元田 豊 ● O2 技術ディビジョン コンサルタント 第5回 活用の拡大 ボス・リブまで標準モジュール化 イラスト:モリナガカツトシ 前 設計の基盤づくりと3次元設計 ブリモデルを基に自動作成する方が合 しは「部品の標準化・モジュール化」 理的に思える。 のように、部品を単位とした活動を意 手法の定着について解説してきた。こ モデル作成においても、同じ手順の 味する場合が多いのではないだろう れらが確立して3次元設計が軌道に 繰り返しになるものが見えてきて、 でき か。それらの活動も効果的だが、今回 乗ってくると、次はいよいよ3次元設計 るだけ自動化することで省力化を図れ 着目するのはあくまで部品の中に存在 の効率向上と、活用拡大の準備の段階 る。そのもう一歩踏み込んだ取り組み する形状要素(部分形状)であり、ラ である(表) 。 として我々が推奨しているのが、 「製品 イブラリーとして整備するのも形状モ この段階では、 だいぶ効果を実感で 特有の典型形状や、ボス/リブのよう ジュールである。 きるようになる一方で、 「 無駄」と思え な構造部位の標準化・モジュール化」 るような作業が目に付き始める。例え の実施である。 1段細かいレベルで標準化 ば、付帯的業務である帳票作成作業。 「製品の標準化・モジュール化」と 一般に多くの3次元CADでは、繰 特に部品一覧のような帳票は、アセン いうと、 「部品ライブラリーの整備」ない り返し使えるような部分形状を「ユー 回(2010年7月号)まで、3次元 ザー定義フィーチャ」 などと呼んでおり、 ライブラリーに登録 /再利用できる機 表●3次元設計をベースとした開発プロセス構築に向けた取り組み 今回は、 グループDの取り組みを解説する。 取り組み内容 (グループ) 活動テーマ 設計インフラ 設計効率化 業務品質向上 開発力強化 製品力強化 整備フェーズ フェーズ フェーズ フェーズ フェーズ る限り、その種のライブラリーを有効に CAD導入 ◎ CAD操作教育の実施 ◎ モデル構築手法の定義 ◎ CAD運用ルールの整備 ◎ ○ 部品ライブラリーの整備 ◎ ○ 設計手法・設計手順の定義 ◎ 設計意図伝達ルールの整備 ◎ スキルアップ教育の実施 ◎ 3次元設計の 解析の導入 ◎ 形状モジュール化 ○ ◎ 活用拡大準備 省力化プログラムの活用 ◎ ○ CADデータの流通拡大 ◎ ○ 金型設計の3次元化 ◎ ○ 検査・計測工程の改善 ○ ◎ ○ ◎ である、 との判断があると考えられる。 図1に示すピラミッドは、製品に関す 3次元導入・ A 初期教育 3次元設計の B 強固な基盤づくり 3次元設計手法の C 定着 D 効率向上と 生産工程を含めた E 効果の刈り取り 部門間連携/ 製品品質の早期作り PJ管理の推進 F 込み実現のための 技術情報の蓄積 ○ ◎ ○ 金型・部品調達の改善 ◎ ○ 製品品質の早期作り DR主導型設計の推進 基盤整備 ◎ 開発スタイル移行 解析主導型設計の推進 ◎ 製品からの視点を 不具合の未然防止 ○ ◎ 製品開発力向上 標準化・モジュール化 ○ ◎ リーン設計・製造の推進 ◎ G 込み実現のための H 中心とした、 PJ:プロジェクト DR:デザインレビュー もとだ・ゆたか:大手精密機器メーカー、3次元CADシステム・ソリューション・ベンダーを経て O2へ参画。幅広い分野で3次元CADによる製品設計から金型 (プレス、 モールド)設計まで をカバーし、先進的な設計手法開発と標準化の活動を、 システム開発を交えて実施してきた。 74 能を提供している。ところが我々が知 NIKKEI MONOZUKURI August 2010 使っている例は少ないようだ。特に一 品一様の製品を設計しているケースに おいては、ほとんど整備されていない のが実情である。恐らくは、そのような 機能を使っても使わなくてもモデリン グ時間にはそれほど差が出ない、ある いは一品一様なので使う機会がまれ る標準化の着眼点を表したものであ る。製品やアセンブリ (組み図)の標準 化がピラミッドの頂上側にあり、 その下 に部品の標準化の取り組みがある。そ O2では、 18年に及ぶ経験を生かして 「3D-DPRM」 を柱にしたコンサルティング活動に従事。 3次元CADを導入したが、なかなか開発プロセスの効率化が進まない ─。 そう悩んでいる企業は少なくない。この悩みは、新しい機能を持ったツールを 導入したからといって解決するものではない。3次元設計に取り組んではい るが、 十分な効果が得られていない企業の体質のどこに問題があるかを分析し、 その結果に応じた改善方法を選択できるスキルを、本コラムでは伝授します。 ・製品ラインアップを整理し、戦略意図に沿ったものにする 製品の標準化 ・製品を設計意図に沿った形で組み替えを行い、効率的なアセンブリを構築する アセンブリの標準化 ・購入品の統一や、加工部品の共通化を行い、類似形状の亜種発生を防ぐ 部品の標準化 形状の標準化 ・製品形状から、形状単位で意図を持った分類を行い、品質安定を目指す 図1●標準化の着眼点 ここでは主に 「部品」 よりも1段階下の 「形状」 に注目する。 して、最底辺に形状のモジュール化が かりやすい例として、 自動車レース 「F1」 なして、素早くかつ品質が良いものを 位置する。 のレーサー (パイロット)で説明してみ 作ることが可能になる。 部品の標準化は、 ともすると最底辺 よう。 あるメーカーでは、改革活動の一環 に位置するように見えるかもしれない。 レーサーは速さを極限まで追求し、 として設計を「プロセス」と「形状」の ビスやナットといった機械要素だけを サーキットを常人では考えられないス 観点から見直し、難所に当たる「思考 対象とするなら単純な取り組みともい ピードで走る。そしてレーサーは、世 のいる作業」と、 当たり前に実行できる えようが、しかし多くの部品における 界のあらゆるサーキットにおいて、常に 「思考のいらない作業」に切り分けた。 標準化は製品特性やそのバリエーショ トップスピードで駆け抜けることがで そして「思考のいらない作業」に対し ン展開、ひいてはモジュラーデザイン きる。 ては、その形状をモジュール化したも (MD)に直結したものであり、実際に これには理由がある。初めてのサー ので対応できるように、設計を大幅に は相当にレベルの高い活動といえる。 キットであっても一つひとつのコーナー 見直す活動を実施した。その結果、思 一方、形状に着目したモジュール化 に分解して見れば、既に走ったことが 考のいらない作業の工数を大幅に削 は、モジュラー型製品であっても一品 あるどこかのコーナーと形状が類似し 減する効果を出している。 一様の個別設計の製品であっても有 ている場合がほとんどだからだ。中に このメーカーでの取り組みを含め、 効であり、そのすそ野は広い。それな は、要素に分解しきれず、サーキットご 形状モジュール化の活動においては、 のに、なぜかこの取り組みの重要性は とに攻略法を考えなければならない難 幾つかの注意点が存在する。 ここでは、 見過ごされている。実にもったいない 所もあろうが、そういう場所ができる 必ず押さえるべき3つのポイントに絞っ と言うほかはない。 だけ少なくなるように分析できる頭の て説明する。 良さも、 レーサーの実力といえよう。 ①モジュール化すべき形状要素の モデル内のフィーチャに着目するの 候補の探し方のポイント、②類似の形 形状モジュールの整備は、QCD(品 も、 このF1レーサーの考え方に似てい 状要素をまとめて形状モジュールを決 質、コスト、納期)の向上/短縮という る。設計する製品モデルを分割した単 める際の整理の仕方のポイント、③整 点で、どのような製品を開発している 位で見ることにより、全体としては違っ 理した形状モジュールを3次元CADで 場合でもかなり有効なものになる。分 たものであっても部分は同じものと見 使うときのポイント、 である。 いかに考える作業だけにするか August 2010 NIKKEI MONOZUKURI 75 分類 補足事項 まず、分類ごとに、設計上の検討項 液晶画面を取り付ける 部品配置 配線処理 ② スピーカーを取り付ける 部品配置 音質に影響 目にあらためて注目する。例えば基板 冷却溝を追加する 品質 成形性注意 ④ ケース上下を取り付ける 機能 落下試験 ルト締めなら締め付け力や受け面の ⑤ 補強リブを設ける 機能 落下試験 ⑥ 成形:ゲート逃げ範囲 品質 成形要件 領域が十分か、 がたつかずに留められ No ⑤ ① ⑥ ② ③ ④ ① ③ 設計手順 図2●形状要素とその目的 一見形状が異なっても、 目的が共通するものは少なくない。 これが、 モジュール化の対象になる。 を配置するための形状については、ボ るか、といったことが検討項目になる。 液晶パネル周りでは、一定の位置にが たつきなく留めることだけでなく、外か ら見てすき間が見えないようにする工 ①探し方のポイント ともいえる作り方の違いが存在し、統 夫も欠かせない。部品によっては、組 モジュール化の対象になるような、 一されていないことが多いが、 「目的」 立工程でのポカよけや組立方法を考 相互に類似した形状要素を探すには、 で見ると同じ分類になるものが実に多 慮し、位置決めや方向決めが容易なよ まず3次元モデルを作成するときの手 く存在するのである。