Part4 - 東京大学大学院経済学研究科・経済学部

4
フォーラム
ちなみに、州政府には第 9 章に適用申請する権
AB506 が制定された背景には、実はバレホ市
限はないのですが、過去にどれくらいの地方政府
の破産申請があります。バレホ市が破産申請した
が申請したかと言いますと、過去 40 年間で 600
後に、カリフォルニア州の公務員労組の要求を受
件余りです。今申し上げた第 11 章への適用申請
けて制定されたということです。最近では今年 2
件数が、2009 年で約 6,000 件です。ですから、
月に、ストックトン市という地方政府が第 9 章へ
この 40 年間で、1 年間における第 11 章への申請
の適用申請を回避するために、AB506 の下で債
件数の 10 分の 1 しか、第 9 章への申請件数はな
権者との調停を行うことで合意しています。ちな
いわけです。
みに、この法律に対してはカリフォルニア州都市
第 9 章への適用申請は、地方政府によって自発
連盟が、州政府による地方政府への介入であると
的に行われる必要があります。つまり、連邦政府
して反対声明を出しています。
や州政府が地方政府に対して適用申請せよと命
破産申請後の財政状況
じるのではなくて、地方政府が自ら適用申請を申
次に、バレホ市が第 9 章への適用申請をして以
し出るわけです。
降の財政状況についてです
(報告資料 19~21 頁)。
第 9 章の管理下にあっては、地方政府は特定の
債務の返済に充てられることになっている特別
これまで見てきましたように、まず一般会計の歳
財源を除き、あらゆる資産に関する権利を維持す
入が減少しました。同時に、歳出についても削減
ることが認められています。具体的には、地方債
が行われました。ここではそれについて少し具体
の種類によって次のような対応を受けることに
的に見てみたいと思います。
な り ま す 。 ま ず 、 一 般 財 源 保 証 債 ( General
まず警察ですが、職員を 228 人から 121 人に
Obligation Bond)については、元本や金利を支払
約 5 割削減しました。具体的には、パトロールや
う義務は生じず、債務調整計画の交渉対象となり
交通指導にあたる職員、あるいは警察犬チームの
ます。一方、特定財源債(Special Revenue Bond)
数を削減するなど、警察サービスの大胆な削減を
については、第 9 章の適用下でも支払義務は継続
行いました。当然のことながらこれによって、警
されます。
察力は低下しました。もともとバレホ市は治安が
先ほど、第 9 章への適用申請は過去 40 年間で
非常に悪い所で、警察官 1 人当たりの凶悪犯罪件
600 件余りと申しましたが、実際の適用件数は約
数が、サンフランシスコのベイエリアにおける同
500 件です。そして、そのほとんどが学校区や特
規模の都市よりもはるかに高いということです。
別行政区域といった小規模な地方政府です。
また、消防についても、職員を約 4 割減らし、消
1994 年にカリフォルニア州のオレンジ郡が適用
防署の数も 8 から 5 に減らしています。しかし
申請したケースは、皆さんもご存じのことかと思
その一方で、通報件数は 3 割も増えています。
これ以外にも、例えば、道路、土地、建物とい
います。
ところで、2011 年にカリフォルニア州政府が
ったインフラ整備に充てるお金を削減していま
AB506 という法律を制定しました。これはどの
す。その結果、市の道路の舗装状態が非常に悪化
ような法律かと申しますと、地方政府が第 9 章へ
しました。いずれにしましても、このように行政
の適用申請をする前に、中立的な第三者を調停人
サービスを大幅に削減した結果、バレホ市民の生
として雇って、利害関係者との調停を行わなけれ
活は非常に厳しい状況に追い込まれたわけです。
ばならないというものです。その利害関係者には
こうした財政を再建するため、バレホ市は
債権者だけではなく、地方政府の職員も含まれま
2010 年 11 月に、2010-11 年度から 2014-15 年度
す。その上で、60 日間交渉を行っても解決に至
にわたる財政再建 5 か年計画(以下、5 か年計画)
らない、あるいは、このままでは資金が底をつい
を承認し、後に連邦裁判所からも認められました。
てしまうというような場合には、裁判所に破綻申
そこで次に、この 5 か年計画について見ていきた
請できるという規定になっています。
いと思います(報告資料 22~26 頁)。
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フォーラム
まず 5 か年計画の目標ですが、持続可能なサー
以上、バレホ市の財政再建 5 か年計画について
ビス水準の維持、市が抱える債務の再編、歳入の
見てきました。これは現在進行中の計画であり、
漸進的な回復です。次にその基本的な方針は、現
これからどうなるかは今後の推移にゆだねられ
在ある手段でやりくりする、将来を見据えて優先
ています。
順位をつける、維持管理・資本などの歳出の先送
バレホ市財政担当者へのインタビュー
りはやめる、不測の事態に備えて緊急準備金
(emergency reserve)を設ける、一回限りの歳
このような中で、われわれ調査団は今回、バレ
入は一回限りの歳出のために使う、といったもの
ホ市の財政担当者の方にインタビューすること
です。
ができました。次にそれについてお話しさせて頂
以上のための前提条件は 4 つあります。第一
きたいと思います(報告資料 27~32 頁)
。今回お
に、景気が底を打って今後徐々に回復すること。
話を伺ったのは、Finance Director の Deborah
第二に、警察官と消防署の数を一定程度維持する
Lauchner さんという女性の方です。インタビュ
こと。第三に、債務支払いのための資金を追加的
ーの 10 か月前に現職に就任されて、その前は他
に積み立てること。第四に、インフラの維持管理
の地方政府で財政に関するお仕事をされていた
費を増やすとともに、財政収支を改善させること
とのことでした。
です。現在、バレホ市の一般会計が抱える債務残
まず最初に伺ったのは、第 9 章に適用申請する
高は約 5,000 万ドルで、そのうちの 4,600 万ド
以外に、バレホ市の財政危機を解決する手段はな
ル、つまり約 9 割を Union Bank NA という銀行
かったのか、ということでした。これに対しては、
から借りています。これを 2014 年度以降、毎年
バレホ市は毎年赤字を出し続け、2008 年には準
100 万ドルずつ償還することになっています。
備金を使い果たし、現金がないような状態であっ
たので、申請以外の方法はなかったというお答え
バレホ市が抱える負債のうち、最大のものは職
でした。
員に対する年金です。その支給はカリフォルニア
州法で守られており、現役および退職職員への支
次に、適用申請の結果、どのような顕著な影響
給額を変更することはできません。しかし、将来
があったのか伺ったところ、市の職員の間に大き
新たに雇う職員の分については、交渉して削減す
な不安が広ったとのお答えでした。また、これに
ることも可能ですので、それによって少しでも財
は、それまで職員に対して情報をオープンにして
政健全化に努めるということになっております。
こなかったことが要因としてあったとのことで
また、現在バレホ市は地方債市場で資金を調達す
した。さらに、バレホ市の評判が落ちて、他の地
ることはできませんので、資本準備金(capital
方政府関係者から「バレホ市のようにはなっては
rserve)が重要であり、今後これを増やしていく
ならない」と言われるようになったとのことでし
とのことです。
た。
最後に歳入と歳出の関係について簡単に見て
続いて現在のバレホ市の経済・財政環境につい
おきたいと思います。まず歳入ですが、やはり財
て伺ったところ、冒頭でも述べましたように、造
産税や売上税の伸びに重点を置いています。また
船所が閉鎖されてから失業率が高く、財産税収入
後でも触れますが、実際に売上税の収入が最近
も減少し、資産価値の回復には 15~20 年かかる
徐々に伸びてきているとのことです。次に歳出で
とのことでした。しかし、先ほどご説明した 5 か
すが、2011-12 年度と 2012-13 年度に歳出を大幅
年計画の想定よりも、現在の財政状況はかなり改
に削減することになっています。要するに、この
善しているともおっしゃっていました。
両年が集中改革期間という位置づけになってい
具体的にはどのような面で改善しているかと
るのだろうと思います。そしてそれが終わった後
いうと、やはり職員の解雇によって給与支出を削
は、歳出額を維持していくという計画になってい
減できたのが大きいということでした。また、売
ます。
上税収入も徐々に改善しているとのことでした。
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フォーラム
ただ、インフラの維持管理費の削減によって道路
保する必要があるのだという全体像を説明する
の質が悪化したり、あるいは街灯から銅線が盗ま
ということでした。
れても修復することができないといったことが
それでは、そうした説明を具体的にどのように
起きているようです。
行うのかということですが、有権者にダイレクト
こうした行政サービスの削減に対して市民が
メールを送ったり、また一番効果が大きかった方
どのように反応しているかというと、やはり面白
法として、水道料金の請求書に書き込んだりする
くないと思っているとのことでした。もともとバ
などしたそうです。他には、様々な集会に市の職
レホ市は犯罪率がかなり高く、警察力の低下によ
員が出向いて説明を行ったとのことでした。
ってさらに凶悪化しているようなのですが、市政
次に、バレホ市は現在、市場で地方債を発行で
府にはそれに対処する能力がなく、消防や救命救
きない状況ですが、市場から信頼を獲得する必要
急でも迅速に対応することができないというこ
性については考えているのかということをお聞
とです。
きしました。それに対しては、考えているとのお
次にお聞きしたのは、財政再建 5 か年計画を進
答えでした。具体的には、市場の信頼を回復する
めていく上で、カリフォルニア州政府から財政
ためには予算を均衡させるしっかりとした計画
的・人的援助は受けているのかということでした。
を示す必要があり、また、均衡の努力を続けてい
これに対しては、道路関係の補助金はいくらかも
れば準備金もできてくるので、それによって市場
らっているが、州政府はバレホ市以上に大きな問
の信頼も回復することができるとのことでした。
題を抱えているので、職員の派遣はなく、むしろ
実際に、準備金は当初の計画を上回るスピードで
州政府は市から毎年何かしらを奪い取っていく
回復しているそうです。
というお答えでした。なぜなら、先ほども申し上
最後に、現在バレホ市は歳出削減を続けている
げましたように、主な税は州政府でまず徴収して、
わけですが、財政再建 5 か年計画が終了した後に
その残りを地方政府に配分するという形になっ
は、必要な投資が再開されることになるのか伺い
ていますので、その部分について市政府はコント
ました。これに対しては、売上税の増税が認めら
ロールできないからです。
れたので、投資を行うことが可能になるとのこと
それでは、こうした事態に対して新税を設けた
でした。しかし、投資を行ったとしても、その後
り、税率を引き上げるというようなことはしない
のコストが継続的に生じないように気を付けな
のかというと、先ほども申し上げましたように、
ければなりません。ですので、効率性を高めてコ
その場合は投票にかけなければならないわけで
ストを減らすような投資を行わなければならな
す。実際バレホ市では、売上税を 10 年間かけて
いとおっしゃっていました。
1%上げるという法案を投票で可決しました。そ
われわれは今回の調査で、2 つの格付け会社に
の場合に必要な得票率は、特定の課税対象にかけ
も訪問し、バレホ市問題をどのように見ているの
る税の場合は 3 分の 2 以上、一般的な課税対象
かお聞きしました(報告資料 33 頁)
。まずスタン
にかける税の場合は 2 分の 1 以上です。売上税
ダード&プアーズの方は、バレホ市の破産手続は
率の引き上げを問う選挙では 50.3%の得票率だ
非常に煩雑で時間がかかり、多額の費用もかかっ
ったので、本当にぎりぎりでした。しかし、その
た割には、労働組合との交渉において大きな成果
投票率は 20%と、非常に低かったそうです。
がなかったとおっしゃっていました。そして、こ
増税しようとする場合に市民に対してどのよ
れを目の当たりにしたカリフォルニア州政府は
うな説明を行うのか伺ったところ、治安を高める
AB506 を制定したが、この法律が債権者からの
ため、救急車の到着時間を短縮するため、インフ
妥協を引き出すツールとして使われてしまうの
ラを維持管理するため、さらなる歳出削減を避け
ではないかと懸念していました。
るためということを説明するとのことでした。そ
次にムーディーズの方ですが、多くの地方政府
して、とにかく今資金が足りないので、資金を確
の財政逼迫の要因は、債務ではなく労働コストに
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4
フォーラム
あると明確におっしゃっていました。したがって、
が、その中で優先課題として挙げられているのが
労働組合との交渉や職員の削減によって財政危
市職員の年金コストで、その上昇リスクを市と職
機は解決可能であるし、実際に多くの地方政府が
員が共同で負担することについて労働組合から
それらを実践して危機を回避しており、バレホ市
合意を得たとのことです。やはり公務員の労働コ
は要するにそれができなかったのだろうとおっ
ストが、カリフォルニア州の地方政府にとっての
しゃっていました。
共通の課題のようです。また、サンフランシスコ
市にとって幸運だったのは、オバマ政権の健康保
サンフランシスコ市とカリフォルニア州の
険改革の一環として、連邦政府から巨額の支援を
財政状況
得ることができたことでした。そのおかげで、大
最後に、サンフランシスコ市政府とカリフォル
幅な行政サービスのカットを避けることができ
ニア州政府の財政状況について簡単に触れたい
たとのことです。
と思います。まずサンフランシスコ市政府ですが、
次にカリフォルニア州政府です。報告資料 39
報告資料 34 頁の全会計の推移を示した図を見て
頁の図は、全会計の歳入・歳出の推移を示したも
頂ければお分かりのように、2003-04 年度以降、
のです。歳出が歳入を上回る財政赤字の状態が続
財政黒字の状態が続いています。次に、報告資料
いてきたことがお分かり頂けると思います。また、
35 頁の一般会計の推移を示した図を見ましても、
2009-10 年度にはリーマン・ショックの影響によ
やはり財政黒字がずっと続いていることがお分
り、歳入・歳出ともに大きく落ち込んでいます。
かり頂けると思います。
40 頁の図は一般会計の推移を示したものです。
歳入と歳出の構成を示したのが報告資料 36・
こちらはやや形が異なりますが、やはり 2008-09
37 頁の表です。歳入で一番大きな割合を占めて
年度までは財政赤字の状態でした。
いるのは財産税です。歳出では Human Welfare
報告資料 40 頁の表で、カリフォルニア州政府
and Neighborhood Developmennt や Community
の歳入の構成について見ておきます。州政府は個
Health など、
福祉にかなり重点を置いていること
人所得税(Personal Income Tax)を持っています
が分ります。これはやはり、サンフランシスコ市
が、その収入がやはりリーマン・ショックの影響
が財政的にかなり豊かな自治体であることの証
を受けて、2008-09 年度から 2009-10 年度にかけ
左なのではないかと思います。
て大幅に減少しています。これが全体の歳入減に
サンフランシスコ市の財政担当者にもインタ
も大きく響いたようです。その後、2011-12 年度
ビューを行ったのですが(報告資料 38 頁)
、やは
に少し回復していますが、それ以前の水準を取り
り他の地方政府に比べると財政状況はかなり良
戻すには至っていません。
く、その理由の 1 つが「経済の多様性」であると
最後にカリフォルニア州政府の課題について
おっしゃっていました。つまり、市の経済が特定
述べさせて頂きます(報告資料 43 頁)。まず、や
の産業に依存しているのではなく、色々な産業が
はり景気回復が遅れているということがありま
あるために経済的なショックに強いということ
す。具体的には、連邦政府の財政赤字問題やヨー
です。リーマン・ショックの直後、不動産価格が
ロッパの信用不安が歳入回復のペースを遅くし
下がるとともに観光収入も減少したのですが、あ
ており、一般会計の歳入が 2007-08 年度のレベ
くまでも一時的なもので、その後、投資資金がサ
ルに戻るのは 2014-15 年度になる見通しだとの
ンフランシスコ市の不動産に再び流れてきまし
ことです。
た。これは、サンフランシスコ市が依然として、
さらに、カリフォルニア州の財政には様々な不
非常に有望かつ安全な投資先であると考えられ
安定要素があります。例えば、景気動向が不安定
ているからだとのことでした。
なために歳入・歳出を正確に予測することが困難
実はサンフランシスコ市も、バレホ市と同じよ
で、特に個人所得税収の多くを支払う高所得者層
うに 5 年間にわたる財政計画を策定したのです
の動向を予測するのが困難であるとのことです。
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フォーラム
特に、65 歳以上の高齢者の人口増加によって歳
観点としては、まず、破産へ至った経緯、背景、
入が減少しています。また、高齢者の増加は福祉
経済情勢の変化ということがあります。天羽さん
サービスに対する需要を増大させますので、歳入
のご報告では、リーマン・ショック、もしくはそ
が減少する一方で歳出が増えることになり、どう
の前のサブプライム・ショックが税収に影響した
しても財政赤字を膨らませる要因になります。で
ということだったと思いますが、他の破綻事例で
すので、今後も歳出削減は必要だろうとのことで
はどのような背景があったのか。
す。
さらに、アメリカの場合ですと、政治的な状況
また、州政府も地方政府と同様に、退職者の年
というのも 1 つの大きな勘案要素ではないかと
金や健康保険の費用が財政的に大きな負担にな
思っております。例えば、大きな政府か小さな政
っています。これに対して現在のカリフォルニア
府かによって、連邦補助金が大幅に増えることも
州知事は、12 項目からなる年金改革案を提示し
あれば削減されることもあり、それによって地方
ました。現在、州政府は 330 億ドルの負債を抱え
政府の歳入も増減します。具体的には、民主党政
ていますが、これを 2015-16 年度までに完済す
権では大きな政府、共和党政権では小さな政府と
る見通しだとのことです。
いうことが言われます。実際に、共和党政権下で
以上、バレホ市政府、サンフランシスコ市政府、
は連邦補助金の削減が続き、地方政府も財政的に
カリフォルニア州政府と見てきたわけですが、同
苦しくなっていく局面がありました。そのような
じ州内においても、財政状況が好調な所とそうで
ことで、やはり政治的な状況についても十分に見
はない所との間で大きな差があるということを
ていかないといけないのではないかと思います。
ご理解頂けたのではないかと思います。
次に、地方債市場への影響があります。つまり、
地方政府の破産が、州内もしくは連邦全体の地方
討論
〇青木
債市場にどのように影響したのかということで
私の方からはまず、アメリカの地方政府
す。個別の名称を挙げれば、ウォール街の反応や
の破綻ではどのようなことに注目するべきかと
対応はどうだったのかということです。
いう観点から、過去の有名な破綻事例としてニュ
こうした意識を持ちつつ、1975 年のニューヨ
ーヨーク市とカリフォルニア州オレンジ郡の例
ーク市の財政危機について概観したいと思いま
についてご紹介したいと思います。次に、日本で
す。この背景には 1973 年のオイル・ショックが
は地方財政法、地方自治体財政健全化法という法
あります。それが失業率の増加や本社機能の移転
律があり、破綻に至る前に起債ができなくなる仕
等につながり、歳入の弱体化を招きました。一方、
組みがあるわけですが、アメリカにおける同様の
歳出面では、貧困層・移民層の転入により福祉受
仕組みについて概観したいと思います。そして最
給層が増大し、硬直化・膨張化を招きました。こ
後に、以上を踏まえた上でいくつかのご質問させ
うして生じた経常収支のギャップを埋めるため
て頂きたいと思います。
に、資本予算から資金を流用するとともに、短期
天羽さんのご説明とも多少重複しますが、アメ
債を乱発したのですが、1975 年 3 月にウォール
リカでは連邦破産法第 9 章によって、期限内に履
ストリートが市債の引受を拒否しました。これを
行できない債務の弁済については、清算解散手続
もって、ニューヨーク市の財政危機と一般的に捉
きを伴わず、債務返済期間や返済額の変更等の再
えられているかと思います。
調整を行うことになっております。その中で、そ
この際、連邦破産法第 9 章の適用申請がされた
れぞれの案件について、何を目的として破産申請
かというと、実はされていません。ニューヨーク
を行ったのか、またどのように再建するのかとい
州の全面的な財政支援によって事態の収拾を図
った点について注目すべきなのではないかと思
っていくということになったわけです。具体的に
います。
は、緊急財政管理委員会が 3 か年の財政再建計画
全体的に破綻についてみていく場合に重要な
を策定しました。また、資金調達が困難になりま
271
4
フォーラム
したので、ニューヨーク州が自治体援助公社とい
億ドルのところ、信用創造により 200 億ドルの
うものを設置して、ニューヨーク市にかわって、
運用資金になりました。しかし、こうした運用方
長期債・一時借入証券を発行することになりまし
法ですと、FF レートが大きく上がったことによ
た。その後、ニューヨーク市は 6 年後の 1981 年
り短期の変動金利が上がり、逆ザヤが生じました。
に予算均衡を達成し、市場に再登場することとな
その結果、200 億ドルの総運用資産のうち時価で
りました。
15 億ドル程度の評価損失が発生し、資産凍結(有
次に、1994 年 12 月にオレンジ郡が連邦破産法
価証券売却阻止)を目的として、1994 年 12 月 6
第 9 章への適用申請を行ったケースです。こちら
日に破産申請を行いました。
については背景として、3 つの側面が指摘されて
オレンジ郡がバレホ市と違うのは、破産申請の
おります。
半年後の 1995 年 6 月 13 日には、増税を担保と
第一の側面は歳入面の事情で、2 つあります。
した再建地方債を発行していることです。これは
1 つは、連邦補助金が大幅に削減されたことです。
カリフォルニア州政府によって認められたもの
これには、共和党政権が長く続いたということが
ですが、発行額は 2.9 億ドルで、格付けはトリプ
大きな背景としてまずあり、それによって地方政
ルA、20 年で通常想定金利に対するスプレッド
府の歳入が減少する中で、資金調達の多様化や効
は 25 ベーシスポイントです。また、金融保証保
率化、さらに資金運用の高度化・近代化による高
険という仕組みがありますが、これについては
利回り志向が地方政府の中で現れてきました。も
MBIA に通常の 4 倍の額を支払っております。
う 1 つは、天羽さんからもご指摘があった
さらに、1995 年 6 月 27 日に、今度は借入金返
Proposition 13 により、課税に対する制限がなさ
済のための地方債の発行を試みます。こちらの方
れていたということで、これも収入減の要素にな
は、起債日に売上税の増税案が否決されたという
っていました。
こともあり、格付けはデフォルトを表すD格で、
第二の側面は金融・証券界の事情です。当時、
スプレッドは通常想定金利よりも 125 ベーシス
金融・証券業は地方政府の資金運用担当者に対し
ポイントも上乗せになりました。また、これにつ
て、デリバティブなどの金融商品を、大きな収益
いては、先ほどの金融保証保険ではなく、邦銀が
性があるものとして売り込みを展開しました。
信用状(letter of credit)を発行しました。以後、
第三の側面は収入役(運用担当者)の事情です。
他の地方政府にもスプレッドを上乗せするとい
その当時、唯一民主党が占めていた公職を守るた
うような事態が悪影響として広がりましたが、大
めに、収入役であるロバート・シトロンさんとい
きく混乱するところまでは至りませんでした。
う方が、高利回りの資金運用を追求しました。
ですので、オレンジ郡は破産申請後も地方債を
次に、デフォルトに至る過程についてお話しし
発行し、市場から資金を完全に調達できないとい
ます。1994 年当時はブラックマンデーを経過し
うことにはならず、償還期間の延長ということも
た後、景気はそこそこ回復していて、FRB は金利
含めて、混沌とした中でも何とか資金をつないで
を引き上げようとしていました。FF レートは 94
いったようです。また、州政府による主導という
年 2 月には 3%でしたが、数度の利上げによって
ことはなく、基本的には金融的な部分で解決をし
12 月には 5.45%になっています。
ていくという流れになっていました。つまり、ニ
その間、オレンジ郡がどのような資金運用を行
ューヨーク市のケースとは異なり、州政府による
っていたのかと言いますと、デリバティブを活用
財政的な支援や管理には及ばず、独自で対処して
したものとなりますが、短期の変動金利で資金調
いった事例であるかと思います。
達を行い、長期の固定金利で運用を行っていまし
アメリカではこうした事態に及ばないように、
た。投資した証券を担保に入れて、さらにそうし
実際には色々な規制が事前に行われています。多
たところを膨らませていったということもある
少の例を申し上げますと、referendum と言われ
のですが、全体の資金の預け入れ総額が大体 80
る住民投票を行う所、州議会での承認を必要とす
272
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フォーラム
る所などがあります。また、一般財源保証債の起
今回のグローバル金融危機の間に大変急激な上
債自体を禁止する州が 3 つあります。もしくは、
昇を見せています。
一般歳入の一定割合を起債限度額としたり、起債
まず、2007 年後半からサブプライム・ローン
限度額自身を州憲法で設定したり、公債費に限度
問題が懸念され始め、さらに、2008 年 9 月にリ
額を設けることによって制限をかけるなど、色々
ーマン・ショックが起きると、金利が急激に上昇
な形がそれぞれの州によってあります。
しました。その後、いったん落ち着いたかに見え
以上を踏まえまして、私の方から 3 つほど質問
ましたが、2010 年頃からヨーロッパのソブリン
させて頂きたいと思います。1 つ目の質問は、バ
問題が懸念され始め、またアメリカにおいても、
レホ市では、財政状況によって州政府や市独自に
2011 年に国債が S&P から格下げを受けるという
事前の起債制限を行う仕組み(制約)などはなか
状況の中で、地方債の金利が高止まりする状況が
ったのかということです。例えば日本の場合です
依然として続いているというのが現状です。
と、実質公債費比率などによって規制を行ってい
こうした背景には、やはり地方債市場に対して
るわけですが、そうしたものはなかったのでしょ
金融市場から大きなインパクトが及んだ、という
うかということです。
問題があったと思います。例えば、2008 年 1 月
2 つ目の質問ですが、ご報告の中で、現在バレ
からモノライン保険が格下げを受けました。また、
ホ市の新発債の発行は不可能であるとのことで
その直接的な影響を受ける形で、オークション・
した。そうした状況の中で、過去に発行されたバ
レート証券と呼ばれる、変動金利型の地方債の金
レホ市の既発債の流通市場における状況はどの
利が急上昇します。さらに、リーマン・ショック
ようになっているのか、もしくは、格付けが付与
によって、金融市場から投資家が資金を引き上げ
されているようでしたら、それにどのような影響
るという事態が起きます。そうした金融市場全体
が及んでいるのかということをお聞きしたいと
からのインパクトが、地方債市場にあったという
思います。
ことです。
3 つ目の質問ですが、バレホ市には破産申請を
また、それ以降になってくると、金融市場から
行う以前から大きな赤字があり、その要因は人件
の影響だけではなく、実体経済の悪化に伴う財政
費で、組合交渉が鍵を握っていたのではないかと
問題が地方債市場に大きな影響を与えることに
お見受けしました。そこで、その組合交渉に関し
なりました。その典型的な事例が、今回天羽様な
て、バレホ市としての特異性のようなものがあっ
どが調査されたカリフォルニア州です。2009 年
たのかどうかをお聞きしたいと思います。
には、当時のシュワルツネッガー州知事が財政危
機宣言をする事態になりました。このように、金
〇三宅
私の方からは、今回のグローバル金融危
融市場と実体経済の両面から、州・地方政府の財
機がアメリカの地方債市場にどのような影響を
政が非常に大変な状況に追い込まれていったわ
与えたのかという全体像を改めて確認した上で、
けです。
天羽様からのご報告に対するコメントをさせて
これに対して、何の対応もなされなかったとい
頂きたいと思っている次第です。
うわけではもちろんありません。それぞれの州・
こちらはアメリカの地方債の利回り(対財務省
地方政府においては財政再建が進められました
証券利回りスプレッド)の推移を示したものです。
し、地方債の発行方法を見直すということも行わ
青色の折れ線がトリプルA格の地方債、緑色がシ
れました。また、連邦政府による実質的な支援と
ングルA格の地方債の、財務省証券に対する金利
いうことで行われたのが 2009 年 4 月の Build
の上乗せ部分となっています。それから、背景に
America Bond Program で、地方債を保有する投
紫色の棒グラフで示していますのが、シングルA
資家に対する実質的な利子補給がなされました。
格の地方債とトリプルA格の地方債の利回り格
こうした背景の中で、残念ながらいくつかの
差です。こちらをご覧頂きますとお分かりの通り、
273
州・地方政府では財政危機が極度に深刻化する、
4
フォーラム
という事例が出てきました。今回ご報告のあった
スでは増えていますが、そこからさかのぼってみ
バレホ市以外にも、アラバマ州のジェファソン郡
ますと、現在よりも破産申請件数が多かった時期
や、ペンシルバニア州の州都であるハリスバーグ
はいくつも確認されます。また、地方債のデフォ
市のような、アメリカの中でも比較的大きい、な
ルトの件数も、今回の金融危機以降に過去に例が
いし知名度の高い地方政府が破産申請を行うな
ないくらい件数が増えているわけではありませ
ど、大変な状況に追い込まれています。
ん。
しかし一方で、今回のグローバル金融危機が、
州・地方政府の税収は、確かに 2009 年に前年
アメリカの州・地方政府にとってイレギュラーな、
比で大幅な減少を経験しています。しかし、その
過去にない事例だったかというと、そこは一歩引
直後の 2010 年には、また急速に回復に向かう傾
いて考える必要があるのではないでしょうか。具
向が見てとれます。それから、地方債の発行額の
体的には 2 つのことに留意するべきではないか
推移を見ますと、2009~2010 年には増えていま
と思います。1 つは、先ほど青木様からのご指摘
す。その一因には、先程述べた Build America
にもありましたように、アメリカの州・地方財政
Bond Program の効果もありますが、
その一方で、
には、財政が深刻な状態に至らないようにするた
確かに高い金利は要求されているかもしれない
めの事前の制度が、先進諸国の中でもかなり充実
けれども、金融市場からの資金調達は出来ている
しているということです。
という見方も成り立ち得るわけです。こうした点
もちろん、日本やヨーロッパとは制度の内容が
を確認した上で、今回の金融危機の影響を捉える
違いますが、財政均衡ルールや、投資的事業のみ
必要があるのではないかと思います。
に地方債の発行を認めるというゴールデンルー
以上のようなことを踏まえまして、私から今回
ルと呼ばれる制度、あるいは、中長期的な財政計
のご報告に対する質問としてお伺いさせて頂き
画を策定するといった事前の制度も設けられて
たいのは、大きく 3 点ございます。1 点目は、今
います。また、財政が少し危ない状況になれば、
回ご報告して頂きましたバレホ市の事例、あるい
緊急の財政支援も行われることがあります(カリ
はカリフォルニア州の事例は、今ざっと見てきま
フォルニア州の場合にはなかなか難しいという
した、金融危機の影響を受けたアメリカの地方債
お話でしたが)。さらには、民間の金融機関がア
市場、あるいは州・地方政府の財政状況全体の中
ドバイスを提供するという仕組みもかなり進ん
で、特殊な事例と捉えるべきものなのか、あるい
でいますし、格付け機関などが財政状況を精査す
は、他の州・地方政府でも起こっている事例の典
るということも行われています。
型と捉えるのが適当なのかということです。
ですので、確かに破産申請を行う地方政府は出
2 点目は、債務調整制度についてです。ご案内
