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平成22年度 高等学校授業力向上研修 実践記録
実験と講義をつなげる授業展開
-2年生物1「遺伝子の本体」の指導を通して-
県立佐渡総合高等学校
Ⅰ
長谷川 直人
指導構想
理科の授業では講義形式と実験形式の2つの進め方があり、どちらも自然科学を理解する上で重
要である。しかし、講義と実験を切り離して捉えており、実験内容を講義内容に照らし合わせる段
階まで考えを深められていない生徒も多い。実験を伴う授業を行うと、多くの生徒が集中して取り
組み、レポートの提出状況も良いのだが、実験結果からの考察欄に空欄が目立ってしまう。実験操
作と現象そのものへの興味・関心は高いが、そこから思考を展開させることはむずかしいと考えら
れる。
そこで、実験結果と教科書の内容を繋げ、理論的に結論を導き出させる授業展開の方法を研究テ
ーマとして設定する。この研究テーマに迫るための授業内容として、生物Ⅰの遺伝分野内の「遺伝
子の本体」を取り上げたいと考える。
遺伝分野では、いわゆる「メンデルの遺伝法則」に基づき、生物の特徴(形質)をつくりだす遺
伝子について、その伝わり方を学ぶ部分と、遺伝子がどのような物質で、体内のどこに存在してい
るかを学ぶ部分から構成されている。普段の授業では、内容の難しさと量の多さから遺伝子の伝わ
り方に重点を置いて授業を進めており、遺伝子の本体についてはあまりじっくりと時間を確保して
いない。しかし、遺伝子の本体を探求していく単元には、仮説を立て実験を行い、得られた結果か
ら結論を導く手法が豊富に見られる。
「誰が何を考え、それを調べるためにどのような方法でどん
な結果を得たのか」を学ぶことは、自然現象を多角的に捉える考え方や理論を展開する方法などを
学ぶことにつながると考える。この点に留意し「遺伝子の本体」に関する授業を、あらかじめ行っ
た実験結果と関連性を持たせながら展開し、その中で生徒に論理的な思考を展開させたい。
Ⅱ
学習指導案
1.単元名(題材名)
遺伝
遺伝子の本体
2.対象クラス
第2学年 生物Ⅰ選択クラス(31名)
3.指導目標
・遺伝形質の実例を通して遺伝現象を身近に感じさせ、授業への積極的な取り組みを促す。
(関心・意欲・態度)
・遺伝の規則性と遺伝子の働き方から、次世代での遺伝形質の現われ方を予測させる。
(思考・判断)
・生体内から DNA を抽出し、その結果を的確に表現させる。
(観察・実験の技能・表現)
・遺伝の規則性について理解し、遺伝子の働きについての知識を身につける。
(知識・理解)
4. 指導と評価の計画(全15時間)
時
学習内容
遺伝の法則
4
生徒の学習活動
・遺伝現象の理解
一遺伝子雑種の遺伝
二遺伝子雑種の遺伝
評価と方法
・親から子へと形質が伝わ
り、その組み合わせが個々
・メンデルの遺伝法則と基本用語の
確認
の違いになっていることを
ワークシートの作成を通し
て確認する。
・二つの遺伝子に注目した場合、メ ・遺伝にかかわるプリントの
ンデルの遺伝法則からどのように
穴埋めと問題演習を通して
遺伝するかを考えられるようにな
基本知識の確認を行う。
る。
3
いろいろな遺伝
・メンデルの遺伝法則に従わないよ ・遺伝にかかわるプリントの
うに見える事例に関して、遺伝子
穴埋めと問題演習を通して
の働き方が違うことが原因である
基本知識の確認を行う。
ことを理解し、その遺伝の仕組み
を考えられる。
2
性と遺伝
・染色体と遺伝子の伝わり方の共通
性から染色体に遺伝子として働く
物質が存在することを理解する。
・同種の雌雄が異なる個体に含まれ
る染色体に差があることを知り、
・遺伝にかかわるプリント
そこに含まれる遺伝子が性別の違
の穴埋めと問題演習を通し
いを作り出すことを理解する。
て基本知識の確認を行う。
・性染色体に含まれる性別以外の形
質を示す遺伝子が、どのように伝
わるかを性別の決定とともに予測
できるようになる。
4
連鎖と組換え
・一つの染色体上に複数の遺伝子が
あり、複数の遺伝子が連鎖してい
ることを理解する。
・連鎖している遺伝子の伝わり方が
メンデルの法則から外れているこ
