オベリスク - ハムリー株式会社

Obe-lisk
オベリスク
Vol.17,2
2012年6月1日発行
通巻32号(33ページ)
June
編集
発行
2012
オベリスク編集委員会
ハムリー株式会社 広報室
〒306-0101茨城県古河市尾崎2638-2
LAIC
(実験動物情報交流会)
Obe-lisk
Vol.17,2
June
2012
■サル類の輸入検疫制度について
−出国検疫施設の指定等を中心に−・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(高橋 周子)
3
■AAALAC−施設訪問を体験して−・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(黒澤
8
努 )
■動物実験施設−AAALAC 認証を想定して−・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(小山 公成) 15
■管理獣医師への思いと悩み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(竹田三喜夫) 21
■実験動物の飼育管理と飼育器材
−AAALAC 対応を踏まえて−・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(本間
憲夫) 24
■睡眠科学研究所の受託試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(長野 典浩) 29
2
オベリスク Vol.17,2 June 2012
サル類の輸入検疫制度について
−出国検疫施設の指定等を中心に−
高橋 周子
前 農林水産省消費・安全局動物衛生課
1.はじめに
現在、輸入可能地域に指定されていない国から新た
サルは、感染症の病原体を媒介するおそれがあるこ
にサルを輸入できるようにする場合の流れ(概要)を以
とから、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医
下に示す(輸入が禁止されている動物について大臣の
療に関する法律」(平成 10 年法律第 114 号。以下「法」
許可を得て輸入する場合を除く)。
という。)に基づく輸入検疫の対象とされている。サルの
なお、以下の(1)∼(3)の手続きは、並行して進めら
輸入検疫は、人への危険性から見た重要性が極めて
れる場合もある。
高い感染症であるエボラ出血熱やマールブルグ病を対
(1)輸入可能地域の指定
象として、平成 12 年 1 月 1 日から実施されている。本稿
(輸入者から日本政府当局(厚生労働省及び農林水
では、サルを輸入するに当たっての検疫制度、特に出
産省)への事前相談)
国検疫施設の指定等について詳しく説明する。
↓
輸出国政府当局から日本政府当局(厚生労働省及
2.輸入検疫制度
び農林水産省)への輸出要請
法第 10 章では、感染症の病原体を媒介するおそれ
↓
のある動物の輸入に関する措置が規定されており、第
輸出国におけるサルの管理体制、人の感染症対策
54 条において、輸入禁止対象動物が指定動物として定
等について事前審査(厚生労働省、農林水産省)
められている。サルは、これに基づく「感染症の予防及
↓
び感染症の患者に対する医療に関する法律第 54 条第
厚生労働省及び農林水産省による現地調査
1 号の輸入禁止地域等を定める省令」(平成 11 年 12 月
↓
1 日厚生労働省・農林水産省令第 2 号)により、輸入が
厚生労働省及び農林水産省による評価
禁止されている指定動物に定められている。なお、厚生
(厚生労働省による専門家への諮問)
労働大臣及び農林水産大臣が指定した試験研究機関
↓
又は動物園において試験若しくは研究又は展示の用に
輸出可能地域の指定(厚生労働省令及び農林水産
供されるサルについては、一部地域からのものに限っ
省令改正)
て輸入することができる。
現在、同省令に基づき、サルの輸入可能地域とされ
(2)衛生条件の締結
ている地域(輸入禁止地域以外の地域)は、アメリカ合
(輸入可能国の指定の次のステップとして、輸出入
衆国、インドネシア共和国、ガイアナ協同共和国(注:平
国当局間で衛生条件を締結)
成 14 年 7 月 31 日付けで衛生条件効力停止中)、スリ
農林水産省から輸出国への衛生条件案の提示
ナム共和国、中華人民共和国、フィリピン共和国、ベト
↓
ナム社会主義共和国及びカンボジア王国(カンボジア
輸出入国当局間での協議
王国については平成 21 年 12 月 22 日付けで指定)であ
↓
る。
衛生条件の締結
(3)出国検疫施設の指定
3.輸入までの手続き
(輸入可能地域の指定及び衛生条件の締結の次の
ア 輸出可能地域の指定、衛生条件の締結及び出国
ステップとして、出国検疫施設を指定)
検査施設の指定
(輸入者から農林水産省への事前相談)
3
オベリスク Vol.17,2 June 2012
サル類の輸入検疫制度
↓
輸出国政府当局から日本政府当局(農林水産省)へ
一 外部からの動物の侵入を防止するために必要な
の新規施設の指定要請、施設の概要の提出
構造を有していること。
二 指定動物について指定感染症の検査を行うため
↓
に必要な設備を有していること。
農林水産省における審査
三 動物の死体その他の汚物を衛生的に処理する
↓
ための設備を有していること。
農林水産省による対象出国検疫施設の現地調査
四 天井、壁及び床の表面は、消毒液等による洗浄
↓
に耐えるものであること。
農林水産省における現地調査結果の精査
五 指定動物について検査及び衛生管理の記録簿
↓
を備えていること。
出国検疫施設の指定(農林水産省告示改正)
※告示には施設名と所在地が記載
また、先述のとおり、輸出国での検査等が的確に実
イ 出国検疫施設の指定後の輸入の流れ
「感染症の病原体を媒介するおそれのある動物の
施されていることを担保するため、我が国へのサルの
輸入に関する規則」(平成 11 年 12 月 1 日農林水産省
輸入に当たっては、輸出国と日本との間で、事前に衛
令第 813 号)に基づき、輸入可能地域から日本にサル
生条件が締結されるが、この中で、出国検疫施設につ
を輸入するに当たっては、事前に輸出入国当局間で
いてさらに具体的な条件が定められている。
以下に、例としてカンボジアと現在締結されている条
取り決められた衛生条件に従い、農林水産大臣(アメ
件を記載する。
リカ合衆国については政府機関)が指定する施設にお
いて、出発前 30 日以上の係留による隔離検査を受け、
また、輸出国政府機関が発行する検査証明書を添付
する必要がある。さらに、日本到着後、エボラ出血熱と
カンボジアから日本向けに輸出されるサルの衛生条
マールブルグ病についての検疫のため、最低 30 日間
件(概要)(平成 22 年 3 月 2 日付け農林水産省消
の係留検査を受ける必要がある。
費・安全局長通知)
なお、輸入したサルは、厚生労働省及び農林水産
省の指定を受けた試験・研究機関又は動物園の飼育
【出国検疫施設の条件(概要)】
施設で飼育する必要があり、指定施設の設置者又は
1 出国検疫施設において取り扱うことができるサル
この設置者から委任を受けた者でなければ輸入の手
は、輸出国において捕獲又は出生し、飼養されてい
続を行うことができない。
たもの、又は、輸入可能国から輸出国に直接輸入
されたサルであること。
4.出国検疫施設の指定
(出国検疫施設に関する基本的な条件)
(1)出国検疫施設が満たすべき条件
農林水産大臣の指定する出国検疫施設が満たす
2 繁殖用施設等、検疫目的以外の施設から独立し
べき条件は「感染症の病原体を媒介するおそれのあ
た建造物であるか、または検疫以外の目的の区域
る動物の輸入に関する規則第 4 条の規定に基づき、
から完全に分離した構造であること。
同条の表の農林水産大臣の定める基準を定める件」
3 出国検疫施設は逃亡や外部からの他の動物の必
(平成 11 年 12 月 27 日農林水産省告示第 1626 号)
要外の侵入を防止するため、各検疫棟について囲
に以下のとおり規定されている。
障対策をとっていること。
4
オベリスク Vol.17,2 June 2012
サル類の輸入検疫制度
4 出国検疫施設はサルについてカンボジア家畜衛
6 当該出国検疫施設は飼育管理業務、検疫業務、
生当局による獣医学的監視下にあること。
疾病発生予防対策及び疾病発生時の対応等に関
する標準作業手順書(SOP)を作成及び承認する家
(施設の構造及び設備に関する条件)
畜衛生官を内部においていること。
5 当該出国検疫施設は以下の各項目を満たすもの
であること。
7 家畜衛生官は6項にあるSOPの履行及び指示に責
(1)前室及び検疫室へのすべての出入り口は確実に
任を持つこと。
閉じられており、施錠されること。
(2)検疫棟の窓及び換気口は昆虫や他の動物の侵
8 出国検疫施設においては、サルについて、以下の
入防止のため金網又は網で覆われていること。
項目について英語を併記した記録簿を少なくとも二
(3)施設は更衣室、検疫棟(検疫室ごとに前室を有す
部作成すること。
ること)、検査室、隔離室及び解剖室を施設内に
(1)サルの種類(学名)
有すること。
(2)頭数(雌雄別)
(4)施設は輸出サルが同一検疫単位以外の動物と
(3)捕獲地又は生産施設(名称及び住所)、及び飼養
接触できない構造であること。
施設(名称及び住所)
(5)検疫室内もしくはその近辺に給排水設備を有し、
輸入可能国から輸入された場合には、全ての
係留室内外及び器具等の洗浄、消毒が可能なこ
国名及び施設名を記入
と
(4)捕獲年月日又は出生年月日及び出国検疫の開
(6)施設には、消毒器具及びエボラ出血熱ウイルスと
始日並びに終了日
マールブルグ病ウイルスに有効な消毒薬が常備
(5)係留期間中に行った検査、検査年月日及びその
されていること。
結果
(7)施設の床、壁及び天井は、平滑で清掃しやすく、
不浸透性材料で作られ、適当な勾配と排水設備
9
を備えており、かつ、消毒が可能であること。
8にある記録簿のうち一部は出国検疫施設で少な
くとも5年間保管し、一部は輸出の際にサルに添付
(8)検疫室の出入り口には手指消毒槽及び踏込消毒
し日本国農林水産省動物検疫所に提出すること。
槽を備えること。
(9)検疫室は、係留中のサルの健康状態が容易に観
10 飼養管理に当たっては、サルの栄養、健康及び
察できる構造であること。
疾病について、充分知識のある人が執り行うこと。
(10)施設は、エボラ出血熱及びマールブルグ病の検
査を行える設備を有すること。ただし、当該検疫
11 検疫下にある特定のロットのサルの世話のため
施設以外の検査機関にエボラ出血熱及びマール
に割り当てられた職員は、交差汚染を防ぐために
ブルグ病の検査を依頼する場合は、当該検査機
各ロット専用のマスク及び手袋を含む防御用の衣
関名及び検査材料の送付の方法等の手順につ
服一式を持っていること。
いてSOPに規定し遵守されていること。
(11)施設は、施設より排出される動物の死体、排泄
(日本の家畜衛生当局による立ち入り検査の実施)
物及び汚水等を消毒又は焼却等により衛生的に
12 日本の家畜衛生当局は、輸出国政府機関の者と
処理するための設備を有すること。
共に、出国検疫施設の立ち入り検査を実施し、出
(12)施設、設備が破損または故障した場合、速やか
国検疫施設が1から11の条件を充足していることの
に補修または修理を行い、補修記録を少なくとも
確認をするとともに、SOP及び上記5(12)及び9の記
2年間保管すること。
録簿等の開示または提出を求め、必要に応じて改
善を要求することができる。
5
オベリスク Vol.17,2 June 2012
サル類の輸入検疫制度
(指定施設に関する改築等について)
−うち、検疫のための総従業員数と獣医師数等
13 出国検疫施設の改築、増築、その他上記5(1)か
(2)SOP(飼育管理業務、検疫業務、疾病発生予防対
ら(11)に係わる内容についての変更(軽微な修理
策及び疾病発生時の詳細な対応等を含む)
を除く。以下「改築等」という。)は行わないこと。た
(3)敷地図(敷地内のそれぞれの建物の位置関係が
だし、日本国家畜衛生当局の許可を事前に受けた
分かるもの)
場合はこの限りでない。出国検疫施設の改築等を
(4)検疫区及び検疫棟の平面図
希望する場合、カンボジア家畜衛生当局は、事前
出入り口、更衣室、前室、検疫室、検査室、隔離
に日本国家畜衛生当局に申請し、許可を得ること。
室、解剖室、ケージ、オートクレーブ、消毒設備、給
また、出国検疫施設の名称または所在地名に変更
排水設備、焼却炉、給餌室、作業者の動線等が分
がある場合、並びに日本向けの出国検疫施設とし
かるもの
て使用されなくなった場合には、カンボジア家畜衛
(5)当該施設を直接管理するカンボジア家畜衛生当
生当局は、速やかに日本国家畜衛生当局に通知す
局の部所、その所在地及び担当責任者
ること。
(6)その他参考となる資料
(指定の取り消しについて)
14 日本国家畜衛生当局が、出国検疫施設が当該家
(2)現地調査の確認ポイント
畜衛生条件に違反した事実を認めた場合、日本の
3(3)で先述したとおり、出国検疫施設の指定に当た
農林水産大臣は当該出国検疫施設の指定を取り
っては、農林水産省の担当官が、指定を受けようとす
消すことができる。また、1年以上にわたりサルの輸
る出国検疫施設の現地調査を実施し、指定して差し支
出実績がない場合についても、日本の農林水産大
えないか(衛生条件に沿った出国検疫を行うことが可
臣は当該出国検疫施設の指定を取り消すことがで
能か)確認することとしている。
きる。
現地調査における主な確認項目を以下に記載する。
現地において、目視や、輸出国政府担当官及び出国
(指定の申請について)
検疫施設の職員への聴き取り等により確認を行う。
15 出国検疫施設の指定の申請に当たっては、施設
責任者はカンボジア政府機関を通じ日本国農林水
産大臣に対して、必要書類を添付のうえ申請するこ
【現地調査における主な確認項目】
