気分障害(Mood disorder)とは 薬物治療学1 2016 • 疾患概念 – 持続時間の短い喜怒哀楽の「感情、情動」ではなく、1日中、ほぼ毎 日、2週間以上持続する抑うつ状態や高揚の気分(そう状態)と身体 全体の変調を生じる精神疾患。 • 症状 気分障害の薬物治療 ① ② ③ ④ 大うつ病エピソード 躁病エピソード 混合性エピソード 軽躁病エピソード • 診断 薬物治療学 越前宏俊 – うつ病性障害:①のみ(単極性)で②から④の症状の既往を持たない – 双極性障害:①から④それぞれのエピソードを既往に持つ 2 気分障害診断法 • 操作的(マニュアル)診断基準 うつ病性障害の自覚症状 – DSM-5では『現象的なエピソード(症状の既往)』 により疾患を分類 • 診察医師の経験によらず一定の診断が得られる • 精神科専門医からは、安易なうつ病診断の増加と薬 物治療に懸念を示す声も多い • 「動けるうつ病」(易疲労や精神運動抑制が目立たた ない)軽症例もうつ病なのかという批判 • 中核症状 1. 抑うつ気分 – 「深い谷底に引きずりこまれるような感じ」、「自分 が(感情のない)鉛の人形になったような感じ」 – 「悲しみ=負の感情のほとばしり」ではなく、「空 虚さ」「悲しめない」 2. 興味関心の低下 – DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)は米国精神医学会作成の精 神疾患の診断・統計マニュアル – 創造的な「攻めの仕事」から日常生活(着替え、 入浴など)も困難となる 3 4 DSM-5によるうつ病性障害の診断 うつ病性障害の他の自覚症状 ③ 食欲低下・体重減少 – 逆に、食欲増進・体重増加も ④ 睡眠障害 – 寝付くが2~3時間で覚醒して(早朝覚醒)、以後入眠できず、悶々とする ⑤ 精神運動焦燥または制止 – イライラして怒りっぽくなり、一見活動性が高く見える ⑥ 気力の減退・易疲労感 – 疲労感、頭痛、めまい、嘔気、肩こり、動悸、便秘、性欲低下などの不定愁訴 で病院を受診する • • • • 中核症状①か②のすくなくとも1つと ③から⑨のうち5つ以上が 同時に2週間以上存在し 社会的・職業的な機能障害が認められる場 合に診断される ⑦ 無価値観・過剰で不適切な罪悪感 ⑧ 思考力・集中力の減退、決断力減少 ⑨ 死についての反復思考(自殺念慮) – 「もう後がない感」→「死ぬしかない」 – 「押し寄せ感」=大変な事態が圧倒的に押寄せてくる感じ 5 6 1 DSM-5による抑うつ障害群の病型 • 抑うつ障害群 – 大うつ病性障害/うつ病 うつ病は精神科を受診する とは限らない • 単一性、反復性 • 軽少、中等症、重症 • 精神病性病像を伴うもの – 持続性抑うつ障害(気分変調症:ディスチミア) – 月経前不快気分障害 – 物質誘発性抑うつ障害(アルコールなど) – 他の医学的疾患による抑うつ障害 身体症状からうつ病を疑うことが重要 7 8 大うつ病性障害の経過と予後 大うつ病性障害の疫学 • 発症の危険因子 • 有病率:2-5% • 生涯罹患率 – 男性:7-12% – 女性: 20-25% • • • • • 好発年齢:20代 – 経済状態、離別、家族歴、小児期の親との死別、 ストレス環境 発症:数日から数週間 持続時間:1年以内に50%回復 再発率:50-60% 予後:長期間観察研究では15%が自殺 9 10 日本の自殺者は世界的に高い 厚生労働省資料 2008年に100万人を突破 抗うつ薬の売り上げ も1000億円に 11 12 2 内閣府キャンペーン 全身疾患との合併 全身疾患 心疾患 脳血管疾患 うつ病発症率(%) 17-27 14-19 22-29 悪性腫瘍 アルツハイマー病 慢性疼痛をともなう身体疾患 30-50 30-54 一般人口 Evans DL et al., Bio Psychiatry , 2005. 