現代経営学応用研究(医療マネジメント)

現代経営学応用研究(医療マネジメント)
開講日時
5 月 30 日(金)
、6 月 6 日(金)
、6 月 13 日(金)
、6 月 20 日(金)
(1コマ目 18:20-19:50 2コマ目 20-00-21:30)
担当教員
松尾貴巳(神戸大学大学院経営学研究科教授) [email protected]
ティーチングアシスタント(TA) ・リサーチアシスタント(RA)
藤原 靖也(神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程)
教室
神戸大学梅田インテリジェントラボラトリ(梅田ゲートタワー8F:アクセス地図はホームページ
で確認してください)
http://www.b.kobe-u.ac.jp/ilabo/access.html
講義資料の入手方法
教材および参考文献(以下、資料と総称する)の入手方法には次の方法があります。本シラバスで
確認のうえ、準備してください。

シラバスホームページでダウンロードするもの(講義スライド)

神戸大学附属図書館の提供する電子ジャーナルでダウンロードするもの(参考文献等)

書店等で購入するもの(参考文献等)
オフィスアワーおよび連絡先
金曜日の夜間開講(18:20-21:30)であるため、特定時間帯にオフィスアワーを設定することはでき
ません。授業前後および相談を希望する日時のアポイントメントは、
[email protected] にメールで連絡してください。
授業終了後の課題
授業理解度を確認するため、7月末日を期限として、次の課題についてレポートを作成してくださ
い。なお、レポート作成にあたっては、箇条書きやプレゼンテーションファイルではなく、文章にし
て提出してください。提出先は上記アドレス宛に電子メールで送付してください。
① グループワークをふまえた、所属組織におけるインプリケーション
② 財務健全性を高めるもしくはバランスを取るための方策について
成績評価方法と基準
成績は、下記の4つの項目について、100 点をベースとして採点し、それぞれのウエイトを乗じた
得点を計算し、ウエイト付けした得点を合計して計算します。
授業出席 30%:全 8 回(2 回/日×4 日)の出席で 100 点とします。ただし、出席数が 4 回以下の
場合は、授業出席率得点が 0 点となるだけでなく、本授業の成績も原則として 0 点となります。
グループワーク評価 30%:グループワークについては、グループごとに評価を行い、グループ構
成メンバーが同じ評価になります。
(グループワーク得点は、S:100、A:90、B:80、C:70、D:60、E:0
(E 評価は未実施の場合)のいずれかとなります)ただし、貢献度が低くグループワークに実質的に
参加していないと認められる個人の評点は 0 点とします。
事後レポート評価 40%:提出されたレポートのレベルに応じて得点をつけます。得点は、S:100、
A:90、B:80、C:70、D:60、E:0(E 評価は未提出の場合)のいずれかとなります)。
その他+α:授業中の発言、グループワークにおける自組織事例の提供など、授業に貢献した場合
に、上限 10 点の範囲で+αの評価を行います(ただし、合計点 100 点を超えない範囲)
。
授業テーマと目標
1990 年代以降、医療を取り巻く環境は大きく変化し、医療組織は、サービスの質向上・維持をは
かりながら医療制度改革への対応が重要な経営課題となりました。とりわけ、規模の大きな病院等医
療機関では、サービスの質を保ちながら健全な経営を行うことが重要ですが、黒字病院は全体の三分
の一程度(32.4%※)であり、私的病院も約半数(47.5%)は赤字経営となっています。病院経営の
健全化は、私たちの社会に対する不安を払拭するためにも必要であり、生命に関わるだけでなく、国、
地方の財政に与える影響も大きいという点で国民の関心事だといえます。
他方、医療組織に経営管理システムを導入するうえでは、医療サービスの公共性や医療組織に従事
する職員の専門性にも配慮する必要があり、経営管理システムの導入が医療組織の経営管理目的にと
って逆機能を及ぼすことは避けなければなりません。
全体
32.4%
私的病院
52.5%
自治体病院
13.9%
その他公的病院
50.9%
(平成 24 年 病院運営実態分析調査に示された黒字病院比率(一般社団法人 全国公私病院連盟)
本授業では、医療組織が直面する諸問題について、医療組織固有の制度的な側面を理解したうえで、
医療組織における原価管理システムや戦略マネジメントシステムなどの管理会計システム(仕組み)
の果たす役割、意義について検討します。また、医療マネジメントについての知識を習得するだけに
とどまらず、医療マネジメントを通じて、公益性と利潤追求、規制と企業経営、測定と評価、プロフ
