南ア月報 (2012 年 5 月) 在南アフリカ日本国大使館 1.内政 ●シセロ・シセカ前協調統治・伝統業務大臣死去 4月30日、シセロ・シセカ前協調統治・伝統業務大臣は、長期にわたる闘病生活の末に 東ケープ州の病院にて逝去した。享年45歳だった。5月12日にはヨハネスブルクのア レーナで公式葬が行われた。故大臣は、アパルトヘイト時代に解放闘争に参加、組合活動 等に従事した後、1994年より国会議員を務めた。 ●パダヤチエ公共サービス・管理大臣、エチオピアで死去 5日、フォーカル・ポイント特別委員会APRM会合に出席するためにアディスアベバに 滞在中であったパダヤチエ公共サービス・管理大臣が、ホテルの自室で亡くなっているの が発見された。享年62歳だった。故大臣の公式葬儀は、9日ダーバンのサハラ・キング スミード・スタジアムで行われ、ズマ大統領を始め、ANC、DA、COPE、COSA TU等多くの政府関係者が弔意を表明した。 ●ズマ大統領の風刺画騒動 10日より、ヨハネスブルグにあるグッドマン・ギャラリーにて、性器を露出したズマ 大統領をレーニンの肖像画のパロディで描き、女たらしの大統領として風刺した "The Spear"という作品が展示され、南ア国内で大きな騒動を巻き起こした。与党ANCはハウ テン州高等裁判所に対して、"The Spear"を展示物から外す差し止め請求を行うよう訴訟を 起こした。29日、ANC支持者による抗議デモが行われ、同日 City Press はウェブサイ トより作品を削除することに同意したことが発表された。30 日には、ギャラリーが作品を 展示から外すことに合意し、ANCはギャラリー及び City Press に対する裁判所への差し 止め請求を取り下げると発表した。 ●セクワレ住宅大臣、ANC総裁選に立候補? 13日から15日にかけて、当地紙は12月に開催されるANC全国大会で、トーキョ ー・セクワレ住宅大臣がANC総裁選に立候補する可能性があることを報じた。13日付 の当地紙サンデータイムズ紙によれば、セクワレ住宅大臣のロビイストが、東ケープ州や 西ケープ州のANC支部内で候補者リストを配布し始めており、同リストには同大臣の総 裁擁立を筆頭に、マンタシェ事務局長を副総裁に、ムバルラ・スポーツ娯楽大臣を事務局 長に等、党トップ6の候補者の名前が具体的に挙げられている。セクワレ大臣の総裁選立 候補が確実になれば、12月のANC全国大会総裁選に向けて、ズマ大統領、モトランテ 副大統領、セクワレ住宅大臣が三つ巴の選挙戦を繰り広げる可能性が予想されている。 ●野党DAによるCOSATU本部へのデモ行進、騒動に発展 15日、野党DAは労働組合COSATU本部に向けて、COSATUが青年雇用への 賃金補助支給に反対していることに対して抗議し、デモ行進を行った。DA支持者は、最 初、平和的にデモ行進を行っていたが、COSATU本部への接近を阻むCOSATUの 組合メンバーの集団と衝突し、投石などの暴力行動を伴った騒動に発展した。その結果、 負傷者も続出し、事態を重く見たズマ大統領は、議会下院にて青年雇用への賃金補助に関 する審議を支持する声明を発表した。 ●マンデラ元大統領、クヌの自宅へ帰還 28日、大統領府より、マンデラ元大統領は、29日、生まれ故郷のクヌ(東ケープ州) に戻る旨の声明が発表された。クヌの自宅では改装工事が行われており、元大統領はその 間ヨハネスブルグの私邸に戻っていた。同声明では、元大統領が、自身の希望に基づき両 方の自宅に交互に住んでいる旨、及びズマ大統領が「元大統領の健康は良好である」と述 べた旨言及された。 ●南ア国家警察の幹部が更迭か 南ア国家警察の Crime Intelligence(犯罪情報部)のトップであるムドゥルリが、27日、 警察長官により更迭されたと報道された。