沖縄県雇用構造特性基本調査報告書

要約
I
調査概要
1.調査の背景
沖縄県の雇用情勢は、復帰以降、完全失業率が常時、全国平均を大幅に上回る水準で推移している。
さらに、賃金水準についても、全国平均を下回る水準が続いている。
本県の厳しい雇用情勢の改善のためには、第一に、復帰以降の本県の雇用・労働を取り巻く環境変
化の検証、第二に、現時点における本県の雇用・賃金等労働実態における課題の整理、第三に、雇用・
労働情勢の変化にかかる経過と現状、課題を踏まえ、今後の雇用労働施策に関する見通しと方策につ
いての検討が望まれる。
2.調査の目的
今回の調査においては、沖縄振興計画に基づき実施された雇用施策の検証を行うとともに、本県に
おける雇用・労働の実態把握を行い、その課題抽出と今後の方向性を検討するに当たって必要な基礎
資料を得ることを目的として行った。
3.調査の視点
今回の調査では、本県の雇用労働情勢の特徴(高失業率、強い県内志向の一方で指摘される県外季
節労働の多さ、求人求職のミスマッチ、低い労働条件、強い地縁・血縁のつながりなど)を踏まえ、
①求職者・無業者の生活実態、②求人・求職、転職の実態(ハローワーク等を介さないものを含む)
、
③県外就職の実態、④県民の就業意識、⑤企業における雇用・労働実態などに焦点をあてた調査を行
った。
4.調査方法
今回の調査では、本県における雇用・労働実態の多角的・包括的な把握を行うために、①一般県民、
②一般企業、③教育機関、④民間職業紹介・人材派遣会社、⑤県外組織等を対象として調査を実施し
た。調査に当たっては、アンケート調査による定量的データ、ヒアリング調査により定性的データの
収集を図るとともに、先行調査・研究等の文献調査を実施した。
図表 1 調査対象・方法と概要
調査対象・方法
概要
文献調査
国勢調査、労働力調査、賃金センサス、就業構造基本調査等を分析
一般県民アンケート
配布数:5,883 人、有効回答数:1,703 人
企業アンケート
配布事業所:2,000 社、有効回答数:321 社
学校アンケート
配布学校数:123 校、有効回答数:67 校
ハローワークにおける求職者ヒアリング
5 箇所、90 人
民間職業紹介会社ヒアリング
6 事業所
進路指導担当者ヒアリング
高校:2 校、専門学校:1校、大学・短大:1 団体
生徒・学生グループインタビュー
高校生:10 名、専門学校生:14 名、大学生:5 名
経済団体ヒアリング
対象団体数:3 団体
県外ヒアリング
国内 4 都道府・9 事業所
1
II
統計データにみる沖縄の雇用・労働情勢の推移
1.経済情勢
本県の名目成長率は、1997 年から 2003 年までは、全国と比べて高い成長増加率であったが、2003
年以降は低い傾向にある。また、県民所得は全国の 7 割程度にとどまっており、労働分配率を全国と
比較した場合、雇用者報酬の占める割合が低く、企業所得の占める割合が全国に比べ高い。
2.総人口と労働力率の推移
1) 総人口
国勢調査によれば、総人口は本土復帰以降、増加を続け、それにともない、生産年齢人口も実数・
割合ともに増加(上昇)してきた。高齢人口も同様に実数・割合ともに増加(上昇)する一方で、年尐
人口は減尐(低下)し、人口の高齢化が進んでいる。
図表 2 総人口(年齢三区分)の推移(1970 年~2005 年)
(万人)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
(万人)
女性
80
13
11
9
70
8
6
5
5
60
4
50
40
38
40
42
43
44
35
33
29
30
20
10
16
16
16
16
15
14
13
12
0
1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005
男性
4
4
6
7
9
3
3
26
32
35
38
40
42
43
45
17
17
17
16
15
14
14
13
2
1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005
15 歳 未 満 65 歳 以 上 15 ~ 64 歳 15 歳 未 満 65 歳 以 上 15 ~ 64 歳 資料出所:琉球政府計画局統計庁「国勢調査報告」、総務省統計局「国勢調査報告」
※年齢不詳は除く
2) 労働力率
国勢調査における男性の労働力率は低下傾向にある。女性の年齢階級別の労働力率はいわゆるM字
曲線を描くが、年々、その底が上昇し、女性の労働力率は上昇する傾向にある。同時に、M字の底が
30 代後半にシフトしつつあり、出産・育児等による離職時期が高年齢化、短期間化しているとみられ
る。
図表 3 労働力率の推移(1970 年~2005 年)
(%)
男性
女性
(%)
100.0
100.0
80.0
80.0
60.0
60.0
40.0
40.0
資料出所:琉球政府計画局統
20.0
計庁「国勢調査報告」、総務省
20.0
0.0
統計局「国勢調査報告」
1975
1995
2
64
59
60
~
54
1980
2000
55
~
49
50
~
44
45
~
39
40
~
34
1970
1990
35
~
29
30
~
24
25
~
20
~
1985
2005
19
64
59
60
~
54
55
~
49
44
50
~
1980
2000
15
~
1975
1995
45
~
39
40
~
34
35
~
29
1970
1990
30
~
24
25
~
20
~
15
~
19
0.0
1985
2005
単位:%
3.雇用情勢
1) 就業者(沖縄県の生産年齢における産業構造)
国勢調査における就業者数は人口の増加にともない、時点による変動はあるものの増加を続けてき
た。産業別でみると、第一次産業の就業者が減尐する一方で、第三次産業の就業者が大幅に増加した。
第二次産業については小幅な変動にとどまっている。
図表 4 産業別就業者数の推移(1970 年~2005 年)
