軽量ファイバーメタルの研究 - 一般社団法人 日本航空宇宙工業会

ISSN 1880-3660
環境調和型航空機技術に関する調査研究
成 果
報
告
書
No.2206
軽量ファイバーメタルの研究
2011年 3月
社団法人
日本航空宇宙工業会
革新航空機技術開発センター
ま え が き
日本航空宇宙工業会は、平成22年度事業の一つとして、(財)JKA から補助金の交付を得
て、「航空機工業の国際競争力強化に関する調査研究(次世代航空機・航空機用新素材)」およ
び「環境調和型航空機技術に関する調査研究」を下表のように実施した。
研究の実施に対し、その実現と推進にご尽力賜った経済産業省ならびに(財)JKA のご関係者
に厚くお礼申し上げる。
平成23年3月
社団法人 日本航空宇宙工業会
革新航空機技術開発センター
平成22年度委託研究登録番号(報告書No.)一覧
No.
報告書
No.
分野
1
2201
推進
次世代
航空機
継続
航空用エンジンにおけるファンへの着氷低減技術
㈱ IHI
の研究
2
2202
制御
次世代
航空機
継続
全舵面不作動時の推力による代替飛行制御技術
に関する研究
3
2203 機体/空力
次世代
航空機
継続 ヘリコプター用ブレードの低コスト製造方法の研究 川崎重工業㈱
4
2204 機体/空力
航空機用
継続 高性能複合材成形治具の研究
新素材
三菱重工業㈱
㈱ジーエイチクラフト
5
2205 機体/空力
航空機用
高強度ステンレス鋼の実機適用推進と改良開発
継続
新素材
に関する研究
住友精密工業㈱
日立金属㈱
6
2206 機体/空力 環境調和 継続 軽量ファイバーメタルの研究
7
2207 機体/空力 環境調和 継続
8
2208
推進
9
2209
推進
次世代
航空機
新規
航空エンジンにおける回転体の光学式ひずみ
・振動計測技術の研究
㈱ IHI
10
2210
制御
次世代
航空機
新規
リージョナルジェット機を対象としたダイナミック
インバージョン飛行制御技術に関する研究
三菱重工業㈱
11
2211
機体空力
・制御
次世代
航空機
新規
Integrated Fault/Damage Detection and Isolation
(IFDDI)技術に関する研究
三菱重工業㈱
12
2212
機体空力
航空機用
チタン基複合材(TMC)の降着装置部品の
新規
新素材
実用化研究
住友精密工業㈱
13
2213
機体空力
航空機用
新規 革新的軽量金属構造材料の研究
新素材
富士重工業㈱
14
2214
機体空力 環境調和 新規 航空機HLD騒音低減技術の研究
川崎重工業㈱
15
2215
機体空力 環境調和 新規
16
2216
推進
技術
継続
カテゴリー 新規
研究名
チタン合金板材の局所加熱による複雑形状成形
技術の研究
環境調和 継続 高耐食性アルミダブルフレキシブルコアの研究
環境調和 新規
委託会社
三菱重工業㈱
富士重工業㈱
日本飛行機㈱
昭和飛行機工業㈱
最適化技術を応用した高揚力装置の設計技術
開発
川崎重工業㈱
日本飛行機㈱
航空エンジンのタービン翼に適用する冷却空気
削減技術の研究
㈱ IHI
軽量ファイバーメタルの研究
調査研究委託会社 富士重工業㈱
目次
第 1 章 研究の概要 ................................ ................................ .... 3
1.1
研究目的 ................................ ................................ ......... 3
1.2
実施期間等 ................................ ................................ ....... 3
1.3
実施内容 ................................ ................................ ......... 4
1.4
成果概要 ................................ ................................ ......... 5
1.5
所見 ................................ ................................ ............. 7
1.5.1 評価 ................................ ................................ .......... 7
第 2 章 研究の内容 ................................ ................................ .... 8
2.1
緒言 ................................ ................................ ............. 8
2.1.1 背景 ................................ ................................ .......... 8
2.1.2 ファイバーメタルラミネート(FML)について ................................ ...... 8
2.1.3 マグネシウム合金について ................................ .................... 11
2.2
目的 ................................ ................................ ............ 11
2.3
成形プロセス確立 ................................ ................................ 13
2.3.1 マグネシウムリチウム合金の表面処理条件 ................................ ...... 13
2.3.2 マグネシウムリチウム合金表面処理の接着性評価 ................................ 14
2.3.3 マグネシウムリチウム合金表面処理の耐食性評価 ................................ 18
2.3.4 考察 ................................ ................................ ......... 19
2.4
耐衝撃性評価 ................................ ................................ .... 21
2.4.1 インパクター試験................................ ............................. 21
2.4.2 雹衝突試験 ................................ ................................ ... 25
2.5
大ひずみ速度 CAE 解析................................ ............................ 32
2.5.1 検討の進め方 ................................ ................................ . 32
2.5.2 FML モデル作成 ................................ ............................... 34
2.5.3 雹衝突 CAE 解析によるモデルの妥当性検証 ................................ ...... 37
2.5.4 鳥モデル作成 ................................ ................................ . 50
2.5.5 鳥衝突 CAE 解析 ................................ ............................... 53
2.5.6 結論 ................................ ................................ ......... 59
2.6
機械的強度特性取得................................ .............................. 60
2.6.1 試験方法 ................................ ................................ ..... 60
1
2.6.2 試験結果 ................................ ................................ ..... 63
2.6.3 考察 ................................ ................................ ......... 71
2.7
部分構造試験 ................................ ................................ .... 74
2.7.1 試験方法 ................................ ................................ ..... 74
2.7.2 試験結果 ................................ ................................ ..... 74
2.8
鳥衝突試験 ................................ ................................ ...... 76
2.8.1 供試体 ................................ ................................ ....... 76
2.8.2 試験条件 ................................ ................................ ..... 77
2.8.3 試験結果 ................................ ................................ ..... 81
2.8.4 考察 ................................ ................................ ......... 86
第 3 章 問題点と今後の課題................................ ........................... 87
第 4 章 関連技術調査 ................................ ................................ . 88
4.1
関連特許調査 ................................ ................................ .... 88
4.2
参考文献 ................................ ................................ ........ 92
2
第 1 章
研究の概要
1.1 研究目的
近年の航空輸送業界は、航空燃料の高騰や格安航空会社の出現、世界的景気後退などから厳し
い競争環境に曝されている。こうした中、各エアラインは少しでも燃費の良い機体を配備したい
と考えている。例えば、1990 年代半ばに就航した Airbus A330 は、1980 年代半ばに就航した
Boeing767 と比べて乗客一人当たりの燃料消費量が 12%も少ない
1)
。低燃費機体を実現する重要
な解決策は「機体軽量化」である。金属より軽い複合材を約 50%使用した最新の旅客機 Boeing787
は 800 機を超える受注を獲得している。
一方、翼の前縁など耐衝撃性が求められる部位については、炭素繊維強化複合材料より比重の
重いアルミニウム合金製がほとんどであり、軽量化が難しい。そこで、金属と複合材の両方の特
性を兼ね備えるファイバーメタルラミネート(金属と複合材の交互積層材料。以下 FML:Fibre
Metal Laminates とする)が有望視される。このコンセプトは、Airbus の最新型旅客機 A380 の垂
直尾翼前縁で実証され実用化されている。しかしながら A380 で使用されている FML の密度は 2.5
3
2)
3
Mg/m と重く 、さほど軽量化には寄与できていない。そこで密度 1.8 Mg/m レベルという新たな
FML を創製し実用レベルにまで高めることで、航空機の燃費向上に貢献するとともに、航空機部
位製造の競争力向上を果たすことを目的とする。
1.2 実施期間等
(1) 実施期間
平成 22 年 4 月 28 日∼平成 23 年 3 月 15 日
(2) 実施場所
事業所:富士重工業株式会社
住所:〒320-8564
航空宇宙カンパニー
栃木県宇都宮市陽南 1-1-11
電話番号:028-684-7516
FAX 番号:028-684-7520
(3) 研究主務者
研究部
材料研究課
課長
中島
正憲
担当
長山
隆弘
課員
生出
理子
3
1.3 実施内容
本研究の実施内容及び全体計画を表 1.3-1 に示す。また平成 22 年度に実施した研究内容を以
下に示す。
(1)成形プロセス確立
マグネシウムリチウム合金を適用した FML において、優れた接着性・耐食性を有する表面
処理条件を選定するため、層間破壊靱性試験及び塩水噴霧試験を実施した。候補材としては
ノンクロム系の表面処理について検討を行った。
(2) 耐衝撃性評価
平成 21 年度の研究において得られた指標に基づく積層構成の耐衝撃性を評価するため、湾
曲形状供試体に対して、雹衝突試験を実施した。試験条件を表 1.3-2 に示す。
(3) 大ひずみ速度 CAE 解析
翼前縁形状の FML 供試体に鳥を衝突した時の変形挙動を予測するために、動的非線形構造
解析ソフト LS-DYNA( Livermore Software Technology Corp.社製)を用いて、CAE(Computer
Aided Engineering)解析を実施した。鳥衝突の解析をするにあたり、(2)で実施した試験と同様
の湾曲形状に雹を衝突させた時の変形挙動について CAE 解析を実施し、最適な積層構成を決
定した。
(4) 機械的特性取得
(1)、(3)で決定した条件を用いた FML の機械的特性を取得するために、強度試験を実施し