とを知り、その原因が配偶子形成
時に起こる染色体の乗換えによっ
て遺伝子が組換えられていること
を理解する。
・キイロショウジョウバエの突然変
異体から調べられ作られた染色体
・具体的なデータから染色
地図と組換え価から求められた染
体地図を作成させる。
色体地図との比較から、遺伝子の
位置の特定方法を理解し、算出で
きるようになる。
3
遺伝子の本体
・DNA の抽出実験から遺伝子がど ・実験レポートの提出
のような物質から成り立っている
のかを実感する。
・生体内で遺伝子として働く物質が
特定されていく過程を学び、仮説 ・授業用のワークシートを提
を立て実験から検証していく方法
出させて理解の確認をす
とその結果を理論的に分析する考
る。
え方を理解する。
・DNA が生体内でどのような構造
をしていて、遺伝子としてどのよ
うに働いているかを理解する。
5. 評価基準
Ⅰ 関心・意欲・態度
Ⅱ 思考・判断
Ⅲ 観察・実験の技能
Ⅳ 知識・理解
・表現
・遺伝に関する現象に ・遺伝現象における規
・遺伝子の伝わり方を ・遺伝現象には規則性
関心をもち、意欲的に
則性や遺伝子の働き
示す擬似的な実験を通
があり、理論上予測で
それらを探求する姿
について、総合的に捉
して、その規則性を実
きる理解している。
勢を持っている。
え、遺伝現象を理論上
感できる。
・遺伝子の相互作用や
予測できる。
・DNA を抽出する技術
遺伝子の本体につい
・遺伝子の本体につい
を習得し、抽出結果に
ての知識が身につい
て、得られた実験結果
対しての考察ができ
ている。
からどのような物質
る。
化を理論的に判断で
きる。
6. 本時の計画(13/14時間)
(1) ねらい
生徒は本時までの授業で遺伝の規則性について学んでおり、生物の形質が遺伝子によって伝わる
イメージは持っていると考えられる。さらに、性染色体の単元で取り扱った内容から、遺伝子が染
色体上に存在していることも理解できている。また、本時の前に DNA 抽出の実験を行い、生体内
で遺伝子として働く物質が、どのようなものかを視覚的に捉えられている。
本時では事前に行ったDNAの抽出実験を踏まえながら、科学者たちが遺伝子の本体を探求して
いく過程で、結果から仮説を立てて実験を行い、理論を展開させる様子を説明していく。生徒には、
自身が行った実験結果をもとにして思考を展開し、物事を理論的に捉える考え方を身に付けさせた
い。
(2) 本時における「研究テーマ」に迫るための指導の構想
生徒自身が事前に採集したサンプルから授業を始める。これにより実験内容を身近に感じられ、
授業への取り組みをより積極的なものにしたい。また、教員側で染色したサンプルを用意し、自分
たちが採集したサンプルが、ここまでの授業で登場した物質であることを実感させる。さらに、グ
リフィスの実験など、説明だけではイメージしにくい部分では掲示用のパネルを用意し、実験の方
法とその結果から何が明らかになるかをわかりやすく示す。
以上のように授業展開を行った上で、ワークシートを用いて遺伝子の本体を探るための実験方法
を生徒に考えさせ、期待される結果とそこからわかる結論を導き出させる。その後、実際に行われ
た実験とその結果などを示し、自分の考えと比較させた上で、理論的な物事の捉え方を示したい。
(3) 展開
時
教師の働きかけ
生徒の学習活動・予想される反応
評価・留意点
・前回の実験結果の確認(得
導
られたサンプルの配布)
入
7
・染色済みのサンプルを回 ・前回取り出したサンプルが染色体
・実際のサンプルを回
分
覧させる。
(DNA とタンパク質の複合体)で
覧できるよう準備して
あることを確認する。
おく。
・生徒の回答
・遺伝子と染色体の関係に
「細胞の中」「核の中」「体の中」
ついての発問
「染色体の中」など
「遺伝子はどこに存在する
か?」
・サンプル中に遺伝子が存在するこ
とを想像させる。
展
・遺伝子の存在する染色体
・DNA とタンパク質のどちらかが
開
が DNA とタンパク質の複
遺伝子として働いていることを想
①
合体であることを説明す
像する。
10
る。
分
・生体内で遺伝子として働 ・化学的に分析されている物質名と