13 10 治療可能な身体疾患が原因に関係している可能 性を見逃さない 悲嘆(死別)反応 14 アルコール飲用障害 • 家族との死別などの強い心因的ストレスは軽 症のうつ病と同様の症状を生じる • 2ヶ月未満に回復すれば大うつ病性障害とは 診断しない • 大うつ病の16%に合併 • 躁病の24%に合併 本人だけでなく家族の慎重な問 診が重要 15 非定型うつ病 薬物誘発性うつ病 薬効群 薬物 降圧薬 免疫調節薬 インターフェロンα ホルモン薬 副腎皮質ステロイド(躁状態の方が多いが) 抗癌剤 イホスファミド、ビンクリスチン 鎮痛薬 インドメタシン、アスピリン 16 レセルピン、αメチルドパ、クロニジン、β遮断薬 • うつ病の診断基準に当てはまるが、三環系抗うつ薬 や電気けいれん療法が無効 • 特有な症状 – 気分の反応性 – – – – 17 • 自分の好きなことは普通にできる、ちょっと嫌なことがあるとすぐ に落ち込む 過眠(1日10時間程度) 過食(特に甘い物)と体重増加 倦怠感が強く、身体に鉛が付いたように動けない 対人関係の拒絶に敏感な女性に多い 注:マスコミ用語の「新型(現代型)うつ病」ではない。双極 Ⅱ型障害や双極スペクトラムとの関連を疑う徴候の一つ 18 3 うつ病の初期治療 重症度の評価 • 軽症うつ病治療の第一選択は精神療法と心 理療法 • 簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J) – 厚生労働省HPから入手できます – https://www.cbtjp.net/qidsj/ – 睡眠、食欲、精神運動状態に関する質問に答えることに より最高27点のスコアが計算される。 – 0-5 正常 – 6-10 軽症 – 11-15 中等度 – 16-20 重症 – 21-27 きわめて重症 – 傾聴と共感 – 保険適応 • 認知療法・認知行動療法 • 標準的精神分析療法 • 中等症以上は薬物療法が第一選択 • 薬物治験などではハミルトンスコアが使用される 19 20 うつ病の精神療法 • 傾聴と共感をもった病気の説明 入院治療の適応 • 自殺念慮(願望) – 珍しい病気ではない – 治療でよくなる • べからず助言(医療者、家族ともに) – 叱咤激励:「そんなことでどうする」「もっと頑張ら ないと」「しっかりしろ」 – お説教:「性格が弱いからだ」「気の持ちようだ」 • 生活面でのアドバイス – 心身の休養につきる • • • • – 「死にたいと思う」「自殺企図」 身体衰弱 家庭環境 重症うつ病 難治性うつ病 通常は外来治療を行う 21 22 抗うつ薬 うつ病の薬物治療 • • 異なる抗うつ薬の治療効果にはほとんど差 がない • 忍容性は古典的な三環形抗うつ薬よりも新 規抗うつ薬(SSRI, SNRI, ミルナシプラン) が勝る • 睡眠障害にはベンゾジアゼピン系抗不安薬 (ゾルピデム、エスゾピクロンなど)を用いる – – – – 選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI) セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 (SNRI) モノアミン再取り込み阻害薬 ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動 性薬(NaSSA) 3/4環系抗うつ薬 有効率はいずれも約60% 23 (30%は完全に回復、30%は症状が残るが軽快、30%は難 治で他の治療が必要) 24 4 選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI) “Selective Serotonin Reuptake Inhibitor” • 作用機序 – 純粋にセロトニン再吸収阻害のみで、NE再吸収、α受容 体・ヒスタミン受容体遮断作用がない • 薬物 – – – – フルボキサミンマレイン酸塩(ルボックス®) パロキセチン塩酸塩水和物(パキシル®) セルトラリン塩酸塩(ジェイゾロフト®) エスシタロプラムシュウ酸塩(レクサプロ®) • 臨床効果 – 従来の3/4環系抗うつ薬と同等かやや弱い – 副作用が少ない! (抗コリン作用、循環器作用、眠気etc) 25 SSRIに即効性はなく、初期に消化器症状がある! 