と。なお、日本国家畜衛生当局は、必要に応じて追
衛生条件の項目に沿って確認を行う
加情報を要求した上で、書類審査及び現地調査を
行うものとする。現地調査の結果、農林水産大臣に
〈基本的事項〉
より指定された施設については、日本国家畜衛生
・ 施設の概要及び施設管理体制(立地状況、囲障
当局よりカンボジア当局へ通知することとする。申
対策等)
請に必要な書類は以下とする;
〈施設の構造及び設備〉
(1)施設の概要
・ 検疫施設(検疫棟、診療室、検査室、解剖室、給
−名称
排水設備)について、外部からの侵入防止措置、施
−住所
錠の有無、施設の材質、洗浄・消毒方法(消毒薬の
−責任者氏名・役職
種類)、廃棄物の処理状況等を調査
−地理的環境
・ 各施設への入出者の管理状況の記録
−空港から当該施設までの詳細な順路
・ 動物の導入状況(導入元の施設・国、サルを外部
−周囲の野生動物生育状況
から導入した際、どのような検査・検疫を行っている
−従業員数(職種別に)
か等。)
6
オベリスク Vol.17,2 June 2012
サル類の輸入検疫制度
また、参考まで、既存施設の定期調査においては、
・ サル以外の飼養動物の有無
・ サル飼育管理記録簿
上記に加え、前回査察からの変更点(改築・増築・修理
・ SOP(施設管理業務、飼育管理業務、疾病発生予
等、SOP 等)、前回査察時の指摘に対する対応状況、
防対策、疾病発生時対応)(英文)の確認(写しを提
過去2年間の施設修理履歴、サルの記録簿等について
出)
も確認を行う。
・ 餌・水・敷料の導入方法(購入先等)
5.おわりに
・ 施設において可能な、疾病の検査項目
平成 22 年には、試験研究用のサル(カニクイザル、
・ エボラ出血熱・マールブルグ病を疑う症状を認め
アカゲザル)5,820 頭が輸入された。これらはアジア地域
た場合、及び発生したときの対応方法
からの輸入であるが、エボラ出血熱やマールブルグ病
・ 上記以外の疾病を疑う症状を認めた場合、また発
を日本に持ち込まないよう、今後も適切な検疫を行って
生した場合の対応
いくことが重要である。
・ 政府獣医官の立ち入り検査状況
サルの輸入に当たっては、関係する法、政省令、要
・ 施設の人員に対するサルの衛生に関する教育状
領等を十分に御理解いただき、適切かつ円滑な動物検
況
疫業務にご協力いただきたい。
・ 日本以外の国への輸出状況
また、特に、今回、出国検疫施設の指定についてポ
※ 各種記録については、現地調査時に、実際に現
イントを記載したが、指定を受けようとする施設におい
物を確認する。また SOP については、写しの提
ては、現地調査等において円滑な確認ができるよう、適
出を依頼。
切な準備をお願いしたい。
7
オベリスク Vol.17,2 June 2012
AAALAC について −施設訪問を体験して−
黒澤 努
大阪大学医学部
AAALAC とは
る。
for
実際的には施設訪問を評議委員とともに行って、プ
Assessment and Accreditation of Laboratory Animal
ログラムの評価を手助けする存在である。とくに
Care International ) 実験動物ケア評価認証協会は
AAALAC の活動が国際化するにつれ、各国の関連法
1965 年に米国に誕生した、科学に用いられる動物の責
制、指針などに精通し、また言語も申請施設で用いられ
任ある取り扱いのため、ボランティアでそのプログラム
る言語に精通した者が任命されていて、実質的な施設
を認証する非営利の団体である。当初は the American
訪問時の評価を作成する存在である。
AAALAC
International
( the
Association
Association for Accreditation of Laboratory Animal
最終的な認証あるいは不認証は、あらかじめ提出さ
Care と称していたが、1996 年その活動が国際的になっ
れたプログラム報告書と施設訪問者の報告書を用いて、
てきたことを受け名称を変更したが、略称は元のとおり
評議員の合議で決定される。現在評議員は米国 3 地区、
AAALAC である。この日本語での発音は古くは アアー
欧州、環太平洋の 3 地域に設立されている。わが国の
ラック と呼び習わされていたが、評議員会の会議のや
申請は、環太平洋地域の評議員 9 名で審議されること
りとりでは、むしろエエーラックと発音する方が多いこと
となる。ただし施設訪問者は環太平洋地域評議員以外
から、日本人評議員(現在 2 名)が相談して、できるだけ
が勤めることも多い。
エエーラックと呼ぶことを心掛けようということとなってい
AAALAC の求めるもの
る。
現在約 850 機関を国際的に認証している。AAALAC
AAALAC の使命は、人道的な実験動物の使用とケア
は国際的な会員組織であり、その多くは科学学術団体
を推進することにより、研究、教育、試験の質を高める
である。米国糖尿病学会、米国心臓病学会、米国獣医
ことにある。参加機関にアドバイスを行い、独立性をも
学会だけでなく、AFLAS(アジア実験動物学会連合)、
って評価し、適用される水準に適合しているかあるいは
FELASA(欧州実験動物学会連合)、米国バイオメディカ
それ以上かを認証するのである。こうした活動では関係
ルリサーチ協会および毒性学会などである。この会員
者から多くの質問が寄せられる。これらに対応するため、
の代表者により理事会が作られている。AAALAC の大
AAALAC は良く質問される項目とその質問項目に対す
きな方向性などはこの理事会が決定していることから、
る見解をホームページ上で公開している。この見解は
AAALAC は科学者の意見を反映した協会といえる。
多方面にわたっていて、多くの場合 AAALAC の意見
Site Visit(施設訪問)および Accreditation (認証)に
(Position Statements)に沿った解説がなされている。
関係するいくつかの役職がある。上記理事会が、プログ
例えば AAALAC は、ケージサイズにうるさいとわが国で
ラムの評価を行い 、 認証を決定するための評議員を任
は言われているが、それに関する見解をホームページ
命している。この評議員には獣医学 、 実験動物学およ
から紹介しておく。これは AAALAC がその基準文書の
び動物学の分野の広範な経験を有する者を 56 名任命
一つとしている ILAR の指針の第 8 版(2011)に記載され
している。とくにこの評議員は、人道的動物使用とケア
た、マウスの母親と子供を一緒に飼育するケージの大
に関して誓約した方々である。また評議員会は Ad Hoc
きさとして 330cm2 を推奨したことに関する見解である。
Consultans/Specialists(臨時専門家)を任命している。こ
すなわちマウスの繁殖でよく使われる 1:2 のペアでは、
れは評議員が施設訪問を行うに当たって、専門の立場
どのようなサイズのケージが良いのか、という質問に対
からアドバイスを行い、施設が認証を受けるためにある
してである。そこでは、ケージの大きさというのは動物が
いは認証を維持するのに資するために任命されてい
清潔な環境で飼養されたり、手足をゆるゆると伸ばした
8
オベリスク Vol.17,2 June 2012
AAALAC−施設訪問
りできるようなサイズが重要であるというものの考え方
ものは実験動物福祉の充実にこれ努めていれば認証
が示されていて、それは ILAR の指針のそこここに書か
が得られるということとなる。どこかに数字があるのでそ
れているとしている。また欧 州 の規 程 ETS123 にも
の数値をクリアすることにより認証が得られるわけでは
2
330cm が許容値として記されているとしている。またこ
ない。ましてやその数値の解釈を種々試みたところで、
うしたものはいずれも目的指向的(performance base)
究極的にその実験動物の福祉にそれが役立っている
に考えるべきものであるとしている。最終的に米国でマ
か に つ い て 、 判 断 が 下 る こ と と な る 。 ま た 3Rs の
2
ウスの飼養に良く使われる 484-529cm のケージでは、
Refinement に含まれる多くの項目は、福祉の実践を目
1:2 のペアの繁殖は、平均的なリッターサイズの系統に
指していて、とくに苦痛の軽減は最大限の努力を払って
は十分な広さであると述べている。ただし、リッターサイ
達成しなければならないという考え方が底流にある。し
ズが大きいとか、複数のリッターが同時に存在する、さ
たがって、文書などの解釈ではこのことを念頭において、
らに子供が成長したときなどは、また別途の考察が必
プログラムを策定する必要がある。AAALAC は国際的
要であると解説している。これらは国内法などを参考に
な組織であるから、間違っても日本で一般的に言われ
動物実験委員会がしっかり審議すべき問題であるとし
ることを根拠に、基準文書を解釈したなどとの説明は試
ている。すなわち AAALAC は、ケージの大きさにうるさ
みないことが重要である。とくに近年は、日本人の評議
いのではなく、実験動物の福祉を担保するためには、い
員が施設訪問の責任者となる場合が増えているせいか、
かなることをすればよいかを良く考えて、動物実験委員
また日本語で気楽に抗弁できるせいか、日本での一般
会が決めなさいとして、その時に考慮すべき項目に関し
的な解釈などをるる説明する機関も多いが、いずれの
てうるさいのである。わが国では、実験動物のケージサ
説明も実験動物福祉のために資するものでなければ受
イズをこうした観点から精査せず、他の経済的な要因と
入れられることは少ない。
か施設の大きさなどから決めてしまう傾向が強く、
AAALAC からなぜそのサイズのケージを使用している
ハードウエアではなくソフトウエア重視
か、との質問に適切に答えられないことが多いだけであ
AAALAC 自身が良く使い、その基準文書の ILAR の
る。当然 、 どのようなケージを使用していたとしても 、 科
指針で良く言われる目的指向的(Performance base)は、
学的な事実に基づいて、その理由を適切に説明できれ
基本的なハードウエアがなければ話にはならないが、
ばそれで良いのである。
そうした基本的ハードウエアの基に、どのようなソフトウ
エアが構築されているかを評価する点を理解しておく必
実験動物福祉
要がある。ソフトウエアの主体は人であり、その人の知
AAALAC の使命である実験動物の責任ある使用とケ
識、技術、経験などを駆使して、動物福祉の向上を図っ
アは、もっとも近い日本語としては実験動物福祉の担保
ているかが評価されるのである。したがって各担当者の
としても差し支えないように思われる。動物の福祉とは
実験動物福祉に関する教育歴、資格(実験動物技術者、
なにかと言い出すと、それだけで数冊の本が世の中に
日本実験動物医学専門医等)は入念に記載することは
存在するほどの課題であり、どこかに確とした定見があ
重要である。良くある間違いに、関係者の学会参加記
るわけではない。しかし、一般的には適切に動物を飼養
録がある。この中に実験動物福祉とは関係のない学会
することを実践することである。最近になって動物福祉
(病理系学会、毒性学系学会等)の参加記録や認定資
の国際標準が定められ、その中に実験動物福祉の章
格などをるる記載する機関がある。これらは科学的に
が設けられている(OIE 実験動物福祉綱領)。そして
は適切な機関と見なすためには良い情報となるが、認
AAALAC はこの適切性について深く思考していて、基
証の基となる実験動物福祉の実践には、とくに関係の
準文書に選定したものは、いずれも動物福祉に関して
ないものである。また機関内教育歴について記載され
詳細な記述が多いことに気付く。またホームページで公
ている場合についても最も重要なのは実験動物福祉な
開されている参考文書の多くは動物福祉に関する記述
どについての教育訓練歴であり、講師を務めた者が実
である。これを裏側から見れば、AAALAC の申請をする
験動物福祉に関する専門家でなければ、さほど重視さ
9
オベリスク Vol.17,2 June 2012
AAALAC−施設訪問
れることはない。また良くある間違いに施設訪問時の対
駄な労力を軽減する可能性が高い。
応がある。AAALAC の認証を得るために評議員の施設
この ILAR の指針では、本のタイトルの Care が管理と
訪問の前には施設員一同、徹夜状態で施設を磨き上
訳されていることから、わが国では実験動物の管理を
げることが良く行われている。しかし、このこと自体がす
行うことが、AAALAC 認証の近道だと錯覚する方も多い
でに AAALAC の目的に適っていない。なんとなれば、
かもしれない。しかし、Care の本当の意味は管理では
AAALAC は常に清潔な施設での実験動物飼養を求め
なく、愛情に基づいた福祉実践というような意味である
るのであるから、磨き立てる前には不潔な施設で実験
から、AAALAC に興味のある方は錯覚してはいけない。
動物を飼養していたことを意味し、高得点は望めない。
実際中身を見ればその記述の一つ一つが実験動物福
またせっかく磨き立てたケージ内の霊長類が、訪問員
祉をどのように担保するか、また適切に福祉を実践す
の目前でブリブリとウンチをして、清掃担当者がその一
るかが目的で記載されていて、さらにその適切性の目
件で訪問者の印象を悪くし、認証が受けられなくなると
安が記載されていることがわわかる。わが国の多くの関
思い込んで、卒倒しそうになったという実しやかな噂が
連文書では 適切に行う という記述でその適切性につ
流れるが、その気遣いは全くない。施設訪問者のほと
いては記載されていないことが多い。それはその先の
んどは現役の施設管理者であり、霊長類がケージの中
動物実験の自主的な管理と結びつき、関連文献や科学
でウンチをするのは極めて健康な証拠の一つとである
的事実に基づかない勝手な解釈を生み出す基となって
