第59次(平成26年度)海外電設視察団報告書 目 次 ページ はじめに ················································································· 1 Ⅰ.行程・団編成・訪問国の概要 1.行 程 ········································································ 2 2.団編成 ········································································ 4 3.訪問国の概要································································ 5 Ⅱ.NECA(全米電設工業協会)南テキサス支部との意見交換 ·········· 6 Ⅲ.サンアントニオ市国際交流部へのヒアリング ···························· 8 Ⅳ.フーバーダム(水力発電)現場視察 ······································· 11 Ⅴ.エコ型テーマパーク(アリアリゾート&カジノホテル)の電気設備視察 ····· 21 Ⅵ. スマートグリッド関連企業「トリリアント社」へのヒアリング ········· 27 まとめ ··················································································· 30 2014 年 12 月 3 日 はじめに (一社)日本電設工業協会は、平成 26 年 10 月 2 日(木)から 10 月 10 日(金)まで の 9 日間、米国(アメリカ合衆国)に、第 59 次海外電設視察団を派遣した。 当協会の海外窓口である経営企画委員会・国際交流専門委員会において、実施計画 等の準備が進められ、本年 6 月から参加者の募集を開始し、8 月 8 日に募集を締め切 った。最終的には、当協会の島津佳弘(経営企画委員会副委員長)を団長とする総勢 15 名の視察団となった。 視察内容は、①NECA(全米電設工業協会)南テキサス支部との意見交換、②サン アントニオ市国際交流部へのヒアリング、③フーバーダムの現場視察、④ラスベガス のエコ型テーマパークの視察、⑤シリコンバレーのスマートグリッド関連企業(トリ リアント社)へのヒアリングである。視察により米国における電気設備業界の現状、 歴史ある水力発電技術、日本でも導入が検討されている統合型リゾートの先進的な環 境対策設備、スマートグリッド及びシェールガスの動向について貴重な情報を得るこ とができた。 日本国内では東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故、その後の全国の原 子力発電所の運転停止に伴い、電力供給の化石燃料への依存度が 62%(2010 年度) から 88%(2013 年度)に上昇し、エネルギーの安定供給のリスクが増大している。 また発電用化石燃料の輸入額の国民負担は 17 兆円(2010 年度)から 27 兆円(2013 年度)に増加し、国の富が海外に流出している。対策として 2014 年 4 月に新たなエ ネルギー基本計画が策定され、再生可能エネルギー及び分散型エネルギーの利用促進、 エネルギー消費のスマート化、電力システム改革など多数の新しい構造改革が実施さ れることとなった。 本報告書は、今回の視察団による米国の先進的なエネルギー技術及び電気設備業界 の現状の視察結果をまとめたものである。本報告書が今後の日本のエネルギー供給の 課題解決、そのための電気設備業界の対応などを考察するうえでの一助となれば幸い である。 1 Ⅰ.行程・団編成・訪問国の概要 1. 行程 月 日 10 月 2 日 (木) 滞在、移動 視察先 東京(成田) 発→ シカゴ →サンアントニオ ・NECA(全米電設工業協会)南テ キサス支部 との意見交換 ・サンアントニオ市国際交流部への サンアントニオ滞在 10 月 3 日 (金) ヒアリング 10 月 4 日 サンアントニオ→ (土) 10 月 5 日 ヒューストン ヒューストン→ (日) ラスベガス ・フーバーダムの現場視察 (水力発電) ・エコ型・テーマパーク アリアリゾ ート&カジノホテルの電気設備視 察 ラスベガス 10 月 6 日 (月) 10 月 7 日 ラスベガス→ (火) 10 月 8 日 サンフランシスコ ・トリリアント社のスマートグリッ ドの実情・取組みヒアリング サンフランシスコ (水) 10 月 9 日 サンフランシスコ→ (木) 10 月 10 日 成田 成田 着 (金) 2 [ルートマップ] 3 2. 団編成 氏 団 長 名 島津 所属会社 佳弘 会社役職等 取締役常務執行役員技術開発本部長 (経営企画委員会副委員長) ㈱ミライト 〔取材・報告書作成班〕 (☆は班長) ◎第1班(NECA 南テキサス支部、サンアントニオ市国際交流部)) ☆ 馬場 隆浩 八千代電設工業㈱ 電設部電気部第 3 課長 一瓢 秀次 三栄電気工業㈱ 社長 森 博明 三和電気土木工事㈱ 代表取締役社長 ◎第2班(フーバーダム) ☆ 吉村 光司 ㈱八洲電業社 代表取締役 白川 尚樹 ㈱白川電機製作所 代表取締役社長 伏木 忠了 北電力設備工事㈱ 代表取締役会長 ◎第3班(エコ型テーマパーク・アリアリゾート&カジノ) ☆ 阿部 真一 新生テクノス㈱ 東京支店副支店長 猪野 生紀 ㈱九電工 取締役専務執行役員東京本社代表 松岡 徹 旭電業㈱ 代表取締役社長 山本 倫郎 大阪電機商事㈱ 取締役社長 ◎第4班 ☆ (トリリアント社 スマートグリッド) 山本 篤 因幡電機産業㈱ 電設東日本事業部第 3 営業部営業 1 課長 佐野 清孝 日本電設工業㈱ 営業統括本部副本部長 山崎 義行 ㈱開進堂 代表取締役 伸二 (一社)日本電設工業協会 常務理事 ◎事務局 中山 4 3. 