光磁気記録に関する研究

高開口数レンズ・短波長光源を用いた
光磁気記録に関する研究
中沖 有克
目 次
第1章
序論
1-1 これまでの開発動向
1-2
1-3
1-1-1
光ディスクの開発 ························································1
1-1-2
光磁気ディスクの歴史 ··················································3
1-1-3
光磁気ディスクの高密度化 ············································5
光学パラメータと光磁気記録
1-2-1
対物レンズの高NA化 ··················································9
1-2-2
光源の短波長化 ···························································11
本研究の目的と概要 ·································································14
参考文献 ··················································································15
第2章
薄膜磁気コイル
2-1 序 ·························································································19
2-2
計算による基本設計
2-2-1
Biot-Savart の法則 ······················································22
2-2-2
平面コイルの基本設計 ··················································23
2-3 試作コイルの諸特性
2-4
2-3-1
コイルの試作 ······························································27
2-3-2
磁界強度特性 ······························································29
2-3-3
温度特性 ····································································37
2-3-4
光学系と組み合わせたコイル設計例 ································40
まとめ ···················································································42
参考文献 ··················································································43
第3章
高NA用光磁気媒体
3-1 序 ·························································································44
3-2 実験方法 ················································································46
3-3
グルーブノイズの改善
3-3-1
成膜後のグルーブ観察 ··················································48
3-3-2
紫外線(UV)照射によるノイズレベル改善効果 ···················50
3-4 逆成膜ディスク
3-4-1
高NA対応ディスク ·····················································54
-i-
3-4-2
下地膜の表面荒さ ························································55
3-4-3
エッチングによる低ノイズ化 ·········································56
3-5 低ノイズディスク ····································································58
3-6
表面荒さによるディスクノイズ ··················································61
3-7 まとめ ···················································································68
参考文献 ··················································································69
第4章
赤色・高NA光磁気ディスク
4-1
序 ·························································································70
4-2 実験方法
4-3
4-2-1
全体構成 ····································································70
4-2-2
薄膜コイルと高NA対物レンズ ······································71
記録再生特性
4-3-1
記録特性 ····································································73
4-3-2
信号再生特性 ······························································78
4-3-3
650nm、NA0.85 での記録再生密度 ································81
4-4 まとめ ···················································································82
参考文献 ··················································································83
第5章
青色・高NA光磁気ディスク
5-1
序 ·························································································84
5-2 実験方法
5-2-1
評価環境 ····································································84
5-2-2
ディスクの最適化 ························································85
5-3 高密度記録とパワーマージン
5-3-1
405nm、NA0.85 での記録密度·····································92
5-3-2
記録モデルとパワーマージン ·········································95
5-3-3
405nm、NA0.85 での記録パワーマージン······················103
5-4 まとめ ···················································································115
参考文献 ··················································································116
第6章
総括 ··························································································118
謝辞··························································································122
- ii -
第1章 序論
1−1
これまでの開発動向
1−1−1
光ディスクの開発
1972 年にフィリップス社から提案された光学式ビデオディスク方式に始まる光記
録技術は、半導体レーザ量産化技術の発達とともに急速な発展を遂げた。
光源に用いた
レーザ・ビーム径をミクロンサイズにまで絞ることによって、従来の記録技術とは桁違い
の高密度記録が可能となった。
また再生時のレーザ光を用いた基板越しの読み出しは、
汚れ、キズ等による信号の劣化に対し圧倒的な信頼性を有する事が出来る。
この様な特
徴を有する光記録技術により、僅か直径 120 mm のプラスチック製の円盤の中におよそ 1
GByte ものデータを貯め込むことの出来る CD システムが 1982 年に実用化された。 図1−
1980
85
1990
ROM
Green Book
(CD-1)
Red Book
(CD-DA)
95
2000
White Book
(Video-CD)
Yellow Book
(CD-ROM)
Photo CD
Scarlet Book
(Super Audio CD)
DVD Video
DVD Audio
色素
Orange Book1
(CD-MO)
Blue Book Orange Book2
(CD-WO)
(CD-R)
相変化
Orange Book3 DVD R, R/W
(4.7GB)
(CD-RW)
DVD R
(3.95GB)
PD
DVD RAM RAM
(2.6GB) (4.7GB)
650MB
1.3GB
2.6GB
5.2GB
640MB
1.3GB
9.1GB
光磁気
ISO/IEC規格
128MB
230MB
2.3GB
ISO/IEC規格
Rainbow Book
(140MB)
図1−1−1
MD Data2
(650MB)
様々な光ディスクの種類と、各種光ディスクのフラグメントシップ.
- 1 -
1−1には、その後相次いで市場投入された光ディスクを示す。 この CD に代表されるよ
うに、光ディスクはプラスチック基板にあらかじめ刻み込まれた信号を読み出す Read Only
Memory(ROM)からスタートしたが、次に登場したのはユーザーが自ら書き込む事の出来る、
Write-Once(W.O.)もしくは Direct Read After Write(DRAW)と呼ばれる追記型ディスク
である。
W.O.には、低融点材料を用い熱により材料を蒸発もしくは溶融に伴う表面張力
を利用してピットを形成する穴開けタイプ、結晶⇔非晶質の変化を利用した相変化タイプ、
異なる何種類かの材料を積層し熱が与えられた状態で合金化させる合金タイプ、特異な波
長領域の光に反応してその光エネルギーを吸収する色素を用い、分子構造の変化により記
録を行う色素タイプ等幾つかの方式が存在するが、いずれも記録部と未記録部の反射率差
を利用して信号を再生している。
これら記録時の加熱に伴う反応は(一部を除いて)不
可逆変化となるため、書き込み後消去したり再び書き込んだりすることは出来なかった。
そこで 1988 年頃には光磁気ディスクが、書換え可能型光ディスクとして登場した。 光磁
気ディスクは、その当時考えられていた書き換え型光ディスクの中で最も信頼性(特に繰
り返し記録回数に対する信頼性)が高く、その為にコンピュータのコード・データを扱う
ペリフェラル機器として採用された。 当初 5.25 インチの大きさから導入されたが、より
コンパクトな 3.5 インチも規格化され、情報化社会の進展を背景に開発がなされ大容量化
が推し進められてきている。
他方、1990 年代にはいり音楽用記録媒体として MD(Mini
オーディオ
データメモリ
ROM
CD(コンパクトディスク)
ROM
追記型RAM
色素
音楽録音用CD−R
追記型RAM
書換型RAM
光磁気
MD(ミニディスク)
相変化
音楽録音用CD−RW
穴開WO(12型、5.25型)
色素
CD−R
DVD−R
DVD−Audio
書換型RAM
光磁気
ビデオ/ピクチャー
MD−Data、−Data2
ROM
Video−CD
相変化
DVD
書換型RAM
MO(5.25型、3.5型)
PD
CD−RW
光磁気
iD
DVD−RAM
相変化
DVD−RAM
DVD−RW
図1−1−2
アプリケーション毎に分類された,商品化されている光ディスク.
- 2 -
Disc:ミニディスク)が発表され、光磁気ディスクはコンスーマの世界へと発展した。 そ
れにより、大量生産に伴う急激なメディアコストの削減が進み、安価な記録媒体が市場に
出回るようになった。 その後、1990 年代中頃になると、画像データ記録用フォーマット
として DVD(Digital Versatile Disc)規格が策定され、記録媒体には相変化ディスクが導入
されることが決定した。 CD のおよそ 5 倍に相当する 4.7 GB の容量を持つ DVD はアプリケ
ーションの観点から非常に魅力的であり、様々な使用環境を想定したフォーマットが決め
られた。
図1−1−2には目的別に分類された光ディスクの種類を示すが、この様に光
ディスクは種々の用途に使われるようになってきている。
また、最近では更に大容量化
を図り、23 GB もの大容量をもつ「Blu-Ray Disc」のフォーマットが公開になるなど、光デ
ィスクの開発に於ける大容量化はまだまだ続いているのが現状である。
1−1−2
光磁気ディスクの歴史
光磁気記録は、1958 年に L. Mayer による MnBi 薄膜に熱ペンで磁区を記録しカ
ー効果でその磁区を観察した実験1)が発端とされている。 これは、1950 年代に入って大
きく進歩した MnBi 薄膜研究の集大成と言っても過言ではない。
この年代の研究成果に
は、光磁気記録の礎として、3つの大きな意義が含まれていると考えられる。
その1つ
が、MnBi を薄膜化することで膜面垂直方向に磁化が配向するいわゆる垂直磁化膜となるこ
とを見出したこと2)である。
次に、熱により磁気記録を行った事実である。
この当時
は未だレーザなど開発されていなかった為に手法としてはスマートではなかったが、熱磁
気記録の概念を打ち出している。
最後に、磁気光学効果により、読み出し(この場合は
観察と言うべきであるが)の可能性を見出していることである。 その後 1960 年に He-Ne
レーザが開発され、IBM からレーザ・ビームにより記録再生する光磁気方式が提案される
ことによって、この分野の研究は急激に発展することとなった。
1960 年代の光磁気記録材料は MnBi3)、CoP4)、MnAlGe5)及び MnCuBi6)と言
った多結晶体材料を中心に開発が進められていった。 また記録等には He-Ne、Ar といっ
たガスレーザを用いていた。
ところが、これらの検討においては、ガスレーザを用いた
- 3 -
為にどうしてもシステムが大がかりとなってしまう事や、微小記録マークの検出のために
機械的精度を利用していたがそれだけでは十分な位置合わせ精度が得られなかった事、ま
た材料的にも多結晶性の材料を用いていたためその不均一性や、試料調整の為に熱処理が
必要となるなど、幾つかの課題を抱えていた。 光磁気ディスクの本格的な開発は 1973 年
の IBM の Chaudhari 等7)によるアモルファス薄膜による垂直磁化膜の発明以降といって
も過言ではないだろう。
同時期にフィリップス社により光ディスクが提案され、これに
伴った半導体レーザ(LD)開発及びフォーカス、トラッキングといったサーボ技術等も確
立することで、光磁気の開発にも拍車がかかったものと考えられる。
には15社以上もの企業の技術参入が報告されている。
事実、1980∼1986
光磁気記録材料としては GdFe、
TbFeCo 等の希土類―遷移金属アモルファス合金を用いた垂直磁化媒体が一般的となり、当
初 GdCo 等の材料を用いて行われていた補償温度記録(補償点記録)7)から、媒体のキュ
リー温度を記録動作点としたキュリー温度記録へと変遷していった。
その後、1988 年に
は ISO(国際標準化機構)による 5.25 インチ光磁気ディスクの標準規格決定を受けて、ソ
ニー、リコー、キャノン(但し、キヤノンは ISO 準拠ではない)の3社がドライブを商品
化した。
それぞれコンピュータの外部記憶装置としての用途を目的としている。
表1−1
使用
ISO3.5 光磁気ディスク及び DVD ディスクの主な仕様.
ISO3.5”
第1世代
ISO3.5”
第2世代
ISO3.5”
第3世代
ISO3.5”
第4世代
ISO3.5”
第5世代
DVD
RAM
規格化年
1991
1994
1996
1999
2001
1999
光源の波長
780nm
780nm
685nm
685nm
665nm
650nm
対物レンズNA
0.53
0.55
0.55
0.55
0.55
0.6
ディスク容量
128MB
230MB
640MB
1.3GB
2.3GB
4.7GB
ディスク径
86mm
86mm
86mm
86mm
86mm
120mm
ビット長
1.04μm
1.00μm
0.49μm
0.29μm
0.23μm
0.28μm
トラックピッチ
1.6μm
1.39μm
1.1μm
0.9μm
0.67μm
0.615μm
回転制御方式
CAV
ZCAV
ZCAV
ZCAV
ZCAV
ZCLV
- 4 -
LD の波長 830 nm、NA=0.52 の光学パラメータを配し、性能として 5.25 インチ両面に約
600 M バイトの記憶容量を有する。 1991 年には、5.25 インチとほぼ同性能でディスク径
を 3.5 インチにした規格も決定され(表1−1参照)、コンピュータ・ペリフェラル機器と
して本格的に始動し始めた。
その後、ほぼ 2 年毎に規格の改訂を行い、現在では最初に
商品化されたものに比して 20 倍以上の大容量化を達成している。
1−1−3
光磁気ディスクの高密度化
光磁気記録に於ける高密度化の歴史は、ISO 標準化に於ける変化の流れを調べれば
理解することが出来る。 3.5 インチ系を例にとって考えてみる事にする。 前述したよう
に、3.5 インチは 1991 年に商品化が行われ、片面 128 MB の記憶容量を有する。
世代では、約 2 倍近くの 230 MB まで、記録容量を向上している。
続く第2
これは第1世代の各速
度一定の Constant Angular Velocity(CAV)方式に対し、第2世代では記録フォーマット
として Zone Constant Angular Velocity(ZCAV)方式を採用しているためで、回転数はそ
のままで外周部に向かうほどセクタ数を増やし記録周波数を高めることで、記録面密度の
内外周差を低減し、密度効率を良くした記録フォーマットである。
レーザ波長を 780 nm から 685 nm へ短波長化した。
第3世代では、先ず
無収差を仮定した光学系に対し、光
ディスク上に絞られる光スポットのサイズd(1/e2 で表現されるサイズ)は、図1−1−3
に示すように光の波長をλ、対物レンズの開口数 NA をもちいて、
d ≈ 0.8 ×
で表される。
λ
NA
= 0.8 ×
λ
sin θ
[1.1]
言うまでもなく、dが絞られれば絞られるほど、より微細なマークが記録
出来ると同時に再生の分解能も向上し高密度化が可能となる。
ばそれに応じてより小さなマークまで記録/再生が可能となる。
従って、波長を短くすれ
第3世代では、この波
長変更に加え、記録マークに対するデータの検出方法も変えることにより、640 MB にまで
容量を上げている。
図1−1−4にはデータの検出方法として代表的な、2種類の検出
- 5 -
波長:λ
≈ 0.8×
λ
NA
θ
NA=n sinθ
(n:媒質の屈折率)
図1−1−3
方式を模式的に示した。
光の波長と,対物レンズの開口数(NA)と,集
光された光スポットサイズの関係.
第1,2世代で用いられている方法は、ピットポジション検出
と呼ばれ、図に示される通りマークの位置そのものをデータの 1 に対応させて記録する。
これに対し、第3世代より採用されたマークエッジ検出方法は記録マークの端部に情報の
1
を対応させることで記録を行う。
このようにすることで、同じサイズのマークに対
し、対応記録可能なデータサイズを小さくとる事が可能となる。
第4世代以降は、記録
記録マーク
記録データ
1
0
1
0
1
ピットポジション検出
図1−1−4
1 0 1 0 1 0 1 0 1 0 1
マークエッジ検出
ピットポジション検出とマークエッジ検出の原理模式図.
膜に工夫を凝らした。 磁気超解像(Magnetically induced Super Resolution : MSR)と
呼ばれる技術8、9、10)を用いている。
本報告では、MSR に関する報告を主目的としてい
ないので、ここでは簡単に紹介するにとどめる。 MSR では再生光スポットと再生光による
- 6 -
光学伝達関数
戻り光
戻り光
λ
P
NA
円形開口部
空間周波数
図1−1−5
媒体の昇温部とのずれを利用する。
光学的カット・オフ
光学的伝達関数の原理説明図.
磁性多層膜を用いて、ある温度以上もしくは以下で
磁化状態が一定となるよう調整されている媒体を用いる。
再生スポットと昇温部とはず
れているために、再生光が照射されている領域の一部分は信号に依らず一定で不感帯とし
て機能し、実際の再生信号は残りの領域より得ることになる。
即ち、あたかも再生スポ
ット内に開口制限を行う為のアパーチャを挿入して再生を行うのと等価な効果が得られる。
ところで、光ディスクにおける光学系が有する信号伝達性能を示すものとして Modulation
Transfer Function(MTF)が挙げられるが、これは理想的な無収差光学系を仮定すると、
図1−1−5のように検出信号強度が図式的に円形開口部での戻り光の重なりの面積とし
て解釈する事が出来る。
ここで、回折格子のピッチを P で表すと、戻り光の中心位置は
円形開口部の中心よりλ/P だけずれる事となるので、開口部で戻り光の重なりが全くなく
なる条件は、
2 × NA =
で、与えられる。
λ
[1.2]
P
[1.2]式より、再生信号が全く出て来なくなる条件、いわゆ光学的カッ
トオフ(Cuttoff)は、次式で与えられることが判る。
Cutoff =
1 2 NA
=
P
λ
[1.3]
- 7 -
光学伝達関数
円形開口部
戻り光
戻り光
空間周波数
戻り光
戻り光
円形開口部
図1−1−6
超解像再生の原理説明図.
通常の光ディスクにおいては、同一径の円形開口の自己相関関数として考えられるため、
図1−1−5に示すように大きさの等しい円形部の重なりとして再生信号強度を考えるこ
とが出来た。
一方 MSR 媒体の場合は、光ビームの記録媒体に対する往路と復路とで異な
る円形開口を用いていると考えることが出来る。
その様子を図1−1−6に示した。
MSR 媒体の場合には、開口制限されたアパーチャより戻り光を検出するので復路の開口部の
径が広がった状態に相当し、その為により高い空間周波数まで開口部の重なりが観測され
ることとなる。
このことは、光学的カットオフが延びより高い空間周波数の信号が検出
出来ることに相当する。
結局 MSR を用いることで、光学系の性能を向上することなく再
生特性を向上させることが出来る。 このような MSR を再生技術として採用し、ISO 第4世
代では第3世代と同一の光学系を用いて 1.3 GB の大容量を実現している。
これまで述べてきたように、光磁気ディスクにおいては、
(1)信号の記録・再生
方式の工夫によるディスク領域の利用効率の向上、
(2)媒体の工夫による再生特性の向上、
の2つの側面より開発が進められてきている事が判る。
特に(2)の側面においては、
同一光学系を使ったままで高密度化を進めるという、光磁気の高密度化に於ける一つの特
徴を知ることが出来る。 この流れはその後も続けられ、MAMMOS11)(Magnetic Amplifying
- 8 -
Magneto-Optical System)や DWDD12)(Domain Wall Displacement Detection)などの新し
い手法が提唱されてきている。
他方、光磁気以外の光ディスクの開発においては、1−
1−1節で紹介した CD、DVD、Blu-Ray に代表されるように、光学パラメータの選択により
高密度化が実現されてきた経緯がある。
ここで言う光学パラメータとは主に対物レンズ
の開口数 NA 及び波長λであり、NA は CD、DVD、Blu-Ray でそれぞれ 0.45、0.6、0.85 と大
きな値をとるようになっている。 また、波長に関しても 780 nm、650 nm、405 nm と短波
長化が進んでいる。
これらは[1.1]式から理解されるように、それぞれスポットサイズを
縮小させる方向に働いており、スポット面積に反比例して容量が決定されていることが判
る。
勿論、光磁気ディスクにおいても光学パラメータが密度を決定する重要な因子とな
りうることは言うまでもないが、これに関しての詳細な報告はあまり無いのが現状である。
これは、ISO という標準化活動の中で常に上位互換を保ちながら進化してきた結果、大幅な
光学パラメータの変更を避けざるを得なかった為と考えることが出来る。
むしろ、光学
パラメータを変えず互換性を保ったままで、如何に記録密度を上げるかが光磁気記録にと
って重要な課題だったように思える。
1−2
光学パラメータと光磁気記録
1−2−1
対物レンズの高NA化
NAを高めるアプローチは、顕微鏡の世界において古くより成されてきている13)。
例えば、対物レンズと試料との間に屈折率の高い Oil を充填する Oil Immersion の手法は、
充填する屈折率分だけ解像度を増加させる効果を有し、試料が油に浸ってしまうと言う欠
点を有しているものの非常に有効な方法であると考えられた。
その後 Mansfield 等は、
油浸部を半球形状を有する固体レンズに置き換えた、Solid Immersion Lens(SIL)を提案
した14)。 更に Mansfield 等は、SIL を光ディスク光学系へと適応を試み、テスト信号が記
録されている CD のピットパターンを静止系で観察し、その結果報告をしている15)。
彼
らは、図1−2−1に示すように半径 4 mm の半球レンズをディスクの厚さ 1.2 mm 分だけ
薄くした SIL を用い、ディスク基板と併せて半球形状となる構成をとった。 SIL の屈折率
- 9 -
Microscope Objective
θ
SIL (n=1.5)
Air gap
Protective Layer (n=1.5)
図1−2−1
Solid Immersion Lens による光ディスク
再生実験例13).
