アートミーツケア学会 News+Letter

アートミーツケア学会 News+Letter
Vol.12 2014 Autumn
2013年度金沢大会報告「ホスピタリティとアート」
横川善正
学生レポート
2014年度神戸大会のご案内
見寺貞子
インフォメーション
臨床こばなし
アートミーツケア数珠つなぎ
「コップの水がこぼれるとき」 嶋田久美、三宅博子、中島香織
金城光政
Photo:金沢大会 エントランス 撮影:三浦賢治
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イギリスからお招きした Kate Broom さん、金沢市立病院の高田院長の講
演を皮切りに、今回から始まったトークセッション・ワークショップもそ
れぞれに盛り上がりを見せ、新たな交流が生まれていました。
医療とアートの連携がすでに進んでいるこの地で、あらためてアートとケ
アについて考える時間となりました。
ホスピタリティとアート
2013年度金沢大会報告
レポート
ケアの時代がアートに求めるもの
─アートミーツケア学会金沢大会を終えて─
横川 善正 金沢美術工芸大学名誉教授
基調講演で、金沢市立病院の高田院長が話された「出来る
えにくい「人間らしさ」や「いたわり」といった繊細なところに、
限り患者さんにつくる喜びを味わってもらい、そこからわれ
社会全体が経済や福祉のビームを当てたために見えにくく
われも一緒に自分らしさを取り戻してゆきたい」という趣旨
なったのかもしれない。モノとオカネの現金な結合に慣れ切っ
に、我が意を得た思いがした。
「私はアートの門外漢であり
た現代人が「自分らしさ」や「生命の尊厳」といった見えにく
ます」という立場の表明にもかかわらず、医療者であるから
い価値を、いかにして身近な解りやすいカタチとして社会に届
こそ「アートの力を信じている」というメッセージが明快に
けるかが、ケアの時代のアーティストの仕事である。
伝わった。猛烈なスピードで進化する医学や先端医療におい
十九世紀のアートはタブローであり、二十世紀のアートは
ていよいよ問われてくる「生命の倫理」について、アートの
デザインであったとすれば、二十一世紀のアートはケアのな
立場からどのように向き合っていくのか、この学会が引き受
かから生まれるはずである。ここでのケアとは受け身のケア
け発信していかねばならない段階にきている。
ではない。病気を得たことをきっかけに、患者が自分を取り
ケアとは「相手の
戻し、
生まれ変わり、
新しい自分をつくっていくといった「全
傷を感じること」と
人的な治癒」を最終目標とする、医学・保健と連携した新し
いったのは、英国の
い医芸教育によってもたらされると考えられる。
詩人ロバート・サウ
優れた医療者が「アーティスト」と呼ばれる日がいつか訪
ジーである。単なる
れるかもしれない。神の手を持つ名医などではなく、患者と
想像力ではなく、身
の目線を切らすことなく最後まで接することばをもった「良
体をとおしての倫理感覚に訴えるケアの達見といえよう。芸
医」のことである。そのとき、
いわゆる現在の「芸術」÷「アー
術教育のなかにケアの視点が導入されることで、優れた作品
ト」もまた再定義を余儀なくされるはずだ。信頼できる医療
は一方的に「つくられる」のではなく他者との関係性のなか
者とは、最先端の医療技術の導入によって生まれるのではな
で「うまれるもの」という視点がより鮮明になってくるに違
いのと同様、アートにおける表現技術の習熟を競うだけでは、
いない。これは、病気は医療者が「治す」という立場ではな
これからの芸術活動のなかの社会的な役目は見えてこない。
く、
「創造的な寄り添い」のなかで、最終的に患者自身の「な
8 年前にこの学会が発足しアートとケアが出会ったあと、
かから治る」というケアの思想と共振する。
どうなったのか。何が生まれ、育っているのか。人間でいえ
それにしても、もてなしやケアということば自体が、すぐに
ばそろそろ就学年齢に相当するはずだが、これからの成長が
色褪せて薄汚れてしまいがちなのはなぜだろうか。本来目に見
いよいよ注目されてくるように思われる。
ケイト・ブルームさんの発表内容の詳細は学会のウェブサイトからご覧いただけます。
well-being やイギリスでの取り組みについて、わかりやすく書かれています。
AMC 学会トップページ → ■ドキュメント → Kate Broom さん講演録
http://popo.or.jp/artmeetscare/document/2014/08/kate-broom.html