訪問国の概要 米 日 国 本 962.8 万 km2 (第 3 位) 31,694.2 万人 (2013 年、3 位) 37.8 万 km2 (第 62 位) 12,653 万人 (2012 年、10 位) 33.7 人/km² 337 人/km² ワシントン D.C 東京都 主要言語 英語 日本語 政 体 ・議 会 大統領制・連邦制、二院制 立憲君主制・二院制 面 積 人 口 人口密度 首 宗 歴 都 教 史 月別平均気温 年間降水量 電 圧 通 貨 GDP [2012 年] 経済成長率 (実質) 主にキリスト教 神道、仏教が主 (信教の自由を憲法で保障) 1861 年 南北戦争 1865 年 西部開拓時代 1890 年~帝国主義時代 1945 年 冷戦 ワシントン D.C (1 月) -3.0℃~ (7 月) 31.4℃ ワシントン D.C 982mm 1868 年 明治維新 1902 年 日英同盟 1947 年 日本国憲法施行 東京 (1 月) 6.3℃~ (8 月) 27.7℃ 1,467mm 100V 100V-120V 50 Hz・60 Hz 60Hz US ドル 円 (1 ドル=116 円)11/17 現在 16 兆 487 億ドル 4 兆 8,460 億ドル (第 1 位) (第 3 位) 2.15% 0.89% (2014 年) (2014 年) 5 東京 Ⅱ.NECA(全米電設工業協会)南テキサス支部との意見交換 日 時 場 所 2014 年 10 月 3 日(金) 9 時 00 分 ~ 9 時 50 分 テキサス州サンアントニオ市「グランドハイアット サンアントニオ」 会議室 レス・モーナハン氏(NECA(全米電設工業協会)統括部長)、ダレル・ク レッカ氏(クレッカ社 対応者 社長) 、デニス・ピレ氏(アルターマン社最高執 行責任者) 、オラビル・アンソニー氏(アルターマン社 アート・サリナス氏(アルターマン社 上席副社長) 、 取締役) (1)概要 NECA(全米電設工業協会)本部はワシントン DC 郊外、メリーランド州ベセス ダが所在地であるが、第 59 次海外電設視察団では南テキサス支部を訪問し、発注 体制や雇用の問題等について意見交換を行った。短時間での意見交換会となる関係 上、質疑応答形式にて実施した。 (2)質疑応答 Q1)日本では長年の建設投資の減少に伴い、受注競争が激化、就労環境が悪化し 他産業を上回る就業者の高齢化と若年入職者の減少により人材不足に悩まさ れているが、アメリカでの状況はどうか。 A1)アメリカでも同様の問題を抱えている。電工の平均年齢は 44 歳である。政 府としては就業よりも大学へ行くよう推薦しており、労働を推薦していない 風潮が見受けられる。 Q2)電気設備に係る資格制度はどのようなものがあるか。 A2)アメリカでは州の専門学校を卒業すると資格が与えられる。テキサス州全体 として専門学校に進学するようにアピールしているが、今後は中学生の頃か らテクニシャンを育てるような方策も検討したい。 Q3)電工の平均賃金はどの程度か。 A3)テキサス州の場合、時給換算すると 25 ドル程度(福利厚生込であれば 36 ド ル) 。アメリカの中でテキサス州は物価も安く、この程度の賃金となる一方で サンフランシスコなどでは 125 ドルとも言われている。 Q4)アメリカでは移民労働者が多いと聞くが、テキサス州では採用しているか。 A4)テキサス州はメキシコと陸続きである関係から、確かに移民労働者は多い。 移民労働者は非合法で就労する場合が多いが、NECA では合法な範囲で採用 している。組合に登録した作業員を採用するので問題はない。 6 Q5)日本では公共工事においては分離発注が基本、市町村では約 70%が分離発注 である。民間工事ではゼネコン一括発注が主体であり、その要因は施主側の 人材不足から一括発注に後退する傾向である。アメリカの現状はどうか。 A5)テキサス州では CM 方式が一般的となっている。過去は最安値を提示した業 者が落札していたが、今はベストプライス(適正価格)の業者を選定する。 GMP(予算上限が設定されており、品質を競わせる方式)も採用される。 一般的には 75%がゼネコン発注、残り 25%がデザインアシスト(設計時から 技術者が加わる)となるが近年ではその比率が半々くらいに伸びている。 (3)一般的所感 今回の意見交換を終えて、短時間ながら有意義な意見を聞くことが出来た。人材 の問題等は概ねアメリカも同様の問題は抱えているものの、就労人員自体は大きく 減少していないという点には若干の疑問を感じた。 今回の NECA 代表者の方々は、現場で実際に工事を行ってきた「叩き上げ」のメ ンバーであったことから、施工業者なりの意見が多いように思えた。アメリカでは 4 人に 1 人が大学に行く現状がある中、中学のころからテクニシャンを育てて行き たいといった願望もあった。 アメリカの労働力は移民就労者が大きく関係しており、工事業者の中には違法移 民労働者を採用して工事している事例も現実にあるというコメントがあった。その 部分はあまりリサーチすることが出来なかった点が残念である。 【NECA との集合写真】 7 Ⅲ.サンアントニオ市 国際交流部へのヒアリング 日 時 2014 年 10 月 3 日(金) 10 時 30 分 ~ 11 時 50 分 場 所 テキサス州サンアントニオ市国際交流部 会議室 シェリー・ドラッドシャヒ氏(外交儀礼主事) 、マーク・パターソン氏(契 対応者 約監理者) 、ビル・ヘンスリー氏(建築技師) (1)概要 サンアントニオ市国際交流部を訪問し、サンアントニオ市の工事発注形態や環境 問題への取り組み、シェールガスの経済波及効果などをヒアリングした。 サンアントニオ市はテキサス州西部の商業、金融、工業の中心地で、食品業のほ か航空機、建築材など多種多様な工業が発展している。また市内に空軍基地があり 軍事基地の一面も持つ一方で、西部開拓時代の雰囲気をも色濃く残し、テキサス独 立戦争のアラモ砦やリバーウォークなどがあり年間 100 万人以上の観光客が訪れる。 (2)サンアントニオ市国際交流部からのプレゼンテーション(発注形態等) サンアントニオ市国際交流部(TCI)から、業務内容と市発注物件の発注形態の説 明があった。サンアントニオ市の業務は交通・大型プロジェクト含めて設計・監理・ 入札・ネゴ交渉・日々の施工管理など多種多様に及ぶ。上記及び市の不動産管理や アート展示等の入札や設置の管理も行っている。発注形態は主に以下の種別がある。 ①Low Bid 従来式の発注形態で、価格勝負で落札が決まる。入札はオープン形式で新聞広 告を 30 日前から 2 回行う。価格勝負の為、市としてはコストダウンに繋がるが、 主な対象物件は簡易な工事(市管理物件の庇設置や公園のベンチ設置等)を Low Bid で発注する。 ②Qualified Low Bid 上記の発注形態が主体であるが、過去の施工実績等を落札判定基準のひとつに 加える。この形態も道路・歩道の舗装や公園の補修等、小規模な工事の際に採用 する。 ③Design Build 最近注目されている形態で、デザイナーとコンストラクターがチームになるこ とで窓口が一本化出来ることから市としては管理が容易である。 ④Construction Maneger at Risk コンストラクターにマネージャーが加わり、サンアントニオ空港の拡張工事等 に用いられた。工期の厳しい工事や難易度の高い工事に採用される。GMP 8 (Guaranteed Maximum Price)という予算上限を先に決めておいて、品質を競わ せるという方式も採用される。 (3)質疑応答 Q1)市の入札はサブコンが直接入札出来るか。 A1)サブコンが直接入札することはない。但し、チームとして(デザイナーとサ ブコンが組む)の入札参加は可能。 Q2)日本の業者の入札参加は可能か。 A2)可能である。市内の業者を使いたいのが本音であるが、それだけでは無理が ある。大いに歓迎する。 Q3)日本の公共工事物件では物価や資材、労務費の変動を考慮し、発注価格を見 直す制度があるが、サンアントニオ市には同じような制度はあるか。 A3)無い。入札する業者側は工事価格を出す際に、その金額を保証する制度があ り受注者側でそのリスク分を見込んだ上での価格を提示しているはず。 Q4)入札保証・履行保証はどの程度必要か。 ※日本は 10%~30% A4)ビッドボンド・パフォーマンスボンドが入札、契約金額の 100%必要である。 (4)サンアントニオ市国際交流部からのプレゼンテーション(クリーンエネルギー政策) サンアントニオ市は、以前洪水が多く市内各所に水害が多く発生していた。数年 前に㈱大林組が地下トンネルの工事を受注し、完成した後は水害も無くなった。市 の担当部局(TCI)は市の他部門(市バス部門や水道局)と連携し、エネルギー削減計 画を遂行している。エネルギーマネージメントを重視し、省エネに務めているが、 その年ごとに1つの目標を立て、ひとつずつクリアしていく。市が所有する物件が 大小合わせて 1,390 万箇所あるが、古い老朽化した建物を省エネ化するために窓に 遮光フィルムを貼ったりする対応も実施している。近年の省エネルギー化対策のお かけで 3 億ドルのコストカットが出来た。サンアントニオ市の人口は増加している が、ここ 6 年ほどの間に 7%のエネルギー削減に繋がった。 (5)質疑応答 Q1)テキサス州はシェールガス採掘が盛んであるが採掘量は想定内か。 A1)想像した以上にシェールガスは出ている。 Q2)シェールガスとゼロカーボン政策とは対立するが市としてはどう考えている か。 A2)大きな意味合いで少しずつ省エネしていきたい。 9 (6)一般的所感 当初はシェールガスの採掘現場視察であったが、セキリュティの関係から視察は 困難になった。そこで、シェールガスの採掘が活発なサンアントニオ市を訪問し、 シェールガスの実情をヒアリングする予定であったが、シェールガスの採掘は民間 が主体で行っている関係からか、サンアントニオ市としては口が重かったように見 受けられた。サンアントニオ市として 9 月末にシェールガスを日本に紹介してきた というコメントもあったが、今回シェールガスのプレゼンテーションは無かった。 市の発注形態やエネルギー政策には日本との大きな違いは見受けられなかったが、 エネルギー削減や発注方式の工夫などで得たコストを使い、ファンドを設立し次の 省エネプロジェクトに活用するという点はアメリカ的な面白い発想であった。 【市担当者のプレゼンテーション風景】 【サンアントニオ市の議場】 10 Ⅳ.フーバーダム現場視察 日 時 2014 年 10 月 6 日(月)10 時 00 分~12 時 00 分 場 所 ネバダ州・アリゾナ州の州境 対応者 ベス・ヤング氏(責任者) 、クリス氏(ガイド) (1)概要 フーバーダムは 1936 年にアメリカ合衆国ネバダ州ラスベガスの南東約 48km、コ ロラド川のブラック峡谷に建造された歴史的なダムであり、アリゾナ州とネバダ州 の州境に位置する。コロラド川に設けられた人工貯水池はミード湖と呼ばれ、当時 は圧倒的な世界最大のダム施設であった。 フーバーダムは歴史 的・軍事的・技術的観点 から現在においてもア メリカとその国民に大 変重要な意味を持つ建 造物であり、今もなお現 役で稼動を続けている。 また、アメリカで最も人 気の観光スポットの一 つとなっている。 フーバーダムで発電さ 【ラスベガスとミード湖の位置関係】 れた電力は、カリフォル ニア州、アリゾナ州、そしてラスベガスなどに供給されている。 また、フーバーダムとミード湖は、それまでさしたる産業のないネバダ州にあっ て、砂漠の中に煌々とネオンを散りばめる”不夜城”ラスベガスを作った。ラスベガ スの人口は瞬く間に増えていき、60 万人を越えた今もなおその勢いは止まらない。 一方、9.11 のテロ以降、フーバーダム周辺の警備が徹底され、検問の影響から、 流通の大動脈が大渋滞を起こすようになった。これにより、バイパス道路の建設が 始まり(計画は 1984 年に決定していた) 、2010 年 10 月、フーバーダムに架かる北 米最長のコンクリート橋「コロラドリーバー橋」が竣工した。施工は大林組であっ た。 また、コロラド川の水はロッキー山脈の雪解け水であるが、近年温暖化の影響か らロッキー山脈の積雪量が減少している。その影響によりミード湖は毎年水位を下 げ、水不足が問題視され始めている。 11 ○フーバーダム(ミード湖)の概要 アーチ重力式 型 式 目 的 周辺地域の治水、水力発電 高 さ 221.3m コンクリートダム 提 頂 長 379.2m 提 頂 幅 13.7m 基 礎 幅 201.2m コンクリート容積 ダム部:260 万 m3 発電所他:85 万 m3 ○発電所 17 基(ネバダ州側 8 基、 発 電 機 数 アリゾナ州側 9 基 GE 製 及び Westinghouse 製) 所 内 用 発 電 機 2基 水 車 名 目 発 電 量 フランシス水車 (所内用はペルトン水車) 208 万 kW (所内用発電を含む) 長 さ ( 片 側 ) 198m 幅 ( 片 側 ) 16.8m 高 さ ( 片 側 ) 22.8m ○ミード湖と琵琶湖の比較 名 称 湖 貯 最 湖 容 深 表 琵琶湖 線 885km 岸 水 ミード湖 面 積 241km 27.5 km3 34.85km3 (約 280 億 kℓ) (約 350 億 kℓ) 部 151.4m 103.6m 積 643.55km2 670 km2 満 水 時 湖 長 177km 63.49km 12 【発電所内】 【フーバーダム】 【ミード湖。