男性
(千人)
350
(千人)
350
300
300
250
250
200
200
150
150
100
100
50
50
0
女性
0
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
1970
第一次産業
第二次産業(建設業)
第二次産業(建設業以外)
第三次産業(卸小売、飲食店、サービス業)
第三次産業(上記以外のサービス業)
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
第一次産業
第二次産業(建設業)
第二次産業(建設業以外)
第三次産業(卸小売、飲食店、サービス業)
第三次産業(上記以外のサービス業)
資料出所:琉球政府計画局統計庁「国勢調査報告」、総務省統計局「国勢調査報告」
2) 完全失業者
本土復帰前後から完全失業者数は大幅に増加した。国勢調査ベースでは 1970 年から 1975 年の 5
年間で男女ともに約 2 倍の失業率となっているが、これは大幅な人口増加によるものに加え、本土復
帰によって基地従業員の大幅な解雇等が行われたことや復帰不安による企業の採用手控えなどが生じ
たことも一因あると考えられる。
労働力調査による 2005 年以降の失業率は全国の男女ともに下降する傾向にあったものが、2007 年
には反転して上昇する傾向にある。一方、本県では、男女ともに高止まりで慢性的な高さとなってい
る。
また、95 年以降は失業率に占める 30 代以上の割合が上昇する傾向がみられる。
図表 5 完全失業者数・完全失業率の推移(1970 年~2005 年)
13.7
60,000
15.0
11.3
50,000
10.3
9.0
40,000
8.4
8.3
8.8
30,000
8.6
4.6
20,000
6.4
10,000
10.0
6.8
6.4
9.3
8.1
5.0
6.1
3.2
資料出所:琉球政府計画局統計庁「国勢調査報告」、
総務省統計局「国勢調査報告」
05
20
00
20
95
19
90
19
85
19
80
19
19
19
75
0.0
70
0
完 全 失 業 者(男性)
完 全 失 業 者(女性)
完全失業率(男性)
完全失業率(女性)
単位:人、%
3
3) 新規学卒者
高校卒業者の進路を学校基本調査での長期時系列でみると、90 年代後半からは上昇傾向にある。進
学率の高まりに対し、就職率は低下傾向にある。無業率は 2000 年代前半まで 20~30%台を推移して
きたが、2003 年以降は低下傾向にある。高校生における県外就職については、復帰前後~2003 年ご
ろには低下する傾向にあったが、2003 年からは県外へ就職する傾向へと反転している。
大学卒業者については、就職率が 50%前後、無業率が 30%前後で推移してきたが、近年は就職率
が上昇、無業率は低下傾向にある。
図表 6 高校卒業者の大学等進学率、就職率、無業率の推移(1972 年~2008 年)
50.0
45.0
40.0
35.0
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
進学率
卒
3月
卒
3月
08
年
20
卒
06
年
20
卒
3月
04
年
20
卒
3月
3月
02
年
20
卒
00
年
20
98
年
3月
卒
就職率
19
卒
3月
96
年
19
卒
3月
3月
94
年
19
卒
19
92
年
3月
卒
90
年
19
卒
3月
88
年
19
卒
3月
3月
86
年
19
卒
84
年
19
卒
3月
82
年
19
卒
3月
80
年
19
卒
3月
3月
78
年
19
卒
3月
76
年
19
74
年
19
19
72
年
3月
卒
0.0
無業率
資料出所:文部科学省「学校基本調査」
図表 7 大学卒業者の就職率、無業率の推移(1972 年~2008 年)
就職率
卒
3月
卒
3月
08
年
20
卒
20
06
年
3月
卒
20
04
年
3月
卒
3月
02
年
20
卒
00
年
20
19
98
年
3月
卒
無業率
資料出所:文部科学省「学校基本調査」、沖縄県統計年鑑(1976 年 3 月卒)
4
3月
卒
19
96
年
3月
卒
3月
94
年
19
卒
3月
92
年
19
卒
90
年
19
3月
卒
19
88
年
3月
卒
3月
86
年
19
卒
19
84
年
3月
卒
19
82
年
3月
卒
19
80
年
3月
卒
3月
78
年
19
卒
3月
76
年
19
74
年
19
19
72
年
3月
卒
100.0
90.0
80.0
70.0
60.0
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
4) 有効求人倍率
有効求人倍率については、全国が景気の変動に応じて大きく変動しているのに対し、本県では緩や
かな変動にとどまり、有効求人倍率はほぼ 0.5 以下の水準で推移している。
図表 8 一般有効求人倍率の推移(1970 年~2008 年)
(%)
2.0
有効求人倍率の推移
1.41
1.5
1.0
1.16
0.88
0.43
0.5
0.38
0.19
0.0
70
72
74
76
78
80
82
84
86
88
90
92
全国
94
96
98 2000 02
04
06
08
沖縄
資料出所:沖縄労働局、沖縄県「職業安定行政年報」
4.労働情勢
1) 従業上の地位(雇用形態)
直近の国勢調査(2005)による従業上の地位をみると、全国に比べ、本県においては、常雇の割合
が低く、臨時雇と事業主の割合が高い。
図表 9 従業上の地位(15~69 歳)(2005 年)
男性
女性
(%)
80
70
(%)
80
72.0
66.7
60
50
沖縄
40
全国
30
20
11.0
10
7.5
4.1 6.7
70
60
50
40
30
16.4
12.3
1.8 1.5
0.0 0.0
臨
雇
時
雇
役