てきたわけですが、数万の団体がある中で現時点
の通り、先進諸国の中で地方債に関する債務調整
において破産申請を行っているのはこれくらい
制度が設けられているのはアメリカだけですが、
に止まっているという見方もできるわけです。そ
この制度は、債権者と債務者の利害調整を円滑に
れゆえ、事前に財政危機を回避する仕組みが基本
するということが本来の趣旨であるわけです。そ
的には有効に機能していると考えることも、少な
こで、今回のバレホ市の事例では、そうした趣旨
くとも現時点では可能なのではないかと思いま
にかなう制度運営が行われたのかということを
す。
お伺いできればと思います。
2 点目として、今回のグローバル金融危機が米
3 点目は、わが国への示唆ということです。こ
国地方債市場に与えたマイナスの影響は、歴史的
れには色々な観点があろうかと思いますが、今回
にみて圧倒的に深刻な規模とは必ずしも言い難
の出張を通じて、わが国の地方財政の運営や制度
い、という点です。例えば、1980 年以降の破産
設計、あるいは債務調整制度の導入の是非など、
申請件数の推移を見ますと、直近の 2009 年や
わが国への示唆という点についてどのようにお
2010 年には、確かに 6 件や 10 件と、前年比ベー
考えかというところをお伺いできればと思いま
274
4
す。
フォーラム
るのが非常に難しいのですが、報告の中で、同じ
カリフォルニア州のストックトン市が AB506 の
報告者リプライ
〇天羽
下で今年 2 月から、債権者との間で調停を行って
まず、青木様のご質問からお答えします。
いるということをお話ししました。同市がこうし
1 点目は、バレホ市では財政状況により独自に事
た状況になった要因はバレホ市とほとんど同じ
前の起債制限を行う仕組みなどはなかったのか
で、カリフォルニア州の同規模都市の 2 倍以上と
ということでした。カリフォルニア州に限らずア
いう、非常に手厚い退職金を支払っていたことや、
メリカでは、州憲法によって地方財政のあり方を
不動産価格の下落により財産税収入が大幅に減
規定しています。カリフォルニア州憲法第 16 条
少したといったことでした。したがいまして、組
第 18 項では、郡、市、教育委員会、学校区は、
合交渉の件についてのお答えにはなっていない
当該財政年度において租税収入および料金収入
のですが、カリフォルニア州においてバレホ市の
以上の支出を行うことを認めていません。つまり、
ケースは必ずしも特異ではないのではないだろ
ここで財政均衡ルールを定めているわけです。た
うかと思います。
だし、州・地方政府のいずれの場合でも、住民投
次に、三宅様のご質問です。1 点目のご質問に
票により有効投票数の 3 分の 2 の承認が得られ
ついては、ただ今申し上げましたように、少なく
れば、この規制を受けずに借り入れができるとさ
ともカリフォルニア州内で見た場合は、今回のバ
れております。
レホ市の事例は特殊とは言えないのではないだ
また、各市では憲章(charter)というものを定
ろうかと思います。
めており、多くの場合、そちらで地方債について
2 点目の、債務調整制度が今回うまく機能した
の規定を定めています。バレホ市の憲章を見ます
のかどうかというご質問ですが、基本的にはその
と、一般財源保証債やレベニューボンドを発行す
手続に則ってオーソドックスな処理をしたと理
ることができるとされています。ただ、一般歳入
解しています。
や税収に対してどれくらいの割合までしか借り
最後に 3 点目の、わが国への示唆についてどの
入れることができないといった、細かい数字のル
ように考えるかというご質問です。これには色々
ールについては書かれておりません。ですので、
な捉え方がありますし、日本とアメリカでは制度
基本的には州憲法に則った形で起債が行われて
があまりに違いますので、今回の事例から直接わ
いたのではないかと思います。
が国への示唆を引き出すのはなかなか難しいの
2 点目のご質問は、新発債の発行が不可能な中
ですが、報告の中でも少し触れましたように、例
で、既発債の流通市場における状況や格付けに何
えば市の職員の年金支給については、カリフォル
か変化があったのかということでした。今回ご報
ニア州法で定められています。あるいは、税収に
告するに当たり、バレホ市債の残高や流通利回り
つきましても、Proposition 13 によって州単位で
の推移などのグラフを作りたいと思い、色々とデ
キャップがはめられています。
ータを探したのですが見つけることができませ
しかし、州内の地方政府の財政力は様々です。
んでした。そのために断片的にしか分からないの
バレホ市やストックトン市のように非常に貧し
ですが、バレホ市のとある既発債の流通市場での
い地方政府がある一方で、報告でも触れたサンフ
価格が、2008 年 3 月には 115 セントだったのが、
ランシスコ市のように、非常に裕福な地方政府も
破産申請を行った 5 月には 95~96 セントに下が
あります。こうしたところに、歳出・歳入の両面
ったという記事がありました。やはり多少の影響
で統一的な縛りをかけることには無理があると
はあったようです。
いうことを、このケースは示しているのではない
最後に、3 点目の組合交渉におけるバレホ市の
でしょうか。
特異性についてのご質問です。これは他の地方政
このように考えれば、上から統一的に財政的な
府と比較してみないと分からないので、お答えす
縛りをかけるのではなく、各地方で独自の財政運
275
4
フォーラム
営を可能とするための地方分権が必要であると
次に三宅さんのご質問についてです。1 つ目の、
いうことが、わが国への示唆として導き出される
今回の事例が特殊かどうかという件ですが、私は
のではないでしょうか。
どちらかと言うと、やや特殊な面があるという印
象を持っています。1 つは、カリフォルニア州の
補足コメント
〇持田
税収がどのくらい減ったかというと、GDP が 2%
まず青木さんからのご質問についてで
減ったのに対して 19%減っています。ですから、
す。1 つ目の起債制限についての件ですが、通常、
ものすごく所得弾力性が高いという問題がある。
市町村と学校区は固定資産税の評価額にリンク
これは恐らく、ビバリーヒルズを代表とする富裕
しています。今回の調査でスタンダード&プアー
層が住んでいて、キャピタルゲインが非常に多い、
ズに行った時に、金融危機で固定資産の評価が下
しかも州財政の 4 割を所得税に依存していると
がったので、自治体や学校区が地方債を発行する
いう黄金州といわれるカリフォルニアならでは
のは困難だとのことでした。具体的な対応として
の特色が反映しているのではないかということ
は、償還期限が来たときに長期債に借り換える作
がありますし、政治的に見ても、同州は貧富の格
業を、どの地方政府もやっているという話を伺い
差が非常にありますので、共和党と民主党の政治
ました。
的な対立が強くて、そのことが予算編成を困難に
2 つ目のバレホ市の既発債の格付けの件です
しているということが明らかにあると思います。
が、私たちがインタビューしたのはデボラさんと
かてて加えて、Proposition1 というのが 1913
いう破産管財人の方ですが、バレホ市債はジャン
年に出来ているわけですが、この中で
クボンドになっていて、格付けはもう付かないと
supermajority rule、つまり、予算については 3 分
いう説明をされました。具体的には、今後 10 年
の 2 以上の賛成がないと可決できないという縛
間、バレホ市は地方債を発行できず、無借金で財
りをかけています。したがって、シュワルツネッ
政運営をせざるを得ないという回答を得ました。
ガーの知事の時は、知事と議会がねじれていて、
3 つ目の組合交渉の件です。これは、collective
現在のジェリー・ブラウン知事の下では一応解消
bargaining right、団体交渉権を州が取り上げるこ
したのですが、それでもこうしたルールがあるた
とができるかできないかという問題でありまし
めに、なかなか予算が回らないということがあり
て、カリフォルニア州の場合は arbitrage、仲裁を
ます。これもやはりカリフォルニア州の特殊性で
しないと取り上げることができないということ
はないかと思っています。
でした。他の国ではセツルメントといって、州政
それからもう 1 つ、カリフォルニア州の特殊性
府が一方的に労働組合の協約権を取り上げるこ
として、均衡ルール以外にも様々な形で縛りをか
とができるケースもあります。ただ、カリフォル
けていまして、特に重要なのが K-14 というもの
ニア州では何といっても労働組合が強く、民主党
です。これは、幼稚園から短大までの教育費につ
の地盤でもありますので、団体協約権については
いては、優先的に州政府予算の 4 割を充当しなけ
セトルできない、つまり、必ず仲裁を経ないと取
ればいけないというものです。その 4 割を充当し
り上げることができないということでした。
た残りで債務を弁済するという、非常に特殊なル
バレホ市では組合とコミットするものがたく
ールをつくっています。
さんあって、消防団の人数を変える場合もいちい
次に 2 つ目の、債務調整制度がうまくいってい
ち組合と相談しなければいけないし、バレホ市役
るかどうかというご質問ですが、一般的にアメリ
所に 1 カ月勤めれば、引退後に一生健康保険を利
カの地方自治体の回収率は 7 割となっています。
用できるといったような協約が数多くあるそう
この間、ギリシャの債務調整率が 5 割だったとい
です。バレホ市はもともと市になる時に、何か特
うことに象徴されていますように、世界的なソブ
色を出そうということで、そうした親労組的な政
リンの回収率は 5 割です。それに比べれば、アメ
策をとり続けてきたとのことでした。
リカでは破綻したといっても 7 割は基本的に返
276
4
フォーラム
質疑応答
ってきますし、一般財源保証債の場合には 10 割
が必ず返ってきています。ですから、債務調整と
○質問者
はいっても、再生型でやっているということでは
おいて、行政サービスをこれだけカットしたとい
ないかと思います。
ったことについて、住民説明会のようなものは行
3 つ目の、わが国への示唆ということですが、
2 つございます。1 つは、バレホ市に
われたのでしょうか。もう 1 つは、年金債務に関
日本とアメリカはある面で違っています。ただ、
して情報開示の動きは何かありますでしょうか。
今回の調査で私が非常に救われたのは、何といっ
○天羽
てもバレホ市で、売上税を 1%上げるという住民
した時にも、その後 5 か年計画を実施して、それ
投票を 50.3%の賛成投票で可決したということ
に基づいて毎年度の予算を編成する際にも住民
です。これはやはり、公共サービスを買うという
説明会を行っています。バレホ市のホームページ
感覚が現在のアメリカの地方政府に辛うじて残
にアクセスして頂ければ、その資料をご覧頂くこ
っているということだと思います。50%というこ
とができます。
とは、多少治安が悪くなっても税金は上げなくて
○持田
もいいと思っている人と、もう少し治安を良くす
府会計基準審議会(GASB)で法改正が進んでお
るために税金を上げたいという人が拮抗してい
りまして、来月法案が公開されます。そして来年
るという状況です。しかし、拮抗しているけれど
から、それが年金債務の計算の新しいルールとし
も、サービスは自分たちで買うんだという、トク
て提供されることになっています。具体的には、
ヴィルがかつて『アメリカの民主制』という本で
それまで各州が任意に割引率を設定していて、職
書いたような世界の痕跡が、アメリカには未だ残
員年金が債務超過になっているかどうかがはっ
っているということであり、それは制度があらゆ
きりしなかったので、割引率を統一するというの
る点で違う日本にとっても、大変示唆に富むこと
が、法改正の基本的な眼目です。
バレホ市は、財政再建 5 か年計画を策定
情報開示の件につきましては、現在、政
それを受けてどうなるかについて、まだ私ども
ではないかと思います。
それから、地方債の利回りの件についてですが、
はキャッチしていませんが、格付機関は既に行動
一般的にアメリカの地方債は非課税債ですので、
を起こしています。従来、アメリカの地方債格付
連邦債よりも利回りは低いです。利回りが連邦債
けというのは、ボンドのクレジット・リスクのみ
を上回ったのは今回の金融危機が初めてだと思
を基準にしていました。しかし、今回訪問したス
いますので、地方債の利回りが常に高かったとい
タンダード&プアーズの方は、GASB が年金債務
うわけではありません。最後にこの点だけ補足さ
の計算ルールを変えるということになれば、格付
せて頂きます。
けはボンドの債務に年金純債務を合計したもの
をベースにして、全部付け替えるとおっしゃって
いました。
277
4
フォーラム
第 11 回
4.7.2
アメリカ合衆国の州・地方政府における資金調達マネジメント-リー
マン・ショック前後のカリフォルニア州のケースを中心に
日時
2012 年 6 月 12 日(火)
16 時 30 分~18 時 30 分
報告者
稲生信男
(東洋大学国際地域学部教授)
討論者
岡田徹太郎
(香川大学経済学部教授)
香月康伸
(みずほ証券金融市場調査部副部長)
補足コメント
持田信樹
(東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授)
小西砂千夫
(関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授)
報告
致します。
まずアウトラインですが、3 つの柱を考えてい
ます(報告資料 3 ページ)
。1 つ目はアメリカの
地方債の現状ということで、サブプライムショッ
クあるいはリーマン・ショック前後のトレンドに
ついてお話したいと思います。2 つ目はカリフォ
ルニア州の資金調達マネジメントということで、
3 つほどのテーマを考えています。3 つ目は国内
自治体への示唆です。
米国地方債の現状
報告のアウトライン
〇稲生
―リーマン・ショック前後のトレンド
本日は前回のフォーラムに引き続き、今
早速 1 つ目の「米国地方債の現状」に入ってま
年 3 月に地方公共団体金融機構寄付講座がカリ
いります。まず、アメリカの地方債を見るポイン
フォルニア州で実施した調査について報告させ
トということで、3 つほど挙げております(報告
て頂きます。まず前半では、地方債のクレジット
資料 4 ページ)
。要は色々と多くの種類や特性が
を中心にご紹介させて頂きます。後半では、サン
ありまして、アメリカの地方債の全貌の理解は非
フランシスコ市を中心として、資金調達のマネジ
常に困難なものがあります。そういう意味でいく
メントの仕方についてのお話をご紹介させてい
つか視点を設定しておくのがいいだろうという
ただきたいと思います。ちなみに、報告内容は基
考えで、以下、整理をしております。
本的に稲生の私見でして、調査団としての統一見
次に報告資料の 5 ページ目にまいりますが、こ
解ではありませんので、ご理解をよろしくお願い
こでは 7 つほどの視点を挙げています。左をご覧
278
4
いただきますと、発行主体、目的、リスクなどと
フォーラム
っている様子が窺えるかと存じます。
あり、これに沿って右の欄をご覧いただきますと、
次に、報告資料の 8 ページ、年限別の発行額と
さまざまな類型があるということです。ただ、ご
長期債の比率の推移です。2002 年以降に発行額
注意いただきたいのは、この 7 点に尽きるという
がぐっと増えていますが、これは IT バブルの崩
ことではありませんで、よく言われているように、
壊によって州・地方政府の財政が痛んだというこ
政府債か非政府債か、具体的には、非政府債の中
ともあり、起債に頼る部分があったと聞いていま
には私的活動債、いわゆるプライベート・アクテ
すが、4,000 億ドルを超える水準で推移してきた
ィビティ・ボンド(private activity bond)といっ
わけです。2008 年のリーマン・ショック以降、
たような種類のものもございまして、今回この類
長期債の比率を示す赤い折れ線グラフが少し下
型については説明をしていません。あえて言えば、
の方向に向いているところが窺えるかもしれま
「⑤地方債保有者」の、免税債か課税債かという
せん。逆に言えば、短期債のウエートがやや上昇
ところでまとめて説明をしようと思っています
しているということが言えるわけです。
ので、ご理解いただきたいと思っております。そ
右のグラフは長期債だけを取り出した平均残
れでは以下、大体この分類に従って個別に見てま
存年限ですが、これが 2008 年を境にぐっと落ち
いります。
ているということが窺えると思います。2000 年
まず初めに、発行体別の構成比の推移です(報
以降に起債額の増加が見られるわけですが、年限
告資料 6 ページ)。左側の水色の部分と肌色の部
で見ますと、リーマン・ショックの前後では対応
分が州政府関連ということになりますが、2003
が異なっているということが窺えようかと思い
年以降で見ると、4 割ぐらいが州政府関連で占め
ます。つまり、リーマン・ショック前は、地方債
られているというのが、発行ベースで見た場合の
の起債額を増加させることで何とか資金的なや
地方債の姿ではないかと思います。残りの過半、
りくりを行ってきたわけですが、リーマン・ショ
全体で言うと 5 割ぐらいの部分が地方政府関連
ック以降は長期債になかなか頼ることができな
で占められています。ただ、内訳をご覧いただき
くなっているほど、マーケットの混乱が一時期に
ますと分かりますように、さまざまな個別の発行
あり、短期債を動員して資金的なやりくりを行っ
体によって起債が行われています。あえてこの中
ている様子が窺えるのではないかと思われるわ
でのトレンドを申し上げれば、2009 年以降、つ
けです。
まり BAB のスキームができてから州政府本体の
次に報告資料の 9 ページにまいりたいと思い
ウエートが高まっているようです。この点につい
ます。ここでは、固定金利と変動金利の推移を示
てはまた後ほど分析を試みたいと思います。
しています。リーマン・ショック前後でやや大胆
続いて、目的別の構成比の推移です(報告資料
に分けて説明を試みますと、リーマン・ショック
7 ページ)
。これは、開発、教育、電力といった、
以前は長期債の 4 分の 3 が、固定金利で調達さ
統計集にあるような分類に従っています。ご覧い
れていました。2008 年に一時的にピンクの部分
ただきますと、近時の傾向としましては、電力と
がぐっと増えています。これは長期債ではありま
か住宅といったような施設について減少傾向に
すが、短期的に金利が変動するという意味で、実
あるということが見てとれるのではないかと思
質的には短期債と位置づけられることもある
います。それから医療につきましても、やはり金
VRDO(Variable rate demand obligation)です。
融危機以降は手が回らないという状況で、縮減傾
つまり、2008 年は 67.4%を長期債でまかなって
向にあるということが言えようかと思います。そ
いる反面、3 割近い部分をこの VRDO 債でまか
の中で、やはり教育とか、あるいはユーティリテ
なっているということが窺われるわけです。
ィ関連、具体的には水道、下水道、ガスといった
この他、短期金利としては、グリーン色のオー
ものですが、そういった分野は削れないというこ
クションレート債(Auction Rate Securities)と
とがあると思われますが、ウエートが逆に高くな
いうものがございます。これはよく ARS と略さ
279
4
フォーラム
れますが、実質的に短期債として位置づけられて
の金融環境が混乱する中、VRDO 債に資金がシフ
いる VRDO とはストラクチャーが若干異なって
トしたのですが、それをサポートしていた欧州の
いると言われています。端的には流動性を確保す
金融セクターや、そのアメリカの子会社の撤退と
る手段(Liquidity Facility)になりますが、これが
いうことがあり、結果的にはこの変動金利債も、
ARS 債の場合には用意されておりません。それ
活用が非常に困難になってしまったと言われて
では、流動性はどこで確保するんだという話にな
います。なぜ 2008 年にこれほどまでに増加した
りますが、これはダッチオークション、つまり競
のかと言いますと、そのストラクチャーに原因が
り下げ方式の競売によって確保されるというこ
あると言われています。というのも、発行体サイ
とで、まめにせりを行うことによって流動性を何
ドが一定の条件があった場合に、変動金利を固定
とか確保していこうという方式をとっているわ
金利に変えることができるというのが、この
けです。逆に言えば、流動性確保の手段がありま
VRDO 債の最大の特徴とされているからです。そ
せんので、金融環境が非常に悪い時には、このオ
ういう意味で、発行体にとって都合のいいものと
ークションレート債は起債が事実上難しいとい
言われるわけです。しかしながら、結果的にマー
うことが言えるのではないかと思います。
ケットは縮小ないしは崩壊気味ということにな
もう一度図を見ていただきますと、2007 年ま
ってしまいました。その後、2011、12 年と、発
では多少なりともオークションレート債が使わ
行額は減っているわけではありますが、細々とで
れていたわけですが、2008 年になりますと、こ
はありながら、活用している団体も一部にはある
のマーケットは一挙に崩壊してしまいます。その
と窺っています。
理由は、モノライン保険会社の格付けが低下した
このように金融環境が悪化する中で、発行体と
ということもあり、結果的には一連の入札が全て
してはなるべく長期固定で安定させたいという
失敗してしまったことが原因であると言われる
要望があり、一時期に変動金利債を活用しようと
ことがあります。
したけれども、なかなかそれも難しく、変動金利
この ARS 債で怖いと言われていることですが、
債も駄目になったという中で、今存在感を増しつ
オークションが成立しないとペナルティーの金
つあると言われているのが私募債です。これにつ
利を支払うということが目論見書に書かれてい
いてはまた後で説明させていただきます。
ます。そのため、結果的にこの ARS 債でかなり
では、報告資料の 11 ページに進みたいと思い
痛手を負った発行体があるんじゃないかという
ます。ここで取り上げるのは保証付きの問題です。
分析がよくなされているところです。いずれにし
2005 年までのグラフを見ていただきますと、
ましても、2008 年は長期債も厳しい中で、VRDO
色々なイベントを書き込んでいますが、長期債に
債に傾斜した様子が窺われるということを申し
おける保証の活用は、赤い折れ線グラフで構成比
上げておきたいと思います。
を示していますように、増加基調でした。しかし
次に、報告資料の 10 ページで、さきほどの
ながら、保証は 2006 年以降減少に転じました。
VRDO 債の動向について見てまいりたいと思い
この背景には、皆さんよくご存じのように、リー
ます。繰り返しになりますが、長期の変動金利債
マン・ショック以降、保険会社の信用が毀損する
という言い方はしていますが、やや特殊なところ
という状況がありました。
があるのでご注意いただければと思います。この
青い折れ線グラフは LOC(Letter of Credit)で
VRDO 債は短期で金利が見直されるということ
すが、これは銀行の保証のようなものです。今ま
ですが、投資家は発行体に対して、額面価格に経
ではそれほど利用されてこなかったと言われて
過利息を加えた金額での買い取りを常に要求で
いますが、リーマン・ショックの中で、2008 年
きるプットオプションがあるという意味で、短期
はこの LOC の利用が急増しているということが、
的な性格を持つとされています。
グラフから見てとれるのではないかと思います。
2008 年には使い勝手がいいということで、こ
その後、残念ながら、銀行自体も LOC での対
280
4
フォーラム
応がなかなか難しいということがあったようで、
助金を与えるというものです。ニュージャージー
比率は逆に減っています。この点については、
州やニューメキシコ州などにおいて、州政府によ
LOC のロールオーバーを何とかしなくてはいけ
る定期的な資金援助を行っているそうです。
ない、流動性を確保しなくてはいけないというこ
それでは、次に報告資料の 13 ページにまいり
とで、色々な議論と努力があったようですが、後
たいと思います。今度は保有者ごとに見た構成比
でご説明する BAB 債の発行が許されたこともあ
の推移でして、よく言われておりますように、ア
って、次第にマーケットが落ち着きを取り戻した
メリカの地方債のほぼ半分を家計が直接保有し
ということもあり、あえて LOC に頼ることなく、
ています。実は、これはデータによって違うので
本来の調達方法である固定金利債に徐々に転換
すが、今回はボンドバイヤー(The Bond Buyer)
を遂げ、そのために LOC が割合を減少させてい
のデータを利用しました。この他に、ミューチュ
るということだそうです。他方、モノラインです
アルとか MMF などを代表とするファンドを通じ
が、最近ムーディーズがレポートを出していまし
た保有分がありますので、全部足し合わせれば 4
て、やはり保険会社の再建の道は厳しいという見
分の 3 超が家計で保有されているということに
方を示しています。
なろうかと存じます。
報告資料の 12 ページにまいります。モノライ
たまたま FRB のデータで見たところ、大体 7
ンの保険会社の格付けですが、大変厳しい状況が
割程度という数字でしたので、今回の金融危機下
窺えるのではないかと思います。かつて大手でな
においても、保有割合で見た限りでは、あまり変
らしていたアムバック(Ambac)社は、格付けが
化は見られないということです。地方債はソブリ
付いていないような状況ですし、MBIA につきま
ンに次いで比較的安全なセクターということで、
しても、ようやくシングルBという状況が窺える
家計がその保有に相変わらず注目をしていると
わけです。バークシャー(Berkshire)は大手とは
いうことが、一応言えるのかもしれません。
言い難いかもしれんが、いずれにしましても、大
次に報告資料の 14 ページにまいりたいと思い
手のモノラインの保険会社は、軒並み格付けが厳
ます。ここに出てきますのは免税債か課税債かと
しい状況だということです。
いうことで、そのウエートの推移を見たものです。
これに関しまして、現地でムーディーズからコ
2000 年以降についてざっとご覧いただきますと、
メントを頂いております。保険会社が保証ビジネ
免税債のウエートは大体 8 割前後で推移をして
スを停止している中で、各州政府は色々と対応策
きました。これが 2009、10 年なりますと、後で
を検討しているのかと伺ったところ、カリフォル
ご説明しますように、BAB 債により課税債の発
ニア州につきましては、州政府自身が大変厳しい
行が大分増えたということもあり、免税債の構成
状況にあるので、こうした保証に見合ったような
比が減っている様子が見てとれるかと思います。
制度は検討されていないということです。ただ、
その後、2010 年 12 月の BAB のスキーム終了以
他の州については、3 つほどのケースがあるよう
降は、免税債に回帰している様子が窺われるので
です。
はないかと思われます。
1 つ目は、これは必ずしも今回の危機的な状況
報告資料の 15 ページにまいります。ここで、
の中でということではありませんが、州政府自身
連邦政府と州政府による支援スキームというこ
がボンドバンクのようなプログラムを持ってい
とで、ビルド・アメリカ・ボンド(Build America
るということです。2 つ目は、地方政府に対する
Bonds、BAB)についてご紹介させていただきた
保証を州政府が行っているということです。ほと
いと思います。BAB 導入の背景は、連邦政府の金
んどの州政府が絡んでいるケースは、学校区を対
融マーケットの混乱収拾策の一つとして、地方債
象にした保証業務で、ワシントン州やオレゴン州
マーケットへのてこ入れがおこなわれたという
などがこうした仕組みを持っているそうです。3
ことです。これが後に、BAB 債を続けるかどうか
つ目はエンハンスメントプログラムで、これは補
という議論に色々と影響を及ぼしてきます。
281
4
フォーラム
そ の 後 、 米 国 復 興 ・ 再 投 資 法 ( American
や資金繰りを付ける必要が必ずしもない業態で
Recovery and Reinvestment Act、ARRA)という
すので、色々と言い訳をして歳出の先延ばしとい
法律が成立しまして、3 種類の BAB 債ができま
う形で対応することにより、マーケットの好転を
した。その方法は、①税額控除、②直接補助、③
待つことが一応できたために、大きな混乱になら
復興地域(Recovery Zone)経済発展債です。
なかったということです。
それでは、この BAB 債の効果ですが、大きく
次に、条件決定方式の推移についてです(報告
2 つあります(報告資料 16 ページ)
。①税額控除
資料 18 ページ)
。これは、私募債や主幹事方式と
のケースですが、利子額の 35%が税額控除され
いった分類で見たものです。これを見ていただき
るということもあり、特に最高限界税率で課税さ
ますと、1994 年以降、主幹事方式による発行が
れている投資家以外のところで、購入のメリット
じわじわと増加しているような状況でしたが、金
があるということです。②直接補助のケースは、
融危機以降になりますと、全体のボリュームが抑
地方政府への直接の補助ですが、実際の利払い負
えられる中で、競争入札の方に若干シフトしてい
担が既存の免税債よりも低いというメリットが
るような状況があろうかと思います。そういう意
ありますので、市場利回りで発行してもオーケー
味では、なかなか資金が取りづらいという状況も、
だという効果があったわけです。結果的には、地
一部では見られるわけです。他方、右のグラフを
方政府側の資金調達コストという点でも、低下メ
見て頂きますと、下の方に寝そべっているグリー
リットを享受することができたわけです。
ンの折れ線に示されているように、私募債に最近
そうは言いながらも、BAB スキームは 2009~
やや注目が集まっております。
10 年という 2 年弱の非常に短い期間であったわ
2011 年には、この私募債が 2 倍強に増加して
けですが、これがなくなる頃には色々な議論があ
います(報告資料 19 ページ)。私募債とは、証券
りました。端的にロイター通信の記事を載せてい
会社を通じて広く一般に公募するものではなく
ますが(報告資料 17 ページ)
、要はこのプログラ
て、少数の投資家を初めから募って、引き受けて
ムの失効により、アメリカの地方債マーケットの
もらう方式のものです。固定金利型の私募型のメ
ボラティリティが非常に高くなるだろうと言わ
リットは、発行コストを抑えることができるとい
れたわけです。それから、カリフォルニア州政府
うことで、2011 年は利用が多かったということ
にもコメントを取っておりまして、今後はインフ
です。結論から申し上げれば、この LOC の変動
ラへの投資資金を住民や納税者がたくさん負担
金利を何とか長期のものに変えていきたいとい
せざるを得ないのではないかというコメントも
うことで、端境期を埋めるために私募債を使った
出てきたわけです。
というふうに言われておりまして、2012 年にこ
いずれにしましても先ほど申し上げましたよ
の プ ラ イ ベ ー ト プ レ ー ス メ ン ト ( private
うに、連邦政府サイドはあくまで、州・地方政府
placement)を使っているのは、少し一段落して
が市場にアクセスできなくなるのを懸念して
いるようなことが色々なベンダーの情報に書い
BAB を制度化したということですので、州・地方
てありました。他方、格付け会社としましては、
政府が享受できた、安いコストでのアクセスを意
私募債の場合、色々な開示義務があまりないもの
図したものではないという意味で、やや議論やメ
ですから、これに頼ることはまずいのではないか
リットのギャップがあったのではないかと思い
という論調もあります。いずれにしましても、一
ます。
時的なものなのかもしれませんが、2011 年の動
そうは言いながらも、リーマン・ショックやヨ
きとしてご参考までにご紹介させていただきま
ーロッパの財政危機の影響により、この BAB の
した。
後、実際には抑え気味であったというようなこと
次に報告資料の 20 ページにまいります。ここ
があるわけですが、ムーディーズによれば、政府
では、一般財源保証債かレベニュー債かという区
部門は民間企業と違いまして、毎日のように借入
別で論じています。赤の折れ線をご覧いただきま
282
4
フォーラム
すと、2003 年をボトムとしてレベニュー債の活
位 3 州のカリフォルニア州、ニューヨーク州、テ
用がじわじわと増えたわけですが、リーマン・シ
キサス州の発行金額が非常に多いのですが、カリ
ョック以降は急減しまして、一般財源保証債(GO)
フォルニア州が多額であり、構成比も全体の
に戻ってきているという姿が窺われるかと思い
15%を占めるような状況になっています。同州の
ます。
特徴としては、長期債のウエートが他州に比べる
これと発行方式を掛け合わせたものが、次の
とやや低いということが言えようかと思います。
21 ページです。上の表が発行額ベースで、下が
次に報告資料の 26 ページ、格付けの状況です。
発行本数ベースです。GO のところを見ていただ