水位が下がっている様子が窺える】 【コロラドリバー橋(アーチ支間 323m)】 【大規模な変電所が隣接する】 13 (2)ダム建設以前の背景 何百万年もの間、コロラド川は西アメリカの乾燥地帯を貫き、ロッキー山脈から カリフォルニア湾に至る 2,300km の流域に水を運んできた。西暦 600 年には既に 人々はその水を利用するようになり、西部での領地争いが落ち着く年代になると、 その流域にますます頼るようになった。 1800 年代から 1900 年代初頭にかけては、春と初夏に雪解け水の急増により川が しばしば氾濫し、低地の農地や集落に被害をもたらした。また晩夏と初秋には流量 が極端に減り、降水量がほとんど無い地域とあって水不足を招いた。この川を使い 続けるには、年間を通して安定した水の供給が出来るように制御する必要があった。 しかし川を管理するにあたり、流域の 7 つの州の間でその利権が公正かつ公平に提 供されるように考慮しなければならなかった。 1922 年、各州及び連邦政府の代表 はコロラド川条約を作成することに合意し、同年 11 月に調印された。本条約は、 コロラド川流域を上下半分に分け、それぞれの流域に河川の年間推定流量の半分の 権利を付与したが、各流域での配分に関しては放置された。 (メキシコは 1944 年に 「コロラド川の水利用に関する米墨間条約」が締結されるまで、保証された配分を 受け取らなかった。 ) (3)建設技術 その条約は、貯蔵ダムや配送施設等の建設へと道を開き、1928 年に議会はボルダ ーキャニオンプロジェクト法律を可決しフーバーダムの建設を認可した。経緯から も見て取れるように、ダム建設の主目的は治水であった。 フーバーダムの建設は 1931 年に始まり、1935 年に最後のコンクリートが投入さ れた。山奥というロケーションや過酷な労働条件にもかかわらず、請負業者 6 社か らなる企業体は、予算を超過することなく 2 年前倒しでプロジェクトを完了させ 1936 年 3 月 1 日に連邦政府に引き渡した。後半の 2 年間は 365 日 24 時間作業が実 行され、約 78 秒に 1 回のペースで 16tのコンクリートが流し込まれた。最終的に 【コンクリート打設状況 1934 年】 【施工風景 14 コロラド川を見下ろす】 使用されたコンクリートはダム部で 260 万 m3、発電所等で 85 万 m3 となった。 フーバーダムの建設技術は当時の前例がなく、世界最大のダムとなった。これは 世界中に大国の国力を示すとともに、国民の誇りと尊厳を大いに鼓舞した。1985 年ラスベガス、ネバダ州に近いブラック峡谷に位置するこのダムは国定歴史建造物 に認定され、人気の観光名所となった。フーバーダムはその時代背景と神がかり的 な偉業から世界土木工事の 7 不思議の一つと言われている。 フランクリン・ルーズベルト政権下にあった 1935 年 9 月 30 日にダムが竣工し、 1936 年に入り水車が据付けられ、同年 10 月に最初の発電機が運転を開始した。17 基すべてが稼動したのは 1961 年であった。フーバーダムの貯水池、ミード湖はア メリカ最大の人工貯水池となった。ミード湖はアメリカ合衆国内務省開拓局長官で あったエルウッド·ミード博士にちなんで名づけられ、34.85km3(約 350 億 kℓ)の 水(コロラド川の平均年間流量約 2 年分、琵琶湖の約 1.25 倍)を格納することがで きる。 フーバーダムは第 31 代大統領ハーバート·フーバーにちなんで命名されている。 かつてはボールダーダムと呼ばれていたが 1947 年に議会によって正式に命名され た。フーバー大統領は、コロラド川が近隣農地の灌漑用水として、また南カリフォ ルニアの集落への生活水として供給され、高い信頼性をもって制御するためには、 流域に高いコンクリートダムの建設が必要であると強く訴えた。また同時にダムは 売電収益によって自立した運営をしていくべきだと提唱した。今日に至るまで、設 備の運用·維持管理は 100%売電収入のみでサポートされ続けている。 【建設の全体図】 15 (4)メンテナンス ①ダム フーバーダムは驚くべきことにコンクリートの監視や点検を行っていない。 1995 年にダムより採取したコンク リート片を検査した際、通常よりも 遥かに高い圧縮強度を示した。それ は短工期といえどもじっくり丁寧に コンクリートを固めたことが要因だ としている。 この検査の結果、約 2,500 年の耐久 性があるとしてメンテナンスフリー としている。実際に目視をしてみて 【メンテナンスフリーのコンクリート面】 も、ヒビ一つ無く至ってきれいな壁 面をしており、建設から 1 世紀が経とうとしているとは到底思えない。このよう なところも 7 不思議といわれる所以のようだ。 ②発電プラント タービンを開放してのメンテナンス、つまりオーバーホールは 20 年に 1 度く らいであるが、定期点検は年 1 回行っているようである。幸運にも我々視察団が 訪問した際にメンテナンス中の発電機ロータを見ることが出来た。 このロータに関しては老朽化に伴い過去に更新をしているが、ケーシングは開 所当時のものであるという。 【提頂から発電所を見る】 【メンテナンス中の発電機ロータ】 16 (5)ダムがもたらす利得・影響 ボルダーキャニオンプロジェクト法によりフーバーダム建設が承認され、治水(コ ロラド川の流量制御、規制の改善、貯水及び灌漑用水や生活用水の配信) 、と水力発 電所は南西地域に様々な恩恵をもたらした。 ①灌漑用水 4,000km2 を超えるアメリカの最も豊かな農耕地やメキシコの約 2,000km2 の農 耕地へ灌漑用水として提供されており、これらの土地では年間を通じて果物、野 菜、綿、干し草等の多種多様な植物が栽培されており、地域経済に数百万ドルの 貢献をもたらしている。 ②生活用水 アリゾナ州、ネバダ州とカリフォルニア州のラスベガス、ロサンゼルス、サン ディエゴ、フェニックス、ツーソンや他の南西部の都市、インディアンの集落等 で 2,000 万人以上の生活用水のニーズに応えている。 ③電力供給 ネバダ州、アリゾナ州とカリフォルニア州で使用される電力を低コストの水力 発電で生成している。フーバーダムの発電量は年間 40 億 kWh であり、130 万人 を賄うに十分である。 1939 年から 1949 年まで、フーバー発電所は世界最大の 水力発電所であった。