、移行に際しては全社横断的プロジェクト を立ち上げ、トップの指揮の下によって進められて いる。 一方で、営業面や人事面でのIT活用に関しては まだ取り組みが少なく、必要性もあまり無いとの 認識がなされていた。 2)CIO CIOについては、図3のアンケート結果より、特 増えている。その結果、 「経営手法・経営スタイル」 に求められる能力としては、 「組織の仕組みに対す の項目が伸びている。上場企業では昨年度調査に る知識と戦略立案能力(79.8%)」、「情報化戦略立 おいてもITを活用して効率的な経営を目指す姿勢 案能力(78.6%)」、「情報セキュリティと情報保全 が窺えたが、今年度調査によってさらに裏付けら に関する知識(69.0%)」といった項目であること れた。一方で、人材(人材評価への取組状況、人 が分かり、このうち「情報化戦略立案能力」が、 *ERP(enterprise resource planning)財務や人事・顧客情報などの企業の業務をサポートするシステム 2 求められている能力の中では実現度が低かった。 情報セキュリティ対策の方針や目的としては、 「リスクマネジメントの一環(90.3%)」 、 「社会的責 (44.1%) CIO機能実現度(多くの能力・機能を有している 任を果たすため(69.9%)」という回答が多く、担 かどうか)とIT利活用ステージの関係を見ると、 当責任者としても「総務部門の責任者(16.3%)」と 実現度が高いCIOのいる企業ほどステージも高いと いう回答が最も多かった。 いう結果であり、関係性が窺えた。また、上記の 情報セキュリティ教育に関しては、7割弱の企業 CIOに求められる能力とIT利活用ステージ間との関 で行われていたが、その一方で行われていない企 係からは、ステージ1からステージ2にステップ 業が3割程度存在し、その理由は他の業務で多忙で アップする際にCIOの存在・能力が大きくかかわっ あるため(61.3%)であり、社会的責任の意識の高 ているのではないかという結果が得られた。 (図2) さと実態には差があることが分かった。 ヒアリング調査結果からは、CIOに相当する立場 ヒアリング調査からは、大規模災害時の業務継 の人物は、管理本部や財務等の責任者を兼務して 続対策として、個別のデータバックアップ体制や いる役員が多かった。求められる能力としては、 相互補完といった対策はとっているが、現在はい アンケート調査同様に、経営戦略に基づく指示・ ずれも個別対策のレベルであり、危機管理体制の 指導ということであった。IT技術の専門的な知識 体系的な構築までは至っていないとの回答が得ら に関しては、それほど重視されていない。先進事 れた。 例においては、CIOは社内でのコミュニケーション 現在多くの企業では、J-SOX法への対応に向けて に積極的で、周囲のスタッフとの問題意識の共有 BCP(事業継続計画)や情報セキュリティ対策に が十分になされていた。 とどまらず、IT全般統制の規定を策定中であり、 3)大規模災害時における業務継続対策と情報セキ 包括的に体系化されると思われる。内部統制の観 ュリティ対策 点から、CIOの役割はさらに重要となることが予想 大規模災害時の防災計画、従業員の行動マニュ される。 アルの策定状況は40%弱と進んでおらず、ITの視 点からのガイドライン策定が行われている企業は、 (2) 中小企業 そのうち42%止まりであった。一方で、CIOの機能 1)IT利活用 実現度と策定状況には関係があるとの結果を得た。 ITを業務に活かしていると回答した中小企業は 図3 CIOの人物像(上場企業) 3 81.4%であり、昨年度の75%を上回る結果になった。 と推測される。その一方で、人口規模が大きくな 活用業務としては、「会計・経理処理」、「ホームペ るに連れてステージ3の割合も高くなるという結 ージ」、「売上高管理等」といった業務が多い。ま 果であった。IT利活用の特徴としては、広域行政 た、活用されない理由としては、昨年同様に人材 への対応や住民とのパートナーシップといった項 不足という回答が多く、中小企業におけるIT導入 目の達成度が高く、住民サービスの点で優先的に の課題となっている。 ITを活用していることが窺えた。 先進事例に対するヒアリング調査結果からは、 効率的なIT投資によって効率化が図られたのは、 人材不足が課題である一方で、人的対応をITで解 間接部門人員の減少、トラブル発生率の減少、情 決している企業が多くあった。 報伝達の速度、情報共有であった。 2)CIO ヒアリング調査からは、庁内の情報化として、 CIO(相当役)については、27.2%の中小企業が 電子決裁の導入による組織のフラット化や、グル いるという結果であった。従業員規模別では、従 ープウェア導入による情報の共有が進展している 業員が多い企業は概ねCIO設置率も高いという結果 ことが分かった。行政サービス面では、窓口支援 となった。IT教育に関しては、多くの企業がOJT的 システムや市民意見の聴取、地域イントラネット な育成を行っているが、CIOがいる企業の方が社内 といった方策が採られており、アンケート結果か での講習会や外部機関への派遣を行っているとい ら窺えた住民サービスに対するIT利活用を裏付け う結果であった。 る結果となった。 ヒアリング調査からも、経営者のリーダーシッ プこそが情報化推進には欠かせない等、経営判断 の重要性や社長の牽引力に対する意見が得られた。 経営手法・経営スタイル 100. 0% I T投資効果分析 組織形態 60. 0% 3)大規模災害時における業務継続対策と情報セキ 40. 0% ュリティ対策 大規模災害時の業務継続対策は、2割弱の策定 80. 0% システム利用スキル 20. 0% 自治体ステージ3 自治体ステージ2 人材 0. 0% 率で、策定しない理由としては、「現在のところ、 自治体ステージ1 特に問題ない」(40.4%)となっており、中小企業に I T部門の体制 情報共有 おいてはまだまだ意識が低いという実状であった。 こちらも、CIOがいる企業の方が対策率は高いとい 変化への対応・BPR 取引関係 う結果であった。 また、情報セキュリティ対策の充実度に関して も、CIOがいる企業の方が全般的に高いという結果 図4 ステージごとの平均点分布(自治体) 2)CIO であり、中小企業においては、CIOの設置が情報化 CIOについて、特に求められる能力として、上場 の課題全般に関係していると言える結果となった。 企業と同じく「組織の仕組みに対する知識と戦略 立 案 能 力 ( 8 1 . 2 % )」、「 情 報 化 戦 略 立 案 能 力 (3) 自治体 1)IT利活用 4 (68.3%) 」 、 「情報セキュリティと情報保全に関する 知識(84.2%) 」といった回答が多く見られた。 (図 今年度の自治体アンケートのIT利活用ステージ 5)しかし、最も必要とされる能力が、「情報セキ を見た結果は、昨年度に比べてステージ1と3の ュリティと情報保全に関する知識」という点が上 団体が減っており、ステージ2の団体が増えてい 場企業とは異なる。また、求められている「情報 る。(図4)これは、市町村合併の影響ではないか 化戦略立案能力」(32.2%)、「情報セキュリティと 図5 CIOの人物像(自治体) 情報保全に冠する知識」(50.8%)の実現度が低い (4) 企業と自治体のIT利活用比較 という結果であった。 CIOに求められる能力の実現度合いとIT利活用ス 経営手法・経営スタイル 80% テージの関係では、特に必要とされる4つの能力 I T投資効果分析 を全て備え持つCIOがいる自治体の方が、IT利活用 ステージは高いという結果であり、有能なCIOの存 組織形態 60% 40% 上場企業平均 システム利用スキル 20% 人材 自治体平均 在と自治体の情報化には関係性が見られた。 0% 3)大規模災害時における業務継続対策と情報セキ ュリティ対策 情報共有 I T部門の体制 大規模災害時時の防災計画と職員の行動マニュ 変化への対応・BPR 取引関係 アルについて、全庁を対象としたマニュアルを策 定済みであるとの回答が、それぞれ8割超、7割 弱であり、高い達成率であった。しかしながら、 ITの視点から立てられたガイドラインはまだ少な 経営手法・経営スタイル 80% I T投資効果分析 60% 上場企業平均 自治体平均 40% いという結果であった。 情報セキュリティ対策については、推進体制と システム利用スキル 組織形態 20% 人材 0% しては「情報システム部門(56.4%) 」が最も多く、 担当責任者も「情報戦略最高責任者(33.6%)」が I T部門の体制 情報共有 最も多い回答であった。 情報セキュリティ教育については、実施してい 変化への対応・BPR 取引関係 る自治体は8割弱であり、自治体の人口規模とは 関係なく実施されているという結果であった。 図6 IT利活用ステージ平均点チャート(上は昨年度) ヒアリング調査結果から、神戸市では、大規模 上場企業は昨年度に比べて「経営手法・経営ス 災害時業務継続対策として、実践的なレベルで危 タイル」の達成率が上昇した。これは、上場企業 機管理・災害防災システムに取り組んでいること が自社独自の戦略打ち出しや経営資源の選択と集 がわかった。 中といった事項に関して、ITによる解決が進んだ ことを示している。 5 その一方で自治体は、昨年度に比べて「IT投資 効果分析(IT投資目的の明確化、IT投資評価の明 的には本人のモラルに任せることとしている。 教員への情報セキュリティ、情報モラル教育に 確化) 」の達成度が高くなったという結果になった。 ついてはグループウェアのコンテンツを利用する これは、自治体においてIT投資目的や評価の明確 など内規を策定したところもあるが、文書や研修 化という、経営的な指標を打ち出す施策が出てき で対応しているのが一般的であり、教育現場にお たことを表している。 いては情報セキュリティ対策とモラル向上のため の教育が今後の大きな課題である。 3.教育分野の情報化 授業におけるITの活用に視点をおき、先進事例にお 4.医療分野の情報化 けるヒアリング調査を実施した。IT活用における教育 欧米と比べて遅れている情報共有に着眼し、特に医 委員会の考え方や学校現場において実践的に活用して 療情報の地域・広域ネットワーク構築に取り組んでい いる事例等を取り上げ、導入や活用に際しての効果、 る病院へのヒアリングを実施した。 課題、将来展望等を考察した。 (1) 学習における利活用 学習におけるIT利活用は、今回の調査の中で、 (1) 院内の情報化 院内の情報システム構築には、業務システムの 見直しや情報に通じた人材の確保が必要となるた 関西は全国的に見て進んでいるという意見も聞か め、横断的な組織作り、IT人材の育成を行いなが れた。関西のいくつかの自治体では、教育委員会 らの慎重な導入が行われた点が成功に繋がったと が中心となって学校間をつなぐネットワークを構 の回答であった。また、電子カルテの導入により 築しており、個々の学校が持つネットワークのフ 一気にペーパーレス化するのではなく、紙媒体も ォローをはじめ、教員教育を実施する際など、学 残し、医療現場が望む情報化を行っている。 習への活用を促進している。また、私学において も、「私学情報ネットワーク」において、会員の教 課題はやはり人材不足であり、医療と情報の両 面を理解する人材育成が急務となっている。 員が定期的に集まりキャラバンでITを活用した授 業等を公開し、研究を重ねている。 (2) 地域・広域の医療情報ネットワーク 地域医療情報ネットワーク構築の課題としては、 (2) 校務におけるIT活用 教職員ネットワークでは、グループウェアを利 技術的には問題無く、病院間、関係者間において 共有すべき情報についてコンセンサスを形成する 用してスケジュール、メール、掲示板、施設予約 ことこそが重要だという回答が得られた。また、 等の管理を行っており、職員の利用率も高い。中 広域ネットワークでは、ベンダー毎に異なる各種 でも掲示板の利用は、朝の連絡等に要していた時 医療コードの処理が課題となり、財団法人日本医 間がカットされる等の利点もあり、好評である。 療ネットワーク協会による実験では、既存コード を活かしながら病院ごとで変換・翻訳システムを (3) 情報セキュリティ対策 導入することによる解決を図っている。 文部科学省においても今後の課題とされている 分野であるが、情報セキュリティ対策としては、 個人情報保護の観点から、ハード面の対策として、 6 5.関西のIT産業の動向 統計資料によれば、関西地域は全体の経済規模に比 外部と切り離されたイントラネットを構築し、持 べてIT産業のウェイトが全国比よりもやや低いが、京 ち込みPCの接続ができないシステムを採用したと 都府を中心にゲーム産業の集積が見られる。今年度調 ころもあるが、仕事の持ち帰り等の都合上、最終 査では、関西に特徴のあるハード系・ソフト系IT産業 の現状について、ヒアリング調査によって把握を行っ ード化に関しては関西が先行している。 た。対象は高速電力線通信(PLC)、ゲームソフト産 「PiTaPa」の特長は、ポストペイ方式であり、プ 業、放送と通信の融合、ICカードビジネス等である。 リペイド方式の課題であるチャージや乗り越し清 以下にその内容を抜粋する。 算が不要である。