170KB - サーキットデザイン

Wireless Audio Module 技術資料
プロサウンドのクオリティをコンパクトに
WA-TX-01:送信モジュール
WA-RX-01:シングル受信機
WA-RX-02:ダイバーシティ受信
サーキットデザインはアメリカや国内向けのプロ用ワイヤレスマイクロフォンシステムの開発、製造を20
年以上行ってきました。そこで培ったノウハウと最新のデバイステクノロジの融合により、ワイヤレスオーデ
ィオモジュールという新しいカテゴリの商品を開発しました。
今までトランシーバ用モジュールはありましたが、とても高音質と呼べるものではありませんでした。当社
のワイヤレスオーディオモジュールはダイナミックレンジ100dB、周波数特性50〜15kHzというプロレベル
の驚異的なスペックをコンパクトなボディに収納しました。サーキットデザインでは、新たにSAW(Surface
Acoustic Wave:表面弾性波)レゾネータやノイズリダクションICを開発し、小型化や高音質化を実現しま
し た 。 WA-TX-01 に は 電 池 動 作 用 と し て 専 用 DC/DC コ ン バ ー タ : WA-DC-01 が あ り ま す 。 ま た 、
WA-RX-02には音切れやノイズのないダーバーシティ方式を採用しました。
ワイヤレスオーディオモジュールは国内の電波法の規格「ARIB STD-15」に準拠した800MHz帯B型の
ワイヤレスシステムです。さらに技術基準適合証明を取得済みですので、面倒な申請手続きをせず簡単
にお使いいただけます。
WA-TX-01、WA-RX-01、WA-X-02の登場で、簡単に高性能ワイヤレス機器の開発が可能となりまし
た。
広いダイナミックレンジの音響伝送
一般的に、人間が聞くことができる最大音圧は 140dBSPL と言われています。ここで言う音圧とは、人間
が聞こえる最小音圧 0dBSPL=20μpa を基準として算出されます。静かな部屋でさえ 20dBSPL 程度のバッ
クグラウンドノイズが有りますから、人間が大声を張り上げた時の声 120dBSPL 程度の音声との差 100dB
の音圧を無線伝送できれば良いことになります。
電波法の規制
有限な無線資源を有効に利用するために、使用される周波数や帯域幅は各国の電波法で厳しく制限
されています。一般的に、可聴周波数である15kHzのオーディオ周波数をアナログFM変調する場合、占
有帯域幅は「(最大周波数偏移+最高オーディオ周波数)×2」となります。前述の100dBのダイナミックレ
ンジをFM方式で伝送する場合に必要な帯域幅を考えてみましょう。
FM変調回路は、一般的に基準水晶発振回路に接続された変調用バリキャップ(可変容量コンデ
ンサー)で構成されています。水晶振動子は純度の高い発振源ですが、発振用トランジスタや変
調用のバリキャップ等の部品のノイズで無変調の残留FMが50Hzとかなり大きな値になります。
水晶発振器にフェーズロックするPLL回路内のLC発振回路では更に悪い値を示します。
ここで、送信するオーディオ信号で100dBのダイナミックレンジを得るために必要な帯域幅を
計算してみましょう。20dBのゲインは10倍ですから、100dBのゲインは10万倍となります。50Hz
の残留FMに対して100dBのダイナミックレンジを得るには、5MHzの周波数偏移が必要になりま
す。そこで、上記計算式にこの周波数偏移を入れると、占有帯域幅が広すぎて、無線で100dBのダイナッ
クレンジを送ることは不可能となります。
ノイズリダクションシステム
電波法で定められた周波数偏移の規格を満足するため、通常のワイヤレスマイクロフォンシステムでは
送信機にコンプレッサ、受信機にはエキスパンダが使われます。一般的にこの方式をコンパンダノイズリ
ダクション方式と呼びます。(図1参照)ノイズリダクションシステムとしてはドルビーシステムがよく知られて
いますが、このシステムは音声周波数に応じて圧縮比が変化します。一方コンパンダノイズリダクションシ
ステムは全周波数帯域で、コンパンダは1/2に圧縮し、エキスパンダは同じく全帯域を2倍に伸張します。
図1
ノイズリダクションの効果
対数で 1/2 に圧縮した場合、100dB のダイナミックレンジは 50dB になります。(図 2 参照)
FMの周波数偏移は50Hzの残留FMが有るとしても、Δf500Hz=20dB、Δf5kHz=40dBとなり、Δf20kHz
では52dBとなります。これで、20kHz以下の周波数偏移で50dBダイナミックレンジの伝送が可能になりま
す。言い換えれば無線系で50dBのダイナミックレンジが有れば、100dBのダイナミックレンジでオーディオ
信号の伝送ができます。
図2
ワイヤレスマイクはなぜアナログ伝送か?