26 SSRI初期治療の用法 • まず、単剤で少量から開始し十分に増量する • 少なくとも4週間以上投与した後に、効果判定を行う • 単剤での効果 – 症状の寛解は30% – 症状の改善は50% • Citalopramのデータ (Trivedi MH et al., Am J Psychiat, 2006) • 維持療法 軽症のうつ病では不眠、不安、焦燥感などが主要な症状 SSRIは速効性のある薬剤ではないので、患者によっては治療 初期に抗不安薬を短期(最長4週間)併用する 図はグラクソ・スミス・クライン社HPから引用 – 改善が見られた後6~9ヵ月継続投与する – 特に、過去2~3年以内に症状の認められた患者では再 発率が高いので、さらに1~2年維持療法が必要 27 抗うつ薬効果出現には6週間 28 うつ病の薬物療法 2重盲検試験の結果 グラクソ・スミス・クライン社HPから引用 持田製薬HPより引用 改善して少なくとも1年間は継続すると再発が少ない 改善したからと言ってすぐに中断すると50%は再発 29 30 5 SSRIと賦活症候群 SSRIの副作用 • 消化器系(投与初期に) – 悪心(20%)、下痢、食意不振 – 数日で消失多い、制吐薬(ドンペリドン)併用も可 • 性機能障害(実際には50%との説も) – 勃起障害、射精障害 • SSRI服用後に焦燥感(イライラ)、不安、衝動 性が増加することがある(5%?) • 自殺念慮に至ることも – 18才未満のパロキセチン服用患者で情動不安、 自殺企図が増加? • パロキセチン添付文書で警告扱い(2006/2改訂) • 眠気(抗ヒスタミン作用) • 胎児の先天異常増加? – 海外で実施した7~18歳の大うつ病性障害患者を対象とした プラセボ対照の臨床試験において本剤の有効性が確認でき なかったとの報告がある。 – 自殺リスクが増加するとの報告がある。 – パロキセチンで4% vs プラセボ3% 31 32 SSRIとセロトニン症候群 離脱症候群 • 減量速度が速すぎると、うつ病症状が悪化す るような症状が出現する • 薬がやめられなくなる • 対処は、減量速度をおそくすること • 中枢セロトニン放出過剰症状 – SSRIとMAO阻害薬(セレギリン、モノアミン分解酵素阻害 薬)との併用に多い(禁忌) • 症状 – – – – 精神症状:不安、焦燥、錯乱 神経症状:振戦、静坐不能、ミオクローヌス、反射亢進 自律神経症状:発熱、発汗、下痢 ごく軽症から未治療では致命的となりうる重症まで • 治療:通常原因薬物の中止後24時間程度で消失 – 悪性症候群との鑑別に注意 33 CYP分子種 CYP1A2 CYP2C9 CYP2C19 SSRIとCYP代謝阻害 阻害するSSRI 代表的な併用禁忌 他の阻害薬 フルボキサミン シメチジン、ニューキノロン抗 菌薬 フルボキサミン、セルトラリン フルコナゾール、アミオダロン、 ブコローム、ベンズブロマロン パロキセチン、フルボキサミン、 キニジン、ペルフェナジン セルトラリン CYP3A4 フルボキサミン、セルトラリン • パロキセチンまたはフルボキサミンとピモジド – ピモジド濃度増加によりQT延長症候群と心室性 不整脈(Torsades de pointes) • フルボキサミンとチザニジン(テルネリン®) フルボキサミン CYP2D6 34 イトラコナゾール、エリスロマイ シン、クラリスロマイシン、ジル チアゼム – チザニジンのAUCが33倍増加し、著しい血圧低 下,傾眠,めまい,精神運動能力出現 SSRIは全て肝代謝型薬物である 35 36 6 セロトニン・NE再吸収阻害薬(SNRI) ミルナシプランの体内動態 • 市販薬 • 腎消失型 – ミルナシプラン(milnacipran; トレドミン®) – デュロキセチン(duloxetine;サインバルタ®) – 尿中に投与量の50-60%が未変化体で排泄 – 腎障害患者でCLは低下 – 肝障害患者でCL不変 • 薬理作用 – セロトニンとノルアドレナリン取り込み阻害 • 臨床効果 • 血漿蛋白結合低い: 30% • 代謝阻害:なし • 半減期:8 hr – 抗うつ効果は3・4環系薬と同等 • 副作用 – – – – – 3環系薬よりも脱落率低い: 7.6% vs 14.8% SSRIと脱落率同等: 7.6% vs 7.8% 消化管症状主体:悪心11% 心電図変化なし 排尿障害は3環系、SSRIより多い 37 ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン 作動性薬(NaSSA) • ミルタザピン(リフレックス、レメロン) • 薬理作用 38 精神病性うつ病 • 病態 – うつ病で妄想と時に幻覚を伴う病態 • 被害妄想から治療介入を拒む、攻撃的に抵抗すること もある – 中枢のシナプス前α2アドレナリン自己受容体及 びヘテロ受容体に対して拮抗作用を示し,中枢 のセロトニン及びノルアドレナリンの両方の神経 伝達を増強する – 自然寛解はまれで重症化し易い • 診断 – うつ病全体の15% – 老年期うつでは45% • レビー小体型認知症との鑑別が重要 39 • 治療 – 「抗うつ薬」と「抗精神病薬」を併用する 40 電気けいれん療法(ECT) • 治療内容 治療 • 抗うつ薬と抗精神病薬の併用 – 現在では、実施前に患者(または保護者)の同意を取り、 麻酔医による全身麻酔と筋弛緩剤投与を行い、けいれん のない安全な修正型無けいれん電気療法(m-ECT)が行 われる – 週2-3回、合計10回まで実施 – フルボキサミン 10㎎ 1日1回 1錠 夕食後 – ジプレキサ 5㎎ 1回2-6錠 就寝前 – 保険適応外 • 弱いが抗精神病作用(DA遮断作用)のある 抗うつ薬 • 効果 – 比較対照試験でうつ病に対して抗うつ薬と同等またはそ れ以上(70-90%)の効果があり、効果の発現は薬物より 速い。 – 薬物が無効な難治性うつ患者でも50%以上で有効である ことが証明されている。 – 3環系抗うつ薬ではアモキサピン – 例 アモキサピン 50㎎ 1回1-2カプセル 1日3回 毎食後 41 42 7 大うつ病に対するECTと薬物療法のメタ解析 • 歴史 薬物は主として 三環系抗うつ薬 UK ECT Review Group, Lancet 364:799-808, 2003. ECTの不幸な歴史 – 1930年代に開発された治療法。当時の分裂病 患者はてんかんにならず、てんかん患者は分 裂病になりにくいと言う誤った学説により考案さ れた治療法。 – しかし、ECTは麻酔なしで、同意もなく人権をな いがしろにした使用がなされたことも多く、この 治療法は一時完全に廃絶された。 43 44 ECTの悪いイメージ 1975年度アカデミー賞受賞作品 • 1975年アカデミー賞「カッコーの巣の上で」 • ジャック・ニコルソン演じる主人公が“病院内 の規則に従わない”という理由で、革紐で手 足を縛って強制的に電気けいれん療法を施 行されるシーンがある(古き悪しき時代の精 神療法のイメージを広めた)。 ある日、刑務所からジャック・ニコルソン演じ るマクマーフィーが、とある精神病院に送ら れてくる。彼は精神異常者を装って刑務所の 強制労働を逃れて来たのである。