卒 業 論 文 概 要 書

卒 業 論 文 概 要 書
2010 年 2 月提出
学 科 名
コンピュータ・
ネットワーク工学科
研 究
氏名
高田 綾香
学籍番号
1G05R110 – 9
CD
後藤 滋樹
印
教 員
TCP コネクションの分割によるスループットの向上
題 目
概要
1
指 導
式 2 によりウィンドウサイズを大きくするか、RTT を
小さくさせればいいことがわかる。式 1 は参考文献 [2] よ
TCP は現在のインターネット通信において重要な基本
り引用した。
技術のひとつであり、つねに改良が求められている。と
くに通信の高速化技術がすでに幾つか考案され、数多く
の論文が発表されている。論文の中には、送受信ノード
以外に中継ノードを用いてコネクションを分割して、RTT
を小さくすることでスループットを向上させる TCP 分割
手法という技術が提案されている。この手法で問題とな
3
3.1
TCP 分割手法
TCP コネクションの分割
処理のオーバーヘッドに関した検討はまだ行われていな
TCP 分割手法は中継ノードごとに TCP を終端し、コネ
クションを複数に分割することで分割されたコネクショ
ン毎にパケットを中継しながら図 1 のようにデータ転送
い。本論文は処理時間と中継ノードにおけるオーバーヘッ
を行う。
ドを検討し、TCP 分割手法の改良がどの程度有効である
中継ノードは受信ノードの代わりに確認応答を返す。ま
かを検討する。
た、中継ノードは送信ノード、もしくは別の中継ノード
るのは適切な中継ノードを選定する処理である。ただし
から受け取り中継したパケットを自身が送ったパケット
に対する確認応答がくるまで保存 (バッファリング) して
TCP のスループット向上
2
2.1
おく。もし送ったパケットが到達しなかったときには送
TCP のスループット向上法
信ノードのかわりに再送することもできる。
インターネットにおいて距離は伝搬遅延の原因となる。
よって長距離通信の遅延が大きくなってしまうことはき
わめて明示的な事柄である。しかし、現在の主流である
ベストエフォート型の高速インターネット接続サービス
では、たとえ同じ地域内であったとしても 10 ミリ∼20 ミ
リ秒の遅延が生じることは珍しくない。よって TCP の高
速化技術は長距離通信だけの問題にとどまらない。
2.2
TCP スループット向上法の問題点
TCP で高いスループットを達成する上でもっとも問題
になるのは帯域遅延積 (BDP: Bandwidth Delay Product) で
図 1: TCP 分割手法
ある。帯域遅延積とは、データ帯域を bandwith、往復遅
延時間を RTT 、ウィンドウサイズを WindowSize としたと
きに以下のように表される式のことである。
W indowSize[bits] = bandwidth[bits/sec] ∗ RT T [sec]
3.2
中継ノードの選定
TCP 分割法を実装するときに問題となるのは分割に使
用する中継ノードの選定である。具体的な選定手順とし
(1)
データ帯域=スループット (Throughput) なので、この
式 1 よりリンク間のスループットは以下のように表わさ
ては閾値を設けた深さ優先探索で送信ノードからノード
れる。
ク RTT を閾値として次のルートを探索する。この処理を
W indowSize[bits]
T hroughput[bits/sec] =
RT T [sec]
間リンクの RTT が閾値より小さいノードを受信ノードに
たどり着くまで選んでいく。探索したルートのボトルネッ
繰り返す。
(2)
3.3
TCP 分割手法の問題
4.4
実験 3 の結果と考察
従来の実験では、長距離の範囲での実験しかしておら
図 3 より上限 2∼6 個の時は 0.6 倍、1 個の時は 0.8 倍
ず、極狭い範囲内での手法の有効性については未検討で
にまで性能向上率が落ち込み、7 個の時がもっとも小さい
ある。また、最小ボトルネックをもつルートが複数存在す
ことがわかった。また、最小ボトルネックルートはほと
