【禁止】 グリニッジ標準時間 2000年10月3日22:00 以前の、 新聞・雑誌、ラジオ、テレビにおける、 当文書の引用、あるいは、要約を禁じる。 プレスリリース 非公式記録 TAD/INF/2855 2000年10月3日 グローバル経営戦略での生き残りが、クロス・ボーダー吸 収合併・買収ブームを駆り立てる -- 過去最高の企業合併で、 先進国、開発途上国内に広がる疑問 本日、国連貿易開発会議 (UNCTAD) から出版される、 2000年度世界投資報告書 -- クロ ス・ボーダーM&A (吸収合併・買収) と開発 (World Investment Report 2000: Cross-border Mergers and Acquisitions and Development、以下、「WIR2000」と略) では、 国際化の動きは、経営圧力を強め、多くの企業の世界市場における生存と繁栄の探求が、 加速化するクロス・ボーダーM&A ブームの主要原動力となった、と報告している。 クロス・ボーダーM&A -- 特に、大企業を対象とする、多額の資金と、企業活動の大幅な企 業再編成をはらんだM&A -- は、グローバリゼーションの顕著な現れである。慨してグロー バリゼーションがそうであるように、M&A が開発に与える影響は、二枚刃、かつ不均等に なり得る。先進国、開発途上国で聞かれる懸念は、特に、多国籍企業の市場支配力と、 M&A が示唆する反競争性に関するものである。UNCTAD事務総長 ルーベンス・リキューペ ロ は、「企業の世界市場には、競争政策に対する国際的 -- すなわち、開発途上国の利 害と状況を考慮した-- アプローチが必要かもしれない」と述べる。 この報告書では、クロス・ボーダーM&A が、グローバル経営構造に与える影響を調査 し、政策当局の懸念について議論する。「多くの開発途上国で、地元の主要企業が、大 手の多国籍企業に買収されるにつれ、疑問の声が高まっている」と、リキューペロ氏は 言う。「外国企業による買収は、自国の産業全体が、外国の支配下に置かれ、国民主権と 技術生産能力造成を脅かす恐れがある。例えば、広告・娯楽産業では、国民文化、あるい はアイデンティテーへの脅威が懸念の原因になり得る。しかし、最近、例えば、イギリス のボダフォン・エアタッチが、ドイツのマネスマンを買収した時の様に、クロス・ボー ダーM&A に対する不安は、多くの先進国の方が、より深刻化しているという事実だ。 M&A の費用を極小化し、便益を極大化するような政策を創案することが大切である」。 報告書では、昨年、取引額が10億ドルを超えたクロス・ボーダー M&A が109件あったこ とに触れ (TAD/INF/2856 参照) 、最近のクロス・ボーダーM&A ブームに関する、詳細な データを提供している。UNCTAD では、今年は、更にその数字を上回る、と予想している。 M&A は、今日の先進国における、海外直接投資 (FDI) の主たる形態である。開発途上国へ の FDI は、引き続き、グリーンフィールド型が先導しているものの、クロス・ボーダー M&A の動きは、そこでも高まりつつある。 M&A 背景にある主要因 最近の先例をみない、クロス・ボーダーM&A による、世界的、地域的経済再編成の波動は、 戦略的企業方針追求が、企業を M&A に駆り立てる種々の基礎的要因と、世界経済の変化の 動学的相互連関の現れである、と WIR2000 では報告している (図1 参照)。その基礎的要因 とは、以下の7点。 (1) 新市場探索、市場支配力と市場優越の増大 (2) 所有資産へのアクセス (3) シナジー (相乗効果) による能率利益 (4) 規模拡大 (5) 多角経営 (リスク分散) (6) 金融的動機 (7) 個人的(行動的)動機 クロス・ボーダーM&A に関わる、主な世界経済環境の変化としては、以下の3点をあげて いる。 (1) 技術変化 (R&Dにおける費用とリスクの増加、新情報技術など) (2) 政策、規制環境の変化 (貿易、FDI の自由化、地域統合、規制緩和、民営化計画) (3) 資本市場の変化 前述の様々な基礎的要因は、機会と、世界経済環境の圧力と結合し、企業に覆い被さる戦 略目的 -- 市場競争力の防御と発展 -- の 追求へと、企業を駆り立てる。 