WIDEプロジェクトの25年 - 科学技術情報プラットフォーム

第56巻第9号平成25年12月1日発行(毎月1回1日発行)
December
2013
WIDEプロジェクトの25年
日本とインターネットのこれまでとこれから
農林水産研究情報総合センターのサービスの継承と現在
APIの提供を中心に
「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開
(2013)」について
学会の役割を考える
電子情報通信学会論文誌による国際学術情報発信
日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(2)
テクノロジー別にみた医薬品開発の現状俯瞰・将来予測
連載:
研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
第15回 ドイツ・フランス・ヨーロッパ連合(EU)法情報
vol.56 no.9
p.571-658
情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.9
Journal of Information Processing and Management
WIDEプロジェクトの25年
571
砂原秀樹
村井 純
582
林 賢紀
592
原井直子
602
今井 浩
611
長部喜幸
治部眞里
日本とインターネットのこれまでとこれから
■1984年10月,東京工業大学,慶應義塾大学,東京大学のUNIXマシンが接続され,
JUNETとよばれるネットワークが誕生しました。JUNETは,日本におけるイン
ターネットの基礎となったネットワークです。WIDEプロジェクトは,1988年に
JUNETのコミュニティーから誕生した,次世代の計算機環境を考えるグループで
す。今年25周年を迎えたWIDEプロジェクトの取り組みの歴史と成果,今後の展
望を紹介します。
WIDE プロジェクト記事の
グラフィカルアブストラクト画像
農林水産研究情報総合センターのサービスの継承と現在
APIの提供を中心に
■農林水産省が所管する50を超える試験研究機関等の研究拠点図書館の総合目
録を提供し,農林水産関係の研究課題・研究成果情報,全文を含む研究論文を
発信しているのが農林水産研究情報総合センターです。2003年から各種のAPI
(Application Programming Interface)を活用したサービスを実施しています。こ
こでは,API導入の目的と効果を中心に情報提供の現状を報告し,今後の展望に
ついて述べます。
「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開
(2013)」について
■国立国会図書館(NDL)が2013年2月に公表した,おおむね5年間を対象とする標
1 国立国会図書館が収集した図書及びその他の図書館資料(以下「資料」という。)並びに
電子的に流通する情報(以下「電子情報」という。)のいずれにも利用者が迅速、的確かつ容
易にアクセスできるよう、また広く書誌データの利用を促進するよう、書誌データの作成及び
提供を行う。
2 資料と電子情報の書誌データを一元的に扱える書誌フレームワー
クを構築する。
3 資料と電子情報のそれぞれの特性に適した書誌データ作成基準を
定める。
4 信頼性及び効率性の高い検索に資するよう、典拠データ作成対象
の拡大並びに主題情報及び各種コード類付与の拡充を行う。
提
供
5 国立国会図書館法第7条に規定する「日本国内で刊行された出版
物」に相当する電子情報の書誌データを、新たに全国書誌として提供
する。
6 利用者が書誌データを多様な方法で容易に入手し活用できるよう、
開放性を高める。
8 利用者の要請、出版物の多様化、情報通信技術の発展等に対応するため、必要に応じ
て見直しを行う。また、各項の具体的な実施に向けて、有効性と費用対効果を考慮し、必要
な計画を別途作成する。
7 出版・
流通業界、関係機関等と連携の上、
様々な資源、知識、技術を活用する。
書
誌
作
成
題の方針(
「新展開2013」
)についてポイントを説明します。その最も重要なポイ
ントは,Web環境に適応して従来の図書館資料と電子情報を一体として扱うこと,
そして利用者によって異なる書誌データの多様な利用方法に対応することです。
2008年の「国立国会図書館の書誌データの作成・提供の方針(2008)
」について
も触れ,これまでの歩みを振り返ります。
学会の役割を考える
電子情報通信学会論文誌による国際学術情報発信
■電子情報通信学会は3万を超える会員を擁しています。会員は,基礎・境界,通信,
エレクトロニクス,情報・システムの4ソサエティのいずれかに所属します。各
ソサエティは独立採算で,活動の中心は英文論文誌の発行です。現在7種の英文
論文誌の刊行を通じて学術情報発信を進めています。学会組織・活動と直結した
学術情報発信のビジネスモデル展開,電子ジャーナル展開について紹介します。
日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(2)
テクノロジー別にみた医薬品開発の現状俯瞰・将来予測
■欧州諸国における医薬品の研究開発は,低分子医薬品からバイオ医薬品へとシフ
日本版NIH創設に向けた
新しい指標の開発(2)
トしています。今回は,今後の成長が期待されるバイオ医薬品に着目しました。
バイオ医薬品を,組換えタンパク質,遺伝子組換えワクチン,モノクローナル抗
体,細胞治療,複合モノクローナル抗体,DNAおよびRNA治療,遺伝子治療,の
7つの技術に分けて,国別の研究開発の現状を分析した結果を報告します。
目次
月号
December
連載:
研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
622
宍戸伴久
636
山崎茂明
640
リブヨ
643
名和小太郎
647
澤村容子
649
高久雅生
第15回 ドイツ・フランス・ヨーロッパ連合(EU)法情報
視点:
オーサーシップの考えを変える時だ
リレーエッセー:
つながれインフォプロ 第3回
情報論議根掘り葉掘り:
X・アズ・ア・サービスの時代
集会報告:
第20回情報活動研究会
「資料のデジタル化のヒント:規模や形態が異なる資料
の管理と保存方法」
この本!~おすすめします~:
ゲームチェンジの時代に
653
情報界のトピックス
657
PINUP
658
編集後記
vol.56 no.9
JOHO KANRI 2013
Contents
December
Journal of Information Processing and Management
25 Years of WIDE Project
Up to this point and beyond this point of Japan and the
Internet
571
SUNAHARA Hideki
MURAI Jun
The succession and the present of Agriculture, Forestry
and Fisheries Research Information Technology Center
Mainly on the providing API
582
HAYASHI Takanori
About "New development on creation and provision of
bibliographic data of the National Diet Library (2013)"
592
HARAI Naoko
Roles of academic societies
Global scholarly communications by the Institute of Electronics,
Information and Communication Engineers (IEICE)
602
IMAI Hiroshi
Development of new indicators for the launch of a
Japanese version of the NIH (2)
A technology-specific overview and future prospects of
pharmaceutical industry
611
OSABE Yoshiyuki
JIBU Mari
Series:
622
SHISHIDO Tomohisa
Opinion:
636
YAMAZAKI Shigeaki
Relay essay:
640
Libyo
In-depth argument on information:
643
NAWA Kotaro
Meeting:
647
SAWAMURA Yoko
My bookshelf:
649
TAKAKU Masao
Introduction to legal research for R&D and business
Part 15: German, French and European Union (EU) legal
information
Tightening up the standards on scientific authorship
Building networks among info pros (3)
Era of XaaS
The 20th meeting of INFOMATES
In the middle of a game changing era
653
657PINUP
Topics of the information community
658
Editor's note
WIDEプロジェクトの25年
WIDEプロジェクトの25年
日本とインターネットのこれまでとこれから
25 Years of WIDE Project
Up to this point and beyond this point of Japan and the Internet
砂原 秀樹1 村井 純2
SUNAHARA Hideki1; MURAI Jun2
1 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(〒223-8526 神奈川県横浜市港北区日吉4-1-1)
TEL: 045-564-2489 E-mail:
[email protected]
2 慶應義塾大学環境情報学部(〒252-0882 神奈川県藤沢市遠藤5322)
TEL: 0466-49-3529 E-mail: [email protected]
1 Graduate School of Media Design, Keio University (4-1-1 Hiyoshi Kohoku-ku Yokohama-shi, Kanagawa 223-8526)
2 Faculty of Environment and Information Studies, Keio University (5322 Endo Fujisawa-shi, Kanagawa 252-0882)
原稿受理(2013-10-09)
情報管理 56(9), 571-581, doi: 10.1241/johokanri.56.571 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.571)
著者抄録
1984 年 10 月,東京工業大学,慶應義塾大学,東京大学の UNIX マシンが接続され,JUNET とよばれるネットワークが
誕生した。J U N E T は,電話網の上に構築されたネットワークであったが現在のインターネットの基礎となったネット
ワークである。単にサービスを提供するだけでなく,人と人のつながり,つまりコミュニティーを生み,そこから次世
代の計算機環境を考えるグループが誕生した。これが WIDE プロジェクトである。ここでは Internet Protocol version 6
(IPv6)の開発に関わる活動をはじめとして,グローバルなインターネットに資するさまざまな研究が進められてきた。
本稿では,今年 25 年を迎える WIDE プロジェクトの取り組みの歴史と成果,今後の展望について述べる。
キーワード
インターネット,WIDEプロジェクト,JUNET,UNIX,標準化,End-to-End,root DNS,Wnn
1. はじめに:WIDEプロジェクト以前
現していた。この仕組みは,そもそも米国で運用さ
れていたUSENET2)の仕組みを拝借したものであった
日本で現在のインターネットにつながる活動のス
タートは,1984年10月のJ U N E Tの始まりにさかのぼ
が,日本で利用するにあたっていくつかの日本独自
の工夫を凝らしていた。
1)。JUNETは,UUCP(Unix-to-Unix
1984年というタイミングで日本においてインター
Copy Program)2)とよばれる仕組みを利用し,電話
ネットの基礎が産声をあげた背景には,1985年4月に
回線を経由してコンピューターからコンピューター
NTTが民営化されることから電話回線を通じてデータ
へバケツリレー式に情報を配送することで,電子メー
通信を実現するモデム装置が複数登場したというこ
ルとN e t N e w s2)と呼ばれる電子掲示板システムを実
とがある。しかし,実はより重要な理由があった。
ることができる
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vol.56 no.9
Journal of Information Processing and Management
December
それは,1984年8月に村井が,それまで学生として
じめていたパソコンで利用されているシフトJ I Sコー
所属していた慶應義塾大学(慶応大)を離れ,東京
ドを用いるかということが議論されたが,最終的に
工業大学(東工大)に就職したことである。村井は,
JISコードを用いることとなった。これはRFC
(Request
慶応大を離れたが,研究の仲間はまだ慶応大に残っ
for Comments)として公開されている3)。なお,JIS
ており,その間のコミュニケーションを円滑にする
コードを利用できるようにするためには,電子メー
必要があった。一方で村井が東工大に移ったことに
ル,N e t N e w sのプログラムだけでなく,さまざまな
より,研究の仲間は東工大へと広がった。こうした
ツールを改造する必要があった。当時JUNETに接続さ
メンバー同士のコミュニケーションを円滑にするた
れているコンピューターのほとんどがU N I Xで動作し
めに,東工大,慶応大双方に設置されていたU N I Xマ
ていたため,U N I Xの関連ソフトウェアの改造が進め
シンを接続したのが始まりである。この接続が行わ
られ,これらのノウハウが共有されることとなった。
れたのは1984年の9月であるが,「ネットワーク」と
続いて問題となったのが日本語の表示である。日
いうものは3つ以上のマシンがつながっているもので
本語,特に漢字が表示可能な端末装置を用意すれば
あるという考え方から,当時東京大学(東大)大型
よかったのであるが,それは高価でありどこでも利
計算機センターにいらした石田晴久先生の協力で東
用できるものではなかった。そこで,当時普及をは
大が接続された1984年10月をJ U N E Tの始まりとして
じめたX Window System4)に目を付け,端末ソフト
いる。なお,JUNETの命名は石田先生によるものであ
ウェア,漢字フォントを作成しネット上で共有すれ
る。
ばよいだろうということとなった。ただし,漢字フォ
さて,JUNETの展開にあたって最初の課題となった
ントは最低限必要な分だけでも6,000文字ほどになる
のが言葉の問題である。もともとUSENETで利用され
ため,漢字フォントを作成するエディタを作成して
ている技術であるため電子メールやN e t N e w sで利用
配布し,漢字フォントはJUNETに接続された組織で分
できる言葉は,英語であった。もう少し正確に言う
担して作ろうということとなった。この漢字フォン
とASCII文字列である。一方で裾野を広げるためには,
トエディタの作成を担当したのが,当時東工大の学
日本語が利用できることが好ましい。アルファベッ
生であった橘浩志氏であった。結局,漢字フォント
トを用いることが可能であるため,ローマ字で日本
エディタの作成過程でテストのための漢字フォント
語を表記するという試みもあったが,読みやすさと
が3,000文字ほどが完成したため,村井の指示で残り
いう観点から広く利用されるには至らなかった。な
3,000文字も橘氏が作成し,1987年にk14漢字フォン
おこの頃の慣習として,メール等のSubjectに本文が
トとして公開している。
どの言語で書かれているかを示すために(in English)
や(in Romaji)と記されていた。
日本語が利用できるようにするためには,次の3つ
の問題を解決しなければならなかった。
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同様に入力方法についても,京都大学,慶応大,
立石電機(現オムロン),アステック(現アールワー
クス)が共同で開発していたW n nというかな漢字変
換システムが1987年に登場し,これが普及していっ
・文字コード
た5)。しかし,このW n nの普及にも課題があった。
・文字フォント
それは,かな漢字変換のための辞書をどうやって準
・入力方法
備するかということである。W n nは当初ソフトウェ
文字コードは,日本語を表現するためには必要で
アそのものはオープンソースとして公開されたが,
あるが,どのコードを用いるかは議論を呼んだ。標
辞書は有償であった。そこで,利用者がW n nを利
準であるJ I Sコードを用いるか,当時すでに普及をは
用しながら辞書への登録を行い,それをみなで共有
WIDEプロジェクトの25年
することで実用に堪えうる辞書を作成しようという
2. WIDEプロジェクト前夜
p u b d i cプロジェクトが進められた。こうして実用性
のあるかな漢字変換辞書ができたのである。
WIDEプロジェクトのスタートは公式には1988年と
このようにJ U N E Tは,単に人々をつなぐだけでな
いっているが,W I D Eプロジェクトの基礎となる活動
く,現在のインターネットにつながる情報の共有や
は1986年頃から始まっている。J U N E Tにおいてもそ
協調作業,あるいはオープンソースといった考え方
うであったが,WIDEプロジェクトにおいてもUNIXオ
へつながっている。こうした新しい文化を日本へ根
ペレーティングシステム6) が重要な役割を果たして
付かせたのもJUNETの貢献の1つと言えるだろう。
いる。そこには,「コンピューターは人間が使う道具
もう1つJUNETが特徴的だったことがある。今や
「利
であり,人間が使いやすいように変わらなければな
用者ID@ドメイン名」というアドレスで電子メールが
らない」という村井の信念がある。U N I Xはライセン
届くのは常識であるが,当時のネットワークでは当
ス契約が必要であったが,当時のオペレーティング
たり前ではなかった。これは,USENETの仕組みに依
システムとしては珍しくソースコードが公開されて
存するものであるが,発信元となるコンピューター
おり,目的に応じて改変することが可能であった。
から,どのコンピューターを経由して,宛先となる
そのため,U N I Xはわれわれの活動の基礎となってい
コンピューターへたどり着くかを記述しなければな
た。特に,われわれは人間の行うことを支援する道
らなかった。しかし,これでは不便なため,JUNETで
具群を「環境」と呼び,プログラミング活動を支援
は早い時期に今のような形式でメールが届くように
する「プログラミング環境」
,
文書作成を支援する「文
していた。そのために,東大と東工大のコンピュー
書処理環境」,電子メールや普段のコンピューター上
ターに日本全国のコンピューターがどのように接続
での活動を支援する「生活環境」などという言葉を
されているのかというデータベースを格納し,その
使っていた。これらは,実際にはU N I X上のツール群
情報を元に電子メールを配送するという仕組みを導
を指しているのであるが,われわれの考え方を示す
入していた。接続は,東大のccut,東工大のtitccaと
言葉の1つであると考えている。W I D Eプロジェクト
いう2台のコンピューターを根とする木構造で管理さ
のWIDEもWidely Integrated Distributed Environment
れており,JUNET上のコンピューターから近くのコン
の略であるとしているが,この最後にもEnvironment
ピューターへは知っている情報を用いて配送を行い,
つまり「環境」という言葉が使われている。日本
わからない宛先のものは,ccutまたはtitccaへ送って
U N I Xユーザ会のメンバーを核として,われわれが必
宛先に配送していた。現在と異なり,東京から九州
要とする「次」の「環境」は何かを考える集まりが
や北海道へメールを発信すると,数日かかっていた
スタートしたのが1986年頃であり,これがWIDEプロ
が,コンピューターを用いたコミュニケーションと
ジェクトの骨格となっている。こうした議論の結果
して注目を集め仲間が増えていき,1987年には100組
として,単にネットワークを作るということが目的
織以上がJUNETに接続される状況になっていた。
ではなく,「世界中のコンピューター同士が接続され
JUNETは,技術の点でも現在のインターネットにつ
ながる重要なネットワークであったが,同時にネッ
ト文化の浸透,あるいは,それ以降のインターネッ
トに関わる人々や組織をつなぐ出会いの場となった
人間を支援する環境を作る」ことがW I D Eプロジェク
トの目標となった。
3. WIDEプロジェクト スタート
という点で重要なものであったと言えよう。
W I D Eプロジェクトをはじめるにあたって,まず必
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情報管理
JOHO KANRI
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vol.56 no.9
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Journal of Information Processing and Management
要であったことは,世界中のコンピューターがつな
Operation Center)という拠点を設置し,NOC同士を
がることである。1987年に村井は東大に異動してお
接続するバックボーンを構成するというもので,参
り,東大と東工大,慶応大を,今のインターネット
加組織は近傍のN O Cに接続することとなっていた。
と同じ技術,つまりインターネットプロトコルで接
最初のN O Cは,岩波書店一ツ橋別館に設置されたも
続することからスタートしようと考えた。当時は,
ので1989年9月に運用を開始している。このN O Cは
そのために必要な回線に月額数十万円かかったため
WNOC-TYO(WIDE NOC Tokyo)と呼ばれ,これにと
その費用をどのようにして集めるかが課題であっ
もなって直接接続されていた東大,東工大,慶応大
た。また,当然インターネットつまり米国への接続
もWNOC-TYOへの接続へと変更されている。1989年
も必要であったため,月額100万円規模の国際回線
11月には(財)京都高度技術研究所内にW N O C - K Y O
の費用の捻出も不可欠であった。積算した結果から,
(WNOC Kyoto)
,1990年3月に千里国際情報事業財団
10社ほどの企業に協力していただき,実際の接続を
内にWNOC-OSA(WNOC Osaka)
,1990年4月には慶
スタートさせることができた。
応大湘南藤沢キャンパス内にW N O C - S F Cが設置され
1988年7月の東大-東工大の64k b p sの回線を皮切
ている。図1に1991年4月のWIDE Internetの状況を示
りに,1989年1月64k b p sでの東大-慶応大(矢上)
しておく。
の回線,9.6k b p sでの東大-N S F(全米科学財団)の
国際接続については,ワシントンD.C. のNSF(全米
回線が開設されている(注:東大-NSFの回線は,当
科学財団)のオフィスへの接続が最初であるが,こ
時の学術情報センターの日米回線を借用したもので
れによってNSFNET7)経由でインターネットへの接続
あった)。W I D Eプロジェクトの開始を1988年として
を果たしている。しかし,NSFNETは米国の税金で運
いるのは,最初の東大-東工大の回線の開設が1988
用されているネットワークであり,こうしたネット
年であったためである。
ワークの利用にあたっては定められた利用方針に従
また,J U N E Tでの 反省を元 にネッ トワー ク の 構
わなければならないという取り決めがあった。これ
成を考えてW I D E I n t e r n e tの設計を行った。これは,
をAUP(Acceptable Use Policy)と呼び,当時はど
J U N E Tが草の根的につながったために,隣の組織
このネットワークであってもそれぞれで定めたA U P
を見つけ相互に接続するという形で展開していき,
に従った運用がなされていた。N S F N E TへのW I D E
ネットワークの構造が複雑になってしまったことに
Internet接続にあたって,NSFNETのAUPに反しないか
よるものである。WIDE Internetは,NOC(Network
という心配があった。そのことをNSFNETのDirector
US Internet
WNOC
WNOC
WNOC
WNOC
WNOC
Fujisawa
Tokyo
Kyoto
Osaka
Fukuoka
各組織
各組織
各組織
各組織
各組織
拠点をWIDE Network Operation Center (WNOC) と呼んでいる。 1991年4月の時点で, 東京, 藤沢, 京都, 大阪, 九州の
5拠点だった。 東京-藤沢間は192kbps, 他のWNOC間は64kbpsであった。 各拠点に各組織が接続される形式で, 米国への
回線はWNOC藤沢に接続されていた。
図1 WIDE Internet(1991年4月)
574
WIDEプロジェクトの25年
であったStephen Wolff氏に村井が質問したところ,
ネットの一翼を担うこととなったのである。
では許可書を書いてあげようと書いてくれたものが
1990年代に入ると,インターネットが注目され
図2の文書である。ここには「日本のIPコミュニティー
W I D Eプロジェクトも,インターネットへの接続を1
がNSFへのインターネットアクセスをすることを認め
つの目的とする参加組織が増えてくるようになって
る」と書かれている。
きた。しかし,インターネットへの接続性はW I D Eプ
しかし,9.6k b p sでの国際接続では不十分であり,
ロジェクトの役割の一部であり,こうした要請と研
WIDE Internetで国際回線を持つ検討が並行して進め
究活動を分離する必要性が生じた。そこで,技術移
られていた。これは,単に国際接続をW I D Eプロジェ
転を行い,インターネットへの接続をサービスとし
クトが持つということだけでなく,インターネット
て行う会社,つまりインターネットサービスプロバ
というグローバルなネットワークの一端を日本が担
イダ設立のための検討をこの頃にはじめている。わ
うということを意味していた。P A C C O M(P A C i f i c
れわれが関わった企業がこうしたサービスを開始す
COMmunication Networks)という日本,米国,オー
ることが望ましいと考えていたが,なかなか難しく
ストラリア,ニュージーランド,韓国,香港が参加
W I D Eプロジェクトのメンバーが設立したのが株式会
する研究プロジェクトのメンバーとなることであ
社インターネットイニシアティブである。しかしな
り,1989年8月に慶応大(矢上)とハワイ大学を結ぶ
がら,われわれ自身でインターネットを運用するこ
64k b p sの回線を設置することとなった。単につなが
とが重要な要素であり,「運用」と「研究」を両立さ
るだけでなく,プロジェクトのメンバーとして研究
せて活動することはスタート以来変わっていないポ
に参加することで,さまざまな点で日本がインター
リシーの1つである。
日本のIPコミュニティーがNSFへのインターネットアクセスすることを認めると書かれている。 WIDEだけでなく, 日本のIPコミュ
ニティーとしているところがポイントである。
図2 NSFNETへの接続を認めた書類
情報管理 vol. 56 no. 9 2013
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情報管理
JOHO KANRI
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vol.56 no.9
Journal of Information Processing and Management
December
4. WIDEプロジェクトの活動
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IPng(Internet Protocol Next Generation)を検討す
るグループが設置されたのである。ここから議論が
W I D Eプロジェクトで行われている活動は技術的な
スタートし1994年7月のIETFにおいて基本方針が決定
ものから社会的なものまで多岐にわたる。ここでは,
され1995年12月に最初のI P v6に関連するR F Cが発行
その一部を紹介したいと思う。なお,すべての成果
されている。I E T Fでの議論にもW I D Eプロジェクトの
は報告書として毎年作成されている。一般には1年遅
メンバーが参加していた。ネットワークの研究開発
れでホームページにおいて公開しているので,興味
において標準化という活動も重要であるが,I P v6に
をお持ちの向きは参照いただければと思う8)。また,
関わる一連の活動はW I D EプロジェクトがI E T Fという
W I D Eプロジェクトの20年の活動を書籍『日本でイン
場を用いて標準化活動にも深く関わるようになった
ターネットはどのように創られたのか? W I D Eプロ
きっかけであると言える。こうした背景の中で1995
ジェクト20年の挑戦の記録』9)にまとめている。こち
年8月に実施されたI P v6に関する合宿を経て1995年9
らも参考にしていただければと思う。なお,この書
月にW I D Eプロジェクト内にI P v6ワーキンググループ
籍のタイトル「日本『で』…」としているのは,イ
が設置され,IPv6の実装がスタートした。当初は,慶
ンターネットはグローバルなのであり,その研究開
応大の南正樹氏,奈良先端科学技術大学院大学の島
発と普及に日本がどのように関わってきたかの記録
慶一氏,株式会社日立製作所の渡部謙氏らがBSD/OS
であって,
「日本『の』インターネット…」ではない
上に実装した3つのコードがあり,これにソニーの
という村井の意思を示したものである。
尾上淳氏によるI P v6エミュレーターの実装が加わり,
W I D Eプロジェクト内でも複数の実装が存在した。し
4.1 Internet Protocol version 6
かし,別々に開発するのは非効率であることから,
現在インターネットで用いられている基幹プロト
1997年12月に全体でまとまって1つの実装を行う方針
コルはInternet Protocol version 4(IPv4)と呼ばれ
が立てられた。
この裏には村井の1つの思いがあった。
1981年に完成したものである10)。しかし,登場から
インターネットは,ただ単にインターネットで利
すでに30年以上が経過しており,さまざまな点で限
用される技術をRFCという文書で公開するだけでは簡
界を迎えている。特に,インターネットに接続され
単には普及しなかったと言われている。これらの文
るノード(正確にはインターフェース)の識別子と
書の公開にあわせて,カリフォルニア大学バークレー
して用いられるIPアドレスが枯渇し,これ以上のノー
校のCSRG(Computer Science Research Group)が
ドを受け入れることが難しくなってきている。こう
UNIXの1バージョンとして公開していたBSD
(Berkeley
した状況を見越して1992年から開発されてきたのが
Software Distribution)にインターネット関係の技術
Internet Protocol version 6(IPv6)である。
を実装した4.2B S Dを参照コードとして公開したこと
I P v6の開発はI n t e r n e t E n g i n e e r i n g Ta s k F o r c e
576
が,インターネットの普及に大きく貢献したと考え
(I E T F) に よ っ て 進 め ら れ て き た が, こ の 新 し い
られている。このことをよく理解していた村井が,
Internet Protocolの開発を行うと決めた地が日本で
W I D Eプロジェクトで進められているI P v6の実装を
あることは意外と知られていない。W I D Eプロジェ
オープンソースで公開することで,IPv6の参照コード
クトは,1992年6月に当時できたばかりのI n t e r n e t
を作ることが必要であると考えたのである。そこで,
11)の第1回の国際会
S o c i e t y(インターネット学会)
各組織に分散してI P v6の実装を行っていたエンジニ
議i N E T’ 92を神戸でホストした。実は,この場で次
アを慶応大の湘南藤沢キャンパスのそばに借りたオ
のInternet Protocolを開発することが決められIETFに
フィスに集結しIPv6の実装に専念させたのである。こ
WIDEプロジェクトの25年
れがKAMEプロジェクトである。後に,IPv6の相互接
初に新年を迎えるため,そこで問題が生じたらそれ
続性検証ツールを開発したTAHIプロジェクト,Linux
を解析し他のr o o t D N Sサーバーの管理者に伝えると
上のI P v6の参照コードを実装するU S A G Iプロジェク
いう使命を担ったわけである。実際には大きな問題
トへと展開していく。これらの成果は,それぞれ
もなく新年を迎えたのであるが,新年の時報を聞い
FreeBSDやNetBSD,OpenBSDなどBSD系OSのメイン
てしばらくは手に汗を握ったものである。
ストリーム,L i n u xカーネルへマージされ初期の目的
を達成したため各プロジェクトを完了させている。
現在は,anycastと呼ばれる技術を用いており,M
Root DNSも日本国内だけでなくソウル,パリ,サン
あまり知られていないがApple社のMacで利用され
フランシスコで運用されている。また,
WIDEプロジェ
ているMacOS XにもIPv6のプロトコルスタックが実装
クトだけでなく日本レジストリサービスとともに運
されているが,これもKAMEプロジェクトの成果が導
用を行っているが,インターネットにおける重責を
入されている。
担っていることにはかわりはない。
4.2 M Root DNS
4.3 境界領域との連携
12)
Domain Name System(DNS)
は,人間が記憶
4.3.1 教育と衛星通信
しやすいwww.wide.ad.jpのようなドメイン名を,コ
W I D Eプロジェクト開始当初からずっと携わってい
ンピューターが用いる数字による識別子IPアドレスに
る研究テーマとしてマルチキャストという技術があ
変換する役割を担う仕組みである。メールの配送を
る。要するに,1つのソースから多くの組織へ同じ情
含めて,D N Sはインターネットの根幹を成すシステ
報を送り届ける技術であるが,この技術を活用し大
ムだと言える。D N Sは木構造でデータベースを管理
きく展開した応用が1つある。それがインターネット
しているが,その最も根本にあたるサーバーがr o o t
を利用した教育である。1対多の通信は,
ローカルネッ
DNSサーバーである。当然,木構造の根本にあたるの
トワークでは容易に実現できるが,広域で実現するこ
でこのr o o t D N Sサーバーが停止するとインターネッ
とは困難である。このような1対多の通信を広域で実
トは停止すると言っても過言ではない。しかしなが
現できる仕組みとして衛星通信があるが一方向通信
ら,D N Sで利用されるパケット形式とU D Pのパケッ
であり,端末からの応答を受け取ることが難しい。そ
トサイズの制約からroot DNSサーバーは1か所にしか
こで,送出側が衛星通信を用い,応答側は地上のイ
設置することができなかった。このほとんどが米国
ンターネット回線を用いるという通信方式を開発し
に設置されており,なんらかの要因で米国のインター
た。この方式はUDLR(Uni Directional Link Routing)
ネットが切り離されるとアジア等ではインターネッ
と呼ばれR F Cとして公開されている13)。こうした技
トが利用できなくなるという事態が発生することに
術開発と並行して,インターネットの1つの応用とし
なる。こうした事態を避けるためアジア地区にr o o t
て高等教育に用いることができないかという検討が
DNSサーバーを設置したいということとなった。
1997年からW I D Eプロジェクト内で始まっている。今
こうした要請を受け,1997年8月にW I D Eプロジェ
で言うところのe-ラーニングであるが,これと衛星通
クトがM Root DNSサーバーの運用を開始した。イン
信が組み合わせられ大きく展開をはじめる。日本サ
ターネットにおける重責を担っていることを実感し
テライトシステムズ(現スカパー JSAT)の協力を得,
た一件である。特に,1999年の大晦日から2000年の
日本だけでなくアジア各国にフットプリントを持つ
元日には,Y2K問題に対応するため泊まり込みの体制
通信回線を利用できるようになったことから,アジア
でシステムの監視を行った。時差の関係で日本が最
各国の大学と連携し教育を実施することとなった。
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授業を発信する大学からマルチキャストで高画質な
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ニケーションを支援するというわけである。
ビデオストリームを配信し,学生からの質問等をイ
しかし,ただ自動車内でインターネットを利用す
ンターネット回線から受けるといった運用をしなが
るだけでは,自動車を活用しているとは言い切れな
ら,
さまざまな教育や国際会議を実施してきた。特に,
い。自動車をよく調べてみるとさまざまなセンサー
2011年11月に実施したUNESCOのJakarta & CONNECT-
が搭載されている。こうした情報を収集することで
A s i aという会議では,2,592名の参加者を得,世界で
有益な情報を生成できるのではないかと考えたので
最も大きなオンラインの環境会議ということでギネ
ある。例えば,自動車の位置情報と速度情報を収集
ス記録の認定を受けている14)。
すると渋滞情報を生成することが可能である。また,
また,2004年末に発生したスマトラ沖地震におい
位置情報とワイパーの動作状況を収集すると降雨情
て壊滅的な打撃を受けたインドネシア・アチェ州の
報を生成することが可能になる。今で言うところの
シアクアラ大学を支援するため,遠隔講義環境を整
センサーネットワークであるが,これを移動する自
えている。
動車から収集するというわけである。1996年にはイ
W I D Eプロジェクトの25年の中では国内においても
ンターネット自動車ワーキンググループをW I D Eプロ
2度の震災を経験している。1995年の阪神淡路大震災
ジェクト内に設置し実験を始めた。当初は,自動車
の際には,震災時には大きな貢献はできていないが,
業界にはその有効性が理解してもらえなかったが,
こうした震災発生時にインターネットがやるべきこ
少しずつ協力者を得ながら個人の自動車での実験を
とを考え,2001年までインターネット防災訓練を実
繰り返していくうちに,2001年には横浜と名古屋で
施している。1996年には,実際にネットワークを遮
実証実験を実施することができた。名古屋の実証実
断し,衛星回線でバックアップするという訓練を行っ
験では1,680台のタクシーに装置を搭載し情報を収集
ている。また,生存者の情報をいち早く収集するた
する実験を行っている(図3参照)。こうした成果も,
めの仕組みの開発と訓練を行っている。こうした成
自動車各社の通信カーナビゲーションサービスへと
果は,2011年の東日本大震災にはさまざまな形で引
展開されている。
き継がれ実施された。また,東日本大震災の際には,
衛星回線とコンパクトなルーター機器を用いて,被
5. おわりに:これから
災地の避難所にインターネットを敷設するという支
援を行った。
現在,W I D Eプロジェクトはこれまで継続してきた
研究,特にIPv6の普及展開に関わる活動に加え,ビル
4.3.2 自動車とモビリティ
578
オートメーションへの展開やセンサーネットワーク
W I D Eプロジェクト初期から進められている研究に
技術,クラウド技術,ビッグデータ技術など新しい
モビリティに関するものがある。コンピューターの
研究開発へ展開していっている。特に,クラウド技
小型化と携帯電話の進化,無線L A Nの普及と並行し
術が実現する環境は,W I D Eプロジェクト開始当初わ
て,どこでもインターネットを利用したいという欲
れわれが目指した「環境」を構築するための基盤技
求が強くなってきた。しかし,当時のノートPCはバッ
術であると考えている。当初WIDE Internetとしてわ
テリーの持続時間が短く,電源の確保という問題が
れわれ自身でインターネットを運用したように,現
あった。そこで,注目したのが自動車である。自動
在WIDE Cloudと称してわれわれの活動基盤を運用し
車には,バッテリーが搭載され発電能力がある。人
ている。クラウドというと1か所にサーバーを集約し
間のモビリティを支援する自動車が,人間のコミュ
それを共有するという形態をイメージするが,われ
WIDEプロジェクトの25年
図3 InternetITS実証実験の成果(渋滞情報)
われの考える「環境」は地球を覆うコンピューター
構成し活用するということを進めてきた。ビッグデー
とそれをつなぐネットワークである。そのため複数
タが近年注目されるようになったのは,こうしたデー
の拠点に置いたサーバーを全体で共有するという構
タの共有と活用の基盤としてインターネットが重要
成になっている。サーバー群を設置する拠点は,複
な役割を果たすことを示していると考えている。わ
数の参加組織に置かれ地理的に分散している。その
れわれはすでに情報を共有し活用する仕組みを実現
ひっ
ため,例えば2011年の夏に関東地区の電力供給が逼
してきているが,さらにこれを進めさまざまな人間
迫した際に,WIDE Cloudを用いてサーバー機能を関
の活動を示すデータを共有し活用する試みをスター
西地区に移動させ稼働させたという実績がある。同
トさせている。例えば,年2回実施している合宿にお
様に2012年の夏には関西地区の電力供給が逼迫した
いて参加者の行動について「位置情報」や「トラフィッ
ためサーバー機能を関東地区に移動させていた。こ
ク」などさまざまな情報を収集し,それを自由に使
のようにWIDE Cloudはわれわれの新しい情報基盤に
うことで面白いことを見いだすチャレンジを実施し
なってきている。同時に,こうした形態のクラウド
ている。当然,こうした情報にはパーソナル情報が
を運用する際に必要な技術開発を進めており,地理
含まれているが,W I D Eプロジェクトがスタート当初
的分散を意識しないで済む計算機環境の構築を進め
から決めている「秘密は外には漏らさない,有益な
ている。
ことはみなで共有する」というルールを活用し,ま
もう1つの大きな話題はビッグデータである。イン
ずはデータの活用に挑戦しようということになって
ターネット自動車の研究を含めて,W I D Eプロジェク
いる。今後,こうした仕組みを社会に展開するには,
トはすべてのものをインターネットに接続し,それ
どうやってこうしたパーソナル情報の利用許諾を得
らが生み出す情報を共有し,そこから有益な情報を
るかという課題があり,そのようなテーマにも取り
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組んでいる。
さらに,W I D Eプロジェクトは当初から自分たちで
使うものは自分たちで作るということに取り組んで
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なっている。ある種の原点回帰であるが,高性能ルー
ターやサーバー装置をこのような手法を使って組み
立て利用することを行っている。
きた。インターネットの進展にともなって,さまざ
W I D Eプロジェクトの担う役割は少しずつ変わって
まな場面で製品を活用するようになってきている。
きている。特に,単に技術だけでなく,政策や法律
しかしながら,さまざまな挑戦のためには,自分た
といった社会に対する責任にも関わるようになって
ちで作った道具を活用することも重要である。近年
きた。しかし,われわれが持つ基本的な考え方は同
さまざまなパーツが容易に入手できるようになり,
じであり,今後も止まることなく次のより高いレベ
こうしたパーツを組み合わせることでわれわれ自身
ルの「環境」を構築するために活動を進めていく予
でも比較的高性能の装置を組み立てることが可能と
定である。次の5年に期待していただきたい。
参考文献
1) Kato, Akira; Murai, Jun. "Researches in Network Development of JUNET", SIGCOMM, ACM, 1987.
