医法研 被験者の健康被害補償に関するガイドライン 改 訂 日 : 2009年 11月 25日 本ガイドラインの目的 本ガイドラインは、治験に起因して被験者に健康被害が発生し、その健康被害に関して 被験者がだれにも賠償責任を問うことができない場合(賠償責任が明らかでない場合を含 む 。) に 、 治 験 依 頼 者 が 被 験 者 を 救 済 す る た め の ガ イ ド ラ イ ン で あ る 。 治験依頼者は、本ガイドラインを参考にして自社の補償制度を文書にて定め、その制度 にしたがって対応する。 【解説】 1. 賠 償 責 任 と 補 償 責 任 「 賠 償 」と は 、主 に 不 法 行 為( 故 意・過 失 )又 は 債 務 不 履 行 に よ っ て 他 人 に 損 害 を 与 え た 場 合 に 、そ の 損 害 を 填 補 す る こ と を い う 。民 法 で は 、故 意 又 は 過 失 に よ り 他 人 の 権 利 を 侵 害 し た 場 合( 不 法 行 為 )と 、債 務 を 履 行 し な か っ た 場 合( 債 務 不 履 行 )の 損 害 の 賠 償 責 任 に つ い て そ れ ぞ れ 定 め ら れ て い る ( 第 709 条 、 第 415 条 ) 。 こ れ に 対 し「 補 償 」と は 、一 般 に 故 意・過 失 や 債 務 不 履 行 が な く て も 、法 規 等 に 基 づ き、他人に発生した損害を填補することをいう。 「 賠 償 」は 、故 意・過 失 又 は 債 務 不 履 行 に よ り「 通 常 発 生 す る 損 害 」が 填 補 の 対 象 と な る の で 、財 産 的 損 害 の ほ か に も 逸 失 利 益 や 精 神 的 損 害( 慰 謝 料 )な ど も 対 象 に な り 得 る 。こ れ に 対 し「 補 償 」は 、実 際 に 発 生 し た 損 害 を そ の ま ま 填 補 す る の で は な く 、補 償 す る 側 が 予 め 定 め ら れ た 基 準 に 基 づ き 填 補 す る の が 一 般 的 で あ り 、逸 失 利 益 や 慰 謝 料 は 通常、対象にはならない。 発生原因 賠償責任 補償責任 不法行為や債務不履 行によって発生 根拠法 民 法・PL 法( 注 ) 対 象 通常発生する損害が対象 (個人差あり) 不法行為や債務不履 特別法に基づく 予め定められた基準に基 行がなくても発生 場合が多い づく(一律・定額) ( 注 )製 造 物 責 任 法( PL 法 )は 製 造 者 の 過 失 の 代 わ り に 製 造 物 の 欠 陥 を 要 件 と す る 賠償責任を定めている。 2. 治 験 依 頼 者 に お け る 補 償 制 度 の 整 備 GCP 省 令 の 施 行 以 来 、 治 験 に 起 因 し て 被 験 者 に 健 康 被 害 が 発 生 し た 場 合 で 、 治 験 依 頼 者 、実 施 医 療 機 関 な ど の 当 事 者 に 故 意・過 失 又 は 債 務 不 履 行 が 認 め ら れ な い 場 合 、つ ま り 賠 償 責 任 が な い 場 合 ( 賠 償 責 任 が 明 ら か で な い 場 合 を 含 む 。 ) に は 、 GCP 省 令 第 14 条 に 基 づ き 、 治 験 依 頼 者 が 補 償 責 任 を 負 う と 認 識 さ れ て い る 。 し か し 、 他 の 分 野 に お い て 補 償 責 任 が 負 わ さ れ る の は 特 別 法 に 基 づ く 場 合 が 多 く 、補 償 の 内 容・方 法 は 当 該 特 別 法 に 定 め ら れ て い る の が 一 般 的 で あ る( 例 え ば 、医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 は 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 法 に 基 づ く 制 度 で あ り 、健 康 被 害 の 程 度 に 応 じ て 補 償 内 容 、特 に 被 害者に支給される金額が具体的に定められている)。 6 し か し 、GCP 省 令 (第 14 条 )の 運 用 通 知 で は 、「 被 験 者 の 損 失 を 適 切 に 補 償 す る こ と 」 と定めているだけで、具体的にどう補償すればよいのかについては一切定めていない。 そ の 現 状 に 鑑 み て 、本 ガ イ ド ラ イ ン は 治 験 に お い て 治 験 依 頼 者 が 補 償 を 行 う 場 合 の 具 体 的 な 内 容 を 定 め 、一 つ の 目 安 と し て 提 示 す る も の で あ る 。治 験 依 頼 者 は 本 ガ イ ド ラ イ ンを参考にして自社の補償制度を文書で定めておくことが重要である。 た だ し 、必 ず 本 ガ イ ド ラ イ ン の 内 容 で 補 償 し な け れ ば な ら な い と い う こ と で は な い こ と に 留 意 さ れ た い 。補 償 の 内 容 は 、被 験 者 の 承 諾 を 得 ら れ る 水 準 で 治 験 依 頼 者 が 自 ら 設 定 す れ ば よ い し 、全 て の 治 験 で 同 じ 水 準 の 補 償 の 内 容 を 設 定 す る よ り も 、治 験 に よ っ て 異 な る は ず の 、治 験 自 体 の ベ ネ フ ィ ッ ト( ア ン メ ッ ト・メ デ ィ カ ル・ニ ー ズ が 高 い か 否 か な ど )と リ ス ク( 副 作 用 の 発 現 頻 度 や 重 篤 度 な ど )や 、被 験 者 の リ ス ク( 軽 症 か 重 症 か な ど )な ど を 考 慮 し て 、治 験 実 施 計 画 書 ご と に 補 償 の 内 容 や 範 囲 を 設 定 す る こ と が よ り望ましい。 な お 、健 康 被 害 が 治 験 依 頼 者 又 は 実 施 医 療 機 関 い ず れ か の 故 意・過 失 又 は 債 務 不 履 行 に 起 因 す る こ と が 明 ら か な 場 合 に は 、賠 償 の 案 件 と し て 民 事 責 任 ル ー ル に 則 っ て 対 処 す る必要がある。 治 験 に 起 因 し て 発 生 し た 被 験 者 の 健 康 被 害 に 対 し 、治 験 依 頼 者 が 予 め 定 め た 補 償 制 度 に 従 っ て 対 応 す る た め に は 、実 施 医 療 機 関 を 通 じ て 治 験 の 開 始 前 に 補 償 制 度 に つ い て 被 験者に十分説明して理解を得ておくことが重要である。 医 法 研 平 成 19 年 ・ 20 年 度 特 別 研 究 部 会 ( 以 下 「医 法 研 特 研 」と い う 。 ) が 、 平 成 20 年 3 月 に 医 法 研 の 登 録 企 業 を 対 象 に 実 施 し た 補 償 に 関 す る 実 態 調 査( 以 下「 医 法 研 特 研 に よ る 補 償 実 態 調 査 」と い う 。)で は 、必 ず し も す べ て の 被 験 者 に 対 し て 補 償 制 度 が 具 体 的 に 説 明 さ れ て い な い 現 状 が 窺 え た が 、被 験 者 が 補 償 制 度 に つ い て 十 分 理 解 し て い な い 場 合 に 健 康 被 害 が 発 生 し た と き は 、補 償 に つ い て 被 験 者 側 と ト ラ ブ ル に な る お そ れ が あ る 。こ の よ う な 事 態 を 避 け る た め に も 、治 験 に 際 し て 、補 償 制 度 に つ い て 詳 細 に 記 載 し た「 補 償 の 概 要 」な ど の 文 書 を 作 成 し 、同 意 説 明 文 書 と と も に 被 験 者 に 必 ず 渡 す こ と を実施医療機関との間で明確に合意するなどの措置を講じておくことが望ましい。 7 1. 補 償 の 原 則 1− 1 治 験 依 頼 者 は 、治 験 に 起 因 し て 被 験 者 に 健 康 被 害 が あ っ た 場 合 は 、治 験 依 頼 者 に 賠 償責任が無くとも自ら定めた補償制度にしたがって補償する。 【解説】 治 験 に 起 因 し て 被 験 者 に 健 康 被 害 が 生 じ 、だ れ に も 法 的 責 任( 賠 償 責 任 )を 問 う こ と が で き な い 場 合( 賠 償 責 任 が 明 ら か で な い 場 合 を 含 む 。)に は 、治 験 と 被 験 者 の 健 康 被 害 と の 間 に 因 果 関 係 が あ れ ば ( 否 定 で き な い も の を 含 む 。)、 治 験 依 頼 者 が 自 ら 定 め た 補 償 制 度 に 従って被験者を救済する趣旨である。なお、治験依頼者は、自己に賠償責任があることが 明らかな場合には、被験者の主張・立証を待つことなく、進んで賠償責任を果たすべきで ある。 補 償 責 任 に つ い て は 、 GCP 省 令 第 1 条 ( 趣 旨 )、 第 14 条 ( 被 験 者 に 対 す る 補 償 措 置 )、 第 51 条( 説 明 文 書 )、並 び に そ の 運 用 通 知 、臨 床 試 験 の 一 般 指 針( 平 成 10 年 4 月 21 日 付 医 薬 審 第 380 号 ) を 参 照 の こ と 。 1− 2 本ガイドラインの補償は、被験者の損害賠償請求権を妨げるものではない。 【解説】 本 ガ イ ド ラ イ ン に よ る 補 償 額 に 不 服 が あ る 場 合 又 は 賠 償 責 任 を 問 う 場 合 に は 、被 験 者 は 通常の民事責任ルールを使い損害賠償請求権を行使することができる。この場合、損害賠 償の主張責任や立証責任が被験者にあることは当然である。 1− 3 治 験 依 頼 者 は 、健 康 被 害 が 治 験 薬 及 び 治 験 目 的 の た め に 治 験 実 施 計 画 書 で 使 用 す る ことを定めた薬剤投与に因るもの、治験実施計画書に定めた臨床上の介入、又は手 順に因るものであれば、その蓋然性も考慮の上補償する。 【解説】 例 え ば 、通 常 の 治 療 で あ れ ば 検 査 は し な い が 治 験 目 的 に よ り 検 査 が 加 わ っ た 場 合 で 、そ の 際 の 健 康 被 害 の よ う に 治 験 実 施 計 画 書 に 定 め る 特 別 な 検 査( 内 視 鏡 検 査 、画 像 検 査 な ど ) による健康被害、あるいは同意取得後、治験薬投与前の観察期間中の健康被害にあっても 中 に は 補 償 す る の が 当 然 と 思 わ れ る よ う な 事 案 も 生 じ る こ と が 考 え ら れ る 。 本 項 は GCP の趣旨に鑑み被験者を救済する意味で置くものであり、ある意味では被験者救済のための 包括的、一般的な規定である。 な お 、治 験 実 施 計 画 書 で 使 用 す る こ と を 定 め た 薬 剤 と し て は 、併 用 禁 止 薬 の 代 替 薬 、副 作用予防薬、併用薬、治験薬無効の場合の救済薬などが考えられる。 1− 4 補 償 の 内 容 は 、同 一 の 治 験 実 施 計 画 書 に お い て 一 律 と す る 。た だ し 、補 償 の 内 容 及 び範囲は、治験特性を考慮し、事前に治験実施計画書毎に設定することができる。 【解説】 同 一 の 治 験 実 施 計 画 書 に お い て は 、施 設 間 又 は 被 験 者 間 に よ っ て 補 償 の 内 容 は 異 な っ て はいけない。施設間又は被験者間によって補償の内容が異なることがないよう一律の補償 内容で対応する必要がある。ただし、補償の内容及び範囲については、実施する治験の特 8 性を考慮のうえ設定する必要があるため、治験実施計画書毎に予め設定することができる ものとする。 9 2. 補 償 の 対 象 と な ら な い 場 合 2− 1 機 会 原 因( 治 験 中 で な く と も 起 き た で あ ろ う 偶 発 的 な 事 故 原 因 )に 起 因 す る も の は 、 補償の対象とならない。 【解説】 機 会 原 因 と は 、治 験 中 で 無 く と も 起 き た で あ ろ う 偶 発 的 な 事 故 原 因 を い う 。例 え ば 、治 験のための通院中に暴走車にはねられたといった交通事故に遭った場合の被害原因や、入 院中に出された病院給食により食中毒に罹患した場合の被害原因が相当する。これらにあ っては、原因者(前者の場合は運行管理責任者、後者の場合は給食業者)の賠償責任の問 題である。 2− 2 治験依頼者及び実施医療機関の責に帰すべき場合は、補償の対象とならない。 【解説】 被 験 者 に 生 じ た 健 康 被 害 が 、治 験 依 頼 者 や 実 施 医 療 機 関( 治 験 責 任 医 師 を は じ め と す る 治 験 ス タ ッ フ を 含 む 。)の 責 に 帰 す べ き 場 合 、す な わ ち 、こ れ ら の 者 の い ず れ か に 故 意 も し くは過失、又は債務不履行がありこれにより発生した場合には、当該原因者の賠償責任の 問題となり、治験依頼者の補償問題とはならない。 2− 3 第三者の違法行為又は不履行に因るものは、補償の対象とならない。 【解説】 こ こ で い う 第 三 者 と は 、治 験 依 頼 者 、実 施 医 療 機 関( 治 験 責 任 医 師 を は じ め と す る 治 験 ス タ ッ フ を 含 む 。)及 び 被 験 者 を 除 い た 者 を い う 。第 三 者 の 違 法 行 為 又 は 不 履 行 に よ り 被 験 者に健康被害が生じた場合には、当該第三者が賠償責任を負うべきであるから、治験依頼 者には賠償責任はもちろんのこと補償責任も生じない。 2− 4 治 験 と 健 康 被 害 と の 因 果 関 係 が 否 定 さ れ る 場 合 は 、補 償 の 対 象 と な ら な い 。因 果 関 係の否定は、治験依頼者の責務とする。立証の程度は、合理的に否定できればよい ( 証 拠 の 優 越 で 足 る : preponderance of evidence で よ い )。 【解説】 補 償 責 任 は 絶 対 責 任 で は な い の で 、治 験 と 健 康 被 害 と の 間 に 因 果 関 係 が な け れ ば 補 償 し ない。 民 法 上 、 不 法 行 為 に 基 づ く 損 害 賠 償 に お い て は 、「 損 害 が 発 生 し て い る こ と 」、「 加 害 者 に 過 失 が あ っ た こ と 」、「 加 害 者 の 過 失 と 損 害 の 発 生 に 因 果 関 係 が あ る こ と 」 を 被 害 者 の 側 が立証しなければならない。 こ れ に 対 し 、 治 験 の 補 償 に お い て は 、「 損 害 が 発 生 し て い る こ と 」 と 「 治 験 と 損 害 の 発 生に因果関係があること」を明らかにする必要がある(治験依頼者に過失がないことが前 提 で あ る 。も し あ れ ば 補 償 で は な く 賠 償 の 問 題 に な る 。)が 、こ の う ち「 因 果 関 係 の 証 明 等 に つ い て 被 験 者 に 負 担 を 課 す こ と が な い よ う に す る こ と 」 を GCP は 求 め て い る 。 こ の た め有害事象が発現して補償の問題が発生した場合は、治験依頼者側が治験責任医師らの意 見を参考にして治験との因果関係の有無を判断することになるが、治験依頼者が因果関係 10 を認める場合はともかく、因果関係を認めない、すなわち「補償をしない」と決定する場 合は、治験依頼者が因果関係のないことを立証しなければならない。 因果関係がないと考えられる事例 ① 他の因果関係が明確に説明できる事例 ② 治験薬投与と有害事象との間の時間的関連性に無理がある場合 ③ その他非合理的な場合 2− 5 被験者自身の故意によって生じた健康被害は、補償の対象とならない。 