事
従家
内家
員
業
主
業 者族
職 者庭
沖縄
全国
24.6
20.0
20
10
0
0
常
60.863.9
1.2 2.9
6.6 4.5
6.6 8.1
0.2 0.7
常
臨
役
事
従家
内家
雇
時
雇
員
業
主
業 者族
職 者庭
資料出所:総務省統計局「国勢調査報告」(2005 年)
※常雇とは、役員以外で、期間を定めずに又は 1 年を超える期間を定めて雇われている人。
※臨時雇とは、日々又は 1 年以内の期間を定めて雇用されている人。
2) 従業上の地位の異動
2002 年と 2007 年の「就業構造基本調査」によれば、正規社員から非正規社員1や自営業へ異動す
る人の比率が高まっている。また非正規社員の状態で継続して就労している人の割合が、男性で約 5
割、女性で約 7 割となっている。
1 就業構造基本調査における雇用者のうち、「正規の職員・従業員」以外のものをここでは、「非正規社員」と表記する。
5
3) 賃金
2008 年の賃金構造基本統計調査による本県の企業規模別年間所得は、従業員 1,000 人以上(大規模)
で男性は 542 万円(全国:680 万円)
、女性は 303 万円(全国:381 万円)であった。100~999 人(中
規模)では男性が 370 万円(全国:530 万円)、女性が 273 万円(全国:329 万円)となった。従業員
10~99 人(小規模)では、男性は 318 万円(全国:440 万円)、女性は 246 万円(全国:251 万円)で
あった。全国に比べ、本県においては、大規模と中小規模の賃金格差が大きい。
全企業について年齢階級別に賃金を比較した場合、本県では全国に比べて年功による賃金上昇の度
合いが小さく、かつピークが若い世代で訪れる。すなわち、賃金の伸びが遅く、早い時期に賃金の上
昇が止まる傾向がみられる。これは勤続年数の短さなどが影響していることが考えられる。
図表 10 年齢階級別所定内給与(全企業)(2008 年)
男性
(単位:千円)
女性
(単位:千円)
500
500
400
400
格差
300
300
200
200
格差
100
沖縄
全国
0
100
沖縄
全国
0
~19歳
25~29
35~39
45~49
55~59
~19歳
25~29
35~39
45~49
55~59
資料出所:厚生労働省 「賃金構造基本統計調査」(2008 年)
4) 労働時間
総実労働時間 のトレンドをみると、全国同様に低下する傾向にある。ただし、企業規模が小さくな
るほど労働時間が長くなる傾向があり、本県においては中小規模に雇用される労働者の割合が高いこ
とから、全国に比べ長時間労働をしている労働者の割合が高いと考えられる。
5.雇用施策
本県における雇用施策に関して、平成 14 年度を始期とする沖縄振興計画においては、
「雇用の安定
と職業能力の開発」として、
(1)雇用機会の創出・拡大と求職者支援、
(2)若年労働者の雇用促進、
(3)職業能力の開発、
(4)働きやすい環境づくり、(5)駐留軍等労働者の雇用対策の推進、の5
つの項目が掲げられており、
分野別計画として、沖縄県職業安定計画による施策展開が図られている。
なお、職業安定計画はこれまで三次にわたる計画(前期・中期・後期)が策定されており、中期に
相当する第二次沖縄県職業安定計画にあたる平成 19 年度までの実績については、
(1)雇用機会の創
出・拡大と求職者支援、
(2)若年労働者の雇用促進、(4)働きやすい環境づくり、については評価
指標の目標数値を達成しているが、
(3)職業能力の開発と人材育成、(5)駐留軍等労働者の雇用対
策の推進、では目標数値に達していない。
6
III
調査結果
1.求職者・無業者生活実態調査
求職者・無業者生活実態調査においては、①県民アンケート(有効回答数:求職者 114 人、無業者
393 人)
、②求職者ヒアリング(回答者数:90 人)、③学校アンケート(回答数:高校 41 校、専門学
校 21 校、大学 5 校)により調査を行った。
主な質問内容は、求職者・無業者の生活費・住居・相談相手の有無等、生活基盤の状況、求職期間・
無業期間の長さ等である。
求職者では、預貯金の取り崩しにより生活費を確保している者が4割近く(36.8%)おり、また、
世帯年収 200 万円台以下が半数以上(51.8%)を占めるなど、失業により生活基盤が脅かされる求職
者の存在が見受けられた。また、中高年・女性の求職者において、就職困難を訴える意見があった。
無業者においては、就業に対する意欲が低いと考えられる人・失業状態の長期化により就労意欲が
減退した人が合わせて 3.5%みられた。
2.求人・求職実態調査
求人・求職実態調査においては、①県民アンケート(求職者、無業者)
、②企業アンケート(回収数:
321 社)③職業紹介・人材派遣サービス企業ヒアリング(県内中心に職業紹介・人材派遣を行う企業
3 社)
、④学校アンケート、⑤学校進路指導担当者ヒアリング(高校 2 校、大学就職指導団体 1 団体、
専門学校 1 校)
、⑥生徒・学生グループインタビュー(高校生:10 名、専門学校生:14 名、大学生:
5 名に対するグループインタビュー)により調査を行った。
主な質問項目は、求人・求職の希望条件、求人・求職時に使用する情報源、企業が希望する人材像、
就職に必要な資格・スキルについて等である。
調査結果からは、求職者と企業の間には、雇用形態、賃金、求人・求職活動に関する情報等に対し、
ミスマッチがあると推測される。また、求職者・企業双方とも 3 割程度がハローワーク、求人広告な
どと併せて縁故による求人・求職活動を行っており、限定的な範囲での求人・求職マッチングが行わ
れている可能性がある。
教育機関の進路指導担当者ヒアリングにおいては、指導体制の強化や企業の求人数の尐なさ、学生
の就業意欲の低さなどを指導上の課題として感じている。一方で、生徒・学生ヒアリングからは進路
決定における教職員・保護者の影響が強く感じられる。
3.県外就職実態調査