2) Dougherty, Dale; Todino, Grace. Using UUCP and Usenet: Nutshell Handbooks, 4th Ed, O'Reilly Media,
1991.
3) Murai, J; Crispin, M; E. van der Poel. Japanese Character Encoding for Internet Messages, RFC1468, June
1993.
4) Mui, Linda; Pearce, Eric. X Window System Volume 8: X Window System Administrator's Guide for X11
Release 4 and Release 5, 3rd edition O'Reilly and Associates, July 1993.
5) Hagiya, Masami; Hattori, Takashi; Morishima, Akitoshi; Nakajima, Reiji; Niide, Naoyuki; Sakuragawa, Takashi;
Suzuki, Takashi; Tsuiki, Hideki; Yuasa, Taichi. Overview of GMW+Wnn System. Advances in Software
Science and Technology. Dec. 1989, vol. 1, p. 133-156.
6) Ritchie, M. D.; Thompson, K. "The UNIX Time-Sharing System". Bell System Tech. J. (USA: American Tel. &
Tel.) July 1978. 57 no. 6, 1905–1929.
7) NSFNET: A Partnership for High-Speed Networking, 1995.
8) WIDE プロジェクト, “WIDE プロジェクト研究報告書” , http://www.wide.ad.jp/project/document-j.html.
9) WIDE プロジェクト編著, 村井純監修. 日本でインターネットはどのように創られたのか? WIDEプロジェ
クト20年の挑戦の記録. インプレスR&D, 2009.
10) J. Postel, Internet Protocol, RFC791, September 1981.
11) Internet Society, http://www.isoc.org/, (accessed 2013-11-06).
12) Liu, Cricket; Albitz, Paul. DNS and BIND, 5th Edition, O'Reilly Media, June 2006.
13) Duros, E; Dabbous, W; Izumiyama, H; Fujii, N; Zhang, Y. A Link-Layer Tunneling Mechanism for
Unidirectional Links, RFC3077, Mar. 2001.
14) UNESCO, "CONNECTivity Event Update: Videos And Guinness World Record", Mar. 26, 2012, http://portal.
unesco.org/geography/en/ev.php-URL_ID=15367&URL_DO=DO_TOPIC&URL_SECTION=201.html,
(accessed 2013-11-06).
580
WIDEプロジェクトの25年
Author Abstract
In October 1984, UNIX systems in Tokyo Institute of Technology, Keio University and The University of Tokyo
were connected with a telephone line network. JUNET provides only E-mail and NetNews services, but it builds
communities of network researchers. WIDE Project was one of those groups. WIDE Project is a community of
network reseachers of aiming to develop the next-generation computing environments. In the project, we
worked on the development of Internet Protocol version 6 (IPv6) and other challenges to lead the advance
global Internet. This article overviews the history, achievements and future prospects of WIDE project.
Key words
The Internet, WIDE Project, JUNET, UNIX, Standardization, End-to-End, root DNS, Wnn
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農林水産研究情報総合センターのサービス
の継承と現在
APIの提供を中心に
The succession and the present of Agriculture, Forestry and Fisheries Research
Information Technology Center
Mainly on the providing API
林 賢紀1
HAYASHI Takanori1
1 農林水産省農林水産技術会議事務局筑波事務所研究情報課(農林水産研究情報総合センター)(〒305-8601 茨城県つくば
市観音台2-1-9)Tel: 029-838-7283 E-mail: [email protected]
1 Research Information Division, Tsukuba Office, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat, Ministry
of Agriculture, Forestry and Fisheries (Agriculture, Forestry and Fisheries Research Information Technology Center) (2-1-9
Kannon-dai Tsukuba-shi, Ibaraki 305-8601)
原稿受理(2013-10-01)
情報管理 56(9), 582-591, doi: 10.1241/johokanri.56.582 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.582)
著者抄録
農林水産研究情報総合センターでは各種の A P I を活用した図書館サービスを 2003 年から展開してきた。本稿では,
A P I 導入の目的と運用,またその効果について紹介する。A P I 導入後,農林水産関係試験研究機関総合目録の 2012 年
の検索回数を分析したところ,API を経由した検索回数は通常の OPAC での検索回数と比較して 2 倍以上であったなど,
利用の増加があった。また,2013 年 3 月に行ったシステム更新においては,国立国会図書館ダブリンコアメタデータ
記述(DC-NDL)での出力に対応するなど,Linked Open Data(LOD)への対応に向けた改善を図った。
キーワード
農林水産関係試験研究機関総合目録,AgriKnowledge,OPAC,図書館システム,API,RSS,OpenSearch,SRU,OAIPMH,Linked Open Data
1. はじめに
ベースによる情報提供を行っている。データベース
による情報提供にあたっては,W e bによる検索サー
農林水産省農林水産研究情報総合センター(以下,
「情報総合センター」という)では,農林水産分野に
関する国内外の研究情報を迅速かつ的確に収集・提
供することを目的に,関係分野の文献収集とデータ
582
ビスのほか,R S Sなど機械可読に適した形式で各種の
API(Application Programming Interface)を経由し
て検索やメタデータの提供を行っている。
本稿では,情報総合センターにおけるデータベース
農林水産研究情報総合センターのサービスの継承と現在
による情報提供の現状,特にA P I導入の目的と効果な
どについて紹介するほか,
今後の展望について述べる。
2. 農林水産研究情報総合センターのサー
ビス
2.2 API導入の目的
総合目録およびAgriKnowledgeではAPIを実装し,
X M L等でのデータ出力に対応しているが,この理由
について述べる。
1つは横断検索への対応である。情報総合センター
において2004年に横断検索システム,M e t a L i bを導
2.1 サービスの概要
入しており,このシステムへの対応にA P Iの利用が必
情報総合センターでは,従来より農林水産研究総
要となった。併せて,横断検索のための一般的なプ
合ポータルサイト「AGROPEDIA(アグロペディア)
」
ロトコルに対応することで,外部のシステム,サー
を開設し,農林水産省が所管する試験研究機関およ
ビスとの連携を可能とし,保有するデータベースの
び試験研究を業務とする独立行政法人の52の研究拠
利用機会を増やすことが目的である。この結果,国
点図書室の総合目録である農林水産関係試験研究機
立国会図書館が提供する国立国会図書館サーチとは,
関総合目録(以下,「総合目録」という)のほか,農
その前身である国立国会図書館デジタルアーカイブ
林水産関係の研究課題,研究成果情報,全文を含む
ポータル(P O R TA)を含め2008年から横断検索によ
研究論文など,
「現在どのような研究が行われ,どの
る連携を実現している。
ような成果が出ているか」までを網羅する総合的な
もう1つはデータそのものの提供である。情報総合
情報サービスを提供している。2012年には,これら
センターにおいては2003年から図書・雑誌の新着受
のコンテンツや外部の情報も含めて効率的に迅速に
入情報をR S Sにより配信しているが,このR S Sをベー
アクセスできるように,検索機能を強化した統合検
スに機械可読形式で記述した書誌情報を配信し特定
索ツールAgriKnowledge(http://agriknowledge.affrc.
のインターフェースに依存しない情報提供と利活用
go.jp/)の提供を開始した。提供しているデータベー
を行う「OPAC2.0」を2006年に提唱した1)。
スとその概要を表1に示す。AgriKnowledgeにおいて
この後,2008年にはOpenSearchなど他のAPIの実
は特に,これまで個別の検索インターフェースで提
装とMARCXML注1)による書誌データの提供を開始す
供されていたデータベースを統合することで利便性
るなど,横断検索だけでなくメタデータそのものが提
の向上を図っている。また,総合目録と同様にA P Iを
供可能な基盤の整備を行った。例えばAgriKnowledge
付加することで,外部からの横断検索のほかメタデー
に お い て は, 日 本 農 学 文 献 記 事 索 引(J a p a n e s e
タ提供を円滑に行うことを可能としている。
Agricultural Sciences Index: JASI)のうち全文へのリ
表1 AgriKnowledge提供データベース
JASI (日本農学文献記事索引)
国内で毎年発行される農林水産関係の学術雑誌約 500 誌に掲載された論文等の書誌情報を収録。
AGROLib
試験研究機関研究報告,公立試験研究機関報告等,大学研究報告等,学 ・ 協会誌などで,電子化と
掲載の許諾を得られた全文情報。
研究課題データベース
農林水産関係独立行政法人等試験研究機関において実施されている研究課題の情報。
研究業績データベース
農林水産関係独立行政法人等試験研究機関において実施されている研究業績の情報。
研究成果情報
農林認定品種データベース
ビデオライブラリー
農機具データベース
農林水産関係独立行政法人等試験研究機関の新たに得られた知見や開発された技術をまとめたデータ
ベース。
試験研究機関が育成した農作物で,その特性が優良なものについて農林水産省の新品種として決定し,
普及に資するために認定された品種のうち,昭和 4 年(1929 年)以降に登録された品種を画像と共に公開。
農林水産関係独立行政法人等試験研究機関の研究内容や成果等のビデオ映像。
「農林業技術発達関係資料調査収集事業」で収集した明治時代から 100 年余りの間に使用された農具類,
民具類の写真を解説,約 3,800 点のデータベース。
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ンクがあるメタデータをO A I - P M Hにより出力し,国
に総合目録で提供しているA P Iの一覧をまとめた。ま
立情報学研究所が提供する論文検索サービス,C i N i i
た,A P Iそれぞれの利用イメージを図1に示す。出力す
に提供している2)。CiNiiでは,取得したJASIのメタデー
るデータ形式については,2013年3月のシステム更新
タから全文へのリンクを抽出して,蓄積されている
の際に見直しを行い,CiNii Booksに準拠したRDF注2),
文献のメタデータに新たに付け加える。これにより,
junii2注3),国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記
CiNiiで検索した論文の全文がAgriKnowledgeで公開
述(DC-NDL)注4)の3種のメタデータスキーマを追加し
されている場合は,JASIのリンクを表示することがで
た。また,より可用性を高めるため,X MLより軽量な
きる。このように,メタデータを提供し共用できる
記述形式であるJSON(JavaScript Object Notation)注5)
基盤の構築により,AgriKnowledgeの利用だけでな
での出力を追加した。
く,国内有数の論文検索サービスであるC i N i iからの
全文到達率の向上にも寄与し,国内発の学術情報の
利用環境そのものを向上させる効果を生んでいる。
3.2 RSS
2003年よりRSSによる新着情報の提供を開始した。
当初は,総合目録に新たに受け入れた図書および雑
3. これまでに提供したAPIとその利用
誌を52の図書館ごとに提供するR S Sに加え,農林水
産政策研究所および農林水産省が所管する6つの独立
3.1 概要
行政法人のW e bサイトの新着情報ページを毎日取得
本章では,これまでに情報総合センターで提供し
してR S Sを自動生成して配信するサービスを提供して
てきたA P Iの概要と利用の様態について述べる。表2
いた。また,これらを取りまとめ,「M A F F I N N e w s
表2 情報総合センターでシステムに導入したAPI
主な用途
更新情報の提供
検索インターフェース
名称
RSS
OpenSearch
SRU/SRW
584
メタデータ提供
OAI-PMH
状態情報の通知
NCIP
想定される利用法
データ形式
HTML
RSS1.0
Web ブラウザ,RSS リーダを使
RSS2.0 (2013 年 2 月まで)
用して更新情報を自動受信する
MARCXML (2013 年 2 月まで)
MODS (2013 年 2 月まで)
HTML
RSS1.0
MARCXML
(以下は 2013 年 2 月まで対応)
MODS
Web ブラウザの検索窓から直接
RSS2.0
データベースを検索
(以下は 2013 年 3 月から対応)
横断検索サービスの構築
ATOM
DC-NDL
junii2
RDF (CiNii Books 準拠)
JSON
横断検索サービスの構築
MARCXML
oai_dc
MARCXML
(以下は 2013 年 2 月まで対応)
メタデータを統合した検索サービ MODS
スの提供
(以下は 2013 年 3 月から対応)
DC-NDL
junii2
RDF (CiNii Books 準拠)
図書館システムから検索サービ
XML
スへ資料の状態を送信
農林水産研究情報総合センターのサービスの継承と現在
た結果を示す。上位に書誌名と思われるキーワードが
RSS
見られることから,特定のタイトルを検索した結果と
RSSによる新着情報の
送信
して総合目録の書誌情報が表示され,アクセスに繋
Webサイト
OpenSearch, SRU/SRW
がったものと考えられる。このようなGoogleからのア
検索の都度、要求と
結果を送受信
複数のデータベース
の検索結果を統合
検索サービス
クセスは全体の20%を占めた。なお,2013年5月時点
では,2013年3月のシステムの更新と仕様変更に伴い,
データベース
ロボットによるアクセスを停止しているためG o o g l e
OAI-PMH
定期的にメタデータ
を取得
検索サービス
あらかじめメタデータ
を送信、検索サービ
ス側で統合して提供
データベース
図1 APIの利用イメージ
経由でのアクセスは5%以下となっている(図3)
。
3.3 OpenSearch
外部からの横断検索に対応できる検索インター
F e e d C e n t e r」として一覧表示するW e bページを公
フェースの1つとして,2006年よりOpenSearchの提
開した3)。現在は各W e bサイトで独自にR S Sの提供を
供を開始した。
行っているため,情報総合センターでのR S S自動生成
は行っていない。
OpenSearchは2005年にAmazon.comの子会社A9に
よって開発,公開された検索エンジンへの標準的な
R S Sは主としてW e bサイトの更新情報出力向けに開
アクセス方法の1つで,横断的な検索にも対応してい
発された機能であるが,情報総合センターにおいては
る。現在は,http://www.opensearch.org/で最新版で
更新情報に加えて書誌情報の出力にも使用した。2008
年から2013年2月までの間はMARCXML,MODS注6)で
の出力にも対応させ,RSSをコンテナとしてMARCXML
などで記述された詳細な書誌情報を埋め込んで配信を
タイトルと思われる語を検索し
OPACにアクセス
行った。
同様のサービスは国立国会図書館でも行われてい
る。国立国会図書館サーチを経由して「新着書誌情
報(作成中書誌)」および「全国書誌(作成完了書誌)
」
の2種がR S S2.0にD C - N D Lを加えた記述で配信されて
いる。
図2 Google検索キーワード集計結果(2012年5月)
R S Sについては,当初は研究者など利用者が自機関
図書室の新着資料を迅速に把握できることを想定して
導入したが,アクセスログを解析したところ,R S Sへ
のアクセスのうち70%以上がG o o g l eなどの検索エン
ジンのロボットからのアクセスであった。このことか
ら,GoogleなどのロボットがRSS経由で書誌情報を収
集し,検索サイトからも目録検索が行えるようになっ
たことがR S Sによる新着の書誌情報配信の効果の1つ
として挙げられる。図2にGoogleからどのようなキー
ワードで検索して総合目録へアクセスしたかを集計し
旧システム
現システム
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
2012年5月
その他+参照なし
2013年5月
Google経由
図3 農林水産関係試験研究機関総合目録 アクセス元割合の比較
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あるOpenSearch1.1(Draft5)がクリエイティブ・コ
としてz39.50がW e bの登場以前から多くのシステム
モンズ・ライセンス下でA9によりライセンスされて
で用いられてきた。このz39.50の後継と言えるのが
いる。このバージョン1.1からはRSSに加えHTMLで検
SRU/SRW(Search/Retrieve via URL/Search/Retrieve
索結果を返すことが仕様に加わり,これを基に横断
Web Service)である。いずれもHTTP上で検索と結果
検索だけでなくW e bブラウザの検索バーにも対応し
の取得を行うもので,SRUはREST注7)に基づき検索要
た。これにより,例えばAmazonであればWebサイト
求をURLで送信し,SRWはSOAP注8)を使用してXML
を表示せずともW e bブラウザ上で検索を実行するこ
で検索要求を送信するなど,検索時の通信に使用す
とができる。Internet Explorer,Firefox,Chromeと
るプロトコルが異なる。
よく使われるW e bブラウザのいずれにも対応してお
情報総合センターにおいても,2004年に導入した
り,OpenSearchに対応した検索プラグインをインス
横断検索システムM e t a L i b(E x L i b r i s社製)からの
トールすることも容易である。G o o g l eなどの検索エ
S R Uによる検索に対応することを主目的として,総
ンジンのほか,国立国会図書館サーチ,CiNii Articles
合目録に導入した。導入後は,外部からの横断検索
およびCiNii Books,JSTORなど図書館関連の検索サー
の対応への利用を期待したが,MetaLib以外のサービ
ビスでも多く利用されている。
スからの横断検索にはこれまで使用されていない。
「検索要求に対してR S Sで検索結果を返す」こと
特にSRWについての使用実績はない。OpenSearchと
が基本仕様であるため実装も比較的容易で,情報
比較すると,S R U / S R Wによるインターフェースを提
総合センターにおいては横断検索向けのみならず,
供している検索サービスは決して多くない。また検
「W e bブラウザから総合目録を直接検索する手段」
索機能そのものにはS R U / S R Wに機能面で優位性があ
4)
として活用した 。また,国立国会図書館デジタル
るものの,P O R T Aとの連携時にこの2つをインター
アーカイブポータル(P O R TA)はその開発当初から
フェースとして国立国会図書館に提示したところ
OpenSearchに対応した検索サービスを連携対象とし
OpenSearchが選択されている。これらの点から,実
ており,情報総合センターは2008年から横断検索に
装にあたっての容易さなどの違いから普及や利用に
よる連携を開始した。P O R TAでは総合目録が横断検
差があるのではないかと考えられる。
索される仕様となっていたため,検索回数は月間で
160万回を超えることもあった。PORTAの後継である
国立国会図書館サーチの横断検索対象が利用者によ
3.5 OAI-PMH
OAI-PMH(Open Archives Initiative Protocol for
る個別選択式になってからは,月間で20万~ 40万回
程度のアクセスを得ている。これはA P Iを経由しない
通常の検索インターフェースからの検索回数と比較
して2倍近い回数となっている(図4)。
AgriKnowledgeにおいてもOpenSearchによる検索
インターフェースを提供しており,検索パラメーター
に拡張を施すことで,データベースの指定やタイト
ルや著者のAND検索も行うことができる。
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
OPAC検索回数
3.4 SRU/SRW
図書館の世界においては,横断検索用プロトコル
586
OpenSearchなどAPIアクセス回数
RSSアクセス回数
図4 農林水産関係試験研究機関総合目録
インターフェース別アクセス割合
農林水産研究情報総合センターのサービスの継承と現在
Metadata Harvesting)は機関リポジトリ等において
ら必要なときに確認する試行を行った。所蔵状態の
メタデータを「刈り取る」(Harvesting)ためのプロ
確認(item lookup)のみの実装であったが,ディス
トコルで,主としてメタデータの収集のために利用
カバリサービス注10) など検索インターフェースと蔵
される。情報総合センターにおいては,総合目録に
書の物理的な管理システムとを分割してサービスを
は2008年から,AgriKnowledgeには2011年からそれ
運用する際の課題抽出を有効に行うことができた。
ぞれ導入している。
総合目録へは,O P A Cを超えた新たな検索サービ
4. 構築したAPIの見直しと再構築
スを検討するため,書誌のメタデータを図書館シス
テムから標準的な手法で出力する手段として導入し
4.1 これまでの経過と反省
た。翌2009年からこの機能を利用して出力した書誌
前章で述べたとおり,複数年にわたり多様なA P Iを
情報を,オープンソースのディスカバリサービス用
導入し運用を行った。この間,有効かつ多様なサー
注9)の試験に利用
ソフトウェア,eXtensible Catalog
ビス展開が行えたことはもちろん,A P Iそのものの有
している。AgriKnowledgeでは,この経験や国立情
効性の検証や,将来へ向けての試行を行うことがで
報学研究所,国立国会図書館等の動向を踏まえ,JASI
きた。
(日本農学文献記事索引)などのデータベースのメタ
情報総合センターにおいてこれらのA P Iの実装と運
データ出力により,他所での利用を可能とするため
用,またサービス提供を可能としたのは,総合目録,
にO A I - P M Hを使用している。この機能により,前述
AgriKnowledgeともに市販のパッケージシステムを
のとおりCiNii ArticlesやJ-GLOBALへ全文リンクつき
使用せず,オリジナルで構築したシステムであった
のメタデータを提供し,国内の学術情報流通環境の
ことも要因である。総合目録については,基盤とな
向上に貢献している。
る図書資料管理システムを1996年に導入して以来,
そ の ほ か に 情 報 総 合 セ ン タ ー 内 部 で は,
2013年2月 末 ま で16年 間 の 間 に3回 の 更 新 を 行 っ た
AgriKnowledge上でのJASIのメタデータ入力作業時
が,一貫して同一のシステムベンダーによる独自構
に,総合目録上の雑誌書誌データをO A I - P M Hであら
築のシステムで運用を続けてきた。AgriKnowledge
かじめ収集し,雑誌名,責任表示,出版者などの書
についても,前身となるシステムのときから同様の
誌情報を流用することで,入力量の低減など作業の
経過をたどっている。
効率化を図っている。
いずれも,独自に開発したシステムであったため,
A P Iを含め業務や利用から生じた要望に即した機能
3.6 NCIP
開発を随時行うことができるなどのメリットがあっ
NCIP(NISO Circulation Interchange Protocol: NISO
た。その一方で,新たな機能の追加に伴う不具合の
39. 83)は図書館システムなどの間で貸出・ILL(図書
発生などが課題であった。さらに,予算と運用スタッ
館間相互貸借)に関するデータを交換するためのプ
フの減少から,独自のシステムを維持し続けること
ロトコルで,システム間で在架・貸出中など資料の状
は困難になりつつあった。また,標準的なA P Iの提供
態や予約リクエストの送信などを行うことができる。
など先端的な機能を有しているものの,他に同じシ
情報総合センターにおいては,変化の少ない書誌
ステムを導入しているユーザーが存在しないため市
および所蔵情報のみをeXtensible Catalogを使用して
販の図書館システムへの普及は遅く,新規の機能開
検索インターフェース側で保持し,常に変化が予想
発に対して投資を行った効果が得られたのか,また
される所蔵状態をこのN C I Pにより図書館システムか
A P Iの導入が一般的な図書館サービスという観点から
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2013
vol.56 no.9
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適切であったのかどうか,客観的に把握することは
いる。これまでの利用実績と今後の活用の可能性を
できなかった。
検討した結果,S R Uのみを継続し,利用のなかった
しかし,大学図書館におけるディスカバリサービ
SRWは提供を中止することとした。AgriKnowledge
スの急速な普及に伴い,既存の図書館システムで管
については,設計の当初からSRU/SRWの実装を見送っ
理されていた書誌情報を出力しディスカバリサービ
ている。
スに統合する必要性から,OAI-PMHやNCIPなどのAPI
総合目録と国立国会図書館サーチとの連携につい
を図書館システムに標準で提供する動きが見られる
ては,検索の効率や書誌同定などの利便性を考慮し
など,図書館システムでのA P I導入がようやく始まっ
てOpenSearchによる横断検索からOAI-PMHでのメ
た印象がある。
タデータ提供に切り替えるべく準備を進めている。
このような状況から,2013年3月のシステム更新に
このようなメタデータを集約したサービスに対応
向けた仕様策定にあたっては,独自システムでのデ
すべく,出力するメタデータ形式についてもj u n i i2
メリットを排するほか,情報総合センターがこれま
やD C - N D Lなど,より汎用性の高いものとした。ま
で蓄積した技術を継承すること,特に一般的な図書
た,2013年3月のシステム更新で導入したディスカ
館システムへのA P Iの普及を念頭に置き,市販の図書
バリサービス,P r i m oへの書誌データの登載を考慮
館システムを中心に構築する方針で検討を進めた。
し,MARCXMLでの出力機能も継続して有している。
Primoと図書館システムの間はNCIPで連携し,貸出中・
4.2. システムの更新とAPIの普及へ向けた再構築
2012年8月に行った入札の結果,リンクリゾルバな
可能としている。
ど関連のシステムを含めた全体の設計と取りまとめ
試行を行っていたe X t e n s i b l e C a t a l o gについて
者としては,これまでと同じシステムベンダーが落
は,障害時にも検索サービスを提供するバックアッ
札したが,図書館システムについては市販のパッケー
プ検索サーバーとして再構築した。総合目録および
ジシステム(富士通株式会社製 iLiswave-J)を導入
AgriKnowledgeについて,沖縄のデータセンターに
することとなった。RSS,OpenSearchなどこれまで
設置したバックアップ検索サーバーにメタデータを
提供してきたA P Iについては,従来の仕様を変更しな
日々収集し,情報総合センターが被災しても検索サー
がらも将来的には標準で製品として提供されること
ビスを提供できるよう備えている。N C I Pによる資料
を前提にカスタマイズで構築することとなった。
の状態確認は行えないが,所蔵資料の検索と所在は
R S Sについては,研究者への新着情報の提供手段の
確認できることから,全国に点在する研究拠点での
1つになるという当初の予想を大きく外れ,検索エン
研究開発への影響を最小限とすることができると考
ジンに新たなコンテンツを提供するための手段に変
えている。
化したと言える。このことを踏まえ,配信する内容
このように,2013年3月のシステム更新においては,
については機械可読性が高く情報量の多いMARCXML
市販の図書館システムへの搭載を前提に,これまで
などではなく,詳細でなくとも確実に書誌情報への
培った技術をより広く利用が可能な形で見直し,サー
リンクを提供できるR S S1.0を基本とした記述に仕様
ビスとして提供することとした。
を変更することとした。
588
整理中・在架など資料の状態をリアルタイムで参照
独自のシステムから市販パッケージシステムへの
一方,OpenSearchやSRU/SRWといった横断検索系
移行は多くの困難や予想できなかった障害を伴っ
のAPIについては,これらを集約して検索できるWeb
た。例えば,O A I - P M Hによる書誌情報の出力につい
サイトが国立国会図書館サーチなど少数に留まって
ては,初期のデータ投入に必要な全件の出力が予想
農林水産研究情報総合センターのサービスの継承と現在
より高負荷であったこと,国立国会図書館との連携
スを図書館だけでなくW e b全体で利用しやすい情報
に伴うNACSIS-CATフォーマットとDC-NDL間での記
として提供している。The British Library
(大英図書館)
述要素の互換性の検討に時間を要したことなどであ
では,典拠だけでなくすべての書誌データをL O Dと
る。また,こちらの要望やサービスに対する背景や
して提供している7)。
思想をこれまでとまったく異なる開発者に対してう
まく伝えることができず,結果として行き違いが生
例えば,総合目録のうち,雑誌「情報管理」の書
誌データは次のURI注12)で表される。
じたこともあった。しかし,導入後半年を経過した
現在,これらの障害等はほぼ改善されつつある。
http://library.affrc.go.jp/api/ZZ20005620.dcndl
5. まとめ
拡張子 .dcndl でDC-NDL形式でのデータ取得を指定
している。拡張子がなければHTMLが表示される。
以上,情報総合センターにおけるこれまでの取り
これまでは,R S Sを経由してロボットがこのリンク
組みを振り返った。当初は要素技術の実装自体が先
を収集し,G o o g l eでヒットするに過ぎなかった。こ
行していたことは否めないが,徐々に他所で利用で
れからは,この書誌データにリンクし情報を読み出
きるデータ提供サービスを成してきた。今後は,A P I
すことで,誰かがこの書誌情報を利用することがで
に必要な要素技術の新たな実装ではなく,既存のA P I
きる。あるいは書誌データに張られたリンク先をた
を通じて出力できるメタデータをどのように利用す
どり,異なる情報が利用できる。このU R Iで表される
るかに力点を置くことを検討している。
情報の価値は,相互にリンクされることで向上する
注11)
特にLinked Open Data
(LOD)
に注目している。
だろう。
図書館が信頼できるメタデータの提供拠点であるな
公共データ基盤としての図書館を考えたとき,既
らば,W e b上のリソースを相互に結びつけるという
存のOPACによる情報検索の枠を超えたサービスとし
L O Dは図書館のサービスにとっても,その他のW e b
ての「O P A C2.0」はその要素技術を確立し,ようや
上のサービスの提供者にとっても有益であろう5)。す
くスタート地点に立ったと言える。引き続き,デー
でに,米国議会図書館や国立国会図書館が件名標目
タの公開と連携を通じ,利用者に価値のある新たな
表をLODとして公開している6)など,図書館のリソー
図書館サービスの展開を図ってゆきたい。
本文の注
注1) MARCXML:米国議会図書館ネットワーク開発MARC標準オフィス(Library of Congress Network
Development and MARC Standard Office)によって開発された,国際的な標準書誌データ形式である
MARC21をXMLに対応させたフォーマット。XML化されたMARCレコードは,さまざまなXMLメタデー
タとの相互変換が可能となる。
注2) RDF:Resource Description Frameworkの略。Web上にある情報資源(リソース)を記述するための統一さ
れた枠組みで,タイトル,著者,Webページの更新日,著作権およびライセンス情報など,情報資源に関す
るメタデータの表現を目的としており,
主としてXMLで記述される。CiNiiでは,
論文の書誌情報や著者情報を,
機械的な処理を前提にこのRDFに基づいたXMLで提供している。
CiNiiにおける記述内容は以下を参照のこと。
CiNii Articles 論文情報のRDF:http://ci.nii.ac.jp/info/ja/api/a_rdf.html
CiNii Books 図書・雑誌情報のRDF:http://ci.nii.ac.jp/info/ja/api/b_rdf.html
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注3) j u n i i2:国立情報学研究所が機関リポジトリの相互運用性確保のために定めたメタデータフォーマッ
ト。主として国内の大学が構築している機関リポジトリで使用されている。フォーマットの詳細は以
下を参照のこと。メタデータ・フォーマット junii2: http://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/junii2.
html
注4) D C - N D L:国立国会図書館がインターネット上に存在する情報資源等の組織化・利用提供のために定
めたメタデータフォーマットおよび記述規則。国際的なメタデータ標準である「Dublin Core(ダブリ
ンコア)」を元に,日本語対応など独自の拡張を加えている。フォーマットの詳細は以下を参照のこと。
国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述(D C - N D L)
:h t t p : / / w w w. n d l . g o . j p / j p / a b o u t u s /
standards/meta.html
注5) JSON:テキストベースのデータフォーマットの1つ。Webで多く利用されているプログラミング言語
の1つである,JavaScript用のデータフォーマットとして開発されたが,さまざまなソフトウェアやプ
ログラミング言語間におけるデータの受け渡しに使えるように設計されている。
注6) MODS:Metadata Object Description Schemaの略。米国議会図書館ネットワーク開発MARC標準オフィス
(Library of Congress Network Development and MARC Standard Office)によって開発された,
MARC21の
サブセットで構成されかつMARC21よりもシンプルで,数字ではなく言語タグで表現できるスキーマ。ま
た,
MARC21にはないオリジナルのリソース記述も意図されている。詳細は,
以下の文献を参照されたい。
鹿島みづき. MODS:図書館とメタデータに求める新たなる選択肢. 情報の科学と技術, 53(6), 2003, p. 307318.
注7) REST:Representational State Transferの略。特定のURLにパラメーターを指定してHTTPでアクセスす
ると,XMLで記述された情報が送られてくるようなシステムと呼び出しインターフェース(
「RESTful
A P I」と呼ばれる)を指す。セッション情報などの状態管理がない,情報を操作する命令の体系(例:
H T T P)があらかじめ共有されている,情報が汎用的な構文で一意に識別される(例:U R L),情報の
内部に別の情報へのリンクを含める,などの特徴がある。
注8) SOAP:Simple Object Access Protocolの略。ソフトウェア同士が情報を交換するためのプロトコルで,
情報の要求から結果送信までをXML文書としてやりとりすることが標準化されている。
注9) eXtensible Catalog:米ロチェスター大学
(University of Rochester)
がアンドリュー・メロン財団
(Andrew
W. Mellon Foundation)の助成を受けて開発した,図書館が所蔵するコレクションへの新たなアク
セス方法を提供する検索インターフェースとメタデータ管理を統合したシステム。現在はeXtensible
Catalog Organizationにより運営されて,国内では九州大学ほかで導入されている。詳細は以下の報告
を参照されたい。兵藤健志ほか. 九州大学附属図書館におけるCute.Catalogのデザインと開発: OPACか
らディスカバリ・インターフェースへ. 情報管理. 2010, 53(6), p. 311-326.
注10) ディスカバリサービス:図書館が提供するさまざまなリソースを同一のインターフェースで検索でき
るサービス。情報の「Discovery(発見)
」を支援するサービスという意味がある。検索範囲がWeb全
体にわたることから,W e bスケールディスカバリサービスとも呼ばれる。論文レベルのデータや電子
書籍の本文までを含めた,世界中の学術情報を網羅的に探すことができる。商用の製品では,E B S C O
Discovery Service (EBSCO),Primo (Ex Libris),Summon (Serials Solutions),WorldCat (OCLC)などがあり,
国内の大学図書館を中心に導入が始まっている。
注11) Linked Open Data(LOD):Web上で,コンピューター処理に適したデータを公開・共有するための
技術の総称。従来のW e bがH T M L文書間のハイパーリンクによる人間のための情報空間の構築を目的
としてきたのに対して,L i n k e d O p e n D a t aでは構造化されたデータ同士をリンクさせることでコン
ピューターが利用可能な「データのW e b」の構築を目指している。ティム・バーナーズ=リー(S i r
Timothy John Berners-Lee)は,Linked Open Dataについて以下の4つの原則を定義している。1)あら
ゆるデータの識別子としてURIを使用する。2)識別子には(URNや他のスキームではなく)HTTP URI
を使用し,参照やアクセスを可能にする。3)URIにアクセスされた際には有用な情報を標準的なフォー
マット(R D Fなど)で提供する。4)データには他の情報源における関連情報へのリンクを含め,W e b
590
農林水産研究情報総合センターのサービスの継承と現在
上の情報発見を支援する。
注12) URI:Uniform Resource Identifierの略。統一資源識別子とも訳される。一定の書式によってWeb上の
資源(リソース)を識別するための手段であり,H T T P,F T Pなど「主たるアクセス手段」を識別の手
法とするURL(Uniform Resource Locator)を含む概念である。
参考文献
1) 林賢紀, 宮坂和孝. RSS(RDF Site Summary)を活用した新たな図書館サービスの展開:OPAC2.0へ向けて.
情報管理 2006, Vol. 49, No. 1, p. 11-23.
2) 国立情報学研究所. 日本農学文献記事索引(JASI)へのリンクについて(CiNii 2012/8/27付けお知らせ)
.
CiNii. http://ci.nii.ac.jp/info/ja/index_2012.html#20120827-2, (accessed 2013-09-27).
3) 農林水産技術会議事務局筑波事務所. RSSを使って最新の農林水産研究情報(新着図書・雑誌等)を配信.
http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/2006/0220.htm, (accessed 2013-09-27).