・名前がどの立場で付
く化学的な物質が存在する
けられているのかを考
生体内での役割に応じて名付けら
という観点を示すために、 れた器官などの名は別のものを指
えさせる。
「遺伝子・染色体・DNA・ していることを理解する。
タンパク質」の関係を「情
報・新聞・インク・紙」に
置き換えて説明する。
発問
「新聞における情報を作り
生徒からの回答
出しているのはインクか紙
「インク」
のどちらか」
展
・グリフィスの実験の説明 ・実験の様子とその結果を聞きなが
・実験結果を混乱して
開
(パネルを使用して進め
いないか発問で確認す
②
る)
ら整理する。
る。
12
分
・グリフィスの実験結果に
・生徒の回答
ついての説明と発問
「R 型菌が S 型菌の遺伝子をもった
「R 型菌が S 型菌になった
から」
のはなぜか」
「S 型菌が混ざったから」
「煮沸した S 型菌が生きていたか
ら」
「R 型菌が突然変異を起こしたか
ら」
・遺伝子が目の前に現
われた瞬間であること
・形質転換を引き起こした物質が遺
を説明する。
伝子であることを理解する。
展
・グリフィスの実験から何
・遺伝子の役割を DNA とタンパク
・実験方法の考察、ア
開
を調べれば遺伝子の本体が
質のどちらが行っているかを確か
ベリーの実験について
③
わかるか考えさせる。
めるためにはどんな実験をすれば
のプリントを配布し、
いいか、考えて記述する。
記述させる。
15
分
・実例としてアベリーの実 ・実験操作の意味とその結果が何を
・周囲と相談してもよ
験を示し、そこからの理論
示しているのかを結び付けていき、 いので、話し合いなが
展開をワークシートで行わ
結論として遺伝子の本体は何かを
らプリントの完成を目
せる。
理解する。
指させる。
ま
・ハーシーとチェイスの実 ・教科書の図をもとに実験内容とそ
・放射性同位体を用い
と
験を紹介し、遺伝子の本体
の結果から、なぜ DNA が遺伝子の
た実験説明は、残り時
め
が DNA であることがより
本体であるといえるのかを考える。 間が少ないようであれ
6
確かになったことを説明す
分
る。
ば次回へ持ち越す。
(4) 評価
【関心・意欲・態度】
・抽出した DNA がどんな物質かを、回覧資料などから探りとろうとする姿勢が見られるか。
・授業中の発問に対して、考え回答しようとする姿勢が見られるか。
・ワークシートの作成に積極的に取り組む姿勢が見られるか。
【思考・判断】
・遺伝子の本体が何かを調べるために、必要な条件をそろえることを目的とした実験方法を考えてい
る。
Ⅲ
授業の実際
(事前授業)
今回の研究授業に先立って生徒にはDNAの抽出実験も行っている(別紙1および写真1~3)。こ
の実験は生徒に生物体から特定の物質を化学的に取り出せることを実感させ、その後の授業内容に登場
する物質としての遺伝子という視点への導入にしたかった。そのため、なるべく純度の高いDNAを抽
出することを目的に実験を行った。
この目的に適した実験材料としてニワトリのレバーを用いた。選定理由としては、鳥類の赤血球は有
核でありDNAの収量が多いと期待される点と、赤いレバーから白っぽいDNAが取り出せることで生
徒の興味関心をより引き出せるのではないかと考えた点がある。また実験方法としてろ過を2度行うこ
とで、できるだけタンパク質を除去した純度の高いDNAが採集できるよう心がけた。
写真1:トリレバーの破砕液に
エタノールを加える
写真2:沈殿したDNAを採集
する。
写真3:採集したDNAを更に
ろ過し純度を高める。
実験結果は良好であり、実験した生徒全員が抽出したDNAをエッペンドルフチューブに採集できる
ほどの収量が得られた。採集したDNAは研究授業時に生徒の手元に渡せるよう記名の上、集めて冷蔵
庫で保管した。また、生徒の感想から赤いレバーから白いふわふわしたDNAが取り出せたことに対す
る感動が読み取れたことから、十分な興味関心を持って授業に参加したと考えられる。なお、別紙1に
添えて実験上の注意点を載せたので、必要な方は参考にしていただきたい。
[レポートの生徒感想欄より抜粋]
・最初は色が付いていたのに、ろ過したら白くなってこんなにキレイに取り出せるのかと思って驚きま