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ホスピタリティアートの紹介写真
ワークショップの様子
トークセッションの様子
セロハンで彩られた受付玄関
大会の運営でなくてはならないのが学生さんの力です。
今回も金沢美術工芸大学の学生さんたちが準備から運営までおおいに協力してくださいました。
当日、現場を駆けまわりながら各会場の分科会やトークセッションに参加した 5 人の感想で大会を振り返ります。
ホスピタリティアートプロジェクトに参加した当初、患者さんに何の
哲学カフェは、自由な形の哲学の討論であり、答えを見出し全員の意
影響を与えているのかピンとこなかった。そもそも病院にアートは必要
見を統一することが目的ではないと企画会員の方は繰り返していた。聴
なのかどうかも疑っていた。大会の話を聞いていくうちに、アートが社
講しているだけでも新しい視点との出会いや自問自答、多くの感覚の違
会に与える影響が次第に見えてくるようになった。アートは人の精神に
いを感じ、人というのは改めてそれぞれが違う人間であるのだというこ
働きかける力がある。だからこそ、病院という場の 気を患ってしまう
とを感じた。討論者ではなく見学者としてこの場にいられたことも、
「私
という点に対し、アートが必要になってくるのだと知った。また、病を
は哲学カフェに参加した」と言える経験になったのではないかと思う。
治す心がけのひとつとして、患者さん自身の積極性と行動も必要だ。た
同じ金沢の地で実践されているアートとホスピタリティ、心のつなが
とえば壁にとても長い絵を描けば、興味を持った人たちが先を見たいと
りにおける実践を聴いていると、改めて自己完結していたホスピタリ
動き出すのではないだろうか。
(小林大地)
ティアートというものに気が付いた。多様化しつつも個別化は図らない、
ホスピタリティとアートの実践の一端をこれからも少しずつでも担って
作品設置において、通路や受付などその場の機能を保ちながら人と作
いきたいと思った。
(野一色彩)
品の関係を考えなくてはならないということなど、多くのことを学んだ。
アートは限られた人のためではなく、多くの人のためのものでありたい
美術に対する支援金についての真剣な考えを聞かせていただき、若い
と考えているので、今回学んだことはこれからの実践の糧となっていく
人たちを育てたい、支援したいと思ってくださる人がいると知って、嬉
と思う。
(加茂那奈枝)
しかった。自分も頑張らなくてはいけないのだと思った。また、大会の
準備を通じてみんなで一つのものを完成させる達成感、楽しさを久々に
日本に寄付の文化が根付けば、活動をどんどん広くしていくことがで
味わうことができた。
(大野三結)
きる。理想論かもしれないが、寄付によるお金の流れにはそういった可
能性を感じることができた。
(山本翔平)
横川 善正(よこがわ・よしまさ)/金沢美術工芸大学名誉教授
2014 年 4 月から、金沢美術工芸大学名誉教授の立場で、金沢市立
病院で医芸連携活動 HAP の顧問として、アートとケアの現場をつな
ぐ活動に関わる。主な著書、
「誰も知らないイタリアの小さなホスピ
ス」
(岩波書店)
「ホスピスが美術館になる日」
(ミネルヴァ書房)など。
アートミーツケア学会 2013 年度総会・大会「ホスピタリティとアート」
■日程 2013 年 11 月 16 日(土)
、17 日(日)
■会場 金沢美術工芸大学 ■主催 アートミーツケア学会 ■共催 金沢美術工芸大学
■プログラム
[ 11 月 16 日(土)] 大会 1 日目
□講演 1「ホスピタリティから生まれるアート ∼美大が病院と出会ってから∼」
・なぜ、病院にアートが必要なのか 高田重男(金沢市立病院院長)
・新しいアートが生まれるケアの現場 横川善正(金沢美術工芸大学教授)
□講演 2「切り札としての芸術(アート) ∼健康で人間的な生き方を、全ての人に∼」
ケイト・ブルーム Kate Broom(アーティスト、研究者、美術教育者、セラピスト)
□トークセッション・ワークショップ
A 病院を『まち』と捉えるアート・デザインのあり方
B 表現の地平 ∼臨床でのアートが向かうべき方向を探して∼
C D-S 哲学カフェ『ボーダーラインはどこにある?』
D なぜケアの現場でアートなのか
E 見える身体・見えない身体/触れる身体・触れない身体
[ 11 月 17 日(土)] 大会 2 日目
□プレゼンテーション □ポスターセッション
□分科会
A 病院とアートの適切な関係?