た。試験は、引張および圧縮、層間引張せん断試験、衝撃付与後圧縮試験、疲労亀裂進展試
験について実施した。
(5) 部分構造試験
(1)、(3)で決定した条件を用いた FML の構造要素を取得するために、ファスナー強度試験
を実施した。
(6) 鳥衝突試験
(1)、(3)で決定した条件を用いた FML の実機レベルの供試体にて耐衝撃性を評価するため、
翼前縁形状供試体に対して鳥衝突試験を実施した。試験条件を表 1.3-2 に示す。
4
表 1.3-1
本研究の実施内容及び全体計画
項目
平成 21 年度
内容
上期
下期
平成 22 年度
上期
下期
Mg 合金選定
1)成形プロセス確立
Mg 合金表面処理条件確立
2) 耐衝撃性評価
平板試験片雹衝突試験
湾曲試験片雹衝突試験
3) 大ひずみ速度CAE解析
大ひずみ速度 CAE 解析
4) 機械的特性取得
層間せん断強度
引張/圧縮特性
亀裂進展疲労特性
5) 部分構造試験
ファスナー試験
6) 鳥衝突試験
鳥衝突試験
表 1.3-2
衝突試験 試験条件
試験名
雹衝突試験
鳥衝突試験
衝突体
直径 50.8 mm 雹
重量 1.81 kg の鳥
(60.9 g)
衝突速度
122 m/s
122 m/s
衝突角度
90°
30°
衝突エネルギー
453 J
13,395 J
力積
7.43 kg・m/s
219.6 kg・m/s
1.4 成果概要
(1) 成形プロセス確立
マグネシウムリチウム合金表面処理の接着性と耐食性について検討を行った結果、下地処
理としてパーカーセラミックスコーティング(日本パーカライジング(株)製)を用いた処
理条件が、候補材の中では最も接着性が高く、耐食性も優れることを確認した。また、プラ
イマーの塗布回数を増やすことによって、耐食性は向上するが、接着性には影響が少ないこ
とを確認した。
以上の結果より、鳥衝突試験に用いるマグネシウムリチウム合金の表面処理としては、下
5
地処理として PCC 処理を、プライマーの塗布回数は2回とした。
(2) 耐衝撃性評価
平成 21 年度の指標に基づき、金属層としてマグネシウムリチウム合金を用い、かつ剛性を
アルミニウム合金と同等にした供試体について雹衝突試験を実施した結果、金属層の板厚を
厚くした供試体は、アルミニウム合金と近い変形形状だったが、その塑性変形量はアルミニ
ウム合金より大きかった。このことから、耐衝撃性を向上するためには、剛性を上げること
が有効ではあるが、同等の耐衝撃性を得るためには、剛性を同等にするのみでは達成できな
いことが確認できた。
(3) 大ひずみ速度 CAE 解析
FML のモデル化を実施し、雹衝突試験の実験と CAE 解析の整合を図ることによってその
妥当性を検証した結果、以下の知見が得られた。
・FML の層間剥離が衝突時の湾曲供試体の変形量に対して影響が大きい。
・E-glass/エポキシ樹脂織物プリプレグ材は変形量に対して影響が小さい。
・アルミニウム合金と同等の耐衝撃性を持つマグネシウムリチウム合金単体は、33%の軽
量化が期待できる。
以上の知見から、鳥衝突試験においては、金属層としてマグネシウムリチウム合金 0.6 mm
の板を、GFRP 層としては S2-FM94 一方向プリプレグ材を適用し、Al 合金に対して重量比
64%となる FML を適用することとした。
上記の FML 湾曲供試体に、鳥が衝突した時の変形挙動を CAE 解析で予測した結果、FML
モデルは、アルミニウム合金供試体より変形量が少なく、エネルギー吸収特性に優れると予
測された。但し、供試体に層間剥離が生じた場合は大幅に変形量が増加するため、注意を要
する。
(4) 機械的特性取得
(1)、(3)で決定した条件を用いた FML の機械的特性を取得するために、強度試験を実施し
た結果、曲げ剛性設計箇所においてアルミニウム合金より 34%の軽量化が期待されることが
確認された。
しかし、試験前の供試体に一部剥離が見られた。剥離の原因としては、① PCC 処理の脆性
破壊及び②金属層の板厚増加(積層数減少)による FML の初期内部応力の上昇、が考えられ
る。
6
(5) 部分構造試験
(1)、(3)で決定した条件を用いた FML の構造要素を取得するために、ファスナー強度試験
を実施した結果、大きく塑性変形はしたが、破断はしないことが確認された。
(6) 鳥衝突試験
FML の鳥衝突試験を実施した結果、FML 供試体はアルミニウム合金供試体よりも変形が
大きく、底付きしてしまった。変形形状及び荷重時歴は、CAE 解析の層間剥離模擬モデル結
果に近い形状をしていたことから、FML 供試体には衝突の初期に剥離が生じていたと考えら
れる。
アルミニウム合金においては変形形状が解析結果と概ね一致していたが、荷重時歴は異な
っていた。これは、実際の鳥と CAE で用いた鳥モデルの粒子同士の結合力の違いによるもの
であると推測される。鳥モデルについて、本試験結果との整合を図ることによって、より精
度の高い解析モデルを得ることができる。
1.5 所見
1.5.1
評価
今年度は、金属層にマグネシウムリチウム合金を適用することによって、密度 1.48 Mg/m3
という FML の創製を試み、その強度特性の取得及び鳥衝突試験を実施した。金属層と GFRP
層の界面で剥離が生じてしまったが、FML としての特性を取得することができた。また、鳥
衝突試験においてアルミニウム合金と同等レベルの耐衝撃性を実験的に得ることはできなか
ったが、CAE 解析によって、層間剥離が衝突時の変形量に大きく影響することが確認でき、
界面での剥離が生じなければアルミニウム合金製と同等レベルの耐衝撃性を達成する FML
として 36%の軽量化が可能であることが確認できた。
7
第 2 章
研究の内容
2.1 緒言
2.1.1
背景
近年の航空輸送業界は、航空燃料の高騰や格安航空会社の出現、世界的景気後退などから
厳しい競争環境に曝されている。こうした中、各エアラインは少しでも燃費の良い機体を配
備したいと考えている。例えば、1990 年代半ばに就航した Airbus A330 は、1980 年代半ばに
就航した Boeing767 と比べて乗客一人当たりの燃料消費量が 12%も少ない 1)。低燃費機体を
実現する重要な解決策は「機体軽量化」である。こうした背景もあり、金属より軽い複合材
を約 50%使用した最新の旅客機 Boeing787 は 800 機を超える受注を獲得している。
一方、主翼や尾翼の前縁といった耐衝撃性が求められる部位については、炭素繊維強化複
合材料より比重の重いアルミニウム合金製がほとんどであり、軽量化が難しい。そこで、金
属と複合材の両方の特性を兼ね備えるファイバーメタルラミネート(金属と複合材の交互積
層材料)が有望視される。
2.1.2
ファイバーメタルラミネート(FML)について
FML の開発は 1980 年からオランダの Delft 工科大や FMLC(Fibre Metal Laminates Center of
Competence)を中心に始められた。開発当初は、航空機に用いられるアルミ合金の疲労クラッ
ク進展を、複合材層で止める効果(ファイバーブリッジング効果(図 2.1.2-1))が注目されてい
た。交互積層される金属はアルミニウム合金(2000 系又は 7000 系)、複合材はアラミド繊維又
はガラス繊維が用いられる(図 2.1.2-2)。アルミニウム合金とアラミド繊維強化複合材を交互
積層し たも のを ”ARALL”、ア ルミ合 金と ガラ ス 繊維強 化複 合材 (以下 GFRP:Glass Fiber
Reinforced Plastics とする)を交互積層したものを”Glare”と呼んでいる。アルミニウム合金と比
較した場合の Glare の主な特徴 3) を以下に記す。
(1) 軽量性
面内変形に対する比剛性は大差ないが、曲げ変形に対する比剛性が 5∼7%向上。比降
伏強度は 1.2 倍、比強度は 3 倍に向上。
(2) 耐疲労性
ファイバーブリッジング効果によってアルミ合金層の疲労亀裂伝播は、アルミニウム
合金単体の疲労亀裂伝播よりも 10∼100 倍低下することが報告されている 4)。
(3) 耐衝撃、高破壊靭性
GFRP 層のひずみ速度依存性によってアルミニウム合金単体に比べて衝撃抵抗が向上。
また、ガラス繊維の破断ひずみが相対的に大きく、荷重支持性能の高さもあって、破壊
吸収エネルギーが増加。
8
特に最近は、一般的に複合材が弱いとされる耐衝撃性に優れるという特徴から、FML
は様々な航空機への適用が進められている(表 2.1.2-1)。
クラックを越える荷
重の一部
クラック
デラミネーションエ
開口抵抗
リア
Al
Al
合金
合金
複合材層
図 2.1.2-1
ファイバーブリッジング効果 2)
図 2.1.2-2
FML の積層構成例 2)
9
表 2.1.2-1
FML の航空機への適用例 3)に加筆
FML 種類
適用部位
航空機
状態
Arall
下面フラップ外板
DHC8
開発中
C130
Glare
後方貨物ドア
C17
背面カバー
T38
荷重プラットフォーム
Missile
亀裂ストッパー
Early F100
胴体テストタンク
Airbus
適用済み
開発中
Cessna
後方圧力部
Airbus
コックピットクラウン
A330/340
胴体修理
C5
荷物室
MD11
A320/321
A320
B737
B777
適用済み
United 737/757 (Retrofit)
Quantas All Boeing Aircraft
Midwest Express DC9 (Retrofit)
Arall/Glare
下面フラップ外板
B737
上面胴体
A380
水平尾翼前縁
A380
垂直尾翼前縁
A380
爆発硬化 LD-3 コンテナ
AES
前方隔壁
Lear 45
電子キャビネット
AT&T
胴体テストタンク
Bombardier Aerospace
10
開発中
適用済み
開発中
2.1.3
マグネシウム合金について
マグネシウム合金は実用金属の中で最も軽く、比強度、切削性に優れる。ただし、稠密六
方結晶構造であることから常温における加工がやや難しく、航空機構造部品に対しては鋳造
品が主に使用されてきた。同様に民生品分野においても、ダイキャストを中心にマグネシウ
ム合金の適用が進められてきた。しかしながら最近、更なる軽量化と意匠性、歩留り向上の
ため、マグネシウム合金薄板展伸材からのプレス成形が民生品分野を中心に拡大しつつある。
このような流れのもと技術開発が進み、今までは難しいとされていた高強度マグネシウム合
金の薄板化が可能となり、更には薄板展伸材価格の低減が進んでいる。
また材料面においても開発が進められている。今まで弱いとされていた耐食性については、
アルミ合金と同等レベルまで引き上げたマグネシウム合金が数多くリリースされている。強
度についても、超急冷凝固粉末を用いて従来合金の 2 倍以上の強度を有するナノ結晶マグネ
シウム合金や、経済産業省の予算で実施された「次世代航空機用構造部材創製・加工技術開
発」で開発された強度 500MPa を有する新合金などがある。
2.2 目的
航空機機体の軽量化は、低燃費機体による運航費低減を実現したいエアラインにとっても、
CO 2 削減という観点からも最善の解決策である。軽量化に向けた一つの解として、複合材料
の多用化が進んでいる。一方、主翼や尾翼の前縁といった耐衝撃性が求められる部位につい
ては、複合材料では要求をクリアすることが出来ず、軽量化が難しい。そこで、金属と複合
材の両方の特性を兼ね備える FML が有望視される。このコンセプトは、Airbus の最新型旅客
機 A380 の垂直尾翼前縁で実証され実用化されている。しかしながら A380 で使用されている
FML(Glare)の密度は 2.5 Mg/m3 と重く、さほど軽量化には寄与できていない。そこで、我が
国において適用が進み、合金開発も進んでいるマグネシウム合金薄板展伸材を用い、密度 1.8
Mg/m3 レベルという新たな FML を創製し実用レベルにまで高めることで、アルミニウム合金
製の翼前縁と比較して 50%の重量軽減を達成し、航空機の燃費向上に貢献するとともに、航
空機部位製造の競争力向上を果たすことを目的とする。
また、ひずみ速度が大きい場合(衝撃時)の複合材料データに関する研究は少なく、要素
レベルでの研究もそれほど多くなされていない。一方で航空機構造に対する複合材料の割合
は増加してきているため、鳥衝突解析技術等の複合材構造に関する構築が不可欠である。大
ひずみ速度に対する複合材料のデータ取得と CAE 解析技術構築も本研究の目的とする。
耐衝撃性に優れる軽量 FML について、航空機翼前縁に適用することを第一歩として研究を
進めるが、比強度ベースでは構造部材全般、耐衝撃性ベースでは滑走時石跳ねを想定した固
定後縁パネルや重量物の衝撃を受けやすいカーゴドア・カーゴフロアへの応用も効果がある。
11
当然航空機のみに留まらず、自動車の衝突部位や風力タービンブレード、電子機器類の筐体
等、他分野への波及効果も想定される。
12
2.3 成形プロセス確立
平成 21 年度の研究結果より、軽量と耐衝撃性を両立させるためには、マグネシウム合金(以下
Mg 合金とする)層としてマグネシウムリチウム合金(以下 Mg-Li 合金とする)を第一候補とす
る改善案を得た。そこで、今年度は Mg-Li 合金(LA141:Li;6.5∼16.0 wt%, Al;0.3∼2.0 wt%)を
適用した FML において、優れた接着性と耐食性を有する表面処理条件を選定するため、層間破壊
靱性試験(以下 G IC 試験)及び塩水噴霧試験を実施した。
2.3.1
マグネシウムリチウム合金の表面処理条件
Mg-Li 合金の表面処理としては、平成 21 年度と同様、ノンクロム系の下地処理及びプライ
マーを適用した。下地処理条件としては、Mg-Li 合金の表面処理として実績のある、「ノン
クロムマグネシウム合金化成処理システム(ミリオン化学(株)製。以下、ノンクロム化成処理
とする)」、「Anomag 処理(堀金属表面処理工業(株)製)」及び「パーカーセラミックスコー
ティング(日本パーカライジング(株)製。以下、PCC 処理とする)」の3種類を候補材と
して用いた。各処理の特徴を簡単に表 2.3.1-1 に示す。プライマーは平成 21 年度と同じノ
ンクロムプライマー(Cytec 製)を適用した。
試験を実施した処理条件を表 2.3.1-2 に示す。平成 21 年度において、ノンクロムプライ
マーはクロム系プライマーに比較して、同等の接着強度を得られたが耐食性が劣る結果とな
った。そこで、今年度はノンクロムプライマーの塗布回数を増やすことで耐食性の向上を図
った。処理条件1及び処理条件2において、プライマーの塗布回数による接着性及び耐食性
への影響を確認した。
表 2.3.1-1
候補材下地処理条件の特徴
処理名称
特徴
ノンクロム化成処理 5)
・カルシウムを含むリン酸塩系
・短時間で処理可能
・従来のクロム処理に匹敵する耐食性