県外就職実態調査においては、①県民アンケート(求職者、無業者、就業者/有効回答数 1,703)、
②職業紹介・人材派遣サービス企業ヒアリング(県外企業への職業紹介・人材派遣を行う企業 3 社)、
③学校アンケートにより調査を行った。
主な質問項目は、県外就職経験の有無、県外就職時の雇用・労働条件、在職期間、U ターン意向の
有無、県外製造業での期間従業員等(いわゆる季節労働)に従事する求職者の状況等についてである。
今回の調査における県外就職経験者の割合は回答者全体の 4 割前後である。直近の県外での就職経験
をたずねると、若年者では契約社員の割合が高く、県外企業の賃金の高さや県外での生活自体に魅力
を感じて就職するが、県内出身者の大半が就職当初から帰沖意向を持っている。
7
4.県民の求職行動・就職に対する意識調査
県民の求職行動・就職に対する意識調査では、①県民アンケート(求職者、無業者、就業者)、②学
校アンケート、③企業アンケートにより調査を実施した。
主な質問項目は、学卒時の求職行動、初職(学卒後初めてついた仕事)
・最長職(調査時点までの職
業経歴の中で、最も長く勤めた仕事)の転職時における求職行動・雇用形態・離職理由、就職に対す
る意識等である。
調査によると、求職行動に関しては、新規学卒者の 1 割程度は卒業後 3 カ月を経過しても就職が決
まらないなど、初職開始時点において長期失業の懸念がある人がいた。また、女性においては出産・
育児等家庭の事情により離職する者の割合が高い。就職に対する意識に関しては、全体の 4 割程度が
転職に対し積極的な意向を持っており、若年者ほどその傾向が強い。働くこと自体に関する意識につ
いては、
収入よりやりがいを仕事に求める人など、
就労意識が比較的高い層は 6~7 割前後とみられる。
5.企業調査
企業調査においては、①企業アンケート、②経済団体ヒアリング(3 団体)により調査を実施した。
主な質問項目は、企業の人事評価・人材育成の状況、従業員の定着状況、教育機関との連携等につ
いてである。
調査結果からは、調査対象企業において何らかの教育・研修制度を整備しているのは約半数にとど
まり、未整備の企業においては今後も整備予定のない企業が多数を占めた。また、教育機関との連携
による人材育成・人材確保に対する意識・関心が低い。ただし、経済団体ヒアリングでは、県内では
中小零細企業が多いこと、現在の経済状況では収益環境が厳しいことなどから、県内企業が人材確保・
育成にかける余力が小さいことや経営者の意識向上などの課題も指摘されている。
6.県外比較調査
①失業者・無業者の生活、②求人・求職、③県外就職、④就労に対する意識、⑤企業の雇用に対す
る意識、の諸点について、県内調査結果等と比較するために、国内 4 都道府(大阪府、京都府、東京
都、北海道)9 カ所において、行政機関、教育機関、経済団体、企業、NPO 法人・財団法人等にヒア
リング調査を実施した。
調査の結果、①失業者・無業者の生活に関わる取り組みとして、さまざまな失業・求職に関する相
談事にワンストップで対応する体制の整備や NPO による居場所・仕事づくりなど、失業・無業状態に
ある人が利用・参加しやすい支援の方策が示唆された。
②求人・求職に関する取り組みについては、商工会議所など既存の団体のネットワークを活用した
潜在求人の掘り起こしとマッチング、企業ニーズに対応した人材育成の重要性がうかがわれた。
③県外就職に関する取り組みについては、地域雇用創出や労働者の資格取得促進等を通じ、季節労
働者の通年雇用化の促進を図り、雇用の安定化に取り組む事例がみられた。
④就労に対する意識に関しては、教育機関が企業や地域団体とのネットワークを通じ、生徒・学生
に多様な就業経験・社会経験を体感させることにより、自己効力感(やればできるという感覚)を醸
成し、就労意欲の向上につなげる取り組みがあった。
⑤企業の雇用に対する意識については、企業から従業員に対する明確な経営理念の発信とそれに基
づく充実した人材育成の重要性を示唆する事例がみられた。
8
IV
沖縄の雇用・労働の現状と課題
1.統計データからみえる課題
本県は第 3 次産業(サービス産業)の占める割合が高い産業構造となっており、これらの産業では他
の産業に比べ臨時雇率が高く、不安定な就労形態での雇用の割合が高くなる。加えて、賃金水準が大
企業に比べて低い中小企業に雇用される労働者の割合が全国よりも高い。これらのことから、本県の
労働市場は転職等が多いため勤続年数が延びにくく、かつ企業規模からみても低賃金になりやすい労
働市場となっている。
不安定・低賃金な労働市場であるが故に、たとえ就業者であっても失業のリスクが高く、仮に就業
したとしても転職などにより、再び失業者に移行しやすいことが考えられる。また、勤続年数の短さ
から企業内教育等による能力開発機会が尐ないことが低賃金・失業のリスクを高めていると考えられ
る。また、全国と比べて大学卒業者など高等教育修了者の雇用の受け皿が尐ないことも要因として考
えられる。加えて、女性の労働市場への進出が進んでいることから、男性の就業者が失業者へとシフ
トしていることも考えられる。これら様々な作用が連関し、慢性的に高い失業率をもたらしていると
推察される。
2.アンケート・ヒアリング調査からみえる課題
1)求職者・無業者の生活基盤
求職者の世帯年収については、300 万円未満が半数を占めている。世帯年収が 300 万円未満の世帯
は、無業者では 4 割弱となっており、無業者に比べ年収の低い世帯の割合が高い。
無業者に関しては、回答者のうち、専業主婦・主夫が約 4 割、年金生活者等が約 3 割、学生が 1 割
弱であった。
「理由はないが仕事を探していない」が 2.0%、「仕事を探していたがあきらめた」とい
う人は 1.5%であった。
図表 11 世帯年収
項目
100万円未満
100万円台
200万円台
300万円台
400万円台
500万円台
600万円台
700万円台
800万円台
900万円台
1000万円以上
