3月号(PDF:7.9MB)

一般社団法人 海外建設協会
2&3
特集
Vol.39 / No.2 & 3
巻頭言
Feb. & Mar. 2015
2015年 海外市場の動向と見通し
2015年の海外建設活動について
2&3
特集
2015年 海外市場の動向と見通し
巻頭言
2015年の海外建設活動について
韓国
中国
香港
台湾
マレーシア
フィリピン
タイ
シンガポール
インドネシア
ベトナム
インド
トルコ
エジプト
英国
欧州
米国
メキシコ
ブラジル
海外受注実績…62
主要会議・行事…64
編集後記…64
永森 栄次郎[国土交通省]…01
南 鍾国[フジタ]…02
大野 繁[中建-大成建築有限責任公司]…05
田口 治宏[五洋建設]…08
出浦 昇[鹿島建設]…11
水谷 章[大成建設]…14
岡島 千木[三井住友建設]…17
村松 周[SMCCタイランド社]…20
長田 士郎[竹中工務店]…24
鷲見 隆 濱田 慎也[鹿島建設]…27
高橋 徹[鹿島建設]…30
池尻 茂樹[三井住友建設インド社]…33
森脇 義則[安藤・間]…36
加藤 信悟[大日本土木]…40
清水 邦保[ヨーロッパ竹中]…44
丸山 和彦[ヨーロッパ竹中]…50
立花 章夫[大林組]…54
古賀 和夫[安藤・間]…57
山田 哲也[ブラジル戸田建設]…59
巻頭言
2015年の海外建設活動について
永森 栄次郎
国土交通省 土地・建設産業局国際課長
本年(2015 年)は、海外建設協会の設立 60 周年にあたるとのことであり、お祝い申し上げますと共に、これま
での貴協会の御貢献に対しまして深く敬意を表させていただきます。
さて、建設業における海外展開の状況ですが、貴協会のまとめによりますと、本年度(2014 年度)の 1 月までの
海外建設受注実績は、前年度同期比で 23% 増の約 1 兆 4,342 億円となっており、このうち増加が見られた主な
地域は、アジア地域が約 27% 増、北米地域が 63% 増、欧州地域が 162% 増となっています。
国内に目を転じますと、東日本大震災の復興や 2020 年開催予定の東京オリンピック・パラリンピック関連工
事などにより当面、受注も好調に推移していくものと見込まれます。
しかし、わが国では、高度成長期以降に整備したインフラが急速に老朽化し、今後 20 年間で、建設後 50 年以
上経過する施設の割合が加速度的に高くなることが見込まれることから、特に公共のインフラについては必然
的に維持管理が中心とならざるを得ません。わが国の建設企業は、戦後の復興から高度経済成長を経て今日に
至るまで、膨大な規模の良質なインフラを生産してきており、その過程で高い技術力を育んでまいりました。一
方で、アジアをはじめとする新興国には今後も膨大なインフラ需要が見込まれることから、この需要を取り込
むことで、世界に冠たる優れた技術を活用しつつ企業としてさらに発展していくことができるものと考えます。
わが国建設企業の海外売り上げ比率を見ますと、海外建設企業と比較して依然低い状況にあり、会員企業の
皆様には、国内が好調で体力がある今こそが海外に攻勢をかける好機であり、社を挙げて戦略的に海外展開を
推し進めていただきたいと思います。その際、海外事業を殊更に特別視することなく、社内の体制や社員の意識
においてもグローバル化を図り、企業として新たな発展段階へと進めていただければ幸いです。
政府は、
昨年 6 月に改訂された「インフラシステム輸出戦略」に基づき、
2020 年に約 30 兆円(2010 年に約 10 兆円)
のインフラシステムを受注することを目指しております。このため、安倍政権発足以降、総理による強力なトッ
プセールスを実施しているところであり、多くの建設企業の方々にも経済ミッションに参加いただきました。
国土交通省も、トップセールスを積極的に行っており、大臣、副大臣および政務官の訪問先は 2014 年の 1 年
間で延べ 23 の国・地域に上っております。また、二国間会議などの場でわが国建設企業が有する優れた建設技
術の紹介などを行うなど海外進出の後押しを行うと共に、EPA・FTA 交渉、新興国における制度整備支援を通
じたビジネス環境の整備に取り組んでいます。
加えて、新たな取り組みといたしまして、シンガポールやトルコなど地域の拠点国において、わが国と拠点国
の政府と建設関係企業が連携し、それぞれの強みを生かして周辺国への展開などを行っていくための取り組み
を始めたところです。
さらに、昨年 10 月には、日本再興戦略の一環として、交通事業・都市開発事業の海外市場へのわが国事業者
の参入促進を図るため、需要リスクに対応した「出資」と「事業参画」を一体的に行う海外交通・都市開発事業
支援機構(JOIN)が設立されました。民間だけでは参入が困難であった海外プロジェクトに対し、JOIN が共同
出資することで後押しをいたします。JOIN の設立にあたり、貴協会にも御参画いただいたところであり、今後
とも情報共有を密にしてまいりたいと思います。
そのほか、海外進出にあたり必要となる基礎的な情報を当省 HP で提供しておりますが、昨年 12 月から新た
に現地事情に詳しい民間人材(通称「民間アタッシェ」)からの情報を追加したところであり、今後も提供情報の充
実に努めてまいります。
貴協会並びに会員企業の皆様の不断の御努力により、冒頭に記したように海外建設受注実績が 2013 年度に続
き、2014 年度も大幅な増加が見込まれております。国土交通省といたしましても、海外展開に向けた取り組み
を一層推進してまいりますので、貴協会の設立 60 周年という節目の年である本年、貴協会並びに会員企業の皆
様におかれても、新たな一歩を記すべく、益々の御尽力と御協力を賜りますようお願い申し上げます。
2015 2–3
01
特集
韓国
南 鍾国[(株)フジタ 国際事業部 ソウル支店 支店長]/ソウル支部
韓国建設産業研究院から 2014 年 11 月 4 日に公開
度に繰り越されたこと、発電プラントなどの大型プ
された「韓国の 2015 年の建設景気展望」を中心に、
ラント工事や公約事業の発注などの影響により、前
韓国の 2015 年建設市場の動向と見通しについて報
年度に比べて増加した。一方で、建築工事受注は、
告する。
住宅公社の発注が相変わらず不振である中、非住宅
建築の受注が減少するため、前年度と比べ減少する
と見られている。
1. 2015年韓国経済の展望について
IMF(国際通貨基金)は 2014 年 10 月 7 日、2015 年
世界経済成長率を 3.8% と発表した。これに対し、
②民間工事部門(表 2 ②)
2015 年度の民間工事部門の受注は、前年度に比
韓国銀行は同月 15 日、韓国の 2015 年の経済成長率
べ首都圏を中心とする住宅建築の受注数の回復傾向
は 3.9%との見込みを発表している。
と共に大手企業の設備投資などに支えられ、非住宅
建築および土木工事の受注が少し増加する可能性が
あるため、6.6% 増加した 69.7 兆ウォンと見込んで
2. 2015年建設市場について
2015 年国内建設受注は 2014 年と比較して 4.9%
増加し、110 兆ウォンの見込みである(表 1)。
表1 韓国国内における建設受注額の推移
区分
発注別
工事種別
2011年 2012年 2013年
おり、2015 年度の韓国国内の建設受注数の回復傾
向を牽引することが予想される。
(単位:兆ウォン)
2014年
2015年
(見通し) (予想)
2)工事別
①土木工事:公共土木が良好なうちに、マクロ経済
公共工事
36.6
34.1
36.2
39.5
40.3
民間工事
74.1
67.4
55.1
65.4
69.7
土木工事
38.8
36.7
29.9
32.6
34.0
前年度と比べ 4.4% 増加すると思われる。
の回復や大手企業の設備投資の影響で多少回復し、
建築工事
71.9
65.8
61.4
72.3
76.0
住宅
②住宅建築工事:首都圏の住宅建築の受注数の増加
38.7
34.3
29.3
38.8
41.8
非住宅
33.2
31.5
32.1
33.5
34.2
などの影響で、前年度と比べ 7.8% 増加する見通し
110.7
101.5
91.3
104.9
110.0
全体受注実績および予想額
である。
出典:大韓建設協会
注)2014年下半期以後は「韓国建設産業研究院展望」より
③非住宅建築工事:民間工事部門の緩やかな回復傾
1)発注部門別
と比べ 2.0% 増加するのみに止まる見通しである。
向にもかかわらず、公共工事部門が下回り、前年度
①公共工事部門(表 2 ①)
公共工事の受注は、土木工事の受注の増加にもか
3. 韓国系建設会社の海外受注 2014年実績
かわらず、建築工事の受注の不振により、前年度と
最後に、
韓国系建設会社の海外工事受注について、
比べ 2.0% 増加の 40.3 兆ウォンとなる見通しである。
2014 年の実績を報告する(表 3、図 1)。
土木工事の受注は、前年度の発注計画物量が今年
02
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
表2 2015年国内建設受注および建設投資の変動要因と波及効果
①公共工事部門
区分
建設受注
波及効果
主要変動要因
政府予算
編成結果
・2015年度の政府SOC(社会間接資本)予算は前年度比3%(0.7兆ウォン)増加した24.4兆ウォン編成。
−SOC予算増加は土木投資に肯定的な影響予想。
−ただし、完成工事を主とする予算割振りで、新規工事発注に対する肯定的影響は限定的。
−国政課題および地域公約事業に7.9兆ウォン割振り:2014年度(6.3兆ウォン)比1.6兆ウォン増額。
→2015年度現政府の国政課題および地域公約事業の発注が本格的に開始。
・2015年度安全予算14.6兆ウォン編成、2014年度12.4兆ウォンより2.2兆ウォン(17.9%)増額。
、危険施設機能強化(3.3兆ウォン)などが建設関連予算。
−災難予防補完施設拡充(4.4兆ウォン)
→ 建設受注/投資に少し肯定的影響。ただし、専門建設業事業も含む。
↑
公共機関
負債問題
・公共機関負債は今後当分の間持続的に増加、新規発注を制約する予想。
−最近公共機関の負債が2007年度比、2倍に急騰。
−負債規模上位10大機関負債が公共機関全体負債の約70%を占め、今後も持続的な増加予想。
−10大機関中、8機関が建設工事の発注が多い機関、国土交通部傘下公企業5カ所が負債規模上位10大機関に入る。
−国土部傘下22カ所の公共機関のうち、2013年度末基準10カ所が赤字継続または収益減少。
→2015年度公共機関の新規工事発注の増加が厳しい状況。
↓
主要大型
工事発注
・2015年度公共プラント発注物件良好。
−発電子会社の発電プラント発注遅延などにより、2015年度発注物量の増加、天然ガス貯蔵施設、熱併合発電所などのプラント
発注増加。
−シンゴリ原子力発電所5、6号機発注の可能性。
・2015年平昌冬季オリンピック関連の残余工事発注。
−フィギュアスケート、
ショートトラック、
カーリング、
フリースタイル、
スノーボードなどの競技場と残余インフラが2015年度に発注予定。
↑
公共建築
工事発注
・新庁舎建立必要公共機関123カ所中、ほとんど発注完了。
−2014年度以後、13カ所残余機関のみ発注予定。
−発注物量は減少するが、建設投資および出来高は2014年度に続いて2015年度も盛んな投資予想。
・住宅供給物量調整方針により、2014年度に続いて2015年度も公共住宅の供給不振の予想。
−2014年度公共住宅供給4.6万戸で、前年比3.4万戸縮小の計画、2015年度も公共住宅供給は不振予想。
−ただし、幸福住宅(注1)の本格発注・着工により、建設受注・投資に少し肯定的影響を予想する。
↓
(注1)幸福住宅:大学生、新婚夫婦、新社会人のために職場や学校に近い所に建築される賃借料が安い都心型マンション。政府は2017年度ま
で総数14万戸の住宅を供給する予定。
②民間工事部門
区分
マクロ経済の変化
主要変動要因
建設受注
波及効果
・2015年国内経済成長率3%台後半の成長の見通し。
−2014年に比べ、経済成長率が少し増加する見通し。
− ただし、不確実性要因が多数:米国の量的緩和の終了、欧米成長勢いの低下、中国をはじめ新興国の成長率の鈍化、中東危
機で油価が上昇。
→不確実性の増加で最近発表見通し値を下方調整、2015年民間建設景気に不確実性が増加。
―
・2015年民間部門の首都圏新規住宅供給与件に肯定要因が多い状況。
−肯定要因:9.1対策(注2)など市場活性化対策を発表、新規アパート入居物量が多少不振、傳貰(注3)価格の上昇。
−否定要因:竣工後に未分譲が滞積、新規分譲が急増、家計の負債。
。
(ただし、
国会係留法案立法化の可否、
2015年マクロ経済回復などに多少不確実性が存在)
民間住宅供給与件 →首都圏の新規供給与件が一部改善
の変化
・2015年民間部門の地方住宅供給与件が徐々に悪化する予想。
− 9.1対策、マクロ経済が緩慢な回復にもかかわらず、最近2∼3年間地方マンション入居物量および分譲物量が急増、2011年以
降に住宅価格が急騰、家計負債など否定的な要因が多数。
→徐々に地方新規住宅供給の与件が悪化、住宅受注に否定的な影響を予想。
↑
↓
・民間住宅受注の約30∼50%を占める再開発・再建築受注は回復傾向の見通し。
−首都圏住宅供給与件の改善、前年度基底効果(注4)など勘案し、回復傾向の見通し。
−施工者選定時点を含めて公共管理者制度改善時に増加傾向は拡大できるが、立法化は不確実。
−再建築年限の短縮案は施行できても2015年の受注増加効果は限定的。
↑
民間非住宅建築 ・2015年民間非住宅建築および土木受注/投資に一部肯定的要因が存在。
−マクロ経済は少し回復、大企業の大規模設備投資計画、2014年受注/投資基底効果などの肯定的要因が存在する。
および
土木投資の与件 →2015年民間非住宅建築および土木受注/投資は緩慢な回復傾向を予想。
↑
再開発/再建築
受注の変化
(注2)9.1対策:再建築年限の縮小など不動産規制を緩和し、住宅市場活性化を目的として2014年9月1日に発表された政府の対策。
(注3)傳貰(チョンセ):韓国独特の不動産賃貸借制度。賃借人は住宅の時価60-70%に相当するチョンセ金(保証金)を賃貸人に支払い、賃借
期間中は月払い家賃を支払わない。賃貸人はチョンセ金を運用して収入を得る。賃借期間が満了した時、
賃貸人は賃借人にチョンセ金を返還する。
(注4)基底効果(Base-Effect):基準時点と比較時点の状況に大きな差がある時、比較結果が歪曲される現象。
2015 2–3
03
表3 韓国系建設会社の海外受注実績
①2010∼14年受注実績(地域別)
区分
中東
(単位:百万ドル)
アジア
太平洋・北米
中南米
アフリカ
欧州
その他
計
2010年実績
47,249
18,076
1,336
2,067
2,447
398
̶
2011年実績
29,541
19,413
950
6,643
2,208
377
̶
59,132
64,880
71,573
2012年実績
36,872
19,439
226
6,194
1,615
534
̶
2013年実績
26,142
27,568
6,359
3,326
1,083
731
̶
65,211
2014年実績
31,351
15,915
3,043
6,750
2,195
6,755
̶
66,009
②2014年国家別受注実績
区分
(単位:百万ドル)
イラク
2014年実績
クウェート
8,533
ロシア
7,739
べネズエラ
5,605
アルジェリア
5,608
アラブ首長国連邦
4,388
その他
3,736
③2010∼14年工種別受注実績
区分
計
30,400
66,009
(単位:百万ドル)
土木
建築
プラント
電気
通信
設計他
その他
計
2010年実績
3,993
7,710
57,426
770
458
1,216
̶
2011年実績
5,757
7,933
43,205
1,068
61
1,108
̶
59,132
71,573
2012年実績
8,599
14,323
39,549
1,517
74
818
̶
64,880
2013年実績
18,128
5,446
39,650
761
238
988
̶
65,211
2014年実績
5,664
4,928
51,721
1,401
188
2,107
̶
66,009
④2013年主要会社別受注実績
区分
(単位:百万ドル)
現代建設
2014年実績
現代ENG
11,065
SK建設
9,650
三星物産
6,678
GS建設
6,537
三星ENG
5,946
その他
4,242
計 21,891
66,009
出典:2015年1月韓国海外建設協会の海外建設総合情報サービスより
図1 2014年海外工事受注推移
2014 年
708 件
660 億ドル
億ドル
800
716
652
700
700
660
649
591
600
600
500
491
400
398
400
300
300
200
200
100
165
54
44
61
0
2000
04
2001
2002
37
2003
75
100
109
2
2004
2005
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
0
契約件数
受注額
476
500
件
800
特集
中国
大野 繁[中建 - 大成建築有限責任公司 董事 副総経理]/北京支部 上海支部
12 億 m2 と対前年比 7.6%減であったものの、足元で
1. 中国経済の動向
習近平政権発足から、間もなく 2 年が経過しよ
は、2014 年 1∼ 11 月の販売面積の対前年比 7.8%減
うとしている。昨年(2014 年)12 月に開催された中
と比べて回復し、またロイター算出の 12 月の販売
央経済工作会議では、新政権発足後指向されてい
面積は 1.9 億㎡と年初来で最高となるなど、市場で
る、
「構造改革と経済成長の両立」が「新常態(New
は底入れ感も出てきている。もっとも、固定資産投
Normal)」と表現され、改めて、この方針の堅持が
資全体では製造業の設備投資の抑制を主因に、増勢
確認された。このような中、中国国家統計局が今年
鈍化が続く見通し。景気減速に伴い企業収益は伸び
(2015 年)1 月 20 日に発表した昨年の GDP の成長率
悩み、設備稼働率も低下していると見られ、企業の
は物価変動の影響を除いた実質ベースで 7.4%に止
設備過剰感は強まっている。また、中国人民銀行に
まり、1990 年(GDP 成長率 3.8%)以来 24 年ぶりの低