Anomag 処理
6)
(陽極酸化処理)
PCC 処理
(プラズマ酸化処理)
・リン酸塩系
・欠陥部位での自己修復作用あり
・ジルコニウムを含有するセラミックス皮膜
・従来のクロム化成処理を大きく上回る耐食性
13
表 2.3.1-2
2.3.2
表面処理条件
下地処理
プライマー塗布回数
処理条件 1
ノンクロム化成処理
1回
処理条件 2
ノンクロム化成処理
2回
処理条件 3
Anomag 処理
1回
処理条件 4
PCC 処理
1回
マグネシウムリチウム合金表面処理の接着性評価
表 2.3.1-2 の各処理条件に対して、Mg-Li 合金と GFRP の接着性を評価するために、G IC
試験を実施した。GFRP は、E-glass/エポキシ樹脂織物プリプレグ材(日東紡績(株)製)を用
いた。
(1) 試験方法
試験は ASTM D5528:Standard Test Method for Mode I Inter laminar Fracture Toughness of
Unidirectional Fiber-Reinforced Polymer Matrix Composites に基づいて実施した。供試体形
状を図 2.3.2-1 に示す。試験は万能試験機(SHIMADZU AG-IS 100 kN、島津製作所製)
を用いて実施した。試験温度は室温とし、試験速度は 1.0 mm/min とした。
GIC 強度を求める式を式1に示す。
3Pδ
G1 =
2ba
(式 1)
P: 荷重 [N]
δ : 亀裂開口変位 [mm]
b: 供試体幅 [mm]
a: 亀裂長さ [mm]
14
A
単位:mm
マグネシウムリチウム合金
(0.2 mm 厚)
GFRP(2.47 mm 厚)
カプトンフィルム
A 部拡大
図 2.3.2-1
G IC 試験供試体形状
(2) 試験結果
処理条件3の供試体は、成形後、評定部以外に剥離が見られた。これより、処理条件
3の接着性は低いと判断し、試験は、処理条件1、2及び4について実施した。
試験結果を表 2.3.2-1 に示す。処理条件1、2に比べて処理条件4の G IC 強度が高い
ことを確認した。また、処理条件1及び2において、GIC 強度がほぼ同等であったこと
から、プライマーの塗布回数が接着強度に及ぼす影響は小さいことを確認した。
試験後の供試体写真を図 2.3.2-2∼図 2.3.2-4 に示す。写真は、試験での亀裂進展範
囲の様子が見えやすいように、試験後に強制破断した供試体である。亀裂進展範囲を、
破線四角部で示す。破断面は、どの供試体においても下地処理及びプライマーが見られ、
15
剥離は下地処理とプライマーの界面で生じていることが確認された。
表 2.3.2-1
G IC 試験 試験結果
GIC (J/m2)
処理条件
標準偏差
変動係数
68
8
12%
63
65
4
6.4%
295
279
16
5.7%
1
2
3
平均値
処理条件1
76
60
68
処理条件2
70
63
処理条件4
280
263
亀裂進展範囲
図 2.3.2-2
G IC 試験 試験後供試体(処理条件1)
16
亀裂進展範囲
図 2.3.2-3
G IC 試験 試験後供試体(処理条件2)
亀裂進展範囲
図 2.3.2-4
G IC 試験 試験後供試体(処理条件4)
17
2.3.3
マグネシウムリチウム合金表面処理の耐食性評価
表 2.3.1-2 の各処理条件について、Mg-Li 合金表面処理としての耐食性を比較するために、
塩水噴霧試験を実施した。
(3) 試験方法
試験は、ASTM B 117:Standard Practice for Operating Salt Spray (Fog) Apparatus に基づい
て実施した。供試体形状は板厚 1.2 mm、縦 150 mm、横 100 mm とした。試験は塩水噴
霧試験機(板橋理化工業㈱製)を用いて実施した。塩水の濃度は5%とし、試験温度は
35 ℃±2 ℃とした。
試験後の評価は、レイティングナンバ法
7)
及び外観観察により行なった。レイティン
グナンバと腐食面積率の関係を式2に示す。
RN =3(2 −log10 A)
(式 2)
RN: レイティングナンバ
A: 腐食面積率
(4) 試験結果
試験時間は 168 時間で評価を行った。試験結果を表 2.3.3-1 に示す。プライマーの塗
布回数を増やした処理条件2が最も優れた耐食性を示しており、処理条件3が最も腐食
が進行していた。処理条件1と処理条件4はほぼ同等の耐食性であった。
18
表 2.3.3-1
塩水噴霧試験 試験結果
処理条件
処理条件1
処理条件2
RN
5
9.5
処理条件
処理条件3
処理条件4
RN
0
4
供試体
供試体
2.3.4
考察
Mg-Li 合金に対する表面処理の接着性及び耐食性について評価を実施した。その結果、下
地処理として PCC 処理を用いた処理条件が、候補材の中では、最も接着性が高く、耐食性も
優れることを確認した。また、プライマーの塗布回数を増やすことによって、耐食性は向上
19
するが、接着性には影響が少ないことを確認した。
以上より、鳥衝突試験に用いる Mg-Li 合金の表面処理としては、下地処理として PCC 処理
を、プライマーの塗布回数は2回とする。
20
2.4 耐衝撃性評価
平成 21 年度の研究において、アルミニウム合金(以下 Al 合金とする)と比較して重量が半分
になるような FML について雹衝突試験を実施した。その結果から、Al 合金と同等の耐衝撃性を
持ちかつ重量半減を実現できる可能性の高い FML として、①FML の曲げ剛性が Al 合金と同等で
あること、②Mg 合金層としては、比重が小さい Mg-Li 合金を適用すると良い、との指標を得た。
この指標に基づく積層構成の耐衝撃性を評価するため、金属平板供試体に対するインパクター試
験、及び FML 湾曲形状供試体に対する雹衝突試験を実施した。
2.4.1
インパクター試験
平成 21 年度の結果より、軽量化を達成する目的から Mg 合金層としては、Mg-Li 合金を第
一候補とした。しかし、その応力-歪曲線から、同じエネルギーを吸収する時の変形量は他の
Mg 合金より大きいと考えられる。そこで、Mg 合金及び Mg-Li 合金、Al 合金の平板におけ
る耐衝撃性と重量の比較を行い、Mg 合金層として適した材料の決定を行った。
(1) 試験方法
試験は、ASTM D 7136:Standard Test Method for Measuring the Damage Resistance of a
Fiber-Reinforced Polymer Matrix Composite to a Drop-Weight Impact Event に準じて実施し、
先端の半径 7.96 mm、重量 4.5 kg のインパクターを落下した。供試体形状は縦 150 mm、
横 100 mm とした。試験を実施した供試体の材 料名、板厚及び衝突エネルギーを 表
2.4.1-1 に示す。
試験後の評価は、衝撃によるくぼみ深さ及び衝撃による損傷レベルにより行った。
表 2.4.1-1
インパクター試験供試体一覧
材料
板厚(mm)
衝突エネルギー(J)
Mg-Li
1.23
7.5
Mg 合金 AZ31
1.6
7.5、14
Al 合金 6061-T4
1.27
7.5
(2) 試験結果
衝撃付与後のくぼみ深さを表 2.4.1-2 に、衝撃後のくぼみ深さ×板厚と衝撃エネルギ
ーの関係を図 2.4.1-1 に示す。図 2.4.1-1 には、比較のために Al 合金 2024-T3(板厚 2.0
mm)の値 2) も記載した。
21
図 2.4.1-1 より、Al 合金のくぼみ深さ×板厚と衝撃エネルギーの関係は、6061-T4、
2024-T3 共にほぼ同じ比例関係にあることが確認された。Mg 合金についても、Al 合金
と同様に、合金種によらずほぼ同じ比例関係にあると仮定すると、同じエネルギーで同
じくぼみ深さの時、Al 合金に比べて AZ31 は-20∼12 %、Mg-Li 合金は 10∼35 %軽量化
可能と推定される(図 2.4.1-2)。
表 2.4.1-2
インパクター試験試験後くぼみ深さ
材料
くぼみ深さ(mm)
衝突エネルギー(J)
Mg-Li
3.3
7.5
AZ31
2.4
7.5
6061-T4
2.3
7.5
AZ31
4.9
14
16
くぼみ深さ×板厚 (mm2 )
14
12
10
8
Mg-Li(1.2mm)
AZ31(1.6mm)
6061-T4(1.27mm)
2024-T3(2.06mm)
2024-T3(3.80mm)
6
4
2
0
0
10
図 2.4.1-1
20
30
衝撃エネルギー (J)
40
50
くぼみ深さ×板厚と衝撃エネルギーの関係
22
対 Al 合金)
120%
重量比率
140%
80%
100%
Mg-Li
AZ31
60%
40%
20%
0%
0
10
20
30
40
50
衝撃エネルギー(J)
図 2.4.1-2
同エネルギーかつ同くぼみ深さの時の Mg-Li 合金及び
Mg 合金の Al 合金に対する重量比率
衝撃付与後の試験片を表 2.4.1-3 に示す。衝撃エネルギーが 7.5 J の供試体において、
6061-T4 及び Mg-Li 合金は特に損傷が見られなかったのに対し、AZ31 は衝撃入力側及び
出力側の両面においてクラックが見られた。また AZ31 は 14 J でクラックの貫通が見ら
れた。このことから、AZ31 より Mg-Li 合金の方がより高いエネルギーを吸収できるこ
とが確認できた。
以上の結果より、軽量かつ耐衝撃性を持つ FML を創製するためには、金属層として
Mg-Li 合金が適していることが確認できた。
23
表 2.4.1-3
材料*
衝撃試験試験後供試体
衝撃入力側
衝撃出力側
Mg-Li(7.5J)
AZ31(7.5J)
クラック
クラック
6061-T4(7.5J)
AZ31(14J)
クラック
*括弧内は衝撃エネルギーを示す。
24
クラック
2.4.2
雹衝突試験
平成 21 年度に得られた指標である、曲げ剛性が Al 合金と同等である積層構成の耐衝撃性
を評価するため、FML 湾曲形状供試体に対して雹衝突試験を実施した。
(1) 供試体
供試体のサイズは、平成 21 年度と同様に中大型旅客機垂直尾翼前縁及びビジネスジェ
ット機主翼前縁を模擬し、コード長 200 mm、翼厚 150 mm、幅 200 mm、翼型 NACA0012
とした。構成材料としては、金属層に Mg-Li 合金を、繊維層には 2.3.2 項と同じ E-glass/
エポキシ樹脂織物プリプレグ材を用いた。構成材料の密度、弾性率、及び試験に使用し
た材料の板厚を表 2.4.2-1 に示す。比較材として Al 合金 6013-T6 材の特性も同時に示
す。
試験を実施した供試体一覧を表 2.4.2-2 に、供試体の積層構成を表 2.4.2-3 に示す。
供試体としては、繊維層として一部 GFRP より弾性率が高い CFPR を適用した供試体
(FML-1)、及び平成 21 年度より Mg 合金層の割合を増加した供試体(FML-2)につい
て試験を実施した。FML-2 については、Mg 合金は GFRP より密度が小さいため、重量
を増加せずに、板厚を向上でき、重量軽減と剛性向上を両立できる。Mg 合金層割合は
FML-2 と同じだが、合金層を厚板1層にした供試体(FML-3)と Mg-Li 合金単体(Mg-Li)
についても試験を実施した。FML-3 については、Mg-Li 合金板が薄い場合(FML-2)と
厚い場合(FML-3)の耐衝撃性の違いについて検討を行うために実施した。
表 2.4.2-1
*1
*2
*3
構成材料特性
3
材料
密度(Mg/m )
弾性率(GPa)
板厚(mm)
Mg-Li*1
1.36
44
0.2 、0.6、1.2
GFRP*2
1.88
31
0.05
CFRP*1
1.6
116
0.2
Al*3
2.71
69.6
-
密度及び弾性率の値はメーカーカタログによる。
密度及び弾性率の値は実測値による。
8)
密度は MMPDS-05 に、弾性率の値は引張試験結果による。
25
表 2.4.2-2
*
雹衝突試験供試体一覧
*
供試体名称
金属層割合(%)
板厚(mm)
剛性
重量
FML-1
46
1.3
96
59
FML-2
77
1.55
107
67
FML-3
77
1.55
107
67
Mg-Li
100
1.48
109
58
*
Al 合金(6013-T6、1.27 mm)を 100 とした場合の値である。
表 2.4.2-3
供試体積層構成一覧*
FML-1
*
FML-2
FML-3
積層
材質
板厚(mm)
材質
板厚(mm)
材質
板厚(mm)
1
CFRP
0.2
GFRP
0.05
GFRP
0.05
2
GFRP
0.05
Mg-Li
0.2
GFRP
0.05
3
GFRP
0.05
GFRP
0.05
GFRP
0.05
4
Mg-Li
0.2
Mg-Li
0.2
Mg-Li
1.2
5
GFRP
0.05
GFRP
0.05
GFRP
0.05
6
Mg-Li
0.2
Mg-Li
0.2
GFRP
0.05
7
GFRP
0.05
GFRP
0.05
GFRP
0.05
8
Mg-Li
0.2
Mg-Li
0.2
GFRP
0.05
9
GFRP
0.05
GFRP
0.05
-
-
10
GFRP
0.05
Mg-Li
0.2
-
-
11
CFRP
0.2
GFRP
0.05
-
-
12
-
-
Mg-Li
0.2
-
-
13
-
-
GFRP
0.5
-
-
計
1.3
計
1.55
計
1.55
CFRP 及び GFRP の繊維方向は全て 0°方向である。
26
(2) 試験条件
試験は、平成 21 年度と同様に、ASTM F320-05:Standard Test Method for Hail Impact
Resistance of Aerospace Transparent Enclosures に基づき実施した。雹のサイズは直径 50.8
mm(重量 60.91 g)、速度は 122 m/s(400 ft)、衝突角度は 90°とした。このときの衝
突エネルギーは 453 J、力積は 7.43 kg・m/s となる。試験に使用した装置一覧を表 2.4.2-4
に、試験装置概要を図 2.4.2-1 に、供試体設置状況を図 2.4.2-2 に示す。
表 2.4.2-4
使用装置一覧
装置名
メーカー名
モデル
S/N
校正日
Ballistic Cannon
NTS
−
−
−
光電式速度計
Master Chrony
Gamma
−
−
オシロスコープ
Tektronix
TDS7104
B042019
2010 年 12 月 14 日
ハイスピードカメラ
Vision Resarch
VRI 5193
−
−
50mm レンズ
Nikon
−
−
−
100 PSI 圧力ゲージ
Wika
−
−
2010 年 1 月 21 日
温湿度計
