「ユング心理学と交流分析」に参加して - NPO法人日本交流分析協会

特定非営利活動法人日本交流分析協会関東支部『会報83号』(平成28年6月発行)
「ユング心理学と交流分析」に参加して
交流分析士インストラクター
高遠
康治
■ 開催日時: 2016 年 5 月 22 日(日)13:30~15:30
■ 会
場: プラットフォーム 504、505、506 会議室
■ 講
師: 江花 昭一 先生
真夏のような暑さになった 5 月 22 日(日 )の午後、江花昭一先生によるセミナー「ユング
心理学と交流分析」が開催され、80 名近い会員が受講しました。
セミナーは 2 時間という短い時間でしたが、ユングの「分析心理学」 をフロイトの「精神
分析」から始まり、アドラーの「個人心理学」と合わせて「交流分析」が構築されていく「流
れ」の中に位置づけて解説していただきました。今回のセミナーは、9 月に 3 回連続
( 9/3,9/19,9/22)で開催される特別セミナー「ユング心理学と交流分析」のいわばダイジェ
スト版になる とはいえ 、バーンの交流分析構築につ ながる心理学の大きな流れを理解するこ
とができた貴重な内容で、9 月の特別セミナーへの期待がいやが上にも高まりま した。
それでは、そのセミナーの概略についてご紹介致します。
・始めに
フロイト、ユング、アドラー 、バーンの関係を年代でとらえると、フロイト:1856~ 1939、
ユング:1875~ 1961、アドラー: 1870~ 1937、そして、バーン: 1910~ 1970 となり、先達者
のフロイトの 20 年ほど後にユングとアドラーが続き、更に 40 年を経てバーンが現れて 27
歳の時にアドラーが、29 歳の時にフロイトが、 51 歳の時にユングが亡くなっています 。
この 4 人の関係は、フロイト→バーン、フロイト→ユング→バーン、フロイト→アドラー
→バーンの 3 つの流れで整理できます。ユングは河合隼男先生が日本に導入されて国内のカ
ウンセラーに とっては馴染み深い心理学者 ですが、 アドラーはそれ程著名 ではなかったのが
最近、岸見一 郎先生の 「嫌われる勇気」で一躍脚光 を浴びてい ます。バーンは著名度といっ
た点では今一 つの存在かもしれませんが、 バーンの 創設した TAは、フロイト、ユング、ア
ドラーをまとめ、なおかつそれらを上回った 心理学とも言えます。
・ 出 発 点と して の フロ イ ト
フロイトは、第 1 の局所論として、無意識 /前意識/意識を取り上げ、無意識への抑圧と回
帰には、歴史性、身体性、関係性の 3 点があること、また、
「退行」と「固着」をとらえて 従
来の発達論と は 逆向きの流れを唱えました。フロイ トはエディプスコンプレックスや男根期
の考えのよう に父親と男児との関 係を重視して女性 の課題についてはあまり触れていませ ん。
次に第 2 の局所論として、 精神の構造論を展開し「精神の装置」として超自我 /自我 /エス
(イド)を取 り上げ心の中のダイナミックな動き を 表しました。ここでの自我は前意識と無
意識の両方に 位置づけられ、ユングの言う自我は意 識現象を表しているところに違いがあり
ます。TAの「自我状態」にも意識できるものと無意識のものとがあ ります。
・ フ ロ イト 精神 分 析の 継 承
フロイト精神分析を継承していく上でのポイントが 3 つあります。①精神現象には意識(前
意識)と無意 識の領域があるこ と。②過去が現在を 拘束するという歴史性の問題があること
(子供の頃の人間関係の影響が「脚本」として現れることにつながります)。③身体性、関係
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性も重要であること(関係性、人間関係にバーンは着目しました)。
・ ユ ング の無 意 識の 考 え方
ユングは 31 歳の時にフロイトと交際を始めて親密な仲になりましたが、その後交際を断ち
「分析心理学 」を創始しました。フロイトとの違い は、無意識を個人的なものではなく個人
を超える人類 の集合的無意識の ある普遍的なものと 想定したことです。無意識のプロセスを
意識の支配下 におくのではなく、意識 と無意識とは 対等の関係と考え両者が対話をして和解
して統合され ることが大切であるとしました。フロ イトの 「歴史性」とは異なり、過去では
なく今が問題であり、現在の問題に意味を探り未来への変化を読むと発想しました。
・ 自 我 と自 己
フロイトは 自我と自己を区別しませんでしたがユ ングはこれらを分け、意識の中心に自我
があり、個人的無意識の奥底にある集合的無意識の中心に自己(元型)があるとしました。
元型とは集合 的無意識における心のパターン で、元 型的な人物とは老賢者や太母(グレー
トマザー)な どに代表される人物のことです 。パー ソナリティには意識と無意識の二面があ
り、意識レベ ルには社会的役割を示す「ペルソナ」 と意識の中 心である「自我」があり、無
意識レベルに は意識から排除されてきた 影(人生の さまざまな選択の場面で選ばなかったも
の、しかしそれらは影として残りやがて投影として処理される)やアニマ /アニムス、そして
全体性としての自己があります。
・ 個 性化
ユングは「 個性化」が大切であるとし、自我と自 己との対話、自分が意識していない部分
との対話によ って 、投影して相手の問題と思ってい たものが実は自分の問題だと 気づくこと
が自己実現に 繋がる としました。何か「問題」のあ る時、それは自分の無意識が起こして 成
長・変化の機 会であることを知らせているものです 。フロイトは因果関係論によって過去に