4) 林賢紀. Firefox検索バー用のOPAC検索プラグインを自作する(<特集>ソフトウエア活用のススメ)
. 情報
の科学と技術. 2008, Vol. 58, No. 5, p. 242-247.
5) W3C Incubator Group. Library Linked Data Incubator Group Final Report.
http://www.w3.org/2005/Incubator/lld/XGR-lld-20111025/, (accessed 2013-09-27).
和訳:国立国会図書館電子情報部電子情報流通課標準化推進係, 国立国会図書館非常勤調査員 田辺浩
介(翻訳).図書館Linked Dataインキュベータグループ最終報告書. http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/
standards/translation/XGR-lld-20111025.html, (accessed 2013-09-27).
6) 国立国会図書館. 国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(Web NDL Authorities)
. http://id.ndl.
go.jp/auth/ndla, (accessed 2013-09-27).
7) The British Library. The British National Bibliography. http://bnb.data.bl.uk/, (accessed 2013-09-27).
Author Abstract
Agriculture, Forestry and Fisheries Research Information Technology Center developed the library service
that utilized various API from 2003. This paper introduces the purpose, use and effect of the API. We analyze
the search count of 2012 of the Union catalog of the agriculture and forestry fisheries research institutes, the
search number of using API was double than the search number of OPAC. In addition, in the system update in
March 2013, we implement the National Diet Library Dublin core metadata description (DC-NDL). This plan is
for improvement of output format to Linked Open Data (LOD).
Key words
Union Catalog of the Agriculture Forestry and Fisheries Research Institutes, AgriKnowledge, OPAC, library
information system, API, RSS, OpenSearch, SRU, OAI-PMH, linked open data
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情報管理
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2013
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「国立国会図書館の書誌データ作成・提供
の新展開(2013)
」について
About "New development on creation and provision of bibliographic data of the National
Diet Library (2013)"
原井 直子1
HARAI Naoko1
1 国立国会図書館収集書誌部(〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1)TEL: 03-3506-5223 E-mail: [email protected]
1 Acquisitions and Bibliography Department, National Diet Library (1-10-1 Nagata-cho Chiyoda-ku, Tokyo 100-8924)
原稿受理(2013-10-03)
情報管理 56(9), 592-601, doi: 10.1241/johokanri.56.592 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.592)
著者抄録
国立国会図書館(N D L)は,2013 年 2 月におおむね 5 年間を対象とする書誌データ作成および提供に関する方針を公
表した。これは,先行する書誌サービスに関する方針を発展させると同時に N D L の全体戦略の中に位置づけられたも
のである。その最も重要なポイントは,Web 環境に適応して,従来の図書館資料と電子情報を一体として扱うことと,
書誌データの多様な利用者・利用方法に対応することである。
キーワード
国立国会図書館,書誌データ,典拠データ,書誌サービス,Web環境,書誌フレームワーク,RDA,NCR,日本目録規
則,Web NDL Authorities
1. はじめに
作成することを述べた「むすび」の位置づけである。
したがって,具体的な内容は「2 資料と電子情報の
国立国会図書館(以下,N D L)は,書誌データが
一元的取扱い」
,
「3 書誌データの作成基準」
,
「4 典
W e b上で利活用されることを目指してサービスを展
拠等の拡充」
,
「5 全国書誌の提供」
,
「6 書誌データ
開している。本年2月には「国立国会図書館の書誌デー
の開放性」
,
「7 関係機関との連携」の6項目である。
(以下,「新展開
タ作成・提供の新展開(2013)」注1)
このうちの第2 ~第4項は書誌データの作成に,第5・
2013」)を策定し公表した。この「新展開2013」の内
第6項は書誌データの提供に主に関係しており,第7項
容を説明し,その進捗状況を紹介する。
は作成と提供の全体にかかわる内容である(図1)
。
「新展開2013」
は8項目から構築されている。
「1 趣旨」
は,全体の方向性を示した「はじめに」の,
「8 改正等」
は必要に応じた見直しと具体的な実施に向けた計画を
592
「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)」について
1 国立国会図書館が収集した図書及びその他の図書館資料(以下「資料」という。)並びに
電子的に流通する情報(以下「電子情報」という。)のいずれにも利用者が迅速、的確かつ容
易にアクセスできるよう、また広く書誌データの利用を促進するよう、書誌データの作成及び
提供を行う。
2 資料と電子情報の書誌データを一元的に扱える書誌フレームワー
クを構築する。
3 資料と電子情報のそれぞれの特性に適した書誌データ作成基準を
定める。
4 信頼性及び効率性の高い検索に資するよう、典拠データ作成対象
の拡大並びに主題情報及び各種コード類付与の拡充を行う。
提
供
5 国立国会図書館法第7条に規定する「日本国内で刊行された出版
物」に相当する電子情報の書誌データを、新たに全国書誌として提供
する。
6 利用者が書誌データを多様な方法で容易に入手し活用できるよう、
開放性を高める。
7 出版・
流通業界、関係機関等と連携の上、
様々な資源、知識、技術を活用する。
書
誌
作
成
8 利用者の要請、出版物の多様化、情報通信技術の発展等に対応するため、必要に応じ
て見直しを行う。また、各項の具体的な実施に向けて、有効性と費用対効果を考慮し、必要
な計画を別途作成する。
図1 「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)」構成図
図1 「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)」構成図
2.「新展開2013」まで
き継いで2013年度からのおおむね5年を対象期間とす
る方針である。
「新展開2013」は,突然出現した方針というわけで
はないので,それまでの経緯をまず紹介する。
「方針2008」は,N D Lの書誌データの役割の確認,
現状認識・課題の整理から始めて方針を設定し,そ
注2)
NDLは,書誌サービスを長らく『日本全国書誌』
の具体策を挙げた。一方,
「新展開2009」は,N D Lの
およびその機械可読版であるJ A P A N / M A R Cの頒布に
利用者像全体を示した上で,その利用の中に位置づ
よって実現してきた。それに,Web上で公開される蔵
けられる書誌サービスを,探索機能,提供機能,作
書目録であるNDL-OPACを加えて,若干利便性を向上
成プロセス,書誌調整機能の4つの領域に大別して方
させた。そのような状態にあった2008年に,現状の総
向性を示すという手法をとった。このように「方針
点検を行った上でその後の方針をまとめた「国立国会
2008」と「新展開2009」は,表現方法は異なってい
図書館の書誌データの作成・提供の方針(2008)
」注3)
るが,その内容の方向性は一致している。ここでは,
(以下,
「方針2008」
)を公表した。
「方針2008」を取り上げ,
「新展開2009」の紹介は省
2008年12月にN D Lの将来構想としてとりまとめら
略する。
れた「創造力を生み出す新しい知識・情報基盤の構
築を目指して:国立国会図書館の取組」注4)の公表を
受けて,
「方針2008」を再整理したものが「国立国会
注5)
「新
図書館の書誌サービスの新展開(2009)」 (以下,
展開2009」)である。
2.1「方針2008」
「方針2008」では,
6つの方針を掲げた。要約すると,
(1)書誌データの開放性を高める,
(2)情報検索シス
テムを一層使いやすくする,
(3)電子情報源も含めて
「方針2008」は5年を,「新展開2009」は4年を対象
シームレスにアクセス可能にする,
(4)書誌データの
期間としており,いずれも2012年度まででその期間
有効性を高める,
(5)書誌データ作成の効率化,迅速
は終了している。
「新展開2013」はこれらの方針を引
化を進める,
(6)外部資源を活用するという6点である。
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これらの方針の背景には,JAPAN/MARCによるサー
ビスの限界とN D L- O P A CのようなW e b上で展開する
サービスの重要性に対する認識があった。J A P A N /
http://johokanri.jp/
への対応は未実施で「新展開2013」でも課題とする
ことになる。
外部資源の導入については,民間MARCの活用をす
M A R Cは,一定期間の単位で固定された製品であり,
でに実施しているが,典拠ファイル,件名標目ファ
N D L - O P A Cのようにリアルタイムでデータを提供す
イルの共通化は残念ながら実現できていない。
ることはできない。また,その形式もMARCフォーマッ
トであり,W e b上の多様で自由な利活用には適して
いない。N D Lは,書誌サービスがW e b上の多様な情
「新展開2013」は,
「方針2008」や「新展開2009」
報サービスの中の一構成要素として機能することを
とは著しく異なる特徴を有している。それは,簡潔
志向していたのである。
さ で あ る。
「 方 針2008」 が7ペ ー ジ,
「 新 展 開2009」
このような方針の下で,5年の対象期間に実施すべ
き具体策として示されたものが,「新展開2013」策定
までに実際にどうなったかをまとめると次のように
なる。
が10ページであるのに対して,
「新展開2013」は3ペー
ジであることからもその簡潔性は明確である。
その主な理由は,2つあると考える。
「方針2008」
や「新展開2009」は,従来のサービスからの転換時
書誌データ提供の改善については,OPACからの書
期にあり,W e b上でのサービスの重要性を打ち出す
誌データのダウンロード,典拠データの公開とダウ
必要があり,従来のサービスの総点検や利用者像の
ンロード,雑誌記事索引の新規作成記事情報の提供
分析などを行った。それに対して,「新展開2013」の
など 注6) を実現あるいは改善した。書誌データ提供
作成時期には,すでにそれらが自明のこととして受
のための機械連携(A P I)の提供と,『日本全国書誌』
け入れられるようになっていた。つまり,状況の相
のW e b提供の改善については一部実現したが,現在
違が最初の理由である。もう1つの理由は,N D L全体
改善を継続中である。
の目標の中に書誌サービスの目指すべき方向が位置
情報検索の改善については,O P A CのU R L仕様の
改善を実現しているし,多言語対応についてもアジ
ア言語O P A CのN D L - O P A Cへの統合や文字コードの
Unicodeへの変更などを実現した。
書誌データと所蔵電子情報のリンクや横断検索は,
づけられていることにある。この点は次章でもう少
し詳細に見ることとする。
では,
「方針2008」における6つの方針を「新展開
2013」はどのように引き継いだのだろうか。
(1)書
誌データの開放性は,「新展開2013」の第6項となっ
国立国会図書館サーチ(以下,N D Lサーチ)注7)にお
ている。
(2)使いやすい情報検索システムは,
「新展
いて実現している。
開2013」では扱っていない。これは検索システムの
書誌データの新しい基準および枠組みへの対応に
機能自体は方針の対象からはずしたためである。
(3)
ついては,MARC形式のJAPAN/MARCフォーマット
シームレスなアクセスは,第2項で「資料と電子情報
からMARC21フォーマットへの切替えやNDLサーチで
の一元的取扱い」としてさらに進展した形で扱って
の国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述(DC-
いる。(4)書誌データの有効性は,第4項で「典拠等
注8)の採用などは実現したが,
FRBR(Functional
NDL)
の拡充」として引き継いだ。(5)書誌データ作成の効
Requirements for Bibliographic Records:書誌レ
率化,迅速化と(6)外部資源の活用については,第
コードの機能要件),ICP(International Cataloguing
7項で関係機関等との連携・調整を図ることに焦点を
P r i n c i p l e s: 国 際 目 録 原 則 ),R D A(R e s o u r c e
あてている。
Description and Access:資源の記述とアクセス)等
594
2.2「新展開2013」へ
詳細については後述するが,
「新展開2013」は,
「方
「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)」について
針2008」から主要な方向性を発展させつつ引き継い
4.「新展開2013」の内容
でいる。
3. NDLの全体戦略における「新展開2013」
それでは,「新展開2013」の内容をもう少し詳細に
見ていこう。
第1項に「趣旨」として述べた内容のうち重要なポ
次に,現在のN D Lの全体戦略の中で,書誌サービ
イントは,2つある。1つは,資料(従来の紙媒体を
スの位置づけはどのようになっているのかを紹介す
主とする有体物)と電子情報(オンライン資料を始
る。
めとした電子的に流通する情報)を一体として扱う
NDLは,2012年7月に,それまでの「国立国会図書
ことである。もう1つは,書誌データの提供対象者
館60周年を迎えるに当たってのビジョン」に代わり,
を図書館資料の利用者に限定せず,書誌データ自体
「私たちの使命・目標2012-2016」注9) を策定した。
を利用する者も含めて,その利用を促進することで
そのうちの「目標3:情報アクセス」は,「国立国会
ある。これらの方向性は,「方針2008」や「新展開
図書館の収集資料を簡便に利用し,また必要な情報
2009」でも謳われていたが,「趣旨」として取り上げ
に迅速かつ的確にアクセスできるように,新しい情
たことで,より鮮明になったといえよう。
うた
報環境に対応して,資料のデジタル化,探索手段の
向上など,誰もが利用しやすい環境・手段を整備し
ます。」というものである。
4.1 資料と電子情報の一元的取扱い
第2項で掲げた資料と電子情報の一元的取扱いは,
この目標の下に,6つの戦略的目標 注10) を挙げて
言うは簡単でも実現は簡単ではない。N D Lで具体的
いる。そのうちの「3-6 書誌情報の利活用の促進」
に考えているのは,両者を一元的に取り扱える「容
は次のような内容である。
れもの」について検討することである。
・従来の印刷出版物などの資料に加え,インター
MARCフォーマットは,データを流通・交換するた
ネットなどで電子的に流通する情報も合わせて
めに必須である標準性という強みがあった。N D Lで
一元的に書誌を作成します。
は長らくJAPAN/MARCフォーマットを使用してきた
・出版・流通業界等との連携を強化し,書誌作成及
び提供を迅速化,効率化します。
・当館の書誌情報を多様な方法で容易に入手し利活
用できるようにします。
が,国際的な流通・交換を目指すために「方針2008」
の期間にMARC21フォーマットへの切替えを行った。
しかしながら,MARCフォーマットの標準性という
強みは,図書館界に限定されていた。図書館界内で
これらを実現するために,(1)全国書誌情報提供の
のデータの流通・交換だけでは,これからのW e b時
拡充,(2)Web環境及び関係機関との連携に適した書
代に適合していけない。国際的な事実上の標準であ
誌フレームワークの構築,(3)資料と電子情報のそれ
るMARC21フォーマットへの切替えによって,NDLは,
ぞれの特性に適した新しい書誌データ作成基準の策
次の段階に進むためのスタート地点に立てたに過ぎ
定,の3つの重点的に取り組む事業注11)を挙げた。こ
ない。
の3つの事業は「新展開2013」で示したものと同じ方
向性を持っている。
つまり,「新展開2013」は,単独で存在するもので
はなくて,N D Lの向かうべき全体像の中に有機的に
位置づけて作成した方針なのである。
次の段階とは,図書館界という枠組みに限定され
ない書誌サービスであり,具体的には,従来の資料
についての書誌データと電子情報についてのメタ
データの統合と,Linked Open Data化である。
後者から先に説明すると,Linked Open Data化は,
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N D Lではまず典拠データから着手した。W e b N D L
扱える「容れもの」について述べているのに対して,
Authorities注12)である。2010年にWeb
NDLSH注13)を
第3項は,新しい「容れもの」に入れる書誌データ作
公開し,2012年にN D Lの名称典拠を加えることで公
成基準を定めることを掲げた。この新しい書誌デー
開・提供範囲を拡大して,サービス名称もW e b N D L
タ作成基準は,R D Aに対応したものであることがポ
Authoritiesとした。NDLの全典拠データを提供する
イントである。
サービスである。
RDAは,AACR2(Anglo-American Cataloguing
Web NDL Authoritiesの主な特徴は,各典拠デー
Rules. 2nd ed.:英米目録規則第2版)を全面的に見直
タをU R Iにより参照可能としていること,語彙とし
して策定されたW e b環境に適した規則である。R D A
てSKOS(Simple Knowledge Organization System),
の特徴を説明するのは本稿の趣旨ではない 注14) が,
F O A F(F r i e n d o f a F r i e n d),ダブリンコアなどを
N D Lの方針を説明する上で必要な点に限定して,少
用 い て い る こ と, 各 レ コ ー ド をR D F(R e s o u r c e
し触れておく。
Description Framework)形式でダウンロードでき
最も重要な点は,R D AがF R B Rの概念モデルを採用
ること,検索にS P A R Q Lを使用していること,バー
したことである。従来は,目録情報は,記述対象資
チャル国際典拠ファイル(VIAF: Virtual International
料についての記述と,それにアクセスするためのコ
Authority File),米国議会図書館件名標目表(LCSH:
ントロールされた情報であるアクセス・ポイントか
Library of Congress Subject Headings)やウィキペ
ら構成されていた。R D Aの新しい概念モデルの採用
ディアにリンクしていることなどである。
によって,目録情報は,資料(著作,表現形,体現形,
書誌データについても,N D LサーチからL i n k e d
Dataに対応したRDF形式で提供している。
従来の書誌データとメタデータの統合については,
NDLサーチでは,両者をDC-NDLで統合して提供して
個別資料)に関する記録,
資料の行為主体(個人,
家族,
団体)に関する記録,資料の主題(概念,物,出来事,
場所)に関する記録とそれらの間の関連から構成さ
れるようになった。
いる。しかし,それはN D Lサーチからの提供に限定
このような変化によって,目録情報は,データが
された統合で,従来の書誌データをM A R C21フォー
リンクしあうインターネット世界に適応可能な条件
マットからDC-NDLに変換してメタデータに統合して
を整えることになる。RDAは,Linked Dataやセマン
いるに過ぎない。W e b環境で統合のメリットを活か
ティックWebを視野に入れた規則なのである。
すためには、次項で述べる新しい書誌データ作成基
また,R D AではA A C R2の資料の種類による章構成
準に対応し、Linked Data化を進展させる容れものが
を変更し,個別の項目において資料の種類によらな
必要である。
い共通の規定を置いた後に資料の種類による特定の
「新展開2013」では,新しい容れものとして「書誌
規定を置くという形式とした。これによって,多様
フレームワーク」を構築することとした。米国議会
な種類や新たな種類の資料への対応に柔軟性を持つ
図書館(LC)がMARCフォーマットに替わる新しい書
ことができるようになった。
誌フレームワークとして開発しているデータモデル
この点も,新たなメディアの出現可能性が常に存
BIBFRAMEの動向に,特に注意を払って検討を進めて
在する現状に適したものであると同時に,従来の紙
いく予定である。
媒体資料を始めとした図書館資料と電子情報を一元
的に扱える性質を備えているといえる。
4.2 書誌データの作成基準
第2項が資料と電子情報の書誌データを一元的に
596
従来の目録規則は,A A C R2に限らず,規定する要
素の定義だけでなく,要素間の記載順序も重要な規
「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)」について
定として扱っていた。国際的にI S B D区切り記号が専
ら使用されていたのである。しかし,R D Aでは,記
載順序についての規定の重要性を減じ,データの記
録と表示を分離した。システムへの対応性を柔軟に
し,データの表示方法や利用方法の自由度を高める
ことを狙ったものである。
このようにR D Aは,これまでの目録規則の枠組み
表1 Web NDL Authoritiesのデータ数
個人名
家族名
団体名
統一タイトル
地名
NDLSH 普通件名 (細目付きを含む)
NDLSH 細目
合計
797,053
2,204
186,666
4,085
27,706
103,564
324
1,121,602
2013 年 7 月末現在
を超えW e b環境に適したものとなっている。この点
は,N D Lが求める書誌サービスの方向性と合致して
対効果を勘案しながらあたらねばならない困難な課
いる。また,2013年3月末にLCで適用が開始されたの
題である。
を始め,国際的に適用する図書館が増加しつつある
「新展開2013」では,検討事項として,
(1)典拠デー
こともNDLにとって重要である。NDLは,日本独自の
タの作成対象を,日本語以外の外国刊行資料,博士
目録慣行等を考慮した上で,国際的に広く適用され
論文,雑誌記事索引,電子情報等に拡大すること,
(2)
るR D Aに対応した目録規則を策定し,さらに,それ
典拠データの種類を統一タイトル,ジャンル形式等
を日本国内で広く適用可能なものとしたいと考えて
に拡充すること,(3)現状において「国立国会図書館
いる。
件名標目表(NDLSH)
」や「日本十進分類法(NDC)
」
による標目付与を行っていない資料群への付与を行
4.3 典拠等の拡充
うことの3点を挙げた。地道であるが,可能なところ
「新展開2013」の第4項は「典拠等の拡充」である。
から少しずつ典拠データの拡充を図っていく方針で
典拠データは,書誌データのアクセス・ポイントを
あり,関係機関との協力も視野に入れていきたいと
コントロールするためのデータであり,効率的な検
考えている。
索を支援する存在である。したがって,典拠データ
を拡充することは,書誌データの有効性を向上させ
る意味を持つ。
また,W e b環境ではデータ間のリンクが重要であ
る。典拠データは,このデータ間のリンクを支える
仕組みとしても有効に活用できる。
さらに,典拠データそのものの活用可能性も高まっ
4.4 全国書誌の提供
「新展開2013」の第5項は全国書誌について述べて
いる。NDLは,
日本で唯一の全国書誌作成機関であり,
その役割に変更はない。
全国書誌は,『納本週報』,『日本全国書誌 週刊版』
等の紙媒体やホームページ(HTML版)での提供を経
ている。NDLがWeb NDL Authoritiesを公開している
て,現在は,主に3つのルートで提供している。
(1)
ことは前述のとおりである。Web NDL Authoritiesで
NDLサーチからのRSS配信,
(2)NDL-OPACの「全国
提供している典拠データ数は,2013年7月末現在で約
書誌提供サービス画面」からのダウンロード,
(3)
112万件となっている(表1)。
JAPAN/MARC頒布の3ルートである。
このように典拠データの拡充には重要な意義があ
全国書誌の収録対象は,納本制度によって収集さ
るとはいえ,典拠データの維持管理には多大なコス
れた国内刊行資料と外国刊行の日本語資料である。
トがかかり,念入りに典拠データ作成を行うと書誌
その納本制度に準じて,2013年7月から民間で出版さ
データ作成の迅速性を損ないかねない。典拠データ
れた電子書籍・電子雑誌(当面,無償かつD R M(技
の拡充は,書誌データ作成機関にとって,常に費用
術的制限手段)のないものに限定)を収集・保存す
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ることとなった。それ以前から国等の公的機関のも
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たものとしていく必要性を感じている。
のは収集している。これらの電子資料についてのデー
第4項の典拠等の拡充はN D L単独であたるだけでな
タも,2014年4月からは全国書誌の収録対象として提
く関係機関との協力も視野に入れて実施していきた
供する。この電子書籍・電子雑誌を収録対象とする
い。第4項および第5項で述べた書誌データや典拠デー
全国書誌は,3つのルートのうちの(1)NDLサーチか
タの提供についても,N D Lの提供するものが多様な
ら提供する予定である。
目的で広範に利活用されることを目指すために関係
機関にも働きかけていく予定である。
4.5 書誌データの開放性
「新展開2013」の第6項では「書誌データの開放性」
を掲げている。この項の最初のポイントは,多様な
方法での入手とその活用性であり,もう1つのポイン
このように,「新展開2013」で掲げたどの事項にお
いても,関係機関との連携や調整を重要視している。
5.「新展開2013」の進捗状況
トは,国際的流通の促進である。
利用者像を図書館に限定せず,個人,私企業もそ
ここまで「新展開2013」の内容を説明してきた。
の対象として考慮すれば,データの提供方法は多様
「新展開2013」策定後にどのような進捗があったかを
なものを用意する必要がある。また,書誌データや
以下に順不同で簡潔に説明する。
典拠データを図書館資料や電子情報へのアクセス手
段として提供するだけでなく,データ自体の利活用
5.1 新しい『日本目録規則』
も促進していきたいと考えている。そのため,パッ
N D Lは,2013年5月に日本図書館協会(J L A)目録
ケージ化した書誌データの提供から,標準的な仕様
委員会に,新しい書誌データ作成基準策定に関する
で自由に書誌データを取得できる環境の整備へとさ
連携について提案を行った。JLA目録委員会では2010
らにシフトしていく方針である。
年から『日本目録規則』改訂作業を行っているが,
国際的流通の促進については,
「新展開2013」まで
N D Lでも前述のとおり日本国内で共通に適用できる
にOCLCに単行資料の書誌データ(JAPAN/MARC (M) )
R D Aに対応した新しい書誌データ作成基準を策定す
を提供し,また,VIAFへの参加による典拠データの提
る予定であり,両者で行う作業を連携して一本化で
供を実施していたが,これを拡充していくことを方針
きないかと問いかけるものであった。
とした。
その後,両者間で目指すべき方向性について調整
を行い,8月には連携作業が実施可能であることが確
4.6 関係機関との連携
第2項で掲げた書誌データの「容れもの」としての
新しい『日本目録規則』を連携作業によって策定す
書誌フレームワークの構築,第3項で掲げた書誌デー
ることについて合意が成立した。確認した内容は
「
『日
タの作成基準である新規則の策定のいずれもN D L単
本目録規則』改訂の基本方針」注15)として9月末に公
独で実施してもその意義は大きくない。現在のよう
表されたばかりである。
なW e b環境においては,日本国内外で共通の環境を
598
認できた。9月にはN D Lと日本図書館協会との間で,
2013年10月から連携作業を開始し,2014年1 ~ 3
整備していかなければ,有効に働かない。したがって,
月の間に,N D Lで「日本の目録規則の在り方に関す
新規則の策定は日本国内で共通に適用できるものと
る検討会議」(仮称)を開催して有識者や関係機関と
するための関係機関との調整を行う計画であり,書
意見交換を行う。規則案の公表は2015年を予定して
誌フレームワークの構築も関係機関との連携に適し
おり,その後,広く意見聴取を行った上でJ L A目録委
「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)」について
員会と協働して規則を確定したいと考えている。
5.4 典拠データの拡充
典拠データの拡充は,多大なコストがかかるため
5.2 書誌データ利活用説明会
全国書誌データの利活用の促進を図るために,よ
に地道に実現していく方針であると述べたが,その
中でこれまでに実施できたのは次の事項である。
り多くの図書館システムにN D Lの書誌データの取込
従来,N D Lでは典拠データと書誌データのリンク
み機能が実装されることを目的として,「書誌データ
は全国書誌収録範囲外の資料については行っていな
利活用説明会」を行う。開催日時は11月1日であるた
かった。2012年8月からは日本語以外の外国刊行図書
め,本誌刊行時にはすでに終了しているはずである。
で著者が日本人の場合,すでに典拠データが存在す
同説明会の対象者は,図書館システム・ベンダー
るときは書誌データとのリンクを行っている。同様
の担当者や図書館のシステム担当者である。内容は,
に,2013年4月からは,日本の団体が著者である外国
各種図書館における全国書誌データ利活用事例の紹
刊行図書についても既存の典拠データとのリンクを
介と全国書誌データ利活用方法の実装レベルでの説
開始した。
明である。同説明会の内容などについては,別途公
表する。
なお,同説明会終了後に,図書館システム・ベンダー
へのアンケートを実施し,全国書誌データ取込み機
CDなどの音楽資料のうち,クラシックについては,
最初の作曲者についてのみ典拠データを作成し,書
誌データとリンクしていたが,これを2013年10月か
ら3人までに拡張する。
能実装ずみ(あるいは実装予定)の図書館システム
このように,典拠データの拡充の進捗は,わずか
一覧をN D Lのホームページに掲載することを予定し
ずつであるが,なんとか進めている。そのほかにも
ている。
同様に小さい進展を幾つか計画している。
5.3 全国書誌(電子書籍・電子雑誌編)
5.5 国際流通
すでに述べたように,NDLサーチから2014年4月に
2012年にOCLCへのJAPAN/MARC (M) データ提供
全国書誌の電子書籍・電子雑誌編の提供を開始する。
を開始したことは前述のとおりだが,更新頻度は年4
2013年1月から全国書誌(電子書籍・電子雑誌以外)
回にすぎなかった。これを2013年度に入って変更し,
のNDLサーチからのRSS配信を開始しているが,これ
月1回としている。
に加えて,電子書籍・電子雑誌編についてもR S S配信
また,逐次刊行資料の書誌データであるJ A P A N /
を開始するものである。ただし,両者は一本化され
M A R C ( S ) についても2013年に入って提供を開始し,
ない。
すでに利用可能となっている。更新頻度は月1回であ
また,同じ2014年4月には,全国書誌データを電子
書籍・電子雑誌とそれ以外の2本立てで,A P Iを用い
て提供開始する予定である注16)。
これによって,全国書誌の提供は,N D Lサーチか
らのR S S配信のルートに電子書籍・電子雑誌編が追加
され,N D LサーチからのルートにA P Iによる提供が加
る。
さらに,雑誌記事索引データについても全1,100万
件を提供ずみであり,これらがO C L Cから利用可能と
なるのは,2013年末か2014年初頭を予想している。
6. おわりに
わることになる。
「新展開2013」は,おおむね5年間の方向性を示す
ものだが,必要があれば適宜の見直しも行う。示し
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た方向性に基づいて着実に進捗を図りつつ,環境の
元的に扱える書誌フレームワークの構築はこれから
変化や国際動向などを注視して必要に応じた軌道修
の大きな課題である。典拠データ拡充を始めとする
正も行っていくつもりである。
その他の課題も地道な努力が必要である。いずれも,
「新展開2013」の対象期間は始まったばかりであり,
試行錯誤を重ねながら進めていくことになるだろう。
その進捗状況は前述のとおりである。R D Aに対応し
今後も,常に「新展開2013」の目指す目標を忘れ
た新たな『日本目録規則』の策定はJ L A目録委員会と
ずに,W e b環境においてN D Lの書誌データが自由に
連携して開始する段階にある。資料と電子情報を一
利活用されるように努めていきたいと考えている。
本文の注
注1) 「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)
」http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/
shintenkai2013.pdf, (accessed 2013-09-24).
説明資料:
「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)
」について」NDL書誌情報ニュー
スレター , 2013年2号 <http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/bib_newsletter/2013_2/article_01.html>,
(accessed 2013-09-24).
注2) 全国書誌については,本誌に掲載された次のものも参照されたい。中井万知子. 日本の全国書誌サービ
ス:その歩みと展望. 情報管理. vol. 50, no. 4, p. 193-200.
注3) 「国立国会図書館の書誌データの作成・提供の方針(2008)
」<http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/
pid/287276/www.ndl.go.jp/jp/library/data/housin2008.pdf>, (accessed 2013-09-24).
注4) 「創造力を生み出す新しい知識・情報基盤の構築を目指して:国立国会図書館の取組」<http://dl.ndl.
go.jp/view/download/digidepo_999293_po_initiatives2008.pdf?contentNo=1>, (accessed 2013-0924).
注5) 「国立国会図書館の書誌サービスの新展開(2009)
」<http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/pdf/
houshin2009.pdf>, (accessed 2013-09-24).
注6) そのほかに,『日本全国書誌』のW e b提供の改善の一環として,新着情報(作成中データ)の提供も
実現している。
注7) NDLサーチ<http://iss.ndl.go.jp/>, (accessed 2013-09-24).
注8) 国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述(D C - N D L)< h t t p : / / w w w. n d l . g o . j p / j p / a b o u t u s /
standards/meta.html>, (accessed 2013-09-24).
注9) 「私たちの使命・目標2012-2016」<http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/mission2012.html>, (accessed
2013-09-24).
注10)「目標3の戦略的目標」<http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/mission2012.html#anchor3-1>, (accessed
2013-09-24).
注11)「平成25年度活動実績評価の枠組み」<http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/pdf/vision_frame_h25.pdf>,
(accessed 2013-09-24).
注12) 国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(Web NDL Authorities) <http://id.ndl.go.jp/auth/ndla>,
(accessed 2013-09-24).
注13) Web NDLSHは,
「国立国会図書館件名標目表(NDLSH)
」をWeb環境に適した形式で公開したサービス。
注14) RDAについては,本誌に掲載された次のものを参照されたい。蟹瀬智弘. 所蔵目録からアクセスツール
600
「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)」について
へ:RDA (Resource Description and Access) が拓く新しい情報の世界. 情報管理. vol. 56, no. 2, p. 84-92.
注15)「
『日本目録規則』改訂の基本方針」http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/newncrpolicy.pdf(accessed
2013-09-30)。なお,あわせて「新しい『日本目録規則』の策定に向けて」<http://www.ndl.go.jp/jp/
library/data/newncr.pdf>(accessed 2013-09-30)もご覧いただきたい。
注16) 全国書誌データに限定しないAPIによる書誌データの提供はすでに実施している。
Author Abstract
National Diet Library has released its new policy on creation and provision of bibliographic data in February
2013. Having succeeded the preceding ones, the new policy is positioned within the entire NDL's Objectives.
Among the most important are, in response to the web environment, to treat traditional library materials and
digital materials at the same time and to adjust bibliographic data to their various ways of use and users.