無回答
総計
実数
就業者 求職者
無業者
66
18
31
114
19
46
169
22
65
209
15
64
146
15
35
120
4
35
96
2
27
66
0
15
43
2
9
40
1
4
60
1
6
67
15
56
1196
114
393
総数
115
179
256
288
196
159
125
81
54
45
67
138
1703
9
就業者
5.5
9.5
14.1
17.5
12.2
10.0
8.0
5.5
3.6
3.3
5.0
5.6
100.0
構成比(%)
求職者
無業者
15.8
7.9
16.7
11.7
19.3
16.5
13.2
16.3
13.2
8.9
3.5
8.9
1.8
6.9
0.0
3.8
1.8
2.3
0.9
1.0
0.9
1.5
13.2
14.2
100.0
100.0
総数
6.8
10.5
15.0
16.9
11.5
9.3
7.3
4.8
3.2
2.6
3.9
8.1
100.0
無業者では約 6 割が持ち家に住んでいると回答しており、民間・公営の賃貸住宅に住む人は約 3 割
であった。賃貸住宅の家賃負担者は「配偶者」が約 6 割であり、専業主婦が多いことから、家賃をは
じめとする家計の主たる負担者が他の家族(夫)となっていることが分かる。
求職者では無業者や就業者に比べ、民間賃貸住宅に住んでいる人の比率が高く、失業により収入が
途絶えた場合、住居の確保に影響を受ける人の割合が高いといえる。また、賃貸住宅に住む求職者の
約 3 割は家賃負担者を「自分」と回答しており、失業による住居喪失のリスクが生じている。
図表 12 住まいの状況
項目
持ち家
アパート・貸家など民間の賃貸住宅
県営団地・公営賃貸住宅
社宅・公務員住宅
その他
無回答
総計
就業者
653
390
58
25
36
34
1196
実数
求職者
無業者
52
241
39
97
12
17
1
10
3
8
7
20
114
393
総数
946
526
87
36
47
61
1703
就業者
54.6
32.6
4.8
2.1
3.0
2.8
100.0
構成比(%)
求職者
無業者
45.6
61.3
34.2
24.7
10.5
4.3
0.9
2.5
2.6
2.0
6.1
5.1
100.0
100.0
総数
55.5
30.9
5.1
2.1
2.8
3.6
100.0
2)求人・求職の実態
企業においては、大半の企業が従業員規模を「ちょうどよい」と考えており、従業員の採用は不定
期な欠員補充、即戦力志向が強い。
求職者・企業ともに、求人・求職に利用するツールは「ハローワーク」
「紹介」
「新聞広告・求人誌」
がベスト3である。しかし、企業側からは「希望する人材の応募は尐ない」との回答の割合が比較的
高いことから、
「人柄がよくわかり」
「手間のかからない」紹介の評価が比較的高いといえよう。した
がって、求人・求職ニーズが顕在化しないまま、転職が行われるケースは尐なくない。
求職者が知りたい情報、企業が PR している情報にはミスマッチがある。
「年金・保険・育児休業等
の福利厚生」など待遇に関する項目では、求職者の関心が高いのに対し、企業の回答割合は低めであ
る(求職者:44.7%、企業:20.9%)
。一方で、企業からは「欲しい人物像」について PR を図ってい
るのに対し、求職者の関心が低い(求職者:8.8%、企業:29.9%)
。
「就業に必要な資格・スキル」に関して、運転免許については、企業アンケートで「運転免許は必
須」
「あるほうが望ましい」と回答した企業が合わせて約 9 割であり、運転免許を持っていることが
就職に有利に働くと考えられる。一方、求職者で「運転免許を持っている」人は約 8 割であるが、約
1 割は免許を持っておらず、これらの人々は就職活動において不利な立場になりやすいと考えられる。
「PC スキル」については、企業の求める水準と求職者のスキル水準に大きな乖離はないが、キーボ
ードが使用可能であれば、若干雇用可能性が高まる見込みがある。
10
図表 13 求職者が知りたい求人情報と企業が PR している求人情報
項目
求職者(%)
企業(%)
担当する仕事の具体的内容
月給・賞与など報酬の具体的内容
必要な経験・技術・資格
残業・休日出勤・夜勤の有無
年金・保険・育児休業等の福利厚生
契約更新・定年等の雇用期間
転勤の有無、勤務地情報
64.0
62.3
56.1
45.6
44.7
28.1
24.6
70.4
50.2
61.4
31.8
20.9
6.5
5.9
採用者数と離職者数の動向
企業の事業内容や将来展望
不採用の理由
服装・髪型・職場の雰囲気
昇給や昇進の具体的内容
経営者の人柄
経営方針
協調性や人柄といった人物像の具体的内容
入社後のキャリア形成
その他
無回答
22.8
21.9
21.9
16.7
16.7
14.0
12.3
8.8
10.5
2.6
6.1
5.0
26.8
4.0
10.3
6.9
2.2
17.4
29.9
7.8
0.9
3.1
N=求職者:114、企業:321
※複数回答のため構成比の合計は 100%を
超える。
3)県外就職の実態
県外就職を経験したことがあるのは、男女とも 4 割前後である。就職理由については、「県外で生
活をしてみたかった」
「給料がよかった」
「知識・技術が身に付くから」
「自分に合いそうな内容の仕事
があった」などの回答が高い。県外での就職には約 4 割は同行者が「あり」と回答している。
離職理由では 20 代など若年者では「定年・契約期間満了」の割合が高いが、年齢が上がるにつれ、
「親族・友人知人から帰るように言われた」が高まる。また、女性は男性に比べ「結婚、出産・育児、
介護など家庭の事情」による離職が高くなっている。
図表 14 県外就職の理由(左)
、離職理由(右)(複数回答)
項目
知識・技術が身に付くから
給料がよかった
自分に合いそうな内容の仕事があった
昇進やキャリアに将来性があった
