0.5MB - ACCU | 公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター

2007 年ユネスコ青年交流信託基金事業
―初等中等教育教員交流プログラム―
ユネスコ・スクールにおける
「持続可能な発展のための教育(ESD)」の
実践を学びあう教職員交流プログラム
実施報告
2008 年 7 月 19‐26 日
インドネシア
主催:財団法人ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)
インドネシア・ユネスコ国内委員会
協力:日本ユネスコ国内委員会
日本国際理解教育学会
日本ユネスコ・スクールネットワーク
ユネスコ・ジャカルタ事務所
2007 年ユネスコ青年交流信託基金事業
初等中等教育教員交流プログラム
実施報告
2008 年 12 月
編集・発行
財団法人ユネスコ・アジア文化センター
〒162-8484
東京都新宿区袋町6番地 日本出版会館
電話:(03)3269-4498
Email:[email protected]
URL:http://www.accu.or.jp
©ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)2008
2
目 次
I. プログラムについて ·················································································· 5
II. プログラム実施概要 ··············································································· 7
III. 成果・今後の取り組みに向けて ····················································· 19
IV. 参加者からのコメント ·········································································· 49
V. プレゼンテーション資料
インドネシア・ユネスコ国内委員会 Prof. Arief Rachman
············································································································ 80
越谷市立富士中学校 教諭 飯島 眞 ································ 82
大阪府立松原高等学校 教諭 山田 正人 ······················ 89
ユネスコ・ジャカルタ事務所 Ms. Juliati Ng ······················ 92
IDEP 財団 Ms. Sri Mahayuni ·················································· 94
VI. 付録
実施概要 ·························································································· 96
日程 ···································································································· 99
参加者リスト ················································································· 101
写真 ·································································································· 102
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I. プログラムについて
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<はじめに>
ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)は、インドネシア・ユネスコ国内委員会との共催により、
2008 年7月 19 日から 26 日まで、2007 年ユネスコ青年交流信託基金事業「初等中等教育教員交流
プログラム」の一環として、「ユネスコ・スクールにおける『持続可能な発展のための教育(ESD)』の
実践を学びあう教職員交流プログラム」を実施した。
現職の教員 12 名および、随行スタッフとして ACCU 職員2名がプログラムに参加し、教員 12 名
は小学校教員3名、中学校教員2名、高等学校教員5名、大学教員2名で構成された。
また、プログラム後半ではバリ島に本拠地を置く NGO である IDEP 財団から 1 名、リソースパー
ソンとしてプログラムに同行してもらった。リソースパーソンには主に、(1)準備段階からプログラム
企画に助言すること、(2)バリ島滞在中の学校訪問に全て同行すること、(3)各学校や機関への訪
問の際に基本的な説明をしてもらい、コメントやインプットを加えながら参加者とインドネシア側のデ
ィスカッションを円滑に進め、まとめること、(4)期待される成果を参加者が得られるようサポートす
ること、(5)プログラム全体を通して ESD を実践し、ESD とパーマカルチャーとを結び付けること、を
依頼し参加してもらった。
<プログラムの目的>
1953 年に国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が「ユネスコ協同学校ネットワーク事業」
(UNESCO Associated Schools Project Network: ASPnet)を立ち上げて以来、世界の 176 ヶ国約
7,900 校の学校が参加して、今日の諸問題に広く対処できるような新しい教育内容の発展を目指し
て活動している。しかしながら日本国内においては、ASPnet への加盟は 2008 年4月現在で 24 校に
とどまっており、その活動に積極的に取り組んでいる学校は数える程度しかない。
一方インドネシアにおいては、現在約 300 校のユネスコ・スクールがあり、とりわけ文化の多様
性と環境を切り口にした取り組みが活発なことで知られている。また、学校レベルでは「ESD」という
単語そのものはあまり浸透していないにもかかわらず、実践としての ESD を踏まえた活動が教育現
場では盛んであり、NGO 等との連携も進んでいると聞く。
このような背景を踏まえ、ACCU は多文化教育と環境教育に焦点を当て、日本とインドネシアの
ユネスコ・スクール教職員の交流プログラムを以下の目的で実施した。
1) インドネシアのユネスコ・スクールを中心に教育現場等を訪問し、教職員、児童生徒、NGO
のリーダーたちと意見交換をしながら特色ある ESD 活動に学び、その成果を日本の教育現
場に還元すること。
2) 日本のユネスコ・スクールネットワークの活性化に貢献することで、国内の教育現場での
ESD 活動の発展を促進すること。
3) 単なる視察のみにとどまらない相互交流を目指し、日本の教職員の知識や経験をインドネシ
アの教育関係者に紹介することにより、日本とインドネシアの教職員の相互理解を促し、
ESD を通じた両国間の結びつきを深める国際交流を新たに進展させること。
上記の目的を達成すべく、12 名の教員が日本各地から参加者として集い、インドネシアの
ASPnet と ESD の実践の実情を学びに飛び立った。
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II. プログラム実施概要
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出発前日(2008 年7月 18 日)
<事前オリエンテーション>
参加者は7月 18 日(金)午後、東京の新宿ワシントンホテルに集合した。
まず、ACCU を代表して理事・総務部長の飯田和郎からあいさつがあり、ACCU が特に ESD に力
を入れており、ASPnet にも協力していることが紹介された。5年計画でアジア太平洋地域への助成
を行っており、ESD をテーマにしたフォトメッセージ・コンテストとそれに続く写真展も行っている。ESD
に関しては具体的な成果が出つつあり、日本ユネスコ国内委員会の尽力で新学習指導要領の中に
も ESD が盛り込まれたのは喜ばしいことだと述べた。また、ASPnet には新たに 32 校が申請中で、
今後さらに拡大するだろうことに言及し、今回のプログラムでは、ESD と ASPnet の新たな流れを作
ってほしいと述べた。また、最終的にはアジア太平洋におけるネットワークを構築したいと強調した。
次に、日本ユネスコ・スクールネットワーク代表の米田伸次氏からあいさつと簡単な講義をいた
だいた。
まず、これまでの ASPnet の流れとして、ユネスコ国内委員会の提言から 1999 年にユネスコ5ヶ
年計画で ASPnet 拡大が決定したこと、2001 年には ACCU が協力を開始し、フィリピン・タイへの派
遣が行われたことが説明された。2002 年にユネスコが主導機関となって ESD が開始され、2006 年
には ACCU によって第二回の派遣プログラムがニュージーランドで実施された。
次に、今回のプログラムと過去2回のユネスコ・スクール視察プログラムとの違いとして、(1)プ
ログラムのテーマに合う ESD の実践を踏んでいる参加者を熟慮し、地域的なバランスも考慮に入れ
て選抜したこと、(2)「環境教育」と「多文化教育」という具体的なテーマが設定されていること、(3)
一方的な視察ではなく、インドネシアと日本双方の教職員が相互交流できるプログラムであること、
(4)学校だけでなく NGO への訪問が含まれていること、が説明された。
今までの派遣プログラムは具体的な目的に欠け視察が中心だったが、今回は ESD の推進という
具体的なテーマを持ち、環境・多文化理解などを主流に発展させたい、と強調した。また、今回の派
遣を今後に向けての新たな大きな一歩として、ASPnet の発展につなげたいと締めくくった。
続いて、日本ユネスコ国内委員会を代表し、文部科学省国際統括官付ユネスコ第二係長の徳
留丈士氏よりあいさつと講義をいただいた。
まず、ESD は日本の提案でありながら日本国内で進んでいない現状があり、今後は ASPnet を
通じて ESD を進めていきたいという意向が強調された。2008 年2月に日本ユネスコ国内委員会がま
とめた提言において、「持続可能な開発のための教育」を「持続発展教育」へ、「ユネスコ協同学校」
を「ユネスコ・スクール」へと、読み方を変えることとした。
また、今後 ASPnet を普及させるために、地方行政への周知、登録システム、資金面の改善を行
いたいと説明された。さらに、ASPnet に参加することのメリットを明確にすべく、資金面では予算的
な問題で今のところ支援が難しいが、知恵と情報を提供したい、と話した。加えて、ユネスコ協会な
ど関係機関との協力関係を強め、今後 ASPnet に対するサービスを向上させるため事務局を設置し
たいと考えていることが紹介された。
ACCU の事業紹介ビデオを視聴した後、訪問団の団長である高橋順一桜美林大学教授からあ
いさつをいただいた。高橋団長の専門は文化人類学であり、長年捕鯨の研究をしてきたこと、また
北米ネイティブ・アメリカンの伝統文化の研究も長年行ってきていることが紹介され、今回のプログ
ラムでは参加者全員で一緒に大きな鯨(成果)を釣りに行きましょう、という言葉であいさつは締めく
くられた。
訪問団全員による自己紹介と、それぞれの学校での取り組みやプログラム参加に向けての抱
負、課題等を発表しあった後、ACCU から事務連絡を行い、出発前のオリエンテーションは終了とな
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った。
2日目(2008 年7月 20 日)
<タマン・ミニ・インドネシア・インダー>
ジャカルタ到着翌日、多様な民族が住むインドネシア各地の文化を再現したテーマパーク「タマ
ン・ミニ・インドネシア・インダー」を訪れた。公園内にはインドネシアを構成する全州のパビリオンが
並び、内部には衣装や生活用具、パネルなどが展示され、各民族の生活様式を知ることができた。
<オリエンテーション>
午後は滞在先であるニッコージャカルタにおいて、ユネスコ・ジャカルタ事務所の Ms. Puri Andini
Larasati から話を聞く機会を得た。ここでは、インドネシアの教育制度についてだけでなく、国内の
ASPnet についても概要説明がなされた。
ASPnet は 1953 年に立ち上げられ、2005 年時点で 175 ヶ国から約 7,700 の学校が参加している。
インドネシア国内にはおよそ 300 のユネスコ・スクールがあり、そのほとんどが高等学校である。
多くの参加者にとって最も印象的だったのが、正規教育をドロップアウトした子どもたちのための、
「パッケージ A(小学校に相当)、B(中学校に相当)、C(高等学校に相当)」というノンフォーマル教育
のシステムが整備されていることであった。このパッケージ ABC は経済的な理由で正規の学校に行
けない子どもや中退者のためのもので、通常は民間の財団法人に政府が援助して運営されており、
資金は政府が半分、残りは地域の人々の寄付金による。具体的な教育内容は普通の学校と同じだ
が、学費は無料であり、修了証書ももらえ、正規教育を受けたのと同じ資格が与えられる。
通常の公立学校においても、家庭に経済的余裕がある場合は、授業料を支払い、その分余裕
のない子どもたちのために使う制度となっている。教科書も貧しい家庭の子どもには政府が支給し
ており、就学率は都市部ではほぼ 100%に近い。
教育内容については、中央政府による全国的なカリキュラムに沿って行われるが、教科書は地
方で異なる。また、地方の文化など独自の科目もある。
宗教教育は、公立校では学校の授業で個々人の宗教に沿って学ぶ。学校に宗教色はなく、学内
で別れて宗教の授業を行っている。私立校は学校が宗教ごとに分かれており、それぞれその学校
の定める宗教に沿って授業が行われる。
私立の幼稚園やフリースクールでは海外の子どもを受け入れる制度があり、私立小中学校では
外国との交流プログラムや、ジャカルタ・インターナショナルスクールと1ヶ月児童生徒を交換するプ
ログラムなどがある。
オリエンテーションを通して、現在のインドネシア、特に地方における教育課題で最も重要なもの
は教育の質の向上だということが認識された。また、社会環境から生じる経済問題も課題として挙
げられ、貧しい家庭で子どもを労働力と捉え学校を中退させる親にどう対応するかが深刻な問題に
なっていることが説明された。
3日目(2008 年 7 月 21 日)
<SDN IKIP>
SDN IKIP は、児童数 878 人、教職員 98 人(クラブ活動指導員を含む)の、国立教育大学附属小
学校である。全国で実施される小学校の卒業試験で、公立小学校の中では1位、私立の小学校を
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入れても 10 位といういわゆるエリート校であり、各クラス児童 24 人で少人数指導を行っている。
全国でもトップ校である SDN IKIP では、以前は幼稚園から大学までエスカレーター式だったが、
現在は約 75%の児童が附属中学校、25%は私立中学校に進学する。塾に通う子どもが多く、小学
校卒業試験では特にインドネシア語、算数、理科の科目で非常に優秀な成績を収めている。
大学との連携としては、算数の分野で SDN IKIP の教師に対する指導がある。大学においては、
教員養成大学として教育実習のほか教育心理学、論文などを学ばせており、SDN IKIP の教員はほ
ぼこの教育大学の卒業生である。
教科としての道徳教育はないが、日常生活の中で実践しており、特に宗教の時間と、パンチャシ
ラに基づく公民教育の時間に教えている。パンチャシラとは建国五原則であり、平易な言葉では、
寛容、思いやり、結びつき、話し合い、助け合い、と訳され、多様な価値観や文化を持つインドネシ
ア社会の根本となる原理である。参加者が通された部屋にはちょうど各学年の児童の年齢構成を
書いたホワイトボードがあり、宗教別人数の一覧も掲載されていた。各学年の児童は留年などの理
由により3、4歳の年齢差があり、学年が上がるほどその差が大きくなると説明された。インドネシア
全体の宗教別人口比に比較して校内はイスラム教徒が多いが、それは入学試験の結果であって、
特に宗教の別が入学に影響することはない。
校長の Ms. Hj. Tien Yuniati に学校概要の説明を受けた後、図書室や理科実験室、祈りの部屋、
また音楽やコンピュータの授業を見学した。授業見学の後は SDN IKIP の教職員に質問する時間を
取り、逆に参加者側からは日本の附属学校についての大まかな説明をした。
<SMA Lab School>
SMA Lab School は今年 40 周年を迎えた国立の教員養成大学附属高等学校であり、740 人の生
徒が通っている。先に訪問した SDN IKIP と同様、幼稚園から高等学校までの一貫教育を行っており、
SDN IKIP と同じ敷地内にある。理系と文系に分かれ、2年生はフランス語を履修、1年生と3年生は
日本語を必修科目として週2時間受けている。
Lab School での ASPnet としての活動には、主に平和教育のワークショップや日本の民間交流
機関との連携などが挙げられた。Lab School の ASPnet コーディネーターである Ms. Ira Fasa からは、
2006 年に ACCU、アジア防災教育子どもフォーラム実行委員会、ほかによる共催で実施された「ア
ジア防災教育子どもフォーラム」に、同校副校長の Mr. Suparno と生徒1名が参加したことが説明さ
れた。
参加者の訪問に際し、まず校長の Dr. Hj. Ulya Latifah から歓迎のあいさつをいただき、次いで学
校の概要が説明された。続いて Mr. Suparno の司会で歓迎会が催され、西ジャワに起源を持つとい
われる竹で作られたアンクルンという楽器の演奏が生徒により披露された。最初の2曲はインドネシ
アの曲、3曲目は日本の「さくら さくら」が演奏された。アンクルンの演奏が終わると、放課後のクラ
ブ活動として「伝統的な踊り」を選択している女子生徒 11 名が、アチェ地方の伝統舞踊を披露してく
れた。最後に、インドネシア・アイドル最終予選に進出したという生徒が国を称える歌を歌って会は
終了した。
歓迎会の後、参加者は校内を案内され、短時間ではあったが授業を止めてもらいながら生徒た
ちと直接話をする機会を得た。
<Indonesian National Commission for UNESCO>
インドネシア・ユネスコ国内委員会は、インドネシア国内の教育を担当する国家教育省と共同で、
特に国公立学校に関わる業務を行っており、インドネシアの統一カリキュラムについても取り組んで
いる。また、インドネシアの ASPnet コーディネーターであり、この派遣プログラムの共催団体として
窓口となっている Ms. Hasnah Gasim にも、日本からの参加者の訪問に同席いただいた。
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また、参加者の訪問に合わせて、プログラム中の訪問予定校を含むジャカルタの ASPnet 加盟
校から、校長を中心とした 10 数名の教職員にも出席いただいた。
まずユネスコ国内委員会の Prof. Arief Rachman から訪問団を歓迎するあいさつをいただき、続
けて国内委員会の取り組みについての発表を受けた。(参照:プレゼンテーション資料1)
ESD を実施する中で生じている 10 の課題として、平和、保健、環境、教育などが挙げられる。国
内の ESD は、2005 年にユドヨノ大統領により提言が出されて始まり、環境省と国家教育省が ESD
の実施についての覚書を交わした。また宗教省や女性省(女性の構築のための省)など、複数の省
がインドネシア国内のユネスコ関連プログラムに関わっている。また、地方政府や学校もこれに参
加し、教員だけでなく生徒もプログラムに参加している。さらに、NGO や宗教上のリーダー、ノンフォ
ーマル、インフォーマル教育のリーダーも参加している。ESD をまだ十分に認識していない教師が
多い現状では、教師の質を上げることが特に重要な課題として紹介された。
その後 Prof. Rachman は、訪問団にどのような教育を成功した教育と考えるかを問いかけながら、
自身では、品格がよいこと、礼儀正しいこと、また国民としての尊厳をもっていることをポイントとして
挙げた。さらに、対話の必要性を認識し、宗教や民族の違いを超えて世界平和に貢献しようという
意識を持っていることが必要だと加えた。
最後に、このプログラムを通じてインドネシアと日本の教職員が対話をする機会を得たことへの
喜びを表し、両国間の平和と友好が続くことを祈念して話を終えた。
次に、国家教育省の Dr. Muchlis Catio からインドネシアの教育事情についてプレゼンテーション
が行われた。
インドネシアでは現在、小学校、中学校、高等学校が合わせて約 13 万校、約 6,200 万の生徒が
在籍している。毎年卒業前には国家試験が実施され、この試験結果は現在の教育カリキュラムがう
まく機能しているかどうかを計る指標として使われている。また、学校ごとの評価をつけ、地域ごと
の教育の成果を毎年出している。
教師の質や施設の状況により、学校の質は地域や島によって異なっているというのが現状であ
り、国家教育省ではこれらの格差をなくすべく取り組みが行われている。その中に、各地方にパイロ
ットチームが2ヶ月間派遣され研修やワークショップを実施する、というものがあるが、この中には農
業専門の職業高校や家庭科の高校も含まれる。今年からは労働力の増加を目的とし、職業高校の
数を増加させる政策が実施された。職業高校が全体の6割、一般高校を残り4割とすることが定め
られ、2010 年までには職業高校の卒業生の方が多くなる見込みだという。
教育省には各州、県レベルにも教育問題を担当する機関があり、担当者を年に2回はジャカル
タに集め、様々な問題を討議している。討議を通じて、担当区域の学校の図書館、実験室の設備の
増設、校舎の改築の必要性を検討するなど、中央政府の協力を得られるようにしている。
その後、以下の通り日本側からの事例発表が行われた。
①
プレゼンテーション:“ESD for ASP network for Global Environment”
越谷市立富士中学校 教諭 飯島 眞 (参照:プレゼンテーション資料2)
②
プレゼンテーション:“Profile of Matsubara High School, Osaka”
大阪府立松原高等学校 教諭 山田 正人 (参照:プレゼンテーション資料3)
プレゼンテーション後には質疑応答があり、インドネシアの教員からは日本の防災訓練や選択
科目についての高い関心が寄せられた。日本側からはインドネシアの ESD の実施状況に踏み込ん
だ発言が見られ、活発な議論が行われた。質疑応答を通し、ESD が必ずしも教科やカリキュラムと
してインドネシア国内で普及しているわけではないこと、しかしそれにもかかわらず、それ以外の場
で ESD に必要な考え方や課外活動がインドネシアに根づいていることなどが窺えた。ただ、ESD の
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推進者が一部の教師にとどまっているという事実は、両国の教育関係者が抱える同様の問題であ
り、いかに問題を克服するかがこれからの課題となる。ESD の認識を高める長期的かつホリスティッ
クな取り組みが必要だという意見で一致をみた。
4日目(2008 年7月 21 日)
<SMA 34>
SMA 34 は日本政府からの補助で 1999 年に改修された国立高等学校で、2000 年に ASPnet に
加盟して以来、様々なユネスコ活動を通じて ESD を進めてきた学校である。各クラス 40 名の生徒が
学んでおり、全校では 898 名が在学、男子生徒よりも女子生徒のほうが多いという。2年生以上は
文系と理系に分かれ、2年生では 240 名、3年生では 196 名が文系、2年生 71 名と3年生 112 名が
理系に進んでいる。
SMA 34 では、インドネシアで環境問題が深刻になりつつあった 1996 年から環境教育を開始した。
有機ゴミから肥料を使ってランを栽培したり、リサイクル紙やプラスチック製の容器を広げて縫い合
わせ手提げバッグを作ったりし、それらを保護者や地域の人々に売ることでゴミが経済的な価値を
生み出すものだということを生徒たちに学ばせている。そこから生まれた収益は、経済的に恵まれ
ない生徒の援助資金をして活用される。
環境教育の取り組みは、当初は放課後のクラブ活動として行われていた。しかし 2004 年以降、
生物・化学など自然科学を中心に各教科の中で環境教育を進めるのに加え、正規の授業の他に週
2時間の環境教育の時間を設けるという独自のカリキュラムによって、環境教育を中心とした ESD
の推進に努めている。この2時間の枠で、生徒は主に実験や観察などの体験学習をし、生物や化
学の授業中に理論を学習する。こうした取り組みは校内だけにとどまらず、地域や近隣の学校でも
行われているという。
SMA 34 では、トリサクティ大学など他の学術機関や環境省からの資料を学習教材として活用し
ている。教育を単なる知識の伝達で終わらせず、生徒たちが環境に対する認識を深め、日常生活
の中でその大切さに自ら気付いていくためのサポートとして実践されていた。