(≒ディスク表面層の屈折率)をn、ディスク法線に対し対物レンズ外縁部までのなす角
をθとおくと、この系が構成する実効的なレンズ開口数、NAeff は次式で与えられる。
NA eff = n ⋅ sin θ
[1.4]
従って、この実験の場合、対物レンズのNAが 0.7、n=1.5 であるからNAeff は 1.05 とな
る。
このように SIL を用いた高NA化のアプローチは比較的簡便に実現出来、かつ光デ
ィスクにも応用可能である事から、本技術を応用した報告が幾つか成された 16∼19)。
Maeda17)等は、実効的NA0.8 の光学系を用い、ディスク読み出し面に極薄い(∼0.1 mm)
層を、レンズとほぼ同屈折率のUVレジンを用いて作成し、十分な光学性能を得ている。
この薄い層(ディスク表面層)は、以下に論ずる理由により高NAを用いた系において非
常に有効であることが判っている。
ディスク基板の法線方向と対物レンズの光軸中心と
の間に傾きαのディスクチルトが存在する場合を仮定すると、ディスクとレンズの間に形
成された空気層を光が通過する際に大きな波面収差が生ずることが知られている。
この
時最も支配的となる3次のコマ収差(W31)を含む項は、レンズ開口数をNA、ディスク
表面層の屈折率をn、その厚さをtとした時に、
W31 =
と表されている20)。
t (n 2 − 1)n 2 sin α cos α ⋅ NA 3
2(n 2 − sin 2 α)
5
[1.5]
2
[1.5]式より、ディスクの傾きによって生ずるコマ収差が、対物レ
ンズのNAの3乗とディスク表面層の厚さに比例して増大する事が判る。
- 10 -
従って、例え
ばNA0.45 の対物レンズと波長 780 nm のレーザ光源により実用化された CD における 1.2 mm
の基板厚は、NAが 0.8 である系においてほぼ 1/6 以下にすることで同等のコマ収差に抑
えられることとなり、∼0.1 mm のディスク表面層が有効であることが判る。
Osato 等19)
はNA0.85、波長 635 nm の光学系に対して、ディスク表面層 0.1 mm の相変化ディスクを
用いて記録再生を行い、CD サイズでの容量 8 GB に対して十分なチルト特性を有しているこ
とを確認している。
高NA化を目指した光磁気記録の検討は、これまでに少ないながらも幾つか報告
されている20∼23)。 Ichimura 等18)は、NAeff=0.83、波長 532 nm の光源を用い記録再
生実験を行っている。
を行っている。
構造を最適化した光磁気膜を用い、CD 比∼6倍相当の高密度記録
用いた基板厚さ(ディスク表面層)は 0.6 mm、基板厚分だけ削った半球
SIL を用いて、レンズ−ディスク間のギャップ無しの状態で実験を行った。 最短マーク長
からの CNR45 dB 以上、ジッター9.0 %と言う値は、高NA下で光磁気記録の可能性を示す
に十分な結果であると考えられる。 Karns 等22)は青色波長光源を用いたスピンスタンド
光学系を用い、実験を行っている。
彼らは、トラッキング及びフォーカスと言ったサー
ボ動作を行うことなく実験が行えるよう工夫した。 ビームスポットサイズ及び TbFeCo へ
80 nm のドメインを記録しSNRを評価している。 他方、光磁気記録においては浮上型ヘ
ッドと組み合わせたアプローチも報告されている。 Mamin 等23)は浮上スライダーに載せ
た超半球型の SIL を、NA0.5 の対物レンズにより集光された 830 nm のレーザ光を照射す
ることで高NA化を実現し、スポットサイズの計測及び光磁気媒体への記録再生実験を行
っている。 Martynov 等24)は浮上スライダーと光学アクチュエータを一体化して構成し、
かつ薄膜磁気ヘッドを搭載させて記録再生実験を行っている。
十分とは言えないが、パ
ルス−磁界変調により記録された信号の再生結果が提示されており、このタイプでの記録
再生の可能性を示していると思われる。
1−2−2
光源の短波長化
光源を短波長化することで高密度化を図るアプローチは、NAを高くするアプロ
- 11 -
ーチよりも以前から行われていた。 特に Hashimoto 等が、Co/Pt 及び Co/Pd 系の材料が垂
直記録媒体として用いられること、更にこれらの材料が TbFeCo 系の材料に比して 400∼600
nm といった短波長側での性能指数(カー回転角)が高く、短波長用の光磁気材料として適
していること、を示した25)ことを受けて、その後 1990 年代始めにはこれらの材料に関す
る検討が幾つか報告されている26∼30)。
これらの実験においては、短波長域で使用出来
る半導体レーザが無かった為に、光源としてはガスレーザを用いたもの26∼29)、波長を 1/2
に変換する Second Harmonic Generation(SHG)を用いたもの30,31)等が主流であった。
これらは、実験装置として大がかりなものになったり、記録の為の光変調を制御する事が
困難である等の欠点を抱えていた。
その為か短波長化を目指した開発はさほど活発化す
ることも無く、MSR など他方面への開発が集中した。 その後暫くして、1999 年頃には GaN
を用いた∼400 nm の半導体レーザ32,33)が使用可能となり、短波長化を目指した開発は再
びスタートすることとなる。 しかし残念ながら光磁気記録に関する報告は少なく、その
-45
Total noise
-50
Noise Level (dBm)
Readout power = 1.6 mW
Line velocity = 4.6 m/s
RBW = 30 kHz
-55
-60
-65
Laser + system noise
System noise
-70
0
5
10
15
Frequency (MHz)
図1−2−2
短波長光源(波長 407nm)による光磁気ディスクのノイズスペ
クトラム34).
- 12 -
Kerr Rotation Angle (deg.)
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
基板 / SiN / TbFeCo(15 nm) / SiN / Al
反射率 15 % 固定
楕円率 0.30 deg. 固定
0.2
0
350
400
450
500
550
600
650
700
750
Wavelength (nm)
図1−2−3
光磁気材料(TbFeCo)におけるカー回転角の波長依存性.誘
電体によりカーエンハンスされた状態での結果.
殆どが相変化材料を用いたものであった34)。
短波長光源を用いて光磁気記録再生を行った場合の問題点の一つに、ノイズレベ
ルが挙げられる。 Sabi 等35)は波長 407 nm の Kr レーザを用い、TbFeCo 媒体を使って再
生時のノイズレベルを評価している。
図1−2−2にその様子を示したが、ほぼ 7 MHz
以上の帯域でレーザ+システムノイズが全体のノイズに対し支配的となっていることが判
る。
ここでレーザノイズには、レーザ光変動等によるノイズの他に、レーザ光を光検出
器で検出する際に発生するショットノイズが含まれている。
システムノイズ単体では非
常に小さな値をとっていること、Kr レーザのレーザノイズは非常に小さいことが予想され
る事などから、このノイズはほぼショットノイズであることが理解出来る。
短波長だと
光検出器の感度が低下してしまう為に、等価的に再生パワーを低下させた状態と同じにな
る。
この時、再生パワーに比例するメディアノイズよりも、再生パワーの平方根に比例
するショットノイズが相対的に顕著になってしまう為と考えられる。
- 13 -
この様に、短波長
光源を用いた場合にはショットノイズ支配と成り易くなる傾向にあるだけでなく、その上
図1−2−3に示すようにカー回転角も低下してしまう為に、光磁気記録において十分な
再生特性を得る為には再生パワーを増加させるなどの工夫が必要となってくる。
再生パワーにより光量を稼ごうとすると、別の問題が生じてくる。
一方、
Sabi 等は、再生時の
再生光照射による媒体温度上昇がカー回転角の減少をもたらし、その結果再生特性を劣化
させていることを突き止めた。 彼らはこの問題に対し、記録媒体に隣接して Ag 等の高熱
伝導率材料を配置することで媒体の温度上昇を避け、ほぼ理論通りの再生特性を得ること
に成功している34)。 このように、短波長光源を用いた場合如何にカー回転角の劣化やノ
イズを上昇させることなく再生特性を得るかが重要なポイントとなる。
1−3
本研究の目的と概要
本研究においては、光磁気記録において光学パラメータを変えた場合の影響に着
目し、特に高NA光学系及び青色短波長光源を用いた場合の高密度化の可能性を追求する
ことを目的としている。
本論文では、主にNA0.85 の光学系を用い行ってきた、光磁気
記録における高密度化の検討内容に基づいて詳述されている。
以下に、本論文の主な構
成について紹介する。
第2章においては、高NA光学系を用いながら磁界変調記録を行う際に必要不可
欠と考えられる薄膜磁気コイルに関して、理論的及び実験的に検討した結果について述べ
ている。
理論的検討においてはビオ・サバールの式を用い、空芯コイルの形状からくる
理論的挙動に着目し、コイルとしての静的特性から動的特性までを議論する。
また、実
際に試作した薄膜コイルを用いて、その特性評価を中心に検討を行う。
第3章においては、主に記録媒体に焦点を当てる。
高NA化により顕著化する
メディアノイズに着目し、ディスクのグルーブ部と平坦部との比較からその起源を探る。
特にディスク表面の粗さに着目し、ノイズレベルとの関係を考察する事で、高NA化に伴
う問題点を明確にする。
また、ノイズ低減の為の対策を提案し、その妥当性に関しても
議論を行う。
- 14 -
第4章では、波長 650 nm でNAを 0.85 にまで高めた場合の、光磁気記録再生特
性について述べる。
信号の記録には第2章で検討した薄膜磁気コイルを用いており、表
面に薄いカバー層を設けたディスク構造を採用した。
薄膜磁気コイルを用いた場合の記
録特性、高NA光学系を用いて再生を行った場合の再生特性について議論し、最後に達成
可能な記録密度に関して述べる。
第5章では、NA0.85 に加え、レーザ波長を 405 nm に短波長化した際の記録再生
特性について、ランド&グルーブ基板を用いて考察を行う。
記録密度に関しては、NA
のみを変化させた場合、波長のみを変化させた場合それぞれを参考に、達成密度の妥当性
に関して議論を行う。
更にランド&グルーブにおける記録パワーマージンについての考
察から、高記録密度に適した基板形状への改良を試み、結果として十分なパワーマージン
を得られる状態で記録達成密度を議論する。
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High density optical disk system using a new two-element lens and
a thin substrate disk
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Short Wavelength MO Recording: System
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with Pt/Co MO disk
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- 17 -
High density SHG laser readout
31) I.Ichimura, Y.Sabi, Y.Takeshita, A.Fukumoto, M.Kaneko and H.Owa,
High Density
Magneto-Optical Recording with a Second-Harmonic Generation Green Laser
Jpn.
J. Appl. Phys. 32 (1993) 5312.
32) S.Nakamura, M.Senoh, S.Nagahama, N.Iwasa, T.Yamada, T.Matsushita, Y.Sugimoto and
H.Kiyoku,
Diodes
High-Power, Long-Lifetime InGaN Multi-Quantum-Well-Structure Laser
Jpn. J. Appl. Phys. 36 (1997) L1059.
33) S.Nakamura, M.Senoh, S.Nagahama, N.Iwasa, T.Yamada, T.Matsushita, H.Kiyoku,
Y.Sugimoto, T.Kozaki, H.Umemoto, M.Sano and K.Chocho,
InGaN/GaN/AlGaN-based
laser diodes with modulation-doped strained-layer superlattice grown on an
epitaxially laterally overgrown GaN substrate
Appl. Phys. Lett. 72 (1998) 211.
34) I.Ichimura, F.Maeda, K.Osato, K.Yamamoto and Y.Kasami,
Using a GaN Blue-Violet Laser Diode
Optical Dsik Recording
Jpn. J. Appl. Phys. 39 (2000) 937.
35) Y.Sabi, K.Kawase, K.Yamaguchi, N.Ando, Y.Maeda, T.Harada and M.Kanno,
Optical Disk for Blue Lasers
Jpn. J. Appl. Phys. 39 (2000) 943.
- 18 -
Magneto-
第2章 薄膜磁気コイル
2−1
序
光磁気記録材料としては GdFe、TbFeCo 等の希土類―遷移金属アモルファス合金を
用いた垂直磁化媒体が代表的であるが、これらの材料はフェリ磁性を示し反平行に結合さ
れた希土類と遷移金属のモーメントが相殺する補償温度を有する。
補償温度を超え媒体
の温度を更に上昇させると、キュリー温度と言われる磁性体の自発磁化が0となる温度に
達する。
加熱を止め媒体が冷却され始めると再び磁化が発生するが、その際に外部より
適当な大きさの一様磁界をかけておけば、媒体の保磁力も小さくなっているので、媒体に
発生した磁化の方向を外部磁界の方向に揃えることが可能である。
このまま更に降温す
れば保磁力が増大し、外部磁界よりも大きくなった時点で磁化の方向が固定されることに
なる。
この方法は,媒体のキュリー温度が記録動作における要である為キュリー温度記
録と呼ばれており、現在の光磁気記録方法の主流となっている。
図2−1−1に示すように、一様に着磁された光磁気媒体に逆向きの外部磁界を
与えた状態でレーザ光を断続的に照射すれば、照射が行われた領域のみに磁化反転が起こ
り記録マークを形成する事が出来る。
また連続照射を行えば一様に磁化された状態が形
レーザ光
磁性体(ディスク)
磁化
ディスク移動方向
外部磁界
図2−1−1
光磁気記録における記録原理と光変調記録の動作概念図.
- 19 -
成されるので、それぞれの外部磁界の方向を変えて組み合わせることにより磁化の方向が
逆向きとなった記録領域
1
と消去領域
0
とを形成する事が出来る。
この様に、
レーザ光強度を変化させて記録ピットを形成する方法は光変調記録と呼ばれ、市場に多く
出回っている ISO 準拠の光磁気ドライブの大半に採用されている。
光変調記録では、∼
250 Oe 程度の一様な外部磁界環境下で光強度のみを変調すればよいので、ISO−5.25 イン
チ等で採用されている様な両面ディスクの場合でも容易に対応できる利点を有している。
光変調記録においては、上述したように記録に先立って媒体の磁化状態を一様に
消去方向へ揃えておく必要がある。
その為、交換結合磁性多層膜を用いた光変調オーバ
ーライト1)が提案されるまでは、直接情報を書き換える
光変調記録の大きな欠点とされていた。
ダイレクトオーバーライト
が
そこで有力視されていたのが、磁界変調記録と
いう方法である。 田中等2)は、媒体にレーザ光を連続照射させた状態で外部磁界を記録・
消去の両極性に変調し、 0
と
1
を繰り返し連続して記録することに成功している。
この方法を用いれば、媒体は切れ目無くキュリー温度に達するために、記録前の磁化状態
にかかわらず変調した磁界の向きに従った磁区が順次形成される。
磁界変調記録におけ
る記録マーク形状は、円形の高温領域が連続的に移動しながら新しい記録領域を形成して
ゆくのでマーク後方端が常に同じ方向に湾曲した円形となり、その結果
矢羽 形状とな
る特徴があることが知られている。 磁界変調記録は光磁気ディスクシステムのかなり初期
の段階より提唱されていた3)にもかかわらず、最初に商品化された ISO システムにおいて
は両面仕様などの理由から採用されることはなかった。 しかしながら、磁界変調記録は、
記録パワー変動に伴う記録ピット長の変化が光変調の場合に比して非常に小さく制御性が
よいこと4)、記録されるマークの大きさが概略孤立パルス照射時の熱伝搬長に強く支配され
る光変調記録に対し、前後の熱伝搬分布のずれによりマークの長さを制御する為に光スポ
ットサイズよりも小さな記録マークを形成できることなどの理由より、特に高密度化にお
いて注目された。
当初、レーザ光を連続照射し磁界のみ変調させる DC 磁界変調2、4)が
行われていたが、変調される磁界に併せてレーザをパルス的に変調するパルス磁界変調方
式5)が提案された。 現在では、記録するデータに応じて変調された外部磁界に同期させ、
チャネルクロック毎にパルス光を発光させる記録方式が主流となっている。 Yonezawa 等
- 20 -
6)
は熱シミュレーションにより、パルス磁界変調方式においては DC 磁界変調方式に比して
より矢羽の曲率が緩やかとなり高線密度化に有利であることを見いだしている。
パルス
照射時の熱拡散による温度分布の方が、DC 照射時のそれに比して緩慢となる事によるもの
と考えられ、高密度化に対して更に有利となっているものと考えられる。
磁界変調記録では、必要磁界強度を得る為に外部磁界を与える磁気ヘッドはディ
スクの膜面側に配置する必要がある(図2−1−2参照)
。
通常は図に示されているよう
に、基板面よりレーザを照射した状態で反対側の膜面より磁界を与える。
磁界は、浮上
型もしくは摺動型のスライダーにセットされた磁気コイルを用いて発生させる。
この様
に、磁界変調記録においては、記録媒体と磁気ヘッドとの距離を小さくする事は非常に重
要であり、システムを構築するにあたっては十分に考慮する必要がある。
本研究のよう
に高NAシステムの構成においては、前述したように光ヘッドに対し読み出し表面層を薄
くする必要がある為に、ディスク膜面からの読み出しが必須となる。
その結果、同じ側
に磁気ヘッドと光学ヘッドとを配置せねばならず、通常の磁気ヘッドを用いていたのでは
磁気ヘッド
磁性層
磁性層
カバー層
ディスク基板
対物レンズ
図2−1−2
実現が困難である。
磁気ヘッド
対物レンズ
光磁気記録における通常の磁界変調記録(左側)と,高NA光
学系を用いた場合の磁界変調記録(右側).
そこで磁界変調記録を行う為には、光ヘッドと一体化可能な超小型
の磁気ヘッドが必須となる。
本研究では、これらの課題を解決する為、光を透過するガ
ラス基板上に薄膜コイルをパターン形成し、これを半球レンズ−ディスク間に配する事に
した。
本章では、薄膜コイルの設計を行い、高NAレンズを用いた光磁気記録において
磁界変調を可能とする事を目的としている。
簡単な空芯コイルの発生磁界計算を行い、
- 21 -
消費電力と必要磁界のバランスを考慮した上で最適設計を試みた。
また、この結果に従
い実際にコイルを試作し評価を行った結果も併せて紹介する。
2−2
計算による基本設計
2−2−1
Biot-Savart の法則
微小部分 ds に電流 I [A]が流れているとき、それから距離 r [m]離れた点 P での
磁界 dH [A/m]は、MKS 単位系で記述すると、
I ⋅ ds& × r&
dH& =
4 ⋅π ⋅ r 3
[2.1]
で、表される。ここで、ds と r のなす角をθとすると、
dH =
I ⋅ ds ⋅ sinθ
4πr 2
[2.2]
で表されることとなる。 これをビオ・サバールの法則と呼ぶ7)。 今、図2−2−1のよ
うに半径 a の円形コイルに電流 I を流したときに、円に垂直な中心軸上での磁界の強さを
求めることとする。 ds と r のなす角θは、Ids の位置にかかわらず常にπ/2となるの
で、dH の大きさは、
dH =
Ids
4πr 2
[2.3]
となり一定である。 ここで、磁界が発生する方向は ds と r が作る平面に垂直となるので、
r と a のなす角をψとすると dH の中心軸方向の成分 dHp は、
dHp = dHcosϕ
となる。
[2.4]
同様に中心軸に垂直な成分も考えられるが円を一週することで対象成分がキャ
ンセルされゼロとなる。
従って、点Pでの磁界の強さ H は dHp についてのみ考えれば良
く、
cosϕ =
a
=
r
a
[2.5]
a2 + x2
なる関係があるので、[2.3]式、[2.5]式を[2.4]式に代入し全週にわたって積分して、
- 22 -
H = ∫ dHp = ∫ dHcosϕ = ∫
C
=
C
C
Ids a
aI
⋅ =
ds
2
4πr r 4πr 3 ∫C
aI
a2I
a2I
2
a
π
=
=
4πr 3
2r 3 2 a 2 + x 2
(
)
3
[2.6]
2
ϕ
dH P
π
P
dH&
2
x
r&
ϕ
O
a&
θ=
π
2
Ids&
I
図2−2−1
が、得られる。
円形電流モデルとビオ・サバールの法則.
本研究で用いられる空心コイルの場合、[2.6]式をコイルのターン数分だ
け足し合わせることで求めることが出来る。
2−2−2
平面・空芯コイルの磁界計算
まず発生磁界強度に関する見積もりと検討を行うために、[2.6]式を用いて簡単に
計算を行う。
基本構想においてコイルの形態は、中心部に光が通るための穴が開いた平
板スパイラル形状の空芯コイルとなっているため、中心軸上の磁界強度を代表値として求
める。
尚、磁性体コアの影響は、今回用いた様な簡便な方法では見積もる事は不可能で
あると考えられる。
そこで、磁界計算時にはコアがない状態での見積もりを行い、最後
に実験から得られた経験値として2割程度磁界強度が増加するものとして換算し対応した。
- 23 -
パラメータとして、コイル最内周径(50,100,150 μm)
、ターン数(5,10,15,20,25)
を選び、簡単のためコイルスパイラルは1層構造で計算している。
また,今回計算に用
いたコイル形状は、幅 9 μm、高さ 8 μm、ピッチ 13 μm に固定し、内径及びターン数に
より変化する長さ分だけ抵抗値が変化するものとし、この抵抗値から消費電力(DC)を
算出する。
図2−2−2∼2−2−4には、消費電力∼300 mW と仮定した場合の、コイ
ル上面からの距離に対しての磁界強度を計算した結果を示してある。
目標とすべき発生
磁界は、メディアの磁界感度にもよるが、ここでは∼200 Oe としてコイル−媒体間の距離
について検討する。
グラフ中、200 Oe をラインが横切るのは内径 50 μm と 100 μm の場
合のみに限られる。
コイル内径が 150 μm ほどになってしまうと、200 Oe もの磁界強度
を得ることは 300 mW 以上の電力を投入しない限り難しいことが判る。
これは、磁界強度
が単にコイルとの距離だけではなく、コイル内径の大きさに強く依存していることを示す
ものである。
更に、内径 50∼100 μm において、200 Oe が得られているのは、コイル上
300
5 turn
10 turn
15 turn
20 turn
25 turn
Magnetic Field (Oe)
250
200
150
100
50
φ50 µm, 300 mW
0
0
20
40
60
80
100
Coil/Media Distance (µm)
図2−2−2
内径 50 μm の空芯コイルの中心位置における,コイル上面
からの高さによる発生磁界強度(計算値).
- 24 -
300
5 turn
10 turn
15 turn
20 turn
25 turn
Magnetic Field (Oe)
250
200
150
100
50
φ100 µm, 300 mW
0
0
20
40
60
80
100
Coil/Media Distance (µm)
図2−2−3
内径 100 μm の空芯コイルの中心位置における,コイル上面
からの高さによる発生磁界強度(計算値).
300
5 turn
10 turn
15 turn
20 turn
25 turn
Magnetic Field (Oe)
250
200
150
100
50
φ150 µm, 300 mW
0
0
20
40
60
80
100
Coil/Media Distance (µm)
図2−2−4
内径 150 μm の空芯コイルの中心位置における,コイル上
面からの高さによる発生磁界強度(計算値).
