平成17年度修士学位論文・卒業論文の要旨一覧へ

・修士論文
「護岸前面被覆層の被災に伴う越波低減性能変化に関する研究」
護岸前面の水位変動特性としては,荒天時の場合,波の方向分散性に伴って波高が局所的に一
方向波を対象とした場合より大きくなることが十分に考えられる.この多方向波浪場における波
高増大は,護岸越波流量の局所的な増大,また護岸前面の被覆材の局所的な損傷を引き起こし,
この被覆材の損傷はさらに越波量の増大の誘因になることも考えられる.本研究では,まず多方
向不規則波浪場における護岸軸方向の越波量の空間分布,並びに護岸前面の消波被覆材の被災分
布を実験及びシミュレーションより明らかにする.次いで,消波被覆材の被災進行に伴う護岸の
消波機能の劣化度合いを明らかにするため,被覆層の最終破壊に至るまでの各損傷モードにおけ
るダメージパラメータと越波量の関係を定量的に明らかにし,性能設計のための基礎資料を得る
ものである.
キーワード:被覆層の被災,越波量,波の方向分散性
「一様勾配斜面上に発生する長周期波に関する研究」
斜面上に数十秒から百数十秒の周期を持つ長周期波が発生することが古くから知られている.
これに対して Symonds ら(1984)は波群モデルによる説明を試みたが入射波の条件が限られている
ため適用性がない. Mei(1989),Liu ら(1990)はスペクトルを持つ不規則波を対象としたモデル
の開発を試みたが,解くことの困難な1階の微分方程式を導くにとどまっており,現状ではこの
分野の研究は停滞している.この研究では,斜面をステップ地形で近似し,それぞれの領域で1
次波のポテンシャルを仮定し,隣り合う領域のポテンシャルに対して境界接続法を用いてすべて
の波を確定する.この結果を組み合わせてステップ上の合成波のポテンシャル場,さらに,成分
波相互の非線形干渉による長周期拘束波を求める.最後に1次波と同じ方法で,ステップで近似
した斜面上に発生する長周期自由波をもとめて拘束波と合わせた海底斜面上の長周期波システム
を明らかにする.この結果はスペクトルを持つ不規則波浪の場合に拡張する.
キーワード:長周期拘束波,長周期自由波,ステップ近似,境界値問題,波の相互作用
・卒業論文
「人工リーフにおける捨石の移動特性に関する研究」
最近,海岸構造物においても性能設計の導入が図られるようになってきた.この設計法では,
構造物の変形と機能変化との関係が明らかであることが要件の一つである.本研究は,捨石で構
築される人工リーフの断面変形予測モデル開発の第1段階として,波の作用による捨石の移動特
性について検討したものである.水理模型実験で得られた人工リーフの断面変化量と,波浪変形
モデルにより求められた波の作用に関する諸量との関係をもとに,捨石の移動特性を検討した.
キーワード:人工リーフ,捨石,断面変形,波浪変形モデル
「多方向不規則波浪場における護岸越波流量の空間変化について」
本研究では,多方向波における護岸軸方向の越波量に関する空間変化を明らかにするため,水
理模型実験より前面に消波被覆を設けた直立傾斜護岸を対象に一方向波との違いを検討した.平
均越波流量は従来指摘されているように波の方向分散性が弱くなるに伴って増加するが,護岸軸
方向の超波流量の空間変化特性に対して波の方向分散性の影響として,局所的に多方向波の越波
流量が一方向波より大きく現れることが被覆捨石上のネットの有るときと無いときとで実験的に
確認した.
キーワード:多方向不規則波,一方向不規則波,越波流量
「砕波に伴って発生した気泡の特性について」
砕波は沿岸域における水理現象を決定する要因である.砕波現象に関する検討は現地での測定
が困難であるために実験を中心に行われている.このためスケールの違いが常に問題となってい
るが,現在まで効果的な解決方法は提案されていない.この研究は気泡と砕波の特性との関係を
明らかにすることで,ビデオ撮影により砕波を間接的に測定することを可能にすることを目的と
して基礎的な検討を行なったものである.