また、駅以外の店舗での買い物 (1) PLC技術 や支払いにも対応しており、顧客の要望の解決に 高速電力線通信は、有力な家電メーカーの多く 努めている。関西の厳しい顧客ニーズに応えられ が関西に本社を置いていることもあり、早くから たことで、顧客満足度の最も高いICカードとして 家庭内ネットワークとして構想された。技術レベ 注目されている。 ルの向上を受けて平成18年10月に、PLCの屋内で の実用化が解禁された。 現在では家庭内無線LANの普及もあり、PLCを 万能視するのではなく、ソリューションのひとつ として利用していけばよいという考えがある。将 「PiTaPa」を運営するスルッとKANSAI協議会で は、今後さらに自動販売機、駐車・駐輪場精算機、 タクシーの運賃支払い等への対応を検討中であり、 「PiTaPa」が、生活必需品として位置付けられるこ とを目標としている。 来的には過疎地など光ファイバー敷設の難しい地 域におけるブロードバンド技術として寄与するこ とも考えられる。 6.平成19年度調査と関西情報化白書(仮称) の発刊について 「関西情報化実態調査」では、これまでの2年間に (2) ゲーム産業 ソフト系IT産業の多くが東京に集中する中で、 アンケートとヒアリングによる調査を実施し、近畿圏 の情報化の実態を幅広く捉えてきた。特に今年度調査 ゲームソフト産業は比較的関西に高いシェアがあ では、調査範囲を拡大した結果、各分野に共通して、 る。また、ゲームソフトは売上額の5割近くが輸 コンプライアンスへの対応が課題として認識されてい 出に依るものであり、経済産業省においても、ゲ ることが明らかとなった。これを受けて、平成19年度 ームは国内コンテンツ産業で最大の輸出産業であ は、「内部統制」をキーワードに、さらに詳細な調査 るとの認識がなされている。 を進める予定である。 ヒアリング調査では、世界的なゲーム市場は更 当財団では、平成19年度までの3年間の調査をとり に伸びる見通しであるが、日本のゲームソフト産 まとめ、「関西情報化白書(仮称)」の刊行を予定して 業が今後も世界市場をリードし続けるためには、 いる。情報化を推進する利用者に、現状認識と課題克 人材育成、ゲームの文化的価値の向上こそが必要 服に繋がる資料となり、関西地域の情報化の指針とな であるとの意見が聞かれた。特にゲームの文化的 ることを目指している。 価値に関しては、国内と海外の価値認識の開きが 大きい。ゲーム産業の育成については、業界とし て、ゲームミュージアムとも言うべき、文化性の 高い恒常的な施設整備等に力を入れたいとの意見 であった。 業務経歴 (3) 交通におけるICカード 平成19年3月に「PASMO」の導入によって東京 で注目されたが、関西では平成16年の「PiTaPa」 の導入時に既に実現しており、都市交通の共通カ 布施 匡章(調査グループ 研究員) ・関西情報化実態調査(2005∼) ・地域再生計画認定制度等の事後評価に関する調査(2005) ・地域の人材形成と地域再生に関する調査研究(2006) ・ニュータウン再生を支える地域コミュニティ創生に関する調査研究(2006) 7 「関西情報化実態調査」より 関西のIT産業の動向 (平成18年度 日本自転車振興会補助事業) 橋本 恵子(調査グループ) 関西のIT産業は全体の経済規模に比べ、全国に占めるウエイトが低い。中でもハード系 に比べてソフト系のウエイトが低い。その中にあって、ゲームソフトは関西が高い全国シ ェアを持つ。ゲームソフトはコンテンツ産業の中で最大の輸出産業であり、日本が世界市 場をリードする数少ないソフト産業である。日本のソフトパワーを海外に発信する要素と しても関西のIT産業振興戦略上で活かすべき特性である。 (本稿は「関西情報化実態調査2006」の一部を構成するものである。 ) 1.関西のIT産業 (1) IT産業の域内総生産(GRP) 平成12年の関西のIT産業の域内総生産(GRP)は、5.3兆円で全国の16.0%を占める。これは、全産業のG RP83.3兆円の対全国比17.1%よりやや低い。 (表1) 表1 IT産業の域内総生産 表2 IT産業の民営事業所の事業所数、従業者数 (2) IT産業の事業所数、従業者数 平成16年の関西のIT産業の事業所数、 従業者数の対全国比は14.9%、13.6%で、全 産業の対全国比17.5%、16.8%をやや下回る。 (表2) (3) ハード系のIT産業 1)部品・デバイスのIT産業 平成16年の関西の部品・デバイスのIT 産業の製造品出荷額等は、3兆1592億円で 8 全国の 14.1%を占める。これは、製造業全体の製造品出荷額等の全国シェア16.3%を下回る。細分類業種では関 西は、半導体素子製造業、コネクタ・スイッチ・リレー製造業等で20%以上の高い全国シェアを持つ。 (表3) 表3 部品・デバイスのIT産業の事業所数、従業者数、製造品出荷額等 電子部品・デバイス製造業の製造品出荷額等の全国シェアは、関西では兵庫県が3.5%で最も高い。全国的に は、三重県、長野県、東京都が5%以上の高い値を占める。 (図1) 出所:平成16年工業統計 図1 電子部品・デバイス製造業 構成比 2)製品のIT産業 平成16年の関西の製品のIT産業の製造品出荷額等は、2兆9167億円(秘匿を除く)で全国の14.1%を占める。こ れは、部品・デバイスのIT産業と同様の全国シェアとなり、製造業全体の製造品出荷額等の全国シェアを下回 る。細分類業種では、情報記録物、医療用計測器、事務用機器、無線通信機器、ビデオ機器等の全国シェアが高 い。これらには関西に集積のある医療医薬品分野や情報家電分野の製品が含まれる。 (表4) 情報通信機械器具製造業の製造品出荷額等の全国シェアは、関西では大阪府の4.9%、次いで兵庫県の4.8%が 高い。全国的には、東京都、栃木県、長野県、埼玉県が7%以上の高い値を示す。 (図2) 9 表4 製品のIT産業の事業所数、従業者数、製造品出荷額等 出所:平成16年工業統計 図2 情報通信機械器具製造業 構成比 (4) ソフト系のIT産業 1)情報サービス業 平成17年の関西の情報サービス業の年間売上額は、1兆3716億円で全国の9.4%を占める。これは、事業所数 930の全国シェア13.5%に比べ低く、事業所規模が相対的に小さいことが窺える。経年変化をみても、関西の年 間売上げ額シェアは、平成9年の13.1%から平成17年の9.4%へとほぼ一貫して低下している。しかしその中にあ って、業務種別年間売上額をみると、関西は、ゲームソフトで36.3%と高い全国シェアを持つ。ゲームソフトは 我が国が世界市場をリードする数少ないソフト産業の1つであり、関西にその高いシェアがあることは、関西の IT産業振興戦略を探る上でのヒントとなるものである(表5) 。 情報サービス業の立地は、東京都に集中している。かつ東京都は、事業所数、就業者数に比べ、売上高のシェアが 高く(62.2%)、規模の大きな事業所が多いことが窺える。関西で最も高いシェアは、大阪府の6.3%に留まる。(図3) 10 表5 情報サービス業の事業所数及び業務種類別年間売上高 出所:平成17年特定サービス産業実態調査 図3 情報サービス業 構成比 2)放送業 2005年度のNHK大阪放送局の、総放送時間の中で自局編成番組が占める割合は21.2%である(表6) 。2005年4 月の1週間における在阪民間放送局の、総放送時間の中で自社制作番組が占める割合は、系列によって違いはあ るものの、テレビ大阪を除き概ね30%前後である。関西の民間放送局の自社制作の割合は、NHKの自局編成よ りが高いが、中部圏と比較してもその差は更に大きい(表7) 。 表6 NHKアナログ総合テレビの放送時間 11 通信と放送の融合が進みIPマルチキャストによる再送信が行われると、県域免許制は制度的に無くなるとは言 えないが、技術的には意味を持たなくなる。地域放送と全国放送のベストミックスを図りながら、地域からの情 報発信の自立性を確保していくことが重要になる。 表7 民放テレビ放送時間 出所:日本民間放送年鑑2005 2.ゲーム産業 (1) 世界のゲーム市場 日本が世界市場をリードし、関西が高いシェアを持つゲーム産業を概観すると、世界のゲームソフト市場は2 兆3000億円で、これは国内の民間放送や新聞業の市場規模に匹敵する(表8) 。北米が4割、欧州が3割強、日本 が2割弱を占め、近年中国の、また将来はインドの急拡大が注目、予想される。韓国はオンラインゲーム分野で 生産者としても存在を高めている。ハードは、据置き型機種ではこれまでソニー・コンピュータエンタテインメ ント(SCE)のPS2が世界で高いシェアを占めていたが、2006年に、SCE、任天堂、マイクロソフトの3大メーカー の次世代機が出揃い、新たな世界商戦に突入したところである。 (表9、表10) 表8 世界のゲームソフト市場 表9 機種別ハード累計販売台数 12 表10 次世代機累計販売台数 (2) 国内のゲーム市場とゲーム産業の現状 国内のゲーム市場は、少子化などの影響から縮小して きており、国内メーカーは海外市場に注力している(図 4)。しかし欧米を中心に拡大する海外市場を取り込みき れておらず、かつては世界市場を席巻していた日本製ゲ ームソフトの国際シェアは低下している。 (図5) とはいえ、日本のゲーム産業の優れた人材と技術力は世界的 に高い評価を受けており、これまで、AIAS(米国のインタラク ティブ・エンタテインメント産業の企業やアーティストの 出所:CESAゲーム白書2006 図4 ゲームの国内市場規模と日本製品の出荷額の推移 NPO)のビデオゲーム開発者殿堂には、宮本茂(98年)、坂口博 信(00年)、鈴木裕(03年)の3氏が、またIGDA(ゲーム開発者を対 象とした国際NPO)のゲームディベロッパーズ・チョイス・ア ワードには、中祐司(02年)、松浦雅也(03年)、横井軍平(04年)、 宮本茂(07年)の4氏が選定されている。宮本氏(任天堂専務)は、 TIME誌「世界で最も影響力のある100人」に、日本人としては、 渡辺捷昭トヨタ社長と共に選ばれたのも最近のニュースであ る。作品においても、AIASのGame of the Year 2006にはSCE America のGod of Warが、また、IGDAのBest Game 2006には 出所:IDG Report(CAPCOM Company profile May-2006)とCESAゲーム白書2006に基づき作成 図5 世界のゲームソフト市場と日本製ソフトのシェアの推移 SCEの「ワンダと巨像」が選ばれている。さらにゲームソフトは、 コンテンツ産業の中で最大の輸出産業でもあり、日本のソフト パワーを海外に向けて発信する重要な要素である。(図6) (3) ゲーム産業の課題と戦略 マイクロソフトのXbox360、ソニーのPS3、任天堂のWii と次世代機が出揃った現在、市場は更に伸びる見通しで ある。その中で、日本のゲームソフト産業が今後も世界 市場をリードし続けるためには、①人材の育成と②ゲー 出所:情報通信白書平成18年版より引用 図6 コンテンツ別貿易収支(2004年) ムの文化的価値の向上が必要である。特に②は、ゲームの国内と海外の価値認識の開きが大きいことからも重要である。 先述のように海外では高い評価を受けている日本のゲーム産業であるが、国内評価は、有害図書に指定された り、ゲームが人間の脳に悪影響を与えるという主張(ゲーム脳)があったり、必ずしも芳しいものではない。ゲー ムの文化的価値を向上させ社会的認識の改善を図ることが重要で、「ゲーム産業戦略∼ゲーム産業の発展と未来 像 06年8月経済産業省」の中で開発戦略、ビジネス戦略と並んでコミュニケーション戦略(社会とのコミュニケ ーションの強化)が挙げられているのは同じ趣旨であろう。 その方策としてゲームミュージアムの創設を、あるゲームソフトの中核企業が提案している。文化性の高い恒 常的な施設、共通文化体験としてゲームを共に楽しめる 業務経歴 オープンな空間の整備は良いアイデアでないだろうか。 橋本 恵子(調査グループ 主席研究員) 京都国際マンガミュージアムやジブリ美術館の先例もあ ・関西・日系企業のアジア国内市場に向けたビジネス るように、そのような施設は集客力の面においても高い 貢献が期待できるものである。 展開に関する調査(2006∼) ・地域資料に関する調査(2006) ・関西をめぐる物流の現状と課題に関する調査(2005) 13 「関西CIOコンファレンス」の実施について 山岸 隆男(調査グループ) 企業等において、全体最適の視点から情報化を推進する際のキーマンであるCIO(最高 情報責任者:Chief Information Officer)の普及と育成を目的として、 「関西CIOコンファレ ンス」を開催した。概要について報告すると共に、今後の実施計画案について紹介する。 1.CIOの役割とCIOの育成の必要性 企業、行政をはじめとする様々な組織で、ITを活 を育成する場の提供が望まれている。 また、経済産業省の「CIOの機能と実践に関する 用した業務の効率化が幅広く行われており、ITをう ベストプラクティス懇談会」報告書(平成17年12月) まく利活用できるか否かが組織の経営に非常に大きな によれば、CIOに必要な機能(役割)として、下記 影響を与えている。 の7つの項目が提示されている。 