Key words
National Diet Library, bibliographic data, authority data, bibliographic service, web environment, bibliographic
framework, RDA, NCR, Nippon Cataloguing Rules, Web NDL Authorities
情報管理 vol. 56 no. 9 2013
601
情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.9
Journal of Information Processing and Management
December
http://johokanri.jp/
学会の役割を考える
電子情報通信学会論文誌による国際学術情報
発信
Roles of academic societies
Global scholarly communications by the Institute of Electronics, Information and Communication
Engineers (IEICE)
今井 浩1
IMAI Hiroshi1
1 東京大学情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻 E-mail: [email protected]
1 Department of Computer Science, Graduate School of Information Science and Technology, the University of Tokyo
原稿受理(2013-10-08)
情報管理 56(9), 602-610, doi: 10.1241/johokanri.56.602 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.602)
著者抄録
現代において,学術情報発信の形態はインターネット通信を通した電子ジャーナルなど多岐にわたっている。電子情
報通信学会では通信・電子・情報の分野を推進する学会として,1976 年の英文論文誌刊行以来,国際化を視野に入れ
た学術情報発信を着実に進めてきており,これを国際活動の軸として,さらなる発展を目指している。本稿では,著
者の視点からこれまでの活動をまとめ,新たな取り組みについても若干触れたい。
キーワード
国際学術情報発信,英文論文誌,電子ジャーナル,オープンアクセス,ビジネスモデル
1. はじめに
的に活動することは使命であったとも言える。この
ため,国際学術情報発信の核となる英文論文誌が国
電子情報通信学会の理念は,本会Webページ注1)に
もあるように
「本会は,電子情報通信および関連する分野の国
ナショナルセクションなどの活動とも連携しながら
さらなる展開を図っている。
際学会として,学術の発展,産業の興隆並びに
通信技術の進歩は,国際交流の質を変えてきたこ
人材の育成を促進することにより,健全なコミュ
とを,著者の学生時代から現在に至るまでの個人的
ニケーション社会の形成と豊かな地球環境の維
経験からも強く実感している。1980年代半ばに,当
持向上に貢献します。」
時東大の一部で利用可能であった,今でいうインター
うた
602
際活動における軸となり,国際会議開催,インター
「日本」
と謳われている。100年程前の学会設立時より,
ネットメールを活用して,アメリカ西海岸の大学の
という国名を学会名に含めなかったことから,国際
グループと2週間で共同研究論文をまとめ国際会議発
学会の役割を考える
表にこぎつけたことがあり,その際にはp l a i n Te Xと
の中で一歩一歩足元を固めて進んでいくことが必要
いう今のL a Te Xが普及する前の大本の清書システム
であったということでもある。本稿では,同会の論
を用いた。また一方では,U N I Xオペレーティングシ
文誌編集に長く携わり,また元編集理事としての活
ステムに付随していたt r o f f清書システムを利用して,
動をもとに,このような情報発信と学会活動の両面
大型計算機センターで印画紙に精細にプリントする
からの観点も含め,電子情報通信学会が取り組む国
といった行動もとっていた。当時こうしたことがで
際情報発信についてみていきたい。
きたのは環境に恵まれていたからで,それが1990年
代に入ってインターネット,W e b技術の展開に広く
用いられるようになり,大学ではpostscriptファイル
2. 電子情報通信学会の現況:学会の出版
ビジネスモデルとの関係
形式を用いた情報発信が始まり,21世紀にかけてp d f
の形式での論文情報発信が普及して電子ジャーナル
英文論文誌を軸にした国際学術情報発信の中核に
が学術情報の中核となり,現在ビッグデータの情報
論を進める前に,その情報発信を支える学会組織・
の時代になるに至り,国際学術情報発信にさらなる
財務体制について述べる。学会の出版ビジネスモデ
新展開が期待されているところだと認識している。
ルという観点で読んでいただけると幸いである。
著者の経験に限らず,インターネットの源流をた
表1に2012年3月31日 時 点 の 本 学 会 の 会 員 数 を 示
どれば,アメリカでは1970年頃にARPANETによって
す。学会全体として3万を超える会員を擁している。
限られた研究大学間でメールのやりとりができるよ
主要な構成員の正員・学生員について,国内と海外
うになって以来,ネットの普及・通信の大容量化に
の会員は規定の上では同等の権利を有している。た
よる通信ネットワークインフラストラクチャの整備
だ居住地による違いとしては,電子情報通信学会誌
が途切れることなく進み,学術情報の高次伝達を可
における数ページのグローバルプラザという英語記
能とする画像・ビデオなどのマルチメディア圧縮・
事の提供の有無,と日本語の会誌送付の有無,発展
伝送技術,最近ではW e b技術を普及させたh t t pプロ
途上地域に対するプログラムの適用の有無などがあ
トコルからその先のものとしてX M L技術がさまざま
る。
に展開されて,かつて冊子体による紙の上で提供さ
海外在住の会員がほぼ1割近くを占めており,先に
れていた学術情報が,先進的情報技術によって構造
あげた学会理念がある面実現されていることを示し
化されて,たやすく必要情報にアクセスできるよう
ている。このことには,2000年代初頭に電子ジャー
になるとともに,ビッグデータとして解析できるよ
ナル化に伴うことなどさまざまな環境変化に応じて,
うになってきている。現在の学術情報発信を支える
投稿規程で投稿者のうち,少なくとも1名が本学会会
情報通信技術は上記にあげたほかにも枚挙にいとま
員であることを要件とした改訂にある程度影響され
がない。
ていると思われる。当時,アジアも含め発展途上地
このように電子情報通信分野は学術情報発信の現
域へのプログラムも立ち上げられており,海外在住
在に至るまでの発展に貢献してきたところであるが,
会員の大半が日本語の会誌の送付を無用とすること
電子情報通信学会として自らの研究成果を情報発信
表1 電子情報通信学会会員数
する上では,地道に情報システム展開をしながら国
際化を実現してきたといえる。これは,論文誌によ
る学術情報発信が,学会全体の国際活動方針と直結
しており,学会の国際活動というイナーシャ(慣性力)
会員数
海外
( 内数 )
正員 学生員 特殊員 維持員
27,859
5,493
305
172
2,381
864 他契約
0
他
93
合計
33,922
0
3,245
(2012 年 3 月 31 日時点)
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603
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も考慮して年会費が安価に設定されており,論文誌
および知識の交換を行い,他ソサイエティと緊
投稿の上での大きな制約とはならず,論文誌投稿の
密な協力を保ちつつ,自ソサイエティの活性化
オープン性が確保されていたことも関係していると
を図り,学問,技術および関連事業の振興に寄
思われる。当時より海外からの投稿は盛んですでに
与することを目的とする。
」
英文論文誌が国際性を有していたが(後述の現論文
である。1995年の当初より表2にある4ソサイエティ
誌の国際性の高さを示すデータも参照),上記改訂の
と,グループは準ソサイエティともいえるもので1グ
のちも着実に海外在住の会員数は増えており,総じ
ループが設置されている。学会の正員・学生員は少
てこの論文誌投稿に関する規定更新はプラスに作用
なくとも1つのソサイエティに属し,その他のソサイ
したと思われる。
エティにも規定の会費を支払うことで登録すること
特殊員は,
「この学会の目的に賛同する個人以外の
ができる。表2にある合計数が表1の正員・学生員数
研究所,図書館など」と規定されている。本学会論
和の33,352より多いことは,複数のソサイエティに
文誌電子版は2000年代初頭より無償トライアルで公
登録している会員がそれだけ存在するということを
開されてきたが,2010年頃より有償サイトライセン
示している。
スに移行した。その際,特殊員へのサービスがそれ
ソサイエティ規程では,各ソサイエティは和文論
までの冊子体配布主体であったところを,サイトラ
文誌・英文論文誌の発行を行うこととなっている。
イセンス費用を主として,冊子体をオプション有償
逆に言うと,後述の先行した英文論文誌4分冊化を組
サービスとしたことから,特殊員数がほぼサイトラ
織活動レベルまで拡張したものがソサイエティ制度
イセンス数となっている。なお,現状では,特殊員
という面もある。このことから,ソサイエティが本
は国内図書館に限られており,海外への論文誌配布
学会では論文誌を発行する単位となっており,ソサ
は代理店に販売を委託する従来の形態が継続されて
イエティの独立採算化方針の徹底とともに,ソサイ
いるので,特殊員数は国内サイトライセンス数に対
エティが発行する論文誌の財務はそのソサイエティ
応している。本学会論文誌の海外販売数は創刊以来
が責任を持っている。現時点では英文論文誌の論文
の冊子体販売数がそれなりに継続されており,現在
数が和文論文誌のものを凌駕しており,国際学術情
は代理店を通したサイトライセンス方式でのサービ
報発信の点も含め英文論文誌がソサイエティ活動の
ス提供となっている。
軸となっている(図1参照)
。
維持員は,
「この学会を援助するため理事会の議決
このような体制を学会出版ビジネスの立場から考
を経て推薦された人,または 会社などの団体」と規
えてみると,ソサイエティにとって,活動の軸とな
定されており,口数によって以前は論文誌冊子体サー
る英文論文誌の財務面での責務を果たしつつ,それ
ビスも行われていた。論文誌電子ジャーナル化によっ
に加えて新たな学術情報発信事業を模索することに
て,現在では維持員に対する論文誌の提供は行われ
つながっている。
ていない。
3万人を超える会員を有し,電子情報通信という幅
広い分野を対象としている学会として,ソサイエティ
制を1995年より導入している。ソサイエティとは,
その規程第2条による定義によれば,
「ソサイエティは,自ソサイエティの領域ならび
に近傍領域における学問,技術の調査,研究,
604
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December
表2 ソサイエティ (S)・グループ(G)登録会員数
ソサイエティ (S) ・ グループ (G)
基礎 ・ 境界 S
通信 S
エレクトロニクス S
情報 ・ システム S
ヒューマンコミュニケーション G
合計
会員数
6,486
12,204
6,798
11,852
932
38,272
(2012 年 3 月 31 日時点)
学会の役割を考える
これは本学会と活動が重なるアメリカ発の国
の論文誌の説明を,IEICE Transactions(IEICE Trans.)
際学会IEEE(Institute of Electrical, and Electronics
の4論文誌,および他の3つの電子ジャーナル誌につ
Engineers)の出版と対比できるものとなっている。
いて,それらの刊行以来の経緯を含めて行う。
IEEEにおいても,ソサイエティという学会全体分野に
対する分科会を単位として出版活動を行い,さらに
は国際会議を企画運営している。ただ,会員数のス
3.1 英文論文誌IEICE Transactions
本学会は1976年の英文論文誌の刊行以来,着実に
それを育成し,1991年から現4ソサイエティに対応す
ケールについて次の2つの違いがある。
・I E E Eの会員数は40万超と言われているのに対し,
る4分野それぞれに1分冊を出すという4分冊化を実施
した(冊子体での分冊化は1992年)
。図1にある論文
本学会はその1割弱。
・IEEEのソサイエティの会員数は,本学会ソサイエ
名を念のため文中で記しておく:
ティサイズより大きなものも小さなものもあり,
・IEICE Trans. on Fundamentals(基礎・境界S)
ソサイエティごとの差が大きい。IEEEはソサイエ
・IEICE Trans. on Communications(通信S)
ティ数も38と多く,比較すると本学会はその1割
・IEICE Trans. on Electronics(エレクトロニクスS)
程度である。
・IEICE Trans. on Information & Systems(情報・シ
こうした事情から,本学会においてもソサイエティ
ステムS)
のサイズについて大小問わず許容して,新規開拓分
前章にあったような1995年の4ソサイエティ化に
野などの新展開を検討してみては,という提案がな
よって,独立採算化もより徹底したものになった。
されている。
4分冊化の当初,基礎・境界ソサイエティの英文論
3. 電子情報通信学会英文論文誌の現況
文誌では,小特集号企画をほぼ毎月導入することで,
英文論文誌の強化育成を実現しており,国際活動の
進展も伴ってアジア地域からの多数の投稿も獲得し
いよいよ本題である本学会英文論文誌のこれまで
の歩みと現状を紹介しよう。まず,図1に本学会が出
版している7英文論文誌を示している。以下,これら
始め,21世紀に入ると和文論文誌より英文論文誌の
方が論文を多く集めるところまで成長した。
このような英文論文誌の拡大は,各ソサイエティ
電子情報通信学会の7英文論文誌と国際会議論文集
Fundamentals
Communications
Electronics
Inform. & Syst.
7ジャーナル(1,865件、14,419ページ/2012年)
+ 国際会議論文集IEICE Proceedings Archives
図1 電子情報通信学会の2012年主要出版物
7英文論文誌と国際会議論文集を図示。
他に,4和文論文誌(525論文,5,294ページ/2012年)と会誌・技術報告・大会などがある。
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で 論 文 誌 編 集 委 員 会 を 立 ち 上 げ, 当 初8年 間 は 各
2010年より図書館向けサイトライセンスによるアク
論文誌E d i t o r(編集幹事)が論文投稿を受け付け,
セスサービスを開始している。国内サイトライセン
Associate Editors(編集委員)に割り当てるという立
スに関しては,学会組織に関する前章で述べたよう
ち上げ努力によって実現されており,投稿論文の増
に,国内図書館に対しては特殊員制度で運用してお
加とともに20世紀末にさしかかる頃には限界に達し
り,和文論文誌と対で和英のソサイエティ発行論文
つつあった。
誌を1セットとして4セットまとめてまで選択でき,
一方で,当時の投稿数の増大は和文論文誌におい
また費用が事前の3年間のアクセス数を基本としたも
ても課題であり,対策として1997年から1998年にか
のになっている。一方,海外では代理店を通しての
けて和文論文誌用の投稿論文管理システムを開発し
サイトライセンス対応となっている。国内図書館サ
ていた。それを英文論文誌用に拡張し,1999年より
イトライセンスの利用状況の特徴として,本学会の
英文論文誌の投稿も事務局で受け付けるようになっ
研究会は分野が多岐にわたることから,企業研究所
たことが,その後の英文論文誌への投稿数の増大を
などの大学・国立研究所以外の利用者が多いことが
支える大きな柱となった。さらに,この投稿論文シ
あげられる。2014年4月より論文誌の冊子体を廃止す
ステムは,21世紀初頭に論文p d f投稿受付機能を増
ることが通知されており,完全な電子ジャーナル化
強し,さらに日本語以外に英語インターフェースを
が達成される予定である。
用いての海外Associate Editorsの導入を可能として
なお,IEICE Trans. 4誌の電子化については,国立情
いる。現代では,S c h o l a r O n eなど,論文査読シス
報学研究所(NII)との連携でNII CiNii Articles注2)に
テムもシェアが大きいものが出ているが,学会制度
おいて他の会誌・技術報告などとともにスキャンデー
に基づく査読員データベースも充実しており,I E I C E
タの公開を行っている。またNII SPARC Japan注3)初
Trans. 4誌に加えて電子ジャーナルのみの論文誌とし
期の活動で1996年までのスキャンアーカイブpdfを構
て3つの論文誌を刊行する際にも同じプラットフォー
築し,刊行以来の全論文を本学会の論文公開システ
ムを用いて実現することができた。
ムで公開している。なお,
海外サイトライセンスのみ,
IEICE Trans. 4誌の電子化は,1990年代後半で論文
誌をスキャンして作成したp d fをC Dに年ごとにまと
科学技術振興機構(JST)J-STAGE注4)よりのアクセス
となっている。
めて販売することから始まった。2000年代に入り,
2006年までトライアル期間として全世界にフリーア
3.2 電子ジャーナル誌
クセスの無償電子ジャーナル公開を行った。トライ
IEICE Trans. の各誌は,近年でも多数の投稿・掲載
アル期間の間に,無償のままで誰でも登録できる方
がある一方,電子ジャーナルという形態の出現によっ
式からアクセス管理を導入し種々データ収集に努め
て,各ソサイエティでそれぞれの分野の特性も踏ま
た上,2006年より会員に対するユーザー I D,パス
えて,独自の案が出てきた。以下,そのように刊行
ワードによるアクセスモデルに切り替えた。この際,
されてきた3誌について述べる。
従来会員に対して所属ソサイエティの和英論文誌の
うち1冊を配布していたところを,冊子体配布に替え
606
3.2.1 ELEX
て所属ソサイエティの発行する和英論文誌へのアク
物理系分野ではレター論文誌による速報性が重要
セスを可能とし,3万強の会員に対する冊子体から完
であることから,エレクトロニクスソサイエティは,
全な電子ジャーナルモデルへと転換した。引き続き,
IEICE Electronics Express(ELEX)をJSTのJ-STAGEプ
国内外図書館等への冊子体販売は継続していたが,
ラットフォーム上で2004年より刊行している。刊行
学会の役割を考える
立ち上げではNIIのSPARC Japanの支援も得て,電子
の論文の掲載を可能とし,また国際性豊かな編集委
ジャーナルのみで冊子体がないジャーナルに関する
員会によって編集を行っている。
先行例となった。従来の冊子体発行では物理的に物
として論文が存在したが,電子版オンリーの刊行形
3.2.3 ComEX
態では論文は電子的情報としてのみ存在するため,
通信ソサイエティにおいては,従来から刊行して
法律やその他の事項に関して新たな注意が必要であ
いたIEICE Trans. on Communicationsにおいて多く
る。E L E Xにおいては,原本性の担保など国内外の特
のレター論文の投稿を受けていたところであり,そ
許制度や輸出管理に関する公知技術を確固たるもの
の投稿者の研究成果の迅速な出版要望に対応して,
にするため,公正証書利用の立ち上げ期間での試行
IEICE Trans. on Communicationsでのレター論文受付
を経て,p d fのチェックサムによる確保継続が行われ
を2012年6月より停止し,同時に電子版のみのレター
ている。またpdfへの色・動画などマルチメディアファ
論文誌(IEICE Communications Express: ComEX)を
イル埋め込み等,電子版のみのレター論文誌として
刊行した。速報性も重視し,半数のレター論文につ
独自の取り組みがなされている。数ページのレター
いては19日以内で査読が完了し,受理と同時に掲載
論文であることも活かし,査読過程を速報性の観点
となっている。
で整備した。その結果,速報性に関しては,投稿受
3.3 英文論文誌に関するデータ
付後およそ1か月での電子ジャーナル掲載という目標
上記の節で説明した7つの英文論文誌に関する論文
達成についても優れた実績を有している。
数などの基礎データを表3に示す。また,IEICE Trans.
on Communications,ELEXについて,掲載論文あた
3.2.2 NOLTA
りの著者国別割合の円グラフを図2に示す。
基礎・境界ソサイエティでは,非線形問題とその
応用(Nonlinear Theory and Its Applications: NOLTA)
NOLTA,IEICEのEditorial Boardの国際性の高さが
の 分 野 で, 世 界 を け ん 引 す る 活 動 を 行 っ て お り,
明確に見て取れる。現在,他ジャーナルにおいても,
N O L TA国際会議を世界各地で毎年開催してこの分野
海外編集委員の増員に取り組んでいるところであ
における世界規模のネットワークを構築してきた。
る。また,図2はジャーナル掲載論文の国際性を示し
そのような活動をもとに,2010年より電子版のみの
ている。本稿「1. はじめに」に本学会の理念を掲げ
ジャーナルとしてNOLTA,IEICEジャーナルを刊行し
たが,これら論文誌のたゆまぬ努力により多様な形
ている。ELEXとは対極的に,NOLTA,IEICEでは長文
で実現できていることがご理解いただけるかと思う。
表3 電子情報通信学会7英文論文誌の2011年発行実績
2011 年発行実績
IEICE Transactions on
A
論文数
ページ数
編集委員数
内海外委員
海外 Advisory Members
B
C
ELEX
NOLTA
ComEX
総和
D
379
526
294
306
319
42
N.A.
1,866
2,899
3,634
1,916
2,560
2,117
561
N.A.
13,687
55
68
40
64
44
61
16
348
0
3
8
6
7
37
1
62
15
11
12
11
0
0
9
58
A: Fundamentals, B: Communications, C: Electronics, D: Information and Systems.
ComEX は,2012 年 6 月刊行のため編集委員数のみ N.A.: not applicable(該当せず )
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CANADA
THAILAND
1%
IRAN
1%
1%
GERMANY
1%
TAIWAN
3%
SPAIN DENMARK
1%
0.5%
MALAYSIA
0.5%
December
others
3%
JAPAN
38%
SOUTH
KOREA
28%
others: FINLAND
FRANCE TURKEY
AUSTRALIA GREECE
IRELAND ITALY MEXICO
MONGOL NEW ZEALAND
NORWAY SINGAPORE
IEICE T. Comm. 2011年論文当たり著者国別割合
CANADA
1%
た通りである。本学会の重要な活動単位である各ソ
サイエティの財務と直結しており,論文投稿を学会
USA
4%
CHINA
19%
MEXICO
1%
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ENGLAND PAKISTAN
1%
1%
USA
3%
MALAYSIA
4%
TAIWAN
5%
others
4% others: BELGIUM SPAIN
SWEDEN SWITZERLAND
SOUTH GERMANY INDIA
IRELAND NORWAY
KOREA
SAUDI ARABIA
SINGAPORE
28%
THAILAND
CHINA
13%
活動の主な目的としない会員に対するサービスの観
点も考慮して,これまで着実にグリーンロードを歩
んできた。そこでは,情報システムとして会員認証
基盤の開発が不可欠であり,さらに広く学会員サー
ビス実現のためシングルサインオン認証を導入して
いる。これにより,会員は論文にアクセスするのと
同時に,投稿時に会員情報連携を通してより容易に
投稿可能であり,他のマイページサービスなど今後
より充実する予定のサービスを受けることができる。
他のELEX,NOLTA,ComEXは当面読者に無料での
フリーアクセスを実現しており,ゴールドの道を歩
IRAN
17%
JAPAN
22%
ELEX 2011年論文当たり著者国別割合
図2 IEICE T.Comm. ELEXの2011年論文当たり
著者国別割合
んでいる。現時点のビジネスモデルとしては,著者
からの論文掲載料負担(かつての冊子体の論文別刷
費でない)と,学会出版側からの支援によってどう
にか収支が釣り合う形での運用となっている。ELEX,
ComEXでは著者のうち1名が会員であることが要件と
されており,N O LT Aでは会員向けに若干の論文掲載
3.4 オープンアクセス
料減がされている。ELEX,ComEXのレター論文誌で
これら7英文論文誌に関して,電子情報通信学会と
は,レターでページ数が限られる一方,論文の書誌
しては,オープンアクセス実現に向け2つの方向から
情報は通常のフルペーパーと同程度の負担になるこ
取り組んでいる。
とが確認されている。N O LT Aではフルペーパーを主
I E I C E T r a n s . の4誌については,機関リポジトリフ
体としており,編集過程の検討などによって,電子
レンドリーな著作権規程により,著者の立場を最大
ジャーナルであることを活用して論文の長さによら
限尊重して,IEICE Trans. 出版pdfを,著作権に関する
ず定額の論文掲載料が設定されているという特徴が
表示をする条件のもと,公開猶予(e m b a r g o)期間
ある。
なしで所属機関リポジトリへの掲載を認めている。
2003年の著作権規程制定時より,1つの論文について
種々の版がでることを避けるため,採択され出版さ
電子情報通信の分野では,ジャーナル論文の投稿
れた学会出版版を著者が使うことを想定した。この
から掲載まで時間がかかる点もあり,研究成果を速報
ような対応は,Budapest Open Access Initiative注5)の
してまた国際交流するための国際会議の会議録論文
オープンアクセス分類でいうところのグリーン,ゴー
が非常に重要な役割を果たしている。この分野の2大
ルドのアプローチに関して,これら4誌は機関リポジ
電子図書館IEEE Xplore注6),ACM Digital Library注7)で
トリを通じてのオープンアクセス実現を目指し,完
は,通常のジャーナル以外に多数の国際会議録が収
全にグリーンな対応をしていることとなる。
録され(IEEE Xploreでジャーナル160・国際会議1,200・
IEICE Trans. のビジネスモデルについては2章に述べ
608
3.5 IEICE Proceedingsジャーナル
標準3,800・電子ブック1,000・教育課程300など)
,国
学会の役割を考える
際会議でもいわゆるトップコンファレンスと認識され
ままインターネットに展開している現状であり,そ
るものの会議録に論文が採択・掲載されることが高い
れぞれの論文個別の書誌情報などが独立しておらず,
評価を受けることになる。このことは,違う分野の論
ジャーナル的情報発信機能が具備できていないの
文誌のインパクトファクターを比較するのはあまり意
が弱点になっていた。上記動向も踏まえ,電子情報
味がないように,電子情報通信分野の研究開発成果
通信分野における日本発の新形態ジャーナルとして
を評価する上で忘れてはならない点である。
IEICE Proceedings(仮称)の新規刊行の実現を目指
また,メガジャーナルや会議ジャーナルなどの活
している。これにより,アジアを中心に世界規模で
発な取り組みも注目に値する。生物系分野のP L O S
開催している本会の査読付き会議論文を包括的に情
ONEをはじめとした種々のメガジャーナルに加えIEEE
報発信することが可能になり,分野特有の国際学術
A c c e s sも刊行され,a r X i vプレプリントサーバーな
情報発信がさらに促進されることが期待される。
ど巨大なサービスも出現している。また,電子情報
通信分野では国際会議に連動したジャーナル(デー
4. おわりに
タベース分野V L D B会議に対するV L D B J o u r n a lやグ
ラフィックス分野SIGGRAPHに対するACM Trans. on
電子情報通信学会からの国際学術情報発信につい
G r a p h i c sなど)もあり,さらに分野を広げてみれば
て,多くの学会員が尽力している。学会組織・活動
英国物理学会のJournal of Physics: Conference Series
と直結した学術情報発信のビジネスモデル展開と,
(The open-access journal for conferences),World
実際の電子ジャーナル展開とについて,その過程と
ScientificのInternational Journal of Modern Physics:
ともに筆者の限られた見聞に基づいてであるが記し
Conference Seriesも刊行されている。
てきた。これまでの学会の取り組みとして,著者の
本学会においては,本会が主催・著作権を有する
立場に配慮し,また社会における広範囲の読者・ユー
国際会議の論文を軸に学会の国際展開を図る基盤と
ザーのニーズも常に意識しながら,将来にわたり長
してIEICE Proceedings Archivesを運用中であるが,
く持続可能なビジネスモデル・情報技術を模索して
現状では国際会議の際に配布するD V D会議録をその
きた実績が,何らかの役に立つことを期待している。
本文の注
注1) 電子情報通信学会. http://www.ieice.org/
注2) 国立情報学研究所. CiNii. http://ci.nii.ac.jp/
注3) 国立情報学研究所. SPARC Japan. http://www.nii.ac.jp/sparc/
注4) 科学技術振興機構. J-STAGE. https://www.jstage.jst.go.jp/
注5) Budapest Open Access Initiative. http://www.soros.org/openaccess/
注6) IEEE Xplore. http://ieeexplore.ieee.org/Xplore/home.jsp
注7) ACM Digital Library. http://dl.acm.org/
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609
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JOHO KANRI
2013
vol.56 no.9
Journal of Information Processing and Management
December
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Author Abstract
Global scholarly communications have been made with a variety of tools such as electronic journals via
internet nowadays. The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers (IEICE) promotes
the field of communication, electronics and information systems, and has been steadily active in global
publications to enhance global collaborations, since the IEICE Transactions, an English journal, was founded in
1976. Now IEICE publishes seven English journals in various fields, with emphasis on electronic journals and
their open access at this point. This paper describes, from the viewpoint of the author, business models, status
and issues of these journals, and touches upon some new approaches to proceed further.
Keywords
global scholarly communications, journal in English, electronic journal, open access, business model
610
日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(2)
日本版N I H創設に向けた新しい指標の
開発(2)
テクノロジー別にみた医薬品開発の現状俯瞰・
将来予測
Development of new indicators for the launch of a Japanese version of the NIH (2)
A technology-specific overview and future prospects of pharmaceutical industry
長部 喜幸1,2 治部 眞里3,4,5
OSABE Yoshiyuki1, 2; JIBU Mari3, 4, 5
1 経済協力開発機構(2, rue Andre-Pascal, 75775, Paris, CEDEX 16, France) Tel: 33(0) 1 45 24 93 84 E-mail: yoshiyuki.osabe@
oecd.org
2 日本特許庁(〒100-8915 東京都千代田区霞が関3-4-3)
Tel: 03-3581-1101 E-mail: [email protected]
3 経済協力開発機構(2, rue Andre-Pascal, 75775, Paris, CEDEX 16, France) Tel: 33(0) 1 45 24 93 54 E-mail: mari.jibu@oecd.
org
4 独立行政法人科学技術振興機構(〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3)
Tel: 03-5214-8402 E-mail: [email protected]
5 同志社大学 技術・企業・国際競争力研究センター(〒602-8580 京都市上京区今出川烏丸東入寒梅館3階)
TEL: 075-2513779
1 The Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD) (2, rue Andre-Pascal, 75775, Paris, CEDEX 16, France)
2 Japan Patent Office (3-4-3 Kasumigaseki Chiyoda-ku, Tokyo 100-8915)
3 The Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD) (2, rue Andre-Pascal, 75775, Paris, CEDEX 16, France)
4 Institute for Technology, Enterprise and Competitiveness, Japan Science and Technology Agency (JST) (5-3 Yonbancho
Chiyoda-ku, Tokyo 102-8666)
5 Doshisha University (Third Floor, Kambaikan Karasuma-Imadegawa Kamigyo-ku, Kyoto 602-8580)
原稿受理(2013-09-26)
情報管理 56(9), 611-621, doi: 10.1241/johokanri.56.611 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.611)
著者抄録
日本版 N I H や製薬企業における,政策決定・戦略立案に資するエビデンス提供のため,新しい指標に基づいた医薬品
産業の現状俯瞰・将来予測を試みた。今回は,今後の成長が期待されるバイオ医薬品に着目し,各テクノロジーの観
点から各国の長所・短所を分析した。その結果,バイオ医薬品の研究開発における米国の優位性が改めて認識された。
また,日本の研究開発においても,一部の分野で期待が持てることを示した。
キーワード
日本版N I H,医薬品,パイプライン,指標,研究開発,低分子化合物,バイオ医薬品,バイオテクノロジー,客観的根
拠に基づく政策
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611
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2013
vol.56 no.9
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図1:世界の大型医薬品50品目の推移
December
Journal of Information Processing and Management
出所)厚生労働省, "医薬品産業ビジョン2013"を基に作成
(百万ドル)
2005
24526
132208
バイオ医薬品
低分子医薬品
1. はじめに
2006
35816
138741
2007
48689
144480
2008
56658
146065
2009
60992
152399
2010
70832
153307
180,000 百万ドル
バイオ医薬品
160,000
低分子医薬品
140,000
前回において,各製薬企業が有する研究開発パイ
プラインに着目することで,各国の現在及び将来に
おける新薬創出力が把握できることを示した。その
結果,米国の優位性,日本の特異性などが明らかに
なった(詳細は前回10月号の論文を参照のこと)
。特
に日本は低分子医薬品に重点がおかれているのに対
し,欧州諸国での研究開発は,バイオ医薬品へとシ
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
出典:厚生労働省 "医薬品産業ビジョン2013"を基に作成
出典
: 厚生労働省 “医薬品産業ビジョン2013” を基に作成
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shinkou/vision_2013.html
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/
shinkou/vision_2013.html
図1 世界の大型医薬品50品目の推移
フトしていることが見られた。そこで今回は,今後
図1 世界の大型医薬品50品目の推移
の成長が期待されるバイオ医薬品に着目し,各テク
ノロジーの観点から医薬品開発の現状俯瞰・将来予
バイオ医薬品は構造が複雑なことや,製造にあたり
測を試みた。
細胞大量培養技術や精製技術などのさまざまな技術・
なお本稿は,著者の私見であり,著者が所属する
ノウハウが必要なために,途上国の参入障壁が比較
機関の意見・見解を表明するものではない点にご留
的高い。途上国との差別化を図るためにも,次世代
意願いたい。
医薬品たるバイオ医薬品の新薬開発は,先進国にとっ
て重要な課題といえる。日本版N I Hの役割としても,
2. バイオ医薬品とは
バイオ医薬品開発の検討は重要な事項であり,各テ
クノロジーの観点からバイオ医薬品開発の現状俯瞰・
まず,バイオ医薬品について簡単に紹介したい。
バイオ医薬品とは,D N A組換え技術,細胞大量培養
将来予測をすることで,日本の課題がみえてくると
考えられる。
s0005図1.xlsx
法などの技術(バイオテクノロジー)を用いることで
前回,われわれはバイオ医薬品について,各国の
製造される医薬品のことである。ワクチン,
抗体医薬,
医薬品数・パイプライン数を示し,米国が「市販」
遺伝子治療,細胞治療などがバイオ医薬品に含まれ,
数や他の開発段階におけるパイプライン数において
低分子医薬品に比して,分子量が大きくかつ複雑な
他国を圧倒していることを示した(図2(前報の図9
注1)
。また,従来の医薬
再掲)
)
。今回は,バイオ医薬品について,利用する
品では満足できる治療効果の得られない疾患に対す
テクノロジー別に分けることで,詳細な分析を試み
る創薬が期待でき,米国市場などをはじめ各国市場
る。
構造を有するのが特徴である
において,バイオ医薬品の売り上げ比率は今後大き
く拡大することが期待されている(図1,表1)
。
3. バイオ医薬品の分類及び進展
また,低分子医薬品は,製造が比較的簡単である
ことから,途上国等の参入が容易であるのに対し,
バイオ医薬品の分類に世界的な基準や定義はなく,
表1 世界の大型医薬品50品目(バイオ医薬品と低分子医薬品の比率)
バイオ医薬品比率
低分子医薬品比率
2005 年
15.6%
84.4%
2006 年
20.5%
79.5%
2007 年
25.2%
74.8%
2008 年
27.9%
72.1%
2009 年
28.6%
71.4%
出典 : 厚生労働省 “医薬品産業ビジョン2013” を基に作成
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shinkou/vision_2013.html
612
2010 年
31.6%
68.4%
2011 年
34.0%
66.0%
2011
78301
151961
日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(2)
1,600
パイプライン数
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
フランス
ドイツ
日本
韓国
スイス
英国
米国
非臨床試験
93
108
154
109
108
153
1521
フェーズ1
35
43
68
43
64
85
572
フェーズ2
73
74
94
37
73
113
537
フェーズ3
17
20
31
24
23
31
155
承認申請
5
1
15
2
5
7
25
承認
2
8
3
2
6
5
市販
115
145
109
98
82
318
50
出典 : Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成
図2 各国の医薬品数・パイプライン数(バイオ医薬品)
研究者によっても解釈に幅があるのが現状だが,本
(4)細胞治療(Cell therapy)
稿では,Evaluate社のデータベースEvaluatePharma
細胞を患部に導入することにより病気を治療する
に定義された分類を用いる。以下に分類とその概要
方法。骨髄移植,皮膚移植,及び感染病の治療のた
を示す。なお,各分類の詳細な定義については文末
めの特定の白血球群の使用など。
の注釈(本文の注)を参照されたい注2)。
(1)組換えタンパク質(Recombinant product)
遺伝子操作によって動物細胞等のD N Aの一部に目
(5)複合モノクローナル抗体(Monoclonal antibody
(Conjugated)
)
モノクローナル抗体と,化学療法薬,放射性粒子,
的とする遺伝子を導入し,治療に必要な目的物質を
または毒素(細胞に害を与える物質)とが結合した
生合成させて製造した製剤のこと。
製剤。モノクローナル抗体は,それら物質を身体の
(2)遺伝子組換えワクチン(Bioengineered vaccine)
バイオテクノロジー技術によって,副作用などを
除外したワクチン製剤。インフルエンザなどの感染
体に対するワクチン製剤に加え,がんを対象とした
ワクチン製剤も含む。
(3)モノクローナル抗体(Monoclonal antibody)
体内に侵入してきた細菌・ウイルスなどを特異的
に認識し体外に排除する機能を有する「抗体」を有
効成分とする製剤。細菌・ウイルスなどのターゲッ
トに対する免疫反応を刺激することなどにより薬効
を発揮する。また,抗体のフラグメントを有効成分
とするものも含まれる。
特定部位(例えば腫瘍部位など)へと運ぶ運搬体と
して使用される。
(6)DNA及びRNA治療(DNA & RNA therapeutics)
D N A,R N A,またはその類似体などを有効成分と
する製剤。この分類には,アンチセンス薬,マイク
ロRNA(miRNA)及びスモールRNA干渉(siRNA)薬,
アプタマー薬などが含まれる。
(7)遺伝子治療(Gene therapy)
機能欠損または機能不全の遺伝子を,正常な遺伝
子に置換等することにより,病気を治療する製剤。
上記バイオ医薬品の歴史と照らし合わせると,第1
世代には(1)組換えタンパク質及び(2)遺伝子組換
えワクチンが,第2世代には(3)モノクローナル抗体
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613
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2013
vol.56 no.9
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が,第3世代またはそれ以降には(4)細胞治療,
(5)
体は市販されているとはいえ,全体で約100の医薬品
複合モノクローナル抗体,(6)DNA及びRNA治療,及
が市販に至った程度である。そして,第3世代以降の
び(7)遺伝子治療が該当する。
ものは未だ「市販」数が少なく,第3世代以降に使用
バイオ医薬品は,バイオテクノロジーが発展して
きた1980年代に実現が可能となった医薬品分野であ
り,米国のEli Lilly and Companyが大腸菌や酵母に
「ヒトのInsulin(インスリン)遺伝子」を導入するこ
とでヒト型のI n s u l i nを大量生産することに成功し,
されているバイオテクノロジーは,医薬品分野での
実用化が今まさに行われつつあることがわかる。
次章から世代ごとに各国の開発状況を分析する。
4. 第1世代の分析
1982年に「世界初のバイオ医薬品」としてI n s u l i n製
剤の販売を開始した注3)。1990年代に入ると,Insulin
まず,第1世代について見てみたい。図4に,
(1)組
と同様の手法により,他のバイオ医薬品も次第に上
換えタンパク質の医薬品数・パイプライン数を示し
市されていった。2000年を迎えるころには,第2世代
た(米国のデータの一部がグラフ枠外に出ているこ
のバイオ医薬品として,「抗体医薬品」が登場した。
とに留意されたい)
。
現在は,第3世代のバイオ医薬品開発も進んでいる。
このバイオ医薬品の発展は,「市販」数によく表れ
ている。
米国は,他国に比して,
「市販」数もパイプライン
数も圧倒的に多い。米国は現在及び将来においても,
新薬創出力の優位性を維持するといえる。
図3は,フランス,ドイツ,日本,韓国,スイス,英国,
一方,日本は,「市販」数では米国に次いで第2位
及び米国のバイオ医薬品の「市販」数を合計し,上
であるが,パイプライン数は他国と同程度またはそ
記バイオ医薬品の分類ごとに整理したものである。
れ以下となっている。特に「非臨床試験」数は図4に