とは理解しても、そこにウンチがあるから不潔であるな
いる。また関連分野の技術的教科書にも、自分はかよ
どという短絡的思考をする者は全くいないからである。
うにやっているといった表現が多く、その科学的妥当性
ただし、たまたまそこに1週間くらいは放置されていたと
についての謙虚な考察が述べられていない場合が多い。
思われるウンチがあった場合は、まずどのくらい古いウ
たとえば、実験動物のケージを置く台には、実験準備と
ンチであると担当者は考えるか、最後にその部屋を見
して まず古新聞を実験台に敷いて などとの記載が見
回ったのはいつか、その記録はどこにあるか、見回った
受けられるが、その前後に何の目的で敷くのか、新しい
はずなのに何故それを見逃していたのか、担当者を監
新聞ではだめなのか、新聞紙ではなく清潔な紙ではだ
督する者はだれか、どのような教育が行われていたか、
めなのかなどは考えずに記載されている。ただこれまで
その部屋の見回り時の観察項目を記載した SOP はど
そうしていたということを記載して教科書とするからかよ
のようになっているかなど、システムとしての不全はどこ
うなことが起こる。それに対して、AAALAC 的にはおそら
にあったのかの発見にこれ努めることにはなる。すなわ
く、周辺に実験動物の床敷きが飛散し、環境を汚染しな
ち日常の運営をどのように適切に行っているかのプロ
いよう、衛生的に処理された紙を敷く、などと言い出す
グラムを見るのである。
のではないかと思われる。当然紙を敷く以外でも、本来
の目的の床敷きの飛散による環境汚染を防止できるの
ILAR の指針
であれば紙を敷く必要すらないのである。したがって、も
AAALAC の基本文書は現在は 3 つある。そのうちで
し ILAR の指針にかような表現があったとしても目的指
もわが国で最も適用が多いのが ILAR の指針である。こ
向的であるから、その目的が達成されるのであれば、
の本は 1965 年の版から鍵山先生が翻訳の労をとって
全く別の手法でも良いこととなる。消毒済みのステンレ
いて、実験動物の専門家の間では極めて良く知られた
ス台の上にケージを置き、実験後には飛散した床敷き
文献である。2011 年に改訂第 8 版が出版されて、これ
を除去し、ステンレス台を消毒する、でも全く問題はな
までなかったような多くの記述が新たに加わった。現在
いのである。しかし、そうするためには指針が求めてい
AAALAC 内では種々の委員会が設けられ、新しい ILAR
る目的達成と同等に、目的達成が可能な方法を知って
の指針の記述に対する AAALAC の見解を取りまとめ中
いたり、それを確実に行える技術を持った人がそこにい
である。前述の Q&A は今後も項目が増えてゆくことから、
なければならない。上記の例では、ステンレス台の消毒
興味のある方はときどき参照するか、適切なロボットを
法としてはどのようなものがあるか。そのそれぞれの消
用いて、改訂時にはお知らせが来るようにすることは無
毒法の利点と欠点などについて、知識のある人がいな
10
オベリスク Vol.17,2 June 2012
AAALAC−施設訪問
いのであれば、素直に衛生的に処理された紙を敷くの
問題を決定する場であると考えている。さらに市民の側
が最良であることは間違いない。
がなるほど患者のための研究であれば致し方ないが、
できるだけ苦痛の少ない方法であれば納得すると発言
IACUC の機能
するのに対して、研究者は内外の文献を精査し最新の
わが国では動物実験委員会の機能としては動物実
苦痛軽減法を駆使しているので問題ないと発言し、そ
験計画書の審議だけすれば良いとしているところが多
れを実験動物獣医師が専門の立場から適切に発言し、
いように感ぜられる。それも各省庁から指針がでるまで
それら委員の意見が議事録に残るのである。さらに議
は委員会はなかったが、指針に記載されているのであ
論を尽くしたところで、委員長が賛否を問い賛否および
わてて作ったなどという研究機関も多いものと思われる。
白票(棄権票)数などを記録して物事が決定する。しか
またわが国の文書では、どのような委員によって動物
し、わが国ではこうした委員会の議事運営ならびに議事
実験委員会が構成されるべきかの明確な記載がない。
録をとる習慣が根付いていないことから、AAALAC の施
それに対して欧米では、動物実験委員会は法律により
設訪問者は動物実験委員会の活動が十分でないとす
設置が規定されていることから、設置せずに動物実験
る傾向が強い。
を行うと法令違反となる。動物実験反対運動家が、わ
また動物実験委員会委員に一般市民の声を代表す
が国ではいつでも、どこでも、だれでも動物実験が行え
る者を 1 名以上指名することとなっている。この一般市
ると批判するが、ことこの件に関しては動物実験反対運
民とは誰かでわが国は悩む機関が多いが、例えば生命
動家が正しい。さらに動物実験委員会が法で規定され
倫理委員会などではわが国もこれは必須であり、また
るとなるとその機能、それに伴う委員の能力、資格、さ
わが国は、男女雇用均等法の規程により委員会委員
らに権限、とくに研究機関の動物実験の施行を自主管
は男女が必要なことから、社内委員に女性がいなけれ
理させるが、その前提として動物実験委員会が適切に
ば一般市民として女性を迎えるのが適当となる。しかし、
機能するということで認めていることから、動物実験委
こうして迎えた一般市民であっても委員の一員であり、
員会の義務事項なども規定されている。そのさらなる解
お客さんではない。そうすると動物実験委員会に課せら
説が ILAR の指針と考えると良い。したがって、AAALAC
れた義務を果たさねばならない。このことを検証するた
は動物実験委員会の活動に極めて高い関心をもつ。そ
めの訪問員の質問は明確で、ILAR の指針に規定され
の適切な活動はまず議事録の精査から始まる。わが国
ている動物実験委員会の社内査察に同行した経験が
は政府の枢要な機関でさえ議事録がなかったことが露
あるかを尋ねることとなる。多くの AAALAC 認証施設で
見するような国であるが、多くの委員会は評議をしてい
は、一般市民代表の委員も動物施設内のことを良く知
るだけで責任のある物事の決定は行っていない。委員
っていて、初めて行ったときには若干緊張したが、大変
長がこれに関してなにか意見はありませんかとたずね、
清潔であったなどと述べることとなる。当然種々の動物
とくにご意見がないようですので、次に進みます、などと
種などについても尋ね、実際に査察に参加していれば
いうだけで何がどのような議論を経て、誰の賛同で決ま
当然知っているべきことを確認したりする。またこうした
ったかは明確になっていない。これに対して欧米の委員
委員は適切な教育機会を与えられなければならないと
会というのは、委員会に出てくる議事に対して専門的知
していることから、わが国でいう素人をバリアにいれる
識を持っていたり、対立する利害をもった団体の双方の
わけにはいかないなどの言い訳はできないこととなる。
代表者などで構成されることから、どのような些事でも
いずれにせよ一般市民としての委員は、全く普通の人
それぞれ意見を述べるのが当たり前で、意見が全くな
がそのプログラムをどのようにみるかの大変重要なポ
い委員会は機能していないとされる。ましてや動物実験
ストを占めていることを良く理解しなければならない。当
委員会は、一般市民の立場からみれば、別にされたくも
然、その施設職員の近親者であってはならない。
ない実験を動物はされるのだから、明確な目的がなけ
ればやらせないと思っているのに対して、科学の目的で
担当獣医師の責任と能力
なんとか研究を行いたい研究者、という利害の対立した
動物実験委員会のもう一人の重要委員が担当獣医
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オベリスク Vol.17,2 June 2012
AAALAC−施設訪問
師である。ILAR の指針では、実験動物医学専門医など
常が発見できないのでは適格性はないものと判断され
専門知識を持ったものを選任することとなっている。した
る。実際わが国の実験動物技術者教育では、臨床症状
がって、プログラムの中の担当獣医師の資格に
の教育は熱心に行われているとは言い難い。さらに経
DJCLAM があるか否かはプログラムの認証に大きく影
験のある実験動物技術者がいて、動物の異常を発見し
響する。ようするに適切な資格を持った獣医師がいれ
たとしても、その異常をどこにどのように報告したかが
ば、細かいことを説明せずとも共通してもっている知識
問題となる。実験動物はいつでも疾病に陥るから疾患
に照らして、必要事項だけを伺えば施設訪問の目的は
モデル動物として価値があるのであって、疾病そのもの
達成されてしまうのである。こうした共通認識のない方
がプログラムの不適切性を示すものではない。そこで発
だけでプログラムが作られていると、施設訪問員はまず
見された異常が研究上のものであるか、あるいは健康
共通認識の説明から始めねばならない。とくに実験動
を害しただけかを見極める必要がある。とくに狭いケー
物福祉の担保が AAALAC の目的であるから、そこに研
ジ内でエンリッチメントなどが適切でない場合に、種々
究とは関係のない疾病や傷害に陥った動物がいること
の病的行動異常が現れることが報告されている。こうし
は容認しがたい。偶然その日に発症したのであればま
た異常行動を発見できる実験動物技術者を養成し、獣
だしも慢性的な疾病に陥っている動物の存在を知って
医学的ケアチームに投入することが期待されている。異
その機関をそのまま認証することはあり得ない。しかし、
常を発見したものは直ちに担当獣医師に報告すること
施設訪問員にとっては明確な臨床症状であっても、プロ
が最重要とされ、その際の記録保管も求められる。さら
グラム内にその臨床症状を認識することのできる方が
にその異常な動物に対して、どのような治療を行ったか
いないと、話はやっかいである。まずはその臨床症状を
の記録が重要視される。上記のような症例ではエンリッ
認識できるような人材を育成するか、外部から応援して
チメントの追加、静穏剤の投与、より広いケージへの移
もらうことを勧めるしかない。当然、その問題が解決す
動および社会学的な動物では、他の動物との同居など
るまでは完全認証は認められない。また臨床症状は認
が治療の定番である。いずれにせよこうした症状を呈し
識したが、その病的な意義および治療法について知識
ている動物を研究に使用することが禁止されているの
のある者が必要である。これが担当獣医師となる。した
で、高価な霊長類では、適切な治療を速やかに開始し
がってこうした知識のない獣医師を担当獣医師として任
なければ、実験動物福祉のためだけでなく、経済的にも
命すると、そのプログラム自体が適切ではないと判定さ
不適切なこととなる。このためには腕の良い実験動物
れる。担当獣医師に教育訓練を受ける機会を与え、そ
獣医師を雇用するなどして、実験動物福祉の充実だけ
のことの知識獲得が勧められる。残念ながら日本実験
でなく、会社としての利益向上にも役立てる乃至は研究
動物学会では、こうした実験動物の臨床的な問題につ
効率の向上に役立てるなどを AAALAC は想定している
いての教育研修の機会が少なく、より専門的な学会な
のである。
どでの教育研修が必要となる。おそらく多くの実験動物
また動物実験における苦痛の軽減が強く求められる
種でこの臨床の問題を扱っているのは日本実験動物医
が、この切り札は麻酔、鎮痛である。欧米では実験動物
学会と思われている。
の麻酔、鎮痛は臨床上の問題ないし、臨床上の獣医療
また担当獣医師がすべての動物を毎日診察すること
であるとの認識が明確になってきた。本来の研究目的
は大変困難であるので、ILAR の指針などでは獣医学的
だけを求めるのであれば、麻酔薬の生理学的な影響な
ケアチームという表現が使われる。これは獣医学にお
どを懸念して、研究者はできるだけ麻酔薬を使用したく
ける動物看護師のような存在を思い浮かべると理解し
ないと考えるのが一般的である。その一方、多くの市民
やすい。すなわち獣医師と一緒になってプログラム内で
は動物実験の必要性をたとえ認めたとしても、できるだ
獣医療を担当する人材である。これもわが国は実験動
け苦痛の少ない方法での施行を求める。この両者の間
物技術師資格などがあり、一般的な知識を持っている
にたち、できるだけ研究目的に抵触せず、できるだけ苦
ことは AAALAC でも認識してはいるが、その有資格者
痛の軽減を図れる、麻酔法および鎮痛法の処方を担当
でさえ、目の前の臨床症状を呈している動物を見て、異
実験動物獣医師が行うこととなっている。通常の獣医麻
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オベリスク Vol.17,2 June 2012
AAALAC−施設訪問
酔学では、できるだけ生体侵襲が軽減するような麻酔
ととなった。すなわち、その限界値を超えないような体
法を駆使することとなるが、実験動物ではさらに研究目
制をとることが重要だが、万が一限界値を超えたときに
的に抵触しないという条件が加わることとなる 。 このた
は速やかにそれを是正する体制を求めている。訪問員
めには担当獣医師は、単に実験動物の健康だけを考
は専門家であり、動物室に入ったとたんに、その室温、
えるのではなく、その研究目的についても相当な理解が
湿度が適正かを判断できる能力を持っている。したがっ
求められる 。これが担当実験動物獣医師の義務となる 。
て、動物室で異常を感じると、ただちに空調記録の点検
とくに新しい ILAR の指針では Pharmaceutical Grade
を行うのが通常である。
Drugs の使用が厳格に求められることとなった。これは
すなわち市場にある獣医療 、 医療で使用される医薬品
労働安全衛生
を一義的に使うことを求めているのである 。 とくに麻酔
わが国では労働安全衛生の法律が整備されていて、
薬 、 鎮痛薬は、治療薬であるからその厳格な使用が求