B ケアにおけるテクノロジーの可能性
C 美術大学での教育とケアの現場の関わり ∼つくること、つたえること、とどけること∼
D アートを支える寄付文化の構築にむけて
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アートミーツケア学会
2014年度
神 戸 大 会 のご案 内
アートミーツケア学会 2014 年度大会は、11 月 15 日(土)
・16 日(日)に
神戸で行います。神戸は、おしゃれでハイカラな街として、全国に先駆け
て「ファッション都市宣言」
(1973 年)を発表しました。しかし、20 年前
に阪神淡路大震災に遭い、復興を続けている街でもあります。大会当日は、
「ファッション」と「身体」をテーマに、様々な視点から論じ演じ、その関
係性や行方についての議論の場を設けます。皆様、奮ってご参加ください。
「ファッション ─ 纏う身体」
─「ファッション」と「身体」その行方を探る─
見寺 貞子 神戸大会実行委員長(神戸芸術工科大学教授)
神戸は、海と山に囲まれた自然に恵まれ、そして異国情緒
しかし、1995 年、平成不況と追い討ちをかけての阪神・淡
豊かなおしゃれな町として幅広い層の憧れとなっています。
路大震災が神戸を襲い、すべての営みに大きな打撃を与えまし
その背景には、明治の開港以来、異国文化をいち早く取り入
た。大震災は、神戸の街に大きな課題を投げかけたのです。
れた生活スタイルやファッション都市のイメージ形成にふさ
反面、震災から多くの事を学びました。情報の共有化やエコ、
わしい風土、
そしてアパレル(衣服)を中心としたファッショ
ユニバーサルデザインなど今後の課題に対する取り組み、産官
ン関連産業界の積極的な取り組みがあげられます。
学民が協同参画するしくみづくりなどの重要性を知りました。
その後、
神戸は、
進取性に富む文化的個性を持つ都市として、
以来、本学は、復興の糸口として、デザイン・アートを問
全国に先駆けて「ファッション都市宣言」
(1973 年)を発表
題解決の手法と捉え、様々な産官学民プロジェクトに取り組
しました。神戸市のファッション都市施策は、
「ファッション
んでいます。
産業を服飾(衣服∼服飾雑貨)だけに限定することなく、地
今回の大会では、震災以降、本学が取り組んできたファッ
域の市民生活に結びついた衣・食・住・遊の各分野において
ションを視点とした地域活性化プロジェクトの紹介や今後、
新しいライフスタイルを提案する産業」と定義づけています。
変容する社会や環境、身体に求められるファッションの行方
つまり神戸のファッションとは、神戸の人々が生きていく上
を皆さんとともに考え、提言をいただきたいと思います。皆
での豊かな生活スタイルの実現をめざした施策でした。
様の来神を心よりお待ちしております。
第 9 回モダンシニアファッションショー(協力:神戸芸術
工科大学)の様子。
身体に障害のある人にとって着やすい服を製作しショーを
開催。また、高齢の人がお気に入りの衣装などを着て出演
されました。
大会参加者・発表者を募集しています!