よると、企業の資金需要 DI は 2014 年 7∼ 9 月期に
い伸びで、また、1998 年以来 16 年ぶりに政府目標
かけて低下している。こうした中、製造業の固定資
(7.5%)未達成となった(図 1)
。また、CPI は 2%の上
昇に止まり、政府目標の 3.5%を大きく下回った。
GDP 成長率の項目別寄与度では消費が 54.4%、
産投資は一層の鈍化が想定される。
今年の経済の見通しについては、上述の「新常態」
を目指す方針に沿って、過剰設備削減や不動産市場
投資が 48.5%、輸出が 2.9%と、前年度からあまり
の過熱回避の方針を継続させつつ一定の成長を目指
構成比の変化は見られず、構造改革は依然道半ばで
すという、難しい舵取りが行われると予想される。
あると言える。昨年の不動産投資額は 9.5 兆元、前
さらなる減速は避けられず、3 月の全国人民代表大
年比で 10.5%増と、2009 年 1∼ 7 月期以来の低水準
会で決定される 2015 年の成長率目標は、
「7%前後」
となった。これが、昨年の GDP 成長率が 24 年ぶり
となる見込みであるとの見方が有力である。
の低水準の 7.4%となったひとつの要因である。昨
年の新規着工面積は 17.9 億 m 2 と前年比で 10.7%
減となり、2014 年 1∼ 11 月の 9%減から減少ペー
スが加速した。一方で、昨年の不動産販売面積は
2. 日本の対中直接投資動向
中国商務部発表の「外商直接投資状況」によると、
昨年の日本から中国への直接投資(実行ベース)は前
年比 38.8%減の 43.3 億ドル(約 5,040 億円)となった
(図 2)
。これは、2010 年(42.4 億ドル)以来の低水準で
(2001年∼2014年)
図1 中国GDP成長率
あり、また、中国での外資吸引が加速した 1990 年代
16.00%
以降最大の下落幅であった。日中関係の悪化・人件
リーマンショック
14.00%
費上昇など中国での製造コスト増に加え、加速する
12.00%
10.00%
円安など複合的な要因によるものと思われる。
8.00%
また、世界全体から中国への直接投資は前年比
6.00%
1.7%増の 1,195.6 億ドル(約 13.9 兆円)であったが、
習近平政権発足
4.00%
人件費の上昇や元高などを背景に、中国の生産拠点
2.00%
0.00%
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
としての魅力は低下しており、日本だけでなく米国
2015 2–3
05
からの投資は前年比 20.6%減、欧州連合(EU)から
の投資は同 5.3%減となっている。
きている。
以下に、現状で判明している改訂の概略について
中国に進出している日系建設会社は、政府規定に
紹介する。
より受注可能プロジェクト(資金源)が限定されてお
1)改訂概要
り、受注のほとんどを進出日系企業投資に依存して
①資質の種類
いる。このような、日本からの対中投資の減少は各
従来の標準は「施工総請負企業」11 種類、
「専業
社業績に少なからぬ影響を与えており、今後中系工
請負企業」60 種類、
「労働下請企業」13 種類の標準
事市場への参入制限の緩和など対策が求められる。
が定められていたが、新標準ではそれぞれ 12 種類、
36 種類、1 種類に削減された。
②財務要件
(実行ベース)
図2 日本の対中直接投資額
80
70
60
50
40
30
20
10
0
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
-10%
-20%
-30%
-40%
2010
2011
2012
億ドル
対前年比
2013
2014
等級ごとに設けられていた最低資本金額、最低純
資産額などが、最低純資産額のみとなった。
③有資格者数
・ 従来の標準で求められていた高級技術者の最低
人数要求は廃止されたものの、新標準では建築
士および技術者の人数要求などが新たに加えら
れた。
・ 各建築資質で等級に応じて技術労働者資格保有
3. 中国の建設事情
者数が資格要件に追加となった。進出日系建設
中国の建設業者は、外資企業も含め「資質」と呼
会社の多くが保有する「建築一級元請負資質」
ばれる等級の取得が義務付けられている。資質取得
の場合、150 名の技術労働者 (Skilled Worker) には特級から三級までのそれぞれの等級ごとに財
の直接雇用が要求されている。
務・施工実績・資格保有者数など各種要件が定めら
④請負可能範囲
れており、
また等級ごとに請け負い可能な工事範囲、
・ 従来の標準では特級を除き、請負可能金額につ
規模が定められている。2014 年 11 月に、一級から
いて「資本金の 5 倍」までという制限が設けら
三級までの資質標準が改訂された(「住宅・都市農村建
れていたが、これが撤廃された。一方で、
「一級
設部の『建築業企業資質標準』の印刷・発布に関する通知」
元請負」では 3,000 万元(約 5,700 万円)という
建市[2014]159 号、2014 年 11 月 6 日発布、2015 年 1 月 1
下限が設けられた。
日実施)
。今回の標準改訂は、詳細に関して不明確な
・従来の標準では各級ごとに、面積・スパン・高
部分も多く、今後の詳細規定公布が待たれている一
さについて制限が求められていたが、
「一級元請
方、会員企業各社の中国での事業活動に影響を与え
負」では「高さ 200m 以下」以外の制限が撤廃
る部分も多く、既に西安市など地方によっては新標
された。一方で、
「二級元請負」
・
「三級元請負」
準の入札要綱への織込が求められている地方も出て
では、
面積・高さ・スパンとも制限が厳しくなった。
06
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
2)想定される問題点
上記改訂における現時点で想定される問題点につ
3)技術労働者の直接雇用の背景について
中国では元請企業が労働人員を直接雇用しないの
いては
が通常であったが、今回の資質標準改訂において、
③の有資格者数について
技術労働者直接雇用を資格認定要件とした背景の一
・ 従来より細分化された有資格者の雇用が求めら
端について下記 2 点を挙げる。
れ、人件費負担となるのは必至。
・ 労働者が足りない現状の中で、中級技術労働者
①工事品質の確保
の採用が困難。また、採用できたとしても上記
新聞報道などによれば、中国の一部の建設会社は
「2.日本の対中直接投資動向」の通り、日本か
少数の人員しか抱えておらず、工事受注後に労働人
らの対中直接投資が減少を続ける中での大規模
員を募集し、さらにこれらに対して教育や研修を施
な技術労働者採用は、労働者寄りの労働法を持
すことなく就業させる結果、工事品質の確保が困難
つ中国において、事業量減少時の雇用調整が困
となっている。
難で固定費負担圧力が強まる。
②労働人員への保障
④の可能範囲について
一部の労働人員は建設会社と労働契約を締結せず
・ 請負金上限が撤廃されたのは規制緩和として一
に就労させられることもあり、結果として社会保険
定の評価はできるものの、一級元請負資質企業
未加入、労働災害時不補償、賃金不払いなどが問題
の場合、既実施の案件における 3,000 万円未満
となることが多い。
の小規模改造工事について、今後も継続して受
注可能なのかどうか不明であり、顧客対応の面
で問題が想定される。
今回の改訂は中国全体の建築業にとってかなりの
影響を及ぼすものであり、新資質標準の要件を満た
せない企業は淘汰されることになる。今後、事業量
が減少した場合などにいかに対応するか、各企業に
とって大きな課題が突き付けられている。
2015 2–3
07
特集
香港
田口 治宏[五洋建設(株)香港営業所 所長]/香港支部
府は安価な住宅供給および、そのためのインフラ建
1. 経済概況
今年(2015 年)2 月 25 日に香港政府財政長官が発
設に注力している。
表した予算案によると、
昨年(2014 年)の香港経済は、
欧州経済の低成長および日本の景気足踏みに影響を
2. 2014年建設市場動向
受け、輸出が力強さを欠き、実質経済成長率は 2.3%
2007 年香港返還 10 周年を契機に発表された総工
であった。また、昨年 9 月末より 12 月中旬まで続い
費 2,500 億香港ドル(日本円で約 3 兆円)以上が見込ま
た「セントラル占拠行動」の影響は、小売り・運輸・
れた「10 大インフラ」プロジェクト注)は 2009 年か
飲食・ホテルなどの産業に及んだ。そのため、観光
ら本格的に着工され、2007 年まで下降を続けてい
客による支出の減少を理由に、小売り額は 2003 年
た建設投資は V 字回復し、その後も順調に伸び続け
以来のマイナス成長となった。2015 年の予想経済
ている(図 2)。
成長率としては、香港上海銀行(HSBC)が、世界的
個々の事業別に見ると(番号などは図 4 を参照)、①
な需要減退の影響を考慮して、既に発表されてい
∼⑤は昨年末までにほぼすべてが出件されており、
た GDP 伸び率予測を下方修正し、2.8% としている
現在施工中である。⑥は、その後の具体化進展情報
(2015 年 1 月)
。来年(2016 年)以降は、引き続き 3% 前
に乏しい。⑦は、現在設計中であり今年度から出件
後増の安定した成長が予想されている(図 1)。
香港は 21 年連続で、経済自由度指数世界 1 位と評
されると思われる。⑧は、旧啓徳空港跡地に建つ豪
華客船クルーズターミナルの運転開始を皮切りに、
価されており、GDP の 9 割以上は「貿易・物流」
「観
インフラ建設や病院建設が進められており、ホテル
光」
「金融」などのサービス業で占められている。そ
やスタジアムを含む広大な跡地の再開発計画がなさ
の一方で、土地が狭いため住宅の価格が高く、少な
れているところである。⑨は、小規模入札案件が継
くとも年収 17 年分のお金が住宅の購入に必要とい
続している。⑩は、今のところ計画段階で止まって
う調査結果が出ており、この住宅価格の高さについ
いるように見える。
ても 5 年連続世界一となっている。そのため、現政
図1 経済成長率の推移
20%
実質GDP成長率
「10 大インフラ」以外にも、図 4 に示すリャンタ
図2 建設投資額推移
20.00%
120,000
実績値
予想値
18.00%
100,000
15%
4.2%
10%
80,000
5%
0%
3.0%
出典:香港政府
08
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
公共土木
6.00%
4.00%
20,000
-10%
14.00%
8.00%
40,000
0
民間建築
10.00%
60,000
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030
-5%
16.00%
12.00%
3.6%
2.00%
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20
出典:香港政府統計局発表数値
民間土木
0.00%
公共建築
政府歳出中の
建設投資割合
ン国境道路およびワンチャイバイパス道路が今年度
3. 2015年の見通し
までに出件された。さらに、カイタック∼チュンカ
今年 1 月 14 日に梁振英・香港行政長官は今年の
ンオー連絡道路が入札間近となっている。このよう
施政方針演説を行い、昨年と同様に「経済活性」
「生
に、道路・鉄道などへの交通インフラ整備事業が香
活環境改善」をスローガンとして掲げた。
港の建設投資の牽引役となっている。
また、昨年度政府予算において、建設業に係わる
建設に関係する項目としては、第 3 滑走路建設へ
の支持、カイタック旧空港跡地開発の推進、今後 10
主な項目として下記の項目が挙げられた。
年間で 48 万戸の住宅を供給するプランの実施、住
・ 香港がインターナショナルハブとなるためのイ
宅供給のためのインフラの一環として新たに 7 線の
ンフラ整備事業・観光促進のためのホテル建設
鉄道計画(現在は、運行中が 8 線、施工が 4 線)などを挙
推進
げている。また、建設作業員のためのトレーニング
・ 今後 10 年間で 47 万戸の住宅供給および長期的
な土地開発スタディ
・ 病院新設
インフラ整備事業で述べられている個別プロジェ
など拡充のために 15 億円を供給するとしている。
施政方針に続いて 2 月 25 日に発表された予算案に
は、インフラ建設予算として昨年をやや上回る 761
億香港ドル(約 1,100 億円)が計上されている(図 3)。
クトとして、先述のカイタック∼チュンカンオー連
絡道路は、カイタックからラムテインまでを海底ト
ンネル、ラムテインからチュンカンオーまでを山岳
図3 2015年度予算案 歳出内訳
政府予算
トンネルおよび橋梁によって繋げる道路である。鉄
道案件としては、図 4 の②シャティン∼セントラル線
の海峡横断部分から香港島セントラル駅乗入れ部分
医療
社会福祉
教育
までの第 2 期工事が今年 1 月までに落札されている。
近年、5 百億円を超える巨額契約が複数出件され
インフラ建設
環境・食品
るなど、1 件当たりの工事規模が大型化している一
方で、小・中規模の入札案件は比較的散発的にしか
出件されていないように感じる。
また、旺盛な建設投資が続く一方で、急激な建設
その他
(支援サービスなど)
治安
経済
出典:香港政府
市場の回復により、従来から高齢化傾向にあった建
設作業員の人手不足は深刻化してきている。そのた
予算案の中で述べられているインフラ建設項目の
め、現在、若年層のトレーニング策の導入や特殊工
うち、香港国際空港第 3 滑走路について、環境影響
事での外国人労働者の受入れの手続き簡素化などの
評価が昨年承認されたのを機に、空港公団は政府に
対策が進められている。
建設推薦書を提出した。工事は来年(2016 年)に始ま
り、2023 年の運転を予定している。そのほか、新コ
ンベンションセンターの計画、ディズニーランドの
2015 2–3
09
拡張計画、香港で使用されている水の 5∼ 10% を賄
クトを図 4 に示した。
う海水淡水化プラントの設計および 2020 年の運転
今後も安定・成熟した建設市場として見込まれる
開始などの将来計画が述べられている。
香港において、地場の企業、中国系企業、欧州系企
今年度に出件される主要なプロジェクトとして
業との厳しい競争を繰り広げる中で、日系企業がそ
は、西九龍文化施設、カイタック旧空港跡地インフ
の存在感を示し、香港の持続的な発展に貢献できる
ラ整備、地方道路整備などのインフラ整備に 205 億
ことを期待したい。
ドル、リャンタン国境検問所などのセキュリテイ関
連インフラに 15 億ドル、下水処理場などの環境関
注)香港 10 大プロジェクト:香港島南線(MTR)、
連インフラに 110 億ドル、カルチャーセンター・ス
沙田中環線(MTR)、屯門バイパス道路、香港広
ポーツ施設などに 85 億ドル、政府庁舎新設などに
州高速鉄道、香港マカオ大橋、香港深圳鉄道、
82 億ドル、病院関連に 32 億ドルが見込まれている
西九龍文化施設、旧啓徳空港跡地開発、新界地
区開発、国境地区開発
(以上、いずれも香港ドル)
。
現在施工中または計画中の主要インフラプロジェ
図4 香港主要プロジェクト(2015年2月現在)
⑩
MTR 北環線
⑨
新界開発
MTR
港深広高速鉄道
香港 - 深圳
空港直結線
香港国際空港
第 3 滑走路
リャンタン
国境高速道路
落馬州開発
MTR
沙中線
ツンムン・
チェクラブコック
連絡道路
⑦
MTR 香港島北線
香港島西部
人工島
MTR 香港島南線
ラマ島洋上風力発電
出典:新聞などの報道をもとに筆者が加工
10
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
⑧
旧空港跡地再開発
中九龍
高速道路
西九龍
文化芸術区
港珠澳大橋
MTR 西九龍線
MTR 香港島南線(西)
特集
台湾
出浦 昇[鹿島建設(株)台湾統括営業所 所長]/台北支部
1. 台湾の現況と建設事情
台湾 12 建設工事」に基づく交通網整備、都市開発関
昨年(2014 年)の台湾の主要経済指標動向は行政
連工事の発注が継続して行われる予定であり、2009
院主計総処(中華民国行政院に属する国家予算、財政業務、
年の 5,700 億元を超える公共建設投資額のピーク時
統計業務を所轄する機関)の発表によると、GDP 推移
に比べると 2015 年は 6 割程度の 3,330 億元に留ま
による経済成長率は目標の 3.5% を上回る 3.51% と
る見込みである(表 1)。
なった。今年(2015 年)は中国大陸、欧州経済の減速
の影響を受けながらも米国経済の回復、成長を見込
2. 2014年台湾建設市場の実績
み 3.5% 成長と予想している。
昨年の台湾における建設市場の実績について、公
行政院経済建設委員会発表によると景気概況とし
共建設工事に関する代表的な発注工事を(表 2)に示
ては 2012 年以来、景気安定の域を保っている。
す。淡海ライトレール(LRT)プロジェクトをはじめ、
経済部発表の工業生産指数に関しては、ほぼ横ば
台北地下鉄萬大線、西濱快速公路など交通網の整備
いではあるがプラス成長サイドで推移している。商
に関する公共工事は前倒しで発注された。
業営業額や物価変動率には大きな動きはなく、安
定域にある。また、昨年の貿易収支は約 350 億ドル
3. 2015年台湾建設市場の動向
の黒字となり、台湾における失業率は 4% と一昨年
今年度政府予算による公共建設工事の計画内容を
(2013 年)より若干改善された。2014 年は現政権の
交通部管轄の①鉄道、②都市交通、③国道、④高速
下で公共建設工事、政府調達の前倒しを図ってきた
道路、⑤空港・港湾施設、および経済部管轄の⑥水
が、昨年末の統一地方選挙で台北市、桃園市をはじ
資源・河川、⑦電力・燃料の 7 分野に分け、その動
め多くの自治体で首長が交代したことにより、2015
向について簡単に触れたい。
年は新首長による組織の変更により各種建設プロ
ジェクト計画が部分的に見直しされることになると
①鉄道:台南市街地域の在来鉄道の地下化の促進が
予想される。
計画されている。高雄市街地域では地下化施工中で
基本的には公共建設工事に関し、
一昨年からの
「愛
あり、2018 年の完成を目指している。台湾中部の台
表1 台湾の過去5年間における公共建設投資額
台湾政府 公共建設予算(億台湾ドル)