- 25 -
面からの距離が 40 μm かそれ以下の範囲であることが判る。
従って、コイル上面より媒
体までの距離を∼40 μm 程度に選ぶことが望ましいと予想される。
更に、僅かではある
が 40 μm-200 Oe の条件においては 10 ターン構成が有利であるという結果となっている。
他方、光ビームはコイル中心穴を通って往復するため、高 NA 等の制約からくるス
ポット径を確保できる大きさをコイル径として有していなければならない。
図2−2−
5には、NA=0.85 としたときのコイル上面からの距離を変化させたときのコイルデバイス下
面でのスポット径を計算した結果を示す。
ここで、基板上に形成されたコイル・デバイ
ス厚さは 15 μm である。 また、ディスクからの反射光線は焦点位置から n=1.515 のカバ
ー層(Cover)を通り n=1.0 の空気層(WD)を通ってくるものとし、それぞれの厚さの比率
(Cover:WD)をパラメータとしてある。 先程の結果から、コイル上面から 40 μm 位置で
Center Hole Diameter (µm)
200
150
NA=0.85
コイルデバイス厚さ:15 µm
100
Cover:WD=1:9
Cover:WD=3:7
Cover:WD=5:5
Cover:WD=7:3
Cover:WD=9:1
50
0
20
40
60
80
100
Coil/Media Distance (µm)
図2−2−5
NA0.85 の光学系を用いた場合の,コイル−媒体間距離によ
るコイル底面部におけるスポット径.
のコイル内径に着目すると、Cover:WD 比率にも依存するが 100∼150 μm に選ばれることが
判る。
Cover と WD の比率はここでは決めることが出来ない。
一般的には、Cover は本
来厚い方が、表面に存在するゴミ・傷が信号に影響する度合いは減少するであろうし、WD
- 26 -
も十分にあった方がヘッド衝突等の可能性も低くなり好ましいと考えられる。
図2−2
−2の結果より、内径∼50 μm のコイルであればコイル/媒体間距離を∼40 μm 程度まで
離すことが出来る事が判るが、図2−2−5の結果からスポット径の観点では成り立たな
い事が判る。
コイル内径を∼100 μm 前後に選択すれば、コイル/媒体間距離∼40 μm
前後で所定の磁界強度が得られ、且つスポット径の観点からも矛盾無く設計出来ることが
判る。
2−3
試作コイルの諸特性
2−3−1
コイルの試作
図2−3−1には,今回試作したコイルの構成を、図2−3−2にはコイル断面
図をそれぞれ示す。
コイルは,単層(1層)コイルとし、線幅 9 μm、高さ 8 μm、ピッ
コイル部
108∼180 µm
450∼500 µm
600∼700 µm
磁性体コア
センターホール
電極部(内周側)
電極部(外周側)
図2−3−1
薄膜コイルの外観構成図と,設計仕様.
- 27 -
コイル(Cu)
アクリル
センターホール
第1電極部
ARコート(TaO/SiO)
第2電極部 兼 磁性体コア(CoPdZr)
内周接続部
メッキ下地(Cr)
ARコート(TaO/SiO)
透明コイル基板(BK7 )
図2−3−2
①
薄膜コイルの断面構造図.
ガラス基板
洗浄
Cr
②
Cr蒸着
Cu
③
Cuメッキ
レジスト
④
レジスト塗布
⑤
露光
⑥
現像
⑦
エッチング(RIE)
図2−3−3
薄膜コイルの作成プロセス.
- 28 -
チ 13 μm、ターン数 10 とした。
類を試作した。
コイル内径はφ108 μm、φ128 μm、φ180 μm の3種
コイル外径は 450∼500 μm とした。
の技術を使って形成されている。
プロセスの一部を図示する。
これらはフォト・リソグラフィー
図2−3−3には、コイル試作の為のリソグラフィー
コイルはメッキプロセスとドライエッチングの組み合わせ
により作成され、材料としては Cu を用いている。 コイル周辺は絶縁の為、アクリル樹脂
で埋めてある。
されている。
コイル下部には電極の役割を兼ね備えた、磁性体コア(CoPdZr)が成膜
また、センターホールは光が通ることを目的としている為に、表面反射を
防ぐ目的で TaO、SiO2 の組み合わせによる AR コートを施してある。
図2−3−4に試作
したコイルの外観写真を示す。
図2−3−4
2−3−2
試作した薄膜コイルの外観の顕微鏡写真.
磁界強度特性
コイルの発生磁界測定には、10 μm 角のホール素子を送り精度 1 μm のステッピ
ングモーターに取り付けた測定器を用いて行った。
以下に磁界の測定結果を示す。
図
2−3−5∼2−3−7にはコイル内径の異なる3種類のコイルに対して磁界の測定結果
を示す。
Z軸は、電流 200 mA(DC)でのコイルセンターホール付近での測定磁界強度
- 29 -
140
100
60
20
-20
-60
-100
-20
20
-140
X-direction (µm)
-60
-100
-140
-180
-260
120
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
-10
-20
図2−3−6
140
100
60
20
-20
-60
Y-direction (µm)
コイル内径がφ108 μm の薄膜コイルの,DC 電流 200 mA
の時の磁界強度分布.コイルからの距離を 40 μm とした.
-220
Magnetic Field (Oe)
図2−3−5
-100
X-direction (µm)
20
-140
-20
-60
-100
-140
-180
-260
-220
Magnetic Field (Oe)
140
130
120
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
Y-direction (µm)
コイル内径がφ128 μm の薄膜コイルの,DC 電流 200 mA
の時の磁界強度分布.コイルからの距離を 40 μm とした.
- 30 -
図2−3−7
を示す。
140
100
60
20
-20
-60
-100
-20
20
-140
X-direction (µm)
-60
-100
-140
-180
-220
-260
Magnetic Field (Oe)
130
120
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
-10
-20
Y-direction (µm)
コイル内径がφ180 μm の薄膜コイルの,DC 電流 200 mA
の時の磁界強度分布.コイルからの距離を 40 μm とした.
センターホール付近では、コイル内径エッジでの磁界強度が高くセンターで低
くなる、カルデラ形状を呈しているのが判る。
コイル内径を小さくすると、丁度中心部
の磁界強度のくぼみが潰れる形で、分布が変化していく様子が良く判る。
図2−3−8
∼2−3−11には、内径 128 μm のコイルに対し、コイルからの距離を 20、40、60、80 μ
m とした場合の磁界分布の測定例を示す。 コイル近傍で測定した方が、遠くで測定された
ものに比してより複雑な分布を呈しており、遠くで測定されたものは分布が平均化された
形を示しているのが良く判る。
ところで光はあくまでもコイルセンターを通って出てく
ると考えられるので、代表値としてコイル中心での磁界強度に着目し、コイル電流と発生
磁界の関係を調べた。
図2−3−12、13、14にその結果を示す。
それぞれコイ
ル内径がφ108 μm、φ128 μm、φ180 μm の場合の測定結果を示し、コイルからの距離は
すべて 40 μm である。 それぞれ発生磁界はコイル電流に対してはほぼ完全に比例してお
- 31 -
140
100
60
20
-20
-60
-100
-20
20
-140
X-direction (µm)
-60
-140
-100
-180
-220
120
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
図2−3−9
140
100
60
20
-20
-60
Y-direction (µm)
コイル内径がφ128 μm の薄膜コイルの,DC 電流 200 mA
の時の磁界強度分布.コイルからの距離を 20 μm とした.
-260
Magnetic Field (Oe)
図2−3−8
-100
X-direction (µm)
20
-140
-20
-60
-140
-100
-180
-220
-260
Magnetic Field (Oe)
120
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
Y-direction (µm)
コイル内径がφ128 μm の薄膜コイルの,DC 電流 200 mA
の時の磁界強度分布.コイルからの距離を 40 μm とした.
- 32 -
140
100
60
20
-20
-60
-100
-20
20
-140
X-direction (µm)
-60
-100
-140
-180
-260
120
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
図2−3−11
140
100
60
20
-20
-60
Y-direction (µm)
コイル内径がφ128 μm の薄膜コイルの,DC 電流 200 mA
の時の磁界強度分布.コイルからの距離を 60 μm とした.
-220
Magnetic Field (Oe)
図2−3−10
-100
X-direction (µm)
20
-140
-20
-60
-100
-140
-180
-260
-220
Magnetic Field (Oe)
120
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
Y-direction (µm)
コイル内径がφ128 μm の薄膜コイルの,DC 電流 200 mA
の時の磁界強度分布.コイルからの距離を 80 μm とした.
- 33 -
200
Magnetic Field (Oe)
Type 108-661 (BK7)
40 µm hight
100
0
-100
-200
-400
-200
0
200
400
DC Current (mA)
図2−3−12
内径がφ108 μm の,コイルからの距離 40 μm におけるコ
イル中心部での発生磁界強度の DC 電流依存性.
200
Magnetic Field (Oe)
Type 128-447 (BK7)
40 µm hight
100
0
-100
-200
-400
-200
0
200
400
DC Current (mA)
図2−3−13
内径がφ128 μm の,コイルからの距離 40 μm におけるコ
イル中心部での発生磁界強度の DC 電流依存性.
- 34 -
200
Magnetic Field (Oe)
Type 180-467 (BK7)
40 µm hight
100
0
-100
-200
-400
-200
0
200
400
DC Current (mA)
図2−3−14
内径がφ180 μm の,コイルからの距離 40 μm におけるコ
イル中心部での発生磁界強度の DC 電流依存性.
り、直線性の良い結果が得られているのが判る。
また、それぞれのコイルに対し、コイ
ルとの距離に対する発生磁界をプロットしたものを図2−3−15に示す。
各々のコイ
ルの直流抵抗値を測定し、消費電力 I2R が∼300 mW となるように電流値を調整してある。
先のシミュレーション結果(図2−2−2、2−2−3、2−2−4)と比較して、多少
のばらつきはあるもののほぼ設計通りの値が得られていることが判る。
この結果より、
内径 128 μm のコイルを採用、コイル−媒体間距離 40 μm で使用することで、目標磁界の
200 Oe に近い値が得られている。
来る。
ほぼ設計通りのコイルが作成されていることが確認出
同様に、インピーダンスアナライザを用いて、試作したコイルの抵抗値,インダ
クタンスの周波数特性を測定した。 結果を図2−3−16に示す。 直流抵抗値は 2.2 Ω、
インダクタンス 45 nH であった。
また、インピーダンス特性としてかなり高周波まで特
性が延びており、周波数として 60 MHz 程度までの動作が可能であることがわかる。
- 35 -
250
Magnetic Field (Oe)
φ108 µm
200
φ128 µm
150
φ180 µm
φ108 µm
φ128 µm
φ180 µm
100
50
297 mW 10 turn
0
0
50
100
150
200
Coil/Media Distance (µm)
コイルからの距離に対する,コイル中心部で測定された発生
磁界強度.消費電力を 300 mW に固定した.
10.0
0.1
8.0
0.08
6.0
0.06
4.0
0.04
2.0
0.02
0.0
0
0.1
1
10
Inductance (µH)
Resistance (Ω)
図2−3−15
100
Frequency (MHz)
図2−3−16
インピーダンスアナライザにより測定された薄膜コイルの抵抗
値とインダクタンスの,周波数依存性.
- 36 -
2−3−3
温度特性
本節においては、作成されたコイルの一つの課題として発熱の問題を取り上げ、
対策を考慮して考察を行うことにする。
コイルに過電流を流すと、コイル中心部が異常
高温となり、やがてはコイルが破断してしまい導通がとれなくなる事がある。
顕微鏡下
でコイルに∼500 mA を数秒間通電し、その変化の様子を観察した(図2−3−17参照)。
すると、すぐにコイル絶縁材料に用いているアクリル樹脂(耐熱温度∼250 ℃)が黒く変
図2−3−17
過電流によりダメージを受けたと考えられる,薄膜コイルの表
面写真.
色してゆくのが観察された。
た。
この時、静止状態ではそのまま通電可能であることが判っ
即ちコイルの破断は、アクリルが炭化してぼろぼろになったところで衝突などの機
械的衝撃が加わったために起こるものと考えられる。
な材料の熱伝導率を示す。
表2−1にコイル作製に用いた主
絶縁材料に用いたアクリル系樹脂の熱伝導率は他の材料(例
えばガラスなど)に比して非常に低い。
このことから、熱対策として熱拡散性に優れた
構造を採ることにより、温度上昇を抑える方法が考えられる。
他方、コイルの絶縁材料
に SiO2,Al2O3 等の耐熱性に優れた無機材料などを用いることにより、熱に対する信頼性が
飛躍的に向上することが期待出来る。 そこで、基板として Al2O3 を採用し、ヒートシンク
- 37 -
表2−1
主な各種材料の,熱伝導率.
物質名
熱伝導率(W/mK)
ガラス
0.55∼0.75
石英
1.4
アルミナ
21
銅
∼400
アクリル
0.17∼0.25
空気
0.0241
※室温における値
としての特性を検証することにした。
Al2O3 の熱伝導率は、表2−1に示すように
21[W/(m・k)]と BK7(ガラス)に比して約20倍もの値を有しているセラミックで,当然電
Temperature (℃)
Substrate : BK7
φ128µm (5.5Ω)
115 Oe
Y-direction
(A.U.)
Temperature (℃)
気伝導度は低い。 図2−3−18には,BK7,Al2O3 基板上に同形状のコイルを形成し、周
Y-direction
(A.U.)
X-direction (A.U.)
図2−3−18
Substrate : Al2O3
φ128µm (5.5Ω)
115 Oe
X-direction (A.U.)
サーモメータにより測定された薄膜コイル表面の温度分布.
基板がガラス基板(左側)とアルミナ(右側)の場合.
- 38 -
160
Temperature (℃)
140
120
100
80
60
BK7
40
Al2O 3
20
0
100
200
300
400
500
Power (mW)
図2−3−19
通電時におけるコイル消費電力とコイル表面温度の関係.基
板がガラス(BK7)の場合とアルミナ(Al2O3)の場合の比較.
波数∼10 MHz の交流電流を通電した場合の上昇温度分布を測定した結果を示した。
BK7
を基板として用いた場合には、コイル部分での極端な温度上昇が観測されており、磁性体
コアと思われる円形台地部での温度との差が大きい。 これに比して、基板に Al2O3 を用い
た場合には、コイル部の温度上昇がかなり抑えられており、磁性体コア部の温度も BK7 の
場合よりも高くなり差が小さくなっていることが判る。
まとめたものを図2−3−19に示す。
果が顕著であることが判る。
投入パワーに対する温度変化を
図から判るとおり、Al2O3 を用いた昇温抑制の効
特に、Al2O3 を用いた場合には必要磁界(∼200 Oe)を得る
のに必要なパワー(300 mW)を与えても、温度上昇は∼60 ℃に抑えられており,かなり実
用的になってきていると考えられる。
- 39 -
2−3−4
光学系と組み合わせたコイル設計例
図2−3−20(a)に示すように NA=0.85 となるように開口制限された光ビー
ムが2群レンズ系に入射し、レンズ先端部に設置されたコイル中心穴を通るようにしてお
く。
この時、コイル内径がスポット径と一致すると仮定して、光軸が傾いた場合を考え
る(図2−3−20(b))。 光軸の傾斜角を最大 0.3゜と仮定し、光がコイル面にかかっ
(a)
(b)
コイル
コイル
レンズ
レンズ
レンズ中心軸
光中心軸=レンズ中心軸
図2−3−20
(c)
光中心軸
コイル
レンズ
レンズ中心軸
光中心軸
(a)通常の場合の2群レンズとコイル,及び集光ビームの関係,(b)チ
ルトがある場合のコイルと集光ビームの関係,(c)コイル内径を広げ
た場合の集光ビームの様子.
てしまう事によりビームが遮られ実効的な NA の低下分を見積もると、0.82 以下となってし
まう事が判る。
対策としては,コイル内径を広げる(図2−3−20(c))事が考えら
れるが、どれだけ広げればよいかを計算により求めた。 結果を図2−3−21に示すが、
0.3゜の軸傾斜の場合には内径∼150 μm となる事が判る。
これは先程の磁界計算の結果
から∼300 mW では必要磁界が得られず、200 Oe の磁界を得ようとすると∼530 mW ものパワ
ーを要することとなる。
即ち、開口制限されたビームをそっくりそのままコイル内径を
通すという方法では、組立時の軸倒れを考慮すると発生磁界、消費電力の要求水準を満た
すことが難しい事が予想される。 そこで本研究においては、図2−3−22に示す様に、
NA を制限せず広角入射されたビーム(NA∼0.95 に対応)をそのままコイルに入射し、コイ
ル下部の磁性体コア部をあたかもアパーチャとして機能させ、ビームを制限することで NA
- 40 -
Center Hole Diameter (µm)
180
170
160
150
140
130
120
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
Optical Axis Tilt (degree)
図2−3−21
対物レンズのチルト角と,集光ビームを妨げない為のコイル
内径の関係.
を整えるという手法を採用した。
この方法により、光軸が 0.3 度傾いた場合の MTF の劣
化分を求めたところ、図2−3−23に示すように光軸が傾いていない場合との差異はほ
とんどなく、理想的な形状さえ得られれば所望のコイル内径での設計が可能となる。
ま
た軸が倒れた状態で出射された光がディスク面で反射された場合のコイル位置での離心量
は∼0.6 μm 程度であり、ほぼ問題ないものと予想される。
薄膜コイル
照射ビーム
NA 0.85
磁性体コア
NA 0.95
図2−3−22
磁性体コアをアパーチャとして用い,光ビームを開口制限させ
る方法の概念図.
- 41 -
Modulation Transfer Function (MTF)
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
Spatial Frequency (cycles/mm)
図2−3−23
2−4
磁性体コアにより開口制限し,NA0.85 とした場合の光学的伝
達関数(実線).予め NA0.85 に開口制限した光を対物レンズ
に入射する方法(従来方法)による光学的伝達関数(波線)と
の比較.
まとめ
NA0.85 の光学系を用いた場合に、レンズ−ディスク間に配置するのに適した薄
膜コイルを、計算により設計し、実際に試作して実証を行った。
単層・スパイラルコイ
ルの設計において、コイル内径は重要なパラメータであり、コイル−媒体間距離の依存性
などコイル特性を大きく左右するものであることが、シミュレーションにより判った。 今
回、計算を元に、リソグラフィープロセスにより薄膜コイルを試作、各種特性を評価した。
測定されたコイルの主な評価結果を、以下にまとめた。 コイル内径を 128 μm、ターン数
を 10 ターン、コイル−媒体間距離を 40 μm にそれぞれ選ぶことにより、光磁気記録に対
する必要磁界である 200 Oe 及び 60 MHz 以上の周波数特性を得ることが出来た。
また、
高NA光学系と組み合わせて使用する際の問題点について議論し、対策としてアパーチャ
機能をコイル部に設ける事で軸倒れ等の問題に対し解決出来る見通しを得た。
- 42 -
表2−2
試作コイルの諸特性.
形状
平板スパイラル、単層
コイル内径
128 μm
ターン数
10
媒体距離
∼40 μm
起磁力
3.6 AT/200 Oe
抵抗値
∼3.5 Ω
インダクタンス
0.03 μH
周波数帯域
< 60 MHz
参考文献
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2)
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マグネティックス研究会
3)
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光熱磁気書込み特性
4)
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High Linear
Jpn. J. Appl.
Phys. 28 Suppl. 28-3 (1989) 323.
5)
渡辺
哲、小川
博司、 光磁気記録における高速オーバーライト
光メモリシンポ
ジウム 88 (1988) 47.
6)
S.Yonezawa and M.Takahashi,
Thermodynamic simulation of magnetic-field-
modulation methods for pulsed laser irradation in magneto-optical disks
Opt. 33, No.12 (1994) 2333.
7)
川村
雅恭、 電気磁気学
−基礎と例題−
- 43 -
昭晃堂
p190.
Appl.
第3章 高NA用光磁気媒体
3−1
序
高NA光学系で信号の記録再生を行った際に、スポット径の微細化に応じた高密
度記録が実現出来るか否かは、非常に重要な問題である。
そこで厚さ 0.6 mm の基板に、
SiN/TbFeCo/GdFeCo/SiN/Ag の順に成膜し、光磁気ディスクを試作した。 図3−1−1に
は、基板側よりNA0.85 の光学系により記録再生したノイズスペクトラムを示した。 測
定は、着磁して磁性膜の磁化方向を一様に揃えた後ミラー部と案内溝(グルーブ)部をそ
れぞれで再生し、グルーブ部においては、未記録状態と記録状態とで比較している。
ま
た、比較の意味でNA0.55 の光学系を用いて同様の測定をした場合の、ノイズスペクトラ
ムを図3−1−2に示す。
両者は全く同じ膜構成であり、測定方法も全く同じである。
但し、トラックピッチに関してはスポット径に対する比率が同一となるよう変え、線速に
関しては同じ周波数帯域でスペクトラムが比較出来るよう設定し直してある。
低NA、
NA = 0.85
v = 2.8 m/s
Groove, recorded
Groove, erased
Mirror, erased
図3−1−1
光磁気ディスクをNA0.85 の光学系により再生した場合の,ノ
イズスペクトラム.
- 44 -
NA = 0.55
v = 4.6 m/s
Groove, recorded
Groove, erased
Mirror, erased
図3−1−2
光磁気ディスクをNA0.55 の光学系により再生した場合の,ノ
イズスペクトラム.