■ A)展示(ポスター)発表 B)プレゼンテーション
締切:10 月 15 日(水)
※ 締切を延長しました
トークセッション・ワークショップのエントリーは締め切りました。
たくさんのご応募ありがとうございました。
応募要項の詳細や応募用紙は学会のウェブサイトからダウンロードしていただけます。
大会の参加申し込みもウェブサイトをご覧ください。
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INFORMATION
昨年 10 月より第 5 期を迎えました。少しずつではありますが、
変化を遂げているところです。忌憚なきご意見、ご感想などお
気軽にお寄せください。今後もご協力のほどよろしくお願いい
たします。
アートミーツケア叢書 第1巻発行
オンラインジャーナル改訂
2009 年に学会誌が創刊、第4号からはオンライン化さ
第1巻は「病院のアート─医療現場の再生と未来」
れ多くの方にご覧いただけるようになりました。そして、
アートが病院を変え、病院がアートを育てる。その現場
このたび投稿規定の見直しを行いました。論文は審査のス
に関わってきた者たちがそれぞれの視点から綴った文章が
テップを増やし、内容の充実を図ってまいります。実践報
収められています。すでに、病院やアートに関わっている
告・研究ノートは、論文とは異なる審査基準を設けており
方、これから病院でアートプロジェクトを行いたいと考え
ますので、より気軽に日々の活動や研究を言語化する機会
ている方などにぜひお読みいただきたい1冊です。
としてご活用ください。詳しくは学会ウェブサイトをご覧
ください。たくさんのご応募お待ちしております。
オンラインジャーナル編集委員長
横川善正(金沢美術工芸大学名誉教授)
『病院のアート─医療現場の再生と未来』
アートミーツケア学会編
オンラインジャーナル第 7 号発行予定
森口ゆたか、山口(中上)悦子(責任編集)
12 月中旬より応募スタート、2015 年 2 月末の締め切りを
第1章 病院と言う名のコミュニティを再生する
予定しております。詳細が決まり次第ウェブサイトに掲
実際に病院でアートによる創造的活動に関わっている様々な立場
載いたしますので、奮ってご応募ください。第 6 号は年
の人たちから寄せられた生の声を掲載。周囲の無関心や無理解と
度内に発行予定です。
闘いながら、少しずつ地道に実践を続けてきた様子を感じていた
だけます。
第2章 医療の質を問いなおす
Facebook をはじめました
病院の経営や管理に携わる、指導的立場にある方々が登場。「社会
のニーズ」という名の制度の圧力と、患者一人ひとりのくらしや
アートミーツケア学会に所属されている方はそれぞれ
いのちを大切にしたいと願う気持ちの狭間で悩みながらチャレン
に多様な活動や研究をされているものの、交流の機会が
ジし続けている人々の声に希望が見えます。
それほど多くはありませんでした。Facebook をきっかけ
に、新たなつながりが生まれることを目指しています。
第3章 医療とアートの未来をみる
イベントやシンポジウムなど活動のお知らせがある際は
芸術系大学と病院との連携によるホスピタルアートのプロジェク
トを紹介し、当事者である病院側と芸術系大学の関係者から、実
事務局までご一報ください。
際プロジェクトを遂行することが両者にとってどのような意味を
持ち、どのような変化をもたらしたのかを問います。
新任役員からのメッセージ
■第 5 期 2013 年 10 月 1 日∼ 2015 年 9 月 30 日
■新規監事
□田中 みわ子(東日本国際大学准教授)
アートミーツケア学会の発足をはじめて知ったときに、期待と嬉
しさに胸が熱くなったことを今も覚えています。日本、ベルギー、
アメリカなどの障害のある人たちによる表現の現場に魅せられて
きた私にとって、この学会は、多くの刺激、学び、出会いの場と
なっています。これからもアートを通して立ち現れる〈身体〉の
可能性を追究してまいりたいと思います。どうかよろしくお願い
いたします。
*これまで役員を務めていただいた、志賀玲子さん、畑祥雄さん、
的場政樹さん、太田好泰さん、本当にありがとうございました。
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臨床
コップの水がこぼれるとき
こばなし これまでの臨床こばなしでは障害のある人との音楽をとおした関わりやそのときの小さな感
その 3
覚について話してきました。今回は、違った切り口から臨床での表現活動を考えるべく、作