彼はル イーズ・フレッチャー演じる病棟婦長ラチェッ ドの患者の人間性を無視した厳しい管理体 制に反抗し、他の入院患者も巻き込んで、患 者達を病院から連れ出して海釣りに連れ出 す。ラチェッド婦長の怒りは、彼に電気ショッ ク治療を与えるに及ぶが、マクマーフィーは 挫けず、ついには友人の売春婦を病院に呼 び込み、真夜中にパーティーを開き、自殺未 遂者のビリーと1夜を過ごさせる。怒ったラ チェッド婦長は、ビリーを精神的に追いつめ、 自殺させるに至る。これを見たマクマーフィー はラチェッド婦長の首を絞め、彼女の権威の 象徴である声を奪うが、その代償としてロボ トミー手術を行われ廃人となってしまう。そし て・・・・ 45 46 双極性障害群(躁うつ病) • 疫学 そう病の症状 – 軽から中等症 – 生涯罹患率:0.5-0.8%(大うつ病より少ない) – 性差:なし – 年齢:平均21才(大うつ病性障害より若い) • • • • • • • • 分類 – 双極性Ⅰ型障害 • 躁病相とうつ病相を反復する、いわゆる「そう・うつ病」 – 双極性Ⅱ型障害 • うつ病相を繰り返すが、その経過中に「軽度な躁病相」を示す • SSRIなどの標準的な抗うつ薬の効果が低い • 正確な診断には平均8-9年を要する 気分が異常かつ持続的に高揚する(多幸感) 自分を高く評価し仰々しくなる(誇大妄想) 睡眠欲求の減少(3時間で十分) 多弁、説得、いらいら、易怒性、攻撃性 注意散漫になる(観念奔逸) 目標指向性活動(社会的、性的) 無軌道な快楽的行動をとるようになる – 買い漁り、無謀な投資等 • 社会的逸脱行動:離婚、失職 47 – 重症 • 精神病性症状(妄想、幻覚、思考吹入など) 48 8 双極性障害の薬物治療 • 双極性Ⅱ型障害では、しばしばうつ病と診断され無 効なまま抗うつ薬を服用している場合もある→中止 • 軽から中等症(古典的躁病) そう病エピソードの注意点 • 双極性障害は大うつ病性障害とは病因的に 異なる病態で抗うつ薬は無効 • うつ病エピソードより急速に悪化する – 多幸感が主体 – 気分安定薬:炭酸リチウム 、バルプロ酸、カルバマゼピン の何れかの単剤を必要十分量用いる – 治療が追い付かないことがある • 器物損壊や傷害行為があり入院が必要とな ることもある 49 双極性障害の薬物治療 50 「躁転 アクチベーション」 • 中等症 – 不機嫌、易怒性主体、攻撃性出現 – 気分安定薬に鎮静効果のある抗精神病薬を最初から併 用することも多い • 従来はハロペリドールだが、最近は錐体外路性副作用の少ない 非定型抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン)を使用する • 重症例 – 錯乱、幻覚・妄想を伴う – 急速な効果が必要なので、気分安定薬(バルプロ酸)+抗 精神病薬(ハロペリドールなど)を併用する • 一見うつ病であるが躁病との混合状態(焦燥感、 攻撃性、暴力、ギャンブル耽溺)の場合に • 抗うつ薬を不用意に投与すると、急激にうつ病相 から強い躁病相に移行し精神興奮状態が悪化す る病態 • 自殺に関係することもあるので注意 • そう病相とうつ病相が頻回に切り替わる(1年4回 以上)急速交代化(ラピッドサイクラー)に発展する こともある 51 炭酸リチウム(リーマス®) 気分安定化薬発見の歴史 – 19世紀にデンマークのランゲが尿酸万病原 因説により尿酸を塩として溶かすリチウムを 薬物として使用した。 – 1949年、豪州の医師John Cadeは、精神病 の原因が尿酸であるとの仮説を立て、動物に 尿酸リチウムを投与して鎮静効果を観察した。 しかし、対照群で用いたリチウム投与でも沈 静効果が見られたので – クエン酸リチウムを激越症状を有する躁病患 者に投与したところ気分安定化作用が発見さ れた。 