ることがある。その中でもっとも中継ノード数が少ない
んどの場合、余分な中継ノード数を用いていることがわ
ルートが探索されるとは限らない。中継ノードを多用す
かった。
るとバッファリングによる弊害が起きやすくなってしま
う。できるだけ中継ノードの数は少なくするべきである。
評価実験
4
4.1
実験の概要
本論文では、3 種類の実験を行った。
実験 1 では RTT を昇順に整列させたデータと未整列の
データを用いて最小ボトルネックを解析し、その処理時
間を測った。
実験 2 では、最小ボトルネックルート探索で得られたルー
図 3: 中継ノード数上限付き探索の上限ごとの性能向上
トの中継ノード数とボトルネック RTT をもとに算出した
率比
性能向上率の 2 つを記録した。性能向上率はもとのリン
5
ク間の RTT をボトルネック RTT で割った値である。
実験 3 では最小ボトルネックルート探索において中継ノー
ド数に上限を 1 個∼7 個まで設けた。それぞれの性能向
上率を計測し、無制限で探索した結果得られた性能向上
率との比を算出する。また、得られた性能向上率を実現
することができるすべてのルートの中継ノード数を中継
ノード数の上限ごとに求めた。
4.2
実験 1 の結果と考察
結論
今回評価した TCP 分割手法では、ルート探索処理は解
析のもととなる RTT データの構成に関わらず、処理にか
かる時間は極小であることがわかった。またほとんどの
場合で余分な中継ノードを辿るルートをとってしまう。最
後に、ノード群 10 個で形成されるネットワークに対して
は中継ノード数はせいぜい2個か、より高い性能向上率
を求めて7個までに設定することが良いことがわかった。
6
今後の課題
ルート探索にかかる処理時間のオーバーヘッドは元と
場合によってはボトルネックの大きさを多少犠牲にし
なる RTT 計測データの構成にはよらず一定であり、そ
てでも中継ノード数を減らし、小さいボトルネックと少
の大半が 0.1ms 以下程度のわずかな時間であることがわ
ない中継ノード使用数を両立した最適なルートを探索で
かった。
きるように改良すべきである。そのためには最小ボトル
ネックルート上のどの中継ノードを減らせば最も性能向
4.3
実験 2 の結果と考察
図 2 より、中継ノード数が多いほうがより高い性能向
上率の落ち込み具合を防げるかを検討すべきである。今
回は日本国内の互いに不均一に遠いノード 10 個を評価実
上率を達成している。もっとも高い性能向上率を達成す
験に用いたが、以降は大規模なネットワークを想定して、
るのは中継ノードが 7 個の時であった。これよりなるべく
より多くのノードを用いて評価するべきである。またこ
少ない中継ノード数で一定の性能向上率を保つには、少
のとき、ネットワーク内でのノードの最適な配置密度の
なくとも中継ノードは 1∼2 個、性能向上率をなるべく高
検討も実施すべきである。
くするのならば 7 個程度までで良いことが推測される。
参考文献
[1] planet-lab.org,
”Planet Lab”, https://www.planet-lab.org/,
[2] Tanenbaum, Andrew S. ”Computer Networks (4th Edition)”,
2002, pp. 557
[3] 小林弘和, 中山雅哉, ”仮想リンクを利用した送受信ノード
間の RTT 分割による転送スループットの向上”, http:
//www.internetconference.org/ic2006/PDF/
regular-paper/nakayama-masaya.pdf,
[4] 榑林勇気, 中山雅哉,”ボトルネック RTT の最小化に基づく
TCP 分割手法の提案と Planetlab 環境による実証評価”,
図 2: 最小ボトルネックルート内の中継ノード数による性
http://www.internetconference.org/
能向上率の違い
ic2009/PDF/\\regular-paper/IC2009
Proceedings 02.pdf.