【解説】 例 え ば 、被 験 者 が 自 殺 を 企 図 し て 一 度 に 大 量 の 治 験 薬 を 服 用 し た こ と に よ り 健 康 被 害 が 発生したような場合は、自殺企図が治験薬の副作用等に起因する場合を除き、補償の対象 にはならない。故意もしくは過失、又は副作用等による行為かの判断は、個別事案ごとに 判断することになる。 11 3. 補 償 を 制 限 す る 場 合 3− 1 薬剤の予期した効果又はその他の利益を提供できなかった場合(例:効能不発揮) は、原則として補償しない。 【解説】 効能不発揮や原疾患(対象疾患)の悪化に伴う申出には、原則として補償しない。 医療行為そのものが可能な限り最善の治療行為に努めるという「手段債務」であって、 治癒という結果を保証する「結果債務」ではないからである。 「 原 則 と し て 」の 趣 旨 は 、例 え ば 、治 験 開 始 時 点 よ り 症 状 が 悪 化 し た 場 合 で 、本 ガ イ ド ラ イ ン 1− 3 に 該 当 す る で あ ろ う と い っ た 事 案 に あ っ て は 、 補 償 を 検 討 し な け れ ば な ら な いという趣旨である。 3− 2 プ ラ セ ボ を 投 与 し た 被 験 者 に 治 療 上 の 利 益 を 提 供 で き な か っ た と し て も 、原 則 と し て補償しない。 【解説】 こ こ で い う プ ラ セ ボ と は 、被 験 薬 の 有 効 成 分 を 含 ま な い 擬 似 薬 の こ と で あ る の で 治 療 上 の 利 益 は な い ( プ ラ セ ボ 効 果 は 除 く )。 た だ し 、プ ラ セ ボ を 飲 ん だ 被 験 者 に 生 じ た 健 康 被 害 が 必 ず し も 補 償 の 対 象 外 で あ る と い う意味ではない。例えば、観察期間、ウォッシュアウト中のプラセボ投与の場合、被験者 の症状が治験開始前の推移より明らかに悪化し救済措置が必要な場合などにおいては、治 験 実 施 計 画 書 を 遵 守 し て 実 施 さ れ た こ と を 確 認 の 上 、 そ の 健 康 被 害 が 本 ガ イ ド ラ イ ン 1-3 の「治験実施計画書に定めた臨床上の介入、又は手順に因るもの」に該当するか否かによ って補償を判断することになる。 3− 3 被 験 者 の 重 大 な 過 失 に よ り 発 生 し た 健 康 被 害 に 対 し て は 、補 償 額 を 減 じ る か 又 は 補 償しない。 【解説】 賠 償 責 任 に お け る 過 失 責 任 主 義 の 観 点 に 立 て ば 、健 康 被 害 が 被 験 者 の 過 失 に 起 因 す る 場 合には、原因者である被験者自身も応分の責任を負担することが公平である。しかし、被 験者保護の観点から軽過失の場合は被験者の責任を問うべきではなく、被験者に重大な過 失がある場合に限り補償額の一部又は全部を減額するべきである。なお、重大な過失かど うかの判断は、個別事案ごとに判断することになる。 12 4. 補 償 の 内 容 ( 補 償 基 準 ) 4− 1 健 康 人 を 対 象 と す る 治 験 ( 患 者 に メ リ ッ ト の な い 治 験 を 含 む 。) と 患 者 を 対 象 と す る 治 験 に 分 け て 対 応 す る 。 補 償 の 内 容 は 、 原 則 と し て 「 医 療 費 」、「 医 療 手 当 」 及 び 「補償金」とする。 4− 1− 1 医療費:治験に起因して健康被害が生じた場合は、医療費を支払う。 ・・・健康人を対象とする治験にあっては、健康保険使用の有無を問わず、被験者の自己 負担額を治験依頼者が負担する。 ・・・患者を対象とする治験にあっては、健康保険等からの給付を除いた被験者の自己負 担額を治験依頼者が負担する。 【解説】 1. 健 康 人 を 対 象 と す る 治 験 の 場 合 、 治 験 実 施 施 設 以 外 で 治 療 を 受 け た 場 合 、 健 康 保 険 を 使 用 す る ケ ー ス も 考 え ら れ る た め 、健 康 保 険 使 用 の 有 無 を 問 わ ず 、被 験 者 の 自 己 負 担 分 を治験依頼者が負担するということにした。 2. 患 者 を 対 象 と す る 治 験 の 場 合 、 健 康 保 険 等 か ら の 給 付 を 除 い た 被 験 者 の 自 己 負 担 額 を 治 験 依 頼 者 が 負 担 す る と い う こ と に し た 。患 者 を 対 象 と す る 治 験 に お け る 医 療 費 支 払 方 法についての留意点を以下に記載した。 ① 医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 で は 、文 書 料 、差 額 ベ ッ ド 料( 特 別 室 使 用 料 )等 の 保 険 外 医 療 費 は 給 付 の 対 象 と さ れ て い な い 。文 書 料 、差 額 ベ ッ ド 料 の 扱 い を 含 め て 、健 康 被 害 補 償 に お け る 医 療 費 の 対 象 と な る 範 囲 を 予 め 自 社 の 補 償 制 度 で 定 め て お き 、補 償 の 概要に記載しておくこと。 ②健康被害の治療が入院を必要とし、さらに治療費が高額療養費の対象となる場合は、 被 験 者 の 一 時 的 立 替 え の 費 用 負 担 を 軽 減 す る 観 点 か ら 、被 験 者 に 限 度 額 適 用 認 定 証 の 申 請 を 行 っ て い た だ く よ う 、医 療 機 関 を 通 じ て 、お 願 い す る こ と( 参 考 資 料 1 参 照 )。 ③ 健 康 被 害 の 治 療 費 に つ い て 、被 験 者 か ら 提 出 さ れ る 領 収 書( コ ピ ー )の み で は 原 疾 患 の 治 療 費 と の 切 分 け が 困 難 な 場 合 、医 療 機 関 へ 健 康 被 害 の 治 療 代 を 確 認 で き る 資 料 を 発 行 し て も ら う よ う( 必 要 に 応 じ て 被 験 者 を 通 じ て )依 頼 す る こ と( 参 考 資 料 2 参 照 )。 ④ 上 記 対 応 が 困 難 な 場 合 は 、み な し 支 払 い 対 応 が で き な い か 、医 療 機 関 を 通 じ て 被 験 者 と 協 議 す る こ と ( 参 考 資 料 2 参 照 )。 ⑤ 被 験 者 が 公 費 負 担 医 療 制 度 の 適 用 を 受 け て い る 場 合 、健 康 被 害 の 治 療 費 に つ い て も 公 費 の 現 物 給 付 を 受 け る こ と が 可 能 か 否 か 、医 療 機 関 を 通 じ て 確 認 す る こ と 。可 能 で あ る場合、被験者が医療機関の窓口で支払う自己負担額を後償還する。 ⑥ 上 記 の 場 合 で 、公 費 の 現 物 給 付 で は な く 医 療 機 関 の 窓 口 で 支 払 っ た 医 療 費 の う ち 、自 己 負 担 額 を 除 い た 金 額 が 後 償 還 さ れ る 、い わ ゆ る 現 金 給 付 の 場 合 、医 療 機 関 領 収 書 の 自 己 負 担 額 に か か わ ら ず 、自 治 体 ご と に 定 め ら れ た 自 己 負 担 額 を 依 頼 者 が 負 担 す る こ とについて、医療機関を通じて被験者と協議すること。 13 4− 1− 2 医療手当:治験に起因して健康被害が生じた場合で、入院を必要とするような 健康被害にあっては、医薬品副作用被害救済制度の給付を参考に、医療手当を支払 う。 【解説】 医 療 手 当 は 、「 病 院 往 復 の 交 通 費 、 入 院 に 伴 う 諸 雑 費 を み る 」 と い う 趣 旨 で 支 払 う 。 支 払 い 額 は 、医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 の 給 付 額 に 準 じ て 設 定 す る 。必 ず し も 、医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 の 給 付 額 の 改 訂 に 合 わ せ て 変 更 す る 必 要 は な い が 、適 宜 見 直 し は 行 う 。 ただし、同一治験及び同一条件では、同一額とする。 ま た 、治 験 に 起 因 し た 健 康 被 害 で あ っ て 、治 験 実 施 計 画 書 で 予 め 規 定 さ れ て い な い 通 院 ( 例 え ば 、患 者 を 対 象 と し た 治 験 で は 被 験 者 負 担 軽 減 費 が 支 給 さ れ な い 通 院 な ど 。)に よ る 治療が必要な場合、その病院往復の交通費を補償対象とするかは、予め自社の補償制度で 定めておき、補償の概要に記載しておくこと。 4− 1− 3 補 償 金:治 験 に 起 因 し て 死 亡 又 は 後 遺 障 害 が 生 じ た 場 合 は 、次 の と お り と す る 。 ・・・健 康 人 を 対 象 と す る 治 験 に あ っ て は 、労 働 者 災 害 補 償 保 険( 以 下 、 「 労 災 保 険 」と い う 。) 又 は 予 防 接 種 健 康 被 害 救 済 制 度 ( 一 類 疾 病 ) を 参 考 に 補 償 金 を 一 括 で 支 払 う 。 ・ ・患者を対象とする治験にあっては、医薬品副作用被害救済制度の救済給付を参考に 補償金を一括で支払う。 【解説】 1. 健 康 人 を 対 象 と す る 治 験 の 補 償 金 医 法 研 特 研 に よ る 補 償 実 態 調 査 の 結 果 で は 、回 答 し た 会 社 の ほ と ん ど が 健 康 人 を 対 象 と す る 治 験 で は 労 災 保 険 を 参 考 に 自 社 の 補 償 制 度 を 定 め て い る も の の 、運 用 に つ い て の 理 解 は 各 社 各 様 で あ っ た 。一 方 、医 法 研 特 研 で は 、治 験 へ の 参 加 メ リ ッ ト が あ る 患 者 を 対 象 と す る 治 験 よ り も 、精 神 的 満 足 以 外 に メ リ ッ ト が 少 な い 健 康 人 を 対 象 と す る 治 験 で 手 厚 く 補 償 す る と い う 本 ガ イ ド ラ イ ン の 趣 旨 が 、必 ず し も 補 償 内 容( 基 準 )に 反 映 さ れ て い な か っ た と い う 意 見 が 多 数 を 占 め た が 、見 直 し に あ た っ て は 、従 前 の 労 災 保 険 制 度 を 含 む 国 の 制 度 を 参 考 に 、補 償 内 容( 基 準 )を 設 定 す べ き と の 意 見 も あ っ た 。こ れ ら の 検 討 結 果 か ら 、以 下 の と お り 、運 用 方 法 を 明 示 す る こ と と し た 。も ち ろ ん 、こ の 内 容 で 補償しなければならないということではないことに留意されたい。 ① 従 前 と お り 、労 災 保 険 を 参 考 に し て 、補 償 金( 障 害 補 償 金 、遺 族 補 償 金 、休 業 補 償 金 、 葬 祭 料 ) を 一 括 で 支 払 う 場 合 は 、「 民 事 損 害 賠 償 が 行 わ れ た 際 の 労 災 保 険 給 付 の 支 給 調 整 に 関 す る 基 準 」 を 参 考 と す る ( 参 考 資 料 3 参 照 )。 ② 後 遺 障 害 や 死 亡 に 対 す る 補 償 金 に 関 し て 、患 者 を 対 象 と す る 治 験 よ り も 健 康 人 を 対 象 と す る 治 験 で 手 厚 く 設 定 さ れ て い る こ と を 明 確 に し た い 、あ る い は 、算 定 方 法 を 簡 略 化 し た い と い う 場 合 、予 防 接 種 健 康 被 害 救 済 制 度 を 参 考 と し て も よ い こ と と す る 。予 防 接 種 法 施 行 令 で 定 め る( 一 類 疾 病 に 係 る 定 期 の 予 防 接 種 等 に 係 る )後 遺 障 害 又 は 死 亡 時 の 給 付 の 水 準 は 、患 者 を 対 象 と す る 治 験 で 参 考 と す る 医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 の 給 付 の 水 準 の 約 1.8 倍 と な っ て い る ( 参 考 資 料 4 及 び 8 参 照 )。 14 2. 患 者 を 対 象 と す る 治 験 の 補 償 金 患 者 を 対 象 と す る 治 験 で は 、医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 に 定 め る 1 級 、2 級 を 対 象 と したことで、3 級以下に対する補償を制限しているとの指摘があるが、同制度が採用し た後遺障害の認定基準は「国民年金」のそれであり、1 級、2 級は、少なくとも、労災 保 険 の 第 5 級 ま で の 後 遺 障 害 を カ バ ー し て い る 。し か し 、本 ガ イ ド ラ イ ン の 補 償 基 準 は 、 GCP を 踏 ま え 、 治 験 を 開 始 す る に あ た っ て 治 験 依 頼 者 が お お よ そ の 目 安 と し て 参 考 に で き る よ う 示 し た も の で あ り 、 当 然 、 治 験 実 施 計 画 書 の 内 容 に よ っ て は 、 4− 2 で 示 す よ う に 、補 償 金 が 制 限 さ れ る 場 合 も あ る し 、ま た 、上 乗 せ を 考 慮 し た 方 が よ い 場 合 も あ ろ う 。患 者 を 対 象 と す る 治 験 に あ っ て は 、以 下 を 参 考 に 、治 験 実 施 計 画 書 の 内 容 に よ っ て補償の内容を検討することが望ましい。 ①患者を対象とする治験では、従前とおり、医薬品副作用被害救済制度を参考にして、 補償金(1 級、2 級に対する障害補償金、死亡に対する遺族補償金・葬祭料)を一括 で 支 払 う ( 参 考 資 料 5 参 照 )。 ② た だ し 、 補 償 金 の 制 限 を 行 う 妥 当 性 が あ る と 治 験 依 頼 者 が 判 断 す る 治 験 ( 例 は 4− 2 の 解 説 参 照 ) に あ っ て は 、 4− 2 に 従 っ て 補 償 金 を 制 限 す る 。 ③ 一 方 、例 え ば 、市 場 に あ る 薬 剤 に 対 す る 治 療 満 足 度 の 高 い 薬 剤 等 の 治 験 で 、医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 で 定 め る 1 級 、2 級 よ り も 下 位 の 後 遺 障 害 ま で 補 償 を 行 う 方 が よ い と治験依頼者が判断する場合にあっては、補償の範囲を拡大する。 な お 、補 償 の 範 囲 を 拡 大 す る た め の 基 準 と し て 、予 防 接 種 法 施 行 令 で 定 め る( 一 類 疾 病 に 係 る 定 期 の 予 防 接 種 等 に 係 る )後 遺 障 害 の 3 級 ま で 補 償 の 範 囲 を 拡 げ る こ と は 検 討 に 値 す る 。医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 と 予 防 接 種 健 康 被 害 救 済 制 度 の そ れ ぞ れ の 障 害 等 級 の 認 定 基 準 、あ る い は 等 級 間 の 給 付 額 の 違 い は 、い ず れ も 国 民 年 金・( 旧 )厚 生 年 金 保険制度に準じており、治験補償にあっては、これらの共通点が 1 級、2 級より下位の 後 遺 障 害 を 認 定 す る 場 合 や 補 償 額 を 算 定 す る 場 合 に 応 用 可 能 で あ る( 参 考 資 料 6 参 照 )。 4− 2 被 験 者 が 受 け 入 れ 得 る 危 険 の 度 合 い に よ る が 、次 の 要 因 が 考 慮 さ れ る と き は 、補 償 金を減じるか又は補償しない。 ・・・疾患の重度、副作用が起こり得る蓋然性、及び何らかの警告が与えられ、被験者又 は代諾者の同意を得ていること。 ・・・治験薬の危険性と効用に関し、現在確立している治療法の危険性と効用を比較衡量 し有用性が勝る場合で、被験者又は代諾者の同意を得ていること。 【解説】 被 験 者 の 状 況 に よ っ て は 、被 験 者 又 は 代 諾 者 の 同 意 を 得 て い る こ と 前 提 に 、補 償 額 や 補 償範囲において柔軟な対応が認められる場合がある。例えば、救急救命時の治療や予後不 良の疾患などで、明らかに分かっている副作用の危険性を警告されてもなおかつ治験に参 加することが患者にとって利益が大であると思われれば、患者や家族は危険を受け入れ治 験に参加する。 こ の よ う な 被 験 者 の 権 利 は 認 め ら れ る べ き で あ る し 、被 験 者 又 は 代 諾 者 が 高 度 の 危 険 を 受け入れた上で治験に参加した場合、警告された副作用の発生に対しては補償を求めない のは当然のことと考えられる。 15 し た が っ て 、こ の よ う な ケ ー ス に お け る 治 験 の 補 償 に あ っ て は 、治 療 費( 医 療 費 、医 療 手当)のみ治験依頼者が負担する(補償金は支払わない)という対応もある。また、予め 当 該 治 験 に お け る 補 償 金 の 金 額 を 通 常 の 治 験 よ り 減 額 す る 方 法 も あ る 。こ れ ら の 場 合 は「 補 償の概要」にその旨を記載し、被験者又は代諾者の同意を取得する際に補償の範囲を十分 説明することが重要である。 な お 、治 験 内 容 に 応 じ て 補 償 額 を 制 限 す る こ と の 同 意 取 得 は 、GCP 省 令 第 51 条 第 2 項 の規定に違反するものではない。 4− 3 特別な試験、試験薬の扱い。 4− 3− 1 製造販売後臨床試験において、市販薬を投与したことによる健康被害について は 原 則 と し て 補 償 し な い ( 医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 の 給 付 申 請 の 対 象 で あ る )。 【解説】 市 販 薬 に よ る 健 康 被 害 は 、医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 の 給 付 対 象 で あ る た め 、補 償 対 象 としなくても、被験者に対する補償措置は講じられているといえる。ただし、市販薬を用 いた場合でも、実施計画書に定めた臨床上の介入又は手順に因る健康被害が発生する可能 性があるため、下記の点を考慮しておく必要がある。なお、医薬品副作用被害救済制度の 給付対象か否かについて判断がつかない又は難しいといった場合には、被験者救済の観点 から補償対応することを検討するべきである。 ①臨床介入、手順等による健康被害に対する補償 ②医薬品副作用被害救済制度では給付対象とならない通院で治療した場合の医療費等 ③ 医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 の 給 付 申 請 に よ り 給 付 が 受 け ら れ な い 場 合 で あ っ て 、か つ 依 頼者により因果関係が否定できない健康被害についての補償 一 方 、白 ラ ベ ル 品 (白 箱 )の 場 合 は 、医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 の 給 付 対 象 外 で あ る の で 、 通常の治験薬における補償と同様の対応とする。 4− 3− 2 抗がん剤、免疫抑制剤の扱い。 ・・・抗がん剤、免疫抑制剤は、その他の薬剤とは別に対処する。その場合、薬剤や対象 疾患の特性、被験者の受ける便益や負担するリスク等を評価した上で、治験実施計 画書毎に補償基準を定めるべきである。 【解説】 抗 が ん 剤 の よ う な 治 療 比 の 低 い 薬 剤 の 治 験 の 補 償 に あ っ て は 、原 則 と し て 、医 療 費 、医 療手当のみを治験依頼者が支払うことでよい。抗がん剤等のように治療比の低い薬剤は、 他の医薬品と同列には論じられないからである。 た だ し 、抗 が ん 剤 の 中 に は 、ホ ル モ ン 療 法 剤 の よ う に 医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 の 対 象 除外医薬品リストに掲載されないものもある。また、放射線療法や外科手術療法などの局 所治療後に再発予防目的で使用される薬剤もあることから、抗がん剤、免疫抑制剤である ことを理由に、一様に、治療費(医療費、医療手当)のみ負担し、補償金は支払わないと することは必ずしも適切な補償対応とはいえない。 16 し た が っ て 、薬 剤 や 対 象 疾 患 の 特 性 、被 験 者 の 便 益 、リ ス ク 等 を 評 価 し た 上 で 、治 験 実 施 計 画 書 毎 に 補 償 基 準 を 定 め る べ き で あ る ( 参 考 資 料 7 参 照 )。 な お 、 そ の 際 、「 補 償 の 概 要」に補償基準を記載し、被験者又は代諾者に補償内容を十分説明し、その同意を得るこ と が 必 須 で あ る こ と は 、 4− 2【 解 説 】 と 同 様 で あ る 。 4− 3− 3 ワクチン(健康人を対象とする予防接種薬)の扱い。 ・・・医療費は、健康保険使用の有無を問わず、被験者の自己負担額を治験依頼者が負担 する。 ・・・医療手当、補償金は、原則として患者を対象とする治験と同様とする。 【解説】 1999 年 3 月 公 表 の 「 被 験 者 の 補 償 に 関 す る ガ イ ド ラ イ ン 」( 以 下 、「 旧 ガ イ ド ラ イ ン 」 と い う 。) で は 、「 特 別 な 場 合 ( ex. 抗 が ん 剤 と し て の 治 験 ) を 除 き ワ ク チ ン は 本 ガ イ ド ラ イ ン を 適 用 す る 。」と し て い た が 、本 ガ イ ド ラ イ ン で は 、ワ ク チ ン の 補 償 制 度 を 明 確 に す る ために独立した項目とすることとした。なお、この項での「ワクチン」は「健康人を対象 とした予防接種薬」を指すこととする。 ワ ク チ ン の 治 験 に お い て は 、被 験 者 に 将 来 に お け る 医 療 上 の メ リ ッ ト が あ る と 推 測 さ れ 、 被験者もそのメリットを期待して治験に参加する。そのため通常の健康人ボランティア対 象の臨床薬理試験とは異なる補償制度とすることは妥当性があると考えた。 1. 医 療 費 対 象 が 健 康 人 で あ る た め 、健 康 保 険 使 用 の 有 無 を 問 わ ず 被 験 者 の 自 己 負 担 額 を 依 頼 者 が負担することとする。 2. 医 療 手 当 ・ 補 償 金 ・ワ ク チ ン の 治 験 で は 、原 則 と し て 、通 常 の 患 者 対 象 治 験 と 同 様 の 補 償 制 度 を 使 用 す る 。 ・予 防 接 種 法 一 類 疾 病 を 対 象 と す る ワ ク チ ン の 治 験 に お け る 医 療 手 当 と 補 償 金 の 範 囲 及 び 金 額 は 、「 予 防 接 種 法 施 行 令 で 定 め る ( 一 類 疾 病 に 係 る 定 期 の 予 防 接 種 に 係 る ) 補 償基準」 ( 以 下「 予 防 接 種 健 康 被 害 救 済 制 度 一 類 疾 病 」と い う 。)を 参 考 と す る こ と を 原則とする。 本 ガ イ ド ラ イ ン で は 、患 者 対 象 治 験 の 補 償 内 容 は 既 承 認 薬 の 公 的 補 償 制 度 で あ る 医 薬 品 副作用被害救済制度の救済給付を参考にしており、ワクチンの場合にも同給付を使用でき るかどうかを検討した。表に示すように、既承認ワクチンの補償制度においては、定期の 予防接種法一類疾病以外は全て医薬品副作用被害救済制度と同じ内容の救済制度が適用さ れている。したがって、ワクチン治験における医療手当、補償金は患者対象治験と同様と することは妥当性がある。 た だ し 、予 防 接 種 法 一 類 疾 病 を 対 象 と す る 治 験 に つ い て は 、既 承 認 薬 の 健 康 被 害 で 給 付 される額を下回る補償金を設定することは好ましくなく、被験者の不利益を避けるために も 医 療 手 当 、補 償 金 は 予 防 接 種 健 康 被 害 救 済 制 度 一 類 疾 病 を 参 考 と す る こ と を 原 則 と す る 。 な お 、上 記 の 点 を 検 討 し 、予 め 治 験 実 施 計 画 書 ご と に 補 償 内 容 や 範 囲 を 明 確 に し て お く こととする。 表 に 医 療 手 当 及 び 補 償 金( 遺 族 補 償・障 害 補 償 )に 関 し て 、ワ ク チ ン が 適 用 さ れ る 公 的 補 償 制 度 で あ る 「 予 防 接 種 健 康 被 害 救 済 制 度 」、「 生 物 由 来 製 品 感 染 等 被 害 救 済 制 度 」、「 医 17 薬品副作用被害救済制度」の支給内容及び本ガイドラインにおけるワクチン治験の補償内 容の対比を示した。 表 ワクチン(既承認薬、治験薬)の補償制度及び補償内容 (医療手当、補償金) 対象疾病と健康被害 による分類 補償内容 適用される補償制度 既承認ワクチンの補償制度 医療手当 補償金(遺族、障害) 入院を必要としない通 院のみの健康被害につ いても支給 (医薬品副 作用被害救済制度より 手厚い) 医薬品副作用被害救済 制度とは異なる (同制 度より手厚い) 入院を必要とする程度 の健康被害のみに支給 (医薬品副作用被害救 済制度と同様) 医薬品副作用被害救済 制度と同様 ワクチン治験の補 償制度︵本GL︶ 予防接種法一類疾病 〔 注 〕( 定 期 接 種 ) 予防接種健康被害救 済制度一類疾病 予防接種法二類疾病 (定期接種) 予防接種健康被害救 済制度二類疾病 任意接種における感 染 生物由来製品感染等 被害救済制度 任意接種における感 染以外の健康被害 医薬品副作用被害救 済制度 予防接種法一類疾病 以外 患者対象治験の補償 制度(医薬品副作用 副被害救済制度) 入院を必要とする程度 の健康被害のみに支払 う 患者対象治験の補償制 度( 医 薬 品 副 作 用 副 被 害 救済制度)と同様 予防接種法一類疾病 予防接種健康被害救 済制度一類疾病 入院を必要としない通 院のみの健康被害につ いても支払う 範 囲 ・金 額 と も 予 防 接 種 健康被害救済制度一類 疾病と同様 〔 注 〕: 一 類 疾 病 : ジ フ テ リ ア 、 百 日 せ き 、 急 性 灰 白 髄 炎 ( ポ リ オ )、 麻 し ん 、 風 し ん 、 日 本脳炎、破傷風、結核 上記では健康人を対象とした予防薬としてのワクチンの補償制度について記載した が 、現 在 の ワ ク チ ン 製 剤 は そ れ 以 外 の 目 的 と し て 開 発 さ れ て い る ワ ク チ ン も あ る 。そ れ らの補償制度は、以下の制度を参考とすること。 1. 治 療 を 目 的 と し た ワ ク チ ン 対 象 ががん患 者 であれば抗 がん剤 の補 償 制 度 を用 いる。それ以 外 のいわゆる一 般 的 な疾 患 の治 療 であれば、通 常 の患 者 対 象 治 験 の補 償 制 度 を用 いる。 2. あ る 特 定 な 疾 患 を 持 っ た 患 者 が 対 象 で 、 予 防 効 果 を 目 的 と し た ワ ク チ ン 患者対象治験の補償制度を用いる。 18 5. 補 償 の 支 払 い に 対 す る 原 則 5− 1 治 験 依 頼 者 は 、補 償 責 任 が 明 ら か に な っ た 段 階 で 、責 務 を 果 た す 。補 償 適 用 範 囲 は 、 治験参加の同意取得から発生した健康被害とする。 【解説】 補 償 責 任 の 有 無 は 、有 害 事 象 や 副 作 用 報 告 を 受 け た 治 験 依 頼 者 が 自 ら の 判 断 で ま ず 行 い 、 必要な責務を果たす。 補 償 制 度 が 適 用 開 始 さ れ る の は 、治 験 に 起 因 す る 健 康 被 害 が 発 生 し う る 時 点 か ら で あ る 。 具体的には、被験者が治験への参加を同意した時点からであり、同意以降に発生した治験 に 起 因 し た 健 康 被 害( ス ク リ ー ニ ン グ 検 査 、観 察 期 の 治 療 介 入 を 含 む 。)は 、補 償 制 度 の 対 象となる。 5− 2 医 療 費 、医 療 手 当 は 、被 験 者 救 済 の 観 点 か ら「 治 験 と 健 康 被 害 の 間 の 因 果 関 係 に 合 理的な可能性があり、少なくとも因果関係を否定できないと判定したとき」に速や かに支払いを開始する。後に治験との因果関係が否定された場合は、その時点で補 償の対象外とする。 【解説】 治験依頼者が因果関係を判定するために必要な情報を入手するには労力と時間が必要 である。しかし、医療費、医療手当の支払にあっては、健康被害について早期に被験者を 救 済 す る 趣 旨 か ら 、十 分 な 情 報 が 揃 う ま で 因 果 関 係 の 判 定 を 留 保 す る こ と は 望 ま し く な い 。 そこで、補償請求の時点での情報をもとに暫定的に因果関係の判定を行い、否定されなけ れば医療費、医療手当の支払を速やかに開始する。 医 療 費 、医 療 手 当 の 支 払 を 開 始 し た 後 に 因 果 関 係 が 否 定 さ れ た 場 合 に は 、当 然 、補 償 対 象から除外されることになる。例えば、因果関係が否定されないとの判定に基づき、医療 費、医療手当の支払が開始されてもその後に因果関係が否定されたときは、その時点で医 療費、医療手当の支払は終了し、補償の対象外となる。 こ の よ う な 場 合 に 備 え て 、治 験 依 頼 者 は 、医 療 費 、医 療 手 当 の 支 払 開 始 時 に「 補 償 の 支 払を開始しても後に因果関係が否定された場合には、その時点で補償対象外となる」こと を実施医療機関及び被験者に説明しておくことが重要である。 5− 3 補 償 金 は 、因 果 関 係 の 判 定 に 必 要 な 情 報 が そ ろ っ た 後 に 改 め て 判 定 を 行 い 、補 償 に 関わる委員会等で補償の要否を検討する。 【解説】 補 償 金 の 支 払 決 定 に 係 る 因 果 関 係 及 び 障 害 等 級 等 の 必 要 な 情 報 に 基 づ き 、治 験 依 頼 者 は 、 専門家(例えば、医師、弁護士等)を加えた委員会等により補償の要否を検討する。 19 6. 治 験 依 頼 者 の 補 償 に 不 服 の 申 出 が あ っ た 場 合 6− 1 治 験 依 頼 者 は 、被 験 者 側 の 同 意 を 得 て 中 立 的 な 第 三 者 の 判 定 を 求 め る も の と し 、双 方これを尊重する。判定に要する費用は治験依頼者の負担とする。 【解説】 治 験 依 頼 者 の 補 償 に 不 服 の 申 し 出 が あ っ た 場 合 、中 立 的 な 第 三 者 の 判 定 を 求 め る 必 要 が あるが、その判定を第三者に依頼するにあたり、被験者側に不利益がないよう、被験者側 の同意を得たうえで依頼するべきである。中立的な第三者としては、医学・薬学・法律学 の外部専門家などが考えられる。 審査内容は、主として因果関係の判定及び障害等級に限られよう。 6− 2 中立的な第三者の判定に不服がある場合は、通常の民事責任ルールに拠る。 【解説】 中立的な第三者の判定に不服があれば、民事責任ルール(裁判)による解決となる。 補 償 責 任 で あ る 性 質 上 、金 額 面 で は 一 律 で あ る 。金 額 面 で 不 服 が あ る 場 合 は 、通 常 の 民 事責任ルールで処理することになる。 