研究概要1) オリーブ葉由来ポリフェノールの機能解析

研究概要1)
1-1)
オリーブ葉由来ポリフェノールの機能解析
はじめに
「食べる」ことは、生物が生きるために必要不可欠なことである。従って、「食べる」こと
は、「生きる」ことであるといっても過言ではない。それに対して、「食生活」は、人間の
みに可能な活動である。人間は、生物学的存在だけではなく社会的存在である。従って、
「食
生活」は、単なる「栄養素」の摂取にとどまらず、食料、環境、エネルギー、そして健康
が直接的に影響し合い、かつ人間が築き上げた文明に起因する要因(社会、文化、宗教、
経済など)をも包含する活動、それが「食生活」だといえる(Fig. 1)
。この図式は、まさに
「農学」が取り組むべき課題とも合致している。例えば、近年、我が国は飽食の時代と呼
ばれ、食生活が非常に多様化してきた。その中で、先進国を中心に摂取カロリーの偏重お
よび増加と、運動量の低下により、肥満者が増加し、
肥満に起因する糖尿病、高血圧症、高脂血症、いわ
ゆるメタボリック・シンドロームが深刻な問題とな
ってきている。それ故に、健康志向、特に生体調節
機能のある食品への注目が高まっている。一方で、
環境問題、特に廃棄物の問題が深刻化している。そ
の解決策は、廃棄物そのものを減らしていくか、も
しくは廃棄物を有効利用し、資源化していくことに
ある。その資源化の中には、廃棄物や未利用資源の
食品へ応用も重要な位置を占めている。
これらを合わせて考えてみると、未利用資源のな
かで生体を調節する有効成分を見出し、それを積極
的に食品へ応用することが望ましいのではないだ
ろうか。それを可能ならしめるためには、さまざま
な科学的実験による知見を蓄積する必要がある。そ
こで重要になってくるのは、「どの素材・成分」の
「どのような効果」を「どういう方法」で明らかにするかということになる。しかも、食
品や栄養素の場合、体内での動態を追跡することも重要なこととなってくる。
そこで、素材や成分面というアプローチから、オリーブ葉ポリフェノールの機能性につ
いて研究を行っている。
2-2)
未利用資源としてのオリーブ葉
未利用資源の食品への応用を考える上で、ポリフェノールに着目して考えることは、食
品の生体調節機能(3次機能)の観点からも重要である。多くの未利用資源は、果実部分
を食品に利用した後に残る果皮や葉部である。その中には、ポリフェノール類が多く含有
していることを考えると、未利用資源中のポリフェノール類の探索は重要になってくる。
しかし、未利用資源中のポリフェノールは、未だ栄養生理学的機能が判然としないものも
多いが故に、市場で認知されないものも多い。
オリーブ(Olea europea)は、古来より地中海世界の食生活の中心的な食品素材として
利用されてきた。しかし、利用されるのはもっぱら実の部分であり、葉部はほとんど利用
されることがなかった。近年、このオリーブ葉が、食品素材として注目を集めている。そ
れは、オリーブ葉の抽出エキスに、血糖降下作用
1)、抗高血圧作用 2)、抗酸化作用 3)など
生体における機能性が報告され始めてきたからである。また、オリーブ葉よりポリフェノ
ールであるオレウロペイン(Fig. 2)が発見され 4)、それが機能性の本体であると考えられ
ている。従って、オリーブ葉は、未利用資源の有効利用の観点から有望な素材であると考
えられる。
2-3)
オリーブ葉の栄養機能性
オリーブ葉の栄養機能性についての検討を行うこと
を目的に、オリーブ葉給餌およびオリーブ葉抽出粉末
給餌で動物実験を行った。その結果、糞中の胆汁酸、
総脂質の顕著な低下が観察された。また、オリーブ葉
抽出粉末給餌で肝臓中性脂肪の有意な減少が
観察された。これらの結果より、オリーブ葉粉末に
は、
腸管において脂肪の吸収および胆汁酸再吸収を促進
する作用があることが示唆された。また、この作用が
オリーブ葉中のオレウロペインによるものであること
が推察された 4)。
このような腸管におけるオレウロペインの脂肪吸収作用は、腸管上皮細胞管腔膜におけ
る脂質の吸収が亢進している可能性が考えられるが、ポリフェノールによるそのような効
果はこれまで報告例が無く、新規の機能性である可能性がある。また、胆汁酸は、回腸下
部の胆汁酸トランスポーターである ileal bile acid transporter(IBAT)や apical sodium
dependent bile acid transporter(ASBT)により再吸収される 5)。従って、オリーブ葉が
これらのトランスポーターに影響を及ぼしている可能性が考えられるが、更なる検討が必
要である。
胆汁酸は、食事とリンクする重要なシグナル伝達分子であるという認識が高まりつつあ
る 6)。回腸下部より吸収された胆汁酸は、門脈を通って肝臓に送られる。肝臓に送られた胆
汁酸は、胆汁酸核内受容体である falnesoid X receptor(FXR)を介し、small heterodimer
partner(SHP)の発現が亢進し、sterol regulatory element binding protein 1c(SREBP-1c)
の発現が抑制された結果、脂肪酸合成遺伝子発現が低下し、肝臓内での中性脂肪が低下す
ることが知られている 7)。従って、オレウロペインによる肝臓中性脂肪の減少作用は、この
ような機序をたどるのかもしれない。
また胆汁酸は、褐色脂肪細胞において胆汁酸受容体として機能している
G-protein-coupled receptor(TGR5)を介して、uncoupling protein 1(UCP-1)の発現を
誘導し、熱産生を亢進することが知られている。最近、オレウロペインと別のオリーブ葉