アラスカ州やデラウェア州はトリプルAですが、
きますと、発行本数では主幹事方式と競争入札方
カリフォルニア州は最下位のシングルAマイナ
式で半々の状況ですが、発行額ベースでは主幹事
スとう状況です。そういう意味では非常に厳しい
方式の方が多いということになっています。一方、
と見ることができるわけですが、ただ、格付け会
レベニュー債は、圧倒的に主幹事方式が多くなっ
社の話では、カリフォルニア州も債務返済能力と
ています。
いうことでは、特に問題はないのではないかとい
この GO と住民投票の関係を見たものが、報告
うことでした。
資料の 22 ページです。これは 1986 年以降の住
次に報告資料の 27 ページは、カリフォルニア
民投票の賛成率の推移を見たものですが、平均で
州の州・地方政府の合計ベースの地方債発行額の
大体 7 割ぐらいの水準で、それでもマクロ的な状
推移を見たものです。州全体のベースで見ますと、
況で見れば、よく言われているように厳しい状況
財政状況が厳しい中で、2002 年以降発行額を急
だとは言われているところです。
増させているわけですが、トータルのボリューム
次に 23 ページですが、こちらは流通市場にお
で見れば、漸減傾向にあったわけです。それが、
ける売買高の状況を見たものです。これは日本の
やはりリーマン・ショック以降増加に転じまして、
状況に似ていまして、国債や政府機関関係のもの
BAB 以降をピークに、その後は急減しています。
は、1 日平均の売買高がかなり多くなっています。
この辺については、先ほどご説明しましたマクロ
一方で、地方債や社債の売買高は寝そべっている
的な状況に似ているのではないかと思います。他
ような状況でして、それを拡大してみたものが右
方、州政府のウエートは、2006 年をボトムとし
のグラフですが、2000 年以降に関しては、社債
てまた上昇傾向にありまして、厳しい財政を反映
と地方債で平均的には同じような状況であると
して現在では 4 割を超える水準になっています。
言えるのではないかと思います。いずれにしまし
次に報告資料の 28 ページですが、これは州政
ても、一時的にはリーマン・ショックの時点で地
府の発行額と構成比の推移を見たものです。
方債の売買が大幅に増加したのですが、その後は
2009、10 年には、先ほど申し上げたように BAB
落ち着きを見せているという状況かと思います。
の影響もあり、急増しています。棒グラフの茶色
ただ、従前に比べれば多少増えているのは、もし
の部分は「つなぎ資金」ですが、これは一般目的
かするとフライト・トゥ・クオリティ(Flight to
ということで、色々な目的のものをまとめたもの
Quality)といったような状況なのかもしれません。
と考えるのが正しい見方ではないかと思います。
ウエートが高いのはインフラと教育関係ですが、
カリフォルニア州における州政府・地方政府の
これは、前回のフォーラムで持田教授からご紹介
地方債発行状況
がありましたように、カリフォルニア州には教育
それではここから、カリフォルニア州における
関係に資金を重点的に振り分けなくてはいけな
資金調達マネジメントについて見ていきたいと
いという規制があることが背景になっています。
思います。まず初めに、カリフォルニア州政府の
報告資料の 29 ページは、地方政府の発行額と
地方債発行状況です(報告資料 25 ページ)
。これ
構成比の推移を示したものです。州政府と違いま
は 2010 年と 11 年の状況を見たものですが、上
して、でこぼこに関しては、2010 年まではそれ
283
4
フォーラム
ほど大きなものではなかろうかと思いますが、た
それから右側に、われわれが今回お話を伺った
だ、BAB が終了した 2011 年はやはり急減してお
カリフォルニア都市連盟(LCC)というところが
り、
全体では 300 億ドル台へと減少しています。
ありまして、ここは政治的な動きとして連邦政府
ウエートで見ますと、右側のグラフに示されてい
あるいは州政府に対する圧力団体的な機能を持
ますように、インフラと教育関係が大きくなって
つ反面、個別の都市政府に対して資金調達業務の
いるということが言えようかと思います。
支援も行っています。
続きまして、報告資料の 30 ページですが、こ
それでは、金融セクターに限って、どのような
れは一般財源保証債との関係で、先ほどマクロ的
個別のミクロ的な主体があるのかということを
な状況の中でコメントしました、住民投票の成否
見たのが、報告資料の 32 ページです。この中で
についてグラフ化したものです。直近のデータで
特徴的なものが青字で示した 3 つのアクターで
はなくて恐縮ですが、ご覧いただきますと、全体
して、これについてはさらに 33 ページをご覧い
では 40%で成立しているということですので、
ただければと思います。
やはりカリフォルニア州は厳しいということが、
ここから分かるのではないかと思います。
これは CLAIR のレポートでも分析されていま
したが、法務セクターとしましては、地方債の顧
ただ、この中でも、使う目的によって成立しや
問弁護士と情報開示の専門の弁護士がそれぞれ
すいものとそうではないものがあるようです。例
免税に関するアドバイスを行ったり、あるいはデ
えば、病院や消防、警察といったところについて
ィスクロージャーに関する専門的なアドバイス
は、6 割ぐらいの成立をみていますが、他方、道
を行ったりしているようです。一方、財務セクタ
路や住宅といったものについては、僅差で否決さ
ーの方に関しましては、財務アドバイザーという
れています。このオレンジ色の部分は、55%は超
ものが専門的な業務を行っています。日本で言え
えているけれども 3 分の 2 はいかないという意
ば、引き受け証券会社等の業界の皆さまがいろい
味で、僅差で否決という見方ができるわけです。
ろな形で、あるいは銀行がアドバイスをしている
ということになろうかと思いますが、アメリカで
カリフォルニア州地方政府における
は、場合によっては利害関係が逆方向に向いてい
資金調達の主要アクター
ることもあるということでして、財務アドバイザ
こうした状況の中で、一体どのようなアクター
ーの方は、言ってみれば自治体にとって有利なア
が資金調達に関わっているのかということを、次
ドバイスを行うということで、手数料を払って雇
に見てまいりたいと思います。まず、全体の構造
い入れているケースがごく一般的です。
を非常に単純化した図です(報告資料 31 ページ)。
しかしながら、こうした専門的なアドバイスを
真ん中は後ほど説明するサンフランシスコ市で
受けるためにかなりのコストを支払っているの
すが、カリフォルニア州が監督庁の役割を果たす
が実情のようです。アメリカで地方債を発行した
とともに、左上の SEC が、証券業界を通じ、厳
場合のライフサイクルコストの試算を行ってい
しい間接的な規制を施しています。
るのが、2007 年に出た坂田さんという方の論文
一方、サポートするセクターとしましては、金
でして、これを拝見したところ、100 万ドルの発
融セクターと法務セクターがあります。この辺が、
行額に対して、要する費用が大体 1 万 5,000 ドル
日本とはかなり違うところと言われています。そ
から 1 万 8,000 ドルぐらいかかっているという
れから、州政府のサポートセクターに関しまして
分析です。この中で、先ほどのフィナンシャルア
は、地方債・公金運用アドバイザリー委員会
ドバイザーに払っている手数料が、おおよそ 3 分
( California Debt and Investment Advisory
の 1 の 5,000 ドルぐらいで、一方で法律セクター
Commission、CDIAC)というところがありまし
に対しては、大体 5,000 ドル近い手数料を払って
て、ここは州政府の機関として監督もしているわ
いるということです。
けですが、他方でサポート業務も行っています。
284
つまり、100 万ドルに対して 1%ぐらいのコス
4
フォーラム
トを払っているということで、ライフサイクルが
うことを言われていたわけですが、これが最近義
仮に 20 年ということで試算すると、起債総額に
務化されたところです。ところが、カリフォルニ
対して 3.5%ぐらいのコストを、こうしたさまざ
ア州内でこの報告義務が果たされておらず、この
まなサポートセクターに対して払っているとい
問題を CDIAC の調査部門が指摘しています。つ
うことです。そういう意味で、日本でこうした専
まり、この EMMA に登録を済ませているのが全
門的な知見を得るためのコストをどのように考
体の 7 割ぐらいしかないという状況でして、これ
えていくのかということは、恐らく議論があるの
が結果的にどのような結果を招くかということ
だろうと考えております。
に関して、結局 SEC によるさらなる規制強化に
次に報告資料の 34 ページです。今回ヒアリン
つながるので、こうした本来自主的に行うべき情
グを行いました LCC ですが、ここが行っている
報開示については、きちんと行わなくてはいけな
業務は、先ほど申し上げたサポート業務と、政治
いということを、この CDIAC は強調しているの
関係の意見表明、あるいは研修事業といったとこ
だと思います。
ろです。
つまり、先ほどの LCC の議論では、州政府と
ここはシンクタンク機能を持っておりまして、
の関係で資金調達の自主性が脅かされていると
最近の論点について 35 ページをご覧いただけれ
いう話をしましたが、州政府サイドはむしろ連邦
ばと思います。これは昨年出たレポートでして、
政府との関係で、こうした自主性を脅かす危険性
地元でも反響を呼んだそうですが、色々な論点を
を訴えているというところが面白いのではない
出しております。結論から申し上げれば、地方政
かと考えているところです。
府の色々なコントロール機能が、特にリーマン・
サンフランシスコ市の資金調達実務
ショックを経て、非常に弱くなってきているので
はないかということです。特に、州政府の行動が
次に、サンフランシスコ市の資金調達実務につ
ある意味では残念なことになっておりまして、財
いてご紹介をしていきます。具体的には、市の財
産税の配分において、どうやらまず州政府の資金
務管理官が策定しているデットポリシー(Debt
繰りを優先するような行動に出ており、その点が
policy)についてご紹介します。サンフランシス
LCC からすれば、かなり忸怩たる思いがあると
コ市のデットポリシーでは、年限ごと、あるいは
いうことです。
借り手によってさまざまな形の手法を使用する
続きまして、今度は州政府サイドのサポートア
ということを整理しています。報告資料の 40 ペ
クターを紹介します(報告資料 36 ページ)
。それ
ージをご覧いただければお分かりのように、長期
がカリフォルニア地方債・公金運用アドバイザリ
債については基本的には GO を中心として、レベ
ー委員会です。その具体的な業務は、情報収集な
ニュー債や COP と呼ばれている参加証書にまで
どのシンクタンク的な、つまり LCC と同じよう
手を伸ばしているというのがサンフランシスコ
な政策研究の他に、金融技術、特に地方政府に対
市の特徴です。一方、いわゆる conduit borrower
するテクニカルなアドバイスをしているという
向けの導管体型がありますが、これは基本的には
ところが特徴です。これを具体的に担っているの
住宅関係に絞って使っていきたいということが、
が、経 営技術支援委 員会(Technical Advisory
デットポリシーに表れているようです。
それから、報告資料の 41 ページには起債の手
Committee、TAC)というところです。
この CDIAC が最近強調しているのが、ディス
続きが書かかれております。ここでは、設備計画
クロージャー関係です。報告資料の 38 ページに
委員会、言ってみれば予算を使う部門できちんと
詳しく書いていますが、要は電子地方債市場アク
した詰めを行った上で、市債管理委員会というと
セス(The Electronic Municipal Market Access
ころにかけて、具体的な調達のあり方をきちんと
system、EMMA)というものが向こうでは整備さ
決めていくというスキームになっておりまして、
れていまして、ここに自主的に開示してくれとい
この両方が手を携えてファシリティーを管理す
285
4
フォーラム
るということ、それから資金調達部門が手を携え
スワップに関しては、これは使い方次第では有効
ていくという組織づくりになっていることを強
だということでした。
調しておきたいと思います。
47、48 ページは、こういったことを踏まえて
42 ページは条件決定方式についてですが、原
サンフランシスコ市のデータが書かれています。
則は競争入札をおこなうということ、それからス
結論だけ申し上げると、48 ページの右側の折れ
トラクチャーによっては主幹事方式を使うとい
線グラフで示されているように、発行余力がまだ
うことで、これは一般的なことではないかと思い
70%も残されていますので、サンフランシスコ市
ます。
は比較的恵まれた状況にあるという様子が窺え
報告資料の 43、44 ページは、一般財源保証債
るのではないかと思います。
とレベニュー債の個別のストラクチャーについ
49 ページはサンフランシスコ市の格付けの推
てですが、これも一般的なことが書かれています。
移です。今申し上げたことも反映しまして、2010、
ただ、44 ページにある変動金利についてはかな
11 年に 1 ノッチ下げている状況ではありますが、
り作り込みをしていまして、⑥の予算措置の
これはムーディーズやスタンダード&プアーズ
SIFMA インデックスと呼ばれている短期債のイ
の話では、特段大きな問題ではないだろうという
ンデックスですが、これを見ながら相当な部分に
ことです。
ついて、流動性を確保するために予算措置をあら
かじめ取っておくということです。それから、②
インタビュー先コメント
の最大組入比率ですが、最近大阪府の方で、残高
―サンフランシスコ市公共金融室
が発行額の 2 割という縛りを掛けようか掛けま
50、51 ページは、サンフランシスコ市の公共
いかという議論が確かあったと思いますが、サン
金融室で行ったインタビューの内容を整理した
フランシスコ市も変動金利債は市債残高比で 2
ものです。50 ページは地方債のマネジメントの
割のキャップを付けているようですので、ご参考
管理体制についてのコメントですが、まずサンフ
までにご紹介しておきたいと思います。
ランシスコ市は比較的人口も多くて、組織的な人
45 ページはご参考までに付けておきましたが、
員体制も充実しているということがあるのでし
これは、44 ページの一番下にありますように、
ょうか、資金調達を担当している財務管理官が市
変動金利債で発行する場合はリスクをヘッジす
長部局から独立して設けられていると言ってお
るために複合一貫債(multi-modal)という考え方
られました。したがって、デットマネジメントに
が普及し始めているということで、一つの例とし
ついても、5 年ほど前に市長部局から独立して、
て挙げたものです。
この財務管理官室に移転して管理しているとい
う状況です。
次に報告資料の 46 ページですが、これはリス
ク管理の方法とコンプライアンスの状況につい
次の 51 ページですが、サンフランシスコ市の
てまとめたものです。特段申し上げることがある
資金調達のマネジメントの状況についてです。結
とすれば、デリバティブについてです。金利スワ
論から申し上げると、リーマン・ショックでも大
ップはアメリカの地方団体では一般的に使われ
きなダメージを受けずに、非常に多様な経済基盤
ておりまして、これについて別途細かいポリシー
を反映しているということもあり、比較的順調に
が定められているところです。
資金調達が行えたということです。それから、先
ただ、これ以外のデリバティブについては、
ほど短期金利の話をしましたが、ポリシーで 2 割
LCC でも言われましたが、やはり基本的に使う
までということもある関係で、全て固定金利にす
ことは適切ではないということです。つまり、議
るのではなく、短期の金利についても、あるいは
会等において 3 分間あるいは 5 分間という短い
変動金利についてもうまく組み合わせて、効率性
時間で全体を説明できないものを使うのは、やは
とリスクをバランス良く考えながら調達をして
り厳しいのではないかということでした。ただ、
いるというところです。
286
4
フォーラム
では国に相当する業務を担っていますので、廃止
財務担当者に求められるスキル
ということはあり得ないわけですが、カリフォル
52 ページにまいりたいと思います。ここでは
ニア州では特に、地方政府はある種さめた目で州
財務担当者の資質ということで、サンフランシス
政府を見ているのではないかという様子が窺え
コ市と、先月のフォーラムで報告があったバレホ
ました。
市とを合わせて見たような状況になっています
他方でサンフランシスコ市のように、地方債マ
が、大きく「財政スキル重視型」と「金融スキル
ネジメントに係るポリシーを独自に作って、効率
重視型」に分けています。サンフランシスコ市の
性とリスクを捉えながら管理をしているような
ような規模の大きな団体では、非常にテクニカル
ところも観察することができたということが、今
な部分が多いということもあり、投資銀行で証券
回の調査の成果と言えるのではないかと思いま
業務を経験した者を採るケースが多いというお
す。
話でした。一方、一般型の地方政府では財政スキ
ルを重視して、財政運用のスキルから金融スキル
国内自治体における資金調達マネジメントへの
への転換を徐々に学んでいくという形での人材
示唆(論点)
育成もあるようです。そうは言いながら、下の方
最後に 54 ページで論点提示をしています。思
にも書いてありますように、財務担当者の資質と
い付いたことをやや乱暴にまとめてみました。日
して経済・財政構造の理解やコミュニケーション
本の地方自治体の中で現在、基本的な資金調達マ
スキル、プレゼン能力といったようなことを意識
ネジメントのガイドラインを決めているところ
しながら人材育成をしているようです。
があるかどうか、私はあまり存じませんけれども、
川崎市のようにこうしたガイドラインを決めて
本報告のまとめ
いるようなところは、まだそれほど多くないので
53 ページで以上のまとめをさせていただいて
はないかと感じています。アメリカではこの点が
おります。リーマン・ショック以降、財政状況は
一般化していると推測されますので、日本でもこ
大変厳しいということが言えるわけですが、前回
れを検討する時期に来ているのかもしれません。
の報告でもありましたように、歳出削減などのさ
それから、サンフランシスコ市の例でも挙げま
まざまな努力によって、結果的にマーケットには
したが、ファシリティーマネジメントの関係と資
大きな混乱が出ていないようです。これには連邦
金マネジメントの関係の橋渡しをきちんとする
政府の支援が確かにあったわけですが、支援の内
必要性が、今後はあるのではないかと考えていま
容には注意が必要です。基本的には財政的な支援
す。また、長期資金と短期資金の適切なミックス
よりは、マーケットの混乱をいかに収縮するかと
の必要性についても、やはり強調しておきたいと
いう意味の支援がおこなわれたもので、BAB の
考えています。
ようなものが中心的になされてきたということ
どのように情報開示をするのかということで、
かと思います。
既に日本でも出てきておりますが、公会計システ
一方、州政府はどのような動きをしてきたかと
ムの深化がより求められるところではないかと
いうことですが、先ほど申し上げたように、テク
思います。ただ、そうは言っても、これをどのよ
ニカルな支援を中心に、場合によっては監督的な
うな人材に託すのかということもありますので、
こともかなり強めているということもあります。
金融技術に長けた人材の育成を、今後検討する必
そういった意味で、州政府と地方政府との関係は
要が出てくるということではないかと思います。
昔から利害が対立することもあって微妙だと言
他方で、フィナンシャルアドバイザーのような、
われてきたわけですが、リーマン・ショックによ
金融的なことを援助する独立の分野が、今後日本
ってこの微妙な関係がやや冷めているのではな
にも出てくるかもしれないということを、問題意
いかと思います。もちろん州政府は、連邦制の下
識として申し上げておきたいと思います。そうし
287
4
フォーラム
た中で、新しい調達手法の導入ということで、金
7 月はカリフォルニア州の新年度の開始月に当
利スワップのようなものについて、今後日本でも
たりますが、2009 年の 7 月に、取引業者への支
議論を一層深めていただければいいのではない
払いや税の還付、補助金の交付などの資金繰りが
かということを、今回の調査を通じて感じた次第
つかず、IOU と呼ばれる借用書を発行することで、
です。
数ヵ月歳出を繰り延べするということが行われ
ました。翌 2010 年の 7 月には、予算成立までの
討論
暫定措置として、州職員の賃金を州内の最低賃金
へ引き下げる措置がとられました。それ以前にも、
46 日間の無給休暇の強制取得などで賃金カット
を行ったり、大胆な人員削減もしております。
さらに、歳出削減の一方で歳入増加策もとられ
ています。州売上税の 1%ポイント引き上げや自
動車登録料の引き上げなど、州の住民への負担増
となるような提案が 2009 年 4 月に出されていま
すし、加えて、2009 年 5 月には地方政府から 20
万ドルを借り入れるというような措置までとら
れています。
〇岡田
本日の稲生先生のご報告の意義ですが、
不況下においてこのように歳出削減策と歳入
リーマン・ショック前後の州・地方債をめぐる状
増加策をとるわけですから、州経済に対して州政
況について、カリフォルニア州の事例をもとに、
府は相当の引き締め措置をとっていると解釈す
一体何が起きていたのかという事実関係を分か
ることもできます。私はこのようなカリフォルニ
りやすく、かつ大変なボリュームのあるものとし
ア州の状況は、まさに経済的・財政的に混乱の渦
て整理していただいたということだと思います。
中にあると言えるのではないかと考えておりま
その上で、リーマン・ショック以降のカリフォ
す。そこで以下、リーマン・ショック前後の州・
ルニア州の経済状況や財政状況を踏まえながら、
地方債市場の動向に関する解釈をめぐって、大き
州・地方政府における資金調達マネジメントをめ
く 2 点の質問をさせていただきたいと思います。
ぐって、いくつかの論点提起をさせていただきた
1 点目は報告内容の確認のような質問になり
いと思います。同州では 2008 年のリーマン・シ
ますが、ビルドアメリカ債、BAB の役割をどのよ
ョック以降、失業率が非常に高いレベルで高止ま
うに評価するかということに関わるものです。稲
りしており、さらには不動産市況の状況も非常に
生先生のご報告資料 27 ページのデータを見ます
悪く、不動産価格が下落するなど、州経済は非常
と、リーマン・ショックによって金融市場が非常
に疲弊しております。それを受けて州財政も危機
にタイトになった 2008、09 年にも、州・地方債
の中にあるわけです。
の発行額は全く減少していません。その理由は、
カリフォルニア州財政は、州憲法により均衡予
連邦政府による BAB の導入によると理解するこ
算原則を貫かなければならないことになってい
とが可能かと思います。この辺につきましては、
るため、相当大胆な歳出削減策と歳入増加策がと
14~17 ページでもご説明がありました。もしこ
られています。歳出削減策についていくつか例を
の BAB の導入がなければ、地方債市場は相当縮
挙げれば、教育補助金の削減、ヘルスケアの削減
小していたと考えることができるのではないで
などに加えて、刑務所の閉鎖や消防士のレイオフ
しょうか。すなわち、地方債市場を連邦政府が危
などまでが行われています。
機対応策として救済したという、能動的評価を引
加えまして、さまざまな緊急避難措置などにつ
き出せるのではないかと思います。
いても相当過激な対策がとられています。例えば、
288
それと直接関係してきますけれども、BAB の
4
フォーラム
なくなった 2011 年の地方債発行額を見ますと、
心として所得再分配機能にも手を出すようにな
本報告でもご指摘ありましたように、相当減少し
ったことがあります。経済安定化機能についても、
ています。続く 2012 年は、当然今年ですので計
均衡予算原則による地方財政の運営がしばしば
画中ということで、1 月から 4 月までのデータと
景気循環に対して、不況期の引き締め、好況期の
いうことになりますが、単純に 3 倍して 12 ヵ月
緩和という形で、正循環的(procyclical)なもの
分を推定してみても、やはり前のような状態には
になってしまうという問題点の指摘があります。
戻らず、大体 2011 年と同じレベルか、ややそれ
さらに、地方政府が行う景気対策ですが、これ
を下回るレベルということになるのではないか
までの規範的な原則においては、開放経済で漏出
と思います。これは、BAB の特例措置が消失した
効果が起きるが故に有効ではないとされてきま
ことに原因があると考えられるのではないでし
したが、実証レベルで言うと、例えば州経済はそ
ょうか。
れほど開放的でもなくて、特にサービス生産が経
現在、カリフォルニア州の財政は安定しており
済の中心になってきた現在の経済では域内閉鎖
ませんし、危機が深刻なまま継続しています。今
性が高いので、経済安定化機能も州・地方政府で
年の 5 月 12 日にも、新聞報道によれば、ブラウ
担うことができるというよう研究が出されるよ
ン知事が審議中の新年度予算の財政赤字見通し
うになってきています。
として、当初の 92 億ドルから 160 億ドルに増加
そして、均衡予算原則を堅持することは景気循
することを発表しまして、より一層の社会サービ
環に対してはよくなく、むしろ州・地方政府レベ
スのカットや賃金コストのカットなどの歳出削
ルでも反景気循環的(anti-cyclical)な政策も行う
減策、それから売上税や取得税の引き上げなどの
べきだという考え方が出てきています。そうした
歳入増加策を検討するという状況に至っており
観点に立てば、州・地方債の発行に対して厳格な
ます。
ルールを持っていることの弊害が目立つことに
このように考えますと、財政の混乱回避のため
なります。
には連邦政府による支援策はまだまだ必要だっ
特にカリフォルニア州では、住民投票によって
たように思われるのですが、その点についてどの
3 分の 2 の賛成を得ないと州・地方債が発行でき
ようにお考えになりますでしょうか。言い換えれ
ないことになっています。この点について、稲生
ば、BAB がなぜ続けられなかったのか、いま一度
先生がご報告資料の 30 ページで示されています
お教えいただければ幸いに思います。
が、実はこれは非常に示唆的なデータでありまし
続いて 2 点目の質問です。私は財政学者ですの
て、この投票結果を見ますと、住民の 55%以上、
で、財政の機能という側面から少し発言させてい
すなわちマジョリティが賛成しているにもかか
ただきたいと思います。財政には資源配分機能、
わらず、3 分の 2 の賛成がないということで発行
所得再分配機能、経済安定化機能の 3 つがあると
を否決された州・地方債が 25、比率にして 46%
されています。1970 年代に確立したマスグレイ
にも上っているということになっています。こう
ブやオーツによる古典的な財政連邦主義(Fiscal
した状況は、今の州・地方政府の役割や事務分担
federalism)によれば、中央政府のみが 3 つ全て
のあり方から考えるとかなり不毛な状況だとも
の機能を担い、州を含めた地方政府は、地方公共
言え、これからはもう少し条件を緩めて、もう少
財の供給、すなわち資源配分機能だけを担ってい
し自由な州・地方債の発行と歳出増加策の組み合
ればよいということです。この財政連邦主義の考
わせ、すなわち反景気循環的な財政政策が求めら
え方は長い間、相当な力を持って学界を支配して
れてもよいのではないかと考えています。この考
きましたけれども、1990 年代後半から 2000 年
え方について、稲生先生がどのようにお考えにな
代前半にかけて反論が出てきています。
るか、お聞かせいただければ幸いに思います。
具体的には、まず、州や地方政府がさまざまな
〇香月
事務を担うようになって、現物サービス給付を中
289
アメリカの地方債市場というのは皆様
4
フォーラム
ご存じのように、米国債市場に比べ非常にドメス
ュアルファンドには資金が戻ってきていますの
ティックなマーケットでして、日本の投資資金が
で、それが全体的な市場の需要を下支えしている
直接関与するということはほとんどありません。
と考えられます。
ですから、多くの市場参加者の関心は高いのです
これだけを見ると、また最近若干ワイドになっ
が、ほとんど手触り感がないというのが実態では
ているとも見受けられるのですが、実際には金利
ないかと思います。そういう点から申し上げます
は歴史的な低水準にまで低下していますので、価
と、今日の稲生先生のご報告と岡田先生の問題提
格ベースで見たインデックスで見ますと、極めて
起というのは、アメリカの地方債の現状について
安定的に推移しているという状況です。
非常に示唆に富む内容だったのではないかと思
ただ、これが本当にこのまま行くのかどうかと
います。
いうのは、まだなかなか判断が難しいところでし
特に稲生先生のご報告資料にありますように、
て、例えば今年の 12 月に、大型減税の期限切れ
地方政府の起債の戦略やメニュー立ては、必ずし
と歳出の強制削減が同時に発動される、いわゆる
も日本の地方債のマーケットとはリンクするも
「財政の崖」を迎えようとしています。ちょうど
のではないのでしょうが、市場参加者にとって非
昨年の夏頃に、アメリカでデットシーリングの問
常に貴重なものだと思います。
題がずいぶん過熱しました。そのシーリングの問
そこで私からは、市場の立場から見た現在のア
題は何とか解決したわけですが、積み残した歳出
メリカのマーケットについて少し論点整理をし
削減計画については、政治的に合意していません。
たいと思います。まず、アメリカの地方債の対米
このまま行きますと、来年の 1 月から自動的に歳
国債のスプレッドの推移を見ますと、サブプライ
出がカットされるということになります。こうし
ム問題の前後では、全くの別世界になっています。
たものを総称して、財政の大きな崖に直面すると
先ほど先生方のお話にもありましたように、特
警戒されています。
に注目されるのは、2010 年の夏に BAB が終了し
財政的にはこれは決してマイナスではないと
て、2011 年に入ってからワイドニング局面に入
いう見方もあるのですが、景気に対する相当大き
っていきます。その当時何があったかと申します
なショックが起こり得るということでして、年末
と、証券アナリストのメレディス・ホイットニー
にかけてアメリカの財政問題がもう 1 回市場の
氏が「60 ミニッツ」というテレビ番組の中で、こ
論点に上がってきますと、地方債の需給動向にも
れから 12 か月以内にアメリカの地方債が数千億
全く無縁ではないのではないかという気がしま
ドル規模でデフォルトするという発言をしたこ
す。そういう点では、一刻も早く地方債市場がき
とで市場が動揺し、ミューチュアルファンドの解
ちんと機能を改善させることと同時に、そうした
約等も含めて、地方債マーケットから資金が流出
ショックに備えたセーフティネットの構築の議
していくということにつながりました。
論なども、本当であれば求められる局面ではない
ただ、稲生先生のお話の中にもありましたよう
かと思っております。
に、ボリューム自体は元には回復してないのです
少し話が飛んでしまいますが、稲生先生のお話
が、全く資金調達が困難になってしまったかとい
の中でモノラインのお話がございました。なぜモ
うとそういうわけではなくて、それなりにマーケ
ノラインが破綻したのか、これはもう 3 年ほど前
ットの機能を維持した形で現在に至っています。
にさんざん議論されたことではありますが、後ほ
特に、ホイットニーさんの話が一旦沈静化した後
どの議論に少しつながるところもありますので、
は再びタイトニングしているわけですが、足元で
簡単に整理しておきたいと思います。
はアメリカ経済の先行きに対する警戒感であっ
まずサブプライムの住宅ローンがあって、そし
たり、あるいは欧州のソブリン問題等もあります
てそれを裏付けとした住宅ローンの証券化商品
ので、安全資産という位置づけで地方債が見直さ
( Residential Mortgage-Backed Securities 、
れているという見方も可能です。実際、ミューチ
RMBS)があります。この中のメザニンとエクイ
290
4
フォーラム
ティ、特にメザニンのところだけを集めてきて、
少し問題になっている JP モルガンの損失の話で
それをさらに裏付けとした証券化商品を組成し
す。「ロンドンのクジラ」といわれているロンド
ます。本来であれば、シングルBとかトリプルB
ンのポジション、要はヘッジをしていたポジショ
のメザニンクラスのものばかりが裏付けになっ
ンのチームが大きな損失を抱えたということで、
ているのですが、それを分散することによってト
口の悪いメディアは最近「ホエール・ウオッチン
リプルAができてしまうという、こうした商品設
グ・ツアー」などという企画を作って、逐一これ
計だったわけです。要は二次証券化だったわけで
を報道しています。JP モルガンは電話会議で、
すが、さらに今度は、この二次証券化のメザニン