業療法の現場でのフィールドワーク経験のある嶋田久美さん(京都大学大学院)をゲストに
たんぽぽの家のギャラリーで話し合いました。
思いではなく場を共有する
ためにやっているって言う人もいた。表現準備状態* 3 っていう言い方をし
ていたんだけど。
中島 障害のある人と絵画というと、アールブリュットやエイブルアー
トだけでなく、心理療法の場面なんかが浮かんでくる人も多いかもしれま
せん。病院の中で作業療法や造形教室としてやっているところもあったり、
中島 環境の設定みたいなことでしょうか。アートなのかセラピーなの
かっていう話もよくありますが、たぶんどっちの瞬間もあって入り混じっ
地域や場所、人によって様々だと思います。色々な障害をもった人がひと
ているものですよね。ただハプニングを共有するというだけでもなく、そ
つの場所で活動をするというのは、面白さ、難しさ、両方あるように思う
ういうのが混じり合ってばーっと臨界が起きるようなイメージですよね。
のですが。
嶋田 そこを一歩つきつめて説明しようと考えたときに、
「臨界モデ
ル* 1 」っていうのがあったのね。人類学の研究者が商店街に住み込み研究
時間のムラ
していたんだけど、ひとり馬の合わないおじさんがいたらしい。ある時、
三宅 臨界が起きるにはその前段にある、場所と時間が必要だよね。
嶋田 単純なようだけど、時間がゆったり流れているっていうのは重要
な気がするな。
三宅 時間の流れにムラがある感じよね。ガーって描いている人がいれ
ば、全然描かない人もいたり。そういうムラが許される場っていうのは、
全体として見たらすごくゆっくりと淡々として見えるのかもしれない。な
んか物事が起こりやすい具合っていうのはあるんだろうね。モードの差な
のかな、たとえば食塩が水と混ざり合うときってモードが違うから移動す
るわけでしょ。ふだんの暮らしにはそういうムラってあるんじゃない?
中島 暮らしって本来はそういうものだったんでしょうね。だからいろ
んな人が同じ場やコミュニティでなんとなく共にいられた。時間のムラは
つまり、対モノでも対ヒトでも臨界が起きやすいということ。なんと言う
か、豊かですよね。臨床の現場から日常を見直すことも必要と思います。
狭い商店街の中にタクシーが突然進入してくる場面にたまたま一緒に居合
わせて以来、二人の関係が変質したっていう出来事をコップの水で例えて
いたんだけど。全然形の違うコップがあって、お互いはよくわからない、
でも商店街という同じ場所にいて、何かのきっかけで水が臨界に達して
バッとこぼれる。水が完全に混ざりあうわけではないけれど、ぼやんと共
有できることもあるっていうのを臨界モデルって言っている。つまり、二
人の反応だけで成り立ってる関係ではなくて、場所の歴史とか関係性の歴
史っていうのがあってのことだよね。臨界モデルは臨床の現場のイメージ
と近いところがあるんじゃないかな。
三宅 思いを共有しているわけじゃないけど、その場を共有する感じな
のかな。それぞれが全く別の文脈で考えていて、たまたま交差するような。
嶋田 関係性って言っても、どこで生じるかわからないし、一対一で決
まっているわけでもないし。総合的に考えたときに、臨床の現場としては
場全体をつくっていくっていうことを考えたほうがいのかなって。
わたしたちの日常はムラのある時間の只中にあったはずなのに、現代はそ
の濃淡を均すほうへと急速に流れていっているのかもしれません。臨床で
モノと出会いやすい環境
もつい目の前の人の「反応」に注目してしまいますが、一対一のやりとり
三宅 今日たんぽぽで樹里さん* 2 を見ていると、自分のなかで「表現し
たい」とか思っているわけじゃなくて、日常生活とホワイトボードってい
うものが出会うと、ああいうものが出てくるっていう感じがする。人以外
でもなにかモノと出会うことで臨界が生まれることもあるんじゃないか
な。ホワイトボードと仲良くなっていくわけじゃないし、出会うか出会わ
ないかだけ。そこに別のものがあったら違う表現になっていたかもしれな
いし、何も生まれないかもしれないし。
だけではなくそれをとりまく環境(surroundings)もふくめて、
場をつくっ
ていくこと。色んな現場に繋がるような気がしますね。
* 1 阪本英二(2007)「同じ<場所>にいること:
「当事者」の場所論的解釈」、宮内洋・
今尾真弓編著『あなたは当事者ではない:<当事者>をめぐる質的心理学研究』北
大路書房、146-156 頁
* 2 伊藤樹里さん。たんぽぽの家のメンバーで、日記を書いたりラジオ体操をしたり、
日々のことをするのが彼女の仕事。
* 3 高江洲義英(2008)「病院内における制度を使った精神療法の試み 沖縄いずみ病