1984 年には 17 基の主発電ユニットの出力向上、観光客用 の駐車場施設の建設、及びフーバーダムバイパス橋の建設が決定された。これに より、最大出力は日本の原子力発電所の 2 基分に相当する 200 万 kW まで向上し、 現在においてもまだ国内最大の水力発電施設の一つである。この電力は 2017 年 までの有効期限契約として西部地域の 15 の電源管理事業体を通じて市販されて いる、電力の 56%は南カリフォルニアに供給され、アリゾナ州は 19%、ネバダ 州は 25%を得る。そのうちラスベガスへの供給は数%に満たない。そもそも周辺 地域の電力バランスは、原子力:火力:水力:その他=0:80:19:1 であり、 火力依存の構図である。売電収入はボルダーキャニオンプロジェクトの費用 1.65 億ドルに対する連邦財務省への返済のほか、設備の保守や老朽化した部材の交換 費用に充てられている。 ④保養地 今日フーバーダムやその他のダムによって造られた湖(ミード湖、モハベ湖等) やその周辺地域はミード湖国立保養地の一部として国立公園局によって管理され ている。ここでは湖水浴、ボート、釣り、その他のウォータースポーツが盛んに 行われており、年間 900 万人の観光客を魅了するアメリカで最も人気のあるレク リエーションエリアの一つとなっている。 17 ⑤環境影響 ダム建設により、いくつかの野生生物生息地を侵し、在来種と外来種のバラン スや餌となる植物の分布にも影響を及ぼした。最近の研究ではその影響はグラン ドキャニオンにまで及んでいるということが分かっている。1930 年代には重要視 するものはいなかったが、生態系への研究や環境保全の意識が高まっている昨今 では、連邦、州間の共同プログラム、及び地方機関によって天然の水辺の植物を 増やしたりコロラド川沿いの在来の鳥や魚、動物の生態系復元を支援している。 しかし、ツアーガイドによればほとんど何も講じられていないのが現状のようだ。 (6)フーバーダムの現況 フーバーダムがコロラド川から産まれてほぼ一世紀が経過する。より近代的なダ ムはより高く、より多くの電力を発生させるが、この大事業は今でも変わらず国民 及び世界中の観光客数百万人を魅了し続けている。 年間を通して、写真家や画家が訪れ、映画 製作会社や公共テレビ、広告企業等もよくそ の姿を題材に用いる。ダムやプラントを見学 する観光客は増え続けており、毎年約 100 万 人の観光客がガイド付きツアーに参加する。 その他ダム周辺を散策したり景色をカメラに 収める観光客は数え切れない。 フーバーダムの観光ツアーは、クリスマス と感謝祭日を除いて毎日実施されている。ビ ジターセンターでは、音響映像プレゼンテー ション、インタラクティブなマルチメディア 展示や写真の掲示、発電所の技術資料、ダム・ ミード湖・コロラド川の鳥瞰模型などが展示 されている。 施設の入館に関しては 9.11 以降、警備が大 【水車と発電機の展示模型】 変厳しくなった。それは、アルカイダ幹部が事件前日の 9 月 10 日にラスベガスに 宿泊しており、アメリカの象徴であるフーバーダムの破壊を計画していたとの情報 があったとされるからだ。実際我々視察団も入館の際には施設手前でバスのチェッ クから始まり、入口では空港での検査と同様に靴を脱ぎ、ベルトをはずし、バッグ を X 線のベルトに乗せ、ゲートを潜らなければならなかった。これは我々のような 外国人に限らず、毎日すべての入場者に対して行われているという。アメリカがテ ロの脅威から脱却するには 13 年の月日では到底足りないことを物語っていた。 18 (7)質疑応答 Q1)周辺地域の電力配分はどのようになっているか?(原子力:火力:水力 etc) またそれにおけるフーバーダム依存度は何%程度か? A1)概算であるが、原子力:火力:水力:その他=0:80:19:1 である。フー バーダムの依存度は数%程度である。 Q2)ダムと発電所が及ぼす環境影響はどのようなものか?またどのような対策を 講じているか? A2)グランドキャニオンの生態系に影響を与えている。現状では対策はしていな い。 Q3)水車のエネルギー効率はどのくらいか? A3)水車の効率は分からないが、以前は 85MW 程度だった発電量が今では 130MW になっている事から、全体的には相応の効率化が進んでいる。 Q4)稼動は電力ピーク時に限られると思うが、年間の稼動実績はどのくらいか? A4)基本的には水と電力の需要によるが、給水は常にあるので年間を通して全停 止することはない。 Q5)タービンを開放してのメンテナンスの頻度はどのくらいか? A5)オーバーホールは 20 年に 1 回である。 Q6)常駐している従業員はどのくらいか? A6)100~200 人程度である。 Q7)フーバーダムの建設目的は、電力ではなく治水であると聞いたことがあるが、 それは正しいか。またそれは現在でも同じか? A7)そのとおりである。 Q8)年間の観光者数と観光収入はどのくらいか? A8)ツアー観光客は約 100 万人。観光収入額ははっきりしないが、そこから利益 は得ていない。観光収入はすべて観光事業の運営維持に使用される。 Q9)ダムコンクリートの劣化(クラック)点検や補修作業はどのように行うのか? A9)大変強度の高いコンクリートが使用されており、クラックが発生することは ない。試算では約 2,500 年の耐久性があり、そのため点検や補修作業は行っ ていない。 Q10)発電コストはどれくらいか? A10)¢5~6/kW である。 (7)一般的所感 フーバーダムの建設時期は昭和 6 年から昭和 11 年である。第一次大戦後の当時 日本は満州事変を始め、国連を脱退するなど軍部が勢力を増し政党政治を抑える時 代であった。また、百貨店や劇場、映画館などが乱立していた時期でもあるが国内 19 自動車の年間生産台数は 10 台であったという。 一方、アメリカでは世界恐慌を乗り越えるべくニューディール政策が打ち出され、 公共施設の建設が加速した。時を同じくして近代的な 102 階建てのエンパイアステ ートビル、そしてこのフーバーダムが完成した。実際にこの巨大建造物を目の前に してみると、当時のアメリカにはこれほどの力があったのかと驚愕してしまう。 この時代に 5 年をかけずして建造し、今もヒビ一つないコンクリート品質を保って いる。また、その発電能力は原発 2 基分にもなる。そしてここは当時植生のない、 言わば砂漠の真っ只中である。とても過酷な労働環境であったことは想像に難くな い。ちなみに展示パネルによると、最も賃金が高い仕事はトンネル掘削においてダ イナマイト爆破した後に最初に入り、安全確認を行う業務だったという。 