校長の Dr. H. Achmad Mukri Suramihardja に学校概要の説明を受けた後、生徒により学校の環
境活動が発表された。その後校内を見学し、ペットボトルを利用した植物栽培装置や、敷地内の薬
用植物園について、生徒たちや教員たちから直に説明を受けながら見ることができた。
<SMU Perguruan Diponegoro (SMA Diponegoro 1)>
SMU Perguruan Diponegoro は 1966 年に創立された財団経営による学校であり、高等学校
(SMA Diponegoro 1)のほかに職業専門学校が併設されている。バスが学校に到着するなり、訪問
団は民族衣装をまとった生徒たちに大歓迎され、民族楽器を使った音楽と、それに合わせての踊り、
歌などが披露された。
SMA Diponegoro 1 の在学生の保護者の収入は比較的低く、教職員の収入も国立に比べると低
い。しかしながら同校では、このような生徒たちに最大限の教育、サービスを提供することを目指し
ており、公的な評価では A ランクに位置づけられている。5S(微笑み、あいさつ、歓迎、感謝、忍耐)
という合言葉を実践しており、これが生徒たちの調和のとれた人格の発達にかかせないという。
学校では特に外国語教育とコンピュータ学習に力を入れており、訪問中にアラビア語の授業も
見学できた。イスラム教徒にとってコーランを読めることは必須であり、そのイスラム教徒の増大に
より国際社会でのアラビア語の重要性が高まっていることが見て取れる。その他、インドネシア語、
英語、日本語の授業も行われている。
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校内を回った後は交流会が催され、財団の理事長である Mr. Ir. H. Imam Parikesit をはじめ多く
の教職員が参加して、学校の特徴や取り組みが説明された。これまでは iEARN 等を通して韓国や
近隣のオセアニア諸国などと交流を行っており、文化や人権をテーマにしたことが多かったという。
ASPnet に関してはまだ十分な活動ができていないとのことで、今後は国際的な協力関係の下で、
環境教育にも焦点を当てて ESD に取り組みたいという考えが強調された。また、日本の学校との交
流を強く希望していることが述べられ、日本側がこれにどう応えていくかが課題だと感じられた。
最後に高校生たちからインドネシア語で「乾杯」を、お返しとして訪問団からは日本語で「翼をくだ
さい」を合唱した。
<UNESCO Office, Jakarta>
ユネスコ・ジャカルタ事務所は、アジア太平洋地域の核となるユネスコ事務所として、教育と科学
を担当している。2004 年のスマトラ沖地震を契機として、生物学分野と科学技術分野に専門家2名
を配置し、警告システムなど人々が災害に備えるためのシステムを開発している。
まず、事務所を代表して Mr. Ardito Kodijat からあいさつをいただき、続いて教育プログラム担当
の Ms. Juliati Ng から事務所の事業について説明を受けた。(参照:プレゼンテーション資料4)
事業概要は主に以下の7点に焦点をおいた説明がされた。
1) 教育活動:人権教育の促進、教育の質の向上、実験や革新の奨励を目標としており、他国
政府が行っているプログラム等をサポート。
2) EFA の推進:普遍的な初等教育、識字率の向上、教育における男女平等、教育の質の向上
などの達成。
3) 子どもたちが学ぶためのプログラム作り(CLCC):基礎教育の向上とその制度化を目的に実
施。
4) 教育の質の向上:全ての子どもたちが安全な環境で学ぶ機会を整え、全ての教育活動にお
いて、男女平等に機会を与えるよう認識を高める。また、教員の能力の向上、教材やカリキ
ュラムの開発などを実施。
5) 教育を受ける機会の平等:教育を受けられなかった人のため、パッケージ ABC などの平等
な教育の機会を与える。また、奨学金を提供して研修を受けられるようにする1年間の職業
訓練プログラムを実施。
6) ESD の推進:持続可能な発展のために考慮すべき「社会」、「経済」、「環境」を中心に、教材
の開発や人権教育、平和教育を実施。
7) 識字教育:効果的な識字教育ができるよう、政府を中心に実施。
教材を地方の言語に翻訳する際のコストは、ユネスコ・ジャカルタ事務所、政府、あるいはその
両者が共同で負担する場合があるという。教材を地域に配布する際は、政府を通すルートが最も確
実だと説明された。それ以外に、地域の学習センターや情報センターに配布することもあるとのこと
だった。
5日目(2008 年7月 23 日)
SMA 4 Denpasar
バリ島に移動後実施されたプログラムでは、IDEP 財団から Ms. Santi Evelyna に合流してもらい、
バリで最初の訪問先であるデンパサールの高等学校 SMA4から、全ての学校訪問にリソースパー
ソンとして同行してもらった。
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校長の Mr. I Wayan Rika から、学校の特徴について説明がなされた。まずビジョンとして、「知性
と感性の両方において知的であること」を挙げた。これを実践するためのプログラムとして、(1)週3
日の補習授業、(2)クラブ活動、(3)実践的な英語教育、(4)マルチメディアやインターネットを活用
した e ラーニング、(5)大学と連携して実施する比較研究、(6)経済的に恵まれない生徒、成績優秀
者、遠隔地居住者を対象にした奨学金制度、(7)シンガポール、韓国との交流プログラム、(8)人
材育成研修が紹介された。
学校は伝統的なバリの建築様式で建てられているが、図書館や実験室等の施設も充実してい
る。通常1クラスあたり生徒は 38 名で、海外での物理オリンピックや科学論文コンクールなどの入賞
者が多いという。また、独立記念日の国旗掲揚儀式に代表として参加することは大変名誉なことで
あり、そのメンバーに選ばれたことのある生徒も多いと説明された。英語がよくできる生徒が多く、さ
らに日本語も話せる生徒もいたため、彼らが直に参加者を連れて校内見学をさせてくれた。
その後、日本とインドネシアの教職員の間で、主に宗教と文化について意見交換がなされた。バ
リ島の主要な宗教がヒンドゥー教ということから、宗教の時間にそれぞれ異なる宗教の生徒たちに
どのように対応するかという質問に対し、他の公立校と同様に、ヒンドゥー教、イスラム教、カトリック、
プロテスタント、仏教の5つの国教それぞれに授業が設定さていることが紹介された。また、SMA4
では(1)祈り、(2)人と人、人と生き物の関わり、(3)環境を大切にすること、の三つを重視している
という。1ヶ月に一度は生徒がそれぞれの地方の服装で登校しており、バリの文化を学ぶことはす
なわちそれぞれの異なる文化を尊重することにつながると述べられた。
6日目(2008 年7月 24 日)
<IDEP 財団>
IDEP 財団は、1999 年のインドネシアの経済危機をきっかけにバリに設立された非営利団体であ
る。財団の目的として、緊急事態時に備えた持続的な食料生産や資源管理があり、また同時に持
続可能な生活のための環境教育も行っている。他にも持続可能な開発と災害復興のためのパーマ
カルチャーの研修を行っている。現在バリには 28 名、アチェにある支部には 60 名の職員がおり、持
続可能なコミュニティのための各種研修や教材開発に力を注いでいる。
インドネシアは多種多様な生態系で構成されており、国の急速な発展は都市部と農村部どちら
にも深刻な環境破壊を与えている。IDEP は、青少年が将来これらの問題に対処できるようになるた
め、環境教育が緊急に必要だと考えている。そのために、最終的には国のカリキュラムとして利用
できるような、広く応用性のあるカリキュラムの骨子を開発している。バリ島の教育文化局は、IDEP
のこの分野での事業を吟味したうえで、バリ島の、ひいては将来的に国のカリキュラムに統合でき
るような環境教育カリキュラムを開発する3ヵ年計画を認めたという。
教育教材で実際の教育活動に取り入れられているのが、ACCU が製作した PLANET シリーズで
ある。PLANET シリーズを鑑賞した子どもたちが環境保護への関心を持つようになったり、自発的に
河川の清掃活動を始めたりした例もあるという。
IDEP では、現地の人々と実際にやり取りをするために、バリ島の人材をスタッフとして雇ってお
り、アチェ支部では職員の 99%が地元出身者だという。これは、IDEP の基本的な考えである、どの
ような取り組みも最終的には地元の人々が自分たちの努力で活動を続けていくべきという方針に基
づいている。
IDEP の活動概要に続き、参加者は実際的な環境教育として実施されているラーンスケーププロ
ジェクトについて説明を受けた。(参照:プレゼンテーション資料5)
ラーンスケーププロジェクトでは、(1)環境保全についての認識を深めるため、自然、人間、将来
に対しての興味・関心を高めること、(2)学校教育の中で自然災害に対する備えを強化すること、を
14
目標として掲げている。実際の活動として、学校(小学4~6年が中心)に合わせてカリキュラムを開
発しており、多数の学校から注目を浴びているという。さらに、スタッフが学校現場で実際に子ども
の指導にあたっているが、翌年は現場の教員自身が指導できるように、ノウハウを伝えて教員の質
の向上にも努めている。国のカリキュラムの中で環境に関する部分は小さいが、週3コマは地域独
自の教育内容を入れることができ、地元の学校での授業はその枠を利用して行っているという。
IDEP は環境保全や防災の推進に貢献すべく、ホリスティックかつ斬新な方法でカリキュラム開
発を進めている。学生やその保護者、教員、地域社会の人々など、ラーンスケーププロジェクト参加
者は、資源や再生可能エネルギーの活用による環境問題への対処方法を学んでいる。
また、ラーンスケーププロジェクトは社会環境を整える役割も果たしているという。プロジェクト参
加者は、他者との違いを乗り越えながら協力し合う術を学び、問題解決のスキルを身につけるだけ
ではなく、それは個々人の充足につながり、プロジェクトの過程そのものが学びの体験になるので
ある。
一通り説明を受けた後、訪問団は IDEP 財団の事務所近隣にある公立小学校を訪れ、IDEP の
スタッフによって授業が行われる様子を見学した。さらに、リソースパーソンの Ms. Evelyna の解説を
聞きながら、ラーンスケーププロジェクトがよく実施されるデモンストレーションサイトを視察した。
<Green School>
Green School は 2008 年9月の開校を控える私立のインターナショナル・スクールである。ウブド
の丘陵地帯に建設中であり、豊かな自然の中にまったく新しいスタイルのキャンパスの建造を予定
していた。建造物の資材はほとんど竹で、壁のない開放的な教室が特徴である。キャンパスはアユ
ン川を挟んで大きく二つに分けられ、西側が教室や図書館等、教育施設のエリア、東側が寮や職員
の住宅などのエリアとなっている。東西エリアの間には竹でできた橋がかかり、学校と地域をつなぐ
役割をも果たしている。
代表者の Mr. Brad Choyt と、校長の Ms. Kathleen Frye が訪問団を歓迎し、広大な敷地内を歩き
ながら学校の施設や教育理念を説明してくれた。
環境、未来、持続可能性の3点が、Green School 関係者の共有するテーマである。同時に、「コ
ピーライト(権利の利用)」ではなく「コピーレフト(次世代に残す)」という考えで学校を作りたいという
理念が紹介された。これには、かけがえのない地球に生きていることを自覚し、多くの人々と協力体
制を作ることが不可欠となる。
キャンパス内のあらゆるものに竹が素材として利用されているのは、竹が4、5年で成長し、強度
や柔軟性に優れていること、また酸素を多く生成し、地震にも強いことからということで、将来性のあ
る素材として考えていると説明された。
建物はみなユニークな形で、竹の性質をうまく生かして曲線を多く作り、水の中にいるイメージの
デザインにしている。これは、斬新なデザインの学校の中で生活することで、斬新な感覚を身につけ
てほしいという期待による。
各学級には畑が割り当てられ、有機農業を行うことができる。これは、学校であると同時に実験
施設としての役割を持ち、次世代のリーダーを育てる狙いがあってのことだという。学力面だけでな
く、環境についても理解を深め、現代社会や世界の問題に立ち向かうツールを身に付けられる学校
にしたいとの理想が述べられた。また、最も力を入れたいことは、子どもたちが生涯を通じて学び続
け、意欲や好奇心を持ち続ける資質を養うこと、また学んだことを生活に生かし、環境を修復してい
こうとする意欲を育てることだという。
さらに、1クラス 20 人の児童に教員が3人配置され、そのうち1人は英語圏からの教員、1人はイ
ンドネシア人の教員、1人は地元からの新任者とする予定だと説明された。異文化理解にも力を入
れ、伝統農業、護身術、芸術などのバリ独自の文化を学ぶ機会も多く設けるということだった。
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7日目(2008 年7月 25 日)
<Bali Hati>
インドネシア滞在中最後の訪問先となった Bali Hati は、バリの人々のために教育と社会福祉を
充実させようと 1997 年設立の非営利財団によって創設された小学校である。Hati とはインドネシア
語で「心」を意味し、Bali Hati はバリとそこに住む人々の心と美しさを表しているという。現在 Bali Hati
は幼稚園を併設し、小学校6年生までの児童が通っている。全国統一テストの結果は、ウブドでは1
位、周辺地区内では7位だという。
1、2年生はクラスあたり2名の教員が配置され、3~6年生には教員1名とアシスタント1名の配
置だという。週に3時間環境教育のための授業が行われ、外部から講師を招いて実施される。カリ
キュラムは子どもたちの発達段階に基づくが、異なる学年の子どもたちが混合で授業を受けること
もある。
Bali Hati では全国統一のカリキュラムに学校独自のカリキュラムを加えて実施しており、園芸、
料理教室、美術工芸、キャンプなど、生活における価値観を育くむ教育を展開している。また、持続
的な環境保全を中心とする農業も実施している。在校生は経済的に恵まれていない家庭の子ども
たちであり、様々な宗教や国籍の子どももいる。
各クラスの前には学級庭園を設置し、テーマを決めて毎週金曜に手入れをしている。こうした
Bali Hati での環境教育の実践は、ヒンドゥーの価値観ともいえる「人と人」、「人と環境」という関係に
基づいている。子どもたちからは、自宅で庭や畑を作り、植物を育てているという話も聞くようになっ
たという。また、IDEP 財団の授業を受けることで、子どもたちがそこで教わった環境に関するメッセ
ージが家庭や地域に広まっている。
校長の Ms. Ibu Sri から一通り説明をいただいた後、訪問団からは環境教育と多文化教育のため
のカリキュラムや授業に関して質問した。 民族・国籍・宗教などがそれぞれに異なる背景を持つ子
どもたちだが、授業前の祈りの時間は他の宗教の子どもたちが祈り終わるまで待つという場を作り、
他宗教を尊重できるように育てている。言語はインドネシア語を使用しているという。また、毎週「リ
ビング・バリュー(生活の価値観)」という時間に、平和を愛する心、尊重し合う心を学んでいることが、
多様性を認め合うことにつながっていると説明された。
貧しい家庭の子どもは全額無料で通えるようにしているという。設立当初は貧しい地域であるた
め全員無料であったが、現在では経済的な余裕が見られるようになった。しかし学費は家庭の状況
に合わせて支払ってもらい、「貧しいものには無料で」という姿勢は変わっていない。修学年齢に達
した子どもは、バリ全体では 85%が修学し、小学校についてはその数字は上昇傾向にあるという。
就学していない 15%は、地理的に通いづらい地域の子どもたちであるという説明を受けた。
<情報共有会>
最後の学校訪問を終え、参加者はウブドにあるレストラン Tropical Bale にて昼食を取った後、最
終的な総括ミーティングが行われた。これまでの学校訪問等のプログラムを振り返り、各自の感想
や評価を述べ合うと同時に、テーマ別に2グループに分かれて、実施報告書の作成に向け、テーマ、
構成、執筆分担等についての話し合いが行われた。
特に参加者が注目したのは、宗教が多文化教育のために果たす役割、学校教育と NGO との協
力関係、インドネシア社会とその教育の機会における不平等、さらに、ASPnet をいかに将来的に拡
充していくか、などといった点であった。
プログラムを通じて、インドネシアが多文化社会として非常にうまく機能しているということに驚い
たという声が多く聞かれた。また、多数の民族間あるいは宗教間に対立があまり見られなかったば
かりでなく、異なる宗教の存在が学校や社会の中で非常に重要な役割を果たしていることを、実際
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にインドネシアを訪問して初めて知ったという参加者が多かった。
また多かったのは、インドネシア国内にも教育に関しては様々な問題があり、今回の学校訪問だ
けでは見えないものが多くあったはずだという意見だった。比較的優秀な学校を視察したが、もっと
地方の学校や社会の底辺にある子どもたちが住む地域を見られれば、さらに理解が深まったであ
ろうことは確かである。さらに、学校運営や授業指導などさらに細かいところを観察したかったという
意見、児童生徒たちとふれ合い直に対話をする機会がもっとほしかったという意見などが出された。
ESD の促進とアジア太平洋地域における ASPnet の連携に向けて、日本とインドネシアでそれぞ
れお互いの現状分析を進めることが大切である。さらに、学校交流を今後いかに進めていくべきか
を、より具体的かつ積極的に検討する必要があるという認識で一致をみた。
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III. 成果・今後の取り組みに向けて
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インドネシアにおける宗教教育とその重要性
中村中学高等学校
中島 一美
1.インドネシアにおける宗教教育
周知の通り、インドネシアでは信仰の自由が認められており、様々な宗教が混在している。首都
ジャカルタにおいてはイスラム教を中心とし、プロテスタント・カトリック・ヒンドゥー教・仏教と続く。一
方、後半の行程で訪れたバリにおいては、ヒンドゥー教が多くを占めており、その象徴ともいえるガ
ネ―シャやガルーダを形取った像が学校敷地内にも見られる。デンパサールのSMA4(公立高校)
の生徒は、「どこの学校にもある」と躊躇のない笑顔で誇らしげに教えてくれた。
宗教ごとの授業は、多くの学校でカリキュラムに取り入れられていた。また、最初に訪問したジャ
カルタのSDN IKIP(国立教育大附属小学校)では、各宗教を信仰する在籍生徒の人数表が大きく公
表されていた。いつでも生徒の目に触れることができる場所である。さらに、最後に訪問したバリ・ウ
ブドのBali Hati(公立小学校)では、自身の番が回ってくるまで、他の宗教がお祈りしているところを
待たせているという。どちらも、まるで他宗教の存在を強調し、生徒たちに知らしめているかのような
印象を受けた。
授業で自身の信仰する教えへの考えを深め、他宗教の存在を確認することで自分と考えの異な
る者の価値を認め、他宗教へ順番を譲ることで他を尊重する心を育てる。そこには、ESDを推進す
るにあたって欠かせない人間のあり方を感じることができた。実際に機能しているか否かは別として
も、インドネシアにおけるASPnetの参加校数が300校に至る事実と無関係ではなさそうである。(我
が国においては、現在24校に留まっている。)
2.宗教教育の重要性
今抱えている教育問題は何かと質問をした時、「地方にいる教員の質の向上」という回答が得ら
れた。地理的な問題で中央と地方の教員の質を同等にすることが困難であるという。しかしながら、
「それ以外は問題がない」と言い切る痛快さは、あまりにもインパクトが大きかった。事実の確認を
することは叶わない。が、感覚や基準の差こそあれ、日本で同じ質問をした場合、どれだけの日本
人の口からその言葉が出されるかは疑問である。
インドネシアにあって日本にないものを考えた時、一番に浮かぶのは「宗教教育」であった。宗
教教育の定義は様々であるが、それを情操教育のひとつと捉えてよいのであれば、子どもにとって
大きく影響を及ぼす重要な教育であるに違いない。確実に信じられるものを心に持つ子どもたちに
対し、日に日に社会に不信感を募らせる子どもたち。その違いがいじめや不登校、教員の質の問題
や犯罪の低年齢化などに関連していると考えるのは極端であろうか。何も日本国内に宗教教育を
取り入れねばならないと意気込んでいるのではない。信じられる何かを心に置いてあげられたら、
そう思うのである。自身を受容できて初めて、他を尊重できる心を身に付けることができるのではな
いだろうか。日本の一教師として、目の前の課題をひとつ見つけることができた。
3.感想
インドネシアにおける多宗教という名の多文化は、見事に共生している。それは、自然な成り行
きではなく国として教育現場に共生の息吹を取り入れ、実践していることの産物であろう。しかしな
がら一方で、教育を受けられなかった子どもへのインフォーマルな教育施設(パッケージABC)を充
実させねばならない現状、奨学金制度をいくつもの学校で取り入れねばならない現状、富める者が
貧しい者を補わねばならない現状、もっといえば学校で授業を受けているはずの時間帯に新聞を売
り歩いては相手にされずに終わる子どもの存在も忘れてはならない。
百年の計といわれる教育において、何をもって「今」を成功とするのか。「本校の教育は成功とい
える」という発言を何度か耳にしたが、本当のところはゴールを設けてはいけない取り組みなのかも
しれない。このプログラムを通して、私が真実であると断言できるものがあるとすれば、それは子ど
もたちの「学べる喜び」に満ちる生きた笑顔ではないだろうか。日本の子どもたちに今伝えるべき最
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も重要なことは、「学ぶ喜び」ならぬ「学べる喜び」であるように思った。
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学校における宗教教育について
大阪府立住吉高等学校
山中 啓子
ユネスコ・スクールに加盟して初めてのプログラムであり、よくわからないままに参加したが、今
後ユネスコ・スクールとしてどうすればいいか、というより教育にとって何が必要かということについ
ていろいろ考えさせられた一週間だった。
インドネシアのユネスコ・スクール共同学校は 300 校近くあり ESD を積極的に実践しているという
話だったが、実際に行ってみるとそれほど画期的な活動をしているわけではない、というのが当初
の正直な感想であった。ただ、地元の環境 NPO が小学校のカリキュラムの中に入り込んで、年間を
通じてフィールドワークも含めた環境教育を行っているようなところもあったし、Green School という
あらゆる点で環境に配慮した実験的なフリースクールもできつつあった。
しかし、それよりも印象に残ったのは訪問した学校の先生方や生徒たちが大歓迎をしてくれたこ
と、そして、生徒たちの表情がみな明るく素直で非常にイイ顔をしていたことである。インドネシアの
教育について説明を受けたとき、家庭の教育力が低下していないか質問したが、今のところそうい
うことはないという返事だった。そのままうのみにしていいわけでもないだろうが、少なくともそれほ
ど大きな社会問題になってはいないのだろう。そして、家庭教育と学校の宗教教育のおかげでイジ
メはないと断言していた。その真偽はともかく、宗教教育の人間形成に果たす役割は意外に大きい
のではないかという思いを、この一週間の旅行中に強く持った。
宗教の時間は、イスラム教、ヒンドゥー教、カトリック、プロテスタント、仏教、以上5つの宗教の
先生がそれぞれの生徒を担当している。生徒がどれほど少数でもその生徒たちのために一人の専
門の先生が確保されている。また、ムスリムの生徒たちがお祈りをささげている時間は、他の生徒
たちは彼らに配慮してずっと待っているという。ESD にはあらゆる側面がありそれぞれに課題がある
が、ほとんどの課題は人の過剰な欲望に端を発している。そして、あらゆる宗教はその過剰な欲望
を戒める思想を有している。それは言い換えれば、それだけすべての人間は欲深な生き物だという
ことなのだろうが、宗教教育はそれを少しでも小さくするのに役立つのではないか。宗教教育がある
いはひとつの ESD なのかもしれない。そうだとすると、宗教教育を大切にしているインドネシアは確
かに優れた ESD 実践国だといえるのかもしれない。
日本で宗教教育を行うのは無理だろうが、何かそれに代わるものが必要ではないかと思う。人
間を超えるものの存在を感じ、畏敬の念を持つことで、人は謙虚になれるのではないか。日本の場
合、それは「自然教育」ではないかと思っている。「環境教育」といってもかまわないが、もっと概念を
広げて、自然に対する「畏れ」と「愛着」の気持ちを抱かせるような教育ができればいい。幸福にも日
本の自然は比較的穏やかで、「自然の懐に抱かれる」「母なる大地」「自然の恵み」そういう言葉が
かつては実感とともに存在していた。自然はカウンセリングの役をも果たしていたのだ。そしてその
ような自然と共存するための知恵が各地にあった。その知恵の基礎にあったのはまさに自然に対
する「畏れ」と「愛着」だった。そういう知恵を実践の中で体得できるような、そして今や実感としては
ほとんど死語となった「母なる自然」を蘇らせるような「環境教育」ができればいいと、このプログラム