年
農業
建設
都市
開発
道路 都市 空港
商工業 水資源
燃料
整備 交通 港湾施設 施設
河川
民間建設
建設投資
投資
合計
電力 文教施設 環境保護 衛生福利 合計 (億台湾ドル)
(億台湾ドル)
2011
309
515 777 618
284
244
800
471
863
226
62
25 5,194
402
5,596
2012
302
441 643 567
258
102
392
411
709
175
52
34 4,086
1,437
5,523
2013
268
515 509 602
301
121
372
69
801
155
49
35 3,797
2014
246
278 454 598
229
211
323
96
885
168
51
21 3,560
NA
1,378
NA
2015
296
293 467 484
199
159
287
80
731
214
49
23 3,330
NA
NA
2015 2–3
5,175
11
中、彰化地区の在来鉄道に関しては高架化工事が既
⑤空港・港湾:桃園国際空港のランウェイの舗装
に開始されている。
改良整備、新しい第三ターミナルの建設などが予定
されている。桃園航空城計画(台湾桃園国際空港周辺エ
②都市交通:台北地下鉄萬大線、環状線の継続発注、
リアの整備計画)は市政府組織が変わったことにより
高雄および淡水のライトレールプロジェクトの実施
2015 年度に見直しが行われることになる。高雄港
予算が盛り込まれ、桃園市の地下鉄プロジェクトが
のコンテナターミナルは増設、新設、改善工事が見
開始されることになる。三鶯線(三峡・鶯歌)計画も
込まれている。
進んでおり、大台北地区の MRT は幅広く整備され
る予定である。
⑥水資源・河川:曾文ダム、南化ダムの排砂トンネ
ル工事は既に発注された。今後は石門ダムの排砂ト
③国道:台湾中部を東西に結ぶ国道 4 号線の建設予
ンネルが計画されている。曾文渓と烏山頭水庫側を
算が盛り込まれた。高速道路料金システムは大きく
結ぶ烏山嶺導水路トンネルも 2015 年から施工が開
変わり、
今や台湾の高速道路に料金所は存在しない。
始される予定である。
ETC システムから E-Tag システムに移行し、高速道
路の料金精算システムは完全自動化された。
⑦電力・燃料:台湾電力による北部林口、南部大林
の石炭火力発電所工事、それらに伴う高圧電線の地
④高速道路(快速道路):台湾東海岸の蘇花公路、台
下化工事、台湾中部の LNG 火力発電所工事、洋上
湾中西部の西濱快速道路の整備が昨年から継続して
風力発電など、台湾中油公司による燃料貯蔵計画の
実施されている。台中付近の生活圏を連結する道路
遂行が対象となる。洋上風力発電に関しては台湾も
の建設も開始された。
原子力発電に抵抗する運動が根強く、エネルギー源
としての洋上風力発電の推進に熱心であり、台湾海
表2 公共建設工事に関する代表的発注工事
工事名称
施主
金額(NT億)
西濱快速道路 白沙屯−南通湾工区
交通部公路総局
40.12 遠揚営造
桃園国際空港ランウェイ舗装
空港施設向上工事−土建施工第一工区
交通部桃園国際空港公司
30.32 新亜建中JV
台9線南迴道路安朔草埔段C1橋梁工区
交通部公路総局
39.87 根基営造
鳳山駅及鳳松路トンネル工事C412Z工区
交通部鉄道改築局
33.76 泛亜工程
台9線蘇花公路仁水トンネル
交通部公路総局
26.85 大陸工程
南化ダム排砂トンネル
経済部水利署南水局
33.40 栄工工程
大林燃油工場第11工場
台湾中油公司
31.72 中鼎工程
萬大線LG02及兩側トンネル
台北市政府地下鉄局南工處
24.67 大陸工程
台中工場二期LNG計画
台湾中油公司
14.52 中鼎工程
淡海ライトレール第一期
新北市政府
12
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
115.13 中鋼聯鋼JV
受注業者
峡において 3 カ所の実証プラント工事が実施工中と
策を推進することが必要になるだろう。中国だけに
なっている。
頼らない東南アジア諸国とのバランスのよい経済連
携体制を築き、異常なまでの不動産価格の上昇や人
4. 今後の台湾における建設市場の動向
口の郊外流出などの都市問題を解消し、投資環境の
台湾の建設市場について、昨年の公共建設工事実
整ったグローバルに対応できる「拠点台湾」となる
績および今年予定されている案件について具体的な
ための建設プロジェクトが促進されることが期待さ
例と共に示してきたが、これらは台湾を東南アジア
れている。
の経済拠点として投資するに値する地域とし、
また、
2016 年の総統選挙を目前に控え、建設市場への投
グローバルに世界から認識されるための環境づくり
資動向は慎重になる傾向が見られ、国家予算枠も少
の一貫した政策と見ることができる。
子高齢化などが影響し、より厳しい環境にある。こ
また、台湾全体の今後の安定した経済成長を考え
の緩やかではあるが長い厳しい上り坂を台湾がどう
た場合、中国や東南アジア諸国の台頭に伴い、台湾
乗り越えるのか、世界中から注視されていると言え
には従来の輸出主導型という軌道を修正して海外か
るのではないだろうか。
らの投資、人材の呼び込みなどを含む新しい経済政
2015 2–3
13
特集
マレーシア
水谷 章[大成建設(株)クアラルンプール営業所 参与]/クアラルンプール支部
る。原油価格は 1 バレル 105 ドルから 50 ドルにまで
1. マレーシアの経済
これまで、安定した経済成長を維持してきたマ
下がり、原油価格が半分に下がるということは国庫
レーシアの経済は、2014 年半ばからの原油価格の
の収入に穴が空くようなものである。そのため、足
下落や、マレーシア通貨リンギット(RM)の対ドル
の速いヘッジファンドは既にマレーシアリンギット
に対する大幅安により、
大きな影響を受けつつある。
を売り、他の通貨を購入しているという状態である
2014年第3四半期
2013年第三四半期
(図 2)
。現在マレーシア中央銀行は、外貨準備金を
使って通貨の国外流出を防ごうとしているが、効果
GDP
5.6%
5.0%
消費者物価
2.7%
3.2%
はなく、短期資金の流入も 20% 減っており、ますま
外貨準備金
す外貨準備金を減らす要因になっている。そのため
1,112億ドル
1,350億ドル
貿易輸出
677億ドル
622.5億ドル
貿易輸入
561億ドル
525.3億ドル
77億ドル
94億ドル
海外直接投資
外貨準備金は昨年第 3 四半期に 1,350 億ドルあった
が、2015 年直近では 1,106 億ドルと 20% 近く減っ
ている。
直近の経済指標は上記のようになっており、一見
マレーシアでは今年(2015 年)4 月からは 6% の消
すると GDP も上がっており、特に問題がないよう
費税の導入も予定されており、おそらくかなりの消
に見えるが、先述したように昨年(2014 年)6 月を境
費の落ち込み、購入手控えにより、景気はさらに悪
とした世界的な原油価格の大幅な下落(図 1)により、
化すると予想される。また、昨年末にマレーシアは
産油国で原油・天然ガスの生産や輸出が国家収入の
これまでにない規模の大洪水の被害に合い、この洪
40% を占めるマレーシアは、大きな影響を受けてい
水対策も含めて今年 1 月、昨年 10 月に承認された国
図1 原油価格推移 ドル
図2 為替推移ドル - リンギット
2月
14
4月
7月
10月
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
2015
2月
4月
7月
10月
2015
家予算の見直しを発表するという事態にまで発展し
2. マレーシアの建設市場の動向
マレーシアの建設市場は、2014 年の第 3 四半期
ている。
このような経済状況を踏まえた上で、①原油安、
までは、建設セクターの内需に支えられて何とか安
②消費税、③第 11 次マレーシア計画、④洪水からの
定成長を見せ、通年で 5.0% 程度の GDP 成長率を
災害復興、⑤安全保障、⑥東南アジア諸国連合(2015
記録している(表 2)。現在(2015 年 2 月)、まだ第 4 四
年はマレーシアが ASEAN の議長国を務める)の 6 点を最
半期の全体のデータが発表されていないが、工事別
優先課題としている。
の内訳では住居 28%、商業ビル 32%、土木インフラ
34%、その他 5%、となっている。
図3 アジア・豪州各国のGDP成長率(%)
図4 アジア・豪州各国の消費者物価上昇率(%)
GDP成長率
(%)
10
10
7
6.96
7.40
4
2.70
3.17 3.20
-2
5.00 5.30
5.00
4
1.50
0.60
2
2.70
2.70
1.70
1.50
0.61
0
-1.90
1.00
0.60
2.70
0.94
-0.20
インド
インドネシア
フィリピン
シンガポール
マレーシア
ベトナム
タイ
豪州
韓国
台湾
香港
中国
統計月:2014年7∼9月
2014年10∼12月:中国、
台湾、
韓国、
ベトナム、
シンガポール、
フィリピン
日本
-2
インド
インドネシア
フィリピン
シンガポール
マレーシア
ベトナム
タイ
豪州
韓国
台湾
香港
中国
日本
-5
6.96
6
4.90
2.70
1
8
6.90
5.60
消費者物価上昇率
(%)
統計月:2014年12月。
2013年10∼12月:豪州
2015年1月:ベトナム、
フィリピン、
インドネシア
表1 東南アジア・インド各国の経済統計
東南アジア・インド
外貨準備高(億ドル)
タイ
ベトナム
マレーシア
シンガポール
フィリピン
インドネシア
インド
1,571.00
350.00
1,112.00
2,568.60
789.06
1,182.62
3,220.40
統計月日
2014年12月
2014年6月
2015年1月
2014年12月
2014年12月
2014年12月
2015年1月
貿易輸出
186.97
129.00
677.00
332.72
52.62
146.21
254.00
貿易輸入
150.57
134.00
561.00
297.07
49.89
144.35
348.33
36.40
▲5.0
116.00
35.65
2.72
1.87
▲94.35
収支
単位
統計月
失業率(%)
統計月
海外直接投資受け入れ
単位
前年同月・期比(%)
統計月(年)
億ドル
億ドル
億リンギット
億ドル
億ドル
億ドル
億ドル
2014年12月
2015年1月
2014年12月
2014年12月
2014年11月
2014年12月
2014年12月
0.56
3.43
2.70
1.90
6.00
5.94
−
2014年12月 2014年(都市部)
2014年11月
2014年12月
2014年10月
2014年8月
−
1.30
6.63
77.00
78.38
183.14
78.70
億ドル
億ドル
億リンギット
億ドル
億ペソ
兆ルピア
▲90.0
67.10
▲15.4
8.90
▲44.4
10.50
2014年11月
2015年1月
2014年7∼9月
2014年通年
2014年7∼9月 2014年10∼12月
15.37
億ドル
−
2014年11月
2015 2–3
15
表2 建設セクターの前年との比較(前年同期比% および工事金額)
2014年
第1四半期
21.2%
8,240億円
2014年
第2四半期
10.8%
8,300億円
2014年
第3四半期
10.7%
8,350億円
2014年
第4四半期
?
?
個人住宅、事務所関連の投資は、外国人の不動産
購入規制、自国民の住宅保有優先政策が発動されて
から、開発投資にブレーキが掛かったままの状態で
課題ではないだろうか。
3. マレーシアで今後予定されるプロジェクト
① 鉄道関連
1. クアラルンプール市内地下鉄二期工事
7,600 億円
2. LRT 三期工事
2,970 億円
3. 東海岸鉄道更新工事
50 億円
② 道路関連
あり、これに原油安、為替の変動が加わったため、
1. ボルネオ島高速道路
9,000 億円
政府は予算の見直しを行った。政府はインフラ予算
2. 276KM 西海岸高速道路
1,650 億円
に手を付けないという方針を打ち出してはいるが、
3.その他クアラルンプール市内高速道路 3,000 億円
原油価格の低迷による政府予算の減少、東部海岸
を中心とする大洪水の復興、災害対策にかなりの予
③ 開発関連
1. シンガポールクアラルンプール新幹線
算が必要になり、建設セクターの全体金額に変更は
1 兆 3,000 億円
ないと思われるが、大型プロジェクトに遅れが発生
2. Tun Razak Exchange 開発
8,600 億円
する可能性がある。また、政府の方針として、政府
3. PNB Merdeka Tower 118
1,650 億円
系の開発会社に土地を安く売ったり、優先的にプロ
ジェクトを発注するケースが多く、民間の開発会社
上記のように、大型インフラプロジェクトにおい
とでは対応に落差が見られる。それと同時に、シン
ては、夢のような大型プロジェクトが計画されてい
ガポールではこの政府系開発会社や投資会社が上手
るが、政府予算の制限により、優先順位の高いもの
く機能しているが、マレーシアでは経験と知識、ノ
から順次進行するものと予想している。プロジェク
ウハウの不足から大きな負債を抱える会社が存在
トスピードとしては、10 年程度を目安に実施してい
し、新たな問題を招きかねない状況である。
くのが適正だと思われる。また、①予算の削減によ
日系の建設会社は、地元会社や韓国や中国の建設
る政府案件の縮小、②第 10 次マレーシア計画実施
会社とのし烈な価格競争に曝されており、マレーシ
の遅れ、③政府施策による不動産市場のさらなる縮
アの顧客は日系建設会社の得意とする「工程・品質
小、④導入される消費税、為替安による資材の高騰、
遵守、長く使用できるよい建物」よりも価格の安さ
などの懸念事項もあり、2015 年の展望としては、あ
を求めるため、日系工場案件以外は中々受注に繋が
まりよいものではないと個人的には判断している。
らないという状況にある。円借款工事からも手を引
しかし、経済アナリストの分析によると、政府の支
き、将来的なビジネスモデルをつくり、海外工事で
援もあるため、2015 年のマレーシア建設市場は依
どう生き残っていくかが、日本企業の今後の大きな
然楽観視されている。
16
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
特集
フィリピン
岡島 千木[三井住友建設(株)国際支店 マニラ事業所]/マニラ支部
1. フィリピンの経済概況
2. フィリピンが抱える諸事情
この数年来フィリピンの経済は好調である。特に
今後好調な経済活動を支えるためにはハード面で
2010 年にベニグノ・アキノ 3 世による政権発足以
のインフラ整備、
ソフト面での法整備は欠かせない。
降、堅調さを持続している。経済成長の主因はさま
そのため現在のフィリピンが抱える問題なども含
ざまであるが、①海外出稼ぎ労働者(OFW)からの
め、現状を考察する。
送金、②引き続き拡大の一途を辿るビジネス・プロ
セス・アウトソーシング産業の興隆、③製造業、特
1)交通インフラ
に電子製品の輸出が堅調であることなどがあり、こ
フィリピンにおける新車販売は 2013 年にようや
れらが牽引役となって高い経済成長率を持続してい
く「壁」と言われた 20 万台を突破し、中古車も含め
る。特に OFW からの送金はフィリピン経済を支え
自動車数は増加の一途を辿っている。特に都市部で
る重要な役割を担っている。まだ、2014 年度分に関
の増加が著しいようだが、都市部の道路数は増加し
するまとまった報告はないが、恐らく 250 億ドル程
ていないことから、激しい渋滞が頻繁に起こってい
度の送金があったと思われ、これは前年比で約 6∼
る。
自動車販売の増加という華やかな面がある一方、
7% の伸びを記録することになる。この外貨送金が
道路網の整備(増加)が計画的に行われない現状で
国内消費の下支えとなり、国内経済の好転を促して
は、近い将来さらに激しい渋滞を引き起こし、引い
いる。この安定した経済成長は第三者機関にも認め
ては大きな経済損失を招きかねない結果となること
られ、現在フィリピンの格付けは投資に適格との評
は言うまでもない。そのためには、ただ闇雲に整備
価を受けている。一方で、昨年(2014 年)通年のイン
を行えばよいというものではなく、しっかりとした
フレ率は平均 4% 半ばと見られている。経済成長率
マスタープランに基づく整備が不可欠である。建設
に比し、その値が低いことから、建設・不動産関係
会社としては、受注などに直接影響のあることであ
の民間投資はその意欲を失わず、2015 年も堅調に
り、今後どう変化していくかを期待を持って見守り
推移するものと思われる。
たい。
今年(2015 年)はフィリピンが APEC(アジア太平洋
協力会議)の議長国となることから、それに関連する
2)電力不足
環境整備、物資、サービスの需要増加が予想される。
フィリピンは 3 月、4 月に暑さのピークを迎える。
また、来年(2016 年)5 月には大統領選が予定されて
それは冷房需要が最も増加し、電力使用量ピークが
おり、選挙に向けたインフラ投資の加速も期待でき
この頃に訪れることを示すが、昨年より非常に差し
る。総じてフィリピン経済は、引き続き高い成長率
迫った問題としてこの電力エネルギーの不足が政
を維持する見通しである。さらに今年は ASEAN 経
治の世界でも取り上げられている。原因はいろいろ
済共同体が創立される記念すべき年である。人、物、
あるが、既存発電所の大掛かりなメンテナンスが重
金の流れが自由になり、これまで以上に ASEAN の
なっていることにより発電能力が落ちることが大き
他の国々との関係が深まっていく中、手を携えどう
な要因であるらしい。フィリピンの財閥系あるいは
経済成長を遂げていくのか、
興味深いところである。
日系 IPP による新規発電所の建設により電力供給は
2015 2–3
17
増加傾向にあるが、需要の増加に追いつかない可能
性も指摘され、経済への影響、特に製造業への影響
4)領有権問題
昨今、南沙諸島の領有権を巡る争いに端を発し、
が叫ばれている。電力不足は短期的には今年 3、4 月
中国とフィリピンの間で政治的な対立が続いていて
が大きな山場であるが、人口増加、地方の発展、経
いる。中国側が南沙諸島で軍用空港の建設などを進
済の発展が続くフィリピンは、その価格の高さと相