極めて厳格に運用されている。しかしわが国の労働安
められることとなる。これは実験動物の麻酔などを臨床
全衛生は工場など製造業を中心につくられていて、バ
的治療と考えていることの現われである 。 今後こうした
イオ関連産業に関する規定は極めて少ない。とくに実
臨床獣医学の知識を駆使した実験動物福祉の担保が
験動物に関連してはバイオセーフティが明確となってい
AAALAC の認証では求められ、それが認証の要件とな
ないのが欠点である。霊長類に関していえばこれはそ
ってゆくだろう。
の存在自体が、ABSL2 の基準で運用されていなければ
ならない。さらにわが国はカルタヘナ法により遺伝子改
良くある指摘
変動物が規制されていることから、これらの対策が弱点
施設訪問者が良く指摘する項目が明らかとなってい
である。実験動物の微生物といえばゲッシ動物の微生
る。AAALAC 事務局は、評議員会において問題として
物モニタリングが中心課題であった。もちろんゲッシ動
あげられた項目、これらは退出時の説明で訪問員から
物もあらぬ伝染病に罹患すると、適切な治療法も十分
解説があるのだが、この統計をとっている。これはお国
開発されていない現状では、実験動物福祉上の大問題
柄も反映するようで、国際的に一様ではない。環太平洋
ではある。しかし、大きな動物、産業動物では人獣共通
地域評議員会で問題となった項目の幾つかを紹介して
感染症の問題も重視されなければならない。感染症法、
おく。これらは通常学会時に開催される AAALAC の説
および家畜伝染病予防法では病原体の管理に関して
明会などで最新の情報が示されることが多い。
は厳格な規定を設けたが、動物が感染した際の規定は
産業動物を除いて極めて貧弱である。とくに実験動物と
HVAC
して相当な衛生管理下にある動物についてはあまり注
まず空調機関係(HVAC)の問題である。機器が不調
意が払われていない。したがって実験動物に関する人
であったりするのは論外であるが、実測値の記録保全
獣共通感染症に関する認識が薄いのが現状である。
と異常値が出た際の対応などが良く問題となる。とくに
さらに動物由来のアレルギーさらにはアナフィラキシ
最近では、全自動で空調制御を行うシステムが多くの
ーの問題は、労働安全衛生上重要であるとされている
機関で採り入れられていて、ダイアルを設定しておけば
が、この正しい理解がなされていない。とくに当初のア
良いとの勘違いが多い。AAALAC は目的指向型であり、
レルゲンによる感作がなければそれほど恐れることで
たとえば室温にしても、機器を何度に設定したかが大事
はないので、労働環境を改善して感作の機会を少なく
なのではなく、動物室の室温が何度であったかを重視
することが予防衛生上重要とされるが、この正しい知識
する。また動物実験委員会内で各動物室の温度とその
が普及していない。これらはいずれも正しい個人防護用
許容限界を規定することとなっている。当然その温度は
具(マスク、ゴーグル、手袋、着衣等)で相当程度予防
科学的根拠をもって設定するわけだが、多くの場合は
できるとされているが、そのプログラムができていない
ILAR の指針の推奨値が重要である。これにもこれまで
場合が多い。さらに実際にそうした症例が現われた場
幅が設けられていたが、今回の改訂で限界値を示すこ
合の対策は緊急を要することが多いが、その対策が整
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オベリスク Vol.17,2 June 2012
AAALAC−施設訪問
備されていないことが多い。また道具は整えていても、
かな発見、そして処置と治療などについてはわが国も
実際の訓練などが行われておらず、実効のある対策と
欧米の水準からは大きく水を開けられている。3Rs の中
はなっていないことが多い。これらの労働安全衛生の
に Reduction があるが、この項目は実験動物を治療す
問題は邦訳もなされている ILAR の労働安全衛生の指
ることも含まれている、などということにまで意識がゆく
針があるので十分勉強しておくことが重要となる。
者は希である。そもそも実験動物を治療するということ
自体がわが国はほとんど行われて来なかった。麻酔が
獣医学的ケア
医療行為であるというのは医学界の常識であるが、わ
環太平洋地域では獣医学的ケアプログラムが弱点と
が国実験動物界では、麻酔を獣医療行為であると認識
される。その理由の多くは、たくさんの認証施設を抱え
する者は少ない。それにともない規制薬である麻酔薬、
る中国における実験動物獣医師の養成不足から来て
鎮痛薬の管理が適切になされていないことが多い。した
いるとされている。この中には麻酔薬、鎮痛薬の使用と
がって AAALAC の認証のためには、この点の相当な改
管理が含まれている。まず麻酔と鎮痛に関する知識の
善を必要とする。またわが国では、エンドポイントの設
圧倒的な不足が指摘される。多くの獣医師が 麻酔薬
定および安楽死の施行などについても大きな関心は払
を打つこと が麻酔を施行することだと思い込んでいる
われていないが、実験動物の福祉の担保を求める
が、麻酔薬は投与したのちの麻酔深度のモニターが最
AAALAC では、これらも獣医学的ケアプログラムの一部
も重要で所定の麻酔薬を所定の量投与したからといっ
として重視している。
て、適切な麻酔の施行とはならないことが理解されてい
ない。ましてやペントバルビタールナトリウムなどのバル
参考文献と参考 URL
ビタール系の麻酔薬による麻酔の機序が、強力な睡眠
1.ILAR の指針(第 8 版:邦訳)2011
作用による意識消失によるものであり、鎮痛作用はな
http://www.adthree.com/publish/2011/05/care-and
いことを多くの者が知らない。さらにバルビタール系の
-use-of-laboratory-animals.html
2.実験動物の管理と使用に関する労働安全衛生指針
麻酔薬は安全域が狭く、痛みを感じないような意識消
失のために、必要な薬用量は致死量に極めて近いこと
(邦訳)2002
が理解されていない。したがって、多くの場合、実験動
http://www.adthree.com/publish/2002/11/occupati
物の麻酔死亡事故を減らすために薬用量を少なくする
onal-health-and-safety.html
3.安楽死に関するガイドライン(邦訳:電子版)2011
が、そうすると動物は痛みを認識し、麻酔の状態には到
達しないのであるが、その際の麻酔深度のモニターが
http://www.adthree.com/publish/2011/05/Guideline
十分になされておらず、結果として実験動物は重大な
s-on-Euthanasia.html
4.AAALAC International の website
苦痛をともなう動物実験に供されることとなってしまって
http://www.aaalac.org/
いる。
5.OIE の実験動物福祉綱領
しかし、わが国においても種々の法制には、実験動物
福祉への獣医学の関与が明確化されておらず、多くの
http://www.oie.int/index.php?id=169&L=0&htmfile=c
関係者はその重要性の理解が少ない。前述のように疾
hapitre_1.7.8.htm
病や傷害を予防するだけでなく、発症した動物の速や
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オベリスク Vol.17,2 June 2012
動物実験施設−AAALAC 認証を想定して−
小山 公成
アステラスリサーチテクノロジー株式会社 動物管理部
【はじめに】
ブルが発生したときにも、研究遂行に与える影響を最小
アステラスは 2008 年に大阪、2010 年に筑波・焼津で
限に抑えながら、管理可能な融通性のある構造である
動物実験・飼育施設(以下、動物実験施設と略)の
ことも望まれる。
Association for Accreditation and Assessment for
3.研究サポートがしやすいこと
Laboratory Animal Care International(以下、AAALAC)
目的の研究が支障なく実施されるためには、研究資
認証を取得しました。国内外の研究所で AAALAC 認証
材・飼育資材などの物品の供給・搬出、清掃、飼育管理
取得を進めており、国内研究拠点はすべて、国外施設
などの適時適切なサポートが必要不可欠であり、これら
も複数の施設で認証を取得しております。本稿では動
のサポートが円滑に行われるための設備・機器が必要
物実験施設を管理する立場として、上記認証取得を想
となる。
定した動物実験施設がもつべき要件について、私見も
4.施設や設備のメンテナンスがしやすいこと
含めて述べていきたいと思います。施設建築の専門家
動物実験施設の運営に空調設備、照明設備、環境記
ではないのでどれほど皆さまのお役に立てるかと思い
録システム、排水設備、飲水設備、滅菌設備、洗浄機
ますが、少しでも参考になれば幸いです。
器、飼育機、運搬設備などの定期点検、定期補修など
が必要であり、至急の補修対応が必要な場面も多い。
【動物飼育施設に求められる要件】
これらの補修や更新も含めたメンテナンスを実行しやす
製薬会社の使命は、患者さんに有効且つ安全性の
いことが重要と考えられる。2 および 3 と併せて実験・サ
高い医薬品を開発し供給することなので、新薬を創出
ポート・メンテナンスのトータルが、効率的で連携しやす
するために実験データの信頼性を担保できるハードを
いものであることが研究推進には必要であり、ハード以
備えていなければならない。また、研究員が実験しやす
外にもソフト面での充実も必要である。
く、それをサポートする動物飼育管理者、設備管理者も
5.災害に強いこと
含めてトータルとして安全で使いやすい施設の必要が
堅固な作りで地震などの災害時においても被害が最
ある。同時に、災害に強く、法規制も含めた社会的要請
小限に抑えられ、研究・飼育管理を継続できること、動
を満たしており、環境にも十分配慮されている必要もあ
物の逃亡が発生しないことが望まれる。先の東日本大
る。
震災でも、つくば研究センターでは免震構造の建物は、
以下に、動物実験施設に求められると考えられる要
耐震構造の建物に比較して被害の少なさが実感され
件を示した。
た。
6.法規制に合致したものであること
1.動物が最適な状態で飼育管理できること
動物愛護管理法、外来生物法、感染症予防法、カル
外部環境からの影響を受け難く安定した飼育・実験
タヘナ法、化製場法、環境関連法令などの法規制を遵
環境を維持できる必要がある。そのために温湿度、換
守できるハードを備えていることは最低限の性能として
気、照明、衛生状態などを維持できる設備や構造を持
求 め ら れ る 。 主 に は 動 物 の 外 部 へ の 逃 亡 、 Radio
つ必要がある。
Isotope、臭気、生物などの漏出防止といったことへの
2.研究者が使いやすいこと
対応が必要になる。
研究資材・機器が適正に準備・配置され、目的の研究
7.労働安全衛生面に配慮されていること
を実施しやすく、効率的で安全な動線を組むことができ
動物実験には、動物による咬傷、人獣共通感染症、
る構造が望ましい。また、感染症の発生というようなトラ
研究試薬・化合物・臭気への暴露、ガラス器具によるケ
15
オベリスク Vol.17,2 June 2012
動物実験施設−AAALAC 認証を想定して−
ガ、さまざまな機械の扱いによる怪我、転倒、アレルギ
動物や外部環境への影響の最小化に寄与することが
ーなど多くのリスクが多く含まれる。これらのリスクから
できる。
従事者を守るためのさまざまなハード面での対応が求
められる。また、従事者が気持ちよく働ける環境・構造
【動物飼育施設整備における具体的対応】
1)
とすることも重要である 。
ここからは動物飼育管理部門として動物飼育施設を
8.外部環境に与える影響が少ないこと
整備する際に留意した具体的事項について記載する。
動物実験で使用される化学物質、動物の汚物、使用
但しここに記載したことは新しい考え方ではなく、すでに
済研究資材などの廃棄物、排水などは法規制に適合
Guide やその他の成書などに示されているものの組み
するだけではなく、事業体の社会的責任として適正な方
合わせであり、研究施設各々でその選択は異なるもの
法で処理・廃棄する必要がある。また CO2 排出の削減、
と考えられる。ただ近い将来 AAALAC による認証取得
エネルギーの効率的使用についても社会から求められ
を意識していた点はその当時の既設の動物飼育施設と
ており、ソフト面に加えてハード面でもその対応が重要
は異なる部分もあるかもしれない。
になってきている。
動物飼育室および飼育ケージ
9.動物愛護、福祉等の社会的要請に配慮されたもの
げっ歯類は、原則として Specific Pathogen Free(以
であること
下、SPF)動物を導入し、バリア施設内で飼育する。飼
動 物 実 験における 3Rs(Reduction、Replacement、
育形態はいずれも群飼育で Guide に規定された 1 匹当
Refinement)の実効性に対する社会の要請はますます
たりの飼育面積以上を確保できるものとする。
強くなりつつあり、ILAR の Guide(Guide for the Care and
Solid-bottom(以下、床敷)ケージを基本とするが、試験
Use of Laboratory Animals Eight Edition, Institute for
目的によっては Wire-mesh(以下、金網)ケージを用い
2)
Laboratory Animal Research)(以下、Guide) にも記載
る場合もあるので、双方での飼育が可能な形態とした。
されているように、国内外においても動物の環境エンリ
また従事者や動物へのアレルゲン、臭気による影響を