高NAそれぞれの場合の主な測定条件を表3−1にまとめる。
図3−1−1、2の両者
の結果を比較すると、ミラー部においてはノイズレベルの差が低域で∼3 dB 程度であるの
に対し、グルーブ部においては、未記録状態でノイズレベルに大きく差が現れており、高
NAでの再生時の方が低域で 5 dB 近くもノイズレベルが高く検出されていることが判る。
表3−1
NAの差による比較の為の,主な実験パラメータ
NA
波長
トラックピッチ 基板厚み
線速
Low NA
0.55
690 nm
0.85 μm
1.2 mm
4.6 m/s
High NA
0.85
635 nm
0.55 μm
0.6 mm
2.8 m/s
記録状態のノイズレベルは、消去状態を反映して差がついているものの、未記録状態から
の劣化分として捉えると、両者にはさほど差がないようにも見受けられる。 要約すると、
- 45 -
グルーブ部でノイズレベルの差が顕著になっており、このノイズレベルの差は記録、未記
録状態に依らずに観測されていることとなる。
このように、光磁気ディスクを高NAで
再生した場合には、同じディスク構成の膜を再生しているにもかかわらず、ノイズレベル
が増加し、その結果SNRを劣化させてしまう問題が起こる事が明らかである。
本章で
は、このノイズの起源を追求し、改善することを目的としている。
3−2
実験方法
ディスク基板を作製するにあたり、図3−2−1に示すカッティング行程により
スタンパを作製した。
①ガラス原盤上に、②Cr 蒸着を行った後に、③高分子材料からな
るレジストを塗布、④266 nm レーザ光を露光(カッティング)した後、⑤現像し、未露光
のレジストを除去した後、⑥メッキ処理により Ni をコーティングする。 その後⑦Ni 部分
を引き剥がしこれをスタンパーとする。
この様にして作製されたスタンパーを用い、フ
ラットなガラス基板上に光硬化樹脂によりトラック案内溝を転写・レプリカを作製した、
所謂ガラス2P(photo polymerization)基板を用いる。
合は同様の基板を用いる事とする。
以後、特にことわりがない場
ガラス基板は前処理として、80 ℃の高温炉に少なく
とも 12 時間保管し、余分な水分等の焼き出しを行う。 成膜は6つのカソードを有するマ
グネトロンスパッタ装置を用いて行っている。 磁性層、金属膜などは Ar 雰囲気中で、D
C電界によるスパッタリングにより成膜を行う。 また、Si3N4 誘電体膜は、Si ターゲット
を用い、Ar と N2 の混合ガス雰囲気中で RF 電界を印加しながら反応性スパッタリングにより
成膜する。
代表的なディスクの作製手順は以下の通りである。
(1)ディスク基板を
ホルダーに装着し、真空チャンバーにセットした後真空排気を行う。
が 5×10-5 Pa にまで達した事を確認する。
(2)到達真空度
(3)Ar もしくは Ar+N2 ガスを導入し、流量
を調整し所定の真空度になるようにする(0.2∼0.5 Pa)。 (4)基板ホルダーを自転 50 rpm、
公転 30 rpm で回転させながら、誘電体膜、磁性膜を所定の順序にて膜を成膜する。この時、
逆方向成膜が必要な場合は、順方向成膜の場合と順序が逆転する。
(5)また、後述す
る様に下地膜の逆スパッタが必要な場合には、基板ホルダーの電位を変更させ対応した。
- 46 -
①
ガラス基板
洗浄
Cr
②
Cr蒸着
レジスト
③
レジスト塗布
④
露光(カッティング)
⑤
現像
⑥
Niメッキ
⑦
図3−2−1
Ni スタンパーを作製する為の,標準的なカッティングプロセ
ス・フロー図.
ディスク表面形状及びグルーブ形状の観察には日立製走査型電子顕微鏡 S-4500 を
用いた。
また、表面荒さなどはディジタルインスツルメント社製原子間力顕微鏡 Nano
Scope IIIa を用いて行った。
光磁気信号の評価は、CNR(Carrier to Noise Ratio)
及びジッターにより行った。
CNRはスペクトラムアナライザーを用いて測定を行い、
ジッターは、以下のようにして測定した。
まず、タイムインターバルアナライザーによ
り再生信号の立ち上がり/立ち下がりの各エッジと、周期 T で繰り返されるクロックタイ
ミングとの時間間隔をサンプリング測定する。
- 47 -
その標準偏差をデータウィンドウ(T/2)
に対する比率(%)として求め、これをジッターとする。
ジッターが正規分布を示し、
ディスクの欠陥が十分少ない場合には、ジッター12.5 %は、ビットエラーレート 5×10-5 を
意味する。
これはエラー訂正能力から考えても十分に低い値であり、以後、記録密度限
界等を見積る際のジッターの閾値は 12.5 %とする。 また、特に断りがない限り、記録再
生評価を行う際の記録データとしては、(1,7)-RLL 変調信号を用い、2T、3T、4T…8T の間
でマーク長が変調される、ランダム・データを用いた。
CNR等の測定には(1,7)変調
信号成分である 2T(最短マーク長)
、或いは 8T(最長マーク長)を用いた。
3−3
グルーブノイズの改善
3−3−1
成膜後のグルーブ観察
成膜後のグルーブ部に一体何が存在するのかを確認するために、Al を 30、60、100
nm 成膜直後の膜表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した結果を図3−3−1∼3
図3−3−1
基板上にアルミニウムを 30 nm 成膜した表面の,走査型電子
顕微鏡による観察結果.
- 48 -
図3−3−2
基板上にアルミニウムを 60 nm 成膜した表面の,走査型電子
顕微鏡による観察結果.
図3−3−3
基板上にアルミニウムを 100 nm 成膜した表面の,走査型電
子顕微鏡による観察結果.
- 49 -
に示す。 Al の膜厚が厚くなるに従いディスク表面の粗面化が著しく、また特にグルーブ
境界の斜面部での表面が Al の膜厚が増大するに伴い粗面化が顕著になる。 このことから
基板上の微細な凹凸が引き金となり、成膜により更に激しい凹凸を誘発することが明らか
である。
そこで、カッティング時のレジスト感度特性のばらつきなどの理由から、基板
上でグルーブ部分は表面が微細な凹凸となっており、その上に成膜された際に凹凸を受け
継いだ形で膜成長が起こると考え、基板上の微細な凹凸を改善することを目的に、基板に
処理を施すことでノイズレベルの改善効果を調べた。
3−3−2
紫外線(UV)照射によるノイズレベル改善効果
基板上グルーブ部のノイズを低減する為に、UV/O3 クリーナーによる改善を試みた。
元来、この装置は光感光性レジストの除去などに用いられるもので、そのメカニズムは良
く知られている1)。 オゾン雰囲気中で紫外光を照射する事により、酸素原子が励起状態と
なる。
この励起酸素原子が、ディスク表面のポリマーを徐々に分解してゆき除去する効
果がある。
図3−3−4にはガラス2P基板におよそ 0.12 J/cm2 min の水銀ランプを 10
分間照射する前後での、基板グルーブ形状の変化を SEM 観察した結果を示す。
Track pitch = 0.55 μm
図3−3−4
図から明
Track pitch = 0.55 μm
ガラス2P基板に紫外光を照射する前後での,基板形状の電
子顕微鏡観察結果.照射前(左側)と,照射後(右側).
- 50 -
らかなように、UV 照射によりグルーブ部での凸凹及びグルーブエッジは丸くなり、全体的
に平滑化されているのが判る。
この改善された基板を用いてディスクを作製し、CNR
及びジッターを測定した結果を、表3−2に示す。
ここで、CNRは低NA、高NAそ
れぞれに対し、マーク長 1.87 μm、1.12 μm において測定された結果である。 これは、
表3−2
改善された基板を用いた場合の,CNR,ジッター.
Track
Pitch
(µm)
Bit
Length
(µm)
Jitter
(%)
C/N
(dB)
Noise
Level
(dBm)
Low NA
0.85
0.35
7.2
56.5
-61.8
High NA
0.55
0.21
9.0
50.5
-57.1
High NA
improved
0.55
0.21
7.3
55.2
-60.6
Normalized Signal Level
1.4
Pull-in level
1.2
1.0
0.8
Tracking error
0.6
0
5
10
15
20
25
UV Exposure Time (min.)
図3−3−5
紫外光照射の時間経過と,Pull−in信号及びトラッキングエ
ラー信号レベルの変動.
- 51 -
スポットサイズに対するマーク長を一定にする為である。
高NAによる再生において、
未改善の基板を用いた場合と改善基板を用いた場合とでは、ジッター値で∼2 %、CNRで
5 dB の改善が見られ、それぞれNA0.55 で測定したジッター値、CNRとほぼ同等な値と
なっていることが判る。 他方、基板形状が変形することによる影響も測定を行った。 図
3−3−5には UV 照射時間に対する Pull-in レベル及びトラッキング・エラー信号レベル
の変化をプロットした。
Pull-in 信号は、グルーブ部における戻り光量に対応している。
UV 照射の長時間化に伴い pull-in 信号の増加が認められるが、これはグルーブが平坦とな
り、更にグルーブ底部の平坦部が広がるために、戻り光量が増加しているものと考えられ
る。
同様にトラッキング・エラー信号は、グルーブ溝深さが平坦化により浅くなること
で、減少しているものと考えられる。
ノイズ改善に対し最大の効果を得るために、UV 照射時間の最適化を行った。 図
3−3−6には、あるトラックに記録パワーを変えながら(1,7)ランダム信号を記録
した場合のジッターの変化を示す。
UV 照射時間を増やせば増やすほど、5 mW 以上のパワ
ーにおけるボトムジッターが改善されていく様子がわかる。 これはノイズレベルが低下
14
UV exposure time
13
0 min.
5 min.
10 min.
20 min.
25 min.
Jitter (%)
12
11
10
9
8
7
3
4
5
6
7
8
9
10
11
Recording Power (mW)
図3−3−6
基板への紫外光照射時間を変えたディスクに対する,ジッタ
ーの記録パワー依存性の変化.
- 52 -
14
UV exporsure time
13
0 min.
5 min.
10 min.
20 min.
25 min.
Jitter (%)
12
11
10
9
8
7
3
4
5
6
7
8
9
10
11
Recording Power (mW)
図3−3−7
基板への紫外光照射時間を変えたディスクに対する,クロス
トークがある状態でのジッターの記録パワー依存性.
し、CNRが向上していくためであり、これは先の表3−2の結果と一致している。
UV
照射時間が長くなると、グルーブ溝深さがより平坦化されることが予測されるので、隣接
トラックへのクロスライト特性の劣化が懸念される。
そこで、先ず1トラックを記録し
続いてその両方の隣接トラックに記録を行い最初に記録したトラックを再生する、3トラ
ック記録でのジッター評価を行った。 結果を図3−3−7に示す。 UV 照射時間が 20 min
までは先ほどと同様、時間が長くなるとともにボトムジッターの改善効果が顕著である。
ところが、照射時間が 25 min まで長くなるとむしろボトムジッターが悪化しているのが観
測されている。
これは紫外光照射によりグルーブ部が平坦化されたことで、隣接トラッ
クからのクロスライトが顕著となったもしくはクロストークが増加したことによるものと
考えられる。
本研究においては、これらの実験結果を考慮し標準的な照射時間を 10 min
と設定した。
- 53 -
3−4
逆成膜ディスク
3−4−1
高NA対応ディスク
図3−4−1には高 NA 光学系を用いた場合の光磁気ディスクの膜構成を示す。
前述したように、高NA光学系で記録再生を行う場合には、図に示す通り薄いカバー層を
通して行うことが必要となる。
このカバー層は、第2章のコイル設計においては∼20 μ
m と設定されており、本研究においては紫外線硬化樹脂などをスピンコートすることによっ
て得られている。
従来の、基板を介して光を照射し記録再生する方法とは異なり、本研
究に用いたディスク構成を実現する為にはカバー層はすべての膜を成膜後に作成すること
となる。
従ってディスク基板に対し通常と逆順に成膜する必要がある。
即ち、通常の
光磁気ディスクにおいては、透明誘電体(SiN)、磁性層(例えば TbFeCo/GdFeCo)
、誘電体
(SiN)、金属反射膜(例えば Al や Ag など)の順に成膜するのに対し、本研究で用いられ
Substrate
Metal reflector
Cover
Magnetic Coil
SiN
GdFeCo
TbFeCo
SiN
図3−4−1
高NA光学系を用いた場合の,光磁気ディスクの膜構成.
るディスク媒体においては、まず基板上に金属反射膜を成膜し、その後誘電体、磁性層、
誘電体の順に成膜しなければならない。
ちなみに成膜は、6つのターゲットを有し、そ
れらが同時に放電可能なスパッタリング装置2)により行った。
金属反射膜及び磁性層は
DC 電圧を印加して、透明誘電体は RF 電圧を印加してスパッタリングを行った。
- 54 -
3−4−2
下地膜の表面荒さ
複数の薄膜を成膜する際に、下地となる膜の成膜状態がその後の膜の付着状況に
大きく影響を与えるであろう事は、3−2−1節の検討結果から容易に考えられる。
従
って、成膜の履歴として何の膜がどのような成膜条件で成膜されたかは、重要なパラメー
タとなる。 図3−4−2、3には Si ウエハー上に Ag 及び SiN をそれぞれ成膜し、成膜
後の表面を Atomic Force Microscope(AFM)により測定した結果を示す。
成膜後の表面
荒さを Ra で示したところ、Ag、SiN それぞれの場合において、1.1 nm、0.2 nm と言う結果
となり、明らかに材料により成膜後の表面荒さが異なることが良く判る。
同時に、通常
成膜の場合には問題にならなかった下地に起因するノイズが、逆成膜時には問題になるこ
とも良く理解出来る。
従って、高NAでの使用時には、この表面の凹凸を無くし平坦化
させることが必要かと考えられる。
nm
10
Ra=1.1 nm
0
-10
100
200
nm
300
400
nm
図3−4−2
シリコン基板上に Ag を 100 nm 成膜した場合の,AFMによる
基板表面荒さ測定結果.
- 55 -
nm
10
Ra=0.2 nm
0
-10
100
200
nm
300
400
nm
図3−4−3
3−4−3
シリコン基板上にSiNを 100 nm 成膜した場合の,AFMによる
基板表面荒さ測定結果.
エッチングによる低ノイズ化
本研究においては、成膜後の平坦化処理として逆スパッタによるディスク表面の
エッチング処理を採用した。 金属反射膜である Ag を約 50 nm 成膜後、その表面に 0.3 Pa
の Ar ガス雰囲気中で 50 W のパワーを逆電位でかけエッチング処理を行った。
その後、
透明誘電体、磁性層などを成膜しディスク化して、その効果をノイズレベルの変化として
測定した。
平坦なディスクミラー部での測定結果を図3−4−4に、グルーブ部での測
定結果を図3−4−5にそれぞれ示す。
エッチング時間をパラメータに取り、各周波数
帯域でのメディアノイズをプロットしてある。
最大約 4 min のエッチング後に同じく表
面を AFM により調べたところ、Ra は 0.6 nm と減少し、表面のスムース化が行われたことが
確認されている。図3−4−4,5では、エッチング時間とともに、ノイズレベルが減少
- 56 -
-45
Noise Level (dBm)
Plasma Etching time
0 min.
1 min.
2 min.
4 min.
-50
-55
-60
v = 2.8 m/s
RBW = 30 kHz
-65
0
1
2
3
4
5
6
7
8
Frequency (MHz)
図3−4−4
エッチング時間による,ミラー部におけるノイズレベルの変
化.
-45
Noise Level (dBm)
Plasma Etching time
0 min.
1 min.
2 min.
4 min.
-50
-55
-60
v = 2.8 m/s
RBW = 30 kHz
-65
0
1
2
3
4
5
6
7
8
Frequency (MHz)
図3−4−5
エッチング時間による,グルーブ部におけるノイズレベルの変
化.
- 57 -
していく様子が観察される。
また、ミラー部の方が全帯域にわたりノイズ低減効果が大
きく、グルーブ部では 1∼3 MHz の低域で改善効果は顕著であるが、4 MHz 以上の中域から
高域に渡っての改善はあまり見られていない。
これらの結果から、エッチングによる平
坦化で、膜面全般に渡り表面の凹凸を除去することが出来るが、他方、グルーブ部におい
ては別の要因によるノイズが支配的となっていることが考えられる。
また、同様の測定
をNA0.55 の系においても行ってみたところ、ノイズレベルの変化は全く観測されなかっ
た。
ノイズレベルに有意差が検出できるのは、高NAの系においてのみであることを示
すものである。
即ち、表面の凹凸に起因したノイズは、高NAによる微小スポットによ
る再生時に顕著となるものと考えることが出来る。
3−5
低ノイズディスク
これまで述べてきた基板の UV 照射と下地膜のエッチングという2つの手法を組み
合わせることで、本研究に用いられるディスクを得ることが出来る。 本研究においては、
図3−5−1に示す通り、以下の手順で低ノイズディスクを得ることとした。
① 2P基板を準備する。
② 基板に、0.12 J/cm2 min の UV 光を 10 min 照射する。
③ 金属反射膜 Ag を 50 nm スパッタにより成膜する。
④ 成膜後の膜面を、0.3 Pa の Ar ガス雰囲気中、50 W のパワ
ーでエッチングする。
⑤ 0.2 Pa の Ar:N2=3:1 の混合ガス雰囲気中で RF パワー
1.2 kW を印加、透明誘電体 Si3N4 を 40 nm 成膜する。
⑥ 0.3 Pa の Ar ガス雰囲気中、DC 電圧をかけた状態で磁性膜
を 25 nm 成膜する。
⑦ 上記(5)と同条件で Si3N4 を 80 nm 成膜する。
⑧ スピンコートにより、カバー層を 20 μm 作成する。
- 58 -
①
ガラス2P
UV光
②
UV光照射
Ag
③
Agを成膜
④
逆スパッタによるエッチング
⑤
∼⑦
SiN、磁性膜を成膜
⑧
カバー層を作成
図3−5−1
低ノイズディスクの作成プロセス.
これらのプロセスを経て作成されたディスクの、記録パワーに対するCNR特性を測定し
たものを図3−5−2に示す。
同図中には、各低ノイズ処理による効果が判るように、
種々の組み合わせによるCNRを示してある。
何も処理していない基板を使った場合に
対し、エッチング処理を施すことで全パワー領域において∼1 dB 程度のCNR改善が観察
される。 UV 照射処理を行ったものは記録パワーにもよるが、もっとも効果が大きいとこ
ろで∼5 dB 程度のCNR改善が見られる。 また、UV 照射処理を行ったものに対し、エッ
チング処理を行うことで更に同様の効果が得られていることも明らかである。
は消去ノイズレベルでも観測される。
ズレベルの変化を示す。
改善効果
図3−5−3には同様に各処理に対する消去ノイ
これによれば、金属反射膜のエッチング処理により取り切れて
- 59 -
55
Mark length = 1.12 µm
RBW = 30 kHz
v = 2.8 m/s
CNR (dB)
50
45
Before the improvement
With metal surface etching
With UV ashing
With UV ashing and metal surface etching
40
5.5
6.0
6.5
7.0
7.5
8.0
8.5
Recording Power (mW)
図3−5−2
ディスク基板にUV照射処理及びエッチング処理を行った場合
の,CNRの変化.
-40
RBW = 30 kHz
v = 2.8 m/s
Noise Level (dBm)
-45
Before the improvement
-50
With metal polishing
-55
With UV ashing
-60
With UV ashing
and metal polishing
-65
-70
0
2
4
6
8
10
Frequency (MHz)
図3−5−3
ディスク基板にUV照射処理及びエッチング処理を行った場合
の,ノイズスペクトラムの変化.
- 60 -
いなかった中域(2∼5 MHz)のノイズレベルが、UV 照射処理により大幅に改善されている
様子が良く判る。
ノイズレベルに対して、UV 照射処理で 3∼4 dB、エッチング処理で 1
∼2 dB、UV 照射処理+エッチング処理によりおよそ 5∼6 dB の改善効果がそれぞれ観測さ
れており、先のCNRの変化はノイズレベルの改善に依存するところが大きいことが考察
出来る。
3−6
表面荒さによるノイズ
これまでの検討結果から、高 NA 光学系を用いる等して再生スポットを微細化する
ことにより、ディスク溝からのノイズやディスク表面の面荒さに伴うと考えられるノイズ
が顕著となることが判った。
このノイズを表面ノイズと呼ぶ事にすると、予想される表
面ノイズの要因としては、(1)ディスク表面凹凸に伴い磁化容易軸が傾くなど、形成され
た膜の磁気特性が変化し、その為にカー回転角が揺らぐ磁気的ノイズ要因と、(2)凹凸に
-5
Carrier
-45
Noise
-15
-50
-20
-55
-25
-60
-30
-65
-35
λ=407 nm
NA=0.6
-40
-45
0.1
Noise Level (dBm)
Carrier Level (dBm)
-10
-40
-70
-75
1
10
Read Power (mW)
図3−6−1
ディスク再生時のキャリアレベル,ノイズレベルの再生パワー
依存性.再生波長 407 nm,NA0.6 とした.
- 61 -
伴い光入射角度が変化する為に、偏光特性が変動して観測される為にノイズとなる光学的
ノイズ要因の2種類が考えられる。
そこで、どちらの要因が支配的なのかを判断する為
に、3−1節で使用したディスクを波長 407 nm の光源にて再生した時のキャリアレベルと
ノイズレベルを、再生パワーに対して測定した。 尚、使用した光学系は NA0.6 の対物レ
ンズを使用した。
その結果を図3−6−1に示す。
再生パワーが 2 mW 程度まではキャ
リアレベル、ノイズレベル共に、ほぼ再生パワーに比例して単調増加している様子が判る。
再生パワーが 2.5 mW 以上になると、キャリアレベルは飽和、更に減少し始めている。
こ
れは、再生光照射による媒体温度上昇に伴い、カー回転角が減少する為によるものである
と考えることが出来る。
しかしながら、ノイズレベルに関しては、ほぼ比例関係を維持
したまま増加し続けており、表面ノイズがカー回転角の変化に依存したものでないと考え
られる。
即ち、表面ノイズの要因として、表面凹凸による入射角変動がもたらす偏光面
変動が主要因であると断定することが出来る。
一般に、媒質表面からの反射光において
は、光の偏光方向によりその入射角度に対する挙動が異なることは良く知られている。 図
3−6−2には、空気層から Fe 表面に波長 406 nm の青色レーザ光が入射した場合の、P 偏
1
強度反射率
0.8
S偏光
0.6
0.4
P偏光
0.2
0
0
20
40
60
80
100
傾斜角度 (deg.)
図3−6−2
空気中から Fe 表面へ,青色レーザで照射した際の、P 偏光と
S 偏光の強度反射率の計算結果.
- 62 -
偏光面回転角
(deg.)
10
2
10
1
0.1
0.01
0.001
0.0001
1
10
100
傾斜角度 (deg.)
図3−6−3
空気中から Fe 表面へ,青色レーザで照射した際の、P 偏光と
S 偏光の振幅反射率差から算出された,偏光面回転角の計
算結果.