6− 3 中立的な第三者は、賠償責任問題には関与しない。 【解説】 賠 償 問 題 に つ い て は 、民 事 責 任 ル ー ル に 拠 る こ と に な る の で 、補 償 責 任 を 問 題 と す る 本 ガイドラインは関与しないこととする。 以上 20 【 参 考 資 料 1】健 康 被 害 の 治 療 費 が 高 額 療 養 費 の 対 象 と な る 場 合 の 限 度 額 適 用 認 定証の申請について 被験者が病院の窓口又は院外の薬局で支払った自己負担分を、高額療養費制度の自己 負 担 限 度 額 を 上 限 と し て 治 験 依 頼 者 が 事 後 に 支 払 う 方 法 ( 以 下 「 後 償 還 方 式 」 と い う 。) に対しては、 「 被 験 者 に 治 療 費 の 立 替 え を 負 担 さ せ る こ と は 好 ま し く な い 」又 は「 治 験 依 頼者が被験者の口座に直接振込む方法は個人情報取扱いの観点より問題がある」との実 施医療機関側の意見がある。このような医療機関では、健康被害の治療費を被験者には 請求せずに被験者の自己負担額に相当する金額を治験依頼者へ請求する、すなわち、治 験 実 施 医 療 機 関 へ 直 接 支 払 う 方 法( 以 下「 直 接 支 払 方 式 」と い う 。)を 求 め る 場 合 が 多 い ようである。 し か し 、被 験 者 に 一 時 的 立 替 え が 生 じ な い こ の「 直 接 支 払 方 式 」に つ い て は 、 「補償を 受けていることを知らされていなかった」という被験者からのクレームが後々生じるこ と も 懸 念 さ れ る 。治 験 依 頼 時 の 医 療 機 関 と の 協 議 に お い て 、 「 直 接 支 払 方 式 」に よ る 医 療 費 支 払 と な る こ と が 判 明 し て い る 場 合 は 、ト ラ ブ ル を 未 然 に 防 ぐ た め に も 、そ の 旨 を「 補 償の概要」に記載し、同意取得時に説明しておく必要がある。また、実際に「直接支払 方 式 」に よ る 医 療 費 支 払 を 行 な う 場 合 も 、被 験 者 の 同 意 を 得 た 上 で 対 応 す る 必 要 が あ る 。 治 験 補 償 に お け る 医 療 費 支 払 に 関 し て は 、鍋 岡 等 1 が 、治 験 依 頼 者 に よ る「 後 償 還 方 式 」 と治験実施医療機関から治験依頼者への「直接請求方式」のメリット及びデメリットを 表 1 の よ う に ま と め て い る 。そ し て 、い ず れ の 支 払 方 法 も 高 額 療 養 費 制 度 を 利 用 す る 上 で問題があるとした上で、限度額適用認定証の利用によって両者の支払方法における問 題が一挙に解決する可能性があることを示した。 表 1 治験依頼者による「後償還方式」と治験実施医療機関から治験依頼者への「直接請 求方式」のメリット及びデメリット 医療費の 支払方法 メリット デメリット ・被験者の請求に基づく支 払であるため、個人情報 後償還 方式 の開示に対する同意が得 られやすい ・被 験 者 か ら 提 出 さ れ る 領 収 書 で は 、原 疾 患の治療費との切分けが困難 ・高 額 療 養 費 を 利 用 す る 場 合 、還 付 さ れ る ・被験者の自己負担額を後 償還するため、高額療養 ま で の 期 間 、高 額 な 立 替 が 被 験 者 に 生 じ る 費の利用が可能 ・被験者の一時的立替えが 直接請求 方式 必要ない 費が利用(申請)できない ・被験者が振込口座など個 人情報を開示する必要が 1 ・被 験 者 が 自 己 負 担 し な い の で 、高 額 療 養 ・被 験 者 の 同 意 に 基 づ く 請 求 か 否 か が 不 明 な場合がある 鍋岡勇造、中野隆夫、内川泰雄「治験における健康被害補償‐第二回:医療費支払における問題点 と 展 望 ‐ 」『 PHARM STAGE』 Vol.8, No.5 2008 p.72‐ 75( 技 術 情 報 協 会 ) 21 ない ・治 験 実 施 施 設 の み 対 応 可 能 な の で 、転 院 ・原疾患の治療費と切分け すると後償還方式に当然変わる 可能である 表 1 に示されるように、医療費が高額となった場合に利用できる高額療養費制度は、 請 求 し て か ら 支 給 さ れ る ま で に 約 3 ヶ 月 程 度 か か る た め 、治 験 依 頼 者 か ら 被 験 者 へ の「 後 償還方式」の医療費支払には、被験者が高額な医療費を長期間負担しなければならない というトラブル要因が存在する。このような高額な医療費を高額療養費が還付されるま での期間無利子で融資する公的制度として「高額医療費等貸付事業」があるが、高額療 養 費 支 給 見 込 額 の 8 割 相 当 額 程 度 し か 融 資 が 受 け ら れ ず 、 ま た 、 貸 付 ま で に 2∼ 3 週 間 かかること等から利用率は低迷している。 一方、表 1 の「直接請求方式」とは前述の治験実施医療機関へ直接支払う「直接支払 方式」と同じ意味であるが、限度額適用認定証の利用ができるまでは、高額療養費の還 付が自己負担に対する事後の現金給付を原則としていたため、自己負担のない「直接支 払方式」では、そもそも高額療養費が申請できない可能性があり、医療費が高額となっ た場合、治験依頼者が負担しなければならないという大きな問題が存在した。 以 上 の と お り 、健 康 被 害 の 治 療 費 が 高 額 と な る 場 合 に あ っ て は 、 「 後 償 還 方 式 」も「 直 接 支 払 方 式 」も 高 額 療 養 費 制 度 を 利 用 す る 上 で の 大 き な 問 題 を 有 し て い る と 考 え ら れ た 。 し か し 、 平 成 19 年 度 4 月 か ら は 、 保 険 者 よ り 「 限 度 額 適 用 認 定 証 」 が 発 行 さ れ る こ ととなった。入院を伴う治療が行われる場合には、被験者に「限度額適用認定証」を利 用していただくことで高額療養費に関わる上記の問題の解決が可能である。 従って、患者を対象とする治験において、万一健康被害が生じ入院治療が必要となっ た 場 合 は 、被 験 者 に 対 し て 、 「 限 度 額 適 用 認 定 証 」の 申 請 を 行 っ て い た だ く よ う 被 験 者 へ 手渡す補償制度の概要に明記しておくとともに、治験事務局等を通じて、誠意を持って お願いすることで、 「 高 額 療 養 費 制 度 を 利 用 で き な い 」も し く は「 被 験 者 が 高 額 な 医 療 費 を数ヶ月間立替えなければならない」という「直接支払方式」又は「後償還方式」のデ メリットが解消できると考えられる。 ただし、 「 限 度 額 適 用 認 定 証 」の 申 請 者 は 被 保 険 者 自 身 で あ る の で 、治 験 補 償 に お い て 「限度額適用認定証」を利用することについては被験者の理解と同意が必要であること は言うまでもない。 22 【 参 考 資 料 2】 健 康 被 害 と 原 疾 患 の 治 療 費 と の 切 分 け に つ い て 参 考 資 料 1 で 説 明 し た よ う に 、健 康 被 害 補 償 に お け る 医 療 費 支 払 で 最 も 重 要 な 問 題 は 、 健康被害の治療費が高額となった場合に、いかに被験者の一時的立替えの費用負担を軽 減するかであり、その解決方法として限度額適用認定証の利用が考えられた。 次 に 問 題 な の が 、表 1 に も 示 さ れ た よ う に 、治 験 に お い て 新 た に 発 現 し た 健 康 被 害 の 治療費と原疾患や合併症の治療費の切り分けの問題である。 治験依頼者から実施医療機関への「直接支払方式」では、実施医療機関が健康被害の 治 療 費 の 実 費 を 請 求 い た だ く 限 り 問 題 と は な ら な い 。し か し 、 「 直 接 支 払 方 式 」は 治 験 実 施施設のみ対応可能なので健康被害の治療が転院して他院で行われた場合には利用が困 難となる。一方、治験依頼者から被験者への「後償還方式」では、健康被害の治療と原 疾患等の治療が同一外来日あるいは同一入院期間中に行われると領収書(明細書)上で は両者の区別が困難な場合がある。特に、実施医療機関の領収明細書が診療科ごとに分 けて発行されない場合、原疾患等の治療費が含まれていても判別することは不可能であ る。また、領収明細書が診療科ごとに分けて発行される場合であっても原疾患や合併症 の治療を行う診療科で健康被害の治療が行われる場合も両者の切り分けは困難となる。 以上のような場合、治験依頼者は、健康被害の治療代を確認できる資料を実施医療機 関から発行してもらうよう(必要に応じて被験者を通じて)依頼する必要があろう。 しかし、何らかの事情によってこれも困難な場合は、みなし支払い対応ができないか 実施医療機関を通じて被験者と協議する必要がある。例えば、健康被害の治療における 薬剤費が少額であり、検査料・画像診断料がメインである場合等では、原疾患の治療に おける検査料・画像診断料を含めて治験依頼者が支払うことには合理性があり、被験者 の利益が損なわれる恐れも小さいことから、被験者の同意も得やすいと考えられる。 23 【 参 考 資 料 3】 労 災 保 険 給 付 を 参 考 に 補 償 金 を 支 払 う 方 法 医法研特研による補償実態調査の結果では、回答した会社のほとんどが健康人を対象 とする治験では労災保険を参考に自社の補償制度を定めているものの、運用面では対応 が各社各様であり、改善を求める声が多かったことから、医法研特研では、問題点を整 理した上で、治験補償という性格に即した運用方法を例示するべきとの考えに至った。 も ち ろ ん 、こ の 内 容 で 補 償 し な け れ ば な ら な い と い う こ と で は な い こ と に 留 意 さ れ た い 。 被験者の理解を得られやすいと治験依頼者が考える水準で自ら設定すればよいし、別途 説明する予防接種健康被害救済制度を参考に補償金を一括で払う方法を参考としてもよ い。 表 2、 3 及 び 4 に 示 し た よ う に 、 国 が 行 う 業 務 ( 通 勤 ) 災 害 補 償 に は 、 労 災 保 険 か ら の「保険給付」と労働福祉事業の一つとして行われる「特別支給金」があり、両者を合 わ せ て 17 種 類 に 及 ぶ 様 々 な 給 付 が あ る の で 、 医 法 研 特 研 に よ る 補 償 実 態 調 査 に 回 答 し た 製 薬 各 社 か ら は 、 自 社 の 補 償 制 度 を 定 め る 際 に 17 種 類 の 給 付 の う ち の ど れ を 補 償 金 として支払うこととすれば良いか判らない等といった意見が多く出されている。また、 表 5 及 び 6 に 示 し た よ う に 、労 災 保 険 に は 、労 働 者 が 死 亡 し た 場 合 の 遺 族 年 金 、遺 族 一 時 金 の 受 給 資 格 者 に は 年 齢 の 制 限 が あ り 、妻 以 外 の 遺 族 で は 18 歳 か ら 55 歳 ま で の 稼 得 期間にある場合、受給権者あるいは遺族の人数に加えられないこととなっている点につ いても改善を求める声が少なくない。 そこで、労災保険を参考に健康人を対象とした治験の補償金を支払う場合の留意点を 述べた上で、労災保険を参考に健康人を対象とした治験の補償基準を定める方法を解説 する。 【留意点】 1. 労 災 保 険 制 度 で は 、 民 事 損 害 賠 償 が 行 わ れ た 際 の 労 災 保 険 給 付 の 支 給 調 整 に 関 す る基準が定められており、業務(通勤)災害補償における労働者の後遺障害時又は 死亡時における逸失利益の算定には以下の式が用いられている。なお、同基準では 「新ホフマン係数」が用いられているが、最近の裁判事例等に基づき「ライプニッ ツ係数」を本参考資料では示す。 <参考:業務(通勤)災害補償における逸失利益の算定式> 後 遺 障 害 時:給 付 基 礎 日 額 × 365 日 × 労 働 能 力 逸 失 率 × 就 労 可 能 年 数 に 対 応 す る新ホフマン係数 死亡時 : ( 給 付 基 礎 日 額 × 365 日 − 労 働 者 本 人 の 生 活 費 2 )× 就 労 可 能 年 数 に対応する新ホフマン係数 2. 労 災 保 険 の 遺 族 年 金 等 の 受 給 資 格 要 件 ( 表 5 及 び 6 参 照 ) の う ち 年 齢 制 限 及 び 生 計維持の要件は、健康人を対象とする治験に適用させることは合理的ではないと判 断される。 2 給 付 基 礎 日 額 ×365 日 の 35% 24 3. 健 康 保 険 の 被 保 険 者 で は な い 学 生 や 非 正 規 労 働 者 が ボ ラ ン テ ィ ア 参 加 す る こ と が 多い健康人を対象とする治験では、健康被害の治療中に被験者が健康保険からの傷 病 手 当 金 3を 受 け ら れ な い こ と を 考 慮 し て 、 休 業 補 償 金 を 支 払 う こ と を 原 則 と す る 。 4. 業 務 ( 通 勤 ) 災 害 補 償 の 「 保 険 給 付 」 か ら は 、 障 害 (補 償 )年 金 又 は 傷 病 (補 償 )年 金 受 給 者 の う ち 第 1 級 の 者 の す べ て 又 は 第 2 級 の 者 の う ち 精 神・神 経 の 障 害 及 び 胸 腹 部臓器の障害の者であって、現に介護を受けているときは介護補償給付が行われて いる。健康人を対象とした治験においても、後遺障害の症状固定時に職業的介護又 は親族等による常時介護又は随時介護を受ける場合、労災保険を参考にして介護補 償金を支払うかについて、予め自社の補償制度で定めておき、補償の概要に記載し ておく。 【労災保険で定める逸失利益の計算方法を準用する方法】 以下、労災保険で定める逸失利益の計算方法を準用した健康人を対象とする治験の 補償額の算定方法を例示するので参考にされたい。なお、旧ガイドラインでは、算定 式のベースとなる日額として、年齢に応じて労災保険で定められている最高給付基礎 日額を用いていたが、若年者で少額となってしまう点に問題があった。この点を考慮 した上で、年齢にかかわらず一定の基礎日額を用いたい場合は、厚生労働省で集計す る賃金構造基本統計調査の全労働者における「きまって支給する現金給与額」と「年 間 賞 与 そ の 他 特 別 給 与 額 」の 合 計 額( 以 下 、 「賃金センサス表の賞与を含めた全労働者 の 平 均 給 与 」と い う 。)か ら 求 め た 給 与 日 額 を 障 害 補 償 金 、遺 族 補 償 金 、葬 祭 料 及 び 休 業補償金算定の基礎日額として使用するのがよい。 1. 障 害 補 償 金 症 状 固 定 時 に 被 験 者 に 労 災 保 険 で 定 め る 第 1 級 ∼ 第 14 級 の 後 遺 障 害 が 生 じ た 場 合、労災保険における逸失利益の算定式の考え方を参考にして、上記給与日額の 365 日 分 に 労 災 保 険 で 各 障 害 等 級 に 応 じ て 定 め ら れ た 労 働 能 力 逸 失 率 を か け 、 さ ら に 健 康 被 害 発 生 時 の 法 定 金 利( 5% )に 基 づ く 現 価 係 数( 平 均 余 命 に 対 応 す る ラ イプニッツ係数)をかけて障害補償金を一括で支払う。 障害補償金 = 基 礎 日 額 ※ × 365 × 労 働 能 力 逸 失 率 × 現 価 係 数 ※「賃金センサス表の賞与を含めた全労働者の平均給与」から求めた給与日額 2. 遺 族 補 償 金 被験者が死亡した場合、労災保険における逸失利益の算定式の考え方を参考に し て 、 被 験 者 と 生 計 を 同 じ く し て い た 遺 族 に 対 し て 、 上 記 給 与 日 額 の 365 日 分 か ら 被 験 者 本 人 の 生 活 費( 給 与 日 額 の 365 日 分 の 35% )を 控 除 し た 金 額 に 法 定 金 利 ( 5% ) に 基 づ く 死 亡 時 の 現 価 係 数 ( 就 労 可 能 年 数 に 対 応 す る ラ イ プ ニ ッ ツ 係 数 ) をかけて遺族補償金を一括で支払う。