を通して考えるようになった。
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学校現場と NPO との関わりについて
大阪府立松原高等学校
山田 正人
1.インドネシアの訪問先の学校の様子
インドネシアの小・中・高校で、どのような ESD(持続発展教育)の実践が行われているか、その
ことの具体的な形を知るために私たちは ACCU が企画した学校やユネスコ事務所、NGO を訪問し
た。
訪問先ではどこでも大歓迎を受けた。インドネシアは「発展途上国で、多民族国家であるがゆえ
に、様々な困難を教室が抱えているに違いない」という先入観は見事に裏切られた。ユネスコ・スク
ールという観点からではなく、日本に対してとても熱い視線を送ってきている。国の体制が整い教育
が行き届き始め、これから先進国に仲間入りするという強い意思が感じられた。
ACCU がコーディネートをする段階で、慎重に、ジャカルタとバリのAランク校(全国統一の卒業
試験の点数と学校活動の実績で評価され2年間有効である国家教育省による評価)を選び見せて
いただいたのかもしれないが、それにしても、語学教育、コンピュータなど、日本の学校と設備、授
業内容ともほぼ遜色がないことに驚いた。出迎えてくれた先生や生徒たちも積極的で、ユネスコに
関わらずとも、日本との交流を望んでいることが伝わってきた。
各訪問先では、一通りの説明を受けた後で、質疑応答があり、日本側から多くの質問がなされ
た。日本側の ESD の実践についての矢のような質問にも関わらず、歯切れのいい返事は返ってこ
なかった。私の印象では、日本の学校同様に ESD というのが一般には浸透していなくて、カリキュラ
ムの中に組み込まれるところまではいっていない。クラブ活動で環境教育を見事に実践している学
校もあったが、教科や宗教の時間の1コマを使って、人権教育などを行っているという実態だと思っ
た。
今の教育の問題として、教育と教員の質の向上のことを複数の人たちが挙げていたことが印象
に残っている。
2.NGO と学校との協働
地域の NPO である IDEP という団体は、地域の衣食住に関する問題をいかに「持続可能」な状態
にすることができるかということに焦点を当て、環境問題、災害問題、農業、などの分野で、様々な
教材や人材を提供し、活躍している 1997 年に設立されたボランティア団体である。
その IDEP が公立小学校でごみ問題を教えている授業を見学させてもらった。政府の定めたカリ
キュラムの中に入れるのが難しいという声を何度も聞いたが、小学校の実情に合わせて、クラスの
サイズを1年から3年の合同クラスで、ごみの分別の仕方、リサイクル・リユースの意味などを具体
的に教えていた。
IDEP という NGO は、地域密着型の、実際にすぐに問題解決を促すようなボランティア団体であ
る。環境問題、教育問題、マイクロクレジット、家庭排水、農業、他の NGO との連携などを視野に入
れた総合的な NGO であることも魅力的である(大阪では、ひとつの分野―環境なら環境のみ―に
限定して活躍する NGO がほとんどで、総合的に地域に社会貢献している NGO はほとんどない)が、
それ以上に、NGO が教材を開発し、公立小学校の中で協働している姿は先進的でさえある。
推論ではあるが、日本では、学校外の NGO が学校に入ってくるのには、カリキュラムの問題の
ほかにも、費用の面や、評価のこと、教員の合意形成の問題などで、かなり難しい。多いに学びた
い点であった。
3.私立小学校 Bali Hati
1997 年設立の新しい NPO で、Hati の意味は、「心」。バリの人たちに精神的な価値に導かれた
人間味溢れる方法で、教育や保健衛生、意識改革の面で問題解決をする団体だ。我々が訪問した
小学校も、政府のカリキュラムに加えて、独自のものを実施している。地域の貧しい子どもたちの中
で学習意欲のある生徒を集め、奨学金を与えて学校に通わせている。不足の運営資金をまかなう
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ためスパ(温泉)などを経営し、運営費にあてている。NGO が学校経営をしているという点で、日本
的な発想ではない。
4.感想
NPO が、地域の人々の生活向上のための様々なツールを用意し、ファシリテーター研修をし、学
校に入り込んだり、NPO 自身が学校を運営する所を見せてもらったりした。「勢い」がある。持続発
展の具体的な先導役は NPO ではないのか?NPO の理念が浸透していけば新しい社会が開けるか
もしれない。学校を取り込みながら ESD をこの先どう展開していくのか、とても楽しみである。
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インドネシアにおける多文化教育
~多様性の中の統一~
岐阜市立島小学校
野原 清春
1.はじめに
大小 17,000 もの島に、400 以上の民族と 250 の言語を話す人々が暮らす人種の坩堝インドネシ
ア。第二次世界大戦後、中国系住民に対する暴動や、キリスト教徒対イスラム教徒の抗争が繰り返
されてきた。その様な国をまとめるために、教育現場ではどのような取り組みをしているのか。今回
の研修で、わずかだがその取り組みを知ることができた。
2.多文化教育を支える2つの要素
多文化教育を支える2つの要素は、「統一」と「多様性」だと感じた。インドネシアでは、国家とし
ての一体感、インドネシア人としてのアイデンティティを形成するために、常にあらゆるものを統一に
向かわせようとする方向性が存在する。しかし一方で、古くからの多様な民族文化を大切にすること
でバランスを取ろうとする方向性も働いている。社会のあらゆる面でこの二面性が見られ、それは
常に表裏一体をなすものだと思われた。まさに、インドネシアの国章にある言葉「多様性の中の統
一」である。
(1)言語教育
小学校で初めて教室掲示のインドネシア語を見た時、違和感を覚えた。インドネシア語はアルフ
ァベット表記で、明らかにヨーロッパ起源の言葉が多数混じっていたからである。インドネシア語
は、戦後新しく「作られた」言語である。この作られた言語をどの学校でも必修とすることで、言語
を統一し、国家形成を容易にしようとしている。現在では、国民の 70%がインドネシア語を話せる
という。先日ベルギーで、オランダ語圏とフランス語圏の地域間対立により首相が辞任するという
騒動が起きたが、これは統一言語が国家にとっていかに重要かを物語っている。インドネシアで
は、学校でそれぞれの地方の言葉を学ぶことも義務化されている。ローカルコンテストが盛んで、
バリではバリ語のスピーチコンテストが行われていた。
(2)全国統一テスト
インドネシアの学校教育は全国統一のカリキュラムに基づいて行われ、さらにカリキュラムが適正
に実施されているかをチェックする全国統一の卒業試験が行われている。テスト結果により各学
校はランク付けされており、私の眼から見ると教育に対する国の締め付けは大変厳しいように思
える。ただ全国統一カリキュラムに地方独自のカリキュラムや宗教教育のカリキュラムを加えるこ
とができ、そこで各地方や学校の独自性を出しているようだ。地方独自の職業訓練学校に対する
政府の援助もある。教育のランク付けによる弊害が心配であるが、今回訪問した学校はみなAラ
ンクだったため、その点についてはよく分からなかった。
(3)国民としての心得の授業
インドネシアに「国民としての心得の授業」があると聞いたのは、最後の訪問校でのことだ。こ
れは、子どもたちがそれぞれの属する民族や文化について学んだ上で、インドネシア国民として
の心得を学ぶ授業であるという。日本の公民の授業より踏み込んだ内容らしいのだが、残念なが
ら具体的な内容を知ることはできなかった。インドネシアではどの教室にも国章と大統領の写真
が掲げられており、校内で国旗を掲揚するチームに選ばれることは名誉なことらしい。そこにはア
メリカ合衆国に似た、国策による国民意識の形成が垣間見える。一方で、どの学校でも民族楽器
や民族舞踊の授業を大切にし、熱心に取り組んでいた。バリでは一ヶ月に一回その地方の服を
着て登校する日があった。国が外から作り上げようとする国民意識とは別に、やはり自らの伝統
や文化に基づいたアイデンティティの形成が、人には必要なのだと感じた。
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3.おわりに
帰国後、ちょうどインドネシアから初めて日本が看護師を受け入れることがニュースで話題とな
っていたが、今後日本はさらに多くの外国人を人材として受け入れることになる。国の事情は大きく
異なるが、国際化社会を迎える日本がインドネシアから学べることは多い。キーワードは、「伝統文
化の尊重」と「異文化に対する寛容」だと思う。今後、日本の教育現場もグローバル化に対する対応
を迫られることになるが、インドネシアの学校のように国際的なコンテストに積極的に参加することも
必要であろうし、環境や平和について国を越えて交流する ASPnet の取り組みは、非常に重要にな
ってくると思う。
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インドネシアの多文化教育
大阪府立北淀高等学校
大島 弘和
どういう思いこみであったのか、インドネシアの多文化教育については、その民族的・宗教的・言
語的・文化的な背景から、当然うまくいっていないはずだという先入観があった。同行した方々もみ
な同じようなご意見だったように思われた。しかし、ジャカルタからバリに移動する頃には、いや、案
外うまくいってるんじゃないのか、という見方に変わってきた。学校を訪問するたびに、国と教育機関
が、様々な手法でいかに「他を認め合い」ながら「まとまる」ことに取り組んでいるのかを伺ったから
である。
具体的には、
(1)宗教の時間の設置
国が認める5つの宗教-イスラム教・ヒンドゥー教・カトリック・プロテスタント・仏教-につい
て、信教の自由を保障し、たとえ一人であってもその宗教の教師が派遣される。教師は当然、各
生徒の宗教を知っており、学校によっては在籍数や成績と並んで、掲示されている。
(2)言語と文化
そもそもインドネシア語はマレー語を元に戦後、民族統一のため作られた共通の言葉で、地
域の言葉-例えばジャカルタではジャワ語、バリではバリ語-と共存している。地域の言葉を教
え、伝えることで地域の文化を大切にしようとしている。地域の言葉は高校でも必修として教えら
れている。音楽の時間では小学校でも高校でも、アンクルンという伝統楽器を学んでいた。西洋
音楽は教えないということである。
(3)ミニ・インドネシア
ジャカルタにあるこの施設の中には、様々な民族の伝統的家屋が建ち並んでおり、内部に
は伝統的な文物が展示されている。また、ここの博物館内には、結婚式の伝統的衣装などが展
示されているが、民族それぞれのものを並べたためおびただしい数が並んでいる。モスク、ヒン
ドゥー寺院、仏教寺院、キリスト教会が並んでいる場所も見えた。テーマパークの形を取りなが
ら、国がどういう多民族国家を作ろうとしているのかを示す一大サンプルである。
(4)国章ガルーダと大統領の写真
どの学校にも、教室の中はもちろん、目立つところには国章であるガルーダと大統領の写真
が掲げられてある。当然、国家としての一体感を育むためである。スカルノ以外の大統領を知っ
ているかと、あちこちで聞かれたが、日本ではあり得ない質問である。
(5)国民としての心得の授業
小学校にあるということだが、中高にもあるかは不明。
といったことである。
これらの実践が必要なのは、国内に、違いを認め合っていかなければどうしようもない状況があ
るということである。そして、正面からそれを認めたうえで、一国家・国民としてまとまっていかなけれ
ばならないのである。逃げも隠れもできないのだから、自分を主張しながらも他を認めることが鍛え
られるのではないか。つまり、インドネシアでは、日々、多文化受容・共存の訓練の場であるというこ
となのである。日々、他者との関係のありようを学んでいるともいえる。
それを思えば、日本の多文化教育は、せっぱつまったところがない。認め合わなければたちい
かないということがないからであろう。したがって多文化という認識も薄い。大阪の土地柄と人権教
育の伝統には、部落問題、在日韓国朝鮮人問題をはじめ、文化の違いが際だつような実践があっ
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た。これらのキーワードとして「違いを認める」ことがあげられながら、一方で、違いが目立たなくなっ
てきているのも事実である。
今回のインドネシアの多文化教育から学んだことは、お互いを認め合うには、それぞれの文化
をもっと出しあって、鍛えあうことが必要なのだということである。ユネスコ・スクールとして様々な国
の人と交流するためにも、自己を表現し、他者の立場を考えることのできる力の育成が、自分を大
切にし、共によりよい未来を切りひらくことにつながるはずである。
28
多様性の中の統一
~インドネシアの学校における多文化教育の試み~
玉川大学
小林 亮
ACCU によって企画・実施されたこの度のインドネシア教員派遣プログラムの主目的のひとつは、
インドネシアの初等教育および中等教育における異文化理解教育の実践を視察することにあった。
私たち派遣団一行は、2008 年7月 21 日に、インドネシア・ユネスコ国内委員会を訪問して事務総長
のラクマン教授(Prof. Rachman)と会見し、翌7月 22 日には、ユネスコ・ジャカルタ事務所を訪問して
数名の職員と会見を行ったが、そこで分かったことは、インドネシアという国は 27 の民族グループと
5つの公認宗教(イスラム教、ヒンドゥー教、プロテスタント、カトリック、仏教)で構成されている非常
な多文化社会であるという事実である。このように多様な民族や宗教を擁するインドネシアのような
国にとって、国家を構成する様々な集団が相互理解と相互尊重に基づいて平和裏に共生していけ
るように、子どもたちの異文化理解および異文化トレランスにむけた学習を促進していくことは、教
育上の至上命題であるといえる。さらに、インドネシアは ASEAN(アセアン:東南アジア諸国連合)の
一員であり、地域連携の中でアジア太平洋地域の諸国と良好な関係を構築していくことは、国家の
発展のためにも極めて重要な要請である。そこで私たち派遣団一行は、この国の学校教育の日常
場面において、多文化共生に向けたこうした教育的課題がどのように具体化され実践されているか
という問題に強い関心を持ち、そこを観察させていただきたいと思ったのである。
この教員派遣プログラムで私たちは計8校の学校を訪問した。イスラム教が主流を占める首都ジ
ャカルタで4校、ヒンドゥー教の伝統の強いバリ島で4校を訪問した。私たちが訪問したどの学校に
おいても「宗教」は学校カリキュラムの正規の必修科目として、体系的に教えられていた。しかし「宗
教」は必修であるが、どの宗教を学ぶかは個々の児童生徒の選択に委ねられており(大体は児童
生徒自身あるいは家族が信仰している宗教を選ぶのが通例である)、それぞれの宗教に所属する
聖職者や専門家が来て教えることになっていた。こうした宗教教育の実践を見て私が感心したのは、
宗教教育が一方で児童生徒たちのアイデンティティ形成に大きく寄与すると同時に、自分とは異な
る宗教伝統に対する寛容や尊重の態度を醸成する上でやはり大きな役割を果たしているように見
えたことである。これらの学校の先生方との対話を通じて分かったのは、こうした宗教教育と並んで、
インドネシアの学校では道徳教育ないし公民教育に大変力を入れており、とくにインドネシア人とし
ての国民アイデンティティとそれに伴う規範意識の育成を目指した「国民の心得」という教科が必修
科目として重視されているということである。この「国民の心得」は、インドネシア人としての誇りや国
民アイデンティティの確立を目的としており、また事実、国民意識の確立に貢献している点で一種の
愛国心教育であるともいえる。この愛国心教育との関連で印象的だったのは、私たちが訪問したど
の学校のどの教室にも、国家元首であるユドヨノ大統領の肖像写真がインドネシアの国家紋章とと
もに教室前面の壁に掲げられていたことである。私たちが7月 22 日に訪れたジャカルタ市内のペル
グルアン・ディポネゴロ高校(SMA Diponegoro 1)では、校庭での国旗掲揚式を見学させていただい
た。私たちの質問に対して校長先生は、週一回行われる国旗掲揚式の作業当番に選ばれることは、
生徒たちにとって非常に名誉な誇らしいこととして受け止められていると答えておられた。ここにも
愛国心教育が日常行事の中で実践されている一端を窺うことができた。全体として、インドネシア人
としての国民アイデンティティの確立をめざす愛国心教育としての公民教育は、インドネシアの児童
生徒たちにある種の心理的安定感を与え、それがかえって彼らに自分とは異なる国内外の宗教や
民族集団に対する寛容の態度形成を促進しているように見受けられた。つまり、宗教教育と国民ア
イデンティティ(国民意識)の育成をめざす愛国心教育とは、インドネシアの児童生徒たちにおいて
決して互いに矛盾したものではなく、むしろ多文化共生というインドネシア社会の要請に応える寛容
の態度の効果的な育成に向けて相補的に働いているという印象を受けた。その意味で「多様性の
中の統一」(“Unity in Diversity”)というユネスコの標語は、国民アイデンティティに基づく国家の統
合というインドネシアの公民教育を促進する指導原理であると同時に、様々な民族、文化伝統、宗
29
教を抱える多文化社会であるインドネシアで「寛容」の重要性を子どもたちに体験的に身につけさせ
ていく原理としても働いているのだということを実感した。
多文化社会であるインドネシアと比べると、日本はこれまでどちらかというと単民族からなる均質
社会と見なされる傾向が強かった。日本が均質社会であるかどうかは別として、日本において異民
族や異宗教との葛藤体験の克服を可能にする多文化共生に向けての教育がこれまで十分に開発、
実践されてきたとは言いがたい。しかしグローバル化の進行に伴い、日本社会の直面する状況も急
速に変わりつつある。日本の学校現場においても、外国人児童生徒の増加や文化間移動の日常
化に伴って、多文化教育のための効果的なモデルを構築していくことは焦眉の急であると考えられ
る。それは国家としての社会的統合を保持すると同時に、子どもたちの心の中に、自分とは異なる
民族的、文化的、宗教的背景をもった人々との平和的な共生を可能にする寛容の心性を養うという
今日的な教育課題に応えたプログラムでなければならない。この点で、私たちは今回訪問したイン
ドネシアの学校における多文化教育の実践から、多文化共生に向けての様々な重要事項を学ぶこ
とができよう。インドネシアの学校において、異文化理解および異宗教間理解の促進のための教育
実践の最前線を視察する貴重な機会を与えていただいたことに、この場を借りて深く感謝申し上げ
る次第である。
30
ACCU インドネシア教員派遣プログラムの総括:多文化教育
玉川大学
小林 亮
ユネスコによって 1993 年に創設された 21 世紀教育国際委員会(The International Commission
on Education for the Twenty-first Century)は、その報告書「学習:秘められた宝」(“Learning: The
Treasure within”)(1996)の中で、学習の四本柱を提唱している。すなわち、「知ることを学ぶ」
(learning to know)、「為すことを学ぶ」(learning to do)、「共に生きることを学ぶ」(learning to live
together)、「人間として生きることを学ぶ」(learning to be)の4つである。学習のこの四本柱は、現
在ユネスコが 2005 年から 2014 年までの 10 年計画で推進している「持続発展教育」(ESD: Education
for Sustainable Development)を効果的に展開していくために必要不可欠の前提条件を示している
と考えられる。私たち教員団のこの度のインドネシア派遣プログラムの主目的は、ユネスコ・スクー
ル(ASP)を中心とするインドネシアの学校で、この ESD「持続発展教育」に関する優れた教育実践
を学び、アジア太平洋地域での ESD の促進のために、日本とインドネシアの教員間で情報やアイデ
ィアを交換することにあった。インドネシアの学校での ESD の教育実践を視察するにあたって、私た
ちは二つの視点を設定した。すなわち多文化教育の視点と環境教育の視点である。多文化教育は、
文化の多様性の尊重と異文化間の相互理解に基づき、またそれを目指して展開される教育の営み
であり、学習の四本柱のうち、とくに「共に生きることを学ぶ」(learning to live together)という共生の
学習課題と深く関わっていることがわかる。そして異文化間の相互理解は、ユネスコの提唱する「文
明間の対話」(Dialogue among Civilizations)を通じて実現されるべきものである。8日間にわたる派
遣プログラムの日程で、私たちは8校の学校を訪問した(ジャカルタで4校、バリ島で4校)。これらの
学校を視察する中で、私たちはインドネシアの教育現場において、異なった民族的、文化的、宗教
的背景をもった人々との共生への能力を児童生徒たちの中に育むためにどのような教育実践を具
体的に行っているのかについて、その一端を学び知ることができた。
インドネシア・ユネスコ国内委員会との会合で説明がなされていたように、インドネシアは多くの
民族集団、多くの異なる言語、多くの異なる宗教伝統、そして様々な社会経済的な発展水準が共存
する典型的な多文化社会である。こうした多文化社会において教育の質を確保するためには、二つ
の一見矛盾した要請を同時に満たす必要がある。すなわち一方では、国家を構成する様々な民族
集団のもつ文化の多様性を尊重し、それぞれの民族集団の特別なニーズに適合した教育プログラ
ムを開発する必要がある。他方では、学校教育を通じて、児童生徒たちの心にインドネシア人として
の国民アイデンティティを育成し、社会文化的な多様性をひとつの国家へと統合していくための心理
的基盤を確立する必要もある。インドネシアの教育は、もちろん様々な問題に直面している。最も深
刻な問題としては、非識字率の問題、とりわけ社会経済的格差に関連して都市部と農村部で就学
率にかなりの差異があるという教育格差の問題がある。しかし全体として、私たちがインドネシアで
の学校訪問を通じて感じたことは、インドネシアの学校教育はこのような文化的民族的多様性を抱
える多文化社会に特有の様々な課題への対応において、一定の成果を収めているのではないかと
いうことである。インドネシアとは対照的に、日本は伝統的に均質社会と見なされてきた。しかしなが
ら、グローバル化の急速な進展の中で、日本社会もまた外国人居住者の増加等に伴い明らかに多
文化社会へと移行し始めており、そうした状況の中で、文化的・宗教的背景を異にする人々との摩
擦や衝突から来る様々な問題に効果的に対応できる能力(異文化リテラシー)を青少年の中に育成
していくことは、日本においても切実な教育課題となりつつあるのである。次の数十年において日本
は間違いなく多元的な価値の方向性を含む多文化社会になるだろうと予想されるからである。その
意味で、今回私たちが ACCU の教員派遣プログラムを通じてインドネシアの学校で視察した多文化
教育の実践は、日本社会の来るべき将来の現実に向けて日本人自身が効果的な多文化教育のモ
デルを構築し、日本の文脈に即応した多文化教育のカリキュラム開発の方略を模索していく上で大
変参考になる示唆に富んだ内容を提示していると考えられるのである。
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私たちがインドネシアの学校訪問において視察した多文化教育の実践に関して最も印象的だっ
たのは、以下の4点である。1)宗教教育のあり方、2)言語教育のあり方、3)国民アイデンティティ
形成のための教育、4)学校と NPO との連携。以下にそれぞれの問題について、今回の派遣プログ
ラムで私たちが学んだことを簡単に記述しておきたい。
1) 宗教教育
インドネシアには、国家によって承認された5つの公認宗教がある。すなわち信者数の多い順に、
イスラム教、プロテスタント(キリスト教)、カトリック(キリスト教)、ヒンドゥー教、仏教である。国民の
宗教信仰のこうした多様性に基づき、異宗教間の相互理解の促進は、学校教育においても重視さ
れている教育目標のひとつである。私たちが訪問したどの学校においても、宗教教育はカリキュラ
ムの不可欠の重要項目として教師たちによって熱心かつ体系的に教えられていた。宗教の時間は
必修であるが、その時間に具体的にどの宗教の教えを学ぶかは、それぞれの生徒の信仰に応じて
決められていた。イスラム教が絶対多数を占め社会の主流を形成している首都ジャカルタにおいて
すら、個々の生徒の信仰を尊重するという宗教的寛容の原理は、教育の基本精神として重視され
ているのを目にすることができた。ここにおいて私たちは、宗教教育の形を取った価値教育の重視
は、基本的に宗教的寛容の原理と両立可能であること、またそれはインドネシアのような国民的統
合と多文化共生との両立を常に要請されている社会において不可欠の重要性を持っていることを
見て取ることができたのである。
2) 言語教育
インドネシアの公用語であるインドネシア語は、インドネシア全土の学校において共通に使用さ
れているが、この言葉はもともとヨーロッパ諸語およびインドネシア土着の言語を合成して構築され
た人工言語である。学校視察を通じて、私たちは学校をはじめとする公的場でのこの共通言語の汎
用が、児童生徒たちの心にインドネシア人としての国民アイデンティティを醸成し、それを堅持して
いくのに非常に重要な役割を果たしているのを確認することができた。しかしながら、インドネシア人
の国民アイデンティティを形成、維持していくために必要なこの「インドネシア語」という共通語の教