表面の凹凸
∝ Ra
傾斜角 φrough ∝
Ra
lrough
2l rough
図3−6−4
ディスク表面の凹凸を三角関数的に近似した際の,揺らぎ振
幅と揺らぎ波長に対する傾斜角の関係.
光、S 偏光それぞれの強度反射率を、入射面の傾斜角度に対して計算した結果を示す。 図
に示すとおり、P 偏光と S 偏光の挙動は入射角度に依存してそれぞれ変化する為に、例えば
基板表面の凹凸に成膜された媒体に光が入射した際には P 偏光、S 偏光の反射率差に対応し
た偏光面の回転が起こるものと考えられる。 実際に、P 偏光成分と S 偏光成分の反射率差
から偏光面の回転角度を計算した結果を図3−6−3に示す。
入射偏光の偏光面は基板
グルーブ方向に垂直とし、P 偏光成分が殆どであり S 偏光成分はカー効果によってのみ発生
- 63 -
するものと仮定して計算した。 図から、偏光面の回転は傾斜が例えば 50 deg.以下の場合
は傾斜角度φrough の 2 乗に比例する事が判る。 ここで、表面凹凸を単純な正弦波的な形状
と仮定すると、図3−6−4に示すようにφrough は凹凸振幅と波長の比に比例するものと考
えることが出来るから、表面荒さ Ra 、表面凹凸基本波長 l rough を用いて、面荒さに伴う偏光
面回転揺らぎ振幅 ∆θ rough を以下のように表すことが出来る。
∆θ rough ∝ φ
2
rough
⎛ R
∝⎜ a
⎜l
⎝ rough
⎞
⎟
⎟
⎠
2
[3.1]
但し、ここで Ra は一般的な算術的表面荒さの定義、
Ra =
1 L
f(x) dx
L ∫0
[3.2]
に従う。 ここで、L は荒さ測定の基準長であり、f(x)は荒さ曲線を示す関数である。 面
荒さに伴うノイズを N rough とすると、この値は主要因である偏光面回転揺らぎに比例するこ
とは明白であると考えられる。 例えば、図3−4−2の結果を例にとると、500 nm の測
定領域の中に十数個の山が観測されている事から 2 l rough ≒30 nm と見積もる事が出来る。
Ra は 1.1 nm と測定されているので、斜面傾斜角度はほぼ 20 deg.前後と算出でき、対象と
すべき傾斜角度が図3−6−3において傾斜角の2乗に比例する範囲に入っている事が判
る。
従って、例えば基板平坦部に金属膜成膜等によって形成された表面凹凸から発生す
るノイズの場合には、[3.1]式が成り立つものと考えられる。
他方、グルーブ部境界部で
は傾斜部の傾きが 50 deg.程度あるので、表面の凹凸が平坦部と同様に存在するとすれば、
傾斜部の傾きを中心として 20 deg.ほど揺らぐ事となる。 例えば 40∼60 deg.の範囲で傾
斜角度が揺らぐと仮定すると、図3−6−3から偏光面は 0.3 deg.から 1.3 deg.まで回転
してしまい、ノイズの発生要因としては重大となる。
但し、再生時には光スポットの一
部のみよりこのノイズ成分が再生される事、傾斜面より反射した光がすべて光学系に戻る
訳でない事などから、ノイズとしての寄与は概ね 1/10∼1/100 程度と予想される。
しか
しながら、平坦部に比して同じ凹凸がもたらすノイズはより深刻となる事は明白であり、
本章図3−4−4、3−4−5の結果を裏付けているものと考えられる。
ところで、 N rough は偏光面の回転揺らぎが主要因であるから、当然、回転角の揺ら
- 64 -
ぎ振幅 ∆θ rough に比例する。
一方、回転角が微妙に異なる微小領域がランダムに存在する
とした場合、再生光スポットによって検出されるトータルの回転角はその平均値で与えら
れる筈であるから、その微少領域の細かさも重要である。
統計数学によれば、サンプル
数が多ければそれだけその平均値のばらつきは減少し、n 個の平均値の分散は 1/ n に比例
する事が知られている。 従って、再生光スポットの中に存在する微少領域の数を n rough と
すると、 N rough は次式で与えられると考える事が出来る。
N rough ∝
∆θ rough
[3.3]
nrough
成る関係があるものと考えられる。
ここで n rough は再生レーザ光のスポット半径を rspot と
すると、
n rough
⎛ rspot
∝⎜
⎜l
⎝ rough
で表されるはずである。
⎞
⎟
⎟
⎠
2
[3.4]
結局、[3.3]式、[3.1]式及び[3.4]式から、以下の関係式[3.5]
が導かれることとなる。
N rough
⎛ R
∝⎜ a
⎜l
⎝ rough
2
⎞ l rough
Ra2
⎟ ⋅
=
⎟ r
l rough ⋅ rspot
spot
⎠
[3.5]
この式から、面荒さに伴うノイズはスポット径に反比例することが予測され、高 NA で再生
するだけでノイズが上昇してしまう現象を裏付けている。 Ra 及び l rough に関しては、膜の
成長過程でその関係が変わってくることが予想される。 特に膜の成長がある程度すすみ、
例えば粒状成長した場合などを想定すれば、Ra の増加と共に l rough が増加する状況は十分に
考えられる。
図3−6−5には成膜時のガス圧を 0.2 Pa∼0.5 Pa の範囲で変化させて
TbFeCo を成膜し、その表面荒さを AFM により測定した結果を示す。
測定された範囲内に
おいて、 l rough は Ra の 0.5 乗にほぼ比例することが確認出来た。 この結果を元に[3.5]式
を書き直すと、
N rough ∝
Ra1.5
rspot
[3.6]
- 65 -
70
∝ Ra
60
0.5
50
lrough (nm)
40
30
20
10
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7 0.8 0.9 1
Ra (nm)
図3−6−5
AFM により測定された,ディスク表面の表面荒さ Ra と表面凹
凸の周期幅 l rough との関係.
Noise Level (dBm)
-60
∝ Ra1.5
-65
-70
-75
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
Ra (nm)
図3−6−6
AFM により測定されたディスク表面の表面荒さ Ra と,表面ノ
イズとの関係.
- 66 -
なる関係が得られる。
405 nm、NA0.6 の光学系により消去状態の低域(2 MHz)でのノイズレベルを測定
した各ディスクに対し、AFM により 0.5 μm×1.0 μm の領域で表面荒さ Ra を測定した結果
を、図3−6−6に示す。
表面荒さはこの結果から判るように、
ノイズレベルは Ra の 1.5 乗に比例しており、この事は[3.6]式の妥当性を裏付けているも
のと考える事が出来る。
[3.6]式で表されるように面荒さによるノイズ上昇は、ディスク面の表面荒さ Ra
の 1.5 乗に比例し、再生光スポットサイズに反比例するものと考えられる。
そこで、同
じディスクを再生した場合に、光学パラメータの選び方でどの程度ノイズレベルが違って
くるかを考察する。
第3−1節で比較した 690 nm、NA 0.55 での再生と 650 nm、NA 0.85
の再生の場合を考えてみる。
それぞれのスポットサイズ r690 nm, 0.55 、 r650 nm, 0.85 はそれぞれ
[1.1]式より 502 nm、306 nm と見積もられる。
この時、スポットサイズの微細化に伴う
ノイズ上昇分 ∆N rough は、
⎛r
∆N rough = 20 ⋅ log⎜⎜ 690 nm,0.55
⎝ r650 nm,0.85
⎞
⎟ ≈ 4.3[dB]
⎟
⎠
[3.7]
と見積もられ、図3−1−1及び図3−1−2で示されたノイズ上昇分とほぼ一致する。
即ち、同じ赤色レーザの再生でも、NA を 0.55 から 0.85 に高くするだけで表面ノイズは∼5
dB 近くも高く検出されてしまう事を示唆しており、この値が 0.85 の光学系を用いて再生を
行う時の表面ノイズ改善の目標値となる。 本章では、UV 照射及びエッチング処理により
5∼6 dB のノイズレベルが改善されたが、この値は NA0.85 によるスポットサイズの微細化
に伴うノイズレベル上昇分を十分にカバーしているものと判断出来る。 更に考察を進め、
レーザ波長を 405 nm にした場合のノイズレベルに関しても検討を行う。 先程と同様に 690
nm、NA0.55 を用いた場合を基準にする。
405 nm、NA0.85 でのスポットサイズ r405 nm, 0.85 は
191 nm と見積もられるので、スポットの微細化に伴うノイズ上昇分として、
⎛r
∆N rough = 20 ⋅ log⎜⎜ 690 nm,0.55
⎝ r405 nm,0.85
⎞
⎟ ≈ 8.4[dB]
⎟
⎠
- 67 -
[3.8]
が予想される。
尚、青色レーザで再生した場合には、赤色レーザで再生した場合に比し
てカー回転角の低下が起こる為に注意を要する。
図1−2−3の結果を参考にすると、
レーザ波長を 690 nm から 405 nm にすることで、カー回転角の低下によるキャリアレベル
の劣化分として∼3.5 dB が算出される。 仮に、媒体から発生するノイズがスポットの微
細化によるものが主だったと仮定すると、8.4 dB のノイズ上昇が見込まれる事になるから、
結局 CNR としては∼12 dB も低下してしまうものと考えられる。 対策としては、再生パワ
ーを増加する事で光磁気信号成分を増大させ、相対的に他の信号(ノイズ)成分を低下さ
せる方法が考えられるが、この方法に関しては後ほど第5章にて述べる事とする。
いず
れにせよ、NA 0.85、405 nm を用いた場合にはより一層の低ノイズ化が必要となる事は明白
であり、その値は 8∼12 dB 程度と予想される。
3−7
まとめ
光磁気ディスクを高NA光学系で記録再生した場合のディスクに起因したノイズ
成分に関して、検討を行った。
高NAで再生した場合には、ディスク基板のグルーブ部
に存在する微細な凹凸が原因と考えられるノイズが顕著に観測されてしまう。
UV 照射による基板表面の改質を提案し、その効果を確認した。
そこで、
UV 照射後の基板を用いた
ところ、ノイズレベルで 3∼4 dB、ジッターで 2%程度の改善効果が得られた。
また、高
NA 化に伴う必須条件として要求される逆成膜時に下地膜となる金属反射膜の表面荒さも、
ノイズレベルの要因となりうる事が判った。
これは、成膜後に表面をエッチングするこ
とで抑えられ、約 1∼2 dB 程度のノイズレベル改善が得られることが判った。
また紫外
光照射とエッチングによる処理を組み合わせたところ、トータル 5∼6 dB のノイズレベル
改善効果が得られることが判った。
上昇に関して考察を行った。
また、スポットサイズ微細化に伴うノイズレベルの
観測されているノイズは、ディスク表面に光が入射した際
に表面凹凸により入射角度が変動し、その為に P 偏光、S 偏光反射率差に依存した偏光面が
揺らぐ事が主要因と考えられる。
ディスク表面荒さに起因した表面ノイズは、表面荒さ
Ra の 1.5 乗に比例し、再生光スポットサイズ rspot に反比例するものと考えられる。 実際
- 68 -
にこの関係を用いて再生光スポットサイズを微細化したときのノイズ増加量を見積もった
ところ、690 nm、NA0.55 から 650 nm、NA0.85 にしたときで 4.3 dB、690 nm、NA0.55 から
405 nm、NA0.85 にしたときで少なくとも 8.4 dB となる事が判り、検討された UV 照射及び
エッチング処理により十分なノイズ改善効果が得られている事が示された。
参考文献
1)
徳山
巍、 半導体ドライエッチング技術
2)
金原
粲、 薄膜の基本技術
産業図書
東京大学出版会
- 69 -
p48.
p196.
第4章 赤色・高NA光磁気ディスク
4−1
序
Aratani 等1)は、NA0.55、685 nm の光学系を用いて、記録再生を行い、ビット
長 0.31 μm/bit、トラックピッチ 0.85 μm(2.4 Gbit/in2 に相当)でボトムジッター10%、
記録パワーマージン±28 %という、十分実用化に耐えうる特性が得られることを示した。
超解像技術2)など特別な手法を用いずに、従来の膜構成を維持したまま、基板及び薄膜の
性能だけを追求して得られたこの結果は、光磁気記録の達成密度を議論する上で良い基準
となる。 本章においては、NA0.85 の光学系を用いた場合に光磁気記録が高密度記録再
生の可能性を有しているかを確認することを目的としている。
前述したように、NAを
変更させた場合の光磁気記録に関する報告3,4)は未だ数少なく、高NAの光学系を光磁気
記録と組み合わせた時に十分な光学性能を保ったままで記録再生が行えるかは、非常に興
味のあるところである。 本章においては、第2章で述べた薄膜磁気コイル搭載の高 NA 光
学ヘッド及び第3章で述べた低ノイズ光磁気ディスクを用い、波長 650 nm の光源を使用し
て光学系を構成して、記録再生実験を行った。 試作した薄膜コイル及び高 NA 対物レンズ
のデバイスとしての性能を評価すると共に、650 nm、NA 0.85 の光学系による光磁気記録の
記録再生特性を評価する事を目的としている。
4−2
実験方法
4−2−1
全体構成
図4−2−1には、本研究で用いた光磁気ディスク評価装置の、主要光学系部品
の構成図を示す。
る。
通常の光磁気ディスクに用いられるものとほぼ同じ光学系を用いてい
Laser Diode(LD)より放出された光はコリメータレンズにより平行光にされた後、
アナモプリズムを通してビーム形状が楕円から円形に整形される。
一部はレーザー光の
強度制御(Automatic Power Control:APC)の為のモニター信号として検出されるが、約
- 70 -
ディスク
磁気コイル
対物レンズ
ウォラストンプリズム
HWP
QWP
BS
APC
回折格子
QWP QWP
円筒レンズ
光検出器
アナモプリズム
コリメータレンズ
LD
λ=650 nm
図4−2−1
赤色高NA光磁気評価システムの光学系構成.
90 %の光はそのまま対物レンズにより集光されてディスクに照射される。
ディスクより
反射された光は、ビームスプリッタ(BS)により光路を変え、位相補償5)の為の1/2波
長板(HWP)及び1/4波長板(QWP)、ウォラストンプリズムにより偏光成分に応じてビー
ム分離された後に、焦点位置検出の為の円筒レンズを介して集光される。
650 nm、定格出力 35 mW(三洋製)である。
LDは、波長
焦点位置検出には非点収差法を、トラッキン
グ位置検出には Differential Push-Pull(DPP)法を用いている。 記録実験は対物レンズ
に取り付けられた、薄膜磁気コイルを用いている。
次節で、薄膜コイルを含めた対物レ
ンズの構成に関して述べる。
4−2−2
薄膜コイルと高NA対物レンズ
図4−2−2に本研究で用いた、高NA対物レンズの基本構成を示す。
- 71 -
基本は
コイル基板
ディスク基板
半球レンズ
半球レンズホルダー
カバー層
コイルホルダー 薄膜コイル
アパーチャ
対物レンズ
対物レンズホルダー
図4−2−2
高NA対物レンズ及び薄膜コイルの構成.2群対物レンズ直
上に薄膜磁気コイルを配した構成となっている.
表4−1
高NA対物レンズ組み立ての為の,主な距離パラメータ
光源波長
650 nm
NA
0.85
対物レンズ−半球レンズ間距離
490 μm
半球レンズ−コイル基板間距離
65 μm
コイル基板厚み
580 μm
コイル基板−カバー層距離
32 μm
カバー層厚さ
20 μm
非球面対物レンズ、半球ボールレンズからなる2群−高NA対物レンズ6)に、透明コイル
基板上に薄膜コイルを作成したデバイスを追加してある。 それぞれの光学要素の配置は、
予め、光源の有効ビーム径、対物レンズNA、SIL 厚み、ガラス基板厚みなどから、全体と
しての球面収差量が最小となるように決定される。
仕様をまとめた。
表4−1に今回の対物レンズの主な
それぞれの各光学要素が、間隔距離だけでなく平行度、水平位置など
- 72 -
をかなりの精度で合わせ込まないと、すべて収差となって光学性能を落としてしまう結果
となる。
そこで本研究においては、以下の手順にて対物レンズを組み立てた。
(1)対物レンズ、半球レンズ、薄膜コイル基板をそれぞれホルダーに
接着する、
(2)対物レンズを装填した後半球レンズホルダーを装着し、半球レン
ズ上面部により半球レンズの傾きを補正、更に半球レンズ底面部
(曲面部)にて X-Y 位置ずれを補正する、
(3)対物レンズ対物レンズ側より光りビームを入射し、半球レンズ表
面で焦点を結ぶ位置にまで、半球レンズホルダーを移動する、
(4)半球レンズ表面で焦点を結ぶ状態と、所望の位置とのずれをあら
かじめ計算しておき、その分だけ半球レンズを垂直移動させて、そ
の位置で半球レンズホルダーと対物レンズを固定、接着を行う、
(5)アパーチャサイズにたいし、ガラス基板上面部でのビームサイズ
が所定の大きさとなるようコイルホルダーを垂直移動させて固定、
半球レンズホルダーとコイルホルダーを接着する。
上記プロセスにて組み立てられたレンズは、前節で紹介される光学系に組み込まれる。 性
能評価は、実際の信号評価を行うことで代用した。
4−3
記録再生特性
4−3−1
記録特性
波長 650 nm の半導体レーザーを用い、薄膜コイルを装備したNA0.85 光学系を使
って、ディスク評価を行った。
図4−3−1、4−3−2には、コイル電流に対するジ
ッター値及びノイズレベルの変化を示す。
図4−3−1では2T(マーク長:0.36 μm)
の単一マークを記録した場合のRF信号エッジ成分の揺らぎをジッターとし、低域(1 MHz)
でのノイズレベルを測定してある。
同様に図4−3−2では8T(マーク長:1.44 μm)
を記録した場合の測定結果を示す。
どちらの場合もジッターの変化とノイズレベルの変
- 73 -
15.0
-64.5
Jitter (%)
14.0
-65.0
-65.5
13.0
Jitter
12.0
-66.0
Noise Level
-66.5
11.0
-67.0
10.0
150.0
Noise Level (dBm)
Disk No. 2/6 2-1
ch. clk=20 MHz
3.57 m/s (0.27 µm/bit)
Pw=8.0 mW Duty=45 %
Pr=1.0 mW
-67.5
200.0
250.0
300.0
350.0
Coil Current (mA)
図4−3−1
薄膜コイルにより2Tマークを記録した場合の,コイル電流に
対するジッター値及びノイズレベルの変化.
18.0
-54.0
Jitter (%)
16.0
15.0
-56.0
-58.0
14.0
Jitter
13.0
Noise Level
-60.0
12.0
-62.0
Noise Level (dBm)
Disk No. 2/6 2-1
ch. clk=20 MHz
3.57 m/s (0.27 µm/bit)
Pw=8.0 mW Duty=45 %
Pr=1.0 mW
17.0
11.0
10.0
150.0
-64.0
200.0
250.0
300.0
350.0
Coil Current (mA)
図4−3−2
薄膜コイルにより8Tマークを記録した場合の,コイル電流に
対するジッター値及びノイズレベルの変化.
- 74 -
化は非常に良く対応しており、同じ変化をしていることが判る。
2Tを記録した場合に
は、およそ 220 mA のコイル電流でジッター及びノイズレベルは飽和しており、図2−3−
12より約 120 Oe で記録が完全に行われていることが伺える。
ところが、8Tを記録し
た場合には顕著な信号の飽和は測定範囲内において観測されておらず、300∼350 mA あたり
まで緩やかな変化が続いている。 このことから、1.44 μm マークを記録する場合の方が
0.36 μm マークの場合に比して、必要磁界が大きくなる傾向があることが判る。 これは、
主に浮遊磁界の影響であると考えることが出来る。
即ち、図4−3−3に示すように、
長マーク記録時にはマークを記録する領域に作用する浮遊磁界は、隣接するマークからの
ものが主体となり記録を妨げる方向に働いてしまう為に、記録が飽和しづらく成っている
ものと考えられる。
これに対し、短マーク記録時にはマーク長が短い為に複数のマーク
浮遊磁界
隣接マークからの浮遊磁界
浮遊磁界
記録磁界
(記録位置)
記録磁界
(記録位置)
隣接マーク
浮遊磁界
浮遊磁界
(a) 長マーク記録時
図4−3−3
(b) 短マーク記録時
長マーク及び短マークを記録した際の,隣接マークからの浮
遊磁界の影響の模式図.
から浮遊磁界の影響を受け、結果として互いの浮遊磁界が相殺されてしまうものと考えら
れる。
図4−3−1、4−3−2からは、∼300 mA までの電流(コイル抵抗が 3.3 Ω程
度であるので、これはほぼ 300 mW の消費電力に相当)を流すことにより2T∼8Tまでの
信号がジッタ 10∼10.5 %の範囲で記録再生出来ていることも判る。
- 75 -
同様の傾向は、変調
18.0
Disk No. 2/6 2-1
ch. clk=20 MHz
3.57 m/s (0.27 µm/bit)
Pw=8.0 mW Duty=45 %
Pr=1.0 mW
17.0
Jitter (%)
16.0
15.0
Random
8T
2T
14.0
13.0
12.0
11.0
10.0
150.0
200.0
250.0
300.0
350.0
Coil Current (mA)
図4−3−4
薄膜コイルにより2T,8T及びランダムデータを記録した場合
の,コイル電流に対するジッター値の変化.