この場合、遺族の人数及び生計維持関係は 問わないものとする。 3 被保険者が病気やけがで休業した場合に支給される法定給付で、標準報酬日額の三分の二が支給さ れる。 25 遺族補償金 = 基 礎 日 額 ※ × 365 ×( 1− 0.35) × 現 価 係 数 ※「賃金センサス表の賞与を含めた全労働者の平均給与」から求めた給与日額 3. 葬 祭 料 被 験 者 が 死 亡 し た 場 合 、葬 祭 を 執 り 行 う 人 に 葬 祭 料 を 支 払 う 。上 記 給 付 日 額 の 30 日 分 に 315,000 円 を 加 え た 額 と 、 給 付 日 額 の 60 日 分 の 額 の ど ち ら か 多 い 額 を 一 括 で支払う。 葬 祭 料 = 基 礎 日 額 ※ × 30 日 + 315,000 円 ま た は 基 礎 日 額 ×60 日 分 ※「賃金センサス表の全労働者の平均給与」から求めた給与日額 4. 休 業 補 償 金 療養により働くことができないために賃金を受けられない場合(通院も含まれ る )、 か つ 、 次 の 三 つ の 条 件 の 全 て を 備 え て い る 場 合 、 傷 病 前 の 就 労 状 況 を 考 慮 の 上、症状固定までの間、上記給付日額に休業日数(又は通院日数)をかけて休業補 償金を支払う。ただし、後遺障害に対する障害補償金を支払った場合は、その日以 降の休業補償金は支払わない。 ま た 、労 災 保 険 で は 、被 災 後 の 3 日 間 は 休 業 補 償 さ れ な い が 、治 験 補 償 で は 健 康 被害発現日を休業補償の開始日とすることも考慮する。 1) 治 験 に 起 因 す る 健 康 被 害 に よ り 療 養 し て い る こ と 4 2) そ の 療 養 の た め に 労 働 す る こ と が で き な い こ と 5 3) 労 働 す る こ と が で き な い た め 賃 金 を 受 け て い な い こ と 休業補償金 = 基礎日額※ × 休業日数(又は通院日数) ※「賃金センサス表の賞与を含めた全労働者の平均給与」から求めた給与日額 5. 介 護 補 償 金 健康人を対象とした治験において、後遺障害の症状固定時に労災保険で定める 「常時又は随時介護を要する障害の状態」に該当する場合は、労災保険で定める職 業的常時又は随時介護の場合の一月あたり介護費用の上限額に、健康被害発生時の 法 定 金 利 ( 5% ) に 基 づ く 現 価 係 数 ( 平 均 余 命 に 対 応 す る ラ イ プ ニ ッ ツ 係 数 ) を か けて介護補償金を一括で支払う。 常時介護の場合 : 労災保険で定められている一月あたりの常時介護費用の 上限額 随時介護の場合 : 労災保険で定められている一月あたりの随時介護費用の 上限額 4 5 × 12 × 現 価 係 数 × 12 × 現 価 係 数 「 療 養 」と は 、原 則 と し て 健 康 被 害 に よ る 傷 病 に つ い て 、医 師 又 は 歯 科 医 師 等 の 診 療 又 は 指 導 を 受 け ていることをいう。 「 労 働 す る こ と が で き な い 」と は 、一 般 的 に 労 働 で き な い 状 態 を い い 、必 ず し も 傷 病 前 に 従 事 し て い た労働ができないものに限るものではない。したがって、療養中に軽作業なら就労しうる場合には、 これにあたらない。 26 表2 (参考)後遺障害に対して行われる労災保険 休業 (補 償 ) 給付 療養のため労働することができず賃金を受けられないときは、休業 4 日目から、 休 業 1 日 に つ き 給 付 基 礎 日 額 の 60%相 当 額 が 給 付 さ れ る 。 療 養 開 始 後 1 年 6 ヶ 月 を 経 過 し た 日 又 は 同 日 後 に お い て 障 害 (補 償 )年 金 又 は 傷 病 (補 償 )年 金 が 支 払 わ れ る 場 合 に は 、 給 付 は 終 了 さ れ る 。 障害 (補 償 ) 年金 傷病が治った後に障害等級第 1 級から第 7 級までに該当する障害が残ったとき は 、 障 害 の 程 度 に 応 じ 、 給 付 基 礎 日 額 の 313 日 分 か ら 131 日 分 の 年 金 が 給 付 さ れる。 障害 (補 償 ) 一時金 傷 病 が 治 っ た 後 に 障 害 等 級 第 8 級 か ら 第 14 級 ま で に 該 当 す る 障 害 が 残 っ た と き は 、障 害 の 程 度 に 応 じ 、給 付 基 礎 日 額 の 503 日 分 か ら 56 日 分 の 一 時 金 が 給 付 さ れる。 傷病 (補 償 ) 年金 療養開始後 1 年 6 ヶ月を経過した日又は同日後において傷病が治っておらず、 かつ、傷病による障害の程度が傷病等級第 1 級から第 3 級に該当するときは、 障 害 の 程 度 に 応 じ 、給 付 基 礎 日 額 の 313 日 分 か ら 245 日 分 の 年 金 が 給 付 さ れ る 。 障 害 (補 償 )年 金 又 は 傷 病 (補 償 )年 金 受 給 者 の う ち 第 1 級 の 者 の す べ て 又 は 第 2 級 の 者 の う ち 精 神・神 経 の 障 害 及 び 胸 腹 部 臓 器 の 障 害 の 者 で あ っ て 、現 に 介 護 を 受 けているときは、月を単位として以下の金額が給付される。 ( ア ) 常 時 介 護 の 場 合 ( ① 障 害 等 級 第 1 級 3・ 4 号 又 は 傷 病 等 級 第 1 級 1・ 2 号 に該当する者、②①と同程度の介護を要する者) a)民間の有料の介護サービスなどを利用している場合、介護の費用とし て 支 出 し た 額 ( 104,960 円 を 上 限 と す る ) 介護 (補 償 ) 給付 b)親族等により介護を受けており介護費用を支出していないか、支出し た 額 が 56,930 円 を 下 回 る 場 合 は 56,930 円 。 ( イ )随 時 介 護 の 場 合( ① 精 神 神 経・胸 腹 部 臓 器 に 障 害 を 残 し 、随 時 介 護 を 要 す る 障 害 等 級 第 2 級 2・ 3 号 又 は 傷 病 等 級 第 2 級 1・ 2 号 に 該 当 す る 者 、 ② 障害等級第 1 級又は傷病等級第 1 級に該当する者で、常時介護を要する 状態ではない者) c)民間の有料の介護サービスなどを利用している場合、介護の費用とし て 支 出 し た 額 ( 52,480 円 を 上 限 と す る ) d)親族等により介護を受けており介護費用を支出していないか、支出し た 額 が 28,470 円 を 下 回 る 場 合 は 28,470 円 。 27 表3 (参考)死亡に対して行われる労災保険 遺族 (補 償 ) 年金 遺 族 の 数 等 に 応 じ 、 給 付 基 礎 日 額 の 245 日 分 か ら 153 日 分 の 年 金 が 給 付 さ れ る。受給資格者は、表 5 のとおりであるが、この表の最先順位者が受給権者 で あ り 、複 数 の 場 合 、遺 族 (補 償 )年 金 は 等 分 さ れ る 。そ の 他 の 者 は 受 給 資 格 者 として遺族の数に加算される。 表 5 の 受 給 資 格 者 に 該 当 し な い 場 合 、遺 族 (補 償 )年 金 は 給 付 さ れ な い が 、表 6 の 遺 族 に 該 当 す る 場 合 は 、次 項 の「 遺 族 (補 償 )一 時 金 」が 最 先 順 位 者 に 給 付 さ れる。 遺族 (補 償 ) 一時金 遺 族 (補 償 )年 金 を 受 け 得 る 遺 族 が い な い 場 合 で 、か つ 、表 6 の 受 給 資 格 者 に 該 当 す る 場 合 は 、給 付 基 礎 日 額 の 1000 日 分 の 一 時 金( た だ し 、表 5 に 該 当 し た 受給資格者がすべて失権し、既に支給された年金及び前払一時金の合計額が 給 付 基 礎 日 額 の 1000 日 分 に 満 た な い 場 合 は 、す で に 支 給 し た 年 金 の 合 計 額 を 差し引いた額)が給付される。 葬祭料 (葬 祭 給付) 死 亡 し た 方 の 葬 祭 を 行 う と き は 、315,000 円 に 給 付 基 礎 日 額 の 30 日 分 を 加 え た 額 ( そ の 額 が 給 付 基 礎 日 額 の 60 日 分 に 満 た な い 場 合 は 、 給 付 基 礎 日 額 の 60 日 分 ) が 給 付 さ れ る 。 28 表4 (参考)労働福祉事業として行われる特別支給金 ① 休業特別 支給金 療養のため賃金を受けられない日の第 4 日目から支給される特別給付金(休 業 1 日 に つ き 給 付 基 礎 日 額 の 20%相 当 額 ) で 、 休 業 (補 償 )給 付 の 上 乗 せ 的 性 格として労働福祉事業の一環として給付される。 療 養 開 始 後 1 年 6 ヶ 月 を 経 過 し た 日 又 は 同 日 後 に お い て 障 害 (補 償 )年 金 又 は 傷 病 (補 償 )年 金 が 支 払 わ れ る 場 合 に は 、 給 付 は 終 了 さ れ る 。 ② 障害特別 支給金 傷 病 が 治 っ た 後 に 障 害 等 級 第 1 級 か ら 第 14 級 ま で に 該 当 す る 障 害 が 残 っ た と き は 、 障 害 の 程 度 に 応 じ 、 342 万 円 か ら 8 万 円 ま で の 一 時 金 が 給 付 さ れ る 。 ③ 傷病特別 支給金 療養開始後 1 年 6 ヶ月を経過した日又は同日後において傷病が治っておらず、 か つ 、傷 病 に よ る 障 害 の 程 度 が 傷 病 等 級 第 1 級 か ら 第 3 級 に 該 当 す る と き は 、 障 害 の 程 度 に 応 じ 114 万 円 か ら 100 万 円 ま で の 一 時 金 が 給 付 さ れ る 。 ④ 遺族特別 支給金 死 亡 し た と き は 、表 4 の 遺 族 (補 償 )年 金 の 受 給 資 格 者 、又 は 表 5 の 遺 族 (補 償 ) 一 時 金 の 受 給 資 格 者 に 該 当 す る 場 合 、 遺 族 の 数 に か か わ ら ず 、 一 律 300 万 円 が給付される。 ⑤ 障害特別 年金 傷病が治った後に障害等級第 1 級から第 7 級までに該当する障害が残ったと き は 、 障 害 の 程 度 に 応 じ 、 算 定 基 礎 日 額 の 313 日 分 か ら 131 日 分 の 年 金 が 給 付される。 ⑥ 障害特別 一時金 傷 病 が 治 っ た 後 に 障 害 等 級 第 8 級 か ら 第 14 級 ま で に 該 当 す る 障 害 が 残 っ た と き は 、障 害 の 程 度 に 応 じ 、算 定 基 礎 日 額 の 503 日 分 か ら 56 日 分 の 一 時 金 が 給 付される。 ⑦ 傷病特別 年金 療養開始後 1 年 6 ヶ月を経過した日又は同日後において傷病が治っておらず、 か つ 、傷 病 に よ る 障 害 の 程 度 が 傷 病 等 級 第 1 級 か ら 第 3 級 に 該 当 す る と き は 、 障 害 の 程 度 に 応 じ 算 定 基 礎 日 額 の 313 日 分 か ら 245 日 分 の 年 金 が 給 付 さ れ る。 ⑧ 遺族特別 年金 ⑨ 遺族特別 一時金 遺 族 の 数 等 に 応 じ 、算 定 基 礎 日 額 の 245 日 分 か ら 153 日 分 の 年 金 が 給 付 さ れ る 。 受 給 資 格 者 は 、 表 5 の 遺 族 (補 償 )年 金 の 場 合 に 準 じ る 。 表 5 の受給資格者に該当しない場合、遺族特別年金は給付されないが、表 6 の遺族に該当する場合は、次項の「遺族特別一時金」が最先順位者に給付さ れる。 遺族(補償)年金を受け得る遺族がいない場合で、かつ、表 6 の受給資格者 に 該 当 す る 場 合 は 、算 定 基 礎 日 額 の 1000 日 分 の 一 時 金( た だ し 、表 5 に 該 当 した受給資格者がすべて失権し、既に支給された年金及び前払一時金の合計 額 が 給 付 基 礎 日 額 の 1000 日 分 に 満 た な い 場 合 は 、す で に 支 給 し た 特 別 年 金 の 合計額を差し引いた額)が給付される。 29 表5 ( 参 考 ) 労 災 保 険 に お け る 遺 族 (補 償 )年 金 の 受 給 資 格 者 及 び 最 優 先 順 位 ① 妻 、 又 は 、 60 歳 以 上 も し く は 一 定 の 障 害 の あ る 夫 ② 18 歳 に 達 す る 日 以 後 の 最 初 の 3 月 31 日 ま で の 間 に あ る 子 又 は 一 定 の 障 害 の あ る 子 ③ 60 歳 以 上 も し く は 一 定 の 障 害 の あ る 父 母 ④ 18 歳 に 達 す る 日 以 後 の 最 初 の 3 月 31 日 ま で の 間 に あ る 孫 又 は 一 定 の 障 害 の あ る 孫 ⑤ 60 歳 以 上 も し く は 一 定 の 障 害 の あ る 祖 父 母 ⑥ 18 歳 に 達 す る 日 以 後 の 最 初 の 3 月 31 日 ま で の 間 に あ る が 、も し く は 60 歳 以 上 又 は 一定の障害のある兄弟姉妹 ⑦ 55 歳 以 上 60 歳 未 満 の 夫 ( 一 定 の 障 害 の あ る 人 を 除 く ) ⑧ 55 歳 以 上 60 歳 未 満 の 父 母 ( 同 上 ) ⑨ 55 歳 以 上 60 歳 未 満 の 祖 父 母 ( 同 上 ) ⑩ 55 歳 以 上 60 歳 未 満 の 兄 弟 姉 妹 ( 同 上 ) 表 6 ( 参 考 ) 労 災 保 険 に お け る 遺 族 (補 償 )一 時 金 の 受 給 資 格 者 及 び 最 優 先 順 位 ( 1) ① 配 偶 者 ( 2) 労 働 者 の 死 亡 当 時 そ の 収 入 に よ っ て 生 計 を 維持していた右の人 ( 3) 上 記 ( 2) に 該 当 し な い 右 の 人 ( 4) ⑩ 兄 弟 姉 妹 30 ② ⑤ ⑥ ⑨ 子 ③ 父母 祖父母 子 ⑦ 父母 祖父母 ④ 孫 ⑧ 孫 【 参 考 資 料 4】予 防 接 種 健 康 被 害 救 済 制 度 を 参 考 に 補 償 金 を 支 払 う 方 法 に つ い て 旧ガイドラインでは、 「健康人を対象とした治験にあっては労災保険を参考に補償金を 支 払 う 」と 規 定 さ れ て い た が 、本 ガ イ ド ラ イ ン で は 、 「健康人を対象とした治験にあって は労災保険又は予防接種健康被害救済制度を参考に補償金を支払う」と改め、健康人を 対象とした治験の場合、従前の労災保険に代わり、予防接種健康被害救済制度を参考に することも可能となるよう修正を行った。 これは、医法研特研による補償実態調査の結果において、回答した会社のほとんどが 健康人を対象とする治験では労災保険を参考に自社の補償制度を定めているものの、運 用面では対応が各社各様であるといった意見や、治験への参加メリットがある患者を対 象とする治験よりも、精神的満足以外にメリットが少ない健康人を対象とする治験で手 厚く補償するという本ガイドラインの趣旨が必ずしも補償内容(基準)に反映されてい ない、あるいは、準用すべき補償基準は従前とおり、国が行っている補償制度を参考に すべきといった医法研特研の意見に対する措置である。 何故、健康人を対象とする治験では、労災保険に代わり、予防接種健康被害救済制度 を参考にしてもよいとしたかについては以下の 3 つの理由が挙げられる。 