した。
・DNAを取り出すのは長い時間とたくさんの作業が必要なことがわかった。初めてDNAを見て、白
くてやわらかいことを知った。自分の体をこの物質がつくっていると思うと不思議な気分になる。
・最初は少し気持ち悪く感じたけど、物質を取り出す作業は楽しかった。普段見ることのない物質を目
で見られて、嬉しかったし面白かった。
・いつもの授業は実験しないで内容と結果だけをみているから、「なぜそうなったのか?」など分から
ないまま覚えなきゃいけなくて、こういう実験を普段からやって自分の目で確かめたほうが頭に入る
なと思った。
(研究授業)
事前に行った実験で採集したDN
A(写真4)を生徒全員に配布し、手
元にある状態で授業を行った。これに
より、これからの授業内容をより身近
なものに感じさせたかった。また、同
時に酢酸オルセインで染色したDN
Aサンプル(写真5)も回覧させた。
写真4:採集したDNAサンプル
写真5:染色したDNAサンプル
酢酸オルセインは核に含まれる染色体
を赤く染色し観察しやすくするために用いる薬品である。生徒はすでに何度か使用しており、とくにそ
の匂いを記憶していることが多いため、匂いを嗅がせて確認させた。このサンプルにより染色体とDN
Aとのつながりを確認させた上で、染色体に遺伝子が存在することと染色体がDNAとタンパク質から
できていることの関連性を、板書や発問などを通じて説明し考えさせた。
本時では、
「DNAが遺伝子の本体である」と理解することが学習の到達目標である。その目標とは
別に、
「DNAが遺伝子の本体である」という結論に至るまでの過程で、どのような実験と結果から考
察がなされていったかを学び、自分ならどのような実験を行って得ら
れた結果をどう結論付けるかを考えさせる中で論理的に思考を展開
させることを目的とした。
そこで遺伝子の本体に迫るきっかけとなった実験とその結果とし
てグリフィスの実験を説明した(写真6)。グリフィスの実験では、
病原性の無い肺炎球菌が、病原性をもつようになった形質転換という
現象を取り上げていて、遺伝子の働きを考える上で重要な研究である。
説明する際、時間短縮と生徒の理解促進のために黒板でパネルを用い
写真6:グリフィスの実験について
の説明
た説明を行い、その結果をまとめられるプリント(別紙2)を生徒へ配布した。
プリントの左側には、グリフィスの実験結果から形質転換を引き起こした原因が遺伝子であることを
考えさせるようなワークシートを用意した。生徒にはワークシートを作成させた上で、数人に意見を発
表してもらい多くの考え方を共有できるようにした。ワークシートには自分以外の人の考えを記入でき
る欄も設けておき、考え及ばなかった生徒も何らかの考えに触れられるよう配慮した。
プリントの右側は、グリフィスの実験結果と遺伝子が含まれる染色体を構成する物質がDNAとタン
パク質であるという事実をつなぎ合わせて、遺伝子として働く物質がDNAとタンパク質のどちらなの
かを特定する方法を考えさせるワークシートを用意した。ワークシートでは、遺伝子の本体を特定する
ための実験方法を考えさせた上で、そこからどのような結果が得られれば、遺伝子の本体を特定できる
と結論付けられるかを記述させた。左側と同様、自分以外の人の考えを記入できる欄を設けておき、多
くの考えに触れられるよう配慮した。
机間巡視を行った後、記入できた生徒に考えを発表させた。生徒の発表した意見を取り上げながら、
遺伝子の本体を特定することに成功したアベリーの実験を例示して説明し、遺伝子の本体がDNAであ
ると結論付け、授業を終えた。
Ⅳ
実践の考察とまとめ
今回の研究授業では「実験で抽出したDNAと授業で取り扱う物質が同じものだと実感させること」
と「DNAの働きはどのようにして明らかになっていったかを理論的に考えさせること」の2点を意識
して行った。授業ではこの2点を生徒がつなぎ合わせ、ワークシートの作成を通して実験方法から結論
を導き出せるよう方向付けをしたかった。この授業の後、生
徒に対してアンケートを実施し、2点について調べたところ
実験で抽出した物質と授業で取り扱った
物質が 同じものだと理解できましたか?