されたランダム信号に対して測定することでも観察することが出来る。
図4−3−4に
は、横軸にコイル電流をとった場合の、2T、8T、ランダム信号それぞれのジッター値
をプロットしたものを示す。
信号の変調には(1、7)−RLLを用いている。
コイ
ル電流が少ないときには、8Tの劣化が顕著となり、ランダム信号においてはあたかも8
Tが支配的となっているように同様に劣化しているのが判る。
これは、先の結果におい
て8Tの磁界感度が悪かったことと対応しており、磁界が足りない場合には8Tの信号で
全体のSNRが決定されていることを示すものである。
磁界が大きくなってくると、ラ
ンダムデータのジッターも飽和傾向にあり、ほぼ 300 mA 程度でボトムジッターが得られて
いる事が判る。
抵抗値 3.3 Ωを考慮すれば、これは 300 mW の消費電力に相当するので、
記録磁界を与える消費電力として 300 mW に設定した。
図4−3−5には、記録パワーを横軸に取った場合のランダムデータに対するジ
ッターを示す。 尚、パラメータとしてクロックに対するパルス幅の duty を選んだ。 duty
- 76 -
19.0
Disk No.3/7 1-3
3.0 m/s (0.225 µm/bit) Random
Pr=0.9 mW
18.0
Jitter (%)
17.0
duty=37 %
16.0
15.0
duty=45 %
14.0
13.0
12.0
11.0
5.0
6.0
7.0
8.0
9.0
10.0
11.0
12.0
Recording Power (mW)
図4−3−5
薄膜コイルにより(1,7)ランダムデータを記録した場合の,
記録パワーに対するジッターの変化.
10
0
Carrier Level
Noise Level
Carrier Level
Noise Level
-10
duty
(40 %)
(40 %)
(30 %)
(30 %)
-20
-30
-20
-40
Noise Level (dBm)
Carrier Level (dBm)
-10
-30
3.4m/s, 11T(900kHz)
3.0
4.0
5.0
6.0
7.0
8.0
9.0
-50
10.0
Recording Power (mW)
図4−3−6
薄膜コイルにより 1.9 μm マークを記録した場合の,キャリア
レベル及びノイズレベルの記録パワーによる変化.
- 77 -
が 50 %とは、on と off が同じ時間間隔で繰り返されている状態を表している。
この結果
から、duty が 37 %の時も 45 %の時もパワーが増加するに伴いジッター値が減少してゆき、
記録パワーがほぼ 8.0∼9.0 mW 以上で良好な再生特性を示す事が判った。
尚、同様の結
果はキャリア、ノイズレベルの変化からも知ることが出来る。 図4−3−6には長さ 1.9
μm のマークを、記録パワーを変えながら記録した場合の、キャリアレベル及びノイズレベ
ルの変化を示す。 同じくパラメータとして duty を選び、30 %、40 %を設定した。 ほぼ
7.0∼8.0 mW 程度までキャリアレベルは徐々に増加しており、先の図4−3−5の結果に対
応しているものと考えられる。
4−3−2
信号再生特性
図4−3−7には、記録周波数に対する再生キャリアレベルの変化を示す。
記
録パワーは 9.0 mW、duty45 %、コイル電流は 340 mA である。 更に得られた結果の妥当性
を明確化する為に、横軸を空間周波数に変換し、縦軸を規格化したものを図4−3−8に
Carrier Level (dBm)
0.0
-2.0
-4.0
-6.0
-8.0
-10.0
0.0
Disk No. 2/6-1
Head Ver2.0-Lot3(PI-04 Type1)
3.4 m/s (Track No. 4614)
Pr=1.0 mW
Pw=9.0 mW Duty=45 %
Maget (Current) : 340 mA
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
Frequency (MHz)
図4−3−7
NA0.85,650 nm の光学系で再生されたキャリアレベルの記
録周波数依存性.
- 78 -
1.2
1.0
MTF
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
400
800
1200
1600
2000
2400
2800
Spatial Frequency (1/mm)
図4−3−8
NA0.85,650 nm の光学系で再生されたキャリアレベル.横軸
を空間周波数に変え,信号レベルは規格化されている.
Mark Length (µm) (NA: 0.55, 685 nm)
0
0.5
1
1.5
2
5
Carrier Level (dBm)
650 nm, NA0.85
0
-5
-10
685 nm, NA0.55
-15
-20
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
Mark Length (µm) (NA: 0.85, 635nm)
図4−3−9
NA0.85,650 nm の光学系で再生されたキャリアと,NA0.55,
685 nm の光学系で再生されたキャリアとの比較.
- 79 -
13.5
Disk No .3 /7 1 -3
3.0m/ s (0 .2 25µ m/bit ) Ran dom
P r=0. 9mW Pw= 11.4mW Dut y= 37%
Jitter (%)
13.0
12.5
12.0
11.5
11.0
-2.0
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
Tangential Tilt (degree)
図4−3−10
NA0.85,650 nm の光学系で再生した場合の,ディスクチルト
に対するジッター値の変化.
示す。 2NA/λ=(2×0.85)/(650×10-6)≒2615(本/mm)となるMTFカーブの理論曲線を重
ねると、測定結果はほぼ理論曲線に乗っているのが判る。
即ち、本研究で用いられてい
る光学系及び記録媒体が、ほぼスポット径から得られるべき分解能の理論通りの特性を示
している事がわかる。 更に理解を深めるために、NA0.55、685 nm で測定されたキャリ
アレベルの変化をNA0.85 の結果と重ね合わせてまとめてみた。 その様子を図4−3−
9に示す。
横軸はマーク長に取ってあるが、そのまま重ねてしまうとスポットサイズに
比例した分だけ、ずれたグラフとなってしまうので、ここではλ/NA 比を掛けて横軸をNA
0.85、650 nm での値に換算したもので表してプロットしている。 両者のプロットが揃い、
ほぼ同一の特性を示すカーブとなっているのが判る。
この結果からも、少なくともNA
0.55、685 nm の光学系と同レベルで光学性能が引き出されており、理想的な状態での測定
が行われている事が予想される。 このことから、試作した高 NA レンズシステムのスポッ
ト径が、設計通り微細化されている事が確認出来た。
本研究に用いた光学系の特徴と言えば、カバー層の厚さを薄くすることでディス
- 80 -
クが傾いたときに生ずるコマ収差量を抑えた点にある。
図4−3−10にはディスクの
タンジェンシャル方向の傾き角に対する、ジッターの変化量を示す。
メカニカルな制限
から片側しか測定されていないが、片側のみで軽く1度以上のマージンを有しており、高
NA を用いた場合でもカバー層を薄くしたことにより、チルトが発生した場合のコマ収差に
よる劣化が抑えられているという特徴をよく表している。
4−3−3
650 nm、NA0.85 での記録再生密度
波長 650 nm、NA0.85 の光学パラメータにおいて、何処までの高密度化が達成さ
れるかを確認するために、記録密度に対する記録再生特性を評価する。
図4−3−11
には線密度を変えて記録再生した場合のランダムデータに対するジッターを、同信号の2
T及び8T成分に対して測定した結果を示す。
尚、トラックピッチは 0.55 μm とし、隣
接トラックからのクロストークが無い状態で測定を行っている。
光学的カットオフによ
り制限を受けているためか、2Tキャリアのジッターは 0.22 μm 以下で急激に劣化してお
16.0
Disk No. 3/7 1-3 (Tp=0.58 µm)
Head Ver2.0-No.8 (Type 1)
w/o Crosstalk
Jitter (%)
14.0
12.0
10.0
Random
8.0
8T
6.0
2T
4.0
0.18
0.20
0.22
0.24
0.26
0.28
bit Length (µm/bit)
図4−3−11
NA0.85,650 nm の光学系,薄膜磁気コイルにより記録再生さ
れた,2T,8Tキャリア及び(1,7)ランダムデータからのジッ
ター値.ビット長を変えて測定している.
- 81 -
り、これに対応してランダムデータのジッターも劣化しているのが観測されている。
同
グラフにおいて、エラー訂正限界値である 5×10-5 に相当する値であるジッター12.5 %を閾
値として定め、限界密度を求めたところ、およそ 0.19 μm/bit と見積もることが出来る。
限界密度に対多少のマージンを考慮し 0.21 μm/bit の記録線密度で記録を行った。 その
時の再生RF信号のアイパターンを、図4−3−12に示す。
最短マークのRF振幅も
十分にあり、良好なアイパターンが得られている様子が良く判る。
図4−3−12
4−4
トラックピッチ 0.55 μm のディスクに線密度 0.21 μm/bit の
信号を記録した場合の再生アイパターン.
まとめ
NA0.85、650 nm の光学パラメータを用いて、光磁気記録を行いその記録再生特
性を評価した。 NA0.55、685 nm での測定結果との比較において、またMTF理論曲線
との直接比較評価を行うことで、NA0.85、650 nm と言う光学パラメータに対し、スポッ
トサイズに見合う理論的な光学性能が得られていることが判った。
同光学系を用い高密
度記録を行った結果、ビット長 0.19∼0.20 μm/bit、トラックピッチ 0.55 μm でのジッタ
ー値 12.5 %を得た。 この密度は、NA0.55、685 nm での結果、0.31 μm/bit、0.85 μm
- 82 -
それぞれに対しNA比率分だけ高密度化が成されていることを意味する。
参考文献
1)
K.Aratani, T.Narahara, A.Fukumoto, S.Masuhara, N.Arakawa, Y.Takemoto and
Y.Takeshita,
Disk
2)
Coaxing the Maximum Performance out of an Ordinary Structured MO
Jpn. J. Appl. Phys. 35 (1996) 433.
K.Aratani, A.Fukumoto, M.Ohta, M.Kaneko and K.Watanabe,
super resolution in novel magneto-optical disk
3)
I.Ichimura, S.Hayashi and G.S.Kino,
solid immersion lens
4)
Proc. SPIE 1499 (1991) 209.
High-density optical recording using a
Appl. Opt. 36 (1997) 4339.
上村拓也,玉野井健,田口雅一,田中努,庄野敬二, フロントイルミネーション方式
光磁気記録媒体
5)
Magnetically induced
第26回日本応用磁気学会学術講演概要集
A.Fukumoto, S.Masuhara and K.Aratani,
17pF-8 (2002) 123.
LAND/GROOVE Recording in MO Systems
Proc. SPIE 2514 (1995) 374.
6)
K.Yamamoto, K.Osato, I.Ichimura, F.Maeda and T.Watanabe,
Aperture Two Element Objective Lens for the Optical Disk
A 0.8 Numerical
Conf. Dig. of Joint
International Symposium on Optical Memory and Optical Data Storage, Paper OFA2-1
(1996).
- 83 -
第5章 青色・高NA光磁気ディスク
5−1
序
1998 年に日亜化学工業から提案された GaN 系青紫色半導体レーザ1)により、短波
長領域での光ディスク開発は、より現実的のものになってきた2)。 光磁気記録においても、
高NAと短波長光源を組み合わせた光学パラメータにおける高密度化は、非常に興味があ
るテーマである。
本章では、NA0.85 の光学系と波長 405 nm の GaN レーザとを組み合わ
せて記録再生を行った際の、達成記録密度を見極めることを目的としている。
短波長光
源もしくは高NA光学系によりスポットサイズが縮小され光スポットのエネルギー密度が
高くなると、ディスク再生光照射による温度上昇も無視出来なくなる。
本章においては
短波長光源で再生する場合の温度上昇に着目しながら、短波長光源に最適化されたディス
ク構造に関して考察を行う。
また、高密度化が進むにつれてより厳しくなる記録パワー
マージンについて改めて着目し、クロスライト特性、オーバーライト特性といった記録パ
ワーマージンを決定するメカニズムを考察し、実現可能な達成記録密度に関して議論する
こととする。
5−2
実験方法
5−2−1
評価環境
図5−2−1には、本研究で用いた評価実験環境を図示する。 基本的な構成は、
第4章で用いたものと同じである。
レーザ光を整形するアナモプリズム、トラッキング
を取るためのグレーティング、位相補償のためのλ/4 波長版とλ/2 波長版、光磁気信号検
出のためのウォラストンプリズムなどを装備している点では、全く同じと考えて良い。 但
し本実験においては、純粋に波長、NAと言った光学パラメータの記録再生に及ぼす影響
を議論する目的であるので、0.6 mm 厚みの基板を介してレーザ照射などディスクの記録再
生を行い、記録に必要な外部磁界は裏面より浮上磁気ヘッドを用いて実験を行った。
- 84 -
N
磁気ヘッド
ディスク
対物レンズ
エキスパンダー
QWP
HWP
ウォラストンプリズム
BS
APC
回折格子
QWP QWP
円筒レンズ
光検出器
アナモプリズム
コリメーターレンズ
LD
λ=405 nm
図5−2−1
波長 405 nm,NA0.85 の評価光学系の構成概念図.
A0.85 の対物レンズは、これまでと同様に2群レンズにより構成されているが、基板厚さ
0.6 mm に対応するよう2群レンズ間距離が調整されている。
ディスク厚さ誤差などで取
りきれない球面収差分を取り除く目的で、対物レンズの直前に倍率可変のビームエキスパ
ンダーを構成している。 光源は、日亜化学工業製、青紫色 GaN レーザを使用し、波長 405
nm、定格 5 mW である。
5−2−2
ディスクの最適化
第3章で取り扱ったように、光スポットの微細化に伴う基板ノイズの上昇は本章
- 85 -
においても同様に問題となってくる。 図5−2−2には、NA0.85、405 nm で測定され
たノイズレベルを、それぞれシステムノイズ( N System )、レーザ(ショット)ノイズ
( N Laser +Shot )、メディアノイズ( N Media )に分離した結果を示す。
ここで言うシステム
ノイズとは電源投入時に電気回路、回路デバイスなどから発せられるノイズ全般を意味し
ており、測定はレーザをOFFにした状態で測定する。
レーザ(ショット)ノイズは、
レーザ発振時に発生するノイズもしくはレーザ光を光電変換素子により受光した際に生ず
るノイズ成分を意味する。
測定は、レーザを発光させた状態で、ディスクを静止もしく
は低速回転させてノイズレベルを測定する。
この時測定されたノイズ成分は、システム
ノイズを含む事となるので、先に測定されたシステムノイズを差し引く。
計算は、以下
の式に従う。
2
N Total = N System
+ N 2Laser+Shot
[5.1]
同様に、メディアノイズに関しても、先ずディスクを通常の回転数で回転させノイズレベ
ルを測定し、その後レーザノイズ、システムノイズなどを差し引くやり方で得られる。 こ
-40
Noise Level (dBm)
-45
-50
-55
Total noise
-60
Laser (shot) noise
-65
Media noise
-70
-75
System noise
-80
0
5
10
15
20
Frequency (MHz)
図5−2−2
NA0.85,405 nm の光学系で再生した光磁気ディスクのノイズ
スペクトラム.
- 86 -
の場合の計算は、以下の[5.2]式に従う。
2
N 'Total = N System
+ N 2Laser+Shot + N 2Media
[5.2]
図5−2−3には、本論文にて扱うディスク再生時に観測される主なノイズ成分の分類系
統図を示す。
ここで、基板ノイズとは透明樹脂基板を介して再生を行う場合に発生する
樹脂の複屈折に起因したノイズを意味し、今回の検討の様に膜面からの再生の場合には無
視する事が出来る。
図5−2−2の結果は、ディスクに信号を記録した際のノイズレベ
ルであるので、ここで扱うメディアノイズは、第3章で扱った様に基板表面の凹凸といっ
た幾何学形状に伴う磁気的ノイズ及び光学的ノイズからなる表面ノイズと、信号を記録し
た際に記録磁区形状のばらつきなどに伴う磁区ノイズとから成るものと考えられる。
図
5−2−2において、光検出器の青波長領域での量子効率が落ち信号レベルが下がってし
まうので、再生パワーはそれを補う為に高めの 2.5 mW である。
図から明らかなように 10
MHz 以下の低域において、メディアノイズが顕著であることが判る。 このノイズレベルの
上昇は、通常媒体を低NA(0.55)の光学系等で再生した場合に得られるスペクトラムと
比して、明らかに上昇しているものと考えられる。
このノイズレベルの上昇が、ディス
ク基板上の凹凸に起因したものであると想定し、第3章記載と同様の方法でガラス2P基
板に対し UV 照射処理を行った。 結果を、図5−2−4に示す。 照射時間は 15 min で
ノイズ
システムノイズ
レーザノイズ
ショットノイズ
メディアノイズ
基板ノイズ
表面ノイズ
磁気的ノイズ
光学的ノイズ
磁区ノイズ
図5−2−3
光ディスク再生時に観測される,各ノイズレベルの分類と呼
称.
- 87 -
-40
Noise Level (dBm)
-45
-50
Total noise
-55
Laser (shot) noise
-60
System noise
-65
-70
Media noise
-75
-80
0
5
10
15
20
Frequency (MHz)
図5−2−4
NA0.85,405 nm の光学系で再生した,紫外光照射処理後の
光磁気ディスクのノイズスペクトラム.
ある。
他のノイズはほぼそのままで、メディアノイズのみ極端に改善されている様子が
判る。
レーザ(ショット)ノイズが照射後に若干増加しているのは、おそらくグルーブ
形状の変形に伴い戻り光量が増加したためと考えられる。
メディアノイズの改善は、低
周波域で 10 dB 程度にまで達しており、この値は第3章で見積もった、スポット微細化に
伴うノイズ上昇分を十分に補うものであり、UV 照射により十分に改善されていることが判
る。
図5−2−5に、本実験で用いた光磁気ディスクの膜構成を示す。
光磁気膜と
して、磁界感度を向上させる為に TbFeCo/GdFeCo2層膜を用いている。 磁性層に隣接して、
熱制御層(Thermal control layer)を設定し、今回は Ag を用いた。
この熱制御層の効
果を確認する為に、熱制御層の膜厚を変えた場合の、再生パワーに対する再生CNRの依
存性を測定した。
図5−2−6は 0.23 μm のマークを再生した結果を、図5−2−7は
0.61 μm の結果をそれぞれ示す。
Ag 熱制御層が薄く効果が少ない場合には、再生パワー
の増加に伴いCNRが劣化しているのが観測されている。
- 88 -
これは、再生パワーの増加に
Glass 2P Substrate
Dielectric (SiN)
Magneto-optic
Thermal control
Dielectric (SiN)
Heat sink
図5−2−5
熱制御層を付けた,光磁気ディスクの膜構成.
50
CNR (dB)
45
40
35
Ag 4 nm
Ag 8 nm
Ag 17 nm
30
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
Read Power (mW)
図5−2−6
0.23 μm のマークを,NA0.85,405 nm の光学系で再生した
場合のCNRの再生パワー依存性.
- 89 -
55
CNR (dB)
50
45
40
Ag 4 nm
Ag 8 nm
Ag 17 nm
35
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
Read Power (mW)
図5−2−7
0.61 μm のマークを,NA0.85,405 nm の光学系で再生した
場合のCNRの再生パワー依存性.
0.4
Carrier Level (A.U.)
0.35
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
Ag 4 nm
Ag 8 nm
Ag 17 nm
0.05
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
Read Power (mW)
図5−2−8
0.23 μm のマークを,NA0.85,405 nm の光学系で再生した
場合のキャリアレベルの再生パワー依存性.
- 90 -
0.8
Carrier Level (A.U.)
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
Ag 4 nm
Ag 8 nm
Ag 17 nm
0.1
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
Read Power (mW)
図5−2−9
0.61 μm のマークを,NA0.85,405 nm の光学系で再生した
場合のキャリアレベルの再生パワー依存性.
伴い媒体温度が上がってしまう為に、カー回転角の劣化もしくは記録磁区を熱破壊してし
まうことによるものと考えることが出来る。
一般的には、再生パワーを Pr 、ディスクの
反射率を R 、カー回転角を θ K とすれば、キャリアレベルは R × θ K × Pr に比例して増加し、
ショットノイズは R × Pr に、磁区ノイズは R × θ K × Pr に比例する事が知られている。 ま
た、第3章で述べた様に、ディスク表面の凹凸に起因するノイズの場合には、 R × Pr に比
例するものと考えられる。
従って、 Pr を上げた場合に、ショットノイズ支配だとCNR
は Pr に比例して増加し、メディアノイズ支配だと θ K が変化しない限りCNRは Pr に依
存せず一定となる。 但し、 Pr を投入しすぎてメディア温度が高くなってしまうと、θ K の
温度特性の影響でキャリアが低下してしまう為に、CNRは劣化してしまう。
本実験に
おいて Ag が 4 nm の場合に 2 mW 以上の高い Pr でCNRが減少しているのはその為であると
考えられる。
Ag を 8 nm 以上に設定した場合、2 mW 以下のパワーで Pr に比例してCN
Rが増加、それ以上のパワーでは Pr に依存せず一定であるので、2 mW 以下のパワーではシ
ョットノイズが支配的であり、それ以上ではメディアノイズが支配的であると考える事が
- 91 -
出来る。
言い換えれば、Ag の熱制御層の厚さを 8 nm 以上に設定する事で、メディアノイ
ズ支配となるまで Pr を高くする事が可能であり、温度上昇によるCNRの劣化を防ぐ事が
出来る。
図5−2−8には同じく 0.23 μm のマークを、図5−2−9は 0.61 μm のマ
ークをそれぞれ再生した際の、キャリアレベルの Pr 依存性を示す。
どちらのマーク長の
場合も、また様々な Ag 厚さの場合においても、2 mW 程度まではキャリアレベルが Pr に対
し比例しており、理論通りの挙動を示している。 しかしながら、2 mW 以上にパワーが高
くなると、特に Ag が薄い場合には比例関係からずれており、 θ K が媒体温度上昇の為劣化
し始めている事が理解出来る。 先のCNRの結果では良く判らなかったが、Ag 8 nm でも
Pr が高くなるとキャリアレベルの劣化が観測されており放熱効果が不十分である事が判る。
これらの結果より、再生時の光照射による熱ダメージを受けにくい構造として磁性層に隣
接した熱制御層を提案し、例えば Ag を用いる場合は 17 nm に設定することでその効果が十
分に得られることが判った。
5−3
高密度記録とパワーマージン
5−3−1
405 nm、NA0.85 での記録密度
図5−3−1には、トラックピッチを 0.25、0.3、0.35 μm と変えて、(1,7)-RLL
のランダムデータを記録した場合のボトムジッターを、記録線密度に対してプロットした
結果を示す。
トラックピッチを 0.25 μm にまで狭くすると、SNRが劣化する為か線密
度に依らずジッターが悪化し始めているものの、概ね同様の特性を示していることが判る。
ジッターの閾値として 12.5%を考慮すると、トラックピッチ 0.3 μm の際に線密度 0.11∼
0.12 μm/bit が得られる。 これは、記録面密度にして 19.6 Gbit/inch2 に相当している。
同様に、トラックピッチ 0.25 μm の場合には、線密度 0.13∼0.14 μm/bit が得られ、こ
れは面密度 19.9 Gbit/inch2 に相当しており、いずれにしても∼20 Gbit/inch2 の記録面密
度を実現出来る見通しを得ることが出来る。
次に、第4章で検討した、赤色、高NAの
系で測定された結果と対比をする。 赤色 690 nm、NA0.85 での測定結果を図5−3−2
に示す。
同じ閾値で考えると記録線密度 0.18∼0.19 μm/bit が得られ、この値は図5−
- 92 -
24.0
without crosstalk
NA=0.85, λ=405 nm
Land(0.25 µm)
Groove(0.25 µm)
Land(0.30 µm)
Groove(0.30 µm)
Land(0.35 µm)
Groove(0.35 µm)
Jitter (%)
20.0
16.0
12.0
8.0
0.08
0.1
0.12
0.14
0.16
0.18
bit Length (µm/bit)
図5−3−1
トラックピッチ 0.25,0.3,0.35 μm のランド&グルーブ基板で
の,ジッターの線密度依存性.