同人は更迭の正式な書面は受け取っていないと事実を 否定している。 同人は 1999 年に恋敵の誘拐や殺人に関わったとされているが、他にも公金を流用し高級車を 購入したとする等、様々な汚職が取りざたされている。 2.外交 ●栄発丸座礁 12日未明、"栄発丸"と称する日本漁船(全長50メートル)が、霧のためケープタウンで著 名なクリフトン・ビーチの砂浜に座礁(波打ち際から約20メートル地点)した。乗組員 28 名 (台湾人)は全員無事であった。 18日、栄発丸は南ア海上保安庁(SAMSA)等の手配したタグボートにより牽引され、クリフ トン・ビーチの座礁域より安全に離脱した。 ●AU委員長選挙関連 (1)14日、ベナンにて開催されたAU委員長選挙に関するアドホック委員会会議にズマ大統 領が出席した。 (2)14日、ケニア大統領府は、AU委員長職と副委員長職がそれぞれ英語圏と仏語圏の間で 交互に選出されていることから、ドラミニ=ズマ候補がAU委員長になればケニア人のムウェン チャ副委員長も辞任しなければならなくなる可能性があるとして、ドラミニ=ズマ候補に対し、 (立候補を取り下げ)ピン委員長を支持するよう求めた。 (3)ヌコアナ=マシャバネ国際関係・協力大臣は15日のプレス・ブリーフィングの中で、ド ラミニ=ズマ候補はSADC全体の支持を受けている点、およびドラミニ=ズマのAU委員長就 任がAU全体に裨益する点を強調した。 (4)21-23日、サンボ・ナイジェリア副大統領が二国間委員会第8回会合に出席するため 南アを訪問し、23日に行われたモトランテ南ア大統領との共同記者会見において、ナイジェリ アが南アのドラミニ=ズマAU委員長候補を支持する旨発言したと報じられた。報道によれば、 サンボ副大統領は、反ドラミニ=ズマ候補キャンペーンをナイジェリアが主導していたのかどう かと問われたのに対し、それは完全に誤りであり真実ではないと述べた上で、AUにおける役職 は、その指導力にふさわしい全てのアフリカ人に開かれており、AUにおける役職のみならず、 ナイジェリアは南アが国連において役職を獲得することを目指す場合にもこれを支持すると述 べたとされている。 これに対し、在南ア・ナイジェリア大使館は、25日付で声明を発表し、サンボ副大統領は 一般論としてナイジェリアは国際機関における選挙で南アを支持することもあると述べただけ であり、特にAU委員長について言及したことはないと釈明した。 ●スーダンにおける南ア人拘束 20日、スーダンは4月28日に石油生産地域に違法で侵入したとして拘留していた4名の外 国人(南アフリカ人、英国人、ノルウェー人、南スーダン人)の身柄を釈放した。 釈放はムベキ元南アフリカ大統領(同人はスーダン問題のAUハイパネル・メンバー)とバシ ール・スーダン大統領の話し合いの後に行われた。ムベキ元南ア大統領は、17日から首都ハル ツーム入りし、現在紛争が激化している北スーダンと南スーダンを、アディス・アベバのAUの 交渉テーブルに尽かせようと努力していた。 スーダンのフセイン国防大臣は、4名の外国人の行動が“いずれかのグループに与するよう な”不審なものであったと非難しながらも、ムベキ元大統領の調停努力に感謝すると述べた。 ●ディアスポラ・サミット 25-26日、ヨハネスブルグで南ア主催によるグローバル・アフリカン・ディアスポラ・サ ミットが開催された。本サミットは、2004年セネガル会合以降、2年毎に開催されてきたも ので、ズマ大統領主催による今回のサミットは、初めてアフリカ以外の首脳が参加した「グロー バル・アフリカン・ディアスポラ・サミット」となった。 