グラフ1,2のような結果が得られた。
理解できた
理解できなかった
グラフ1から、生徒たちには授業で取り扱っている内容が
実験した内容と関連していることがよく伝わったと考えら
29
2
る。実験レポートの感想欄には「実際にDNAを見れて授業
内容が身近に感じられた」とのコメントも多くあり、1点目
グラフ1
についてはうまくいったと考えられる。また、今まで取り扱った酢酸オルセインなどの利用によって教
科書の単元が異なる内容どうしをつなげて考えることができていることも確認できた。
2点目については、教科書中の実験例をみた上で、生徒自身が実験方法と仮説の検証のために必要な
結果を考えて結論を導き出すワークシートを用意して実施した。この際、事前に実験で確認した「DN
Aは取り出せる」という事実と、「遺伝子として働く物質を加えることで形質転換が起こる」という現
象とを結びつけて、「DNAを加えて形質転換が起こることを確認する」という考えを生徒に出して欲
しいと期待していた。数人の生徒が狙いとしていた考えを記入していたが、ワークシートに自分の考え
を記入できていない生徒もみられた。ワークシートには自分以外の人の考えを記入する欄も用意してあ
ったので、記入できなかった生徒はそこに発表した生徒の考えを記入することができたが、もっと条件
を絞って考えさせるような課題設定を行うべきであったと考える。
授業における展開としては「DNAを加えて形質転換が起こることを確認する」という考えを生徒の
発表から引き出した上で、アベリーの実験を紹介する予定であった。アベリーの実験は「DNAを取り
出す」のではなく、他の物質を除去して「DNAを残す」方法を用いているため、生徒には発想を転換
することで別の実験方法も可能であることを示せると考えたからである。しかし、授業内容の量が多か
ったため1時間の授業内容には組み込めず、研究授業の際にはそこまでの話ができなかった。後日の授
業の際、その点についての説明は行った。
アンケートではグリフィス、アベリーなどの教
それぞれの実験方法と結論を理解できましたか?
科書にある実験例とその結論について理解でき
たかどうか聞き、右のグラフ2のような結果を得
理解できた
以上の生徒が理論的に理解できたと答えている。
その一方で、ハーシーとチェイスの大腸菌とファ
ージの実験について理解できた人数は少なかっ
17
アベリー
ハーシー
とチェイス
12
19
グリフィス
た。グリフィス、アベリーの実験については半数
理解できなかった
14
5
26
ワトソン
とクリック
26
た。これは放射性同位体やウィルスの増殖といっ
5
グラフ2
たイメージのしにくい分野であるためと予想される。その反面、ワトソンとクリックのDNAの2重ら
せん構造について理解できた人数は多く、この構造モデルの完璧さを実感した。
この範囲を含む考査を 12 月上旬に実施し、その際の問題と正答率をまとめたものが以下の表である。
右の図はグリフィスが肺炎双球菌を使って行った実験の様子を表している。ネズミがひっくり返っ
ているのは肺炎で死んだことを示す。
(1) Bの試験管でR型菌に起こった現象を何というか。
(2) アベリーらは肺炎双球菌の研究をさらに進め、S 型菌をす
りつぶして得た抽出液に,次のa~cの処理を行い、そ
れぞれにR型菌を混ぜて培養した。そして、この実験結
果から重要な結論を引き出した。
a
タンパク質だけを分解
c
タンパク質とDNA以外の、その他の成分を分解
b DNAだけを分解
① a~cのうち、S型菌が発生したものをすべて選び記号で答えよ。
② この実験結果からわかる遺伝子の本体である物質は何か。
(3) 右図のようにDNAの2本鎖があるとき、a鎖に対応するb鎖の
□に当てはまる塩基を左から順に答えよ。ただし、塩基はA,T,