第一の理由は、患者を対象とする治験で補償基準設定の参考にした医薬品副作用被害 救 済 制 度 が 設 立 当 時 ( 1980 年 )、 給 付 の 種 類 と 給 付 水 準 の 設 定 に 当 た っ て モ デ ル と し た のが予防接種健康被害救済制度による救済給付であり、両制度は「医薬品の副作用によ り不可逆的に発生した健康被害」を救済するという点、及び救済給付の内容自体にも共 通する点を持っており、これらの点が治験補償制度のモデルとするに相応しいと判断さ れたからである。 ( 厚 生 省 薬 務 局 編 集( 1982(昭 和 58)年 ) 「医薬品副作用被害救済制度の 解 説 」 pp.87‐ 89( 中 央 法 規 出 版 ))。 第二の理由は、予防接種健康被害救済制度(一類疾病)の給付の水準が医薬品副作用 被害救済制度よりも質的に手厚い給付となっている(例えば、後遺障害又は死亡時の給 付 の 水 準 は 約 1.8 倍 で あ る : 参 考 資 料 8 参 照 ) と い う 点 が 、 治 験 へ の 参 加 メ リ ッ ト が あ る患者を対象とする治験よりも、精神的満足度等以外にメリットは少ない健康人を対象 とする治験で手厚く補償するという本ガイドラインの趣旨に適っていると判断されたか らである。すなわち、伝染のおそれがある疾病の発生及び蔓延から国民を守るという公 益実現を目的として健康な人にワクチンを投与した結果生じた健康被害に対する救済と、 ボランティア精神により治験参加した健康人に治験薬を投与した結果生じた健康被害に 対する補償を同じくすることには妥当性があると判断されたからである。 第三の理由は、障害年金等の給付にあたって障害等級を判定するために用いられる障 害認定基準については、医薬品副作用被害救済制度と予防接種健康被害救済制度は国民 年金・厚生年金保険のそれに準拠しているが、労災保険の障害認定基準との間には、表 7 に 示 し た と お り 、概 ね 読 替 え が 可 能 で あ る 6 こ と が 知 ら れ て お り 、健 康 人 を 対 象 と す る 6 鍋岡勇造、中野隆夫、内川泰雄「治験における健康被害補償‐第二回:医療費支払における問題点 と 展 望 ‐ 」『 PHARM STAGE』 Vol.8, No.1 2008 p.57‐ 64( 技 術 情 報 協 会 ) 31 治験において、労災保険に代わり、予防接種健康被害救済制度を参考に補償基準を定め るとした場合であっても、制度的に大きな変更とはならないと判断されたからである。 表7 国民年金・厚生年金保険と労災保険における障害等級間の読替え表 労災保険 国民年金・厚生年金保険 備考 第 1 級、第 2 級 1級 医薬品副作用被害救済制度 第 3 級、第 4 級、第 5 級 2級 第 6 級、第 7 級 3級 予防接種健康被害救済制度 第 8 級 、 第 9 級 、 第 10 級 障害手当年金 − 第 11 級 、 第 12 級 、 併 合 判 定 参 考 表 の 11、 12、 第 13 級 13 号 第 14 級 該当なし 及び予防接種健康被害救済 制度が準拠 が準拠 − − ただし、表 7 が示すように、予防接種健康被害救済制度においては、労災保険の「第 8 級 」∼「 第 14 級 」や 国 民 年 金・厚 生 年 金 保 険 の「 障 害 手 当 金 」及 び「 併 合 判 定 参 考 表 の 11、 12、 13 号 」 に 対 応 す る 障 害 等 級 が な い た め 、 こ の ま ま で は 、 健 康 人 を 対 象 と す る治験における補償基準として予防接種健康被害救済制度を準用することができない。 そこで、予防接種健康被害救済制度を参考に補償金を支払う方法においては、新たに 障害等級を第Ⅰ級∼第Ⅴ級まで設定して、予防接種健康被害救済制度において対応する 障 害 等 級 が な い 労 災 保 険 の 「 第 8 級 」 ∼ 「 第 14 級 」 や 国 民 年 金 ・ 厚 生 年 金 保 険 の 「 障 害 手 当 金 」 及 び 「 併 合 判 定 参 考 表 の 11、 12、 13 号 」 に 対 応 す る 障 害 等 級 「 第 Ⅳ 級 」 及 び 「 第 Ⅴ 級 」 を 設 定 し 、 労 災 保 険 の 第 13 級 ま で カ バ ー さ せ る こ と と し た 。 表 8 予防接種健康被害救済制度を参考に補償金を支払う方法において新たに設定した障 害等級 健康人を対象と する治験の新障 害等級 国民年金・ 厚生年金保険 制度 予防接種健康 被害救済制度 医薬品副作用被 害救済制度 労災保険 第Ⅰ級 1級 1級 1級 第 1 級、第 2 級 第Ⅱ級 2級 2級 2級 第Ⅲ級 3級 3級 − 第Ⅳ級 障害手当年金 − − 第Ⅴ級 併合判定参考 表 の 11、 12、 13 号 − − 32 第 3 級、第 4 級、 第5級 第 6 級、第 7 級 第 8 級、第 9 級、 第 10 級 第 11 級 、 第 12 級 、 第 13 級 【予防接種健康被害救済制度を参考に健康人対象治験の補償基準を定める方法】 1. 第 Ⅰ 級 ∼ 第 Ⅲ 級 の 後 遺 障 害 に 対 す る 障 害 補 償 金 健康人を対象とした治験において、被験者に予防接種健康被害救済制度で定める 1 級∼3 級の後遺障害が生じた場合、各障害等級に応じて定められた一類疾病に係る定 期 の 予 防 接 種 等 に 係 る 障 害 年 金 の 額 に 、 健 康 被 害 発 生 時 の 法 定 金 利 ( 5% ) に 基 づ く 現価係数(平均余命に対応するライプニッツ係数)をかけて 1 級∼3 級の障害補償金 を一括で支払う。 第Ⅰ級の障害補償金=(1 級障害者の障害年金の年額 + 1 級障害者に支給される介 護加算額の年額)× 現価係数 第Ⅱ級の障害補償金=(2 級障害者の障害年金の年額 + 2 級障害者に支給される介 護加算額の年額)× 現価係数 第Ⅲ級の障害補償金=(3 級障害者の障害年金の年額)× 現価係数 2. 新 た に 設 定 し た 第 Ⅳ 級 及 び 第 Ⅴ 級 の 後 遺 障 害 に 対 す る 障 害 補 償 金 健 康 人 を 対 象 と し た 治 験 に お い て 、 労 災 保 険 の 「 第 8 級 」 ∼ 「 第 10 級 」 に 相 当 す る 「 第 Ⅳ 級 」、 同 じ く 「 第 11 級 」 ∼ 「 第 13 級 」 に 相 当 す る 「 第 Ⅴ 級 」 の 後 遺 障 害 が 生 じ た 場 合 、一 類 疾 病 に 係 る 定 期 の 予 防 接 種 等 に 係 る 1 級 の 障 害 年 金 の 額 に 、労 災 保 険 で 定 め ら れ た「 第 8 級 」∼「 第 10 級 」の 労 働 能 力 逸 失 率 の 平 均 値 で あ る「 35/ 100」、 又 は「 第 11 級 」∼「 第 13 級 」の 労 働 能 力 逸 失 率 の 平 均 値 で あ る「 15/ 100」を か け 、 さ ら に 健 康 被 害 発 生 時 の 法 定 金 利 ( 5% ) に 基 づ く 現 価 係 数 ( 平 均 余 命 に 対 応 す る ラ イプニッツ係数)をかけて 4 級又は 5 級の障害補償金を一括で支払う。 第 Ⅳ 級 の 障 害 補 償 金 = 1 級 障 害 者 の 障 害 年 金 の 年 額 × 35/ 100 × 現 価 係 数 第 Ⅴ 級 の 障 害 補 償 金 = 1 級 障 害 者 の 障 害 年 金 の 年 額 × 15/ 100 × 現 価 係 数 3. 遺 族 補 償 金 、 葬 祭 料 予防接種健康被害救済制度で定める一類疾病に係る定期の予防接種等に係る死亡一 時金及び葬祭料と同額とする。 4. 休 業 補 償 金 【 参 考 資 料 3】 の 労 災 保 険 を 参 考 と す る 健 康 人 を 対 象 と し た 治 験 と 同 様 に 、 療 養 に よ り 働 く こ と が で き な い た め に 賃 金 を 受 け ら れ な い 場 合( 通 院 も 含 ま れ る )、か つ 、次 の三つの条件の全てを備えている場合、傷病前の就労状況を考慮の上、症状固定まで の間、 「 賃 金 セ ン サ ス 表 の 全 労 働 者 の 平 均 給 与 」か ら 求 め た 給 与 日 額 に 休 業 日 数( 又 は 通院日数)をかけて休業補償金を支払う。ただし、後遺障害に対する障害補償金を支 払った場合は、その日以降の休業補償金は支払わない。 1) 治 験 に 起 因 す る 健 康 被 害 に よ り 療 養 し て い る こ と 7 2) そ の 療 養 の た め に 労 働 す る こ と が で き な い こ と 8 7 「 療 養 」と は 、原 則 と し て 健 康 被 害 に よ る 傷 病 に つ い て 、医 師 又 は 歯 科 医 師 等 の 診 療 又 は 指 導 を 受 け ていることをいう。 33 3) 労 働 す る こ と が で き な い た め 賃 金 を 受 け て い な い こ と 休業補償金 = 基礎日額※ × 休業日数(又は通院日数) ※「賃金センサス表の全労働者の平均給与」から求めた給与日額 表 9 に 、労 災 保 険 を 参 考 に し た 場 合 と 予 防 接 種 健 康 被 害 救 済 制 度 を 参 考 に し た 場 合 の 健 康 人 を 対 象 と し た 治 験 に お け る 障 害 補 償 金 を 比 較 し た 結 果 を 示 し た が 、労 災 保 険 を 参 考 に し た 場 合 に お い て 、補 償 額 が 細 か く 算 定 さ れ る こ と を 除 き 、両 者 間 に 大 き な 差は認められなかった。 表 9 労災保険及び予防接種健康被害救済制度を参考にした補償金算定方法による障害補 償金の金額の比較 ( 20 歳 男 性 ) 予防接種健康被害救済制度を参考に 労災保険を参考にした補償金算定方法 障害補償金 障害等級 の額 (介護補償 なし) 第 1級 91,602 第 2級 91,602 第 3級 91,190 第 4級 83,895 第 5級 72,040 第 6級 61,097 第 7級 51,066 第 8級 41,035 第 9級 31,916 第 10 級 24,621 第 11 級 18,238 第 12 級 12,767 第 13 級 8,207 した補償金算定方法 障害補償金の額 (介護補償 あり) (常 時 介 護 ) 114,820 (随 時 介 護 ) 103,005 障害補償金 障害補償金 障害等 の額 の額 級 (介護補償 (介護補償 なし) あり) 第Ⅰ級 91,876 107,626 第Ⅱ級 73,461 83,961 第Ⅲ級 55,112 第Ⅳ級 32,157 第Ⅴ級 13,781 (単位:千円) 8 「 労 働 す る こ と が で き な い 」と は 、一 般 的 に 労 働 で き な い 状 態 を い い 、必 ず し も 傷 病 前 に 従 事 し て い た労働ができないものに限るものではない。したがって、療養中に軽作業なら就労しうる場合には、 これにあたらない。 34 ① 被 験 者 年 齢 : 20 歳 男 性 ② 年金現価 :労 災 保 険 を 参 考 に し た 補 償 金 算 定 方 法 で は 賃 金 セ ン サ ス( 賃 金 構 造 基 本 統 計 調 査 ) に よ る 平 成 20 年 度 ( 男 女 計 、 学 歴 計 ) 平 均 賃 金 を 用 い た。 ③ 予 防 接 種 健 康 被 害 救 済 制 度 を 参 考 に し た 補 償 金 算 定 方 法 で は 、予 防 接 種 健 康 被 害 救 済制度一類疾病に係る定期の予防接種等に係る 1 級∼3 級障害年金 ( 平 成 20 年 5 月 1 日 改 正 時 点 の 額 ) を 用 い た 。 ④ 中 間 利 息 の 控 除 方 法 : 健 康 被 害 発 生 時 の 法 定 金 利 ( 5% ) に 基 づ く 平 均 余 命 年 数 の ライプニッツ係数を用いた。 し か し 、 表 10 に 示 し た よ う に 、 労 災 保 険 を 参 考 に し た 場 合 と 予 防 接 種 健 康 被 害 救 済 制度(一類疾病)を参考にした場合の健康人を対象とした治験における遺族補償金の額 を 比 較 す る と 、労 災 保 険 を 参 考 に し た 場 合 に お い て 、70 歳 以 上 で は 補 償 額 が 2 千 万 を 下 回ることにより、患者を対象とする治験よりも低い水準の補償額となる。 したがって、患者を対象とする治験よりも健康人を対象とする治験で常に補償額を高 く設定したいと考える場合は、予防接種健康被害救済制度(一類疾病)を参考にした補 償基準により補償の内容を設定するとよい。ただし、以上は患者を対象とする治験より も 健 康 人 を 対 象 と す る 治 験 で 常 に 一 定 の レ ベ ル ( 1.8 倍 ) で 手 厚 く 補 償 す る 場 合 に お け る予防接種健康被害救済制度(一類疾病)を参考にした補償基準のメリットの一例であ るので、基準の使い分けについては、二つの基準の他のメリット・デメリットを治験依 頼者が自ら判断し、設定すればよい。 表 10 労災保険及び予防接種健康被害救済制度を参考にした補償金算定方法による遺族 補償金の金額の比較 予防接種健康被害救済制度を参考 労災保険を参考にした補償金算定方法 にした補償金算定方法 死亡時年齢 遺族補償金の額 死亡時年齢 20 歳 56,809 20 歳 30 歳 52,797 30 歳 40 歳 46,263 40 歳 50 歳 35,619 50 歳 60 歳 24,397 60 歳 70 歳 16,037 70 歳 80 歳 11,203 80 歳 遺族補償金の額 42,800 (単位:千円) 35 ① 年 金 現 価:労 災 保 険 で は 賃 金 セ ン サ ス( 賃 金 構 造 基 本 統 計 調 査 )に よ る 平 成 20 年 度(男女計、学歴計)平均賃金を用いた。予防接種健康被害救済制度を参考にし た補償金算定方法では予防接種健康被害救済制度(一類疾病)に係る定期の予防 接 種 等 に 係 る 死 亡 一 時 金 ( 平 成 20 年 5 月 1 日 改 正 時 点 の 額 ) を 用 い た 。 ② 中 間 利 息 の 控 除 方 法 : 健 康 被 害 発 生 時 の 法 定 金 利( 5% )に 基 づ く 平 均 余 命 年 数 の ライプニッツ係数を用いた。ただし、予防接種健康被害救済制度を参考にした補 償金算定方法では、一括で支払われるため中間利息の控除は行わなかった。 ③ 生 活 費 の 控 除 率 は 35% と し た 。 36 【 参 考 資 料 5】医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 の 救 済 給 付 を 参 考 に 補 償 金 を 一 括 で 支 払う方法について 本ガイドラインでは、健康人を対象とする治験と患者を対象とする治験で補償基準を 明確に分け、後遺障害及び死亡の場合の基準を前者では労災保険に、後者では医薬品副 作 用 被 害 救 済 給 付 に 準 拠 さ せ た 。健 康 人 を 対 象 と す る 治 験 で は 1 級 ∼ 14 級 ま で の 後 遺 障 害を対象としたのに対し、患者を対象とする治験では、医薬品副作用被害救済制度に定 める 1 級、2 級を対象としたことで、3 級以下に対する補償を制限しているとの指摘が あ る 9。 しかし、医薬品副作用被害救済制度が採用した後遺障害の認定基準は「国民年金」の そ れ で あ り 、「 労 災 保 険 」で は な い 。ま た 、医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 に お け る 1 級 、2 級 は 、 少 な く と も 、 労 災 保 険 の 第 5 級 ま で の 後 遺 障 害 を カ バ ー し て い る 。