ェッショナル組織のマネジメントなどの経営の一般問題を解決に導く方策もあわせて検討したいと
思っています。
「医療マネジメントを学ぶ」だけにとどまらず、
「医療マネジメントを通じて示唆を得
る」姿勢が大切です。講義は、医療マネジメントに関する事前知識はなくても受講できるように設計
されています。
■第1週:5月30日(金)
1 授業オリエンテーション(最初の 30 分程度)
授業の狙いと到達目標、成績評価方法、グループワークの進め方(グループ分け)
最終レポート等について、説明します。
2 医療機関を取り巻く環境と医療管理会計
医療機関を取り巻く経営環境の変化と、その変化に対応するために求められるようになってきた医
療分野の経営管理システムについて解説します。
3 管理会計システムの導入とプロフェッショナル組織
ABC(活動基準原価計算)など、理論的にすぐれた手法であると評価されながらも、実際の実務
への導入には困難が伴う場合が少なくありません。逆に思ったよりもスムーズに導入できる場合もあ
るでしょう。どのような要因が、導入上の促進要因、阻害要因になり得るかを知ることは、導入失敗
のリスクを軽減し、導入成功の可能性を高めることことにつながります。そして、医療組織の特殊性
についても考えてみましょう。医療組織のように、医師、看護師など専門性が高いプロフェッショナ
ル人材で構成される場合、導入の成功率アップにつながるのでしょうか、それとも失敗する可能性が
高くなるのでしょうか。
本セッションでは、成功要因、阻害要因、また、成否に関連していると思われる医療組織固有の要
因について検討します。
教材・参考文献
□教材
・スライド資料
5月15日以降、研究科シラバスホームページで事前にダウンロード可能
□理解を深めるためにできれば事前に読むべき文献(医療関係者、本講義と受講者の業務、研究課題
の関連性が高い場合は、予め読んでおいて欲しい文献)
① 荒井耕(2013)『病院管理会計-持続的経営による地域医療への貢献-』中央経済社。
② ジェローム・グループマン著(美沢惠子訳『医者は現場でどう考えるか』石風社。
③ アトゥール・ガワンデ著『医師は最善を尽くしているか』みすず書房。
④ ドナルド・ショーン(佐藤学・秋田喜代美訳)『専門家の知恵-反省的実践家は行為しながら考
える』ゆみる出版。
⑤ マイケル・E・ポーター&エリザベス・オルムステッド・テイスバーグ(2009)『医療戦略の本
質』日経BP社。
⑥ ※わが国の病院の経営状況について理解するためには次を参照。
『平成 24 年度病院経営管理指標』
http://www.hospital.or.jp/pdf/06_20130613_01.pdf
⑦ ※わが国の医療保健制度については次の参照。
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken01/index.html
□その他参考文献
① Shannon, W. Anderson (1995), A Framework for Assessing Cost Management Accounting
Change: The Case of Activity Based Costing Implementation at General Motors 1986-1993,
Journal of Management Accounting Research, Vol. 7, pp. 1-51. (ゼネラル・モーターズにお
ける ABC 導入に関連した学術的論文です)※神戸大学附属図書館電子ジャーナルでダウンロー
ド可
② Chua, W.F., and A. Preston (1994), Worrying about Accounting in Health Care, Accounting,
Auditing & Accountability Journal, Vol. 7 No.3, pp.4-17.
③ Nyland, K., and I.J. Pettersen (2004), The Control Gap: The Role of Budgets, Accounting
Information and (Non-) Decisions in Hospital Settings, Financial Accountability & Management,
Vol.20 No.1, pp.77-102.
④ Malmi, T., and D. A. Brown (2008), Management control system as a package – Opportunities,
challenges and research directions, Management Accounting Research, 19, pp.287-300.