CIOは、「組織において情報管理、情報システム の統括を含む戦略の立案と執行を主たる任務とする役 「CIOに必要な取り組み7項目」 員であり、変革のリーダー」と定義され(国際CIO 1.「IT戦略ビジョンの策定」と経営層の支援獲得 学会)、CIOには、経営的な全社俯瞰的な視点とI 2.現状の可視化による業務改革の推進とITに Tに関する専門的な見識や、経営者を含む利害関係者 に対するコミュニケーション能力などが要求される。 よる最適化の実現 3.安定的なIT構造(アーキテクチャ)の構築 (社)日本情報システム・ユーザー協会の国内CI 4.ITマネジメント体制の確立 O実態調査報告書(平成18年3月)のアンケート調 5.IT投資の客観的評価の実践 査結果によると「全社的リーダーシップ」 、 「経営トッ 6.IT人材の育成・活用 プへの説明・調整」 、 「本業に関する知識・理解」 、 「リ 7.情報セキュリティ対策・情報管理の強化 スク感知力・判断力」が特にCIOに必要とされる能力 となっている。 出所:経済産業省「CIOの機能と実践に関するベストプラクティス懇談会」報告書 また、当財団が実施した「関西情報化実態調査2006」 のアンケート調査結果によれば、「組織の仕組みに対 する知識と戦略立案能力」、「情報化戦略立案能力」、 「情報セキュリティと情報保全に関する知識」がCI 2. 「関西CIOコンファレンス」の開催とテーマ ITガバナンスの視点から経営を担うCIOの選任 率が、全国レベル(42.6%:「国内CIO実態調査」 Oに強く求められている能力であるにもかかわらず、 2005年9月)に比べて関西地域では下回っている 実現できていないという実態が明らかになった。これ (30%:「関西情報化実態調査2005」 )ことに鑑み、関 らの能力を兼ね備えた人物は限られており、CIOの 西地域のCIOの育成を目的として、「関西CIOコ 人材育成を実践している組織もまれである。結果的に、 ンファレンス」を開催することとした。 財務経験者やIT部門長などがCIOになっているケ コンファレンスの各回の開催テーマの選定にあたっ ースが多いが、期待通りの能力を発揮できるとは限ら ては、図1のIT戦略のマネジメントサイクルを想定 ないため、組織のITガバナンスの維持が難しい。こ して、経済産業省の懇談会で示された上記7項目の中 のような状況から、CIOとしての能力を有する人材 から特に対応が課題とされる3つのテーマ(①「IT 14 表1 「関西CIOコンファレンス」の開催内容 戦略ビジョンの策定」と経営層の支援獲得(経営戦略 ポジウム「インフォテック2006」(当財団主催)を通 におけるCIOの役割)、②現状の可視化による業務 じて実施した。 改革の推進とITによる最適化の実現、③IT投資の 客観的評価の実践)を取り上げ、表1の通り実践した。 ・記念講演「情報セキュリティ強化のためのCIO (最高情報責任者)の役割」喜入 博氏 各テーマの講師については、その分野の第一線で活 (KPGビジネスアシュアランス㈱ 常勤顧問) 躍されている企業等の実践者に依頼した。また、コン ・第3回「関西CIOコンファレンス」はITシン ファレンスは、講話(基調講話とIT先進企業の具体 ポジウムの一環としての実施 的な事例紹介)とワークショップで構成し、参加者の 理解が深められるように配慮した。参加の対象は今後 CIOを目指す方々とした。 また、CIOに関する普及活動としては、ITシン 3.CIOコンファレンスの講話から得られた 知見 IT化の前提として、現状の業務プロセスを明確化 (可視化)して、プロセスを改善した上でIT化を進 めることが特に重要であると考えられるため、業務の 可視化をテーマとしたCIOコンファレンスを2回 (第2回及び第3回)に亘り開催した。また、第3回 の参加者対象アンケートの調査結果でも最も関心の高 いテーマであった。 (表2参照) 計4回のコンファレンスを通じて得られた知見の中 から、「現状の可視化による業務改革の推進とITに よる最適化の実現」に関し、特にポイントとなるもの を次ページに紹介する。 表2 第3回「関西CIOコンファレンス」参加者アンケート CIOの取組みへの関心事項 回答数 現状の可視化による業務改革の推進とITによる最適化の実現 21 図1 IT戦略のマネジメントサイクルと「関西CIOコンファレンス」のテーマ IT人材の育成・活用 18 「IT戦略ビジョンの策定」と経営層の支援獲得 12 情報セキュリティ対策・情報管理の強化 10 ITマネジメント体制の確立 8 IT投資の客観的評価の実践 8 CIOの育成のための教育(追加した項目) 7 安定的IT構造(アーキテクチャー)の構築 4 15 業務の可視化のポイント Oを目指す方々)、経営的視点を踏まえた議論がし ●可視化の視点:まず何が起こっているのかという視点 にくいというのが現状であった。そこで図2のと で可視化することが解決の近道である。 ●可視化の程度:現状の問題は複雑に事情がからみあっ ていることが多いので複雑なままに可視化するのでは なく、何が問題であるのか見えるところまで因数分解 おり従来からの参加者に加え、経営的視点を有す るIT先進中小企業の経営者(テーマに応じて人 選)にも参加していただくことを想定している。 して可視化すると問題が解決しやすくなる。 ●経営指標:経営に関する色々な指標を数値化すること (平成18年度) (平成19年度:期待される姿) も可視化の一つである。 ●組織の陋習・弊習の改善:可視化は日本の情報隠蔽型 経営 IT 経営 IT 組織活動の陋習・弊習を改善する手段となりえる。 ●可視化の目的:可視化の目的を明確にしなければなら IT中心 経営的視点でITを視る ない。例えば無駄やリスクの所在を見つけることを目 的として業務プロセスを可視化したり、コスト削減を 目的としてコスト構造を可視化するなど。 ●経営リスク:業務プロセスが見えないことは、経営リ スクを背負うことになる。 図2 「関西CIOコンファレンス」の課題と改善 (2) CIOコンファレンスで取り扱うテーマと会議の姿 平成18年度のテーマは、経済産業省の懇談会に 提示されたCIOに求められる7つの項目から選 ●コミュニケーション:組織が共有できる共通言語を用 定したが、やや抽象的であったため、ワークショ いて分かりやすく可視化すると問題解決に向けた議論 ップの場でも質疑応答が中心で、議論の場となり ができる。 ●情報セキュリティの可視化:情報面での不安全行動を 具体的に例示(可視化)したり、マネジメントを周知 徹底するために文書化(可視化)することなどがある。 ●日本版SOX法(企業改革法):内部統制の本質は、 可視化(文書化)して管理することにある。 にくい面があった。 そこで、平成19年度は、各企業が直面している 具体的な課題(例えば日本版SOX法対応)をテ ーマとして取り上げ、ワークショップでは、双方 向の議論が出ることを期待している。現在、参加 者に興味を持っていただける具体的な課題につい て調査を進めているところです。 4.平成19年度のCIOコンファレンス計画 (課題と改善) 本格的なCIOコンファレンスは、関西で初めてと いうこともあり、「関西CIOコンファレンス」のワ 「関西CIOコンファレンス」が、今後CIOを 目指す方々の能力向上や課題解決に少しでもお役 に立てれば幸いです。 ークショップでは、時間一杯まで活発な質疑が交わさ れ、関係者からも概ね好評を得られた。平成19年度は、 ITシンポジウム「インフォテック2007」等を通じて CIOの普及を図るとともに、CIOを目指す方々の 育成を更に強化するため、具体的な課題解決の意見交 流の場にすべく計画しています。 (1) CIOの役割とCIOコンファレンスの参加者 CIOには、経営的視点でITを見ることが求 16 業務経歴 山岸 隆男(調査グループ 主席研究員) ・国際観光戦略の研究(2006) められているが、実際にCIOを目指し参加され ・関西CIOコンファレンスの開催(2006) る方は企業のIT部門の部課長が多く(今後CI ・関西情報化実態調査〔医療情報部門〕 (2006) 個人情報保護ゲートウェイの調査研究 (平成18年度 日本自転車振興会補助事業) 坊農 豊彦(情報化推進グループ) 「個人情報の保護」と「プライバシー」の関係について『自己情報コントロール』とい う観点から調査した。どうすれば「個人情報」を自己管理のもとで実現できるのか、調査 結果とそれに基づいて具体的なシステム・プロトタイプを作成した結果を報告する。 1.自己情報コントロール権 心がなく、特別な警戒を抱いていないのが現状である。 21世紀に入り、情報通信技術が飛躍的に発展するに 本研究では、相手に提供した個人情報に対して積極 つれて短時間に大量の個人情報を収集・蓄積が行える 的に個人情報の権利を保障する、すなわち守らなけれ ようになった。しかし、情報通信の利便性が向上する ばならない個人情報は、組織に委ね管理させるのでは 一方で個人情報の漏えい事件が発生しており、プライ なく、「個人情報の主体は自己にある」と定義して、 バシー侵害の問題として社会的不安の要因となっている。 自己で個人情報をコントロールして、自ら個人情報保 従来、プライバシーとは「ひとりにしてもらいたい 護するために、どのようなシステム環境を構築すると 権利」というかたちで議論され、「個人の自由な活動 空間を保護」する消極的な個人情報の権利保障であった。 情報社会では、日常コンピュータによって、潜在的 実現可能なのか調査研究を行い、報告するものである。 (1) 個人情報保護法の課題 わが国では、個人情報保護法(平成15年5月30日、 に自分の知らないところで個人情報が取り扱われて、 個人情報の保護に関する法律第57号)によって、情 プライバシーを侵害される危険性が非常に高くなって 報主体者が情報保有者へ開示請求すれば個人情報 いる。たとえば、国や地方公共団体が、われわれから個 の取り扱いを確認できるようになったものの、十 人情報を受け取った後、その個人情報を自由に利用して 分な自己情報コントロール権が守られているわけ よいものであろうか。(図1) ではない。 情報主体者である個人が、どの企業や行政機関 が自らの個人情報に関して、どれだけの情報を保 有しているのかを知る手段を持っていないため、 個人情報の開示請求を行うこと自体が事実上、不 可能である。 一般的に、個人情報の収集時点では、本人の同 意を必要とするのが原則であるが、個人情報保護 法施行前に入手していた個人情報については、ほ 図1 個人情報の流れ 情報通信の利便性が向上するにつれて、情報保有者 とんど制約も機能していないおそれもある。 個人情報保護法施行後でも、個人情報は企業や (組織)の個人情報の管理不足から、様々な情報漏えい 行政機関に大量に保有蓄積されており、もはや、 が訴訟・損害賠償訴訟となり、新たな社会問題に発展 どこにどのような情報が蓄積されているか、どん している。それにも関わらず、個人情報を提供した情 な目的で利用されているかについては、情報主体 報主体者は、直接事件に関与しない限り、まったく関 者が把握できなくなっている。 17 (2) 内部統制の理論 個人情報の保護は、その理念なり手続がコンピュー 情報主体者と情報保有者の関係は、個人情報保 タシステムを構成する情報セキュリティにおいても包 護法等によってプライバシー権が守られているが、 括されるのは当然であるが、プライバシーの保護と情 一旦、情報主体者が個人情報を情報保有者に提供 報セキュリティの関係は、それぞれの独自の領域を持 してしまうと、情報保有者の組織の内部統制での ち、プライバシー保護を取り扱わない情報セキュリテ 取り扱いになる。情報保有者における個人情報保 ィも存在する。 (図2)しかし、企業や行政機関では、 護は、内部統制に基づくものであるから、組織の 個人情報を取り扱わない情報システムが、ほとんど存 権利、組織の意思が使用権限の根拠になっている。 在しないことから、情報セキュリティとプライバシー 一般的に内部統制の観点からプライバシー権を 権の関連性を考察することにした。 保障する概念は考慮されていない。従って、情報 保有者は管理している個人情報の漏えいによる組 織の損失という視点から、「やむを得ず取り組む」 という考えになっている。 情報主体者が企業や行政機関に提供した個人情 報を、ほとんど把握していない一方、情報保有者 が、情報セキュリティ・マネジメントの規定のみ を基にして個人情報の保護に走っているケースもみ られる。 (3) 個人のプライバシー情報を保護する自己情報コ ントロール権 図2 情報セキュリティとプライバシー保護の相関図 (1) 情報主体者の権利代行 情報主体者は、「自己に関する情報がどう利用さ 情報セキュリティを実施するのは、情報の管理 れるかについて知る権利をもつ」ことが重要であ 責任を持つ情報保有者である。個人情報保護を行 る。基本的な考え方としては、情報保有者であっ う場合も、実施するのは情報保有者であり、見方 ても、個人情報を正当な目的なく収集し、閲覧す によれば情報主体者の有するプライバシー権を情 ることを許さない。また、たとえ正当な目的で収 報保有者が「代行」して実現することになる。 集された個人情報であれ、どこで、どのように管 代行者(情報保有者)は、情報主体者のプライバシ 理され、どういう目的で利用されているのか、誰 ー権が含まれる個人情報の使用権限を情報主体者 に提供されているか、情報主体者の知り得る状態 から委譲され、情報主体者のプライバシー保護の におかれるべきである。