ッチメント利用への配慮が求められている。できる限り
排除する目的で、一方向気流ラックによる飼育形態とし
動物の特性に考慮した飼育形態、飼育環境を整えるこ
た。遺伝子改変動物や免疫不全動物については、逃亡
とは、今後の動物飼育施設の必要要件になってくると
防止と微生物学的環境を考慮して Individual Ventilation
思われる。飼育ケージ形態(動物の特性に合わせた飼
Cage system ラック(以下、IVC ラック)を用いた飼育を行
育、群飼育等)、飼育環境(飼料給与方法等)、動物の
う。SPF 動物の飼育施設は基本的に Double corridor
運動のための施設などさまざまな取り組みが有効であ
方式で、1フロアにいくつかのゾーンを設置、各ゾーン内
る。
に飼育室、実験室を配置し、ゾーン内で実験が完結で
10.拡張性と柔軟性を備えていること
きるような構造とした。この方式の特長は、各ゾーン間
将来の研究領域・内容の変化に対応できるような構
の微生物学的なコンタミネーションを排除できる衛生管
造にしておくことが必要と思われる。著しい物理あるい
理と、飼育室-実験室間の距離を短くできる利点の双方
は基盤的な変更をしなくても機能を変化させられる構造
を兼ね備えたものであり、動線もその時々の状況に合
1)
が望ましい 。
わせてゾーン間もフリーに動ける動線、one-way 方式の
11.セキュリティーが確りしていること
動線の双方を自由に設定できる良さを有している。
動物、職員、設備ならびにデータの安全を確保する
大動物も Guide に規定された 1 匹当たりの飼育面積、
ために、敷地、建物、動物飼育施設、特殊施設ではセ
高さを上回るものとし、隣接ケージが連結可能で対面
1)
キュリティーへの配慮が重要である 。外部からの侵入
の動物同士が視認できる配置とした。隣接ケージを繋
者への対応ということもあるが、アクセスを制限すること
げると大きな空間となるのでケージ内でも運動可能とな
で、従事者の安全確保や施設の研究環境保全が図ら
り、運動や動物同士のコミュニケーションを図ることがで
れる点が重要なことのように思える。また、24 時間体制
きる。床網の構造は、樹脂コートされたものとし動物の
での飼育環境、排水水質などの異常監視により、飼育
脚への負担が極力抑えられるものとした。これらとは別
16
オベリスク Vol.17,2 June 2012
動物実験施設−AAALAC 認証を想定して−
に群飼育専用の大型ケージも導入しており、動物の環
ようにした。本構造はフィルター管理が楽でコスト面でも
境 Enrichment に最大限配慮している。
優れている半面、給気口から飼育室までのダクト内の
動物飼育環境
滅菌が必要になった場合にどのような方策をとれるか
温度、湿度、換気、騒音、塵埃、臭気(アンモニア)、
が難しいと感じているが、現在は二酸化塩素による燻
照明および室圧(風向)を管理・記録している。環境条
蒸消毒で対応している。
件の基準値は、実験動物施設の建築および設備のガ
排気はエネルギーの有効利用のため全熱交換機で
3)
イドライン(2007) に従った。この中で温度、湿度、照
エネルギーを回収した後、中性能フィルター、脱臭フィ
明および室圧は、中央監視システムで 365 日 24 時間、
ルターを介して、実験の性質や動物種によってはさらに
一括管理・制御し、警告、記録を残している。また中央
HEPA フィルターを介して行っている。各実験室には、麻
監視システムとは別に、上記各項目について定期的に
酔ガス、炭酸ガスを排気できる設備を準備した。大動物
モニターすることで、中央監視システムによる監視が正
では日常の水洗作業後、速やかに(1 時間以内)湿度が
常稼働しているかを管理する。振動については動物に
通常レベルに復帰できるような空調能力を持たせた。
影響を与える影響が大きいと感じており、振動が発生
照明設備
する設備から、飼育室、実験室に伝わらないような配置
通常は 300 lux(飼育室中央 80cm)に設定し、明暗サ
とした。また、停電時の対策として自家発電装置を設置
イクルは 12 時間に設定した。但し、飼育室単位で明暗
し、動物飼育環境を一定時間維持することが可能であ
サイクルの時間や照度を調整できるように設定するとと
る。
もに、人為的な照明の切り替えにより、通常の明暗サイ
空調設備
クルが長時間変わらないような仕組みを設けた。
空調設備はメンテナンスを考慮して 1 フロアを 2 系統
照明器具は、水の使用が多い場所は埋め込み式あ
に別けている。空調機器整備・故障・閉鎖時のため施
るいは防水型蛍光灯とし、その他は災害時に蛍光灯が
設全体共有のバックアップ用空調機器も準備した。動
飛散しないように、飛散防止フィルムコートされた蛍光
物飼育施設内では最大の気流速度は 0.2m/s(飼育室
管を用いた。
中央 180cm)を超えないように、換気回数 10 回/時間
隔離施設
以上を確保した(定期的に飼育室の換気回数を測定)。
検疫が必要な動物種あるいは感染動物を隔離できる
飼育施設内では、清浄区域から汚染区域に空気が流
施設あるいは飼育機を設けた。給排気には HEPA フィ
れるように室圧を設定する。
ルターを設置し、排水はバッチ処理、殺菌処理できるよ
バリア施設への給気口には HEPA フィルター、コンベ
うにし、汚物処理にあたっては滅菌処理可能なようにオ
ンショナル施設には中性能フィルターを設置し、ろ過し
ートクレーブを設置した。バリア施設内においては IVC
た空気をフロア全体に供給している。給気は all-fresh と
などの活用により隔離管理できる体制を整えた。
し、Guide で要求されている空気の質を十分担保できる
17
オベリスク Vol.17,2 June 2012
動物実験施設−AAALAC 認証を想定して−
動物実験室
画も明確にすることが求められる。飼育室から搬出され
研究目的に応じて必要な機能は異なるが、基本的に
たケージは、洗浄室のダーティーエリアで床敷廃棄処
吸入麻酔器と麻酔ガスなどを排気できるシステムとした。
理され、各種洗浄機器により洗浄後にクリーンアエリア
バリア施設では、各ゾーンに配置された飼育室に近接
で乾燥、保管される。その後飼育室に滅菌・消毒処理
させてさまざまなリスクを回避できるようにするとともに、
後に搬入され使用されることになる。
微生物学的汚染リスクを最小限にできるようにした。
洗浄室ではさまざまな機能が交差するのと、大型機
外科処置室
器で多くの器材・資材を洗浄するため、十分なスペース
無菌的外科処置が可能なように、更衣するエリア、外
が必要と考えている。また、床敷処理をはじめ作業環境
科手術の前処置を行うエリア、外科手術するエリアを明
が悪くなりがちなことから、十分な換気、専用の処理装
確に分け、滅菌資材と動物の動線も分けることが衛生
置、機能的なシンクなどのハードに加えて、Personal
上望ましい。給気には HEPA フィルターを設置し、室内
Protect Equipment(以下、PPE)を充実させる必要があ
にはドラフトや専用の麻酔ガスなどの給排気設備を設
る。
けた。その他術中・術後管理のため、必要に応じて生体
大きな施設ではこれらの一連の作業を機械化してい
モニター、無影灯なども配置した。
るところもあり、作業効率、労働安全衛生の両面で有効
検査室
と思われる。
動物の各種検査を実施する検査室を設けて、飼育動
廃棄物保管施設
物の微生物モニタリング、血液検査、異常動物の剖検、
水洗、換気が十分可能な構造とし、臭気が漏れ出な
微生物検査、病理検査などを実施できる体制を整え、
い密閉性が要求される。当該施設には動物実験で排出
いち早い獣医学的管理の提供を可能とする。
される廃棄物(床敷等)を一定期間保管可能なスペース
物品保管施設
を確保した。保管に当たっては冷凍庫、冷蔵庫を配備し
動物飼育施設内ならびに施設外に十分な物品保管
て臭気・腐敗対策をとる。保管施設の外部扉にはセキ
庫および収納のための設備を設ける必要がある。そう
ュリティー、害虫対策を施すとともに、廃棄物業者がア
でないと施設内廊下や実験室に実験用資材が溢れるこ
クセスしやすいようトラックヤードを設けた。保管施設に
とになる。研究資材・器材の購入後、洗浄後、滅菌後、
は各フロアや洗浄室からダーティーエレベーターで廃棄
使用後などのそれぞれのスペースを確保することが重
物などを輸送する。なお、各フロアの飼育施設外にも廃
要と思われる。
棄物保管庫を設けて、一時保管可能な体制をとること
飼育・実験器材はその時々の研究目的に応じて変遷
で、研究者・飼育管理者の利便性を確保するとともに、
していくので、倉庫にモノが溢れがちになる。また、災害
バックアップ保管場所としての機能を持たせた。
に備えて研究・飼育資材を在庫しておくことも考慮する
滅菌が必要な廃棄物については、保管施設内にオー
と、過剰在庫は論外としても、十分なスペースを確保す
トクレーブを設置して滅菌後廃棄する。
る必要があると思われる。
廃棄物保管庫は、災害時のような外部業者のサービ
また、バリア施設内では一定期間経過した資材は一
スが停止したときに備えて、一定期間保管できる体制を
旦施設外に持ち出し、再洗浄、滅菌・消毒を行うことも
整えておくことが必要になる。
必要と考える。
飼料・床敷保管施設
洗浄施設
一般的な固形飼料は、製造後 6 ヵ月までは使用する
洗浄室の機能としては、ケージ、ケージトップ、トレイ、
ことができる場合が多いが、劣化しやすい成分もあるの
給水ビン、実験・飼育用の器材・資材、エンリッチメント
で、21℃、湿度 50%以下で保存することが望ましいとさ
などの洗浄・乾燥に加えて、床敷の処理、床敷の充填
れている
なども含まれる。
が重要なので、定期的なモニタリングも必要と考えられ
2)
。害獣害虫が侵入しないように管理すること
る。また、衛生的に管理するために棚やカートの上に置
洗浄施設機能はクリーン/ダーティーに区分され、区
き、床や壁から離して保管することが求められる 6)。
18
オベリスク Vol.17,2 June 2012
動物実験施設−AAALAC 認証を想定して−
について記載した 4)。なお、各設備についてはその機能
動物、実験器材・資材、廃棄物などの輸送設備
アレルギーや人獣共通感染症などのリスク回避の観
が発揮されるか否かを定期的に検証しておく必要があ
点から、従事者以外のヒトや動物とクロスしないような
る。
専用の動線を持つことが望ましいと考え、動物飼育施
・人獣共通感染症:バイオセイフティーキャビネット、IVC、
設内に専用のクリーンエレベーター、ダーティーエレベ
HEPA フィルターによる給排気、検疫・隔離施設、室圧
ーター、動物輸送用エレベーターを設置した。
管理、エアロック、シャワー、洗眼器など
洗浄後にクリーンエレベーターで輸送された資材など
・アレルギー:空調(十分な換気)、一方向気流飼育機、
は、オートクレーブで滅菌あるいはパスルームで消毒後
床敷回収時などの集塵機、ドラフト、シャワー、洗眼器
にバリア施設内に搬入する。SPF 動物は、輸送ケージ
など
の外面を消毒した後に検収室に搬入、エレベーターで
・化学物質管理:保管場所への立ち入り制限、容易に
各フロアに輸送し、パスルームでケージ外面を再消毒
移動できない施錠できる保管庫
後にバリア施設内に搬入する。ダーティエレベーターで
・化学物質への暴露:ドラフト、専用の保管場所・容器、
は使用済ケージなどの飼育・実験資材、廃棄物などを
シャワー、洗眼器など
それぞれ洗浄室、廃棄物保管庫まで輸送する。エレベ
・照明:防水型蛍光灯、飛散防止措置
ータシャフトはいずれも陰圧に設定し、シャフトからの汚
・飼育室、洗浄室など水洗が必要な床:滑りにくい構造
1)
染が起こらないようにすべきとされている 。
の材質、適切な排水
セキュリティー
・その他一般:AED、救急セット
動物飼育施設のセキュリティーには、然るべき教育を
災害時の対応
受けていない職員が入室することによる飼育動物への
東日本大震災への対応を通して感じたハードとして
感染症の持ち込みや、職員の安全・健康被害ならびに
の整備点は、バックアップ電源、公共水道断水の際に
生物学的・化学的物質や、動物の盗難など意図的な侵
にも安定した給水設備、強い揺れによる研究機器・飼
入などを防止するなどの目的がある。具体的な方法とし
育機の落下・破損防止などがあげられる。
ては、以下のような対応が考慮される。
・建物への立ち入り制限(教育・許可を得たもののみが
【まとめ及び謝辞】
入室できる)
動物実験施設のハード面における整備は、コストが
・動物飼育施設内への立ち入り制限(教育・許可を得た
高いため、研究施設の目的に合わせた綿密な計画・実
もののみが入室できる)
行が求められる。研究の遂行といった面のみならず、従
・動物飼育施設への入退出を制限・監視・記録するシス
事者の安全衛生確保、環境への配慮、法規制への対
テム(カードの利用等)
応、動物福祉への配慮、災害への対応等々多くの要件
・動物施設ごとの清浄度に合わせた動線を管理できる
を満たす必要があり、悩むことが多いと感じている。本
(入室を自動制御する)
稿がお読みになった方の少しでも参考になればと考え
・動物飼育施設であることを外部に明示しない
ている。最後になりましたが、本発表の機会を与えてい
・監視カメラなどの設置
ただきましたオベリスク編集部の皆さまに感謝申し上げ
労働安全衛生
ます。
動物飼育施設には、生物学的因子(動物、感染因子、
毒素等)、化学的因子(洗剤、化学物質等)ならびに物
【参考資料】
理学的因子(鋭利なもの、濡れた床、機械類、蒸気、圧
1.日本実験動物環境研究会編、黒澤努・上條信一・夏
力容器、照明、電離放射線等)によるリスクが存在して
目克彦・市川哲夫監訳、NIH 建築デザイン 政策と指
おり、従事者をこれらから保護するために、ハード、ソフ
針(NIH Design Policy and Guideline November 2003
ト両面からの対応が求められる。以下に動物実験施設
Edition)、アドスリー、2009.