ある企業で実際 うにボスなどを追加するといった工夫 順に着目するのが手っ取り早い方法 に目的別で形状を分類してみたところ、 を施すこともある。検討項目が明らか である。前々回(2010年6月号)で、モ 数十種類もの形状が同一目的だったと になれば、それを満たす形状、すなわ デル構築方法や設計手順の整理につ いう例さえあった。 ちモジュール形状を決められる。 いて解説したが、これを実施すると、 図2は、前述のメーカーで実施した ここで得られる形状は、検討する項 同じような手順で作成している形状が 取り組みになぞらえて、設計手順とそ 目が決まっている以上、理屈の上では 少なからず見つかるはずである。それ れに対応する形状要素の目的を、架空 誰が担当しても同じ結果が得られる。 らをグループ化し、標準形状モジュー 製品の3次元モデル上で明示した例で しかしモジュール形状の候補になった ルにしていくだけでも、繰り返し出現 ある。たとえ一品ごとに異なった設計 形状は、現実には複数あって、それぞ するモデル構築手順を省力化できるよ の製品でも(例えば外観デザインが異 れ異なっていたわけだ。担当した各設 うになる。 なっていても) 、形状要素は共通にでき 計者それぞれの意図や工夫にもよる ただし、もっと良い方法がある。そ るところが多々あることに気が付いて のだろうが、この違いは検討項目を究 れは、形状要素が作られている「目的」 いただけるのではないだろうか。 極まで煮詰めていくことで、 なくしてい に着目することだ。見た目では形状が けるはずである。このように考えると、 バラバラで規則性がなくても、その形 ②整理の仕方のポイント 状がどのような目的で作られているの モジュール化できそうな形状要素を 化と同時に、目的をどう達成するのが かを探っていくと、 「押さえ爪」 「 (基板/ 探すことができたら、次にそれらを整 最も適切なのかを導き出す作業ととら 液晶パネルなどの)取り付け支持部」 理し、同一分類を代表するモジュール えることもできる。 形状を決めていく。当然のことながら、 この作業の副次的効果としてしば た分類ができる。 使う頻度の高い形状から優先的に整 しば得られるのが、どのような形状に これらの形状には、各設計者の流儀 理していくのがよい。 すると部品の品質が最も良くなるかが つめ 「部品はめ込み用の形状」などといっ 76 NIKKEI MONOZUKURI August 2010 形状モジュール化は設計作業の省力 判明することである。例えばボスのよ + = うな形状において、設計者が倒れ込み を心配して補強リブを入れる場合が カット面の 置き換え あるが、かえって製品表面にヒケを生 じさせたり、冷却ムラによって倒れ込 図4●形状モジュールの利用場面 アセンブリとして組み立てて、後で部品として一体化する 方が、組み付け操作が楽なことがある。 みを増長させてしまったりすることも ある。こういった不具合の原因究明に は樹脂流動解析が必要と思われがち になり、 ノウハウが継承されないことが を促進することでモジュール化の成 だが、形状を製品の不具合と合わせ 間々ある。そうなっては、せっかくの標 果を浸透させることができる。しかし、 て整理することで、原因に気付くことも 準化が、むしろ開発力の低下をもたら フィーチャを呼び出す際に位置指定の 多い。 すことになりかねない。この点には十 ための「配置平面」が必要になる場合 このようにして、目標達成に最も適 分注意すべきだ。 があり、フィーチャと配置場所の形状 切な形状をモジュール形状として決 によっては、思うように配置できない問 定する(図3) 。もちろん、ある目的を達 ③CADで使うときのポイント 成するための代表形状が複数あって モジュール形状が決まったら、これ 法の1つとして、形状モジュールを「部 もよいし、幾つかの場合分けをして、 らを3次元CADのライブラリーなどに 品」 として用意しておいて、 「アセンブリ」 それぞれに適切な形状を定義しても 登録し、便利に使えるようにしていく の一部として取り扱う方法を紹介する。 よい。ただ、大事なことは、 この形状を 作業に移る。このとき最もよく利用さ 図4はボスを例にしたものだが、ボ どうして採用したのかを記録し、その れるのがユーザー定義フィーチャ機能 スを部品として使う場合には、あらか ノウハウを残すことだ。このような標準 であり、これにより簡単にパラメトリッ じめ長めに作成しておき、必ずベース 化の取り組みは、効果が高い半面、数 ク形状の登録/再利用が可能になる。 