院の例」、多賀茂・三脇康生編著『医療環境を変える「制度を使った精神療法」の
実践と思想』京都大学学術出版会、113 頁
嶋田 久美(しまだ・くみ)/病や障害をめぐる表現活動について
研究しています。とくに音楽によって人々のあいだに形成される
場のセンシティヴな成り立ちに興味があります。つながりにもコ
ンフリクトにもなりうるその力の不思議を日々体感しています。
三宅 博子(みやけ・ひろこ)/「多様性と境界に関する対話と表
現の研究所」
(略称:diver-sion)という長い名前の NPO を立ち上げ、
スタッフとして活動し始めました。多様な背景を持つ人々が共に 生
き抜くための技法 としての〈表現〉について、
もやもやと考えたり、
話したりしています。詳しくは http://www.diver-sion.org
中島 そういう意味では、安全すぎない場というか色々配慮して余計な
ものを排除しすぎないほうが、何か起こりやすいのかもしれない。無秩序
中島 香織(なかじま・かおり)/相変わらずたんぽぽの家でメン
バーと毎日を過ごしています。変わったことと言えば赤ちゃんが
できることです。うまくいけば神戸大会の次の日に産まれます。
お腹の中で見ず知らずの人がぐんぐん大きくなっているとは妙な
ものです。
ではだめだと思うけど。
三宅 機能と効果が考えられたアートばかりでもなく。
嶋田 あと、病院に絵をかけたりするのも、患者さんの表現を引き出す
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金城光政さんに聞きました
学会が設立して 8 年。現在の会員数は約 170 名になりました。
みなさんそれぞれに多彩な活動をされていますが、じつはその詳しい内容を知らないま
数珠つなぎ
まです。そこで、これから毎回1名の会員の方を取り上げて紹介します。
自薦・他薦お待ちしています!
Q1 ご自身の活動を簡単に教えてください
Q5
認知症病棟の利用者(入院)を対象に造形表現を主体とした作業療法
作業療法において 待つこと は
どのような意味を持っていると思いますか
を行っています。利用者の状況に合わせて、コラージュやミクストメディ
臨床では、科学的にかつ効率的に作業療法を実施することが求められ
アなどが活動の中心です。小康状態といえども高齢者の心身状況は日々、
ます。誤解を恐れずにいえば、私はそのどちらも臨床においての比重は
時間ごとに変化します。したがってそれに臨機応変にかつ即興的・柔軟
高くありません。効率よく何かが上手くできることよりも、意にならな
に対応するため、その活動内容は細部にわたり多彩に展開せざるをえな
い状況での悪戦苦闘や、個人的なこだわりから、何か新しいモノや視点
い、そんな 活動 です。
が生まれる方に期待しています。私はそれを 待って います。
Q2 その活動をするきっかけは何でしたか
Q6
チィーチィーパッパ と
病院で行っているという
特殊性を感じたことはありますか
揶揄されるような作業活動
あります。病院での作業療法で制作された造形作品とは何か、という
が批判されています。ある
問いは私の中で解決されていません。ただ、かつての「作品はレントゲ
いは意図のない作業依存は
ンフィルムと同じである。したがって、作品の展示はもってのほかだ」
無力化を促進するのではと
という呪縛は大分薄らいでいます。病理的な視点からではなく、自身の
の指摘もあります。造形表
生存を賭け、表現された作品とどう向き合っていけばいいのか。病院の
現は、何らかのモノとして
特殊性が影響しているのでしょう。
の作品が残り、それを介し
てさまざまなコトを展開で
きること、それがケアの質を高めることになります。作業療法における
Q7
最大の強みを再発見したこと。それが造形表現活動をはじめたきっかけ
です。
今後やりたいことや展望について
教えてください
高齢者の作品を集めた美術館の設立の夢はひそかに暖め続けています。
その前段として、当院での展示会「希望のカタチ展」を継続すること。
Q3
さらに沖縄県の精神科、高齢者・認知症関連施設の合同企画展示会を開
印象に残っている
エピソードはありますか
催したいと考えています。沖縄から楽しいことをたくさん発信し、新し
い風を呼び起こすことができればと考えています。
認知症の患者さんの心身の状態変化は突然にやってきます。それを察
した作業療法士は、作業活動と並行して患者さんの語りにその重きをシ
フトしていきます。語りをメモし、その中から印象的な言葉を「詩書画」
Q8 アートミーツケア学会にたいして一言!