Control Company
ML 4040
72715915
2010 年 1 月 22 日
(ハイスピードカメラ用)
Target Specim en
Ice Projectile (φ 50.8m m )
Laser Pointer
Ballistic Cannon (1830m m L)
Helium Gas
Reservoir
Cooling Nitrogen Gas
Chronom eter
Hi-Speed Cam era
図 2.4.2-1
試験装置概要
27
支持溝
供試体
固定用ボルト
(左右各 3 箇所)
図 2.4.2-2
供試体設置状況概要
(3) 試験結果
試験後の供試体外観を表 2.4.2-5 に示す。比較のために、平成 21 年度に実施した、
Al 合金製(6013-T6、1.27 mm)湾曲供試体の雹衝突試験結果も示した。ハイスピードカ
メラ(10000 コマ/秒)画像により、変形は、今回設定した速度であると、1.5∼2.0 ms
程度で最大に達しており、平成 21 年度と同様であることを確認した。雹衝突時の最大変
形付近の供試体を表 2.4.2-6 に示す。
CFRP を用いた FML-1 は雹が貫通してしまった。同じ金属層割合の FML-2 と FML-3
は、どちら、剥離が見られた(表 2.4.2-5)。変形形状は、厚い Mg-Li 合金板を用いた
FML-3 に比べ、薄い Mg-Li 合金板を積層した FML-2 は変形が大きく、雹衝突時に試験
治具に接触していることが確認された(表 2.4.2-6)。FML-3 と Mg-Li は、Al 合金製供
試体に近い変形を呈することが確認された。但し塑性変形量は Al 合金製供試体より大き
かった(表 2.4.2-7)。Mg-Li 単体での耐衝撃性は、重量が Al 合金の 58%より重くない
とアルミニウム合金と同等の耐衝撃性を達成できないことが確認された。
28
表 2.4.2-5
試験後供試体外観
FML-1
FML-2
FML-3
Mg-Li
Al 合金 6013(平成 21 年度試験結果)
29
表 2.4.2-6
最大変形付近の供試体外観
FML-1
FML-2
FML-3
Mg-Li
Al 合金 6013(平成 21 年度試験結果)
30
表 2.4.2-7
試験後供試体塑性変形量
供試体名称
塑性変形量(mm) *1
重量 *2
FML-3
63.5
67
Mg-Li
53
58
Al 合金 6013 *3
33
100
*1 供試体の元の高さ(200 mm)から変形した深さを示す。(図 2.4.2-3 参照)
*2 Al 合金を 100 とした場合の値である。
*3 平成 21 年度の試験結果である。
変形前供試体
変形後供試体
塑性変形量
図 2.4.2-3
塑性変形量
(4) 考察
平成 21 年度の検討に基づき、剛性を Al 合金と同等にした供試体について雹衝突試験
を実施した。CFRP を用いた FML-1 と金属層の各板厚を薄くした FML-2 については、
Al 合金と比較して、耐衝撃性が低い結果となった。また、金属層の板厚を厚くした FML-3
及び Mg-Li 合金単体については、Al 合金と近い変形形状だったが、その塑性変形量は
Al 合金より大きかった。このことから、耐衝撃性を向上するためには、剛性を上げるこ
とが有効ではあるが、同等の耐衝撃性を得るためには、剛性を同等にするのみでは達成
できないことが確認できた。
FML-2 と FML-3 については、その変形挙動が大きく異なったが、これは FML-2 にお
いて層間で剥離が生じたため FML としての剛性が低くなり、変形が大きくなったと考え
られる。
31
2.5 大ひずみ速度 CAE 解析
複合材料を用いた構造部材の対衝突性能検討において、鳥衝突時の変形挙動を予測するために
CAE 解析を活用する事は有用である。
主翼前縁形状の FML 供試体に鳥を衝突した時の変形挙動を予測するために、動的非線形構造解
析ソフト LS-DYNA を用いて、CAE 解析を実施した。鳥衝突の解析をするにあたり、2.4.2 項で実
施した試験と同様の、湾曲形状供試体に雹を衝突させた時の変形挙動について CAE 解析を実施し、
FML モデルの妥当性の確認と最適な積層構成の決定を行った。
2.5.1
検討の進め方
CAE 解析の検討手順を図 2.5.1-1 に示す。鳥衝突 CAE 解析モデルの構成要素となる、FML、
および鳥のモデル化を実施し、それぞれ可能な範囲でモデルの妥当性を確認した。モデル化
が完了した後、それらの構成要素・知見を用いて、鳥衝突 CAE 解析を実施、その衝突性能予
測、現象分析を実施した。
【 FML モデル作成 】
【 鳥モデル作成 】
◆ FML モデル化
:昨年度に検討した材料モデル化を踏襲し、
雹衝突試験で用いた積層構成のモデル構築。
◆ 鳥(ジェルパック)モデル化
: SPH*1 要素によるジェルパックを作成。
◆ CAE による鳥モデルの妥当性検証
: 単品特性試験にて、CAE,実験の整合実施。
◆ 雹衝突 CAE 解析によるモデルの妥当性検証
: 雹衝突試験にて CAE,実験の整合を実施。
【 鳥衝突 CAE 解析 】
◆ 供試体モデル作成: 供試体形状作成
◆ 鳥衝突 CAE 解析 : 作成した FML モデルと鳥モデルにて検討実施。
*1 SPH 法(Smooth Particle Hydrodynamics)は粒子法の一つである。FEM などと異なり計算格
子を必要としないことから、大変形破壊挙動などの解析時に、格子の重なりやねじれなどに
よる困難さがなく、超高速衝突現象の数値解析法として採用されている。 9)
図 2.5.1-1
CAE 解析検討手順
(1) FML モデル作成
FML のモデル化手順を図 2.5.1-2 に示す。複合材料は、変形に影響を与える因子をモ
デル化し、2.4.2 項で実施した湾曲供試体への雹衝突試験結果と CAE 解析結果の整合を
図る事によって、その妥当性を検証した。
32
CAE 解析によって、変形挙動を予測するためには、以下の因子を考慮することが求め
られる。
a)Mg-Li 合金の応力−歪み特性のモデル化
b)GFRP と Mg-Li 合金の積層モデル化
c)GFRP の破断特性モデル化
d)積層間の剥離現象の考慮
a)∼c)に関しては、昨年度に検討を実施した LS-DYNA の材料モデル MAT22 によっ
て考慮することが可能であるが、d)の層間剥離現象を考慮する事が出来ない。そこで、
以下2種類の湾曲供試体を作成し、雹衝突試験を模擬した CAE 解析を実施、モデル化の
妥当性を検証した。
供試体1:a)∼c)を考慮した材料モデルで作成した湾曲供試体
供試体2:全域において d)の層間剥離が生じたという仮定に基づく湾曲供試体
【複合材料の変形に影響を与える因子】
【湾曲供試体のモデル化】
【モデル化の妥当性検証】
・Mg-Li 合金の変形特性
・積層した材料の変形特性
各特性を LSDYNA
MAT22 に
よって考慮した湾曲供試体
雹衝突試験による
・GFRP の破断条件
CAE 解析の妥当性検証
全域で層間剥離が生じた
・FML の層間剥離
仮定に基づく湾曲供試体
図 2.5.1-2
FML のモデル化手順
(2) 鳥モデル作成
鳥のモデル化手順を図 2.5.1-3 に示す。衝突試験に採用する鳥を、CAE 解析において
詳細にモデル化する事は困難である。そこで、実際の衝突試験においても提案されてい
る、鳥と同等の特性を持つジェルパックをSPH法によってモデル化する事とした。
鳥モデルに使用するジェルパックには、SPH法を用いてジェル特有の柔らかさを表
現しなければならない。鳥の荷重−変位特性を明確化する実験検討は実施していないた
め、既出の論文
10),11)
を参考に暫定となる鳥モデルを作成した。
33
【鳥の変形に影響を与える因子】 【湾曲パネル試験片のモデル化】
【モデル化の妥当性検証】
変形特性
形状
SPH 法による
剛体壁への衝突 CAE にて
ジェルパックモ デル
暫定検証
質量
図 2.5.1-3
鳥のモデル化手順
(3) 鳥衝突 CAE 解析
(1)で作成した FML モデルによる前縁形状供試体、(2)で作成した鳥モデルを使用して
衝突解析を実施した。供試体の板厚・積層構成は雹衝突試験結果を基に決定し、鳥衝突
性能を予測、現象を明確化した。
2.5.2
FML モデル作成
FML モデルは、2.4.2 項の雹衝突試験結果との整合を図ることによって妥当性を検証した。
対象としては、2.4.2 項の FML-2、FML-3 及び Mg-Li の3つについてモデル化を実施した。
(1) Mg-Li 合金のモデル化
(a) Mg-Li 合金の材料特性
Mg-Li 合 金 は 、 弾 塑 性 材 料 モ デ ル で あ る MAT_024 MAT_PIECEWISE_LINEAR
_PLASTICITY を使用した SHELL モデルとした。入力した特性を、表 2.5.2-1、図
2.5.2-1 に示す。
表 2.5.2-1
Mg-Li 合金特性
3
密度
1.36 Mg/m
ヤング率
44.0 GPa
ポアソン比
0.31
降伏応力
160.0 MPa
備考:値はメーカー(㈱三徳)カタログによる。
34
250.0
Mg相当応力
相当応力 (MPa)
200.0
150.0
100.0
50.0
0.0
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
相当塑性歪み (-)
図 2.5.2-1
Mg-Li 合金の相当応力-相当塑性歪み線図
(b) 引張試験による検証
作成した Mg-Li 合金モデルの妥当性を検証するために、CAE 解析による引張試験を
実施した。解析条件を、図 2.5.2-2 に、公称応力−公称歪みの解析結果と実験結果(入
力条件)の比較を図 2.5.2-3 に示す。
図 2.5.2-3 より、解析結果は、入力した材料特性を忠実に再現している事が分かる。
10m
要素種類
SHELL
接点数
4
要素数
1
現象時間
0.1 sec
CPU 時間
1 sec
20mm/sec
X , Z方向拘束
10m
Mg-Li 合金
t = 1.2mm
X , Z方向拘束
図 2.5.2-2
20mm/sec
引張試験の計算モデル
35
250.0
CAE
CAE計算結果
解析結果
実験結果(入力条件)
公称応力 (MPa)
200.0
150.0
100.0
50.0
0.0
0.000
0.050
0.100
0.150
0.200
0.250
公称歪み (-)
図 2.5.2-3
Mg-Li 合金の引張試験の解析結果と実験結果比較
(2) FML のモデル化
(a) GFRP の材料特性
GFRP の材料特性は、積層複合材料モデルである MAT_022 MAT_COMPOSITE
_DAMAGE を使用した SHELL モデルとした。入力した特性を、表 2.5.2-2 に示す。
表 2.5.2-2
GFRP 材料特性
密度
1.88 Mg/m3
引張強さ
0°方向
581.00 MPa
第 1 方向ヤング率(0°方向)
31.00 GPa
引張強さ
90°方向
423.00 MPa
第 2 方向ヤング率(90°方向)
31.00 GPa
圧縮強さ
90°方向
-
せん断係数(45°方向)
10.00 GPa
引張強さ
45°方向
157.00 MPa
ポアソン比
0.089
(層間せん断応力)
-
備考:値は実測値による。
(b) 引張試験による検証
FML モデル化は 2.4.2 項の雹衝突試験で用いた FML-2、FML-3、Mg-Li について実
施した。FML モデルの材料特性の妥当性を検証するため、CAE 解析による引張試験を
実施した。解析結果を、図 2.5.2-4 に示す。
36
Mg-Li に対して GFRP が積層されると、GFRP が破断するまでは、高い応力で保持
できるようになる。しかし、GFRP 破断後は、Mg-Li 層のみで荷重を保持するため、
Mg-Li 合金層の薄い FML-2、FML-3 は、材料全体の応力としては低くなり、複合則を
満たす結果が得られた。
350
GFRPの破断
300
公称応力 (MPa)
250
200
150
FML-2
100
FML-3
50
0
0.00
Mg-Li
0.02
図 2.5.2-4
2.5.3
0.04
0.06
0.08
公称歪み (-)
0.10
0.12
引張試験 CAE 結果による応力−歪み線図
雹衝突 CAE 解析によるモデルの妥当性検証
(1) 雹衝突 CAE 解析条件
雹衝突 CAE 解析モデルの条件を図 2.5.3-1 に示す。
constraints
(並進方向拘束)
接点数
3989
要素数(SHELL)
2580
要素数(SOLID)
858
現象時間*
1.5 msec
CPU 時間*
893 sec
2inch dia. Hail
(400ft/s)
200mm
152mm
*複合材料モデル FML-3 の計算結果を
一例として記載した。
200mm
図 2.5.3-1
雹衝突CAE解析モデル条件
37
雹モデルの詳細を図 2.5.3-2 に示す。雹モデルに用いた SOLID 要素は、アワーグ
ラスモード(変形しても歪エネルギーがゼロと評価されるような不適切な変形モード)
を抑制するため、全て4面体要素で作成した。また、4面体要素でも計算精度を確保
するため、10 節点 2 次要素を採用している。
密度は、直径から算出される体積と実測質量値を用いて算出した。実験では、雹は
衝突後に粉砕されるが、粉砕による影響は少ないと仮定して、破断を未考慮で検討し
た。
図 2.5.3-2
要素種類
SOLID
要素数
7007
直径
50.8 mm
質量
60.910 g
密度
0.887 Mg/m3
ヤング率
9.0 GPa
ポアソン比
0.34
雹モデルの詳細
(2) Mg-Li 合金モデルの歪速度依存性考慮
Mg 合金においては、歪速度依存性を示す報告がある
12)
が、本検討に用いた Mg-Li 合
金の歪速度依存性は明らかになっていない。そこで、ひずみ速度依存性を考慮するため
に、Mg-Li について、応力−歪特性を定数倍し、雹衝突時の変形量及び変形状況につい
て実験結果と比較した。
検討に用いた Mg-Li 合金の応力−歪特性を図 2.5.3-3 に示す。また、図 2.5.3-3 に
示した各特性を持つ Mg-Li 合金に対して、雹衝突 CAE 解析を実施した結果の、変形量
時刻歴の比較を図 2.5.3-4 に、最大変形時の変形状況の比較を表 2.5.3-1 に示す。
図 2.5.3-4 より、実験の残留変形量に最も近い値を示すのは、入力特性を 1.5 倍した
時となった。最大変形が生じる時間の変形状況については、表 2.5.3-1 に示すように、
どの応力−歪特性においても顕著な違いは見られない。
以上より、本検討の雹衝突試験、および鳥衝突試験に使用する Mg-Li 合金モデルは、
38
応力-歪み特性を 1.5 倍した値を使用する事とした。
300