め、既成事実をつくろうとしている中、フィリピン
俟って、重要な問題として長期的な解決への道筋を
政府は南沙諸島の領有権を主張し国連へ提訴した。
示してほしいものである。
判決には何年もの時間を費やすと思われるが 1 対 1
では勝ち目のない相手に対し、国際社会の場で対立
3)VAT(付加価値税)還付問題
に結論を出していく意向である。日本も同様に中国
VAT 還付に関しては、制度上の問題というより
とは尖閣諸島の領有権問題を抱えており、このこと
政治的な問題となっているように感じる。フィリピ
が日本とフィリピン間の親密さを一層深める結果と
ンは PEZA(フィリピン経済特区庁)や BOI(Board of
なるかもしれない。
Investments)と呼ばれる投資優遇制度をつくり、積
極的に他国からの投資を呼び込もうとしている。そ
1∼ 4 のように現在フィリピンはさまざまな問題
の会社の多くは輸出を主体とする製造業であるが、
を抱えており、どれも簡単に解決できるものではな
PEZA によって認定された会社は「PEZA 企業」と
い。解決のためには、フィリピン政府の長期的な視
呼ばれ、取引先(内国企業)への 12%の VAT の支払
野に立った政策とその実行が不可欠だと思われる。
いを免除される。PEZA 企業と取り引きする会社は
PEZA 企業から Output VAT を受け取らない代わり
3. 今後の動向
に、自社の支払い分の Input VAT を国税局へ還付請
今後期待を寄せる大規模なインフラ事業として、
求することになっている。しかし、この還付が遅々
JICA(国際協力機構)が調査・提案をしていた大規模
として進まないのである。
インフラ開発ロードマップが昨年 9 月にフィリピン
このような状況が続けば、PEZA 企業の取引先は
政府により承認された。整備には、2030 年までに、
リスクとして費用を上乗せすることを考えざるを得
2 兆 6,100 億ペソ(日本円にして約 7 兆円)が必要とさ
ず、引いてはフィリピンが是非とも呼び込みたい投
れている。現政権が推す PPP(官民連携)方式での実
資家への謳い文句となっている「優遇制度」とはほ
施が望ましいとされているが、これだけの規模の事
ど遠いものになる可能性がある。日系の建設会社あ
業を大きなリスクを抱えつつ実施できる会社がはた
るいは PEZA 企業との取り引きの多いローカルのサ
していくつあるのか。フィリピン政府のプロジェク
プライヤーにとって、この VAT 還付問題は経営上
トへの関与が強く望まれると考える。
非常に大きな問題となっており、昨年には国税局か
民間企業による建設投資は、財閥系企業を中心に
ら以前の慣例を無視する新たな業者泣かせの通達も
今年も活発に行われると見込まれる。特に都市部で
出され、
数年間の還付が一層滞る状態が続いている。
のマンション建設などは引き続き好況となると見ら
この問題に関しては、一刻も早い進展が望まれる。
れる。日系企業、特に製造業のフィリピン進出につ
18
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
いては昨今の円安により、その進出を白紙に戻し、
最後に、タクロバンでは 2013 年末の巨大台風ヨ
当面フィリピンに限らず海外進出は様子見する会社
ランダからの復興事業も本格化してきている。被災
や、製造工程を日本へ回帰するといった動きもある
地で暮らす人びとが災害前のように安心して生活を
と聞くが、他の ASEAN 諸国と比較しても労働賃金
送れるよう祈念しているが、そのお見舞いも兼ね、
が低く、英語で意思の疎通を図ることができ、若く
2015 年 1 月 15 日から 1 月 19 日までローマ法王が
生真面目な気質の労働力を有するフィリピンは特に
フィリピンを訪問した。ローマ法王がフィリピンを
労働集約型の事業を中心に魅力を持っていると思わ
訪れるのは実に 20 年ぶりとのことで、マニラ首都
れる。是非ともフィリピン進出を決定していただく
圏は同期間を休日にして対応、国を挙げての一大事
ことを期待したい。
となった。1 月 18 日に法王がマニラで実施したミサ
にはフィリピン全土から約 600 万人のキリスト教信
者が参加し、過去最大のミサとなったようである。
表1 民間建設統計
建築物の種類
2013年
第1四半期
2014年
第2四半期
第1四半期
合計
数
床面積(sqm)
値(PhpM)
53,824.0
10,447.6
125,046.8
66,951.0
14,189.6
168,089.2
62,197.0
12,464.4
131,052.9
38,862.0
6,284.9
61,171.2
48,905.0
7,387.2
72,612.4
44,315.0
6,762.0
63,634.6
6,538.0
3,822.0
61,171.2
8,084.0
6,456.6
81,396.8
7,063.0
5,355.4
54,506.2
8,424.0
10,109.4
9,962.0
14,080.0
10,819.0
12,912.1
国全体にとって久々に明るいニュースで 2015 年は
幕を開けたが、大統領選の前年である今年がどのよ
うな 1 年となっていくのか、注視していきたい。
a.居住宅
数
床面積(sqm)
値(PhpM)
b.非居住宅
数
床面積(sqm)
値(PhpM)
c.追加・変更・修理
数
値(PhpM)
〈参考および引用〉
フィリピン日本人商工会議所月報
The Daily NNA フィリピン版
出典:フィリピン日本人商工会議所月報2015年1月
2015 2–3
19
特集
タイ
村松 周[SMCC タイランド社 取締役管理部長]/タイ支部
1. 2014年の経済概況
善する見通しである(図 3)。
2014 年前半は、2013 年から続く投資の低迷に加
大洪水や政治的混乱など、毎年のように大きな出
え、政情不安による消費マインド悪化で内需が落ち
来事は発生しながらも、比較的早い時期から自動車
込み、それまで好調であった観光産業も大きな影
や電機・電子を中心に進出してきた日系企業にとっ
響を受けた。さらには、長引くデモで政治は一時機
て、重要な製造・輸出拠点というタイの位置付けに
能不全に陥り、経済政策の停滞などにより、第 1 四
変わりはない。中期的な有望投資先に関する調査で
半期の実質 GDP 成長率は、大洪水の影響があった
も、タイは常にトップ 5 にランクされており(表 1)、
2011 年の第 4 四半期以来、9 四半期ぶりに前年同期
JCC 会員企業数も依然毎年増加(2014 年 9 月時点で
比でマイナス成長(0.6% 減)となった。
1582 社)している(図 4)。
しかしながら、5 月 22 日に発生したクーデター以
降、経済状況には大きな変化が見られた。プラユッ
ト陸軍司令官(現首相)の主導の下、軍と警察で構成
された国家平和維持協議会(NCPO)が遅れていた
図1 実質GDPの推移
(百万パーツ)
政府予算の執行や策定、投資認可を再会したことで
1,300,000
先行きの不透明感が払拭され、投資マインドは改善
1,250,000
した。未払いとなっていた米担保融資制度に係わ
1,200,000
る農民への支払いが実施されたことなどもあり、景
1,150,000
気は底を打って持ち直し、第 2 四半期はプラス成長
1,100,000
(0.9% 増)に転じた(図 1)
。
リーマンショックの影響
大洪水の影響
1,050,000
1,000,000
2008 Q3 2009 Q3 2010 Q3 2011 Q3 2012 Q3 2013 Q3 2014
Q1
Q1
Q1
Q1
Q1
Q1
Q1r
2. 外国投資と日系企業の動向
世界有数の産業集積拠点であるタイ経済を牽引し
てきたのは海外からの直接投資であるが、2014 年
(備考)
NESDB 統計より作成。準節調整値。1998 年価格ベース。
はエコカー関連の投資を除いては、総じて新規投資
は低迷し、過去 2 年に比べて低い水準となった。
しかしながら、外国投資の 4∼ 5 割を占める日系
企業の場合、金額ベースでは同様に低水準であった
が、投資委員会(BOI)の申請件数は投資奨励策の新
制度移行前の駆け込み需要もあって堅調に推移し、
最大であった 2012 年並みの 1,573 件に達した(図 2)。
バンコク日本人商工会議所(JCC)の日系企業景気
図2 BOI投資促進権申請件数
1,584
■ 日本以外 ■ 日本
20
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
1,132
1,059
1,100 件
832
39%
788
866
53%
55%
43%
34%
872
560
BOI
50%
42%
500 件
動向調査によると、会員企業の業況感(DI)も 2014
年下期には悪化幅が縮小に転じ、2015 年上期は改
1,573
1,500 件
324
266
2008
2009
562
672
364
2010
2011
2012
2013
2014
また、タイでは地場のゼネコンが相当数存在する
3. タイにおけるインフラ投資計画と日系建設業の動向
タイ政府は、
全土で国鉄複線化や標準軌新線整備、
が、現在では技術力も遜色なく、多くの工事は独力
バンコク首都圏で都市鉄道や高速道路網の建設、ス
で実施可能である。そうした状況もあり、当地に進
ワンナプーム国際空港やレムチャバン港の拡張事業
出している日系建設業者(現地法人)の大半は日系製
など、総額 2.4 兆バーツに及ぶインフラ整備計画を
造業の工場をはじめとする民間建築工事の施工に特
予定しており、今後さまざまな公共事業の実施が想
化している。ある意味、非常に成熟したマーケット
定される。
で日系業者間の競合も激しい。2012 年の大洪水で
図3 業種別DIと業況感推移
今回の調査
業種
実績
14上
40
47
−15
−13
−24
9
−62
−19
−17
−16
−42
−24
−56
−35
−7
−26
−20
食料品
繊維
化学
鉄鋼・非鉄
製造業
一般機械
電気・電子機械
輸送用機械
その他
製造業全体
商社
小売
金融・保険・証券
非製造業
建設・土木
運輸・通信
その他
非製造業全体
全体
DI の推移(1995 年以降)
(%)
見通し
回答数
14下
17
−6
0
3
−36
8
−24
−6
−6
−6
−7
−17
−26
−19
26
−7
−6
15上
0
7
50
17
−7
31
29
12
23
42
50
41
17
32
37
36
29
100
(見通し)
DI
80
5
15
33
30
13
45
53
35
229
55
12
21
24
25
27
164
393
60 59
55
60
62
41
40
32
20
29
21
0
-6
-2
-20
20
-40
-41
-53
-60
-80
-100
95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
(年)
2015年上期
、
「横ばい」
(42%)
、
「悪化する」
(15%)44%ー15%=D29
「上向く」
(44%)
表1 中期的に有望な事業展開先
2007
(得票率%)
2008
(得票率%)
2009
2010
(得票率%)
2011
(得票率%)
(得票率%)
中国(73)
2012
(得票率%)
2013
(得票率%)
1
中国(68)
中国(63)
中国(74)
中国(77)
中国(62)
インドネシア(45)
2
インド(50)
インド(58)
インド(58)
インド(60)
3
ベトナム(35)
ベトナム(32)
ベトナム(31)
ベトナム(32)
インド(59)
インド(56)
インド(44)
タイ
(33)
インドネシア(42) タイ(39)
4
タイ
(26)
ロシア(22)
タイ
(23)
タイ
(26)
ベトナム(31)
タイ
(32)
5
ロシア(23)
タイ
(27)
ロシア(22)
ブラジル(25)
ブラジル・インドネシア ベトナム(32)
ベトナム(30)
6
米国
ブラジル
ブラジル
インドネシア
−
ブラジル
ブラジル
7
ブラジル
米国
米国
ロシア
ロシア
メキシコ
メキシコ
8
インドネシア
インドネシア
インドネシア
米国
米国
ロシア
ミャンマー
9
韓国
韓国
韓国
−
マレーシア
米国
ロシア
10
台湾
台湾
台湾・マレーシア
マレーシア、台湾
台湾
ミャンマー
米国
中国(38)
出所:JBIC「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査」
2015 2–3
21
は製造業を中心に日系企業へ甚大な被害をもたらし
を浴び、日本の参画可能性も出てきたため、今後の
たが、早期の復旧、操業再開を全力で支えた日系建
動向が非常に注目される。
設業者には特需となり、2012 年から 13 年にかけて
は売り上げを大幅に増やした企業が多かった。一方
4. 今後の日系企業のビジネス展開
で、土木工事を手掛ける日系業者は僅かであるが、
数年前の海外投資のキーワードは「チャイナ・プ
①政府開発援助(ODA)供与案件の激減(2011 年以降
ラスワン」
であったが、
近年当地ではもっぱら
「タイ・
は円借款の新規採択はなし〈図 5〉
)
、②地場業者の技術
プラスワン」に取って代わり、タイを中心として近
力が向上して価格競争では勝てない、③コンプライ
隣国(ラオス、カンボジア、ミャンマー)へのビジネス展
アンスに抵触し得るタイ独特の取引慣行、などがそ
開を模索する企業が増えている。
の理由として挙げられる。
タイでは労働力不足や労務コストの上昇が課題で
これまで日本は、道路整備、上水道整備、都市鉄
あるが、産業集積のあるタイをハブとした生産構造
道整備、空港建設などにおける大規模プロジェクト
を変える意向までは窺えない。今年度は ASEAN 経
を中心に開発援助を実施してきたが、タイの中進国
(徐々にではあるが)
済共同体(AEC)の発足によって、
化に伴って借款金利が上昇し、円借款を活用する利
域内のサービスや貿易、投資の自由化が見込まれる
点が薄れてきた。タイ政府は資金調達コストの観点
ため、タイ・プラスワンの一環で労働集約的な工程
より、国債発行などによる国内調達を中心に考えて
をタイから周辺国に移すといった動きが具体化して
おり、今後の借款供与はきわめて限定的になると思
くることが予想される。隣国で本年予定されている
われる。そのため、日系建設業者は引き続き民間工
ネアックルン橋開通による南部経済回廊の貫通(カ
事を中心に事業展開していくと思われるが、ここへ
ンボジア)や日本連合で整備を進めるティラワ工業
きて期待されながら遅々として進まなかった都市間
団地の開業(ミャンマー)などはこの動きを補完する
高速鉄道やダウェイ港プロジェクトなどが再び脚光
材料になってくると思われる。
図4 バンコク日本人商工会議所会員数の推移
図5 タイ向け円借款の推移
(単位:百万円)
JCC会員数(社)
1,800
1582社
(9月時点)
1,600
160,000
140,000
1,400
120,000
1,200
100,000
1,000
80,000
800
60,000
600
400
タイ経済危機
リーマン•ショック
東日本大震災
40,000
0
0
22
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
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今後は、タイ一国で捉えるのではなく ASEAN の
定的と思われる。タイに代わる投資先の模索や設備
単一市場化や大メコン圏(GMS)といった切り口で
投資の縮小・延期といった動きは一時的に起こり得
投資を考える動きが加速していくと思われる。
るが、総合的に判断すると、相対的に投資先として
のタイの優位性は変わらないであろう。
5. 最後に
その意味では、当地タイにおけるわれわれ建設業
タイでは今年(2015 年)10 月に総選挙を実施して
の今後の事業機会も見込まれ、タイは依然有望市場
民政に移行される予定であるが、確かに政治動向は
のひとつであり続けると思われる。また、当地には
不安要素として無視できない。
ODAを足掛かりに古くから多くの日系建設業が進出し
しかしながら、これまで度々繰り返されてきた歴
ているが、インフラ整備などを通じてタイ経済の発展
史を振り返ると、経済やビジネスへのその影響は限
に引き続き貢献していきたい。
2015 2–3
23
特集
シンガポール
長田 士郎[(株)竹中工務店 シンガポール事務所 専務執行役員]/シンガポール支部
1. 経済概況
2. 建設市場の動向
シンガポール通産省の発表によると、シンガポー
2015 年 1 月 8 日、Building Construction Authority
ルの 2014 年の実質 GDP 成長率は速報値 2.8% と、
(BCA 建築建設局)は、2014 年の建設受注高は前年比
同省が予測した 3.0% を下回り、前年(2013 年)の実
5.4% 増の 377 億シンガポールドル(暫定値)となっ
質 GDP 成長率の 3.9% と比べて経済の伸びは緩や
たと発表した。政府による住宅投機規制政策により
かになった(表 1)。内訳としては、製造業の成長率
民間住宅建設の受注が大幅に落ち込んだものの、大
は 2.4%(前年 1.7%)と上昇したものの、サービス業
型病院建設や地下鉄(MRT)工事などの公共工事が
3.1%(前年 5.3%)、建設業 3.0%(前年 6.1%)と大きく
牽引役となり、建設受注の増加を導くかたちとなっ
下降した。
た。内訳を見ると、民間工事受注は 179.9 億シンガ
2015 年の世界経済は緩やかに回復すると見られ
ポールドルで前年比 14.0% の減少であり、特に住宅
るが、シンガポール国内の雇用環境は厳しい状況が
受注の落ち込みが大きかった(5.91 億シンガポールド
続くなど、経済回復はより緩やかになると予想され
ル。前年比 38.3% の減少)ことが大きな要因である。
る。そのため、シンガポール政府は、ヨーロッパの
一方で、公共工事受注は、197.4 億シンガポール
経済が不安定な点などから国際経済のリスクも考慮
ドルで前年比 32.6% の増加であり、特に、病院など
し、2015 年の成長率を 2.0∼ 4.0% と予測している。
の公共施設(52 億シンガポールドル。前年比 98.5% の増
また、シンガポールのリー首相は、実質 GDP 成長
加)
、地下鉄などの土木工事(88 億シンガポールドル。
