モロッコにおける特許権の における特許権の権利行使

平成27年度
新興国等における知的財産
関連情報の調査
モロッコにおける特許権の
における特許権の権利行使
Maddock & Bright IP Law Office
Abdelwahab Moustafa
(弁護士)
Maddock & Bright IP Law Office は、1949 年に設立された知財を専門とするエジプト法律事務所。エジプ
トのみならず中東および北アフリカにもオフィスを構える。Abdelwahab Moustafa 氏は、Maddock & Bright
事務所のパートナー弁護士であり、知的財産分野において 15 年の経験を有する。特許、意匠の出願や訴訟、
知的財産権全般のライセンシングやコンサルティングを行っている。
モロッコにおける特許権の権利行使は、
モロッコにおける特許権の権利行使は、モロッコ工業所有権法(以下「工業所有
(以下「工業所有
権法」)第 15 条に基づき
に基づき、商事裁判所(Tribunal of Commerce))への特許侵害訴
訟によって行われる。第 15 条の規定は以下の通り。
「本法の適用から生じるいかなる紛争も、本法に定められた行政上の決定を除い
て、専ら商事裁判所により審理されるものとする」
工業所有権法第 202 条の規定に従い、侵害訴訟は特許権者により、
条の規定に従い、侵害訴
により、またはライ
センス契約において別段の定めがない限り
センス契約において別段の定めがない限り、ライセンシーにより、
ーにより、もしくは特許権
者とライセンシーが共同原告となって提起
者とライセンシーが共同原告となって提起することができる。
1.
民事訴訟
1-1.
手続
侵害行為が行われている
侵害行為が行われている施設を特定した後、原告(特許権者および
および/またはライ
センシー)は、執行官による
よる施設への立ち入り、侵害品の目録作成、関係し得るあ
、侵害品の目録作成、関係し得るあ
らゆる情報の調査を命じるよう、商事裁判所長に申立を
らゆる情報の調査を命じるよう、商事裁判所長に申立を行うことができる
ことができる(工業所
有権法第 211 条)。この申立は、弁護士によって提出されなければならず、以下
この申立は、弁護士によって提出されなければならず、以下
の情報を含んでいなければならない。
(a)権利者の侵害申立対象となる
権利者の侵害申立対象となる権利
(b)侵害者の名前と住所
侵害者の名前と住所
(c)侵害行為が行われている施設
侵害行為が行われている施設
2016.02.10
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申立が行われてから 24 時間以内に、裁判所長は、原告の請求に従い行動するよ
に従い行動するよ
う執行官に命じる。執行官は、原告の代理人を伴い、
執行官は、原告の代理人を伴い、調査を開始する。
を開始する。執行官は、
侵害品のサンプルを購入し
し、侵害品の製造に用いられる機械類の写真を撮影
機械類の写真を撮影し、侵
害の発生源を調査する等の権限を有する。
の権限を有する。
執行官が侵害者の施設へ
への立入調査をした日から 30 日以内に、原告は
に、原告は訴訟(本
訴)を提起しなければならない。
を提起しなければならない。本訴提起後、原告は工業所有権法第
工業所有権法第 203 条の規
定に従い、仮差止命令を請求する
定に従い、仮差止命令を請求することができる。仮差止命令により、侵
仮差止命令により、侵害が疑われ
ている物品の製造または販売を暫定的に禁止する
物品の製造または販売を暫定的に禁止すること、または被告が製造販売
被告が製造販売行為
の継続を望む場合、裁判所長により算定された保証金の被告による
裁判所長により算定された
被告による預託が継続の条
件とすること、などを強制
強制することができる。この仮差止命令は、
、本訴手続におけ
る裁判所の判決が下されるまで
が下されるまでの間、効力を有する。
両当事者による訴答書面の提出後、担当判事 審理期日を設定し、両当事者へ通
両当事者による訴答書面の提出後、担当判事は審理期日を設定し
知する。審理は 15 日~21
21 日間程度行われ、この間、各当事者が意見
が意見や証拠を提
出する機会が与えられる。
が与えられる。
これ以上新たな議論はなされないと判事が判断した段階で、
なされないと判事が判断した段階で、結審する。その後
結審する。その後
15 日以内に判決が下される。この判決に対して不服がある当事者は、
日以内に判決が下され
当事者は、商事控訴裁
判所(Court
Court of Appeal of Commerce)に控訴することができる。控訴については
Commerce
控訴については
下記 1.5 で詳述する。
1-2.