図3を見ると,第1世代の市販数が最も多く,第2世代,
あげた国の中で最も少ない。また,低分子医薬品と
第3世代になるにつれ市販数が減っている。一般的に,
同様に,
「フェーズ2」などの治験の方が「非臨床試験」
早く実用化に至った分野がより多くの市販品を世に
より多いことから,同分野の将来性は危ういと予想
出し得ることから,第1世代,第2世代,第3世代の順
される(パイプライン数からの将来性予測について
に実用化に至っていると推測される。すなわち,第1
は,前報の「3. 低分子化合物医薬品の分析」を参照
世代の(1)組換えタンパク質,及び(2)遺伝子組換
されたい)
。
注4)
,次に,第2世代の(3)モ
また,韓国の「非臨床試験」が米国に次いで大き
ノクローナル抗体が続いている。モノクローナル抗
いことから,韓国では「組換えタンパク質」におい
えワクチンが最も多く
160
市販数
227
パイプライン数
400
140
350
120
300
非臨床試験
組換えタンパク質
遺伝子組換えワクチン
250
モノクローナル抗体
細胞治療
200
複合モノクローナル抗体
100
フェーズ1
フェーズ2
80
フェーズ3
60
承認申請
DNA及びRNA治療
150
遺伝子治療
100
承認
40
市販
その他
20
50
0
フランス
0
第1世代
第2世代
Pharmaを基に作成
出典 : 出典:Evaluate社 Evaluate
Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成
図3 各種バイオ医薬品の市販数
図3 各種バイオ医薬品の市販数
614
ドイツ
日本
韓国
スイス
英国
米国
第3世代
Pharmaを基に作成
出典出典:Evaluate社のEvaluate
: Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成
図4 医薬品数・パイプライン数(組換えタンパク質)
図4 医薬品数・パイプライン数(組換えタンパク質)
(米国のデータの一部がグラフ枠外に出ていることに留意されたい)
日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(2)
て新薬創出が期待できると考えられる。
い(図6)。
次に,図5に,
(2)遺伝子組換えワクチンの医薬品数・
パイプライン数を示した(米国のデータの一部がグ
5. 第2世代の分析
ラフ枠外に出ていることに留意されたい)。
遺伝子組換えワクチンの「市販」数において,フ
次に,第2世代について見てみたい。図7に,
(3)モ
ランスが米国と同数であることは注目すべきことで
ノクローナル抗体の医薬品数・パイプライン数を示
ある。さらにフランスは,前報で述べたように,研
した(米国のデータの一部がグラフ枠外に出ている
究開発の次の段階に移行するにつれパイプライン数
ことに留意されたい)
。
第1世代の2つの分類のバイオ医薬品と同様に,米
が減少するというパターンとも異なる。
ワクチン普及のために,ヨーロッパ医薬品庁(EMA)
は安全性や有効性に関するデータ提出を簡略化する
1) を示しており,フランスは政策的にその方針
方針
の影響を受けていると考えられる。
国は「市販」数及びパイプライン数ともに他国を圧
倒している。この分野においても,米国は将来の優
位性を維持するものといえる。
一方,
(1)組換えタンパク質及び(2)遺伝子組換
フランス以外の欧州各国においても他のテクノロ
えワクチンにおける現状と比較すればという条件付
ジー分野とは違ったパターンを示している。例えば,
きではあるものの,日本は,(3)モノクローナル抗体
ドイツの「市販」数は極端に少なく,英国やスイス
の分野では比較的健闘しているといえるのではない
も他分野(例えば,組換えタンパク質)に比して,
か。「非臨床試験」数も米国を除く他国と同程度であ
日本や韓国と同程度またはそれ以上の医薬品数・パ
るし,治験数もさほど見劣りはしない。
イプライン数となっている。
世界初の抗体医薬品は,米国Genentech社が開発し
また,(2)遺伝子組換えワクチンは,大きく2つに
た「Trastuzumab(トラスツズマブ)
」であり,2001
分けられる。公衆衛生上,安全な飲料水の供給に次
年の承認であったのに対し,日本初の抗体医薬品は,
いで人間の死亡率を大きく減少させ,個人に投与し
中外製薬と大阪大学が共同開発した「Tocilizumab(ト
ながらも集団を防衛することができるような疾患に
シリズマブ)
」であり2005年の承認である。抗体技術
対するものと,肝炎やがん等特定の疾患に対するも
の医薬品への実用化という観点では数年程度の差であ
のである。日本は,肝炎やがん等特定の疾患に対す
る。また,日本には,協和発酵キリンのPotelligent注5)
る(2)遺伝子組換えワクチンのパイプライン数が多
や中外製薬のS M A R T - I g注6)などの革新的抗体改変技
術を有する企業も存在し,ある程度の期待を持てる分
164 386
パイプライン数
160
野といえる。
140
120
非臨床試験
100
フェーズ1
6. 第3世代以降の分析
フェーズ2
80
フェーズ3
承認申請
60
承認
最後に,第3世代以降の分野(
(4)細胞治療,
(5)
市販
40
複合モノクローナル抗体,
(6)DNA及びRNA治療,及
20
び(7)遺伝子治療)の医薬品数・パイプライン数を
0
フランス
ドイツ
日本
韓国
スイス
英国
米国
出典 出典:Evaluate社 Evaluate
: Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成
Pharmaを基に作成
図5 医薬品数・パイプライン数(遺伝子組換えワクチン)
図5 医薬品数・パイプライン数(遺伝子組換えワクチン)
(米国のデータの一部がグラフ枠外に出ていることに留意されたい)
見てみたい(図8 ~図11)(米国のデータの一部がグ
ラフ枠外に出ていることに留意されたい)
。
これらの分野に関しては,パイプライン数が少な
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市販数/ パイプライン数
180 293
140
120
ジフテリア, 百日咳, 破傷風, 麻疹,
おたふく風邪, 及び風疹
100
呼吸器疾患(インフルエンザなど)
80
肝炎及びがん
下痢性疾患, 動物媒介性疾患,
寄生虫症, 及びエンテロウイルス
60
性感染症
40
その他
20
パイプライン
市販
英国
パイプライン
スイス
市販
パイプライン
韓国
市販
日本
パイプライン
市販
ドイツ
パイプライン
市販
パイプライン
フランス
市販
パイプライン
市販
0
米国
出典
: Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成
出典:Evaluate社 Evaluate
Pharmaを基に作成
図6 遺伝子組換えワクチンの医薬品数・パイプライン数(疾患別)
図6 遺伝子組換えワクチンの医薬品数・パイプライン数(疾患別)
(米国のデータの一部がグラフ枠外に出ていることに留意されたい)
パイプライン数
160
に基づく細胞治療の分野における出願人国籍別の特
260
許出願数を示している。ここで,特許出願数とは特
140
120
許ファミリー数であり,出願人国籍が複数国にまた
非臨床試験
100
フェーズ1
フェーズ2
80
がる場合は,それぞれの国籍をカウントしている。
フェーズ3
承認申請
60
図13は,細胞治療と密接に関連する技術分野である
承認
40
市販
幹細胞関連技術における,国別論文数を示している。
20
0
フランス
ドイツ
日本
韓国
スイス
英国
なお,米国以外は第2軸を使用している。
米国
Pharmaを基に作成
出典出典:Evaluate社 Evaluate
: Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成
図7 医薬品数・パイプライン数(モノクローナル抗体)
日本の特許出願数は,米国には及ばないものの,
図7 医薬品数・パイプライン数(モノクローナル抗体)
ドイツに次ぎ世界第3位の地位を保持している。1991
(米国のデータの一部がグラフ枠外に出ていることに留意されたい)
年から2001年の特許出願数に比べ,2002年から2012
いため現時点で分析を行うのは困難であるが,その
年の特許出願数の伸び率は米国,ドイツよりも大き
ような状況でも,各分野における米国の優位性は際
い。論文数をみると,2006年までは米国に次いで多
立っている。米国は第1世代から始まり,バイオ医薬
かったが,2007年には中国に,2009年にはドイツに
品のあらゆる分野において新薬創出力を有し,また
抜かれている。この分野は山中伸弥教授が2012年に
将来においてもその優位性を維持するといえる。
「成熟細胞が初期化され,多能性を獲得しうる現象の
一方,米国を除く他国と日本とを比較すると,細
発見」でノーベル医学生理学賞を受賞し,日本が先
胞治療において日本の「非臨床試験」数が群を抜い
駆的立場にいるにもかかわらず,中国やドイツの伸
ている(図8)。当分野は,2006年に京都大学の山中
びに鑑みると,さらなる支援が必要と考えられる。
伸弥教授らにより世界に先駆けて報告された人工多
さらに,
「市販」数において,日本は米国のみなら
能性幹細胞の研究2) などがあり,日本の基礎研究は
ず韓国にも後れをとっている(図8)
。特に,
韓国は「非
s0005図6.xlsx
注7)
トップクラスにあるといえる。図12は,PATSTAT
s0005図7.xlsx
616
臨床試験」数は少ないものの,特許出願数の伸び率
日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(2)
パイプライン数
パイプライン数
120
60
188
60
50
50
非臨床試験
40
フェーズ1
40
非臨床試験
フェーズ1
フェーズ2
30
フェーズ3
30
フェーズ2
承認申請
20
承認
フェーズ3
20
市販
市販
10
10
0
フランス
ドイツ
日本
韓国
スイス
英国
0
米国
フランス
日本
韓国
スイス
英国
米国
出典 : Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成
出典 : Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成
図10 医薬品数・パイプライン数(DNA及びRNA治療)
図8 医薬品数・パイプライン数(細胞治療)
(米国のデータの一部がグラフ枠外に出ていることに留意されたい)
(米国のデータの一部がグラフ枠外に出ていることに留意されたい)
パイプライン数
60
ドイツ
出典:Evaluate社 Evaluate Pharmaを基に作成
図10 医薬品数・パイプライン数(DNA及びRNA治療)
出典:Evaluate社 Evaluate Pharmaを基に作成
図8 医薬品数・パイプライン数(細胞治療)
90
71
パイプライン数
80
50
70
非臨床試験
非臨床試験
40
60
フェーズ1
50
フェーズ2
フェーズ1
フェーズ2
30
フェーズ3
承認申請
20
市販
10
フェーズ3
40
承認申請
承認
30
市販
20
10
0
フランス
ドイツ
日本
韓国
スイス
英国
米国
0
フランス
出典:Evaluate社 Evaluate Pharmaを基に作成
図9 医薬品数・パイプライン数(複合モノクローナル抗体)
出典 : Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成
ドイツ
日本
韓国
スイス
英国
米国
出典
: Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成
出典:Evaluate社 Evaluate
Pharmaを基に作成
図11 医薬品数・パイプライン数(遺伝子治療)
図9 医薬品数・パイプライン数(複合モノクローナル抗体)
(米国のデータの一部がグラフ枠外に出ていることに留意されたい)
(図12)
,論文数(図13)も2012年にはフランスに次
s0005図8.xlsx
ぎ世界第7位まで上昇していることを鑑みると,基礎
研究が今後ますます発展する可能性がある。さらに,
図11 医薬品数・パイプライン数(遺伝子治療)
s0005図10.xlsx
ない状態にあるといえる。これは日本にとって1つの
好機といえる。
なぜなら,
(5)複合モノクローナル抗体は,
(3)モ
韓国には,再生医療製品を対象とした市販後臨床試
ノクローナル抗体と,化学療法薬,放射性粒子,ま
験実施条件付き品目許可制度があり,再生医療の実
たは毒素とが結合した製剤である。前報で述べたよ
3)
。図8における「市販」
用化の促進が行われている
うに,化学療法薬(すなわち低分子医薬品)は,将
数が日本よりも多い点は,上記のような韓国政府の
来に不安はあるものの現時点では日本が優位性を有
政策的誘導によるものと考えられる。
している分野であり,また,モノクローナル抗体も
細胞治療分野における日本の研究開発の初期段階
における優位性も危なくなりつつある昨今,韓国の
s0005図9.xlsx
上記のとおり,日本には優れた技術が存在するから
である。
例のように,研究開発の促進や薬事規制の改正も含
低分子医薬品及びモノクローナル抗体の両者にお
め,この優位性を実用化の段階まで維持するための
いて不安要素はあるものの,
(5)複合モノクローナ
方策を検討することが,日本版NIHの実施にあたって
ル抗体の分野は,日本の技術力を生かすことができ,
の課題の1つではないだろうか。
かつ他国(米国を除く)が未だ進出していない,数
また,図9を見ると,(5)複合モノクローナル抗体
s0005図11.xlsx
少ない分野といえる。
については,パイプラインを数多く有している国は
したがって,日本版NIHが中心となり,大手製薬企
米国以外にはなく,各国とも研究開発を始めて間も
業が有する低分子医薬品に関する技術,及び中堅製
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617
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JOHO KANRI
2013
vol.56 no.9
特許数
2,000
http://johokanri.jp/
December
Journal of Information Processing and Management
1991-2001
2002-2012
5899 5323
1,800
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
出典 : PATSTATに基づきOECDが集計
出典:PATSTATに基づきOECDが集計
図12 出願人国籍別特許出願数
図12 細胞治療の分野における出願人国籍別特許出願数
(米国のデータの一部がグラフ枠外に出ていることに留意されたい)
論文数
7,000
米国
中国
ドイツ
日本
英国
イタリア
フランス
韓国
カナダ
スペイン
オーストラリア
オランダ
インド
スイス
スウェーデン
3,500
6,000
3,000
5,000
2,500
4,000
2,000
3,000
1,500
2,000
1,000
1,000
s0005図12.xlsx
0
0
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
出典 : Elsevier社 Scopus Custom Dataに基づきOECDが集計
出典:Elsevier社 Scopus Custom Dataに基づきOECDが集計
図13 国別論文数
図13 幹細胞関連技術における国別論文数
618
500
アイルランド
中国
オーストリア
スペイン
デンマーク
オランダ
ベルギー
スウェーデン
イタリア
オーストラリア
スイス
韓国
英国
イスラエル
カナダ
フランス
日本
ドイツ
米国
0
日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(2)
薬企業が有するモノクローナル抗体の革新的技術を
各国は他のテクノロジー分野とは違った動向を示
合わせることで,当分野において日本の優位性を獲
している。
得する可能性がある。
このように,日本に散在する優れた技術を見いだ
・第2世代のモノクローナル抗体において,日本は
比較的健闘しているといえる。
し,それらを融合することで新たな付加価値を創造
・第3世代以降において,細胞治療において日本の
し,その際には知的財産権の調整なども行うといっ
ある程度の優位性が垣間見られる。日本は,
「非
た医療分野の総合的な研究開発マネージメントを行
臨床試験」数,特許出願数,及び論文数などの数
うことも日本版NIHの課題の1つではないだろうか。
は多く,基礎研究はトップクラスにあるといえ
7. おわりに
る。一方で,「市販」数において,日本は米国の
みならず韓国にも後れをとっている。
・複合モノクローナル抗体の研究開発は日本にとっ
今回,われわれは,今後の成長が期待されるバイ
て1つの好機といえるのではないか。
オ医薬品に着目し,各テクノロジーの観点から医薬
品開発の現状俯瞰・将来予測を試みた。その結果,
以下の事項を示した。
・米国はバイオ医薬品のあらゆる分野において新薬
創出力を有し,また将来においてもその優位性を
維持する。
謝辞
なお,本研究の一部は独立行政法人科学技術振興
機構(J S T)戦略的創造研究推進事業(社会技術研究
開発)
「科学技術イノベーション政策のための科学」
(プログラム総括:森田朗・学習院大学法学部教授)
・第1世代の組換えタンパク質において,低分子医
における研究課題「未来産業創造にむかうイノベー
薬品と同様に,日本の将来性は危ういと予想され
ション戦略の研究」(山口栄一・同志社大学大学院総
る。
合政策科学研究科教授,研究期間:平成23 ~ 26年度)
・第1世代の遺伝子組換えワクチンにおいて,欧州
の支援を受けて行われたものである。
本文の注
注1) 例えば,代表的な低分子医薬品のA s p i r i nは,21原子からなり180の分子量を有するのに対し,バイオ
医薬品の代表例であるHerceptinは,約20,000原子からなり約148,000の分子量を有する。
注2) Evaluate社のデータベースEvaluatePharmaにおける,バイオ医薬品の定義は以下のとおり。
(1) Recombinant product
Proteins prepared by recombinant DNA technology, which is a series of procedures used to join
together (recombine) DNA segments from 2 or more different DNA molecules. These recombinant
DNA molecules are inserted into the chromosomes of cells where they are translated into proteins.
(2) Bioengineered vaccine
The use of biotechnology to modify the components of conventional vaccines (e. g. attenuated
viruses) or to synthetically engineer new vaccine components, often to remove potential side - effects
of using 'real' micro - organisms/molecules. In addition to vaccines against infectious agents, this
category includes cancer vaccines.
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619
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JOHO KANRI
2013
vol.56 no.9
Journal of Information Processing and Management
December
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(3) Monoclonal antibody
An antibody that is mass produced in the laboratory from a single clone and that recognises only
one antigen. Monoclonal antibodies are typically made by fusing a normally short-lived, antibody producing B cell to a fast-growing cell, such as a cancer cell. The resulting hybrid cell multiplies rapidly,
creating a clone that produces large quantities of the antibody which is highly specific for its antigen
target. Monoclonal antibodies which are naked, i.e. have no other molecule attached, are used to
either stimulate an immune response against the target or block the function of the target. Also
includes Monoclonal antibody fragments, such as the binding areas of the antibody. Does not include
polyclonal antibodies, which are classified as Protein extract.
(4) Cell therapy
The use of cells to treat disease. Cells are introduced into a tissue or organ that is damaged or diseased.
These cells then regenerate the damaged tissue around them or generate new cells to replace those
lost or damaged. Examples include blood transfusion, bone marrow transplantation, skin grafting and
the use of specific white blood cell populations to treat infectious disease.
(5) Monoclonal antibody (Conjugated)
Conjugated monoclonal antibodies are monoclonal antibodies joined to a chemotherapy drug,
radioactive particle, or a toxin (a substance that poisons cells), and used as delivery vehicles for these
substances, delivering them to a specific part of the body, e. g. a tumour, where they are needed most.
(6) DNA & RNA therapeutics
The therapeutic use of DNA, RNA or oligonucleotide analogues to treat disease. This category includes
all the below drugs:
・Antisense drugs - small, chemically modified strands of DNA that block mRNA translation preventing
the synthesis of unwanted proteins.
・microRNA (miRNA) and small interfering RNA (siRNA) drugs - small nucleic acid molecules that affect
gene experession by binding to mRNA.
・Aptamer drugs - nucleic acid molecules that interfere with cell signalling by binding to target
molecules.
(7) Gene therapy
The treatment of disease by replacing, manipulating, or supplementing non-functional or
misfunctioning genes with healthy genes. Therapeutic genes are usually delivered to the patient
through a weakened virus that transports the genes into the nuclei of blood cells.
注3) なお,低分子医薬品における世界初の合成医薬品はAspirin(アスピリン)であり,1899年に販売が開
始された。
注4) 第1世代は数が多いとはいえ,低分子医薬品の「市販」数に比べれば非常に少ない。例えば,低分子
医薬品の「市販」数は,米国が4,493,日本が2,691である(前報参照)
。
注5) 抗体の一部分を取り除くことで,抗体のADCC(Antibody-Dependent Cellular Cytotoxicity:抗体依存
性細胞傷害)機能を向上させる技術。従来の抗体に比べ100倍以上高い抗腫瘍効果を発揮できるとい
われている。http://www.kyowa-kirin.co.jp/antibody/kyowakirin_antibody/enhanced_ab.html
注6) 抗体が繰り返し作用すること(リサイクリング抗体)及び抗体が疾病の原因物質を血液中から除去す
ること(スイーピング抗体)を可能にし,従来では狙うことができなかった製品プロファイルを達成
する技術。http://www.chugai-pharm.co.jp/html/meeting/pdf/121218jPresentation.pdf
注7) 世界80か国以上から収集された約70,000の出願情報を有する特許データベース。http://www.epo.org/
searching/subscription/patstat-online.html
620
日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(2)
参考文献
1) EUROPEAN MEDICINES AGENCY. "Authorisation Procedures", http://www.ema.europa.eu/ema/index.
jsp?curl=pages/special_topics/q_and_a/q_and_a_detail_000080.jsp&mid=, (accessed 2013-10-21).
2) Takahashi, K.; Yamanaka, S. Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult
fibroblast cultures by defined factors. Cell. 2006, vol. 126, no. 4, p. 663-76. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/
pubmed/16904174?dopt=Abstract, (accessed 2013-10-21).
3) 倉田健児; CHOI, Youn-Hee. 再生医療の普及のあり方: 日韓間の規制枠組みの比較を通して. 経済産業研究
所, 2010-07, http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/10j039.pdf, (accessed 2013-10-21).
Author Abstract
For the sake of providing evidences that contribute to policy making or strategy planning in a Japanese
version of the NIH and pharmaceutical companies, we tried an overview and future prospects of
pharmaceutical industry based on new indicators. Focusing on Bio-medicine which has high future growth
potential, we analyzed the strengths and weaknesses of each country in each technology field. Consequently,
the results showed the competitive advantage of U. S. in the R&D of Bio-medicine. We also indicated the
strengths of Japan in some field of Biotechnology.
Key words
a Japanese version of the NIH, pharmaceuticals, pipeline, indicator, research and development, small
molecules, bio-medicine, biotechnology, evidence based policy
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621
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JOHO KANRI
2013
vol.56 no.9
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December
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連載:研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
第15回 ドイツ・フランス・ヨーロッパ連合(EU)法情報
Series: Introduction to legal research for R&D and business
Part 15: German, French and European Union (EU) legal information
宍戸 伴久
SHISHIDO Tomohisa
情報管理 56(9), 622-635, doi: 10.1241/johokanri.56.622 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.622)
1. はじめに
2.1 法律情報とその探し方
法 律 情 報 と し て 重 要 な の は, 法 令, 判 例, 学 説
連載の最終回となるこの回では,前回「第14回 で あ る。 ド イ ツ は ロ ー マ 法 の 系 譜 を も つ 大 陸 法
英米法情報」1)に引き続き,外国法情報の調べ方の各
(Zivilrecht)系の国であり,
「実定法源としての法令
論として紙媒体資料,有料・無料のW e b情報を活用
も,あるいは判例・先例も,学問的理論枠組みの何
して,大陸法系の連邦国家であるドイツ,中央集権
処かに位置付けて理解される。それゆえ,ドイツ法
国家であるフランス,国際機関であると同時に超国
を知るための素材としてまず紐解くべきものは,法
家機関であるヨーロッパ連合(E U)の法情報(法令,
令・判例ではなくて,学問的体系書だ」とされる注2)。
判例,立法過程,法律文献)の調べ方を紹介する。
「第13回 外国法情報の世界」2)で述べられたように,
(1)法令
連邦の立法を担うのは,小選挙区比例代表併用制
統治機構,法系,法文化等に違いがあることを前提
による直接選挙により選出される議員で構成される
に,調査の足掛かりを提示する。なお,ドイツは連邦,
連邦議会(Bundestag)と各州政府代表で構成される
フランスは国について主に説明することをお断りし
連邦参議院(B u n d e s r a t)である注3)。行政を担うの
ておく。
は主に州である。連邦が下部組織を組織して直接執
2. ドイツ
行する外交,防衛等を除き,連邦行政も州に委任さ
れている。
①法令の種類
ドイツは,固有の憲法と国家権力と領域をもつ主
622
憲法上,連邦議会で議決されたもののみが法律
権国家である16の州(Land)注1)で構成される「民主
(Gesetz)
とされる注4)。連邦議会で可決された法律は,
的かつ社会的連邦国家」(「基本法(G r u n d g e s e t z)
」
必要な場合は連邦参議院の同意を得た上で,連邦大
第20条第1項)であり,連邦と州は立法・行政・司法
統領が認証(Ausfertigung)し,
『連邦法律公報』第
の各分野で権限を分担する。ただし,州憲法は基本
1部(Bundesgesetzblatt(BGBl)Teil I)への掲載を
法にいう共和的・民主的・社会的法治国家原則に合
もって公布される注5)。法律の執行のために連邦行政
致しなければならない。
機関が発する命令類注6)には,①議会制定法の委任を
研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
受けて,行政機関が制定し,法律と同様に国民を直
る。連邦司法省が提供するインターネット上の無料
接に拘束する法規命令(Rechtsverordnung)(政令レ
の現行連邦法令ポータルサイトGesetze im Internet
ベル)
,②行政機関が定め,行政機関を拘束する行政
(http://
(Juris+Bundesministerium der Justiz)注11)
命令(Verwaltungsverordnung)(省令レベル),③法
www.gesetze-im-internet.de/)ではほとんどの現行
令に基づく,上級官庁から下級官庁への指示である
法令の閲覧や法令名・事項からの検索が可能である。
通知類(Mitteilung,Rundschrift,Erlaß,Runderlaß,
重要法律の英訳(http://www.gesetze-im-internet.de/
Richtlinie)(告示レベル)がある。
Teilliste_translations.html)も掲載されている注12)。
②法令の探し方
③立法情報
インターネットを通じた法令・判例の情報源が有
法律や行政命令の制定過程で発生する情報は,そ
料・無料を問わず普及しているが,電子媒体のテキ
の立法趣旨を理解し,法文を解釈するために有益で
ストが正統的なものと認められていないものもあり,
ある。連邦議会と連邦参議院に提出された法律案
その場合は,紙媒体により確認する必要がある。
は,連邦議会と連邦参議院の議事資料D r u c k s a c h e -
【制定時法令】法律,法規命令と一部の行政命令は
Drs.)注13)と本会議録(Plenar Protokolle)(議事速
『連邦法律公報』第1部に,連邦議会で議決された条
記録 Stenographischer Bericht)に収録される。各
約と一部の国際協定,予算,議会議事規則は,
『連邦
会期ごとに刊行される『索引(R e g i s t e r)
』
(事項索
法律公報』第2部に掲載される。それ以外の,多くの
引,発言者索引)と『連邦立法状況総覧(Übersicht
行政命令,告示,通知類と国際協定類は『連邦官報』
über den Stand der Bndesgesetzgebung)』(
『連邦
(Bundesanzeiger(BA))の「行政機関編(amtlicher
官報』「非政府機関編」掲載)で議事資料と審議状
Teil)」と「付録(Beilage)」または連邦各省庁の公報
況が把握できる。これらは,連邦議会のW e bサイト
類に掲載される注7)。これらの索引として『現行法令
Dokumente & Recherche(http://www.bundestag.
索引A』
(Fundstellennachweis(A)(FNA))(『連邦
de/dokumente/index.jsp)と連邦参議院のWebサイ
法律公報』第1部掲載法令),『現行法令索引B』
(
『連
トParlamentsmaterialien(http://www.bundesrat.
邦法律公報』第2部,
『連邦官報』掲載条約,国際協定)
de/cln_340/nn_43984/DE/parlamentsmaterial/
がある。
parlamentsmaterial-node.html?__nnn=true)で議
イ ン タ ー ネ ット で は,
『 連 邦 法 律 公 報 』 が1949
事資料と議事速記録で閲覧ができる。また連邦議
年 創 刊 か ら「 連 邦 法 律 公 報 市 民 ア ク セ ス サ イト
会「議会資料情報システムDIP(Dokumentations-
(Bundesgesetzblatt
(BGBl)
Online Burgerzugang)
(
」http://
und Informationssystem für Parlamentarische
www.bgbl.de/Xaver/start.xav?startbk=Bundesanzeiger_
Vorgänge)」(http://dipbt.bundestag.de/dip21.web/
BGBl)で 無 料で閲覧(印刷不可 )できる 注8)。同じ
searchDocuments.do)により検索できる。
W ebサイトで『 現 行 法 令 索 引』
(PDF)も閲 覧 でき
(2)判例
る。また,連邦の命令類は『連邦官報』の検索W eb
連邦司法を担うのは,国家のすべての行為の合憲
サイトElektronischer Bundesanzeiger(http://www.
性を審査する連邦憲法裁判所,民事・刑事事件を管
bundesanzeiger.de/ebanzwww/)と連邦政府の各省庁
轄する連邦通常裁判所,連邦行政裁判所,連邦税務
とその所属機関のWebサイトでも閲覧できる注9)。
裁判所,連邦社会裁判所,連邦労働裁判所である。
【現行法令】官版の現行総合法令集は現在刊行されて
それぞれ下級裁判所があり,それらは主として州の
いないため注10),民間版の加除式現行総合法令集D a s
裁判所である。審級も多岐にわたり,判例が収録さ
Deutsche Bundesrecht(Nomos Verlag)が有益であ
れている資料も種類が多い注14)。
情報管理 vol. 56 no. 9 2013
623
情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.9
December
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
【公式判例集】裁判所の種類に対応して6つの公式判
得のために著された「大学教授資格取得論文」も高
例集が刊行されているが,これらは裁判官等が編集
いレベルのモノグラフである。【判例速報】で挙げた
し,民間の出版社が刊行するもので,準公式判例集
法律雑誌も総合的なものと特定の分野のものとを問
とも言うべきものである。正式の公式判例集は,連
わず,最新の論点についての論文を収録する。
邦憲法裁判所の判決を掲載する『連邦法律公報』第
【索引】文献を知るための索引類として,連邦通常
1部 と 連 邦 税 務 裁 判 所 の 判 決 を 掲 載 す る『 連 邦 税
裁判所図書館と連邦憲法裁判所図書館スタッフが
務公報』第2部(Bundessteuerblatt Teil Ⅱ)(Hans
監修する総合法律文献索引誌Kahrsruher Juristische
Soldan GmbH)のみである。総合的法令情報データ
Bibliographie(KJB)
(Verlag C.H.Beck)は月刊で,年
ベースの有料法令ポータルサイト Juris Das Rechts-
間索引がある。主題ごとの法律文献,判例,判例評釈
portal(Juris+Bundesanzeiger Verlag)(http://www.
の索引誌Fundheft für Öffentchiches Recht,Fundheft
gesetzesportal.de/jportal/portal/)は2007年以降の連
für Zivilrecht,Fundheft für Arbeits- und Sozialrecht,
注15)
。
Fundheft für Steuerrecht(いずれもVerlag C.H.Beck)
邦,州,EUの現行法令,判例等を収録している
1949年以降の連邦憲法裁判所の判決は『連邦法律
は刊行がやや遅い注17)。
公報』で無料で閲覧でき(印刷不可),1992年以降
の連邦税務裁判所の判例は『連邦税務公報』(Online
Bundessteuerblatt)(http://www.bundessteuerblatt.
(1)概説・入門書
d e /)で有料で提供されている。すべての連邦最高裁
村上淳一;守矢健一;ハンス・ペーター・マルチュ
判所もそれぞれのW e bサイトで最近の判例を公開し
ケ『ドイツ法入門 改訂第8版』
(有斐閣, 2012)は
ている。判決日付や判決中のキーワードによる検索
入門と銘打っているが,最新のドイツ法の概説であ
が可能である注16)。
る。末尾に参考文献とレファレンスのためのアドレ
【判例速報】各種の法律雑誌も判例を掲載してい
ス一覧がある。また実定法を中心とした解説として,
る。最近の判例,下級裁判所の判例についてはこ
山 田 晟『 ド イ ツ 法 概 論(1)
(2)
(3)
』
( 有 斐 閣, 1985,
れ を 利 用 す る こ と が 必 要 で あ る。 主 な も の と し
1987, 1989)
,
『ドイツ連邦共和国法の入門と基礎:
て,Neue Juristische Wochenschrift (NJW)(Verlag
ドイツの憲法および民法 改訂版』(有信堂高文社,
C.H.Beck)
(http://rsw.beck.de/cms/main?site=njw),
1991)がある。
Juristen-Zeitung ( JZ)(Mohr Siebeck)(http://
(2)日本語文献
www.ingentaconnect.com/content/mohr/jz),
ドイツの法律情報を探す手掛かりとして日本語文
Monatsschrift für Deutsches Recht (MDR)(Der Verlag
献の参照も有益である。
『日独法学』
(日独法学会)
,
Dr. Otto Schmidt)(http://www.mdr.ovs.de/mdr_
『比較法研究』(比較法学会, 有斐閣)をはじめとする
online.htm)等があり,いずれも各社の有料Webサ
学会誌や図書等に掲載されるドイツ法に関する文献
イトから閲覧できる。
の検索は『法律判例文献情報』
(第一法規出版)
(外
(3)学説(文献)
学説と判例の把握には,個別の法律の逐条解説書
であるコンメンタール(注釈書)と特定主題の体系
的解説書であるハンドブックが不可欠である。概説
624
2.2 法律情報リサーチガイド
国法に関する文献の表示あり)が有効である。
『法律
時報』
(日本評論社)の「特集 学界回顧」
(ドイツ法)
も毎年刊行される。
(3)ガイドブック
的な解説書である教科書,特定の論点についての学
海老原明夫「ドイツ法」
(北村一郎編『アクセスガ
問的研究であるモノグラフもある。大学教授資格取
イド 外国法』東京大学出版会, 2004, p . 151-185)は
研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
やや古いが,本格的なガイドブックである。本山雅弘
ま た,C l a r a - E r i k a D i e t l , E g o n L o r e n z , W i e b k e
「第4章 ドイツ法に関する法律情報の調べ方」
(小林
Buxbaum/Wörterbuch für Recht, Wirtschaft und
成光ほか『やさしい法律情報の調べ方・引用の仕方』
Politik: mit erlauternden und rechtsvergleichenden
文眞堂, 2010, p . 119-131)は初学者のためのコンパク
Kommentaren / Teil 1. Englisch-Deutsch,/ 7.vollig
トなガイドである。米丸恒治「ドイツ連邦共和国」
(指
neu bearbeitete und erweiterte Aufl./C.H.Beck,/2007,
宿信;米丸恒治編『インターネット法情報ガイド』日
Ibid./T. 2. Deutsch-Englisch : einschliesslich der
本評論社, 2004, p . 149-158)はインターネット上の法
Besonderheiten des amerikanischen Sprach
律情報のリサーチガイドである。インターネットで公
Gebrauchs/ 5. vollig neu bearbeitete und erweiterte
開されているリサーチガイドでは,国内では,京都大
Aufl./C.H.Beck,/2005は,独英・英独の法律・経済・
学大学院法学研究科附属国際法政文献資料センター
政治用語辞典であるが法文を用例とし英米法の法律
「外国の法律・政治行政資料の調べ方・文書の入手方法」
用語との比較も可能であり極めて有益である。
の「ドイツの法律文献・政府文書などを調べる」
(http://
ドイツ語の標準的な法律用語辞典として
ilpdc.law.kyoto-u.ac.jp/manual-d.htm)
,外国ではRita
Carl Creifelds, Klaus Weber , DieterGuntz [et al.]/
Exter & Martina Kammer, Update by Sebastian Omlor,
Rechtswörterbuch.,/20. Neubearbeitete Aufl./C.H.Beck
Update:Legal Research in Germany between Print and
/2011,学生向けのAnnegerd Alpmann-Pieper et al.
Electronic Media: An Overview published July/August
(Hg.)/Alpmann Brockhaus Studienlexikon Recht/3.
2012 GlobaLex Foreign Law Research(New York
Aufl./C.H.Beck /2010がある。
University, School of Law)
(http://www.nyulawglobal.
注18)
org/Globalex/Germany.htm)等がある
。
(4)法律用語辞典・法律百科事典
法制度や法律用語の意味を理解するには法律用語
辞典や法律百科事典が必要となる。
【法律用語辞典】日本語で書かれた法律用語辞典とし
ては,山田晟編『ドイツ法律用語辞典 改訂増補版』
加除式の法律百科事典として,Adolf Reifferscheid
hrsg./Ergänzbares Lexikon des Rechts/Neuausgabe /
Luchterhand /1981,やや大部の百科事典としてHorst
Tilich & Frank Arnold (Hg.),/Deutsches Rechts-Lexikon.