相当応力(MPa)
250
200
150
応力−歪み×1.0
応力−歪み×1.2
100
応力−歪み×1.5
50
0
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
相当塑性歪(-)
図 2.5.3-3
歪速度依存性の検討に用いた Mg-Li 合金の応力−歪特性
80.0
最大63.3mm
最大68.5mm
70.0
60.0
実験残留変形53mm
雹変位量(mm)
50.0
最大58.0mm
40.0
応力×1.0
応力×1.2
30.0
応力×1.5
20.0
10.0
0.0
0.0000
0.0002
0.0004
0.0006
0.0008
0.0010
0.0012
0.0014
時間(sec)
図 2.5.3-4
Mg-Li 合金の変形量(雹変位量)時刻歴の比較
39
0.0016
表 2.5.3-1
Mg-Li 合金の最大変形状況の比較
実験結果(Mg-Li)
応力−歪み特性×1.5
残留変形 :53mm
最大変形量 :58.0㎜
応力−歪み特性×1.2
応力−歪み特性×1.0
最大変形量 :63.3㎜
最大変形量 :68.5㎜
(3) FML の雹衝突 CAE 解析結果
(a) FML モデル CAE 解析結果
前述の検討によって決定した FML モデル MAT22 による供試体 FML-2、FML-3 と、
Mg-Li 合金モデルによる供試体 Mg-Li の CAE 解析を実施した。CAE 解析結果の最大
変形状況を表 2.5.3-2 に、変形量時刻歴を図 2.5.3-5 に示す。表 2.5.3-2 には、比
較のために雹衝突試験の実験結果も同時に示す。但し、複合材料モデル FML-2,FML-3
の CAE 結果は GFRP の破断によって、計算が不安定となり途中で中断されていたため、
最大変形量は、暫定として計算中断時の値とした。(図 2.5.3-5 より、計算中断時の
変形量はほぼ最大を示しているため、これを最大変形量と考えて問題無いと判断し
た。)
表 2.5.3-2、図 2.5.3-5 より FML-2、FML-3 の変形状況は実験結果と異なっており、
特に FML-2 に関しては変形量が実験結果と大きく異なり、解析結果の方が実験結果よ
40
り大幅に小さいことが確認された。この違いは、変形に寄与する影響因子として残さ
れた層間剥離による影響が大きいと予測される。
表 2.5.3-2
FML モデルの最大変形状況
FML-2
FML-3
Mg-Li
変形は
変形は
変形は
異なる
異なる
良く一致
(矢印部)
(矢印部)
最大変形 :67.0㎜
残留変形 :底付き
最大変形 :69.1㎜
最大変形 :58.0㎜
残留変形 :64mm
残留変形 :53mm
80.0
70.0
FML-2とFML-3では、ほぼ同等の
変形挙動を示す。
雹変位量(mm)
60.0
50.0
40.0
マグネシウム単層のFML-4は
変形量が小さい
30.0
FML-2(damage)
FML2(damage)
FML-3(damage)
FML3(damage)
20.0
FML4
Mg-Li
10.0
0.0
0.0000
0.0002
0.0004
0.0006
0.0008
0.0010
0.0012
時間(sec)
図 2.5.3-5
FML モデルの変形量時刻歴
41
0.0014
0.0016
雹と供試体の接触反力を図 2.5.3-6 に、衝突現象を代表していると思われる初期ピ
ーク時(0.2 ms)、変形進行時(0.7 ms)における各層の変形状況及び応力分布を図
2.5.3-7∼図 2.5.3-9 に示す。どの検討ケースでも、衝突現象の初期(0.2ms)に発生
する荷重は、同等に得られるものの、変形が進行する衝突現象の中盤では、FML-2、
FML-3 で GFRP 破断の進行が顕著となり荷重が低下する。
15000.0
荷重(N)
12500.0
FML-2(damage)
FML2(damage)
全てのケースで同等
GFRPの破断により
荷重が低下
(FML-2,FML-3)
FML3(damage)
FML-3(damage)
FML4
Mg-Li
10000.0
7500.0
5000.0
2500.0
0.0
0.0000
0.0002
0.0004
①初期ピーク時
図 2.5.3-6
0.0006
0.0008
0.0010
0.0012
②変形進行時
FML モデルの荷重時刻歴
42
0.0014
0.0016
時間(sec)
1層
2層
3層
4層
5層
6層
7層
8層
9層
10層
11層
12層
Mg層
GFRP層
Mg層
赤色に囲まれて中央に分布する青色部が破断部分。
13層
GFRP層
荷重を損なうほどの破断は生じていない
【FML-2 ①初期ピーク時応力分布】
1層
2層
3層
4層
5層
6層
7層
8層
9層
10層
11層
12層
Mg層
GFRP層
Mg層
中央部以外に斜め方向に破断が生じている。
破断が広範囲に分布。
13層
GFRP層
図 2.5.3-7
【FML-2 ②変形進行時応力分布】
変形状況及びフォン・ミーゼス応力分布(FML-2)
43
1層
2層
3層
4層(Mg)
5層
6層
7層
8層
【FML-3 ①初期ピーク時応力分布】
1層
2層
3層
5層
6層
7層
4層(Mg)
8層
FML-2と同様の応力分布である。
【FML-3 ②変形進行時応力分布】
図 2.5.3-8
変形状況及びフォン・ミーゼス応力分布(FML-3)
44
応力が同心円状に分布している
【Mg-Li ①初期ピーク時応力分布】
図 2.5.3-9
【Mg-Li ②変形進行時応力分布】
変形状況及びフォン・ミーゼス応力分布(Mg-Li)
(b) FML 層間剥離模擬モデルの CAE 解析
FML モデル MAT22 による CAE 解析結果は実験結果との相違が顕著にみられた。こ
れは層間剥離の影響が大きいと予測される。そこで、「衝突後すぐに供試体の全域で
層間剥離が生じた」と仮定して、FML-2 については、板厚の大きい Mg-Li 合金層のみ
を独立のシートとして重ね合せたモデル(以下、層間剥離模擬モデルとする)を、FML-3
については Mg-Li 合金層のみのモデルを作成し、CAE 解析を実施した。モデルの構成
を表 2.5.3-3 に示す。
解析結果の変形状況を表 2.5.3-4 に、変形量時刻歴を図 2.5.3-10 に示す。比較の
ために表 2.5.3-4 には実験結果を、図 2.5.3-10 には Mg-Li 1.48mm の CAE 解析結果
も合わせて示す。CAE 解析による変形は FML-2 及び FML-3 共に実験結果と概ね一致
しており、絶対値も供試体の残留変形とほぼ同等になると予測される。この事から、
衝突現象中は比較的早い段階で層間剥離が大幅に進行したと推測される。
解析結果として、雹と供試体の接触反力を図 2.5.3-11 に、各供試体の初期ピーク
時及び変形進行時における変形状況及び応力分布を図 2.5.3-12 に示す。
これらの結果より、以下の知見が得られる。
・ 層間剥離が生じると FML の強度は大幅に低下する。
・ 層間剥離が生じた場合、Mg-Li 合金層が層ごとに荷重を受け持つ。
このことから、鳥衝突 CAE 解析においては、FML モデルと合わせて層間剥離模擬
モデルについても解析を実施する事とした。
45
表 2.5.3-3
層間剥離模擬モデル供試体の積層構成一覧
FML-2
FML-3
積層
材質
板厚(mm)
材質
板厚(mm)
1
Mg-Li
0.2
Mg-Li
1.2
2
Mg-Li
0.2
―
―
3
Mg-Li
0.2
―
―
4
Mg-Li
0.2
―
―
5
Mg-Li
0.2
―
―
6
Mg-Li
0.2
―
―
計
―
1.2
―
1.2
表 2.5.3-4
層間剥離模擬モデルの最大変形状況
FML-2
FML-3
変形は
変形は
良く一致
概ね一致
最大変形 :116.5㎜以上
最大変形 :69.4㎜
残留変形 :64mm
残留変形 :底付き
46
120.0
最大変形は、複合材モデルと同等。
FML2(kasane)
FML-2 (剥離)
80.0
FML-3
(剥離)
FML3(kasane)
最大変形に到達しない。
Mg-Li
FML4
実験と同様に底付きに達する
可能性が高い。
60.0
40.0
20.0
0.0
0.0000
0.0002
0.0004
0.0006
0.0008
0.0010
0.0012
0.0014
0.0016
時間(sec)
図 2.5.3-10
層間剥離模擬モデルの変形量時刻歴
15000.0
FML-2 (剥離)
FML2(kasane)
初期ピークも相違が生じる
FML3(kasane)
FML-3 (剥離)
12500.0
FML-2の荷重低下が顕著
FML4
Mg-Li
10000.0
荷重(N)
雹変位量(mm)
100.0
7500.0
5000.0
2500.0
0.0
0.0000
0.0002
0.0004
①初期ピーク時
図 2.5.3-11
0.0006
0.0008
0.0010
0.0012
0.0014
②変形進行時
層間剥離模擬モデルの荷重時刻歴
47
0.0016
時間(sec)
各層が独立して変形
A-A断面
【FML-2 ①初期ピーク時応力分布】 【FML-2
②変形進行時応力分布】
【FML-3 ①初期ピーク時応力分布】 【FML-3
②変形進行時応力分布】
図 2.5.3-12
層間剥離模擬モデルの変形状況及びフォン・ミーゼス応力分布
(c) 考察
層間剥離模擬モデルの CAE 解析によって、2.4.2 項で実施した雹衝突試験 FML-2 の
変形量が大きかった原因としては、比較的早い段階で層間剥離が大幅に進行したため
と確認された。
また、FML-3 について、2.5.3 (a)項にて検討した FML モデルと、今回検討した剥離
模擬モデルとの最大変形量を比較すると、Mg-Li 合金層と GFRP 層からなる FML モデ
ルでは 69.1 mm、Mg-Li 合金層のみの剥離模擬モデルでは 69.4 mm であることから、
E-glass/エポキシ樹脂織物プリプレグ材の耐衝撃に対する寄与率があまりないことが
確認された。これは、文献においても同様の結果が報告されており、S2-glass を用い
ることで、耐衝撃性が向上することが確認されている 2)。
Mg-Li 合金単体については、2.4.2 項の雹衝突試験において Al 合金との比較重量 58%
の Mg-Li 合金供試体において Al 合金供試体よりも変形が大きいことが確認されてい
た。Mg-Li 合金単体の解析結果(2.5.3(a)項の Mg-Li、及び 2.5.3(b)項の FML-3)及び平
48
成 21 年度に求めた Al 合金供試体の解析結果を図 2.5.3-13 に示す。Mg-Li 合金単体
の変形量と板厚は反比例していることから、Al 合金と同じ変形量になる Mg-Li 合金の
板厚は 1.7 mm と推算された。これは Al 合金との比較重量が 67%である。
以上の結果から、鳥衝突試験に用いる FML の材料及び積層構成として以下の改善を
加えることとした。
・層間剥離が生じないように、GFRP の樹脂を接着強度の強い樹脂に変更する。
・層間剥離の割合を減らすために、Mg-Li 合金層の板厚を厚くし、積層数を少なく
する。
・Al 合金との比較重量は 65%前後とする。
これらを考慮して、鳥衝突試験では GFRP として平成 21 年度に用いた S2-FM94 一
方向プリプレグ材(Cytec 製)を用い、積層構成は表 2.5.5-2 に示す構成とした。
80
FML-3 (2.5.3(b)項)
最大変形量(mm)
70
Mg-Li (2.5.3(a)項)
60
Al 合金(H21FY 解析結果)
×
50
Mg-Li (推算値)
40
Mg-Li合金
×Al合金
30
20
10
0
0
0.5
1
1.5
板厚(mm)
2
2.5
Al 合金と同じ変形量になる板厚
:1.7 mm(Al 合金との比較重量 67%)
図 2.5.3-13
Mg-Li 合金及び Al 合金の解析よる最大変形量
49
2.5.4
鳥モデル作成
(1) 鳥モデル緒言
鳥はその変形特性を表現したジェルパックとしてモデル化を実施した。モデル化は、
生物としての柔らかさ、変形特性の再現に適した、粒子法である SPH 要素を採用した。
鳥モデルの諸元を図 2.5.4-1 に示す。
要素種類
SPH
要素数
29,565
質量
1814 g
密度
0.950 Mg/m3
鳥モデル全体像
112.7m
56.4m
56.4m
鳥モデル側面視
図 2.5.4-1
鳥モデル平面視
鳥モデル形状
(2) 鳥モデルの挙動確認 CAE 解析
鳥モデルの変形特性を確認するために、鳥モデルの剛体壁衝突 CAE 解析を実施した。
変形特性の妥当性は、実験結果が無く整合を図る事が出来ないため、剛体壁に衝突した
時の変形状況を確認しながら暫定特性を決定した。
鳥の剛体壁衝突 CAE 解析の計算条件を図 2.5.4-2 に示す。また、CAE 解析結果によ
る鳥と剛体壁の接触荷重時刻歴と、変形状況を図 2.5.4-3 に示す。鳥はその成分の 95%
が水分であることから、ジェルパックの特性は水に近い特性を入力している。そのため、
衝突後はモデルが拡散していくような変形挙動を見せる。
50
鳥モデル
節点数
29569
要素数(SHELL)
要素数(SPH)
1
初速 122 m/s
29565
現象時間
2.0msec
CPU時間
1686 sec
図 2.5.4-2
剛体壁
鳥モデル剛体壁衝突 CAE 解析計算条件
51
0.5ms時
0.1ms時
1.0ms時
平面視
平面視
平面視
側面視
側面視
側面視
800,000
荷重(N)
600,000
400,000
200,000
0
0.0000
0.0005
0.0010
0.0015
時間(sec)
図 2.5.4-3
鳥モデルと剛体壁接触荷重時刻歴
52
0.0020
2.5.5
鳥衝突 CAE 解析
(1) 計算条件と検討モデル
前述の検討によって決定した、FML モデルおよび鳥モデルを用いて、鳥衝突 CAE 解
析を実施した。FML 供試体の性能は、Al 合金供試体との比較から検討する。GFRP を先
の検討から変更したので入力特性を表 2.5.5-1 に示す。
鳥衝突の解析条件,解析モデルを図 2.5.5-1 に示す。また、供試体の検討ケースを表
2.5.5-2 に示す。
表 2.5.5-1
GFRP 材料特性
密度
1.85 Mg/m3
引張強さ
0°方向
1700 MPa
第 1 方向ヤング率(0°方向)
48 GPa
引張強さ
90°方向
65 MPa
第 2 方向ヤング率(90°方向)
15 GPa
圧縮強さ
90°方向
-
せん断係数(45°方向)
5 GPa
引張強さ
45°方向
200 MPa
ポアソン比
0.315
接点数
4864
要素数(SHELL)
1864
要素数(SPH)
2956
現象時間
2.0 msec.
