ウェアラブル睡眠センサと BREW® 携帯電話との連携

特集記事
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ウェアラブル睡眠センサと BREW® 携帯電話との連携
黒沢 章
用いて安定的に検出した脈拍間隔を基にして睡眠判定を
生活習慣の多様化や競争社会におけるストレスか
ら不眠に悩まされる人が増えています。 そこで(株)
行う,手首に装着するだけの腕時計型のセンサです。(図 1)
また, ウェアラブル睡眠センサには, 携帯情報機器向
電話を連携させることで, 共に携帯性に優れた特長
けの無線通信技術である Bluetooth® が内蔵されていま
す。 測定したデータは Bluetooth を経由して別の対向機
器へ送信され, 対向機器にて測定データの解析が行わ
れます。 これによって利用者は身体に接続するケーブル
などに悩まされることなく測定を行うことができるようになりま
を生かし, ウェアラブル睡眠センサの活用の幅を広
した。 (図 2)
東芝・ 研究開発センターでは小型で携帯に便利な
ウェアラブル睡眠センサを開発し, 自宅や外出先で
簡単に睡眠状態を測定できる環境の構築を進めて
います。 このウェアラブル睡眠センサに BREW®携帯
げることができます。
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不眠に悩む人が多い現代社会
睡眠は前日の疲れやストレスを癒 (いや) す, 人間
にとって必要不可欠なものですが, 現代社会ではストレス
や夜型の不規則な生活を送る人が増えており, 多くの人
が不眠に悩まされています。 これを改善するためには自
身の正確な睡眠の状態を知る必要がありますが, これま
では, 脳波や眼球運動などを測定する特殊な装置を使
用するため, 多数のケーブルを身体に装着する必要があ
りました。
そこで (株) 東芝 ・ 研究開発センターでは, 身体へ
の負担が少なく自宅や外出先で手軽に自分の睡眠状態を
測定できる, 小型で携帯性に優れたウェアラブル睡眠セ
ンサの研究 ・ 開発を行っています。 2
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図 2. ウェアラブル睡眠センサ利用のイメージ
測定データは, Bluetoothで対向機器に送信されます。
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BREW 携帯電話の優位性
ウェアラブル睡眠センサの小型で携帯性に優れた特
徴を生かすために, 対向機器にはモバイル機器のノート
型 PC や PDA が利用されていましたが, 外出先での利
用や広く一般的に普及している点を考慮した結果, 携帯
電話が新たな候補に挙がりました。
手首に装着するだけの睡眠センサ
睡眠状態と自律神経の活性状況には相関性が高いこ
とと, 自律神経の活性状況は脈拍間隔のゆらぎ成分から
判別できることが判っています。 ウェアラブル睡眠センサは
この点に着目し, 脈拍間隔を測定する脈波センサと寝返り
などを検知する加速度センサを内蔵し, 加速度データを
表 1. 各モバイル機器の比較
(凡例) ◎: 非常に優れている ○: 優れている
△: あまり優れていない ×: 優れていない
携帯性
価格
普及率
性能
ノート型
PC
×
×
○
◎
PDA
○
△
×
○
携帯電話
◎
◎
◎
△↑
表1はノート型 PC,PDA と携帯電話を比較した表です
が,これから見て取れるとおり,携帯電話は携帯性,価格,
図 1. ウェアラブル睡眠センサの概観
ウェアラブル睡眠センサは, 腕時計と同様に手首に装着します。
普及率においてノート型 PC,PDA を上回っています。
普及率については現時点で 70% を超えており [3],1 人が
1 台ずつ携帯電話を保有する日は近いと思われます。 ま
た, 外出先で測定を行いたい場合などパソコンをそのた
めに持ち歩くのは負担ですが, 携帯電話は常に持ち歩く
ものですので, この携帯性は強みです。
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「東芝ソリューション テクニカルニュース」2007年(春季号)
比較の中では唯一性能が他を下回っていますが,
BREW 携帯電話では最適化されたプログラム実行環
境により,ノート型 PC や PDA と遜色のないレベルま
で上がっています。
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この比較結果により, BREW アプリケーションの開
発を得意とし,BREW 携帯電話と Bluetooth 対応機
器の連携実績が多い当社は, (株) 東芝 ・ 研究開発
センターからの依頼を受け, ウェアラブル睡眠センサと