率が 5∼ 6% 上昇するような経済発展の段階には既
前年比 59.7% の増加)の貢献が大きかった。
に到達しており、今後 5 年は 2∼ 3% の成長率を達成
BCA 建築建設局は、2015 年の建設動向に関して、
公共工事受注は 180∼ 210 億シンガポールドル程度
できれば良好な経済が保たれると述べている。
になると予想しており、民間受注は引き続き住宅受
表1 シンガポールの名目GDP/成長率の推移
2010年
名目GDP(10億シンガポールドル)
名目GDP(1兆円)
2011年
2012年
2013年
2014年
1Q
2Q
4Q *
3Q
通年 *
322.36
341.89
350.45
363.94
91.72
93.63
94.05
−
−
27.72
29.40
30.14
31.30
7.89
8.05
8.09
−
−
15.2
6.1
2.5
3.9
4.7
2.3
2.8
1.5
2.8
29.7
7.8
0.3
1.7
9.6
1.3
1.7
−2.0
2.4
7.5
4.9
8.6
6.1
7.0
3.3
1.3
0.8
3.0
11.7
6.7
2.8
5.3
3.9
2.6
3.4
2.6
3.1
前年比
全体
製造業
建設
サービス
*は速報値
※名目GDP/1シンガポールドル=86円換算
出典:通産省(MTI)
24
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
注の減少や世界経済の不透明性から 110∼ 150 億シ
レーション・フレームワーク」というシンガポール
ンガポールドル程度になると見ているが、チャンギ
人を優先して採用する制度を導入させた。これは求
空港イーストランウェイ工事などの土木工事が、建
人を行う際、新たに新規 EP(就労ビザ)の発給申請を
設受注全体を下支えするであろうと述べている。
行おうとする従業員数 25 名以上の企業は、まず優
以上から、2015 年のシンガポールの建設市場は、
先的にシンガポール人へ求人情報を公表しなければ
若干民間建築で落ち込みがあるものの、昨年と同程
ならないとする制度(政府運営サイト「ジョブバンクス」
度になると思われる。
に掲載する必要がある)であり、幹部・管理職・専門職
などにおけるシンガポール人の比率を上げることに
よって、外国人労働者に職を奪われているという不
3. 建国50周年に向けての政府の雇用・人材政策
シンガポールの外国人労働者は約 135 万人程度
満を減少させることをねらいとしている。また、政
おり、シンガポール国民は外国人労働者に職を奪わ
府は度々、EP の発給の基準となる最低月給の引き
れているという不満を感じている。そのため、2014
上げや外国人雇用税(人頭税)の増税を行い、外国人
年 8 月に、MOM(人材開発局)は「フェア・コンシダ
労働者の数を減らす動きを取っている。これらによ
表2 シンガポールの建設需要の推移
(単位:百万シンガポールドル、10億円)
P:速報/F:見通し(上限値)
全体
2010年
2011年
土木
3,020
建築
24,540
建設 合計
27,560
建設需要(円換算)
@86円単位
名目GDP
名目GDP(円換算)
@86円単位
建設需要のGDPに占める割合
2012年
6,740
2013年
4,810
6,940
28,750
25,950
35,490
30,760
2014年 P
2015年 F
10,220
12,600
28,860
27,510
23,400
35,800
37,730
36,000
2,370
3,052
2,645
3,079
3,245
3,096
322,361.1
341,886.1
350,446.0
363,941.9
−
−
27,723
29,402
30,138
31,299
−
−
8.5%
10.4%
8.8%
9.8%
−
−
(単位:百万シンガポールドル、10 億円)
民間
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年 P
2015年 F
土木
830
610
2,690
1,430
1,420
4,350
建築
18,190
19,600
18,550
19,490
16,570
10,650
建設 合計
19,020
20,210
21,240
20,920
17,990
15,000
1,636
1,738
1,827
1,799
1,547
1,290
建設需要(円換算)
@86円単位
(単位:百万シンガポールドル、10億円)
官庁
2010年
2011年
土木
2,190
建築
建設 合計
建設需要(円換算)
@86円単位
2012年
2013年
6,130
2,120
6,360
9,150
8,550
15,280
735
1,314
2014年 P
2015年 F
5,510
8,800
8,300
7,400
9,370
10,940
12,700
9,520
14,880
19,740
21,000
819
1,280
1,698
1,806
(建築建設局)/MTI
(通産省)
出典:BCA
2015 2–3
25
り製造業・建設業などの産業で、近年外国人労働者
シンガポールは今年(2015 年)に建国 50 年を迎え
が不足しており、特にサービス業における人材不足
る。一昨年(2013 年)のナショナルデー・ラリーで
は一般に目につきやすく、レストランなどでの人手
は、国土開発計画(マスタープラン 2013)が公表され、
不足は深刻な様子である。このように、外国人労働
南部湾岸開発計画(南部のコンテナターミナル移転後の
者に対しての雇用規制などを設けることにより、優
再開発)
、チャンギ空港整備計画(チャンギ第 5 ターミナ
先的にシンガポール人に職を与える機会を増やす試
ル新設計画を中心とした空港整備計画)
、さらには 2030
みを行う一方、いわゆる学歴主義というシンガポー
年に人口を現在の 530 万人から 690 万人へと増加さ
ルのエリート主義を見直す政策に舵を切ろうとして
せる計画が発表された。一方で、社会が成熟し、少
いる。
子高齢化も急速に進んでいくと言われており、今ま
シンガポールは国土が狭く、資源を持たないため、
での 50 年とは異なった時代をシンガポールは迎え
徹底したエリート主義(学歴主義)を取り、小学校から
る。
そのため、
エリート主義による有能な人材で引っ
試験によって学力・能力により振り分けが行われる
張ってきた時代から、
「価値観の多様化」により次
教育制度などによって有能な人材を国の発展に積極
なる発展を目指すとしている。
おそらく基本的には、
的に活用してきた歴史がある。このような中、2014
今まで通りエリート層が国をリードしていくと思わ
年のナショナルデー・ラリー(独立記念スピーチ:毎年 8
れるが、今後どのようなかたちで「価値観の多様化」
月 9 日の独立記念日に首相が行う政策方針スピーチ)におい
を展開していくのか、日本も大いに参考にしたいと
て、リー・シェンロン首相が「教育の機会と価値観
ころである。
の多様化」を発表し、個人の適性や能力を生かす社
建設業においてもポリテクニックや ITE の卒業
会に転換する旨を伝えた。その実現のため具体的な
者は多く、彼らが専門技能の向上や専門資格の取得
例のひとつとしては、ポリテクニック(高等技術専門学
を目指すことは、建設業全体の知識・技能の底上げ
校)や ITE(職業訓練学校)の卒業者がさらに専門技能
になり、現地での優秀な人材の確保という大きな課
の向上や専門資格を取得できるよう、政府がサポー
題の解決策のひとつとなり得る。われわれ日系建設
トを行うなどがある。学校を卒業後も継続的に学び、
業社も、シンガポール建国 50 周年のこの機会に、改
専門能力や専門技術を向上させることを重要視し、
めて人材政策・教育について再検討を始める時期に
政府がこれをサポートするという方針である。
来ている。
26
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
特集
インドネシア
鷲見 隆[鹿島建設(株)インドネシア営業所 所長] 濱田 慎也[副所長]/インドネシア支部
1. 経済情勢
保がすんなりと実施できたことは、新政権政策実行
ジョコ・ウィドド大統領による新政権が本格的に
への追い風となっており、他の改革も進めやすくな
動き出す今年(2015 年)のインドネシアは国民の期
ると思われる。
待と不安が入り混じる中、
「有望な投資先」として
海外からもその経済戦略および新政権の実行力に注
2. 建設市場動向
目が集まることになるであろう。特に今後の経済成
海外から熱い視線を浴びているインドネシアの建
長のアキレス腱になりかねないインフラ整備事業を
設市場であるが、日系建設会社の参入機会という点
強力に推し進められるかが、インドネシアが世界で
では傍から見ているほど楽観的ではない。もちろん
その存在感を示すことができるかどうかの鍵となっ
日本の品質および工期を求める日系企業からの需要
てくるのは間違いない。
は、一時ほどではないにせよ相変わらず多い。しか
その一方で、前政権が推し進めてきた首都におけ
しながら、2014 年日系建設会社はインフラ関係プ
るインフラ整備優先政策に代わって行われる、地方
ロジェクトにおいて目立った受注がなかった。さら
の活性化を目標とした現政権のインフラ整備政策に
に言えば、海外企業への参入障壁は年々高くなって
は疑問の声も挙がっている。12 月に迫った ASEAN
おり、継続的な受注がなければ今後事務所を維持す
経済統合も考慮し、優先的に進めるべきインフラは
るのも難しくなるのではないだろうか。
何なのか、しばらく議論が続きそうである。
また、インドネシア政府は、対外債務削減政策を
昨年(2014 年)のインドネシア経済は、2010 年を
維持すると共に、PPP(官民連携)事業の開放により
ピークに軒並み下落を続けている資源価格に足を
外資によるインフラ整備資金の調達を目論んでい
引っ張られ、また政治的に不透明感が漂っていたこ
る。電力 IPP は既に多くのプロジェクトが実施され
ともありリーマンショック以来の低成長となった。
ているが、水道ほかインフラの PPP は今後の課題で
しかし、日本企業の投資は自動車産業を中心に引き
ある。ASEAN 経済統合により環境のより整った国
続き旺盛であり、外資の直接投資も 2014 年第 1 四
へ投資が集中する可能性はあり、インドネシアは制
半期は前年割れではあったものの第 2、3 四半期と
度的には整備されているとされながらも外資による
緩やかに増加している。
PPP というスキームでのインフラプロジェクトはま
首都の不動産開発など多少バブルの香りが漂う中
だ実施例がない。
ではあるが、依然として続く人口ボーナスを背景と
円借款事業については、ジャカルタ都市交通鉄道
した内需拡大は心強い。国家の経済成長期に付きも
(MRT)プロジェクト以降少し足踏み状態が続いて
のである調整を繰り返しながら、インドネシアは力
いるが、次期大型案件としては、ジャワ・スマトラ
強く成長していくことは間違いない。
連携送電線、チラマヤ新国際港、MRT 南北線 II 期
新政権にとって非常にラッキーなのは、1 月から
などの名前が挙がっている。
変動制へ移行した補助金付き燃料価格が石油価格低
迷により安定していることである。過去の各政権に
とってパンドラの箱だった補助金削減による財政確
2015 2–3
27
3. インフラ整備事業
・ 都市大量輸送機関整備
国家開発計画庁によれば、インドネシアが国家と
・ 基本的なインフラ整備
して掲げる長期目標は以下の 3 つである。
・ 効果的かつ効率的な計画および資金調達
・ 2025 年までにひとり当たりの GDP を 1 万 4,500
しかし、具体的な目標値は挙げられているものの
ドルまで引き上げ、中所得国入り
・ 電力、上下水、および住宅の基本インフラ整備
(表 1)
、資金調達に目処はついていないというのが
・ 代替エネルギーとして原子力発電の導入
現状である(表 2)。一方で、国家開発計画庁は理想と
現実の狭間において長期的な資金調達計画を作成し
これらを受けた新政権のインフラ整備に関する中
期計画戦略は以下の通りである。
ている(表 3)。
これらの資料より、インドネシアには資金調達を
・ 国家安全保障のため、水、食料、電力の確保
含めた案件形成提案が必要であると考える。
・ 均衡の取れた開発実現のため国民意思の統一
表1 今後のインフラ整備の現状と目標
部門
電力
指標
単位
電化率
%
現状
目標
74
ひとり当たり消費電力量 kwh/capita
100
840 1,440
目標達成に
必要な資金
約10兆円
インフラ整備 政府
必要資金 予算
-
%
67
100
-2000
水道管整備率
%
27
60
-3000
%
33
20
飲料水利用可能率
%
55
85
衛生設備整備率
%
59
100
スラム率
%
12.1
0
持ち家率
%
78.87
90
約6兆円
国営企業 国営企業
予算① 予算②
不足分
-1000
浄化水利用可能率
上下水 無収水量率
住宅
表2 インフラ整備のための中期資金調達計画
民間主導 PPP
IDR(2,741)
政府主導 PPP
IDR(3,183)
簿外予算
IDR(3,831)
IDR(3,924)
IDR(4,124)
IDR(4,274)
-4000
-5000
約11兆円
-6000
IDR
(5,452)
IDR
(5,452)
出典:国家開発計画庁資料より抜粋
表3 理想と最低限のシナリオを含めた長期的な資金調達計画
理想的シナリオ
概要
2020年までに中所得国入り
投資金額(今後5年間) 約66兆円
資金源
課題
28
基本的シナリオ
最低限シナリオ
2020年までに中所得国入りに必要な国民 2020年までに中所得国入りに必要な国民
ひとり当たりGDPの75%達成、2025年に ひとり当たりGDPの50%達成、2030年に
中所得国入り
中所得国入り
約48兆円
約36 兆円
対外債務率31%(現状22.5%)
対外債務率22.5%(現状維持)
対外債務率16.9%(目標値)
オフ・バランス金融活用
オフ・バランス金融の積極的活用
オフ・バランス金融
インフラ整備の20%以上がPPP
インフラ整備の20%がPPP
インフラ整備の15%がPPP
実施には、官僚機構改革による強いコミッ 実施戦略の大胆な適用によって初めて
トメントとリーダーシップが必要
可能
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
実施戦略の となる要素の適用により
可能
4. 最後に
景気の良し悪しは、ゴルフ場のキャディに聞くと
京便の航空機の乗客で、以前は日本人が多くを占め
ていたが、
今は圧倒的にインドネシア人の方が多い。
分かるという。ゴルフは富裕層がたしなむことが多
東京直行便数も 2011 年では毎日 2 便であったのに
く、また、キャディにチップを弾む人びとの職種に
比べ、現在は毎日 6 便も飛んでいる。経済の基盤が
よって、景気のよい業界が分かるからである。話に
脆弱で、米国の経済政策などに大きく影響されるイ
よると、昨年で言えば石油・ガス業界、その前は石
ンドネシアであるが、中所得者層は明らかに増加し
炭・パームオイル業界だったそうだ。また、最近の
ており、世界経済の洗礼を受けながらも今後ますま
経済状況を顕著に表しているのは、ジャカルタ∼東
す発展していくことが予想されている。
2015 2–3
29
ベトナム
特集
高橋 徹[鹿島建設(株)ベトナム事務所 所長]/ベトナム支部
なお、賄賂を受け取ったベトナム鉄道総公社の元
1. ベトナムの状況
昨年(2014 年)のベトナムを振り返ると、3 月に発
職員 6 名は逮捕され、また国家予算および ODA 資
覚した日本の政府開発援助(ODA)プロジェクトで
金を利用して展開する重要鉄道案件はベトナム鉄道
の不正に関わる日系コンサルタント・リベート問題。
総公社から交通運輸省に移管されることとなった。
そして、5 月に発生した中国の南シナ海掘削に抗議
次に、5 月に発生した反中デモであるが、南シナ
する大規模な反中デモ。このふたつの出来事が、大
海での中国の石油掘削や中国とベトナムの船舶衝突
きく目立った一年であったという印象である。
で緊張が高まる中、13 日から 14 日にかけてデモに
最初に、鉄道建設コンサルタントのリベート問題
参加していた労働者の一部が暴徒化し、工業団地内
は、2008 年の ODA に関連してベトナムで発覚した
で過激な破壊・略奪行為に発展した。標的は中国企
日系コンサルタントによる現地政府高官への不正行
業であったが、台湾、日本、韓国などのアジア圏の
為に続いて、今回で 2 度目。日本政府はこの問題を
工場も巻き添えになった。特に、北中部のハティン
受け、新規 ODA を一時停止。ベトナム政府は迅速に
省では、台湾系製鉄所の工事を請け負った中国建設
対応し、関係者の即時職務停止・自宅待機。公安省
会社の現場がデモ隊に襲撃され、従業員・作業員合
も直ちに事実調査に乗り出した。日本政府はベトナ
わせて 130 名が負傷、4 名が死亡した。ベトナムは
ム政府が事実解明を積極的に進め、再発防止策のさ
貧困率が小さく、また貧富の差も比較的少ない国の
らなる強化に真摯に取り組んでいる姿勢を評価し、7
ひとつで、他の東南アジア諸国と比べても非常に治
月に新規 ODA の採択を再開した。腐敗認識指数は
安がよいとされている。そのベトナムで起きたデモ
116 位と世界でも比較的低い順位に位置するベトナ
暴徒化行為は日本でも大きく報道されたが、一部工
ムだが(表 1)、今回の汚職事件は現地政府公務員の間
業団地を除けば安定しており、私の住むハノイ市内
でも大きな話題になっており、ベトナム政府は腐敗
では小さなデモ行為は散見されたものの、完全に公
不正防止策を確実に進めていくものと思われる。
安管理下で秩序も保たれていた。
また、昨年はイオンモール 1 号店と 2 号店がホー
チミン市とビンズオン市に開店した。今年(2015 年)
表1 2014年 国別ランキング腐敗認識指数
順位
採点
国名
1位
91
デンマーク/ニュージーランド
5位
86
シンガポール
18位
74
日本
53位
50
マレーシア
94位
36
フィリピン
102位
35
タイ
114位
32
インドネシア
116位
31
ベトナム
140位
26
ラオス
157位
21
ミャンマー
160位
20
カンボジア
175位(最下位)
8
アフガニスタン/ソマリア/北朝鮮
30