52 • 効果:典型的な躁状態の60-90%で効果 – 初期治療:400mg/日で開始、数日毎に増量 – 維持治療:600-800mg/日(最大1200mg/日) • 再発率:リチウム 34% vs プラセボ 81% – 効果に即効性はない Dr. John Cade • 体内動態:腎消失! – NSAID、利尿薬、脱水はリチウムCLを低下させる • 中毒作用:血漿濃度と相関するのでTDM必須 53 – 0.3-1.2 mEq: 治療域 – > 1.5 mEq: 振戦、悪心、下痢、目のかすみ、錯乱 – >2.5 mEq: けいれん、混迷、不整脈 54 9 炭酸リチウムの副作用 • 腎尿細管障害(75%の患者で) リチウムの禁忌 – バソプレシン感受性のアデニレートシクラーゼを用量依存 的に阻害し、尿の濃縮力を低下させる – 多尿、口渇、多飲、多尿、体重増加、浮腫 • 中枢症状 • • • • – 認知障害、振戦、傾眠、運動障害 消化器症状:悪心 その他:脱毛、白血球減少、座瘡 催奇形性 甲状腺機能低下(5%) • • • • • • 腎障害患者 急性心筋梗塞 重症筋無力症 妊娠14週未満の妊婦 重篤な電解質バランス異常 授乳婦 55 バルプロ酸 • 効果 56 その他の薬物 • カルバマゼピン – 再発回数の多い患者でも有効 – 焦燥感が強い患者、ラピッドサイクラーにも有効 – 気分安定化薬として使用する • ラモトリギン(ラミクタール®) • 副作用 – 双極性障害における気分エピソードの再発・再燃 抑制 – 嘔気 7-34%, 過鎮静 7-16%, 血小板減少 27%, 頭痛 10% – その他:多嚢胞性卵胞症候群、高アンモニア血 症、膵炎、白血球減少、催奇形性、薬疹 • TDM – 治療域 70 μg/mL, 中毒域 120 μg/mL 57 興奮作用の強い患者 58 付録 • 非定型抗精神病薬 – オランザピン • 体重増加と耐糖能異常により糖尿病患者では禁忌 – アリピプラゾール • または 定型抗精神病薬 – 錐体外路副作用多い 59 60 10 塩酸ペチジンの添付文書 うつ病の病因論 • 商品名 • 遺伝の関与 – 常染色体性優性遺伝(原因遺伝子は判明していない) • 一般人口の出現率は0.44%だが、そううつ病患者の子供での発 症率は24.4%、同胞では12.7%、一卵性双生児では60~85%、 二卵性双生児では5~35% • モノアミン仮説 – 中枢モノアミン(ノルアドレナリン、ドパミン、セロトニン)の 全てを枯渇させる降圧薬レセルピンを服用した高齢者で うつ状態と自殺の副作用(1960’)が多発した – モノアミン受容体のダウンレギュレーション? • 複素環抗うつ薬の最大効果が発揮されるには約1ヶ月かかる – セロトニン受容体の異常? – オピスタン、ペチロルファン、局方塩酸ペチジン注射液 • 併用禁忌 – MAO阻害剤 • 臨床症状・措置方法 • 興奮、錯乱、呼吸循環不全等を起こすことがあるので併用しない こと。 MAO阻害剤の投与を受けた患者に本剤を投与する場合には、 少なくとも2週間の間隔をおくことが望ましい。 – 機序・危険因子 • 本剤は神経系のセロトニンの取り込みを阻害する。 MAO阻害剤併用により中枢神経のセロトニンが蓄積する。 61 62 セロトニン症候群の病態 セロトニン症候群 Boyer We et al., N Engl J Med, 2005; 352:1112-20. Boyer We et al., N Engl J Med, 2005; 352:1112-20.63 64 セロトニン症候群を生じる薬物 セロトニン症候群 • 41才、女性 診断:全般性不安障害 • 病歴:種々の不定愁訴で精神科医を受診。上記の 診断の下で、パロキセチン10mg/日を投与開始した 。その翌日から手足の震え、痙攣のような発作、だ るさ、頭の混乱、不眠が生じた。