に含有するトリテルペンである oleandic acid が TGR5 アゴニストであるという報告 8)やオ
レウロペインが褐色脂肪組織における UCP-1 発現を誘導するという報告 9)がある。
以上より、オレウロペインを含むオリーブ葉抽出成分が、胆汁酸による中性脂肪合成及
びエネルギー代謝調節に吸収レベルから代謝レベルに至るまで関係していることが示唆さ
れた。オリーブ葉の爆砕技術に関しては、東京農業大学生物環境工学科牧恒雄教授、夏川
大博士との共同研究であり、オリーブ葉抽出粉末はエーザイフードケミカル株式会社に提
供していただいております。
現在、オリーブ葉ポリフェノールの機能性について脂質代謝を中心に研究を行っている。
参考文献
1) Al-Azzawie, HF., Alhamdani, MS., Hypoglycemic and antioxidant effect of oleuropein
in alloxan-diabetic rabbits. Life Sci., 78: 1371-1377 (2006)
2) Zarzuelo, A., Duarte, J., Jiménez, J., González, M., Utrilla, MP., : Vasodilator effect of
olive leaf., Planta Med. 57: 417-419 (1991)
3) Somova, LI., Shode, FO., Ramnanan, P., Nadar, A., : Antihypertensive,
antiatherosclerotic and antioxidant activity of triterpenoids isolated from Olea
europaea, subspecies africana leaves. J Ethnopharmacol., 84: 299-305 (2003)
4) 小林謙一、夏川大、尾形明日美、高田恭輔、室田友紀子、綿谷鮎子、寺本明子、牧恒雄、
山本祐司、田所忠弘: 爆砕処理オリーブ葉粉末による脂肪吸収および胆汁酸再吸収の促進効
果, 日本食生活学会誌, 20, 121-126 (2009)
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jisdh/20/2/20_121/_article/-char/ja/
5) Chen, F., Ma, L., Dawson, PA., Sinal, CJ., Sehayek, E., Gonzalez, FJ., Breslow, J.,
Ananthanarayanan, M., and Shneider, BL..: Liver receptor homologue-1 mediates
species- and cell line-specific bile acid-dependent negative feedback regulation of the
apical sodium-dependent bile acid transporter, J. Biol. Chem., 278, 19909-19916 (2003)
6) Watanabe, M., Houten, SM., Mataki, C., Christoffolete, MA., Kim, BW., Sato, H.,
Messaddeq, N., Harney, JW., Ezaki, O., Kodama, T., Schoonjans, K., Bianco, AC., and
Auwerx, J.,: Bile acids induce energy expenditure by promoting intracellular thyroid
hormone activation, Nature, 439, 484-489 (2006)
7) Forman, BM., Goode, E., Chen, J., Oro, AE., Bradley, DJ., Perlmann, T., Noonan, DJ.,
Burka, LT., McMorris, T., Lamph, WW., Evans, RM., and Weinberger, C.,: Identification
of a nuclear receptor that is activated by farnesol metabolites. Cell, 81, 687-693 (1995)
8) Sato, H., Genet, C., Strehle, A., Thomas, C., Lobstein, A., Wagner, A., Mioskowski, C.,
Auwerx, J., and Saladin, R..: Anti-hyperglycemic activity of a TGR5 agonist isolated
from Olea europaea, Biochem Biophys Res Commun. 362, 793-798 (2007)
9) Oi-Kano, Y., Kawada, T., Watanabe, T., Koyama, F., Watanabe, K., Senbongi, R., and
Iwai, K.,: Oleuropein, a Phenolic Compound in Extra Virgin Olive Oil, Increases
Uncoupling Protein 1 Content in Brown Adipose Tissue and Enhances Noradrenaline
and Adrenaline Secretions in Rats, J. Nutr. Sci. Vitaminol., 54, 363-370 (2008)