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
には、イオンモール 3 号店と髙島屋がそれぞれハノ
イ市とホーチミン市に開店する予定で、飲食店を含
む日系サービス業のベトナム進出が加速しており、
ベトナム在住日本人にとっては日常生活が便利に
なってきている。
2. ベトナムの経済情勢
ベトナムは 2011 年の政府決議 11 号により、大胆
な金融引き締め政策を断行。成長から安定を重視し
た経済運営に舵を切った。2012 年からその効果は
如実に現れており、インフレは抑制。昨年も経常黒
しているものの、その足取りはまだまだ遅いのが実
字の維持、為替の安定そしてインフレ率低下を実現
情である。
し、経済は安定に向かっている。東南アジア主要新
一方、日本政府はベトナム政府への各種支援を積
興国では唯一、小さいながら 2 年連続で実質 GDP
極的に実施しており(表 2)、幹線交通・都市交通網
成長率が伸びたと見込まれている。
などの交通インフラ、そしてエネルギーの安定供給
比較的堅調なベトナム経済であるが、不良債権処
に関わる電力インフラに対して引き続き大型 ODA
理と国有企業改革という不安要素も抱えている。
供与を継続する意向。昨年は日本の ODA によるハ
ベトナム国家銀行は昨年末の金融機関不良債権比
ノイ・ノイバイ国際ターミナル工事、ハノイ・ニャッ
率を 3.6% と発表したが、2012 年に定められた新し
タン橋の大型重要工事が完成し、ベトナム市民の注
い基準を適用すると比率は 9% に跳ね上がる。さら
目を集めた(表 3)。今年も引き続き、昨年と同規模程
に、複数の海外格付け機関や研究機関からは 15% 程
度の ODA 工事出件が期待される。
度という推定値も公表されている。この 15% とい
外国直接投資(FDI)も安定的に推移している。3
う数字は、ベトナムの銀行全体の与信残高が GDP
年ぶりに増加した 2013 年の直接投資認可額 216 億
の 130% 程度と言われている中、不良債権全体が
GDP の 20% 近い金額となることを示しており、こ
表2 対ベトナム援助実績
年度
の比率は日本のバブル崩壊時の不良債権の GDP の
比率と同程度であると言えば、この問題の深刻度が
円借款
(単位:億円)
無償資金
技術協力
合計
2006
951
31
53
1,035
2007
979
21
52
1,052
理解できるのではないだろうか。政府は金融機関の
2008
832
27
60
918
債権分類や引き当ての厳格化を今年実施予定として
2009
1,456
35
61
1,553
いるが、不良債権処理はまだ道半ばの状況と言われ
ている。
ベトナム経済のもうひとつの不安定要素は、国有
企業改革であり、ベトナムの銀行の不良債権の 70%
は国有企業に対する貸付とも言われているのが現状
である。これは、国有企業が金融機関から比較的容
2010
866
35
72
973
2011
2,700
55
105
2,860
2012
2,029
17
85
2,132
出典:日本外務省
表3 最近の日越交換公文円借款案件
2013年12月 日越交換公文
1 ダニム水力発電所増設計画
75億円
易に融資が受けられる一方、民間企業は融資が受け
2 ハノイ市環状3号線整備計画(マイジック∼タンロン南間) 206億円
難いためである。政府による国有企業の管理・監督
3
は容易でなく、その民営化が急務とされている。
ベトナム政府の緊縮財政が続く中、建設・不動産
業の不振が目立っている。実質 GDP における建設・
不動産部門は 2012 年の最悪期からは少しずつ回復
261億円
2014年3月 日越交換公文
1
3. ベトナム建設市場の動向
ノイバイ国際空港第二旅客ターミナルビル建設計画
(第三期)
2
南北高速道路建設計画
(ダナン∼クアンガイ間)
(第二期) 301億円
南北高速道路建設計画
(ホーチミン∼ゾーザイ間)
(第三期)
185億円
(第二期)
3 ラックフェン国際港建設計画(港湾)
211億円
(第二期)
4 ラックフェン国際港建設計画(道路・橋梁)
169億円
5 タイビン火力発電所および送電線建設計画(第二期)
364億円
出典:日本外務省
※小数点以下は四捨五入
2015 2–3
31
ドルに比較すると、昨年(年初∼ 12 月 15 日)は 202 億
右翼として製造拠点の進出を進めてきたベトナムだ
ドルと若干減少しているものの、年間目標を約 20%
が、近年の急激な円安により投資は減少しており、
上回っている。
現在は日系メーカーによる工場建設は様子見の状況
業種別では製造業が 72% と突出しており(図 1)、
となっている。
ベトナムへの製造シフトが続く中、工業団地・工場
の新規建設・拡張が継続している。
4. 最後に
ベトナムは今後の経済発展が期待されるメコン
図1 2014年FDI
経済圏の中心国であり、そこにはベトナム、ラオス、
カンボジア、タイそしてミャンマーの 5 カ国を合わ
せた人口 2.5 億人を有するひとつの巨大経済圏が形
その他
建設 10%
5%
成されつつある。今後メコン経済圏がさらに発展す
るためには、経済圏内の国々を結ぶ幹線道路、東西
不動産
13%
回廊と南部回廊(第 2 東西回廊)の物流インフラ整備
製造業
72%
と周辺の工業団地整備が重要であり、それらに対す
る多額の建設投資が期待されている(図 2)。メコン
経済圏という観点からも、ベトナムはわれわれ建設
業企業にとって、引き続き魅力ある市場であり、今
後も有望市場として発展していくものと思われる。
しかし、国別認可額では韓国が 1 位で日本は 4 位
となっている(表 4)。また、その内訳を見ると、シン
ガポールの直接投資の 70% 程度はサムソングルー
プによるもので、それを合わせると韓国による実質
的投資はもっと大きくなり、全体の半分を超えるま
でになる。日本にとってチャイナ・プラスワンの最
表4 国別海外直接投資額
(単位:百万USドル)
2014年12月15日
2013年
まで
順位
国名
投資額
国名
2012年
投資額
国名
3,752 日本
投資額
韓国
6,128 韓国
2
香港
2,803 シンガポール 3,014 韓国
757
3
シンガポール
2,310 中国
2,277 香港
550
1,295 シンガポール
488
1
4,007
4
日本
1,210 日本
5
台湾
512 香港
604 中国
302
6
中国
254 台湾
400 台湾
192
出典:ベトナム計画投資省
32
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
図2 今後期待されるメコン経済圏の整備
特集
インド
池尻 茂樹[(株)三井住友建設インド社 社長]/インド支部
1. インド経済の今後の見通し
昨年(2014 年)5 月のインド下院選挙で過半数を獲
得したインド人民党(BJP)が政権与党となり、党首
(政府発表資料より建設、インフラ
協力関係を表明した。
に関する事業を抜粋)
1)インフラモデル事業として、グジャラート州(運
の元グジャラート州首相のモディ氏が第 15 代イン
河上)への太陽光発電プラントの設置。
ド首相に任命され、インド経済の復活が期待されて
2)アッサム州、グワハティ下水道整備計画。
いる。既に日本、中国、アメリカなど主要各国首脳
3)DMIC による新世代スマートコミュニティプロ
とは相互訪問を果たし、政治外交の面では新聞紙面
ジェクトの創造。
のトップを飾るほどの活躍で、世界中がインドに注
同時に、ニムラナ地区太陽光発電事業、ダヘジ
目しているという現状である。
海水淡水化事業計画、発電プラント。
その一方で、インドの経済面では政権交代による
劇的な市場変化は起きておらず、経済効果が発揮さ
4)チェンナイ∼バンガロール間産業回廊(CBIC の
構想計画の促進。
れるまでには少々時間がかかると見られている。し
5)道路交通、高速道路分野での支援協力。
かしながら、今年(2015 年)のインドの GDP の成長
6)石炭火力発電所建設協力、同時に環境に優しい
率は 6% 台と予測する経済記事を多く見かけるよう
クリーンテクノロジーに関する技術支援。
になってきており、インドの経済は緩やかではある
7)再生可能エネルギー分野における技術協力。
が右肩上がりの状況であると認識している。
8)ムンバイ∼アーメダバード路線の高速鉄道計画。
新政権の経済施策方針は以下の通りである。
9)アーメダバード、メトロ事業への継続的な政府
開発援助(ODA)支援。
1)インフラ分野
貨物鉄道、高速道路の整備、産業大動脈計画の推
インドの大型インフラ投資は、①自国の資金にて
進、風力・原子力を含むエネルギーインフラ整
政府主導のインフラ事業、②日本政府や外国政府に
備、PPP(官民連携)の活用。
よる融資支援をベースに展開するインフラ事業、③
2)対内直接投資
民活(PPP)を活用した事業に大別される。インド政
雇用創出や技術レベルの向上に繋がる対内直接投
府は第 12 次 5 カ年計画(2012∼ 2017 年)ではインフ
資を積極的に受け入れる。
ラ整備に前の 5 年間の投資額の 2 倍にあたる 1 兆米
3)行政効率化
ドルを投じ、そのうち 50% 前後は民間投資を想定
IT の導入を通じた行政効率化、税制の簡素化・
している。民間企業のノウハウを活かした、スピー
GST の早期導入
ド感のあるインフラ事業の展開が期待されている
が、現実的には諸問題があり投資実態は常に遅れが
2. 日本政府によるインフラ支援事業とPPPの問題点
ちになっている。
モディ首相は昨年 8 月 30 日から 9 月 3 日にかけて
その主な問題は、①土地問題、②環境規制や各種
日本を公式訪問し、安倍首相との首脳会談を行い、
申請窓口の煩雑さ、③資金調達の 3 点にある。
両首脳は以下のようなインフラ整備事業への支援、
まず、①土地問題であるが、インドでは土地の収
2015 2–3
33
用が迅速に実施されることは本当に稀で、多くの場
で日系企業によるインドへの投資が今年後半より加
合、土地の収用は予定通り実施できておらず、州政
速すると予想される。また、中国のインド進出も加
府開発地ですら地主と延々と個別交渉をすること
速しており、中国習近平国家主席の中国企業工場建
になり、開発事業の開始の目処が立たないケースが
設誘致要請から、既に数社の大手中国企業がインド
多く見られる。そのため、多くのインフラ事業は事
での工場建設や研究所の建設を表明している。さら
業体の経営体力次第という現状があり、また、イン
には本年 1 月中旬、グジャラートで開催された投資
ドは環境規制が厳しく、公聴会などで住民からのク
誘致会議において「各国企業による 2 兆円の民間投
レームが付くことも多く、民事裁判所へ訴えられる
資」がプレス発表されており、いよいよ本格的にモ
ケースもあるなど、事業計画自体が大幅に遅れるこ
ディ首相による経済活性化が動き出すのではないか
ともある。現在、政府が手掛けるインフラ事業のう
と期待されている。
ち、約 80% 以上の工事が土地収用問題、環境問題、
資金不足などが原因でインフラ事業の多くに遅れが
2)マンションなどの住宅産業
生じていると報告されている。
昨年度の住宅販売は大きく減退したと認識されて
なお、インドの主要なインフラ事業は投資金額順
いるが、需要に対しての供給は足りておらず、新た
に①電力、②道路橋梁、③通信、④鉄道、⑤灌漑、⑥
な住宅建設ブームも期待されている。また、近年の
上下水道となっている。
インドの社会背景として、急速な都市化、核家族化
現在、日系商社・インフラメーカーはインドでの
により大都市における人口は全体の 50% を超える
インフラ事業への積極的な投資、参画を計画検討し
との予想があり、今後ますます低価格住宅の需要が
ており、今後の活躍が期待される。
増え、それらを中心とした住宅開発が加速すると見
られる。富裕層向けの販売価格 1 平米 10 万ルピー以
3. インド民間建設の見通し
上の高級マンションの需要は常に一定の水準を保っ
インド国内で展開されている大型インフラ事業以
ており、順調に推移していくと思われるが、今後の
外の純粋な民間主導の設備投資をベースにした「建
住宅産業の主役はやはり「中・低所得者向けの住居
設市場の内訳」は、①製造業に伴う工場建設・工場
市場」であり、インドの大手不動産会社などは既に
団地開発などの投資計画、②マンションなど販売を
低コスト住宅の開発へと舵を切っている。
目的とした不動産投資、③事務所ビルやショッピン
グセンター商業施設事業、④その他投資(医療、病院、
教育施設)などに分類できる。
3)事務所ビル、
ショッピングセンターなどの商業施設
大型商業ビルやショッピングセンターなどの建設
施設は、デリー近郊のグルガオン地区やムンバイな
1)工場などの設備投資
どの大都市やその近郊では建設が進められているが、
昨 年 9 月 に 安 倍 首 相 は 今 後 5 年 以 内 に 新 た に
そのほかの地方都市では未開発の状況である。要因
1,000 社規模の日系進出企業を支援することを公表
としては、土地の収用問題と同時に投資とリターン
した。それにより、日本政府の支援を受けるかたち
のバランスが成立しないことなどが挙げられる。
34
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
4. インド国内の日系企業進出状況
参考資料:インド国内日系進出状況図(2013年データ)
現在インド国内では、2,300 カ所の拠点で日系企
デリー地区:
日系企業進出数:710拠点
日本人会登録者数:2020
(推定在留者数:3,500名)
業の皆様が営業活動されており、同時に 7 千人以上
の日本人がインドで生活している。参考までに、日
系企業進出状況を以下の通りご紹介します。
グジャラート地区
日系企業進出数:84拠点
推定日本人在留者数:50名
ムンバイ地区
日系企業進出数:
107拠点
日本人在留者数:
575名
プネ地区
日系企業進出数:397拠点
日本人在留者数:192名
バンガロー地区
日系企業進出数:300拠点
日本人在留者数:790名
(推定在留者数:900名)
コルカタ地区
日系企業進出数:15拠点
日本人在留者数:75名
ハイデラバード地区
日系企業進出数:15拠点
日本人在留者数:45名
チェンナイ地区
日系企業進出数:523拠点
日本人在留者数:700名(推定在留者数:1,000名)
2015 2–3
35
特集
トルコ
森脇 義則[(株)安藤・間 トルコ建築作業所 所長]/トルコ支部
1. 大統領選挙後のトルコ
な人気を誇るエルドアン大統領の任期中に憲法が改
昨年(2014 年)8 月 14 日、トルコ史上初となる国
正され、エルドアン大統領が強大な権力を得れば、
民投票による大統領選挙が行われ、与党公正発展党
大統領制 = 独裁制になりかねず、民主主義は崩壊の
(AKP)党首のエルドアン首相が、約 52% の得票率で
危機に陥る」と大統領制を危険視する見方を示して
過半数を獲得し、野党推薦の 2 氏を抑え大統領に当
いるが、
「野党は制度としては反対をしていない。要
選した。
は、エルドアン以外の大統領を望んでいる」との論
エルドアン大統領は、これまで首相を 2003 年よ
評も見られる。
り 3 期(任期 4 年)務め、在任中には長年続いてきた
インフレを抑制し、国営企業の民営化や欧州連合
(EU)加盟を見据えた多くの経済構造改革を成し遂
言論の自由
2. 民主主義と宗教、
昨年末から今年の年始にかけて、
民主主義と宗教、
げてトルコ国内の経済を安定させ、成長路線へと導
そして言論の自由について考えさせられるような出
いてきた。一方で、イスラム色を前面に出した AKP
来事が続いたので、それらについて少し紹介する。
の政策により、建国以来禁止されてきた大学や公共
の場でのスカーフ着用が認められるようになり、夜
2014 年 12 月 14 日早朝、トルコ 13 県においてメ
間のアルコール飲料販売が制限されるなど、着実に
ディアに対する同時捜査が警察当局により行われ、
国内にイスラム教色を浸透させてきた。また、国の
「国家主権の掌握を試みる集団の結成」の容疑でト
基本方針とされる政教分離の守護者を自任する軍部
ルコ有力紙『ザマン』の編集長など 27 人が逮捕され
が徐々に弱体化され、AKP との確執がなくなったこ
た。逮捕者の中には同列テレビ局のディレクターや
とから、野党からは「民主主義の後退」を懸念する
プロデューサー、
複数の警察関係者が含まれていた。
声が挙がっている。また、エルドアン大統領は首相
逮捕された『ザマン』の編集長は、エルドアン大統
就任中、大統領制に関して幾度となく触れ、大統領
領と対立する米国在住のイスラム聖職者ギュレン師
制下でトルコはさらに発展できると豪語している。
と密接な関わりを持っているとされており、いわゆ
今年(2015 年)6 月の総選挙では、与党 AKP は議席
る国家転覆を企てたテロリズムを未然に防ぐことが
を上積みして必要な議席数を獲得して憲法改正を行
今回の捜査の目的とされている。
い、強大な権力を有する大統領制移行を目指す予定
この事態に対し EU は、
「報道と言論の自由を侵害
だが、野党は「憲法を無視した越権行為」と大統領
する今回の事件は、民主主義への挑戦である」と、
制に反対の意思を示している。
トルコを批判した。また、トルコ国内でも野党から
また、エルドアン大統領は今年に入り、大統領官
強い批判の声が挙がったが、エルドアン大統領はそ
邸に政府閣僚を招集して閣議を開催したり、トルコ
れに動じず、同月 17 日のコンヤ県での高速鉄道開通
中央銀行に対し強硬に利下げ実施を主張する発言を
式典で EU からの批判に触れ、
「EU はわれわれに民
するなど、その歴代大統領にない行動から、メディ
主主義が何たるか教えようとしているらしいが、逆
アからはダウトオール前首相を上回る注目を浴びて
にわれわれの方から民主主義を教えてさしあげま
いる。一部のメディアは「野党各党は、カリスマ的
しょう」と切り返し、AKP 支持者の多いコンヤ市民
36
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
の大歓声を受けており、このようなところにもエル
また、住宅建設部門の成長率は、2014 年第 3 四半
ドアン大統領の民衆の心を掴むカリスマ性が見受け
期の− 3.5% に比べ、5.3% と上昇に転じたものの、
られる。また、2015 年 1 月 7 日にはフランスで、パ
11 月までの販売戸数で比較してみると、前年実績の
リの風刺週刊誌本社を複数の武装した犯人が襲撃