出席者は、ピンAU委員長、ヤイ・ベナン大統領(AU議長)、ムガベ・ジンバブエ大統領、 サルヴァ・キール南スーダン大統領、シェイク・シャリフ・ソマリア大統領、ンゲマ赤道ギニア 大統領、ムスワティ3世スワジランド国王、サンボ・ナイジェリア副大統領、ラゾ・キューバ副 大統領、シンプソン=ミラー・ジャマイカ首相、ハインズ・ガイアナ首相、ムベキ元南ア大統領、 オバサンジョ元ナイジェリア大統領、ヌヨマ元ナミビア大統領等(会議開催前に南ア政府は60 名の首脳が出席予定とメディアに説明していたが、上記のとおりとなった) 。 ●その他外遊・訪問受け入れ (1)モトランテ副大統領 8-10日:ドイツ訪問(第7回南ア・ドイツ二国間委員会、ゴーダン財務大臣、デービス貿易・ 産業大臣、パンドール科学・技術大臣、マーティンズ公共企業副大臣等が同行) 9-10日:フィンランド訪問(パンドール科学技術大臣およびモレワ水・環境大臣が同行) (2)マシャバネ国際関係・協力大臣 4-5日:ドイツ(ボン)訪問(COP17ダーバン・プラットフォーム閣僚会合) 9-10日:エジプト訪問(NAM閣僚会合) (3)エブラヒム国際関係・協力副大臣 4月28-5月2日:サウジアラビア訪問(第4回合同経済委員会) 2日:カザフスタン訪問(第2回両国間政務協議、在南ア・カザフスタン大使館の開設等につき 協議) (4)フランスマン国際関係・協力副大臣 14-15日:ハンガリー訪問(政務協議) 3.経済 <経済指標> ●経済成長 2012年第1四半期の経済成長は2.7%、前四半期の3.2%を下回ったものの、南ア統計 局による予測値2.3%を上回った。第1四半期の経済成長は、製造業の対前期比7.7%の成 長に支えられた。長引いているインパラ・プラチナでのストライキのため、鉱山部門の生産は1 6.8%減少し、為替市場におけるランド安は、本年後半にかけて製造業を支えることが予想さ れる一方、世界経済の停滞、電力不足による負の影響が懸念される。 ●物価上昇 南ア統計局によると、4月の消費者物価指数は、対前年同月比で6.1%の上昇となった。4月 の物価上昇は、予想されていたよりも低くなり、南ア準備銀行による政策金利決定において、物 価上昇よりも経済成長を重要視する余裕が生まれることとなった。準備銀行は、翌年後半まで政 策金利を5.5%に維持し、ヨーロッパの債務危機悪化の負の影響を相殺する方針である。食料 価格の上昇は緩やかであり、ガソリン価格も下落する見通しであるが、一方でランド安は輸入品 の価格高を招き、物価上昇圧力を強める可能性もある。 ●失業率 南ア労働力調査によると2012年第1四半期の公式失業率は25.2%となり、昨年第4四半 期の23.9%に比べて上昇した(因みにリーマン・ショック時2008年第4四半期の失業率 は21.8%) 。現在就職活動をしていない人を含めた広義の失業率は、同様に昨年第4四半期 の35.4%から本年の第1四半期には36.6%に上昇している。それぞれ、建設部門では7 1,000人分、製造業では67,000人分の雇用喪失がみられた。 ●製造業 南ア統計局によると、製造業生産は3月の対前年同月比で2.7%減少し、対前月比では4.2% の減少となった。鉱山部門の生産も3月の対前年同月比で9.8%の減少であった。製造業と鉱 山部門は、経済の20%、正規雇用の15%を占めているが、第1四半期の製造業部門における こうした業績悪化はヨーロッパ経済の不況、ランド高の影響を受けた。 ●自動車販売 南ア自動車製造業者協会(NAAMSA)によると、4月の国内新車販売は42,617台となり対前 年同月比で10.5%増加した。一方、輸出台数は17,654台とヨーロッパの不況の影響を 受け、11%減少した。南ア銀行 ABSA によれば、自動車の輸出販売に大幅な落ち込みが見られ るが、国内市場は健全であり2012年の新車販売は4.3%の成長が見込まれるとの見方であ る(国内向けの新車販売は新車の総台数の約3分の2を占める)。