アメリカはこのダムによって当時国内外へ国力を見せ付けることになった。そし て今もなお国民の誇りであり、観光客が絶えない。現在も治水、電力の両面で周辺 地域に貢献している。その恩恵はラスベガスを始めとする周辺地域を訪れれば一目 瞭然だ。果たして日本にそのような建造物があるだろうか。東京タワーかスカイツ リーか黒部ダムか。何も比べ物にならない。しかしその代わりに日本には歴史や文 化そして国民性やサービスといった無形の誇りがあるという事なのだろう。 最後に、国民の誇りであるこの施設を訪れる際に自国民であってもすべて疑いの 目を持って厳しい検査を強いられている光景は、どこか滑稽に写りその背景を慮る のだ。 ※参考文献 1. RECLAMATION HOOVER DAM., U.S. Department of the Interior Bureau of Reclamation., May 2013. 2. RECLAMATION Managing Water in the West 社 HP <http://www.usbr.gov/lc/hooverdam/> 3. Wikipedia http://en.wikipedia.org/wiki/Hoover_Dam 20 Ⅴ.エコ型テーマパーク アリアリゾート&カジノホテルの電気設備視察 日 時 2014 年 10 月 6 日(月)14 時 00 分~15 時 30 分 場 所 ネバダ州ラスベガス市(アリアリゾート&カジノ) 対応者 ジョゼフ・スピネリ氏(副支配人) 、ビル・アーノルド氏(副部長) (1)概要 アリアリゾート&カジノは、ラスベガスの大型複合施設「シティーセンター」内 にある高級カジノホテルである。シティーセンター及びアリアリゾート&カジノは、 ラスベガスに多くのカジノホテルを保有する MGM リゾートインターナショナル社 により総工費約 8,000 億円を掛け、ペリ・クラーク・ペリ建築事務所の設計で 2006 年初めに着工し、2009 年 12 月にオープンした。 アリアリゾート&カジノは、総面積 353,000m2、61 階建てと 51 階建てのホテル (4,004 室)と 16 軒のレストラン、10 軒のバー及びナイトクラブ、14,000m2 のカ ジノスペース、更に、30,000m2 のサロン・プールエリア、28,000m2 の劇場・コン ベンションセンターなどで構成されている。アリアリゾート&カジノは、シティー センター内の一番高い建物としてラスベガスの夜景を彩り、特にホテル棟の二つの 光溢れる曲線は美しく、2010 年最優秀米国建築賞を受賞した。また、エネルギー効 率 30%削減と年間約 117,000kℓ の節水をしており、LEED ゴールドの認定を受け た環境配慮型ホテルである。 【Aria Resort&Casino の全景】 21 ※参考;LEED 認定について Leadership in Energy and Environmental Design の略で米国グリーンビルデ ィング協会が所管している任意の認定制度。建物全体の企画・設計・施工・運営・ メンテナンスまでにわたって省エネ、環境負荷を評価し、ポイントごと(総合計 110 点)に格付けを行っている。 格付けは、低い方からの設定となっている。認定(40~49 点)⇒シルバー(50 ~59 点)⇒ゴールド(60~79 点)⇒プラチナ(80~110 点)この認定を受ける ことで光熱水費の削減や生産性の向上、資産価値の増大につながることからオー ナーにとってメリットがある。アリアリゾート&カジノは、この制度のゴールド 認定である。後一歩のところでプラチナの認定を受けられたが、カジノスペース やホテル客室において喫煙となっていることがプラチナに認定されない理由との ことである。 (2)電源及び熱源設備 アリアリゾート&カジノを含むシティーセンターの電源系統は、シナトラ変電所 (NV エネルギーと MGM リゾートインターナショナルの共同所有)より電圧 13.8kV で 8 回線、地中ケーブルによりシティーセンター内の CENTRAL PLANT と PODIUM に引き込まれている。今回、我々は、CENTRAL PLANT を中心に視 察した。CENTRAL PLANT は、約 15,600m2、11 階建ての建物で、受変電設備、 発電機、ボイラー、チラーなど電源、動力源、熱源の設備と防災センター等により 構成され、主要設備としては、主受変電設備の他、4.6MW のガスタービン発電機 2 台による電源供給と排熱を利用したコジェネレーションシステムが設置されている。 コジェネレーションによる発電電力は全使用電力量約 24MW の内の 35%を占めて いるとのことで、省エネ効果、経済性向上に寄与していると思う。また、非常用の 電源として、2.4MW ディーゼル発電機を 3 台設置して停電等の非常時に備えてい る。 【主受変電設備】 【非常用発電機設備】 22 熱源としては、1,000B.H.P ガスボイラー3 台にて給湯し、4.6MW×2 台のガスタ ービン発電機の排熱利用と合わせ総合効率を高めている。また、冷却設備としてフ ロン冷媒を使ったチラー5,740ton(電源電圧 12.7kV)が 6 台設置され、常時 4 台 を運転し、2 台はスタンバイ状態となっている。 【チラー設備】 (3)中央監視室 CENTRAL PLANT 内にある中央監視室では、 監視対象機器の情報の一元管理と、 運転制御が行われている。中央監視室に設置されている中央監視装置のディスプレ イは、LG 社、Dell 社、SAMSUNG 社製の液晶ディスプレイ 7 台を縦横に組み合わ せ木枠で囲ったもので、我々が通常設置している一体型の監視盤とはかけ離れてい た。機能に満足すればよく、ここはお金を掛けるところではないという考え方が伺 える。 【中央監視室】 【中央監視装置グラフィック画面】 (4)電気設備のメンテナンスについて 24 時間眠らない街のラスベガスは、カジノはもとよりバーやレストランを含め、 23 ほとんど 24 時間営業をしているが、電気設備のメンテナンスはどうなっているの かヒアリングした。 ①電気設備のメンテナンスに係る人数は、 11 人で 24 時間 3 交替制を取っている。 ②定期点検について、 停電して点検した回数はオープンしてから 2 回だけである。 ③機器類が故障した場合の修理は、外注のメンテナンス会社又はメーカーが行う。 ④簡単な修理や工事は、自分たちで行っている。 ⑤電気設備のメンテナンスには、主任技術者制度のような資格は必要ない。 ⑥非常用発電機は月 1 回定期的に試運転し、異常の有無を確認している。 (5)電気室・機械室の電気配管工事について 各機械室等の電源配線について、日本ではケーブルが多く集中する箇所の施工に は、ケーブルラックを使用し、省スペースと省力化を図っているが、視察箇所の機 械室、電気室等では、ケーブルラックを全く使用せず、電気配線は全て露出金属配 管にて施工されていた。 また、その露出配管の施工方法は、あまり統一性が見られず、さまざまな支持間 隔、支持方法で施工されていたことから、バックヤード部分における施工の見栄え はあまり気にしていないように感じた。 機械室、チラー室等の大きさや天井の高さについて、日本の一般的な機械室等は 天井の高さが低くスペースに余裕がないため、配管ルートやダクトルートの確保に 苦心しているが、視察箇所の天井高は非常に余裕があり、施工段階における配管ル ート等の取り合いは、それほど苦労せず納めることができるものと思われる。 【ボイラー室、露出配管】 【チラー室、露出配管】 24 (6)質疑応答 Q1)アリアリゾート&カジノの着工、完成の時期はいつか。 A1)シティーセンター全体として、2006 年着工、2009 年完成である。 Q2)この建物の CENTRAL PLANT から、電源供給している建物はどこか。 A2)アリアリゾート&カジノ及びモンテカルロホテル、駐車場へ送っている。 Q3)各 SUB 変電所の遮断器操作は、中央監視室から遠隔で行うのか。 A3)遠隔操作ができるシステムであるが、実操作はローカルで行っている。 Q4)照明器具の LED 化について、現状はどうか。 A4)徐々に LED 化を行っており、カジノは全て LED に改修してきている。 しかし、オフィスは予算の都合で手付かずである。 Q5)受変電設備の定期点検について、日本では年一回義務付けられているが、米 国ではどうか。 A5)米国でも定期点検を年一回実施することになっているが、日頃のメンテナン スをしっかりやっているので停電を必要とする年一回の点検は行っていな い。停電を伴う点検は完成後 2 回行ったのみである。 Q6)日本では、受変電設備の保守管理を行う場合、国家資格が必要となるが、米 国でもそのような資格が必要となるのか。 A6)受変電設備を保守管理するために国家資格は必要ない。 (7)一般的所感 今回視察したアリアリゾート&カジノはラスベガスでも有数のカジノ付高級リゾ ートホテルである。その中でも環境問題と建物の資産価値向上を強く意識し、シテ ィーセンターと一体で LEED のゴールド認定を獲得している。ラスベガスで LEED のゴールド認定を獲得した施設は他になく、世界最大級のグリーンビルディングと して高い評価を受けている。日本にも同様の認定制度 CASBEE(建築環境総合性能 評価システム)が存在するが、どうも一般的知名度が上がっていない。日本の建物 も、新築ビルディングは環境負荷の低減を意識し、屋上緑化や太陽光発電、照明の LED 化等に取組み、環境負荷の低減を進めているところは同じであるが、官公庁物 件には積極的取組が見られるものの、民間物件はコストが掛かることや認定に時間 を要することなどから、あまり浸透していない。 質疑応答の中で国の規制や制度は日本ほど厳しくなく、自己責任に委ねられてい ると感じた。日本には主任技術者制度があり、その資格を所有していなければ保守 管理業務を行うことができないが、米国では個人の技術や技能を周囲の者が認める か否かで判断される。また、定期点検期間のガイドラインはあるものの、日頃の点 検を確実にやっていれば良いという考え方がある。規制や制度の緩和については、 メリットとデメリットがあるが、自由競争を重要視している米国との違いを強く感じた。 25 【シティーセンターCENTRAL PLANT 中央監視室にて】 26 Ⅵ.スマートグリッド関連企業「トリリアント社」へのヒアリング 日 時 2014 年 10 月 8 日(水)14 時 00 分~15 時 30 分 場 所 カリフォルニア州 サンマテオ郡 レッドウッドシティ ソニタ・ロントー氏(グローバルコーポレートマーケティング部部長) 、 対応者 レンコ・ボス氏(生産管理統括本部長) (1)概要 サンフランシスコ市から約 25 マイル(40km)南のレッドウッドシティ、オラク ルやエレクトロニック・アーツなど技術系の会社が拠点を構えるシリコンバレーの 一角にトリリアント社はある。 トリリアント社は 30 年間スマートグリッドを提供しており、2010 年には、評価 の高い金融投資企業であるインベスター・グロース・キャピタルとバンデージポイ ント・ベンチャーパートナーズ、そして、スマートグリッド関連機器の大手企業で ある、ABB や GE などから、総額 1 億 600 万ドルもの資金調達を行い、カナダ・ オンタリオ州のハイドロワン社をはじめとする電力会社 200 社以上を顧客とし、配 電と計測、消費者エネルギー管理に於いて、業界で唯一の完結型 End to End のス マートグリッドを保持する企業である。 主に公共事業の操作を簡素化し再生エネルギー資源をエネルギー供給網に統合す ることで、省エネのスマートグリッドを開発している。 (2)トリリアント社からのプレゼンテーション 米国のスマートグリッドの動向・ビジネスの概要 ~トリリアント社の製品・ソリューションの事例と強み ~ 【スマート配電網】 ・障害探索、障害通知など通信アプリを提供。 ・ワイヤレスメッシュ網を使い 160Km 四方 をカバーする。 【スマートメーター(AM I)】 ※AMI: Advanced Metering Infrastructure ・トラブル箇所を早期に知らせることが可能。 ・デマンドサイドマネジメント(DSM)の為 にカナダのハイドロワン社に時間別電力料 【プレゼン風景】 金を AM I で提供。 ・英国ブリティッシュガスにスマートメーターによるガス代の検針サービスを提供。 ・セキュリティが非常に大切である為、メッシュ網によりセキュリティを確保。 27 (3)質疑応答 Q1)日本では福島原子力発電所の事故により国内全ての原発が停止している。今後 の原発の利用については対立意見もあるが、米国における原発の動向についてお 聞きしたい。 A1)米国では電力の需要増加と再生エネルギーの利用のトレンドがある。電力の増 加への対応は設備を増やすよりも時間別電力料金等によりピークカットするこ とが重要である。