CPU 時間
3224
(層間せん断応力)
22 MPa
40mmピッチでリベットどめ
アルミ製リブ
鳥モデル
150mm
初速:122m/s
30°
湾曲供試体
1000mm
平面視
90°
0°
(繊維方向)
図 2.5.5-1
鳥衝突 CAE 解析計算モデル
53
表 2.5.5-2
供試体の検討ケースおよび積層構成
Al 合金供試体
FML モデル
層間剥離模擬モデル
積層
材質
板厚(mm)
材質
板厚(mm)
材質
板厚(mm)
1
Al
3.175
GFRP(0°)
0.125
Mg-Li
0.6
2
-
-
Mg-Li
0.6
Mg-Li
0.6
3
-
-
GFRP(90°)
0.125
Mg-Li
0.6
4
-
-
Mg-Li
0.6
Mg-Li
0.6
5
-
-
GFRP(0°)
0.125
-
-
6
-
-
Mg-Li
0.6
-
-
7
-
-
GFRP(0°)
0.125
-
-
8
-
-
Mg-Li
0.6
-
-
9
-
-
GFRP(90°)
0.125
-
-
10
-
-
Mg-Li
0.6
-
-
11
-
-
GFRP(0°)
0.125
-
-
計
3.175
計
3.75
計
3.0
(2) 鳥衝突 CAE 解析結果
鳥衝突 CAE 解析の最大変形状況を表 2.5.5-3 に示す。Al 合金供試体は変形範囲が広
く変形が供試体全域に渡るが、FML モデルは変形範囲が狭く衝突位置周辺に限定され、
変形量も Al 合金供試体より小さいことが確認された。但し、層間剥離模擬モデルの変形
は大きく、実験においても層間剥離が顕著に見られる場合は、Al 合金供試体より大幅に
悪化した結果になると推測される。
鳥と供試体の接触荷重時刻歴を図 2.5.5-2 に示す。荷重波形は、FML モデルの荷重が
Al 合金供試体よりも高い接触反力を示しており、変形図と対応している。層間剥離模擬
モデルは、反力が低く 2.5 ms 以降で供試体の底付きによる荷重が発生している。
衝突現象を代表していると思われる 1.0 ms(現象前半の荷重増加時)と、2.2 ms(荷
重減少前の現象終盤)の変形,応力分布図を、各検討ケースについて、図 2.5.5-3∼図
2.5.5-5 に示す。
複合材料モデルの応力分布から、GFRP の1、3、5、7層では、パネル中央部に破
断が生じており、9層では、側面部で破断が生じるが、11 層目は現象終盤においても破
断してない。内側と外側で、応力の集中する部位が異なるため、パネル全体の荷重が保
たれている。これが、アルミ材よりも変形量が減少した要因と推測される。
54
表 2.5.5-3
検討ケース
鳥衝突 CAE 結果の最大変形比較
試験片最大変形図(3 ms)
アルミ材
(Al 6013-T6)
変形範囲が広く、
変形量も大きい
FMLモデル
(材料破断を考慮)
変形範囲が狭く、
変形量も小さい
層間剥離模擬モデル
全域で変形が過大となり、
鳥モデルが底付いた状態となる
55
高い反力を維持
120,000
Al
FMLモデル
剥離モデル
100,000
底付き荷重
荷重(N)
80,000
60,000
40,000
20,000
0
0.0005
0.001
0.0015
現象前半の荷重増加時
図 2.5.5-2
0.002
0.0025
0.003
時間(sec)
荷重減少前の現象終盤
鳥と供試体の接触荷重時刻歴
アルミ材モデル
現象前半の荷重増加時(1.0ms)
湾曲したパネルの全域で応力が発生。
パネル全体で保持している。
荷重減少前の現象終盤(2.0ms)
図 2.5.5-3
変形状況及びフォン・ミーゼス応力分布(Al 合金)
56
FMLモデル
衝突中央部に
GFRPの破断が発生
1層
2層
3層
4層
5層
6層
7層
8層
9層
10層
衝突部の側面部で
GFRPの破断が発生。
GFRPの破断なし。
11層
現象前半の荷重増加時(1.0ms)
図 2.5.5-4
変形状況及びフォン・ミーゼス応力分布(FML モデル)
57
FMLモデル
衝突中央部に
GFRPの破断が発生
1層
2層
3層
4層
5層
6層
7層
8層
9層
10層
衝突部の側面部で
GFRPの破断が発生。
GFRPの破断なし。
11層
荷重減少前の現象終盤(2.0ms)
図 2.5.5-4
変形状況及びフォン・ミーゼス応力分布(FML モデル)(続き)
58
層間剥離模擬モデル
現象前半の荷重増加時(1.0ms)
荷重減少前の現象終盤(2.0ms)
図 2.5.5-5
2.5.6
変形状況及びフォン・ミーゼス応力分布(層間剥離模擬モデル)
結論
FML のモデル化を実施し、雹衝突試験の実験と CAE 解析の整合を図ることによってその
妥当性を検証した結果、FML モデルは概ね妥当であり、また整合結果から、以下の知見が得
られた。
・FML の層間剥離が衝突時の湾曲供試体の変形量に対して影響が大きい。
・E-glass/エポキシ樹脂織物プリプレグ材は変形量に対して影響が小さい。
・Mg-Li 単体では Al 合金と同等の耐衝撃性を持つためには 33%の軽量化が期待できる。
以上の知見から、鳥衝突試験においては、金属層として Mg-Li 合金 0.6 mm の板を用い、
GFRP 層としては S2-FM94 一方向プリプレグ材を用いる構成とした。
上記の FML 湾曲供試体に、鳥が衝突した時の変形挙動を CAE 解析で予測した結果、FML
モデルは、アルミ材より変形量が少なく、エネルギー吸収特性に優れると予測される。但し、
供試体に層間剥離が生じた場合は大幅に変形量が増加するため、注意を要する。
59
2.6 機械的強度特性取得
2.3 項で決定した表面処理及び 2.5 項で決定した積層構成を持つ FML の機械的特性を取得する
ために強度試験を実施した。特性として、引張および圧縮強度、層間引張せん断強度、衝撃付与
後圧縮強度、疲労亀裂進展速度を取得した。
2.6.1
試験方法
実施した試験を表 2.6.1-1 に示す。表には使用した試験規格及び供試体数、試験機につい
ても同時に示す。各試験の供試体形状を図 2.6.1-1∼図 2.6.1-6 に示す。試験温度はどれも
室温とした。
表 2.6.1-1
構成材料特性
試験名称
試験規格
供試体数(体)
試験機
供試体図
無孔引張試験
ASTM D3039
3
INSTRON 4492
図 2.6.1-1
無孔圧縮試験
ASTM D 6641
2
INSTRON 1127
図 2.6.1-2
有孔圧縮試験
ASTM D 6484
3
INSTRON 1127
図 2.6.1-3
層間引張せん断試験
ASTM D 3165
4
INSTRON 4492
図 2.6.1-4
衝撃付与後圧縮試験
ASTM D 7136
2
INSTRON 1127
図 2.6.1-5
疲労亀裂進展試験
ASTM E 647
2
島津疲労試験機*
図 2.6.1-6
* 装置名称は EHF-EM200KN-70B。
単位:mm
図 2.6.1-1
無孔引張試験供試体形状
60
単位:mm
図 2.6.1-2
無孔圧縮試験供試体形状
図 2.6.1-3
有孔圧縮試験供試体形状
単位:mm
単位:mm
図 2.6.1-4
層間引張せん断試験供試体形状
61
単位:mm
図 2.6.1-5
衝撃付与後圧縮試験供試体形状
単位:mm
(注記)
亀裂部拡大
注記:亀裂部先端の角度は 60 度とし、R は 0.25 mm 以下とすること。
図 2.6.1-6
疲労亀裂進展試験供試体形状
62
2.6.2
試験結果
供試体は成形後に端部に剥離が生じていたが、評定部以外であったため問題がないと判断
し、試験を実施した。
(1) 無孔引張試験 試験結果
供試体の板厚は平均 4.16 mm であり、Mg-Li 合金の板厚及び GFRP の硬化後の板厚(カ
タログ値)から推算した板厚(3.75 mm)より厚かった。
試験結果を表 2.6.2-1 に示す。試験は 2.0 mm/min の速度で実施した。表 2.6.2-1 に
8)
は比較のために MMPDS に記載されている Al 合金 6013-T6 材の引張応力、弾性率及び
ポアソン比を示す。取得した値は Al 合金より低い値であったが、比強度(=引張応力/
密度)は Al 合金より 30%高く、比剛性は Al と同等であることが確認された。また、曲
げ変形に対する比剛性(=剛性
1/3
/密度)が Al 合金より 52%も高いことが確認された。
これにより曲げ剛性設計箇所において 34%の軽量化が期待される。
FML の応力-歪曲線は、硬化後の内部応力を考慮した、GFRP と Mg-Li 合金の応力-歪
曲線から推算することができる
2)
。無孔引張試験供試体 No.1 と推算値の応力-歪曲線を
図 2.6.2-1 に示す。どちらの応力-歪曲線も、初期はほぼ Mg-Li 合金と同等のヤング率
を示すが、Mg-Li 合金が降伏した後はヤング率が小さくなることが確認された。また、
試験結果は Mg-Li 合金が降伏するまでは推算値とほぼ一致しているが、降伏後は、傾き
は同じであるが値が小さくなっていることが確認された。これは、試験前の供試体に一
部剥がれが生じていたことから推測すると、剥がれにより見た目の板厚が厚くなり、応
力が小さく算出されたためと考えられる。無孔引張試験供試体 No.1 の板厚が推算した板
厚と仮定した場合の応力-歪曲線(図中推算値 2)は、図 2.6.2-1 に示す通り、推算値とほ
ぼ一致していた。
試験後の供試体写真を図 2.6.2-2 に示す。
63
表 2.6.2-1
供試体 No.
無孔引張試験 試験結果
板厚
引張応力 Ftu
引張降伏応力 Fty
弾性率 E
破壊歪
(mm)
(MPa)
(MPa)
(GPa)
(%)
1
4.10
223.4
108.5
38.9
1.9
0.196
2
4.17
282.8
108.9
38.9
3%以上
0.191
3
4.20
273.7
108.7
38.6
2.2
0.188
平均
4.14
253.1
108.7
38.9
1.9
0.194
Al
-
358.3
330.4
69.6
-
0.33
密度
比強度
ρ
Ftu /ρ
比剛性
Fty/ρ
E/ρ
1/3
E /ρ
FML
1.48
171.0
73.4
26.3
2.3
Al
2.7
132.7
122.4
25.8
1.5
GFRP 0°
300
FML 推算値
250
FML 推算値 2
200
応力 (MPa)
ポアソン比
試験結果
Mg-Li
150
GFRP 90°
100
50
0
0.0
-50
0.5
1.0
1.5
2.0
試験結果
推算値
推算値2
Mg-Li
GFRP
2.5
-100
歪(%)
備考:試験結果は無孔引張試験供試体 No.1 の応力-歪曲線を、推算値2は、無孔引張試験供試体
No.1 の板厚が推算した板厚と仮定した場合の応力-歪曲線を示す。
図 2.6.2-1
無孔引張試験供試体 No.1 の試験及び推算による応力-歪曲線
64
図 2.6.2-2
無孔引張試験 試験後供試体
(2) 無孔及び有孔圧縮試験 試験結果
供試体の板厚は平均 4.14 mm と、推算板厚(3.75 mm)より厚かった。
試験結果を表 2.6.2-2 に示す。試験は 1.3 mm/min の速度で実施した。表には比較の
ために MMPDS8) に記載されている Al 合金 6013-T6 材の圧縮降伏応力及び圧縮弾性率を
示す。無孔圧縮降伏応力、弾性率は Al 合金より低い値であったが、比剛性は Al と同等
であることが確認された。
無孔引張の応力-歪曲線と同様に、無孔圧縮の応力-歪曲線も、内部応力を考慮した
GFRP と Mg-Li 合金の応力-歪曲線から推測することができる 2) 。Mg-Li 合金の圧縮応力
が不明なため、代わりに MMPDS 8)に記載されている Mg 合金 AZ31 の値から推算した。
無孔圧縮試験供試体 No.1 と推測値の応力-歪曲線を図 2.6.2-3 に示す。試験結果は Mg-Li
合金が降伏するまでは推算値とほぼ一致しているが、降伏後は、傾きは同じであるが値
が小さくなっていることが確認された。これは、無孔引張試験と同様に、剥がれにより
見た目の板厚が厚くなり、応力が小さく算出されたためと考えられる。無孔圧縮試験供
試体 No.1 の板厚が推算した板厚と仮定した場合の応力-歪曲線(図中推算値 2)は、図
2.6.2-3 に示す通り、推算値とほぼ一致していた。
無孔圧縮試験及び有孔圧縮試験後の供試体写真を図 2.6.2-4、図 2.6.2-5 にそれぞれ
示す。
65
表 2.6.2-2
試験名称
無孔圧縮試験
有孔圧縮試験
無孔及び有孔圧縮試験 試験結果
供試体 No.
