2010/11/22 幸せを測る 真の進歩指標(GPI) 真の進歩指標( GPI)の挑戦 の挑戦 滋賀大学経済学部 中野 桂 幸福の指標 7 25000 6 20000 5 15000 4 平均 標準偏差 3 平均ー分散アプローチ 10000 一人当たり実質GDP 2 5000 1 0 0 年 1959 1961 1963 1965 1967 1969 1971 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 出典:R. Veenhoven, World Database of Happiness, Trend in Nations. 2 Internet Site: www2.eur.nl/fsw/research/happiness/trendnat (+ year) 1 2010/11/22 【幸福度】出典:R. Veenhoven, World Database of Happiness Happiness, Trend in Nations. Nations http://www2.eur.nl/fsw/research/happiness/tren dnat (+ year) 【1人当たりGDP】出典:Angus Maddison, hhttp://www.ggdc.net/maddison/ // d / ddi / 単位は購買力平価(1990 International GearyKhamis dollars)換算のドル。 社会的厚生関数 • 序数的効用と基数的効用 • アローの不可能性定理 • それでも政策立案者などから、(統合)指標に対 する要望 • 背景にはGDPを厚生指標とすることの問題点 2 2010/11/22 厚生指標として の GDPの問題点 1.家事労働やボランティア活動が評価されていない 例:家事の値段=約99兆円(1997、経済企画庁) 例 家事の値段 約99兆円(1997 経済企画庁) GDPの約25%~30%に相当 2.「防御的支出」がプラスとして評価される 例:空気清浄機、浄水器など 3.厚生を悪化させる活動がプラスとして評価される 生を さ 動がプ 評価され (あるいはマイナスとして評価されない) 例:交通渋滞、森林、湿地の減少、再生不可能資源の枯渇 森林、湿地の減少、再生不可能資源の枯渇 など 5 4.平等に関する概念の欠如 例えば 100 10+10+10+ ・・・・・ +10 100= もし10%減るとすると 90 = 9+9+9+ ・・・・・ +9 それとも 90 = 20+20+10+ ・・・+0+0 +0 GDPは区別 できない! GDP は 社会の厚生を測る指標としては不適当 6 3 2010/11/22 クズネッツの警鐘(1934) • 国民所得計算の創始者のひとりでありノーベル経済学者でもあるサ イモン・クズネッツは • 一国の厚生水準は国民所得からは推し量ることはまずできない。 • 以下の違いを明確にしておかねばならない。 – 量的成長と質的成長 – 費用と収益(便益) – 短期と長期 • 成長を求めるのであれば、何を何のために成長させるかという目的を はっきりさせなければならい。 • “the welfare of a nation can scarcely be inferred from a measure of national income. If the GDP is up, why is America down? Distinctions must be kept in mind between quantity and quality of growth, between costs and returns, and between the short and long run. Goals for more growth should specify more growth of what and for what.” (Report to the US congress, 1934) 限界効用逓減の法則 効用 (幸せ) ビルの幸せ ビルの効用は少し下がる 今、ビルの所得が 100万円減るとする と・・・ 私の効用は大きく上がる 私の幸せ 私の所得 私がその100万円 をもらえるとする と・・・ ビルの所得 所得移転によって社会全体の効用(幸せ)を増やすことができる 消費量 (所得) 4 2010/11/22 所得分配調整済み所得 ベンサム社会的厚生関数 U = u1 + u2 + u3 + … = ΣU(yi) 但し、yyiは各人の所得 但し、 仮想的等価所得水準(ye) 仮想的等価所得水準(y ΣU(yi)=n×U(ye)) となるような所得を考える 【参考 参考】】アトキンソン指数 1 1 ‐‐ ye / / μ μ yeは均等分布時の等価所得水準、 は均等分布時の等価所得水準、μ μはyiの平均。 