会社の将来性が期待できた
勤め先のイメージがよかった
肉体的・精神的に負担が尐なそうだった
希望の雇用形態(正社員など)だった
結婚、出産・育児、介護などとの都合で
労働時間が適当・休みがとりやすそうだった
保険、福利厚生が整っていた
最終的に出た学校が県外だったから
県外で生活をしてみたかった
親族・友人知人の紹介・すすめがあったから
親族・友人等が県外で働いていたから
もともと県外出身だから
その他
無回答
サンプル数
実数
140
175
115
16
36
45
10
46
11
17
46
56
181
70
59
69
63
14
642
構成比
(%)
21.8
27.3
17.9
2.5
5.6
7.0
1.6
7.2
1.7
2.6
7.2
8.7
28.2
10.9
9.2
10.7
9.8
2.2
-
項目
知識・技術が身に付かなかったから
給料に不満
仕事内容が自分にあわない
雇用形態に不満
昇進やキャリアに将来性がなかった
希望退職に応募
会社の将来性に期待が持てなかった
退職を強要・解雇された・されそうだった
職場の人間関係がつらかった
勤め先が倒産・廃業した・しそうだった
肉体的・精神的に負担が大きかった
定年・契約期間満了
結婚、出産・育児、介護など家庭の事情
労働時間が長い・休みがとれなかった
保険・福利厚生が整っていなかった
県外の生活になじめなかった
県出身の同僚・友人等が沖縄に帰ったから
県外出身で、沖縄で生活してみたかった
親族・友人知人から帰るように言われた
その他
無回答
サンプル数
※複数回答のため構成比の合計は 100%を超える。
11
実数
14
36
45
14
19
13
23
13
50
12
79
86
128
23
9
42
29
26
117
94
29
642
構成比
(%)
2.2
5.6
7.0
2.2
3.0
2.0
3.6
2.0
7.8
1.9
12.3
13.4
19.9
3.6
1.4
6.5
4.5
4.0
18.2
14.6
4.5
-
4)県民の求職行動・就職に対する意識
○求職行動
学卒後初めて就いた仕事(初職)は、男女ともに、卒業前に約半数、卒業後 1 カ月未満で約 7 割、
卒業後 3 カ月未満で約 8 割が決定する。初職については回答者全体の 6 割前後が正社員で就職するも
のの、概ね 3 年~5 年前後で半数近くが離職している。離職理由としては、男女ともに「仕事内容が自
分に合わなかった」
「給料に不満」
「肉体的・精神的な負担が大きい」という回答の割合が高い。
最長職の離職理由では、
「結婚、出産・育児、介護など家庭の事情」が高い回答割合となり、次に「肉
体的・精神的な負担が大きい」となっている。
縁故採用による就職については、回答者の 3 割程度が、縁故による就職を経験しているとみられ、
男女とも回答が多い順に「友人・知人の紹介」「家族・親族の紹介」「家族・親族の経営する職場」の
順となっている。
○就職に対する意識
理想的な仕事については、男女ともに「収入の安定」が最も高い回答割合となっている。就職に対
する考え方では、回答者全体でみた場合、
「時間をかけて希望にあう就職」と「条件をゆるやかにした
早めの就職」とがほぼ拮抗した。転職に対する考え方では、年齢が上がるほど「今より良い条件の勤
め先があっても、一つの勤め先に長く勤める方がよい」という回答の割合が上昇する傾向にある。
ただし、若年層とりわけ 20 代では、就職活動において自分の希望にあった就職のために、時間を
かけたり転職したりすることに比較的抵抗が尐なく、楽しい仕事を選択したいという傾向が他の世代
に比べて強い。
仕事と生活のバランスについては、全体的に「仕事と家庭の両立」に対する回答が最も高いものの、
女性では「生活中心」
「どちらかといえば生活中心」の回答割合が高く、男性では「仕事中心」「どち
らかといえば仕事中心」の回答割合が高い。
働くことに対する考え方では「たとえ経済的にめぐまれていなくても、気ままに暮らす方がよい」
など働くことに対し消極的な考え方を持つ人は 2~3 割程度で、
「あまり収入が良くなくてもやりがい
のある仕事がしたい」など働くことに対し積極的な回答は 6~7 割程度となり、県外類似調査(社会
経済性本部「新入社員<働くことの意識>調査」)の結果とほぼ同じ傾向となった。
図表 15
働くことに対する考え方
項目
たとえ経済的に恵まれなくても
気ままに暮らす方がいい
仕事は稼ぐための手段であって
面白いものではない
あまり収入がよくなくてもやりが
いのある仕事がしたい
将来の幸福のためには、今は
我慢が必要だ
どこでも通用する専門知識を身
につけたい
どちらかと
いえば
そう思う
どちらかと
いえばそう
思わない
4.0
15.0
16.2
53.4
7.8
3.6
100.0
8.2
20.7
18.1
40.5
9.2
3.4
100.0
19.3
38.3
14.0
11.7
13.5
3.2
100.0
30.0
38.3
8.7
7.8
11.9
3.3
100.0
62.8
24.1
2.3
2.5
4.8
3.4
100.0
そう思う
12
そう
思わない
なんとも
いえない
無回答
計
5) 企業の雇用に対する意識
従業員の人事評価について、何らかの形で文書化されている企業は回答企業全体の約 2 割にとどま
り、人事評価制度が確立していない企業が多い。
また、従業員への経営理念の浸透については、企業によりある程度の差はあるが、従業員に何らか
の形で企業理念の浸透を図っている。しかし、「企業理念等を従業員に話すことは特にない」「経営理
念等のあり方について、深く考える機会がない」という企業が約 1 割ある。これらの企業では、従業
員からみて「会社・上司が何を考えているか分からない」という不満を持ちやすい環境があると考え
られる。
従業員に対し何らかの教育・研修を行っている企業は約 5 割であった。一方で、教育・研修を行っ
ていない企業については、今後も教育研修制度を整備する予定がない企業の割合が高く、教育・研修