不適正な取り扱いがあっ 責務を負うことになる。つまり、代行者が情報主 た場合には、自己情報コントロール権により、情 体者の個人情報の使用権限を行使する根拠は、情 報保有者に適正な取り扱いを求めることができる。 報主体者からの個人情報の使用権限の委譲にある と考える。 2.情報セキュリティと個人情報保護 情報主体者から情報保有者へ委譲される使用権 情報システムにおけるセキュリティに要請される課 限の中心は、個人情報の収集目的に沿った内容の 題は、機密性・完全性・可用性といわれる自己完結的 委譲であるから、情報主体者は、個人情報を委譲 な内部統制を機能させることである。情報所有者によ する情報保有者に対して、収集目的外に使用させ る情報管理だけではなく、外部にいる情報主体者の自 ないように、委譲を行う前に同意を怠ってはいけ 己情報コントロール権に基づく、プライバシー保護も ない。 含めた範囲が情報セキュリティの対象になる。 18 (2) 情報保有者の信頼性 3.自己情報コントロールシステムの開発 個人情報漏えいの事故は、たった1人でも不心 自ら個人情報を保護できるような理想的システム環 得者がいれば発生するもので、情報主体者にとっ 境を構築するために、今回の研究では個人情報が主体 ては、権限を委譲する組織を信頼することをでき 者によってコントロール可能であるのか実証するた ても、すべての従業員を信頼することまでは不可 め、個人情報保護ゲートウェイ(プロトタイプ)を使っ 能である。 た施設予約システム(以下、「本システム」という)を 自ら提供した個人情報に、何人の人が関わって 開発することにした。 いるのかを、情報主体者はまったく把握できない 本システムを開発するにあたり、システム設計上で のである。個人情報を保有している組織の内部で 最も重要となる構成は、一旦、組織に提供した個人情 使用権限委譲が繰り返され、さらには下請け・孫 報(データ)の使用権限を、情報主体者(利用者)の手に 受けまでにも権限委譲が及ぶことまでも容認しな 戻す仕組みである。利用者のデータを管理する使用権 ければならないのだろうか。 限は、個人情報を保有する情報主体者自身が持つこと 情報主体者にとっては全く見ず知らずの他人を になる。 信頼することは困難なので、もしもこれを受忍し 本システムの特長は、情報主体者によって個別に暗 なければならないとしたら、代行者の信頼性に関 号化された個人情報のデータベースを持っていること して担保を提示する必要があるだろう。 である。従来の情報システムでは、非常に強固な物理 (3) セキュリティポリシーの影響範囲 的セキュリティが必要とされたが、暗号方式であれば、 一般にセキュリティポリシー(基本方針)は公 情報システムを構成する機器がたとえ物理的に盗まれ 開されているが、これは組織としての決意の表明 たとしても、暗号鍵を安全なサーバに保管しておけば である。従って、個人情報がどのような仕掛けを データベース内のデータは復元不可能となる。 施したシステムで管理され、またどのような手順 (1) 施設予約システム概要 で保護されているか等、個人情報保護を主眼にお 本システムは、インターネットを通じて利用者 いた安全対策がどれだけ実施されているかを明ら が施設の利用を申し込み、抽選し、予約するため かにすることにより、信頼性の判断を行うことが のプロトタイプのソフトウェアであり、利用者の できるのである。 プライバシー保護を実現することを目的としている。 情報主体者である個人が、代行者に使用権限を 予約登録時点で氏名、住所などの個人を特定す 任せることを決意したとしても、安全であること るための個人情報や、場合によっては利用料金の を確認した上で委譲したわけではなく、情報主体 引き落としのために銀行名や口座番号の情報も収 者が自らの個人情報を提供することで得られる利 集してデータベースに保存するため、個人情報を 便性と、その情報が漏えいするなどの危険性を比 特定するテーブルの項目を対象として暗号化する 較した結果、利便性がより大きいと「納得」して ものである。暗号鍵は利用者ごとに設定するので、 自らの個人情報を提供したにすぎない。 データベース自体に漏えいが発生しても、容易に 情報主体者は、プライバシー権の保護を第1に期 待して、情報保有者に個人情報を提供するが、情 暗号が解読されないようになっている。 個々の暗号鍵は、保護ゲートウェイ装置(以下、 報保有者は、内部統制のスタンスで対応するため、 「PGW」という)で保管されており、利用者がアプ 両者の認識に潜在的に齟齬が生じている。この齟 リケーション公開サーバへアクセスをして正しく 齬を解消するために自己情報コントロール権を行 認証されると、PGWより利用者の暗号鍵が発行さ 使して、積極的に自らの個人情報を知り、守るこ れる機能を有する。 とが必要であろう。 さらに、本システムの管理者など内部の者によ 19 る不正行為が行えないように、いつ誰が、どのよ 保護しようとする考えになりがちであるが、内部 うな目的でデータベースへアクセスを行ったかア 統制するにあたり、個人情報の保護を主観とした クセスログに記録する機能を有している。 情報セキュリティを確立しなければいけない。 この設計により、情報主体者が抱く信頼性の問 この情報セキュリティを確立させるには、情報 題と情報保有者の管理体制への不安問題を解消し 主体者が、自己の個人情報を、外部からいつでも ようとするのが本システムの狙いである。 コントロールできる環境が必要になる。 (2) ゲートウェイ装置 従来のシステムでは、情報主体者は、自分の情 報を画面からシステムに入力することで、個人情 報の管理権を手放している。 本研究で検討した自己情報コントロール権によ る個人情報保護の強化のために、個人情報をデー タベースに記憶する前に暗号化するアクセス権を、 ① どこで、どのように管理されているのか ② どういう目的で利用されているのか ③ 誰に提供されているか 上記の内容を含んだ自己情報コントロール権を行使 することにより、情報システムにおける個人のプライ バシーが保障されるのである。 本研究で示した自己情報コントロール権が確立され データ入力した利用者に与えることで、管理権を たシステムにおいて、情報保有者は、すべての情報主 情報主体者である利用者本人の手に戻すのである。 体者に対してすみやかに個人情報の内容と利用目的を (図3)暗号化されたデータベースは、盗聴者やハ 通知する手続きを進めることが可能になり、はじめて ッカー、また悪意ある内部者に対して直接アクセ 情報主体者が、企業や行政機関の保有する個人情報に スしても内容が判明することが不可能である。 対して開示や修正、利用停止などの請求ができるので ある。 (2) 今後の課題 今回のプロトタイプ開発では、保護ゲートウェ イを開発し、暗号化データベースを構築したが、 個別で暗号鍵を発行させて、必要項目のみを暗号 化する手法を取り入れた結果、コンピュータのハ ードウェアへの負荷、アクセス速度について、実 用化する上で、不安要素を残した。また、利用ユ 図3 プライバシー保護ゲートウェイ構成図 ーザによる認証や管理などを制御する手法まで及 ばなかったので、今後の課題として取り組みたい。 4.まとめ (1) 本研究の成果 参考文献 情報技術の発展につれて、個人情報が、知らな 木村 修二著「情報漏洩のセキュリティ対策 策定 いうちに、大量かつ瞬時に流通されているのが現 方法の検討」NPO情報セキュリティ研究所,2007年 状である。情報システムを利用する情報主体者は、 3月 情報保有者へ個人情報を提供するだけではなく、 情報保有者に対して蓄積されている個人情報を積極 的に、自らコントロールする必要がある。これが自 己情報コントロール権の基本的な要件である。 個人情報の使用権限を委譲されている情報保有 者は、情報セキュリティの観点より、個人情報を 20 業務経歴 坊農 豊彦(情報化推進グループ) ・個人情報保護ゲートウェイの調査研究(2006) ASP型施設予約システムのサービス提供事業 小出 高康(情報化推進グループ) ASP型施設予約システムについて、平成17年度から研究会を開催し、機能内容・事業構 造の検討を、平成19年度、豊中市を皮切りとしてサービス提供を開始した。本事業への当 財団の取り組み内容や今後の方針を報告する。 1.事業の背景 昨今、自治体情報システムは効率的なシステム構造 は、「施設予約」が89.1%と最も高く、「ASPでのサー ビス調達」の必要性が高まっているといえる。 への転換が望まれており、総務省によりシステム共同 化が提唱され推進されている。その中で、住民向けオ ンラインシステムについては、住民ニーズを十分に把 2.事業概要 (1) アンケート調査 握し利便性を向上させ、対費用効果を十二分に勘案し 事業実施計画を立案するにあたって、各地方自 たシステム導入が望まれている。しかしながら、自治 治体の課題およびニーズを把握するため、近畿圏 体でのシステム導入には、「適正システムの調達ノウ の主要な地方自治体に対し、平成17年度「施設予 ハウの蓄積」 「導入後の運用コストの削減」 「サービス 約システムの導入意識アンケート調査」を実施し レベルの維持・向上」に苦慮しているのが現実である。 たところ、54団体から回答が寄せられた。 さらに住民向けオンラインシステムでは、昼夜を問わ ず恒常的なサービスが必要であることから、「ASP (Application Service Provider)によるサービスの調達」 が望まれている。 図1.に示すように、住民向けオンラインサービス 導入状況の調査結果では、 「施設予約」 「電子申請」を 全国自治体の30%以上が導入している。また、利用率 図2 施設予約システムの導入状況 図3 インターネットでの予約サービス提供意向 主なアンケート項目について回答を見ると、図 2∼4のとおり、インターネットによる予約サー 図1 住民向けオンラインシステム導入状況 ビスニーズが高く、ASPでの施設予約システム 21 の導入意向については将来の検討を含め65%の自 ステム形態である。本事業では、長期的な事業期 治体において検討したいとの意向があった。 間のなかで、必要な経費を参加団体が、付加価値 に応じて相応のコスト負担を担うことから、参加 団体数に見合った逓減型料金を提唱したサービス としている。(図5参照)また、システムの機能性 向上策は、参加団体のニーズを収集し、時勢に応 じたシステムバージョンアップで対応することと している。 図4 ASPでの予約サービス導入意向 (2) 研究会の開催 アンケート調査の結果をうけ、平成17年度に 「ASP型施設予約システム研究会」を発足し、前 述の「施設予約システムの導入意識調査」で具体 的な導入意識を持った自治体(大阪府、兵庫県の9 団体)の参加のもと、「アプリケーション機能定義」 「サービスレベル定義」「コストモデル試算」につ いて、機能を検討し、成果物として機能仕様書の 策定と実導入時のコスト試算を行った。 (3) 事業実施 図5 A市を100とした場合の利用料金のイメージ さらに、公共施設の利用は、行政圏に関係なく、 日常の行動範囲の中から利用する施設を選択をす 当財団は、研究会参加団体の豊中市より具体的 るため、隣接自治体を視野にいれたサービス提供 な導入意向を受け、平成18年度にASP型施設予 を考える必要があり、当財団では、関西での広域 約システムの事業計画を立案し、開発・運用事業 事業展開を図る。 者の公募・選定を実施した。 開発・運用事業者の公募にあたって、研究会成 果に準拠した機能要件に、情報システムの「セキ 施設予約システムの業務内容として、利用者(住民) ュリティ」および「ファシリティ」などを加味し からの「空き状況の照会」や「利用予約」などを行う たシステム調達仕様を作成した。また、選定作業 フロントオフィス(利用者機能)と、施設管理者であ は、「ASP型施設予約システム選定委員会」を設 る職員が「利用料金清算」や「付属設備貸出」 「減免」 置して行った。選定メンバーは、研究会参加メン バー(1団体)、選定委員の推薦(2団体)、学識 22 3.サービスの概要と特徴 「還付」 「利用統計」などを行うバックオフィス(職員 業務)に分類される。 経験者(2名)、KIIS(1名)で構成した。3社か 本事業では、利用者(住民)の利便性をWebサービス ら応募があり、総合評価により(株)ニッセイコムに により飛躍的に向上させながら、さらに、施設管理者 決定し、平成19年4月にサービス供用を開始した。 の業務効率化とBPR(Businness Process Reengineering) (4) 事業の特徴 を実現する相乗効果を狙っている。 ASP型もしくは共同利用型のサービスにおい ただし、Webサービスの便益を享受できるのは、パ ては、共有化できる資源も多く、個別にシステム ソコン・インターネット等のITを活用可能であること を自己導入した場合よりもコストが小さく、参加 が前提となり、いわゆるデジタルデバイドへの対応に 団体数が多いほどコスト面等で有利となるべきシ ついては、従前の通り「Face to Face」の職員対応が 必要である。