育が重視されている一方で、この言語心理的装置の支配がインドネシアにおける文化的多様性を
疎外しないよう、様々な配慮がなされている。例えば私たちが訪れたバリ島を含む多くの地域にお
いて、インドネシア語と並んで現地の民族言語も学校の授業で平行して使用されており、場合によ
っては授業科目として体系的に教えられているのも、インドネシアにおける文化の多様性をいわば
国家の財産として保持しようとする言語政策の現れであるといえよう。
3)国民アイデンティティ育成のための教育
前節でも述べたように、インドネシアの学校教育における顕著な特徴として、子どもたちの心に
インドネシア人としての国民アイデンティティを醸成することが非常に重視されているということを、
私たちの今回の視察を通じて確認することができた。その端的な例として、インドネシアの学校にお
いて「国民の心得」が必修科目として教えられていることが挙げられる。インドネシア国民としてのア
イデンティティの確立は、インドネシアのような多様な民族的、宗教的構成を持った多文化社会にお
いて国家としての統合と秩序を維持していくためには明らかに必要不可欠な教育的要請であると考
えられる。私たちは訪問先の学校で、子どもたちが常にインドネシア人としての誇りや自覚をもつよ
うに強く促されていること、またそれが道徳や宗教といった価値教育のあり方と深く関連づけて実践
されているのを観察した。私たちはジャカルタおよびバリ島で訪問した全ての学校において、ユドヨ
ノ大統領の肖像写真とインドネシア共和国の紋章とが各教室の前面の上方に掲げられているのを
見た。それらは明らかに国家統合の象徴として、児童生徒たちの崇敬の対象となるべきものと見な
されていた。また、ジャカルタ市内のペルグルアン・ディポネゴロ高校(SMA Diponegoro 1)では、私
たちは国旗掲揚式を参観する機会を与えられたが、この式典で国旗の掲揚の任にあたることは生
徒にとって非常に名誉なこととして受けとめられているという説明を受けた。こうした実践は明らかに
国民アイデンティティの健全な育成をめざす愛国心教育の理念に沿って行われているものである。
32
しかしながら、訪問先の学校の校長先生や教職員の方々との対話や議論を通じて分かったことは、
インドネシアの教育関係者が実際に追求しているのは、他国や他民族との協調を排除するような排
他的で独善的な愛国心ではなく、むしろ他国との相互理解や寛容、友好関係などを促進するような
「開かれた愛国心」であるということである。なぜなら、まわりを東南アジア諸国やオセアニア諸国に
囲まれた諸島であるという地政学的な位置関係に加え、ASEAN(東南アジア諸国連合)や APEC(ア
ジア太平洋経済協力)といった政治的、経済的、文化的な地域協力ネットワークの中でこそ発展と
繁栄が可能になるインドネシアのような社会にとって、周辺諸国との相互理解に基づく開かれた協
調体制の構築は、国家が生き延びていくための必要不可欠な至上命題だからである。このような
「開かれた愛国心」を志向したインドネシアの価値教育のあり方に、私たちは「国民アイデンティティ
の醸成と強化」と「多文化共生と他国との相互理解」という、一見相反する教育的要請を両立させる
可能性について、わが国の将来にとっても参考にし得るひとつのモデルを見ることができたと感じて
いるのである。
4)NPO との連携
もうひとつ、今回インドネシアの学校を見学して非常に印象的だったのは、インドネシアでは
様々な NPO が学校と密接に協働して教育活動を展開していることである。ひとつのよい例が、バリ
島のウブド(Ubud)に本拠を持つ NPO「IDEP 財団」(Yayasan IDEP Foundation)である。この財団は、
持続可能な食糧生産に重点をおいた環境教育の促進を主な事業目的として活動している NPO で
ある。この事業目的を実現するために、IDEP 財団は、環境教育のための独自の教材と学習カリキ
ュラムを開発し、ESD(持続発展教育)の精神に合致した行動原理を子どもたちの中に育成しようと
試みている。「IDEP の風景」(“Learnscapes IDEP”)は、環境保全と災害防止の促進のために IDEP
財団が 2001 年に開発した教育プログラムで、このプログラムと自作の教材を使って IDEP 財団の職
員は地元の小学校数校で授業を行っている。私たちも、IDEP 財団による小学校での授業の1コマを
参観させてもらったが、小学生たちが非常に生き生きと授業に参加し、ESD に関わる環境問題を身
近な課題として主体的に理解し、関わろうとしている姿が印象的であった。公立学校での環境教育
のカリキュラム開発に IDEP 財団が積極的に関わっている状況は、とくに ESD のような学際的で実
践的なテーマにおける学校と地域 NPO との連携の可能性を示唆した事例として非常に興味深かっ
た。翻って日本では、今日においても NPO がこのような形で公立学校のカリキュラム開発や授業実
践に関わるということは非常に難しいと考えられる。しかし、IDEP 財団による学校との協同事業は、
日本の教育関係者にとっても、環境、社会、経済の三本柱からなる ESD をより効果的に促進するた
めに、学校と NPO との協力連携のあり方の新たな可能性を考えていく上で、非常に興味深い示唆
を与えてくれる実践事例であるといえるだろう。
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発達段階に応じた環境教育について
戸田市立芦原小学校
深町 知哉
1.インドネシアの環境問題
インドネシアに到着し、首都ジャカルタの発展ぶりに驚かされた。世界第4位の人口を持ち、急
速に発展を遂げてきたインドネシアでは、現在大都市の大気汚染が深刻になってきている。また、
近年の急激な熱帯林の減少も問題であり、広大な面積をもつインドネシアの森林が破壊されること
は、世界の気候にも影響を及ぼしているという。世界有数の観光地として知られるバリ島も、古くか
ら多くの土地が水耕農業に利用されているが、近年の観光業の発展で水が大量に使用され、農業
をしづらくなっているという現実もあった。
これらの事態をふまえ、インドネシアでも環境教育が重要な課題となってきている。それが分か
ったとき、今回のプログラムの中で、インドネシアの学校で、特に ESD の観点からどのような環境教
育を行っているのかが私にとっての興味深い課題となった。
2.発達段階に応じた環境教育について
Kul Kul Campus にある Green School は、緑豊かなバリ島の丘陵地帯に建設中で、建材に竹な
どの自然そのままの資材をうまく活かして施設を作っている。まさに自然と共に学習のできる学校で、
これからの環境問題を考えていける未来のリーダー育成を目指しているという。ここを訪問した際、
「子どもの発達段階に応じてどのような環境学習を行うか」という話題がもちあがったので、今回訪
問した様々な場所での体験を振り返りながら考えてみた。
初等教育段階では、特に低学年のうちに、自然と豊かにふれあい、遊びながら、その姿をとらえ
自然のよさを実感する活動が大切になると思う。それらの経験を、中学年以降に自然がなぜ役に立
っているのかという具体的な知識につなげ、高学年では自分が自然について学んだことを他者へ発
信するという段階まで高めることができるのではないか。Bali Hati という小学校での学校菜園の実
践は、子どもが自宅で野菜を育てる活動意欲につながったという成果があった。まずは身近な自然
を感じ、知ることが環境教育の第一歩だと感じた。
中学・高校段階では、より活動の幅を広げ、幅広い視野で環境問題をとらえていくことができる。
ジャカルタの高校 SMA 34 を訪れた際に、それを実感した。この学校では生徒が様々な植物を育て
薬草として利用したり、コンポストで有機肥料を作ったりするなど、環境学習に力を入れている。また、
学校で育てた植物や、再生紙をはじめ様々なものを再利用したリサイクル製品等を販売し、地域と
つながる活動も行っていた。自分たちが調べた環境問題のプレゼンテーションを見せてくれたが、こ
れまでに身につけてきた知識がより科学的に高められ、明確な課題意識をもった発表であった。
3.今後の展望
どのような段階であっても、最も大切になるのは自然との豊かな関わりの経験だと思う。自然に
直に触れ、それに関わり、自然の仕組みを知っていくということが生きた知識になる。デンパサール
市内の高校、SMA4で、クラブ活動で環境学習を行っている生徒と交流を持つことができた。その生
徒は、「実際に自然環境に触れることで、その役割と大切さがわかり、危機意識を持つことができ
た」と自信をもって語ってくれた。発展の影に深刻な環境問題を抱えるバリ島で生活しているからこ
そ、ごく身近な自然が驚異にさらされているという実感が持てたのではないだろうか。
環境問題が世界共通の課題である今、体験や知識、思いなどを具体的な行動に移す力が必要
になってくる。そして、「持続可能な開発」を続けていくためには、環境問題について様々な人と国際
的な視点から話し合える能力も求められてくるだろう。インドネシアと日本では文化や背景の違いこ
そあれ、解決すべき問題とそこに向かう手段や考え方には共通するところがいくつもあった。そのよ
うな共通課題をみつけ、当事者意識をもって向き合っていく資質を育むためには、「持続可能な開発
のための教育」が一層重視されなければならない。今後日本とインドネシアが、やがては世界中が、
どうやってひとつの問題への取り組みに連携を強めていけるか、改めて課題を持つことができた。
34
インドネシア派遣 事後レポート
宮城教育大学附属小学校
荒明 聖
1.お国柄から見えた環境教育
インドネシアに降り立って最初に感じたのは、河川の汚さである。汚いというのは水質も同様で
あろうが、外から持ち込んだ紙やプラスチック製品の廃棄ゴミの多さである。不法投棄というレベル
ではなく、ゴミを廃棄することが日常化されているという印象さえ受けた。これは、国家の次元で取り
組むべき問題であり、教育問題としては「ゴミの分別」、「3R活動(リデュース・リユース・リサイク
ル)」、「道徳的な課題」などの点で、初等教育の段階からカリキュラムに位置づけて指導すべき発
達課題であるという考えを抱いた。
ほかにも、天災である地震・津波や洪水の問題についても、インドネシアでは喫緊の課題として、
環境教育と併せて取り組んでいく必要があると思う。
2.訪問先の環境教育の現状と課題
今回訪問した小学校3校、高校4校では、ゴミの分別回収の手だてを講じていたり、NGOがかか
わって出前授業で指導が徹底されていたりと、環境教育にかかわる取り組みを見ることができた。
特にバリ島で視察した小学校2校では、実際に校庭に投げ捨ててあるゴミを子どもが拾ってきて分
別することを指導している授業を参観し、このような小さな(低い)次元での働き掛けが、生涯に渡っ
て自らゴミ管理を行おうとする意欲やスキルにつながっていくのであろうと感じた。道徳的にも低年
齢から指導することで内面化が図られ、当たり前のように環境を意識して生きていくようになると考
えられる。
また、ジャカルタの高校では、3Rの中でもリサイクルという視点で取り組んでおり、 リサイクルし
て作った作品を保護者に販売するという手法も取られているという循環型の教育サイクルが有効で
あると考えられた。学校で生徒が学習・活動していることが保護者を通して家庭へも啓発できる点
がすばらしいと感じた。
3.派遣の成果を日本の教育現場で生かすために
個人的に準備し,バリ島ウブドの小学校でプレゼンテーションした「日本の小学校における環境
教育の実践―生活科の授業で培う防災意識」については,現地の幼稚園や保護者の参加に恵ま
れ、日本では考えられないものの見方・考え方から質問や意見をいただいた。 特に、日本では当
たり前のように(法的に)整備されている幼・保、小学校の砂場について、その環境的意味付けにつ
いての意見は日本の教育施策にかかわる面からも国柄の違いを感じた。
しかし、現場で実感をもって環境への働き掛けがなされている指導に対して、少し前の日本の教
育を想起させられ、改めて原点に立ち戻って「不易」となる問題意識を大切にしていきたいと考えた。
わたしたち日本人教師が今当たり前のように行っているカリキュラムや指導方法を見直し、「流行」
を加味しつつも、いつの時代にも通用するものとしてしっかりと子どもたちに向き合えるように準備し
ていきたいと考える。
今回のインドネシア派遣の成果を日本の教育現場で少しずつ還元していきたい。
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環境教育におけるNGOの重要性
~インドネシア・バリ島のNGO IDEPの実践に学ぶ~
広島大学附属中・高等学校
藤原 隆範
私は、この度、ACCU(ユネスコ・アジア文化センター)の事業で、インドネシアを訪問する機会を
得た。私は今回の訪問で、ESD(持続可能な開発のための教育)について、とりわけ環境教育につ
いて、多くのことを学ぶことができた。この事業の遂行に尽力された各方面の方々に、まず、謝意を
申し上げたい。
私たち訪問団は、2008 年7月 19 日から7月 25 日までインドネシアに滞在した。この期間に訪問
した諸機関のうち、私が最も強い印象を持ったのは、NGO組織である Yayasan IDEP であった。
Yayasan IDEP は、公的には 1999 年に、インドネシアのバリ島で設立された非営利組織である。
IDEP の本部は、バリ島の中心で中枢機能をもつ町 Ubud(ウブド)の中心街に位置している。 私た
ちは、7月 24 日にこのNGO組織を訪問した。
2002 年 12 月、バリ島ではテロ事件が発生し、爆発によって多くの悲劇が生まれた。バリ島の観
光で成り立っていた経済的安定は、急速に崩壊していった。 IDEP はこの事態を非常に深刻に受け
止め、なんとかしてこの流れを変えようと決意した。 IDEP は、 環境教育の革新的アプローチを作
成し、それを地域の学校に導入することで、家庭と企業、学校、地域社会に「持続可能な生き方」を
提起し、この目標を達成しようとした。
IDEP は環境教育のプログラムと教材を開発し、研究者が地域の小学校を訪れ、実際に子ども
たちに対して授業を行っている。さらに、IDEP は独創的な農場を経営し、地域の環境と調和した実
験的農業を行っている。
インドネシアの場合、IDEP のような NGO が地域の小学校に出向き、環境問題について実際に
授業が行えるような時間的余裕があり、また、学校や教師に、カリキュラムを作成する自由裁量が
ある程度認められている。 日本の場合、長期間にわたり、NGO の研究者が学校で授業を行うよう
なことは稀である。なによりも、日本の学校教育現場は、環境問題を扱う十分な時間を持ち得ない。
環境問題といえば、まず地球温暖化やオゾン層の破壊など地球規模的な問題が考えられがち
である。私は今回インドネシアを訪問して、環境問題には地球規模のグローバルな問題と地域レベ
ルの問題の両方が存在することを、改めて認識した。
私たちが、農業や工業などの「開発」を行うおうとすれば、必然的に地球環境を破壊することに
つながる。その結果、「持続可能性」は小さくなる。そして、人類生存の危機が増大する。「開発」と
「持続可能性」は、二律背反する概念である。これら二つをどう統合するかは、私たち 21 世紀を生き
る人類に課せられた、非常に大きな課題である。しかしながら、これらを統合する方略はすぐには見
つけることができない。私たちが訪れた IDEP の活動は、この課題に対して大きなヒントを与えてくれ
ている。
21 世紀は「環境の世紀」といわれる。環境問題を解決するためには、様々な組織を結びつける
紐帯、有能な指導者、そして卓越した調整力が必要であると考える。NGO は、家庭と企業、地域社
会そして学校を有機的に結びつける紐帯である。今回の訪問を通して、私は、NGO は地域の環境
問題に解決のために、極めて大きな役割を果たすものであることを認識した。
私は、自分がこの訪問で得た成果をなんとかして日本の教育に導入したいと、帰国後常に考え
続けている。日本の場合、教育学研究と教育政策(教育行政)が、教育現場の実態と乖離している
ところに問題がある。教育学研究と教育政策(教育行政)、教育現場が有機的に結合していないた
め、日本の教育改革は空回りしていると私には思える。私は、これら三者を有機的に結合させる紐
帯は、マスメディア、子どもたちの保護者、そして NGO や NPO であると考える。環境教育について
は、これらの中でとりわけ NGO が特効薬の機能を果たすのではないかと思える。
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私は、将来において、諸国の NGO と連携を強め、地球温暖化のようなグローバルな環境問題、
そして地域の環境問題の解決に尽力していきたいと考える。このような認識を私が得るに至った、こ
の度の訪問の成果は、極めて大きい。ACCU が主催したこの度の事業は、極めて大きな成果があ
ったと、私は確信している。
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インドネシアの環境教育における水資源と保全に対する取り組み
気仙沼市立面瀬中学校
佐々木 勉
1.インドネシアの水環境の現況
インドネシアの各学校を訪問すると、噴水が校門付近にあり、いかに国民が「水の大地・インドネ
シア」を誇りにしているかを窺い知ることができる。郊外には、緑に覆われた水田が一面に広がり、
水路には透明に澄みきった水がゆっくりと流れている。
一方、都市部を流れる河川は、川岸がコンクリートで固められ、水は黒ずみ空き缶やプラスチッ
ク等のゴミで埋め尽くされ水面が見えない程である。
原因として、下水道施設の未整備によるハード面での問題、家庭雑排水の流入水の増加、人口
増加、富裕層と貧困層の拡大、ゴミの増加等によるソフト面の問題が複雑に絡み合っていることが
考えられる。
インドネシアにおける水質汚濁負荷軽減へ向けた教育的アプローチは始まったばかりであり、
様々な機関や国からの支援を必要としていることを感じた。
2.学校における取り組みの実際
インドネシアでは、従来環境問題については大学だけで扱ってきた。しかし近年、環境問題の深
刻化が一段と進み、幼児教育からの必要性から、政府として義務教育のカリキュラムで取り扱うこと
ができるようにした。
(1)小学校(Bali Hati での取り組み)
1999 年に設立。幼稚園から小学校6年までの幼児・児童を対象とし、1年から2年までの 20 名前
後の児童を2名の教師、3年から6年までの児童を1名の教師とアシスタントの2名で授業を行って
いる。環境に関する学習は1週あたり3時間を確保し、指導者に外部団体などを入れて行っている。
指導にあたっては、学年の違う子どもたちを一緒に教えているが、発達レベルに応じて教えていると
いう説明があった。
全学年で一緒に取り組んでいることのひとつとして、各学級の前に学級菜園を設けている。菜園
で使用する水は井戸水を使用しており、地下に埋設されている汚水の貯水タンクと井戸水が対角線
上になるようにできるだけ離れた位置に設置するなどの配慮が見られる。環境に対する価値観につ
いては、バリのヒンドゥー文化として、「人間と人間」、「人間と環境」があり、その中でおさえていると
のことであった。
(2)高等学校(SMA34 での取り組み)
1992 年、日本政府の支援により設立。ASPnet に加盟し、「持続可能な開発のための教育」を推
進。コンクリートの校庭の周囲に雨水が地中に浸透しやすいように、草の部分をもうけたり、落ち葉
を有機肥料として園芸に使用し育てた苗を販売したりするなど理論から実践的な活動も積極的に行
っている。
水環境については、生物や化学のカリキュラムの中に組み入れ、教科を中心に行っている。最新
の情報を得るため、環境省や大学から資料を取り寄せ、科学的な視点から課題を追究し、その結
果を地域 ASPnet を活用し他の学校にも発信している。
知識だけでなく、価値観も大切にし、生活の中で水を大切にし、排水を最小限にするなどの取り
組みも行っている。
(3)実験学校(Green School での取り組み)
「環境、未来、持続性」をテーマに、次世代を自分たちで切り開くことのできる子どもを育成するカリ
キュラムの作成をめざしている。
敷地内の中央に川を挟んで、東側に居住施設、西側に学習施設を建設している。施設はコンクリ
38
ートなどの人工的なつくりを排除し、バリの気候風土に合わせ、その多くで竹を使用している。
授業で学んだことを生かすため、有機農法に取り組むなど、自然体験を深めることができるように
している。また、「川」を中心に、田畑で使用する灌漑用の水を確保したり、小型水力発電装置を設
置したりするなど、エネルギーの自給も目指し、地区の中で水を含め物質が循環するような取り組
みを行おうとしている。
3.学校への活動支援
IDEP 財団では、ラーンスケーププログラムとして、学校に対して、カリキュラム作成と学校現場で
の指導の支援を行っている。特に、ACCU が制作した「環境に関するパッケージ教材―ミナの川と村
―」のポスターと小冊子、DVD は子どもや教師から大変人気がある。この教材を活用して授業を構
成し、川の水質保全に対する意識の高揚を図り、その後川の清掃活動に取り組むなどの事例紹介
があった。
4.ACCU への期待
高校では、交換留学生を通じての国際交流や ASPnet を活用しての諸外国との情報のやりとり
などを通じて ESD の着実な取り組みが見られた。
一方、小学校では、実践を通してカリキュラムを開発中の学校が多く、指導者そのものを育成し
ていく必要性があると考える。また、訪問した学校の教師から、日本の取り組みを実際に見学し、自
国のカリキュラムに生かしたいという熱い視線を感じた。
インドネシアにおける ESD を更に推進するためには、カリキュラムの開発とともに、指導者の育
成と人的交流によって教師の資質向上を図っていく必要性がある。その点からも ESD の推進を支
援しているユネスコへの期待と役割が一段と高まっているのではないだろうか。
39
インドネシアにおける ESD の取り組みの具体的事例についての考察
越谷市立富士中学校
飯島 眞
1.インドネシア・ユネスコ国内委員会訪問から
インドネシアにおける ESD の推進と ASP 活動については、インドネシア・ユネスコ国内委員会が
その統括機関である。今回訪問したユネスコ国内委員会では、インドネシア国内の ASPnet コーディ
ネーターであるハスナ女史(Ms. Hasnah Gasim)が我々を迎えてくれただけでなく、特に ESD に熱心
に取り組んでいる学校の管理職も招かれていた。
私はここで、今回のインドネシア訪問の最も大きな目的であるアジア太平洋 ESD ネットワーク構
想についての提案をプレゼンテーションによって行った。この構想は、既に先行して行われているバ
ルト海プロジェクトや大ボルガ川プロジェクトとは異なるアジア太平洋地域独自の ESD ネットワーク
を構築するというもので、第一段階を極東、第二段階を東南アジアを含む東アジア、第三段階をア
ジア太平洋諸国として、「持続可能な未来」を構築するための協働学習プログラムを構築しようとい
う壮大な計画だが、ラクマン氏からはユネスコ国内委員会も ESD には非常に大きな関心を示してい
るという意見があった一方で、既存のネットワークを有効に活用してほしいとの意見もハスナ女史か
ら出された。
しかしながら、ASPnet はそのものが既にネットワークとしての機能を保持しているものではなく、
そこに具体的なコンテンツを埋め込むことによってはじめてネットワークとしての価値を果たすもの
である。また、ユネスコ国内委員会からは、「極東のみで行うネットワークとアジア太平洋地域で行う
ネットワークでは、どのような質的違いが有るのか」といった質問が出された。これに対しては「既に
実施されている二つのプロジェクトは、同じ生態系を共有する比較的似た状況にある国家群の協働
学習だが、今回私が提案したものは、同じ太平洋という海洋生態系を共有しながら、異なる自然条
件や資源、経済状況、政治状況、文化的背景を持つ国家群である。ここに ESD につながる最も大き
な意義がある。今回の G8においても南北の対話は不成功に終わったが、そこには互いの立場に
対する不理解がある。ASPnet を活用した ESD を通して、互いに状況の異なる国の児童生徒が、お
互いを理解しながら「持続可能な未来の構築」という共通の課題に取り組み、実現可能な戦略を構
築しようと努力することが、今後最も重要なことになってくるだろう」と答えた。私は、それを提案する
ためにインドネシアに来たのだ。一方で、現場の教師たちからは、「そのネットワークはいつから始
まるのか」、「そのネットワークにはどうやって参加するのか」、「うちの学校も参加できるか」といった
非常に積極的な質問や意見が出され、帰り際の廊下でも複数の教師から「いますぐにでも日本とイ
ンドネシアの教師・生徒の交流を始めましょう」と非常に熱心なご提案をいただいた。アジアのリーダ
ーとしての日本政府、そしてここに派遣された我々は、その声に応える義務があることを自覚すべき
だろう。
2.SMA 34 Jakarta の取り組み
今回の視察では、非常に有意義な訪問先が多かったが、中でも学校としての取り組みでは SMA
34 の活動が印象に残った。
その最も大きな理由のひとつは、彼らが ESD に関する理論を教科の学習のカリキュラムの中に
位置づけ学習しているとともに、特別時間として週2時間の ESD の学習の時間を設けて計画的に実
施していたことである。日本の学校は、既に 20 年にわたり EE(環境教育)とその後の ESD に取り組
んできていることになっているが、今日においても国としての EE 及び ESD の学習のガイドラインは
示されておらず、また、学習のための時間もカリキュラムの中に確保されていない状況である。
第二の理由は、彼らが単に知識としての ESD の学習を行っているだけではなく、実際に彼らの
生活を改善し「持続可能性」を実現するための極めて具体的で実践的な活動を行っている点である。