− 1.1%(103 万戸)となっている。特に 2014 年 11 月
し、12 人が犠牲になるという痛ましい事件が発生し
からの落ち込みは顕著で、2014 年第 1 四半期より下
た。フランスでは犠牲者を悼むための大行進が催さ
降傾向であった住宅ローン金利が同月に平均 0.91%
れ、そこにダウトオール首相も参加した。その後、ブ
上昇したことが一要因として挙げられる。また、エ
リュッセルやロンドンなどでも相次いで追悼行進が
ルドアン大統領の利下げ要求発言や 2015 年 6 月の
行われたのは記憶に新しい。
総選挙をにらんで、消費者に「待ち」の心理が働い
しかし、その事件の後、フランスの風刺週刊誌
ているのも要因のひとつと言えるかもしれない。
『シャルリー・エブド』がイスラム教の預言者を戯
これに対し不動産関係者は、住宅の多くが中間・
画化した表紙の新刊を発行し、その内容をトルコ有
高所得者層をターゲットに新築され、高級でブラン
力紙『ジュムヒュリエット』が掲載したため、パリ
ド力のある住宅が多く供給されており、需要の多い
の大行進に参加したにもかかわらず、ダウトオール
低所得者向けの経済的な住宅の供給が不足している
首相は「報道の自由は、侮辱の自由を意味しない」
という過不足による住宅在庫の消費の停滞が、住宅
と、フランスとトルコの出版社両方を批判すること
建設部門の停滞に繋がっていると指摘している。テ
となった。
レビコマーシャルを見ても、高級なマンションやマ
ンションとショッピングモールの複合施設が大手企
3. 2015年建設動向と見通し
1)国内建設事情
業により建設され、販売合戦を行っているという印
象を受ける。
トルコの経済成長率は、2014 年第 3 四半期には当
初の予想を下回る 1.7% に留まり、過去 2 年間で最
その一方で、2023 年の建国 100 周年に向けたイ
も低い成長率となった。前年同時期には 4.4% を記
ンフラ整備は着々と進行している。主なプロジェク
録し、成長率では G20 の中で第 6 位に位置していた
トは以下の通りで、2017 年までにはすべての完成
が、2014 年は 17 位と、南アフリカ、ブラジルと共
が予定されている。住宅建設・販売が不調であれば
に最下位に沈んでいる。個人消費の低迷と、シリア
あるほど、大きなプロジェクトで業界を牽引したい
情勢の緊迫化に起因する直接投資の低迷がその一要
という思いが建設業界では根強く、建国 100 周年に
因となっているようである。また、トルコ建設業の
向けた今後のプロジェクトにも期待を寄せているの
成長率もわずか 2.2% を記録。前年同時期の 7.4%(ト
が実情である。
ルコ全般 4.0%)をはるかに下回り、経済成長の牽引
・ 第 3 ボスポラス大橋「ヤウズ・スルタン・セリ
役としての主役を演じ切れなかった。前年同時期に
ム橋」
2015 年中完成予定
38% の成長率を記録していた公共投資が、わずか
・ イスタンブール海峡道路トンネル 2017 年完成予定
0.7% の成長に留まったことが大きいと見られる。
・ イズミット湾横断橋(IHI) 2016 年完成予定
2015 2–3
37
・ イスタンブール第 3 空港 2017 年第一期工事完
左右されやすいと言える。また、トルコ建設企業が
これまでの受注額の約 19% を占めるロシアからの
成予定
・ 第 1、第 2 ボスポラス大橋大規模補修工事(IHI)
受注が低迷しており、これには同国の通貨危機や経
済的混乱が 2014 年の受注額低迷の一要因として挙
2015 年完成予定
げられる。
2)国外でのトルコ企業の動向
一方、トルコ企業が請け負った案件の平均受注額
近年、トルコの建設企業は国外において着実に受
を見ると、前年の 8 千万ドルから、2014 年は 8 千 8
注実績を伸ばし、
『Engineering News Record(ENR)』
百万ドルへと増加しており、空港や地下鉄、道路、
誌に掲載された、
「2014 年度建設企業世界 TOP250
鉄道、工業施設などの重要なインフラプロジェクト
社」の中に 42 社が名を連ね、企業数では中国(62 社)
を受注した結果と、トルコ建設業界は捉えている。
に次ぎ第 2 位(受注額では全体の 3.8%)となるなど、世
界でも揺るぎない地位を確保したと言える。
3)2015年への展望
ただ、2014 年 9 月までの受注額は 225 億ドルで、
今年は選挙の年ということもあり、国内では、第
前年同時期の 313 億ドルに比べて 28% の減少と
1 四半期から第 2 四半期にかけて固定資本投資より、
なった。その最大の原因は、トルコ企業の国外にお
地上や地下の基盤整備建設などの公共資本投資が優
ける活動地域の場所である。トルコ建設企業は、そ
先されるという見方が一般的で、住宅需要について
の活動地域の実に 9 割近くが、北アフリカ∼中近東
は少なくとも 6 月の選挙までは様子を見ることにな
∼旧ソ連諸国に集中しており、シリアやイラク政情
ると予測する。
また、昨年より既に供給過剰の状態であった住宅
の混乱やロシアとその周辺諸国の情勢に受注実績が
図1 トルコ建設業界の国外における受注額の推移(2001-2014)
(10万米ドル)
32.6
35
(第3四半期までは、31.3)
29.7
30
24.3
25
25.7
25.0
21.7
23.0
22.5
21.0
20
15
11.7
12.4
2004
2005
10
5
0
2.4
2.6
2001
2002
4.6
2003
出典:トルコ経済省
38
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
(第3四半期まで)
戸数は、第 3 四半期にさらに前年同時期より 39% 増
おいて、これらのインフラ整備のプロジェクトが進
え(図 1)、在庫過剰の状態は続いてはいるが、金利の
展するかどうかなど不安定要因も多々あることか
動向や選挙の結果によっては変化が見られる可能性
ら、過度の期待はできないであろう。
もある。
今後トルコ建設業界は、地理的リスクを軽減する
国外に関しては発展途上国、とりわけ近隣の湾岸
意味でも、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国や、南米
諸国や旧ソ連諸国での、地下鉄、鉄道、空港、高速道
諸国をターゲットに、トルコ輸出入銀行の保証枠設
路などのインフラ整備プロジェクトにトルコ建設業
定や、同行とアメリカ輸出入銀行との協調融資の可
界は今後も注目していくことになるが、原油価格の
能性を探りながら、
これらの地域への視察を通して、
下落により歳入減に陥った湾岸諸国において、また
受注案件の開拓を模索していくと思われる。
政治不安や経済危機にあるロシアやその周辺諸国に
トルコ建設業界の国外における受注プロジェクト内訳(2014)
その他 16.4%
ビル 2.6%
道路・橋梁・トンネル 26.4%
石油化学施設 2.8%
観光施設 2.8%
医療施設 3.2%
鉄道 12.7%
産業施設 5.1%
発電所 5.9%
住宅 9.8%
ビジネスセンター 12.3%
出典:トルコ経済省
2015 2–3
39
特集
エジプト
加藤 信悟[大日本土木(株)カイロ営業所 所長]/エジプト支部
れた(表 1)。また、電力料金は需要量によって 10∼
1. エジプト経済概況
2011 年 1 月に起こった政変、およびそれ以降に続
50% 値上げされたが、来年度以降にさらなる価格引
いた騒乱・混乱の中で大きな打撃を受けたエジプト
き上げが見込まれている。また政府は、地下鉄料金
経済は、紆余曲折を経て昨年(2014 年)6 月 8 日、新
の値上げを検討すると共に、赤字縮減策としてこれ
たに誕生したエルシーシ政権によって、政権発足直
まで引き延ばされていた公的金融機関への賃金上
後から経済再建政策が実行されている。
限設定を正式決定した(JETRO 中東レビュー、三菱東京
エルシーシ大統領は昨年の就任直後、赤字縮減緊
UFJ 銀行 カイロレポート)。
縮財政政策を打ち出し、増税とエネルギー補助金の
エネルギー価格の引き上げは製造および輸送コス
削減を実行した。主なエネルギー価格の引き上げは
トの上昇に直結するため、諸物価 ・ サービス価格の
昨年 7 月 3∼ 4 日に発表され、翌 5 日から実施され
上昇が懸念され、特にミニバスなどの民間輸送業者
た。この価格改定によって、ガソリン・産業向け天
は、突然のエネルギー価格引き上げに抗議すると共
然ガス・電力について、大幅な価格引き上げが実施
に、運賃の大幅値上げを模索した。これに対し政府
された。
は、エネルギー価格改定の必要性について説明し、
たとえば、ガソリン価格の改定は 2008 年以来で、
便乗値上げを禁止し交通機関への価格監視体制を強
需要の約 55% を占める 80 オクタン・ガソリンの価
化した。また、価格改定に伴う社会混乱を防ぎ、低
格は 1 リットル 0.9LE(エジプト・ポンド)から 1.6LE
所得者層の経済的な負担を減らすとして、軍による
(日本円にして 12.6 円から 22.4 円)へと 78% 値上げさ
バス運行や安価での食糧販売が発表された。
エネルギー価格引き上げは 7 月のインフレ率に
表1 エネルギー価格の改定
品目
(1LE=17円)
旧価格
(LE)
新価格
(LE)
値上げ率
(%)
反映され、消費者物価指数は前月比で 3.51% 上昇
した。中央銀行によれば、そのうち 1.52% がエネル
ギー価格引き上げの直接的な影響であったとされ、
80オクタン
0.90
1.60
78
92オクタン
1.85
2.65
43
ディーゼル
1.10
1.80
63
一般産業向
2.0
5.0
150
インフレ率上昇懸念に対して、中央銀行(金融政
発電向
1.3
3.0
140
4.0
4.5
13
策決定委員会)は 7 月 17 日に政策金利(オーバーナイト
セメント産業向
6.0
8.0
33
鉄鋼・ガラス産業向
4.0
7.0
75
2013 年 3 月以来であり、その目的はインフレ抑制で
0.05
0.075
50
−
0.145
−
あると説明された。政策金利は、投資拡大を促すた
0.12
0.16
33
電力料金 201∼350kWh
0.19
0.24
26
れたが、今回の引き上げによって昨年 8 月の水準ま
で戻された(JETRO アジア経済研究所 中東レビュー)。
ガソリン
天然ガス 肥料石油化学産業向
~50kWh
51~100kWh
101~200kWh
351∼650kWh
0.29
0.34
17
651∼1000kWh
0.53
0.60
13
1000kWh~
0.67
0.74
10
出所:JETRO 中東政治経済レポート
40
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
また、年率のインフレ率は 11.04% となり、4 カ月ぶ
りに 2 桁となった。
預金および貸出)を 1% 引き上げた。金利引き上げは
めに 2013 年 8∼ 12 月に 3 度にわたって引き下げら
昨年 12 月時点での 2013/14 年度第 4 四半期経済成
長率は、前年度同期(1.56%)を大きく上回る 3.7% を
記録し、国際収支では経常収支赤字 24 億ドル、資本
およびアダビヤ港・ソフナ港などの港湾施設改修プ
収支黒字 49 億ドル、外貨準備高は 15 億ドル増とし
ロジェクトのほか、スエズ湾北西部工業団地造成事
ている。しかし、外貨準備高はカタールへの 25 億ド
業などの立案が考えられ、またこれに関連する道路
ルの返済を行ったため 11 月末現在 158.82 億ドルと、
網整備、電力供給・配電網整備、上下水道施設建設
過去 6 カ月間で最低水準となった。
など、大型建設案件の需要が期待されている(表 4)。
その一方で、日本の ODA 案件に関しては、長らく
2. 2015年エジプト建設市場の動向
こうした緊縮財政政策によって財政収支の改善を
停滞気味であった「カイロ地下鉄 4 号線」について、
近々 PQ 審査が開始されるかとも言われており、早
図るその一方で、政府は企業活動の活性化を通じた
経済成長・再建を念頭に、住宅・交通インフラ・電力・
水道の 4 分野の整備に、公共政策予算の 6 割強の支
表2 新政権下で決定された主な公共事業
分野
予算配分比率
出を計画。また、計 3,200 キロメートルに及ぶ道路
建設、中小企業活用のための企業設立(資本金 200 億
LE)、原子力発電所の建設など、いくつかの大型開発
プロジェクトが表明された(表 2)。
そのうちのひとつとして、昨年 8 月 6 日から、軍
住宅施設 34%
・カリュービヤ県(カイロ県北隣)などに集合
住宅建設
・カイロ東郊・西郊・南郊の新興住宅地の
開発促進
・カイロ東郊の旧製革場を産業地区に再開発
電力
水道など
20%
・スエズ県アインソフナ発電所およびギザ県
北ギザ発電所に火力タービンを追加
・ギザ県(カイロ県西隣)を中心に各地の上
水道整備
運輸
交通
15%
・中部ケナー・東部サファーガ間道路建設
完了
・カイロ地下鉄4号線建設開始および一部
運転開始
農業
5%
・新ワディ県(西部砂漠地帯)などの農地開
発促進
保健
医療
4%
・総合病院の数を前年度合計の4倍に増加
・過疎地の診療所数を合計78カ所に増加
と国内企業 33 社による国家プロジェクト「スエズ
運河拡張工事」が開始された。工期 1 年で既存の水
路に平行する延長 72 キロメートルの運河を建設す
る計画で、その費用はエジプト国民を対象として売
り出された「スエズ運河投資証券」が原資とされる
ことが発表された(表 3)。
3. 2015年エジプト建設市場の見通し
スエズ運河本体拡張と同時に、スエズ運河沿線地
域での新たな港湾施設、工業団地造成、道路インフ
ラの整備なども予定されている。そのマスタープラ
ン作成コンサルタントとして、バハレーンを拠点と
注:予算配分は「経済活性化緊急計画」と「経済・社会開発計画」を合算
出所:JETRO AREA REPORT 2014/2015年度「経済・社会開発計画」
(計画省)
表3 スエズ運河拡張工事概算内訳
工種
掘削工(陸上部)
(35km)
LE
工費
USD
40億
5.5億
150億
21億
100億
13億
護岸工事
なる企業連合が 8 月に選定され、現在同企業連合に
このマスタープランから、ポートサイド東部港湾
工費
浚渫・河床掘下げ・拡幅(37km) 2.42億m3
フェリーボート・航法支援
が実施されている。
工事数量
2.58億m3
する Dar Al-Handasah 社とエジプト軍関連企業から
よって、約 8 カ月をかけたマスタープラン作成作業
2014/15年度における主な事業内容
合計(掘削・浚渫ほかCivil分)
トンネル
軍事施設
概算総工費
6カ所
290億
40億
289億
40億
21億
2.89億
600億
82億
2015 2–3
41
案件も後に続いており、今後スムーズな運営加速が
急な動きが期待されている。
さらに、ボルグエルアラブ空港拡張事業、ダイ
切望される。
リュート堰群改修事業など STEP 円借での実施可能
図1 スエズ運河拡張工事計画図
写真1 スエズ運河拡張工事①
出所:Suez Canal Authority
写真2 スエズ運河拡張工事②
写真3 スエズ運河拡張工事③
表4 外資企業の対エジプト事業動向(2014年6∼7月半ば)
企業名
アフトワズ
国籍
ロシア
事例内容
米国
Al Amal 社と新型車の生産委託を協議
アレキサンドリア県での油田開発事業(100億ドル規模)を3年ぶりに再開。2017年の生産開始を目指す
ジュース工場および乳牛場建設に5億ドルの投資を検討
複数の太陽光発電事業(計1億ドル規模)を検討
英国
南ワディ石油公社と油田開発協定を締結
ドレイク・アンド・スカル
UAE
フィアット
イタリア
Gilbertaro
IBM
Mac Optic
インド
英国
BP
Beyti
Consilio
Dana
サウジアラビア
マリオット
米国
Carbon Holdings よりスエズ運河沿いの石油化学工場団地の建設・開発事業を受託
Nile Engineering と自動車代理店契約を締結
電力省より配電事業(1億ドル規模)を受注。スペインのガメサが建設中の風力発電所と電力網を繋ぐ
情報技術産業開発庁(ITIDA)
と共同でソフト会社100社にクラウドコンピューティング技術研修事業を実施
スエズ湾岸に国内最大規模の石油精製所建設を計画。その他の事業を含め100億ドル規模の投資を検討
今後3年間でホテル新設に150億ドルの投資を検討
ネスレ
スイス
ギザ県西部に製菓工場を建設。同国では初の生産拠点
ペプシコ
米国
炭酸飲料などの国内生産強化を検討
上海明
中国
大塚ホールディングス
日本
三菱重工・豊田通商
日本
米国
ギリシャ
太陽光発電事業に200億ドル規模の投資を予定
現地子会社を通じ Ateco Pharma(製薬)を孫会社化
上エジプト発電公社より南ヘルワン火力発電所向け蒸気タービン発電機(カイロ県南部)を受注
出所:JETRO AREA REPORT
42
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
4. 終わりに
再発は見られないが、イスラム過激派の脅威がなく
上述したように、政権発足直後から補助金改革・
なったわけではなく、高止まりが続く失業率、貧困
スエズ運河拡張事業の実施など経済発展に向け始動
率の増加など、テロを誘発する要因は依然として好
した政権ではあるが、直面する課題も多く残されて
転の兆しはなく、今後とも注視する必要に迫られて
いる。治安情勢も懸念材料のひとつで、エルシーシ
いる。
政権発足以降は、シナイ半島を除いて大規模テロの
2015 2–3
43
特集
英国
清水 邦保[ヨーロッパ竹中 副代表]/ロンドン支部
1. 英国経済
2. 英国政治
英国の今年(2015 年)の実質 GDP 成長率は、昨年
昨年 5 月の欧州議会選挙では既存政党の支持率が
(2014 年)の見通しの 3% から 0.6% 減速した 2.4%
低下し、反欧州連合(EU)・反緊縮・反移民などを
と予測されており、下振れの主な要因は外需の停滞
掲げるポピュリスト政党が支持を伸ばし、欧州各国
と個人消費の減速と見られている。
の共通課題を反映する結果となった。また 9 月のス
また、今年の消費者物価指数上昇率は 1.2% と政
コットランドの英国からの独立を問う住民投票は、
府目標を下回る水準と予想され、2% に戻るのは
僅差で残留となった。今年 5 月には 5 年ぶりの下院
2017 年以降と予想されている。
選挙が予定されているが、
