携帯電話が企業の情報戦略を変える

社会動向
携帯電話が企業の情報戦略を変える
光井 隆浩
ンペーンへの応募にもかかわらず, 年配男性からの応答
が多くを占めていたのです。
家庭のリモコンは家族で共用されるため, 父親が使っ
ている利用者 ID を用いて, 娘さんたちが応募されていた
ことが分かりました。 これでは残念ながら, マーケティン
グデータとしては意味を持ちません。
その後, テレビリモコンの替わりに携帯電話を用いる
サービスが増大したのは, そのような経緯からです。 家
族といえども, 携帯電話は貸し借りをされません。
この例をみるまでもなく, 携帯電話を昔ながらの電話機
だと捉えるのは本質を見誤っているようです。 あるときは
個人の導線を追跡するマーケティングツールであったり,
異なるシーンでは個人認証のデバイスであったりします。
ビジネスの領域においても, 携帯電話を上手 (じょうず)
に活用した企業が競争を勝ち抜いていくのではないでしょ
うか。
コミュニケーションツールとして定着した携帯電
話, その高機能化には目を見張るものがあります。
決済機能の充実, 個人認証デバイスとしてのポテン
シャル, PC以上に強固なセキュリティ, そして多様
な周辺機器の品揃え。 これらをみれば, 携帯電話
が個人利用に留まらないであろうことが容易に想像
できます。
高機能な情報処理端末となった携帯電話は, 企
業内情報システムとの連携を強めています。 しかし,
従来の PCとは開発環境や運用上の相違が大きく,
課題も少なくありませんでした。
当社は, 携帯電話アプリケーション構築のフレー
ムワークを自社開発し, これを活用することにより,
企業内情報システムの構築, そして戦略化を容易
にしています。
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“いつでも” “誰でも” 携帯電話
広く普及しており, 2005 年度末には 9179 万人の加入
者数となっています [1]。 これほど多くの人が所持している
デジタル端末というのは, 他に類をみません。
(1) 携帯電話の決済機能
最近の携帯電話は, お財布替わ
りに課金決済ができ, また, 公共
交通の乗降に使える定期券を内蔵
しているものが増えつつあります。
目覚まし時計やメモ帳機能として利
用する人も多く, 家の中やオフィス
にいるときでさえ常時携帯電話をポ
ケットに入れて歩く姿が当たり前に
なってきました。
(2) 携帯電話の個人認証機能
かつてデジタル放送の双方向
サービスにおいて, テレビのリモコ
ンから応答されたデータの分析を
行ったときのことです。 不思議なこと
に, 若い男性タレントに関連したキャ
(1) 携帯電話が備える高度な機密性
少し前までは, 電車の中や喫茶店でノート型 PC を開く
ビジネスマンを数多く見かけました。 PC の紛失や盗難の
ニュースが増えるにつれ, そのようなシーンが減ってきた
ように思われます。
国内では, 携帯電話は若年層からお年寄りにまで幅
通勤や通学の際に定期券を忘れてしまったり, コンビ
ニで買い物しようとしたが財布がなかったという経験は多少
なりともあるものと思います。 このようなとき, 友人にお金
を借りて一日を過ごすのが過去の姿でした。 しかし, 携
帯 電 話 は め っ た に 忘 れ ま せ ん し,
忘れると日々の行動に支障をきたし
2004
てしまいます。
安全で拡張性のある携帯電話
筆者自身, 以前は外出中にもノート型 PC を使って仕
事をしていましたが, 今は特別なイベントがあるときだけに
限っています。 万が一 PC を紛失しては大変なことになる
からです。
PC 内のデータに強固な暗号化を施しておいても, そ
2006
2005
2007
2008
2009
2010
㵺
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3.5G( චᢙ Mbps)
3G( ᢙ Mbps)
4G(100Mbps)
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5MB
15MB
1GB
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Bluetooth®
㕖ធ⸅ IC 䉦䊷䊄 (Felica)
ή✢ LAN
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(2006.10.24)
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図 1. 携帯電話 近年の高機能化
携帯電話の高機能化は著しく, 通信サービスの高速化や記憶容量の増大化が
加速しています。
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「東芝ソリューション テクニカルニュース」2007年(春季号)
の PC が現在どのような状況にあるのか確認する術 (すべ)
がありません。 どのようなファイルが格納されていたのかを
証明することすら難しいのです。
企業内システムは携帯電話を味方にすることによって,
時間と場所を選ばない戦略的なものへと進化します。
携帯電話の場合は, センタサーバから命令を送ってファ
イルを削除することが可能です。 どのようなファイルが格
納されていたかを知ることも容易です。 どこで紛失したで
あるとか, 今どこにあるかまでも調べる手段があるのです。
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ビジネス利用のモバイル端末は, その多くがノート型