NAAMSA は、フォード、BMW が 輸出プログラムを強化することを考慮すると、2012年後半には輸出が増加すると予測してい る。 ●小売り販売 南ア統計局によると、2012年第1四半期の小売り販売には1.2%減少がみられ、過去3年 間で初めての落ち込みとなった。3月の製造業生産の落ち込み、第1四半期の経済成長の減速に 続く小売販売の減少となった。また消費者支出の伸びも緩やかである。NEDBANK のエコノミスト は、消費者は、弱い雇用創出、雇用不安に影響されていると指摘した。高い物価上昇、政府管理 価格の上昇が消費者の購買力を弱めている。 <その他> (1)Ernst & Young による2012年のアフリカの魅力調査によると、対アフリカ外国直接投 資(FDI)の件数は、2011年に857件となり、2010年に比べて27%の上昇が見られ た。新規プロジェクトの中で大きな投資増がみられた部門は、金属、鉱物、通信、食料、タバコ、 金融サービス、建設資材、ビジネス・サービス、石炭、鉄鋼、天然ガスの部門である。2010 年には全世界の FDI の4.5%がアフリカに投資されたが、2011年には同投資の割合は5. 5%となった。なかでもザンビアのプロジェクトへの投資が最も大きく、ガーナ、ボツワナ、モ ザンビーク、モロッコ、ケニア、南ア、タンザニア、ナイジェリアとつづく。一方で、アンゴラ、 ウガンダ、エジプトでは、FDI の減少が見られた。2007年以降のアフリカ大陸内での FDI の 成長は43%となっており、南アの対アフリカ投資は米、仏、英、印、UAE に続いて第6位であ った。 (2)デロイトは、製造業部門のグローバル見通しに関する報告書の中で、南アが FDI をめぐっ て他の新興国経済と効果的に競争する能力は、生産コストと原材料費用の上昇、税制、人件費、 技能不足によって脅かされていると指摘した。さらに、投資や雇用創出に効果的な主要産業を対 象とする一貫性のある戦略が欠けていることも製造業の不振を招く要因となっていると指摘し た。 (3)デービス貿易産業大臣は、5月の議会でビジネス向け補助金を実施すると強調した。近年 設置された58億ランド規模の製造業競争力強化プログラム(MCEP)は、生産効率を向上させる ための工場の改善を強調した。 4.広報・文化 ●サカキマンゴー&リンバトレイン・サウンド・システムの南アフリカ公演 アフリカ由来の楽器・親指ピアノを演奏するサカキマンゴー氏とそのグループであるサカキマン ゴー&リンバトレイン・サウンド・システムが、アフリカツアーの一環として、21日から25 日まで南アフリカを訪問した。滞在中はソウェト、プレトリア郊外の黒人居住区にある孤児院や 小学校でのワークショップを行ったほか、ヨハネスブルグ日本人学校を表敬訪問した。また、2 5日夜にはプレトリア市内のレストランで一般公演を行い、レストランを訪れた人々に鹿児島弁 の歌を交えて生演奏を披露するなど、活発な演奏活動を行った。同グループはこのほか、モザン ビーク、スワジランド、ジンバブエを訪問した。 5.警備・治安 ●偽警察官によるカージャックが増加 今月の前半 2 週間で偽警察官によるカージャックがヨハネスブルグ北部で7件発生している と、南ア国家警察が注意を促している。 手口は、ブルーライト・ギャングと呼ばれる偽警察官のグループが、走行中の車両を停止させ、 道路交通法違反を告げる為に運転者を犯人らの偽パトカーの後部座席に座らせる。その間に犯人 の仲間は、違反者の車両を運転して現場から盗み、被害者は偽パトカーで近郊の草原や山中まで 誘拐され、捨てられると行った手口である。 (了)
© Copyright 2024 Paperzz