シンセティック・クレジット・ポートフォリオで
も含めてまた 100 本集めてきて、それらをさら
損をしたと明言しています。
に証券化すると、またトリプルAができてしまう
これは、現物のポジションではなくて、クレジ
ということをやってきました。
ットデリバティブで損失が発生したことを意味
最終的にサブプライムの住宅ローンが 2、3 割
しています。その中の問題はこれです。CDX ノ
貸倒れが発生すると、このメザニンの部分が全部
ースアメリカ、インベストメント・グレード、シ
影響するわけですから、二次証券化、三次証券化
リーズ 9、これはクレジットデリバティブのイン
も同じように大部分が損失となってしまいます。
デックスでして、日本ではアイトラックス・ジャ
モノラインはこの住宅ローンに直接関与してい
パンと言われていまして、日経新聞の市況欄にも
たわけではないのですが、この ABS-CDO、CDO
数字が出ていますが、これのアメリカ版です。
Squared と言われる二次証券化、三次証券化のス
125 銘柄を裏付けとしたインデックスで、このシ
ーパーシニアと言われる部分を、デリバティブで
リーズが組成されたのは 2007 年です。この 125
ヘッジするカウンターパートのリスクを取って
銘柄の裏付けを見てみると、実は先ほどから名前
いました。要はこのリスクを取っていたが故に、
が出ている MBIA やラディアンなど、当時まだ投
サブプライム問題の影響が直撃してしまったわ
資適格等級であったモノラインも結構入ってい
けです。ですから、地方債を保証していたからモ
ます。それが崩壊してしまったものですから、シ
ノラインが破綻の危機に瀕したというのではな
リーズ 10 以降は構成銘柄が変わっています。
く、実は地方財政とは全く違うところのリスクを
逆に言うと、2007 年のサブプライム問題まで
取ったことによって破綻の危機に瀕してしまっ
に組成されたクレジットポートフォリオやクレ
たというのが実態です。
ジットプロダクツをヘッジしようと思うと、この
次に BAB ですが、先ほど申しましたように、
シリーズを使わざるを得なかったわけです。です
日本の投資家が直接アクセスするということは
から、ベンチマークが交代して、オン・ザ・ラン
ほとんどありませんでしたが、この BAB の大き
からオフ・ザ・ランになって以降も流動性があり
なメリットは、これまで税が軽減されている中で、
ました。流動性があったが故に、JP モルガンは
利率が米国債よりも下回という状況が続いてお
これを使って、彼らが持っている約 3,650 億ドル
り、非居住者である海外の投資家が購入するメリ
のポートフォリオのヘッジに使ったと考えられ
ットは当然ほとんどありませんでした。ところが、
ます。
BAB は課税債ですので、そういう効果なしに利
詳細については今日のテーマではないので、割
率が決定されますから、海外の投資家から見ても
愛させていただきたいと思いますが、問題は、今
十分にリスクリターンが評価できるという商品
JP モルガンが売買可能なポートフォリオとして
設計でした。ですから、われわれは実際にこれを
持っている約 3,650 億ドルのうち、米国の地方債
購入された日本の投資家を存じ上げないのです
が 4.53%の約 165 億ドルということです。これ
が、持ち込みの提案などは当時いくつかなされて
を売却するということは多分ないと思うのです
いたと聞いています。
が、こちらでの損失が広がっていくと、もしかす
最後にもう 1 点つけ加えておきたいのが、最近
ると現物のポートフォリオ需給にも影響が出て
291
4
フォーラム
くるかもしれません。実際、先週辺りから、社債
のにもかかわらず、なぜ共和党と民主党の間で合
のポートフォリオのうち 250 億ドル相当を売却
意を見ずに BAB が法律として結局失効してしま
したのではないかという観測がマーケットで出
ったのかというのが、お二人の共通のご質問でし
てきている状況ですので、こうした動向について
た。
は若干の留意が必要ではないかと思っています。
この点につきましては、先ほどの話の中でも強
つまり、これは先ほどのモルガンの話と同じな
調させていただいたのですが、そもそも連邦政府
のですが、地方債自体は影響がなくても、そこに
サイドとしては、財政的な支援の枠組みの中でこ
参加している市場参加者の投資行動の変化によ
の BAB を捉えるのは初めからいやで、それが共
って、結果的にマーケットに影響を与えてしまう
和党と民主党の合意点であったというようなこ
ことが懸念されるわけです。いずれにしましても、
とを、論文で読んだことがあります。したがって、
これがすぐにアメリカの地方債に影響を与える
財政支援的な要素がこの BAB の中にも含まれて
ということはないと思いますし、少なくともこれ
いるという書き方がなされているのであれば、つ
までご報告がありましたように、市場関係者は非
まり、今財政的に危機的な状況にあるのであれば、
常に工夫や努力をしながら、この 2 年近くの間、
当然これを残すべきだという議論が生き延びる
地方財政を支えてきたということも事実ですの
余地があったのかもしれませんが、あくまでもマ
で、今申し上げたようなことは恐らく杞憂に終わ
ーケットの混乱をとにかく最小にとどめるとい
ると思っております。
うことを中心にしたスキームであったがために、
少し話が飛んでしまいましたが、こうしたこと
それほどマーケットは混乱していない現状から
を前提として、稲生先生に 2 点ほどご確認させて
すれば、BAB の復活や延長は難しいのではない
いただきたいと思っています。1 点目は岡田先生
のかという捉え方を現地ではしておりましたし、
と全く同じ質問になってしまうのですが、そもそ
私自身もそういうものかと理解しています。
も延長が期待されるはずであった BAB がなぜ延
岡田先生の 2 つ目のご質問につきましては、私
長されなかったのかということです。実は市場に
は財政学の専門家ではありませんので、後ほど持
はまだまだ神経質な部分があるわけですし、先ほ
田先生に代わりにお答え頂きたいと思います。
ど申しましたように、これから年末にかけてまた
次に香月様の 2 つ目のご質問ですが、モノライ
何が起こるか分からないという状況の中ですの
ンが破綻した後の地方債市場への影響というこ
で、なぜ延長されなかったのかということをレビ
とで、どのように調達していったのかということ
ューしておくのが、必要な作業ではないかと思っ
です。実はこの点につきましては、先ほど岡田先
ております。
生からお話もありましたように、(これが好まし
2 点目ですが、モノラインが破綻した時に、も
いかどうかというものはもちろんあるかもしれ
うこれでアメリカの地方債市場は終わるといっ
ませんが)まず歳出削減を実施したということが
た論調も目立ったのですが、実際には懸念されて
あります。その次に必要な資金の調達をいかに行
いたほどの混乱はなく、現在に至っています。こ
ったのかということです。歳出削減の結果が調達
の背景は一体何だったのでしょうか。私のような
金額の減少にも表れているということを現地の
市場関係者がこのようなことを稲生先生にお伺
インタビュー先では強調していました。
いすること自体が、少しおかしいという気がする
つまり、モノラインがない以上、エンハンスメ
のですが、この際ですから、ぜひ先生にご意見を
ントはもうなされないということになりますし、
お伺いしたいと思っております。
長期債も難しいので、一時的に VRDO や私募債
のようなものに頼ったということがあります。し
報告者リプライ
〇稲生
かし、それはあくまでも一時的なものであって、
まず、カリフォルニア州のように現在で
長期化していきたいというこの流れ自体は変わ
も財政の混乱が残っており、あれだけ議論された
っているわけではありません。
292
4
フォーラム
そうすると、結果的に必要な資金を最小限に抑
ただ、2 つの点で注意しなければいけないと思
えていくしかありません。したがって、歳出削減
います。1 つは、確かに州政府は窮屈な財政運用
しかないというところから、つじつまを合わせる
をしていますが、その税収に着目してみますと、
ことによって、最終的には格付けに影響を及ぼす
景気に振られやすいという性質を持っています。
ような資金不足は起きずに済んだというような
カリフォルニア州の場合、州の GDP が 2%減少
ことでして、そういう意味では、何とか綱渡りを
したのに対して、税収が 19%も減少しました。
しながら資金繰りや地方債の発行を続けている
こういう形で、景気の過熱を税収が冷やし、景気
ということかと思います。
の落ち込んだ時には可処分所得の落ち込みを税
ただ、幸いなことに、有名なホイットニーさん
で調整するという自動安定化機能を備えとして
の話があった時は一時的にショックが走りまし
持っている。
て、2011 年の当初に金利が一時的に上がったり、
それからもう 1 つ、再分配機能が州の均衡予算
あるいはマーケットが荒れた時期もあったりし
ルールによって非常に毀損されているのではな
たようです。しかし、その後の色々な財政支出の
いかというご指摘だったかと思います。確かに、
調整の中でそれほどの混乱もなく、調達も次第に
カリフォルニア州の場合は住民投票にかけなけ
安定していったということが言われております。
ればいけませんので、新規に恒久的な増税をやる
何よりも、民間企業に比べて公共セクターは基
ということは相当難しい仕組みになっています。
本的に倒産しにくいという背景もあります。そう
そうした中で憲法で規定された均衡予算を守る
いう意味で、マーケットにモノラインがなくなっ
ためには、基本的には歳出カットしかありません。
たことで、地方債セクターから一斉に金を引き上
しかし、何でもカットしているかというとそう
げたわけではなくて、州・地方政府のやりくりを
いうわけではなくて、歳出の 40%については教
じっくりと見ながら、付き合えるものについては、
育に優先的に充当して、次に地方債の元利償還に
モノライン、保険なしで資金を出していくことに
充当するということをやっていますので、歳出カ
より、徐々に安定を取り戻していったと私自身は
ットと言っても、実際に行われるのは地方政府に
理解をしているところでございます。
対する補助金ということになります。この州政府
の行動というのは、自分のところの再分配は一応
補足コメント
〇持田
まず優先的に返済しますが、赤字を傘下の市町村
それでは、同じ調査に参加した者として
に付け回すという形で副作用があるのではない
私の方から、岡田先生の一点目のご質問、それか
かと思います。
ら香月様の二点目のご質問について、若干の補足
それから、香月様の 2 番目のご質問ですが、こ
をさせていただきます。
こでスタンダード&プアーズで聞いた話を紹介
確かに、アメリカの州政府、特にカリフォルニ
させていただきます。そこのアナリストによりま
ア州政府が、自らの憲法で縛りを掛けることによ
すと、2008 年以前にモノラインが付いていたの
ってやや窮屈な財政運営を行っている面はあろ
は、カリフォルニア州の場合 80%でしたが、現
うかと思います。ご存じのように、オバマ政権に
在はゼロということです。他の州では、先ほど稲
なりまして、2008 年から 2011 年の間、アメリカ
生先生からご紹介がありましたように、ボンドバ
復興・再投資法によって大恐慌以来の大規模な景
ンクを作って、それで信用補完をやっているとこ
気刺激策を実施しました。ところが、統計を見て
ろもありますが、カリフォルニア州の場合には、
みますと、この間の政府投資はプラスマイナスで
基本的に地方政府は自分の足で立って下さいと
ゼロになっています。これは何よりも、連邦政府
いうスタンスをとっています。ですから、州政府
でアクセルを踏んだ分、州政府がブレーキをかけ
としては、学校区以外については責任を感じてい
ているということで、安定化政策が事実上キャン
ないという状態です。
セルされているからです。
しかし、それにもかかわらず、地方債市場への
293
4
フォーラム
影響が比較的軽微だった理由として、スタンダー
ことが示されていますが、こちらは何か理由があ
ド&プアーズのアナリストは 2 つの点を挙げて
るのでしょうか。右側のグラフを見ますと、平均
おります。1 つは、やはり金利が全般的に相当低
残存年数が下がっていまして、長期債が出せない
くなっているために、自治体が地方債を発行でき
状況にあったのではないかと思うのですが、これ
ないということはないということです。それから
はどのように理解すればよいのでしょうか。それ
もう 1 つの理由ですが、確かにモノラインがない
から、20 ページのグラフで、レベニュー債の比
と、全てが同じトリプルAだというわけにはいき
率が下がっていることが示されていますが、この
ません。しかし、だからといって投資家が、ビバ
理由についても教えていただければありがたく
リーヒルズとバレホ市のどこが違うかが分から
存じます。
ないということはありません。つまり、モノライ
○稲生
ンがなくても、投資家はそれなりに発行体のクレ
基本的に、できるだけ長期化していきたいという
ジットについてかなり勉強していまして、差別化
動きがあるという話を、先ほど申し上げました。
することは十分可能だとおっしゃっていました。
そういう意味で、比率自体は増えています。しか
〇小西
ちょうど 1 年ぐらい前にニューヨーク
し、20 年物や 30 年物をいきなりたくさん出せる
に伺って、その時の方が今よりもまだ少し状況が
かという問題が、実はあります。そこで、先ほど
良かったのかもしれませんが、アメリカの Muni
議論になっていたモノラインの関係などもあり、
Bond のことを市場関係者に色々と伺う機会があ
自分で思うような長期物をたくさん出せるかと
りました。証券会社のアナリストとモノラインの
いうと、そういう状況でもありません。ですから、
ことについてお話ししていた時に、多分ジョーク
比較的年限が中期のラインのところから、長期債
でしょうが、彼らが「こんなのはゾンビの生命保
化しているような動きがあるということを、いろ
険なんだ」と言うのです。要するに、死なないこ
いろなところで言われているようです。したがっ
とが分かっていながら生命保険を掛けていると
て、長期債自体の構成比としては増えているけれ
いうことです。ですので、「もともとこんなのは
ども、年限としてはむしろ短くなっているという
地方債が破綻しないということが前提だったん
ことです。
一つ目のご質問ですが、現在、発行体は
だ」というわけです。ですから、持田先生もおっ
二つ目のご質問ですが、レベニュー債の活用が
しゃいましたが、地方債の健全性というのは、モ
減少しているのは、現在はやはり、税源全体で起
ノラインがなくても常識として一定程度備わっ
債をしていくような状況になっています。これが
ているのであって、モノラインがあって信用が維
レベニュー債ですと、保険を掛けて保証するパタ
持されているということでは決してないという
ーンが通常ですので、これが使えないような状況
ことだと思います。
ですと、結局 GO でないと投資家も取りにくいと
ころがあるということではないかと、私は理解し
質疑応答
○質問者
ております。そのために、レベニュー債の比率が
ご報告資料の 8 ページの左側のグラ
少し下がっているのだろうと思います。
フで、2012 年に長期債の比率が急上昇している
294
4 フォーラム
第 17 回
4.7.3
「北欧モデル」から考える地方の資金調達の在り方-スウェーデン・
デンマーク調査報告
日時
2013 年 5 月 28 日(火)
16 時 00 分~18 時 30 分
報告者
江夏あかね
(株式会社野村資本市場研究所研究部
主任研究員)
三宅裕樹
(京都大学大学院経済学研究科
博士後期課程)
討論者
緒方俊則
(地方公共団体金融機構地方支援部長兼総括主任研究員)
小西砂千夫
(関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授)
第一報告
次のページですが、デンマークという国につい
「北欧モデル」とデンマークの基礎知識
〇江夏
て見ていきます。デンマークは、人口は約 560 万
私からはデンマークについてご紹介さ
人、GDP は約 3,100 億米ドルと、人口、GDP と
せていただきます。最初に、「北欧モデル」の意
もに日本の約 19 分の 1 という比較的規模の小さ
味やデンマークの基礎的な情報の確認をさせて
い国です。ただ、この国はトリプルAの格付けを
いただいた上で、私どもが訪問いたしましたコペ
取得するなど高い信用力を誇っています。背景と
ンハーゲン市とデンマーク地方金融公庫の地方
いたしましては、まず、人口 1 人当たりの GDP
財政の仕組みや運営、地方債について分析し、最
が約 5 万 6,000 ドルで、日本が約 4 万 7,000 ド
後に今日のフォーラムのタイトルにもなってお
ルですから、大変富のある国だということがお分
ります、「北欧モデル」から考える地方の資金調
かりいただけると思います。また、財政上非常に
達のあり方ということでまとめさせていただき
健全な状態だということです。ソブリン分析にお
たいと思います。
いては典型的に、財政収支(対 GDP 比)や政府
まず 3 ページ目をお開き下さい。
「北欧モデル」
債務(対 GDP 比)に着目するわけですが、財政
ということで、明確な定義はないのですが、一般
赤字(対 GDP 比)は比較的小さい規模でとどま
論としてよく言われるのは高水準の課税とそれ
っていますし、政府債務(対 GDP 比)も、日本
に基づく社会サービスの提供といった特徴が挙
は 200%を超えるのではないかとも言われてい
げられます。また、北欧モデルの地方自治の特徴
ますが、デンマークの場合、40%台で推移してお
としては、地方自治が強調されているということ、
り、大変健全な財政状況が維持されております。
地方財政において地方税が非常に重要な役割に
デンマークの信用力上の弱みとしては、国の規模
なっているということ、福祉国家として地方公共
が非常に小さいこともあり、基本的には海外から
団体がその主体を担っているということ、そして
資金を調達しなければならない構造になってい
地方の政治と行政の一体的な協力体制が確立し
るため、金融セクターで対外借入ニーズが高いと
ていること、等が先行研究で指摘されております。
いうことと、家計債務の規模が比較的大きいこと
295
4
フォーラム
が挙げられます。日本では、約 1,200 兆円の家計
もう 1 つご留意いただきたい点ですが、北欧諸
金融資産が経常収支の黒字に大きく貢献してい
国は各国の状況が割と異なる傾向があるのです
るとも言われていますが、デンマークの場合、高
が、デンマークは 1980 年代前半に他の国に先駆
福祉国家で国民の将来に対する不安が比較的大
けて金融の自由化が始まりました。この点が何故
きくないこともあるせいか、貯蓄率がかなり低い
重要かということは後にご紹介させていただき
状況となっております。地方公共団体を含めた公
ます。
的セクター以外に、比較的大きな借入ニーズがわ
地方自治に関してですが、2007 年には「デン
りとあるというのがこの国の特徴だと思います。
マーク版道州制改革」が実地され、地方公共団体
5 ページ目をお開き下さい。デンマークの戦後
が 5 つのレジオン(州)と 98 のコムーネに再編
の歴史について、経済・政治、地方自治・地方財
されました。再編の目的は、住民の生活により近
政関連の出来事を基にまとめております。デンマ
い行政単位であるコムーネの権限移譲を進める
ークは戦後、福祉国家の実現ということで 1960
とともに、福祉社会への発展及び質の高い福祉サ
年代は比較的安定した状況を謳歌しておりまし
ービスを住民に提供することでした。また、もと
た。しかし、1970 年代に入り北欧諸国の経済状
もと人口がそれほど大きくない国である以上、規
況が悪化する中で、デンマークにおいても、当時
模が小さい地方公共団体が多かったために、再編
は石油などの資源を多く輸入していたためにオ
を通じて平均 5.5 万人ほどの人口を 1 つの地方
イルショックの影響を大きく受け、物価高騰や失
公共団体の規模とし、スケールメリットを享受す
業率の上昇、財政赤字、経常赤字という複数の問
るためというのも背景の 1 つでした。さらに、重
題に直面しました。しかし、このような出来事を
複している行政分野を整理し、効率・質の向上と
契機に、デンマーク国民は、福祉の良い面と悪い
いうことも再編の背景として挙げられます。
面を認識していったとされております。一方、同
現在、地方公共団体の中ではレジオンとコムー
時期には、地方公共団体で大きな改革がありまし
ネという 2 層制の構造となっておりますが、日本
た。1970 年、19 世紀初頭から 1,300 以上あった
も都道府県、市町村という 2 層制になっておりま
地方公共団体が、14 のアムト(県)と 275 のコ
す。業務分担や財政の特徴について見ると、実は
ムーネ(市)に再編されました。
日本とデンマークの状況は大きく異なっていま
他方、デンマークは、1973 年に欧州共同体(EC)
す。レジオンは、広域的な行政ニーズを担うとい
に加盟したということがあります。デンマークは
った面は都道府県と共通しておりますが、レジオ
現在でもデンマーク・クローネという自国通貨を
ンは日本の都道府県とは異なり課税権を有して
維持しています。EC には加盟したのですが、ユ
いないという特徴がございます。一方、基礎自治
ーロ参加に関しては否決をしております。当時の
体であるコムーネは、福祉や子育て支援に関して
分析によると、ユーロ参加で福祉の面を維持する
は住民に身近な行政を担っており、歳入では地方
ことが困難になるのではないかという国民の不
税が中心の構造になっています。コムーネとレジ
安や、ユーロの相場が当時下落をしていたため、
オンでは歳入の構造が大きく異なり、歳入の主体
デンマーク・クローネという通貨を維持すべきと
はコムーネが地方税、レジオンが包括補助金とな
いう考えが主流だったことが否決の背景として
っております。
あるようです。ただし、デンマークは、1982 年
デンマーク地方財政の仕組み
から当時の欧州通貨単位(ECU)に連動させるペ
ッグ制を導入しました。また、1999 年にユーロ
続いて 7 ページ目、デンマークの地方財政の仕
が導入された際にも、デンマークは欧州為替相場
組みをご紹介させていただきます。まず、国の関
メカニズム(ERM2)の参加国として、ユーロと
与についてですが、基本的には内務保健省の管轄
のぺッグ制を維持しているという状況になって
下にあります。特徴的なのは予算プロセスで、中
います。
央政府が採択した包括的経済政策に基本的に沿
296
4
フォーラム
って財政運営していくことが義務付けられてお
な規制の背景となっているそうです。一方、デン
り、毎年予算を組成する際に、翌年度の地方公共
マークの地方公共団体の場合、ほぼすべての公営
団体の予算の枠組みを国と地方が協議を行い決
企業と住宅供給公社のローンに対して債務保証
定する予算協調制度といった仕組みが導入され
を付与することができることになっています。日
ています。この中では、歳出規模や税率、一般財
本の地方公共団体の場合、原則として債務保証は
源の包括補助金の規模などが議論されており、国
禁止されていますが、地方三公社の中で地方道路
と地方が協調して財政運営をしているというこ
公社と土地開発公社に対しては債務保証を行う
とがお分かりいただけると思います。財政調整の
ことが可能となっています。
仕組みですが、デンマークは日本と同じように国
もう一つ、現在のデンマークの地方公共団体の
から地方への財政移転ということで垂直的な仕
長期債務残高は、2012 年末時点で 976 億デンマ
組みとして包括補助金がありますが、日本とは異
ーク・クローネ(約 1.7 兆円)ですが、日本の地
なる仕組みとして、コムーネ間で財政状況の均て
方公共団体の債務が公営企業分を合わせて約
ん化を図るという水平的な仕組みとして平衡交
228 兆円(2013 年度末見込み)ということを踏
付金というものが導入されています。
まえますと、日本の約 0.7%ほどと小さい規模に
次に地方公共団体の借入の仕組みについて 8
なっています。それから、デンマークの場合、地
ページ目をお開きください。これも日本と似てい
方公共団体の長期債務残高の規模は、名目 GDP
るところと違うところがあります。日本も、基本
の 5.4%程度ですが、日本の地方債務の場合、
的には地方財政法第 5 条を通じて地方債の充当
2011 年度の統計で 46.9%ですので、デンマーク
目的について規定されていますが、このような建
の地方債務残高(対 GDP 比)もかなり低いとい
設公債主義というのは、基本的にはデンマークで
うことが分かります。ちなみに、この GDP に対
も採用されております。デンマークの場合は、厳
する地方の債務残高の規模ですが、2011 年の場
格に適債基準が決められています。現在では、高
合、英国やフランス、イタリアの平均は 8.9%ほ
齢者住宅や省エネ対策等特定目的に限定して借
どで、OECD 加盟国平均が 7.0%でしたので、日
入を起こすことができるようになっています。借
本の地方債務残高(対 GDP 比)がいかに高い水
入限度額に関しては、基本的には毎年の予算協調
準にあるかということが浮き彫りになります。そ
制度の中で合意を通じて確認されるものになっ
れから、デンマークの地方公共団体は債務不履行
ています。地方の借入に関し、日本の場合、外貨
(デフォルト)の仕組みがありません。債務再編
地方債の一部で明示的な保証が付与されている
や支払い停止が認められないという判決も過去
ものはありますが、ほとんどの地方債には保証が
に存在しているとのことです。もう一つ、ソルベ
付与されておりません。デンマークの地方債につ
ンシーの維持のため、365 日平均でネットベース
いても、中央政府による明示的な保証の仕組みは
の金融資産をプラスの水準で維持することや、四
ありません。
半期ベースでの財務報告が義務づけられている
また、最近の仕組みとしてご紹介したいのが、
為替リスクを回避するため、2011 年以降の借入
という規制があります。以上、デンマークの基礎
的な情報をご紹介させていただきました。
に関しては、デンマーク・クローネもしくはユー
コペンハーゲン市の財政運営
ロ建て以外では禁止されているという点です。特
にヨーロッパで金融危機時に、地方公共団体が為
続いてコペンハーゲン市についてご紹介いた
替リスクに晒された結果、大きな損失を抱えるこ
します。国の経済の中心を担うデンマークの首都
とになり、投資銀行を訴える事例があったと思い
で人口はデンマークの 1 割強に当たる約 70 万人、
ますが、デンマークでも、スイスフランで借入を
今でも若年層を中心に人口が増加しています。コ
していた団体が為替リスクに伴い損失を出した
ペンハーゲン都市圏(グレーター・コペンハーゲ
ということがあったとのことで、これがこのよう
ン)では約 120 万人と、人口の大体 5 分の 1 以
297
4
フォーラム
上が集積をしています。こちらの財政状況です。
ンハーゲン市が折半出資し、連帯債務となってい
予算の内訳をご覧いただけますでしょうか。日本
るとのことです。
の地方公共団体の場合、基本的には現金主義、単
デンマーク地方金融公庫
式簿記に基づき予算を示していますが、コペンハ
ーゲン市の場合は現金主義のほか発生主義でも
デンマークの地方共同調達機関であるデンマ
財政管理をしているとのことです。歳入において
ーク地方金融公庫をご紹介いたします。19 世紀
は、地方債という項目が上がっておりませんが、
末に設立された大変古い協同組合で、内務保健省
例えば地方公共団体全体の 2010 年決算では、地
の監督下にあります。デンマークでは、1880 年
方債は歳入の僅か 2.4%しか占めていなかったと
代に酪農組合から農業協同組合が誕生しました。
のことです。この 2.4%という数字がどういう意
酪農組合の場合、協同運営を通じたスケールメリ
味を持つのかということですが、日本の平成 25
ットが期待されて設立されたわけですが、そのよ
年度の地方財政計画の中では、地方債が歳入全体
うなモデルがデンマークでは根付いており、デン
の 13.6%を占めていることと比較しますと、デ
マーク地方金融公庫も協同組合という形式で始
ンマークにおいて地方債が歳入に占める割合が
まりました。デンマーク地方金融公庫は、協同組
非常に小さいということがお分かりいただける
合で金融機関ではないため、欧州連合(EU)の金
と思います。その他の特徴として、コムーネにお
融規制の対象外で、これは比較的重要な点です。
いては、地方所得税が主体ですが、コペンハーゲ
2011 年冬、ノルウェー輸出金融公社の格付けが
ン市の歳入では固定資産税も比較的潤沢といっ
大きく引き下げられたことは、記憶に新しいと思
たことが挙げられます。
います。格下げの要因の一つとしてノルウェー輸
続いて 12 ページをお開きいただけますでしょ
出金融公社は従来、オイルメジャーなど大口の貸
うか。コペンハーゲン市の債務状況をご紹介いた
出先を有していましたが、EU の資本要求指令
します。資金調達に関しては、かつては債券発行
(CRD)の中の与信集中規制等の適用免除が撤
もしていたとのことですが、現在は証書形式(ロ
廃され、金融機関として取り扱われるようになっ
ーン)のみで調達をしています。左側の図の借入
たことで、既存のビジネス・モデルでは運営が困
残高ですが、90 年代初頭は人口流出が多く港湾
難になったことが挙げられます。一方、デンマー
開発を行なっていたため借入が多かったのです
ク地方金融公庫は、金融機関ではなく、協同組合
が、町の整備に伴い人口集積が進み、財政健全化
であったため、そのような金融機関向けの規制の
に取り組むにつれて借入規模が縮小していきま
対象外であったという状況です。
法人税に関しては、1980 年代から他の民間と
した。右側の図は債務残高ですが、将来にわたっ
て徐々に縮小していくことが見通されています。
同じような税率で課税対象になっています。メン
債務を占める大きいものは地下鉄や土地開発公
バーはデンマークの地方公共団体に限定されて
社ですが、土地開発公社の固定利付借入の一部を
います。加盟は任意ですが、現時点ではすべての
コペンハーゲン市が負担していたのですが、借入
地方公共団体が加盟をしており、加盟地方公共団
条件がコペンハーゲン市の財政運営にとって負
体はすべてのデンマーク地方金融公庫の債務に
担が重いということで、
これを 2007 年に返済し、
対して連帯責任を負っているということになっ
後からご紹介しますデンマーク地方金融公庫の
ています。業務目的は、加盟地方公共団体に対し
協力によって変動利付債務に借換えたというこ
てコスト効率の高い資金調達を確保することで
とがあります。これを通じて、コペンハーゲン市
す。貸出先は、日本の地方公共団体金融機構の場
の金利負担は低下し、金利リスクのバランスも図
合は、地方公共団体のみを対象としておりますが、
られたとのことです。連結ベースで土地開発公社
デンマーク地方金融公庫は、加盟地方公共団体に
のほかに地下鉄の分の債務が今後増えていくと
加えて、地方公共団体が全額債務保証した公営企
推計されておりますが、地下鉄の債務は国とコペ
業等の外郭団体を対象にしています。貸出の他に、
298
4
フォーラム
ファイナンス・リースやデリバティブというサー
方金融公庫のマーケットシェアが挙げられます。
ビスも加盟地方公共団体に対して提供していま
デンマーク地方金融公庫をめぐっては、1980 年
す。デンマーク地方金融公庫は、地方公共団体の
代頃には 20%から 30%台であったシェアが急増
負債管理等に関するアドバイザリー業務も実施
し、現在では約 95%とほぼシェアを独占してい
しています。個別の借入へ無償で、または要請に
ます。残りの 5%は中央政府が融資をしていると
基づき有償で財務アドバイス等を実施するとい
のことです。マーケットシェアが急激に拡大した
う方法で包括的なサービスを提供しています。
背景としては、1970~80 年代にデンマーク経済
16 ページ目、財務状況ですが、比較的潤沢に
は厳しい状況にさらされたため、デンマーク・ク
準備金が積み上がっており、配当の仕組みはない
ローネ建ての貸出金利が一時的に 20%に達する
ため全部内部留保することができます。2012 年
ようなこともありました。地方公共団体によって
の Tier1 ソルベンシー比率は 56%と大変高い水
は当時、ドイツマルクで調達をするようなケース
準です。流動性に関しては、いくつかの地方金融
もあったということで、デンマーク地方金融公庫
公社で見られるような中央銀行へのファンディ
のシェアは低迷していたのです。しかし、1980 年
ング・アクセスはデンマーク地方金融公庫の場合
代前半から始まった金融自由化に伴い、それまで
ございませんが、貸出のためにプレファンドとい
は伝統的な条件であったローンの条件を多様化
うことで、貸出の少し前に借入を一定範囲内で行
させ提供サービスも拡充させていきます。デンマ
うことが法律上認められています。リスク管理体
ーク地方金融公庫は、民間金融機関とは異なり高
制は厳格に管理をしており、通貨や金利リスクの
水準の格付けを有しているため、低金利の調達が
エクスポージャーは事実上ゼロだと伺いました。
可能であったうえ、配当の仕組みがないことも功
17 ページ目、資金調達状況ですが、基本的な
を奏し、地方公共団体へ魅力的な金利水準の貸出
資金調達戦略はベンチマーク債や他市場におけ
を提供することが可能となりました。さらに 90
る公募、私募債、コマーシャル・ペーパー(CP)
年代前半、金融自由化が北欧で浸透し、モーゲー