DNA a鎖
TGTCA
G,Cの略式でよい。
(4) 2本のDNAが作る立体構造を何というか。
(5) (4)の立体構造を考案したのはワトソンと誰になるか。人物名を答えよ。
b鎖
正答率
(1)
74.2 %
(2)① 58.1 %
(2)② 80.6 %
(3)
51.6 %
(4)
93.5 %
(5)
80.6 %
今回の研究テーマの成果を考える際には(2)の①の問題が適しており、ワークシートの作成後に説
明したアベリーの実験と結果がどのようなものかを理解していれば、正答しやすい問題である。正答率
は 58.1%となっており、決して高い数字ではない。しかし、アベリーの実験を理解できたとアンケート
で答えた生徒の割合は 31 人中 17 人であり、パーセンテージにすると 54.8%となる。この値は正答率と
ほぼ等しく、授業で理解できた生徒が正答した生徒である可能性は高いと考えれば、授業で理解した知
識が正答につながっていると考えられる。よって、この分野について授業内容を理解できたと考えてい
る生徒の理解度が高かった可能性を示唆する。また(2)の②の問題正答率が 80%以上と高い値を示し
ていることから、「遺伝子の本体がDNAである」ことを理解するという、研究授業時の学習到達目標
は達成されていると考えられる。
最後に今回の研修とこれらの結果を受けて、実物に触れる機会を作ることは生徒のやる気を育み、内
容をより理解する環境を作ることにつながっていると実感した。実験と講義は切り離して行うものでは
なく、互いの関連性を示しながら授業を展開する有用性を強く感じた。また、ワークシートの作成など
を通して得られた生徒の考えを用いて授業を展開させると、授業の場に一体感と良い流れが生まれ、生
徒の授業への参加姿勢に積極性が増したようにみられた。よりよい授業につながるよう、生徒参加型の
授業展開の方法も今後発展させていきたいと考える。
〈参考文献〉
・高等学校 生物Ⅱ 改訂版 指導書 「DNA抽出実験」 啓林館
・森田保久の高校生物関係の部屋 内 「DNAの抽出実験」
http://homepage3.nifty.com/ymorita/DNAext.htm、(アクセス 2010.08.25.)
別紙1
ニワトリの肝臓を用いた純度の高いDNAを得るための抽出実験
DNA の抽出
⑨
1.目的
⑩
細胞中に含まれる物質「DNA」を取り出し、実験過程と観察した結果からその性質を考える。
⑪
2.材料
冷凍したトリのレバー
⑫
3.薬品・器具
5.考察
洗剤液(水200mlに対して台所用中性洗剤を1押し加える)、食塩水(2mol/L)
取り出した物質について、以下の点を○・×で答えよ。
エタノール(95%以上)
、氷、ガーゼ、ビーカー、ろ紙、
漏斗、薬さじ、ティースプーン、ガラス棒、ミキサー、
ウォーターバス(または湯煎できるような鍋など)、
試験管ばさみ
4.実験手順
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
溶液が熱いうちに漏斗とろ紙を用いてろ過し(右写
真)、ビーカーに集める。(ビーカー 4 )
ろ液を氷冷し、よく冷えたら冷エタノールを静かに
入れしばらく静置した後、ガラス棒で穏やかにかき
混ぜる。
白色の沈殿物が生じたら、ピペットを使ってエッペ
ンドルフチューブに採集する。
採集した物質が何かを薬品などで確認する。
①
この物質は熱によって失われたり、変形したりする。
(
)
②
この物質は常温では失われにくい。
(
)
③
この物質は水に溶けやすい性質がある。
(
)
④
この物質はエタノールに溶けやすい性質がある。
(
)
この物質に関して、疑問に思うことを3つあげよ。
凍らせたトリのレバー約50gに対して、洗剤液200mlをミキサーに入れ、2分間かけて