/3 Bd.,/3. Aufl /C.H.Beck/2001-2003がある。
3. フランス
(大学書林, 1993),Bernd Götze編『独和法律用語辞
典 第2版』
(成文堂, 2010),
『和独法律用語辞典』
(成
1958年憲法により,フランスは国民の直接選挙に
文堂, 2008),田沢五郎『ドイツ政治法制経済事典』
(郁
よって選出され,立法・行政・司法三権にわたって
文堂, 1990)がある。三潴信三『独逸法律類語異同
強大な権限と安定した地位(任期7年)にある大統領
弁 3版』(有斐閣, 1948)は類似する法律用語を理
制の国(République française)
(第五共和政)となっ
解するため,現在も有益である。
た。行政を担うのは,大統領によって指名される首
ドイツの法律用語の中で特に注意すべきものとし
相が組織する政府と国家行政官庁である。18歳以上
て略語がある。法令,裁判所をはじめとする政府機
の有権者による直接選挙で選出される下院たる国民
関,雑誌等の名称には頻繁に略語が使用されるの
議会(Assemblée Nationale)と,間接選挙で選出さ
で,ドイツ法の調査に不可欠な辞典としてHildeberd
れる上院たる元老院(Sénat)で構成される二院制議
Kirchner & Dietrich Pannier/Abkurzungsverzeichnis
会がある。1958年憲法により,立法権の中核である
d e r R e c h t s s p r a c h e , /7. , v o l l i g n e u b e a r b e i t e t e
法律制定権が大きく制限されている(後述)注19)。
u n d e r w e i t e r t e A u f l . / D e G r u y t e r, /2013がある。
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625
情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.9
Journal of Information Processing and Management
December
3.1 法律情報とその調べ方
ローマ法を継受した大陸法系(Droit continental)
の 国 で, 法 源 は 厳 密 な 議 会 制 定 法 中 心 主 義
(L é g a l i s m e)であり,裁判はその適用にすぎないと
考えられてきたが,判例,慣習法,法の一般原則も
法源とされている注20)。
(1)法令
①法令の種類
【法律(L o i)】,法律(L o i)とは,議会制定法のこ
れる。EUの「規則(Réglement)
」は直接適用され,
「決
定(Decision)
」や「指令(Directive)
」については国
内法を制定し,命令事項に関する国際協定類・E U規
則はデクレ(Décret)により公布される。
②法令の調べ方
【制定時法令】法律,命令類,憲法院の裁決は『官報
法令編』に掲載される注24)。各省の公報類(Bulletin
official de Ministere …)には,
『官報 法令編』に掲
載されない命令類も掲載される注25)。
とである。法律を規制する憲法(C o n s t i t u t i o n)に
イ ン タ ー ネ ッ ト で は, 法 律・ 行 政 情 報 局(L a
より,その対象は「法律事項」注21) に限定され,そ
direction de l'information légale et administrative
れ以外はすべて「命令事項」として,原則的に命令
- D I L A)が主宰している総合的な法令・議会・政府
(R é g l e m e n t)で定められる。議会での議決後,大
情報Webサイト「Legifrance」
(Legifrance, le service
統領に送付され,大統領の「審署(Promulgation)
」
publique de l'accès au droit)
(http://www.legifrance.
(手続き的に問題がないことを確認した上で行う署
g o u v. f r /)注26)の『官報 法令編』のサイトから当月
『官報 法令編』(Journal Officiel de la
名)注22)後,
および当年の『官報 法令編』の閲覧,1990年以降の
République Française : lois et décrets(JO.))への
『官報 法令編』の簡易検索・詳細検索等の方法によ
掲載により公布される。法律は,①憲法的法律(l o i
る検索・閲覧ができる。また,
『電子版正文官報 法
constitutionnelle)(憲法を改正するための法律)
,②
令編』
(Journal officiel électronique authentifié)
(http://
組織法律(loi organique)(憲法規定を補充・明確化
www.journal-officiel.gouv.fr/lois_decrets_marches_
するための法律,成立には憲法院による審査が必要)
,
publics/journal-officiel-electronique-authentifie.htm)
③通常法律(loi ordinaire)注23),④法律事項を規定す
では,2004年6月1日付以降の『官報 法令編』の正
る国際協定(Accord international)
・条約(Traité)
(法
統な法令テキストの無料閲覧,有料契約による検索・
律として議会の批准・承認を受ける)⑤「国民投票
閲覧・印刷ができる。
法律(loi référendaire)」(議会の議決によらず国民投
票手続により決定)に分けられる。
【命令類(Réglement)】首相は「法律事項」について「委
任命令」(法律による委任を受けた事項),
「施行命令」
(法律の施行細則)等の「従属命令」を制定し,
「命
令事項」については「独立命令」を制定する。
【現行法令】公的な現行総合法令集はなく,加除式
の民間版現行法令集であるJuris classeur, Codes et
lois, Droit public et droit privé(LexisNexis France)
が「 法 典 編( 法 典(C o d e s) お よ び 法 典 化 さ れ た
法令編)」注27) と「法典化されていない法令編」の
ほとんどすべての法分野(租税法典,E U規則・指
命令は,①大統領宣言(Proclamation),②オルド
令類を除く)を収録している。L e x i s N e x i s J u r i s -
ナンス(Ordonnance)(議会から立法権の授権を経
Classeur(http://www.lexisnexis.fr/services_abonnes/
た上で政府が制定し,または政府が制定後に,追認
Actualites_services_web/Actualites-services-en-
法律により議会が事後承認する),③デクレ(Décret)
ligne#LexisNexisJurisClasseur)サイト(有料)からの
(大統領または首相が制定する)④アレテ(Arrêté)
(各
626
http://johokanri.jp/
検索もできる。
省大臣,知事,市長村長が制定),⑤通達(Circulaire)
・
法律・行政情報局(D I L A)が逐次発行する小冊子
訓令(Instruction)(上位行政機関が制定)に分けら
の現行法令集(Brochures)も法典と主題別法令集を
研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
収録している。民間出版社であるDalloz社(Editions
当する国務院(Conseil d' Etat)
,法律の合憲性を審査
Dalloz)からは,法典を中心とする主題別法令集シリー
する憲法院(Conseil constitutionnel)等がある注32)。
ズPetits Codes Dallozが刊行されている。
判 例 集 と し て は, 公 撰 の 控 訴 院 判 決 公 報, 私
インターネット上の「L e g i f r a n c e」の法令編で
撰 の 行 政 裁 判 所 判 例 集「 ル ボ ン 判 例 集(R e c u e i l
は,憲法(Constitutions),現行法典(Les codes en
Lebon; Recueil Lebon des Décisions du Conseil
v i g u e u r)
(1990年1月現在の法典および法典化され
constitutionnel)
」
(Edition Dalloz)等があるが,民間
た法令およびそれ以降に制定された法典および法典
の総合法令・判例雑誌Recueil Dalloz de jurisprudence
化された法令)
,その他の現行法令(法典化されてい
et de legislation(Edition Dalloz)と総合法律週刊
ない法令)にアクセスできる 注28)。重要法律の英訳
誌La Semaine juridique(Juris-Classeur périodique)
(Traductions du droit français)(http://195.83.177.9/
code/index.phtml?lang=uk)も収録されている。
『官
報 法令編』未掲載の命令類も同じく「Legifrance」
(LexisNexis France)にも憲法,司法,行政の各裁判
所の最新の判例が掲載される。
イ ン タ ー ネ ッ ト で は, 控 訴 院 の 公 報( 民 事・ 刑
から各省庁公報(Bulletin officiel)Webサイト(http://
事)
(Bulletin)
(http://www.courdecassation.fr/
www.legifrance.gouv.fr/Droit-francais/Bulletins-
j u r i s p r u d e n c e _2/),国務院の行政裁判所判例の
officiels)にアクセスして閲覧できる注29)。
検索サイト(http://www.conseil-etat.fr/fr/base-
③立法情報
d e - j u r i s p r u d e n c e /)
,憲法院判決(D é c i s i o n s d u
議会における法律案とその審議経過について
Conseil constitutionnel)(http://www.conseil-
は,国民議会と元老院の『議事文書』(D o c u m e n t s
constitutionnel.fr/conseil-constitutionnel/francais/
p a r l e m e n t a i r e s) と『 議 事 速 記 録 』(D é b a t s
les-decisions/les-decisions.95486.html)等,各裁判
parlementaires)がある。それぞれの会期ごとの索引
所のWebサイトに最近の判例が掲載される。
(発言者・事項)(Tables)により検索できるが,より
そのほかには「Legifrance」の判例(Jurisprudences)
簡便な方法として『官報 法令編』と国民議会の『制
(http://www.legifrance.gouv.fr/initRechJuriConst.do)
定法律・決議集』(Recueil des lois et des résolutions
adoptées)(Assemblée nationale)(年刊)に掲載さ
で検索することができる。
(3)学説(文献)
れている法律の末尾にある法律の審議経過の参照を
すでに法令と判例の調べ方で挙げた総合法律雑誌や
お勧めする。法律番号や公布日により,『官報 法令
特定の分野の法律雑誌が,最新の論点についての論文
編』の法律の掲載箇所を知れば,法案,審査報告書,
を収録している注33)。また,法律百科事典や法律用語辞
会議録等の議事文書を参照することができる。イン
典には主要な学説(文献)が紹介されており(3.2 法律
ターネットでは,前述の「Legifrance」の立法情報(Les
情報リサーチガイド「
(4)法律用語辞典・法律百科事典」
Dossiers legislatives)(http://www.legifrance.gouv.fr/
参照)
,これらは各社W ebサイトでも有料で提供されて
dossiers_legislatifs.jsp)から2002年以降に成立した法
いる注34)。
律とオルドナンスの審議経過にアクセスすることが
でき,極めて有益である。
(2)判例
司法権を担うのは民事・刑事事件を管轄する司法裁
3.2 法律情報リサーチガイド
(1)概説・入門書
滝沢正『フランス法 第4版』(三省堂, 2010)は
判所注30)であるが,裁判所としてはその他に,行政事
フランス法の教科書としてまとめられた概説書で,
件を管轄する行政裁判所注31)と行政最高裁判所に相
フランス法全般についてわかりやすく解説されてい
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JOHO KANRI
2013
vol.56 no.9
Journal of Information Processing and Management
December
http://johokanri.jp/
る。特に「第3編 法源 第3章 法資料の手引」と
山 口 俊 夫 編『 フ ラ ン ス 法 辞 典 』( 東 京 大 学 出 版 会,
「邦語参考文献」はきわめて有益である。より詳細な
2004)と中村紘一・新倉修・今関源成監訳,Termes
概説書として,山口俊夫『概説フランス法(上)
(下)
』
juridiques研究会訳『フランス法律用語辞典 第3版』
(東京大学出版会, 1978, 2004)もある。大山礼子『フ
(三省堂, 2012)がある。後者はLexique des termes
ランスの政治制度』
(東信堂, 2006),新倉俊一他編『事
juridiques, Dalloz, 2007の第16版の翻訳である。原著
典 現代のフランス(増補版)』(大修館書店, 1997)
はすでに第17版(Louis d'Avout [et al.] Lexique des
は政治制度を含むフランス全般の理解に有益である。
termes juridiques 17.ed. Dalloz, 2011)が刊行されて
(2)日本語文献
いる。仏英・英仏辞典としてBénédicte Fauvarque-
フランスの法律情報を探す手掛かりとして日本語
Cosson et alii, ed. Dictionnaire juridique Français-
文献の参照も有益である。『日仏法学』
(日仏法学会)
,
anglais / anglais-français: Law Dictionary French-
『比較法研究』
(比較法学会, 有斐閣)をはじめとする
English / English-French, Dalloz, 2004がある。
学会誌や図書等に掲載されるフランス法に関する文
【 法 律 百 科 事 典 】C o l l e c t i o n d e s J u r i s - C l a s s u e r
献の検索には『法律判例文献情報』
(第一法規出版)
(外
(LexisNexis France)は法分野や主題ごとに数巻ない
国法に関する文献の表示あり)が有効である。
『法律
し十数巻のシリーズで構成されている民間版の加除
時報』
(日本評論社)の「特集 学界回顧」
(フランス法)
式総合法律事典である。各シリーズは体系的に配列
も毎年刊行される。
された項目ごとに法源(根拠法),関連文献,制度
(3)ガイドブック
概説が収録され,制定法,判例,行政実例等の総合
北村一郎「フランス法」(北村一郎編『アクセスガ
的な理解,特定主題に関連する制度の全体像,根拠
イド 外国法』東京大学出版会, 2004, p . 89-149)を
法を知るために不可欠である。また,Encyclopédie
利用することが不可欠である。町村泰貴「フランス
juridique Dalloz:Repertoir de droits(Editions
共和国」
(指宿信・米丸恒治編『インターネット法
Dalloz)は,法分野ごとのシリーズで,主題キーワー
情報ガイド』日本評論社, 2004, p . 138-148)はイン
ドのABC順に配列された加除式総合法律事典(法律総
ターネット上の法律情報のリサーチガイドである。
覧)である。
インターネットで公開されているリサーチガイドと
しては,国内では,京都大学大学院法学研究科附属
4. ヨーロッパ連合(EU)
国際法政文献資料センター「外国の法律・政治行政
資料の調べ方・文書の入手方法」の「フランスの法
す で に 述 べ た 通 り2), ヨ ー ロ ッ パ 連 合(T h e
律文献・政府文書などを調べる」(http://ilpdc.law.
European Union,
以下「EU」
)は,
現在,
EU基本条約(い
kyoto-u.ac.jp/manual-f.htm)外国では,Stéphane
わゆる「リスボン条約」により改正されたE U条約と
Cottin & Jérôme Rabenou, UPDATE: Researching
E U機能条約および関連議定書と附属文書)によって
French Law, GlobaLex, Foreign Law Research(New
設立・運営されている超国家機関である。基本条約
Yo r k U n i v e r s i t y, S c h o o l o f L a w),(h t t p : / / w w w.
により,欧州議会(European Parliament)
,欧州理
nyulawglobal.org/globalex/France1.htm)がある。
事会(European Council),理事会(Council),委員
(4)法律用語辞典・法律百科事典
法制度や法律用語の意味を理解するには法律用語
辞典や法律百科事典が必要となる。
【法律用語辞典】日本語で書かれたものとしては,
628
会(Commission),EU司法裁判所(Court of Justice
of the EU)
,欧州中央銀行,会計検査院などの機関に
よって運営されている。欧州議会は統一選挙規程に
従って,加盟各国ごとに,欧州市民の直接選挙で選
研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
出された,政党会派として活動する議員により構成
会文書(いわゆる「C O M D o c u m e n t s」
)
(h t t p : / /
される。欧州理事会は加盟各国の首脳とE U各機関代
ec.europa.eu/transparency/regdoc/)
,欧州議会の
表,理事会は加盟各国の閣僚級代表,委員会は加盟
議事録(Annex to Official Journal of the European
国籍を有する独立した職員により構成される注35)。
parliament; Debates of the European Parliament)
(http://www.europarl.europa.eu/plenary/en/debates.
4.1 法律情報とその調べ方
E U法の法源は,一次法たるE U基本条約(いわゆる
html)
,議会報告書等(Working Documents of the
European Parliament)(http://www.europarl.europa.
「リスボン条約」により改正されたE U条約とE U機能
eu/RegistreWeb/search/typedoc.htm?language=EN)
条約および関連議定書と附属文書),二次法たるE Uの
で あ る。E U R - L e xで は 規 則 案 等 の 審 議 状 況 が 検
諸機関が制定する各種法令と判例である注36)。
索できる(S e a r c h i n p r e p a r a t o r y a c t s)
(h t t p : / /
(1)法令
①法令の種類
基本条約とそれと同一の価値を有するとされる「欧
eur-lex.europa.eu/RECH_actes_preparatoires.
do?ihmlang=en)。
④インターネット
州基本権憲章」に基づいて,理事会と欧州議会が共
法令と判例の総合検索サイト「EUR-Lex」
(Access
同で立法権を行使する。法令には,一般的に適用さ
to European Union Law)(http://eur-lex.europa.eu/
れ,義務を課す(拘束力を有する)ものとして,加
en/index.htm)からは無料で,1952年創刊から最新
盟国の国内立法を待たずに直接適用される「規則
までの『官報』(法令編,通知編),条約類,現行法
(Regulation)
」
,施行には加盟国の国内立法を必要とす
令(Legislation in Force)
,すべての改正法令を読み
る「指令(Directive)
」
,個別の行政処分に当たる「決
込んだ法令(Consolidated Legislation),委員会ド
定(D e c i s i o n)
」がある。それぞれ,委任または実施
キュメント,E U司法裁判所の判決等の閲覧と検索
のための法令もある。他に,拘束力を持たない「勧告
ができる注40)。新しい「新E U R-L e x」のW e bサイト
(Recommendation)
」
「
,意見(Opinion)
」がある注37)。
(http://new.eur-lex.europa.eu/oj/auth-direct-access.
②法令の調べ方
html)では,『官報 電子版』(the electronic edition
【制定時法令】
「規則(Regulation)」,
「指令(Directive)
」
,
of the Official Journal(e-OJ)に掲載された,2013年
「決定(Decision)」,
「勧告(Recommendation)
」
,
「意
7月以降の法令の法文が一部を除き,正統かつ証拠能
見(Opinion)」はすべて『官報(法令編)(Official
力のあるものとして認められた。E Uのホームページ
Journal of European Union(Legislation))』に掲載さ
のEU Lawのサイト(http://europa.eu/eu-law/index_
注38)
。
れる
【現行法令】冊子体の現行法令集は民間版法令集
として,E n c y c l o p e d i a o f E u r o p e a n U n i o n l a w :
en.htm)では,英文による解説を参照しながら法令,
立法情報,判例の検索等ができる。
(2)判例
constitutional texts / general editor, Neville March
E U司法裁判所は,司法裁判所,総合裁判所,職員
Hunnings. Sweet & Maxwell, 2008- v.(loose-leaf)
(英
裁判所から構成され,E U基本条約に関する一般的管
文)等があるが,E U自身が刊行するのは主要法令集
轄権を有し,E U加盟国,E U諸機関または私人が提起
のみである。
する訴訟(直接訴訟)についての判決と加盟国裁判
③立法情報
所の要請によるE U法の解釈またはE U諸機関の効力に
E Uの立法過程は複雑である 注39) が,主なものは
ついての先決判決(先決付託手続)
,E U基本条約に規
法令案が確定されるまでの検討内容がわかる委員
定されているその他の訴訟に対する判決を行う注41)。
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情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.9
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Journal of Information Processing and Management
E U司 法 裁 判 所 の 判 例 を 掲 載 す る 公 式 判 例 集
http://johokanri.jp/
の理解を深める上で有益である。ドイツの定評ある
(European Court Report)は加盟国の言語で刊行され,
教科書の翻訳であるM.ヘルデ-ケン(中村匡志訳)
EU司法裁判所のWebサイト(http://curia.europa.eu/
『EU法』
(ミネルヴァ書房, 2013)
,中西優美子『EU法』
jcms/jcms/j_6/)にも「判例(Case-Law)
」が掲載さ
(新世社, 2012)
(参考文献あり)も新しい。辰巳浅嗣
れ,判例索引(Repertoire de Jurisprudence)
(http://
編著『E U:欧州統合の現在 第3版』
(創元社, 2012)
curia.europa.eu/jcms/jcms/Jo2_11765/repertoire-de-
は文字通り,EU全般の理解に有益である注44)。
jurisprudence)もある。判決の要旨は,
『官報 通知編
(Official Journal of the EU(Informations&Notices)
』
(2)日本語文献
E Uの法律情報を探す手掛かりとして日本語文献の
に掲載されている。E U R - L e xでも,E U司法裁判所の
参照も有益である。
『日本EU学会年報』
(日本EU学会,
判決等の閲覧(http://eur-lex.europa.eu/JURISIndex.
有斐閣電子版あり),『比較法研究』(比較法学会, 有
do?ihmlang=en)と検索(http://eur-lex.europa.eu/
斐閣)をはじめとする学会誌や図書等に掲載される
注42)
。
RECH_jurisprudence.do)が可能である
(3)学説(文献)
Common Market Law Review(M. Nijhoff)
,Revue
Trimestriele de Droit Européen(Editions Sirey)
,
Europarecht(Nomos Verlagsgesellschaft)等,EU
EU法に関する文献の検索には『法律判例文献情報』
(第
一法規出版)(外国法に関する文献の表示あり)が有
効である。『法律時報』(日本評論社)の「特集 学
界回顧」
(EU法)も毎年刊行される。
(3)ガイドブック
法の専門雑誌もあるが 注43) これらの記事を含むE U
伊藤洋一「ヨーロッパ法」
(北村一郎編『アクセス
法に関する文献を調査する際の書誌として,E U司法
ガイド 外国法』東京大学出版会, 2004, p .187-256)
裁判所図書館編纂のLegal bibliography of European
を利用することができる。中村民雄「E U」
(指宿信;
Integration(Bibliographie juridique de l'intégration
米丸恒治編『インターネット法情報ガイド』日本評
e u r o p é e n n e)
,その電 子 版であるB i b l i o g r a p h i e
論社, 2004, p .184-200)はインターネット上の法律情
Courante Parte A(Publications juridiques concernant
報のリサーチガイドである。インターネットで公開
l'intégration européenne)
,EU委員会中央図書館の書
されているリサーチガイドでは,国内では,京都大
誌データベース
(http://ec.europa.eu/libraries/)
がある。
学大学院法学研究科附属国際法政文献資料センター
「外国の法律・政治行政資料の調べ方・文書の入手
4.2 法律情報リサーチガイド
(1)概説・入門書
630
方法」の「E U資料(E U・E C法)を調べる」
(h t t p: / /
ilpdc.law.kyoto-u.ac.jp/manual-kokusai.htm#eudoc)
,
庄司克宏『新E U法 基礎編』(岩波テキストブック
外国ではDuncan E. Alford, UPDATE: European Union
ス)(岩波書店, 2013)はE U法の教科書としてまとめ
Legal Materials: An Infrequent User's Guide Published
られた概説書で,リスボン条約以降のE UとE U法全般
J a n u a r y 2011, G l o b a L e x F o r e i g n L a w R e s e a r c h
についてわかりやすく解説している。特に「序章 (New York University, School of Law)
(http://www.
EU法入門」は新しいEUの機構とEU法の構造を図解で
nyulawglobal.org/Globalex/European_Union1.htm)
簡潔に解説し,参考文献とE U法律情報を知る手掛か
とPatrick Overy, UPDATE: European Union: A Guide
りを提供しており,極めて有益である。同じ著者の
to Tracing Working Documents Published May 2013
『欧州連合 統治の論理とゆくえ』(岩波新書, 岩波書
(http://www.nyulawglobal.org/Globalex/European_
店, 2007)は,拡大EUの到達点と課題を示すとともに,
Union_Travaux_Preparatoires1.htm)がインターネッ
E U関連の判例を例に挙げることにより,E U法の機能
ト情報を中心にして詳細である注45)。
研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
(4)法律用語辞典・法律百科事典
日本語文献では,E U法に特化したものは見当たら
* *
連載を終えるにあたって
ない注46)。2.2,3.2,4.2の「(1)概説・入門書」で紹
連 載「 研 究・ 実 務 に 役 立 つ! リ ー ガ ル・ リ サ ー
介した文献の目次や索引によるのが適切であろう。
チ入門」は,ローライブラリアン研究会(h t t p : / /
外国語では「2. ドイツ」,「3. フランス」であげた独
ameblo.jp/lawlibrarian/)のメンバーが交代で執筆を
仏文献に加えて,David Phinnemore, Lee McGowan,
担当した。研究会でその構成,分担を考え,各回の
A Dictionary of the European Union 6th Edition
原稿を読み合うなどを経てきた。わかりやすさに徹
Routledge, 2013とEuropa Publications European
したいと考えてきたが,実現できたであろうか。当
Union Encyclopedia and Directory 2013 13th Edition
研究会は,法分野のライブラリアンで構成している
Routledge, 2012がある。
のではなく,人の暮らしにも密接にかかわる法,そ
5. おわりに
の情報を収集するローライブラリーに必要とされる
ものは何かを考える研究会から始まり,さまざまな
バックグラウンドの,さまざまな年代,経験の者か
実際の調査に当たっては,言語の制約上,邦文資
ら構成されている。これまでに図書館総合展でフォー
料や英文資料を利用する場合でも,原語の資料の存
ラムを開催し,図書館員向けにリサーチ方法を伝え
在に留意されたい。また,インターネットを活用す
たり,図書館振興財団の助成を受けて出前講義を全
ることが多いが,まだテキストの正統性が認められ
国で開催してきているが,このたびの連載でメンバー
ない等の制約もあり,紙媒体資料の利用が求められ
がさらに知識を深め,これを読者と共有できたなら
ることもある。
ば幸いである。ますます研鑚を積み,リサーチに必
執筆に当たっては,本文および注に掲げた文献を
大いに活用させていただいた。文献の著者の方々に
要なこの分野の背景知識やツール,その使い方を広
め,役に立ちたいと考え行動する予定である。多謝
深く感謝いたします。
本文の注
注1) 各州は,領邦国家以来の地域性を色濃く残しており,首都ベルリンおよび旧ハンザ同盟都市であるハ
ンブルクとブレーメンは州としての地位を与えられている。ドイツについての記述は,主として村上
淳一;守矢健一;ハンス・ペーター・マルチュケ編『ドイツ法入門 改訂第8版』
(有斐閣, 2012)
,海
老原明夫「ドイツ法」(北村一郎編『アクセスガイド 外国法』東京大学出版会, 2004, p. 151-188)に
よる。
注2) 海老原 同上 p. 157-158.
注3) 連邦と州で立法権限を分担し,連邦の専属的立法事項,連邦と州の競合的立法事項が定められ,州は,
教育・文化に関する事項を中心に独自の立法権を行使できるが,重要事項については連邦が立法権を
独占し,連邦全体で統一的に規制しなければならない事項については規制することができる。州の立
法事項であっても競合する場合には連邦法が優先される等,連邦法の優位は明らかである。州は,閣
議決定された政府案に対する賛否の表明,修正意見の提出,法律案の発議,連邦議会送付法律案への
異議等,連邦参議院を通じて立法に関与できる。
注4) 予算・決算,議会の批准承認を必要とする条約・協定も同様である。
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注5) 法律の正誤訂正も「法律名(正誤訂正:Berechitigung)
」と題して,改めて公布される。法律の名称
(正式名称,短縮された名称,略称),公布年月日,掲載された連邦法律公報の通し頁,
『現行法令索引』
で付与される法令コード番号(注10参照)等の情報が記され,検索の手掛かりとなる。
注6) 連邦が所管する連邦固有行政のうち州に委任する行政(連邦委任行政)については,連邦は連邦参議
院の同意を得て一般的な行政規則を制定することができ,また,連邦最上級官庁は合法性および合目
的性の見地から州の所管省庁に指示をすることができる。
注7)
「法規の公布及び告示に関する法律」の改正による『連邦官報(電子版)』の公式化により,2012年4
月1日以降,紙媒体版の『連邦官報』は廃刊となった。
注8) Bundesgesetzblatt(BGBl)Online Burgerzugang(有料)
(http://www.bundesanzeiger-verlag.de/
bundesgesetzblatt.html)では検索・閲覧・印刷が可能である。ノルトライン・ヴェストファーレ
ン州議会のParlamentspiegel Gesetzesblätter(Landtag des Nordrhein/Westfalen)(http://www.
parlamentsspiegel.de/ps/suche/gesetzesblaetter.jsp)からは,1980年以降の連邦・州の法律公報の
検索・閲覧・印刷ができる。有料WebサイトMaklog-Recht für Deutschland Permanent(Recht für
Deutschland GMBH.)
(http://bgbl.makrolog.de/)
では
『連邦法律公報』
第1部
(1949 ~)
,
第2部
(1951 ~)
,
第3部(1958 ~ 1969),『連邦官報』(2001 ~),Gemeinsames Ministerialblatt,Bundesarbeitsblatt,
州の法律公報,旧ドイツ法律公報(目次のみ)
,旧東ドイツ法律公報が閲覧できる。収録された公報
類を詳細検索により横断的にキーワード検索ができる。現行法令も検索対象で,閲覧可能である。
注9) 連邦政府のWebサイト(http://www.bund.de/)には,連邦各省庁(http://www.bund.de/DE/
Behoerden/behoerden_node.html)のWebサイトにリンクがある。連邦政府各省のWebサイト一覧
は,京都大学法学部大学院法学研究科附属国際法政資料文献センター「外国の法律・政治行政資料の
調べ方・入手方法」の「ドイツの法律文献・政府文書などを調べる」
(http://ilpdc.law.kyoto-u.ac.jp/
manual-d.htm)にある。
注10) 1958年から1963年にかけて,「法の整理(R e c h t s b e r e i n i g u n g)」の一環として,「連邦法集成法
(Bundesrechtssammlungsgesetz)」に基づき,連邦司法省が,1958年12月31日現在の現行法令を体系
化(憲法・国家組織,行政,司法,民事法・刑事法,国防,財政,経済法,社会労働法,郵便通信・
交通・水運等)した現行法令集を編纂し『連邦法律公報』第3部(Bundesgesetzblatt(BGBl)Teil Ⅲ)
として刊行した(1969年まで編纂継続したが現在は中断)。そのとき,法令に付した法令コード番号
がFundstellennachweis A(『現行法令索引 A』
)の番号(FNA番号)となっている。新たに制定され
た法律にはこの番号が付与され,これにより,その法律が『連邦法律公報』第3部の現行法令集のど
の分野に属する法令であるかがわかる。
「連邦法集成法」はまた,法令が一定の改正を重ねたとき,改
正を織り込んだ法律全体を改めて『連邦法律公報』第1部によって公布する制度(Neufassung)を定め,
現在に至っている。行政命令類のNeufassungもまた,
『連邦法律公報』第1部,
『連邦官報』本誌およ
び付録に収録される。これにより一定期間ごとに法令の正文を知ることができる。
注11) J U R I S社とB u n d e s a n z e i g e r社の共同による総合的法令情報データベースの有料法令ポータルサイト
Juris Das Rechtsportal(Juris+Bundesanzeiger Verlag)には,重要法令の簡易検索,詳細検索により
現行法が無料で閲覧できるWebサイト(Kostenfreien Inhalte)
(http://www.gesetzesportal.de/jportal/
nav/kostenfreieinhalte/infokostenfreieinhalte.jsp)も提供されている。
注12) 連邦司法省が各州の司法省と共同して設置した無料の現行法令ポータルであるJustizportal des Bundes
und Länder; Bundes- und Landesrechts(Bundesministerium der Justiz+der Landesverwaltungen)
(http://www.justiz.de/onlinedienste/bundesundlandesrecht/index.php)は連邦と各州の現行法令ポー
タルのリンク集で,Gesetze im Internetもその一部である。
注13) 法律案には,案文,趣旨説明,提案理由(総説,各条項),連邦参議院の提案とそれに対する連邦政
府の意見表明,必要経費等が収録されている。その他の動議,法律案の修正案,委員会の議決勧告と
審査報告書,質問・答弁書類,請願一覧,議会の同意を要する行政命令案,政府報告書等も議事資料
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研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
として刊行され,会期ごとの通し番号により管理されている。
注14) 下級裁判所は,連邦通常裁判所においては区裁判所,地方裁判所,高等裁判所,その他の裁判所は○
○裁判所および○○州(高等)裁判所である。ただし,連邦通常裁判所の下級裁判所であり,特許や
意匠に関する事件を管轄する連邦特許裁判所,連邦行政裁判所の下級裁判所である国防軍軍人の懲罰
事件を管轄する軍人服務裁判所は連邦の裁判所である。連邦裁判官,会計検査官,検事の服務規律事
件を管轄する連邦服務裁判所である連邦通常裁判所の刑事部および民事部の下級裁判所は州の裁判所
である。注1)村上 p. 254-276.,海老原 p. 166-177.による。
注15)
法令,判例にアクセスできる民間の有料法令情報データベースとしては,B e c k - o n l i n e(C . H .
Beck),Das Deutsche Bundesrecht(Nomos),LexisNexis Recht(LexisNexis),Makrolog-Recht für
Deutschland Permanent(Recht für Deutschland GmbH)
,Legios(Otto Schmidt)がある。
注16) 連邦憲法裁判所(1998年~)(h t t p : / / w w w. b u n d e s v e r f a s s u n g s g e r i c h t . d e / e n t s c h e i d u n g e n .
html),連邦通常裁判所(2000年1月~)
(http://www.bundesgerichtshof.de/DE/Entscheidungen/
entscheidungen_node.html)ほか。
注17) Kahrsruher Juristische Bibliographie(KJB)
(Verlag C.H.Beck)
,Juris Das Rechts–portal(Juris+
Bundesanzeiger Verlag)の文献情報システムDeutsche Bibliothek(http://www.gesetzesportal.de/
jportal/portal/)が有料で提供されている。
注18) 他に,東京大学法学部研究室図書室外国法令判例資料室(旧外国法文献センター)の「F o r e i g n L a w
Materials on Internet ~世界各国の法令・判例 リンク集~」
(http://www.j.u-tokyo.ac.jp/lib/gaise/
index.html),国立国会図書館「リサーチ・ナビ:政治・法律・行政」の「国・地域別の資料のご紹介」
(http://rnavi.ndl.go.jp/politics/),Guide to Law Online(Library of Congress,Law Library)
(詳細検索)
(http://www.loc.gov/law/help/guide.php)がある。
注19) 詳細は,滝沢正『フランス法 第4版』
(三省堂, 2010, p. 123-178)
「第1編 国家体制」を参照されたい。
注20) 詳細は同前 p. 261-288.「第3編 法源 第1章 法源の種類」
,
(北村一郎「フランス法」北村編『アク
セスガイド外国法』東京大学出版会, 2004, p. 91-177)を参照されたい。
注21) 法律によって直接その内容を決定する本来的・全面的法律事項と,法律は基本原則のみ,細目は行政
府が決定する概括的・部分的法律事項に分けられる。
注22) 大統領は,審署期間(大統領への送付後15日)内に,憲法院(Conseil constitutionell)に法律の憲法
適合性の審査を求めることができる。
注23) 通常法律は次のように分類できる。①国の歳入および歳出の性質,額,充当等を決定する財政法律
(loi de finances)
,②予算執行の財政的結果を確認する決算法律(loi de règlement du budget)
,③社
会保障に関する財政的均衡の一般的条件を決定する社会保障資金調達法律(loi de financement de la
sécurité sociale)
,
④命令
(Ordonance)
への委任を定めた授権法律
(loi d’habilitation)
,
⑤命令
(Ordonance)
への委任を承認する追認法律(loi de ratification)
,⑥国の経済的・社会的活動目標を定める計画法律(loi
de programme)
,⑦特定の社会的・経済的領域の新しい基本政策を定めて方向付けをする基本法律(loi
d'orientation)
,⑧一般原則のみを簡潔に定めて,その枠組みの中での必要な細則の制定および変更は
行政権に委ねる大綱法律(loi-cadre)
。
注24) 法文の正誤訂正は,同一法律番号と名称を付与された,正誤訂正のための法律(Texte rectificatif)と
して改めて公布される。法律の名称は法律番号,審署の日付,内容の説明から構成される。法律番号
は西暦年(1999年までは下二桁)と番号の組み合わせで示される。
注25)
民間の総合法令・判例雑誌Recueil Dalloz de jurisprudence et de legislation; Législation(Edition
Dalloz)と総合法律週刊誌La semaine juridique(Juris-Classeur périodique)
; Textes(LexisNexis France)
にも,日付順に最新の法令が掲載される。
注26) フランス法(Droit française),ヨーロッパ法,国際法の各編があり,フランス法編は法令(Lois et
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règlements)編,労働協約(Conventions collectives)編,判例(Jurisprudence)編に分かれる。
注27)「法典化(Codification)」とは,法律(Loi)と命令(Réglement)を条項単位で体系的に再編成し,
法典形式で編纂したもの。法典化する場合にデクレとして再公布する場合がある。主要現行法典には,
民法典,商法典,民事訴訟法典,刑法典,刑事訴訟法典,地方公共団体一般法典,行政裁判法典,国
有財産法典,官庁契約法典,公用収用法典,文武官退職年金法典,外国人入国滞在庇護権法典,選挙
法典,国防法典,国民役務法典,軍事裁判法典,租税一般法典,通貨金融法典,税関法典,労働法典,
社会保障法典,公衆衛生法典,教育法典,研究法典,文化遺産法典,消費法典,知的所有権法典,映
画産業法典,手工業法典,鉱業法典,環境法典,森林法典,農事法典,都市計画法典,道路交通法典,
観光法典,民間航空法典,郵便・電気通信法典等がある。
注28) 1978年以降に制定された現行法令である,との説明もある。Stéphane Cottin & Jérôme Rabenou,
UPDATE: Researching French Law GlobaLex Foreign Law Research(New York University, School of
Law)
注29) 多数の法典,法令を提供している無料の法律情報総合ポータルサイトとして,W o r l d L I Iのフランス法
サイトであるDroit.org(http://www.droit.org/)があり,2005年以降の『官報 法令編』
,法典,最近
の制定法が閲覧できる。
注30) 司法裁判所には最高裁判所として破毀院(C o u r d e C a s s a t i o n)
,上級裁判所として控訴院(C o u r d’
Appel)
(民事),重罪院(Cour d’ assises)
(刑事重罪)
,
未成年者重罪院(少年重罪)
,
下級裁判所(Tribunal)
として普通法裁判所(民事)と専門裁判所(商事・労働・社会保障・農地)
,普通法裁判所(刑事)と
専門裁判所(少年・海事)がある。詳細は,裁判については注19)滝沢 同 p. 179-213.「第2編 裁判
制度」,判例については,同前 p . 333-341.「第3編 法源 第3節 判例」
,注20)北村 同 p . 91-149.