PC や PDA から携帯電話に替わりつつあります。 今後は
この傾向がいっそう強まることでしょう。
(2) 携帯電話の豊富な周辺機器 (アクセサリ)
特に若い方の場合, 携帯電話の数字キーを目にも留ま
らぬ速さで入力されます。 ブラインドタッチでの漢字変換
も当たり前だそうです。
筆者は PC のフルキーボードには習熟しているものの,
携帯電話ではとても高速な入力などできません。 操作が
苦手な方のため, あるいは多くの文字入力を可能とする
目的で, 携帯電話に接続できるキーボードが販売されて
います。
他にデータ入力の手間を省く目的では, バーコード読
み取り装置などの入力機器を接続する方法があります。
ケーブルをつなげなくても, Bluetooth® 対応の機器であ
れば無線通信が可能です。 様々な種類のプリンタ類も用
意されています。
少し前までは, 画面の反射を防ぐようなフィルムや各種
の充電器といったパーソナル用品がほとんどであったアク
セサリ類ですが, 昨今ではビジネス利用をサポートするも
のにまで広がりをみせています。
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企業内システムを戦略的なものに変える
携帯電話
(1) 携帯電話のビジネス利用と効果
前述のように, 携帯電話のポテンシャルは企業内シス
テムの情報処理端末として使えるレベルに到達しました。
例えば新聞記者の方々が利用する端末の要件として,
突発的なできごとを記事にしてリアルタイムに送信可能で
あることが挙げられます。 このとき, 携帯電話には常に電
源が入っていますので, 重要なニュースを迅速に伝えると
いうミッションを果たすことができます。 更に, 送信の準備
にも煩わしい操作は必要ありません。
対してノート型 PC の場合, 電源を投入してから入力画
面が現れるまでに分のオーダで待たされます。 入力され
た記事情報を送信するためにも, 更なる時間を要します。
(2) アプリケーションのモバイル化 (携帯電話への移行)
90 年代の半ばより, 企業内情報システムのオープン化
という大きな潮流がありました。 現在のモバイル化は, オー
プン化を凌駕 (りょうが) するイノベーションとなりつつあり
ます。
例えば PDA を利用したシステムでは, 営業マンや保
守員の方々が外出先でのデータ入力を行います。 多くの
場合, それらのデータは事務所に戻ってからのバッチ処
理となっていました。 モバイル化されたシステムにおいて
は携帯電話の特性を活かすことで, 外出先でのリアルタイ
ム更新や問合せ処理が容易に実現しています。
BREW® を活用した
当社のモバイルソリューション
(1) メモリ空間を有効活用できる BREW
国内では, au がサポートしている BREW という携帯電
話のプラットフォームがあります。 BREW は, エクステンショ
ンと呼ばれるダイナミックリンクライブラリ機能をサポートして
います。 業務処理では複数のアプリケーションから共通の
実行コードを呼び出すケースが頻繁であり, 限られたメモリ
空間を有効活用するためにも必要な機能です。 特に大規
模システムでは絶対的に不可欠なものです。 残念ながら,
これまでの JavaTM には同様の機能がありませんでした。
(2) 携帯 Java とネイティブ開発の課題
以前より, 携帯電話向けの Java が提供されています。
Java は, 周辺機器へのアクセスが困難であるなど, PC
で動作していたアプリケーションを携帯電話に移行すること
に難がありました。
Java ではなく, 携帯電話の OS 上に直接アプリケーショ
ンを動かすことをネイティブ開発と称します。 ネイティブ開
発されたアプリケーションは機種への依存性が高く, 将来
に向けてのポータビリティを損なってしまいます。 企業の
神経網とでもいうべき情報システムに, 移行性の欠如とい
う禍根は残せません。
(3)BREW フレームワークの開発と活用
携帯電話に BREW アプリケーションを構築する場合,
電話機であるが故の作法を守る必要があります。 データ
入力中に電話の着信があると, それまでの情報を保存し
て発信元の氏名表示をするなどがそれに当たります。 この
ような配慮は, アプリケーションの設計者や開発者に大き
な負担となり, 開発期間の長期化と品質劣化の懸念を伴っ
てしまいます。
当社では BREW アプリケーション構築のノウハウをフ
レームワークとして整備しています。 これにより, 上記のよ
うな携帯電話特有の作法をほとんど意識することなく, 高
品質なアプリケーションを短納期で開発することが可能に
なりました。 フレームワークを活用した事例も増えてきてお
り, 更なる機能強化を計画しています。
当社はこれからも, 企業内システムのモバイル化, そ
して戦略化に貢献していきます。
【参考文献】
[1] 社団法人 電気通信事業者協会. “携帯電話 /IP 接続サービス (携帯)
/PHS/ 無線呼出し契約数”. (オンライン), 入手先
<http://www.tca.or.jp/japan/database/daisu/index.html> (参 照
2007-2-28)
Profile
光井 隆浩
エンベデッドソリューション事業部
モバイルコンピューティング技術部 主幹
基幹系業務システム開発, 及びコンサルティング業務
を経て,メディア コンテンツ関連事業開発,情報家電 ・
モバイル事業推進に従事。
情報処理技術者システムアナリスト
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「東芝ソリューション テクニカルニュース」2007年(春季号)