その事例は学校の敷地の中の随所に見ることができた。例えば、身近な消費物を再利用したショッ
ピングバッグなどの日常小物の作成や、紙製品のパルプの再利用による再生紙の作成、さらに、こ
の国では極めて一般的に普及していて大量に消費されている飲料水の樹脂パックを再利用した水
40
耕栽培、薬用植物を中心とした学校林などがそれにあたる。
これらのことは日本の学校でも一般的に行われているものであり、地球環境の持続性という観
点から評価すると、生物多様性の保全や生態系の保全という点でもまだ初歩的段階の活動といえ
るかもしれない。しかし、日本の学校の活動と最も異なる点は、例えば、水耕栽培(Hydroponic
culture)で培養された植物は販売されて、経済的な問題から授業料が支払えない生徒のための支
援に使われているという点である。これは、現在のインドネシアとインドネシアの公立学校が抱えて
いる本質的な問題に関わっていることで、その問題とは貧困の問題であり、それゆえ、インドネシア
における ESD の最も大きな特徴のひとつが、「環境の保全と住民の生活をいかにして両立させる
か」という点にあることを示している。つまりこの国においては、環境を保全することによって住民の
生活が豊かになる仕組みを作ることが非常に重要な課題であるということだ。
3.IDEP の取り組みにみる、インドネシアにおける ESD の諸課題と我々の貢献の可能性
先進国においては、ESD が目指す地球生態系の持続性の確保の最も大きな課題は、人間生活に
よって撹乱され崩壊の危機にある自然生態系を維持復元し、バランスを保ち、生物多様性を維持し、
ひいては地球環境系の一員である人間活動を持続させることであるが、インドネシアをはじめとす
る発展途上国における課題は先進国とは異なる段階にある。現在の最も大きな課題は貧困の撲滅
であり、もうひとつはゴミ問題をはじめとする環境汚染の解決である。第二の課題は、先進国では既
に 50 年前に顕在化し、その克服のために多くの努力が払われてきたものである。それを暴露し世
界に大きなインパクトを与えたものが 1963 年に出版されたレイチェル・カーソンの著書「沈黙の春
(Silent Spring)」であり、これは地球環境問題の重大さを人類に広く知らしめたのみならず、環境教
育の必要性を世界に認識させたものであるといえる。インドネシアのみならずタイ、マレーシア等の
他の発展途上国は、我々先進国がかつて経験した地球環境問題の課題と、地球温暖化、生物多
様性の保全をはじめとする極めて緊急に取り組まなければならない現代的課題を同時に解決しな
ければならない状況に陥っているといえる。IDEP の活動は、インドネシアにおいて住民生活に最も
密着した課題であるゴミ問題をはじめとする課題を解決するための ESD を学校教育と連携して実践
するとともに、住民に対しては川の水質汚染を防ぐと同時に作物の収穫量を上げ、住民の生活を豊
かにする有機化合物の有効利用など、住民生活と非常に密着した課題を住民の視点にたって実践
している極めて実践的な活動であるといえる。自分は教育者であると同時に環境科学を研究する人
間として、今後 IDEP の活動に協力できることが多々あることを強く感じた。
4.インドネシアと日本の現状、そしてサステイナビリティ実現への手立て
インドネシアにおける様々な取り組みを見て印象に残ったことは、日本をはじめとする先進諸国
とは異なる課題が多いことだった。特に、最も重要な課題のひとつが、貧困に苦しみ十分な教育を
受ける機会さえ奪われている住民の目の前の生活の保障であり、それらの課題と地球環境問題と
いう未来に向けたサステイナビリティの課題の解決をいかに両立させていくかということであった。
日本における一般の学校では、ESD を実現するために既存の教育構造の壁と戦いながら血の
滲むような努力が繰り返されている。そして一方では、膨大な予算をつぎ込んで海外から生徒を召
集し、選ばれたごく一部の学校と生徒が参加して行われる、華やかな、いわば見せるための国際会
議が開催されている。しかし、後者に参加できる生徒は概算で日本においては 100 万人に一人に満
たない。その数字はインドネシアにおいてはさらに 1,000 万人に一人程度になるだろう。
ESD は誰のための教育であろうか。それは全ての国と生徒のための教育であり、国民全てが受
ける権利と義務を有する教育であることを我々は忘れてはならない。そして今後、富める国も貧しい
国も、都市の学校も山の中の貧しい小さな学校も平等に参加し、お互いの立場の違いを理解し、本
当に実行可能なサステイナビリティへの解決戦略を身につけることができる ESD ネットワークの構
築を実現しなければならない。
41
インドネシアにおける環境教育の状況と、今後の協力関係の構築に向けて
越谷市立富士中学校
飯島 眞
1.はじめに
ESD の前身となった EE(Environmental Education)の始まりは、1972 年に行われた国連人間環
境会議(ストックホルム会議)の中で述べられた“Only One Earth”(かけがえのない地球)という言葉
で表されるように、地球環境問題が国家を超えた地球レベルの問題であるという認識から始まった
といえる。これはさらに、当時のスウェーデン首相(ブルントラント首相)を中心に進められた「環境と
開発に関する世界委員会」(WCED=World Commission on Environment and Development)の 1987
年の最終報告書による“Our Common Future”(我ら共有の未来)によってさらに具体化され、その
後幾多の会議を経て、2002 年に国連総会で DESD として採択された。ESD において人類共通の課
題である地球環境問題の解決のための環境教育は、最も緊急で重要なテーマのひとつである。
その後、ユネスコによって DESD の取り組みが始まって既に4年目になるが、日本における政府
レベルの ESD の取り組みは、昨年末から具体化が始まったばかりであるといえる。これは、ひとつ
には日本が今回の G8の議長国となったことも大きな影響を及ぼしていたと思われるが、いずれに
せよ、ESD の理念の形成にはスウェーデンが非常に大きな役割を果たしつつも、日本が提案国とし
て牽引すべき役割にあることは、国連加盟国各国のみならず ESD に取り組む者であれば誰もが理
解していることである。
今回の我々のインドネシア訪問の最も大きな目的のひとつは、インドネシアにおける環境教育
の状況を視察し、互いに学び合うことによって、両国の学校がより実効的な環境教育プログラムを
形成するためのヒントとすることであった。それに加えて、バルト海プログラムや大ボルガプログラム
のように既にヨーロッパで先行して実施されているいくつかの国家群による ESD の取り組みになら
い、アジア太平洋地域における ESD ネットワークの構築に向けてユネスコ・ジャカルタ事務所で実施
に向けての具体的な提案を行い、具体化に向けた意見交換を行ってくることが、よりグローバルな
ESD の進展に向けた大きな目的であった。
2.インドネシアの現状と今後の連携に向けた可能性
(1)インドネシアの地球環境問題の現状
インドネシアにおける環境問題としては、ここ数年とくに頻繁に起こっている大きな地震と地震に
よる津波など自然災害による未曾有の人的被害と沿岸生態系の破壊、長年続いてきた輸出用木材
の供給のための森林伐採と、焼畑やオイルパームの植林のための大規模な森林破壊などの人間
活動による環境系の破壊が特に注目に値するが、一方では、視察中も随所で見られた環境問題と
して、都市部・農村部を問わず河川の深刻な汚染とゴミ問題を挙げることができる。後者は、日本で
は既に 50 年前に顕在化し、解決のために取り組まれてきたいわゆる公害問題とよばれる環境問題
であり、インドネシアでは、先進国においては過去に大きな問題として取り組まれた環境問題と、生
態系の破壊や温暖化問題といった最近になって特にクローズアップされてきた現代的で緊急な課
題とが混在している状態であるといえる。
(2)学校教育における ESD の取り組みの状況と連携教育への意気込み
地球環境問題の解決に向けた取り組みが話し合われてから 30 年以上の間、先進国と発展途上
国の間では両者の立場の違いから様々な議論が行われてきた。その最も大きな違いは、既に十分
に発展しこの状態を維持するべきだし場合によっては消費を縮小すべきだとする先進国の立場と、
これから先進国と同じレベルまで国民が豊かになるために発展を続けることが必要不可欠だとする
発展途上国の立場の違いであった。
今回のインドネシア訪問においても、訪問先の学校が取り組む ESD の内容の主題は、我々が
主題として主体的に取り組むべき内容とは異なる面が多く見られた。その最も大きな違いは、前項
で述べたように、発展途上国においては、地球環境の保全と住民の生活レベルの向上を、いかにし
42
て両立させるかということが最も重要な課題のひとつであるということだ。それを示すかのように、今
回の訪問先のどの学校でも聞かれたことは、経済的な理由から学業を途中で放棄せざるを得ない
生徒が多かれ少なかれ見られるという点であった。
そのため、学校における環境教育も「環境を保全することによって住民の生活が豊かになる」と
いう仕組み作りの工夫が様々な場面で見られたうえ、リサイクルの成果を具体的に生徒の学習費
用の一部に補填するという極めて切実で現実的な取り組みが行われている学校もみられた。これ
は、言い換えると「環境保全を行うことは結果的に自分たちの生活を安全で豊かなものにする」とい
うことを ESD の中で具体的な効果を交えて教えていかなければならないし、また、そうでなければ多
くの貧困に苦しむ国民には受け入れられないという現実をも示しているといえる。
もうひとつ我々が現実に目の当たりにしてきた極めて重要な要素は、インドネシアの生徒と教師
たちが、日本との協働学習に非常に大きな期待を寄せているという点だった。今回は、「アジア太平
洋地域の ESD ネットワークの構築」という極めて壮大で重要な提案を携えての訪問であり、そこに
は東南アジア西部を統括するユネスコ・ジャカルタ事務所を構えるアジアの要のひとつの国としての
インドネシアの協力が不可欠なものであったし、当然、協力の必要性を訴えるための準備も必要で
あった。しかし、我々の提案に対する実際のインドネシアの人々の反応は、「できるだけ早くその構
想を実現しよう」という「極めて幸福な誤算」とさえいえる結果となった。
(3)NGO との連携による ESD の取り組み
バリ島では、IDEP と Bali Hati の連携教育、グリーン・スクールなどの活動の視察を通して、NGO
と教育の連携の状況を視察してきた。IDEP は学校のカリキュラムの中に環境教育プログラムを埋
め込む形で環境教育を行っており、日本でも NGO や NPO との連携を行っている学校は多いが、学
校カリキュラムに埋め込む形で継続的に実施している学校はほとんど見当たらない。そのため、今
後の日本の環境教育のありかたについて非常に大きな参考となった。
また、IDEP が環境教育の中で行っている内容は、前述したインドネシアの環境教育の現状に一
致するもので、環境保全と住民生活の向上をいかに両立させるかという点が強調されており、現段
階で最も力を入れているものは、ゴミ問題の解決によって河川にたまったゴミによる雨季の洪水等
の自然災害を減少させること。さらに、生物による物質循環を効果的に活用したリサイクル農業の
普及によって収穫量を上げるとともに住民自身が積極的に農業生産を行うというもので、これは結
果的に河川の水質改善に結びつくものでもあるうえ、住民の実利を伴い生活の改善に結びつく内容
で構成されていた。
また、これらの学習は、学校教育による環境教育を通じて家庭の環境意識の向上を促し、さらに
は地域の環境改善意識を高めることで、地域全体で環境を保全しようという意識を高めるというシ
ナリオに沿って進められているのが特徴であった。
現段階では生物多様性の保全や地球温暖化の改善のための消費生活の改善といった内容に
は深く踏み込んではいないが、今後、インドネシアの状況が変化するにしたがい生態系保全に関わ
る問題もクローズアップされ学校教育にも積極的に取り組まれるようになってくるものと思われる。
3.成果と今後に向けた課題
今回の派遣の最も大きな成果は、我々が出会ったインドネシアの人々が、日本に対し非常に大
きな期待を寄せており、同時に、日本とインドネシア両国の ESD の協働学習の実現に向け極めて高
い意欲を持っているということを、我々が知ることができたということだった。
ESD そしてその中の重要な要素である環境教育は、個々の国家の利害を超えて未来の人類を
も含めた人類共通の利益のために協働して戦わなければならないことを教える教育であるといえ
る。
したがって ESD には、それを実現するために「国家の枠を超えて地球環境問題の解決のために
協力して取り組むことができる国民を育てる」という重要な要素が含まれている。
日本が議長国となった今回の G8の拡大会合において、先進国側と新興国の間で具体的な合
意がなされなかった大きな要因のひとつは、それぞれの国がお互いの状況や立場を十分に理解で
43
きなかったことにあるといえる。
ESD は、国家群の協働学習を通して、これらの課題を解決し真に「持続可能な未来」を実現しう
る唯一の教育といえる。この理念はコスモポリタンであり、国家のイデオロギーや民族主義的体制
をも超越して人類を地球市民意識(Global Citizenship)によって結びつける可能性を秘めている。
しかし、これはそれぞれの国家や民族が独自性を放棄するという意味ではなく、それぞれの国
民や民族が文化や言語・民俗・宗教等の多様性を互いに尊重し維持しながら人類共通の課題に対
しては協力して解決しようと努力するという「多様性による調和」を成し遂げるという意味を含まれて
いる。これは、生態系において生物の多様性が生態系を維持する重要な要素であることと等しいの
ではなかろうか。
この派遣を契機として、日本とインドネシア政府がアジアのリーダーとして、協力して「アジア太
平洋 ESD ネットワーク」を実現し、それぞれの国や民族が独自の文化の多様性を維持するとともに、
地球生態系の保全を実現し得る実効的 ESD の実現に向け努力すべきだろう。
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インドネシアの ESD 実践から学ぶこと
桜美林大学
高橋 順一
1.意義あるインドネシア ESD 研修
インドネシアの ESD 実践から学ぶべきことはたくさんある。特に私が注目していたのが、インドネ
シアでは非政府系諸団体(NGO)による ESD(持続発展教育)の活動が活発である、という事前情報
であった。インドネシアという国民統合の課題を抱えた多民族・多文化国家で、ESD というユネスコ
主導の国際的教育活動が、どのようにして非政府系団体の積極的な参画によって行われるのかと
いうことは、非常に興味深いテーマである。加えてインドネシアは、かつてオランダの植民地であり、
そのような社会が、ポスト・コロニアル時代の政治経済的および社会文化的な圧力の下に、どのよ
うにして「持続的な発展」を実現できるのかということも、また重要な問題である。そもそも ESD という
新しい理念が、個々の社会が持つ複雑な社会文化的諸事情を超えた普遍性を持ち得るのか、その
問いに答えるための手がかりを見つけることが、私にとっては今回の研修プログラムの大きな関心
事のひとつであった。
今回の研修プログラムは、インドネシアの状況を多面的に見るためには、ほぼ理想的といえる
ような豊かな内容を持つものであった。計画策定から実践の教室まで、様々なレベルの現場が見学
場所に選ばれ、わずか1週間という短期間に何ヶ月も必要なくらいに多様な体験を可能にしてくれ
た。特に上述のような関心を持つ者にとっては、これ以上望めるものがないといえるほどの充実ぶ
りであった。日本ユネスコ国内委員会とその実行者であるユネスコ・アジア文化センター、およびイ
ンドネシア側協力機関であるインドネシア・ユネスコ国内委員会の強いリーダーシップと構想力を実
感した。
今回の研修プログラムに参加した教員たちも細心の配慮を経て選抜された優秀な方々であった。
既に十分の実績を有し今でもなおかつ実践の先頭に立っているベテラン教師から、今後の成長を
大いに期待させる若手実践家までが、小中高等学校を含めて、全国広い範囲から参集して編成さ
れたチームである。豊かな問題意識と新鮮な好奇心にあふれたメンバーたちからは、行く先々で質
問と意見が続出し、実に内容豊かな交流が繰り広げられた。これほど刺激に富み、多くを学び、な
おかつ和気藹々と楽しかった研修活動は、他に例がない。
2.画一的ではないインドネシアの ESD 実践
ジャカルタでは、教育現場としては ASPnet メンバーとなっている小学校と高等学校を訪問してそ
の ESD 教育と活動を見たが、どこも熱心に取り組まれており、そこで交換されるディスコースは日本
とも共通する ESD のものであった。しかしその中にインドネシアらしい特色が出ているのは興味深い
(詳細に関しては、他の参加者によるレポートを参照していただきたい)。しかし、必ずしも画一的と
いうわけではなく、インドネシア政府が各学校の自由裁量に任せている部分が決して小さくはないこ
とを感じさせた。
地球上の異なる自然、異なる文化の中で生きている人々が、ESD が提供する同じ言葉と同じデ
ィスコースを用いて、お互いの異なる(しかし目標は共にする)実践について語り合えるということは
すばらしいことであり、そこに ESD の普遍性があるのだろう。確かに、地球上の多様な生態系と文
化を念頭におきながら、同じ世界の住民として同じ目標に向かって努力を傾け協働するためには、
同じ思想を共有することが必要である。しかしそのことは、思想の共有を名目にした特定文化起源
の単一認識論の押し付けと同じではない。私は、これまでに一部の環境運動が西洋文化起源のま
た産業社会の都市社起源の価値観を少数者に強要し、その結果として彼らを周縁化するという結
果を引き起こすという例をいくつか見てきたが、ESD に関してはそうなってはならないと考えている。
そのためにも、ESD は画一的な押し付けではなく、地域の現状に根ざした多様性を許容するもので
なければならない。その意味で、今回観察したインドネシアの学校現場は、ESD が画一の認識論の
強要という形で行われてはいないという確かな印象を持った。
45
3.非政府系団体の ESD 活動
バリにおいては、主に非政府系の機関による ESD 活動の実態を見る機会に恵まれた。観察対
象となったのは、環境教育のための NPO である IDEP とその協働現場としての学校、および環境思
想に基づく私立学校のグリーン・スクールである。発展途上国の機関として、両者は共通の問題を
抱えている。それは、ともに海外からの資金と経営に依存しているということである。インドネシアに
立地していながら、西洋人によって設立され、西洋の資金で運営されている機関が、どの程度現地
の事情を配慮し、現地の人々の立場に立った活動をしているのであろうか。
グリーン・スクールは、その点で大きな問題を抱えていると思われる。そもそも、この学校はアメ
リカ人の資金と環境思想によって設立されている。その思想は、ESD にもつながるものであり、潔い
理想主義に貫かれている。しかし、バリの丘陵地帯に築かれた環境教育的ユートピアのような性格
を感じずにはいられない。想定される学習者は、バリに約3万人いるといわれる外国人の子女であ
り、管理者と教師の大半もインドネシア人ではなく外国人が占めるようだ。これはバリ人のための学
校ではなく、バリに立地する国際学校であり、西洋を中心とする国際社会に目を向けた教育を行う
学校であるというべきだろう。多文化主義的な教育が考慮されているとはいいながら、根底にある
のは単一文化的な認識論であるように思われる。
IDEP も同様に、西洋の資金と思想に基づいて設立された団体である。資金的な余裕の十分に
ない発展途上の国で、どのようにして効果的な非政府的組織を作って運営していくかというのは、な
かなか難しい問題であると思われるが、今回の研修プログラムでは、カバーできなかった課題であ
る。そこで、インドネシアの NPO としてどの程度典型的なものといえるかはわからないが、IDEP を参
考事例として見ていく。確かに IDEP は外国の財団からの資金的援助で運営されており、その管理
者も外国人が占めているようだ。したがって、バリに立地している外国の機関という特徴を有してい
るともいえる。しかし IDEP が、インドネシアの状況に対して敏感に対応し、インドネシア国内におけ
る問題解決のために意図的な努力を傾けていることは容易に見て取れる。
まず IDEP の活動拠点は、バリの他にスマトラ島北部のアチェにもある。前者は爆破テロ、後者
は大規模津波といったインドネシアにとって未曾有の悲惨な出来事が契機となって現在の活動が
始められており、インドネシア国内の問題に対する重要な自発的取り組みである。また、バリにおい
ては、中間的なディレクターのレベルにはインドネシア人、現場スタッフには現地人(バリ人)を多く
雇用しており、現地事業の実施に即応した人事体制になっているように見受けられた。さらに農地
における水利用のモデルとしての実験フィールドの開設や、地域の学校との協働授業や訪問授業
も積極的に行っている。そういった点で、地域社会との密接な関係の構築が、IDEP の活動には見ら
れる。
4.インドネシアの実践事例から学ぶこと
ESD を拡大推進していくためには、その提唱機関であるユネスコの地域事務所をはじめとして、
ユネスコに関わる国内での教育文化事業を統括する政府のユネスコ国内委員会、そして地域にお
ける推進力として機能する非政府系諸団体等の役割が欠かせない。特に政府系の機関の果たせ
る役割が、資金やマンパワー等の諸資源の制約等の理由により、限定的である場合には、非政府
系諸団体の役割がことさら重要な意味を持つだろう。IDEP の事例は、非政府系の団体がそのよう
な役割を担う十分の力を持っていることを示している。また学校における指導者不足の解決策や、
学校以外の現場における ESD 活動の実行者としても、柔軟な役割を果たすことができることも示唆
している。
日本においては、学校が地域の非政府系の団体と連携するということはあまり積極的には行わ
れてこなかった。日本の学校は、あまりに強い政府の管理下に置かれており、自らの立地する地域
社会に目を向けることが少なすぎた。特に、学校の自由裁量に委ねられている「総合的な学習の時
間」の積極的な利用としての ESD(あるいは、その前身としての環境教育や国際理解教育)活動の
ための連携や協働実践は、時間枠の実質的削減により今ますます勢いを失いつつあるように見え
る。
今回のインドネシア ESD 研修プログラムの成果を日本における ESD の学校教育現場に対する
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普及推進にむすびつけるためには、学校における自由裁量活動枠の再拡大と、地域の NPO との連
携強化の努力が必要であると思われる。それなしでは、ASPnet(ユネスコ・スクール)の拡大も必ず
しもそのまま ESD 活動の充実に結びつかないのではなかろうか。ESD を支える環境の量的質的改
善なくして、ESD の発展は見込めないということである。
日本は、豊かな経済力と進んだ教育基盤の整備のおかげで、西洋先進諸国に資金的にも理論
的にも依存せずに、自立的な ESD を実行できる恵まれた立場にある。また(第二次大戦の責任当
事国ではあるが)、資金的にもまた教育実践的にも、インドネシア等の途上国を支援し指導できる立
場にもある。日本は、おかれた立場にふさわしい積極的で創造的な ESD 活動を展開していかなけ
ればならない。
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48
IV. 参加者からのコメント
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荒明 聖
1.総合所見:
(1)日程・時程について
・訪問教育現場の数、関係者諸機関が充実しており、参加者がそれぞれの目的意識に沿った内容
での訪問が可能であった。
・ ジャカルタからデンパサールへの移動が深夜に渡り、それまでの濃密な日程から来る疲労と相
まって体調を崩してしまった。(個人の反省)
(2)訪問内容に関して
・国立、公立、財団法人立と多様な種別の学校訪問が設定されたことが有効であった。
・中学校訪問がなかったのは残念であったが、新設の Green School や幼小併設(一貫?)の学校
(Bali Hati)もあり、充実していた。
・事前におみやげを用意したが、折り紙作品や実際に授業で作った作品を持参したことは、訪問先
の学校の子どもたちにも喜ばれたと思う。(個人の評価)
(3)意見の交換に関して
・意見を伝える時間は確保されていたが、内容を考えるとあまりに大きな次元であったり、テーマが
しぼられていないままだったりしており、言いっぱなしにならないか心配であった。役割分担を決め
るなどして、訪問先(相手校)の実態に合わせた内容で意見を伝え合うことが必要であった。
・訪問先(相手校)からの質問を受け、それに応えていくようなやり方についても今後の課題であ
る。相互発信が大切であると考える。
(4)その他
・ユネスコ関連の派遣であり、世界遺産の視察も含めたプランも今後の検討材料にしたい。
・食事については、全提供ではなく今回のように各自で取ることも研修=楽しみのひとつであると考
えられる。今回は個人と共通の食事のバランスがよかったと思う。また、宿泊に関しては十分であ
る。豪華過ぎず、簡素過ぎずちょうどよい。
・自主研修については、治安の良くない地域であれば明るいうちに設定し、夜にミーティング等の時
間を設定することも考えられる。少人数であったため団員同士の交流も深まり、ACCU 同行スタッ
フの配慮も功を奏し非常に有意義な派遣となった。感謝したい。
(5)最後に村上さん、加藤さんはじめ、多くの支援に感謝!!