を参照されたい。
注31) 行政裁判所の下級裁判所として行政地方裁判所(Tribunal adminisitrative)
,控訴行政裁判所(Cour
adminisitrative d’ Appel)がある。
注32) その他,裁判所の管轄を決定する権限裁判所,大統領と政府高官(大臣)の職務上の犯罪を管轄する
高等院(Haute Cour)と共和国法院(Cour justice de la République)がある。
注33) Kahrsruher Juristische Bibliographie(KJB)
(Verlag C. H. Beck)にもフランス語文献が収録されている。
注34) 法律出版社系の法情報ポータルサイトDalloz(http://www.dalloz.fr/home/default.aspx)では,刊行す
る法律雑誌の目次や抄録の閲覧ができる。
注35) EUの記述は,庄司克宏『新EU法 基礎編』
(岩波テキストブックス)
(岩波書店, 2013)
,
伊藤洋一「ヨー
ロッパ法」(北村一郎編『アクセスガイド 外国法』東京大学出版会, 2004, p . 187-256.)およびE Uの
Webサイト(http://europa.eu/index_en.htm)の説明による。
注36) 前掲 庄司 p198. は,一次法として,E U司法裁判所が依拠する「法の一般原則」,欧州理事会や理事
会の「行為(Acts)」,二次法としてEUが締結する国際協定を挙げている。
注37) 岩隈道洋「研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第13回 外国法情報の世界」『情報管理』
2013, vol. 56, no. 7 p. 461-462. 参照。
注38) 英国のEU加入以前の『官報』の英語版は,英国加入後に「特別版(Special Edition)
」として刊行され
たもので,正統なテキストはドイツ語版やフランス語版を参照する必要がある(注35)伊藤 p.198)
。
また,2011年までは,「勧告(Recommendation)
」
,
「意見(Opinion)
」は『官報(通知編)
』
(Official
Journal of European Union(Informations & Notices)
)
』に掲載されていた。
注39) 注35)庄司 同 p. 81-94.
注40)「EU法データベース「EUR-Lex」検索マニュアル(改訂版)
」ジェトロ・ブリュッセル・センター(日
本貿易振興機構, 2006)(http://www.jetro.go.jp/jfile/report/05001142/05001142_001_BUP_0.pdf)も
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研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門
発行されている。
注41) 詳しくは注35)庄司 同 p . 130-193.「第4章 E Uの司法制度」参照。なお,ヨーロッパ特許の排他的
な管轄権を有する単一特許裁判所を設立する協定が締結され,2014年1月1日発効の予定である。また,
欧州審議会(Council of Europe: CE)の加盟国が加入するヨーロッパ人権条約により設立されている
「ヨーロッパ人権裁判所」はEUの機関ではない。
注42) 過去のEC/EUの主要な判例を編纂した中村民雄;須網隆夫編著『EU法基本判例集 第2版』
(日本評論社,
2010)もある。
注43) 注35)庄司 同 p. 10-11. および伊藤 同 p. 251-253.の紹介を参照。
注44) A guide to European Union law : as amended by the Treaty of Lisbon / by P.S.R.F. Mathijsen. 10th ed.
Sweet & Maxwell/Thomson Reuters, 2010. ccv, 651p.もある。
注45)「早稲田大学図書館リサーチNAVI EU情報を探す」
(http://www.wul.waseda.ac.jp/research-navi/find_
eu.html)等大学図書館のWebサイトにも調べ方のガイドがある。
注46) E Uをタイトルとした,佐藤幸男監修;高橋和;臼井陽一郎;浪岡新太郎『拡大E U辞典』(小学館,
2006),村上直久編著『EU情報事典』(大修館書店, 2009)がある。
参考文献
1) 中網栄美子. 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第14回 英米法情報. 情報管理. 2013, v o l .
56, no. 8, p. 536-544.
2) 岩隈道洋. 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第13回 外国法情報の世界. 情報管理. 2013,
vol. 56, no. 7, p. 459-467.
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オーサーシップの 考えを 変 える時だ
愛知淑徳大学人間情報学部 山 崎 茂 明
情報管理 56(9), 636-639, doi: 10.1241/johokanri.56.636 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.636)
オーサーシップは贈り物か?
究室のルールで決められ,それが疑問の余地のない
科学研究の世界を舞台に,科学情報や科学文献を対
流儀であると受けとめられてきた。文献情報が,国
象にした新しい学際的な研究領域が生まれ,科学情
や地域を超えて世界規模で流通するようになるなか
報メディア論や科学コミュニケーション論が形成さ
で,オーサーシップについては共通理解が広まって
れた。このようなものが科学界や研究活動の現状を
いないばかりか,誤った適用や不正な実態が一般化
とらえ,その発展に寄与できるとは,以前では考え
している。特に,ギフトオーサーシップは広く行わ
られなかったであろう。また,この研究領域は論文
れており,お中元やお祝い事の品物と同様に止める
の書き方から文献の検索,レビューやデータベース
ことのできない習慣になっている。そして,研究世
の重要性,さらに研究動向の分析や研究評価,発表
界のなかで,贈与の意味を問いただすことなく,軽
倫理といった今日的テーマへと展開してきている。
い気持ちでギフトを交換しているといえよう。不正
科学研究の世界で,科学情報や科学文献に焦点をあ
論文の共著者になる危険性もあり,贈り物に毒があ
てた新しい学際的な研究領域が,1960年代に生まれ
る1)ことを忘れてはならない。
注目された。プライスの “Little Science, Big Science”
により示された領域である。その後,科学情報メディ
ア論や科学コミュニケーション論が1980年前後に本
オーサーシップについて論じた文献は,どのくら
格的に形成された。ランカスター(Toward Paperless
い存在するのだろうか。身近で信頼できるデータベー
Information Systems, 1978),ガーフィールド(Citation
スであるPubMedから,MeSH用語である「authorship
Indexing, 1979),ゴッフマン(Scientific Information
(MeSH Major Topics)」を用いてオーサーシップにつ
Systems and the Principle of Selectivity, 1980),ワー
いての文献を検索することができる。2013年9月1日
レン(Coping with the Biomedical Literature, 1981)
現在で,2,360件が検索された。出版年による年次変
などの著作が連続して刊行された。
化を見て気づくことは,1990年代,発表数の上昇が
しかし,科学文献情報学の展開にもかかわらず,
636
オーサーシップ文献が示すもの
顕著になり,総合誌を含め発表が蓄積されていった
研究者が必ずしもこれらのトピックスを学んでいる
(図1)。1980年代に議会公聴会で論議された研究不正
とは思えない。例えば論文の書き方を学習したにし
事件を追及するために,1992年に米国研究公正局が
ても,レフェリ-システムやオーサーシップについ
設立され,オーサーシップについても言及されるよ
ては取り上げられてこなかったのではないだろう
うになった。
か。共著論文の場合,著者の範囲をどのように決め
オーサーシップは,具体的にはさまざまなアプロー
るのか,著者の掲載順をどうするのかなどは,各研
チから検討されているが,gift authorship(ギフト
視点 ●オーサーシップの考えを変える時だ
オーサーシップ),honorary authorship(名誉著者),
オーサーシップの定義
coauthorship(co-authorship)(共著者),multiple
生物医学雑誌への統一投稿規程の最新版(2007年
authorship(多数著者),ghost authorship(ゴースト
版)では,著者は,内容に対して責任を負うに足り
オーサーシップ),guest authorship(ゲストオーサー
る十分な寄与をしている者であり,下記の3つの内容
シップ)など,これらの言葉を表題に持つ文献数を,
を同時に満たす者でなければならないと定義してい
2,360件のauthorship論文から識別してみた。出現数
る。また,
(1)では,
「研究の着想やデザイン」
,
「デー
ランキングを作成してみると,co-authorshipが68論
タの取得」,「データの分析と解釈」の3点の寄与内容
文で1位を占めた(表1)。なお,一部でcoauthorship
が「または」で併記されており,これら3点のうちの
という表記もあり,これらも含めてある。2位には多
どれかを満たせばよい。
数著者(multiple authorship)が入ってきた。共著
者と多数著者という,単独著者以外への関心を示し
た論考である。3位はghost authorshipであった。著
者の資格がありながら著者欄にリストされてこない,
主に製薬企業に雇用された統計専門家の存在につい
(1)研究の着想やデザイン,またはデータの取得,
またはデータの分析と解釈
(2)論文の執筆,あるいは原稿内容への重要な知的
改訂
(3)出版原稿への最終的な同意
て論じられてきた。2013年に,臨床試験の信頼性を
この定義からすれば,原稿の閲読や助言をしただ
大きく損なったバルサルタン事件により,現実味を
け の 人 は, 著 者 に な る こ と は で き な い。 ま た, 助
帯びたテーマとして注目されている。4位guest,5位
成金を受けたメンバーというだけでは著者にな
honorary,6位giftの3語は,著者の資格がないにもか
ることはない。1985年に,I C M J E(I n t e r n a t i o n a l
かわらず著者になる点で同じ種類といえる。そこで,
Committee of Medical Journal Editors)が “Guidelines
「共著・多数著によるもの」,「著者資格なしで著者に
「データの取得
on authorship” 2)を発表した当初は,
なるもの」
,
「著者資格があるのに著者にならないも
(acquisition of data)
」は著者要件のひとつに入って
の」にグループ化し表2にまとめた。
5609/s0007 図 1.doc
いなかった。この定義は,知的な寄与に重点を置き,
実験作業を軽視していると若手研究者から批判され
た。また,
「データ収集(collection of data)
」は謝辞
表1 オーサーシップ用語の表題中での出現数順位
順位
1
2
3
4
5
6
オーサーシップ
co-authorship
multiple authorship
ghost authorship
guest authorship
honorary authorship
gift authorship
論文数
68
46
37
17
14
11
(ソース : PubMed, 2013年9月1日, MeSH Major Topicsで検索,
N=2360)
表2 同種のオーサーシップによるまとめ
図 1 オーサーシップについて論じた論文の年次変化:1961~2012 年(N=2318)
図1 オーサーシップについて論じた論文の年次変化:1961
~
(ソース:PubMed,
2013 年 9 月 1 日、MeSH Major Topics で検索 )
2012年(N=2318)
(ソース:PubMed,2013年9月1日,MeSH Major Topicsで検索)
オーサーシップ
co-authorship, multiple authorship
gift authorship, guest authorship, honorary authorship
ghost authorship
論文数
114
42
37
(ソース : PubMed, 2013年9月1日, MeSH Major Topicsで検索,
N=2360)
情報管理 vol. 56 no. 9 2013
637
情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.9
http://johokanri.jp/
December
Journal of Information Processing and Management
欄に記載されるが単純な実験データの収集と専門性
れない」
。そして,
「この講義で得たことは大きく,
の高いデータ取得との違いは明瞭でないのが実態で
今後の自分の研究者人生で忠実に守るべきことで
あり,共通理解を進める必要がある。
ある」
と述べていた。さらに,
「適正なオーサーシッ
プで研究を行っていくことを心にとめておくこと
若手研究者の声
だと感じた。現時点で実行は難しいが,10年後
研究発表倫理の教育実践で,オーサーシップやレ
20年後に,もし研究者として指導する立場に立っ
フェリーシステムについて話してきたなかで,オー
た時,適正なオーサーシップが常識になるよう自
サーシップを中心に若手研究者の率直な声を,筆者
分が貢献できることを考えていきたい」と総括し
の判断でいくつか紹介してみたい。講演後の質疑応
ていた。
答やアンケート回答,メールで寄せられた感想など
からなり,個人が特定されるものは含んでいない。
若手研究者の声に耳を傾けてみると,オーサーシッ
プについて,これまでの慣習のおかしさに気づき,
・
「学会での発表や論文の共著者に,グループのトッ
守るべき大切なルールであるとまとめている。しか
プを入れることは,慣例となっており,当たり前
し,その実現は,若手研究者が指導的な立場になっ
のことだと思っていた」。研究指導への当然の対
た時としており,速やかな適用は難しいと状況を読
処であり,研究者としての階段を上がっていくた
み取っている。オーサーシップの適正な実行には,
めにも守るべき行いと考えていた。
若手研究者間の連携と共通理解を強めるだけでなく,
・
「研究プロジェクトに直接的な関与をしていなくて
指導者を含めた科学界全体で広く討議することが求
も,ボス名を著者として入れてきた。それは研究
められる。若手研究者の教育だけでなく,所属組織
室の決まりであり,批判など考えられなかった」
。
や専門学会の場で,シニア研究者や指導者への教育・
ちゅうちょ
実際の寄与のないボスを入れることに躊 躇はな
啓蒙が不可欠であるといえよう。オーサーシップの
く,
むしろそれは研究者のよき行いとみなされた。
教育にあたり,指導者や主任研究者が参加し,研究
・「以前所属していた大学の研究室では,将来の教
組織全体で合意を形成することなくして,大きく議
授選のために,寄与が存在していないにもかかわ
論を展開させるのは難しい。
らず,特定の教員を著者名に加えるということが
組織的に行われていた」。これに続き,「寄与内容
コントリビューターシップ,著者の寄与内容を
の細部は内部でしかわからないだけに,個人の倫
透明化する
理観が大事だ」と述べていた。
・
「研究室のなかにいると当たり前のように受け継
文への寄与内容が外側からみえないことがあげられ
がれている慣例が,広く見渡せばおかしなもので
る。ギフトだけでなく,当然共著者に入ると考えて
あることに気づいた」。研究発表時におけるオー
いた人が除外されたりしても,読者には判断がつか
サーシップを中心としたルールを科学界で討議し
ない。これをよいことに,実際の寄与のない研究組
基本的な考えを共有しておくことが必要である。
織のトップを著者リストに入れたりすることが横行
・「オーサーシップについて,これまでの研究に関
638
Gift authorshipがなくならない理由のひとつに,論
しているといえよう。
連し思い当たることがあった。論文をまとめるた
米国医師会誌のレニー博士は,著者からコントリ
びに,言葉では表現できない不安な気持ちになっ
ビューターへの移行を提言し,不適切なオーサーシッ
たが,教授の判断に従ってきた。オーサーシップ
プからの脱却を目指した3)。映画作品の末尾に示され
の知識があれば自分の気持ちを表明できたかもし
るクレジットのように,研究と執筆のなかで果たし
視点 ●オーサーシップの考えを変える時だ
た寄与内容を明示することを求めた。レニー博士の
寄与内容を示すコントリビューターシップのアイデ
提案は,オーサーシップを廃し,コントリビューター
アを採用し,共著者のそれぞれの貢献内容を明記し
シップに変えようとする革新的な主張であったが,
透明性を高めることが求められる。結果として,寄
現状はそこまで動かなかった。しかし,寄与内容を
与のない人を除外することになり,ギフトや名誉の
示すことで,実際の貢献のない人々を著者欄から除
オーサーシップを減らすことになるだろう。
外できるようになった。寄与内容の透明性を上げる
研究機関はオーサーシップの定義を明確にし,シ
ことが,オーサーシップの適切な運用を強め,その
ニア研究者に自覚を求め,オーサーシップの悪習を
改善に結びついた。コントリビューターシップの採
終わりにすべき時であるとScienceの論説は述べた。
用は,オーサーシップを否定するものではなく,オー
サーシップの適用を厳格にし,謝辞にあげられる人々
と著者との識別を明瞭にするものとなった。
オーサーシップの変化の時
「名誉のオーサーシップに終わりを」と題された論
説記事が,2012年のScience誌に掲載された4)。異な
る機関に所属する研究者による共同研究の増加など
があり,共著者数の増加が近年の特色になっている。
著者の決定は複雑なものになり,誰が本質的な寄与
をしたのかわかりにくくなっている。それだけに,
執筆者略歴
山崎 茂明(やまざき しげあき)
1947年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒,慶應
義塾大学大学院図書館・情報学専攻博士課程修了。東京
慈恵会医科大学医学情報センター(講師)を経て,現
在,愛知淑徳大学人間情報学部教授。図書館情報学博士
(2001年,愛知淑徳大学)。代表論文「Ranking Japan's
life science research」
(Nature,1994年),著書『パブリッ
シュ・オア・ペリッシュ』
(みすず書房,2007年),『科
学者の発表倫理:不正のない論文発表を考える』(丸善
出版,2013年)。
参考文献
1) Smith, J. Gift authorship: a poisoned chalice?. BMJ. 1994, vol. 309, p. 1456-1457.
2) International Committee of Medical Journal Editors. Guidelines on authorship. BMJ. 1985, vol. 291, p. 722.
3) Rennie, D; Yank, V; Emanuel, L. When authorship fails: a proposal to make contributors accountable.
JAMA. 1997, vol. 278, p. 579-585.
4) Greenland, P; Fontanarosa, P.B. Ending honorary authorship. Science. 2012, vol. 337, p. 1019.
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JOHO KANRI
2013
vol.56 no.9
Journal of Information Processing and Management
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December
Building networks among info pros
̦̾̈́ͦͼϋέ΁ίυ
リ ブ ヨ (関西の図書館員)
第3回
情報管理 56(9), 640-642, doi: 10.1241/johokanri.56.640 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.640)
「リブヨ」は「図書館員のための関西のイベント情
ちなみに「リブヨ」という名前は,覚えやすいよ
報」サイトである。私は2007年にブログを始め,以
うに3 ~ 4文字で,のちのち検索にヒットするように
来6年間,情報の収集と発信を続けている。
オリジナルでと考え,
「L i b r a r y」
「予定表」を略して
仕事で気になることがあるとき,自分の未熟さを
感じたとき,自分で本を読んだり調べたりもするが,
付けたものである。
活動は個人的に仕事外の時間に行っていて,今で
どこかで勉強する機会がないかと思う。そんなとき
も試行錯誤している。ブログは当初,本の感想や日々
情報はどこで得ているだろうか? 職場に案内が来
の雑記もあったが,すぐに今のように情報のみになっ
る研修会は仕事だからこそ行けなかったり,外部の
た。カレンダーを作ったのはイベントを開催日順に
研究団体もよくわからなかったり,ネットで検索し
並べるためである。リンク集やG o o g l eカレンダーを
ても出てこなかったり…。かつての私はそうだった。
始めたのは周囲の勧めで,特にG o o g l eカレンダーは
その後徐々に情報を収集できるようになってきたと
自分自身が使っていないので実感がないが,
「便利だ」
きに,こういう情報が集まっているH Pがあればいい
との声をよくもらえる。最近では,記事のタイトル
のにと思い,いっそ自分で作ってみるか,と軽い気
に年月日と府県名を付けたり,会場の場所や行き方
持ちで始めたのが「リブヨ・ブログ」である。
がわかるようにすることにした。
2007年8月 に ブ ロ グ を 始 め,2008年6月 に カ レ ン
なお,HTML等の専門知識はないのでホームページ
5609 s0008 図 2・
差替え.docx
x
ダーとサイト紹介のH Pを開設。その後,リンク集や
Googleカレンダーを作成,2009年12月からはTwitter
を始め,現在まで続いている。
図1 「リブヨ」のトップページ
URL: http://libyo.web.fc2.com/
640
図2 「リブヨ・ブログ」
URL: http://libyo.jugem.jp/
リレーエッセー ●つながれインフォプロ
ビルダーを購入してH P作成に使っているが,その他
滞るのが利用側として一番困ると思う。だから,コ
はすべて無料のサービスを使っている。
ンスタントに更新すること,そのためにも仕組みや
当初ブログにしたのは,簡単にでき,検索でヒッ
トしやすいという理由からだったが,今まで続けて
デザインはシンプルに,そして誰もがわかりやすい
書き方を心がけている。
きて情報発信に非常に向いていると感じている。そ
2点目は「網羅的に収集」である。
「図書館員のた
れは,個別のU R Lが付き参照しやすいこと,ケータ
めの関西のイベント情報」というフィルターだけで,
イでも見られること(特に数年前の状況では重要),
基本的には内容の判断はしていない。図書館員といっ
T w i t t e rと連動する機能が付くなど自動的にバージョ
ても,館種や立場や規模で関心も違うので,個人の
ンアップすること,フォームに入力するだけで見映
好みで狭めないようにと考えるからである。情報を
え良くできること,記事内を検索できることがあげ
集約することが「リブヨ」の強みなのだろう。ただし,
られる。さらに公開しW e bに置くことで,ネットに
一般参加が可能なのか,図書館員というより本好き
つなげればどこからでも書け,外部にデータが保存
のためのイベントかという判断が難しく,悩むとこ
される(もちろんバックアップは必須)。そして何よ
ろである。
り反応が励みになるという利点があると思う。
3点目は,
「情報元のURLを記す」ことである。主催
情報収集の方法は,J L Aメールマガジンなどの各種
者が出している情報でしっかり確認してもらえるよ
メールマガジン,T w i t t e r,日本図書館研究会などの
うに,かつ図書館員として引用先を記しておきたい
H Pの巡回などである。リンク集は公開もしているの
との思いからである。また連絡先が個人の携帯電話
で,基本的には誰でもできると思う。また,自分で
の場合特に,ブログに書かずに情報元に誘導するよ
イベントに行くと,違うイベントのチラシをもらえ
うに気を付けている。イベント主催者はぜひW e b上
たり,次回から情報を知らせてもらえたりするので,
で情報を発信していただきたい。
情報収集の意味でも参加することは大切である。最
活動を続けることで,自分自身がイベント情報に
近では,主催者の方から情報をいただくこともあり
詳しくなり選んで行けるようになったし,情報収集の
嬉しい限りである。
力が付いたと思う。幸いさほど無理せず続けている
H Pの 更 新 の 流 れ は,
(1)情 報 を 見 つ け る,
(2)
が,
「リブヨ」という発信媒体がなければ,情報をま
T w i t t e rでつぶやくかパソコンの「メモ帳」に貼り付
とめたりチェックし続けたりできたか自信がない。ま
けておく,
(3)ブログを更新する,
(4)カレンダーを
た,国立国会図書館「カレントアウェアネス-E」への
更新する,が手順である。たまに(5)その他(リン
インタビュー掲載や,勉強会での活動の発表,そし
ク集など)の更新も行う。
(2)が随時,
(3)は週1 ~
てこうした雑誌掲載など,個人としての経験にもなっ
2回程度,
(4)は月2 ~ 3回程度行っている。メイン
ている。
はブログで,HPはその補助手段として使っている。
当初は自分用のメモを公開しているだけだったが,
6年間続けた結果,2013年9月末でのブログの記事
徐々に多くの方に知ってもらえるようになったのは
数は1,266件になった(一部非公開記事あり)。新規
Twitterの影響も大きい。Twitter(@libyo)では,ブ
記事は月平均約20件で,アクセス数は日に平均約600
ログの更新情報だけでなく,その他の気になる情報
回である。
や考えたこともつぶやいている。その広がりととも
運営には以下の3点に気を付けている。
1点目は「コンスタントに,シンプルに」である。
情報発信は,内容の信用度はもちろんだが,更新が
に,図書館員同志のつながりも持てるようになり,
「リブヨ」も知ってもらえるようになったと思う。
もちろんSNS(Social Networking Service:Twitter,
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で発信している「羊図書館」http://hitsujitoshokan.
blog.fc2.com/(図3)では,初対面でマンガにしても
らい,さらに今回似顔絵を描いていただいた。自分
がマンガに登場するという楽しくも予想外なことが
起こるのも,発信を続けていたからでありSNSがあっ
たからだと思う。
他にも,イベントでお会いした縁から,仕事の相
談にのってもらったり,図書館見学をさせてもらっ
たりすることもある。
こうしたことが,仕事のモチベーションアップ,
スキルアップにもつながっていると思う。それぞれ
の場所でがんばること,学んだことを活かすことは
もちろんだが,視野を広く持つこと,違う人の意見
を聞くことという点でも意味はある。さらに,困っ
たときに相談できる人がいること,離れた場所でが
んばっている仲間がいることは大きな力となる。
以上,「リブヨ」での情報の収集と発信を振り返っ
てみたが,日ごろはさほど意識せず趣味のように続
けている。これからも少しずつ工夫したり,おもし
ろそうなことは取り入れたりして,マイペースにで
きる限りは続けていきたい。
イベント情報を発信することで図書館員の自主学
習を応援し,図書館員が元気になり,図書館がより
良くなるようにと願っている。
図3 羊図書館『京都図書館情報学学習会第200回』
に参加しました☆
URL: http://hitsujitoshokan.blog.fc2.com/
blog-entry-62.html
執筆者略歴
Facebook,mixiなど)を活用していない人もまだま
だ多く,使い方に注意は必要だが,SNSはより気軽に
コミュニケーションができ,つながりが強くなると
いう利点があると思う。
例えば,司書の仕事を4コママンガで描きブログ
642
リブヨ(りぶよ)
関西の図書館員。匿名希望。
好き:本・音楽・外へ出ること。
似顔絵は,ブログ「羊図書館」
の水知せりさんに描いていただ
きました。
■科学技術振興機構_中面(TOP)
情報論議 根掘り葉掘り ●X・アズ・ア・サービスの時代
X・アズ・ア・サービスの時代
名和小太郎
情報管理 56(9), 643-646, doi: 10.1241/johokanri.56.643 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.643)
ハーバード大学の情報資源政策プログラムという
て。ここでのプロトタイプは宗教,そして教育とな
チームが1980年に「情報ビジネス地図」という報告
る。ここには梅棹忠夫の「お布施理論」という卓抜
を発表している。これを簡略化して図1に示す1)。か
な説がある4)。お経は,その表現もその内容も標準化
つて本欄でも扱ったことがあるが2),3),環境が大幅
されており,だれが読んでも伝わる情報量は同じに
に変わったものの,その内容には棄てがたい点もあ
なるはず。だが,その対価つまりお布施は時と所に
るので,現在の視点で,もう一度紹介したい。
よって違う。なぜか。
梅棹説によれば,それは僧侶――売り手――の格
1980 年の情報ビジネス地図
と檀家――買い手――の格とで決まり,今日の専門
情報ビジネス地図(以下,地図)は市場に出てい
家サービスにおいてもひろく通用している,という。
る情報財を2つの軸で分類している。まず,東西軸に
それでは「格」とはなにか。それは売り手にとっては,
ついては東方を「コンテンツ」,西方を「コンテナ」
まず国家資格――医師,弁護士など――であり,つ
――あるいは「コンジット」――とし,ついで南北
いで社会慣行――学位,出身校,所属組織,家系な
軸については北方を「サービス」,南方を「プロダクト」
ど――でもある,という。ただし買い手の格につい
としている。
て梅棹説は弱い。視聴率,発行部数,引用数などを
それぞれにどんな情報財が入っているのか。東北
域は人の専門的資格がものをいうサービス,東南域
は知的財産権(以下,I P R)のかかわるコンテンツ,
通じて,受け手の反応がそのサービスの価格に反映
しているという。
つぎにI P R域について。ここにある財は,東西軸で
西北域はインフラ型のサービス,そして西南域はコン
みればコンテンツつまり無形,南北軸でみればプロ
テンツの媒体となる日用品がある。以下,それぞれ
ダクトつまり有形,したがって「無形かつ有形」の
を専門家域,IPR域,インフラ域,日用品域,と呼ぼう。
ものである。この「無形かつ有形」の財を取引する
それぞれの領域はそれぞれの秩序をもっていた。
ためには,その無形のコンテンツを占有可能なプロ
それぞれの秩序とはなにか。まず専門家域につい
5609 s0009 図 1・2・3 差替え - コピー.docx
サービス
↑
郵便
電信
小包
電話
放送網
CATV
コンピュータ網
衛星通信
タイプライタ
↓
プロダクト
ファイル
用紙
コンピュータ
複写機
電話機
金融サービス
パッケージソフト
モデム
ワープロ
新聞
ATM
ビデオ
マイクロフィルム
コンテナ
LP
書籍
←
→
コンテンツ
マクローリン(1980):引用者,簡略化
図 1 情報ビジネス地図(1980 年)
↑
郵便
電信
小包
タイプライタ
る。そのI P Rとは,この文脈では,まず著作権,つい
許などを含む。いずれも専門家サービスをプロダク
トとして固定するものとなる。
つぎにインフラ域。ここではユニバーサル・サー
あまね
ビスがその秩序となる。それは「遍く等しく」かつ「安
図1 情報ビジネス地図(1980年)
サービス
な柵を設ける必要がある。これがI P Rという制度とな
でソフトウェア特許,ビジネスモデル特許,医療特
ソフトウェア
TV セット
ラジオ
専門サービス
データベース
ダクトとみなし,ここにコピーは不可という人為的
専門サービス
金融サービス
新聞
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643
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vol.56 no.9
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価」でのサービスという理念をもつ。
なってしまっている。その融合は地図の真ん中に両
最後は日用品域。ここは工業製品の領域である。
性具有的――「コンテンツかつコンテナ」そして「サー
技術的には標準化,経済的には一物一価がよしとさ
ビスかつプロダクト」――なコンピュータが現れた
れる。とくに情報財としてみた場合,それは使い勝
ためである。
手のよいヒューマン・インターフェースをもつこと
せつぜん
同時に1880年にはたがいに截 然と切り離されてい
た伝統的な秩序群も互いに重なり合い,その区別が
が求められる。
あいまいになった。この秩序の相互浸透が今日まで
コンピュータの位置
続いている5)。
ここで歴史をまだコンピュータのなかった1世紀前
ここで1980年の地図から非コンピュータ系のサー
――1880年――に戻し,この時点の情報ビジネス品
ビスやプロダクトを除いてみよう。その地図は,中
目を1980年版の地図から拾い出してみよう。それが
央にコンピュータとその関連サービスとをわずかに
図2となる。専門家域には専門サービスと金融サー
残すのみである。それらの特徴を改めて想起すると,
ビスなど,I P R域には書籍,新聞など,インフラ域に
まず高価であった。たとえば汎用コンピュータ。く
は郵便,小包サービスなど,日用品領域にはビジネ
わえて使い勝手の悪いヒューマン・インターフェー
ス用紙,ファイル・キャビネットなど,がすでに存
スをもっていた。たとえばQWERTY配列。
在していたはずである。だが,いずれの領域も1980
いまにして思えば,1980年版の地図には,モノの
年版に比べれば品目も少なく,特徴も素朴である。
時代から情報の時代への移行期の情報ビジネス像が
しかも地図の中心部は空白になっている。この時代,
示されていた。ここまでが,やや長すぎた前書き。
5609 s0009 図 1・2・3 差替え - コピー.docx
パンチ・カードもレコードも映画も事業化はされて
サービス 郵便
電信
電話
ゼロ年代の変化
↑
小包
コンピュータ網
いなかった。
放送網
専門サービス
CATV
データベース
1980年版の地図にもどる。専門家域には放送や広
衛星通信
ソフトウェア
ゼロ年代に入り,1980年には地図の中央部にやっ
告サービスなどが,I P R域にはL Pやビデオなどが,イ
タイプライタ
複写機
モデム
新聞
とその姿を現していたコンピュータが,その姿を大
ンフラ域には電話や衛星サービスなどが,日用品域
プロダクト
用紙
マイクロフィルム
書籍
きく変えた。それは地図の全域にその版図を拡大し,
には複写機やT Vセットなどが,それぞれ加わってい
多様な情報処理を下支えするようになった。いわゆ
マクローリン(1980):引用者,簡略化
5609 s0009 図 1・2・3 差替え - コピー.docx
TV セット
ラジオ
↓
ファイル 電話機
コンピュータ
パッケージソフト
ATM
ワープロ
ビデオ
コンテナ ←
LP
→ コンテンツ
図 1 情報ビジネス地図(1980 年)
る。さらに1世紀前には真っ白だった中央部にコン
るクラウド・コンピューティングの出現である。そ
サービス 郵便
電信
電話
放送網
専門サービス
ピュータ,そしてソフトウェア,データベース,コ
れはすべてのアプリケーションを呑みこみつつある。
サービス 郵便
電信
専門サービス
↑
小包
CATV
コンピュータ網
データベース
金融サービス
衛星通信
ソフトウェア
ンピュータ網,ワープロなど,コンピュータ応用品
TV セット
ラジオ
コンピュータ
タイプライタ
複写機
目が現れてくる。
↓
ファイル
電話機
パッケージソフト
モデム
ワープロ
新聞
ATM
ビデオ
LP
用紙
マイクロフィルム
書籍
くわえて1980年には,専門家域の品目もI
P R域の品
プロダクト
コンテナ
←
→ コンテンツ
目もインフラ域の品目も日用品域の品目も互いに重
マクローリン(1980):引用者,簡略化
小包
金融サービス
ここで時代を進め,2010年における地図を改めて
↑
作ってみよう。論点を明らかにするために,ビジネ
タイプライタ
新聞
↓
ファイル
ス品目をコンピュータ関連のものにかぎって,描い
プロダクト
用紙
書籍
てみる。これを図3に示す。
コンテナ ←
サービス
↑
郵便
→ コンテンツ
図 2 情報ビジネス地図(1880 年)
図 1 情報ビジネス地図(1980 年)
電信
専門サービス
小包
金融サービス
サービス
↑
インターネット
ワトソン人工知能
SNS
携帯電話網
GPS
M2M
高速モバイル通信
タイプライタ
↓
プロダクト
↓
用紙
書籍
コンテナ
←
→ コンテンツ
図 2 情報ビジネス地図(1880 年)
↑
インターネット
高速モバイル通信
M2M
GPS
クラウド・コンピューティング
IC タグ
ネット・オークション
アルゴリズム取引
データマイニング
P2P
検索エンジン
データウェアハウス
SaaS
ネット・オークション
PC
スマートフォン
コンテナ ←
TV セット
P2P
HP
ブログ
SaaS
MOOC
スマートフォン用アプリ
電子書籍
YouTube
→ コンテンツ
図3 情報ビジネス地図(2010年:コンピューター関連のみ)
ワトソン人工知能
SNS
携帯電話網
プロダクト
iPad
検索エンジン
データウェアハウス
図 3 情報ビジネス地図(2010 年:コンピュータ関連のみ)
図2 情報ビジネス地図(1880年)
サービス
IC タグ
新聞
ファイル
アルゴリズム取引
データマイニング
クラウド・コンピューティング
644
金融サービス
MOOC
情報論議 根掘り葉掘り ●X・アズ・ア・サービスの時代
まず専門家域について。ここでは人工知能がその
もう1つ。かつて放送番組や新聞記事などの情報財
存在感を高めている。たとえばI B Mの人工知能「ワ
は,その対価をユーザーにではなく広告業者に転嫁
トソン」,あるいは金融サービスにおけるアルゴリズ
していた。この方式がいまやアフィリエイトとして,
ム取引,そして高頻度取引など。ここにはグーグル
インターネット上の多くのアプリケーションにも組
の検索エンジンも入るだろう。米国の法学雑誌には,
み込まれている。エンド・ユーザーはサービスの対
サービスの人工知能化によって弁護士――つまり専
価を意識することはない。
門家――は消える,などという論文も発表されるよ
以上のあれこれの理由により,このI P R域にはすで
うになった。ここでは人工知能に責任を問えるのか
にフリー・ソフトウェア,オープン・ジャーナルの
という新しい課題が現れる。なお,伝統的な専門
普及があり,くわえてP2Pの乱用など,海賊行為が常
家サービスの電子化も進んでいる。たとえばM O O C
態化している。I P Rという制度は,今後,シジフォス
(Massive Open Online Course)など。
つぎにインフラ域について。ここには多くの情報
の努力を続けなければならないだろう。
日用品域についてはどうか。わずかにプロダクト
通信インフラがある。インターネット,携帯電話網,
の論理が残っている。それはコンテナあるいはコン
高度モバイル通信サービスなど。1980年版の地図で
ジットとしてエンド・ユーザーに提供される。現実
は独占市場であったが,その直後に競争政策が導入
には,文字,音響,画像などのプロダクトが,スマー
され,2010年版の地図においてはサービス内容が多
トフォン,そしてタブレット端末に置換された。
様化している。にもかかわらず,あるいは,だからか,
それらはプロダクトではあるが,すでに一物一価
ユニバーサル・サービスは,その対象を社会教育や
の論理を失っている。くわえて,そのプロダクトは
娯楽まで含めて,実質的に実現してしまった。
過剰品質かつ短寿命という仕様をエンド・ユーザー
つぎにI P R域。かつてここには「無形かつ有形」型
――つまり非コンピュータ系――のプロダクトが数
に強いるものとなった。サービス産業の論理がプロ
ダクト産業にも踏み込んできたということだろう。
多く残っていた。だが今日,その無形化すなわち脱
プロダクト化が徹底し,いずれもサービスと化して
いる。たとえば書籍に対する電子書籍。あるいは
DVDに対するYouTubeなど。
新しい情報ビジネス
2010年には,情報ビジネス地図の様式では表現で
きないビジネス,つまりどこにそれを記入すべきか
くわえて,ここには多数のスマートフォン用のア
に迷うビジネスも数多く出現している。以下,それ
プリケーションがビジネスとして出現し,逆に,ホー
らを列挙しておこう。まずGPS,
そしてM2M
(Machine
ムページ,ブログなどが,無料のサービスとして,
t o M a c h i n e)型のアプリケーション。いずれもイン
かつてはエリートのものであったI P R型プロダクトを
フラ域のサービスとも専門家域のサービスとも見え
大衆化してしまった。
る。
この領域では,ビジネスのさらなるサービス化に
どちらも計算量は大きい。したがってコストもかか
もかかわらず,その対価の徴収を在来型のI P R制度に
る。だが多くの場合,エンド・ユーザーの行動記録
頼っている。そのI P R制度は,さきに示したように無
を自動的に収集し,そのデータ群――ライフログな
形を有形と仮想化する制度である。だが万人がパソ
ど――をビッグデータとして処理し,この出力を商
コンそしてスマートフォンというコピー機を所有し
品として関連事業者――交通事業者,医療事業者な
てしまった現在,この仮想化がいつまで通用するの
ど――に売りつける。エンド・ユーザーにはなにも
か,これは悩ましい課題といえる。
見えない。
「プライバシー保護」
は死語になるだろう。
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645
情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.9
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
December
新しい型のサービスとしてはSNSもある。これは高
付加価値化したインフラ域のサービスとも,大衆化
された専門家域のサービスとも,脱権利化したI P R域
のサービスともみえる。
このS N Sだが,まずそれは電話の発展型ともみえ
ト・オークションなど,けったいなサービス(?)
