イラガのコロニーをつくる理由とその利点 第1章 はじめに テーマ設定の

イラガのコロニーをつくる理由とその利点
所属:生物ゼミ
1組 16番 唐澤 卓人
第1章 はじめに
テーマ設定の理由
私の家の落葉樹には毎年たくさんのイラガというケムシが発生し
母を困らせていた。刺されると焼けるような痛みを感じ、背には青
く光る模様を持つこの毛虫。イラガの多くがコロニー(群れ)を作
っているのだが、なぜ彼らは群れを作るのだろうか。幼いころから
興味を持っていたこの不思議な生き物について調べようと思った。
イラガ(幼虫)→
第1節
研究内容と方法
第1項
研究の内容
○イラガとは?
ここであらためてイラガについて紹介しよう 。ケムシの一種であり、カキノキやバラ科
の木に多く発生する。葉の裏側にコロニーをつくり生息していることが多い。刺されると
強い痛みを感じることから幼虫は別名を「デンキムシ」と言う。 ライムのような鮮やかな
緑色や薄茶色、概観はウミウシのような形状をしている。本州、四国、九州、シベリア、
朝鮮半島、中国、台湾などに分布している。
○研究内容
イラガのコロニーをつくる理由とその利点について。
第2項
研究の方法
イラガを採集し実験、観察する。
第2章
研究の展開
第1節
イラガの採集
8月中旬から9月下旬まで自宅に植わっているヤマボウシにて
採集を行った。この木には毎年イラガが大 量に発生しており、私
がイラガに興味を持ったのもこの木の影響だ。
自宅のヤマボウシ →
1
第2節
コロニーを形成する動物たち
コロニーを形成する動物は世界中に多く存在しその目的も様々だ。 動物たちのコロニー
を形成する理由をいくつか取り上げたいと思う。
① 敵から逃げる
② 敵に対抗する
③ 移動する
④ 生殖のチャンスを作る
⑤ 食料の獲得を容易にする
いくつか例を見てみよう、イワシは水鳥や他の魚から少しでも多く生き残るため 一つの
集団をつくる。これは①が当てはまる。集団で移動する渡り鳥は③、サケが集団で川を上
りタマゴを産む行動は④が当てはまる。ライオンは集団で狩りをするので⑤だ。
昆虫はどうだろうか。アリやハチなど社会性昆虫は⑤が当てはまる。ユスリカの蚊柱は
④だ。
また、特殊なものとしてチャドクガのコロニーを形成する理由がある。チャドクガは硬
いツバキの葉を食べるために、集団になる。 これは中に歯の
丈夫な個体がいると、他の個体が噛めない葉にも噛み付く
ことが出来、その結果、その噛み口からはより歯の弱い個
体も餌を得られるようになり、全体の生存率が高まる効果
があるそうだ。これは⑤に当てはまるがライオンなどの一
般的なものとは異なるため⑥とする。
チャドクガ→
第3節
イラガのコロニーを形成する理由
では、イラガは何のためにコロニーを形成するのだろう。考えられることを第2節で述
べた①~⑥のタイプから推測してみた。
(a)集団で逃げることによって、犠牲を少なくしている( ①敵から逃げる
タイプ)
(b)集団でまとまることで棘を利用して外敵からの攻撃を防いでいる
(②敵に対抗する
タイプ)
(c)チャドクガ同様、歯の丈夫な個体と歯の弱い個体がいて、丈夫な個体が噛んだ葉の噛
み口から他の個体がえさを得ている(⑥チャドクガ
タイプ)
以上の(a)~(c)でコロニーを形成する理由について絞っていく。
○コロニーの観察
最初に行ったのは、コロニーの観察である。今回採集した31匹のコロニーから体長ご
とにコロニーの規模をまとめてみた。
2
イラガの体長別コロニーの規模
体長
コロニーの規模(匹)
コロニ
(mm)
ーの総
1~5
6~10
~2
11~30
31~
数(個)
●
●●●
4
●●●
9
3~7
●
●●
●●●
8~13
●●●●
●●●
●
14~
●●●●●●
●●●
8
10
●
(●はコロニーの数)
このことから体長が大きくなるにつれてコロニーは小規模化するのがわかる。最初 は多い
もので100匹ほどのコロニーを作っていたイラガの幼虫は最後には大半が1匹でいた。