衛星放送のような音声送信装置ではPCMを使っています。ではなぜワイヤレスマイクロフォンシステム
ではアナログ方式なのでしょうか?それには4つの理由があります。
① 多くの国ではデジタルワイヤレスマイクシステム専用の周波数帯域は割り当てられていません。
② PCMのようなデジタル伝送では広い周波数帯域を必要とするため、1GHz以下の周波数では実現が
難しいためです。
③ 1GHz以上の周波数では、わずかな動きでも頻繁にデッドポイントするため、動きの激しいライブステ
ージにはでは向いていません。
④
送信系でデジタル圧縮を行うと、電源の消費電流が大きくなり、小さな電池の動作が難しくなります。
将来、電波法の整備とA/Dコンバータ、DSP、多値変調回路の消費電流が劇的に下がらない限り現在
の状態が続くものと思われます。
混信の無い運用周波数プラン
ワイヤレスシステムを周波数分割して、同一エリアで複数台を同時運用する場合は周波数プランが重
要となります。アナログ FM 伝送の場合、同じ周波数スパンで 3 波以上を近くで運用すると必ず混信が発
生します。混信を受けるとビート音が発生し、極端に音質が劣化します。これは受信機の非直線部によっ
て発生する相互変調のためで、3 次相互変調と呼ばれる現象です。(図3参照)この問題を回避するには、
3 次相互変調が発生するような周波数チャンネルを使わない、すなわち等間隔のチャンネルスパンが無
いようにワイヤレスマイクロフォンシステムの周波数プランで運用することです。
図3
Fig.3
ダイバーシティ受信の必要性
ワイヤレスマイクロフォンシステムでは送信機と受信機の距離が長くなると音が途切れたり、ノイズが多く
なったりします。これはデッドポイントと呼ばれ、マルチパスにより1/2λ波長の間隔で発生します。さらに
近距離では金属の反射物があると複雑なデッドポイントが発生します。データ送信の場合はパケットエラ
ーが発生しても、再送要求や1/4λの間隔のダイバーシティアンテナを切り替えれば解決しますが、ワイ
ヤレスマイクロフォンシステムではリアルタイムオペレーションが重要なファクターですので、たとえ
10msecのタイムディレイでも許されません。
そこで、音響用ワイヤレスマイクロフォンシステムは、1/4λ波長以上の間隔に配置したアンテナに接続
された2台の受信機の電界強度をコンパレータで比較し、電界強度の高い受信機を選択し、アナログスイ
ッチで復調されたオーディオ信号を切り替えます。この方式により、50m以上の遠距離でも音切れやノイズ
のない安定した運用がクリアなサウンドが得られます。(図4参照)
図4
ローノイズDC/DCコンバータ
3V電源が必要な送受信モジュールを1.5Vの電池1本で動作させる場合に必要となります。通常
DC/DCコンバータには周波数可変方式と周波数固定方式の2つがありますが、ワイヤレスシステムではノ
イズ対策がしやすい周波数固定方式が使われます。さらに、出力段にはノイズを低減するためフィルタが
実装されています。ワイヤレスマイクロフォンシステムで100dBのダイナミックレンジを達成するには、
DC/DCコンバータの残留ノイズは-60dBm以下にしなければなりません。このDC/DCコンバータの最低動
作電圧は0.9Vで、出力電圧は3V、最大負荷電流は50mAです。