キーワード:砕波,気泡,水理実験
「傾斜堤体の断面変形が消波性能に及ぼす影響に関する研究」
最近,海岸構造物の設計においても性能設計の必要性が認識されるようになってきた.この設
計法では,構造物の耐用期間を通した性能の評価が必要とされ,性能を損なわない範囲での構造
物の変形や移動は許容し得るとされる.本研究では捨石傾斜堤を対象として,堤体断面の形状変
化と消波性能の変化について,主に水理模型実験により検討した.実験においては,越波量,反
射率および波の打ち上げ高を測定し,これらにより性能を評価した.
キーワード:捨石傾斜堤,越波量,反射率,打ち上げ高
「ビデオ画像を用いた離岸流の基礎的研究」
近年,海水浴中の水難事故が数多く,鳥取海岸でも毎年海難事故が発生しており,その原因と
して多いのが離岸流である.事故を防ぐためには,離岸流の特性について明らかにする必要があ
る.しかし,従来の観測方法では大変な時間と労力を要する.本研究では,離岸流の解析を容易
にするためビデオ画像を用いて鳥取海岸の離岸流の特性について明らかにする.特に発生場所や,
発生間隔と周期・砕波帯との関連性について基礎的な検討を行った.
キーワード:離岸流,発生間隔,ビデオによる画像処理
「鳥取砂丘海岸の短期汀線変動に関する研究」
現在,海浜変形の調査の多くは,年に1∼2度の撮影や現地調査に限られていることが多い.
海浜変形には,一年以下の短期的なもの(周年変化)と十年以上にわたる長期的なものがあるが,
データが乏しいため前者の検討は通常行われていない.本研究は,鳥取砂丘海岸で毎日5分1年
間にわたって観測を行い,定量的に汀線の変動を読み取ることで鳥取砂丘海岸の短期地形変動に
ついて考察することを目的としたものである.
キーワード:短期汀線変動,ビデオによる画像処理,カスプ地形
「多方向不規則波による護岸被覆消波工の被災特性」
多方向波浪場における消波工被覆護岸に作用する波力については,反射・回折・屈折による波
変形だけでなく,波の方向分散性の影響も考慮する必要がある.この方向分散性に伴った直接的
な来襲波は波力を局所的に増幅させることによってスポット的な被災・損傷パターンを呈するこ
とも予測される.本研究では,この被災パターンの違いや被災の進行状況に注目し,護岸隅角部
および堤幹部の被災の空間的特性を水理模型実験の結果によって調べ,消波工被覆護岸の安定性
について明らかにすることを目的とした.
キーワード:被覆工の被災,波の方向分散性,護岸の安定性
「人工リーフ背後の斜面における打ち上げ高の予測に関する研究」
この 20 年程の間に多くの人工リーフが施工され,また多数の研究によりその水理特性が解明さ
れてきたが,リーフ背後における波の打ち上げ高や越波量については,算定法が確立されていな
いのが現状である.そこで本研究では,波の打ち上げ高を対象として,それを予測するモデルに
ついて検討した.予測モデルは,新たに開発された時間平均型波浪変形モデルにもとづくもので,
水理模型実験の結果と比較することでその適用性を検討した.
キーワード:人工リーフ,打ち上げ高,時間平均型波浪変形モデル
「多方向不規則波浪場における護岸越波量に関する算定モデル」
本研究では,多方向不規則波浪場における越波量算定モデルを確立するため,水槽内の波浪場
に対して線形回折モデルを拡張した手法に基づき,造波板及び護岸等の固定境界表示に対して湧
き出し分布法を適用し,その波浪場の水位変動や合成流量等の運動学的な諸量から越波量を算定
することを目的とした.数値計算モデルの妥当性は,直立傾斜護岸を対象とした水理模型実験の
結果から比較検討した.
キーワード:越波量,線形回折波理論,多方向不規則波
「砕波による波のエネルギー逸散過程と気泡の発生について」
砕波帯内の乱れに関する実験的な研究が過去にも数多く行われてきた.しかし,砕波現象は複
雑であり,砕波後のエネルギー逸散の機構についてはまだまだ解明されていないことが多い.本
研究では,特に砕波により発生する気泡に着目した実験で,波峯の後方の乱れ特性の可視化を試
み,砕波帯内のエネルギー逸散過程について基礎的な検討を行った.
キーワード:砕波,気泡,画像処理,波のエネルギー逸散