M&A は、企業にとって、海外資産を取得する際の、最も手っ取り早い方法だ。WIR2000 によれば「企業は、世界経済における、競争力強化の上で重要な源になった地域上への最 適な資産分配を、M&A によって、迅速に取得出来るようになった。更に、寡占的産業では、 競争企業の動向、もしくは、予想動向に対応して、取引が行われることもある。M&A ブー ムの中、次は、自分たちが買収の対象になるかもしれないという不安が、更に新たな取引 へと、企業を駆り立てている」。ある最高企業経営者が「我々が生きている新たな経済で は、一年は50日」、あるいは「スピードは味方、時間は敵」と言うように、今日のビジネ ス界における「スピード」の果たす役割は重大だ。 従って、 成長と利益提供に失敗すれば、 制裁が前途に控えてしまうように、まさに、益々激化する競争的環境における死活問題そ のものが、クロス・ボーダーM&A の総括的戦略原動力になっている。その制裁とは、企業 買収であり、非参加企業にとっては戦略上不利になる買収、競争企業間の吸収合併である。 図1. クロス・ボーダーM&A の原動力 グリーンフィールド型投資は、M&A による投資より望ましいの か? UNCTADの報告書は、開発効果の観点から、地元企業買収による、FDI 参入が、新設備設 立(グリーンフィールド型投資) による参入とでは、どの程度、異なるのか、という疑問を 投じている。M&A は、必ずしも生産的資産の付加、あるいは新たな雇用をもたらさない、 という認識がある。中でも、最も大きな懸念のM&A は、主として、国内から外国企業への 所有者変更と、管理移転という結果になるので、国内経済のある部分を外国企業が支配す る危険が増大する、という見解である。また、M&A は、多くの場合、雇用削減に繋がり、 競争抑制や、市場支配強化目的で用いられかねない。更に、M&A は、買収した企業の解体、 投資の一部の引揚げという結果も招き得る。この様な懸念が、あらゆる国の間に広がって いる。 WIR2000 によれば、M&A は (グリーンフィールド型投資に比べ)、受入国の開発の観点か らみると、参入当初 、短期的には、ある点において、より小さい便益、もしくは、より大 きな負の効果をもたらすことがある。UNCTADによる要約は、以下の通り。 - どちらのFDI 参入形態も受入国に外国資本をもたらすが、M&A によってもたらさ れた財源は、グリーンフィールド型投資と異なり、常に、株式資本を増やすわけで はない。よって、M&A による投資は、同額のグリーンフィールド型投資に比べると、 より少ない、あるいは皆無の、生産的投資に相当する可能性がある。しかしながら、 地元企業の、唯一の現実的な選択が、閉鎖の場合には、クロス・ボーダーM&A が、 「救命具」的役割を果たすこともある。 - M&A によるFDI は、グリーンフィールド型 FDI に比べ、少なくとも参入時には、 新しい、あるいは、より優れた技術やスキルを譲渡する可能性が低い。M&A は、地 元生産や、R&Dなどの機能活動の格下げ、もしくは閉鎖、あるいは、買手の企業戦 略による移転に直結するかもしれない。 - M&A によるFDI は、参入時、雇用を促進しない。一時解雇に繋がることもあるが、 外国企業に買収されなければ、倒産に追いこまれるといった企業の場合には、M&A が、国内雇用の維持の役割を果たすこともある。それに対し、グリーンフィールド 型 FDI は、参入時に、必ず、新たな雇用を促進する。 - M&A によるFDI は、集中を増やし、反競争的結果を招き得る。しかし、その一方 で、M&A によるFDI は、 企業買収によって、破産寸前の地元企業の存続維持が出来 る場合には、集中増大を妨ぐこともある。グリーンフィールド型 FDI は、定義上、 参入時に既存企業数を増やすが、市場集中は増やさない。 UNCTADによれば、グリーンフィールド型 FDI と比較した際の、M&A によるFDI の殆どの 欠点は、 参入時、もしくは、その直後の影響に関わっている。長期的には、直接的、及び、 非直接的、双方の影響を考慮するので、この二形態の効果の多くの相違点は軽減、もしく は消滅する。