が出現している。
* *
い ず れ に せ よ, エ ン ド・ ユ ー ザ ー か ら み る と,
2010年の情報サービスはすぐれた特徴をもってい
る。それは一対多の「つぶやき」の形で,つまり「人
る。それは,第1に低価格,あるいは無料であること,
間の自己表出」を拡散するサービスである。なお「人
第2に子供でも使えるような,あるいは無意識のうち
間の自己表出」とは,「情報」に対して梅棹が示した
に使えてしまうヒューマン・インターフェースをもっ
定義でもある。
ていること,第3にサービスのための装置や情報が
つぎに,それは情報の売り手の社会的格を自動生
成する装置でもある。フォローの数やフォロー者の
数が,その社会的な格を示すものとなる。さきに紹
介したお布施理論は,ここでは大衆化される。
どこの国にあるのか見えないこと,である。あげて
XaaS(X as a Service)の時代となったためである。
XaaSは,そのうえに載せるアプリケーションをサー
ビスとして扱う技術である6)。いうまでもないが,そ
さらにそれは,遊戯性をもつ立ち入り自由のサー
れを下支えするものがインターネットとユーザーの
ビスでもある。とすれば脱権利化が徹底したI P R型
もつパソコン群であり,さらにそれを仮想化するク
サービスともみえる。
ラウド・コンピューティングである。
SNS以外でも,たとえばホームページやブログに対
XaaSの ‘X’ は,たとえば ‘S’(Software)と化して
する検索エンジンのランキング・システムなど,こ
SaaSとなり,あるいは ‘P’(Platform)と変じてPaaS
れらも社会的な格の表示手段といえる。そのホーム
となり,さらには ‘I’(Infrastructure)と転じてIaaS
ページ,ブログのいずれも,どの領域に置くべきな
となる。いや,‘H’(Hardware)すらありうる。たと
のか,迷う。
えばスマートフォンや3Dプリンター。いまやユーザー
最後に日用品域においてはどうか。I P R域とのあい
だには3Dプリンター,インフラ域とのあいだにはネッ
はこれらを重ね合わせ,情報ビジネスのアプリケー
ションを選択し,入手することができる。
参考文献
1) McLaughlin, John F.; Birinyl, Anne E. "Mapping the Information Business", gray literature, 1980.
2) 名和小太郎. 情報ビジネス地図・再考(上)
. 情報管理, 2004, vol. 46, no. 11, p. 768-769.
3) 名和小太郎. 情報ビジネス地図・再考(下)
. 情報管理, 2004, vol. 46, no. 12, p. 843-845.
4) 梅棹忠夫. 情報の文明学. 中央公論社, 1988, p. 27-52.
5) 林紘一郎. 情報メディア法. 東京大学出版会, 2005.
646
集会報告 ●Meeting
第20回情報活動研究会
「資料のデジタル化のヒント:規模や形態が異なる資料の管理と保存方法」
日 程
2 0 13 年 9月4日( 水 )1 8:30 ∼ 2 0:00
場 所
凸版 印 刷 株 式 会 社 フェスティバルタワー
主 催
情 報 活 動 研 究 会( IN F O M A T E S )
後 援
一 般 社 団 法 人 情 報 科 学 技 術 協 会( IN F O S T A )
独 立 行 政 法 人 科 学 技 術 振 興 機 構( JS T )情 報 企 画 部
協 力
協 力
株式会社サンメディア
情報管理 56(9), 647-648, doi: 10.1241/johokanri.56.647 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.647)
講 師:大橋秀亮氏(凸版印刷株式会社 西日本
事業本部事業戦略本部販売促進部)
参加者数:23名(運営委員8名含む)
視野に入れ,資料のデジタル化を行っている。資料
をデジタル化するにあたっては「なぜデジタル化を
行うのか」「デジタル化した資料をどのように活用し
保存するのか」について,その目的を明確にし,作
1. はじめに
業工程の目標を立てることが重要となる。①主体と
今回の研究会では,凸版印刷がこれまで手掛けて
なる人(依頼を行う団体や個人),②パートナー(凸
きたデジタルアーカイブの事例について,博物館や
版印刷),③デジタル化の作業を行う者,そして④利
文書館,歴史資料館など,形態の違う資料における
用者の4者が,同じ目的・目標を掲げてモチベーショ
アーカイブの作業工程を中心に,専門家である大橋
ンを高め,作業を進めることでよりよい成果を得る
氏にご説明をいただいた。
ことができる。また,資料とその保存について,熱
凸版印刷では,本業である印刷をはじめ,新しい
形態の販促システムであるO2O(Online to Offline)
意や愛情を持ち続けることも,作業を成功させる大
切な要因となる。
プロモーションシステムの共同開発や提供,高度な
印刷技術を応用した太陽電池関連素材の製造など,
3. デジタル化における問題点や苦労
さまざまな事業を展開している。さらに凸版印刷の
資料のデジタル化においては,作業対象である資
広範な業務内容において,資料の保存や修復,デジ
料の形態が,その都度異なる。そのため,資料に合
タル化などの事業における豊富な経験に基づく最新
わせたさまざまな工夫を行っている。資料の劣化状
の技術が導入されており,各方面から注目を集めて
態のチェックやデジタル化のためのスキャニングの
いる。
調整,立体物を撮影する際のライティングの工夫な
どである。
2. 事業活動を支える「情報資産」と,その最適
資料によっては,折れ曲がった書類を押さえるた
な管理・活用を目指して
めに手作りのガイドを作ることもある。用途が不明
古文書や考古資料,美術品や地図,写真などの歴
な古い民俗資料にインデキシング(検索用の見出し
史資料は,脈々と受け継がれてきた文化が記録され
をつける作業)を行う際には,分類作業の難しさに
た貴重な「情報資産」と言えるだろう。情報資産の
大変苦心している。スキャニングした文字を判読す
利用価値を高め,かつ永続的なものとするために,
る作業でも,何段階もの加工や修正を経て認識させ
効率的な保存・管理を行うとともに将来的な活用を
るなど,結果からは見て取れないような手間がかかっ
情報管理 vol. 56 no. 9 2013
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情報管理
JOHO KANRI
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vol.56 no.9
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ている。また,限りなく続くような単調な繰りかえ
し作業では,作業が中弛みしてミスやトラブルが生
じないように,作業員と依頼主との一体感を高めて
もらうような雰囲気づくりをしたり,ときには初心
に返って目標を見失わないように心掛けるような気
遣いも必要である。
4. デジタルアーカイブの活用事例
デジタル化の一例として,凸版印刷が手掛けた
WEB懐徳堂(http://kaitokudo.jp)では,デジタル化
された貴重な文化財を一般に公開しており,デジタ
ルならではの楽しみ方や見せ方が行われている。ま
婦人と一角獣」のタペストリーの高精細デジタルアー
た,現物をそのまま公開することが難しい立体物や
カイブデータなどデジタル事業の今後が大変楽しみ
文書資料などは,デジタル化されたものをさらに動
である。
画などに構成するなど,さまざまな角度から楽しめ
「資料のデジタル化」と言っても,資料により実に
るデータベースを構築して,デジタルコンテンツと
さまざまな工程がある。今回,ご紹介いただいた事
して活用している。
例についても,その資料に応じてケースバイケース
以上が講演の概要である。
で作業を行っている。一方,自分たちが管理・提供
している資料をデジタル化する場合について考える
5. おわりに
講演のおわりには,洛中洛外図屏風・舟木本(重
とがそもそも難しい」と,率直な感慨を覚えた。
要文化財)の超高解像度デジタル化V R(ヴァーチャ
本講演では,目標を立ててぶれないように修正し
ルリアリティー)コンテンツの一部を参考として紹
ながら物事を進めれば,納得のいく成果物により近
介いただいた。原寸以上に拡大しても原本より鮮明
づくことができる,という点を強く感じた。また,
になる(!)という不思議さと,原画に忠実な素晴
本講演を通じて,大橋氏の資料に対する熱い思いを
らしい色合いの再現や演出の面白さに圧倒された。
感じることができた。
2009年に東京で公開され人気を博した興福寺阿修羅
像のデジタルコンテンツや,新しいところでは「貴
648
と,「まず何から着手すればよいか,見当をつけるこ
(INFOMATES運営委員 澤村 容子)
この本!おすすめします ●ゲームチェンジの時代に
高 久 雅 生 (筑波大学 図書館情報メディア系)
ゲームチェンジの時代に
情報管理 56(9), 649-652, doi: 10.1241/johokanri.56.649 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.649)
ゲームチェンジ,つまり,従来からのパラダイム
い。暗黙のうちに影ながら生まれ,気付けば急に立
を変換させ,人々の行動様式や社会の制度を一から
ち現れるかに見える。さまざまな偶然がこのような
変えてしまうような技術的変革や社会的変革が起こ
変化を生む要因となりうるが,結果としてのゲーム
る時代にわれわれは生きている。
チェンジは特定の誰かが企図したものではなく,社
1976年生まれの,というよりは,1994年春に大学
会的な流れによって生まれたと思われる。
に入学した筆者にとっては,Web(World Wide Web:
キーワードは
「シンプルさ」
と
「複雑さ」
ではないか。
WWW)の発生とその爆発的な発展はまさに歴史に残
Webに関して,いま振り返れば,非常にドラマチッ
るゲームチェンジが目の前で繰り広げられたように
クでダイナミックな営みの根源を考えるため,まず
思う。
『Webの創成』
(原題:“Weaving the Web”)を紹介し
世代論として言えば,モザイク世代(M o s a i c:
たい。Webの発明者ティム・バーナーズ・リー(Tim
1993年にリリースされた最初期のG U I型W e bブラウ
Berners-Lee)が書いたこの自伝的なエッセイは,彼
ザ)を自認する私は,その続く時代の波を日本の片
が超人などではなく,新しい情報環境を夢見つつ実
隅で,つくばで,インターネットを通じて見てきた。
装にも取り組む普通のエンジニアであり,きわめて
これはWebだけでなく,WAISやGopherといった当
現実的な実践家であったことを示している。
時の次世代型情報提供システム1) が次々と出現して
はあっという間に消え去る過程でもあり,N e t N e w s
『Webの創成-World Wide Webはいかにして
の時代が終わるとともに,ドッグイヤーの名のもと
生まれどこに向かうのか』
にそれまでの公共圏を形成していたルール(ゲーム)
ティム・バーナーズ・リー著 ; 高橋徹監訳
に変革が迫られる時代でもある。
毎 日 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ズ( 現 マ イ ナ ビ ),
このゲームチェンジの時代において,自らがゲー
2001年(絶版)
ムを作ろうとする気概を持つ者は重要なキープレー
ヤー足りうるが,結果として,その変革を起こせず
ただ一点違ったのは,複数人の共同による情報共
に歴史の波間に消えていった者も多くあるのも必然
有を考える機会が彼にはあり,その機会を,思い切
である。
りよくシンプルなハイパーテキストシステムの考案
そして,昨日までの日常は一瞬にして変わるので
はない。数年かけた変化は,ある日振り返ると日常
が別の何かに置き換わっていることに気付く。
そう,ゲームチェンジには明示的な瞬間は訪れな
と提案,そしてソフトウェア開発につなげたことだっ
た。
ただし,あまりにシンプルなシステムとして発明
したがために,彼自身が当初は考案していながら実
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情報管理
JOHO KANRI
2013
vol.56 no.9
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December
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でページが作れ,ハイパーテキストとして実現する
という,シンプルなアイデアで構築されたウィキシ
ステムもまた偶然から生まれたようにも思える。
ウィキは,ソフトウェア開発のコミュニティーの最
先端から生まれたシンプルなシステムだった。
『W i k i
Way』はそれを伝える好著だ。
『Wiki Way-コラボレーションツールWiki』
Bo Leuf ; Ward Cunningham著 ; yomoyomo訳
ソフトバンク クリエイティブ,2002年,
3,990円(税込)
装に盛り込めなかった機能もある。コンテンツのオ
ンライン編集や著作権管理などである。これらの機
能は,彼自身が開発した最初のW e bブラウザには盛
り込めなかったが,強い思い入れを持ってそれを構
想していた。そして,黎明期のW e bはそれらの構想
を置き去りにして,シンプルなアーキテクチャのも
と,M o s a i c,そしてのちにN e t s c a p eをはじめとす
るブラウザの競争的開発と爆発的な普及とが起こっ
た。
『W e bの創成』はまさにその時点において,発明
者としての彼自身がもちえた万能感とフラストレー
ションとを同時に描写している点がユニークであり,
このような発明者の構想すら超えて進んでいくゲー
ムチェンジの様子と葛藤とを如実に描写している。
このように生まれ普及がはじまって間もないW e b
すらないほどだが,その上でのコミュニティーのあ
において,オンラインでの編集というアイデアは再
りようはそれとは対照的に意外と複雑な様相を見せ
び生まれ出る。それも,元の構想とはまったく別
『Wiki Way』は,複数の事例を取り上げる
ている2)。
の,シンプルに実装しなおした形で現れたのが印象
ことによって,この結果的に現出するコミュニティー
的だ。しかも,それは当初に想定されていたような,
の複雑性を的確に描写している。このような技術的
W e bのアーキテクチャ内に埋め込まれたものではな
な仕掛けとそれにより形成されるコミュニティーの
く,単にサーバーサイドで動作するインタラクティ
あり方を考えることは,情報専門家にとっても参考
ブなアプリケーションの1つとして表現された。それ
になるだろう。
がウィキ(Wiki,もともとはWikiWikiWeb)である。
650
システムとしてのウィキはシンプルで解説の余地
話をゲームチェンジに戻そう。
今日では「ウィキ」と言えば,そのシステムを用
上述のような,非連続的な技術革新を解説する名
いた百科事典ウィキペディアの方が著名になってい
著が『イノベーションのジレンマ』である。特に技
るが,ブラウザ上で誰もがテキストを編集するだけ
術分野におけるパラダイムの転換,評価軸の転移を,
この本!おすすめします ●ゲームチェンジの時代に
事例とともにうまく分析し,ベストセラーとなった。
易ではない。ベンチャーマインドを称揚し,新しい
試みとそれに伴う失敗を覚悟して初めてイノベー
『イノベーションのジレンマ-技術革新が巨大
ションは眼前に現れる。内に外に問わず,そのよう
企業を滅ぼすとき』(増補改訂版)
な新しい取り組み,非連続的な発想を称揚するのは
クレイトン・クリステンセン著 ; 玉田俊平太監修,
口で言うほど簡単ではない。単にイノベーションの
伊豆原弓訳
招来を歓迎するだけでなく,守旧側が問われるのは
翔泳社,2001年,2,100円(税込)
滅びさる覚悟である。例えば,多くの図書館では一
部の例外を除き,
カード目録を滅ぼしてきた。それは,
安価で便利な計算機とネットワーク技術の進展に伴
う,電算化の急速な普及によるものであったし,そ
れこそが非連続的なイノベーションの事例である。
あるマーケット(ここではカード目録)が縮小し,
消えていくことはイノベーションの観点からはいつ
でもありうる日常である。
最後に,日常的にこのような破壊的イノベーショ
ンを称揚できることの幸運と葛藤とが同居する現代
に感謝しつつ,そして,次のイノベーションをひそ
http://books.shoeisha.co.jp/book/b72918.html
ハイパーテキストシステムとしてW e bが持つ非連
続性は,まさにイノベーションの典型と言えるだろ
う。シンプルなアーキテクチャと,その発明者の思
惑すら乗り越えた実装の数々とが,結果的には,相
乗的にうまく交差することにより普及が進んだ点も
それを裏付けている。
執筆者略歴
高久 雅生(たかく まさお)
1976年生まれ,東京都北区出身。図書館情報大学卒
ゲームチェンジをどのように起こすか,誘発する
かが,これまで,そしてこれからも問われる課題と
なるだろう。
業,図書館情報大学大学院図書館情報学研究科修士課程
修了の後,2004年に筑波大学大学院図書館情報メディア
研究科博士後期課程を修了。博士(情報学)。その後,国
立情報学研究所においてポスドク研究員としてWeb情報
学術情報流通の分野においても,イノベーション
検索およびその評価手法や研究者情報サービス等を研究
は確実に忍び寄っている。W e b上におけるフリーミ
ンジニアとして研究者総覧,図書館情報システム等の開
アムの興隆とその典型であるM e n d e l e yの登場
3)は,
それを示す事例であると思われる。また,クリステ
開発。のち,物質・材料研究機構においてライブラリエ
発にそれぞれ従事。2013年4月より筑波大学図書館情報メ
ディア系准教授。専門は,電子図書館,情報検索,情報
探索行動,学術情報流通。情報知識学会理事,ACM,情
ンセンが『イノベーションのジレンマ』で述べたよ
報処理学会,日本図書館情報学会等の学協会に所属。加
うに,持続的な改善に取り組む当事者である旧来側
えて,Project Next-LやCode4Lib JAPAN, saveMLAK等の活
の人間が非連続的なイノベーションを起こすのは容
動にも参画している。
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情報管理
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vol.56 no.9
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December
やかに図ろう。次のイノベーションは確実にやって
http://johokanri.jp/
ンジの時代に生きるわれわれは幸運であると。
くるのだから。そうなのだ。あえて言おう,ゲームチェ
参考文献
1) Krol, Ed; エディックス訳; 村井純監訳. インターネットユーザーズガイド改訂版. インターナショナル・ト
ムソン・パブリッシング・ジャパン, 1995, 783p.
2) リー , アンドリュー ; 千葉敏生訳. ウィキペディア・レボリューション: 世界最大の百科事典はいかにして
生まれたか. 早川書房, 2009, 443p.
3) ヘニング, ビクトール. 研究者コミュニケーションを根本から変える文書管理の変革: Mendeley CEOが語
る学術情報流通の将来. 情報管理. 2012, vol. 55, no. 4, p. 253-261.
652
情報界のトピックス ●Topics of the information community
情報管理 56(9), 653-656, doi: 10.1241/johokanri.56.653 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.653)
Wikipediaを利益追求のために編集
供が開始されている。
(https://wikimediafoundation.org/wiki/Press_
W i k i p e d i aを運営するW i k i m e d i a財団は,特定の
releases/Sue_Gardner_statement_paid_advocacy_
製品やサービスを宣伝するために金を受け取ってい
editing)(accessed 2013-11-11).
た(Paid-for advocacy)編集者アカウントを無効に
(http://en.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:Wikipedia_
したと11月に発表した。無効にされたアカウントは
Signpost/2013-10-09/News_and_notes)(accessed
250を超える。利益を得るために編集をする行為は,
2013-11-11).
Wikipediaのポリシーや利用規約の違反だが,英語の
ページで増加しており,調査によれば,問題とされ
Macmillan社が全電子書籍を図書館に提供
る記載のほとんどが,米国に本拠を置くWiki-PR社に
起因する。Wiki-PR社は,12,000を超える人物や会社
Baker & Taylor,OverDrive,3M,RBDigitalの各社
のために,Wikipediaページの作成・編成,管理,翻
は10月17日,Macmillan社が電子書籍の全既刊書リス
訳を提供していると主張しており,最近それらの顧
トを図書館に提供することになったことを顧客に伝
客に,航空券・ホテル・レンタカーなどの格安予約
えた。長い間,図書館への電子書籍販売を拒否して
サイトPriceline.comとメディアの大手企業Viacom
きたMacmillan社は,今年1月に,公共図書館での電
が加わったことが発表された。2011年の設立当初,
子書籍貸出をテストする2年間のパイロットプロジェ
W i k i - P R社は1記事当たり約500ドルを請求していた
クトを開始したが,10か月でそれを拡大したことに
が,今では1記事当たり約2,000ドル,顧客のサイズ
なる。ただし今回,新刊書リストは含まれない。図
次第でそれ以上を請求しており,記事の新たな編集
書館利用者は,Macmillan傘下のSt. Martin's,Straus
を望む顧客は,毎月99ドルを支払わなければならな
& Giroux,Henry Holt,Macmillan Children's,Torの
い。オンライン新聞D a i l y D o tは,ある大学の学部長
電子書籍約11,000を読むことが可能になる。全既刊
の経験を紹介しているが,それによると,彼は自分
書リスト提供の条件は以前と変わらず,同一書籍を
についての記事を作成してもらうために1,500ドルを
同時に2人以上が借りることはできず,価格は1タイ
払ったが,そのページが注目に値しないという理由
トル25ドル,貸出は2年間または貸出回数52回のうち
でいったん削除された後,わずか30語のプロフィー
早い方となる。
ルに縮小され,費用として更に800ドルを要求され
米国図書館協会(American Library Association:
たということである。今回大きく取り上げられて話
ALA)のStripling会長は,Macmillan社のパイロッ
題になったが,WikipediaのSignpost紙によると,利
トプロジェクト拡大を歓迎するコメントを発表し
益追求のための編集の問題は新しい問題ではなく,
た。それに加え,5大出版社のうちPenguin Random
2006年には既に49 ~ 99ドルで,Wikipedia記事の作
House内のPenguinグループが図書館の電子書籍貸出
成・編成を目的とする会社が設立され,サービス提
の条件を改善し,Hachette BookグループとSimon &
情報管理 vol. 56 no. 9 2013
653
情報管理
JOHO KANRI
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vol.56 no.9
Journal of Information Processing and Management
December
http://johokanri.jp/
S c h u s t e r社は昨年からニューヨークの数図書館にお
団体のネットワークを構築するための助成金990,195
いてパイロットプロジェクトを開始したなど,順調
ドルをD P L Aに提供することになった。D P L Aはサー
に改善してはいるものの,高価格(Random House)
ビスハブと共同で研修カリキュラムの資料を作成し,
や26回の貸出制限(H a r p e r C o l l i n s社)など,依然
デジタルスキルと能力を向上させるための実践的な
として解決しなければならない問題が残っていると
研修を行う。
語った。
(http://www.infodocket.com/2013/10/24/dpla-adds-
(http://lj.libraryjournal.com/2013/10/publishing/
three-new-services-hubs-and-launches-super-cool-e-
pubcrawl/librarians-distributors-weigh-in-on-
book-bookshelf-tool/)(accessed 2013-11-11).
macmillan-ebook-lending-pubcrawl/)(accessed 201311-11).
米国デジタル公共図書館の進展
アマゾン,オンライン学習企業を買収
米A m a z o nは10月10日,オンライン学習サービス
企業T e n M a r k sを買収することで,両社が合意した
米国デジタル公共図書館(Digital Public Library of
と発表した。T e n M a r k sは幼稚園から高校までの児
America: DPLA)に,3つの新しいサービスハブが加
童・生徒向けに,算数・数学のオンライン学習プロ
わった。(1)Metropolitan New York Library Councilが
グラムを提供している。A m a z o nは「受賞歴のある
8つのregional library councilsと協力して管理運営す
TenMarksの数学プログラムは,世界中の数万もの学
るEmpire State Digital Network,
(2)250のパ-トナー
校で使用されている。AmazonとTenMarksは協力し
機関からの30万件を超えるデジタルアイテムで構成
て,充実した教育コンテンツやアプリケーションを
されるThe Portal to Texas History,(3)ノースカロラ
開発して,複数のプラットフォームで利用できるよ
イナ州内の機関からメタデータを集めるT h e N o r t h
うにするつもりだ」としている。買収金額などは明
Carolina Digital Heritage Center,である。これによ
らかにされていないが,今後さまざまな手続きを経
りサービスハブの総数は9になった。サービスハブは
た上で,2013年第4四半期には買収を完了する予定。
域内の図書館,博物館,アーカイブなどの機関から
(http://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=
デジタルオブジェクトに関する情報を集めて,標準
176060&p=irol-newsArticle&ID=1863590&highlig
化されたデジタルサービスをパートナー機関に提供
ht=)(accessed 2013-11-11).
する,州や地域のデジタル図書館である。
D P L Aは, 資 料 に ア ク セ ス す る た め の 新 し い イ
出版大手3社,「日本電子図書館サービス」設立
ンターフェース “B o o k s h e l f” を発表した。これは
Harvard Library Innovation Labが開発したバーチャル
紀伊國屋書店,K A D O K AWA,講談社の3者は10月
書架で,検索結果が書棚に置かれた本のように表示
15日,合弁会社「株式会社日本電子図書館サービス
され,本の背に書かれた題名や著者の名前を容易に
(略称:JDLS)
」の設立を発表した。これまで3者は電
読むことができる。本の幅,高さ,厚さも表現され,
子書籍時代における利用者の利便性向上,図書館関
背の色は,検索された本の適切さの度合いをブルー
係者の運用への支援,著作者への適正な利益配分等
の濃さによって示すヒートマップになっている。
を行う業界共通プラットフォームの必要性について
Bill & Melinda Gates財団は,公共図書館に向けて全
国規模の研修システムを作るため,図書館専門家・
654
議論してきたが,今回,本格的な事業化をめざして,
学校・公立図書館向けの電子書籍貸出サービス提供
情報界のトピックス ●Topics of the information community
に向けた準備として合弁会社を設立した。
のほか,教育・N P O法人の指導者向け研修イベント
(http://www.kodansha.co.jp/upload/pr.kodansha.
の実施や,保護者向けプログラムも準備している。
co.jp/files/pdf/JDLS.pdf)(accessed 2013-11-11).
(http://googlejapan.blogspot.jp/2013/10/blog-
英政府データオープン化指標を公開
英国の非営利団体Open Knowledge Foundationは,
post_29.html)(accessed 2013-11-11).
ビッグデータ・オープンデータ活用アイデア
コンテスト開催
政府データのオープン化状況を評価する「オープン
データ評価指標(Open Data Index)」2013年の結果
ビッグデータ・オープンデータ活用推進協議会は
を公表した。この評価指標は世界70か国について,
11月10日,「ビッグデータ・オープンデータの活用ア
交通,教育,保険医療などの政府データが,W e bで
イデアコンテスト」を開催した。このコンテストは,
どの程度公開されているか,またオープンライセン
個人またはグループ・企業が対象で,ビッグデータ,
スを使用しているかなど14項目を評価,指標化した。
オープンデータそれぞれについて,活用分野,必要
オープン化の順位では,1位英国,2位米国,3位デ
となるデータ,アイデアの内容および行政サービス
ンマークで,日本は28位。下位には,キプロス,ケ
における具体的な活用方法を募集するもの。221件の
ニア,ブルキナファソなどが並んだ。結果について
応募のなかから,「市内で流行している子どもたちの
同団体は,
「政府データのオープン化の動きがここ数
感染症の流行状況を可視化して注意を促す『子ども
年で進んできたことは歓迎すべきだが,今回の指標
感染症進行マップ』」が最優秀賞に選ばれた。ビッグ
では,価値ある情報でいまだ未公開になっているも
データ・オープンデータ活用推進協議会は2013年4月
のがあまりにも多い」としている。上位20か国でも,
に,武雄市(佐賀県),千葉市,奈良市,福岡市の4
主要なデータセットのうち,オープンデータとして
市と,東京大学,日本IBM,日本マイクロソフトによっ
再利用できる状態になっているものは半分以下であ
て設立された。
り,主要国であっても政府データのオープン化はま
(http://www.city.chiba.jp/somu/joho/kaikaku/
だ不十分である状況を示している。
kyougikai_ideacontest.html)(accessed2013-11-11).
(https://index.okfn.org/press)(accessed 2013-11-11).
(https://www.facebook.com/bigdataopendata4city/
Google,日本でIT教育支援開始
posts/686860811333063)(accessed 2013-11-11).
JMOOC設立,日本のMOOC推進へ
G o o g l eは10月29日,日本のコンピューターサイ
エンス教育を支援する「コンピューターに親しも
日本における「M O O C」
(大規模公開オンライン講
う 」 プ ロ グ ラ ム を 開 始 し た。 こ れ は,6 ~ 15歳 の
座)推進団体である「J M O O C」
(日本オープンオン
児童生徒を対象に,コンピューターやプログラミン
ライン教育推進協議会)が10月11日に設立された。
グの基礎を学んでもらう取り組み。同プログラムで
世界中から数十万人規模の登録者が参加するM O O C
は,ゼロからコンピューターやプログラミングを学
(Massive Open Online Courses)は2012年頃から米国
べるよう設計された名刺サイズのコンピューター
を中心に急速に発展。大学の正規の単位として認定
「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」を5,000台提供し,
する動きや,M O O Cを予習教材として使った反転学
1年で25,000人以上の児童・生徒の参加を目指す。そ
習の普及が進んでいる。日本でも注目が集まる一方
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vol.56 no.9
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で,JMOOCは課題として,世界的なMOOCは英語講
http://johokanri.jp/
安易なパスワード利用,流出データから判明
義が中心であることや,各国のトップ校に限定され
るといった制約があり,日本の全主要大学が入れる
アメリカのセキュリティ企業Stricture Consulting
体制にはないことを指摘している。JMOOCは,
「日本
G r o u p(S C G)は,米アドビ・システムズから流出
のみならず,広くアジア諸国を含む諸外国に対して
したパスワードを分析し,使用者数が多い上位100
もオープンオンライン学習環境を提供」し,「大学の
位のパスワードを公表した。上位3位は「123456」
,
有する専門教育知識だけでなく企業の保有する実践
「123456789」
,
「password」で,多くのユーザーが推
的実学知識の提供も積極的に勧奨し,知識社会の基
測されやすい安易なパスワードを使っている実態が
盤形成を推進し,本格的な継続学習社会の実現」を
明らかになった。S C Gによれば,流出したパスワー
目指すとしている。
ドは暗号化されており,同社は暗号鍵を入手したわ
(http://www.jmooc.jp/news/release/p37/)(accessed
けではないが,アドビが対称鍵暗号を選んでいたこ
2013-11-11).
とや,全てのパスワードに同じ鍵を使っていたこと,
さらにはユーザーが平文で保存していたパスワード
推測のヒントから,この結果をまとめることができ
たとしている。
(http://stricture-group.com/files/adobe-top100.txt)
(accessed 2013-11-11).
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PINUP
司書資格のない方はご相談を
協会指定の研修会への参加が必要
規定の実務経験が必要
基礎資格のみ申請できる
基礎資格は永年有効
JMLA認定資格ヘルスサイエンス情報専門員
第21回申請のご案内
N P O法人日本医学図書館協会では,認定資格「ヘ
ルスサイエンス情報専門員」第21回申請を下記の要
領で受け付ける。
■受付期間:2014年1月1日(水)~ 31日(金)
■はじめて申請される方へ
本協会会員以外の方も申請できる
■第11回申請で中級・上級を取得された方へ
今回の第21回が更新の期限となる
■お問い合わせ:
NPO法人日本医学図書館協会中央事務局
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-3
冨山房ビル6階
TEL: 03-5577-4509 FAX: 03-5577-4510
E-Mail: [email protected]
*詳細は下記URLに掲載
http://jmla.umin.jp/nintei/
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http://johokanri.jp/
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IPv6について調べていて,「WIDEプロジェクト」
にたどり着きました。『情報管理』誌50周年記念号
の「インターネット社会の未来像:村井純氏に聞く」
(http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.50.630)を
見ると,村井先生の略歴のなかに「1988年WIDEプ
ロジェクトを設立」とあります。ここで一度出会っ
ていたのでした。
WIDEプロジェクト(http://www.wide.ad.jp/)
に改めて出会って感銘を受けたのは,このプロジェ
クトが設立の年である1988/89年から毎年,共同研
究の成果を1冊の詳細な報告書として残しているこ
とでした。25年の歩みが記されたこれらの報告書
は,
「ドキュメント」
のページで見ることができます。
電子情報通信学会の活動,農林水産研究情報総合
センターの取り組み,そして国立国会図書館の働き,
いずれもぜひご紹介したい内容です。
今号で連載『研究・実務に役立つ!リーガル・リ
サーチ入門』が終わります。15回にわたって,ロー
ライブラリアン研究会の皆様にご執筆いただきまし
た。この場を借りてお礼を申し上げます。
今年も残り少なくなりました。どうぞお体に気を
つけて,よい新年をお迎えください。
(KM)
訂正
vol. 56, no. 8「日本の研究者による電子情報資源
の利用 SCREAL2011 調査の結果から」の著者
名表記に誤りがありました。お詫びして訂正し
ます。
誤:逸村 宏
正:逸村 裕
(『情報管理』編集事務局)
□次号予定
●知のインフラ整備とデジタル著作権の挑戦
●化学情報協会におけるインフォプロ育成
●反転授業:ICTによる教育改革の進展
●日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(3):医薬品開発を担う事業主体に関する分析
●諸外国の国家研究公正システムの特徴(1):基本構造のモデル化と類型化の考え方
情報
管理
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科学技術振興機構
vol.56 no.9 December 2013
●編集委員会
<委員長>加藤治(科学技術振興機構)
<編集委員>
江草由佳
(国立教育政策研究所)
・小河邦雄
(大正製薬㈱)
・
気谷陽子(聖学院大学)・志賀智行(旭化成㈱)・
青山幸太・伊藤祥・植松利晃・木村美実子・黒田雅子・
佐藤恵子・土屋江里・野田口真也・火口正芳・余頃祐介
(以上 科学技術振興機構)
●編集事務局
木村美実子(事務局長)
藤井昭子・本橋野枝・及川優子(以上 科学技術振興機構)
2013年12月1日発行(月刊)
年間購読定価 本体 ¥12,600(税込)
1部定価
本体 ¥1,260(税込)
●版下作成・印刷
昭和情報プロセス株式会社
発行
独立行政法人 科学技術振興機構
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
「情報管理」編集事務局
Tel. 03(5214)8406 Fax. 03(5214)8420
E-mail: [email protected]
http://johokanri.jp/
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・本誌に落丁・乱丁がありました節は,まことに恐れ入りますが,編集事務局宛に現品をご返送ください。送料は当機構
の負担で,お取り替えいたします。勝手ながら現品送付のない場合は,お取り替えいたしかねます。
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