1
2
3
平均
Al
板厚(mm)
4.18
4.11
-
4.14
-
降伏応力 F cy(MPa)
130.5
148.7
-
139.6
330.7
弾性率 Ec (GPa)
40.5
40.5
-
40.5
69.59
板厚(mm)
4.17
4.16
4.03
4.12
-
降伏応力 (MPa)
172.6
177.0
169.7
173.1
-
密度
比強度
比剛性
ρ
Fcy /ρ
Ec /ρ
FML
1.48
94.3
27.4
Al
2.7
122.5
25.8
GFRP 0°
300
250
応力 (MPa)
200
FML 推算値
FML 推算値 2
Mg-Li
150
100
試験結果
推算値
推算値2
Mg-Li
GFRP
試験結果
50
0
0.0
-50
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
-100
歪(%)
備考:試験結果は無孔圧縮試験供試体 No.1 の応力-歪曲線を、推算値2は、無孔圧縮試験供試体
No.1 の板厚が推算した板厚と仮定した場合の応力-歪曲線を示す。
図 2.6.2-3
無孔圧縮試験供試体 No.1 の試験及び推算による応力-歪曲線
66
図 2.6.2-4
無孔圧縮試験 試験後供試体(側面から)
図 2.6.2-5
有孔圧縮試験 試験後供試体
67
(3) 層間引張せん断試験 試験結果
試験結果を表 2.6.2-3 に示す。試験は 1.3 mm/min の速度で実施した。層間引張せん
断応力は 10.9 MPa であり、平成 21 年度に取得したマグネシウム合金 AZ31 と GFRP か
らなる FML のせん断応力値(15.6 MPa)と比較して小さいことが確認された。
試験後の供試体写真を図 2.6.2-6 に示す。破断面は、一部に繊維が見られるが、主に
下地処理(PCC 処理)及びプライマーが見られ、破断が下地処理とプライマーの界面で
生じていることが確認された。平成 21 年度は破断が繊維層間で生じていたことから、破
断箇所の違いによって平成 21 年度より低い値となったと考えられる。
表 2.6.2-3
層間引張せん断試験 試験結果
供試体 No.
1
2
3
4
平均
層間引張せん断応力 (MPa)
8.2
11.6
12.0
11.7
10.9
図 2.6.2-6
層間引張せん断試験 試験後供試体
(4) 衝撃付与後圧縮試験 試験結果
供試体の板厚は 4.10 mm と、推算板厚(3.75 mm)より厚かった。
衝撃は、ASTM D 7136 に従い、6.7 J/mm となるように、先端の半径 7.96 mm、重量 4.5
68
kg のインパクターを、高さ 615 mm から落下した。このときの衝突エネルギーは 27 J、
力積は 15.61 kg・m/s となる。衝撃後の圧縮強度及び損傷面積を表 2.6.2-4 に示す。圧
縮試験は 2.0 mm/min の速度で実施した。また、試験後の供試体写真を表 2.6.2-5 に示
す。
表 2.6.2-4
供試体 No.
1
衝撃付与後圧縮試験 試験結果
損傷面積 (mm2)
板厚
衝撃付与後圧縮応力
(mm)
(MPa)
衝撃入力側
衝撃出力側
4.10
68.3
530
957
表 2.6.2-5
衝撃付与後圧縮試験 試験後供試体
衝撃入力側
衝撃出力側
69
(5) 疲労亀裂進展試験 試験結果
試験は最大応力を 120MPa と 100MPa の 2 種類とし、R=0.1、周波数 10Hz で実施した。
試験結果を図 2.6.2-7 に示す。図には、比較のために、マグネシウム合金 AZ31 及び Al
13)
合金 2024-T3 の疲労亀裂進展試験結果 も示す。FML の疲労亀裂進展速度は AZ31 より
は遅いが 2024-T3 よりは速いことが確認された。Mg-Li 合金の疲労亀裂進展速度を AZ31
と同等と仮定すると、FML にすることで、ファイバーブリッジング効果により、疲労亀
裂進展速度が遅くなることが確認できた。
試験後の供試体写真を図 2.6.2-8 に示す。供試体は Mg-Li 合金及び 90°方向の GFRP
が破断し、0°方向の GFRP は破断していなかった。
30
Crac k le n gth (mm)
25
20
15
10
Mg-Li FML (Smax = 120MPa, R = 0.1)
Mg-Li FML (Smax = 100MPa, R = 0.1)
Al (Smax = 120MPa, R = 0.1)
Al (Smax = 100MPa, R = 0.1)
AZ31
5
0
0
10000
20000
図 2.6.2-7
30000
40000
N (c yc le )
50000
疲労亀裂進展試験 試験結果
70
60000
70000
図 2.6.2-8
2.6.3
疲労亀裂進展試験 試験後供試体
考察
鳥衝突試験にて使用する FML の機械的特性を取得するために供試体を作製したところ、試
験前の供試体に一部剥離が見られた。また、剥離していない部分においても、板厚が推算値
より厚かったことから、剥離が生じていたと考えられる。
剥離の原因としては、①PCC 層の延性不足及び②金属層の板厚増加(積層数減少)による
FML の初期内部応力の上昇、が考えられる。
(1) PCC 層の延性不足
引張試験供試体の剥離部に対し電子顕微鏡観察を実施した結果を図 2.6.3-1 に示す。
Mg-Li 合金と GFRP の界面で生じており、Mg-Li 合金及び GFRP の両方の破断面にセラ
ミックス層が確認された。これは、下地処理の PCC 層であると考えられ(PCC 処理は陽
極酸化処理であるため表面にセラミックス層が生じる)、剥離は PCC 層が層内部で脆性
破壊したために生じたと考えられる。
参考のために、下地処理を除去した供試体に対して衝撃付与後圧縮試験を実施した。
試験条件は 2.6.2(4)項と同様とした。試験結果を表 2.6.3-1 に示す。PCC 処理を施し
た供試体と比較すると、衝撃付与後圧縮応力は 2 倍近くあり、また損傷面積も狭いこと
が確認された。
71
GFRP
(埋込み樹脂)
セラミックス層
Mg-Li
図 2.6.3-1
表 2.6.3-1
剥離部電子顕微鏡観察結果
衝撃付与後圧縮試験試験結果
損傷面積 (mm2)
衝撃付与後圧縮応力
(MPa)
衝撃入力側
衝撃出力側
113.8
0
848
(2) 金属層の板厚増加(積層数減少)による FML の初期内部応力の上昇
2)
引張試験供試体における FML の初期の内部応力は式(1) 、Mg-Li 合金と GFRP の各
界面の内部応力は式(2)で推算される。
FML の初期の内部応力
σtotal =σMg +σGF
式(1)
ただし、Mg-Li 合金の初期の内部応力:
GFRP の初期の内部応力:
σMg =E Mg
ΔαΔTE GF t GF
E GF t GF +E Mg t Mg
σ t
σGF =− Mg Mg
tGF
σ i: 内部応力
E: 引張弾性率
Δα: 線膨張係数の差(α GF-α M g)
ΔT: 使用時と硬化温度の差(試験時の温度−硬化温度)
72
ti: 板厚
Mg-Li 合金と CFRP の各界面の内部応力
σeach =σtotal /(積層数 )
式(2)
今回作製した FML の合金層の板厚は 0.6 mm と平成 21 年度の FML の合金層(0.2 mm)
よりも厚く、積層数が少なかったため、式(2)で推算される Mg-Li 合金と GFRP の各界面
の内部応力が大きくなったことにより、剥離が生じやすくなったと考えられる。
以上のことから、供試体の剥離は、Mg-Li 合金の積層数を減らしたことにより初期の
内部応力が上昇し、比較的脆性であった PCC 処理から剥離が生じた、と考えられる。
剥離を防止するためには、Mg-Li 合金の積層数を増加し、初期の内部応力を低減する
こと、及び延性のある下地処理を適用することが考えられる。
73
2.7 部分構造試験
鳥衝突試験を実施するにあたり、ファスナー強度の確認を実施した。
2.7.1
試験方法
試験は ASTM D 5961:Standard Test Method for Bearing Response of Polymer Matrix Composite
Laminates に 基 づ い て 実 施 し た 。 供 試 体 形 状 を 図 2.7.1-1 に 示 す 。 試 験 は 万 能 試 験 機
(INSTRON 4482、インストロン製)を用いて実施した。試験は引張方向、試験温度は室温
とした。ファスナーは鳥衝突試験と同じ直径 4.81 mm のファスナーを用いて実施した。
105.8
19.24
12.93±0.762
57.7
57.7
12.93±0.762
19.24
105.8
19.24REF
28.86
±0.762
4.81+ 0.03
−0.00
図 2.7.1-1
2.7.2
単位
mm
ファスナー試験供試体形状
試験結果
試験結果を表 2.7.2-1 に示す。供試体の板厚は平均 4.14 mm と、推算板厚(3.75 mm)より厚
かったことから、2.6 項と同様に剥離が生じていたと考えられる。試験後の供試体写真を図
2.7.2-1 に示す。剥離が生じ供試体の剛性が下がったため、試験は最終的にはファスナー引
き抜きのような形になり、大きく塑性変形はしたが破断はしないことが確認された。
74
表 2.7.2-1
供試体 No.
ファスナー試験 試験結果
板厚
降伏応力
最終応力
(mm)
(MPa)
(MPa)
1
4.10
190.1
438.3
2
4.06
183.4
447.7
平均
4.08
186.7
443.0
図 2.7.2-1
ファスナー試験 試験後供試体
75
2.8 鳥衝突試験
2.3 項で検討した表面処理及び 2.5 項で検討した積層構成を持つ FML の実機レベル供試体にて
耐衝撃性を評価するため、翼前縁形状供試体に対して鳥衝突試験を実施した。
2.8.1
供試体
供試体は、中大型旅客機主翼前縁を模擬したパネル、リブ、フランジからなる構造とした。
パネルはコード長 150 mm、翼厚 206 mm、幅 1000 mm、翼先端半径 60 mm とした。パネル
とリブ及びフランジは、φ4.8mm のボルトにて締結した。供試体の形状を図 2.8.1-1 に示す。
比較材として同形状の Al 合金 6013-T6 材のパネルについても試験を実施した。供試体の剛性
及び重量を表 2.8.1-1 に示す。
FML 供試体に関しては、Mg-Li 合金の板幅が 200 mm であったことから、幅方向にバット
させて積層した。各層のバット位置を図 2.8.1-2 に示す。
A
パネル
A
断面 A-A
リブ
フランジ
図 2.8.1-1
供試体形状
76
表 2.8.1-1
供試体名称
板厚(mm)
金属層割合(%)
剛性* 1
重量* 1
FML
3.75
80
115
64
Al
3.175
-
100
100
*1
アルミニウム合金(6013-T6、3.175 mm)を 100 とした場合の値である。
図 2.8.1-2
2.8.2
鳥衝突試験供試体一覧
マグネシウムリチウム合金バット位置
試験条件
試験は、ASTM F330-89:Standard Test Method for Bird Impact Testing of Aerospace Transparent
Enclosures に基づき実施し、鳥の重量は 1.81 kg、速度は 122 m/s、衝突角度は翼の後退角を考
慮し 30°とした。このときの衝突エネルギーは 13,395 J、力積は 219.6 kg・m/s となる。試験
に使用した装置一覧を表 2.8.2-1 に、試験装置概要を図 2.8.2-1 に、供試体設置状況を図
2.8.2-3 に示す。
供試体を取付ける板には、供試体の底付きの有無を確認するために、圧力測定フィルムを
設置した。また、現象を解析結果と比較するために荷重をロードセルにて測定した。ロード
セルの設置位置を図 2.8.2-3 に示す。
77
表 2.8.2-1
使用装置一覧
装置名
メーカー名
モデル
S/N
校正日
Bird strike Cannon
NTS
−
−
−
振動数計
Protek
B2000
U2000122
2010 年 10 月 19 日
300 PSI 圧力ゲージ
Wika
−
−
2010 年 3 月 12 日
ロードセル
PCB
203B
00002406
2011 年 1 月 18 日
ロードセル
PCB
203B
00002407
2011 年 1 月 18 日
ロードセル
PCB
203B
00002408
2011 年 1 月 18 日
振動制御ソフト
Spectral Dynamics
2405-9700-1
2400-2041
2010 年 12 月 15 日
圧力測定フィルム
富士フィルム
高圧用
−
−
(50MPa∼130MPa)
ハイスピードカメラ
Vision Research
VRI 5193
−
−
50mm レンズ
Nikon
−
−
−
Control Company
ML 4040
72715915
2010 年 1 月 22 日
(ハイスピードカメラ用)
温湿度計
78
ロードセル
圧力測定フィルム
冶具
ハイスピード
カメラ
供試体取付板
30°
供試体
計測 PC
ガン
鳥挿入部
高圧タンク
図 2.8.2-1
試験装置概要
79
治具
供試体
図 2.8.2-2
供試体設置状況概要
ロードセル 1
ロードセル 3
ロードセル 2
(供試体取付板
正面から)
ロードセル
治具
供試体取付板
(上から)
図 2.8.2-3
ロードセル設置位置
80
供試体
2.8.3
試験結果
投射物重量及び衝突速度結果を表 2.8.3-1 に、試験後の FML 及び Al 合金の供試体外観を
表 2.8.3-2、表 2.8.3-3 に示す。表には比較のために、2.5 項で検討した CAE 解析結果も示
す。
FML 供試体の変形形状は CAE 解析の FML モデル結果より大きく変形しており、層間剥離
模擬モデルに近い形状であった。また、圧力測定フィルムからも底付きしていることが確認
された。Al 合金供試体の変形形状は、解析結果の変形形状と良く一致していた。また試験結
果の最終変形量は 76.2 mm であり、解析結果(最大変形量 86.5 mm)と近い値であった。
ロードセルで測定した荷重時歴を解析結果と比較したものを表 2.8.3-4 に示す。FML 供試
体の荷重時歴は CAE 解析の層間剥離模擬モデルに近い時歴を示していた。Al 合金供試体に
ついては、実験結果は解析結果よりピークが低く、またピークの位置も 1.5 ms ほど遅かった。
これは、実際の鳥が CAE 解析に用いた鳥よりも飛散しやすかったためと推測される。試験結
果と CAE 解析結果の最大変形付近(3.0 ms)を表 2.8.3-5 に示す。どちらの供試体において
も、試験結果の鳥の破片が CAE 解析に用いた鳥モデルよりも広く飛散しているのが確認され
た。
表 2.8.3-1
供試体名称
投射物重量及び衝突速度結果
投射物重量
鳥重量
容器重量
衝突速度
(kg)
(kg)
(kg)
(m/s)
FML
1.82
1.64
0.178
118.3
Al
1.81
1.63
0.176
117.0
81
表 2.8.3-2
FML 供試体試験後外観
試験結果
CAE 解析結果
FML モデル
層間剥離模擬モデル
供試体内側
圧力測定フィルム
82
表 2.8.3-3
アルミニウム合金供試体試験後外観
試験結果
CAE 解析結果
供試体内側
圧力測定フィルム
83
表 2.8.3-4
鳥衝突試験荷重時歴
FML
Total
Load1
Load2
Load3
解析結果(FMLモデル)
解析結果(剥離モデル)
120,000
100,000
荷重(N)
80,000
60,000
40,000
20,000
0
0.001
0.002
0.003
時間(sec)
0.004
0.005
Al
120,000
Total
Load1
Load2
Load3
解析結果
100,000
荷重(N)
80,000
60,000
40,000
20,000
0
0.0005
0.001
0.0015
時間(sec)
84
0.002
0.0025
0.003
表 2.8.3-5
鳥衝突試験最大変形比較(3.0 ms)
試験結果
CAE 解析結果
(ハイスピードカメラ画像)
FML
FML モデル
層間剥離模擬モデル
Al
85
2.8.4
考察
FML の鳥衝突試験を実施した結果、FML 供試体は Al 合金供試体よりも変形が大きく、底
付きしてしまった。変形形状及び荷重時歴は、CAE 解析の層間剥離模擬モデル結果に近い形
状をしていたことから、FML 供試体には衝突の初期に剥離が生じていたと考えられる。
Al 合金においては変形形状が解析結果で概ね一致していたが、荷重時歴は異なっていた。
これは、実際の鳥と CAE で用いた鳥モデルの粒子同士の結合力の違いによるものであると推