2.各訪問先についての所見:
Taman Mini Indonesia Indah
インドネシアの文化的な面が見られたが、できれば、このプランに替わって世界遺産であれば、より
本物に触れることができたと思う。
SDN IKIP
現任校(教育大学附属小)と同じ立場の教育現場であり、視点を同じくして視察・参観させていただ
いた。カリキュラム等もっと詳細な情報を交換したかったが、次の訪問校が隣接した高校で時間もせ
まっており、十分な時間が取れなかったことが残念である。ただ、附属学校としてのシステムや運営に
ついて理解できたことが有効であった。
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SMA Lab School
・生徒による「文科省唱歌 さくらさくら」の斉唱や伝統舞踊の披露もあり、あたたかく迎えられた。視察
に関しては、多文化・環境両面での視点からは十分に探れず、漠然とした視察・参観になってしまっ
たことが反省である。
・午前中に2校訪問は、ややゆとりがなく、検討材料であった。
Indonesian National Commission for UNESCO
多くのユネスコ・スクール校担当者が同席する中、意見の交換が行われた。プレゼンテーション2校
もあったが、プレゼンテーションが丁寧過ぎて時間を多く取ってしまった感がある。15 分間に押さえて
意見交換を多く取りたかった。
SMA 34
環境教育という視点から、訪問校からのプレゼンテーション・校地内の視察・施設や取り組みの紹
介が充実していた。この学校は、組織体としての環境教育先進校であることが分かったが、他校や他
の種別校(中学校や小学校)との連携や啓発について、今後の課題となっていることも窺えた。ぜひ、
先進的な取り組みを他の多くの教育現場に発信していただきたいと感じた。
SMU Perguruan Diponegoro
民族衣装に身を包んだ生徒や、伝統音楽を民族楽器「ガムラン」で演奏して迎えるなど、大変な歓
迎ぶりであり感激した。CAI の活用状況などをみると発展途上の学校であるといえるが、生徒や教職
員の熱心な様子から、元気な学校として活性化されていると感じた。高等教育がこのような雰囲気(校
風)で運営されることは、日本の高校でも大いに学ぶべきであろうと考えられた。
UNESCO Office, Jakarta
移動のフライト時刻が迫っており、十分な質疑応答の時間が取れないとのことであったが、
UNESCO Office からの説明は分かりやすく、充実したものであった。内容がしっかりしており、プレゼ
ンテーションだけでも十分な日程であったため、質疑応答がなくても十分に理解することができた。
SMA 4 Denpasar
大島さんのプレゼンテーションに対して、今回は直接、生徒からの質問を受け付けた。これが非常
に有効であると考えられた。何かテーマを位置づけての質疑となればもっとよかったと思うが、現地校
の生徒の生の意見を聞くことができたこと、それに応じて何人かの先生方と一緒にパンフレット片手に
説明したことも貴重な機会となった。
IDEP
事務所での説明に加えて、地元の小学校に受け入れていただき、「ゴミの分別指導」の授業を参観
できたことが有意義であった。実際に、子どもたちが校地内からゴミを拾ってきて、手にしたゴミを皆に
見せながらの授業は実践的であり、子どもが実感をもって学ぶことができると考えられた。この指導法
は、幼~高校までのどの校種でも有効なやり方である。
Green School
「理想郷」、「桃源郷」とでもいうべき新しい教育のスタイルが見て取れた。しかし、現実に日本の教
育システムの中で働く者として、どれくらい現実的に見ればよいかまだまだ未知数であった。開校後、
数年して卒業生が社会に出る頃がひとつの評価段階であると考えられる。それまで、陰ながら見守っ
ていきたい教育現場である。
Bali Hati
個人として準備してきたプレゼンテーションを行うことができた。参加された現地校の方も、小学校
教員のみならず、幼稚園教員や保護者までと多岐に富んでおり、様々な角度からのご意見をいただく
有意義な機会となった。なかでも、砂場の設定という日本では当たり前の(法的に整備された中での)
環境に対して質問や意見が出ていたことが国柄の違いと見て取れた。準備が大変であった分、個人と
して最も有効な研修であった。
51
3. 成果と今後の展望:
・今回の派遣を受けた本学附属校園への研修還元を行いたい。
・大学、特に、環境教育実践研究センターとの連携を図り、現実的に「環境教育」「防災教育」などの視
点から実践を積みたい。なお、現在、本学がユネスコ協会連盟と連携して制作している教材につい
ても、本研修の成果を十分に反映させていきたい。
・荒明が担当する大学の講義「生活科教材研究法」における ESD 教育について検討し、後期の講義・
演習の中で生かせる部分を取り入れたい。また、本学の環境教育実践研究センターからも、後期の
講義でインドネシア派遣を受けた内容で、講義を組みたいという申し出を受けている。
4.提案・その他:
教育現場への訪問時は、視点を定めて視察・参観し、質問者も限定して(質問を想定して)情報交
換を行うことで、さらに吟味した視点研究になると考えられる。
52
佐々木 勉
1.総合所見:
インドネシアの各学校を訪問すると、噴水が校門付近にあり、いかに国民が「水の大地・インドネシ
ア」を誇りにしているか窺い知ることができた。また、どの学校でも熱烈な歓迎を受け、インドネシア人
の温かな人柄に触れることができ、深い感銘を受けた。
一方、環境については憂慮される面が多々見られた。都市部を流れる河川は、川岸がコンクリート
で固められ、水は黒ずみ空き缶やプラスチック等のゴミで埋め尽くされ水面が見えない程である。原
因として、下水道施設の未整備によるハード面での問題、家庭雑排水の流入水の増加、人口増加、
富裕層と貧困層の拡大、ゴミの増加等によるソフト面の問題が複雑に絡み合っていることが考えられ
る。
インドネシアにおける、水質汚濁負荷軽減へ向けた教育的アプローチは、一部高校で盛んに行わ
れているものの、全体として様々な機関や国からの支援を必要としていることを実感した。特に、ESD
の推進を支援しているユネスコへの期待をいたるところで感じた。
さらに、日本とインドネシアにおける ESD を推進するためには、
(1)両国間における小・中・高の系統的なカリキュラムの開発と検討する場の設定。
(2)指導者の育成と人的交流によって教師の資質向上を図ること。
(3)両国の学校間における情報と人的交流の推進を図っていくことが大切であるのではないだ
ろうか。
今回のプログラムは、学校視察、ユネスコ訪問、両国職員間の意見交換、日本の教師同士の交流
を大きな柱とし、これらが有機的に関連しあうことで目的が達成するということを実際に感じた。したが
って、すべてのプログラムが有意義であった。
2.各訪問先についての所見:
Taman Mini Indonesia Indah
インドネシアは東西に広がる多数の島によって構成され、多民族、多宗教、多文化でそれぞれの地
域で伝統が重んじられてきたことを展示内容から推察することができた。また、2億4千万人の人口を
かかえ、ひとつにまとめることの難しさもその展示内容から痛感した。
SDN IKIP
国立教育大学附属の小学校で、全国的な学力調査で、国公立では 1 位ということであった。付属と
いう立場を活用し、大学との連携を図っていることが教育の質を高め成功している要因だと感じた。音
楽の授業を参観したが、インドネシアの民族音楽を大切にし、子どもたちも笑顔で楽しんでいたのが
印象的であった。
SMA Lab School
幼稚園から高校までの一貫教育。高校では理系と文系に分かれ、1・2年では日本語が必修。
ASPnet に加盟し、日本の神戸工業高校と交流を深めたり、和歌山でのシンポジウム(ACCU ほか主
催)に参加したりと意欲的な取り組みが見られた。また日本の歌「サクラサクラ」を授業の教材として取
り上げるなど日本への関心の高さが窺えた。
Indonesian National Commission for UNESCO
インドネシア・ユネスコ国内委員会代表であるラクマン氏から ESD を展開するにあたっての施策と課
題について直接話を聞くことができ、大変有意義な時間を過ごすことができた。日本と同じ6・3・3制
の学校制度のもと、礼儀正しく知識の習得に貪欲な生徒。同じアジアの一員として、国家同士の共通
課題を明確にし、解決していく生徒を育成することが私たち教職員に課せられた使命であると強く感じ
た。
53
SMA 34
雨水の浸透による井戸水の確保を始めとするハード面、APSnet に加盟し、ESD を推進しているソフ
ト面、共に充実していると感じた。また、知識だけでなく価値観も大切にし、例えば生活の中で水を大
切にし、排水を最小限に抑えるなどの取り組みは大いに評価されるべきで、インドネシアの他の高校
への波及が期待される。
SMU Perguruan Diponegoro
学校に到着すると同時に歓迎の嵐。民族舞踏と音楽等、生徒によるセレモニーで私たちを迎えてく
れた。財団が経営し、低所得層の生徒が多いが、よりよい教育を提供しようとサービスの充実に努め
ていることが説明の中から理解できた。今後、日本の高校と多くのプログラムを共有し、文化と環境面
で相互に向上したいという意欲を感じ取ることができた。
UNESCO Office, Jakarta
ユネスコのオフィスを訪れる前までは、なぜジャカルタに支部が置かれているか疑問であった。東南
アジアには、環境、人権、平和、性差、災害等難題がたくさん山積し、自国だけでの解決が難しい地域
においてこそ、ユネスコの役割と支援が求められているのだなと感じた。ESD を始め、 教育の質向上
を図るためユネスコは様々な施策を打ち出しているが、今後の活躍に期待したい。
SMA 4 Denpasar
学校長より5つのビジョンと8つのプログラムについての説明があり、英語や中国語におけるディベ
ート大会における優勝を始め数々のコンクールでの入賞など成果となって現れていることを感じた。パ
ートナーシップとして、日本との交流を熱望していた。
IDEP
環境に係わる教材の開発と同時に、実際に授業に入り指導にあたっていたことはすばらしいと感じ
た。また、それを踏まえて教員の研修プログラムを立ち上げたり、リサイクル作品のコンテストを催した
りするなど、少ないスタッフの中で活動が広範囲にわたっていることに驚きを感じた。
Green School
「環境、未来、持続性」をテーマに、次世代を自分で切り開くことのできる生徒を育成するカリキュラムづくり
を目指している。食、住、エネルギーなど敷地内でできるだけ物質が循環できるように配慮され、理論と実践
が一体化して学習できる環境であり、これからの取り組みの成果が期待される。
Bali Hati
各学級の前に、学級菜園が設けられ、菜園で使用する水は校地内でくみ上げている井戸水を使用するな
ど、家庭生活を意識した取り組みが見られた。また、環境学習に外部指導者を入れるなど、学校外の人的活
用も図られ、有効かつ効果的であると感じた。
3.成果と今後の展望:
私が今回プログラムに参加した目的は、インドネシアと日本における環境学習への取り組みを比較検
討することであった。小学校における体験活動の重視、中学校における基礎的な知識・理解、高校に
おける課題解決と情報の発信という基本的なプロセスは同じであり、今後の環境学習への取り組みに
ついて確信を持つことができた。
今後、市内の ESD へ向けた取り組みの啓発と普及を図るため、今回のインドネシアでの体験を
「ESD だより」として発刊する。また、気仙沼市内の教頭会において、市内の小中学校を対象に、ESD
に係わる意識調査と分析及び対応についてまとめ、次年度全国教頭会で発表予定である。
4.提案・その他:
今回、中学校への学校訪問がなかったが、日本でも ESD を意識して学校全体として取り組んでいる
事例が少ないので、次回は是非プログラムの中に組み込んでほしい。
今回の研修会で多くのことを学び、また多くの仲間と出会うことができました。企画・運営に携わり、
物資両面からご支援いただいた ACCU の皆様に心より感謝申し上げます。
54
深町 知哉
1.総合所見:
インドネシアについて知らないことが多かったが、今回のプログラムを通して多くのことを学べたと
思っている。日本との文化、習慣の違いは肌で感じたが、やはり宗教が生活に深く根ざしていることが
印象深かった。訪問したいくつもの学校で子どもたちと触れあうことができたが、その明るい笑顔と優
しさに感動した。学校では宗教教育が充実していたが、子どもたちは心の支えとなるものがあるからこ
そ、あのように生き生きとしていられるのではないか、と思った。また、インドネシアが抱える教育上の
諸問題について、たくさんの話を聞く機会があり、貴重な時間であった。日本が抱える問題とは異なる
点が多かったが、環境教育や国際理解教育の重要性など、地球規模でみたときには共通する課題が
多く、今後の交流や協力体制を充実させる必要を感じた。最も有意義なプログラムをひとつ挙げるの
は難しい。強いていうならば、インドネシアの子どもたちと直接ふれあったり話し合ったりする時間が持
てたことである。皆一様に大きな夢をもっており、それを語ってくれた。彼らのために、また自分が教え
ている子どもたちのために何ができるのか、考えるよいきっかけとなった
2.各訪問先についての所見:
Taman Mini Indonesia Indah
インドネシアにある様々な文化、民族を身近に感じ、多様性というインドネシアの特徴を具体的に、
実感をともなって学ぶことができた。インドネシアという国家や、その教育を理解する上で初日に見学
できたのがよかった。
SDN IKIP
・児童数に対して教員数が多く、人材の充実を感じた。日本では教員が足りず、クラブ活動の指導等
には十分に専門分野の人材があたれないという印象がある。他の学校も同様なのか気になるとこ
ろである。
・それぞれの宗教に合わせた授業や教員、プレイングルーム(お祈りをする部屋)等が整備されてい
る点から、宗教教育の充実や、それぞれの信仰を大切にしようとする教育方針が理解できた。
SMA Lab School
・伝統文化や民族芸能を継承しようとする活動に意欲的に取り組んでいた。特にクラブ活動が充実し
ており、質の高いものを見せてもらうことができた。自国の文化を大切にしているということは異文
化理解の基礎的な力だと思う。ESD の観点からも重要な活動が展開されていると感じた。
・子どもはみな明るく人なつこかった。高校生であったが、声がもれると子ども同士で「シー」と窘める
ところは、日本ではあまり見られない光景だと思った。
・1、3年で日本語が必修であったり、和歌山での防災教育ワークショップに生徒が参加したりしてい
る点など、日本とのつながりの深さを感じた。
Indonesian National Commission for UNESCO
インドネシアの教育、ESD の実践状況、ASPnet の規模など、多数の事を知ることができた。インドネ
シアの 10 の教育課題なども聞けたが、最も印象的だったのは、いくつか日本と同じ教育課題を抱え、
その解決のために国境を越えて手をとりあう必要性を説いている点だった。
SMA 34
有機ごみから肥料を作ったり、植物を育てて薬草として利用したりする点が、体験的でよい活動だと
思った。収益を伴い地域とつながりが持てる活動や、理論にとどまらない行動をともなった体験学習な
ど、これからの環境教育のために参考になる点が多かった。
SMU Perguruan Diponegoro
盛大な歓迎に感激した。民族舞踊や伝統芸能での出迎えが、自国文化を大切にする校風を感じさ
せた。古いもののよさを大切にしつつ、そこから未来を見つめていこうとする教育の仕方は、今後の
様々な教育活動に活かされていくべきだと思う。たくさんの学校と関係をもとうとする学校方針にも好
感が持てた。
55
UNESCO Office, Jakarta
インドネシアの教育の諸問題(地域による格差、教員の質の向上)などを具体的に知ることができ
た。インドネシアでのユネスコの役割なども学ぶことができた。
SMA 4 Denpasar
・ 学校が育てたい生徒の姿「知的インテリジェンスと感情的インテリジェンスを備えた生徒」のとおり、
礼儀正しく洗練された生徒達であった。「8つのプログラム」はどれも独創的で、従来の教育の型に
とらわれない様々な活動を行っていた。
・ 多文化、他宗教である自国文化を学ぶことを重視することは、生徒一人ひとりが互いの人権を尊重
していくうえで大切な学習であると感じた。
IDEP
・観光地としても発展しているインドネシアについて、発展の影に抱える環境問題と、その解決のた
めにどのような努力がされているか知ることができた。
・豊かな自然をもつバリ島において、子どもたちが自分に身近な自然について幼いうちから学ぶこと
や、それを守る術を知ることはとても大切であると思う。IDEP の活動の重要性を実感した。
Green School
これまで見たこともない校舎に驚いた。「自然の中で学ぶ」という理想を現実にしたような学校であ
ったが、まだ未開校ということで、今後どのような教育活動が展開されるのか、どのような子どもを育
てられるのか、どんな問題点があるのかなど、今後の様子が気になるところである。
Bali Hati
学校で行っている環境学習の成果を聞くことができてよかった。子どもたちの様子をみると、とても明
るく友好的である。自然の中でのびのびと育てられているという印象をうける。Hati(Heart)という言葉
通り、温かい人間性を育てるため、教員をはじめ多くの人とふれあっている点がすばらしかった。
3.成果と今後の展望:
インドネシアでの ESD の実践状況や活動事例に興味があったが、具体的な活動が見られたほか、
実践していく上での悩み、問題点などが分かってよかった。インドネシアと日本において、文化や習
慣、宗教など様々な違いはあったが、解決すべき問題とそこへ向かう考え方は共通するところがいく
つもあった。このことは自校の職員や子どもたちにぜひ話したいと考えている。できれば今後、人的交
流の機会を増やし、なるべく幼いうちから他文化に直にふれるチャンスを与えていきたい。
4.提案・その他:
先進的な学校を多数訪問でき大きな収穫になったが、可能であれば地方校なども見学してみたい。
学校によって受け入れの難しいところもあると思うが、今後の様々な交流のためにどのような手立て
が講じられるか、より具体的なことがわかると思う。
本当に貴重な経験をさせていただき、ありがとうございました。
56
高橋 順一
1.総合所見:
非常によく計画されたプログラムでした。特に日本とインドネシアのユネスコ国内委員会と ACCU と
いう公的な機関のみに可能な力強いリーダーシップが発揮され、現地における多くの学校や団体の
協力を得て、充実した内容のプログラムになりました。ESD の推進機関としては、国際機関の事務所
(ユネスコ・ジャカルタ事務所)、インドネシア政府のインドネシア・ユネスコ国内委員会)、非政府系団
体、といった政治・行政的リーダーシップの諸レベルから、学校においては小学校から高等学校まで、
インドネシアの ESD の全貌がつかめるように丁寧に選ばれた訪問先は、どれも非常に魅力的であり、
有意義な学習を可能にしてくれました。
特別に加えていただいた、インドネシアの国民統合教育のための博物館「タマン・ミニ」の見学も、イ
ンドネシアの複雑な民族構成とその統合のためのアプローチを ESD の背景として学ぶ上で意味があ
りました。また、限られた滞在期間を前半と後半を効果的に分け、前半を首都ジャカルタ、後半をジャ
ワとは文化の異なるバリで実施したことも、インドネシアの多様性を実感する上で非常に役立ちまし
た。片方だけの訪問であったら、多少偏った印象を得て帰ってきたかもしれません。広大で多様なイン
ドネシアの理解としては、2箇所だけではまだまだ不十分ではあると思いますが、少なくともその問題
の存在を感じ取ることはできました。
今回のプログラムの最大の魅力は、その全体計画の優秀さにあると思いますが、もし特に私の印象
に強く残った部分を選ぶとすれば、バリでの研修の部分であったと思います。それは恐らく訪問先が小
規模組織であり、訪問そのものがカジュアルで親密な交流ができたという理由からだと思われます。
参加者である私たちも、自由に学習できました。
57
小林 亮
1.総合所見:
この度インドネシアへの教員派遣プログラムが行われたことは非常に時宜を得た企画であったと思
う。現在、日本においては、ユネスコ・スクール(ASP)のネットワーク化と ESD(持続発展教育)を中心
とした教育活動の拡充が進められているところであり、本プログラムはそのための海外情報収集の試
みとして重要な役割を担ったといえる。約 300 校にのぼるユネスコ・スクールを擁し、国をあげて ESD
に取り組んでいるインドネシアの学校での教育実践は、ひとつのモデルケースとして視察し学ぶに十
分値する充実した内容をもっていることが確認できた。また日本のユネスコ・スクールを中心とする現
職教員が現地を視察し、インドネシアの教職員と交流できたことは、貴重な情報収集としての意味と
並んで、今後、日本とインドネシアのユネスコ・スクールを中心とする教員相互ないし児童生徒間の人
的交流を促進していく機縁にもなったわけで、今回の派遣プログラムはアジア太平洋地域におけるユ
ネスコ・スクールのネットワーク形成に向けても大きな意義を有しているといえる。
インドネシアの訪問校については、インドネシアが様々な顔をもつ多文化社会であることを考慮した
適切で代表性の高い選択であったと思う。すなわち、首都ジャカルタとバリ島という異なった地域の学
校を訪問できたこと、小学校と高校という異なるレベルの学校種を見学できたこと、公立校(国立校)と
私立校さらにはグリーン・スクールのような外国の団体による学校など設立主体の異なる学校を見ら
れたこと、宗教についてもイスラム教を主流とするジャカルタの学校とヒンドゥー教の伝統の強いバリ
島の学校の両方を見学できたことなど、様々な意味で異なったタイプの学校を訪問できたことで、イン
ドネシアの学校教育の現状と課題について、私たちはかなり多面的でバランスのとれたイメージをも
つことができたのではないかと思う。
ESD を中心とする教育実践の内容については、本プログラムでは環境教育と多文化教育という2つ
の重点領域が設定されていたが、とくに多文化教育については、民族的、言語的、宗教的に異なった
人々から構成されるインドネシア社会において、異なる民族や異なる宗教に対する理解や尊重の態
度を醸成することに細心の注意が学校教育の様々な局面で実践されているのを観察し、「異文化トレ
ランスの育成」という観点から非常に参考になった。同時に、国内でのそうした文化的多様性を統合す
る原理としてインドネシア人としての自覚を促す「国民としての心得」などの必修科目に代表される国
民教育、愛国心教育が児童生徒のアイデンティティ形成の点から重視されていることにも興味をひか
れた。文化的多様性の中での国民国家の統一という課題は、グローバル化の波の中で今後、多文化
化が進むと予想される日本社会での価値教育のあり方を模索する上でも貴重で有効な資料を提供し
ているといえよう。
2.各訪問先についての所見:
Taman Mini Indonesia Indah
様々な民族集団から構成されるインドネシアが、諸民族間の文化的多様性や相互理解を尊重し、
それに基づいた共生を進めていこうとしていることが窺える興味深い展示だった。諸民族の文化的多
様性を国の財産、文化遺産として捉えていることが明瞭に読み取れた。
SDN IKIP
ASP 校としての誇りと自覚をもって多角的な教育プログラムを精力的に展開しているのが印象的で
あった。教育大学の附属校として、カリキュラムや教師研修などにおいて新たな実験的取り組みを行
っていることにも興味をひかれた。日本にも強い興味をもっていて、「学びあい」の精神が感じられた。
SMA Lab School
多文化教育の一環として、英語をはじめとして日本語やフランス語などの外国語学習に力を入れて
いる点が特徴的だった。また ASP 校として、平和教育を重点的に行っており、日本をはじめとする海
外校との交流プログラムも積極的に推進している。国際的に開かれた学校であるという印象を受け
た。
58
Indonesian National Commission for UNESCO
300 校におよぶ国内ユネスコ・スクールを統括する組織として、インドネシアの教育行政の一翼を担
っているという自負と責任感が感じられた。ESD における国際協同活動の重要性を強調していたが、
ESD 実践校の校長をミーティングに集めてくれたことにも国際交流への意欲の一端が窺えた。
SMA 34
日本(政府、企業)とのつながりの深い学校であり、ASP 校としては環境教育にとくに力を入れてい
る。水資源をはじめとする授業での環境理解学習と、温室栽培、薬草園、紙の製造、ゴミ処理活動な
どの実践活動とを有機的に統合しようとしている姿勢に学ぶべきものを感じた。
SMU Perguruan Diponegoro
財団によって運営されている私立の高校で、宗教教育や道徳教育(5S 運動など)にとくに力を入れ
ているという印象を受けた。私たちの訪問を民族舞踊や武道の実演、国旗掲揚式など大変な準備で
歓迎してくれたが、国際交流を教育の重要な柱として重視していることとも関連していると思われる。
UNESCO Office, Jakarta
ユネスコのプログラム全体の中での ESD や ASPnet の位置づけを明らかにすることができたのは、
ユネスコ・ジャカルタ事務所を訪れた大きな成果であったと思う。とくに EFA(万人のための教育)という
教育を人権として捉える視点から ESD の意味を捉えなおす機会を与えていただいたのはありがたい。
SMA 4 Denpasar
ヒンドゥー教の伝統に基づき、バリ島の民族文化も教育活動に取り入れながら多文化教育を推進し
ているユニークな学校として印象深かった。環境教育では「自然愛好会」という校内クラブと連携し、自
然体験学習や植林活動などの実践活動を「宗教教育」と結合させて推進している点が注目された。
IDEP
環境教育を推進する NPO だが、自然災害に対する準備や対応を学習するといった非常に現実的、実践的
なアプローチを取っている点が特徴的であった。独自に開発した教材を用いて公立学校での授業も行ってお
り、ESD における学校と NPO、地域コミュニティ相互の連携のあり方を考える上で参考になる活動であった。
Green School
英語圏の外国人が主体となり独自の全人的教育観に基づいて間もなく開校する私立小学校である。森、丘
陵、竹などを活用し自然との一体性を強調したキャンパス・コンセプトと英語学習をベースとした国際教育とが
不可分に統合されて捉えられている点が興味深かった。ASPnet や ESD との関わりが形成されたら実り多い
交流ができるだろう。
Bali Hati
社会事業団体“Bali Hati”によって設立された小学校だが、文化的に多様な背景をもった子どもたち
の相互理解に指導の力点を置き、互いの違いを尊重しあう授業“living value”を毎週行っているところ
に特徴がみられた。インドネシアという多文化社会のニーズを象徴するような授業だと思った。
3.成果と今後の展望:
インドネシアの学校やユネスコ関連機関への訪問で知りえた ESD および多文化共生に向けての教
育実践やその根底にある教育原理を参考にしながら、とくに「異文化間トレランス」(文化の違いを受
け入れることのできる心的態度)の醸成に焦点をあてた日本の学校現場での活用を念頭においた
ESD 教材の開発に関わっていきたい。
また高等教育に携わる者として、現在形成されつつある日本での ASP ネットワークにおいて、大学
などの高等教育機関がどのような役割を果たせるのか、あるいは果たすべきなのかという問題が非
常に気になっている。ASPnet の展開における高等教育の役割と課題について、(1)教師教育(教職
課程)のためのカリキュラム開発、(2)国際理解教育の研究、(3)ユネスコクラブなどの課外活動、の
3つの観点から、明確なビジョンを形成するための提言と具体的活動を展開していきたいと考えてい
る。
なお日本とインドネシア両国間の ASP ネットワークの交流と協力体制を日本ユネスコ国内委員会や
ACCU などの指導、支援も得ながら、システムとして形成していきたい。
59
4.提案・その他:
日本のユネスコ・スクールが今後、ESD という非常にグローバルで同時にきわめて日常的な課題に
より効果的に対応できるような教育内容や実践活動をどう展開していけるかを考える上で、多文化社
会という点ではある意味で日本を先取りしているインドネシアでの学校教育の取り組みは学ぶところ
が非常に多かったです。このような貴重な学びと出会いの機会を提供して下さった ACCU に心から深
く感謝申し上げます。
今回の派遣プログラムはあくまでもひとつのきっかけであり始まりだと思うので、日本の ASPnet とイ
ンドネシア、さらには他のアジア諸国の ASPnet との交流と連携を今後、体系的に構築していくための
歩みをぜひ具体的に進めていただきたいと希望します。そのためにはやはり、日本での ASP 校を統
括し、その教育実践を積極的に支援し推進していく組織(ASP 事務局など)が設立されることが望まし
いと思われます。また日本の ASPnet の現状を知らせるニュースレターの発行などもご考慮いただけ
ればと希望します。
60
中島 一美
1.総合所見:
小学校や高等学校、公立や私立など様々なタイプの学校を訪問する機会に恵まれたが、いずれに