という作品スタイルで制作します。90 歳の A さんは、
『会いたい』と題し、
まだ一度も参加したことがありませんが、機関誌やニュースレターな
「もう一度、お母さんに会いたいね」の言葉を残して逝きました。
どからたくさんの情報や刺激を得ています。仲間を大勢募って、ツアー
で参加をとも考えています。
Q4
空間づくりにおいて
気を配っていることはありますか
もとぶ記念病院が発行しているブックレットに「作業療法の<動詞>」
環境からの働きかけ、環
という金城さんがつくられた詩があります。その中の「創作は<多様な
境への働きかけが十分に保
動詞>の編集作業でもあります <無数の動詞>が組み合わさり 関係
障されるよう工夫を重ねて
づけられ 活動が形成され 創作は進められていきます」ということば
います。状況によっては、
に目が釘づけになりました。モノとしての作品が出来るまでの時間をま
管理的な要求も求められま
るで音楽のように捉えられているように感じました。
す。緩やかな方へ流れてい
きたいものです。訓練的な
要素を含む環境も大切です
が、衰えゆく心身をゆっく
りと受け入れ、それ味わえるような余裕ある環境も大切だと考えるので
金城 光政さん/もとぶ記念病院、ほか(フリーランス)
1952 年沖縄生まれ。作業療法士。1983 年沖縄県作業療法士会設
立に参加、初代会長。現在、精神障害・認知症分野での造形表現
を中心とした作業療法を実践中。
著書に
『歌集 作業療法室と仔猫』
(2009 年)がある。
すが(個人的には)
。
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アートミーツケア学会 入会のご案内
会員を募集しています
人間の生命、ケアにおけるアートの役割を研究する場として、またアートの力を社会にいかしていくためのネットワークとして、2006 年に設立しました。
アートミーツケア学会では、趣旨に賛同する会員による活動基盤をつくりたいと考えています。多くのみなさまに賛同、支援をいただき、学会を支えて
いただけることを願います。ぜひ、入会し、研究や活動にご参加ください。
事業案内
役 員(敬称略)
1. 大会の開催
□会長 鷲田清一(大谷大学教授)
講演、研究発表、実践報告を実施し、学会員による発表、討論の場を設け
るとともに、会員相互の情報交換、交流の場として年 1 回大会を開催します。
□副会長 中川 真(大阪市立大学大学院文学研究科教授)
副会長 森口ゆたか(美術家、NPO 法人アーツプロジェクト代表)
2. 調査研究の推進
「医療とアート」
「高齢者とアート」
「障害と創造性」
「アート・テクノロ
ジー・ケア」など、アートとケアに関する調査研究を推進します。
□常務理事 播磨靖夫(財団法人たんぽぽの家理事長)
□理事 秋田光彦(浄土宗大蓮寺・應典院住職)
理事 坂倉杏介(慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所特任講師)
3. 学会誌の発行
アートとケアに関する研究論文や調査報告、実践紹介、エッセイ、評論な
どを掲載した学会誌を発行します。
4. ニュースレターの発行
理事 杉林英彦(愛知教育大学講師)
理事 鈴木理恵子(女子美術大学准教授)
理事 関口怜子(ハート&アート空間ビーアイ代表)
日本や海外における新しい情報を掲載したニュースレターを発行します。
5. フォーラム、シンポジウムの開催
理事 ダーリング・ブルース(美術史家)
理事 高橋伸行(アーティスト/やさしい美術プロジェクトディレクター)
特定のテーマ、タイムリーな課題についてのフォーラムやシンポジウムを