専門家の指名
技術的専門性が求められる事件におい
専門性が求められる事件において、判事は関連する技術領域の専門家
技術領域の専門家を指
名して意見を求めることができる。専門家の
ことができる。専門家の指名は、いずれかの当事者
当事者が請求する
こともできる。
1-3.
手続期間
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裁判手続にかかる期間は
裁判手続にかかる期間は、両当事者の議論の内容によって異なるが、
によって異なるが、おおよそ 9
ヶ月程度である。専門家が
。専門家が指名される場合、さらに長い期間が必要となる。
される場合、さらに長い期間が必要となる。
1-4.
救済措置
侵害訴訟により得られる
侵害訴訟により得られる救済措置としては以下が挙げられる。
(a)本訴手続における裁判所
本訴手続における裁判所判決が下されるまでの間、侵害製品の販売または製
侵害製品の販売または製
造を差し止める仮差止命令
(b)侵害行為により被った
侵害行為により被った損害に応じて裁判所が算定する損害額の
額の賠償命令
1-5.
控訴
商事裁判所の第一審判決に対して不服
判決に対して不服がある当事者は、判決が通知
通知された日から
30 日以内に商事控訴裁判所に
商事控訴裁判所に控訴することができる。各当事者は、
控訴することができる。各当事者は、控訴審判決が
下されるまでの間に、意見書
、意見書を提出する権利を有する。この手続において、
手続において、各当事
者は、第一審と同じ主張を
同じ主張を提出する以外に、新たな事実や主張を持ち出すことが可
持ち出すことが可
能である。控訴審の手続中は
手続中は、第一審判決は執行されない。商事控訴裁判所の控訴
商事控訴裁判所の控訴
判決に不服がある場合、最高裁判所への上告が可能である。
2.
刑事訴訟
刑事訴訟は、民事訴訟手続が終了
手続が終了し、権利者の権利が証明され、
され、侵害行為が認定
された後にのみ、提起することができる。
提起することができる。刑事訴訟では、侵害者に対して、懲役や
侵害者に対して、懲役や
高額な罰金等、厳しい刑罰
刑罰を言い渡すことができる。
工業所有権法第 213 条~第
条~ 215 条に従い、工業所有権法第 53 条および第 54
条に定義された特許権者の権利を
条に定義された特許権者の権利を故意に侵す行為は侵害罪を構成し
を構成し、2~6 ヶ月の
懲役刑および 50,000~500,000
500,000 ディルハム(150 万円~1,500 万円*本記事作成
万円
時のレートによる)の罰金
の罰金刑の両方、あるいはいずれかが科される
科される。
罰金は累犯の場合、増額
増額することができる。累犯とは、同一行為に対する確定判
することができる。累犯とは、同一行為に対する確定判
決が過去 5 年以内に被告に対して下されている場合をいう。裁判所はまた、侵害
年以内に被告に対して下されている場合をいう。裁判所はまた、
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者の財産である侵害品や侵害行為
品や侵害行為に専ら用いられる製造装置等の廃棄を命令す
等の廃棄を命令する
ことができる。
侵害が疑われている製品を
製品を故意に入手し、展示し、市販もしくは
もしくは販売し、または
輸入もしくは輸出した侵害者に
輸出した侵害者に対しても、同一の刑罰を適用することができる。
適用することができる。ま
た、侵害者を故意に助ける行為
助ける行為も同様である。
侵害者が特許権者の職場
侵害者が特許権者の職場または施設で働いていた元従業者である場合、
である場合、より重い
刑が科され、6 ヶ月~2 年の懲役および
年
100,000~500,000 ディルハム(308
ディルハム
万
円~1540 万円*本記事作成時レートによる)の罰金刑の両方、あるいは
万円*本記事作成時レートによる)
、あるいはどちらか
が科される。特許に記載された方法
特許に記載された方法についての知識を侵害者に与えた後、
についての知識を侵害者に与えた後、侵害者に
協力した従業者に対しても
も、同じ刑罰が科される。
(編集協力:日本技術貿易株式会社)
株式会社)
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