も共通して子どもたちの活き活きとした様子をダイレクトに感じられたことが最大の収穫である。授業
を受ける姿、休み時間の様子は、「学校に通える喜び」を感じているように見えた。また、我々訪問団
を歓迎し案内する生徒の態度は、親日的である印象を受けたばかりでなく、愛校心や愛国心という名
の誇りを抱いているようにも感じた。子どもたちのみならずユネスコ・オフィスや NPO 財団においても
同様で、教育に携わる大人たちも自身の取り組みについて自信と誇りを持っていたように思う。大人
と、それを見て育っている子どもたちが連動していることを改めて実感することができた。
また、他の民族や他の宗教がすぐ身近に存在することは、「他者を受容する心」を育てるに最適な
環境ではないかと感じている。私たち日本人をこれ程までに歓迎できることも、その心が育成されてい
る証拠のひとつといえるかもしれない。そういった環境がない日本においては、マイノリティが肩身の
狭い思いをする傾向にあることも頷けるし、長きに渡って「いじめ」「不登校」といった言葉が注目を浴
び続けていることにも多少の関係があるように思う。
最後に、何もお膳立てのされていないありのままの様子を受信できるよう、可能な限り生の現地の
空気に触れることを心がけたが、先述した学校や施設の子どもたちとは異なった顔を見せる青少年に
幾度も出逢った。プログラム中で見聞きした、ある意味で日本よりも高いといえる意識が実は国民の
大半に浸透していないのではないか、そして激しい格差をインドネシアは抱えているのではないかと
考えを巡らした。多民族・多宗教という意味では共生を実現しているものの、約2億4千万人から形成
されるひとつの国家、インドネシアの国民として共に生きることの困難を目の当たりにしたこともまた事
実である。(その意味で日本は、ある程度の共生を実現できているかもしれない。)ESD の推進が、諸
国の端々にまで行き渡ることを期待したい。
2.各訪問先についての所見:
Taman Mini Indonesia Indah
自国の各民族文化の特徴を母国語で展示してあるということから、インドネシア人としてのアイデン
ティティの確立や自国(多文化)理解を目的とした施設であることが分かった。施設建設の狙いを外向
きの経済的効果とするのではなく、全ての活動の土台となる自国理解を第一とするところにインドネシ
アの確固たる信念が見られた。
SDN IKIP
エリート校ならではの整った設備・環境は、日本に引けをとっていなかった。学力向上に力を注いで
いる一方で、小学校のうちから民族音楽の指導も授業に取り入れているシーンは、国民としての自意
識を確立し、愛国心を育成するひとつの手段として大変共感を覚えた。
SMA Lab School
母国語の他、英語に加えて日本語の学習を必修としている点は、大半が大学に入学して初めて第
二外国語を履修する日本が参考にすべき素晴らしい教育であるように思った。アンクルン演奏で日本
の曲を披露してくれた高校生が印象的である。日本文化のひとつとして指導しているとするならば、言
語教育といった一面的な指導に留まらない豊かな教育であると思う。
Indonesian National Commission for UNESCO
少しの時間の間にも盛んに質問などを受けたことから、スタッフ一人ひとりが積極的に日本の教員
との交流を望んでいることを強く感じた。これだけ上層部が本気で取り組んでいれば、インドネシアの
教育はまだまだ大きく発展するだろうと確信した。
SMA 34
体験学習を重視したグリーンハウスや薬草栽培、リサイクル活動を行うユネスコクラブが印象深か
った。「やらされている・言わされている」という印象を生徒から受けることは全くなく、むしろ自分たち
の前向きな活動として堂々と紹介してくれたところに、これらの体験学習の成功を実感した。
61
SMU Perguruan Diponegoro
財団の経営する高校であるが、特に他と異なった目立つ教育的特徴は見られなかった。多くの非
常勤講師で教員が構成されることのデメリットは感じられず、生徒はのびのびと健やかであった。伝統
舞踊や伝統音楽などで大歓迎を受けたが、そこに生徒たちの自国に対する誇りや愛国心を感じ取る
ことができた。
UNESCO Office, Jakarta
それぞれの専門的なスタッフが多面的に課題を捉え、解決・向上へ向けて取り組んでいる姿が意欲
的かつ熱心であるように感じた。書類やコンピュータに向かって進めていることがどのように実際に行
動へ移されているのか、興味深かった。学校訪問では見えてこなかったが、実は先進国と共通した課
題も抱えていることも分かった。
SMA 4 Denpasar
海外開催の物理オリンピックや科学論文コンクールへの参加、入賞など実績を多く残している優秀
な高校であった。全授業を英語で行う英語クラスを設置しているだけあり、生徒は自分の英語力に自
信をもって発言しているという印象を受けた。国際科を設置する本校も見習いたい学校である。
IDEP
出張授業を依頼されたり、開発した教材を実際に使用したりする場面を見ると、それだけの信頼を教育施
設から得られていることに感心した。組織・集団を重んじる日本社会においても、このような開かれた施設が
増加すれば、偏りのない様々な大人たちが協力しあって子どもたちを育成できるのではないかと思った。大
いに参考にすべきシステムである。
Green School
キャンパス全体を教室と捉える姿勢、1クラス 20 名の生徒に対して3名の教師を配置するというシステム、
多国籍の子どもたちの共生を前提とした教育、いずれをとっても斬新であり、非常に興味深い。上手く機能す
れば異文化理解・環境教育の面で絶大な成果が得られるのではないかと思うので、数年後が楽しみである。
最も再訪問してみたいと思う学校である。
Bali Hati
事前に抱いていたインドネシアの学校のイメージに最も近い公立小学校であった。空のもとで行わ
れた IDEP スタッフによる環境の授業で、活き活きと発言したり歌を歌ったりする子どもたちが印象深
い。その一方で、一歩学校の外に出るとゴミが散乱している現状もあり、そのギャップをどのように消
化しているのか興味が湧いた。
3.成果と今後の展望:
多文化の共生を実現できているインドネシア、格差の激しいインドネシアの両面を見て、改めて教
育の重要性をずっしりと確信した。多文化や環境問題に目を向けさせるためには、まずもって「他者を
配慮する心」=「豊かな心」の育成が最重要であると感じている。国際理解教育に携わる一教員とし
て、ESD に繋げるための「豊かな心」を育てる教育を常日頃から心がけ実践せねばならない。
今後は、国際科を設置し国際理解教育に力を注いでいる私立学校として、教員の交換研修や生徒
の短期交換留学などができたら面白いと思う。まずは、インターネットなどを用いた生徒間の異文化交
流から始めてみたいと考えている。
4.提案・その他:
大変有意義なプログラムをありがとうございました。
インドネシアの素晴らしい面(日本より優れている点)をいくつも学び取ることができ、参考になりま
した。今後は、優秀な学校のみならず、問題を抱えている学校やサポート校(インドネシアでいうところ
のパッケージABCなど)もありのままに視察させていただけたら、さらに多くの発見が可能かと思いま
す。
62
飯島 眞
1.総合所見:
今回は、かねてから計画していたアジア太平洋 ESD ネットワークを構築するという具体的な目
的を持って臨んだため、それなりの準備をして参加させていただきました。
そのため、ユネスコ・ジャカルタ事務所の皆さんをはじめとして、「できるだけ多くの事務方にも
お会いして今回の構想の意向を伝え、また、現地の教師にも協力を訴えてくる」という気持ちで、
それぞれの会議に臨みました。
結果は、ポジティブな意味において予想外の結果となり、現地の先生方、そしてインドネシア・
ユネスコ国内委員会が、日本との交流に対して非常に高い意欲と熱意をお持ちであることが分か
り、今後の具体化の道が見えたように思いました。
また、各訪問先の学校も、様々な形で ESD を実現しようと具体的に努力している学校が複数見
られ、大変参考になりました。と同時に、どの学校もインドネシアの伝統文化を継承することに努
力しており、文化的多様性の保全のための異文化相互理解の前提としてある、「まず、それぞれ
の国が自国の文化を尊重し継承することに努める」という、最も重要な要素が確実に実行されて
おり、これは、日本が大いに学ぶべきものであると感じました。
Green School では、プライベートな国際学校の非常に特殊な取り組みを見ることができ、大変
有意義でした。
IDEP および Bali Hati 訪問では、地元の NGO が学校に積極的に介入して ESD を行っているこ
とが非常に印象に残りました。活動の内容はゴミ問題とリサイクル農業を中心に住民生活の質の
向上と環境保全との両立を目指すもので、現在インドネシアで求められている ESD の課題のひと
つが改ためて明らかになったという印象を持ちました。
今年の 7 月に行われた洞爺湖サミットでは、地球環境問題に対する取り組みについて、G8に加
えて招待された発展途上国側の代表と G8との話し合いが行われましたが、残念ながら合意には
至りませんでした。その最も大きな原因は、お互いの立場に対する不理解だといえるでしょう。
ESD は、“Humanitarian crisis”ともいえる人類が共有する緊急で深刻な課題を解決し、持続可
能な社会を実現するための教育であることを考えると、われわれが今後国家間共同プロジェクトと
して ESD を実行する場合において最も重要な要素のひとつは、同じアジアという生態系を共有す
る運命共同体の一員として、相手国と自国との経済的・社会的・文化的状況の違いを十分に理解
したうえで、人類共通の課題に対して互いが取り組める内容の違いを理解し合い相互に協力して
取り組む能力を育てることだと考えられます。私は、今後、ESD のみならず環境科学の立場からも
インドネシア国民のために協力できることが沢山あるのではないかという印象を強く受けました。
2.各訪問先についての所見:
Taman Mini Indonesia Indah
案内表記は英語表記がほとんど無くインドネシア語が主体であることから、単なる観光施設で
はなく、インドネシア国民のためにインドネシア各地の民族を紹介するという強い意図を感じまし
た。
SDN IKIP
選ばれた教師と生徒たちによる、インドネシアの先進的な教育の現場を見せていただいたとい
う感想を持ちました。音楽の中で伝統楽器の演奏をしているのが非常に印象に残りました。
一方では、就学時の状況や経済的理由から、学年あたり3年程度の年齢差があるとのお話を
聞き、日本との学習環境の違いの大きさを感じました。
63
SMA Lab School
インドネシアの教育実践実験校としての位置づけの学校だとの認識を持った。一方では、手鏡
がノートの間に隠してあるという微笑ましい状況も見つけ、どの国でも生徒たちの気持ちは同じと
の認識を改めて持ち、また、親しみを感じました。
ここでも、アチェの伝統舞踊をお見せいただき伝統文化を尊重している様子が窺えました。イン
ドネシアの代表的な高等学校の姿を見せていただいたという印象です。
Indonesian National Commission for UNESCO
こちらでは、今回の訪問の大きな目的であったアジア太平洋 ESD ネットワークの構築について
の協力要請と具体的な内容等についてプレゼンテーションを使ってお話させていただきました。
インドネシア政府国家省、及びインドネシア・ユネスコ国内委員会も ESD に対して大変意欲的で
あるという印象を持ちましたが、それ以上に、ディスカッションに参加されていた現地の学校の先
生方の反響が大きく、ネットワークの意義、具体的なメリットや、今後の参加方法など、熱意に溢
れた積極的なご発言をいただき、非常に有意義な訪問だったと思います。
SMA 34
この学校は、インドネシア国内において ESD の中でも特に環境教育の先進校といえると思いま
す。しかし、その重点は日本を含む先進諸国が推進する地球環境系の保全という視点とは異な
り、ゴミ問題とリサイクル・災害防止など、また、リサイクル品の販売によって生徒に対する経済的
支援を行うなど、環境を保全することが住民の経済的救済にもつながるという、インドネシアの現
状に則し貧困の撲滅と環境保全を両立させようとする努力と工夫がみられ、発展途上国における
ESD の典型的な実践事例を知ることができました。
SMU Perguruan Diponegoro
財団が運営する学校であるにも関わらず、「経済的に十分恵まれない生徒を多く受け入れ最高
の教育を施す」という学校の方針の下、優れた教育実践が施されていた。なかでも注目に値する
のは国際交流で iEARN を軸として、東アジア・オセアニア諸国と積極的な交流を行っている様子
が窺えた。一方では、地球環境問題をはじめとする ESD の具体的な取り組みはこれからで、今後
は環境問題等もテーマに加え日本の学校との交流を積極的に進めていきたいとのことでした。
UNESCO Office, Jakarta
かつての官僚の邸宅とのことで閑静な住宅街の中に紛れるように建っていました。しかし、この
オフィスはアジア南東部を統括する重要な拠点です。ここでは、ユネスコ・ジャカルタ事務所が推
進する事業についての説明を受けたが、とくに開発途上国において識字教育を通して「全ての人
に教育を施す」ことに力を入れているとのことでした。
私からは、(1)津波被害の状況を中心に、自然環境の保全と住民生活の安全の両立という観
点から ESD を実現する必要がある、(2)今後、アジア太平洋地域で ESD ネットワークを構築して
いきたいのでご協力をお願いしたい、と述べさせていただきました。
SMA 4 Denpasar
学校の建造物や装飾によって、校門に入ってすぐにここがヒンドゥー教文化圏であるということ
を我々は知ることとなりました。昇降口脇の噴水には人間や不思議な動物たちを模した置物が散
りばめられており、これは、偶像を否定するイスラムとはまったく異なる文化であり、我々が新たな
文化圏に入ったことを無言で教えてくれるものでした。学校での ESD の取り組み自体はあまり分
かりませんでしたが、ロータリー右側の舞台で学生たちがバリの伝統舞踊の練習をしていたのが
非常に印象的でした。
IDEP
このNGOの取り組みの最大の特徴は、地域住民の生活の向上と環境保全を両立させるための新たな
農業経営の方法の普及を支援するため循環型社会の構築に向けた様々な方策を実践しているところで
した。これは、学校教育への支援においてもそれが十分に生かされた内容を行っているようで、学校教
育でゴミ問題などの環境保全の意識を高めることを通して、学校から各家庭への環境意識の普及を目指
し地域全体を変えていこうとする積極的な姿勢がみられました。
64
Green School
施設は現在も建築中でしたが、インドネシアの伝統建築と文化を巧みに取り入れながらも、現代に生
かせる新たなデザインを生み出そうとしている試みは非常に印象的でした。
また、二次林とはいえ、できるだけ天然林を残しながら施設を作ろうとする取り組みは生態学の立場か
らも、非常に興味深い取り組みであると思います。
まだ、これから始まるところですが、今後、どのような形で発展していくのか楽しみに思いました。
Bali Hati
取り組みそのものは始まったばかりで十分なものとはいえませんでしたが、地元の NGO である
IDEP の支援を受けて、手探り状態の中で、これから ESD に積極的に取り組んでいこうという積極
的な姿勢が各所で見られました。
ここではインドネシアが現在抱えている具体的な課題が何であり、個々の家庭が取り組むべき
課題が何であるか、そしてインドネシアの環境教育の現状と進むべき方向がよく理解できました。
3.成果と今後の展望:
総合所見にも書きましたが、今回はアジア太平洋 ESD ネットワークの提案のためにお伺いいた
しましたが、インドネシア・ユネスコ国内委員会・ユネスコ・ジャカルタ事務所の反応以上に現地の
教師の反響が大きく、今回の参加は両国にとって極めて意欲的だったといえると思います。
今回は、偶然にも韓国からの来日がキャンセルになったために急遽ディポネゴロ高等学校の先
生と生徒の来日が実現しましたが、ESD を実現するうえで重要なことは、今日までの古い価値観
の中にある国際交流のイメージから脱却し ESD という新たな価値観に立脚した国際交流を行って
いくことであると思います。それは具体的には地球環境保全・貧困の撲滅・平和の構築などの諸
課題に対して実質的な効果をあげ、世界人類が共有する危機“Humanitarian crisis”を、国境を越
えて協力し解決しようと努力する能力の育成が期待できるようなものにしていくことだと思います。
そのためには、特定の学校が一時的な交流を行って成果を誇るようなものではなく、ESD の具
体的な課題について長期に議論し交流を重ねながら、それぞれの国の代表としてアジア太平洋
地域で実際に効果の上がる具体的な教育戦略を練るための「アジア太平洋 ESD 戦略会議」とい
えるものが必要となるでしょう。
4.提案・その他:
今後は、アジアの ESD ネットワークを実現し実行するための原案を作成する実務的な議論の場
が必要だと考えています。
その会議に必要な人材とは、日本とその他のアジア諸国の中で地球環境問題や生物多様性の
保全・文化的多様性の維持等、実際に SD の諸課題を最前線で研究している科学者と、自然科
学・社会科学の科学的手法に基づいて ESD 的に実践している教員で、これらのメンバーが集まり
アジアの ESD ネットワークを実現するための規約の整備や共通項目の設定などについて実現の
ための具体的な議論を進めていきたいと思います。
65
野原 清春
1.総合所見:
私のような ESD も ASPnet も知らない者を温かく参加させていただき、本当に感謝しています。正
直、とても刺激を受けて帰って来ました。
世界に目を向けて教育に取り組んでいる先生方がたくさんみえることを知り、自分も何か役に立ち
たい、何か具体的に行動したいと思うようになりました。中部地方は ESD の取り組みの薄い地域だそ
うなので、なんとかこの地方でも盛んにしていきたいと思います。今後も今回のような研修の折には、
実績はないかもしれませんが、中部地方の教員も加えていただけるとありがたいと思います。
今回の研修のテーマが、インドネシアにおける「環境教育」と「多文化教育」とのことでしたが、実際
行ってみると正直インドネシアの環境教育は日本に比べ随分遅れていると感じました。今回の研修
が、インドネシアにおける環境教育の現状を把握し、現地教育になにがしかのアドバイスをするという
目的ならばよいと思うのですが、インドネシアの環境教育から我々が何か学ぶということは難しいので
はないかと感じました。ただ、IDEP のように学校に入り込み、草の根レベルで環境教育に取り組んで
いる姿には大変感銘を受けました。また ASPnet などを通じて、インドネシアの多くの学校が広く外国
の学校と交流し、知識を共有しようとしている姿は、今までの日本の学校ではあまり見られなかったも
のです。国の置かれている立場の違いもあると思いますが、今後より一層グローバル化が進む中で、
「環境教育」や「多文化教育」に取り組んでいくには、日本の教育現場にもインドネシアと同じような姿
勢が求められてくるのだろうと思います。
2.各訪問先についての所見:
Taman Mini Indonesia Indah
単なる博物館といえばそれまでだが、インドネシアについての基本なイメージも何もなかった私に
は、インドネシアの多民族文化ぶりが展示物を通して具体的に把握でき、その後の見学に十分生か
すことができたと思う。
SDN IKIP
理科実験室や語学研修室、コンピュータ室が充実し、理数系の学習に力を入れている印象だった。
また民族音楽や宗教の時間も大切にしていると感じたが、これらの特徴はその後見たほとんどのエリ
ート校には共通する特徴だった。
SMA Lab School
・ 子どもたちが見せてくれたアンクルンの演奏やアチェダンスがとても素晴らしかった。その後、色々
な学校で同様の発表を見せてもらったが、伝統文化を大切にし、クラブ活動などを通して継承して
いこうとする姿勢を感じた。これも他民族国家におけるアイデンティティの形成に役立っているのだ
ろうと思う。
・ 日本語教育や日本の学校との交流も盛んに行われている。インドネシアから日本に向ける熱い眼
差しを感じる。
Indonesian National Commission for UNESCO
毎年全国統一の国家試験があり、学校ごとにランクづけをされるということだったが、ランク付けす
ることによる弊害はないのか気になるところである。今回参観した学校は、どこもランクAの学校ばか
りで、そのあたりがよくわからなかった。学校の教育カリキュラムも全国統一とのことで、そのあたりに
も他民族国家をまとめるための教育という一面が見られる。
SMA 34
有機肥料から液体・固形肥料を作り、あるいはシャンプーのパッケージを再利用してかばんなどを
作って販売している。理論だけでなく実践を通して地域への啓蒙活動をしていることは、とても共感で
きる活動である。しかし全体に時代遅れの環境教育の感は否めない。
66
SMU Perguruan Diponegoro
財団が経営する学校で、両親の収入が平均以下の生徒によりよい教育サービスを提供しようとして
いるという学校の教育理念に好感が持てる。生徒たちも伸びやかでフレンドリーだった。ただ、この学
校も公的評価がAとのことで、ランクがB・Cの学校を見たいという思いが強くなる。
UNESCO Office, Jakarta
大変申し訳ないが、これといった印象がない。言葉だけの説明を受けたという感じだけが残った。も
っと具体的な教育現場や地方の僻地等における現状や問題点について、生の話が聞きたかった。失
礼かもしれないが、ユネスコ事務所の方は、そうした地方の現状等を知らないのではないか、自分の
目で見て問題を感じとっていないのではないかと感じてしまった。事務所で座って聞く話には、あまり
意味を感じられない。
SMA 4 Denpasar
・バリ島に来て、ようやく文化的差異を意識した教育に出会った。1ヶ月に1回はそれぞれの地方の伝
統的な民族衣装を着て登校する。またバリの伝統舞踊やバリ語の授業を大切にし、バリ語のスピ
ーチコンテストも行うという実践に興味をひかれた。ただしあくまでも「国としての全国的な文化を基
礎とする」部分は、きちんと枠としてはめられている。
・物理学や生物学などの国際的なオリンピックに積極的に参加していることが印象的だった。今後、日
本も積極的に参加するべきだと思う。日本の国際化につながる。英語力の向上は必至であるが。
IDEP
今回、一番感銘を受けた活動が、この IDEP ある。草の根の活動として、実際に学校に入り込み、直接子ど
もたちに環境の大切さを語りかけている姿は、とてもすばらしいと思う。ACCU 津波の DVD がこうした場所で
子どもたちの教育に使われていると聞き、感動していた加藤さんの気持ちがよくわかる気がした。
Green School
多くの先生が感銘を受けているらしい中で、今回私が最も感心しなかった施設である。バリの自然を切り開
いた広大な土地に、大変なお金をかけて自然に優しいという竹素材で建物をたて、アルミのサッシを入れ、電
気を引いてエアコンを効かせて行うエリート教育には、正直興味が持てない。ただ一点共感できたのが学力
に関する考え方で、知識を詰め込むよりは、むしろ人間としての受け皿(興味関心)を大きくするべきであり、
そのために体験型・問題発見型の魅力あるカリキュラムが必要であるというものであった。
Bali Hati
今回の訪問の中で、最も普通の学校らしい学校だった。先の IDEP 実際行っている環境の授業を見
学できたが、先生や子どもたちの目が生き生きしていたと思う。ささやかであるが各クラスに学級園が
作られ、ごみの分別等について学んだ子どもたちが家族に伝えることで、地域にも少しずつ環境意識
が浸透しているということだった。この学校も全国統一テストでは、Ubud で1番、地区でも7番で、「国
民としての心がまえの授業」等もしっかり行われるなど、多民族国家インドネシアを支える教育は、地
方でもしっかり行われていると感じた。
3.成果と今後の展望:
ちょうどインドネシアから初めて日本が看護師を受け入れることがニュースで話題となっているが、
今後日本はさらに多くの外国人を人材として受け入れることになる。国の事情は大きく異なるが、国際
化社会を迎える日本がインドネシアから学べることは多い。キーワードは、「異文化に対する寛容」と
「伝統文化の尊重」だと思う。今後、日本の教育現場もグローバル化に対する対応を迫られることにな
るが、インドネシアの多くの学校のように、物理学の国際オリンピックや英語スピーチコンテストに積極
的に参加することも必要であろうし、環境や平和について国を越えて交流する ASPnet の取り組みは
非常に重要になってくると思う。
67
4.提案・その他:
今回のプログラムでは、先進的な学校の取り組みをたくさん見せていただき、「目から鱗」のような
経験をたくさんさせていただきました。現地と綿密に連絡を取り企画を立ててくださった ACCU いかば
かりかと思い、また十分に準備をして温かく我々を迎えてくださった現地の方にも大変感謝しておりま
す。ただ現地の姿をより正確に知るためには、普通の、あるいは下位に位置づけられるような学校も
見なければいけないと思います。そうした学校と連絡を取り、企画を立ち上げるのは難しいと思います
が、できれば今後ご検討ください。
68
山田 正人
1.総合所見:
「インドネシアのユネスコ・スクールを訪問し、ESD の実践を交流する」という目的に、私自身は実の
ところ戸惑っておりました。ユネスコ・スクールに申請して間もない学校で、ESD の何たるか知り確信を
持って推し進めているという自信がありませんでした。その上、松原高校の ESD の実践を報告すると
いうことになっており、はたしてできるのだろうかと不安が先にたっておりました。18 日の出発前夜の
顔あわせの段階においても顔見知りの方はほとんどなく名刺を交換しながら、自分のできることは何
だろうかと自問しておりました。
最も有意義であったことは、各学校を訪問して大歓迎を受けたことです。ESD に関係なく日本との
交流を強く希望している生徒や先生方の熱い思いは十分に受け止めることができました。なんらかの
形で交流を実現したいと思っています。
また、各校で受けた説明や質疑応答の中で、インドネシアの教育事情を大変よく知ることができまし
た。何よりも日本人の先生方の質問から ESD をよりよく理解することができました。また、ユネスコ事
務所での研修や、IDEP という NPO の交流は、自分の実践にすぐに活かすことができるような気がしま
した。
この機会に恵まれ、素晴らしい先生方に出会えたことを感謝しています。
2.各訪問先についての所見:
Taman Mini Indonesia Indah
It was a good chance for me to grasp general ideas about Indonesia. I was surprised at so many
races and cultures.
SDN IKIP
This was the first school for us. We happened to see the pupils take a physical check-up and then
the children showed their happy smiles to us, which made me think of the universal language of the
smile.
SMA Lab School
The international class welcomed us and the ceremony was really nice. I enjoyed Indonesian
dancing, chorus, etc. Especially, the student who sang “Great Indonesia” was splendid, as if she were
a professional singer. The attitude of the students in the ceremony was the same as that of my
students. I was relieved to know that the students are the students.
Indonesian National Commission for UNESCO
It seems to me that the principals were urged to attend the meeting by the board of
education. I gave a presentation about Matsubara High School but I was not able to answer many
questions by the Indonesian teachers. Some asked me whether Japanese schools wanted to have
exchange programmes or not. We should have spent more time talking about the real intention.