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連携する BREW アプリケーションの開発を行いました。
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BREW 携帯電話で睡眠状態を解析, 表示
図 3 はウェアラブル睡眠センサと携帯電話を連携さ
せた場合の処理の流れです。
図 4. 睡眠状態の表示
一晩の睡眠状態の遷移がグラフで表示されます。
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図 3. 携帯電話連携時の処理の流れ
ウェアラブル睡眠センサから約1秒ごとに送信されたデータに
対して, 約 1分間隔でゆらぎ解析が行われます。
ズムに合わせて制御して快適な睡眠環境を提供するシス
テムです。 また, 携帯電話で解析した結果を携帯電話本
来の通信機能を利用して専門家に送付し, メールなどで
睡眠に対するアドバイスを受けるサービスが検討されてい
ます。 このような個人向けの活用のほかに, 携帯電話で
の解析結果をサーバで受信 ・ 集積し, 従業員の健康管
理に役立てるほか, 乗り物の運転などの危険を伴う業務
に従事する場合や精密さを要求される業務に従事する場
合の健康状態チェックなど, 企業システムへの応用も実
用例として考えられます。
なお, 本稿の執筆にあたっては, (株) 東芝・研究開発センター
のヒューマンセントリックラボラトリーに協力いただきました。
【特許】
*本稿に記載の技術は, 特許出願中です。
【参考文献】
ウェアラブル睡眠センサで測定した脈波間隔と加速度は
脈波間隔 ( 約 1 秒 ) ごとに携帯電話に送信され, 携帯電
話は 1 分ごとに自律神経の活性状況を解析します。 この
間もデータは継続して送られてくるため, 自律神経の活
性状況の解析は, 次のデータが送信される前に終わらせ
る必要がありますが, BREW 携帯電話はこの処理を問題
なく行える処理性能を持っています。
図 4 は 1 日の睡眠状態の表示機能です。
測定を行った日を選択すると, その日の一晩の睡眠状
態の遷移が表示されます。 BREW 携帯電話はデータ保
存領域として利用できる大容量のメモリを持っているため,
一晩の睡眠状態を複数日分保持することができます。 こ
れにより, 複数の日付にわたる睡眠状態のトレンドが確認
できるようなっています。
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[1] 鈴木琢治 . “家庭で手軽に測れる腕時計型睡眠センサ”.東芝レビュー
Vol.60 No.4,2005 年 4 月 ,( オンライン ), 入手先
<http://www.toshiba.co.jp/tech/review/2005/04/60_04pdf/rd01.pdf >
(参照 2007-2-28)
[2] 亀山研一 , ほか . “快眠のための睡眠判定と睡眠モニタシステム” .
東芝レビュー Vol.61 No.10,2006 年 10 月 ,( オンライン ), 入手先
<http://www.toshiba.co.jp/tech/review/2006/10/61_10pdf/a11.pdf>
(参照 2007-2-28)
[3] 総務省 .“電気通信サービスの管乳契約数の状況 ( 平成 18 年 9 月末 )”.
報道資料 ,2006 年 12 月 25 日 ,( オンライン ), 入手先
<http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/061225_1.html>
(参照 2007-2-28)
【関連 URL】
[1] (株) 東芝 . “熟睡?自宅で寝ている間に簡単チェック, 装着型の睡
眠センサを開発” . 研究開発センター最新技術情報 , 2004 年 10 月 ,
( オンライン ), 入手先
<http://www.toshiba.co.jp/rdc/rd/detail_j/0410_01.htm>
(参照 2007-2-28)
Profile
携帯電話連携で進む睡眠センサ実用化の検討
ウェアラブル睡眠センサと BREW 携帯電話の連携
が実現されたことにより, その実用サービスやシステムが
検討されています。 例えば, 携帯電話とエアコン, 照明
などの情報家電とを連携させ, 情報家電を個人の睡眠リ
黒沢 章
ソリューション第四事業部
社会情報システムソリューション部
情報システム第一担当 主務
主に官公庁, 企業内情報システムの開発に従事。
2005 年 5 月より BREW 関連アプリケーションの開発
に従事。
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「東芝ソリューション テクニカルニュース」2007年(春季号)