( 以 上 、 鍋 岡 勇造、中野隆夫、内川泰雄「治験における健康被害補償−3 級以下の後遺障害に関する 調 査 及 び 展 望 − 」 PHARM STAGE VOL.8、 No.1 2008 pp.57‐ 64」 (技 術 情 報 協 会 )を 抜 粋し引用) こ こ で は 、被 験 者 に 医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 で 定 め る 1 級 又 は 2 級 の 後 遺 障 害 が 生 じた場合の障害補償金及び死亡の場合の遺族補償金の算定方法について例示するが、前 項 の 健 康 人 を 対 象 と す る 治 験 と 同 様 に 、 現 価 係 数 は 、 健 康 被 害 発 生 時 の 法 定 金 利 ( 5% ) に基づく平均余命に対応するライプニッツ係数とする。 1. 後 遺 障 害 が 、 医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 で 定 め る 「 1 級 」 又 は 「 2 級 」 の い ず れ か に該当すると認定された場合、次式により、障害補償金を一括で支払う。 1 級の障害補償金= 医薬品副作用被害救済制度で定める 1 級の障害年金の額 × 現価係数 2 級の障害補償金= 医薬品副作用被害救済制度で定める 2 級の障害年金の額 × 現価係数 2. 上 記「 1 級 」又 は「 2 級 」の い ず れ か に 該 当 す る と 認 定 さ れ た 被 験 者 が 18 歳 未 満 の 場合は、次式により、障害児補償金を養育者に対して一括で支払う。 1 級の障害児補償金= 医薬品副作用被害救済制度で定める 1 級の障害児養育年金 × 18 歳 到 達 時 ま で の 年 数 に 対 応 す る 現 価 係 数 2 級の障害児補償金= 医薬品副作用被害救済制度で定める 2 級の障害児養育年金 × 18 歳 到 達 時 ま で の 年 数 に 対 応 す る 現 価 係 数 9 畔 柳 達 雄 、光 石 忠 敬「 ヘ ル シ ン キ 宣 言 30 条 を め ぐ る 議 論 と 健 康 被 害 補 償 の 問 題 点 − 畔 柳 達 雄 日 本 医 師 会 顧 問 弁 護 士 に 聴 く − 」『 臨 床 評 価 』 31 巻 1 号 2003 pp.129− 139.( 臨 床 評 価 刊 行 会 ) 37 ま た 、18 歳 に な っ た 時 点 で 、次 式 に よ り 、障 害 補 償 金 を 被 験 者 本 人 に 一 括 で 支 払 う 。 1 級の障害補償金 = 医薬品副作用被害救済制度で定める 1 級の障害年金の額 × 18 歳 の 平 均 余 命 年 数 に 対 応 す る 現 価 係 数 2 級の障害補償金 = 医薬品副作用被害救済制度で定める 2 級の障害年金の額 × 18 歳 の 平 均 余 命 年 数 に 対 応 す る 現 価 係 数 な お 、被 験 者 が 18 歳 未 満 の 場 合 、障 害 児 補 償 金 に 18 歳 到 達 時 の 障 害 補 償 金 を 加 算 し て一括で支払うことも可能とする。 3. 生 計 維 持 者 が 死 亡 の 場 合 は 、 次 式 に よ り 求 め た 遺 族 補 償 金 と 医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制度で定める葬祭料を一括で支払う。 生計維持者死亡の遺族補償金 =医薬品副作用被害救済制度で定める遺族年金 × 10 年 に 対 応 す る 現 価 係 数 4. 非 生 計 維 持 者 が 死 亡 の 場 合 、 次 式 に よ り 求 め た 遺 族 補 償 金 と 医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制度で定める葬祭料を一括で支払う。 非生計維持者死亡の遺族補償金 =医薬品副作用被害救済制度で定める遺族年金の 3 年分(中間利息の控除は行わない) なお、医薬品副作用被害救済制度では、医薬品の副作用により死亡した人と同一生計 にあった遺族のうち最優先順位の人に給付されることとなっているが、同一生計にあっ た遺族がいない場合、遺族年金、遺族一時金は支払われない。従って、同一生計である 点が、いわゆる相続上の請求権者とは異なるので注意が必要である。 一 方 、生 計 維 持 者 の 要 件 に つ い て 、昭 和 57 年 1 月 28 日 付 厚 生 省 薬 務 局 企 画 課 長 通 知 (薬 企 第 八 号 )「 医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 基 金 法 施 行 令 第 八 条 第 一 項 に 規 定 す る 「 生 計 を 維 持していたものについて」には以下のとおり記載されている。 1) 生 計 を 維 持 し て い た も の と さ れ る に は 、 そ の 者 と 医 薬 品 の 副 作 用 に よ り 死 亡 し た 者とが同一家計にあることが必要であり、同居は同一家計にあることを推定させ るものであるが、必ずしも同居を必要とするものではなく、仕送りを受けて修学 している場合等も同一家計に含まれるものであること。なお、同居していても別 家計となる場合があることはもちろんであること。 2) 生 活 水 準 は 、 消 費 支 出 の 水 準 で 判 断 す る も の で あ る が 、 消 費 支 出 の 水 準 は 、 家 計 における収入・家族構成等の事情によって異なり、また、生活する地域によって も異なるので、通常の生活水準がどの程度のものかは、これらの諸要素が類似し た標準的な家計の消費支出水準によって判断する必要があること。 3) 医 薬 品 の 副 作 用 に よ り 死 亡 し た 者 の 収 入 が な け れ ば 通 常 の 生 活 水 準 を 維 持 す る こ とが困難となるような関係とは、当該家計の実収入から当該死亡した者による収 入 を 差 し 引 い た 残 り が 上 記 2) の 標 準 的 な 家 計 の 消 費 支 出 水 準 に 満 た な い よ う な 38 関係をいい、当該死亡した者の死亡の当時においてこのような関係が常態である 者 は 、当 該 死 亡 し た 者 に よ り 生 計 を 維 持 し て い た も の に 該 当 す る も の で あ る こ と 。 4) 上 記 2)の 標 準 的 な 家 計 の 消 費 支 出 水 準 に つ い て は 、全 国 消 費 実 態 調 査 報 告 (総 理 府 統 計 局 )等 生 計 維 持 関 係 を 判 断 す る 趣 旨 に 照 ら し て 適 切 か つ 客 観 的 な 統 計 資 料 によられたいこと。 以下、鍋岡勇造、中野隆夫、内川泰雄「治験における健康被害補償−第三回:遺族補 償 金 支 払 時 の 生 計 維 持 者 と 非 生 計 維 持 者 の 判 定 基 準 − 」 PHARM STAGEVOL Vol.8 No.5 2008」( 技 術 情 報 協 会 ) の pp77‐ 79 の 部 分 よ り 抜 粋 ・ 引 用 し て 解 説 を 行 う の で 参 考にされたい。 医薬品副作用被害救済制度では、 「 通 常 の 生 活 水 準 の 維 持 」が 困 難 か 否 か を 判 断 す る に 際 し て は 、 総 務 省 統 計 局 に よ る 家 計 調 査 第 2-6 表 ( 二 人 以 上 の 世 帯 ) に お け る 消 費 支出額月額を参考にして、死亡した人の遺族の当時の収入(平均月収)がこれを下回 った場合を、 「死亡者の収入がなければ通常の生活水準を維持することが困難となるよ う な 関 係 が 常 態 で あ っ た 」、す な わ ち 、死 亡 者 に よ っ て 生 計 を 維 持 し て い た と 判 断 さ れ ている。逆に、遺族の当時の月収が消費支出額以上であれば、死亡者の経済的役割は 低かった、すなわち、死亡者は非生計維持者と判断されている。 総務省統計局が公表する家計調査は、都市別、地域別、世帯別等、様々な表がある ので、それらを目安にして、家族構成や、近隣の所得状況も参考にしながら、個別に 生計維持関係を判断しているようである。 自社の補償制度において生計維持者か否かで支給額に差を付ける場合には、非生計 維持者の要件を明確にしておき、説明を求められた場合に対応できるようにしておく 必要がある。 生計維持者の要件としては、単純に一家で最も収入が多い人とする方法、あるいは 税法上の扶養者とする方法等いろいろあると考えられるが、医薬品副作用被害救済制 度の考え方を参考とすることも検討に値すると思われるので、以下、総務省統計局に よ る 家 計 調 査 第 2-6 表 ( 二 人 以 上 の 世 帯 ) に お け る 消 費 支 出 額 月 額 を 参 考 と す る 方 法 について説明する。 【治験補償における家計調査消費支出額月額の利用の方法について】 図 1 に三つの事例を示した。理解がし易いように、これらの事例は、二人で生活す る 一 家 の 合 計 年 収 を 同 じ 612 万 円 ( 平 均 月 額 は 51 万 円 ) と し 、 そ の 中 で 、 二 人 の 収 入月額を 3 とおりとした場合の生計維持関係を示すものである。 ここでは、 「 年 間 収 入 階 級 別( 全 国・全 都 市・都 市 階 級 )二 人 以 上 の 世 帯 」の 全 国 平 均 の 表 を 用 い た が 、そ の 場 合( 平 均 月 額 は 51 万 円 の 場 合 )の 平 成 19 年 度 の 消 費 支 出 額 ( 月 額 ) は 297,159 円 で あ る 。 39 先 ず 、世 帯 A の 場 合 で あ る が 、消 費 支 出 額( 月 額 )以 上 の 収 入( 平 均 月 額 )が あ る 人は通常の生活水準を維持することが可能、すなわち生計維持者であるので、夫が死 亡の場合は、妻へ生計維持者の遺族補償金が支払われることとなる。消費支出額(月 額)を大きく下回る妻の場合は非生計維持者と判断され、夫へ非生計維持者の遺族補 償金が支払われる。 世 帯 B の 場 合 は 、世 帯 A と は 逆 に な る の で 、妻 が 生 計 維 持 者 、夫 が 非 生 計 維 持 者 と なる。 世 帯 C の 場 合 は 少 し 理 解 が 難 し く な る が 、夫 も 妻 も 消 費 支 出 額( 月 額 )を 下 回 る た め、夫も妻も生前生計維持者であったと判断される。前述したように、これは、一方 の収入だけでは通常の生活水準を維持することが困難な場合に該当し、いずれの場合 でも生計維持者の遺族補償金が支払われることとなる。 この他、死亡者が一家で最も高収入であった場合でも、遺族に通常の生活水準を維 持できる収入が当時あった場合は、生計維持者とはみなされないので注意が必要であ る。 世帯の収入の合計が 平 成 19年 の 612万 円 の 場 合 の 消費支出額(月額)は 世 帯 平 均 月 額 は 51万 円 297,159円 妻の平均月収は消費支出額に届か (世帯Aの場合) 夫 の 平 均 月 収 が 30万 円 ないため 妻 の 平 均 月 収 が 21万 円 夫が生計維持者となる (世帯Bの場合) 夫の平均月収は消費支出額に届か 夫 の 平 均 月 収 が 21万 円 ないため 妻 の 平 均 月 収 が 30万 円 妻が生計維持者となる (世帯Cの場合) 夫婦共に消費支出額 夫 の 平 均 月 収 が 28万 円 に届かないため 妻 の 平 均 月 収 が 23万 円 夫婦共に生計維持者となる 図 1 治験補償における遺族補償金の生計維持関係の判定に家計調査消費支出額を利用 した三つの事例 総 務 省 統 計 資 料 を 公 開 す る URL を 以 下 に 示 す 。 40 http://www.stat.go.jp/index.htm そ の う ち 、「 家 計 調 査 」 は 以 下 の URL で あ る 。 http://www.stat.go.jp/data/kakei/2.htm 家計調査 > 家計収支編 > 二人以上の世帯(農林漁家世帯を除く結果)> 詳細結果 表 > 年 次 > 2007 年 、 と 順 に ク リ ッ ク し て 開 い て い く と 、 < 用 途 分 類 > 1 世 帯 当 た り 年平均 1 か月間の収入と支出」の下に以下の分類があるので、これらの分類に納めら れた各表を参考にすればよい。 表 11 1 世帯当たり年平均 1 か月間の収入と支出 2-6 年間収入階級別 二人以上の世帯 (全国・全都市・都市階級) 勤労者世帯 年間収入階級別 二人以上の世帯 (地方・大都市圏) 勤労者世帯 年間収入階級別(全国) 勤労者世帯 表 11 の 分 類 に つ い て 説 明 す る 。 先 ず 、「 二 人 以 上 の 世 帯 」 と 「 勤 労 者 世 帯 」 の 分 類 で あ る が 、「 二 人 以 上 の 世 帯 」 と は、 「 単 身 世 帯 」を 除 く 全 て の 世 帯 を い う 。前 述 し た が 、救 済 制 度 で は 生 計 を 同 じ く す る 遺 族 が い た 場 合( 原 則 、同 居 )が 遺 族 年 金・一 時 金 の 要 件 で あ る の で 、 「二人以上の 世帯」の各表が用いられることとなる。 「 勤 労 者 世 帯 」と は 、 「 二 人 以 上 の 世 帯 」の う ち 、世 帯 主 が 会 社 、官 公 庁 、学 校 、工 場、商店などに勤めている世帯をいう。 次に、地域区分は、人口規模で分類する「全国・全都市・都市階級」と地方区分で 分類する「地方・大都市圏」に分類されている。 人口規模で分類された「全国・全都市・都市階級」には、以下のシートが納められ ている。 z 全国平均(全ての平均) z 全都市平均(町村を除く平均) z 人口 5 万以上の市(小都市Bを除く平均) z 大都市 z 中都市 z 小都市 A z 小 都 市 B( 人 工 5 万 未 満 の 市 ) z 町村 地方区分で分類する「地方・大都市圏」には、以下のシートが納められている。 z 北海道 z 東北 z 関東 41 z 北陸 z 東海 z 近畿 z 中国 z 四国 z 九州及び沖縄 z 関東大都市圏 z 中京大都市圏 z 京阪神大都市圏 z 北九州・福岡大都市圏 以上の各シートには、縦軸に用途分類、横軸には世帯の年収区分が示された表があ る。 横 軸 の 年 収 は 50 万 円 ご と に 区 分 さ れ て い る 。 縦 軸 の 用 途 分 類 に は 、世 帯 人 員 、有 業 人 員 、世 帯 主 の 年 齢 な ど が 並 ん で お り 、17 行 目 あ た り に「 消 費 支 出 」が あ る 。 「 消 費 支 出 」と は 、い わ ゆ る 生 活 費 の こ と で 、エ ン ゲ ル 係 数 ( % ) は 、( 食 費 ÷消 費 支 出 ) ×100 で 表 わ さ れ る 。 以上説明したように、総務省統計局が公表する家計調査は、都市別、地域別、世帯 別等、様々な表があるので、それらを目安にして、家族構成や、近隣の所得状況も参 考にしながら、個別に生計維持関係を判断することが必要である。以下、個別に生計 維持関係を判断した事例を示すので、参考いただきたい。 【治験薬との因果関係が否定できない健康被害によりお亡くなりなった A さんの事 例】 お 亡 く な り に な っ た 平 成 20 年 4 月 当 時 、 A さ ん は 東 京 都 台 東 区 に 妻 及 び 長 男 と 住 み 、平 成 19 年 1 月 か ら 12 月 ま で の 年 金 収 入 は 270 万 円( 月 額 225,000 円 )で あ っ た 。A さ ん の 被 扶 養 者 で あ っ た 妻 B さ ん は 、パ ー ト 勤 め に よ る 収 入 が あ り 、平 成 20 年 度 非 課 税 証 明 書 に よ る 平 成 19 年 分 の 収 入 は 100 万 円 で あ っ た 。長 男 C さ ん は 会 社 員 で あ り 、 平 成 19 年 源 泉 徴 収 証 に 記 載 さ れ た 年 収 は 290 万 円 で あ っ た 。 上 記 よ り 、一 家 の 平 成 19 年 の 収 入 総 額( A さ ん 、B さ ん 及 び C さ ん の 収 入 合 計 ) は 、 660 万 円 で あ り 、 こ れ よ り A さ ん の 収 入 を 差 引 い た 遺 族 の 年 収 総 額 ( B さ ん 及 び C さ ん の 収 入 合 計 ) は 、 390 万 円 ( 平 均 月 額 325,000 円 ) と な っ た 。 