真の進歩指標の計算手順 個人消費 ボランティア活動の価値 所得分配の調整 加算 家事・子育ての価値 耐久消費財からのサービス etc 環境破壊のコスト 減算 防御的支出 スト 防御的支出コスト 非自発的労働のコスト etc 出典: 「GPI(真の進歩指標)による滋賀県の計測の可能性等に関する調査研究」 報告書(2005)を改変 10 5 2010/11/22 正となる項目 C:所得分配によって調整された個人消費 D:家事ならびに子育ての価値 E:ボランティア活動の価値 F:耐久消費財からのサービス G:政府の社会資本ストックサービス Y:純資本投資増 Z:純対外貸付 純対外貸付 11 純資本投資増・純対外貸付 80,000 Net Capital Growth 70,000 Net Foreign Lending 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10 000 10,000 200 0 199 7 199 4 199 1 198 8 198 5 198 2 197 9 197 6 197 3 197 0 196 7 196 4 196 1 -10,000 195 8 0 195 5 Billion yen (1990 constant prrices) Elements of Economic Sustainability 12 6 2010/11/22 負となる項目 H:犯罪の費用 I:家庭崩壊の費用 J 失業の費用 J:失業の費用 K1:過重労働の費用 K2:不完全就業の費用 L:耐久消費財への支出 M:通勤に伴う費用 N:家計の環境汚染除去費用 O:自動車事故の費用 P:水質汚濁の費用 Q:大気汚染の費用 R:騒音の費用 S:湿地の喪失 T:農地の喪失 U:再生不能資源の枯渇 V:長期の環境破壊 W:オゾン層破壊の費用 X:原生林の喪失 13 犯罪の費用 犯罪件数 200,000 2,500,000 180,000 160,000 2,000,000 140,000 殺人 120,000 1,500,000 100,000 強盗 傷害 80,000 1,000,000 詐欺 窃盗(右軸) 60,000 40,000 500,000 20,000 0 1950 1952 1954 1956 1958 1960 1962 1964 1966 1968 1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 0 14 7 2010/11/22 家族崩壊の費用 離婚件数と自殺件数 350000 35000 300000 30000 250000 25000 離婚(左軸) 200000 20000 自殺(右軸) 150000 15000 100000 10000 50000 5000 0 1950 1952 1954 1956 1958 1960 1962 1964 1966 1968 1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 0 15 交通事故のコスト 交通事故件数 飲酒運転罰則強化 (2002) 1,400,000 18,000 16 000 16,000 1,200,000 エアバックの普及 (1990年代) 14,000 事故件数 1,000,000 12,000 負傷者 800,000 10,000 600,000 8,000 死者(右軸) 6,000 400,000 4,000 200,000 シートベルト着用義務化 (1986) 0 1950 1952 1954 1956 1958 1960 1962 1964 1966 1968 1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 0 2,000 16 8 2010/11/22 正の項目(積み増しグラフ) 300000 純対外貸付 10億円(1990年価格 格) 250000 純資本投資増 200000 150000 100000 50000 所得分配調整後 0 対GPI比率 対プラス要素比率 日本 個人消費 1950 24 1970 39 1980 67 耐久消費財と社会的 1990 60 資本からのサービス 2000 63 家事 家事・ボランティア労 1950 56 働の価値 1970 24 1980 18 1990 15 2000 23 資本成長 1950 19 1970 35 1980 14 1990 21 2000 9 17 負の項目(積み下ろしグラフ) 長期的環境破壊 300000 10億 円(1990年価格) その他 250000 環境破壊の費用 通勤および自動車 事故の費用 200000 正の項目の合計 GPI 非再生資源の枯渇 失業・過重労働 の費用 150000 100000 50000 18 9 2010/11/22 GDP and GPI ( weighted and unweighted for income inequality) 600 000 600,000 GDP 500,000 GPI unweighted 400,000 GPI weighted 300,000 200,000 100,000 99 19 19 95 91 19 87 19 83 19 79 19 19 75 71 19 67 19 63 19 59 19 19 55 0 19 一人当たりのGDP 一人当たりの GDPと とGPI GDP vs GPI ( per capita) 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 1997 1994 1991 1988 1985 1982 1979 1976 1973 1970 1967 1964 1961 1958 GDP per capita GPI per capita 1955 Ten thoousand yen ( 19900=100) Billion yen (1990 constant prrices) GDPと GDP とGPI 20 10 2010/11/22 GDPと GDP とGPI GPIの期間別年平均成長率 の期間別年平均成長率 14.0 12.0 GDP p per capita p 10.0 8.0 GPI per capita 6.0 4.0 2.0 0.0 -2.0 20 1955-64 1965-73 1974-83 1984-92 1993-2000 Annual growth of GDP and GPI per capita ( per cent) 21 推計結果のまとめ • • • • • 経済的な持続可能性は好調 水質、大気、騒音などの汚染の改善 労働に関するコストの増大 その他の社会的コストの過小評価の可能性 輸入資源(燃料、木材など)が除外 生活実感に近いのではないか? 