次に体長4~5mm、32匹のコロニーのイラガを飼育してみた。すると、最初は1つ
のコロニーを形成していたが成長するにつれ、コロニーは分裂を始め、小規模になってい
った。
① 採集したコロニー
②コロニーの分裂する様子
→
→
④成長につれコロニーはなくなる
3
③小規模になる
→
○実験①
イラガが敵に襲われたときのコロニーの反応について調べた 。
<実験方法>
イラガのコロニーを用意しそれぞれにピンセットでつつくなど刺激を与えコロニーの
変化を観察する。
<結果>
最初、一か所に集まっていたイラガは刺激によりそれぞれが別の場所へ動き始め、コロ
ニーは3分足らずで崩壊した。その後もイラガは動きつづけ、刺激から約20分後、再び
一か所に集まった。
①
実験開始前
②開始3分後
③開始20分後
○実験②
次にイラガを単独にするとどうなるかを調べるため、コロニーから隔離する 実験 した 。
<実験方法>
今回は体長が~2mm、3mm~7mm、8mm~13mm、14mm~ごとにイラガを分類した。体長ごと
に 10 匹ずつイラガを用意し隔離する。エサ(ヤマボウシの葉)を与え続け、10 日後の生存
率について調べた。
<結果>
~2mm のサイズのイラガは隔離 10 日後、2 匹が生きており、8 匹は死んだ。(生存率 20%)
3mm~7mm のサイズでは 4 匹が生きており(生存率 40%)、8~13mmのサイズでは 9 匹が生
きていた。(生存率 90%)
さらに 14mm~のサイズのイラガでは 10 匹すべてが生きてい
た。またこれらの生き残ったイラガはほとんどがその後も成長し、成虫になった。
この実験から体長が大きいほど単独でも生きていけることがわかる。
4
○考察
第3節冒頭で述べた(a)~(c)のうちどれが、コロニーの形成理由としてふさわしいだろう
か。実験①から、イラガは敵に襲われた時、コロニーとは関係なくそれぞれが別の場所へ
逃げるということがわかった。よって棘の効果を利用した( b)でないことが分かる。ま
た、イラガの動きは遅く、鳥などの天敵に見つかれば逃げるのは不可能で、コロニーを作
る理由としてあまりに不自然だ。つまり、(c)チャドクガ同様、歯の丈夫な個体と歯の弱い
個体がいて、丈夫な個体が噛んだ葉の噛み口から他の個体がえさを得るためにイラガはコ
ロニーを形成しているのだろう。幼いイラガは1匹のみでは葉を噛めないものが多く、生
きていけない。成長するにつれ葉を噛める個体が増え小規模なコロニーでも生きていける
ようになる。そのため、実験②のように小さな個体ほど生存率が低いのだろう。また、小
規模なコロニーのほうが敵に見つかった場合、犠牲も少なくなる。これはイラガが自発的
にコロニーを分裂させる理由だろう。イラガのコロニーを作る行為は敵のことを考えると
危険なものであるが、1匹では生きていけない個体が存在するために行っているのだ。
第2章 感想
まとめ
今回、レポートを書く上で1番驚いたのは「イラガが非常にマイナーな生き物だった。」
ということだ。イラガについて書かれている本やウェブページは非常に少なく 、書いてあ
る内容も薄いものが多かった。コロニーを作る理由も明確に書かれた資料が見つからず、
断言できるまでに至らなかった。しかし、歯の丈夫な個体と歯の弱い個体がいて、丈夫な
個体が噛んだ葉の噛み口から他の個体がえさを得ている可能性が非常に高い。道端や庭に
いる見慣れた小さな生き物。彼らも実は厳しい自然を生き抜く数々の知恵と工夫を身につ
けているのだ。
家では害虫として母を困らせ、幼稚園では(友達が)おもちゃのように遊んでいたイラ
ガがこれほどまでに知名度が低かったことは正直驚いた。このウミウシのようで宇宙船の
ような神秘的でかっこいい生き物をぜひ周囲の人々に知ってもらいたいと思っている。
第3章 参考文献
小学館
「図鑑 NEO
ウィキペディア
昆虫」
「イラガ」
「アオイラガ」
Yahoo!知恵袋
5
「チャドクガ」