などですが、金融危機以降の傾向として流動性を
ジ等で貸出競争が熾烈になりました。90 年代前
意識し、私募より公募が選好されるようになりベ
半は、一時的に、金融機関の貸出残高が GDP を
ンチマーク債への需要が高いという状況になっ
超えてしまうような状況にもなり、厳しい金融環
ています。また、米ドルの起債が増えてきたとい
境になりました。デンマークでは、金融危機が連
うことが挙げられます。もちろんベーシス・スワ
鎖するような状態は阻止できたのですが、90 年
ップの環境で米ドルの起債が有利という話もあ
代初頭というのはデンマークの民間金融機関に
るようですが、米国市場では、金融危機を通じて
とっても厳しい時代だったということがありま
ファニーメイやフレディマックといった政府支
す。ですから、民間金融機関は、信用力の水準に
援機関(GSE)が実質的に公的管理下に入り、高
準じて資金調達コストもかかるため、より利回り
クレジットの銘柄が資産クラスから剥落したと
の高い融資を求めることになる上、民間市場でモ
いうことがあるので、デンマーク地方金融公庫を
ーゲージ等の分野で厳しい競争を克服しなけれ
はじめとした多くの公的機関や国際金融機関等
ばいけなかった状況と考えられます。その意味で、
が米ドル市場を目指して起債をしているという
デンマーク地方金融公庫が低リスク・低リターン
傾向にあります。デュレーションに関しては、金
である地方公共団体向けに貸出しを行っている
融危機以前は 15 年や 20 年という非常に長い資
というのは、ビジネス・モデルが異なる民間金融
金調達ができたのですが、現在は 5 年や 3 年と
機関からすると、あまり妙味がないということで、
いう短いデュレーションが選好されるようにな
自然に住み分けがされていったのではないかと
ったとのことです。
みられます。
18 ページ目、貸出状況をご紹介いたします。
最後に、
「
『北欧モデル』から考える地方の資金
本日のお話の中で重要な点として、デンマーク地
調達の在り方」についてですが、これまで見てき
299
4
フォーラム
たなかで日本との共通点もいくつかあるという
て差別化に関しては、地方公共団体向けの専門金
ことを認識できたと思います。例えば、地方債制
融機関として、地方公共団体のニーズに即したサ
度の仕組みと国の関与という点での建設公債主
ービスを、有償、無償のものを含めて提供してき
義に基づく借入の厳格化、そして間接金融主体と
たというところです。デンマーク地方金融公庫の
いう金融市場です。米国では直接金融が進んでい
場合、『競争の戦略』で挙げられた 3 つの基本戦
るわけですが、大陸ヨーロッパは基本的に間接金
略にも下支えされ、競争に勝ったのだろうと思い
融主体ですから借入が基本的には主軸になって
ます。
おります。日本も基本的には間接金融が現在でも
ただし、マーケットシェアを多く獲得すること
中心ですが、最近では地方分権や財政投融資改革
がビジネス・モデルとして成功なのかと言うと、
の流れを通じて市場公募化が進展してきていま
普遍的に見てそれは必ずしも成功とは言えない
す。なお、デンマークに関しては、デンマーク地
と思います。日本の場合、地方公共団体は、財政
方金融公庫の貸出の中で 95%がローン形式、債
融資資金、地方公共団体金融機構資金、銀行等引
券発行は 5%程ということでほとんどが借入と
受資金、市場公募資金という 4 つの区分から円滑
いう状況になっています。もう一つ日本との共通
に資金調達を行うことが可能です。地方公共団体
点としては、長らく根付いた地方公共団体への公
金融機構資金のシェアは、2013 年度地方債計画
的金融の仕組みということで、日本でも財政投融
上では 14%ですが、デンマーク地方金融公庫の
資の仕組みや公営企業金融公庫(現在の地方公共
市場シェアである 95%を目指せばよいかという
団体金融機構)があるように、欧州諸国では地方
と、個人的にはそうは思っておりません。ただし、
公共団体向けの公的金融の仕組みが 100 年以上
デンマーク地方金融公庫から学べることの一つ
根付いているケースも散見されます。デンマーク
は、長い歴史に下支えされた強固な業務・財務基
においても 1899 年に協同組合として設立された
盤・ノウハウの蓄積に加えて、地方公共団体のニ
デンマーク地方金融公庫が中核的な役割を担っ
ーズや外部環境の変化に迅速に柔軟に対応でき
てきました。
たことであり、日本の地方公共団体金融機構に対
デンマークの事例から考える地方の資金調達
する良い教訓になるのではないかと思っていま
のあり方についてですが、日本の地方の資金調達
す。私の発表は以上でございます。ご清聴ありが
の仕組みは大変良くできていると思いますが、デ
とうございました。
ンマークで画期的だったのは 1970~80 年代に国
の経済が厳しい中でも資金提供してきた結果、デ
第二報告
ンマーク地方金融公庫の役割が大きく拡大した
調査出張の概要
ということが言えると思います。なお、マイケル・
〇三宅
私からは、スウェーデンに関しご報告さ
ポーターの『競争の戦略』では、集中、コストリ
せていただきたいと思います。まず初めに、2013
ーダーシップ及び差別化の三つの基本戦略を実
年 3 月、1 週間にわたる北欧の調査出張という非
行することがビジネス上の競争に勝ち抜く上で
常に貴重な機会を頂戴いたしましたことを深く
重要だと言われていますが、この三つのポイント
感謝申し上げます。本日は、できる限りその内容
にデンマーク地方金融公庫のモデルを適用する
をこの場でご報告させていただければと思って
と当てはまっていることが分かります。まず集中
おります。
に関しては、従来から加盟団体である地方公共団
今回、スウェーデンとデンマークの 2 カ国を訪
体のみを対象にし、海外や他のセクターに対象を
問いたしましたが、私の理解では、大きな目的の
拡大せず集中してきたこと。コストリーダーシッ
一つはこの 2 カ国の地方債制度、市場がどういっ
プに関しては、高格付け、配当のないビジネス・
た特徴を持っているのかという一般的な情報の
モデル、資金調達多様化等を通じた有利な資金調
収集。もう一つは、2008 年のリーマン・ショッ
達を背景とした低位で安定した資金の提供。そし
ク以降のグローバル金融危機が、この 2 カ国の地
300
4
フォーラム
方債市場に影響を与えたのか、与えたとすればそ
財政状況の推移ですが、歳入の内訳を示した棒グ
れによってどのような変化が起きたのかという
ラフは非常にきれいな増加基調をたどっており、
ことについてのインタビュー。この二つであった
年を隠すとどこが金融危機なのか分からないほ
と理解しております。
どです。折れ線グラフは財政収支ですが、年の変
スウェーデンで、3 つの訪問先にインタビュー
動はありますが金融危機後に下がったというわ
させていただきました。一つはコミュンインベス
けでは必ずしもなく、また金融危機前後で一貫し
トという、先ほど江夏様からお話がございました
て黒字を維持しています(報告資料 p4)。
コミュネレジットに相当するスウェーデンの組
こういったことを見てくると、スウェーデンの
織で、地方自治体が出資をして地方債を共同発行
地方自治体に金融危機の影響はあったのかとい
するために作られている組織です。現在は、スウ
うことが疑問として生じます。こういうことをど
ェーデン最大の地方債の保有主体となっていま
う理解すればいいのかということをインタビュ
す。二つ目は SALAR という、スウェーデンのい
ーを通じて知りたいと考えていました。結論を申
わゆる地方自治体協会に当たる組織です。三つ目
しますと、私の印象からすると、今回の金融危機
は首都ストックホルム市です。この三つの機関に
はスウェーデンの地方債市場にはほとんど影響
それぞれインタビューさせていただきました(報
はなかったと考えてよいのではないかと思って
告資料 p2)。
います。それがなぜなのかという観点から、以下
スウェーデンは北欧最大の国ということで知
ご報告させていただきます。
られています。先ほど江夏様からご紹介がありま
グローバル金融危機とスウェーデン
したデンマークと比較しますと、経済規模・人口
グローバル金融危機がスウェーデンの地方債
規模で大体 2 倍ほどの規模感でイメージしてい
市場に与えた影響を考える前に、まずは今回の金
ただければよいかと思います(報告資料 p3)。
個人的に今回のインタビュー調査において一
融危機がスウェーデンの経済全体・金融市場全体
番関心があったのは二つ目の調査目的、つまりグ
にどのような影響を与えたのかということを確
ローバル金融危機の影響がスウェーデンの地方
認していきます。
債市場にあったのかどうかということです。4 ペ
2007 年のサブプライム・ローン問題から始ま
ージの左側はスウェーデンの地方債市場の保有
った今回の一連の危機は、大きく三つの段階に分
者構造の推移を金融危機前後で見たものです。ご
けることができると思います。一つ目は、流動性
覧いただきますと、民間の商業銀行が市場シェア
危機と呼ばれる状況です。リーマン・ショックが
を落としたのに対して、地方自治体の共同発行機
発生し、金融市場でパニックが起きてしまった結
関であるコミュンインベストが市場シェアを上
果、金融機関や投資家が一斉に金融市場から資金
げていることが見て取れます。この図の一つの理
を引き揚げてしまい、それによって金融機関、投
解としては、今回の金融危機がスウェーデンの金
資家の運用に悪影響を与え投売りを余儀なくさ
融機関に非常に大きな影響を与えて、地方債市場
れ、またそれが混乱をさらに深めるということが
から撤退せざるをえなかった。しかし、そうはい
起こった段階です。この第 1 段階に関しては、ス
っても地方自治体は借入が必要だということで、
ウェーデンも少なからず影響を受けたと言って
そのバックアップとして公的機関であるコミュ
よいと思います。6 ページの左側が銀行間金利の
ンインベストが支えたのだという一つの解釈が
対政策金利スプレッドの推移を見たものですが、
成り立ちえます。そういった理解に立つと、スウ
2007 年前半まではほぼ 0bp で推移していたもの
ェーデンの地方債市場は今回の金融危機から非
が、サブプライム・ローン問題が懸念され始める
常に影響を受けたという理解も成り立ちうるわ
と開き始め、それが一気に引き上がったのがリー
けです。一方で同じページの右側、これはスウェ
マン・ショックの時期だったということがご確認
ーデンの市町村に当たる自治体のコミューンの
いただけると思います。スウェーデンの金融市場
301
4
フォーラム
では、国内系のユニバーサル・バンクが圧倒的な
経済が急速に悪化したもののそれが一時的にと
シェアを占めており、銀行が中心の金融市場です。
どまったということが一つの重要な要因かと思
スウェーデンの大手金融機関は 2000 年代に入り、
います。8 ページの左の図は実質 GDP 成長率の
融資主体として国外への進出や、資金調達先とし
推移ですが、2008 年にマイナスに陥り 2009 年
てもスウェーデン国外から資金を調達する割合
にはマイナス 5%と急激に悪化したということ
を増やしていました。それがこの右側の図で示し
がご確認いただけるかと思いますが、この急速な
ているものです。国内系の金融機関が、このよう
落ち込みはあくまでも輸出の急激な落ち込みに
なかたちで国外との金融取引を積極化させてい
起因するものであって、スウェーデン国内の家計
たことが、流動性危機の段階を免れえなかった主
の消費や投資という国内の要因に関しては安定
要因の一つとして挙げられるのではないかと思
していた状況にありました。国内基盤がしっかり
います(報告資料 p6)
。
していたからこそ、翌 2010 年には急激な回復を
一連の金融危機で、第 1 段階が流動性危機とす
遂げているわけです。実体経済で深刻な状況が長
れば、第 2 段階が銀行危機と言える状況かと思い
続きしなかったため、スウェーデンの金融機関が
ます。つまり、市場がパニックに陥った混乱があ
抱えているローン債権の多くが貸倒れてしまう
る程度落ち着くと、次第に住宅ローン市場のバブ
ことが避けられたと思います。実際、先ほどご覧
ルが崩壊してしまったことを受けて、金融機関が
いただいた 7 ページで、今回の金融危機のところ
持っている住宅ローン債権が不良化してしまう、
で少し膨らんでいる貸倒れ損失についても、これ
あるいは保有していた証券化商品が格下げされ
はスウェーデン国内での貸倒れということでは
デフォルトしたりして、証券化商品の評価損・実
なく、スウェーデンの金融機関が 2000 年代から
現損で損失を抱えてしまう、これによって、金融
積極的に進出していた東ヨーロッパの新興諸国
機関の財務状態の悪化が表面化し、対応に追われ
での貸倒れが出てきたというのが主因で、必ずし
る段階です。あるいは、実体経済が悪化してしま
も国内の要因ではありませんでした(報告資料
った結果、事業会社などへの融資が貸倒れになっ
p8)。
てしまい、金融機関、投資家が不良債権を抱えて
その結果、不良債権が多額に発生する事態を免
しまう。それによって自己資本が棄損し不足して
れたため、スウェーデンの金融機関は現時点でも
しまう状況に陥った段階です。これを私は銀行危
健全性を維持しています。9 ページの左側は、欧
機と呼びたいと思いますが、この第 2 段階の銀行
州の大手金融機関の自己資本比率のランキング
危機については、スウェーデンは大きな影響を受
です。青色で示しているのがスウェーデン国内大
けなかったと基本的に考えてよいと思います。
手 4 行ですが、総じて上位に位置しているという
7 ページの左側は、スウェーデンの金融機関、
ことは明らかです。トップの UBS はスイスの金
銀行の貸倒れ損失の推移をみたものです。ご案内
融機関ですが、これは公的資金の注入を受けたか
の通り 90 年代初めに北欧金融危機があり、スウ
らこれだけの水準になっており、そういう意味で
ェーデンにおいても住宅バブルが崩壊した結果、
はスウェーデンの金融機関は、自力でこれだけ高
不良債権を大量に抱え込んだ金融機関が倒産し
い水準を達成し、上位を占めています。ですから
ていく状況が起きました。そういった時期と比較
一連のグローバル金融危機の第 2 段階では、スウ
すると、確かに今回の金融危機を受けて貸倒れ損
ェーデンは全体としては少なくともそれほど深
失は膨らんでいるわけですが、90 年代に比べて
刻な状況にはならなかったと捉えてよいのでは
事業規模そのものは非常に大きくなっているに
ないかと思います(報告資料 p9)。
も関わらず貸倒れ損失は圧倒的に少ない水準だ
流動性危機、銀行危機と続いて第 3 段階は、ソ
ったということがご確認いただけるかと思いま
ブリン危機です。2010 年のギリシャ問題に端を
す(報告資料 p7)。
発して、特に欧州の先進諸国の財政問題が懸念さ
なぜなのかというと、スウェーデン国内の実体
れる事態が発生しました。その結果、国債の金利
302
4
フォーラム
が跳ね上がり、政府が債務の返済や新たな資金調
は改善に向かっていますか?」という問いには
達に苦しんだことは皆さまもご記憶が新しいか
「改善に向かってます」と、
「翌年 2010 年は大丈
と思います。この段階についても、スウェーデン
夫ですか?」という問いには「大丈夫です」と答
はほとんど深刻な状況には至らなかったと言っ
えていらっしゃるわけです。これは、先ほど見て
てよいのだろうと思います。金融機関がそれほど
きたことと概ね一致するかと思います。つまり、
深刻な状況に陥りませんでしたので公的資金を
確かに流動性危機の段階はスウェーデン全体と
大量に注入する必要はありませんでした。また、
して影響があり、それは地方債市場も免れなかっ
実体経済も一時的に悪化しましたが長続きする
たわけですが、銀行危機の段階、さらにはソブリ
ことはなかったため、景気対策・財政出動の必要
ン危機の段階に関してはスウェーデン全体が影
もそれほどありませんでした。スウェーデンの政
響を受けていない。その中で、地方債市場におい
府としても税収の落込みや歳出の急激な膨らみ
ても概ね影響がなかったということを表わして
ということもそれほど起きなかったので、政府の
いる、という理解でよいかと思います。実際、今
債務残高の対 GDP 比の推移を見ても、一貫した
回のインタビュー調査でも、
「2008 年以降の金融
減少傾向が基本的には続いているということが
危機の影響はありましたか?」という質問をそれ
見て取れるわけです。以上で、非常にざっくりし
ぞれの訪問先にしましたが、私の印象としてはほ
たかたちで、スウェーデン経済・金融市場全体に
とんどなかった、という感じでした。確かにリー
グローバル金融危機の影響があったのかどうか
マン・ショックから 5 年近く、ギリシャ問題から
ということについて見てまいりました(報告資料
も 3 年ほどと相当に時間は経っていると言える
p10)。
わけですが、その点を割引いても、金融危機の影
響はそれほどなかったという先方のお答えは、素
地方債市場への影響
直に受け取っていいのではないかと理解してい
次に、今回のテーマである地方債市場に関して
ます(報告資料 p12)。
見ていきたいと思います。12 ページですが、こ
では、そのような理解に立つと、冒頭申し上げ
れは欧州地方自治体協会が欧州各国の地方自治
た金融危機前後におけるスウェーデンの地方債
体協会にアンケート調査を行った結果を、スウェ
市場の保有者構造の変化をどう考えればいいの
ーデンの地方自治体協会の回答部分について抜
かということが改めて問題になってきます。つま
粋したものです。左側はリーマン・ショック直後
り、スウェーデンの金融機関はほとんど金融危機
の時期と言える 2009 年 3 月に実施したもので、
の影響を受けていないにも関わらず市場シェア
右側はそれから半年後、2009 年 8 月に行われた
を落とし、その一方でコミュンインベストは上が
ものです。後者は、流動性危機の一時のパニック
っています。これが金融危機の影響でないとする
が大方収まって、銀行危機という段階が懸念され
ならばどう理解すればいいのかということを次
ていた時期と言ってよいかと思います。
に考える必要があります。そういったことを考え
左側の回答をみると、やはり流動性危機の段階
るために、コミュンインベストの組織について少
においては、スウェーデンの地方債市場において
し丁寧にみていきたいと思います。
も深刻な影響があったということが読み取れま
す。左側の上にあるように、
「2008 年秋のリーマ
民間金融機関と対等な条件で競争する
ン・ショック後、コミューンの中には金融機関か
コミュンインベスト
らの融資を断られ投資事業を一時的に中断せざ
13 ページ左側は、コミュンインベストの組織
るを得ないところもあり、債券形式での地方債の
図を示したものです。コミュンインベストは債券
発行が不可能になってしまった」ということを答
を発行して国内外の金融市場から資金を調達し
えていらっしゃいます。ただ、それから半年経つ
ます。調達したお金をスウェーデン国内の地方自
と答えが大きく変わり、「一連の金融危機の影響
治体、および地方自治体が債務保証を提供してい
303
4
フォーラム
る地方公営企業に融資するという役割を担って
ミュンインベストとは経済的な関係が何もあり
います。
ません。なぜかと言いますと、コミュンインベス
ただし、スウェーデンの地方自治体であればコ
トからお金を借りても意味がないからというこ
ミュンインベストからお金を借りられるのかと
とで、そんなことをしなくても自分たち単独で地
いうと、決してそういうわけではありません。各
方債を発行して十分に魅力的な条件を引き付け
団体は、コミュンインベストからお金を借りよう
ることができるからだということをおっしゃっ
とする際、コミュンインベストのグループの加盟
いました。そして今のところ、今後も基本的に入
団体になることが求められます。加盟団体は大き
るつもりはないとのことでした。
く二つの責任を引き受けることになり、一つはコ
もっとも、共同発行の仕組みの場合にはモラル・
ミュンインベストに親会社を通じて出資をする
ハザードの問題があり、大規模団体は入りたがら
こと。もう一つはコミュンインベストの債務の連
ず中小の団体が入りたくなるということも言わ
帯保証の責任を引き受けること。この二つのコス
れるわけですが、第 2 の団体であるヨーテボリ市
ト負担を引き受けるのであれば、このグループの
は加盟団体になっていることなどからも、大規模
加盟団体となりコミュンインベストからお金を
団体だから加盟することは全くないということ
借りる権利を得ることができます。この判断は各
でも決してありません。いずれにせよ申し上げた
団体が自由に自律的に行うことができます。これ
いことは、国や地方自治体との関係で見てもコミ
に関して明示的・暗黙的な強制はないため、各団
ュンインベストは特別な優遇を受けているわけ
体はコミュンインベストからお金を借りること
ではなく、民間の金融機関と同等の競争条件にあ
が得か損かという経済合理的観点から判断して、
り、その中で頑張っている機関なのだという点が
コミュンインベストへの出資・連帯保証の責任を
ポイントだということです。
引き受けるかどうかを判断しています(報告資料
このことを違う角度からみれば、地方自治体と
p13)。
の関係が、評価し評価される関係だと言えると思
ですから、地方自治体の共同出資機関と言って
います。今申し上げたことをコミュンインベスト
も、地方自治体との関係は、非常にドライな関係
の立場からすると、自分は決して国から支援を受
と特徴づけられるかと思います。言い換えれば、
けているわけでもないし自治体からも優遇措置
コミュンインベストは民間の金融機関とほとん
を受けているわけでもない。だから地方債市場に
ど変わりない組織だと言ってよいだろうと思い
おいて民間の金融機関と同じ競争条件で地方自
ます。国との関係ということで申し上げれば、国
治体からの評価を獲得しなくてはいけない。毎回
から出資や債務保証、補助金の拠出を受けている
の地方債の発行においては入札が行われ、民間の
わけではありませんし、民間金融機関と同じ規制
金融機関と同じように参加しなければいけない。
のもとに置かれています。監督官庁も総務省など
その中で選ばれればコミュンインベストはお金
ではなく金融監督庁ですし、法人税も支払ってい
を貸すことができるし、選ばれなければ民間の金
ます。よって、中央政府から特別待遇を受けてい
融機関が選ばれてしまう、ということになってし
るというわけではないと言っていいと思います。
まうわけです。コミュンインベストとしては、当
地方自治体との関係についても先ほど申し上げ
然事業規模を拡大し市場シェアを獲得すること
ましたとおり、地方自治体はそれぞれ、自分にと
によって自分たちの立場を確立し拡大していき
って「借りたいな」「得だな」と思えば加盟団体
たいということを念頭に置いています。ですから
になって出資・連帯保証の責任を引き受けるし、
地方自治体から評価されると必死になって頑張
「借りても意味がない」と思えば出資をしないと
っているという意味では、地方自治体から評価さ
いう判断をしているわけです。
れる立場なわけです。
今回のインタビュー先の一つでありましたス
一方で、地方自治体を評価する立場でもありま
トックホルム市は依然として加盟しておらず、コ
す。市場原理に則ったマーケット・ドミナントな
304
4
フォーラム
運営を行っているということを、コミュンインベ
トの基本的な特徴として私が特に重要だと考え
ストの方は繰り返しインタビュー調査でおっし
ていることを三つご説明します。
ゃっていました。どういうことかというと、自分
一つ目は、国外の資本市場から資金を調達しや
たちは民間の金融機関と全く同じく市場原理に
すい仕組みになっているということです。銀行は
則って運営しているのだということです。つまり、
預金を通じた資金調達が中心になるわけですが、
ある団体が財政状態の悪化に苦しんでいるから
これだと地理的に遠いところからの資金調達は
といって、通常よりも低い金利で融資をしたり通
なかなか難しくコストが高くつきます。それに対
常よりも多額の資金を貸付けるようなサポート
してコミュンインベストはノンバンクですので、
をする組織では全くないのだということです。で
社債を発行して資金調達します。債券の発行は、
すから、地方債市場の最後の貸手というわけでは
少なくとも預金に比べれば国外からの資金調達
決してなく、コミュンインベスト単独として各地
に関しては強みを持っていると考えられます。実
方自治体の財政状態をきちんとチェックし、貸倒
際コミュンインベストの資金調達先を見ても、確
れのリスクはないということをきちんと確認し
かに国内の資金調達も増加しつつありますが、大
てから融資を行っています。そういう意味で自治
陸欧州やアメリカ、オーストラリア、そして何よ
体とは、評価し評価されるというとてもドライな
りも日本からの資金調達を積極的に行っていま
関係にあると言ってよいのだろうと思います(報
す。こういうかたちで資金調達を行っているため、
告資料 p14)。
調達先に関して一番有利な条件のところを選ぶ
このようなことを踏まえて、先ほどの市場シェ
ことがより容易にできる点に強みを持っている
アの推移を改めて見ますと、実は金融危機以前か
というのが一つの大きな強みとして挙げられる
らコミュンインベストは一貫して市場シェアを
と思います。
伸ばしているということが重要なのだと思いま
より重要なのは二つ目と三つ目です。二つ目は、
す。コミュンインベストが現在のような形態で運
コミュンインベストが事業の効率化を思う存分
営されたのは 1993 年以降で、15 ページの図は
進めることができる仕組みだということです。一
95 年から地方債市場の状況を見たものですが、
般的に金融機関が事業を効率化させる場合の一
金融危機に関係なく一貫して市場シェアを伸ば
つの重要な方法は、事業規模の拡大です。規模・
しているということがご確認いただけるかと思
範囲の経済性を追求する。あるいは融資先や資金
います。確かに、市場シェアが大きく上がった時
調達先を分散化させ、リスク分散を追求する。こ
期がありますが、これは金融危機後ではなく直前
れは、事業規模を拡大することによってより効果
の 2000 年代前半であり、金融危機だから市場シ
を高めることができるわけです。しかし、いわゆ
ェアが急激に伸びたというわけではありません。
る政府系金融機関ということになれば、事業規模
また、国内銀行の市場シェアの低下も決して金融
を拡大する際に起きてくるのが民業圧迫という
危機の後に起きたわけではなく、90 年代末から
批判です。優遇措置を受けている機関が事業規模
一貫した傾向になっているわけです。これは、コ
を拡大すれば金融市場にゆがみが生じるのでよ
ミュンインベストが金融危機に関係なく一貫し
ろしくないということです。しかしながら、スウ
て地方自治体から高い評価を得続けているとい
ェーデンにおいてコミュンインベストは先ほど
うことを示している、と理解できるのではないか
も見たように、4 割という非常に大きな市場シェ
と思います(報告資料 p15)。
アを占め、銀行を駆逐していますが、それに対し
て民業圧迫という批判を私が知る限りは聞いた
コミュンインベストの強み
ことがありません。それは、確かに自治体が出資
では、なぜそれだけコミュンインベストは地方
をしているという意味ではコミュンインベスト
債市場において強いのかを改めて考える必要が
は政府系金融機関ではありますが、何度も申し上
あるだろうと思います。次に、コミュンインベス
げました通り、国からも自治体からも特別な優遇
305
4
フォーラム
措置を受けているわけではありません。ですから
なぜ起きているのかといった時には、以上の三つ
民間の金融機関と基本的には同じなわけです。と
が重要なポイントなのではないかと私自身は考
すると、この市場シェアの増加は健全な競争の結
えています(報告資料 p16)。
果、地方自治体からコミュンインベストが選ばれ
最後に、本日のタイトルは「『北欧モデル』か
たと理解でき、別に「ずるい」という話ではない
ら考える」となっていますが、このコミュンイン
ので事業規模を制約するという話にはならない
ベストの仕組みは北欧モデルかどうかというこ
のです。そうすると、地方自治体からの評価を得
とです。確かにスウェーデンの仕組みとしては極
た上で事業規模を拡大し効率化を実現し、それが
めて重要な仕組み、特徴を有した機関だと認識し
さらに自治体からの評価を高め、さらに市場シェ
ております。ただ、先ほど江夏様からご報告があ
アを高めることができる。そういう好循環を彼ら
りましたデンマークと比べても、特に地方債制度
は追求し、少なくとも今のところそれが成功して
に関しては相当に違いがあります。また、ノルウ
いるというのが、二つ目のポイントではなかろう
ェーの KBN、フィンランドの Muni Fin という組
かと思います。
織があり、別の機会にインタビューをさせて頂き
三つ目のポイントは、地方自治体のための金融
ましたが、これらはコミュンインベストとは相当
サービスの提供が使命づけられた機関だという
に違うという印象を受けました。実際の制度設計
ことです。当然民間の金融機関もお客さまのため
も、自治体の 100%出資なのか、国が作っている
と言うわけですが、一方で、融資先である顧客と
機関なのか、その混合形態なのか、この点だけを
金融機関の株主の利害のバランスをどのように
見ても全然違います。ですので、本日お話しさせ
取るかということが民間の金融機関の場合には
ていただきましたコミュンインベストという組
重要になります。これに対しコミュンインベスト
織は、あくまでもスウェーデンの特徴なのだとい
の場合には、お客さまである融資先として地方自
うことでご理解いただければと考えている次第
治体がいます。そして、その地方自治体からの利
です。私からは以上です(報告資料 p17)。
払いなどの手数料収入を得て、そこからの利益を
討論
配当として株主に還元しています。ここまでは民
間の金融機関と同じですが、コミュンインベスト
の実質的な株主は同時にお客様・顧客である地方
自治体なわけです。そのため、お客さまである地
方自治体から、短期的な視点で手数料を多く取り、
出資者への配当をより増やして株価を高めると
いう動機付けが働かない仕組みになっています。
コミュンインベストとしては、相互会社という組
織形態になっている以上、地方自治体の利益に反
するような行動を取りにくい仕組みになってい
るわけです。これは言い換えれば、地方自治体の
ために金融サービスを提供するということが使
〇緒方
命づけられた制度設計になっているということ
スウェーデン、デンマークの調査に参加をさせて
で、地方自治体からすると安心してコミュンイン
いただきました。調査対象機関、調査事項につき
ベストの言うことを信用できるのです。これがさ
ましては討論資料に書いているとおりです。私は
らにコミュンインベストの評価を高めることに
地方公共団体金融機構に勤務をしていることも
つながっているのではないかと考えられるわけ
あり、とりわけスウェーデンのコミュンインベス
です。コミュンインベストは経営課題も抱えてい
ト、そしてデンマーク地方金融公庫につきまして
ますが、少なくとも市場シェアの一貫した増加が
は、以前からよく名前を聞いておりました。今回
306
今回、フォーラム運営委員の 1 人として
4
フォーラム
実際に現地に行き、関係機関の幹部の方々と交流
ます。また、このようなアドバイスを実施するこ
し、お話を直接お伺いする大変貴重な機会となり
とにより、自治体の健全な財務状況の維持につな
ました。
がり、ひいてはコミュンインベスト自体の事業リ
この二つの機関については既にご紹介があっ
スクの管理にもなるという狙いもあるというこ
たとおりですが、コミュンインベストは 1986 年
とです。
に設立されました。エレブロという一つの地域の
デンマーク地方金融公庫については、上記三つ
10 の自治体が集まり設立し、周辺の自治体から
のサービスは無償で提供しているのですが、この
も加入要請があり拡大していきました。現在は全
他に有償サービスとして、自治体への定期的なア
自治体の約 9 割が利用するまでに拡大し、地方債
ドバイスや重要情報の提供を行っています。この
市場のシェアは約 40%という状況です。一方、
有償サービスは市町村の約 3 割が利用していま
デンマーク地方金融公庫は 100 年以上の歴史を
す。
持つ機関で、現在では全自治体が利用し、地方債
このような業務を通じた特徴を三つまとめま
市場においても 90%を超える圧倒的なシェアを
した。一つ目は、地方自治体の立場に立った中立
持っています。
的なアドバイスを実施し、融資業務とは独立して
これらの機関は、融資業務のほかに対自治体向
いるという特徴です。二つ目ですが、地方自治体
けのサービスとして財務アドバイザリー業務も
の業務内容と経済金融市場情勢の双方に通じた
展開しています。一昨年、私ども機構では、本日
専門家を組織の中に抱え、このような専門家がア
の報告者であります三宅様のご協力をいただき、
ドバイスを提供しています。三つ目として、自ら
北欧 4 カ国における地方自治体向け財務アドバ
提供できるサービス範囲を超える部分について
イザリー業務の調査を実施しました。これまでの
は外部専門家と連携し、地方自治体を包括的に支
報告の中にもありましたが、北欧 4 カ国には自治
援しています。当機構におきましても自治体向け
体向けの資金を融資する機関があります。形態は
の財務アドバイザリー業務(これは地方支援業務
違いますが、いずれの機関でも融資業務と併せて
と呼んでおります)に取り組み始めて現在 4 年目
自治体の財務アドバイザリー業務を展開してい
を迎え、北欧諸国機関の取組につきましては引き