開催します。
理事 銅金裕司(メディアアーティスト、京都造形芸術大学教授)
理事 並河恵美子(NPO 法人芸術資源開発機構代表)
6. プログラムの開発、プロジェクトの実施
ケアの現場へのアーティストの派遣、アート作品の導入、プログラムの開
発などを推進します。
理事 野津 亮(大阪府立大学大学院工学研究科准教授)
理事 日野陽子(京都教育大学准教授)
理事 本間直樹(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター/文学研究科准教授)
7. 国際交流の推進
アートとケアに携わる団体と共同研究を実施します。また、情報交換、交
流事業を実施し、アートとケアに関わる国際的なネットワークの形成をめ
ざします。
理事 水野哲雄(NPO 法人地球デザインスクール理事長/京都造形芸術大学名誉教授)
理事 見寺貞子(神戸芸術工科大学教授)
理事 三輪敬之(早稲田大学創造理工学部教授)
理事 山口悦子(大阪市立大学医学部附属病院安全管理対策室専任医師)
申し込み方法
理事 横川善正(金沢美術工芸大学教授)
1. 郵便振替にて年会費をご入金ください。
入金先 アートミーツケア学会
口座番号 00920 - 4 - 252135
□監事 柊 伸江(みっくすさいだー代表、京都聖母女学院短期大学非常勤講師)
監事 田中みわ子(東日本国際大学准教授)
2. ご住所、電話番号、お名前、会員を記入のうえ、年会費の 払込票(コピー可)をそえて事務局までお送りください。
3. 事務局より入会手続き完了のお知らせを返送いたします。
会員種類・年会費
□個人会員 一般 10,000 円 学生 5,000 円
□賛助会員 30,000 円
アートミーツケア学会 2014 年総会・大会
■日程:2014 年 11 月 15 日(土)
、16 日(日)
■会場:KIITO デザインクリエイティブセンター神戸
(兵庫県神戸市中央区小野浜町 1 4)
■テーマ:ファッション─纏う身体
プログラムの詳細やプレゼンテーションの応募方法は
学会HPにてご案内しております。
*お申し込み・お問い合わせは、事務局までお願いします。
編集後記
●議論を重ねて来たオンラインジャーナルの改訂
●約 2 年を経てアートミーツケア叢書を発行しまし
もようやく形になり、日頃の実践やそこで感じ
た。第 1 巻は、日本でも活動が活発になりつつ
た感覚を、ことばにする機会として使っていた
ある、病院でのアート活動がテーマとなりました。
だきたいと願っています。これまで通り論文も
副タイトルを「医療現場の再生と未来」としたの
募集しておりますが、研究ノートからステップ
は、病院で行われるアートの実践が、これからの
アップしていただくこともできます。さて私事
病院や医療のあり方に重要なヒントをもたらして
ですが 10 月から産休・育休をいただきます。
いると考えたからです。ご執筆、ご協力いただい
パワーアップして戻ってまいります。
(中島香織)
たみなさま、
ありがとうございました!
(森下静香)
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アートミーツケア学会
ニュースレター Vol.12 2014 年 10 月 1 日発行
発行 アートミーツケア学会
http://popo.or.jp/artmeetscare/
〒 630-8044 奈良市六条西 3-25-4
財団法人たんぽぽの家内
Tel.0742-43-7055 Fax.0742-49-5501
[email protected]
14/09/26 8:53