⑤ ロバート・サイモンズ(谷武幸ほか訳)
(2008)『戦略実現の組織デザイン』中央経済社。
⑥ 松尾睦著(2009)『学習する病院組織-患者志向の構造化とリーダーシップ』(同文舘出版)。
□事前課題
① 教材に事前に目を通しておいてください。「理解を深めるために事前に読むべき文献」の①~⑤
の図書について、可能な範囲で結構ですから読了しておいてください。
② 「病院経営を黒字にすることは難しい」という意見があります。とくに自治体病院などでは、「需
要がありながら収益性が低く私的医療組織で十分提供されないサービスを提供しているから収益
性が低いのは当たり前」と指摘されることもあります。しかし、現実には健全な経営ができている
医療組織もあり、同じような立地環境であっても財務業績に違いはあります。では、病院経営にお
いて財務健全性に負の影響を及ぼしている要因は何でしょうか。そして、財務健全性を高めるもし
くはバランスを取るためにはどのようにすれば良いのでしょうか。個人レポート提出日までに考
え、個人レポートに考察結果を記述してください。
■第2週:6月6日(金)
1 医療組織とマネジメント・コントロール
医療組織に導入されてきたマネジメントコントロール・システムの諸概念,すなわち,診療科別原
価計算,ABC(活動基準原価計算)
,BSC(バランスト・スコアカード)等について整理します。
2 医療におけるコストマネジメント:診療科別原価計算とABC、ケース研究
多くの医療組織で導入されている原価計算は、実施されているとしてもその洗練度は低く、セグメ
ント別の原価情報や診療科別収益性を把握することも困難であると言われています。また、業務のマ
ネジメントや意思決定における原価情報の活用度も決して高くはありません。
本セッションでは、ケースを通じて、医療 ABC/ABM についての理解を深めるとともに、導入上の
問題点や困難、また、それを克服するための方策等について検討を行ないます。
※時間が足りない場合は、第3週に引き続き検討します。
□教材
・スライド資料
5月15日以降、研究科シラバスホームページで事前にダウンロード可能
□できれば読んで欲しい参考文献
①荒井耕(2005)『医療バランスト・スコアカード:英米の展開と日本の挑戦』中央経済社。
②荒井耕(2007)『医療原価計算:先駆的な英米医療界からの示唆』中央経済社。
③荒井耕(2009)『病院原価計算:医療制度適応への経営変革』中央経済社。
④衣笠陽子(2013)『医療管理会計-医療の質を高める管理会計の構築を目指して-』中央経済社。
□参考文献
① 厚生労働省医政局(2005)「平成 16 年度病院経営をはじめとした非営利組織の経営に関する調査
研究報告書」
(医療施設経営安定化推進事業(株)明治安田生命生活福祉研究所)
(病院を含む非
営利組織の経営に関する実態調査報告書です)。
② 山下正喜(2008)『医療原価計算 』創成社。
③ Judith J. Baker (1998), Activity-Based Costing and Activity-Based Management for Health Care ,
Aspen Publishing.
④ Steven A. Finkler , David M. Ward , Judith J. Baker (2007), Essentials of Cost Accounting for
Health Care Organizations, 3rd. edition.
⑤ Steven A. Finkler , David M. Ward (1999), Cost Accounting for Health Care Organizations:
Concepts and Applications, 2nd edition.(③④⑤の三冊は、医療原価計算に関する欧米での定番の
教科書です)
⑥ Margaret A. Abernethy, Wai F. Chua, Jennifer Grafton and Habib Mahama (2007) Accounting
and Control in Health Care: Bahavioral, Organisational, Sociological and Critical Perspectives, in
Christopher, S. Chapman, Anthony G. Hopwood, and Michael D. Shields, eds Handbook of
Management Accounting Research, Volume 2.pp. 805-830.
⑦ Leslie Eldenburg and Ranjani Krishnan (2007) Management Accounting and Control in Health
Care: An Economical Perspective, in Christopher, S. Chapman, Anthony G. Hopwood, and
Michael D. Shields, eds. (2007) Handbook of Management Accounting Research, Volume 2, pp.
859-884.(⑥⑦は、英文研究雑誌に掲載された医療機関の管理会計に関する研究のレビュー論文
です)。
⑧ 加登豊編(2008)『インサイト原価計算』中央経済社。
⑨ 加登豊編(2008)『インサイト管理会計』中央経済社。
(⑧⑨の二冊は、原価計算および管理会計の参考書です。書店には、数多くの原価計算と管理会計
のテキストが置かれています。そのなかから、良書を選んでもよいでしょう)
□事前課題
① 「伝統的な原価計算では、正確な原価対象(たとえば、製品や部門など)別の原価は計算できな
い」と言われています。このことは、製造間接費の配賦方法を問題としたものです。なぜ、その
ようなことがおこるのでしょうか。
② ①の問題は ABC で克服できるでしょうか。限界はあるでしょうか。授業日までに考えておいて