生活の満足度の図に似ている! これは偶然なのか? 22 11 2010/11/22 生活満足度との類似は偶然ではない 生活満足度 幸福感の決定要素 解析 心理的要素:適応、願望等 政治的要素:政治体制、政治参加等 GPI 経済的要素:失業、所得、インフレ等 無償労働の価値等 社会的要素:離婚、自殺、不平等、 犯罪 交通事故等 犯罪、交通事故等 積算 環境的要素:大気汚染、森林・農地 の減少等 しかし、GPIには適応反応などは入っていないので、 完全に一致するものでもない 考察 生活満足度の決定構造 • 失業の例(Di Tella, et al., AER, 2001) 失業の例(Di Tella et al AER 2001) 失業率の1%の増加に対して・・・・ 失業した人が受ける直接的低下( 平均、‐0.0033 ) + 失業の不安による間接的低下(平均、 ‐0.028 ) II 満足度の低下(平均、‐0.0313) 24 12 2010/11/22 GPIの決定構造 GPI の決定構造 • 犯罪の例 犯罪被害者の回復のための直接費用 + 直接被害者以外も支出する防犯費用 (心理的費用の表出) II 犯罪の費用 25 期待効用モデルとの類似性 例 平均分散アプローチ EU = E[Y] - γσ2 但し、γはリスク回避度、σ2はYの分散 GPIには多くのリスク関連項目が含まれている 26 13 2010/11/22 主成分分析によるリスク構造の解明 第1 第2 第3 生涯未婚率(男45~49歳)(2000) 0.342 0.120 0.707 合計特殊出牛率(2000) 0.095 -0.921 0.008 単独世帯割合(2000) 0.344 0.704 0.422 離婚率(人口1000人あたり)(2000) 0.837 0.425 -0.054 完全失業率(2000) 0.912 0.141 0.056 雇用者に占めるパート-アルバイトの割合(1997) 0.396 0.622 -0.315 -0.021 -0.287 0.761 自殺者数(人口10万人あたり)(2000) 生活保護被保護実世帯数(月平均一般世帯1000世帯あた り)(2000) 00.713 713 00.225 225 00.228 228 刑法犯認知件数(人口1000人あたり)(2000) 0.311 0.748 -0.287 年間収入のジニ係数(全世帯)(1999)全国消費実態調査 0.754 -0.138 0.131 資産のジニ係数(全世帯)(1999)全国消費実態調査 0.796 0.247 0.075 因子抽出法:主成分分析。回転法:Kaiserの正規化を伴うバリマックス法。出典:下平好 博「〈サービス化〉〈グローバル化〉はリスク構造をどう変えたか」、『リスク社会を生きる』橘 木俊詔編、岩波書店、2004年。 27 第一主成分は経済を中心とした不安定要因 第二主成分は都市化を背景とした要因 第三主成分は孤独・孤立要因 第2因子の得点 東京 神奈川 埼玉 大阪 京都 愛知 高知 宮崎 沖縄 出典:下平(2004)、前掲書 第1因子の得点 14 2010/11/22 2000 各都道府県のGPIと県内総生産(人口ひとりあたり) 8.000 2.200 2.000 GPI 7.000 県内総生産 6.000 4.000 1.600 3.000 1.400 1.200 2.000 1.000 1.000 A B C D E F G H I J K L M N O P Q R S T U V W X Y Z AA AB AC AD AE AF AG AH AI AJ AK AL AM AN AO AP AQ AR AS AT AU GPI/100 5.000 1.800 県内総生産/100万 2.400 滋賀県推計、2005 29 中国のGDP 中国の GDPと とGPI Zhouying JIN, China’s GPI System, Beijing Academy of Soft Technology, Center for Technology Innovation & Strategy Studies, Chinese Academy of Social Sciences, April 2010 15 2010/11/22 課題 • 心理的費用の取り扱い – 出費を伴わない心理的コストを含めるのか • 無償労働等の評価 – 最低賃金法、平均賃金法、代替費用法 – 無償の時の方が生産性が高い(行動経済学) • 弱い持続可能性 – 環境効率指標としての問題点 – 環境効率=経済価値/環境負荷 – Ln環境効率=Ln経済価値−Ln環境負荷 ご清聴ありがとうございました • 大橋照枝、中野桂、牧野松代、和田喜彦、 「日本のGPI(真の進歩指標)の計測結果」、 」 NPO法人フューチャー500、2003 • 中野桂、吉川英治、「Genuine Progress Indicatorとその可能性」、彦根論叢、357、 175‐193、2006 • 中野桂「持続可能性指標における効率性と 衡平性―エコロジカル・フットプリントを中心に ―」、環境科学会誌、22/4, 2009 [email protected] 16
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