ます。共通した背景には、1990 年代頃から金融
続き情報収集、情報交換を進め参考にしていきた
商品や資金管理手法の多様化・複雑化が進み、そ
いと考えています。
れぞれの国の自治体において専門的で自治体の
最後に、発表者へご質問をさせていただきたい
立場も理解したアドバイスへのニーズが高まっ
と思います。今回の調査で訪問しましたストック
てきたということがあります。
ホルム市とコペンハーゲン市は、いずれも強い経
具体的な業務内容は 4 機関とも類似性はあり
済力と高い信用力を持った自治体ですが、この 2
ますが、ここでは今回の調査対象であったコミュ
都市のインタビューは対象的でした。デンマーク
ンインベストとデンマーク地方金融公庫を挙げ
のコペンハーゲン市でデンマーク地方金融公庫
ます。共通した業務内容として一つ目は、地方自
に対する評価を聞きますと、低利で資金調達がで
治体の借入分野に対する中立的な個別アドバイ
き非常に役に立つ組織だというお話でしたが、ス
ス、二つ目は借入分析などをすることができる便
トックホルム市にコミュンインベストの話を聞
利なウェブサイトツールの提供、三つ目はニュー
きますと、利用しておらず当面利用する予定もな
ズレターを通じた経済金融情報の提供です。こう
いというお話でした。
いった業務の他に、コミュンインベストについて
このような状況をもとに三宅様へお尋ねしま
は自治体職員向けの出前講座や調査研究の実施
す。コミュンインベスト自体は規模の拡大を大き
も一部見られ、サービスは無償で提供しています。
な目標にしているというお話がありました。そう
このようなサービスは、新しい融資先を開拓して
であるとすればゆくゆくはストックホルム市の
いく観点で呼び水的な効果を狙って行われてい
加盟も視野に入れて取組を進めていくのではな
307
4
フォーラム
いかと思いますが、そのためにはストックホルム
ことが要因の一つとして非常に有効であり、民間
市のような資金調達力が高い自治体でも加盟し
の銀行だけに調達が偏っていれば、当然影響はあ
たくなるような条件の提供が必要ではないかと
ったということになるわけですから、危機管理の
思います。こういう観点で、今後の見通しについ
仕組みとして共同調達機関というのは機能する
て情報やご知見をお持ちであればご教示願えれ
と思ったところであります。
ばと思います。
それから、デンマークとスウェーデンそれぞれ
また、江夏様へお尋ねします。デンマーク地方
で聞き取りをする中で、共同調達機関から見て自
金融公庫は、コミュンインベストと比べ圧倒的に
治体が安全な貸付先かどうかという議論におい
自治体からの利用があるという状況がございま
て、建設公債主義というのが出てくるわけです。
す。民間金融機関との住み分けがあるのではない
これが非常に重要だと思うのですが、私がニュー
かという話がありましたが、コペンハーゲン市に
ヨークでそのことをお話しした時には、バックド
つきましては信用力も非常に高いということで
アの借入があるからそんなのは駄目だと言われ
すので、住み分けがあるにせよ、やはりデンマー
ました。そうすると、同じ建設公債主義でもバッ
ク地方金融公庫は対自治体向けに条件のいい融
クドアボローイングがあるかどうかというのは
資を提供できているのではないかとも思われま
非常に大きいわけですが、それは基本的にないと
す。もしそうだとすれば、コミュンインベストと
いうご説明をデンマーク、スウェーデンでは伺っ
の対比で、デンマーク地方金融公庫には一定の強
ていて、これも非常に大きいところではないかと
みがあるということになると思いますが、こうい
思うわけです。
った観点で何かお気づきになる点があれば、教え
それと非常に重要なのですが、そもそもそんな
ていただきたいと思います。
に借りているわけではないというところで、マー
ケットとして巨大市場ではないんです。建設公債
〇小西
今日のお二方のご報告を、側面から補強
主義ですから要は日本で言う投資的経費です。投
するという観点でお話しさせていただきます。実
資的経費に対して借りているわけですが、これが
は偶然、別件で 4 月にブリュッセルの状況を調査
どんどん出ているという感じでもない。そうする
する機会があり、そこでフランスに少し足を伸ば
と、地方債マーケットというのは非常にユニーク
してバンク・ポスタールと CDC という、地方債
な存在で手堅いビジネスモデルなわけです。規模
の引受けをしている機関で調査をする機会を作
はそんなに大きくなくて手堅く儲けていただく
り、今日のこととの関係について調査をしてまい
にはいいマーケットですけど、これから大きく伸
りました。そのことをご報告いたしまして、側面
びていくというマーケットではないという感じ
から今日のお二人のご報告を補強するという役
を受けています。そういう雰囲気の中で共同調達
割とさせていただきたいと思います。
機関というのがうまくはまっているという印象
まず、デンマークとスウェーデンのご報告の中
ではないかと思うわけです。
で一番大事なところをもう一度復習しておこう
一方、フランスですが、2 カ所で聞いた際に、
と思います。共同調達機関ということは間違いな
デクシアが 4 割ほど地方の資金調達を担ってい
いのですが、デンマークとスウェーデンは形態が
たということを言っていました。もちろんそのデ
全然違うんです。2 国以外にも、いわゆるノルデ
クシアは破たんしてしまって、加えて、外国の金
ィックカントリーというのは他にもありますが
融機関がどんどん撤退してフランス国内の銀行
違うところへ行けば全然違うんです。制度は歴史
もすごく減ったということですので、資金の出し
的に形成されているところがあるので全然違う
手がデクシアがいなくなるにもかかわらず、代わ
というところはとても面白い。一方で、ヨーロッ
りの金融機関がいないので、これはもう明らかに
パ債務危機が地方債市場に与える影響を相当回
フランスはかなり影響を受けたんです。
避できているのは、共同調達機関があったという
そのデクシアなき後、どう対応するかというこ
308
4
フォーラム
とで、今はバンク・ポスタルと CDC です。CDC
発行がまとまるような風土がないと言われるわ
のほうが老舗でバンク・ポスタルはつい最近始め
けです。
ました。民間の金融機関の場合は、短期で調達し
ですから今日は、ノルディックモデルは多様で、
長期で貸付するとすれば、市場が不安定になると
これはノルディックモデルと言えるのかどうか
スワップが難しくなるので、そこが非常に大きい
とおっしゃったんですけど、フランスまで行って
わけですが、そこで CDC がようやくその肩代わ
「やっぱり言えるんじゃないかな」と思ったのは、
りをして、地方公営企業への融資を拡大する方向
信頼感です。デンマークで「もともとやっぱり農
らしいのです。それと、デクシアに代わる新たな
業国なので連帯するんです」というお話がありま
公的金融機関というのを作ってそこが資金調達
した。
をするそうですから、フランスは共同発行機関で
日本では発行ロットが大きいので、市場公募債、
はなく、財政投融資の代わりのようなものを急ご
財投、銀行貸付、共同発行債、もちろん機構もあ
しらえで作るように対応したということであり
り、何種類も全部あるわけですね。発行ロットが
ます。
小さければ、どこかで収まるということではない
CDC というのは、そもそも預金の一部を強制
かと思います。共同発行機関は、基本的には市場
的に供託するような仕組みになっているので、財
ルールに基づいているというのは、日本でも同じ
政投融資に匹敵するようなものだと考えればい
ことではないかというふうに思います。こういう
いと思います。そこでの聞き取りの中で、フラン
ふうに考えてみると、フランスも日本も含めて、
スの自治体は破綻しないことが前提だというこ
背景の違いにそれぞれ制度の違いが微妙に対応
とを聞いてきまして、やっぱり建設公債主義とい
しているということではないのかというふうに
うのが出てくるんです。そこでバックドアボロー
印象を持ったということであります。以上です。
イングはどうなのかと聞きましたら、「フランス
報告者リプライ
ではルールはあるけれども、フランスのルールに
は必ず例外があるんです」と言われるわけです。
○江夏
私のほうからは、緒方様からいただきま
「でもこの件に関しては、私は一度も聞いたこと
したデンマーク地方金融公庫の強みというとこ
がない」と、しゃれた言われ方をされました。建
ろで、若干補足をさせていただければと思います。
設公債主義を厳格に守っているということで、破
コペンハーゲン市に訪問させていただいた際に
綻しない実感があるという答えが返ってきたの
印象的だったのが、コペンハーゲン市がデンマー
で、やっぱり同じだなというふうに思いました。
ク地方金融公庫に対して感謝をしているという
人件費の考え方が日本と異なるということも
ようなスタンスだったことです。特に債務負担の
あります。フランスでは、自治体の支払いの中で、
ところで、開発公社の固定利付債務を変動債務に
1 に人件費、2 に公債費は絶対削れないと言われ
借換えする際に協力してもらったという点が大
ました。「フランスでは人件費のほうが先に来る
きいとみられます。デンマーク地方金融公庫がそ
のか」とわざわざ聞いたんですけど、「そうだ」
のようなきめ細かなサービスができたので、コペ
と言われました。建設公債主義である以上、公債
ンハーゲン市という大きな地方公共団体のコミ
費が優先的でそこが滞るということはないとい
ットメントをきちんといただけたのだろうとい
うわけです。
うことです。
それから財政状況は、事前に財政悪化を防止し
実は、コペンハーゲン市はかつて格付けを取得
ようという国に関する仕組みがあります。共同発
していたのですが、2009 年に取り下げていたこ
行はどうなのかというと、自治体間で連帯感が十
とがわかりました。コペンハーゲン市はかつて債
分ないからそもそも共同発行は馴染まないとい
券でも資金調達をしていたとのことですが、デン
うんです。連帯保証も難しい。それで、いわゆる
マーク地方金融公庫から借りることが財政運営
共同調達機関も、文化的・政治的にそもそも共同
上適しているので、格付けは取り下げて、対デン
309
4
フォーラム
マーク地方金融公庫で借入を実施するというの
取り組みをしているのかというと、それはなかな
がコペンハーゲン市の財政運営の中に根付いた
か難しいというのが、お答えになろうかと思いま
のだろうと察したとのことです。
す。共同発行という話になった時に、どうしても
もう一つ印象的だった話ですが、デンマーク地
大規模団体はあまり参加したがらなくて、中小の
方金融公庫に「どうして 95%ものシェアを取る
団体は積極的に参加したい、あるいは、財政状態
ことができたのですか?」という点でお伺いをし
が健全なところは参加したがらないけれど、財政
たところ、地方公共団体が民間金融機関ともやり
状態が厳しいところは参加したがる、こういった
取りを行うことがあるとご教示いただきました。
モラル・ハザードが起こるということが一般論と
しかし、実際は条件が合わず、「デンマーク地方
して指摘されています。ただ、少なくとも理論的
金融公庫のほうに行ってください」というふうに
に考えた時には必ずしもそういうことが常に起
言われるということがほとんどとのことです。先
こるというわけではないということも、併せて留
ほど三宅様のご発表で、民業圧迫のようなお話は
意する必要があります。
聞いたことがないとの御指摘があり、私もハッと
例えば一般の銀行をイメージしていただくと、
したのですが、確かにデンマークについて調べて
銀行というのは大企業にも融資をしていますし、
いても、そういうことは出てこないわけです。で
中小企業にも融資をしています。経営が絶好調だ
すから、理論的には競争相手でもあるのですが、
というところにも融資していれば、そうでもない
少なくともデンマークに関してはもう住み分け
ところにも融資をしている。しかし、これは見方
ができているということで、民間金融機関がデン
を変えれば、様々な事業会社が銀行を通じ、家計
マーク地方金融公庫を競争相手としても見てい
などから預金という形で共同の資金調達を行っ
ないということの裏返しだろうと感じました。以
ているわけです。それに対してモラル・ハザード
上でございます。
が起きるという事態、あるいはそうした批判は起
○三宅
こらないわけです。なぜこれが可能になっている
ストックホルム市とコミュンインベス
トの関係ということでご質問いただきましたが、
かというと、銀行が各融資先にお金を貸す時の貸
端的に言えば、コミュンインベストはストックホ
付条件に格差を設定することができるからです。
ルム市に入ってほしい、逆にストックホルム市は
その端的な例が金利の格差で、それによって融資
コミュンインベストに入る気はさらさらない、そ
先のリスク管理を行うのです。利用条件に格差を
ういうふうな関係です。
設定することによって、いろんな融資先に資金を
ストックホルム市はなぜなのかというと、少な
貸し付け、それぞれの先にとって魅力的な金融機
くとも現状では自分でなんとでもなるからだと
関になろうということを、金融機関は通常行って
いうことであります。ではコミュンインベストの
います。
立場から見た時にどうなのかというと、彼らが発
では、デンマーク地方金融公庫も含めてコミュ
表する資料などでも、今後の事業計画、事業目標
ンインベストがそれをできるのかと言われると、
という中で、すべての団体がゆくゆくは加盟団体、
これが難しいわけです。実際には、融資額につい
つまりコミュンインベストのグループのメンバ
てはそれなりの格差を設定するということはや
ーになってほしいということを目標として常に
っておりますが、金利格差の設定については、コ
掲げています。それは言い換えれば、ストックホ
ミュンインベストでは市場原理に則った運営を
ルム市にも当然入って欲しいということです。理
心掛けていると強調しておられましたが、やっぱ
由は、彼らの事業規模が拡大でき、それによって
りそれでも難しい。ですので、基本的には格差を
さらに効率化を進めることができ、地方債市場に
設定しないという方針を維持せざるを得ないの
おけるプレゼンスが高まるからだという考えが
です。
あるわけです。
つまり、コミュンインベストがいくら財政規模
では、具体的にコミュンインベストはどういう
も大きく財政状態がよいストックホルム市に入
310
4
フォーラム
ってほしいと言っても、民間金融機関であれば低
はかなり距離を置いてコミュンインベストは運
い金利を設定するということで柔軟に対応でき
営されていると、私自身は理解しております。ス
るわけですが、それがコミュンインベストには難
ウェーデンの地方債の発行の仕組みを見ても、ほ
しい。これが、ストックホルム市がコミュンイン
かの諸国と比べても、相当に起債自主権が幅広く
ベストのグループに加盟することの一番の障害
認められています。ですので、地方債を発行する
になっています。また、これを克服するのは少な
方法については国がバックアップしているわけ
くとも政治的に大変難しい。これが、コミュンイ
でもありませんし、法律やルールを作っているわ
ンベストがストックホルム市に振られ続けてい
けでも決してなく、地方自治体が自由に好きなよ
る、一番の要因としてあるんだろうというふうに
うに発行することができているわけであります。
思います。以上でございます。
その中で自然発生的に出てきた一つの工夫がコ
ミュンインベストなのです。ですので、例えばデ
質疑応答
ンマークのように地方自治体の予算編成と密接
○質問者 1 江夏様には、デンマーク地方金融公
にリンクしていたり、国と地方との協議の場が毎
庫と自治体との関係における、95%の圧倒的なシ
年設けられているというようなことがスウェー
ェアの中でのドライな側面としての個別融資相
デンにはないですし、当然そういう制度の中にコ
手先との関係について、三宅様には、スウェーデ
ミュンインベストが位置付けられているわけで
ンの地方財政制度の中でのコミュンインベスト
はありません。ということで、冒頭に申し上げま
の存在はどういう位置づけなのかという、2 点を
したように地方財政の運営とコミュンインベス
お聞きしたいと思います。
トというのは、相当の距離感があり、それがスウ
○江夏
ェーデンの特徴かなというふうに理解しており
デンマークの地方公共団体とデンマー
ク地方金融公庫がドライな関係かウェットな関
ます。以上でございます。
係かということで、今回の調査は、デンマークの
○質問者 2 三宅様の資料 15 ページは非常に興
地方公共団体についてはコペンハーゲン市とい
味深いグラフだと思いますが、この事情というの
う代表的な地方公共団体のみでしたので、仮に規
は、いわゆる BIS 規制が大きく効いてきているよ
模の異なる地方公共団体へ伺っていれば違った
うな側面はあるのかどうかということと、仮に
ことを感じていたかもしれないと思っておりま
BIS 規制が影響している場合、金融機関であれば
す。ただ、私どもの調査で感じたことというのは、
貸出の期間を短くしないといけない一方で、地方
ドライ、ウェットというより別の関係だろうとい
公共団体は建設公債主義が中心となりながらも
うところです。私自身は、普段から地方公共団体
日本では公共施設の耐用年数は償還年限 30 年と
金融機構、地方公共団体とお仕事上でかかわらせ
いうことになっていますので、この場合貸し辛く
ていただいておりますが、双方がお互いについて
なるということも言えますが、その一つの結果と
お話をされるそのトーンと比較的似ていると感
してこの図にあるように民間金融機関のほうが
じました。ですから、ドライかウェットかという
落ちてコミュンインベストのほうが伸びている
よりも、一番近いところというのは日本の関係と
というようなことかと思います。貸出状況に関し
それほど変わらないのではないかという印象を
て、日本では JGB スプレッドなどがありますが、
受けたということになります。以上でございます。
スウェーデンでも対国債スプレッドの点で、長期、
○三宅
超長期あたりについてが描かれているのかどう
スウェーデンの地方財政の運営の中に
おけるコミュンインベストの位置付けというこ
か、聞かせてください。
とですが、国は地方自治体の地方債の発行を助け
○三宅
てあげるためにコミュンインベストを創設・運営
行のシェアが低下している要因についてのご質
しているわけではなく、何かの支援をしてあげて
問ですが、もちろん BIS 規制の影響がないと申し
いるわけでもなく、それゆえ地方財政の仕組みと
上げるつもりはございませんが、銀行としては基
311
スウェーデンの地方債市場における銀
4
フォーラム
本的に自治体には融資をしたいというのが、BIS
では、デンマークは家計部門の貯蓄率が高くない
規制導入後も一貫してあると言ってよいんだろ
ということなので、預貸ギャップがないから金融
うと思います。スウェーデンに関しましては、地
機関が自治体に無理に貸さなくてもいいという
方債の年限は短く 5 年以内の年限が中心になっ
ことがあるのかなと思いました。スウェーデンに
ております。もっとも、今回の金融危機を受けて
おける預貸ギャップや家計の資本蓄積はどうな
その年限は長期化が図られました。報告の中でも、
のかということについて言及いただければと思
流動性危機が地方債市場にも大きな影響を与え
います。
たと申し上げましたが、その流動性危機によって
○三宅
短期資金の調達が難しくなり、大変な状況に陥っ
ンインベストは相当に頑張っています。貸付期間
てしまったということで年限を長くしようとい
というのは、先ほども申し上げた通り 5 年ないし
う取り組みが、金融危機を経て一つの教訓として
それよりも短いぐらいの期間でやっております
行われました。
が、そもそものビジネス・モデルとして地方債市
預貸ギャップの管理については、コミュ
ですので、民間の銀行にとっても、地方自治体
場に専門・特化するというのがありますので、確
向けの融資が年限を理由にものすごく難しいと
かに 1 回きりの融資の期間という意味では短い
いうことにはなりにくいと考えられます。銀行は、
期間になりますが、基本的にはその借換えに応え
地方自治体向け融資は、安全性という意味できわ
ていくので、そういう意味で長期的にコミットし
めて有望な貸付先だと考えておりますので、BIS
ていくという関係にあろうかと思います。
規制の導入に関係なく貸したいというのがあり
彼らの資金調達での年限に関して言えば、これ
ます。でもコミュンインベストに負けてしまうと
は同じく 5 年より短いかというとそういうわけ
いうのが、この図の理解として私が現時点で理解
ではなく、長期の資金調達も彼らは行っておりま
しているところです。スプレッドに関しましては
す。では、彼らの ALM 上のリスク管理はどうな
データがございませんので、ご容赦願えれば幸い
っているのかというと、その年限のギャップは相
です。以上でございます。
当に埋められております。というのは、彼らが調
○質問者 3
達した資金を様々な金融手法、すなわちデリバテ
コミュンインベストやデンマーク
地方金融公庫の貸出シェアが伸び、貸付が差別化
ィブなどを使ってリスク回避を行っている結果、
されている要因としてはおそらく、金融機関が金
少なくとも資産と負債の平均年限はほぼ一致し
利変動リスクを取りたがらない変動金利貸出を
ています。ですので、自分たちにとって有利な資
していることと、もう一つは預貸ギャップの大き
金調達機会を考えながら、貸出は短い年限でせざ
さが影響しているのではないかと思います。日本
るを得ない、変動金利でやらざるを得ないという
の場合は預貸ギャップが大きいため、無理して自
ところのギャップは、こうしたかたちで管理して
治体など金利リスクを受けるところに貸してい
いるというふうに見ていいのではないかと思い
こうというようになっていますが、江夏様のお話
ます。
312
4
4.8
フォーラム
論点整理
第 1 回~6 回フォーラムの内容
4.8.1
2011 年 12 月 27 日発表(ニューズレター第 7 号を再掲)
天羽正継(東京大学大学院経済学研究科特任助教)
東京大学大学院経済学研究科・地方公共団体金
してよいけれども交付税措置されないというの
融機構寄付講座では、2011 年 1 月から同年 10 月
なら分かるが、届出という事後のチェックがなさ
まで 6 回のフォーラムを開催した。そこでこの小
れるに過ぎないのに、交付税措置されるというの
論では、これまでのフォーラムを振り返り、そこ
は理解しにくいので、これは「不同意債」のよう
で提示された論点について整理することで、今後
なイメージに近いと考えてよいか、という質問が
の議論への手がかりを探ることとしたい。なお、
なされた。この質問に対して満田氏は、これは元
文中で(No.○,p○)とあるのは、ニューズレタ
利償還金を地方財政計画で確保する地方債であ
ーの号数とページ数を指している。
り、不同意債ではないと回答した。そして、交付
税措置される地方債を届出だけで自由に起債さ
せてよいのかという議論もあるが、地方債計画の
地方債協議制度とその見直し
第 1 回フォーラムで満田氏が説明したように、
金額までという上限を付けているので、野放図に
2006 年度に地方債許可制度は協議制度へと改め
交付税措置されるということはないだろうと述
られた。協議制度の下では地方債の起債は原則自
べた(No.2, p10)。
また、討論者の小西氏は、許可制度の末期から、
由であり、地方公共団体が国や都道府県と協議を
行って同意が得られた場合には、財政融資資金や
地方公共団体の起債要望が認められないという
地方公共団体金融機構資金等の公的資金の充当
ことは全くなく、適債性の基準をクリアしている
が可能になるとともに、その元利償還金が地方財
かどうかだけの問題であったので、届出制になっ
政計画へ算入されるという仕組みになっている
てもそれは変わらず、事前か事後かということは
(No.2, p3)。
基本的には何の関係もないはずであると述べた。
しかし、同時に満田氏は、この協議制度の仕組
さらに、交付税措置、すなわち元利償還金を基準
みについて、必要最小限度のものとするべきであ
財政需要に算入するということと、地方財政計画
るという意見が出ており、総務省内部で見直し案
ベースで財源を手当てするということとは別の
を検討しているところであると述べた。その際の
ことであるとも述べた(No.2, p11)。
ポイントは二つあり、一つは、財政状態が良い地
この地方債協議制度の見直しについては、地方
方公共団体から国の関与の軽減を始めるべきだ
財政法の一部改正事項を含めた案(「地域の自主
ということ、もう一つは、地方債資金のうち民間
性及び自立性を高めるための改革の推進を図る
資金の方から手続きの簡素化を始めるべきだと
ための関係法律の整備に関する法律案」)が 2011
いうことである。そして、最も有力な改革案は、
年 4 月 5 日に国会に提出され、同年 8 月 26 日に
同意の手続きを廃止し、事前の届出だけで済むと
成立した。その概要について満田氏が解説を行っ
いう仕組みであるが、その場合でも、地方債計画
ているので(「地方債協議制度の一部見直し案の
に起債額を計上したり、元利償還金を翌年度以降
状況等について」
『地方債』第 381 号)、ここでは
の地方財政計画に算入するという仕組みは一切
それに拠りつつ、見直しの内容を見ておくことと
変えないとのことであった(No.2, p3)。
したい。
満田氏によれば、今回の見直し案の要点は、
(1)
これについてフロアの参加者から、自由に起債
313
4
フォーラム
財政状況が良好な団体が、
(2)民間資金債を発行
ラムにおいて相田氏は、届出に必要な実質公債費
しようとする場合は、
(3)原則として協議を不要
比率や決算数値等のデータが固まるのは夏頃に
とし、事前届出とする。というものである。
なるので、早い時期に起債できるというメリット
がどこまであるのかということについてはまだ
まず、
(2)にあるように、今回の見直しの対象
分からない、と述べた(No.6, p17)。
となるのは民間資金債、すなわち銀行等引受地方
債や市場公募地方債であり、公的資金引受による
地方債は対象とはならない。
市場公募地方債の現状と展望
次に、
(1)の「財政状況が良好な団体」とはど
第 1 回フォーラムで満田氏が説明したように、
のような団体かということであるが、具体的には、
2001 年度の財政投融資改革以降、地方債引受資
①実質公債費比率が政令で定める数値未満の地
金における政府資金の割合が低下し、民間資金、
方公共団体であって、②当該年度の地方債発行予
特に市場公募資金の割合が上昇してきた。その背
定額(協議額、届出額、許可額の合計額)が政令
景は何よりも、市場公募団体の増加である。そし
で定める額を超えない団体というものである。実
て、具体的にそれぞれの市場公募団体について見
質公債費比率は、現行の地方債協議制度において、
てみると、政府資金の減を市場公募資金の増が置
地方公共団体が協議団体になるか許可団体にな
き換えた形になっている(No.2, p4)。
るかの基準として用いられているが、①は、それ
市場公募地方債については第 5 回フォーラム
が「財政状況が良好な団体」として認められるた
でテーマとして取り上げられた。そこで相田氏は、
めの基準として用いられるということを意味し
市場公募地方債のメリットとして、大規模な額を
ている。また、②は、その地方公共団体が地方債
一度に調達できるということ、定期的に発行して
発行額を急激に増加させることなく、安定的に発
流動性を高め、市場からの評価を高めていくこと
行しているということである。
で中長期的に発行条件を改善することができる
上記の用件を満たす地方公共団体で、協議を行
ということを挙げた。他方、デメリットとしては、
わない団体は事前届出を行う。そして、届出され
発行手数料が若干割高になるということ、減債基
た地方債のうち、協議を受けたならば同意すると
金への積み立てが必要になってくるということ、
認められるものについては、元利償還金が地方財
市場環境によっては調達コストが高くなってし
政計画に算入される。すなわち、届出された地方
まうということを挙げた(No.6, p4)。
債は、協議・同意した地方債と同様に取り扱われ
市場公募地方債の発行条件の決め方として現
るのである。また、その起債予定額は地方債計画
在最も多く見られるのは、シンジケート団(以下、
にも計上されることとなっている。
シ団)方式と主幹事方式である。相田氏によれば、
ちなみに、実質公債費比率が 18%以上に該当
シ団方式のメリットは、円滑な発行・消化が可能
し、地方債の発行に際して総務大臣または都道府
になるということであり、一方そのデメリットは、
県知事の許可が必要とされる地方公共団体につ
市場実勢が十分に反映されない可能性があると
いては、その要件や手続きは現行の協議制度にお
いうことである。また、主幹事方式のメリットは、
けるものから一切変更がなく、従来通り許可制度
起債時期や発行額を機動的に設定できるという
が適用される。
意味での自由度が非常に高いということ、投資家
満田氏は、今回の見直しによって、協議が不要
との対話を通じて発行条件を決めていくことが
になった地方公共団体は事前届出だけで済むた
できるということ、主幹事の証券会社から起債の
めにその事務負担は大きく軽減され、さらに、地
手法に関する様々な提案を受けることができる
方債の発行時期を年度内で平準化させることも
ということであり、一方そのデメリットは、必ず
容易になってくると述べた。ただ、第 5 回フォー
しも提案通りの結果にならないということ、環境
314
4
フォーラム
が悪いとスプレッドが大きく開きやすいという
そして、現在のスプレッドの水準は、デフォルト・
ことである(No.6, p4~5)。
リスクを反映したレベルではなく、投資家の選好
度を反映したものであるとした(No.6, p10~11)。
当然のことながら、民間資金引受の割合が高ま
っていけば、金融市場の状況が地方債に対して大
投資家が日本の地方債にデフォルト・リスクがあ
きな影響を与えるようになってくる。それを端的
るとは考えていないが、銘柄を選択するために
に示すのが流通市場における地方債の対国債ス
様々な情報を欲しているということは、第 3 回フ
プレッドである。これについては、第 1 回フォー
ォ ー ラ ム に お い て 江 夏 氏 も 指 摘 し た ( No.4,
ラムの満田氏、第 2 回の香月氏、第 5 回の白川氏
p19~20)。
がそれぞれ言及し、夕張ショックや世界的金融危
金融市場の変動が地方債に対して与える影響
機などのショックを受けて、スプレッドが拡大す
については、第 2 回フォーラムにおいて香月氏が
る局面が過去に何度かあったことを指摘した
論じた。香月氏は、過去にロシアのルーブル切り
(No.2, p4, No.3, p2, No.6, p9)。
下げやアメリカの電力会社の破綻によって、地方
白川氏は、近年このスプレッドが縮小する傾向
債の対国債スプレッドが上昇した事実を紹介し
にあると述べた。そしてその背景には、預金金融
た。すなわち、一見すると日本の地方財政には全
機関を取り巻く運用難の状況があるという。すな
く関係のない現象が、市場メカニズムを通じて日
わち、景気の低迷から民間の資金需要が低迷し、
本の地方債に影響を与えてしまうということが
さらには金融危機の影響から金融機関が安全資
あり得るのであり、地方公共団体は市場という新
産への選好を高めたことにより、金融機関が国債
たなステークホルダーと付き合わざるを得ない
や地方債といった、安全資産である高格付けの債
状況になってきているのである(No.3, p3)。ただ、
券に資金をシフトさせていかざるを得なくなっ
第 1 回フォーラムにおいて満田氏は、少なくとも
ていったことがあるのである(No.6, p8~9)。同
この 10 年間では、市場が機能不全に陥って地方
様の指摘は第 1 回フォーラムの満田氏も行った
公共団体が資金調達できない場面はなかったと
(No.2, p10)。
述べた(No.2, p4)。
さらに白川氏は、異なる銘柄の地方債の対国債
スプレッドを比較し、それらが若干の個別性を内
銀行等引受地方債の課題
包しつつも、全体としては統一的な動きをしてい
銀行等引受地方債の場合は、金融機関、特に地
ると指摘した。そして、このようになる要因につ
方銀行との直接的な関係が重要になってくる。第
いては、次のように説明した。すなわち、投資家
2 回フォーラムではその問題について、岡田氏が
によって銘柄の好き嫌いということは当然ある
地方銀行の立場から、松木氏が地方公共団体の立
が、地方債の投資家全体では銘柄ごとの個別性や
場からそれぞれ論じた。
独自性よりも、地方債であるという共通の属性の
岡田氏は、地方銀行が指定金融機関制度の下で
方に重きを置いているからなのである(No.6,
地方公共団体と様々な取引を行っており、貸出額
p10)。
も伸びていることを指摘した。しかし、地方債の
また、白川氏は、スプレッドの水準と地方公共
クレジット(信用力)については分からない点が
団体の財政状況を示す指標との関係について、一
多いと述べた。例えば、銀行内の内部格付制度で
定の相関があるように見えつつも、必ずしもそれ
は、大規模な団体でも小規模な団体でも、あらゆ
を正確に反映していないところがあり、むしろ、
る地方公共団体が最上位に位置づけられている
その団体の財政力に対する漠然とした印象と、地
こと、公会計に基づいて最終的なリスクシナリオ
域経済のポテンシャルについてのイメージのよ
を立てることができないこと、地方債の市場価格
うなものを反映しているように見えると述べた。
が信用できないことなどである。そして、結局地
315
4
フォーラム
方銀行にとっての地方債の問題は、市場価格より