昨今、これらサービス格差も、是正すべ (3) 大阪府立インターネットデータセンターの活用 き課題と認識し、施設予約業務についても、職員の業 施設予約システムでは、不特定多数の個人情報 務負担をITにより軽減した上で、デジタルデバイドな を取り扱うこととなる。氏名、住所等の一般情報 どをなくすため、綿密なヒューマンリレーションズの だけではなく、口座番号などのセンシティブな情 活性化を期待するものである。 報が含まれることから、個人情報保護については、 (1) サービス機能の概要 フロントオフィスに加えて、バックオフィス業 務も充実させた多機能なサービスとしている。 細心の配慮が必要である。当財団は、「プライバシ ーマーク」の認証を取得しており、これらのノウ ハウを生かした対応を行っている。 また、比較的システム化が容易とされる体育・ また、本事業では、情報セキュリティ確保の観 スポーツ施設のみならず、文化施設やコミュニテ 点から図7のとおり「大阪府立インターネットデ ィー施設への適用を前提としているため、「附属設 ータセンター(以下(eおおさかiDC) 」を活用 備管理」などの機能も充実させている(図6参照) 。 している。 図6 ASP型施設予約システムの機能概念図 図7 システム概念図 (2) 業務との親和性 ASPの課題として、提供される機能が汎用的であ 「eおおさかiDC」は、大阪府が設立した日本 るために、業務との親和性が憂慮されることがあ 初の本格的な公共iDCとして、24時間365日の運 げられる。特に、公共施設では、設立趣旨により、 用に対応したネットワーク監視、入館チェック、 対象とする利用者(住民・団体)を想定し、利用 防災性等の堅牢なファシリティを提供している。 目的や趣旨などを制限している場合がある。さら さらに、公共の信頼性に加えて、民間のノウハウ に、文化施設においては、比較的大規模な催物も を生かした運営を実施しており、情報セキュリテ 多く、附属設備の貸出、利用形態別料金設定、各 ィマネジメントシステム(Information Security 種料金規定など非常に複雑な利用形態となってい Management Systems(以下、ISMS)) の国際規 る。本事業では、これらの利用規定を包括するた 格である「ISO/IEC27001」の認証を公共のインタ め、 「ASP型施設予約システム研究会」における ーネットデータセンターとしては国内で初めて取 実態調査や、市販のアプリケーション・パッケー 得している。 ジシステムの機能調査を経て、サービス機能の分 (4) 運用支援サービスの提供 析、設定を行い、業務との親和性を最優先課題と して取り組んだ、高機能なASPサービスとしている。 ASPでは、アプリケーションもしくはアプリ ケーションデータの提供といった一方向でのサー ビスとして捉えられがちであるが、施設予約シス 23 テムのような「業務システム」をサービス提供す ミュニティシステム:れんらくん」「GISによる地図 る場合、アプリケーションの利便性のみならず、 案内システム:わが町マップ」などのASP事業を推進 日々の業務運用で発生する処々の問題事項を解決 しており、これら事業で培われたノウハウを活用し、 し、安定稼動を支援することが肝要である。いわ 今後「公募公債管理システム」など、さらに、行政情 ゆるPDCAサイクルのCheckおよびActionに相当 報システムのASP事業化を促進、支援する。 する運用支援サービスの提供が必要となる。 1)リクエスト、レスポンス等の処理状況の提供 2)コンバージョン、予約数等の利用状況の提供 3)ヘルプデスク等の問合せ支援機能の提供 4)運用改善、ベターユース等の問題解決機能の提供 5)機能改善、環境改善等の問題解決支援機能の提供 本事業では、前述の各運用支援サービスを合わ せて提供することにより、アプリケーションサー ビスと相俟ったサービス提供を実現している。 4.課題と今後の展開 公共施設の管理運営については、平成16年度より指 定管理者制度が施行され、民間事業者での管理運営と なり、転換期を迎えている。これにより、施設予約業 務についても変革が必要で、今後、システム機能拡張 および改良に向けた討議が必要となっている。 (1) デジタルデバイド 公共サービスを前提とした場合、主に提供され ているパソコン、インターネットでのサービス提 供は、全ての利用者にとって身近な存在であると は言い切れない。ユニバーサルデザインや、アク セシビリティを取り入れた情報格差を是正するこ とが必要である。 (2) 利用料金決済 公共料金の一つである公共施設の利用料金につ いては、多数の自治体で「全額前納制度」を適用 している。この制度では、利用者が必ず事前に料 金を納付しなければならず、利便性の低下の一因 ともなっている。これらの利便性を改善するため、 今後、 「クレジットカードによる決済」など料金収 納業務についての改善策が必要である。 また、ASPでの業務システムサービスについては、 現時点では未だ発展途上と言える。当財団では、「施 設予約システム」以外に、「公共団体向け携帯電話コ 24 地域の人材形成と地域再生に関する調査研究 布施 匡章(調査グループ) 本調査の目的は、「地域活性化の指針」を作成し、これから地域活性化の取り組みを行 おうとする地域に対して、地域資源の発掘や地域活動の主導者であるキーパーソンの存在、 さらにキーパーソンを支える組織やネットワークの要点、地域分析手法等を、実際の事例 に基づいて示すことである。 調査内容は、 「地域活性化の指針(仮説) 」を設定し、当該仮説を検証するために全国の 17の地域活性化先進事例のヒアリング調査を行い、キーパーソンの資質、人的ネットワー ク、地域資源等の視点から、 「地域活性化の指針(仮説) 」の検証を行い、地域活性化の活 動を行うに際しての「自己診断項目」を提案した。 1.調査概要 (1) 調査の背景と目的 地域再生の目指すところは、地域の理想・理念 <調査の視点> ・地域資源の活用 ・事業の成り立ち ・活動のきっかけ、体制 ・事業予算の計画性 がある「自律と自立」であり、それには地域住民 ・キーパーソンの活動のきっかけ の自発的な活動が必要となる。地域の活動が上手 ・キーパーソンの信条・理念 く進展している地域では、活動を企画・運営する ・活動を支えるネットワークとその役割 中心的な人物(キーパーソン)が存在し、さらに ・活動の成功要因と事業の継承 など そのキーパーソンを取り巻く人的ネットワークが 重層的に形成されているケースが多く見られる。 そこで本調査は、 「地域活性化の指針」を作成し、 さらに、「地域活性化の指針(仮説)」の有用性 を広く検証するため、ヒアリング調査結果を基に、 これから地域活性化の取り組みを行おうとする地 キーパーソンとネットワークに関する「Webシン 域に対して、地域資源の発掘や地域活動の主導者 ポジウム」を開催し、ホームページ上で多方面か であるキーパーソンの存在、さらにキーパーソン らの意見を聴取し、その意見等も踏まえて「地域 を支える組織やネットワークの要点、地域分析手法 活性化の自己診断項目」を提案している。 等を、実際の事例に基づいて示すことを目的とした。 (3) 地域活性化の指針(仮説) (2) 調査の方法 本調査を進めるにあたって有識者からなる委員 会を設置し、その下で「地域活性化の指針(仮説) 」 の設定を行い、当該仮説を検証するために全国の 17の地域活性化先進事例(表1)のヒアリング調 査を行った。事例調査に際しては、地域に根ざし たシンクタンクにより、特に次の点を重視して調 査を行った。 地域が元気になる活動には、 ①キーパーソンが存在する。 ②キーパーソンを支える仕組みや人的ネットワー クが地域内に形成されている。 ③地域内での危機感、問題意識が共有され、問題 解決に取り組む人材がいる。 ④地域活性化策に繋がる地域資源が存在し、内発 的な参加ができる風土や基盤が存在する。 25 表1 調査対象事例 2.キーパーソンの資質 (1) キーパーソンの魅力 魅力を有していることで、活動におけるキーパー ソンであると認識されている。 事例調査の結果、キーパーソンの多くは、活動 地域の出身や繋がりのあった人物であったが、活 動前まで活動地域とは縁のなかったキーパーソン 26 (2) キーパーソンのマインドウェア キーパーソンが実体験から築いてきた信念や哲 もいた。しかし、両者に共通しているのは、1) 学、精神性、地域への深い思いがあり、それらを 活動地域への愛情であり、このことが周囲からキ ここではマインドウェアと呼ぶ。 ーパーソンであると言われる所以と考える。また、 活性化の先進地域では、キーパーソンが持つ活 2)活動に対する信念、3)専門性、4)人的ネ 動の信念や地域への問題意識が地域内で共有され、 ットワーク、5)経営センス といった多面的な 地域全体に根付いた上での活動になっていること が確認された。つまり、キーパーソンの持つ地域 3.キーパーソンの人的ネットワーク形成の要点 への愛情と活動に対する信念・理念等が地域の キーパーソンの活動における人的ネットワークの調 人々や他の活動参加者に伝達、共有されており、 査を行い、キーパーソン自身が、特に重要とする結び 地域のマインドウェアとして活動の土台となって つきに焦点を当てることで、地域活性化における人的 いる。 ネットワーク形成の要点として、図1のとおり概ね3 つのパターンに類型化することができた。そこから、 (3) 外部キーパーソン 活動におけるキーパーソンの役割が明確化され、ひと 地域が目指す方向と目的を達成するために必要 りのスーパーマンによって活動の全てが展開されてい とする人材は、必ずしも地域内に存在するとは限 るのではなく、上手く機能分担されたネットワークが らない。その能力や人的ネットワークを求めて、 形成されていることが確認された。 地域活性化に必要な人材を外部に求める事例も見 られた。 (1) 調整型 キーパーソンが活動に取り組み、自治体職員等 外部キーパーソンの活動へのきっかけは、事業 の理解者が、組織内部や外部機関との連携、地元 目的のための招聘や移り住んだ地に魅せられて地 の人々からの理解を得る等の調整役となっている 域に貢献したいという気持ちが芽生えたなど、そ パターンである。官と民との架け橋となっている。 のきっかけは様々である。外部者であるからゆえ (2) 支援型 の①客観的に地域を見ることができ、過小評価さ キーパーソンの活動をフォローアップし、活動 れがちな地域の強みを正しく価値判断できる、② に信用を与えていると考えられる役割を持つ人物 地域のしがらみに縛られず活動できる、③地域外 との結び付きである。特に、活動のネットワーク のネットワークを既に持っており、活動の拡大が を広げる際に役立っているネットワークではない 容易である、といったメリットが見られた。 かと考える。 その一方で、外部キーパーソンからは、地域内 (3) 実践型 の既存組織との連携に苦労するという意見が多く キーパーソンと、キーパーソンの理念を実際に 聞かれ、地域内における人的ネットワーク作りに 実践している協力者との結び付きである。活動の デメリットがある。これからの地域の活性化には、 地域基盤整備に役立っていると考える。 こういった外部の人材を受け入れる地域関係者の 度量の広さと、共に行動する参画意識の醸成が重 要である。 図1 人的ネットワーク形成パターン 27 4.地域資源の活用 ーパーソン(地域内部や内発の)が参加していた キーパーソンの視点から地域における活動前の状況 パターン。自治体の事業費によって運営される。 をSWOT分析 し、活動開始にあたって特に活用した キーパーソンが持っていた内外のネットワークと、 ものをパターンとして示した。その結果、表2のとお 自治体との結び付きによって発展し、新たな事業 り地域が「強み(S)」とする資源を社会的な「機会 活動を開始する時点でさらなる広がりを見せる。 * (O) 」に乗じて積極的に活用し、地域活性化に繋げた という事例が多かった。中でも、観光資源や設備とい (2) 機会志向協働型 ったすぐに使える資源ではなく、文化・気風や人材と 自治体が計画を策定し、地域外からキーパーソ いったいわゆる「地域らしさ」 、 「地域力」を挙げるキ ンを招聘することで、発想の転換による地域に新 ーパーソンが多いことが特徴的であった。 たな風(地域になかったアイデア)をもたらせた もの。自治体はキーパーソンが地域内でネットワ 5.地域活性化のパターン ークを築くことを助け、キーパーソンの持つネッ 地域活性化活動資金の動きも踏まえ、活動の開始や、 トワーク(外部)や、もたらされる資金を活かし キーパーソンが活動に加わったきっかけ、活動の経緯 て活動を発展させる。その結果、地元住民の意識 から「発展・拡大の流れ」に関して分類を試みること 改革を図り、活動の継続性が担保されている。 で、キーパーソン、自治体、ネットワークの役割を確 (3) コミュニティ先導型 認し、パターン化を試みた。 (1) 官民協働型 自治体の地域課題解決のため取り組まれていた 自治体主導の構想(計画)策定のために設置し 視察会や講演会等に参加したキーパーソンが、問 た委員会等の場より活動が起こり、その活動にキ 題意識を共有する地域住民等で活動を起こしたパ 表2 活動分野と地域資源の活用・人的ネットワークの形成パターン *SWOT分析:主にマーケティング戦略や企業戦略立案で使われる分析のフレームワークで、組織の強み(Strength) 、 弱み(Weakness) 、 28 機会(Oppottunity)、脅威(Threat)の4つの軸から評価する手法のこと。 