例えば、クロス・ボーダーM&A は、多くの場合、外国買手側による逐次投資 を招き、総括的に見ると、グリーンフィールド型 FDI のように、生産投資を増進する可能 性がある。同様に、クロス・ボーダーM&A は、特に、買収された企業が、企業再編成によ り、経営効率化を実現した場合、新たな、もしくは、より優れた技術が譲渡される可能性 もある。雇用に関して言えば、相違点は、時間と共に軽減し、参入形態の違いよりも、参 入の動機により係わってくる。 つまり、参入から数年後に、FDI 受入国における効果を、参入形態によって、区別するこ とは -- おそらく市場構造と競争効果を除いては -- 困難である、と UNCTAD は結論を出し ている。 UNCTAD は更に、多国籍企業活動から生じる、国家企業部門の弱体化、経済開発の方向性 管理の喪失、社会、文化、政治目的の追求に関して、幅広い政策の懸念がある、とみてい る。 根本的な問題は、参入形態が、グリーンフィールド型、クロス・ボーダーM&A 如何 にかかわらず、ある経済において、外国企業が、どのような役割を果たすべきか、という ことにある。WIR2000 では、以下のように述べる。「各々の国は、自国の事情と必要性に 基づいて、広範な開発目的の枠組の中で、独自の判断をしなければならない。また、予想 される、効率化、生産量成長、所得分配、市場へのアクセス、あるいは、様々な非経済的 目的に関連するトレード・オフに留意、更には、それを評価する必要がある。また、M&A の特性が更なる懸念を募らせようと、これらの懸念のうちのあるものは、あらゆる形態の FDI によって引き起こされる、という事実に注意しなければならない。経済目的と、広汎 な、中でも非経済的目的のトレード・オフには、関係国にしか出来ない価値判断が必要に なってくる」。 通常及び例外的環境におけるM&A WIR2000 の結論は、通常の環境下では、グリーンフィールド型 FDI は、受入国にとって、 開発効果という点で、クロス・ボーダーM&A による FDI より有用である。しかし、経済 危機や大規模な民営化などの、例外的環境においては、グリーンフィールド型 FDI には、 少なくとも理想的時間内では不可能な、有益な役割を、クロス・ボーダーM&A は果たす こともある。 世界市場の熾烈な競争圧力や、過剰設備の下での、急速な企業再編成の必要性は、受入国 に、クロス・ボーダー買収による FDI の選択が有効であると判断する機会を与えるかもし れない。その様な状況におけるM&Aの利点とは、規模縮小、あるいは閉鎖の危機にさらさ れた既存設備能力の再編成を可能にするとである、と報告書では述べている。 不可欠な競争政策 環境如何にかかわらず、クロス・ボーダーM&A の効果は、政策によって左右され得る、 と WIR2000 では強調する。特に、クロス・ボーダーM&A のリスクと負の効果について言 うなら、政策が大きく関与してくる。 UNCTAD の最大の政策懸念は、競争政策にある。その主因が、M&A が、参入時のみなら ず、参入以降に、競争を脅かす可能性だ。 世界中で、FDI 規制の自由化が進むにつれ、 FDI 統制障壁は企業の反競争行為によって置換えられないという事実が、益々重要になっ てきた。FDI 誘致努力は、M&A の反競争的含みを見直す政策によって補わなれなければな らない。 報告書の結論は、以下の通り。「競争政策はもはや、国家措置のみでは、効果的に遂行す ることが不可能。クロス・ボーダーM&A の本質 -- すなわち、企業にとっての世界市場の 出現 -- は、その現象を国際領域へと持ち込むことである。これは、競争当局間で、自国に 影響を及ぼすM&A と企業の反競争行為に、効果的に対処するため、二か国間、地域、そし て多国間レベルで、協力機構を整備、更には、それを強化する必要性があることを意味す る。中でも、そのような政策を自力で起こし、強化していく資源の乏しい小国にとって、 世界的規模のクロス・ボーダー M&A に対処する際の国際措置は、特に重要である」。
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