としてハード面での対応すべきと考えられる代表的事項
2.日本実験動物学会監訳、実験動物の管理と使用に
19
オベリスク Vol.17,2 June 2012
動物実験施設−AAALAC 認証を想定して−
関する指針 第 8 版 (Guide for the Care and Use of
Laboratory Animals Eighth Edition ) 、 ア ド ス リ ー 、
2011.
3.日本建築学会編、最新版ガイドライン 実験動物施
設の建築および設備、アドスリー、2007.
4.日本実験動物環境研究会編、黒澤努・佐藤浩監訳、
1997 年実験動物の管理と使用に関する労働安全衛
生指針(米国実験動物資源協会著)(Occupational
Health and Safety in the Care and Use of Research
Animals)、アドスリー、2002.
20
オベリスク Vol.17、2 June 2012
AAALAC−管理獣医師への思いと悩み
竹田 三喜夫
エーザイ株式会社 業務推進部 実験動物医学専門医
1.はじめに
学会セミナー情報
英名で Attending Veterinarian と呼称される実験動物
名称
管理獣医師の実践的な知識・高度技
施設の獣医学的ケアーを担当する獣医師は、ILAR 第 8
術を習得する為の
版で「選任獣医師」と訳されている。ケアーを管理とせ
実地研修
ずケアーと表現したことなど、翻訳チームの先生方がい
内容
経験豊かな管理獣医師を指導者とし
かに英文を苦労して訳したかは、8 版の冒頭「翻訳にあ
た、生産農家における管理獣医師の
たって」に記載されている。さて Attending Veterinarian
業務に関する実地研修
の訳については「選任獣医師」と訳したと書かれている
なお、上記は日本獣医師会の HP で公開されていた
だけであるが、議論が全くなかったのであろうか。数年
セミナーであるが、産業動物の獣医師(ウシ、ブタ、ウマ
前実験動物医学会の ML(メーリングリスト)で、私が
等)で、特定の業務に従事している人たちは「管理獣医
Attending Veterinarian について、会社での呼称を管理
師」という呼称を使っているようである。
獣医師として良いかと問い合わせた際、種々の意見を
頂戴したからである。別呼称としては、「専任獣医師:獣
2.実験動物施設における管理獣医師の役割
医学的ケアー専任の獣医師」、「選任獣医師:複数の獣
前置きが長くなってしまったが、弊社における管理獣
医師の中から選任された獣医学的ケアー担当の獣医
医師の役割は大別して 3 つである。
師」などがあった。管理獣医師という呼称は誤解を招く
(1)実験動物の検疫・疾病予防・診断・治療を行う。
という意見もあり、管理栄養士(栄養士法)、管理薬剤
(2)麻酔法や実験手技など動物実験手技の確立や研
師(薬事法)はそれぞれ法的に定められた資格で、専門
究を通じて、社内への啓蒙活動を行う。
の過程を修了し国家試験を合格した人達の呼称である
(3)IACUC の「委員会担当獣医師」として、社内 LAN で
が、管理獣医師は法的な資格ではないこと、管理栄養
Web 申請される実験計画の事前チェック(実験内容
士、管理薬剤師は法的資格による指導・監督であり、
に関する苦痛度・安楽死処置や人道的エンドポイン
「管理獣医師」は動物のケアーを主として行うのであり、
トが適切に記載されているかなどの確認と修正指
飼育技術者や研究者を管理監督するという意味合いに
示)や審査委員のアサイン、3Rに関する助言・指導
取られるので良くないということであった。確かに意見を
など。
頂戴した中に「attend」は「(人)を看護手当てする」「付
他施設においては(1)、(2)が主であると思われる
き添う」という意味があり、動物を看護手当し付き添う獣
が、弊社においては業務の大半を「実験計画の事
医師というのが英文の意味する内容であろう。個人的
前チェック」に忙殺される状況であり、この点は今後
な見解であるが、「選任獣医師」という呼称は漢字を見
改善が必要と考えている。さて今更であるが「実験
れば理解できるが、電話などで外部機関や当局と話す
動物の獣医学的ケアー」は、動物の医学的知識を
時に、「せんにん」という意味が「千人?、仙人?、専任?」
持ち、国家試験免許を有する獣医師が行うのが当
ということで担当業務として判り難い。製薬業界や実験
然と思われる。また、ILAR 第 8 版の獣医学的ケアー
動物分野では「管理獣医師」という呼称は、ILAR8 版が
の中には、診断・治療という用語が使われており、
出る前にすでに市民権を得ていると考えていることから
われわれ管理獣医師は、対象動物が主として家畜
「管理獣医師」という呼称で問題はないのではないかと
やコンパニオンアニマルではないが、診療・治療な
感じている。
ど医学的処置を許容される処置の範囲内(実験に
21
オベリスク Vol.17、2 June 2012
AAALAC−管理獣医師
影響がない)で診療業務を行うことを求められている
症を動物に感染させないことが重要になってくる(新世
と解釈できる。
界ザルへのヒトの麻疹(はしか)の感染や旧世界ザル
獣医師法の 17 条には
へのヒトの結核感染等)。
獣医師法で診療業務にあげられている動物種
1)治療の限界
げっし類の場合、管理獣医師としてかかわることの多
第 4 章 業務(飼育動物診療業務の制限)
第 17 条 獣医師でなければ、飼育動物
くは微生物モニタリング、施設衛生管理や外科手術実
(牛、馬、めん羊、山羊、豚、犬、猫、鶏、うずらその他
施後の苦痛軽減など集団管理が基本である。一方、イ
獣医師が診察を行う必要があるものとして政令で定め
ヌ、サル類に対しては、外科的外傷や内科疾患の診
るものに限る。)の診療を業務としてはならない。
断・治療、外科手術後の苦痛軽減など個体管理が基本
とあり、平成 4 年には政令として 1.オウム科全種、2.カ
である。しかもサル類は試験、研究または動物園での
エデチョウ科全種、3.アトリ科全種が加わった。すなわ
展示用目的以外には輸入できない動物なので、大学な
ち実験動物という固有種はいないが、ブタ、イヌについ
どでの臨床経験や知識がない中で専門書などを参考に
ては獣医師法の診療業務の対象動物と解釈できなくも
対応することとなる。このような診断知識の不足は、管
ない。しかし、われわれが扱う動物種としては大動物で
理獣医師として活動している者たち全般の悩みではな
は霊長類、小動物ではげっ歯類も含まれ、獣医師法を
かろうか。さらに、われわれ管理獣医師が対象とする動
見る限りは、診療業務の対象動物に含まれていない動
物は実験動物である。コンパニオンアニマル(ペット)で
物種である。ペットや家畜の臨床獣医師と異なり、対象
あれば、外科疾患、内科疾患を問わず可能な限り治療
動物の医療行為を明快に法律の解釈から説明できな
するという原則論が成り立つ。しかし、実験動物の場合
いもどかしさを感じるのは私だけだろうか。もちろん非獣
は治療しても問題なく実験に使用できることが大前提で
医師が診療行為を行うことは獣医師法違反だと言うこと
あり、例え 治療がめでたく成功しても、後遺症が残ると
は自明の理であるが。
か履歴的な問題(過去に肝機能低下、腎機能低下など
代謝疾患があった等)から、研究者が実験に使うことを
敬遠する可能性は高い。
3.管理獣医師の悩み
2)安楽死の判断
獣医大を卒業し動物施設の管理獣医師として業務を
している者は、大学において実験動物医学の専門教育
安楽死という処置はヒトの医療では行われないもの
を受けたわけではない。大学での専門も臨床系や基礎
であるが、実験動物、ペットならびに家畜など動物にお
系などさまざまである。私の場合は幸い臨床系の外科
いては広く実施されている処置であり、わが国では平成
学専攻であり、所属した研究室ではイヌの心臓移植な
19 年に環境省から指針として告示されている。なお、
ど心臓を中心とした研究を行っていた。1980 年に入社
「安楽死」という用語はわが国の指針では「殺処分」と表
後、探索研究部門において、イヌを用いた循環器系新
現されている。
規化合物の薬効評価を担当したが、実験手技について
「動物の殺処分方法に関する指針」
はほとんど大学時代に習得したものの応用で対応でき
「動物の殺処分方法に関する指針」
た。さらには、大学では通常に行っていたハロタン吸入
平成 7 年 7 月 4 日総理府告示第 40 号改正、平成 12
麻酔や心臓内圧測定のための心臓カテーテル法など、
年 12 月1日環境省告示第 59 号、同 19 年 11 月 12
当時会社では実施していなかった手技・手法の導入と
日環境省告示第 105 号
確立に貢献できた。しかし、管理獣医師となった現在は、
第1一般原則 管理者及び殺処分実施者は、動物を殺
業務を遂行する中で種々の戸惑いと悩みがある。私は
処分しなければならない場合にあっては、殺処分動物
弊社において主として大動物(サル類(旧世界ザルおよ
の生理、生態、習性等を理解し、生命の尊厳性を尊重
び新世界ザル)、ビーグル)を担当しているが、サル類
することを理念として、その動物に苦痛を与えない方法
は Zoonosis(人獣共通感染症)としてのヒトへの影響
によるよう努めるとともに、殺処分動物による人の生
(結核、サルモネラ、赤痢)もさることながら、ヒトの感染
命、身体又は財産に対する侵害及び人の生活環境の
22
オベリスク Vol.17、2 June 2012
AAALAC−管理獣医師
汚損を防止するよう努めること。
が同じであるべきだが、実際その状況(耐え難い苦痛、
第2定義 この指針において、次の各号に掲げる用語
瀕死状態)において判断するのは、個々人に委ねられ
の意義は、当該各号に定めるところによる。
ているので、微妙に異なるのではないかと思う。私が最
(1)対象動物 この指針の対象となる動物で、動物の愛
近経験した例であるが、サルの ADME 試験においてげ
護及び管理に関する法律(昭和 48 年法律第 105 号)
っ歯類では全く起きなかった症状(全身性の痙攣)が、
第 44 条第4項各号に掲げる動物
実施した 2 頭に生じたことがあった。緊急の連絡を受け
(2)殺処分動物 対象動物で殺処分されるものをいう。
現場に行ったところ、1 頭はすでに回復しており、別の
(3)殺処分 殺処分動物を致死させることをいう。
個体は観察中に数回全身性の痙攣を起こすという状況
(4)苦痛 痛覚刺激による痛み並びに中枢の興奮等に
であった。製薬企業の研究は、ヒトの健康福祉に貢献
よる苦悩、恐怖、不安及びうつの状態等の態様をい
する医薬品を開発するという目的があり、実験動物で
う。
起きた事象は、今後の医薬品の開発において貴重な情
(5)管理者 殺処分動物の保管及び殺処分を行う施設
報である。1 頭はすでに回復したという事実があったの
並びに殺処分動物を管理する者をいう。
で、痙攣の再現性や回復性の有無、痙攣時の薬物の
(6)殺処分実施者 殺処分動物の殺処分に係る者をい
血中濃度などは貴重な情報であると考え、研究者に採
う。
血を直ちに実施することを指示した。もう一頭の方は、
第3 殺処分動物の殺処分方法
痙攣が続いている状態では安楽死を実施せざるを得な
殺処分動物の殺処分方法は、化学的又は物理的方法
いと判断した。悩んだのはそのタイミングである。痙攣を
により、できる限り殺処分動物に苦痛を与えない方法を
確認した時点で即判断すべきであったのか、採血や回
用いて当該動物を意識の喪失状態にし、心機能又は肺
復性の有無を確認して実施すべきであったのかである。
機能を非可逆的に停止させる方法によるほか、社会的
結果的に私は後者を選択したが、その間約 30 分数回
に容認されている通常の方法によること。
の痙攣を動物は起こした。私は現在管理獣医師である
*(一部抜粋)
が、自分も研究者として創薬の探索研究を行っていた
上記指針に則り、宮崎県において口蹄疫が流行した
経験もあり、実験動物から得られる情報の重要性は十
時には多数の罹患したウシに実施されたのは記憶に新
分に理解している。げっ歯類では起きなかった症状が、
しい。但しこの場合は動物の苦痛を排除するというより
霊長類で起きたという情報の重要性もさることながら、
も、防疫対策としてとられた処置である。「安楽死」、「殺
回復性があるか、血中濃度との関係はどうなのかという
処分」いずれも実施する目的や内容に違いはなく、動物
情報も重要である。そのため 30 分間動物に苦痛を与え
の苦痛軽減を図る最終手段である。しかし、その表現
ることを選択したという判断は間違っているのかどうか、
や意図するものは微妙に違うと思うのは私だけだろうか。
痙攣症状を見た段階で迷うことなく安楽死を実施すべき
「安楽死」という用語には動物への思いやりを感じるが、
であったのか、再びそのような状況に遭遇した場合には
「殺処分」という用語には、動物を管理しているヒトが、
どうすべきなのか、未だに自分の中で明快な答えは出
所有物に対し行う行為という即物的な印象を与える。し
ていない。このように管理獣医師となって悩みはつきな
かし、動物愛護を主張する人たちは、ヒトが勝手に命を
いが、嬉しいことも多く、外科疾患(皮膚の外傷や膿瘍)
断つわけであり、「安楽死」という用語は詭弁であると言
や内科疾患(下痢や元気消失)で苦しんでいる動物に、
う意見もあることを忘れてはならない。
治療を行い動物が元気に回復したのを目にすると、獣
3)人道的エンドポイントの判断
医師になって良かったと心から思う。しかし相手は動物
人道的エンドポイントは、動物が実験などによって生
であり、感謝の念を述べてくれるわけではない。無事に
じた種々の影響で、耐え難い苦痛を受けたり、瀕死状