えられるのが、中央政府による支援可能性である。
も最終的にデフォルトのような問題が起きてし
第 3 回フォーラムにおいて江夏氏は、財政状況が
まうかどうかであり、さらに、今後は指定金融機
厳しい地方公共団体に対する中央政府の支援可
関制度を見直す必要があるかもしれないと述べ
能性が、日本では他国に比較して高いと述べた
た(No.3, p6~8)。
(No.4, p3)。この点は、第 4 回フォーラムにお
いて丹羽氏も同様に指摘した(No.5, p2)。
岡田氏に対しては討論者の青木氏から、これま
で地方債の市場公募化が推進される一方で、銀行
江夏氏が紹介したように、海外ではイタリアな
等引受地方債の多様化についても論じられてき
どで地方債のデフォルトが発生している(No.4,
たが、地方債をめぐるこうした直接金融と間接金
p3)。しかし、同じ第 3 回フォーラムにおいて三
融の関係をどのように考えるかという質問がな
宅氏が指摘したように、世界で地方債の債務調整
された(No.3, p12)。これに対して岡田氏は、不
制度を設けている国はアメリカだけである(連邦
安定性の連鎖が起きないように、直接金融、間接
破産法第 9 条)
。しかも、連邦破産法第 9 条は州
金融、その中間という三つの市場の間に、できる
政府には適用されず、さらに、実際に地方債がデ
だけ「壁」を作るのが金融市場全体にとって効果
フォルトすることは稀であり、地方債がデフォル
的であると回答した(No.3, p14)。
トする前に上位政府が財政支援をするというこ
ともしばしば行われている(No.4, p12)。
松木氏は、地方公共団体が融資を受ける際に金
融機関を呼び出したり、市場金利が変化している
また、江夏氏が指摘したように、実際にデフォル
にもかかわらず前年と同じ金利を要求するとい
トした場合でもその回収率は比較的高い(No.4,
った「役所の常識・世間の非常識」が存在すると
p3)。これについては討論者の持田氏が、アメリ
指摘した。また、地方公共団体の職員が資金調達
カの地方債市場にも「保障」の考え方があるので
部門に長期間在職することが通常ないため、場当
はないかという論点を提示した(No.4, p12)。結
たり的な戦略しか持てず、さらに、金融機関との
局、三宅氏が述べたように、債務調整制度や地方
交渉には経験と知識が必要であるが、職員に金融
債のデフォルトが制度的に用意されていて、投資
の知識が全くない場合があるという。そのために
家がデフォルトを意識し、それが地方債の利回り
今後は、地方公共団体が金融機関と立ち位置を一
に反映して財政規律が働くという仕組みがある
緒にして情報を共有し、金融の知識を増やしなが
国は、実は多くないのである(No.4, p15)。
しかし、第 5 回フォーラムにおいて白川氏は、
ら地方債に対して正面から向き合っていくこと
日本の地方債の安全性を担保する制度的な仕組
が必要になると述べた(No.3, p9~11)。
みに対して疑問を呈した。すなわち、実際にその
安全性を主として担保しているのは地方交付税
地方債の安全性
であるが、過去にその総額が大幅に削減されたり、
先に紹介したように、江夏氏と白川氏は、投資
家が日本の地方債にデフォルト・リスクがあると
あるいは政府内部で、交付税制度は地方の財政規
は考えてはいないと述べた。また、第 2 回フォー
律を弛緩させるので縮減すべきだという考えが
ラムにおいて討論者の小西氏は、地方公共団体の
示されたりすることがあり、それは地方債への信
予算は現金主義会計で縛られており、地方債は建
任を維持するという観点からは好ましくないと
設公債主義と自治体財政健全化法で押さえてい
いうことである。そして将来、地方債の安全性に
るのでデフォルトが起きることはあり得ず、「暗
対する不安が意識される可能性も皆無ではない
黙の政府保証」なるものは存在しないと述べた
のではないかとも述べた(No.6, p12)。
ちなみに白川氏も、先の持田氏が提示した論点
(No.3, p13)。
と同様に、日本の地方債の安全性を担保している
地方債の安全性を最終的に担保していると考
316
4
フォーラム
仕組みは「制度による保障」であるという見解を
るのである。他方で、格付けの取得は発行条件を
表明した。すなわち、場合によっては中央政府が
良くすることには寄与していないという(No.5,
地方公共団体の代わりに支払うことでその債務
p5~6)。
の履行を「保証」するのではなく、そもそもそう
これに対しては討論者の稲生氏が、発行条件に
した事態にならないように制度設計がなされて
影響しないのであれば、地方公共団体が格付けを
いるということである(No.6, p20)。
取得する意味は本当にあるのかという質問をし
たが(No.5, p9)、塚本氏は、発行体として市場に
参加する際に、市場のルールに対応していくのは
地方債格付け
一つの方法であると回答した(No.5, p11)。
地方債格付けについては第 4 回および第 6 回
フォーラムにおいて取り上げられた。第 4 回フォ
地方債格付けを取得することの重要性は、第 5
ーラムでは、格付け機関の立場から丹羽氏が、格
回フォーラムにおいて相田氏も指摘しており、特
付けを取得した地方公共団体の立場から塚本氏
に外債発行の際には非常に重要であるという。た
が論じた。
だし、地方公共団体の財政状況をしっかりと把握
した上で格付けをしてもらえるのかどうかとい
丹羽氏によれば、ムーディーズは現在 35 カ国
で地方公共団体に格付けを行っており、アメリカ
うことについて、若干の疑問を呈した(No.6, p7)。
以外では「複合デフォルト分析手法」を適用して
同じく第 5 回フォーラムにおいて討論者の林
いる。複合デフォルト分析手法とは、各地方公共
氏が、東京都は日本で財政力が最も良い地域であ
団体の固有の信用力と、その国における中央政府
るのに対し、中央政府は財政力が良い地域と悪い
と地方公共団体との関係を主要な要素として分
地域を含んでいるのだから、東京都債の格付けは
析することで、最終格付けを決定するというもの
国債の格付けを上回ってもいいのではないかと
である。日本については、地方財政の情報を全会
いう論点を提示した(No.6, p16)。これに対して
計ベースで把握し、債務関連の情報については、
同回の報告者の白川氏は、国があって東京都があ
連結バランスシートの対象先である外郭団体す
るという関係なので、そうしたことはないと考え
べてを網羅して分析をおこなっている。ちなみに、 られると回答した(No.6, p20)。
現在日本では、26 の地方公共団体が格付けを取
しかし、丹羽氏によれば、国債格付けを上回る
得しており、市場公募団体の約半分が取得してい
地方債格付けは、稀ではあるがアルゼンチンやイ
るという状況である(No.5, p2~3)。
タリアにおいて存在している。また、イタリアで
一方、塚本氏は、地方債格付けを取得する目的
は、債券発行をする地方公共団体は地方債格付け
の一つとして、投資家層の拡大を挙げた。投資家
を取得しており、債券発行を行わない小規模な団
層を拡大することによって、市場環境が不安定に
体でもコミュニケーションツールとして格付け
なった時でも比較的安定的な資金調達ができ、発
を取得する場合があるという。さらに、ドイツで
行コストの縮減にもつながっていくと考えられ
は格付けなしで起債をしている州があり、これは、
るが、IR などで投資家に対して提供される情報
制度的な枠組みが非常に強固なことや、州につい
の内容は地方公共団体側が決めるものであり、他
てよく知っている強固な投資家基盤が存在して
の団体との比較や内容の理解も難しい。しかし、
いることなどが背景にあり、この点は日本と共通
格付けは第三者による評価であり、しかも、機関
しているという(No.5, p2~3)。
投資家の中には、投資の際に格付けを取得してい
第 6 回フォーラムでは、丹羽氏とは別の格付け
る発行体であることを条件としているところも
機関に所属する柿本氏が報告を行った。柿本氏に
ある。こうしたことから、地方債格付けを取得す
よれば、スタンダード&プアーズ(以下、S&P)
ることが投資家層の拡大につながると考えられ
の格付けは、債務者や債務の総合的な信用力につ
317
4
フォーラム
いて、相対的な序列を表すように意図されており、 性があるということである。
債務不履行の蓋然性について絶対的な水準を表
す尺度ではない。また、日本では地方公共団体の
資金調達先の拡大
債務不履行(デフォルト)はあり得ないという考
このように地方公共団体は、地方債格付けを投
えが一般的であるが、たとえ制度がしっかりして
資家層拡大のための重要な手段の一つとして捉
いても債務不履行は起こり得るというのが同社
えているわけであるが、投資家層あるいは資金調
の考え方であるという。
達先の拡大のための手段としては、その他にどの
また、柿本氏は、地方債格付けには発行体に対す
ようなものが考えられるであろうか。その一つは
る格付け(発行体格付け)と個別債務に対する格
IR である。第 4 回フォーラムの塚本氏も、第 5 回
付けがあることに注意を促した。日本では基本的
フォーラムの相田氏も、それぞれの団体で IR に
に両者のレベルは同じであるが、アメリカのレベ
積極的に取り組んでいることを強調した(No.5,
ニュー債のように、外国では両者が分かれている
p3~4, No.6, p6~7)。
場合があるのである。
一方、第 3 回フォーラムにおいて三宅氏は、ア
S&P の発行体格付けは、タイムリーペイメン
メリカで 8~9 割の地方債について目論見書が作
ト、すなわち、発行体が期日通りに債務を支払う
成され、ヨーロッパでも市場公募地方債について
能力を評価するものであり、支払期限から 5 営
は目論見書の作成が広く行われていることを紹
業日以内の支払いを期日通りの支払いとみなし
介し、投資家層拡大のための手段として日本でも
ている。言い換えると、支払期日が経過してから
検討するべきではないかと述べた(No.4, p13)。
5 日以内に債務が支払われない場合、タイムリー
また、三宅氏はアメリカの地方債ファンドにつ
ペイメントが失われる、すなわち債務不履行と評
いても紹介した。地方債ファンドは投資信託の一
価することになっているのである。柿本氏によれ
種であり、これによって個人投資家による地方債
ば、仮に地方公共団体が債務不履行に陥った場合
への分散投資が容易になっているという。また、
に、現在の日本政府が 5 日以内に現金を融通する
アメリカでは、個人投資家が自助努力で老後の生
ことは難しいと同社は評価しているという。なお、 活資金を積み立ててゆくための証券投資に対す
その場合、融通されるのは現金であることが重要
る優遇制度がさまざまに存在し、その運用商品の
である。
一つとして地方債が用意されている。こうしたこ
さらに柿本氏は、地方債格付けが国債格付けを
とによって、年限の長い地方債の保有が可能にな
上回る可能性についても論じた。氏によれば、国
っている側面があるという(No.4, p13, 19)。
債格付けは地方債格付けにとって超えることの
さらに三宅氏は、ドイツやフランスで普及して
難しい制約であり、日本の場合もその制約の影響
いるカバードボンドについても紹介した。これは、
が強いという。
銀行が地方公共団体向けに行った融資の債権を
しかし、海外では地方債格付けが国債格付けを
担保として発行する債券である。三宅氏は、日本
上回るケースが存在する。柿本氏は、地方債格付
でもこのカバードボンドが、地域の金融機関が地
けが国債格付けを上回ることができるための条
方公共団体向け融資を拡大する際の手段として
件を 3 つ挙げている。すなわち、第一に、国債が
検 討 に 値 す る の で は な い か と 述 べ た ( No.4,
デフォルトした場合でも、その地方公共団体が滞
p13~14)。
りなく債務支払いを履行することができるとい
また、資金調達先拡大のための手段として、近
うこと、第二に、自身が保有する資金を国が権力
年注目されているレベニュー債がある。江夏氏に
的に召し上げることがないということ、第三に、
よれば、日本の地方公営企業債はレベニュー債で
そのような国の影響力を排除し得るだけの独立
はないかという声が投資家から聞かれるが、そう
318
4
フォーラム
ではないという。なぜなら、公営企業は地方公共
ある。これは、インフラ投資を促すことを通じて
団体自身が運営しており、また、地方公共団体か
雇用の確保を図るために発行されたものであっ
らの繰出金のシステムがあるので、課税権が最終
たが、投資家層の拡大をもたらしたという。そし
的には実質的な担保になっていると解釈されて
て江夏氏は、市場化が進む現在の日本の地方債市
いるためである(No.4, p4)。
場にとって参考になる事例ではないかと述べた
(No.4, p7)。
江夏氏によれば、投資家は、日本にレベニュー
債を導入するのは難しいと見ているという。なぜ
最後に、第 5 回フォーラムで相田氏が紹介した
なら、日本では金融機関の与信は長らく有担保主
個人向け都債である「東京再生都債」のような住
義で行われてきたが、これに対してレベニュー債
民参加型市場公募地方債も、投資家層拡大のため
は、プロジェクトから創出されるキャッシュフロ
の一つの手段であろう(No.6, p6)。これには、住
ーの見通しに基づいて与信を行うものだからで
民の地方行財政に対する理解を深めてもらうと
ある。また、江夏氏は、日本では課税権がバック
いう目的も同時に存在するが、前出の満田氏は、
にあることで安定的に地方債市場が推移してき
地方公共団体には今回の協議制度の見直しで事
たが、レベニュー債を導入して償還確実性が確保
務負担が軽減されたことによりねん出された時
できない事態が生じた時に伝播するコストを考
間を、こうした住民参加型市場公募地方債の発行
えると、日本でレベニュー債を導入することに対
などに使ってもらいたいという意見を表明して
しては慎重であるべきではないだろうかとも述
いる(「地方債協議制度の一部見直し案の状況等
べた(No.4, p17)。
について」)
。
さらに江夏氏は、2010 年まで発行されていた
ビルド・アメリカ債についても紹介した。これは、
※第 4 回フォーラムにおける丹羽氏、第 6 回フォ
通常のアメリカの地方債とは異なって利子に課
ーラムにおける柿本氏の報告は、著作権の関係に
税されるが、その利子の 35%分が連邦政府から
より部分的に触れるにとどめた。
地方公共団体に対して補助されるというもので
319
4
フォーラム
第 7 回~13 回フォーラムの内容
4.8.2
2013 年 1 月 28 日発表(ニューズレター第 15 号を再掲)
天羽正継(東京大学大学院経済学研究科特任助教)
ていたので、複数社から借り入れても元利金の支
東京大学大学院経済学研究科・地方公共団体金
払いが一本化できる方式を選んだことによる。
融機構寄付講座は、2011 年 12 月から 2012 年 10
また、この際の借入期間は 10 年であったが、
月まで計 7 回のフォーラムを開催した。この小論
ではそれらのフォーラムを振り返り、そこで
翌 2008 年度の発行の際は、より有利な発行条件
提示された論点を整理することで、今後の議論へ
の獲得や元利償還額の逓減、将来の金利上昇リス
の手がかりとしたい。なお、文中で(No.○,○)
クの回避という目的から、借入期間を 20 年とし
とあるのは、ニューズレターの号数とページ数を
た。また、公平性・透明性確保の観点から、シン
指している。
ジケートローンのアレンジャーを入札で決定す
るとともに、より有利な条件で借りられるように、
引受団以外のメンバーでも組成可能なジェネラ
銀行等引受地方債の取組み
ルシンジケーション方式を採用した(No.8, 4)。
市場公募地方債については第 5 回フォーラム
川出氏は、銀行等引受地方債の困難な点につい
で取り上げられたが、銀行等引受地方債について
はこれまで取り上げられてこなかった。そこで、
ても述べている。一つは、入札を実施する際の償
第 7 回フォーラムは銀行等引受地方債をテーマ
還条件の設定である。すなわち、銀行等引受地方
とし、公募団体として神奈川県、非公募団体とし
債の特徴として、償還期間などの条件を自由に設
て秋田県からそれぞれ報告者を招いた。
定できるということがあるが、銀行によってそれ
神奈川県の川出氏によれば、同県の銀行等引受
ぞれ得意な分野が異なり、金融情勢も毎年変わる
地方債は、2006 年度以前はほとんどが満期一括
ため、それらを反映させなければならないという
償還方式の証券形式であったが、07 年度に証書
ことである。これに対して市場公募地方債の場合
形式での発行を開始し、08 年度以降は証書形式
は、投資家の動向はほぼ同じであり、起債運営も
の中でも超長期のものが多くなっている。こうし
標準化されているため、条件の設定は比較的容易
た取組みを行った背景として、満期一括償還方式
である(No.8, 5-6)。
では実元金が減らず、その元金に対して利子がか
ちなみに、銀行等引受地方債では自由な条件設
かることになり「もったいない」という議論があ
定が可能であるという点に関係して、討論者の三
り、また、多様な資金調達手法を導入して利子を
富氏より、変動利付債を採用することも一つの方
軽減するとともに、証書形式のノウハウを蓄積す
法ではないかという質問があったが、これに対し
るという目的があった(No.8, 3)。
て川出氏は、変動金利を管理しきれないというこ
2007 年度には 250 億円の銀行等引受地方債を
ととともに、短期債を借り換えていくと変動金利
発行したが、その際、引受団の幹事社をアレンジ
と似たような効果が得られるということから、採
ャー・エージェントとして、8 行からなるシンジ
用に対しては否定的である(No.8, 14-15)。
ケート団を組成した(シンジケートローン方式)
。
川出氏が考える、銀行等引受地方債のもう一つ
これは、一つの銀行から 250 億円も借り入れるこ
の困難な点は、入札が終わってからの事務手続き
とはできないだろうから、引受団をベースに行お
である。市場公募地方債の場合は通常、発行要項
うと考えたが、償還担当者から、契約本数が多く
と契約書を作れば事務手続きは終了であるが、銀
なると支払い手続きが大変だという声が上がっ
行等引受地方債の場合は、契約書が各種異なるた
320
4
フォーラム
めにそれらをチェックする必要があるとともに、
還方式をとっていたが、平均償還年限から見ると
発行者に無断で債権譲渡しないという特約条項
金利負担が少し大きかったため、それを是正する
を入れる必要もある。さらに、銀行から総務大臣
ために行ったものである。
(2)は、市場公募地方
の同意書や議決証明を求められることもある。
債に数ベーシスを上乗せするという方法で利率
最後に川出氏は、銀行等引受地方債の可能性と
設定を一律に行っていたが、金融商品としての透
課題について述べている。可能性としては、年限
明性や妥当性を高めるために、複数の証券会社か
や発行額を自由に設計できるという特色を生か
ら金利情報を入手し、それを参考に行うこととし
して、20 年に限らず 5 年や 10 年といった年限の
たものである。
(3)は、借換債を少なくするため
債券を発行して市場公募地方債の補完をしたり、
に、借換のタイミングで超長期債を活用すること
借換の連鎖による端数を埋め合わせるための債
としたものである(No.8,8-9)。
堀内氏は今後の課題として、県債残高の削減、
券を発行する、あるいは、借入時期の分散化のた
めに年度の前半に発行したりすることも可能で
資金調達手法の多様化、借換債の年度間平準発行
はないかと述べている。
とともに、川出氏と同様、起債担当職員の育成を
その一方で課題としては、リーマン・ショック
挙げている。金融の知識を習得していなければ金
後のように金融市場が混乱した場合でも安定的
融機関と対峙することは困難であるが、これを 1
な資金調達が可能なのか、証書形式で借入を行う
人で行うことは難しい。そこで秋田県では 2~3
と契約本数が増えていくため、償還事務が追い付
人のチームを作り、互いにサポートしながら次の
かなくなるのではないか、さらに、役所では担当
世代に知識やノウハウを継承していくという方
者の異動が定期的にあるため、事務手続をできる
法をとってきた(No.8, 10-11)。
だけ簡素化する必要があるとともに、あまり難し
変動利付債の採用についての三富氏の質問に
い調達方法は取り得ないのではないか、といった
対しては、変動金利を採用すると、将来の中長期
点を指摘している(No.8, 6-7)。
の財政計画で公債費がどれくらいになるのかを
次に、秋田県の堀内氏によれば、同県が発行す
把握できなくなる、また、銀行は採用して欲しい
る地方債の大部分が銀行等引受地方債であり、新
のであろうが、秋田県は固定金利にして、その代
発債と借換債を合わせると近年では 9 割以上を
わりに証券形式で流動性を持たせることで対応
占め、基本的に証券形式である。これは、多額の
する方針であるという理由から、否定的である。
資産を保有し続けることが困難なために流動性
なお、三富氏からは、満期一括償還方式の採用
を確保することを望む地元金融機関に配慮した
についても質問があったが、これに対して川出氏
ものである。
は、神奈川県は市場公募団体であり、満期一括償
秋田県は銀行等引受地方債の取組みとして、
(1) 還方式を採用するのであれば市場公募債を出せ
平均償還年限を用いた利率設定、
(2)市場実勢を
ば良いということになるので、それなりのメリッ
反映させた利率設定、
(3)超長期債(15、20 年
トがなければ、銀行等引受地方債で満期一括償還
債)の発行、を行った。こうした取組みを行うき
方式を採用するのは難しいと回答し、堀内氏は、
っかけとなったのがリーマン・ショックによる金
定時償還方式には減債性という大きなメリット
融市場の混乱で、地元金融機関からレートの引き
があるので、引き続き定時償還方式を採用すると
上げを要求する声が上がった。加えて過去最大額
回答している(No.8, 14-16)。
となる借換もあり、利払費による財政負担が増加
することを防ぐため、発行条件の決定方法の見直
地方財政・地方債計画と
しを行ったのである。
地方債協議制度の見直し
(1)は、銀行等引受地方債については定時償
第 8 回フォーラムでは総務省地方債課長の末
321
4
フォーラム
宗氏が、2012 年度の地方財政計画と地方債計画
利償還金を地方財政計画に算入するとともに、そ
について報告した。同年度の地方財政計画の特色
の予定額を地方債計画に計上するというもので
は三種類作成したことであり、一つは例年策定し
ある。
ている通常収支分、残りは東日本大震災分である。
末宗氏は届出制度のメリットの一つとして、届
そして、東日本大震災分は、被災地における復旧・
出団体になることによって機動的に地方債を発
復興事業と全国における緊急防災・減災事業から
行することができるようになるということを挙
なっている。通常収支分の総額は約 81 兆 8000
げている。すなわち、これまでは手続上、最初の
億円で、前年度よりマイナス 6407 億円だが、復
協議で地方債発行の同意を得るまでに 4~5 か月
旧・復興事業が約 1.8 兆円、緊急防災が約 0.6 兆
を要していたが、届出団体になればすぐに発行可
円で、合計額は 84 兆 2764 億円と、前年度より
能になるので、特定の月に発行が集中することな
も 1 兆 7710 億円のプラスとなっている(No.9,
く、平準化に資するということである(No.9, 6)。
この点について討論者の小西氏は、年度末の 3
2-3)。
通常収支分のポイントは、地方交付税を前年度
月と出納整理期間の 5 月に地方債を集中的に発
比で 811 億円増額したことであり、そのために活
行すると、資金需要がタイトになり金利が高くな
用したのが公庫債権金利変動準備金である。これ
ってしまうので、地方公共団体はそうしたやり方
は、旧公営企業金融公庫が借換リスクに備えて設
を改めるべきだと述べている。また、届出制度の
けていた引当金を地方公共団体金融機構が承継
導入については、改革であることは間違いないが、
したもので、円滑な運営のための必要額を上回る
許可制度から協議制度への移行ほどの大きな変
額は国庫に帰属させるという機構法の規定に基
化ではないと考えると述べている(No.9, 9-11)。
づき、2012 年度からの 3 年間、1 兆円を目途に
国庫帰属させることとしたものである(No.9, 4)。
地方公営企業会計の見直しと地方債
地方債計画も地方財政計画と同様、通常収支対
第 9 回フォーラムでは関西学院大学教授の小
応分と震災対応分に分けられており、前年度に比
西氏が、約 40 年ぶりとなる地方公営企業会計制
べて前者が減少しているものの、後者が増加して
度の見直しと、それが公営企業債のクレジットリ
いるため、両方合わせて 2.2% のプラスとなって
スクに与える影響の可能性について論じた。小西
いる。資金面では、震災対応分が万全を期すため
氏によれば同制度は、地方公営企業の特性に合う
に、全額が財政融資資金と機構資金で確保されて
ように形成されたものであるが、民間企業会計の
いるのに対して、
全体では民間等資金が 7 兆 9691
原則から大きく乖離したために分かりにくいと
億円、特に市場公募が 4 兆 4400 億円と、実額で
いう批判を受けるようになり、見直しとなったの
も比率でも過去最高の水準となっている(No.9,
であって、見直しの結果数字が悪化したとしても、
5)。
それは財務状況が悪くなったことを意味しない
ニューズレター第 7 号でも取り上げたが、地方
のである(No.10, 2)。
債協議制度の見直しが行われた結果、2012 年度
見直しは、
(1)地方分権改革の趣旨に適う資本
より地方債届出制度が導入された。それは、5 つ
制度の見直し、
(2)地方公営企業会計の抜本改正、
の要件(詳細は寄付講座のホームページに掲載さ
(3)法適の範囲の拡大、の 3 段階で行われた。
れている当日の報告資料 16 ページを参照)を満
(1)は、条例か議会の議決のどちらかに基づい
たす地方公共団体が民間資金債を発行する場合
て利益処分のあり方を自由にできるようにする
は原則として協議を不要とし、事前届出とすると
というものである。
(2)の大きなポイントとして
ともに、届出がなされた地方債のうち「協議を受
は、みなし償却の見直し、借入資本金の見直し、
けたならば同意をすると認められるもの」は、元
退職給付引当金の義務化、キャッシュフロー計算
322
4
フォーラム
部分もあり、条例化することで財政運営上影響が
書作成の義務付け、などがある(No.10, 3-4)。
あるのではないか、という質問がなされた(No.10,
こうした見直しの結果、固定資産は減少、固定
8)。
負債や流動負債は増加、資本金は減少となり、貸
借対照表の内容は悪化する。しかし、実質的な財
これに対して小西氏は、繰出基準の明確化の趣
政負担の指標は見直し以前から既に作っている
旨は、あらゆる問題を本体の財政に寄せ、公営企
ので、公営企業会計制度をどのように変えようと
業は常に「綺麗」にすることにあり、本体は「綺
も、公営企業債のクレジットリスクには何らの影
麗」だが外側に「怪しい」ものを飛ばすようなこ
響もないのである(No.10, 6-7)。
とを防ぐという意味がある、と回答した(No.10,
10)。
そもそも、小西氏が参加していた総務省の「地
方公営企業会計制度等研究会」では、公営企業債
といえども最終的には税金で償還することが前
アメリカにおける州・地方政府の
提になっており、また、自治体財政健全化法の枠
財政状況と財政破綻
組みの中では公営企業債も含めて償還確実性が
地方公共団体金融機構寄付講座は 2012 年 3 月
担保されているので、実質的には一般会計債とリ
に、アメリカ合衆国カリフォルニア州において調
スクは変わらないと理解されている。そのため、
査を実施した。その目的は、第一に、金融危機が
たとえ連結財務諸表がなくても、あるいは今回の
同国の地方債市場にどのような影響を与えたの
ように公営企業会計制度が変わったとしても、公
か、第二に、州・地方政府が起債管理をどのよう
営企業債のクレジットリスクはゼロなのである
に行っているのかを調査することである。そして
(No.10, 11-12)。
その成果を、2 回にわたってフォーラムで報告し
討論者の丸山氏からは、
(1)公営企業債のクレ
た。第 10 回フォーラムでは筆者が、財政破綻し
ジットリスクに対する影響がないのであれば、今
たバレホ市を中心として、カリフォルニア州の
回の見直しの目的やねらいは何なのか、
(2)これ
州・地方財政の状況について報告を行った。
をきっかけとして、各地方公共団体において経営
バレホ市は 2008 年 5 月に連邦破産法第 9 章へ
のあり方の見直しをどのように図っていくべき
の適用申請を行い、11 年 8 月には債務調整計画
なのか、
(3)財務規定の適用範囲の拡大について
が裁判所から承認され、同年 11 月から同法の適
は検討事項とされたが、今後どのように取り組ん
用下にある。バレホ市は 07-08 年度まで財政赤字
でいくべきか、という質問がなされた(No.10, 7-
の状況が続き、それを補填するために準備金を取
8)。
り崩していったため、08 年 6 月にはほとんど枯
小西氏は(1)について、現行の企業会計原則
渇し、支払い不能に陥った。このようになった背
を最大限取り入れる必要があったということ、
(2)
景は、歳入面では、景気低迷による税収と州政府
について、セグメント情報によって各企業の収益
からの補助金の減少、歳出面では、健康保険と年
構造を明らかにし、経営判断を行っていく、(3)
金を中心とする人件費の増加であった。さらに、
について、今後適用範囲の拡大を行うのであれば、
カリフォルニア州では Proposition13 によって財
スケジュールを作った上で実施すべき、と回答し
産税を引き上げることが制限されていることも
た(No.10, 9-11)。
要因であった(No.11, 2-4)。
同じく討論者の相田氏からは、今回の見直しの
ちなみに、現地の格付会社は、地方財政の逼迫
中で、一般会計と公営企業会計の負担区分の明確
の主な要因は債務ではなく労働コストであり、多
化を図るために、条例で資本維持のための繰出基
くの地方政府が労働組合との交渉や職員の削減
準を明記することが望ましいとされているが、実
によって財政危機を回避しているが、バレホ市は
際には予算編成の中で弾力的な運用をしている
それができなかったのだろうと分析している
323
4
フォーラム
れた同市の既発債の流通市場における状況はど
(No.11, 7-8)。
バレホ市は破産申請以降、警察や消防、インフ
のようになっているのか、
(3)同市と労働組合と
ラ整備など、歳出の大幅な削減を行い、その結果、
の交渉には何らかの特異性があったか、という質
市内の治安や道路の舗装状態が悪化した。また、
問がなされた(No.11, 11)。
同市は財政を立て直すために、2010-11 年度から
筆者は(1)について、カリフォルニア州憲法
14-15 年度にわたる財政再建 5 か年計画を策定
では地方政府の財政均衡ルールを定めているが、
し、現在その実施下にある。そこでは、歳入を回
住民投票により有効投票数の 3 分の 2 の承認が
復させるともに、警察官や消防署の数を一定程度
得られれば借り入れができるとされており、バレ
維持し、インフラの維持管理費を増やすことが計
ホ市は基本的には州憲法に則った形で起債を行
画されている。また、バレホ市は現在、市場で地
ったと考えられる、
(2)について、破産申請を行
方債を発行することができないが、予算を均衡さ
った 2008 年 5 月に、同市のとある既発債の流通
せることで準備金ができてくるので、それによっ
価格が下がっており、影響はあったと考えられる、
て市場からの信頼を回復することができると考
(3)について、カリフォルニア州においては同
えているとのことである(No.11, 5-7)。
市のケースは必ずしも特異ではないのではない
バレホ市の他には、サンフランシスコ市とカリ
か、と回答した(No.11, 13-14)。同じく討論者の
フォルニア州について調査を行った。サンフラン
三宅氏からは、上記の青木氏と同様、バレホ市の
シスコ市は 2003-04 年度以降、財政黒字の状態が
特異性についての質問とともに、今回の調査から
続いている。同市の経済は特定の産業に依存する
得られるわが国への示唆は何かという質問がな
のではなく、「多様性」があるために経済的なシ
された(No.11, 13)。これに対して筆者は、今回
ョックに強い。そのため、08 年のリーマン・ショ
のバレホ市のケースは、財政力格差があるところ
ックの直後には、一時的に不動産価格が下がると
に歳出・歳入の両面で統一的な縛りをかけること
ともに観光収入も減少したが、その後、投資資金
に無理があることを示しており、そこから、各地
が再び市内に流入してきたのである。
方で独自の財政運営を可能とするための地方分
権が必要であることが示唆として導き出される
また、他の市と同様に年金コストが大きな問題
のではないかと回答した(No.11, 13)。
となっているが、その上昇リスクを市と職員が共
同で負担することについて労働組合から合意を
また、この点については、調査団に同行した東
得た。さらに、オバマ政権の健康保険改革の一環
京大学教授の持田信樹氏が補足コメントとして、
として、連邦政府から巨額の支援を得ることがで
バレホ市で売上税を 1%引き上げることを問う住
きたために、大幅な行政サービスのカットを避け
民投票において、賛否が拮抗しつつも可決したこ