SMA 34
In this high school, I saw a concrete idea of ESD for the first time. Eco Club members make
fertiliser from school garbage and grow flowers and sell them to students’ parents. The money is used
for scholarships. Wonderful idea!
SMU Perguruan Diponegoro
This was the only private school that I saw in this trip. The students seemed enthusiastic and
lively to me. Even though the score of the nationwide test is not so high, the teachers were proud of
getting A evaluation. I thought if Matsubara High school had an exchange programme, this school
would be the best partner for my school.
UNESCO Office, Jakarta
I found UNESCO had developed the teaching materials. I should have used them earlier.
69
SMA 4 Denpasar
The smart students who can speak English very well welcomed us, guided us and talked a lot
about their school by themselves. I heard they were the students of the international class. I was
moved by their positive attitudes.
IDEP
I had much interest in the project of teaching environmental problems at an elementary school by NPO staff
members. In Japan it is difficult for school teachers to have a consensus to work with NPO. IDEP has many kinds
of teaching materials and seems to have the trust of the community.
Green School
It is a dream! Who can realise the dream? The idea that all school buildings are made of bamboo. No
classroom has walls. Growing in nature must be a part of the pupils’ second nature. I hope they will succeed.
Bali Hati
We have many private schools in Japan. But I have never perceived that the spirit of foundation
of the private school is fulfilled in the curricula, the school events, and so on. Bali Hati must be a good
NPO. The staff members really must have high ideals to help those who have much talent but are in
bad economic situations.
3.成果と今後の展望:
インドネシアの介護士志望の方々がたくさん日本に来て各病院に配属されてここ3年ほどの間に日
本語を習得し資格を得て就職するのだというニュースを見た。私たちの老後の生活を彼らの助けに依
存しなければやっていけない時代がそこまで来ている。私たちは、お互いに信頼しあい、良好な人間
関係を作らなければならない。これからの世代のための ESD も大切だ。が、差し迫った信頼関係の構
築を病院関係者に任せておくのだけでよいのだろうか?日本の社会が外国人を自分たちと同じ生活
人として隣人として受け入れ生活していけるためには、言葉や文化の壁を越える相当な努力が必要
だと思う。それは、大人ばかりでなく、子どもたちも学びあう機会を作らなければならないと思う。一部
のボランティアマインドに溢れた個人に任すのではなくて、教室の中で、地域の中で、作り上げる視点
を持ち活動したいものだ。
4.提案・その他:
「行った」ことをどう次につなげるか?発表の場をつくるとか、交流校の物心両面でのサポートをす
るとかしてほしい。我々が訪問した学校の先生を、今度は日本に来てもらうとすれば、次につながる交
流になると思う。その上、松原高校が短期留学の企画を上げたら、支援をしてくれる体制をつくると
か。
また、ASP 校の先生方を順次、海外に派遣する。その際に、今回のように、プログラムのテーマを
設定しておくのがいい。時間に余裕があるのなら、日本国内で事前研修と事後研修を義務付けるのも
いいかもしれない。
今回の旅では、ACCU のスタッフの同行、プロの通訳、IDEP のスタッフの存在が素晴らしかった。参
加者の緊張を緩めたり引き締めたりしていたスタッフ、突っ込んで聞きたいことを聞いてくれ、解説まで
も添えることができる通訳、いつでも聞きたいときに答えてくれる IDEP のスタッフは、今回の成功の隠
れたポイントかもしれない。
70
大島 弘和
1.総合所見:
まず、インドネシアの学校をはじめとする、様々な方々との出会いをうれしく、またありがたく感じま
した。あちこちで示された友好的な歓迎、心配り、ふるまい。人と人がふれ合うことを学び、そして教え
ようとしているのだということを、改めて深く感じた次第です。
さて、インドネシアの多文化教育については、その民族的・宗教的・言語的・文化的な背景から、当
然うまくいっていないものだという先入観があったことを恥じねばなりません。最初はよくわからなかっ
たのですが、バリに移動するあたりで、なんとなくうまくいってるじゃないか、と思えるようになってきま
した。なにしろ、様々な違いがはっきり見えているのですから、その中で人々は鍛えられているのです
ね。「お互いを認める」ためには、訓練の場が必要だと感じました。 今回、インドネシアについて様々
なことを学ぶことができましたが、こちらからも、プレゼンテーションを用意してよかったと思います。お
互いにとって、学ぶことと伝えることが、どちらも必要であるということを、国際理解教育を通して学ん
できましたので。
どれも有意義だったのですが、あえてあげるなら、最初のミニ・インドネシアでしょうか。後になれば
なるほど、この施設の重要性を感じます。最後にもう一度行けたなら、発見だらけだったのではないか
と思えます。また、ご一緒させていただいた方々のお話を伺いながら、旅が進むにつれて ESD とはど
ういうものなのかが少しずつ理解できるようになっていったことも、貴重きわまりないことでした。
2.各訪問先についての所見:
Taman Mini Indonesia Indah
最初だったのでピンとこない部分もあったのですが、後になればなるほどこの施設の重要性をひし
ひしと感じました。自国の多文化にどう向き合うかということが具現化された施設だったのですね。そし
てそれがテーマパークのように楽しみながら感じ取れるように工夫されているのもよかったです。
SDN IKIP
最初の訪問校だったので、鉄格子の門や警備員、先生方の名門校としての自負に、ややたじろい
でしまいました。しかし、実際には、インドネシアにおける教育の特質はここに出そろっていたように思
います。伝統楽器アンクルンの授業と共に、西洋音楽は教えていないという言葉が記憶に残りまし
た。
SMA Lab School
温かい歓迎のセレモニーをしていただきました。アンクルンの演奏も素晴らしかったですが、アチェ
のダンスが素晴らしかったです。一方、なぜアチェのダンスを教えるのかといことは、推測はできても
本当のところは最後までわかりませんでした。教室を回って生徒と直に話せてよかったです。日本語
が必修であると伺い、驚くと同時に、ぜひ見せていただきたく思いました。
Indonesian National Commission for UNESCO
ASPnet に携わっている校長先生をはじめ多くの先生方を集めていただき感謝しています。またそこ
に、インドネシアの教育行政が、これからも ESD を推進し、「教育の質を上げていこう」(これはあちこち
で聞かれた言葉でした)とする強い意欲が表れていると感じました。
SMA 34
ASP 校としての活動として、実際にリサイクル活動や有機肥料の作成等、生徒の活動を見せていた
だいたのが印象に残っています。今回の訪問でこれだけ具体的なものは、学校ではここだけでした。
もの足りない気がしますが、具体的である分、これから学校全体や地域と共に活動が広がることでし
ょう。
SMU Perguruan Diponegoro
様々な点で意義深い訪問でした。まずすごい歓迎ぶりに驚きました。また、学校の説明が他にはな
いような生徒の層の分析や、国家的な学校評価の仕組み、教師の地位に至るまで他には類を見ない
ものでした。外国の学校との交流を望んでいることを強く感じました。
71
UNESCO Office, Jakarta
日本にはないユネスコのオフィスなのだなあと訪れましたが、そうは思えないようなゆったりした雰
囲気でした。説明していただいたことだけでは現場の状況が見えにくく、質疑応答の時間がもう少しと
れればと、様々な情報が集積している場所だけに残念に思いました。
SMA 4 Denpasar
ジャカルタと違いヒンドゥーが多数の学校ということで、どう違うかと思っていたのですが、宗教教
育、多文化教育の扱いはジャカルタの学校と全く同じようでした。バリの伝統文化の思いは、教育方
針というより、宗教的な観点からのように思えました。プレゼンテーションをさせていただきましたが、
生徒たちは一般的な日本の学校の形態に興味があったようでしたね。
IDEP
環境教育の授業を実際に見せていただきました。非常に具体的で実践的なNPOですが、それは学校の現
場に環境教育への高まりがあるからでしょう。その理由の一端には、NPO が学校の教育の内容に関わって
いるということがあり、日本では、同じようなことはなかなか難しいですが、国際理解教育の分野は率先して
取り組むべき課題でしょう。実験農場の訪問も有意義でした。
Green School
壮大な計画が、実際に動きだしていました。つい西欧的発想や共同体的性格が鼻について批判したくなっ
てしまうのですが。あの情熱はなんとか形になってもらいたいと願うのみです。現地でも質問しましたが、地
域で育まれるべきアイデンティティはどうなるのか、気になるところです。
Bali Hati
財団法人が経営している小学校で、小規模な分フレンドリーな雰囲気でした。荒明先生のプレゼン
テーション(実践も素晴らしいのですが)での、砂場をめぐる視点の相違を興味深く感じました。
3.成果と今後の展望:
インドネシアでの多文化受容の背景にあるとおり、学校や地域の中の多文化が、隠されずに見える
ようにしていくことに取り組みたいと思います。自己を表現し、他の意見を聞き、判断していく力が、自
分に自信の持てない本校生には必要で、その力の育成が、自分を大切にし、他者と共によりよい未
来を切りひらくことにつながるはずです。
そしてそれも、ユネスコ・スクールとして大切な活動だと思います。 「宗教の時間」の存在には、今
の日本の公教育と比較して、いろいろ考えさせられました。自己と対峙する時間、自然と人間の関わ
りを考える時間など、日本でもカリキュラムに位置づけられそうな形を模索してみたいと思います。
4.提案・その他:
もうこれ以上はないほどのプログラムでした。都市部の大学の附属校、進学校にかたよってしまっ
たのは、ASPnet、ESD という枠があったので仕方がなかったのだと思います。ミニ・インドネシアと
NPO の訪問が視点を広げてくれました。 今回訪問した学校は、日本との交流を望んでいるようでし
たので、これからが楽しみです。11 月の高校生国際会議にも参加してもらいたい。一方で、日本の側
も、交流に値するような生徒像とはどのようなものか、どうすれば育つのかということを考え、議論する
場がほしいと感じます。
72
山中 啓子
1.総合所見:
まず、どこへ行っても教員・生徒を問わず、大歓迎されたことに感激した。そして、どの生徒も明る
く、豊かな表情をしていたことが印象に残っている。
次に、インドネシアについてのイメージが大きく変わった。ジャカルタ等の大都市は近代化がかな
り進み、インドネシア語という共通語のもとに統一国家としての体裁が、整えられてきている。教育に
おいても、全国統一カリキュラムが作られ、全国統一テストも実施されるなど教育の機会均等に向け
努力しているように見受けられた。ただ、それだけに都会と地方との格差は大きくなっているように感
じた。小学校の就学率を見ても、都会はほぼ 100%に対して地方は 50%程度の所もあるようだ。ま
た、近代化する際、文化の伝承については細心の注意を払う必要があると思うがそのあたりはある程
度の配慮が感じられた。宗教の時間には各宗教専門の先生が配置され、それぞれの生徒の指導に
あたっているし、民族舞踊などに従事する人々のステータスは高く、尊敬されているという。だが、言
語に関しては風前の灯である。バリで乗ったタクシーの運転手は家ではバリ語を話すといっていた
が、もし、彼がジャワの女性と結婚したら、彼の家庭ではインドネシア語を話すだろうし、彼の子どもも
そうなるだろう。
地域に根付いた文化を絶やさないためには各地域の風土と生活を守る必要がある。芸術に昇華し
てしまった文化は比較的存続しやすいが、もっと生活に密着した文化は近代化の波に押し流されてし
まう。近代化と折り合いをつけながら、有形・無形の文化を守っていくにはどうすればいいか。インドネ
シアにとっても日本にとっても共通の課題だと思う。最後に、多くの学校を訪問できたことがよかった。
2.各訪問先についての所見:
Taman Mini Indonesia Indah
インドネシアの教育について基本的な情報を得ることができ、大変有意義だった。中退した子どもた
ちのための学校があるというのは、興味深かった。
SDN IKIP
設備、生徒、教職員すべてにおいて優秀な学校という印象を持った。学校の周りはそれほどよい環
境とは思えなかったが、中は恵まれた環境で、子どもたちは元気に活動していた。いわゆるグランドが
ないのはなぜなのだろう。
SMA Lab School
生徒たちの歓迎セレモニーがすばらしい。日本語が1、3年の必修と聞き、感激した。「偉大なるイン
ドネシア」という歌を誇らしく歌う生徒を見て、「愛国心」に関して日本との違いを感じた。
日本との交流を望んでいることをうれしく思う。
Indonesian National Commission for UNESCO
都市と地方とでは教育の質や設備等において格差がある、ということと、職業学校の割合を増やす
予定だという説明が印象に残った。
同席されていた多くの先生方は、どういう主旨で参加されていたのか少し気になった。もっと、大勢
の先生方と話をすればよかったと悔やんでいる。
SMA 34
有機ごみから作った肥料を使って植物を育て販売するという一連の活動が興味深い。また、その売
り上げを経済的に恵まれない生徒の支援に使うという発想は、合理的ですばらしいと思うが、日本で
は考えにくいと思った。
SMU Perguruan Diponegoro
大歓迎の嵐にびっくり!思わぬところで「乾杯」を聞き、思わず目頭が熱くなった。4年ごとに学校評
価が行われるということだが、評価基準を聞きたい。
財団法人の経営している学校というのが興味深かった。
73
UNESCO Office, Jakarta
元大使館員の宿舎(?)だったというオフィスが温かい雰囲気でよかった。(慣れない私には迷路の
ようだったが・・・。それからあまりにもアットホームな雰囲気で私だったら仕事を忘れて昼寝をしてしま
いそう)
今まで近代化された側面ばかり見てきたので忘れていたが、やはり女性や子どもの問題は依然と
して残っていることが分かった。
SMA 4 Denpasar
生徒たちが積極的に案内してくれたことがうれしかった。自分の英語に自信を持っている。やはり小
学校 1 年生からの英語教育の賜物だろうか。国際文化科として英語教育には力を入れているはずの
我が校だが案内役としてこれだけの人数を集められるか、はなはだ心もとない。それにしても、みな日
本との交流を強く望んでいることをここでも強く感じた。
IDEP
年間を通してカリキュラムの一部として、実際の授業にNPOが入り込んでいるのはすばらしいと思った。日
本ではまだまだ閉鎖的体質から脱却していない。実施にあたっての経費などはどのようになっているのか、
具体的なことも知りたいと思った。
Green School
理想を現実にしようとする行動力には無条件に頭が下がる。しかし、親元を離れての寮生活の中でそれぞ
れの民族の文化やアイデンティティが育つのか疑問に思った。日本のヤマギシズムをちょっと連想した。しか
し、その意欲たるや大いによし、10 年後にその成果を見てみたい。
Bali Hati
インドネシアには珍しく、少人数のクラス編成。学校の規模もそれほど大きくなく、自然の中でのび
のびとした教育がなされていると思った。子どもたちが本当にかわいい。
3.成果と今後の展望:
「宗教の時間」が統一カリキュラムの中に保障されており、それが家庭教育とともに生徒たちの精神
的な基盤になっているように感じた。日本ではタブー視され、忘れられているが、宗教教育に代わる何
かを行わなければならないのではないかと思い始めている。自然教育(環境教育といってもいいが)
がそれになる可能性を秘めている。 また、生徒同士の交流も積極的に行っていきたいが、その際同
じ生徒(グループ)同士が勉強しながら何度も意見を交換し合う、という形態をやってみたい。現在は
「浅く、広く」が中心だが、その意味でアジア太平洋ネットワークの構築というのは興味深く、生徒たち
にもぜひ参加させたいと考えている。
4.提案・その他:
次回は大都市ではなく、地方の学校に行ってみたい。また、教員の長期(1~2年間)交換や生徒の
交換留学、あるいは各国の大学生、高校生を交えたセミナーキャンプなどを企画してみても面白い。
今回は本当に楽しく、有意義な旅行になりました。企画してくださった ACCU の皆様、参加された先
生方には心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
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藤原 隆範
1.総合所見:
本プログラムは、日本のユネスコ・スクール加盟校及び加盟予定校の教師を中心に、インドネシ
アを訪問し、「ESD(持続可能な発展のための教育)」の実践を学びあうことが目的であった。この
所期の目的は、概ね、達成されたように思われる。
まず、派遣団の構成であるが、小学校・中学校・高等学校・大学・ACCU と、校種に偏りがなく、
相互に経験を交流できるメンバーが選ばれた。また、中学校・高等学校・大学は、教科専門制であ
るが、参加者の専門は国語が3名、理科が2名、英語が1名、社会(世界史)が1名、心理学が1
名、文化人類学が1名と、バランスの取れたものであった。日本で ESD に積極的に取り組んでいる
のは、主に理科と社会(特に地理)の教員であるが、このプログラムの人選はこれに重点化するこ
となく、専門分野が多岐にわたっていたことが、ESD を異なる様々な立場からとらえ、広い視野に
たって ESD を理解するという点において、大きな効果があった。参加者 14 名が、それぞれ違う学
問的背景・キャリアを持っていたことで、交流プログラムを通して、お互いが刺激し合い、他者の知
識や考え方を吸収しながら、日々、ESD についての学習が深まるという、「成長する学習集団」に
なったように思う。派遣団の構成が、同じタイプの人に偏っていたら、このような効果は生まれなか
ったであろう。このようにして生まれた学習集団を、今後さらに継続して成長させていく「手だて」が
必要であろう。
また、訪問先であるが、小学校から高等学校まで数多くの学校と行政機関、NGO を見学するこ
とができ、それぞれの特色・個性とともに、インドネシアの教育の普遍的・一般的なものを見ること
ができた。インドネシアはたくさんの言語・種族・宗教からなり、1980 年代にユーゴスラビアが解体
した際、インドネシアも同じ運命をたどると指摘した学者もいたが、幸いにも解体はしなかった(東
ティモールは独立したが)。多様なインドネシアをひとつにつなぐ「紐帯」となっているものは何か、
それは教育の力であることを垣間見ることができた。特に、「国語」としてのインドネシア語は、「多
様性の中の統一」に大きく貢献していると見えた。このような感想を得るのも、複数の多様な学校
を訪問することができたからであり、その意味において、訪問先の選択も、当を得たものであった
といえる。
私にとって最も有意義であったプログラムは、NGO の IDEP の訪問であった。NGO が地域の小
学校で環境の授業を行い、実験的な農場を作って現地の人と農業改良に取り組む姿は、学校と
地域とNGOが協同で環境問題に取り組み、子どもや大人に sustainability という考え方を導入す
るよきモデルとなると思われたからである。
2.各訪問先についての所見:
Taman Mini Indonesia Indah
このプログラムの中で、ここの訪問は、「インドネシア入門」という位置づけであった。インドネシ
アがたくさんの島、種族(民族)、宗教、様々な歴史的背景、多様な文化をもつ国であることがとて
もよく分かった。
SDN IKIP
カリキュラム開発や教師教育・教員の再研修などにおいて、教育大学の附属小学校としての強
い使命感を感じることができた。
SMA Lab School
ASP 校として、外国語教育に力を入れ、海外交流プログラムを導入し、「開かれた国際スクー
ル」を作ろうとしている営みを感じた。
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Indonesian National Commission for UNESCO
インドネシアの ASP 校を統括する組織として、重要なポジションを持っていることは理解できた。
しかし、ESD の実践に向けて、この組織がどの程度、リーダーシップを発揮しているのか、わから
ない部分もあった。国家をあげて ESD に取り組むというよりも、教育現場の中で、この問題の重要
性を認識している教師が主導で、ESD が行われているような印象をもった。
SMA 34
環境教育に積極的に取り組んでいる学校であった。温室栽培、薬草園、ゴミの処理、紙の製造
など見るべきものが多かったが、これは古くからある、いわゆる「環境教育」と見るべきか、「ESD」
の実践と見るべきか、どちらを意識してなされているのか、知りたかった。
SMU Perguruan Diponegoro
民族舞踊や武道の実演、横断幕を掲げての「大歓迎」には驚いた。また、8月 22~24 日、この
学校の生徒・先生と、東京で再会することになろうとは、その時には、知るよしもなかった。宗教教
育や道徳教育など、日本でいう「徳育」に重点がおかれていたように感じた。国際交流を学校経営
の柱としていることも、今回の交流でよく分かった。
UNESCO Office, Jakarta
ESD の普及に向けて地道に仕事をされていることが分かった。ただ、ユネスコ・ジャカルタ事務
所の研究員が、教育現場に出て、生徒に直接授業をおこなったり、教員の研修に携わったりと、ど
の程度、「現場」と関わっているのか、もう少し知りたかった。
SMA 4 Denpasar
バリ島のヒンドゥー文化を導入しながら、それに偏することなく多文化共生教育の実践されてい
るように思えた。生徒たちが、自分たちのおこなっている教育活動を、自信と誇りをもって、外国人
に紹介する姿は、私のもっていたインドネシアの教育水準のイメージを大きく変えることになった。
IDEP
今回の訪問先の中で、私が最も影響を受けたのが、この NGO 組織 IDEP であった。バリ島の環境や経
済が崩壊していくのではないかという強い危機意識に基づいて設立され、学校や地域の人々と協力しな
がら、バリ島の sustainability を確立しようとしている姿には感銘を受けた。日本で ESD を実践する
には現場教師の力だけでなく、NGO・NPO との連携が重要であることを改めて認識した。
Green School
学校を設立するための大規模な development に驚いた。かなり裕福な階層でないと入学できそうにな
いような学校で、ESD の指導者を養成するということなのか。格差社会が世界中で進行するなかで、この
ようなエリート校も、ある意味では必要なのかとも思ったが、一般の学校との格差をどのようにうめたらよ
いのか、忸怩たる思いがした。
Bali Hati
多様な背景をもった生徒を集め、その違いを認め合う共生のための教育に重点がおかれてい
た。日本では学校に砂場があるということにたいへん驚かれ、日本とインドネシア(というよりバリ
島)との考え方の相違が浮き彫りになり、おもしろかった。
3.成果と今後の展望:
21 世紀、ますます sustainability という考え方が重要となってくるが、日本の教育現場および教
育学、教育政策の中で、このことを言う人は少数派である。インドネシアでは NGO が積極的にプロ
グラムを開発し、学校や地域に出向き、この問題に正面から取り組んでいた。日本でも、NGO や
NPO と連携して取り組むと効果があることが分かった。しかし、日本の場合、学校5日制になって
から、授業やクラブ活動など、日々の教育活動をこなすのが精一杯となり、時間的余裕が全くなく
なった。また「総合的な学習の時間」も次の学習指導要領において削減され、ESD に取り組める時
間も少なくなった。今後は、土曜日などを活用して、NGO や NPO の人から話を聞いたり、オフィス
に赴いて活動を学んだりする機会をもつことが重要である。とはいえ、学校現場で ESD の重要性
を理解している教師は少数なので、まず、その重要性を教育関係者や子ども、保護者、地域の
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人々に、理解してもらうことが必要である。学校教育のみならず市民教育も、同時にやっていく必
要がある。その点においても、NGO や NPO との連携は、好結果をもたらすものと思われる。
ESD の主導機関は、ユネスコである。ユネスコ協同学校(現ユネスコ・スクール)加盟校は、ESD
のパイオニア的使命をもっている。まず、ユネスコ・スクールの組織内で ESD の必要性がわかる教
師を増やし、さらに、そのような先生たちが連携して、他の学校の教師や一般の市民に、
sustainability の重要性を訴えていく必要がある。私の勤務校である広島大学附属高等学校は、本
年 11 月の研究大会で、ESD の研究授業を行い、公開する予定である。少しでも参加者を増やし、
sustainability の重要性を理解してもらえるようにつとめたい。また、ユネスコ・スクールで現在、機
能しているのは 10 校程度と聞く。ユネスコ・スクールの拡大のためには、物的人的保障と、今回の
ACCU のプログラムのような投資が必要である。また、大学・高校・中学校・小学校が連携して、教
育現場に ESD を導入するための方略の研究が必要である。文部科学省の学習指導要領だけで
は不十分なので、ユネスコ・スクールで NGO などと協力して、独自のカリキュラムや教材を開発
し、一般の学校に普及させていく必要がある。
道のりは険しいが、黙って何もしなければ、100 年後、この星に人類は住めなくなる。次世代の
生存に対して、私たちに責任があることを、粘り強く訴えていかなければならない。
4.提案・その他:
日本で ESD の必要性を認識している教師は少数派であり、学校においては異端ともいえる。そ
のような人々を主流派にするためには、投資が必要である。今回の ACCU のようなプログラムが
持続的に実施されて、文字通り、ESD が持続可能になる。単年度だけで終わるようでは、投資とし
て無駄とは言わないが、きわめて投資効率が悪いものになる。
学校現場に戻ると、その世界の中に没入して、このプログラムの成果を持続的に発揮しにくい。
このメンバーを中心とした、日本に ESD を普及させるための会議を定期的に開催したりするなどの
取り組みが必要である。
ESD が日本に普及するかどうか、むしろこれからが正念場である。
ACCU の皆さん、本当にお疲れ様でした。これからも ESD の普及のために、私たちとともに戦っ
てください。
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