治癒したサルに「良かったね」と声をかけても、ガーと威
態になった時に、動物実験を行うものが安楽死処置を
嚇され邪魔だと脅されるのが関の山である。それでも私
行うタイミングである。これは前もって実験計画書に規
にとってはとても嬉しい反応であり、仕事の活力になっ
定していなければならない。このポイントや判断は誰も
ている。
23
オベリスク Vol.17,2 June 2012
実験動物の飼育管理と飼育器材
-AAALAC 対応を踏まえて本間 憲夫
中外製薬株式会社 富士御殿場研究所 研究本部 研究業務推進部
はじめに
ます。誤って使用期限を越えた飼料を使用しないように
実験動物の管理と使用に関する指針が第 7 版から第
使用期限を確認しながら給餌しなければなりません。
8 版(以下、指針第 8 版)に改訂されことと前後して、EU
指令も Council Directive 86/609/EEC から Directive
給餌方法
2010/63/EU に刷新されました。いずれも旧い版から 10
給餌は不断給餌あるいは制限給餌を動物種や実験
年以上の時間を経た後の改定であり、その間に得られ
内容によって適宜使い分けています。通常、げっ歯類
た多くの科学的な知見や、それらに基づく改訂が盛り込
は不断給餌、イヌやサルは制限給餌で飼育しています。
まれています。この改訂を受けて、本稿では、飼料、飲
制限給餌を実施する場合、同居するすべての動物が飼
水、床敷、衛生管理について、われわれの施設で実践
料を摂取できるように気を配らなければなりません。摂
していることを交えながら紹介するとともに、話題にされ
餌時間だけ仕切りを使用したり、ケージを分けるなどの
ることが多いケージスペースについても紹介させていた
工夫をしています。また、実験内容や実験に伴う手術を
だきます。
行う場合には、給餌の制限を伴う場合があります。この
場合も、すべての動物が飼料を摂取できるように工夫
飼料
をする必要があります。実験の必要性から給餌の制限
飼料は分析結果が製造ロットごとに用意されている飼
を施す場合は、あらかじめ実験計画書にそのことを明
料を使用しています。入手した飼料が高品質であること
記して IACUC による審議・承認を得なければいけませ
を確認するためには、分析結果を定期的に入手するこ
ん。
とが最も確実です。入手した飼料は、その品質を低下さ
カニクイザルは市販の固形飼料のほかに、補食として
せることなく実験動物が摂取できるようにしなければな
新鮮な果物(バナナ、りんご、温州みかん、サツマイモ
りません。飼料の保管は温・湿度が管理された貯蔵室
等)を与えています。カニクイザルに給餌する場合は、
に収納して、常に温・湿度のモニターを行っています。こ
固形飼料を取り難くしたり、手渡しで与えることで、エン
の時、貯蔵室内では、飼料をスノコに乗せたり、壁から
リッチメントの付与や、飼育担当者との信頼関係構築の
離すなどして通気性を確保する必要があります。入手し
機会として利用しています。
た飼料は製造日あるいは使用期限が分かるように表示
しています。貯蔵室から飼料を動物室に運んで、使い
飲水
切れない場合は、動物室あるいは前室で飼料保管容
飲水は定期的に分析を行い、品質の確認を行ってい
器に入れて保管し、汚染を防ぎます。この時、飼料の使
ます。給水ビンあるいは自動給水システムを使用してい
用期限を飼料保管容器に明記して、使用期限を過ぎた
ます。給水ビンを使用している場合は定期的に給水ビ
飼料を動物に与えることがないようにすることも重要で
ンの交換を行います。飼育している動物モデルによって
す。開封した飼料を貯蔵室に戻すことはありません。な
は飲水量が大幅に増加する場合があるので、その場合
お、実験内容によっては特別な飼料を作製して使用す
は給水ビンの容量を増やしたり、給水ビンの本数を増
る場合があります。そのような時は、飼料に含まれる成
やすなどの対応をして、常に水が飲めるように注意して
分によって保管方法を変えなければならないことがあり
います。自動給水システムの場合は、毎日、水圧のモ
ます。これまでにも冷蔵保管が必要とされた場合や冷
ニターや配管・ノズルの点検を行って、漏水や水を摂取
凍保管をした経験があります。また、特別に作製した飼
できないことを未然に防がなくてはならなりません。また、
料は、その使用期間が通常の飼料より短いことがあり
配管中の水の劣化を防ぐためにフラッシングを定期的
24
オベリスク Vol.17,2 June 2012
AAALAC−飼育管理と器材
に行っています。給水は不断給水が原則ですが、実験
用いて消毒を行っています。ケージに付属した給餌器
内容や手術によって、給水制限を伴う場合があります。
やエンリッチメント用品は毎日水洗するとともに、2 週間
実験の必要性から通常の飼育条件と異なる制限を加え
に 1 回オートクレーブ滅菌済みのものと交換しています。
る場合は、飼料の場合と同じように実験計画書にその
オートクレーブやソフト酸化水による滅菌効果は年 4 回
内容を明記して IACUC による承認を得なければなりま
の微生物学的検査を実施して確認しています。
せん。
ケージ
床敷および巣の材料
ケージなどの飼育機材は、実験動物の身体的、生理
床敷や巣の材料は、実験成績や動物福祉に影響す
学的および行動学的要件を満たす必要があり、日本学
る環境因子であり、毒性や障害性がなく、適度な吸湿
術会議が 2006 年に発表した、動物実験の適正な実施
性があり、埃が少ないものを使用する必要があります。
に向けたガイドライン(以下、ガイドライン)では、以下の
床敷は放射線滅菌された紙製のものを使用しています
配慮が求められています。
が、購入に当たっては床敷の分析結果を入手して品質
・動物種に応じた逃亡防止の構造と強度を有すること
の確認を行っています。実験用げっ歯類は多くの時間
・個々の実験動物が容易に摂餌・摂水できること
をトンネル作り、避難や保温のための巣作りに費やす
・正常な体温を維持できること
ので、十分な量の床敷とともに巣の材料を用意する必
・排尿・排糞および自然な姿勢が維持できること
要があります。以前、ヌードマウスに細かい微粒子を発
・動物種固有の習性に応じて、実験動物自身を清潔で
生する巣の材料を使用した時に、目の炎症が発生した
乾燥した状態に保てること
経験があります。ヌードマウス以外では目の炎症は発
・動物種に特有な習性に応じた動物間の社会的接触と
生しませんでしたが、細かな微粒子の発生が、実験動
序列の形成が可能であること
物や飼育担当者に与える影響を考慮して、現在はティ
・実験動物にとって安全であること(鋭利な辺縁や突出
ッシュペーパーを主に使用しています。
部がない、体や四肢を挟まれない)
・できるだけ動物の行動を妨げずに観察できること
衛生管理
・給餌・給水作業および給餌・給水器の交換が容易であ
動物の種類、一次囲いの種類、飼育密度、その他の
ること
条件によって清掃および消毒の方法と頻度は異なりま
・洗浄、消毒あるいは滅菌等の作業が容易な構造で、
す。プラスチックケージの場合は原則として週に 1 回交
それに耐える材質であること
換します。ケージの交換と同時に床敷、巣の材料、網蓋
・床敷等の必要性およびその材質や交換頻度
も交換します。飼育密度や飼育する動物の系統や実験
この内容は指針第 8 版とほぼ一致しますが、床につ
モデルによって、尿量が増加する場合などは床敷の汚
いて注意が必要です。指針第 8 版は、床は平板、穴の
れ具合を見ながら交換回数を増やしています。交換し
あいた床材、またはすべりにくい表面の格子やスノコを
たケージや網蓋は洗浄後にオートクレーブ滅菌を行い
用いて作製する、としています。基本は平板な床であり、
ます。
金網床を用いる場合は、平板の休息場所を設けること
イヌやサルのケージはステンレス製で大きなために
を強く求めています。われわれの施設では代謝ケージ
交換は容易ではありません。そのため、日常の清掃は
の使用も含めて、金網床を使用する場合は、実験計画
水洗とこすり洗いを毎日行っています。この時、ケージ
書にその必要性を明記して IACUC による承認を得なけ
内の動物が水に濡れないように注意する必要がありま
ればならない事項としています。
す。イヌでは他のケージに移動したり、運動を兼ねてケ
ージから出すなどしています。サルの場合は、連結した
ケージスペース
一方のケージに移動して水洗しています。2 週に 1 回洗
ガイドラインは、飼育スペースが適切かどうかの判断
剤を使用してこすり洗いを行った後に、ソフト酸化水を
には種々の要因が関与するため具体的な数値を示さ
25
オベリスク Vol.17,2 June 2012
AAALAC−飼育管理と器材
ずに、参考の一つとして指針第 8 版を挙げています。そ
なスペースであることが求められていると理解していま
の指針第 8 版は、最小の飼育スペースの推奨値として
す。
動物ごとに飼育スペースの推奨値を示しています。しか
*:欧州評議会が定めたもので、その内容は Directive
し AAALAC は、ケージスペースの妥当性を評価するに
2010/63/EU に引き継がれています。
は、評議会が基本的な基準とする指針第 8 版、Ag ガイ
ドおよび ETS 123*を参照して成果基準をもって行うと
最小スペースの推奨値
しています。単に飼育スペースの推奨値を満たしていれ
指針第 8 版と ETS 123 の推奨値を動物ごとに示しま
ば十分なのではなく、その中で飼育されている動物が
したが、運用に当たっては原著の備考や説明を確認し
健康に、それぞれの種に固有の行動を発現できるよう
てください。
マウス(指針第 8 版)
マウス(ETS)
群飼
体重 (g)
床面積/匹
(cm2 )
高さ
(cm)
体重 (g)
床面積/匹
(cm2 )
高さ
(cm)
10 まで
38.7
12.7
20 まで
60
12
15 まで
51.6
12.7
25 まで
70
12
25 まで
77.4
12.7
30 まで
80
12
>25
≥96.7
12.7
>30
100
12
330
飼育群のための
スペース
12
330
飼育群のため
のスペース
12.7
体重 (g)
床面積/匹
(cm2 )
高さ
(cm)
体重 (g)
床面積/匹
(cm2 )
高さ
(cm)
100 まで
109.6
17.8
200 まで
200
18
17.8
300 まで
250
18
350
18
雌動物+
哺育子
ラット(指針第 8 版)
群飼
200 まで
ラット(ETS)
148.35
300 まで
187.05
17.8
400 まで
400 まで
258
17.8
600 まで
450
18
500 まで
387
17.8
>600
600
18
>500
≥451.5
17.8
800
群のための
スペース
17.8
800
群のための
スペース
18
体重 (g)
床面積/匹
(cm2 )
高さ
(cm)
体重 (g)
床面積/匹
(cm2 )
高さ
(cm)
60 まで
64.5
15.2
60 まで
150
14
80 まで
83.8
15.2
100 まで
200
14
100 まで
103.2
15.2
>100
250
14
>100
≥122.5
15.2
雌動物+
哺育子
ハムスター(指針第 8 版)
ハムスター
ハムスター(ETS)
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オベリスク Vol.17,2 June 2012
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モルモット(指針第 8 版)
モルモット
モルモット(ETS)
体重 (g)
床面積/匹
(cm2 )
高さ
(cm)
体重 (g)
床面積/匹
(cm2 )
高さ
(cm)
350 まで
387
17.8
200 まで
200
23
>350
≥651.5
17.8
300 まで
350
23
450 まで
500
23
700 まで
700
23
>700
900
23
ウサギ(指針第 8 版)
ウサギ
ウサギ(ETS)
体重 (kg)
床面積/匹
(m2 )
高さ
(cm)
体重 (kg)
床面積/1 -2 匹
(m2 )
高さ
(cm)
2 まで
0.14
40.5
3 まで
0.35
45
4 まで
0.28
40.5
5 まで
0.42
45
5.4 まで
0.37
40.5
>5
0.54
60
>5.4
≥0.46
40.5
イヌ(指針第 8 版)
イヌ
イヌ(ETS)
体重 (kg)
床面積/匹
(m2 )
高さ
(m)
体重 (kg)
床面積/1 -2 匹
(m2 )
高さ
(m)
15 まで
0.74
-
20 まで
4
2
30 まで
1.2
-
>20
8
2
>30
≥2.4
-
サル Non-human primates(指針第 8 版)
サル
サル Macaques and vervets(ETS)
体重 (kg)
床面積/匹
(m2 )
高さ
(cm)
年齢 (年)
床面積
(m2 )
容積
(m3)
容積/匹
(m3)
高さ
(cm)
1.5 まで
0.2
76.2
3 まで
2
3.6
1
180
3.0 まで
0.28
76.2
>3
2
3.6
1.8
180
10 まで
0.4
76.2
15 まで
0.56
81.3
20 まで
0.74
91.4
25 まで
0.93
116.8
30 まで
1.4
116.8
>30
≥2.32
152.4
マーモセット(指針第 8 版)
マーモセット(ETS)
月齢 (月)
床面積/1 -2 匹
(m2 )
容積
(m3)
高さ
(cm)
5 まで
0.5
0.2
150