20.0
Track pitch = 0.39 µm
without crosstalk
NA=0.85, λ=690 nm
18.0
Jitter (%)
16.0
14.0
12.0
Groove
10.0
Land
8.0
6.0
0.16
0.18
0.2
0.22
0.24
0.26
bit Length (µm/bit)
図5−3−2
NA0.85,690 nm の光学系で記録再生を行った場合の,ジッ
ターの線密度依存性.
- 93 -
20.0
Track pitch = 0.35 µm
without crosstalk
NA=0.6, λ=405 nm
18.0
Jitter (%)
16.0
14.0
12.0
Land
10.0
Groove
8.0
6.0
0.14
0.16
0.18
0.2
0.22
0.24
bit Length (µm/bit)
図5−3−3
NA0.6,405 nm の光学系で記録再生を行った場合の,ジッタ
ーの線密度依存性.
10-2
bit Error Rate
10-3
-4
10
Land
-5
10
Groove
-6
10
0.1
0.12
0.14
0.16
0.18
0.2
bit Length (µm/bit)
図5−3−4
トラックピッチ 0.25 μm のディスクに線密度を変えて記録を行
った場合の,ビットエラーレート.
- 94 -
3−1で得られた 0.11∼0.12 μm/bit にほぼ波長比分で対応している。 トラックピッチ
を考慮すると、青色の場合の 0.25 μm に対応しているので誤差としては大きくなるが、概
ね一致していると解釈して問題ないと考えられる。
即ち、理論通り図5−3−1の結果
と図5−3−2の結果は、スポットサイズに対してそれぞれ同等の特性を示した結果であ
ると考える事が出来る。
る事が出来る。
同様の結果は、波長を固定しNAのみを変えた場合にも観測す
図5−3−3には、波長 405 nm、NA0.6 の光学パラメータを用いて測
定を行った場合の結果3)を示す。
同じく 12.5 %の閾値で考えると線密度 0.18 μm/bit
が得られる事になるが、NA比で換算するとNA0.85 の場合には、トラックピッチ 0.25 μ
m、0.13∼0.14 μm/bit に対応しており、やはり結果が一致している事が判る。 これらの
実験結果より、本実験に於ける達成密度としてトラックピッチ 0.25 μm、
線密度 0.13∼0.14
μm/bit は、他の波長及びNAを変えた実験からも妥当性のある値である事が判った。 図
5−3−4には、図5−3−1で測定した 0.25 μm トラックピッチのディスクに対し、ビ
ットエラーレートの線密度依存性を測定した結果を示す。
エラーレートの閾値として 5
×10-5 を考えるとほぼ 0.13 μm/bit を達成線密度と見なす事が出来る。
5−3−2
記録モデルとパワーマージン
光磁気記録のパワーマージンを考察するに当たり、ランド&グルーブ基板に於け
る磁界変調記録の場合について、簡単な実験を行う。
ランド&グルーブ記録は、従来の
光磁気ディスクにおいて半径方向の位置決めを行うためのガイド溝間(ランド)のみなら
ず溝上(グルーブ)にも記録を行うことで(図5−3−5参照)高記録面密度を実現する、
有力な技術の一つとして考えられている。
せた報告は幾つか為されている4、5)。
光磁気記録において磁界変調記録と組み合わ
これらの報告の中では、ランド&グルーブ基板上
に磁界変調記録を用いて記録を行った際に、隣接トラックからのクロスライト・クロスト
ークが顕著となってしまうために、十分な記録パワートレランスが得られないことが問題
として掲げられている。
本節に於いては、ランド&グルーブ基板上の磁界変調記録のメ
カニズムをモデル化し、記録パワーマージンを制限する支配的要素を解明することを目的
- 95 -
ランド
グルーブ
Al
SiN
MO
SiN
基板
図5−3−5
図5−3−6
ランド&グルーブディスクの断面SEM像.
ランド&グルーブ基板に記録された信号のアイパターン.トラ
ックピッチ 0.7 μm,ビット長 0.375 μm/bit.
- 96 -
とする。
測定には波長 685 nm の赤色半導体レーザを用い、対物レンズの NA は 0.55 とした。
スポットサイズ調整のためのアナモプリズム、クロストーク抑制のための波長板を挿入し
た構成をとっている。
記録は、浮上型磁気ヘッドにより光パルスアシスト磁界変調記録
を行い、基本となるパルス Duty は 38 %とした。
記録した信号は、(1,7)-RLL 変調によ
る、ビット長 0.375 μm/bit にセットされたランダム信号であり、図5−3−6には同信
号を再生した場合のアイパターンを示す。 測定に用いたメディアは、TbFeCo/GdFeCo 交換
結合2層膜からなる光磁気磁性薄膜を SiN 等の透明誘電体層で挟み、光反射及び熱感度調
整のためのアルミ層を積層させた、4層構成をとっている。
図5−3−7、5−3−8にはそれぞれトラックピッチ 0.7 μm のグルーブ上、
ランド上に信号を記録した際の典型的な測定結果を示す。
記録パワーに対するジッター
の変化を示しており、評価関数には再生信号から得られたクロック信号に対する再生信号
エッジの時間的なずれの標準偏差を求めたジッターを採用している。
以下に、図5−3
16.0
14.0
One Track
Overwrite
Crosswrite
Jitter (%)
12.0
10.0
8.0
6.0
Track Pitch = 0.7 µm
4.0
7.0
8.0
9.0
10.0
11.0
12.0
13.0
Recording Power in Groove (mW)
図5−3−7
トラックピッチ 0.7 μm のランド&グルーブ基板のグルーブ上
で,記録再生を行った場合のジッターの記録パワー依存性.
- 97 -
16.0
Overwrite
14.0
Crosswrite
Jitter (%)
12.0
One Track
10.0
8.0
6.0
Track Pitch = 0.7 µm
4.0
7.0
8.0
9.0
10.0
11.0
12.0
13.0
Recording Power on Land (mW)
図5−3−8
トラックピッチ 0.7 μm のランド&グルーブ基板のランド上で,
記録再生を行った場合のジッターの記録パワー依存性.
−7、5−3−8を参照しながら、基本測定となるクロスライト、オーバーライト測定方
法に関して解説する。
(1)クロスライト測定
先ず、測定するグルーブ(ランド)上に、所定のパワーにて記録を行う。 次に
測定されるグルーブ(ランド)を挟むようにした隣接のランド(グルーブ)に同
パワーにて記録を行う。 最後に測定すべきグルーブ(ランド)に戻りジッター
を測定する。
(2)オーバーライト特性
測定するグルーブ(ランド)の隣接ランド(グルーブ)上に、
(1)の測定に於い
て劣化がおこらない最大のパワーで信号を記録した後に、測定グルーブ(ランド)
上に同じパワーで記録を行う。 続いて、同グルーブ(ランド)上で所定のパワ
ーにて重ね書きした後ジッター測定を行う。
- 98 -
16.0
14.0
Track Pitch = 0.7 µm
in Groove
Pwd
Overwrite Power
9.0 mW
Jitter (%)
12.0
10.0
9.3 mW
8.0
9.5 mW
10.0 mW
6.0
4.0
7.0
8.0
9.0
10.0
11.0
12.0
13.0
Prerecording Power (mW)
図5−3−9
グルーブ部におけるオーバーライト後のジッターの,元データ
記録パワー依存性.オーバーライトするパワーをパラメータに
している.
グルーブ上に記録された場合とランド上に記録された場合とでは、1トラックのみに記録
した場合に若干の違いがあるものの、クロスライト、オーバーライトによりジッターが1
トラック記録に比して劣化し始める記録パワーには、差異がないことが判る。
オーバーライト特性を更に詳細に理解するために、オーバーライト後のジッター
を最初に記録された時のパワーに対する依存性として調べた。
その結果を図5−3−9
に示す。
磁界変調記録の場合、記
パラメータは、オーバーライト時のパワーである。
録パワーの上昇によって大きく変化するのはマーク幅であると考えられる。
従って、記
録済みの信号の上にそれよりも高いパワーで新たに信号を重ね書きした場合には消し残り
が生じないことは容易に理解できる。
図5−3−9において、オーバーライトパワーよ
りも低いパワーで前信号を記録した場合に、ジッターが一定値をとっているのはその為で
あり消し残りが生じていないことを意味するものと考えられる。
オーバーライトパワー
よりも高いパワー前信号を記録すると、前信号の幅が広くなる為オーバーライト時に消し
- 99 -
図5−3−10
オーバーライトパワーが不足している時の様子.前マークの
消し残りが出来た状態で,新たなマークが記録されている.
残りが生じ、その為にジッターが劣化していくものと考えることができる。
メージを、図5−3−10に示した。
この時のイ
図示されているように、オーバーライトされて記
録されたマーク幅が、前信号の幅よりも小さい為に両マークが混在した状態となっている
ことが予想される。
図5−3−9において興味深いのは、ジッターの劣化が∼10 mW 付近
で飽和し、それ以上はジッター値が変化しない点である。
この現象は、信号レベルにあ
まり寄与しない領域にまでマークが広がった為と考える事が出来る。
光検出器直前に位
相補償板を用いている今回の場合は、例えばグルーブ部の信号に対してランド部の信号が
最小となるように調整されており、再生信号に主に寄与するのはグルーブ部に記録された
信号のみである。
従って、例えばランドとグルーブの境界に位置する斜面部分もしくは
その斜面を乗り越えて隣接トラック近傍にまで広がった記録領域は、再生信号に寄与しな
い状況が考えられる。 結局、このパワー(∼10 mW: Pwd )は、グルーブに対しほぼ幅一
杯にまでマークが広がるパワーであると考えられる。
このことから新しい信号を記録す
る場合に、常に幅一杯のマークを書いていれば、如何なるパワーでかかれた前信号も消し
残りなく重ね書き出来ることは容易に理解できる。
また前出の図5−3−7,5−3−
8におけるオーバーライト特性がボトム値を示す最低パワーが Pwd となることとも一致す
る。
次に、クロスライト特性について考察する。
図5−3−11には、固定パワー
で記録された測定トラック上の信号変化と、所定パワーにて記録された隣接トラックから
- 100 -
-15.0
-4.5
Prerecord power
-20.0
12.0 mW
-5.0
-25.0
10.0 mW
-30.0
-5.5
-35.0
-6.0
10.0,12.0 mW
-40.0
-6.5
Pcrt
Track Pitch = 0.7 µm
-7.0
7.0
8.0
9.0
10.0
11.0
12.0
Subcarrier (1.4 µm) (dBm)
Main Carrier (1.0 µm) (dBm)
-4.0
-45.0
13.0
Recording Power (mW)
図5−3−11
記録トラックに原信号を記録後,隣接トラックにパワーを変え
ながら記録した場合の,原信号レベルとクロストーク.
の信号変化の両方を分離して測定するために、それぞれ単一周波数マークを記録しそのキ
ャリアレベルを示す。
尚、この場合、クロストークの信号量を測定する為に位相補償は
行わないものとした。
図から明らかなように、隣接トラックのマークからの信号(これ
はクロストークに対応するものと考えられる)が急激に増加するパワーに於いて、メイン
図5−3−12
記録パワーを上がり,クロスライトが生じている様子.マーク
の幅が広がり,隣接トラックのマークと重なっている.
- 101 -
キャリアも減少している事が判る。
10 mW でメインキャリアを記録した場合、キャリアが
減少を始めるパワー(∼11 mW: Pcrt )に着目する。 先節の検討に依れば、∼10 mW での記
録は丁度グルーブ幅程度にマーク幅が広がっていることになるが、これが減少をはじめる
ということは隣接トラック(ランド)のマーク幅がグルーブにまで広がってきた事を示す
ものと考えることが出来る。 その時の様子を、図5−3−12に示した。
Pcrt が図5−
3−7,5−3−8での隣接トラックに記録した時にジッターが増加を始めるパワーと一
致しているということは、隣接トラックに記録した時にジッターが劣化し始める主要因が
隣接マークの主トラックへのクロスライトであることを示す事になる。
結局、図5−3
−7,5−3−8に於いてオーバーライト特性及びクロスライト特性によりジッターが劣
化しない領域をパワーマージンと定義すると、これはマークの幅が記録トラック幅と一致
( Pwd )してからランド/グルーブの境界部の斜面を広がって隣接トラックに達する( Pcrt )
までの間に相当するものと結論づけることが出来る。
この考察を裏付ける意味で、溝深
さが 70 nm と 170 nm の2種類のランド&グルーブ基板を用意し、それぞれクロスライト特
16.0
depth = 70 nm
14.0
Jitter (%)
12.0
10.0
depth = 170 nm
8.0
6.0
Track Pitch = 0.7 µm
4.0
6.0
8.0
10.0
12.0
14.0
16.0
Recording Power (mW)
図5−3−13
トラックピッチ 0.7 μm で溝深さを 70 nm,170 nm とした場合
の,ジッターの記録パワー依存性.
- 102 -
性、オーバーライト特性を測定した。
溝深さが深くなると言うことは、グルーブ境界部
の斜面の幅を広げる事と等価であるので、パワーマージンが改善されることになるはずで
ある。
結果を図5−3−13に示す。
予想通り溝深さを深くすることで、他の特性を
一切変えることなくパワーマージンだけが広げることができ、考察したモデルが正しいこ
とを示している。
5−3−3
405 nm、NA0.85 での記録パワーマージン
5−2−2節で紹介したランド&グルーブ基板の低ノイズメディアに対し、グル
ーブ部、ランド部においてパワーマージンを評価した結果を図5−3−14、5−3−1
5にそれぞれ示す。 使用したトラックピッチは 0.28 μm、ビット長は 0.123 μm/bit で
ある。
また、使用したグルーブ深さは 35 nm とし、これは波長 405 nm に対して、λ/8n
に相当する。
測定したのは、クロスライト特性とオーバーライト特性、及びクロストー
-1
10
bit Error Rate
10-2
Cross Write
10-3
10-4
Over Write
Over Write without Cross Talk
-5
10
6
7
8
9
10
Recording Power (mW)
図5−3−14
グルーブ部に於けるオーバーライト特性,クロスライト特性.ト
ラックピッチ 0.28 μm,ビット長 0.123 μm/bit とした.
- 103 -
0
10
bit Error Rate
10-1
Cross Write
10-2
10-3
Over Write
10-4
Over Write without Cross Talk
-5
10
6
7
8
9
10
Recording Power (mW)
図5−3−15
ランド部に於けるオーバーライト特性,クロスライト特性.トラッ
クピッチ 0.28 μm,ビット長 0.123 μm/bit とした.
クを含まないオーバーライト特性で、評価関数はビットエラーレートである。 ここでは、
エラーレートの閾値をこれまでの密度評価と異なり、使用可能な範囲という意味でエラー
訂正可能な限界 5×10-4 に設定し、評価を行う事とした。 前述の通り、パワーマージンと
してはクロスライト特性とオーバーライト特性で挟まれたパワー領域となる。
図から明
らかなようにランド、グルーブいずれにおいてもパワーマージンは非常に狭く、閾値を満
足するパワーマージンは皆無となる。
同図中オーバーライト特性において、クロストー
クの影響を大きく受けており、これがパワーマージンを決定しているものと考え、クロス
トーク特性に関して更に詳細に調べることにした。 図5−3−16、5−3−17には、
メイントラックの2Tマーク(マーク長 0.164 μm)をキャリアレベルとし、隣接トラック
の8Tマークをクロストークレベルとして、位相補償量に対して測定した結果を示す。 使
用したディスクは有限なカー楕円率の値を有する為に、クロストークが最小を与えるグル
ーブ深さは、ランド部とグルーブ部においてそれぞれ異なっている。
通常の光磁気再生
において、カー楕円率を補償するために適当な位相差を有する波長板(位相板)を光学系
- 104 -
-30
Carrier Level (dBm)
Pw=6.4 mW
-35
Carrier in Groove
Carrier on Land
-40
-45
-50
CT from Groove
CT from Land
-55
-90
-60
-30
0
30
60
90
Rotation Angle of Phase Shifter (degree)
図5−3−16
2Tをメインキャリア,8Tをクロストークとした時の,位相補償
量に対する信号レベルの変化.記録パワー6.4 mW の場合.
-30
Pw=8.0 mW
Carrier Level (dBm)
Carrier in Groove
-35
Carrier on Land
-40
-45
CT from Land
-50
CT from Groove
-55
-90
-60
-30
0
30
60
90
Rotation Angle of Phase Shifter (degree)
図5−3−17
2Tをメインキャリア,8Tをクロストークとした時の,位相補償
量に対する信号レベルの変化.記録パワー8.0 mW の場合.
- 105 -
のアナライザの直前に配置することは良く知られているが、このことより位相板はランド
グルーブ記録においてカー楕円率と等価な働きをすることは容易に理解することが出来る。
そこで、アナライザ直前に配された1/2波長板を回転させ適当な位相差を与えることで、
ランド、グルーブそれぞれにおけるクロストーク最小なポイントを探すことが可能となる。
位相板の回転角を横軸に取り、縦軸は再生信号量とクロストーク量をプロットした。
前
述したように、本測定においてはグルーブ深さとしてλ/8n を選んでいる為に、理想的には
キャリア最大とクロストーク最小が一致することが期待される。
図5−3−16は記録
パワー6.4 mW の場合を、図5−3−17は記録パワー8.0 mW の場合を示している。 記録
パワー6.4 mW は図5−3−16に示すとおり、キャリア最大となる位相補償量の時にクロ
ストーク最小となっており、適した位相補償が成されている事が判るものの、図5−3−
14、5−3−15の結果から、かなりの記録パワー不足であることが判る。
一方記録
パワーが 8.0 mW の場合は、図5−3−17に示すとおり、クロストーク最小値を示す位相
補償量ではキャリアが最大値より 3 dB ほど低下してしまっている。 このことは、記録パ
Cross Talk Level (dBm)
-30
Groove
-35
-40
Land
-45
-50
-55
-60
6
6.5
7
7.5
8
8.5
9
9.5
10
Recording Power (mW)
図5−3−18
隣接トラックに記録パワーを変えて信号を記録した際の,クロ
ストーク信号の変化.
- 106 -
図5−3−19
紫外光照射処理を行った後の,基板形状のAFM観察結果.
ワーとしては最適値であるにもかかわらず、最適な位相補償量を実現出来ないことを意味
する。
同様の傾向は、図5−3−18の結果からも知る事が出来る。
同図は、隣接ト
ラックに信号を記録したときのクロストークを、記録パワー依存性として示したものであ
る。
ランド、グルーブいずれの場合も、記録パワーに対しては単調増加しており、記録
パワーの増加に伴うマークの広がりがそのままクロストーク信号の増加につながっている
事が判る。
このことは、ランド部、グルーブ部、及び境界部斜面において同様に信号検
出されている事を意味しており、位相補償によるクロストーク抑制効果が全く現れていな
い事を示すものである。
そこで、基板上で何らかの変化が起こったものと予想し、基板
表面を AFM により観察した。
結果を図5−3−19に示す。
グルーブ形状は、紫外光
照射の影響と考えられる変形を受けており、波型の形状をしている事が判った。
連続的
に変化するグルーブ側壁は位相補償量の継続的な変化をもたらし、その結果除去しきれず
残存したクロストーク量が多くなってしまったものと考えられる。
のノイズ低減にまで考えをさかのぼり、プロセスを見直す事にした。
- 107 -
そこで、今一度基板
元来、基板上に存
①
石英原盤
洗浄
レジスト
②
レジスト塗布
③
露光(カッティング)
④
現像
⑤
エッチング(RIE)
⑥
レジスト除去(アッシング)
⑦
Niメッキ
図5−3−20
RIEプロセスによる基板作成方法.
在する凹凸がノイズ源となるものと考えた訳であるから、表面が非常にスムースな矩形型
の溝が形成出来ればよい事になる。 そこで、Morita 等の報告6)に有るような、Reactive Ion
Etching(RIE)プロセスを採用したマスタリングによる手法が適切であると考え、基板を
作成する事を試みた。
図5−3−20には主な RIE 基板作成プロセスを図示する。
①
まず最初に石英原盤を洗浄後、②石英基板上に光感光性レジストを塗布し、③通常のカッ
ティングと同様レーザ光により溝パターンを露光し、④現像し、未硬化のレジストをきれ
いに除去した後、⑤RIE により、レジスト面より石英基板をエッチングし、⑥エッチング後
残存したレジストをすべて取り除いた後、マザースタンパーとし、⑦Ni メッキを行いスタ
- 108 -
図5−3−21
RIEプロセスにより作成された基板表面のAFM観察結果.
-40
Noise level (dBm)
-45
-50
-55
Total noise
Laser (shot) noise
-60
System noise
-65
-70
-75
Media noise
-80
0
5
10
15
20
Frequency (MHz)
図5−3−22
NA0.85,405 nm の光学系で再生した,RIEプロセスで作成さ
れた基板を使用した光磁気ディスクのノイズスペクトラム.