制度の整備について、企業間の温度差が大きい。
インターンシップについては、受入経験があるのは回答企業全体の約 3 割で、多くの企業は受入経
験がない。受入経験がない企業に対し、今後の受入意向についてたずねた質問では、「受け入れたい」
という企業は約 2 割にとどまり、約 6 割が「受け入れたくない」と回答するなど、インターンシップ
の受入に否定的な企業が多い。
図表 16 研修教育制度の有無と今後の研修・教育制度の整備意向
実数
174
131
16
321
ある
ない
不明
総計
構成比(%)
54.2
40.8
5.0
100.0
現在、具体的な計画がある
現在、具体的な計画はない
不明
総計
実数
9
114
8
131
構成比(%)
6.9
87.0
6.1
100.0
図表 17 インターンシップの受け入れ状況
項目
農林水産業
鉱業・製造業
土木建築業
電気・ガス・熱・水道業
通信業
情報サービス業
卸・小売業
金融・保険業
不動産・リース業
飲食業
宿泊業
サービス・娯楽業
医療・福祉
教育・学習支援業(民間)
郵便局・農協・漁協
その他
総計
受
入
れ
て
い
る
実数
が受
一け
度入
もれ
なた
いこ
と
て以
い前
たは
受
け
入
れ
1
6
11
2
0
5
14
2
2
2
1
13
1
1
0
18
79
0
3
8
0
0
0
6
1
0
0
0
3
1
0
0
8
30
3
15
32
6
2
7
49
2
17
4
0
21
6
3
2
28
197
無
回
答
総
計
0
1
5
1
0
2
2
0
0
1
0
1
0
0
0
2
15
13
受
入
れ
て
い
る
4
25
56
9
2
14
71
5
19
7
1
38
8
4
2
56
321
25.0
24.0
19.6
22.2
0.0
35.7
19.7
40.0
10.5
28.6
100.0
34.2
12.5
25.0
0.0
32.1
24.6
(サンプル数:321)
構成比(%)
て以
が受
無
総
い前
一け
回
計
たは
度入
答
受
もれ
け
なた
入
いこ
れ
と
0.0
75.0
0.0
100.0
12.0
60.0
4.0
100.0
14.3
57.1
8.9
100.0
0.0
66.7
11.1
100.0
0.0 100.0
0.0
100.0
0.0
50.0
14.3
100.0
8.5
69.0
2.8
100.0
20.0
40.0
0.0
100.0
0.0
89.5
0.0
100.0
0.0
57.1
14.3
100.0
0.0
0.0
0.0
100.0
7.9
55.3
2.6
100.0
12.5
75.0
0.0
100.0
0.0
75.0
0.0
100.0
0.0 100.0
0.0
100.0
14.3
50.0
3.6
100.0
9.3
61.4
4.7
100.0
V
これまでの施策検証と今後の方向性
1.これまでの施策検証
これまでの施策実績については、「地域雇用開発促進法に基づく雇用開発の促進」では、概ね約 1
万 4,000 人の雇用創出が図られたとみられる。施設訓練においては、沖縄振興計画開始時点の平成 14
年度から平成 20 年度までに 1 万 7,551 人が公的職業訓練により就労を果たすなど、一定の雇用創出
効果をもたらしている。
しかし、施策に対する県民・企業の周知は十分でないと感じられている。インターンシップ等、若
年者のキャリア形成に関する施策については、企業意識の向上や実施方法の改善に対する意見がみら
れる。
また、年齢層が上昇するにしたがって、公的就業支援サービスが「役に立つ」と回答する人の割合
が低下する傾向がみられ、中高年の就労支援について再検討する必要がある。
2.今後の雇用情勢に関する推計
国立社会保障・人口問題研究所「日本の都道府県別将来推計人口」
(平成 19 年 5 月推計)によると、
沖縄県の総人口は、男性は 2025 年、女性では 2030 年をピークに減尐するものと推計されている。そ
れに基づいて、労働力率や就業率の推計を行い、全国並みや類似県並みの失業率を確保するには、ど
の程度の就業者増を図ればいいかを検討した。
1) 生産年齢人口の年齢階級別労働力率と就業率の推移と見通し
国勢調査による 1970 年から 2005 年までの年齢階級別就業率のトレンドによる単純延長の推移に基
づき、労働力率を推計した場合、男性は全ての年齢階級で労働力率が低下する傾向にある。逆に、女
性では全ての年齢階級において上昇する傾向にある。
また、年齢化階級別就業率のトレンドによる単純延長の推移に基づき、就業率を推計した場合、男
女ともに、就業率は低下する傾向にあり、男性の就業率の低下は顕著に見える。
2) 全国なみの失業率水準に必要な生産年齢人口の就業者数の見込み
2005 年の全国の失業率は男性が 6.8%、女性が 5.2%であるが、その水準を確保するためには、2005
年の就業者数に対し、男性では 2010 年には約 3 万人、2020 年では約 3 万 7,000 人の追加就業者が必
要と見込まれる。女性では 2010 年に約 1 万 3,000 人、2020 年では 1 万 8,000 人の追加就業者が必要
と見込まれる。
3) 類似県並み(現状維持)の失業率水準に必要な生産年齢人口の就業者数の見込み
2005 年の類似県並み(現状維持)の失業率は男性が 10.1%、女性が 6.5%であるが、その水準を確
保するためには、2005 年の就業者数に対し、男性では 2010 年に約 1 万 8,000 人、2020 年に約 2 万
5,000 人の追加就業者が必要と見込まれる。一方、女性では 2010 年に約 9,000 人、2020 年に約 1 万
3,000 人の追加就業者が必要と見込まれる。
すなわち、2010 年では男性で 1 万 8,000~3 万人、女性で 9,000~1 万 3,000 人の雇用が必要と考
えられる。また、2020 年では男性で 2 万 5,000~3 万 7,000 人、女性で 1 万 3,000~1 万 8,000 人の