約一週間後に受診 し、振戦、ミオクローヌス、強い不安と焦燥感、不眠 と37.5℃の発熱を認めたので「セロトニン症候群」の 疑いでパロキセチンを中止し、ジアゼパム投与と輸 液を開始したところ2日後に症状は消失した。 佐藤晋爾、怖さを知って使いこなす向精神薬、Medical Viewより引用 65 • 単独で生じる薬物 – – – – – – SSRI 抗うつ薬 MAO(phenelzine etc) バルプロ酸 麻薬: ペチジン 抗菌薬:リネゾリド、リトナビル etc • 相互作用 – 麻薬とMAO – 麻薬とSSRI – リネゾリドとSSRI etc 66 11 • 臨床適応 3環系抗うつ薬 3級アミン 3環系抗うつ薬 • SSRIで効果が不十分または副作用で継続 できない場合の第2選択薬 • 薬物間で抗うつ作用に優劣はない • イミプラミン(トフラニール®) • • • • • ドスレピン(プロチアデン®) • クロミプラミン(アナフラニール®) • アミトリプチリン(トリプタノール®) • アモキサピン(アモキサン®) • 薬理作用 脱メチル化 • ノルトリプチリン ノルアドレナリン再吸収阻害作用 抗コリン作用 α受容体遮断作用 副作用 抗ヒスタミン作用 2級アミン 活性代謝体 67 頻度の高い3環系抗うつ薬の副作用 • 抗コリン作用 – 口渇、便秘、排尿障害、視力調節障害(かすみ目) • α受容体遮断作用 • 起立性低血圧:高齢者で注意 • キニジン様作用 • QT延長、催不整脈作用:心伝導障害患者で注意 • 急性毒性での致死量は2週間分!! 68 まれな3環系抗うつ薬の副作用 • • • • • けいれん 振戦・ミオクローヌス 錐体外路症状 セロトニン症候群 悪性症候群 • • • • • 体重増加 性機能障害 躁転 不眠・不安 退薬症候群 • 抗ヒスタミン作用 • 鎮静、眠気 (3級アミン > 2級アミン) 69 • 導入期 70 薬物治療 4環系抗うつ薬 • 特徴 – 3環系薬では75mg/day以下で開始し、1-2週間かけて 125mg/day以上の維持量に増量する – 最高効果発現には2-4週間かかる – 3環系薬物より副作用は軽減したが、効果も弱い。まれに痙攣や発疹 も生じるのであまり使用されない。 • NE再吸収阻害主体 • 維持期 – イミプラミン、ノルトリプチリンを除いて明確な血漿濃度で の治療域は存在しない • イミプラミン(+デシプラミン): 180-250 ng/ml • ノルトリプチリン:50-150 ng/ml – マプロチリン(ルジオミール®) • NE再吸収阻害+シナプス前α2受容体遮断 – ミアンセリン(テトラミド®) – セチプチリン(テシプール®) – TDMはコンプライアンス確認には有効 • 急激な服薬中止は退薬症候群を生じることがある – 休薬して2-3日後から 71 72 12 3・4環系抗うつ薬の体内動態 その他の抗うつ薬 • 非3環系抗うつ薬 • 肝消失型 – トラゾドン(レスリン®) – 肝クリアランス大きく肝初回通過効果を受ける – 遺伝多型のあるCYP分子種が代謝に関係 • CYP2D6:ほとんどの3環系薬 • CYP2C19:イミプラミン、アミトリプチリン、クロミプラミ ン – 薬物代謝阻害による相互作用を受ける • 副作用少ないが効果も弱い • SSRI発売前に良く使用された – スルピリド(ドグマチール®) • 世界中で日本のみで抗うつ薬の適応 • 通常はドパミンD2受容体遮断作用を利用して向精神 病薬 • パロキセチン、fluoxetine: CYP2D6阻害 • フロボキサミン:CYP3A阻害 73 74 うつ病と躁病の違い • うつ病はそう病より頻度が高い – 生涯罹患率 • うつ病:女性で20%>男性で10% • 躁病(双極性障害):1% • うつ病と診断された人患者の10%は経過中 にそう症状が出現し双極性と診断される 75 13
© Copyright 2024 Paperzz