指針第 8 版には記載なし
27
オベリスク Vol.17,2 June 2012
AAALAC−飼育管理と器材
おわりに
実験動物の飼育や動物実験の実施に当たって、飼
育管理と飼育器材が目的に見合ったものであるかどう
かの判断には、飼育者の注意深い行動観察と動物本
来の習性の十分な理解が必要です。近年、社会性のあ
る動物は、イヌやカニクイザルでもペアあるいは群飼育
が原則であり、実験中も単独で飼育するのは必要最小
限の時間にすること、ケージも十分な床面積に加えて、
動物種固有の習性に応じた構造物を設けることなどが、
動物のウエルビーイング増進のために求められていま
す。これからもさまざまな方法を試みながら、動物のウ
エルビーイング向上に努めなければならないと思ってい
ます。
28
オベリスク Vol.17,2 June 2012
睡眠科学研究所の受託試験
長野 典浩
ハムリー株式会社
睡眠科学研究所では、"脳波" がかかわる受託試験
範囲が広がりすぎますので、ここでは、当研究所で定型
を主業務として行っております。
試験として用意している "睡眠試験" に絞って、もう少
取り扱える動物は、マウス・ラット・カニクイザルですが、
し詳しい話をさせていただきたいと思います。
ビーグル、マーモセットなどにも対応できるように、準備
を進めております。
当研究所では、クライアントのコストパフォーマンスを
当研究所では人でも行われている脳波測定の手法
最大にするために、試験を 1 案件ごとに最適化して提供
を動物用にアレンジして測定・解析をしております。臨
することが基本だと考えております。定型試験としてご
床では通常 21 極、詳細な脳機能を測定する場合は 2
用意させていただいている睡眠試験は、クライアントと
∼3cm 間隔に電極を配置するなど、測定・解析機器の
の打ち合わせのための"たたき台"と考えております。
精度と機能の向上に伴い、電極数はどんどん増える傾
営業部の皆様には、クライアントにこのことをお伝えして、
向にあるようです。ヒトは、電極を頭皮表面に張り付け、
可能な限り最適化した見積をお出しできるよう、見積を
ネットのようなもので押さえれば良いのですが、動物で
お渡しする前に、打ち合わせをしていただけますようご
は皮膚表面の電極は外されてしまうため、体内に埋植
協力をお願いしております。
しなければなりません。
さて、定型試験の話に戻ります。睡眠の定型試験は、
電極埋植は外科的な処置を伴いますので、必然的に
24 時間の睡眠覚醒の変化 (睡眠構築) を投与前後で
埋植できる電極数と部位には制限が出てきます。また、
比較することを前提に組み立てております。そのため、
脳波の導出手段にも制限があるため、通常は頭頂部付
明暗サイクルの中で、昼間に活動し、夜間に寝るといっ
近からの双極導出で 1 脳波の測定となっています。脳
た (夜行性のマウス・ラットは ヒト・サルのリズムと明暗
波の導出はマウス・ラットでは有線で、カニクイザルでは
逆転) 正しいリズムで睡眠覚醒をしていることが大前提
Data Science Instruments 社のテレメトリーシステムを
となります。リズムを崩さないようにするため、飼育管理
利用した無線で行っています。導出された脳波と筋電
の時間帯を固定し、施設内での馴化期間を長く取って
図、眼電図、活動量などを組み合わせてコンピューター
います。術後の回復期間とその後の再馴化も考慮する
に記録し、睡眠ポリグラフとして、睡眠・覚醒状態の判
と、動物入荷から試験開始までに 1 ヵ月から 1.5 ヵ月は
定を総合的に行っています。
かかります。その間に投与経路に合わせた投与馴化も
行い、投与ストレスによるアーティファクトの軽減も図っ
睡眠ポリグラフといっても前出のように、測定している
ています。
のは脳波ですから、測定の仕方、解析の仕方によって、
また、投与開始前に、未処置で各個体の 24 時間の
睡眠以外の脳の活動をとらえるために用いることもでき
睡眠ポリグラフを測定し、正しいリズムを持った睡眠構
ます。たとえば高速フーリエ変換 (FFT) 解析を用いた
築であることを確認します。万が一リズム異常の個体が
脳波解析は、睡眠以外の目的でも数値化しやすく注目
あっても、この段階で除外できます。
されている方法だと思いますし、視覚刺激や聴覚刺激
こうして、正しいリズムを持った馴化済み個体に薬剤
による誘発電位測定もこの範疇に入ると思います。冒
を投与していきます。投与間隔を 1 週間にして vehicle
頭で"脳波がかかわる受託試験"と表記させていただい
から順次投与し、睡眠ポリグラフを記録していきます
たのは、"睡眠"だけがこの測定方法の適用範囲でない
(ラテン方格法での投与をお勧めすることもあります)。
ことを強調させていただきたかったからです。
汎用される投与経路にはおおよそ対応することができ
しかし、脳波の測定・解析としてお話を始めますと、
ますが、マウス・ラットの静脈内投与はオプションでの対
29
オベリスク Vol.17,2 June 2012
睡眠科学研究所の受託試験
応となります。これは、頭部に装着された電極が障害と
を評価するうえで重要なパラメーターとなります。
なって、動物を保定器で保定することが困難だからです。
定型試験には含めていませんが、FFT 解析を使って
静脈内投与が必要な場合は、脳波電極装着術と同時
δ波 (睡眠が深くなるほど多くあらわれる脳波の遅い
に大静脈カニュレーション術も施しておく必要がありま
周波数成分)の量を指標にした睡眠の質の評価なども
す。
できます。
睡眠ポリグラフの判定は、全データを、マウス・ラット
では 8 秒単位、カニクイザルでは 20 秒単位に区切って、
定型試験の最後に実験可能な期間のことをお話しさ
どの睡眠覚醒状態になるのか、一つ一つ視察判定して
せていただきたいと思います。
いきます。ある程度は機械で判定することも可能なので
マウス・ラットの場合は有線で生体信号を導出してい
すが、どんなに手間がかかっても、最終的に人が確認
ますので、比較的大きな付着物 (電極と導出用の導線
し、"validate"することが重要だと考えております。その
を支える支持具)が頭に付いています。そのため、物理
ために、解析に従事するスタッフは、所長本多和樹の指
的な衝撃により、わずかでも電極にゆるみが発生したり、
導の下、十分なトレーニングを積んでおります。
水分が入ったりすると、入力抵抗が変動し全く測定でき
睡眠覚醒状態の分け方は文献によっていろいろあり
なくなってしまいます。
ますが、特別に理由がない限り、シンプルに覚醒
有線では、実験可能な期間は電極を安定して頭蓋に
(wake)、レム睡眠 (REM)、ノンレム睡眠 (NREM)の 3 状
固定しておける時間にほぼ依存します。マウスでは術
態に分けることをお勧めしています。
後 1 年維持できることもありますが、力の強いラットでは
必 要 で あ れ ば 、 マ ウ ス ・ ラ ッ ト で は NREM を
術後 2 ヵ月を超えると、脱落する個体が多くなり、試験
light-sleep (light)と deep sleep (deep)の 2 段階に分けて、
が成立しなくなる可能性があります。
wake、REM、light および deep の 4 状態に判定すること
テレメトリーシステムを使っているカニクイザルでは、
ができます。カニクイザルではヒトと同様に、NREM を
電極部分に衝撃がかからないように保護することが容
stage1、stage2、stage3 および stage4 の 4 段階に分け
易なため、電極の損傷が起こることは非常にまれです
て、wake、REM、stage1、stage2、stage3 および stage4
が、テレメトリー送信器の保障期間から試験可能期間
の 6 状態に判定することも可能です。
が決まってしまいます。カニクイザルに使用している送
しかし、詳細に判定することは解析に時間とコストを
信器は製造から 1 年、連続使用で 2 ヵ月の保証です。
要することもさることながら、生理学的意義が確立され
送信器の電源は簡単に on/off できます。電源を測定時
ていない部分があったり、十分なバックグラウンドデータ
のみ入れれば、1 年以上使用可能ですが、製造から 1
がないと、解釈することが困難になってしまう可能性が
年の保証期間を過ぎてクライアントに提供することはで
あったりと、すべてにおいて良いとは考えられないため、
きません。したがって、どんなに効率良く送信機を入手
実施に当たっては十分クライアントと協議をしてからに
できても、10 ヵ月程度が最長の実験可能期間になりま
したいと考えています。
す。輸入品であるため、入手タイミングを完全にコントロ
結果の数値化は、単位時間当たりの各ステージに判
ールできませんので、契約段階でクライアントに保証で
定された時間の総和 (総量)と睡眠潜時で行います。潜
きるのは、6∼8 ヵ月程度になってしまいます。クライアン
時には NREM 潜時と REM 潜時があり、それぞれ、
トが保証期限切れを承知の上で、バッテリーの尽きるま
NREM 潜時は、投与から投与後初めての NREM 睡眠ま
で測定したいというご要望には、応じていきたいと思い
での時間、REM 潜時は、投与後初めての NREM 睡眠か
ます。
ら、投与後初めての REM 睡眠までの時間を指します。
総量の変移はそのまま睡眠覚醒時間の変移として捉
当研究所には"脳波"と並んで、もう一つ重要な業務
えることができます。潜時は眠りに入るまでの時間、す
があります。昨年 試験研究所より移管された心血管系
なわち、寝入りの速さの指標と捉えていただければよい
のテレメトリー試験です。この試験は、hERG (速い遅延
と思います。どちらの値も睡眠・覚醒状態に与える効果
整流内向き電流チャネル)の高発現系における電流測
30
オベリスク Vol.17,2 June 2012
睡眠科学研究所の受託試験
定、心室筋の活動電位測定と並ぶ、安全性の心血管系
他の留置部位もクライアントのご要望があれば検討して
コ ア バ ッ テ リ ー試 験 で す。 脳 波 の 測 定 と 同 じ く Data
いきたいと考えております。さらに、お問い合わせをい
Science Instruments のテレメトリーシステムを使っての
ただくことのある呼吸機能の同時測定も実施できるよう
測定ですが、異なる送信器と記録解析ソフトウェアーを
にしていきたいと考えております。
用いますので、脳波の試験と同時期に行うことも可能で
今後、バックグラウンドデータの収集を行い、試験系と
す。
してより一層の充実を目指していく予定です。
心電図の電極は胸部皮下に留置し、血圧プローブは
大腿部から動脈に挿入し、中心動脈に留置し、心電図、
以上が睡眠科学研究所の主業務ですが、私はそれ以
中心動脈圧と体温の測定をします。体温は送信器本体
外にも、新しい試験系/技術の確立にも積極的に参加し
にセンサーがありますので、送信器留置部位の温度と
ていきたいと考えています。"こんな測定をしたいが、確
なります。心電図電極の留置位置は皮下、胸腔内、心
立された方法がない" とお困りのクライアントは多いと
内壁などいろいろありますが、それぞれに一長一短が
思います。100% 確立できるとは思っていませんが、クラ
あります。皮下は骨格筋収縮に由来する筋電位のノイ
イアントと協力して進めることで、少しでもクライアントの
ズが入りやすいですが、低侵襲であることから選択して
研究にプラスになればと考えております。
います。また、心嚢膜に留置することも可能ですし、
31
TM
Fluobeam 蛍光分子イメージング装置
FLUORESCENCE
IMAGING
AGAINST
CANCER
Fluobeam の仕様
質
寸法:70mm 直径、 20cm 長さ
質量:750g
励起波長:690nm(700nm 以上を放射
視野:12.8×9.4cm2
稼働距離:15cm
量:750g
Fluobeam の長所
● 照明灯下のオープンスペースで操作ができます
● 無影灯下でも高い品質の視野画像が得られます
● ほとんどの近赤外蛍光色素が使えます
● 小さい動物から大きい動物まで対応できます
● 蛍光色素分子のコアタンパク質(femtomal)より
高い診断感度です。
本社営業所 TEL 0280-76-4477 E-mail [email protected]
大阪営業所 TEL a06-6306-4477 E-mail [email protected]
東京営業所 TEL a03-5828-4477aE-mail [email protected]
東海出張所 TEL 0465-44-4487 E-mail [email protected]
32
Professional Footwear
WOCK clog
カラー:B(ネービー)
03C
03C
03C
03C
03C
03C
カラー:W(ホワイト)01C 24cm
23cm
24cm
25cm
26cm
27cm
28cm
カラー:W(ホワイト)02C 26cm
オートクレーブ可能
カラー:W(ホワイト)10C 27cm
WOCK clog は医療機関、薬品、化粧品、食品企業等において働くプロフェッショナルのために開発されました。靴底は、多くの通気口を
持ち、帯電を防止し衝撃を和らげ、血行を刺激し使用者をリラックスさせます。靴の内底は取り外しができるので使用後の洗浄が簡易
です。洗浄後は取り外したままオートクレーブで滅菌してください。
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東海出張所 TEL 0465-44-4487 E-mail [email protected]
33