ることができた。
とに触れ、このことは、公共サービスは自分たち
一方、カリフォルニア州はリーマン・ショック
で買うんだという意識がアメリカの地方政府に
の影響もあり、財政赤字の状況が続いてきた。特
残っていることを示しており、それはわが国にと
に、個人所得税の減少が歳入減に大きく影響した。 っ て も 示 唆 に 富 む こ と で は な い か と 述 べ た
(No.11, 15)。
また、今後は高齢者の増加が歳入減と歳出増をも
たらす要因になると考えられ、さらに地方政府と
同様、退職者の年金や健康保険が財政的に大きな
アメリカの州・地方政府における
負担となっている(No.11, 8-9)。
資金調達マネジメント
以上の報告に対して、討論者の青木氏より、
(1)
第 11 回フォーラムでは東洋大学教授の稲生氏
バレホ市では財政状況によって事前に起債制限
が、カリフォルニア州を中心としたアメリカ合衆
を行う仕組みはなかったのか、
(2)過去に発行さ
国の州・地方政府における資金調達マネジメント
324
4
フォーラム
再投資法(American Recovery and Reinvestment
について報告した。
稲生氏はまず、同国における州・地方債の近年
Act, ARRA)が成立したことである。BAB には地
のトレンドについてまとめている。発行体別の構
方政府の資金調達コストを低下させるというメ
成比は、2003 年以降では約 4 割が州政府関連、
リットがあったが、2 年弱という短期間で終了し
約 5 割が地方政府関連となっている。目的別では、 た。BAB 終了後は州・地方債市場が影響を受け
電力や住宅、医療が減少傾向にあるのに対して、
るのではないかという懸念があったものの、州・
教育、上下水道、ガスなどが増加傾向にある。発
地方政府は歳出の先延ばしをして市場の好転を
行額は 02 年以降、IT バブルの崩壊により 4000
待つことができたので、大きな混乱にはならなか
億ドルを超える水準で推移してきたが、08 年の
った。
条件決定方式は 1994 年以降、主幹事方式によ
リーマン・ショック以降は短期債の割合がやや上
る発行が増加していたが、金融危機以降は全体の
昇している。
固定金利・変動金利別で見ると、リーマン・シ
発行額が抑えられる中で、競争入札へのシフトが
ョック以前は長期債の 4 分の 3 が固定金利であ
若干見られる。また、2011 年には私募債の発行
ったが、2008 年には、長期債だが短期的に金利
額が前年の 2 倍強に増えている。一般財源保証債
が変動するため、実質的には短期債とされる
かレベニュー債かという点では、03 年以降にレ
VRDO(Variable Rate Demand Obligation)が増
ベニュー債の活用が徐々に増えたが、リーマン・
えている。また、07 年までは ARS(AuctionRate
ショック以降は急減し、一般財源保証債の発行が
Securities)と呼ばれる短期債が発行されていた
増えている。ちなみに、レベニュー債は競争入札
が、モノライン保険会社の格付け低下により、08
方式よりも主幹事方式による発行が圧倒的に多
年以降は発行されていない(No.12,2-3)。
い(No.12, 5-6)。
地方債の保証については、2005 年までは長期
カリフォルニア州の州・地方債発行額は全米の
債の保証の活用は増加基調にあったが、06 年以
15%を占める。しかし、州債の格付けはシングル
降は減少に転じた。これに対して LOC(Letterof
A マイナスであり、非常に厳しい状況である。州
Credit)の利用が一時的に増加するものの、その
債・地方債ともにリーマン・ショック以降発行額
後は減少している。また、モノライン保険会社の
が増加し、BAB プログラムの終了後は減少に転
格付けが依然として厳しい中、カリフォルニア州
じている。また、2008 年における住民投票によ
政府はそれに代わる保証制度を検討していない
る一般財源保証債の可決率は、全体で 40% であ
が、他の州には何らかの政策を実施しているとこ
る。ただ、目的によって可決率に差があり、病院
ろがある。
や消防、警察は約 60%で、道路や住宅などは僅差
保有主体は 4 分の 3 超が家計であり、金融危機
で否決されている。
による変化はあまり見られない。これは、州・地
カリフォルニア州の地方政府の資金調達をめ
方債が依然として、ソブリンに次ぐ比較的安全な
ぐるアクターとしては、証券業界を通じて間接的
セクターと見られていることが要因として考え
な規制を行う証券取引委員会(U.S. Securities
られる。免税か課税かという点では、2008 年ま
and Exchange Commission, SEC)、州政府のサ
では免税債が 8 割程度を占めていたが、09・10
ポートセクターである地方債・公金運用アドバイ
年は BAB(Build America Bond)の導入により、
ザリー委員会(California Debt and Investment
課税債の割合が上昇している(No.12, 4-5)。
Advisory Commission, CDIAC)、連邦・州政府に
BAB 導入のきっかけとなったのは、連邦政府
対する圧力団体であると同時に、各地方政府に対
の金融市場混乱収拾策の一つとして地方債市場
して資金調達業務の支援も行うカリフォルニア
へのてこ入れが浮上し、2009 年 2 月に米国復興・
州都市連盟(League of California Cities, LCC)、
325
4
フォーラム
さらに、金融セクターと法務セクターがある
く、あくまで金融市場の混乱を最小限にとどめる
(No.12, 7-8)。
ためのスキームとして捉えていたため、マーケッ
サンフランシスコ市には資金調達実務を定め
トがそれほど混乱しなかった以上、それを復活・
た「デットポリシー(debt policy)」があり、そこ
延長させることは難しいと考えられたのではな
にはデリバティブ、具体的には金利スワップの利
いかと回答した。また、香月氏からは、モノライ
用法が細かく定められている。しかし、これ以外
ン保険会社の破綻にもかかわらず、アメリカの地
のデリバティブについては、「議会等において 5
方債市場がそれほど混乱しなかったのはなぜか
分間で全体を説明できないものを使うべきでは
という質問もなされたが、これに対しては、州・
ない」として、利用することは適切ではないと考
地方政府はまず歳出削減を行い、足りない分につ
えられている。
いては VRDO や私募債の発行で対応した、と回
答した(No.12, 17)。
サンフランシスコ市では資金調達を担当して
いる財務管理官が市長部局から独立して設けら
この点については東京大学教授の持田氏が補
れており、債務管理もそこで行われている。また
足コメントとして、現地の格付会社へのインタビ
同市は、リーマン・ショックでも大きなダメージ
ュー内容を紹介している。それによれば、地方債
を受けることなく、比較的順調に資金調達を行っ
市場がそれほど混乱しなかった理由は、第一に、
ており、金利もすべてを固定にするのではなく、
金利が全般的に相当低くなっていたため、地方政
変動金利とうまく組み合わせ、効率性とリスクを
府が地方債を発行できないということはなかっ
バランス良く考えながら資金調達を行っている。
た、第二に、たとえモノライン保険がなくても、
人材については、サンフランシスコ市のような
投資家は発行体のクレジットについてそれなり
財政規模の大きな団体ではテクニカルな側面が
に勉強しており、差別化することが可能だったか
求められるということもあり、投資銀行で証券業
らである。また、関西学院大学の小西氏も、アメ
務を経験した人物を採用するケースが多いが、一
リカではモノライン保険がなくとも、地方債の健
般の地方政府では、財政に関するスキルを有する
全性は常識として一定程度備わっているという
人物を採用し、そこから金融のスキルを徐々に学
見解を示している(No.12, 19)。
んでいくというケースもある。
最後に稲生氏は、今回の調査を受けて、
(1)資
欧州債務問題と日本の地方債制度
金調達マネジメントの「基本ガイドライン」の策
第 12 回フォーラムではみずほ総合研究所チー
定、
(2)組織・権限横断的な資産マネジメント(フ
フエコノミストの高田氏が、欧州債務問題を日本
ァシリティ・マネジメント)、(3)長期資金と短
の地方債制度との比較から考察するという内容
期資金の適切な組み合わせ、
(4)公会計システム
の報告を行った。
の深化と金融技術に長けた人材の育成、
(5)フィ
マーストリヒト条約では経常収支のバランス
ナンシャル・アドバイザー等の外部専門家の活用、
をとるために、加盟国の財政赤字は 3%と定めら
(6)金利スワップ等の新たな資金調達手法の導
れたが、各国の経常収支は黒字国と赤字国に分化
入を、日本の地方公共団体の資金調達マネジメン
し、不均衡が拡大していった。特にギリシャは 2
トへの示唆として提起している(No.12, 9-11)。
年遅れで加盟したが、財政赤字の数字は「作られ
討論者の岡田氏と香月氏からは、なぜ BAB プ
た」ものであり、また金利が 6 分の 1 になったた
ログラムは 2 年弱で終了し、その後延長されなか
め、マクロバランスの実態以上に内需が強まって
ったのかという質問がなされた。これに対して稲
しまうという現象が生じた。さらに、不均衡は経
生氏は、連邦政府内において民主党と共和党は、
常収支の面だけではなく、預金の流出入において
BAB プログラムを「財政支援策」としてではな
も生じた(No.13, 3-4)。
326
4
フォーラム
以上を踏まえ、堀氏は福岡市において、短期的
こうした不均衡を是正する方法としては、財政
緊縮の他に、財政平衡化を図るという方法がある。 には基金運用収益と一借利息の収支差の拡大、長
しかし、ユーロ加盟国は為替政策や金融政策の手
期的には「基金総額の運用利回りが市債残高の平
段を持たず、また財政調整制度もないため、その
均借入利率を上回る運用」を究極の目標としてき
国債は、あたかも交付税措置のない地方債のよう
た。具体的には、1992 年度に基金の基本運用を、
な状況になっている。これに対して日本では、地
預金運用から一借利息の削減を目的とする歳計
方交付税制度を核とした地方財政制度というト
現金への繰替運用に転換し、2000 年度には基金
ータルなシステムがあり、その中でも高田氏は、
運用収益の拡大を目的として、基金運用を長期債
共同発行地方債がユーロ圏にとって大きなイン
券運用に転換した。さらに 09 年度には、満期保
プリケーションになるのではないかと述べる
有を原則としていた債券運用を、債券売却を活用
(No.13, 5-7)。
した運用に転換することを提案した(No.14, 2)。
ちなみに、討論者の山下氏は、現在の欧州債務
こうした取組みの結果、債券運用利子が年々拡
問題を日本の共同発行地方債にとっての「他山の
大するとともに、一借利息を一定額に抑制できた
石」とすべきではないかと述べ(No.13,12-13)、
ため、両者の差額は拡大した。そして、2009 年
高田氏も同意している(No.13, 14-15)。
度には基金の債券運用利回りが初めて市債残高
の平均借入利率を上回り、続いて翌 10 年度にも
さらに高田氏は、現在ユーロ圏では、EFSF(欧
その目標を達成することができた(No.14, 3)。
州金融ファシリティ)や ESM(欧州安定メカニ
ズム)が実施されているが、これらは日本の地方
堀氏は、30 年償還を前提として積み立ててい
公共団体金融機構とは異なり、財政調整制度がな
る市場公募団体の満期一括償還積立金は、長期運
い中で行われているので、一部の保証や負担を背
用が可能であり、ALM の観点からも長期地方債
負うというパッチワーク的な支援になり、安定化
による運用が望ましいと述べるが、2010 年度末
には限界があると述べる。結局高田氏は、ユーロ
における満括積立金総額のうち、10 年以上の長
圏の安定化のためには、日本の地方財政制度のよ
期債券が占める割合は 15% にとどまっている。
うな、財政調整制度を核とするトータルなシステ
これに対して堀氏は、基金運用収益の拡大と地方
ムが必要であるとするのである(No.13, 7-8)。
債市場の底上げのために、市場公募団体自らが地
方金融機構債を含む地方債による積極的な運用
を行うことが必要であるとする。それにもかかわ
減債基金の収益性向上の取組み
第 13 回フォーラムでは元福岡市財政局資金運
らずこうした運用が進展しないのは、
(1)一借利
用課長の堀氏が、地方公共団体による減債基金の
息を削減するため、基金の繰替運用や見合い預金
運用をテーマとして、自身の取組みの経験を踏ま
を優先した運用がなされている、
(2)基金減少の
えつつ報告した。
リスクと(3)債券の中途売却による元本割れの
堀氏によれば、地方債の発行はこの十数年で大
リスクに対する不安により、長期債券運用はリス
きく変化したものの、減債基金については旧態依
クが大きいという固定観念があることによる、と
然とした運用が続いている。そして、福岡市では
指摘する。
減債基金の運用収益の拡大が永年の課題となっ
堀氏が在職中に行った取組み内容としては、金
ている。基金運用は、そのねらいを運用収益の拡
利状況を踏まえた効率的な資金運用、財産区基金
大とするのか、一時借入金利息の軽減とするのか
の管理・運用の見直し、預金運用から「歳計現金
によってあり方が異なってくる。また、バブル崩
への繰替運用」への転換、などがある。資金運用
壊後の運用利率は、長期債券、一時借入、預金運
の一体的な見直しにあたっての堀氏の視点は、資
用の順に高い状態が続いてきた。
金不足分は指定金融機関から短期市場金利で借
327
4
フォーラム
り入れ、基金を長期債券運用すれば諸課題は解決
基金の効率運用を図るための一つの手段」とする
する、というものである。
柔軟な発想への転換が必要であり、その結果、債
基金運用の見直しにあたっては、そのねらいが
券運用の選択肢が広がるとともに、基金の地方債
運用収益の拡大であることを明確にするととも
運用が進展することで、地方債市場の底上げにも
に、一定のルールに基づくシンプルな運用を確立
つながるという大きな効果があるとする。
することで、誰にでもできる運用にすることを基
最後に堀氏は、基金は長期的な視点で運用すべ
本とした。具体的には、すべての基金を財政局で
きものであり、目先の損失を回避するために将来
一元管理の上、一つの基金として一括運用すると
得られる多額の利益を放棄するのは本末転倒で
ともに、運用債券は 10 年と 20 年の長期地方債
あるとする。そして、問題の本質は売却損ではな
とした(No.14, 3-4)。
く非効率な運用を続けることにあり、財政状況が
また堀氏は、債券の売却を活用したさらなる運
厳しい中、地方公共団体は自律的な判断・工夫に
用収益の拡大を提案している。2009 年度に実施
より、積極的に財源の確保を図るべきであると主
した「債券の取得替え」は、財源を確保するため
張し、
(1)財政担当部署による基金の一元管理と
の特例措置として実施したものであるが、基金総
一括運用、
(2)自治体の資金トータルで最も確実
額の運用利回りが市債残高の平均借入利率を初
かつ有利な運用の選択、
(3)長期債券によるポジ
めて上回った最大の要因であるという(No.14,
ティブかつ柔軟な運用、(4)地方債による運用、
6)。
を提言する(No.14, 8-9)。
討論者の河村氏からは、第一に、資金の調達と
堀氏は債券の取得替えについて、売却債券の残
存期間を前提として満期保有の運用と比較した
運用の目標設定をどのように考えればよいのか、
場合、順イールドである限りトータルの運用益が
第二に、減債基金以外の運用目標はいかにあるべ
必ずプラスになる有利な運用手法であるととも
きか、第三に、担当者が異動しても継続的な視点
に、将来の金利予測が不要であり、その効果額を
で運用・調達業務を行うにはどのようにしたらよ
容易に把握できるシンプルな運用であると考え
いのか、という質問がなされた。また、同じく討
ている。そして、ルール化して毎年度計画的に実
論者の瀬崎氏からは、堀氏の提言する積極的な基
施することで、基金運用収益が大幅に拡大し、起
金運用はすべての市場公募団体が取り組むべき
債残高の平均借入利率を上回る運用の達成が容
ものだと考えるが、それを福岡市だけができた理
易になるとともに、金利の大幅な変動の影響を緩
由、あるいは他の地方公共団体ができない理由は
和し、運用益の増加額を平準化できる効果もある
何なのか、という質問がなされた(No.14,11-13)。
という。ただし、売却損が生じる場合は、現行で
堀氏は河村氏の第一の質問について、運用面の
はこの運用方法は見送らざるを得ないという課
具体的な目標は報告で述べた通りであるが、調達
題も指摘している。
面の目標は、借入利率が一般財源の伸び率と同程
度か、あるいはそれを下回るのが望ましい、しか
元本割れの問題について、堀氏は、地方公共団
体の会計制度は現金主義であるために「元本割れ
し、資金調達はあくまで投資家あっての話であり、
する債券の売却はできない」と解釈され、これが
短期債券だけを発行しても受け入れられない可
長期債券運用の進展を阻む大きな原因となって
能性があるので、自らその受け皿を開拓する必要
おり、債券運用の選択肢を狭めるとともに、運用
がある、と述べた。第二の質問については、福岡
収益拡大の機会を逸失する要因にもなっている
市では満期一括償還積立金が基金総額の大半を
と考える。そして、自律的な財政運営が求められ、
占めることから、すべての基金を一括運用するこ
地方公共団体の債券運用が一般的となっている
ととし、総額を対象とする目標設定を行っている
現状においては、「元本割れする債券の売却も、
と回答し、第三の質問については、組織として基
328
4
フォーラム
金運用の必要性を十分認識して目標を共有する
資金運用課に効率運用の目的意識と債券運用を
とともに、一定のルールによるシンプルな運用方
行う下地があったこと、
(3)指定金融機関と良好
法を確立することが不可欠であると回答した
なパートナー関係を築いていたこと、を挙げ、他
(No.14, 13-14)。
の地方公共団体ができない理由については、先に
次に瀬崎氏の質問については、福岡市が積極的
述べた三つの要因のうちのいずれかが大きなネ
な基金運用をできた理由として、
(1)財政部門と
ックになっているのではないか、と回答した
会計部門との役割分担が明確化していたこと、
(2) (No.14, 15)。
329
5
海外調査
5 海外調査
アメリカ合衆国
5.1
出張者(50 音順、所属・肩書は調査時のもの)
天羽正継(東京大学大学院経済学研究科特任助教)
稲生信男(東洋大学国際地域学部教授)
江夏あかね(バークレイズ・キャピタル証券調査部ディレクター)
大坪満(地方公共団体金融機構経営企画部地方支援課長)
持田信樹(東京大学大学院経済学研究科教授)
調査期間
2012 年 3 月 12 日(月)~3 月 17 日(土)
訪問先および対応者(アルファベット順、所属・肩書は調査時のもの)
カリフォルニア州(State of California)
Douglas Skarr(Research Manager Ⅲ, CA Debt & Investment Advisory Commission)
Etsuko Stone(Manager, CA Debt & Investment Advisory Commission)
Jeanne M. Trujillo(Assistant Director, Public Finance Division)
Mark B. Campbell(Exective Director, Calofornia Debt and Investment Advisory Commission)
Robert Berry(Deputy Executive Director, CA Debt & Investment Advisory Commission)
Veronica Chung-Ng, MS, CPA(Program Budget Manager, Department of Finance)
サンフランシスコ市(City and County of San Francisco)
Leo Levenson(Director of Budget and Analysis, Office of the Controller)
Nadia Sesay(Director, Office of the Controller)
バレホ市(City of Vallejo)
Deborah Lauchner(Finance Director)
カリフォルニア州都市連盟(League of California Cities, LCC)
Daniel J. Carrigg(Legislative Director)
Dwight Stanbacher(Deputy Exective Director)
Michael Coleman(Financial Consultant)
Paul Demaggio(Fiscal Officer)
Russell T. Fehr(City Treasurer, City of Sacramento)
ムーディーズ社(Moody’s Investors Service)
Dari Barzel(Vice President / Sr. Credit Officer, Western Regional Office, Public Finance Group)
Kenneth Kurtz(Senior Vice President, Western Regional Office, Public Finance Group)
スタンダード&プアーズ社(Standard & Poor’s)
Gabriel J. Petek, CFA(Director, Credit Market Services)
Jen Hansen(Associate, Credit Market Services)
330
5
海外調査
主な質問項目
カリフォルニア州、サンフランシスコ市
・ リーマン・ショックと欧州債務危機は、財政にどのような影響を与えたか。また、危機前後
で州債・市債の利回りにどのような変化があったか。
・ 景気後退以前、モノライン保険会社をどの程度利用していたか。また、モノライン保険会社
の信用格付けが低下してから、債券発行に困難を来たしたか。
・ ビルド・アメリカ・ボンド(BAB)プログラムが 2010 年に終了してから、どのように資金を
調達してきたか。また、資金調達の面で困難はあったか。
・ どのようにして幅広い投資家層を引き付け、彼らに情報を発信しているのか。
・ 債務管理の専門家をどのようにして養成あるいは獲得しているのか。
・ 発行体として信用格付けを取得することの是非についてどのように考えるか。
バレホ市
・ 2008 年 5 月に連邦破産法第 9 章への適用申請を行った理由は何か。
・ 破産申請による公共サービスの削減の中で影響が顕著なものは何か。また、それに対して住
民はどのように反応しているか。
・ 破産申請の結果、資金調達にはどのような影響があったか。また、市場からの信頼を獲得す
る必要性についてはどのように考えているか。
・ 財政再建を今後どのように進めていく予定か。
カリフォルニア州都市連盟
・ 地方政府に対するサーポート・スキームはどのようなものか。
・ リーマン・ショックと欧州債務危機は、カリフォルニア州の地方政府の財政(特に資金調達)
にどのような影響を与えたか。
・ バレホ市の破産申請の背景についてどのように考えるか。
・ モノライン保険会社の格下げを受けて、カリフォルニア州において地方債銀行や保証機関の
ような共同のサポート・スキームを作る予定はあるか。
・ 地方政府がデリバティブや仕組み債を利用することについてどのように考えるか。
ムーディーズ社、スタンダード&プアーズ社
・ 格付けを付与しているアメリカの州・地方政府の数は現在どのくらいか。また、格付けの環
境は歴史的にどのように変化してきたか。
・ リーマン・ショックと欧州債務危機は、カリフォルニア州の地方政府の財政(特に資金調達)
にどのような影響を与えたか。
・ リーマン・ショック前、カリフォルニア州の州・地方政府はモノライン保険会社をどの程度
利用しており、ショック後にその状況はどのように変わったか。また、モノライン保険会社
の格付けが低下した後、州・地方債の発行に何らかの困難をもたらしたか。
・ BAB プログラムの終了は、カリフォルニア州の州・地方政府の資金調達に何らかの困難をも
たらしたか。
331
5
海外調査
・ バレホ市の破産申請の背景についてどのように考えるか。
スウェーデン・デンマーク
5.2
出張者(50 音順、所属・肩書は調査時のもの)
天羽正継(東京大学大学院経済学研究科特任助教)
江夏あかね(株式会社野村資本市場研究所研究部主任研究員)
緒方俊則(地方公共団体金融機構地方支援部長兼総括主任研究員)
小西砂千夫(関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授)
三富吉浩(川崎市財政局財政部担当部長)
三宅裕樹(京都大学大学院経済学研究科博士後期課程)
持田信樹(東京大学大学院経済学研究科教授)
調査期間
2013 年 3 月 11 日(月)~3 月 18 日(日)
訪問先および対応者(アルファベット順、所属・肩書は調査時のもの)
【スウェーデン国】
コミュンインベスト(Kommuninvest )
Björn Bergstrand(Senior Investor Relations Manager)
Daniel Colliander(Senior Credit Analysist)
Maria Viimne(Deputy CEO)
Swedish Association of Local Authorities and Regions(SALAR)
Stefan Ackerby(Dep Chief Economist)
ストックホルム市(City of Stockholm)
Anna Håkansson(Treasurer)
Gnnar Björkman(Deputy Chief Exective Officer)
【デンマーク国】
コミュネクレジット(KommuneKredit)
Søren Høgenhaven(Managing Director, Chief Exective Officer)
Jette Moldrup(Senior Vice President, Head of Lending)
コペンハーゲン市(City of Copenhagen)
Anders Rasmussen(Team Manager)
Hans M.S. Christensen(Principal Consultant)
Jasper Saaeby Voss(Team Manager)
Mads Grønvall(Head of Division)
Nada Abu-Rashid Ommen(Head of Section)
主な質問項目
コミュンインベスト、コミュネクレジット
332
5
海外調査
・ 2008 年のリーマン・ショックと 2010 年の欧州債務危機は、資金調達と融資業務にどのよう
な影響を与えたのか。また、過去の危機との相違点および共通点は何か。
・ ビジネスの中長期的な目標は何か。また、民間金融機関との競合についてはどのように考え
ているか。
Swedish Association of Local Authorities and Regions
・ 2008 年のリーマン・ショックと 2010 年の欧州債務危機は、スウェーデンの地方政府の財政
や地方債市場にどのような影響を与えたのか。
・ スウェーデンの地方政府の起債と債務管理の基本的な方針はどのようなものか。
・ ストックホルム市、コペンハーゲン市
・ 2008 年のリーマン・ショックと 2010 年の欧州債務危機は、市の財政状況と地方債の起債に
どのような影響を与えたのか。また、過去の危機との相違点および共通点は何か。
・ 市の起債と債務管理の基本的な方針はどのようなものか。また、起債にあたって中央政府か
ら何らかの支援はあるか。
333
6
学部授業
6 学部授業
6.1
2010 年度
・授業科目:転換期の地方財政
担当教員:持田信樹
開講学期:冬学期
・授業科目:変革期の地方債と地域主権
担当教員:丸山淑夫
開講学期:夏学期
・授業科目:転換期の地方財政
担当教員:持田信樹
開講学期:冬学期
・授業科目:変革期の地方債と地域主権
担当教員:丸山淑夫
開講学期:夏学期
・授業科目:転換期の地方財政
担当教員:持田信樹
開講学期:冬学期
・授業科目:変革期の自治体経営と地方財政 担当教員:緒方俊則
開講学期:夏学期
・授業科目:地方財政の経済分析
開講学期:冬学期
6.2
6.3
6.4
2011 年度
2012 年度
2013 年度
担当教員:林正義
334
7
寄付講座の概要
7 寄付講座の概要
1.
設置年月日
(設置期間)平成 22 年 10 月 1 日
(平成 22 年 10 月 1 日~平成 25 年 9 月 31 日)3 年間
2.
大学名(部局名)東京大学大学院経済学研究科
3.
寄付講座の名称 (和文)転換期の地方財政
(英文)Local Finance in Transformation
4.
寄附者 地方公共団体金融機構
理事長 渡邉 雄司
5.
寄附者の概要
(1) 業務① 地方公共団体に対する長期・低利資金の貸付
(平成 20 年度末貸付残高 22.2 兆円)
②
地方公共団体の資金調達に関する支援
(2) 根拠法 地方公共団体金融機構法(平成 19 年法律第 64 号)
(3) 出資金 166 億円(全地方公共団体(都道府県・市区町村)による出資)
(4) 職員数 79 人(平成 21 年 4 月 1 日現在)
6.
研究目的
地方財政や地方債について、研究者に加え、市場関係者や地方公共団体、関係省庁等の実務家も
参画し、制度面・実践面の双方を踏まえた研究・教育を行う。
7.
研究内容・研究課題
地方財政や地方債に関して、制度面での体系的な整理に加え、地方債の格付け・クレジット分析
や共同発行、公会計や自治体監査など、最新のトピックや実務に役立つテーマを研究課題とする。
8.
期待される成果
近年、制度面のみならず、実務・運用の面でも変革期を迎えている地方財政、地方債について、
理論と事務を 兼ね備えた研究が可能になるとともに、教育面においても、学生が地方財政、金融
に対する理解を深める機会になるものである。
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寄付講座の組織・機構
8 寄付講座の組織・機構
◆東京大学大学院経済学研究科寄付講座運営小委員会
伊藤 正直
(東京大学大学院経済学研究科教授)
井堀 利宏
(東京大学大学院経済学研究科教授)
神谷 和也
(東京大学大学院経済学研究科教授)
田渕 隆俊
(東京大学大学院経済学研究科教授)
馬場 哲
(東京大学大学院経済学研究科教授)
林 正義
(東京大学大学院経済学研究科教授)
持田 信樹
(東京大学大学院経済学研究科教授)
◆地方公共団体金融機構寄付講座フォーラム運営委員会
相田 佳子 第 1 期
(東京都財務局主計部公債課長)
稲垣 敦子 第 2 期
(東京都財務局主計部公債課長)
稲生 信男 第 1 期・第 2 期
(東洋大学国際地域学部教授)
江夏 あかね 第 1 期・第 2 期
(株式会社野村資本市場研究所研究部主任研究員)
緒方 俊則 第 1 期
(地方公共団体金融機構地方支援部長・総括主任研究員)
小西 砂千夫 第 1 期・第 2 期
(関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授)
田中 敦仁 第 2 期
(地方公共団体金融機構地方支援部長・総括主任研究員)
田中 俊次 第 2 期
(川崎市財政局担当理事・財政部長)
遠松 秀将 第 1 期
(東京都財務局主計部公債課長)
中里 透 第 2 期
(上智大学経済学部准教授)
林 正義
第2期
(東京大学大学院経済学研究科教授)
丸山 淑夫 第 1 期
(地方公共団体金融機構経営企画部総括主任研究員)
三富 吉浩 第 1 期
(川崎市財政局財政部資金課長)
持田 信樹 第 1 期・第 2 期
(東京大学大学院経済学研究科教授)
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寄付講座の組織・機構
◆フォーラム運営委員会事務局(※は事務局長)
青木 世一 第 1 期・第 2 期
(財団法人地方債協会企画調査部副参事)
※天羽 正継 第 1 期
(東京大学大学院経済学研究科特任助教)
石橋 美秀 第 1 期・第 2 期
(地方公共団体金融機構地方支援部調査企画課主査)
鵜飼 陽介 第 1 期
(地方公共団体金融機構経営企画部地方支援課主査)
※橋都由加子 第 2 期
(東京大学大学院経済学研究科特任助教)
村川 勝司 第 2 期
(地方公共団体金融機構地方支援部調査企画課長)
肩書きはいずれも当時のもの
本資料についてのお問い合わせ先:
東京大学大学院経済学研究科・経済学部 地方公共団体金融機構寄付講座
フォーラム運営委員会事務局
〒113-0033 東京都文京区本郷 7 丁目 3 番 1 号 経済学研究科棟 10 階 1010 号室
tel 03-5841-5628 fax 03-5841-5521
寄付講座ホームページ:htttp://www.e.u-tokyo.ac.jp/kifu/jfm.html
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