ください。
■第3週:6月13日(金)
1 医療におけるコストマネジメント:診療科別原価計算とABC、ケース研究(続き)
2 医療におけるコストマネジメント:個別原価計算、ケース研究
間接費の構成比の高さと合理性の低い配賦方法に伴う原価計算情報の精度低下の問題を克服する
方法としてABCが提唱されましたが、ABCとは異なるアプローチとして、間接費の割合自体を低
減させ、直接費として正確に測定することで情報精度を高めようとするアプローチもあります。
本セッションでは、直接費の比重を高めることにより患者別の原価情報を高める事例をもとに、そ
の意義、課題をABCとも対比させつつ検討を行います。
□教材
・スライド資料
5月下旬以降、研究科シラバスホームページで事前にダウンロード可能
□できれば読んで欲しい参考文献
第2週目と同じ
3 医療バランス・スコアカード:導入プロセスとケース研究
数値による管理 (management by numbers)は、多くの人から忌み嫌われる管理方法です。しかし、
コントロール活動を間違いなく機能させるためには、数値による管理が、人間が考えだした方法のな
かで一番効果があることは事実です。また、測定を行わない管理(結構、実際には多く実践されてい
ますが)は、無力です。このことは、
「測定できなければ管理できない」(No measurement no control)
という言葉に端的に示されています。
管理会計では、会計数値(財務指標)によるコントロールを中心に研究が行われてきましたが、近
年、会計数値以外の数値(非財務指標)も併用するマネジメントや戦略策定に関心が高まってきてい
ます。その代表的な手法が、バランス・スコアカード(BSC: balanced scorecard)です。
本セッションでは、まず、最初に BSC の概念を学んだのち、医療組織への BSC 導入に関する以下
のケースについて検討します。第3週でより詳しく説明しますが、管理システムを導入し変革のマネ
ジメント(change process management)を実現する意義についても考えます。
□教材
谷武幸(2004)「病院におけるバランスト・スコアカードの導入 ―新須磨病院のケース―」『ビ
ジネスインサイト』第12巻第4号,pp.28-49.(スライド資料と共にダウンロードできるように
する予定です)
□できれば読んで欲しい参考文献
① Lars-Göan Aidemark (2001), The Meaning of Balanced Scorecards in the Health Care
Organisation, Financial Accountability & Management, Vol. 17, Issue 1, pp. 23-40.
神戸大学附属図書館 電子ジャーナルでダウンロード可
② 加登豊編『インサイト管理会計』中央経済社、2008 年(BSC に関する記述部分)。
③ ロバート・サイモンズ(谷武幸ほか訳)
(2008)『戦略実現の組織デザイン』中央経済社。
□その他参考文献
① 谷武幸(2006)「病院経営へのBSCの導入―パブリックセンターへの適用を考える糸口とし
て―」『会計』第169巻第2号,pp.52-70.
② 谷武幸,三矢 裕,松尾 貴巳(2005)「新須磨病院整形外科におけるBSCの導入についての時
系列分析」『原価計算研究』, 第29巻第1号, pp. 35-46.
③ 谷武幸編著『成功する管理会計システム—その導入と進化』中央経済社、2004 年。
(第6章4 練
馬総合病院におけるバランスト・スコアカードの導入)
④ 安酸建二、乙政佐吉、福田直樹(2008)「非財務指標研究の回顧と展望」『国民経済雑誌』第 198
巻第 1 号, 79-94 頁。
(BSC など非財務指標をめぐる管理会計研究のレビュー論文です)
⑤ 松木智子(2005)「ミニ・プロフィットセンター制によるマネジメント・コントロールの分析:
結果・行動・人事・組織文化によるコントロールの視点から」『原価計算研究』vol.28. (コン
トロールには、結果によるコントロール results controls、行動のコントロール action controls、
人事的/組織文化のコントロール personnel and cultural controls の3つのタイプがあることを示
した教科書(Kenneth Merchant (1998), Modern Management Control Systems: Text and Cases,
Prentice-Hall.)の記述内容が要約された論文です。管理会計では、これまで主に結果によるコン
トロールを扱ってきましたが、それ以外のコントロールモードと結果によるコントロールの間に
も関係があることについてこの論文では取り上げています。
⑥ 高橋淑郎(2004)『医療経営のバランスト・スコアカード―ヘルスケアの質の向上と戦略的病院
経営ツール』生産性出版。
⑦ 高橋淑郎(2011)『医療バランスト・スコアカード研究 経営編』生産性出版。
⑧ 日本医療バランスト・スコアカード研究学会(2006)『医療バランスト・スコアカード研究
vol.2.1』日本医学出版。
□事前課題
教材を事前に読了しておいてください
■第4週:6月20日(金)
医療組織経営改革シナリオ検討会
最終セッションでは、原則として医療組織を対象にして、ABC あるいは BSC を導入し、赤字病院
の黒字化あるいは収益性向上を図るシナリオをグループで作成し、報告を行ってもらうことにしま
す。対象とする医療組織は、これらの管理会計技法を導入しているかどうかは問いません。ただ、
「こ
のようなシステムを導入する」という内容では不十分です。想定される困難や阻害要因を克服する方
策も含めて提案してください。
□事前課題
① 報告会で使用するプレゼンテーション資料を作成し、6月17日までに提出してください。
② 提出するレポートには、誰がどのような作業を行ったかについて各自の具体的な貢献内容を明
記した貢献表を添付してください。