ターンであり、民間の事業費で運営されているも が多い。これにより、この分野では、地域に人一 の。キーパーソンが持つ内外のネットワークと自 倍愛着と思い入れを持ち、地域を知り尽くした人 治体の支援(信用付け)の効果により活動が多様 物の発掘が必要である。自治体においては、キー 化し、発展している。 パーソンと成り得る人材が、広く地域を見渡し、 刺激ある個性を持つ様々な活動家と出会える交流 (4) 自律型 の場の提供が必要である。 民間の自発的な問題意識から活動が起こり、自 地産地消、食育、環境共生分野での地域活性化 治体が追随することで発展したもの。事業費は民 では、専門性が高いキーパーソンが支援者や実践 間。 (キーパーソンに依るところが大きいため、事 者との結び付きによって実施されている。ゆえに 業の継続性に不安がもたれるものもある。 ) マネジメント能力と実践者の支援の結びつきで具 現化できるものである。自治体においては、専門 6.地域活性化の指針 (1) 地域の人材形成 事例調査の各事業においては、人材育成として 後継者を育てる等の必要性は感じているものの、 性の高い人材を発掘する方法が求められ、また、 マネジメント能力等、事業の展開に繋がる方策を 用意する必要がある。 芸術・文化(イベント)の地域活性化では、顔 実際に活動そのものを軌道に乗せるまでは人的ゆ となって行動するキーパーソンと住民の間を自治 とりもなく活動にまい進しているというところが 体が取り持つといった形が取られている。イベン 実態である。そこでキーパーソンや人的ネットワ トを地域活性化の柱とするには、すでに広いネッ ークの仕組みが構築される中で、賛同者が活動を トワークを持つキーパーソンがより効果が発揮で 通して各々の役割を認識し、自然発生的に人材形 きる。よって外部からの登用もひとつの手法であ 成が行われているものと思われる。 ると考える。自治体はキーパーソンの活動を地域 ただ、本調査で取り上げた活動事例から、カリ に根付かせるため、住民との接着剤的役割が求め スマ性を持つ人物が活動のキーパーソンとなって られ、異質文化を受容できる、奥深い地域づくり いるのではなく、誰もが地域活性化のキーパーソ が求められる。 ンと成り得ることが浮き彫りになった。 行政改革の分野では、如何に経営感覚に長けた 地域における人材形成の要点を、これまでの分 首長が自治体経営を行うかであり、そのために庁 析に基づき、より効果的な人材形成を行うために、 内の組織づくり(体制づくり)がなされているか キーパーソンの発掘や育成に求められるところを である。また、トップの考え、方向性が職員に共 示す。 有されているかが重要となる。 産業・経済・雇用分野の地域活性化では、活動 のきっかけが官主導であり、これまで地域では弱 (2) 地域活性化の自己診断項目の提案 みだと認識されていた資源を、発想の転換により 地域が自発的・自律的に活性化に向けた取り組 強みに変えて用いている事例が複数見られた。従 みを行っていくためには、地域の様々な主体が、 って、本分野では、客観的に地域を見ることがで 地域のものさしで、地域の身の丈にあった、活用 きる外部からの人材を登用することが、効果を発 可能な地域資源を発見、発掘し、官民連携するこ 揮できる分野であるとも言える。 とで実現していることが確認された。そこには、 まちづくり分野の地域活性化では、地域の強み 地域の課題とは、地域のものさしとは、活用可能 を活かし、民主導で活動のきっかけを作り、文 な地域資源とは、を議論しあう「場」があり、共 化・歴史といった無形の資源を活用している事例 通の認識のもとに目的を同じくし、ベクトルをあ 29 わせることで、そこに「協働の知恵」を生み出し しての自己診断のチェック項目であると考えている。 ている。 地域に語り合える場があり、キーパーソンを支える体 以上のことから、地域活性化の自己診断項目と して、以下の10項目を提案する。 制が整っていれば、誰もがキーパーソンと成り得る。 現代は人口減少・少子高齢化が進展し、地域の担い 手が減少すると言われている。しかし、上記チェック 1.地域へのいろいろな思いを持つ人たちが語り 合える「場」がありますか? 2.地域内で危機感、問題意識が共有されていま すか? 3.明確な信念・理念をもち、行動力に秀でた人 物が存在しますか? 4.マネジメント能力に長け、周辺から信頼を寄 せられる人物が存在しますか? 項目のとおり、特別な人や資源(モノ)が必要とされ るわけではなく、普通の人が地域活性化のキーパーソ ンとなり、また、地域のもつ普通の資源が地域活性化 の鍵とも成りうる時代である。つまり、地域が、地域 への愛情・信念・哲学、専門性、内外のネットワーク 構築を社会のシステムとして持つことで、持続可能な、 受け継がれる地域活性化が可能となる。 地域への愛情を住民に求めるにはどうしたらいい 5.様々な思いを具現化させるため、キーパーソ か。信念や哲学を深める方法、専門的な人材育成。ネ ンを核に共通の目的・目標に向かって進んで ットワーク構築を可能とする地域の場づくりといった いこうとする動きが芽生えていますか? 項目が、これからの地域活性化の条件であり、課題に 6.キーパーソンを支える機能・役割を担える人 的ネットワークが形成されていますか? 7.ソーシャルキャピタルが高く、地域のマイン ドウェアが形成されていますか? 8.地域の様々な主体が、活用可能な地域資源が あると認識していますか? 9.地域内では意識することはないが、地域外か なると考える。 そこで、地域活性化の自己診断項目より、『地域活 性化は、地域で地域のことを語り合える「場」と、キ ーパーソンを支える機能・役割を担えるネットワーク づくり』を、地域住民の活動を支える自治体の第一歩 としたい。 地域の持つ特性、地域資源、地域の様々な主体が、 らはすばらしいと思える地域資源を有してい それぞれの地域により異なる中で、地域の目指す方向 ますか? を、構成する主体の共通認識として共有することが不 10.自ら主体的に行動することができる自治体職 員が存在しますか? 可欠である。その際、主体間の調整役となる自治体の 役割が、地域活性化の活動を支え、維持・発展してい く上で重要である。 ■地域活性化の第一歩 地域再生の目指すところである「地域の自律と自立」 には、地域の自発的な活動が必要となる。ここで提案 した「地域活性化の自己診断項目」は、これから地域 活性化(再生)への取り組みを行おうとする地域に対 30 業務経歴 布施 匡章(調査グループ 研究員)−前掲− ニュータウン再生を支える地域コミュニティ創生に関する調査研究 (平成18年度 総合研究開発機構 特定助成研究) 布施 匡章(調査グループ) 本研究の目的は、地域コミュニティの観点から、大阪府堺市の泉北ニュータウンをフィ ールドに、ソーシャル・キャピタルの視点から、地域独自のコミュニティのあり方を分析 し、ニュータウンの再生計画を助ける地域コミュニティ創生方法を提案することにある。 住民を対象としたアンケート調査と、他のニュータウン事例のヒアリング調査の結果よ り、活気があり、魅力ある「まち」として地域の資産価値を高めていくためにも、地域に おけるソーシャル・キャピタルの把握は、今後の新たな地域コミュニティ施策創出にとっ て重要な要件の一つであることを確認した。 1.調査概要 しかしながら、開発初期のニュータウンでは、開発 地域のソーシャル・キャピタルを測るべく泉北ニュ から40年が経過し、住宅やコミュニティ施設など都市 ータウン住民を対象としたアンケートを実施し、地域 基盤の老朽化が進み、改修や建替えを必要とするとこ コミュニティに関する課題やニーズの把握を行った。 ろが多くなっている。また、商業施設などは、モータ また、他のニュータウン地域における地域コミュニ リゼーションの成熟とともに、求心力も郊外型店舗に ティに関する先行事例について、ヒアリング調査を行 奪われつつあり、機能の見直しが求められている。ま い、その成功要因を探った。その結果、ソーシャル・ た、少子高齢化のなか、近年、特に高齢化率の上昇が キャピタル指標が高ければ、地域の印象も良く、一方 他地域と比較して顕著で、成熟した都市環境の中で予 で地縁型活動である自治会加入率と地域の印象との関 想外に転出入が少なく、今後はさらに高齢化率が進む 係性は、見出せなかった。 ものと予想されている。子供世代の独立や子育て世代 地域コミュニティ創生の施策を地域で展開する上で のニュータウンへの住み替えも進まないため、単身高 は、地域ごとの実情を踏まえたきめ細かな対応が求め 齢者等の小世帯化やそのために相続税対策からの宅地 られる。その際には、これまで地域住民と行政の仲介 の細分化などで、オールドタウン化が進行している。 役として大きな役割を果たしてきた自治会だけではな 今後、団塊の世代が大量に地域回帰するといわれる く、地域のソーシャル・キャピタルにも目を向けるべ 中、地縁的な活動である自治会への加入率の低下や、 きであると考える。 単位自治会を解散する地区もあるなど、地区毎のコミ ュニティの維持が大きな課題となっている。高齢者や 2.ニュータウンの現状と課題 短期間でかつ大量に供給されたニュータウンは、近 団塊の世代が、生き生きと活動するための受け皿とな る場や機会の提供が喫緊の課題となっている。 隣住区理論を基として、都市施設を含めたマスタープ ランが策定され、これを受けて道路網、住宅、学校、 3.堺市・泉北ニュータウンの概要と人口の推移 公園、コミュニティ施設などの配置計画や設計が行わ 泉北ニュータウンは、多摩や千里と並ぶ有数の規模 れた。この良質な住環境と公共施設は、核家族を中心 を誇るニュータウンで、現在、15万人、5.3万世帯が としたライフスタイルへの対応と、居住水準の向上に 暮らしている。しかしながら、他のニュータウンと同 一定の効果を果たしてきた。 様に、コミュニティ施設など都市基盤は、老朽化が進 31 み、モータリゼーションの成熟とともに、求心力も郊 に、3,000世帯を抽出して行った。 外型店舗に奪われつつある。 また、地区内の自治会への加入率の低下や、単位自 自治会加入率 低:A、 高:B、 中:C、 D、E 住区 治会の解散など、地区毎のコミュニティの崩壊が大き 住 区 な問題となっている。加えて、急速に進む地域の高齢 化がこの問題に拍車をかけることになると予想され る。 (1) 泉北ニュータウンの概要 泉北ニュータウン 千里ニュータウン 多磨ニュータウン 港北ニュータウン 15万人 9万人 19万人 13万人 人 口 (計画18万人)(計画15万人)(計画34万人)(計画22万人) 規 1, 557ha 1, 160ha 3, 000ha 1, 317ha 模 立条 都心から 2 0∼2 5 k m 都心から 1 0∼1 5 k m 都心から 2 5∼3 5 k m 都心から 25km 地件 建期 965∼1982年 1958∼1970年 1963∼事業中 1965∼1996年 設間 1 新住・東京都、 区画整理、住宅・ 住宅・都市公団、都市公団 東京都区画整理・ 東京都 事 大阪府 業 主 体 大阪府 地 堺市 元 市 豊中市、吹田市 多磨市、八王子 横浜市 市、稲城市、 町田市 送付数 回収数 回収率 A 987 298 30. 2% B 991 399 40. 3% C 324 110 34. 0% D 330 148 44. 8% E 331 116 35. 0% 計 2, 963 1, 071 36. 1% (2) アンケート内容 都道府県別でソーシャル・キャピタルを測定し た内閣府調査(2004)*1を参考に、住区別の狭いソー シャル・キャピタルの測定を試みた。 (3) ソーシャル・キャピタルの視点 ソーシャル・キャピタルの基本的な要素として は、Putnum(1993)*2によると、 「ネットワーク(社 会的な繋がり) 」「社会的信頼」 「互酬性の規範」で (2) 泉北ニュータウンの特徴 あり、各要素指標は、アンケート調査項目を適用 1)急速な高齢化:高齢化率 2006年 17.5%、 して、次の表の通り作成した。作成に際しては、 2006年/1996年= 201% 表1の項目についてそれぞれの回答を主成分分析 2)団塊の世代の集中地域 により数値化し、住区ごと、要素ごとのソーシャ 3)地域活動:ニュータウン内に17のNPO法人 ル・キャピタル指標を合成し算出した。 4)将来人口想定:三原台では、大規模な再開発に 伴い若い世代の流入があり、高齢化率は抑えられ る。 4.泉北ニュータウン地域に対するアンケート調査 泉北ニュータウンの「地域社会生活」、「地域活動」 に関する現状を、ソーシャル・キャピタル(社会関係 資本、市民社会資本)の観点により明らかにし、ニュ ータウンにおける地域コミュニティ創生検討の基礎資 料とするためにアンケート調査を実施した。 (1) 調査対象 表1 ソーシャル・キャピタル基本要素とアンケート設問項目と対応 ネ ッ ト ワ ー ク 社 会 的 信 頼 互 酬 性 の 規 範 ・近所付き合いの状況 ・友人・知人との付き合い状況 ・親戚・親類との付き合い状況 ・地域での活動状況(スポーツ、趣味、娯楽) ・地域の安全性 ・ゴミ出しのマナー ・交通事故の発生件数 ・他人への信頼 ・地域の行事の活動頻度 ・地域の行事の活動状況 ・地域での活動状況(自治会等の地縁的な活動) ・地域での活動状況(ボランティア、NPO、市民活動) 泉北ニュータウンの自治会加入率により地域別 *1:内閣府経済社会総合研究所「コミュニティ機能再生とソーシャル・キャピタルに関する研究調査報告書」(2005年8月) *2:Robert D. Putnum “Making Democracy Work: Civic Traditions in Modern Italy”, (Princeton University Press, 1993) 32 (4) ソーシャル・キャピタルと地域の印象 表2 ソーシャル・キャピタルと自治会加入率 地域 自治会加入率 ネットワーク 社会的信頼 互酬性の規範 地域の印象 A 43. 3% B 89. 5% C 75. 0% 0. 189 0. 093 D 69. 4% 0. 027 0. 376 −0. 267 −0. 211 E 63. 2% −0. 095 0. 027 0. 107 0. 019 0. 110 −0. 054 −0. 026 −0. 199 −0. 064 0. 209 0. 629 0. 311 0. 537 −0. 102 6.地域コミュニティに関するヒアリング調査 図1 ソーシャル・キャピタルと地域の対象 全国の他のニュータウン地域に、先進的な地域コミ 図1は、ソーシャル・キャピタルの高さと地域 ュニティ活動についてのヒアリング調査をした結果 に対する満足度等の印象が関係しているのかどう や、参考となる活動内容を示すものとして、次のもの かを確かめるために、ソーシャル・キャピタル指 がある。 標の合計値と地域の印象度をA∼E住区別にプロッ ・地域の求める活動と住民の能力との融合(NPO トしたものである。地域の印象指標は、アンケー 法人フュージョン長池/多摩ニュータウン) ト結果より「住み心地」と「地域の活気」を、ソ ・年齢を超えた地域活動(『和』創り連都筑/港北 ーシャル・キャピタル指標と同様に、主成分分析 より表したものを用いた。両変数ともにアンケー トの回答は、数字が増えるごとに否定的な回答と ニュータウン) ・SOHO応援、コミュニティビジネス創出の場の 提供( (株)まちづくり三鷹/三鷹市) なるため、分かりやすいようにグラフの軸は反転 してある。表2より、ソーシャル・キャピタル指 標が高い住区では、地域の印象度も高く、ソーシ ャル・キャピタル指標と地域の印象には、正の関 7.施策提案 (1) 住民の地域活動への意識 アンケート結果によると、住民の地域活動への 係があることが窺える。個人のソーシャル・キャ 意識は、以下のようなものであった。 ピタルは住み心地や地域の印象に対して密接な関 1)地域活動に対する姿勢 係があり、地域コミュニティの創生によるソーシ ャル・キャピタルの醸成が、十分有効な施策であ るといえる。 ①地縁的、趣味的、ボランティア等で活動してい る住民は多い ②時間や家庭等の制約がなくなれば参加したいと いう潜在的に活動を希望する住民も多い (5) ソーシャル・キャピタルと自治会加入率 表2は、住区別の自治会加入率とソーシャル・ 2)地域活動の課題(住民が求めるもの) ①健康、老後、家族の介護等への不安解消 キャピタル指標をまとめたものである。住区AやC ②働き場所、活動場所 に着目するとわかる通り、「自治会組織=地域コミ ③家族・親戚以外の相談相手 ュニティの創生」とは必ずしも言い切れない結果 ④地域活動に対する行政支援と情報提供 となった。 (マイナスの数値が肯定的な回答で、SCが高いこ とを表す) (2) 地域コミュニティの施策提案 アンケートとヒアリング調査の結果を踏まえて、 以下に地域コミュニティ活動の施策提案を3つ行 う。 33 1) 「健康増進、健康づくり」活動 地域コミュニティ創生の施策を地域で展開する 住民の健康や介護に関する関心の度合いは高く、 上では、地域ごとの実情を踏まえたきめ細かな対 高齢化が進むにつれ一層高まるものと予想される。 応が求められる。その際には、これまで地域住民 そこで、それらを共通の課題として、健康の維 と行政の仲介役として大きな役割を果たしてきた 持・増進と介護予防に関する活動の必要性を提案 自治会だけではなく、地域のソーシャル・キャピ するものである。健康に関する不安は、自治会加 タルにも目を向けるべきであると考える。 入率が高い住区において低減される傾向が見られ ソーシャル・キャピタルが既に高い水準にある ること、また、住民の健康増進は行政の目的の一 地域では、それを活用し、より地域活動が拡大さ つでもあることから、自治会などの組織をベース れるような地域コミュニティ施策が求められる。 に、行政と住民の協働による取組みが効率的かつ ソーシャル・キャピタルが低い地域では、それを 効果的であると考える。 醸成すべく、思い切った地域コミュニティ施策の ex. ウォーキング、体操、ダンス、太極拳 等 2)コミュニティビジネス指向型活動 展開が必要となる。 活気があり、魅力ある「まち」として、地域の 仕事等の時間的制約がなくなれば、地域の活動に 資産価値を高めていくためにも、地域におけるソ 参加する可能性のある住民は多い。また、近々に退 ーシャル・キャピタルの把握は、今後の新たな地 職予定の団塊世代の労働・活動意欲を、地域への貢 域コミュニティ施策創出の重要な要件の一つであ 献へと繋げることが狙いである。 る。 ex. 住まいに関する活動(家屋修復、庭管理) 、パ ソコン教室 等 3)目的指向型活動 新たな分野で、目的を同じくする人たちが、年齢 を超えて参加できるような活動を創出することが必 要である。自分たちの住むまちを、環境豊かな地域 にしていこうという共通の目的を持って活動するこ とで、地域への愛着心も醸成される。 ex. 環境保全、緑化・緑道管理、里山保全 等 (3) 施策の実現に向けて 地域コミュニティ活動の推進に果たす行政の役 割は大きく、特に制度面でのきめ細かな対応が望 まれる。 1)行政の役割 潜在的な地域活動の担い手の発掘、引き上げ ゆるやかな活動組織への信用・信頼度を高める ための認定(お墨付き) 図2 地域コミュニティ再生・創生に向けた取り組み 2) 国の役割 中間組織インターミディアリーの早期立ち上げ (活動運営費の補償) 34 業務経歴 布施 匡章(調査グループ 研究員)−前掲− 関西フロントランナープロジェクト 「 」 平成18年度事業実施報告 (経済産業省 平成18年度 広域的新事業支援連携等事業費補助事業) 石橋 裕基(地域・産業活性化グループ) 近畿地域産業クラスター計画「関西フロントランナープロジェクト」では、未来型情報 家電・ロボット、高機能部材、高効率エネルギー機器・装置といった次世代産業の集積を 図り、世界に通用する技術や製品、サービスを持った企業群を創出する取組みを進めてい る。平成18年度に実施した事業及び今後の展開について報告する。 1.関西フロントランナープロジェクト 「 」の概要 ーの形成を目指している。 近畿地域においては、産業クラスターの立ち上げ期 ネオクラスター推進共同体は、経済産業省の「産業 である第Ⅰ期(平成13年度∼17年度)において、近畿 クラスター計画」に基づき当財団が推進機関となって 地域産業クラスター計画として、「近畿バイオ関連産 推進しているプロジェクトで、モノ作り産業と情報系 業プロジェクト」「ものづくり元気企業支援プロジェ 産業、エネルギー系産業の連携パワーを活かし、世界 クト」 「情報系クラスター振興プロジェクト」 「近畿エ に通用するNeo(次世代産業)クラスターの形成を目 ネルギー・環境高度化推進プロジェクト」の4つのプ 指した産業振興活動を推進する事業体である。 ロジェクトを展開してきた。 (図1) 近畿地域において、企業間、大学、公的支援機関の 第Ⅰ期における事業成果と課題をふまえ、産業クラス 連携を促進し、未来型情報家電・ロボット、高機能部 ターの成長期である第Ⅱ期(平成18年度∼22年度)では、 材、高効率エネルギー機器・装置といった次世代産業 プロジェクトを3分野に再編し、これまでの仲間づくり の集積を図り、世界に通用する活力ある産業クラスタ から実践的な産業化へと新たな展開を目指している。 図1 近畿地域クラスター事業の変遷 35 なかでも、次世代産業振興を目指した「関西フロン (2) 産学官グループ支援 トランナープロジェクト(ネオクラスター)」は、近 会員同士の交流の場から、メンバーを絞り込ん 畿地域が有するポテンシャルを活用しつつ、次世代の だグループ(クラスターコア)を作り出し、その 基幹産業の実践的な育成を目指している。独自の高い 活動を支援するのが「特定コミュニティ」及び 技術力を持つ企業やグループを、地域の様々な関係者 「共同企画室」のスキームである。 が協力し、集中的に支援することにより、近畿地域か 「特定コミュニティ」は、具体的なプロジェクト ら世界に通用する次世代の技術・製品・サービスを持 を生み出すため、同じテーマに賛同した企業・大 った企業群を創出する。 学等が連携した自立的な研究会の開催を支援する また、企業間及び大学や公的支援機関の連携環境を ものである。原則としてオープンな場とし、ある 整備し、多彩な交流やプロジェクトが次々に生まれる 程度長期間の活動を行うこととしているが、単な 状況を創出し、近畿地域が次世代産業の集積地(ネオ る研究会(勉強会)にとどまらず、具体的な製品化 クラスター)として内外に認知され、さらに域外の技 を検討する企業による小グループ(共同企画室)が 術・人材等の流入を促進するなど、クラスターがいっ 生み出されるよう誘導することが開催の条件となる。 そう成長する好循環モデルを生み出すことを目指す。 一方「共同企画室」は、共同して商品やサービ ス開発、もしくは研究開発を目指す企業等のグル 2.ネオクラスター推進共同体事業とその内容 ープ(少人数、クローズド、短期間)を支援する ネオクラスター推進共同体事業は、大きく「ネット ものである。フォーラムや特定コミュニティなど ワーク形成支援」 「産学官グループ支援」 「個別企業支 から発生した事業化プロジェクトについて、目標 援」の3つに分類することができる。 を明確にした事業計画が提出された上で、プロジ (1) ネットワーク形成支援 「ネットワーク形成支援」では、会員へのメール 平成18年度は特定コミュニティ4件、共同企画 マガジン配信サービスやウェブサイトでの情報提 室11件を認定し、それぞれ事業を推進してきた。 供の他、未来型情報家電・ロボット、高機能部材、 それぞれのグループが目指す目標は、研究開発や 高効率エネルギー機器・装置に関するタイムリー 新製品開発などさまざまであるが、いずれも参加 な話題を取り上げた「コミュニケーションフォー メンバーの優れた技術やアイデアを駆使し、具体 ラム」を開催し、会員・関連機関の交流を深める 的な成果が期待できるものとなっている。 取組みを行っている。 平成18年度に実施したコミュニケーションフォ ーラムは以下の通り。 ①未来型情報家電・ロボット 共に語りたくなる「み・ら・い」コミュニケー ションフォーラム ①特定コミュニティ認定グループ 八尾レーザ微細加工研究会/次世代航空機部品 供給ネットワーク(OWO)/創機グループ/ 自然順応型ネオマテリアル創成研究会 ②共同企画室認定グループ 温度差発電/低温型再生熱交換器/超音波洗 (7/7、8/4、11/17、2/14、延べ263名参加) 浄/携帯電話内蔵型燃料電池/関西IT検証ビ ②高機能部材 ジネス研究会/IT安全ベルト/未利用金属資 自然順応型ネオマテリアル創成フォーラム (8/24、215名参加) ③高効率エネルギー機器・装置 新エネルギー技術創成フォーラム (1/19、245名参加) 36 ェクトリーダの下で検討を進めることとなる。 源回収システム開発/水素燃料電池自動車用超 高圧燃料タンク/海生物廃棄処分設備の開発/ 大面積SiC基盤製造技術/ウッドチップとプ ラスチック複合材製造技術/大型単結晶人工ダ イヤモンド工具・金型 (3) 個別企業支援 く制度である。 (図3) 独自の優れた技術を持った中堅・中小・ベンチ ャー企業に対し、個別に支援するスキームも設定 平成18年度は20件の評価を実施した。今後もそ の利用は急増する勢いとなっている。 本制度により、中小・ベンチャー企業にとって している。 ①情報家電ビジネスパートナーズ(DCP) 関西の家電・電子機器メーカーが大同団結し、 実効のある資金調達の支援ができれば幸いである。 ③その他個別企業支援事業 中小・ベンチャー企業や大学等研究機関が持つ 上記以外にも、各種説明会やイベントを開催す 飛びぬけたアイデアやシーズを製品化するため ることで、会員企業のビジネスマッチングの機 の事業マッチング・プラットフォームを、大阪 会を拡大する取組みを行っている。 商工会議所と連携して推進している。 (図2) 平成19年3月5日には、大阪産業創造館にて 平成18年度には13社のメーカーがメンバー企業 「IT産学マッチングカンファレンスOSAK として登録しており、中小・ベンチャー企業か A」を開催した。大学が持つ最先端の研究シー らの積極的な提案を受け入れる体制を整えてい ズをビジネスに結びつける展示会として、多数 る。海外ベンチャー企業からの問い合わせ・提 の来場者を得た。