形状を貫くようにボス部品が配置され 年たつとなぜそうしたのかがあいまい 多くのケースでは、この機能の利用 るようにしておく。最後に1つの部品と 題が生じることがある。これの解決方 して合体させて、元のベース部形状か ら連想性を持たせて複製した意匠面 突起フィーチャ 1 突起フィーチャ 2 スケッチ面は突起フィーチャ 1 (突起F1) を利用 でカットする*。このようにすると、ボス の反対側は製品形状と整合するし、形 状構築履歴は自然と「ブッシュ型」に カットフィーチャ 1 突起F1の軸を利用 こう配フィーチャ 1 こう配の基準面は突起F1を利用 こう配フィーチャ 2 こう配の基準面は突起F1を利用 面取り部(C面) カットフィーチャ 図3●形状モジュールの例 スケッチ面と方向面と奥行き面に参照あり なるため、形状変更が容易になる。デ ザイン変更があった場合でも、 そのカッ ト操作に使った面を置き換えることに より、ボスなどの部品情報を壊すこと 突起F1のエッジを利用 なくモデルを維持できる。 中心の円筒状のボスと、周囲のリブ、 ボスに開けた穴までを、 ひとまとめのモジュールとして定義する。 アセンブリを用いて形状要素を配置 * 部品として合体させず、 アセンブリのままでカットを使うことも可能だが、 再生時間が長くな るなどの影響が出るため、最終的には1つの部品として合体させることを勧めている。 August 2010 NIKKEI MONOZUKURI 77 していく最大のメリットは、配置の際に うになるし、リードタイムの短縮やコス を行えれば、計画的にデータ準備を進 参照する平面などを必要とせず任意 ト削減も見込める。 めることで作業負荷を平準化すること の場所に配置できること、および配置 もう1つのポイントは、先にこれらの が可能になる。 変更や置き換え作業などが容易に行 情報を製造部門に渡していくことであ このように、形状モジュール化を設 えることである。この方法は、多くの3 る(図5) 。製造側では、 これから必要に 計における標準形状の取り決めにとど 次元CADで適用できるので、 ユーザー なるであろう電極材料や刃具の手配 めず、製造部門や金型サプライヤーと 定義フィーチャの利用で問題が生じた がスムーズに行えるし、NCデータの準 の相互の取り決めに発展させることは、 ときは、 これも試してほしい。 備や素材加工まで実行しておける。設 効果を最大化させるポイントであり、 こ 製造との連携を強化 計から最終モデルが提示されたときに れを必須の取り組み項目とすることを は事前準備のかなりの部分を完了し 我々は推奨している。 形状モジュール化に際しては、設計 た状態になるため、残りの準備作業が 日本のものづくりが世界をリードし だけではなく、製造からの要件を盛り 終わり次第すぐに加工を開始でき、こ た実績を持つことは周知の通りであり、 込んでいくことを推奨したい。例えば れにより製造リードタイムの大きな短 今でもその潜在能力はナンバーワンだ 樹脂射出成形金型に必要な抜きこう 縮が可能になる。 と感じている。製造現場も高い能力を 配にしても、設計部門だけでは何度が もちろん、設計変更などが生じて準 持ち、何でもこなす。しかし、だからと 適切か分からないのが普通だし、 まし 備が無駄になる可能性もないわけで いって、工夫なく1品ごとにその都度設 てやどのような工具があり、その工具 はない。しかし、標準化された形状は 計していたのでは、高いレベルのQCD で効率良く加工するのに都合の良い 他の製品でも利用されるので、完全な バランスを実現することは難しい。形 形状はどんなものかといったことはな 無駄になる可能性は低い。また、製造 状モジュール化という着眼ポイントは、 かなか分からない。形状モジュール化 側の課題として工作機械の繁閑が時 設計と製造を通した活動に発展させ の際に製造要望を取り入れておけば、 期によって大きく偏ることがよく挙げ ることで高いQCDバランスを実現する 自然と安価に金型などを作製できるよ られるが、設計から標準形状の先出し 手段になり得ると考えている。 現状 出図 製品設計 材料手配 組み立て 出図 形状単位での情報先出し 今後 製品設計 材料手配 ※先行して準備 材料手配 図5●後工程の先行手配が可能 加工 加工 組み立て 加工 どんな工具で加工するのか、 どんな要件が製造上必要なのかといった情報を結び付けておけば、形状モジュール単位であっても製造部門は準備を始められる。 78 NIKKEI MONOZUKURI August 2010
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