全世界で原発の議論が始まり、分配網は供給サイド一方通行か ら、再生エネルギーを含めての分散電源を利用する時代を迎えている。 Q2)メッシュ網によりどのようにしてセキュリティを確保しているか。 A2)暗号化、データ分割により実現している。 分配 計測 消費者 電送中継所 運用/管理 広域ネットワーク 近隣エリアネットワーク 家庭内ネットワーク Q3)オバマ大統領のグリーンニューディール政策の後にシェールガスの採掘が本格 化したが、政策の進捗に影響が出ているか?また、米国でのトリリアント社のソ リューションの事例はあるか。 A3)オバマ大統領の政策の補助金が始まると、自治体も電力会社も配電網、スマー トメーターの整備に走った。しかし補助金がなくなりシェールガスが始まるとシ ェールによる火力発電が活発になった。スマートグリッドへの一貫した方向では なく、今ではスマートメーターよりも配電網の整備に集中している。また、シェ ールガスの利用により米国国内の石炭の利用が減り価格が下がったので、石炭は ヨーロッパに輸出されるようになり、結局トータルで CO2 が増えることになっ てしまった。また、トリリアント社の米国でのソリューション事例はある。 28 Q4)トリリアント社のスマートメーターにはデマンドレスポンス信号により電気機 器を制御する機能はあるか。 A4)トリリアント社のスマートメーターではデマンドレスポンスの機能はカバーし ていない。 (4)一般的所感 スマートグリッドに関する取組みは、それぞれの国・地域の置かれている状況に より下記の様に異なっている。 日本 背景 主目的 対象 系統側 制御 需要家側 制御 米国 発・送電設備のインフラ 太陽光発電の大量導入 不足 大停電事故 欧州 風力発電の大量導入 大停電事故 ピーク需要の削減 風力発電の大量導入と 太陽光発電の大量導入 需要家情報を取り入れて それに伴う産業育成 とそれに伴う産業育成 の産業育成 安定運用 安定運用 供給信頼度の向上 発・送電系と需要家を含 む配電系を一体的に捉 える 風力発電制御 揚水発電 蓄電池制御 スマートメーター 見える化 PHEV・EV制御 太陽光発電制御 蓄電池制御 ヒートポンプ給湯器 中国 電力供給不足の解消 韓国 新たなビジネスチャンス と認識 省エネと再生可能エネル 電力品質の向上 ギーの大量導入 送電網の高度化 世界のスマートグリッド 再生可能エネルギーの 市場の1/3のシェア獲得 有効利用 を目指す 発・送電系と需要家を含 送電系統中心 む配電系を一体的に捉 える 需要家を含む配電系が 送電系と需要家を含む 中心(マイクログリッド含 配電系を別々に捉える (マイクログリッド含む) む) 風力発電制御 PMUを用いた広域監視 広域監視制御 PMUを用いた広域監視 揚水発電 制御を指向 蓄電池制御 制御 圧縮空気貯蔵制御 スマートメーター スマートメーター 見える化 見える化 スマートメーター PHEV・EV制御 PHEV・EV制御 - PHEV・EV制御 引き込み線スイッチ制御 引き込み線スイッチ制御 デマンドレスポンス デマンドレスポンス デマンドレスポンス スマート家電 スマート家電 ※PMU:Phasor Measurement Unit 日本は東日本大震災以降、自然エネルギーへの意識が高まり、再生可能エネルギ ーを大量導入することとなったが、現在、電力会社の契約中断など、様々な電力の 安定供給が課題となっている。今後の政府の取組みにも連動した動きとなるが、偏 らぬ、バランスのとれたベストミックスエネルギーが今後の鍵になると思われる。 29 まとめ 今回の視察ではまず初めに、①NECA(全米電設工業協会)南テキサス支部との意 見交換及び②サンアントニオ市国際交流部へのヒアリングによって、米国の電気設備 業界の実態を知ることができた。特に、米国の労働力は移民によって支えられている こと、電気設備の資格は州の専門学校の卒業により与えられること、大学教育よりテ クニシャンの育成を重視すること、設計者と施工者がチームとなるデザインビルド方 式があることなど、米国流の考え方や制度が印象的である。 次に、③フーバーダムの視察では、このダムが日本の昭和初期にあたる 1931 年か ら 1936 年までのわずか 5 年間で作られていることに驚かされた。その規模は琵琶湖 の 1.25 倍の水を格納し原発 2 基分の発電能力を具備し、コンクリートの耐久年月は 2500 年でヒビも無いとのことである。当時の米国の勢いやプライドを実感できる視察 であった。一方で壁面の監視や点検は行っておらず、環境負荷への対策も行っていな いことは逆の意味で驚かされた。 次に、④ラスベガスのエコ型テーマパークの視察では、LEED ゴールド認定のアリ アリゾート&カジノの環境対策を調査した。本施設にはコジェネレーション設備があ り、4.6MW のガスタービン発電機 2 台による発電と排熱利用が行われ、発電電力は 全使用電力量の 24MW の 35%を占めている。これは 24 時間営業の統合型リゾート に適した優れた環境対策であると思う。また、電気設備のメンテナンスに国家資格は 必要ないとのことであり、NECA 南テキサス支部との意見交換と同様に技能を現場で 評価する米国流の気風が感じられた。 最後の⑤シリコンバレーのスマートグリッド関連企業(トリリアント社)へのヒ アリングでは、日本の福島原子力発電所の事故をきっかけに全世界で再生エネルギー と分散電源の利用推進の議論が始まったこと、シェールガスの影響でスマートメータ ー配備にブレーキがかかっていることなど貴重な情報が得られた。さらに、シェール ガスにより欧州への石炭輸出が増加し、トータルで CO2 は増加しているという皮肉な 現実を知った。 今回の視察のテーマとなった自然エネルギー、コジェネレーション、スマートメー ター、デマンドレスポンス等は、日本においても 2014 年 4 月に策定された新たなエ ネルギー基本計画、及び国内 4 地域でのスマートコミュニティ実証実験により推進さ れていることは心強い限りである。一歩進んで、これらの施策はシェールガスが十分 に確保できる米国よりも、電力供給の 88%を化石燃料に依存しその大半を輸入に頼る 日本でこそ早期に実現すべきであると思われる。 最後に、今回の視察において我々を受け入れて頂いた現地企業の方々や事前準備に 御尽力いただきました方々に対して厚くお礼を申しあげたい。 以上 30
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