雇用が必要と考えられる。そのためには、企業の一層の生産性向上、男女の均等な雇用機会の確保、
労働者のワーク・ライフ・バランスの確立、非正規雇用者の雇用安定化、失業者のセーフティネット
と能力開発機会の確保など、雇用の質・量の拡充が重要である。
14
3.まとめ
1) 地域特性を活かした雇用の拡大と社会環境の変化に対応した雇用の創造
本県においては、人口増加による労働力供給圧力が強く、失業率も高くなりやすい状況にあるが、
沖縄振興計画に基づく雇用関連施策により雇用創出が図られたことで、雇用情勢の悪化に歯止めがか
かっているものと考えられる。
ただし、本県においては 2015 年ごろまでは生産年齢人口の増加が続き、加えて、より一層の女性
や中高年の労働市場への参入が見込まれることから、当面の間、さらなる雇用創出が必要と考えられ
る。
今後の雇用創出の方向性については、第一に、本県の地域特性を踏まえた産業振興と雇用拡大であ
る。自然・文化を活かした観光関連産業や、企業集積が進む情報通信関連産業、地理的条件を活かし
た物流分野での雇用創出等、産業振興施策とリンクした、本県の特徴を活かし競争力を持ちうる産業
分野での雇用の拡大が期待される。また、農商工連携による雇用創出、産業の高度化に対応しうる中
核人材の育成・確保に向けた新卒者の採用促進や UIJ ターン人材のマッチング促進なども強化する必
要がある。
第二に、今後進行する尐子化・高齢化等、社会の変化に対応した雇用の創造である。多様な雇用・
労働のあり方や、
今後直面する社会的課題の解決に向けた雇用の創造に向けた取り組みの一つとして、
ソーシャル・ビジネスやコミュニティ・ビジネスの創業を促進することが期待される。本県において
も、これら新たな視点に立った働き方や雇用の創造が期待される。
2) キャリア形成に対する意識の向上
将来の労働者となる児童生徒の教育や意識啓発においては、新規学卒者の進路未決定率が低下する
など関連施策の効果がうかがえる。今後も引き続き、県民の意識啓発やキャリア形成に関する児童生
徒・学生の教育・支援体制の整備を推進することが重要である。
厳しい雇用情勢や県内企業の雇用・労働条件の低さから、若年者にとっては長期的なキャリア形成
の見通しが立てにくいと考えられるが、短期的な視野に立った就業行動は、キャリア形成や資質向上
機会の逸失を招き、年齢の上昇とともに再就職を困難にし、失業率の高止まりや非労働力化を招くこ
とにつながるおそれがある。教育機関等を通じた生徒・学生の指導・支援の拡充を図るとともに、起
業による仕事おこしなど、自ら仕事をつくる意欲をもつ人材の育成も検討されてよい。
また、保護者の意向が若年者の就職行動に影響を与えている状況も見受けられることや、若年者の
キャリア形成や人材育成に対する企業の関心の薄さなどを考慮し、今後の若年者の就労支援において
は保護者や企業など、教育機関以外の個人・団体を巻き込んだ取り組みが期待される。
3) 企業の「雇う力」
、労働者の「働く力」の向上
本県は中小零細規模の事業所の割合が他県よりも高く、企業においては雇用・人材育成にかける経
営リソースが脆弱であること、労働者においては雇用・労働環境の改善に対する意識向上や経営者に
対する意思表示がしにくい環境があると考えられる。
沖縄振興計画においても、企業・労働者に対する雇用支援施策が展開されてきたが、事業のより一
層の周知・活用を促進することが課題である。労使双方における雇用・労働条件の向上に対する意識
啓発を図るとともに、中小零細企業が活用しやすい雇用支援施策の検討や、労働者が職業人としての
資質を高めるための公的職業訓練をはじめとする多様な資源を活用した人材育成施策の強化などが望
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まれる。また、労働組合の育成・支援による雇用・労働環境の向上や企業の商工会等地域経済団体へ
の加入促進など、労働者・企業双方の組織化を促進し、労使の「雇う力」
「働く力」の向上が期待され
る。
4) 働き続けられる環境づくりの促進
本県において雇用情勢を改善するためには、雇用創出と同等もしくはそれ以上に雇用の安定化が重
要である。
「働きやすい・働き続けられる職場づくり」の実現を通じて、就労者の職場への定着を図り、
離職率を抑えることが本県の失業率の低下に大きな役割を果たすと考えられる。とりわけ女性におい
ては、出産・育児等による就労の中断が大きく影響しているものとみられる。
新たに就職しようとする新規学卒者や再就労を図ろうとする女性・中高年など、新規あるいは再度
労働市場に参入しようとする人々が就労に際して感じる困難の多くは、個々の企業や個人に由来する
ものより、雇用・労働にかかる社会制度や慣行に起因するケースが多いと考えられる。今後の雇用施
策においては、こうした労働市場への参入障壁を取り除き、就労を通じ多様な個人が社会に参画する
「社会的包摂」の視点に立った雇用施策が求められよう。
追補
本調査報告の今後の活用方法
本調査は、本県の雇用構造、賃金構造等労働実態の把握を通じ、沖縄振興計画に基づく雇用施策の
成果と課題の検証を図ることを目的として実施された。国・県においては、本報告書の知見を、類似
調査の成果と合わせて精査の上、県民・企業・教育機関等の支援ニーズを整理し、全県的な雇用・労
働施策の企画立案の参考資料として活用されることを期待したい。
また、本調査の結果をはじめ雇用労働に関する調査研究の知見について、広く普及を図り、本県の
雇用・労働の現状と課題について県民全体の共通認識を図ることが望まれる。
次に、教育機関・企業・経済団体・県民においては、求職側・求人側それぞれの立場から相手方の
意識をみるとともに、他の求人企業・求職者の動向と自らを比較し、それぞれの求人・求職活動の参
考にしていただきたい。
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