粉砕する。
1班につき30ml程度ずつ配る。(ビーカー 1 )
食塩水をレバー溶液と等量加え、軽く混ぜる。
※①~③までの作業を5分程度で行うこと
100℃で5分湯煎し(右写真)、触れるようになるま
で自然に冷却する。
※レバー溶液が白く変色し、タンパク質が凝固している
かを確認する。
手で触れるくらいまで冷えたら、4枚重ねのガーゼでろ
過する。(ビーカー 2 )
※30ml程度のろ液が集まるよう、絞り取ること。
ろ液をよく冷やした後、冷エタノールをガラス棒伝いに静かに入れ、薬さじの小さい方で穏や
かにかき混ぜて巻きついたものを別のビーカーに集める。(ビーカー 3 )
巻き取ったものについているエタノールをなるべく取り除いた後、食塩水を30ml程度加え、
よく溶かす。
100℃で3分湯煎しながらやさしくかき混ぜる。
※ 時間は正確に測定すること。
・
・
・
6.感想
組
作成日:2010.10.12
番 氏名
作成者:新潟県立佐渡総合高等学校
長谷川 直人
別紙1補足
実験上の注意点など
(全体)
・DNA の抽出においては DNA 分解酵素(DNase)の働きを抑えながら、どれだけ素早く操作できる
かがポイントになる。
・タンパク質を除去し、得られる DNA の純度を高くするため、ろ過を2度行う。ろ過するごとに DNA
は減っていくため、常に集めるだけ集める姿勢で実験を行う。
(実験手順)
・手順①~③までの、レバーの粉砕・生徒への配布・食塩水との混合の作業中は DNase の働きで DNA
が分解されてしまう。なるだけ手早く(目安は5分程度)行い、速やかに湯煎して DNase を失活さ
せる。湯煎の際、お湯の温度がなるだけ100℃近くに維持できるよう温度管理には十分気をつけた
ほうがよい。
・手順⑤では多少固形物がガーゼを通り抜けても気にせずによく絞ること。この量が多いほど最終的な
収量が多くなる。
・手順⑥、手順⑩の氷冷は発泡スチロールの箱を用意して行った。氷冷後にエタノールを加える際にエ
タノールとの温度差を抑えるため、十分に冷やす。
・手順⑦、手順⑧では食塩水を加えた後、ゆっくりとだがしっかりとかき混ぜ、DNA をよく溶かす。
溶かし方が不十分だとろ過したときにタンパク質と一緒にろ紙にくっついてしまうので要注意。また、
沈殿のために加えたエタノールがあると、溶け方が悪いのでガラス棒などで DNA を抑えてよく除去
する。
・手順⑧の湯煎時間をあまり長くすると、DNA の構造が壊れる危険性があるため注意する。
・手順⑨のろ過は溶液が熱いうちに行う。この方が DNA の粘性が抑えられろ過しやすい。
・手順⑪では、可能であれば採集後に遠心分離機にかけた方が、サンプルとしては見やすい。
別紙2
グリフィスの実験結果から遺伝子の本体を特定するための方法を考えさせるワークシート
[ 遺伝子として働く物質 ]
生物Ⅰ 学習プリント「遺伝子の本体」
組
番 氏名
ここまでの知識 ( 遺伝子を含む構造 … 染色体 = タンパク質 + DNA )
[ グリフィスの実験 ]
実験で観察された現象
( S型菌の遺伝子が作用してR型菌を変えた )
知りたい疑問 ( 遺伝子として働くのはタンパク質なのか?DNAなのか? )
疑問を調べる実験と結果から考えられる疑問の答え
自分の考え
ほかの人の考え
のような実験をして、
考察
①1と2の結果から病原性があるのはどちらの菌か
S型菌 ・ R型菌
②3の結果から、煮沸されたS型菌はどうなったと考えられるか
自分の考え
ほかの人の考え
③4では何が起こったと考えられるか
のような結果を得ると、
(自分の考え)
(ほかの人の考え)
(
)が遺伝子であることが分かる
作成日:2010.09.28
作成者:新潟県立佐渡総合高等学校
長谷川 直人