開催後のアンケートでも、 「具 案も多く寄せられており、今後、本事業から 体的にこの大学の研究シーズを使って製品開発 「iPod」のような世界的ヒット商品が生まれるこ を行いたい」といったコンタクトを希望する意 とを期待している。 見もあり、今後の成果が期待されるところである。 ②技術評価事業 また3月12日には、「関西フロントランナー大 金融機関からの要請により、中小・ベンチャー 賞2007」受賞記念フォーラムを開催した。同大 企業が持つ技術やシーズを専門的見地から客観 賞は、ネオクラスター推進共同体会員企業のう 評価し、融資実行の判断材料として活用いただ ち、経済や産業に対する波及が大きく、実現性 図2 情報家電ビジネスパートナーズ(DCP)の事業構造 37 図3 技術評価事業のフロー の高い技術やサービスを持った企業やプロジェ クラスターマネージャー及びコーディネータは、特 クトを顕彰(奨励)するもので、今後これらの 定コミュニティや共同企画室等グループ活動を具体的 企業に対しては事業化に向け集中的に支援を行 にサポートし、そのグループの目標に合った手法を提 う予定である。これに触発される形で、会員企 案し、実行する。また、情報家電ビジネスパートナー 業から次々とすばらしい事業化アイデアが連鎖 ズや技術評価事業など、ネオクラスター推進共同体が 的に生み出されることを期待している。 持つ事業ツール活用についても会員企業に積極的に提 案することとなっている。 3.人的ネットワークの展開 これまでは、主としてネオクラスター推進共同体が こういった人的な基盤があって、ネオクラスター推 進共同体事業が成り立つものと考えている。 行う事業の枠組みについて説明してきた。しかしこれ また、この人的基盤には、大学や研究機関などの研 らはあくまで成果を導くための「ツール」であり、事 究者の方々にも参加いただき、 「学識者ネットワーク」 業フレームを整備しただけでは十分な成果が得られな の仕組みを設けた。現在61名の研究者の方々に登録い いおそれがある。 ただいており、今後このネットワークを拡大・深化し ネオクラスター推進共同体では、その点を「人的ネ ットワーク」の力でカバーしたいと考えている。事務 て、各種事業での産学連携の取組みへとつなげていき たいと考えている。 局には、4名の「クラスターマネージャー」がおり、 それぞれIT、ものづくり、エネルギー分野に精通し 4.今後の展開 た、さらに各分野での極めて広い人脈を持った方々で ネオクラスター推進共同体事業は、平成19年度から ある。クラスターマネージャーの指揮のもと、平成18 は第Ⅱ期計画の第2年度目に入る。平成18年度に取り 年度は18名の「コーディネータ」が組織され、会員企 揃えた事業メニューを最大限に活用し、具体的な成果 業との具体的な折衝にあたる体制をとった。 を生み出していきたいと考えている。 38 そのためには、販路や海外展開に詳しい専門のコー ディネータを設置するなど、「人的ネットワーク」の 充実は不可欠であると考えている。コーディネータが 積極的に企業を訪問し、要望やシーズを正確に把握し た上で、その企業や企業グループに最適な活動方針が 提案できるような、きめ細かな支援に軸足を置くこと とする。 また、資源の選択と集中の意味からも、単なる「勉 強会」にとどまるフォーラム等の開催は極力控え、あ くまで具体的な企業グループ設立に向けた道筋が描け るものについて、フォーラム→特定コミュニティ→共 同企画室への流れを確立していきたいと考えている。 さらに情報家電ビジネスパートナーズや技術評価事業 などの事業フレームは、その規模や活動を一層拡大し、 より多くの事業成果が生まれるよう推進する。 その他、新たな展開としては、中小企業が新製品開 発を行う際に共同で利用できる「試作プラットフォー ム」などの実現に向けた検討を始めたいと考えている。 「ネオクラスター推進共同体」の事業は固定的なも のではないと考えている。世界に冠たるクラスターが 創出されるべく、状況に応じ次々に事業を変化してい く必要がある。会員企業の自発的な取組みを促し、企 業グループの中から連鎖的な成果が生み出されるよ う、積極的な活動を進めていく考えである。 5.その他 ネオクラスター推進共同体事業の詳細、及びリアル タイムのイベント情報等については、当共同体ウェブ サイト(http://www.neocluster.jp)に随時掲載してい るので、適宜参照されたい。 業務経歴 石橋 裕基(地域・産業活性化グループ) ・NIRA型ベンチマーク・モデルを活用した政策評 価システムおよび行政改善への提案に関する研究 (2003∼) ・官民連携ICT基盤を活用した都市型広域行政に関 する調査研究(2004) ・NPMの視点に基づく地方公共団体の効果的なアウ トソーシング調査(2004) ・ITを利用したクリエイティブ都市に関する調査研 究∼堺・泉北ニュータウンにおける地域活性化に向 けての調査・研究∼(2005) 39 KIIS成果一覧表 内 容 メ ン バ ー 仕 様 公開の 可 否 関西地域の企業(上場・中小)・自治体な らびに医療分野、教育分野のIT利活用等につ いて、アンケート、ヒアリング調査を、さら に、関西のIT産業の動向についても調査を実 施した。企業・自治体に比べて、教育・医療 分野でのIT利活用の進展は遅く、また、全て の分野において、コンプライアンス対応が今 後の課題であると認識されていることが明ら かとなった。 (委員) 主査 大阪市立大学大学院 教授 中野 潔 氏 他 (財)関西情報・産業活性化センター 調査グループ 部 長 太田 智子 主席研究員 橋本 恵子 主席研究員 山岸 隆男 研 究 員 牧野 尚弘 研 究 員 布施 匡章 A4 386頁 可 泉北ニュータウンをフィールドに、ニュー (財)関西情報・産業活性化センター タウン再生計画における新しい地域コミュニ 調査グループ 部 長 太田 智子 ティのあり方として、ソーシャル・キャピタ 研究員 布施 匡章 ル(SC)の視点の住民アンケート調査等か ら、SCによる地域特性の把握が施策展開に ((財)堺都市政策研究所と 有効であることを確認し、3つの地域コミュ の共同研究) (総合研究開発機構 ニティ活動の具体例と活動組織への信用を高 平成18年度特定研究助成) める認定制度等を提案している。 A4 283頁 可 地域活性化を行っている地域のキーパーソ (委員) ンと、活性化に用いられた地域資源に着目し、 座長 江戸川大学 全国17地域のヒアリング調査を実施。その 教授 鈴木 輝隆 氏 他 結果、10項目のチェックポイントとして「地 地方シンクタンク協議会 メンバー7機関 域活性化の指針」を提案した。 (財)関西情報・産業活性化センター 調査グループ 部 長 太田 智子 研究員 布施 匡章 (内閣府 経済社会総合研究所) A4 269頁 可 A4 191頁 不可 A4 192頁 不可 A5 267頁 可 A4 93頁 可 報 告 書 名 関西情報化実態調査 (日本自転車振興会補助事業) ニュータウン再生を支える地 域コミュニティ創生に関する 調査研究 地域の人材形成と地域再生に 関する調査研究 地域資料に関する調査研究 地域資料(古文書・古文献、自治体刊行物、 地域コミュニティ誌等)を活用して、図書館 の地域情報拠点としての存在を高めるため、 アンケート、ヒアリング調査により、その実 (国立国会図書館) 情を把握し、方策を探った。 関西・日系企業のアジア国内 市場に向けたビジネス展開に 関する調査 沿海部を中心に中国の個人所得が向上して きたこと、外資法改正で外資系企業が中国国 内で生産したものを中国国内で販売できるよ うになったこと、WTO加盟で輸入販売が可 能になったことなどを背景に、工場から市場 としての中国のプレゼンスが増大している。 その中での関西・日系企業の活動状況を、ヒ (民間企業) アリング調査により把握した。 地域における「人づくり」に 関する研究 −観光分野における人づくり− 観光分野における人づくりの新たな取り組 みの事例として、紀伊山地(世界遺産)、金 沢市、長浜市、和歌山大学、阪南大学、専門 学校の事例を調査し、観光分野における人づ くりのインフラとして、①地域の実践力、② 交流の場、③篤志家の創出とボランティアの 育成、④人材供給と資金調達体制の構築、⑤ (総合研究開発機構 観光サービスの商品力の強化、⑥市民参加型 平成17年度一般研究助成) 人づくり事業への行政投資の推進を提言した。 地域の安全・安心環境基盤整 備手法レポート (大阪安全・安心まちづくり 支援ICT活用協議会) (財)関西情報・産業活性化センター 調査グループ 主席研究員 橋本 恵子 研 究 員 牧野 尚宏 (財)関西情報・産業活性化センター 調査グループ 主席研究員 橋本 恵子 研 究 員 布施 匡章 財)関西情報・産業活性化センター 普及・啓発グループ 主席研究員 広瀬 浩二 <協同研究機関> ㈱北海道二十一世紀総合 研究所 (財)えひめ地域政策研究セ ンター ICTを活用した安全・安心まちづくり実 (委員) 証プロジェクトの成果や課題、また協議会メ 大阪市立大学大学院 教 授 中野 潔 氏 ンバーが有するICTやその活用事例をベー 助教授 瀬田 史彦氏 スに、地域の安全・安心環境基盤の整備手法 他18名 に関する提言を行った。 (財)関西情報・産業活性化センター 地域・産業活性化グループ 係長 高鳥 克己 仕 様 公開の 可 否 関西フロントランナープロジェクト「ネオ (財)関西情報・産業活性化センター クラスター」事業の一環として、 IT・情報家電 地域・産業活性化グループ 伊藤 雅人 系分野において、次世代産業のけん引役とし て期待される会員企業28社の技術・製品を紹介。 発行:ネオクラスター推 進共同体 (近畿経済産業局) A4 73頁 可 (財)関西情報・産業活性化センター 地域・産業活性化グループ 伊藤 雅人 発行: ネオクラスター推進共同体 大学コンソーシアム大阪 A4 89頁 可 A4 75頁 不可 (委員) 大阪大学 エア・ウォーター㈱ 他 3大学、 1研究機関、 9社 (財)関西情報・産業活性化センター 地域・産業活性化グループ 部長 佐藤 周一 宗田有多果 A4 99頁 不可 我が国製造業の国際競争力の強化と新たな (委員) 事業の創出を目指し、中小企業のものづくり ㈱岡野製作所 技術(鋳造、鍛造、切削、めっき等)に資す ㈲サイバー・クラフト る革新的かつハイリスクな研究開発等を促進 大阪府立産業技術総合研究所 することを目的とする「戦略的基盤技術高度 (財)関西情報・産業活性化センター 化支援事業」(経済産業省)において、標記 地域・産業活性化グループ 部長 佐藤 周一 事業を受託し、研究開発の成果について報告 宗田有多果 書(中間)をとりまとめた。 A4 54頁 不可 高所での電力設備建設、メンテナンス等に (委員) おける作業員の補助ベルト(安全帯)の状態を 大阪大学大学院 教授 岸野 文郎 氏 他 監視し、踏みはずしなどの対策や作業員の意 識喚起に活用するシステムの開発を目的とし (財)関西情報・産業活性化センター 地域・産業活性化グループ た研究成果についてとりまとめた。 係長 高鳥 克己 (民間企業) A4 55頁 不可 情報漏洩事故の多くは、物理的なセキュリ (委員) ティの欠陥からではなく、情報の管理主体に 京都大学 教授 高倉 弘喜 氏 他 よって引き起こされるという現状に鑑みて、 情報主体自らが、情報を管理するという「自 (財)関西情報・産業活性化センター 己情報コントロール権」について有識者によ 情報化推進グループ 部長 木村 修二 る委員会で検討し、それに基づいて、自治体 芝原 努 向けの施設予約システムを想定したプロトタ 坊農 豊彦 (日本自転車振興会補助事業) イプのシステム開発を行った。 A4 55頁 可 報 告 書 名 内 容 メ ン バ ー 関西・未来型情報家電系フラ ッグシップ集 IT産学マッチングカンファ レンスOSAKA 研究シー ズ集 関西フロントランナープロジェクト「ネオ クラスター」事業の一環として開催した「I T産学マッチングカンファレンスOSAKA」 で出展された大学、大学発ベンチャー企業、 研究機関等の研究シーズを取りまとめ紹介。 (近畿経済産業局) 「超短パルスレーザを用いた 電子部品用微細トリミング金 型の開発」 (近畿経済産業局 平成18年 度地域新生コンソーシアム研 究開発事業) 「革新的低温表面熱処理技術 とステンレス鋼の耐食・耐摩 耗部材開発」 (近畿経済産業局 平成18年 度地域新生コンソーシアム研 究開発事業) 「広領域で耐環境性の優れた マイクロ圧力センサの開発及 び真空計測・制御システムへ の応用」 (近畿経済産業局 平成18年 度戦略的基盤技術高度化支援 事業) 産学官の共同研究体制の下、地域の新産業・ (委員) 新事業創出と経済活性化を図る「地域新生コ 大阪大学、㈱レザック 他 ンソーシアム研究開発事業」(経済産業省) (財)関西情報・産業活性化センター において、標記事業を受託し、研究開発の成 地域・産業活性化グループ 部長 佐藤 周一 果について報告書(中間)をとりまとめた。 係長 高鳥 克己 (同上) ITを活用した安全帯システ ム研究開発 個人情報保護ゲートウェイの 調査研究
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