ここで、図 1 の説明で用いた「年間収入階級別(全国・全都市・都市階級)二人 以 上 の 世 帯 」 の 全 国 平 均 の 表 を 用 い る と 、 平 成 19 年 度 の 660 万 円 の 場 合 の 消 費 支 出 額( 月 額 )が 321,511 円 と な る こ と か ら 、遺 族 の 年 収 総 額( B さ ん 及 び C さ ん の 収 入 合 計 ) 390 万 円 ( 平 均 月 額 325,000 円 ) は 、 消 費 支 出 額 ( 月 額 ) 以 上 と な っ て しまい、遺族に通常の生活水準を維持できる収入が当時あったと判断されることか ら、遺族への支払は非生計維持者の遺族補償金となってしまう。 し か し な が ら 、A さ ん は 東 京 都 台 東 区 に 住 ん で い た こ と を 考 慮 し て 、 「年間収入階 42 級別(地方・大都市圏)二人以上の世帯」の関東大都市圏平均の表を用いると、平 成 19 年 度 の 660 万 円 の 場 合 の 消 費 支 出 額 ( 月 額 ) が 332,253 円 と な る こ と か ら 、 遺 族 の 年 収 総 額 ( B さ ん 及 び C さ ん の 収 入 合 計 ) 390 万 円 ( 平 均 月 額 325,000 円 ) は 、消 費 支 出 額( 月 額 )を 下 回 り 、A さ ん の 死 亡 の 当 時 、遺 族 は A さ ん に よ っ て 生 計を維持していたと理解して差しつかえないこととなり、遺族へは生計維持者の遺 族補償金が支払われることとなる。 なお、以上のように、医薬品副作用被害救済制度を参考に生計維持者/非生計維持者 の判断を行う方法は、同一生計の家族全員の(被験者が死亡する前年の)収入を証明す る書類の提出を遺族に依頼しなければならない、また、治験依頼者が加入する保険会社 へもその情報の提供が必要であるので、遺族補償金請求にあたってはそのことについて 文書による同意を得る必要がある。なお、医薬品副作用被害救済制度を参考に生計維持 者/非生計維持者の判断を行う方法は、やや手続きが煩雑であるので、必ずしも、以上 の方法により生計維持者の判断を行う必要はない。被験者の理解を得られると治験依頼 者が考える他の基準を自ら設定してもよい。例えば、もっと簡単な方法として、厚生年 金 保 険 制 度 に お け る 遺 族 厚 生 年 金 の 生 計 維 持 者 の 要 件( 遺 族 の 年 収 が 850 万 円 以 下 で あ ること)を用いることも可能であるが、予め自社の補償制度に定めておく必要がある。 (生計維持者の遺族補償金を支払う頻度が高まるので、保険会社との調整が必要かもし れ な い 。) 43 【 参 考 資 料 6】 1 級 、 2 級 よ り も 下 位 の 後 遺 障 害 ま で 補 償 を 行 う 治 験 の 扱 い に つ いて GCP は 、被 験 者 に 生 じ た 健 康 被 害 の 補 償 に つ い て 明 確 な 基 準 を 定 め て い な い こ と か ら 、 患者を対象とする治験では何級までの後遺障害を補償すればよいかといった尺度が現在 のところ存在しない。 し か し な が ら 、医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 の 障 害 等 級 2 級 未 満 の 障 害 に つ い て も 補 償 金の支払い対象とすべきであるという有識者の意見として、以下のようなものがある。 ⇒ 一 方 、以 下 の よ う に 、医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 の 障 害 等 級 2 級 未 満 の 障 害 に つ い ても補償金の支払い対象とすべきであるという意見がある。 ①「私見では、労災・交通事故の補償の際、使用している後遺障害別等級表・労働能力 逸 失 率 表 の 別 表 1 及 び 別 表 2 の 8 級 程 度 ま で 、望 ま し く は 10 級 程 度 ま で 、補 償 の 範 囲 を 広 げ る べ き 」 10 ②「 本 ガ イ ド ラ イ ン で 準 拠 す る 補 償 基 準 は 、GCP を 踏 ま え 、補 償 の あ り 方 と し て 提 示 し た も の で あ り 、治 験 に よ っ て は 、プ ロ ト コ ル ご と に 上 乗 せ す る こ と も 視 野 に 、補 償 基 準 を 定 め る こ と が 望 ま し い 。患 者 を 対 象 と す る 治 験 の 補 償 基 準 に あ っ て は 、ア ン メ ッ ト・メ デ ィ カ ル・ニ ー ズ な ど を 参 考 に 補 償 基 準( 内 容 )を 考 慮 す る 。消 化 性 潰 瘍 治 療 薬 、高 脂 血 症 治 療 薬 、結 核 治 療 薬 、高 血 圧 治 療 薬 、痛 風 治 療 薬 な ど 当 該 治 験 に お い て 、 市場にある薬剤に対する治療満足度の高い薬剤の治験にあっては、後遺障害別等級 表・労 働 能 力 喪 失 率 表 の 別 表 Ⅰ 及 び 別 表 Ⅱ の 8 級 程 度 ま で 補 償 の 範 囲 を 拡 げ る こ と も 検 討 に 値 す る 」 11 治 験 依 頼 者 が 検 討 の 結 果 、 4-1-3 の 解 説 の ③ の よ う に 医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 で 定 める 1 級、2 級よりも下位の後遺障害まで補償を行う必要があると判断した場合は、参 考 資 料 4 で も 説 明 し た 表 8 を 参 考 に し て 補 償 の 範 囲 を 設 定 す る こ と を 推 奨 す る 。予 防 接 種 法 施 行 令 で 定 め る( 一 類 疾 病 に 係 る 定 期 の 予 防 接 種 等 に 係 る ) 「 3 級 」の 後 遺 障 害 、す なわち、国民年金・厚生年金保険の「3 級」は労災保険の第 7 級(障害の種類によって は第 9 級)までカバーしている。 なお、医薬品副作用被害救済制度と予防接種健康被害救済制度のそれぞれの障害等級 間 の 給 付 額 の 差 ( 割 合 ) は 、 い ず れ も 国 民 年 金 ・( 旧 ) 厚 生 年 金 保 険 制 度 に 準 じ て い る 。 従って、患者を対象とする治験において「3 級」まで補償を行う場合の補償額は、予防 接 種 健 康 被 害 救 済 制 度 が 国 民 年 金・( 旧 )厚 生 年 金 保 険 制 度 に 準 じ て「 2 級 」の 給 付 額 の 四分の三としていることを参考にして、医薬品副作用被害救済制度を参考として算出し た「2 級」の障害補償金の四分の三とするとよい。 10 11 畔 柳 達 雄 「 臨 床 研 究 /試 験 に お け る 被 験 者 へ の 補 償 と 賠 償 」『 臨 床 薬 理 』 第 38 巻 第 4 号 July 2007 pp.265− 271( 日 本 臨 床 薬 理 学 会 ) 辻 純 一 郎 「 臨 床 研 究 に 関 す る 倫 理 指 針 施 行 に 向 け て 」 2009 年 4 月 14 日 ㈱ 情 報 機 構 緊 急 セ ミ ナ ー に て講演した私案 44 表 8 予防接種健康被害救済制度を参考に補償金を支払う方法において新たに設定した障 害等級〔再掲〕 健康人を対象 とする治験の 新障害等級 国民年金・ 厚生年金保険 制度 予防接種健康 被害救済制度 医薬品副作用 被害救済制度 労災保険 第Ⅰ級 1級 1級 1級 第 1 級、第 2 級 第Ⅱ級 2級 2級 2級 第Ⅲ級 3級 3級 − 第Ⅳ級 障害手当年金 − − 第 3 級、第 4 級、 第5級 第 6 級、第 7 級 第 8 級、第 9 級、 第 10 級 併合判定参考 第 11 級 、第 12 級 、 表 の 11、 12、 − − 第 13 級 13 号 ちなみに医薬品副作用被害救済制度及び予防接種健康被害救済制度では、 「 2 級 」の 場 第Ⅴ級 合 の 補 償 額 は 、国 民 年 金・( 旧 )厚 生 年 金 保 険 制 度 に 準 じ て い ず れ も「 1 級 」の 補 償 額 の 五分の四となっている。 45 【 参 考 資 料 7】 抗 が ん 剤 の 扱 い に つ い て 抗がん剤のような治療比の低い薬剤の治験の補償にあっては、医療費、医療手当のみ 治験依頼者が支払うことでよい。抗がん剤等のように治療比の低い薬剤は、他の医療品 と同列には論じられないからである。 しかし、旧ガイドライン制定以前の状況と現在のがん治療を取り巻く環境を比較する と、①作用の異なる複数の抗がん剤を組み合わせた併用療法の治療成績が向上している こと、②放射線や外科手術との併用療法によりさらに生存年数が改善されていること、 ③抗がん剤の泣き所であった強い副作用も投与方法の工夫によって軽減されてきている こと、④ホルモン療法剤のような医薬品副作用被害救済制度の対象除外医薬品に収載さ れない毒性の低い抗がん剤も開発されてきていること、⑤分子標的薬というこれまでに なかった新たな抗がん剤の開発によってがん治療に新たな展望が開けてきたこと、など の理由により、抗がん剤を治療比の低い薬剤と一括りにできない状況も生まれてきてい る。 言い換えれば、がん治療の進歩によって治癒する可能性のあるがんの種類が増えてき たことから、抗がん剤の治験における補償の基準もそれに応じて常に見直す必要が生じ てきていることにもなる。 例 え ば 、2007 年 に 大 阪 府 健 康 福 祉 部 よ り 公 表 さ れ た 府 全 域 に お け る 1999 年 罹 患 者 の 5 年 相 対 生 存 率 12 は 全 が ん 患 者 で 41.9% で あ っ た 。こ れ を 部 位 別 に 見 る と 、乳 房 、子 宮 、 膀 胱 及 び 前 立 腺 が 62.4∼ 83.7% の 高 い 生 存 率 を 示 し 、胃 、結 腸 、直 腸 、卵 巣 及 び リ ン パ 組 織 が 35.1∼ 54.7% と 全 が ん で の そ れ に 近 い 中 程 度 の 生 存 率 を 示 し た 。こ れ に 対 し 、食 道 、 肝 臓 、 胆 の う 、 膵 臓 、 肺 及 び 白 血 病 で は 4.9∼ 24.1% と 依 然 低 い 生 存 率 に と ど ま っ ていた。一方、臨床進行度(ステージ)別に 5 年相対生存率を比較した場合、全部位で は 、 病 巣 が 原 発 臓 器 、 組 織 に 「 限 局 」 し て い た 場 合 の 生 存 率 が 74.8% 、「 所 属 リ ン パ 節 転 移 」の 場 合 が 47.4% 、 「 隣 接 臓 器 浸 潤 」で は 17.8% 、 「 遠 隔 転 移 」で は 6.2% で あ っ た 。 さらに、部位別に「限局」の場合の生存率を見ると、胃、結腸、直腸、乳房、子宮、膀 胱 で 86.3∼ 97.9% と 高 い 生 存 率 で あ っ た 。こ れ に 対 し 、肝 臓 及 び 膵 臓 で は 21.1∼ 29.3% と「限局」の場合であってもなお極めて低い生存率にとどまっていた。 以上の例のように、がん患者の予後は、がんの種類と臨床進行度(ステージ)によっ て大きく異なると考えられる。従って、上記調査結果なども参考にしながら、補償金の 設定が必要と判断される治験、例えば、ホルモン療法や再発予防目的の術後補助療法が 適 用 と な る が ん を 対 象 と す る 治 験 な ど に あ っ て は 、4− 2 に 準 じ て 、予 め 補 償 金 の 額 を 減 額した上で補償金を支払うことも検討に値する。 12 大 阪 府 に お け る が ん 登 録 第 70 報 − 2003 年 の が ん 罹 患 と 医 療 及 び 1999 年 罹 患 者 の 5 年 相 対 生 存 率 ( 平 成 19 年 3 月 : 大 阪 府 健 康 福 祉 部 ) 46 【 参 考 資 料 8】予 防 接 種 健 康 被 害 救 済 制 度( 一 類 疾 病 )と 医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制度の後遺障害又は死亡時における給付額の違い 昭 和 55 年 の 医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 発 足 当 時 、 予 防 接 種 健 康 被 害 救 済 制 度 と 医 薬 品副作用被害救済制度の給付水準はほぼ同じレベルであった。 し か し 、予 防 接 種 健 康 被 害 救 済 制 度 に つ い て は 、平 成 6 年 に 予 防 接 種 法 の 大 幅 な 改 正 が行われ、強制的な義務接種ではなく事実上の努力義務であることが明確となったこと に伴い、予防接種に関する正確な情報の提供、安全な予防接種を実施するための体制の 整備、予防接種による健康被害者に対する救済措置の充実などがより強く求められるよ うになり、介護加算の創設、障害年金等の増額により、健康被害者に対する救済給付費 の給付水準が大幅に改善された。 表 12 及 び 13 に 示 し た と お り 、 平 成 13 年 以 降 の 予 防 接 種 健 康 被 害 救 済 制 度 ( 一 類 疾 病 ) と 医 薬 品 副 作 用 被 害 救 済 制 度 の 後 遺 障 害 又 は 死 亡 時 に お け る 給 付 額 の 差 は 約 1.8 倍 となっている。 47 表 12 予防接種健康被害救済制度(一類疾病)と医薬品副作用被害救済制度の後遺障害に対する給付額の差及び年次推移 救済給付 障害 の種類 等級 平 成 13 年 度 平 成 14 年 度 平 成 15 年 度 平 成 16 年 度 平 成 17 年 度 平 成 18 年 度 平 成 19 年 度 平 成 20 年 度 平 成 21 年 度 予防接種健康 1級 4,972,800 同左 4,927,200 4,911,800 同左 4,897,200 同左 4,897,200 同左 被害救済制度 2級 3,976,800 同左 3,942,000 3,928,800 同左 3,915,600 同左 3,915,600 同左 (一類疾病) 3級 2,983,200 同左 2,956,800 2,946,000 同左 2,937,600 同左 2,937,600 同左 医薬品副作用 1級 2,762,400 同左 2,737,200 2,728,800 同左 2,728,800 同左 2,720,400 同左 被害救済制度 2級 2,209,200 同左 2,190,000 2,182,800 同左 2,182,800 同左 2,175,600 同左 差 1級 1.8 1.8 1.8 1.8 1.8 1.79 1.79 1.8 1.8 2級 1.8 1.8 1.8 1.8 1.8 1.79 1.79 1.8 1.8 後 遺 障 害 に 対 す る 給 付 額 の 推 移 (円) 予 防 接 種 /医 薬品副作用 表 13 予防接種健康被害救済制度(一類疾病)と医薬品副作用被害救済制度の死亡に対する給付額の差及び年次推移 死 救済給付 の種類 亡 に 対 す る 給 付 額 の 推 移 (円) 平 成 13 年 度 平 成 14 年 度 平 成 15 年 度 平 成 16 年 度 平 成 17 年 度 平 成 18 年 度 平 成 19 年 度 平 成 20 年 度 平 成 21 年 度 43,500,000 同左 43,100,000 43,000,000 同左 42,800,000 同左 42,800,000 同左 24,156,000 同左 23,940,000 23,868,000 同左 23,784,000 同左 23,784,000 同左 1.8 1.8 1.8 1.8 1.8 1.8 1.8 1.8 1.8 予防接種健康 被害救済制度 (一類疾病) 医薬品副作用 被害救済制度 差 予 防 接 種 /医 薬品副作用 以上 48
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