よって現在が あるとしましたが、ユングは過去をみ るのではなく、自己と自我をみて自分の
全体性、コン ステレーションを見て 、散らばった問 題が自分の全体性を知らせてくれるサイ
ンであること に気づくことが大切としており、これ が共時性の原理(意味ある現象が同時に
起こる)に繋 がります 。この個性化を図るためには 、ペルソナを直視し、自分がこれまでの
人生でどのよ うに選択して 何を排除してきたのか、 回収するものなのか、 排除してきた影や
アニマ /アニムスと対面して自己(全体性)を発達させることが必要です。ユングは「人生の
午後」として指摘しているように人生後半期の課題を重視しています。
・ ユ ング 分析 心 理学 の 継承
ユング分析心理学を継承していく上でのポイントが 3 つあります。①意識と無意識はフロ
イトのように 対立するものではなく相補的で全体性 を形作って おり対話を通して統一してい
くことが大切 であること。②過去から現在が拘束さ れるのではなく現在から未来へ成長する
歴史(時間)性が重要であること。③そもそも集合的無意識という関係性を持っていること。
・ ア ドラ ーの 「 個人 」 の心 理学 へ
アドラーは 1912 年にフロイトから分かれて「個人心理学会」を創設しました。ユングと同
じように全体 論を掲げていますが「個人」にこだわ っているところが異なります。フロイト
は「超自我 /自我 /エス」、ユングは「自我 /自己」と 分類しましたがアドラーは 「人」は「分
割不能な全体 的な個人」として捉えました。何か問 題があった時、それは「自分の無意識が
している」の ではなく「自分がしている」との見方 です。 個人心理学にはいくつかの前提が
あり、一つは 、心(無意識)が個人を動かすのでは なく、個人が心(無意識)を使っている
こと、そして、個人は現実を主観的に自分の枠組みを通して認知していること、行動 /感情の
原因を追究するのではなく、行動/感情には目的があると考えること、例えば、悲しい気持ち
が起きて涙を流すのは慰めてもらうことを目的としている、といったことが挙げられます。
・ ラ イフ スタ イ ル論
アドラーは 、人は信念をもって人生を送る、その 信念は自己や世界についての意味付けの
特定非営利活動法人日本交流分析協会関東支部『会報83号』(平成28年6月発行)
総体(ライフ スタイル)であるとし、信念は人生早 期に形成されるとし ましたが、これはT
Aでのライフ ポジション(人生の立場)に繋がり ま す。また、この人生早期の決断を修正す
れば信念はいつでも変更可能としていますが、これはTAの再決断につながります。
そしてアドラーは、自分に「自己解決」と「他者貢献」の能力があることを確信すること、
人々は私の( サポートしてもらえる) 仲間であるこ と、自立して社会と調和して暮らすこと
ができる、そ の「勇気」を感じられるように働きか けることを唱えています 。これはTAで
の「 I am OK」「 You are OK」そして「 We are OK」に繋 がります 。勇気づけとして、「ほ めた
り叱ったり」は「条件付きのストローク」として限界があり無意味であり、
「存在へのポジテ
ィブなストローク」となる「存在」を勇気づけることが必要です。
・ ア ドラ ー「 個 人心 理 学」 の継 承
アドラー「個人心理学」を継承していく上でのポイントが 3 つあります。①まとまった個
人が主体性( 勇気)を持って人と関係を結び、社会 参加し、共同体に貢献する。②治療だけ
でなくあらゆ る領域に応用(フロイト、ユングは治 療関係で理論を応用しましたがアドラー
はそれ以外の領域でも可能としました)。③早期に身につけた信念が勇気をくじくもの になっ
ていれば、それは変更できる(TAの脚本の理論と同じ)。
・まとめ
バーンは、これら 3 人の理論を引き継ぎ、まとめてバージョンアップしてTAを作り上げ
ており、一般 的に「TAは精神分析を否定している 」 あるいは「TAは精神分析の口語版」
と解釈をされているのは誤りです。
フロイト→ユング→アドラーの流れを経てバーンは「 3 人の個人(ⓅⒶⒸ)」を定義しまし
たが、それぞれ はアドラーの「個人」と同じものです。また、
「構造分析」とは「パーソナリ
ティの構造」を 3 種類に分けているものです。精神分析でのⒶとⒸにⓅを加え、Ⓐにも感情
はあるものと しました 。また、フロイトは治療場面 で「退行」を論じましたが Ⓒでは退行が
大人になって も日常の中で みられます。ⓅとⒸには 意識、前意識に加えて無意識があり、こ
れは自分で自 我に統合しき れなく、つい身について しまって繰り返しているもの、即ちゲー
ム、脚本行動になります。一方でⒶにはこの無意識はなく 代わりにあるのが「非意識」、意識
化されていなくとも自然に統合されてうまくやれているものになります。
ⓅⒶⒸの意 識、無意識を通して奥深く集合的無意 識の中心にイメージできるのが「自己」
で、池見酉次郎先生はこれを「S」
と呼び、歴史性、身体性、関係性の
統合と捉え、Sが安定していること
が大切として心療内科の重視する
ところと位置づけられました。
これまで述べてきましたよ うに、
フロイトは精神分析で過去からの
解放を目指し、ユングは分析心理学
で自我と自己の対話を行い、アドラ
ーは個人心理学で過去や無意識に
こだわらず共同体の中の幸福なラ
イフスタイルを目指し、そしてバー
ンの交流分析では、過去からの解放、
自己との対話、共同体の中の幸福な
脚本の実現を目指しています。
9 月の連続講座では、「I am OK、You are OK」だけでなく「We are OK」でもある新しい関
係性をつくる「共創の交流分析」の話をする予定です。
以上