妊娠糖尿病と診断されたら

平成 26 年 8 月 27 日放送
妊娠糖尿病と診断されたら
土浦協同病院
栄養部 栄養主任 飯塚真理子
司会: 妊娠糖尿病とはどんな病気なのですか?
飯塚: 妊娠に伴って起こる糖尿病にまではなっていない軽い糖代謝異常ですが、赤ちゃんの
過剰発育や周産期リスクが高くなります。出産後に改善する方がほとんどですが、一
定期間後に糖尿病になる可能性が高くなります。そのため軽くてもきちんとした治療
が必要になります。
司会: どうして妊娠糖尿病が起こるのでしょうか?
飯塚: 食べた物は体の中で消化・吸収されブドウ糖となり血液中に入ります。血液中のブド
ウ糖を血糖といい、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンによって全身に取
り込まれ肝臓や筋肉・脂肪細胞でエネルギー源として蓄えられます。お腹のなかで赤
ちゃんが大きくなるにつれて胎盤からインスリンの働きを抑えるホルモンが分泌さ
れたりするためインスリンの効きにくい状態が強まり血糖が上昇しやすくなります。
司会: 妊娠糖尿病はいつの時期にどう診断するのですか?
飯塚: 妊娠の早い時期の妊娠 10 週目前後に血糖検査を行い数値が高い人はブドウ糖を飲む
負荷試験をして診断します。妊娠が進むにつれ血糖値を下げるインスリンというホル
モンが効きにくくなるため妊娠 24∼28 週目の妊娠中期にもブドウ糖負荷試験をする
のが一般的です。特に肥満であったり糖尿病の家族歴がある人などは必ず検査を受け
ることをお勧めします。
司会: 妊娠糖尿病になると何がおこるのですか?
飯塚: お母さんの体の血糖値が高くなると血液中のたくさんのブドウ糖は胎盤を通って赤
ちゃんに運ばれます。赤ちゃんは自分の膵臓からインスリンを分泌して糖を取り込み
ます。そもそもインスリンは成長ホルモンですので多く分泌されると赤ちゃんが成長
し過ぎて巨大児になったりと様々な合併症を引き起こします。妊娠糖尿病より重度な
糖尿病合併妊娠では、お母さんの妊娠初期の血糖が高いと先天奇形が起こりやすくな
ったり流産や早産のリスクが高くなりますですから、妊娠中の血糖値を十分に管理す
ることが健康な赤ちゃんを産むためには非常に大切です。また、糖尿病がすでにある
方は計画妊娠することが大切です。
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司会: 妊娠中にどんなことに注意すれば良いのでしょうか?
飯塚: 血糖値を目標値に近づけることが最も大切で、食前血糖値が 100mg、食後 2 時間で
120mgを超えないように管理します。妊娠すると運動してカロリーを消費する事が
難しいため、まず食事療法を行います。食事療法と言っても必要な栄養をきちんと摂
らないと赤ちゃんは大きくなれません。お母さんと赤ちゃんがともに健康に妊娠を継
続でき、食後に高血糖や食前に低血糖にならないような食事が出来れば良い事になり
ます。
司会: ではどんな食事療法をするのか妊娠糖尿病の食事についてのポイントを教えて下さ
い?
飯塚: 普段から食生活を整えることは健康であるためにはとても大事なことです。妊娠糖尿
病の場合、血糖をコントロールして元気な赤ちゃんを産むためにもバランスのよい食
事を意識した食生活をする事が大切です。バランスの良い食事とはご飯,パン、麺類
などの主食と肉や魚、大豆製品などの主菜、野菜などの副菜を偏らずに食べる事が大
切です。また、早食いは食後血糖が高くなるばかりか食べ過ぎの原因となります。で
すからゆっくり良く噛んで食べる事が大切です。ゆっくり良く噛んで食べることで食
後血糖が穏やかになり食べ過ぎを防ぐことが出来ます。妊娠中の体重増加は母子の健
康のためにも大切なことですので適切な体重管理を心がけましょう。肥満の方では血
糖コントロールがそして妊娠糖尿病の食事で最も注意しなければならないことは、1
回の食事量を控え 1 日 5∼6 回に分割して食べることで食後の血糖を抑えることがで
きます。
司会: では、分割食について詳しく説明して頂いてもよろしいですか?
飯塚: 食事療法の基本は 1 日に必要なカロリーを 3 食で均等に食べる事です。しかし、妊娠
糖尿病の場合、1 日 3 食で食べる事でかえって食後血糖が高くなってしまいます。そ
こで 1 回あたりの食事量を少なくし 1 日数回に分けて食べることが必要になります。
例えば朝食、10 時、昼食、15 時、夕食と 1 日 4、5 回に分けて食べる事で食後高血糖
を抑えることができます。10 時と 15 時の間食は軽食と捉え、なるべく菓子類ではな
く食事に近いおにぎりやパン、果物、乳製品などを選びましょう。分割して食べるこ
とは食後の血糖値に限らず急な体重増加も抑えることができます。
司会: 食事回数が増えることで食後血糖が上がってしまうような気がしますが?
飯塚: 1 回の食事量を増やして食べれば当然血糖は上昇しやすくなりますが、1 日に必要な
カロリーの範囲内であれば少量ずつ数回に分けて食べるほうが血糖に与える影響も
少なくなります。血糖値は食品中の炭水化物量に影響されます。炭水化物を多く含む
食品は穀類、芋類、果物ですので 1 回の食事で炭水化物を意識し分割して食べる事で
食後高血糖を防ぐことが期待出来ます。
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司会: 食事で炭水化物を制限し過ぎてもいけないのですか?
飯塚: はい。食事で炭水化物を必要以上に制限する必要は全くありません。胎児の精神発達
に悪影響を及ぼすなどの報告もあり現在、極端な炭水化物制限食を長期的に行うこと
への安全性が確認されていないため勧められません。
司会: 妊娠中で育児やお仕事などの都合により分割食が出来ない場合はどんな工夫をすれ
ばよいでしょうか?
飯塚: 食事のポイントは空腹時間を長くしないことです。食事と食事の間が空きすぎてしま
と空腹感が強くなり早食いによって食べ過ぎてしまいます。結果的には食後血糖が上
昇しやすくなります。一般的には朝食から昼食の間より昼食から夕食の間が長くなる
ことが多いようですので昼食と夕食の間に 1 回間食を取り入れることで夕食の食べ
過ぎが抑えられます。
司会: では妊娠中、外食ではどんなことに注意すればいいですか?
飯塚: そうですね。妊娠中であっても外食は避けて通れません。最近ではサラダやデザート
などはビュッフェスタイルが多いですので食べ過ぎに注意しましょう。サラダビュッ
フェではスパゲティーや芋類、南瓜などのサラダも多いですねこれらは炭水化物です
ので食べ過ぎに注意しましょう。外食を選ぶ時のポイントとしては食材が多く使われ
ているメニューなどを選びカロリーを確認することも大切ですね。また、外食は主食
量が多いので主食は半分程度を心がけましょう。油が多く使用されているメニューは
食後血糖が下がりにくいため食べる量とタイミングを意識されると良いでしょう。
司会: 今後、妊娠の予定がある方に何かアドバイスがあればお願いします。
飯塚: 日頃から気をつけて頂きたいことは 3 つあります。欠食や過食をしないこと。偏らず
に食べること。ムラ食いしないこと。現在、食生活の乱れや食習慣の変化により年齢
層に関係なく妊娠糖尿病が増えています。
「食」は「体の源」
。日頃から食事に興味を
もちバランスを意識して規則正しい食事を心がけたいものです。
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