- 109 -
ンパーとした。
この工程を用いて作成したガラス2P基板の、表面 AFM 観察した結果を
図5−3−21に示す。
結果から明らかなように、ランド、グルーブ及び側壁の形状は
急峻な段差を保った状態にある。
図5−3−22には、このプロセスで試作した基板を
用いて光磁気ディスクを試作し、ノイズレベルを測定した結果を示す。
この結果は前述
の図5−2−2の結果に比して、定量的にノイズレベルが改善されており、図5−2−3
の紫外光照射時とほぼ同レベルまで改善されている事が判る。
この RIE 行程を導入した
低ノイズ基板を用い、前述と同様の測定法にて位相補償特性を評価した。
3−23、5−3−24に示す。
結果を図5−
これらの結果において、キャリアレベル最大となる位
相補償量と隣接トラックからのクロストークが最小になる位相補償量とがほぼ一致してお
り、記録パワー(6.4 mW、8.0 mW)に依らずほぼ最適な位相補償が可能である事が確認出
来る。
また、クロストーク信号の記録パワー依存性も評価した(図5−3−25)。
前
述の図5−3−18において単調増加傾向にあったクロストーク特性も、RIE による低ノイ
ズ基板を用いる事で全般にクロストークが抑制され、しかも記録パワーに対してクロスト
-30
Pw=6.4 mW
Carrier in Groove
Carrier Level (dBm)
-35
Carrier on Land
-40
-45
-50
CT from Groove
-55
CT from Land
-60
-90
-60
-30
0
30
60
90
Rotation Angle of Phase Shifter (degree)
図5−3−23
RIEプロセスで作成された基板を用いた場合の,位相補償量
に対するメインキャリア,クロストーク信号レベルの変化.記
録パワー6.4 mW の場合.
- 110 -
-30
Carrier Level (dBm)
Pw=8.0 mW
Carrier in Groove
Carrier on Land
-35
-40
-45
CT from Groove
-50
CT from Land
-55
-90
-60
-30
0
30
60
90
Rotation Angle of Phase Shifter (degree)
図5−3−24
RIEプロセスで作成された基板を用いた場合の,位相補償量
に対するメインキャリア,クロストーク信号レベルの変化.記
録パワー8.0 mW の場合.
Cross Talk Level (dBm)
-35
-40
Groove
-45
-50
Land
-55
-60
-65
6
6.5
7
7.5
8
8.5
9
9.5
10
Recording Power (mW)
図5−3−25
RIEプロセスで作成された基板を用いて,隣接トラックの記録
パワーを変えた場合のクロストーク信号の変化.
- 111 -
ーク量が変化しない不感帯が観測されている。
これは、記録パワーが増加しマーク幅が
大きくなってゆく際に、グルーブ側壁に広がった部分からの信号が位相補償により抑制さ
れ、マーク幅が拡大してもあたかも大きさが変わっていないかのように見える為と考えら
れる。
即ち、この結果からも最適な位相補償が成されている事が確認出来、クロストー
ク量が十分に抑えられている事が判った。
次に、実際にパワーマージンを測定し問題点が解決されているかを確認する事と
した。 先述と同様に、トラックピッチ 0.28 μm のランドグルーブ基板を用い、ビット長
0.123 μm/bit のランダムデータを記録した。 グルーブ部での測定結果を図5−3−26
に、ランド部の結果を図5−3−27に示す。 尚、ビットエラーレートの閾値を 5×10-4
とし、同グラフ中に点線にて示してある。
ランド、グルーブ共に特性が改善され、閾値
以下になるパワー領域が得られている事が判る。
平均値に対するパワーマージンを見積
もると、グルーブ部に対して 8.1 mW±13.6 %が、ランド部に対して 8.6 mW±7.0 %が得ら
れた。 ちなみに、この場合の記録密度は 18.8 Gbit/inch2 に相当している。
先の図5−
-1
10
bit Error Rate
10-2
Cross Write
10-3
Over Write
10-4
Over Write without Cross Talk
-5
10
6
7
8
9
10
Recording Power (mW)
図5−3−26
RIEプロセスで作成された基板による,グルーブ部でのオー
バーライト,クロスライト特性.トラックピッチは 0.28 μm,ビッ
ト長は 0.123 μm/bit とした.
- 112 -
-1
10
Cross Write
bit Error Rate
10-2
Over Write
10-3
10-4
Over Write without Cross Talk
-5
10
6
7
8
9
10
Recording Power (mW)
図5−3−27
RIEプロセスで作成された基板による,ランド部でのオーバー
ライト,クロスライト特性.トラックピッチは 0.28 μm,ビット長
は 0.123 μm/bit とした.
0
10
bit Error Rate
10-1
10-2
Cross Write
Over Write
10-3
10-4
-5
Over Write without Cross Talk
10
6
7
8
9
10
Recording Power (mW)
図5−3−28
RIEプロセスで作成された基板による,グルーブ部でのオー
バーライト,クロスライト特性.トラックピッチは 0.27 μm,ビッ
ト長は 0.123 μm/bit とした.
- 113 -
0
10
Cross Write
bit Error Rate
10-1
10-2
Over Write
10-3
10-4
Over Write without Cross Talk
-5
10
6
7
8
9
10
Recording Power (mW)
図5−3−29
RIEプロセスで作成された基板による,ランド部でのオーバー
ライト,クロスライト特性.トラックピッチは 0.27 μm,ビット長
は 0.123 μm/bit とした.
3−14及び5−3−15においては全く得る事が出来なかったパワーマージンが、この
結果においては得られるようになっており、RIE 工法を導入した基板を用いた事によるクロ
ストーク改善効果が明確に現れているものと理解出来る。 更に、トラックピッチ 0.27 μ
m、ビット長 0.123 μm/bit とした時のパワーマージンに関して、評価を行った。
の記録密度は、19.5 Gbit/inch2 に相当している。
この時
図5−3−28、5−3−29にその
結果を示す。 図からわかる通り、グルーブ記録、ランド記録に対するパワーマージンは、
それぞれ、8.2 mW±11.7 %、8.4 mW±4.2 %であり、この値は記録密度 18.8 Gbit/inch2 の
場合に比べると狭くなっているものの、ある程度のパワーマージンは確保されている事が
わかる。 先の5−3−1節の結果と併せて考えると、NA0.85、波長 405 nm の光学パラ
メータを用い光磁気記録において高密度記録を試みた結果、約 19.5 Gbit/inch2 までの記録
密度が確認出来たと言えるものと考えられる。
- 114 -
5−4
まとめ
NA0.85、波長 405 nm の光学パラメータを用い、光磁気記録による高密度化に関
して検討を行った。
測定に際し、スポットサイズが小さくなる事で再生時に媒体が受け
る熱的ダメージが懸念されるが、媒体に隣接する形で金属膜による熱制御層を設ける事で、
対処できることが判った。
ボトムジッター12.5 %の閾値により記録達成密度を評価した
ところ、使用するトラックピッチにも依るが線密度で 0.11∼0.14 μm/bit まで到達してお
り、記録面密度に換算して 19∼20 Gbit/inch2 となることが判った。
また、これらの値は
記録密度 (Gbit/inch 2)
マーク長、トラックピッチ (nm)
NA0.85、波長 680 nm の光学系、及びNA0.6、波長 405 nm の光学系と、それぞれNA、
1000
トラックピッチ
∝ スポット径
ビット長
100
∝ 1/(スポット径)2
記録面密度
10
NA0.85, 405 nm
NA0.6, 405 nm
NA0.85, 650 nm
NA0.55, 685 nm (Aratani et al.)
1
0.1
1
スポット径 (0.8* λ/NA)
図5−4−1
レーザ光スポット径に対する,達成トラックピッチ,ビット長,及
び記録面密度の関係.スポット径に対し,トラックピッチ,ビッ
ト長はほぼ比例関係に,面密度は2乗に半比例して高くなる.
- 115 -
波長1つだけを変えて測定した結果に比して、記録達成密度が(波長/NA)2 に比例する
形で対応しており、結果に対する信頼性も得る事が出来た。
とめたものを、図5−4−1に示す。
このことに関する結果をま
横軸にスポット径をとり、本章で検討してきた結
果から、各NA及びレーザ波長における達成したトラックピッチ、ビット長及び記録面密
度をプロットしてある。
トラックピッチ、ビット長に関してはスポット径に対しほぼ比
例して小さくなっていゆくことが、また記録面密度に関してはスポット径の2乗に半比例
して高くなっていくことがグラフより理解出来る。
最後に RIE 工法を導入したことによ
る低ノイズ基板を試作し記録パワーマージンを評価したところ 19.5 Gbit/inch2 の記録面密
度において、グルーブで 8.2 mW±11.7 %、ランドで 8.4 mW±4.2 %のパワーマージンを得
る事が出来た。
参考文献
1)
S.Nakamura, M.Senoh, S.Nagahama, N.Iwasa, T.Yamada, T.Matsushita, H.Kiyoku,
Y.Sugimoto, T.Kozaki, H.Umemoto, M.Sano and K.Chocho,
InGaN/GaN/AlGaN-based
laser diodes with modulation-doped strained-layer superlattice grown on an
epitaxially laterally overgrown GaN substrate
2)
I.Ichimura, F.Maeda, K.Osato, K.Yamamoto and Y.Kasami,
K.Kawase, Y.Muto, K.Yamaguchi, N.Ando, Y.Maeda, M.Yamada and M.Kanno,
Gbit/inch2 MO-Disk using Blue Laser
4)
Optical Disk Recording
Jpn. J. Appl. Phys. 39 (2000) 937.
Using a GaN Blue-Violet Laser Diode
3)
Appl. Phys. Lett. 72 (1998) 211.
10
Proc. SPIE 4090 (2000) 232.
A.Fukumoto, S.Masuhara and K.Aratani,
LAND/GROOVE Recording in MO Systems
Proc. SPIE 2514 (1995) 374.
5)
A.Nakaoki, M.Kanno, I.Nakao, T.Sakamoto, M.Shinoda and M.Kaneko,
Land and Groove with Magnetically Induced Super Resolution
Recording on
J. Magn. Soc. Jpn.
20 Suppl. No.S1, (1996) 243.
6)
S.Morita, M.Nishiyama and T.Ueda,
Super-High-Density Optical Disk Using Deep
- 116 -
Groove Method
Jpn. J. Appl. Phys. 36 (1997) 444.
- 117 -
第6章 総括
NA0.85 の光学系及び波長 405 nm の短波長光源を用いて、光磁気記録における高
密度化に関する研究が成された。
以下に各章別に得られた結果の要約を示し、最後に本
研究で得られた結論をまとめる。
第1章は概論で、これまでの光磁気ディスクにおける高密度化の技術動向をまと
めた。
特に ISO 標準光磁気ディスクの開発経緯を分析し、高NA化及び短波長化が高密
度化に於ける基幹技術であるにもかかわらず、これらの検討は不十分である事がわかった。
本研究では、これら背景の下、高開口数レンズ・短波長光源を用いた光磁気記録について
研究する事とした。
第2章では磁界変調記録による更なる高密度化を目的として、高NA光学系にお
いて磁界変調記録を実現する為に必須となる薄膜コイルの設計及び評価を行った。
ルの設計に対しては、ビオ・サバールの式を用いてシミュレーションを行った。
コイ
空芯、
単層コイルで構成し、線幅 9 μm、高さ 8 μm、ピッチ 13 μm に固定された場合を想定す
ると、内径∼100 μm、コイル−媒体間距離 40 μm、10 ターンのコイルを用いる事で、約
300 mW の消費電力で 200 Oe の磁界強度を得られる事が明らかとなった。 また、シミュレ
ーション結果を基に、実際にコイルを試作し特性評価を行った。
試作したコイルは、ほ
ぼシミュレーション通りの特性を示し、内径 128 μm のコイルに対し 40 μm 離れた位置で、
200 Oe に近い磁界強度の値を得ている。 尚、この時の消費電力は 300 mW とした。 また、
インピーダンスアナライザによりコイルの周波数特性を測定したところ、∼60 MHz 近傍ま
で使用可能である事が明らかとなった。
更に、試作した薄膜コイルを連続使用した際に
どの程度まで温度が上昇するかを測定した結果、薄膜コイルの基板材料にガラス材(BK7)
を用いた場合は必要磁界を得るパワー300 mW を投入すると∼200 ℃にまで昇温してしまう
事が明らかとなった。
但し、基板材料にガラス材料に比して∼20 倍もの熱伝導特性を有
するアルミナを用いれば、温度上昇を 60 ℃に抑えられ実用的な特性が得られる事が判った。
最後に、本方式による薄膜コイル一体型対物レンズを組み立てる際の光軸傾斜に関する許
容誤差精度を緩和し、かつコイル設計が組立精度により影響を受ける事のない、コイルそ
- 118 -
のものをアパーチャとして使用する方式を提案した。
第3章においては、主にディスク表面形状に起因したノイズに着目し、ディスク
の改善を目的とした研究を行った。
基板におよそ 0.12 J/cm2 min の紫外光照射を 10 分間
行う事で、NA0.85 の光学系で評価したノイズが 3∼4 dB、CNR で 5 dB、ジッターで∼2 %
ほど改善する事が明らかとなった。 この値は、NA0.55 で評価した場合と比して、ほぼ
同等であった。
また、高NAに対応させる目的で通常と逆順に成膜を行う際には、磁性
膜より以前に成膜された材料の表面荒さを反映してノイズとなりうる事が明らかとなった。
その際、荒さの異なる材料に対しても逆スパッタによるエッチングを行う事でノイズレベ
ルは改善され、グルーブ部において 1∼2 dB 程度の改善効果が得られる事が判った。
こ
のノイズレベルの改善効果は、高NA使用時のみに顕著であり、NAが低い時には観察さ
れなかったことより、高NA特有の問題であると考える事が出来る。
そこで、このノイ
ズレベルの変化がディスク表面の凹凸と関係があると考え、表面反射に於ける偏光特性の
光入射角度依存性を元に考察を行った。
その結果、観測されているノイズは、ディスク
表面に光が入射した際に表面凹凸により入射角度が変動し、その為に P 偏光、S 偏光反射率
差に依存した偏光面が揺らぐ事が主要因と考えられる事が判った。
ディスク表面荒さに
起因したノイズは、表面荒さの 1.5 乗に比例し、再生光スポットサイズに反比例するもの
と考えられる。
実際にこの関係を用いて再生光スポットサイズを微細化したときのノイ
ズ増加量を見積もったところ、690 nm、NA0.55 から 650 nm、NA0.85 にしたときで 4.3 dB、
690 nm、NA0.55 から 405 nm、NA0.85 にしたときで少なくとも 8.4 dB となる事が判った。
本研究において検討された UV 照射及びエッチング処理により、高NA再生時に増加すると
考えられるノイズを補うのに十分な改善効果が得られている事が示された。
第4章では、実際にNA0.85、波長 650 nm の光学系に、第2章で試作した薄膜磁
気コイルを組み込み記録再生実験を試みた。 薄膜磁気コイルを用いて記録した場合には、
約 300 mW、200 Oe が必要である事がわかった。 この時、長いマークの記録が未飽和傾向
にあり、長マークの方が短マークに比して記録磁界を必要としている事が判った。 また、
同光学系を用いてキャリア信号特性から光学的伝達関数特性を評価した結果、理論曲線に
良くフィットする形で変化していた。 そこで、NA0.55、685 nm での評価結果と比較し
- 119 -
たところ、理論通りλ/NAに比例する形でマーク長を小さく出来、高密度化できている
ことが判った。 (1,7)-RLL のランダムデータを用いて記録達成密度を評価したところ、ト
ラックピッチ 0.55 μm、記録線密度 0.19∼0.20 μm/bit でジッター値 12.5 %を得た。
第5章では、更に高密度化を検討する為にNA0.85、405 nm の光学系を用いて、
記録再生特性を評価した。
先ず、評価に先だってスポットサイズが小さくなった事でエ
ネルギー密度が高くなった為と考えられる、再生パワーでの信号の劣化に関して検討を行
い、磁性層に隣接した金属薄膜による熱制御層が有効である事を見出した。
次に、記録
達成密度に関して、(1,7)-RLL ランダムデータによるボトムジッター評価により行った。
ジッターの閾値として 12.5 %を設定すると、トラックピッチ 0.25 μm の時にビット長 0.13
∼0.14 μm/bit を達成する事が判った。 この結果は、NA0.85、レーザ波長 690 nm の時
の実験結果、トラックピッチ 0.39 μm、ビット長 0.18∼0.19 μm/bit、NA0.6、波長 405
nm の時の実験結果、トラックピッチ 0.35 μm、ビット長 0.18 μm/bit の結果に、それぞ
れλ/NA比で一致する事が明らかとなった。
次に、ランド&グルーブ記録に於けるパ
ワーマージンを決定する特性であるオーバーライト特性、クロスライト特性について解析
を行い、ランド&グルーブ基板の側壁部が記録パワーマージンに相当するという記録モデ
ルを提案した。
このモデルを基準に、本実験系に於けるパワーマージンを評価・検討し
たところ、ランド及びグルーブの形状、側壁等を変形させてしまう紫外光照射処理を行っ
た基板では、十分なパワーマージンが得られない事が判明した。 そこで、RIE プロセスを
用いた低ノイズ基板を新たに提案、これを試作しパワーマージンを評価したところ、トラ
ックピッチ 0.27 μm、ビット長 0.123 μm/bit の記録密度においてグルーブに対しては 8.2
mW±11.7 %、ランドに対しては 8.4 mW±4.2 %のパワーマージンを得た。
これは記録面密
度 19.5 Gbit/inch2 に相当している。
これらの研究によって得られた総合的な結論として、NAを 0.85 にまで高めた光
学系を光磁気ディスクに用いる事により、理論的にNAから算出されるスポットサイズに
対応する形で、即ち(1/NA)2 に比例する形で高密度化が実現される事が明らかとなった。
このことは、光磁気記録において 0.85 までの高NA化は十分に行える事を立証したもので
あると結論付ける事が出来る。
また、レーザ波長を波長 405 nm にまで短波長化を行った
- 120 -
場合においても、(波長)2 に比例する形で高密度化が理論通り達成できることを明らかにし
た。
NA0.85、405 nm の光学パラメータを用いた場合、例えばNA0.6、波長 650 nm の
光学パラメータの光磁気ディスクに比して、NAで約2倍、波長で2.5倍の高密度化が
実現出来、その結果約 20 Gbit/inch2 もの高密度記録を実現する事を立証出来た。
- 121 -
謝 辞
本研究の遂行ならびに本論文の作成にあたって、終始懇切な御指導と御鞭撻を賜
りました三重大学工学部物理工学科教授 工学博士 塩見 繁 先生に心から感謝の意を表し
ます。
本論文をまとめるにあたって、数々の有益な御教示を頂きました三重大学工学部
物理工学科教授 工学博士 久野 和宏 先生、同教授 工学博士 黒崎 靖 先生、松下電器産
業(株)メディア制御システム開発センター デバイス第1チーム 工学博士 尾留川 正博
氏、および本研究の遂行にあたり御指導と御教示を頂きました三重大学工学部物理工学科
助教授 工学博士 小林 正 先生に深く感謝致します。
本論文をまとめる機会を与えて頂くと共に、終始変わらぬご理解を賜りましたソ
ニー株式会社 BBNC オプティカルシステム開発本部 本部長 山本 眞伸 氏に、厚く御礼申
し上げます。 また、本研究は、ソニー株式会社 BBNC オプティカルシステム開発本部 部
長 理学博士 金子 正彦 氏の終始変わらぬ御指導、御鞭撻とご理解によって達成されたも
のです。
ここに、厚く御礼申し上げます。
本研究の遂行には、ソニー株式会社 BBNC オプティカルシステム開発本部 光デ
ィスク開発部門の方々のご協力を頂きました。 特に、ディスク作製ならびに計測に際し、
ソニー株式会社 BBNC オプティカルシステム開発本部 光ディスク開発部門 2部 記録材
料研究グループ 三木 剛 氏には、種々のご支援と有益な情報提供をして頂きました。
こに、記して感謝申し上げます。
- 122 -
こ
本研究に関する発表
(1)本論文の内容に関する文献
論文題目
発表誌名
著者
A Thermal Analysis of a Magneto-Optical
Recording Mechanism with the Magnetic
Jpn. J. Appl. Phys.
A. Nakaoki
Field Modulation Method on a Land and
39 (2000) pp.4203-4208
M. Kaneko
Groove Substrate.
20
Gbit/inch2
Recording
on
Magneto-Optical Disk Using NA 0.85 and
405 nm Optics
J. Magn. Soc. Japan
25 (2001) pp.343-346
T. Miki
A. Nakaoki
M. Yamamoto
G. Fujita
Domain Wall Displacement Detection
Mini Disc with Land/Groove Recording
Applied to Mini Disc Systems
Jpn. J. Appl. Phys.
41 (2002) pp.1643-1646
T. Sakamoto
A. Nakaoki
Y. Teraoka
S. Endoh
(2)国際会議に関連した文献
論文題目
発表誌名
著者
A. Nakaoki
Recording on Land and Groove with
Magnetically induced Super Resolution
J. Magn. Soc. Jpn.
Vol.20, Supplement No.S1
(1996) pp.243-246
M. Kanno
I. Nakao
T. Sakamoto
M. Shinoda
M. Kaneko
- 123 -
Y. Sabi
Noise Improvement for a High NA MO
System
J. Magn. Soc. Jpn.
Y. Takemoto
Vol.23, Supplement No.S1
K. Aratani
(1999) pp.269-272
A. Kouchiyama
A. Nakaoki
Recording
Power
Tolerance
T. Miki
of
Magneto-Optical Media on RIE-Formed
Proceedings of SPIE
T. Sakamoto
Substrate using NA 0.85 and 407 nm
Vol.4342 (2002) pp.220-221
A. Nakaoki
M. Yamamoto
Optics
- 124 -