測される。鳥モデルについて、本試験結果との整合を図ることによって、より精度の高い解
析モデルを得ることができる。
86
第 3 章
問題点と今後の課題
平成 22 年度の研究により生じた問題点と今後の課題を下記に示す。
(1) 表面処理条件
本研究では、候補材の中で最も接着性・耐食性に優れていた PCC 処理を選定した。しかし、
適用した供試体においては PCC 層内部で破断が生じていることが確認された。これは、PCC
層の層内の強度が他の層間強度よりも低かったために破断したと考えられる。
Mg-Li 合金の耐食性が短時間では AZ31 と同等であるが長時間では劣る可能性があること、
及び CAE 解析結果から変形量には層間剥離の影響が大きいことが確認されたことから、接着
性・耐食性に優れる表面処理を選定することは軽量 FML 創製にあたり非常に重要である。
FML の層間としては、金属層と下地処理、下地処理とプライマー、プライマーと GFRP 層の
3 つが考えられる。それぞれの密着性を確認し、またその耐食性を確認することで、Mg-Li
合金に適した耐食性を持ちかつ接着性に優れた処理を選定する必要がある。
(2) FML の初期内部応力
本研究では、金属層として板厚の厚い Mg-Li 合金を適用したことから、FML 硬化後の内部
応力が高くなる結果となった。内部応力を低下するためには、金属層の板厚を減少し積層数
を増加することが対策として挙げられる。この対策は疲労亀裂進展速度の抑制にも効果があ
る
13)
。
87
第 4 章
関連技術調査
4.1 関連特許調査
本研究に関する特許調査を実施した結果を表 4.1-1∼表 4.1-2 に示す。
表 4.1-1
1
FML(マグネシウム系)関連特許
発明の名称
発明者
出願人
出願日・番号
Joining metal-polymer-metal
Cynthia L. T. Lambing,
Structural
11.03.1992
laminate sections
US ; James A. Colpo,
Laminates
US005160771
US ; William C.
Company, US
Herbein, US
2
Nanostructure aluminum fiber
Gary D. Tuss, US ;
The Boeing
12.08.2005
metal laminates
Sven E. Axter, US ;
Company, US
US20050271859A1
Clifford C. Bampton,
US
88
表 4.1-2 FML(アルミニウム系)関連特許 1)
1
発明の名称
発明者
出願人
出願日・番号
Laminate of metal sheet material
Schijve Jacobus, NL ;
Delft Tech
08.01.1982
and threads bonded thereto, as
Vogeles Ogelesang
Hogeschool, NL
US000004489123A
well as processes for the
Laurens B, NL 他
manufacture thereof
2
Laminate of aluminum sheet
Schijve Jacobus, NL ;
Delft Tech
20.09.1983
material and aramid fibers
Vogelesang Laurens
Hogeschool, NL
US000004500589A
Akzo NV, NL
20.02.1987
B, NL 他
3
Amour plate composite with
Vogelesang Laurens
ceramic impact layer
B, NL ; Verbruggen
US000004836084A
Marcell C E, NL 他
4
Laminate of metal sheets and
Vogelesang Laurens
continuous filaments-reinforced
B, NL ; Meyers
thermoplastic synthetic material,
Leendert G, NL 他
Akzo NV, NL
11.10.1988
US000004992323A
as well as a process for the
manufacture of such a laminate
5
Metal-resin laminate reinforced
Vogelesang Laurens
with S2-glass fibres
B, NL ; Roebroeks
Akzo NV, NL
11.10.1988
US000005039571A
Geradus H J J, NL
6
[DE] Schichtstoff aus Metallblech
Schijve Jacobus ;
Delft Tech
08.01.1982
und aus damit verbundenen Fäden
Vogelesang Laurens
Hogeschool, NL
EP000000056288A1
und Verfahren zu ihrer
Boudewijn ; Marissen
Herstellung.
Roelof 他
[EN] Laminate of metal sheet
material and threads bonded
thereto, as well as processes for
the manufacture thereof.
[FR] Laminé en tÔle métallique et
des fils liés à ces tÔles et ses
procédés de fabrication.
7
[DE] Schichtstoff aus
Schijve Jacobus ;
Delft Tech
08.01.1982
Aluminiumschichten und
Vogelesang Laurens
Hogeschool, NL
EP000000056289A1
Polyaramidfasern.
Boudewijin ; Marissen
[EN] Laminate of aluminium sheet
Roelof
Akzo NV, NL
19.02.1987
material and aramid fibres.
[FR] Laminé en feuilles
d'aluminium et fibres de
polyaramide.
8
[DE] Mehrschichtige Panzerplatte
Vogelesang Laurens
mit Aussenschicht aus Keramik.
Boudewijn ;
[EN] Armour plate composite with
Verbruggen Marcel
EP000000237095A1
89
ceramic impact layer.
Leona Clemen;
[FR] Plaque de blindage laminée
Paalvast Cornelis
comportant une couche d'impact
Gerarus
en céramique.
9
[DE] Schichtstoff aus
Vogelesang Laurens
Metallschichten und aus
Boudewijin; Meyers
durchgehendem,faservers
Leendert Gerardus ;
tärkten,synthetischen,the
Van Velezetom Marcel
Akzo NV, NL
03.10.1988
EP000000312150A1
rmoplastischen Material und
Verfahren zu seiner Herstellung.
[EN] Laminate of metal sheets and
continuous filaments-reinforced
thermoplastic synthetic material,
as well as a process for the
manufacture of such a laminate.
[FR] Laminé en couches de métal
et de matière thermoplastique
synthétique renforcée par des
filaments continus et son procédé
de fabrication.
10
[DE] Schichtstoff aus
Vogelesang Laurens
Metallschichten und aus
Boudewijn; Roebroeks
durchgehendem faserverstärktem
Gerardus Hubertus JO
synthetischem Material.
JO
Akzo NV, NL
03.10.1988
EP000000312151A1
[EN] Laminate of metal sheets and
continuous glass
filaments-reinforced synthetic
material.
[FR] Laminé en couches de métal
et de matière synthétique
renforcée par des filaments
continus.
11
[DE] Verfahren zum Herstellen
Vogelesang Laurens
eines Laminates aus
Boudewwijn ;
Metallschichten und mit Fäden
Smulders Fridolin
verstärkte Kunststoffschichten.
Elizabert HE ; Chen
[EN] Process for manufacturing a
Dong
laminate of metal sheets and
filaments-reinforced synthetic
90
Akzo NV, NL
08.12.1988
EP000000323660A1
layers.
[FR] Procédé pour la fabrication
d'un laminé composé de feuilles
métalliques et de couches
synthétiques renforcées de
filaments.
12
Laminate with butt-welded metal
Labordus Maarten ;
Labordus
22.12.2003
layers
Verhoeven Christiaan
Maarten ;
US020040151921A1
Gerrit; Van Tooren
Verhoeven
Michael Johannes
Christiaan
Leonarsus
Gerrit; Van
Tooren Michael
Johannes
Leonardus
13
Methods of manufacturing a
Livi Francesco ;
Alenia
22.01.2003
stiffening element for an aircraft
Puccini Geremia
Aeronautica
US020030168555A1
skin panel and a skin panel
S.P.A.
provided with the stiffening
element
14
[EN] Laminate with Butt-Welded
Van Tooren, Michael
Stork Fokker
19.12.2003
Metal Layers
Johannes Leonardus;
Aesp B.V.
CA000002453717A1
[FR] Plaque a Couches De Metal
Labordus, Maarten;
Soudees Bout a Bout
Verrhoeven,
Mcdonnell
04.05.1994
Douglas
US000005567535A
Christiaan Gerrit
15
Fiber/metal laminate splice
Pettit; Richard G.
Corporation
16
17
18
Leading edge construction for an
Kraenzien; Peter
Daimler
25.11.1997
aerodynamic surface and method
Chrysler
US000006050523A
of making the
Aerospace
same
Airbus GMBH
Layer structure including metallic
Sikorski Siegried ;
MTU Aero
02.03.2000
cover layer and Fiber-reinforced
Schoenacher
Engines GMBH
US000006521331B1
composite substrate, and a
Reinhold ; Schober
method of making the same
Michael
Golf Shaft, Forming Method
Unosawa Akira ;
Mamiya-OP
28.11.2001
therefor and golf club
Someno Kazutaka
Co., LTD.
US020020082112A1
91
4.2 参考文献
1) “Younger Fleets Boost Non-U.S. Airlines”, June 2 (2008), BusinessWeek
2) Ad Vlot and J. W. Gunnink,:Fibre Metal Laminates an introduction” (2001), Kluwer Academic
Publishers
3) 青木:先進複合材構造及び先進複合材料の開発課題に関する先導的調査研究、平成 19 年、
〔独〕
新エネルギー・産業技術総合開発機構
4) J. B. young, J. G. N. Landry and V. N. Cavoulacos:Crack Growth and Residual Strength Characteristics
of Two Grades of Glass-Reinforced Aluminum ‘Glare’, Composite Structures, Vol. 27,(1994), pp.
457-469
5) 日野、平松:マグネシウム合金の腐食を防ぐ表面処理、表面処理分科会例会講演資料、第8回、
2005 年 8 月、pp.8∼13
6) 特 許 第 3 2 8 6 5 8 3 号 マグネシウム含有金属用化成処理液組成物、同表面処理方法及び同表
面処理物
ミリオン化学(株)
7) JIS Z2371:塩水噴霧試験方法
8) Metallic Materials Properties Development and Standardization MMPDS-05 (2010)
9) 新館、関根:新粒子生成手法と粒子縮合手法を取り入れた改良 SPH 法による固体-固体超高速
衝突現象の数値解析、航空宇宙学会論文集、Vol.50、 No.579、(2002)、pp.158-165
10) Cheng-Ho Tho, M.R.Smith:Accurate Bird Strike Simulation Methodology for BA609 Tiltrotor”,
Journal of the American Helicopter Society,Vol.56, (2011)
11) M.A.McCarthy, J.R.Xiao ら: Modelling of Bird Strike on an Aircraft Wing Leading Edge Made from
Fibre Metal Laminates- Part2:Modelling of Impact with SPH Bird Model, Applied Composite Materials
11, (2004), pp.314-340
12) 横山:マグネシウム合金押出材の衝撃引張応力-ひずみ特性、軽金属、第 51 巻第 10 号 (2001)、
pp.544-550
13) R. Alderliesten, C.Rans, R.Benedictus:The applicability of magnesium based Fibre Metal Laminates
in aerospace structures, Composites Science and Technology, 68 (2008) pp.2983-2993
92