「ウェストミンスター・
一方で、雇用情勢は、昨年の失業率 6.2% から今
モデル」と呼ばれる、小選挙区・二大政党を中心と
年は 5.4% へと改善する見通しとなっており、政府
する 19 世紀以来続いてきた英国の議員内閣制シス
財政は緊縮財政の成果として、戦後最大の財政赤字
テムが今後も引き継がれていくのか注目を浴びてい
を記録した 2009 年の GDP 比 10.2% から 2015 年は
る。ここ数十年で最も結果が予想しがたい混戦模様
4.0% まで低下する見通しとなっている。
の選挙戦となっており、保守党、労働党ともに支持
率は 30% 前後で拮抗しているが、反 EU 党、英独立
党、スコットランド独立党など、国政レベルではあ
主要経済指標
2014年
2015年
1.7
3.0
2.4
個人消費支出
1.6
2.3
2.8
政府消費支出
0.7
1.1
△0.4
総固定資本形成
3.2
8.1
8.4
輸出(財貨・サービス)
△1.6
なるとの見方が広がっている。
0.5
2.4
輸入(財貨・サービス)
0.5
△0.8
3.9
一方で、保守党が勝利する場合には、2017 年に
②消費者物価指数上昇率(%)
2.6
1.5
1.2
EU 離脱の是非を問う国民投票が控えており、今後
③賃金上昇率(%)
1.8
1.8
2.0
④失業率(%)
の英国の行方は、英国国内の問題だけに留まらず、
7.6
6.2
5.4
中長期的な欧州情勢を見据える上で、きわめて重要
①実質GDP成長率(%)
(実績) (見通し)(見通し)
⑤国際収支(億ポンド)
経常収支
△724.0 △838.0 △646.0
貿易収支
△321.0 △276.0 △309.0
⑥その他重要指標(%、GDP比)
△5.6
△5.0
△4.0
公的財務残高
78.8
80.4
81.1
⑦為替レート
(1ユーロ=ポンド)
0.83
0.78
0.80
財政収支
(注)⑦の2013年は年平均値、2014年は12月3日値。2015年は第4
四半期末値。
(数 値 の 出 所)① ∼ ④、 ⑤ の2014・2015年、 ⑥ は 予 算 責 任 局
「Economic and fiscal outlook December2014」。 ⑤ の2013年 は
国民統計局(ONS)。⑦の2013・2014年はイングランド銀行スポッ
トレート、2015年はロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)
(出典:JETRO通商弘報 )
44
まり問題にされたことがなかった小政党が、議席を
2013年
項目
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
伸ばす可能性が高く、保守、労働党ともに下院 650
議席の過半数 326 議席に達せず、国会が機能しない
状態となる「ハングパーラメント(宙吊り)」議会に
である。
3. 英国建設市場の概況・動向
英国経済は、住宅価格や株価の上昇を背景とした
消費マインドの改善により、景気回復が牽引されて
おり、住宅市場の動向が個人消費マインドの行方
を左右すると見られている。住宅価格の上昇率は
2014 年が 10.2%、2015 年が 7.4% と減速するもの
の、依然高い水準が予想されており、この傾向を維
持するために、2014 年 12 月 4 日から住宅購入に係
2018 年の終わりには、上昇率は 43% に達すると見
わる印紙税の見直し「住宅価格に応じて 0∼ 12% の
込まれており、恩恵にあずかる人びとは期待を寄せ
税率を課す超過累進税率」が財務相から発表され、
ている。
住宅購入者の 98% が減税の恩恵を受けるものであ
2)洋上風力発電施設計画
るとコメントしている。
2020 年までに、7,000 基以上の洋上風力タービン
一方で、金融危機以前の最高値だった 2007 年の
を域内に建設し、イギリスの国内電力消費の 30%
ロンドンの住宅価格より 30%∼ 40% も上回った昨
を供給するという計画。当初の予定より遅れてはい
年の住宅平均価格は今年に入って、伸びが鈍化して
るが、現在着々と進んでいる。日本の三菱重工とデ
きており、イングランド銀行が政策金利の引き上げ
ンマークのヴェスタ社の合弁会社の開発した出力
に踏み切った場合、住宅バブルの崩壊になる可能性
8MG の超大型洋上風力発電機は 2014 年試運転に
も秘めている。政治、経済ともに今年の英国情勢は
成功し、リバプール沖に 2016 年から設置が始まり、
目が離せない状況となっている。昨年より実施され
2017 年までには 32 基の稼動を予定している。また、
た、政府の住宅購入支援策「ヘルプ・トゥ・バイ」
昨年の春にはドイツ企業のシーメンスがイングラン
および住宅ローン金利の低下により、昨年は金融危
ド北東部のキングストン・アポン・ハルに 1 億 6,000
機以来、住宅 1 次取得者が最多となったが、引き続
万ポンドを投資して、洋上風力発電設備の生産施設
き政府の新たな住宅購入支援策(頭金の負担軽減策)
を新設し、2016 年初めにも稼動させると発表した。
である「スターター・ホーム」
「印紙税の見直し」な
超大型洋上風力発電機によるクリーンエネルギーの
どにより、引き続きロンドンの住宅市場は活況を維
供給の成功は、今後海洋国日本にも影響を及ぼすと
持すると見られている。ちなみに、2015 年 1 月の住
考えられており、日本企業の参画の広がりに繋がる
宅の価格は前月比 0.9% の上昇となっている。
と期待されている。
3)高速鉄道建設計画
4. トピックス
1)クロスレール敷設計画
昨年、一昨年にわたって、日本企業の日立製作所
は高速鉄道車両の更新と 27 年間の保守点検事業を
当初の計画からはかなり遅れているが、ロンドン
約 1 兆円で受注し、昨年 11 月に日本製の車両の公開
の東と西を横断するクロスレール敷設工事は 2018
を行った。今後は 2015 年夏に完成予定の北東イン
年完成を目指して各所で工事が進められている。こ
グランドのダーラムで建設された工場で生産が引き
のプロジェクトはロンドン周辺の主要地域を結ぶ鉄
継がれる予定となっている。試験走行は 2016 年春
道で、ロンドンの地下鉄のキャパシティの増大と、
頃から開始され、営業運転は 2017 年の予定となっ
完成後の公共事業収益の増収のふたつのねらいが
ている。組立工場の稼動に併せ、今後周辺産業の投
あったが、ロンドンの住宅市場の活況と相俟って、
資計画などもあり、動向が注目される。
沿線周辺の住宅価格は建設の始まった 2008 年から
4)ロンドン市内中心部のビル
2012 年までのクロスレール停車駅から徒歩 10 分圏
内の不動産価格が 8% 以上上昇していることから、
世界的な景気回復や将来の金利上昇、インフレへ
の警戒感から、ロンドンでの不動産投資がバブル気
2015 2–3
45
味に加熱しつつあり、ロンドン市内では新規超高層
ビルの建設および既存ビルの大規模改修は今後も引
5)原子力発電所
一昨年から相次いで日本企業は英国の原子力事業
き続き堅調に推移するものと見られている。また、
へ参入しており、政府発表の「10 年以内に老朽化し
高層ビルの売買市場も活気があり、ガーキン(ピクル
た電力インフラに 1,100 億ポンド(約 20 兆円)投資す
スに使用されるきゅうり)の名前で親しまれているビル
る」という計画の下に着々とイギリスの低炭素社会
は、昨年 1 月ブラジルの銀行グループに売却され、売
を実現するという目的を目指して進められている。
買価格は約 1,300 億円超とのことである。引き続き
その結果、昨年末、欧州委員会によって約 20 年ぶり
ロンドン市内は、新築、外壁を残した既存ビルの改修
の原子力発電所の新設が承認され、建設費用の一部
工事も活況で、街中にはタワークレーンが乱立して
は英国の各家庭が 35 年間にわたって負担すること
(写真 1、2)
いる。
になっている。イギリスの原子力発電所建設には、
日系企業が深く関わっていけそうであるため、今後
写真1 ロンドンシティの高層ビル群と新規タワークレーン群
も動向が注目される。
6)巨大地下室ブームが到来したロンドン市内の高級住宅街
富裕層の基準からすると、ロンドンの高級住宅は
こぢんまりしている。ロンドン市内の厳しい建築規
制により増築や建て替えはほぼ不可能に近く、古い
家ほど価値が上がるため、築 100 年∼ 200 年の住宅
は珍しくないが、合法的に家を拡張する方式として
考え出されたのが、地下室をつくることであった。
地下 3 階、温水プール、映画室、遊戯室設置などス
ケールの大きな拡張を行う富裕層がどんどん増え、
近隣に対しての騒音問題、地下掘削による隣家の
写真2 ロンドンシティのタワークレーン群
傾き、クラックの発生などの苦情が続出した。その
ため、増築は地下 1 階のみ、庭面積の 50% の掘削は
禁止などの規制が 2015 年から発効される見込みで
あり、駆け込み申請で大型の地下増築プランも含め
て約 450 件あまりが出されている模様である。一方
で、
『デイリーテレグラフ』紙によると、地下掘削に
使用した小型掘削機の掘削後の地上までの引き上げ
にかかる費用と、掘削機自体の価格を比較し、埋め
殺しにした方が安価である場合はそのまま地中に埋
め込んでしまうケースが急増しているとの報道があ
り、専門家の推測ではロンドンの高級住宅街で埋め
46
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
られた、小型掘削機械は 1,000 台にも及ぶとされて
カーチームのウエストハムの本拠地となる予定でも
いる。まさに、高級住宅街の地下は掘削機械の墓場
あるため、工事発注者側は頭が痛いところである。
となっている。今後埋葬される掘削機が増えないこ
9)ロンドンでも建設労働者不足
とを祈るばかりである。
7)金のためなら警察署も売る
愛称ニュースコットランドヤードで親しまれる、
近年のロンドンの建設市場の活況により、スキル
ワーカーが不足気味であったが、現況約 9,000 人程
度の大工、左官、屋根職人が不足となっている模様
ロンドン警視庁は、1967 年土地建物を 1 億 7 千万ポ
で、その影響は工期の遅延、工事価格の上昇として
ンドで取得し本部として使用してきたが、2014 年
現れてきている。
12 月アブダビの投資グループに 3 億 7 千万ポンド
10)ロンドン市内で車を溶かしたビル(ウォーキートーキー
(約 686 億円)で売却されることになった。売却後は
ビル)の最新情報
解体され、オフィス、ホテル、マンションが一体と
昨年ロンドンシティの一角に建設された 37 階建
なった複合施設に開発される予定。一方で、ドック
て超高層ビルの凹面鏡状の全面ガラス張りの外壁に
ランドの新金融街カナリーワーフにもカタール投資
より太陽光が一点に集中して近隣に駐車してあった
庁から買収提案があったが、こちらは、金額が折り
ジャガーの外板がゆがみ、サイドミラーとボンネッ
(写真 3)
合わず、合意には至らなかった模様である。
ト上のジャガーのエンブレムが溶け出すという事件
ニュースコットランドヤード
写真3 ロンドン警視庁、
が発生した。詳細は既報の通りであるが、その後の
最新情報を報告する。
太陽光の集積の問題のあった外壁面には、当初の
設計通りルーバーが取り付けられることになった。
取り付け費用約£10 ミリオンは、ひとまず開発会
社側が払うことになったが、現在係争中となって
いる。これは、当初図面にルーバーがあり、施工段階
でコストダウン策として設計変更となったが、その
いきさつに関しての記録が十分にないため、PI 保険
(Professional Indemnity)請求の適用可否が判断できない
との理由である。契約書など書類整備の先進国の英
8)オリンピックメインスタジアムの改修工事費が足りない
国でもこのような事例が発生することは驚きである。
オリンピック終了 1 年後から取り掛かった多目的
また、最近はビル風の問題も起きているようで、
スタジアムへの改修工事は、イギリス大手建設会社
しばらくはウォーキートーキービルは建設業界を騒
に約 154 ミリオンポンドで発注されたが、
最近になっ
(写真 4)
がしくしそうである。
て 50 ミリオンポンドの追加工事費の要求が出てきて
11)テムズ川の再生計画
いる。今年は英国で開催のラグビーのワールドカッ
テムズ川はロンドンの象徴ではあるが、自慢でき
プの 4 試合の会場でもあり、2016 年からはプロサッ
るような水環境ではなかったため、川に流れ込む下
2015 2–3
47
水汚物の量を大幅に減らす高機能下水設備を 2023
ており、完成すれば、新たにロンドン市民の心を潤
年までに完成させるという計画をテムズ・ウォー
す場所になりそうと期待されている。しかし、はた
ター水供給処理会社が申請し、環境・食料・農村地
して気温がさほど上がらないロンドンで、プールを
域省から承認が下りた。テムズ川には、1865 年から
利用しようと思う市民がどのくらいいるのかと懐疑
150 年間、処理能力を超えた下水の上澄み水を流し
(図 1)
の目を向ける論評もある。
込んでいたが、今後 10 年間でその割合が 4% 以下に
12)テムズ川浮式自転車専用道(約14km)計画
なるように改善するものであり、かつての清流を取
ロンドン東部バタシーからカナリーワーフまで、
り戻そうという試みである。現在、川辺の 2 カ所に
テムズ川の上を走る自転車専用道路計画の完成予想
25m プールをつくり、魚や鳥、植物に囲まれた水辺
写真が公開された。サイクリストの死亡事故が後を
環境を再生させることが計画されている。
特に夏場、
絶たないロンドンではついに、
「交通問題を解消す
この場所は多くのロンドン市民が水遊びをする憩い
るには常識外を考える」ということになり、テムズ
の場となることが期待されている。最近、大都市に
川の上に自転車専用道路を走らせるという計画が持
生活する人びとから街の中に心の拠り所が求められ
ち上がった。道路利用料は 1.5 ポンドとバスや地下
鉄より安い上に、停車できるスペースやキヨスクも
配置するとのこと。
写真4 ウォーキートーキービル外壁新設ルーバー
問題は、予算よりも 12 倍かかるという建設費で、
もし実現できれば約 2 年間で建設できるとの見通し
である。車の排気ガスからも開放され、テムズ側沿
いの素晴らしい景色も楽しめるこのサイクリング・
パスは人気の通勤・通学手段となるか動向が注視さ
(図 2)
れる。
図1 テムズ川のプールのイメージ図
出典:Evning standard 24.jan 2015
48
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
13)販売促進に余念がないバタシー火力発電所跡開発計画
のスティングや、その他有名人による購入の情報も
2014 年 7 月に着工したバタシー火力発電所跡の
あり、世界の投資家の購買意欲を駆り立てている。
再開発の一環(約 1 兆円規模の投資)の集合住宅は、世
また、旧発電所のシンボルであった 4 本の煙突は、
界各国で販売説明会を行っており、第 1 期の集合住
内部の有害物質撤去のために一度解体後再生される
宅(総額 6 億 8,100 万ポンド。約 1,230 億円)は早々に 95%
ことになっている。既に煙突の解体工事も始まり、
程度が予約済みとなっている。この販売には、歌手
(図 3、4、写真 5)
2017 年の完成を目指している。
図2 テムズ川上の浮式自転車専用道のイメージ図
図4 バタシー旧火力発電所跡完成予想図
出典:07.OCT, 2014 Evening Standard
出典:30.OCT 2014 Evening standard
図3 バタシー旧火力発電所跡開発計画全体図
写真5 バタシー旧火力発電所の煙突解体
出典30.OCT 2014 Evening standard
出典:Londonist 24,Jan,2015
2015 2–3
49
特集
欧州
丸山 和彦[ヨーロッパ竹中 管理部長]/デュッセルドルフ支部
1. 欧州経済概況と見通し
わり、インフレ率目標 2% との差が一段と拡大しデ
ユーロ圏経済は、グローバル金融危機の影響が残
フレ突入が現実味を帯びてきたことで、今年 1 月、
る中で、欧州債務危機に見舞われたことから景気低
国債購入を含む量的金融緩和に踏み切ることを決定
迷が長期化してきた(実質 GDP 成長率 2012 年−0.7%、
した。
2013 年−0.5%)が、昨年(2014 年)は 3 年ぶりにプラ
一方で、ユーロ圏とは対照的に、英国経済は堅調
ス成長(+ 0.8% の見込み)へ回帰した。しかし、2013
な個人消費と設備投資の拡大を受け、回復基調が一
年第 3 四半期以降ほとんどの国で回復基調に転じた
段と強まっている。昨年は 2.6%(見通し)の成長率
後、2014 年第 1 四半期もプラス 0.2% と緩やかな成
が見込まれており、今後も堅調な景気拡大が続く見
長軌道となったユーロ圏であったが、目下、ロシア
込みであるが、これまで過熱気味であった住宅市況
危機と言うべき問題に直面しており、ドイツを中心
が沈静化しつつあり、今年の実質的 GDP 成長率も
に第 2 四半期は設備投資がマイナス(製造業− 0.4%、
2% 台の見通しである(表 1、表 2)。
建設業−1.8%)に転じて 0.0% とゼロ成長に止まるな
ど、後半にかけて減速感が広がってきている。
2. 欧州建設市場の現状と見通し
周縁国経済の脆弱さや不良債権問題などの構造問
題が残る中でユーロ経済を下支えしてきたドイツで
表1 欧州実質GDP成長率
も、昨年は GDP 前年比 1.5%(暫定値)と堅調な個人
消費による内需主導の経済成長となったものの、相
対的に経済的な結び付きが強いロシアや中国など新
興国経済の減速の影響により、鈍化傾向にある。
今後も、ユーロ安や原油価格の下落を追い風にド
イツの輸出競争力は維持されると見られるが、ロシ
アや中国経済の減速に加え、ドイツの輸出分業体制
を敷く中東欧経済の減速により、今年(2015 年)の輸
出環境は悪化が見込まれており、周縁国に加え、ド
イツ経済も減速することで、2015 年実質 GDP は前
年比 1% 前後と低成長が続くと予想される。
また、景気停滞とデフレ懸念が強まる中、昨年 12
月の消費者物価指数(速報値)は前年同月比で 0.2%
下落し、ついに 2009 年 10 月以来 5 年 2 カ月ぶりに
マイナスとなった。欧州中央銀行(ECB)は、昨年 6
月以降、中銀預金金利のマイナス化やカバードボン
ド買入れなどの追加金融緩和策を矢継ぎ早に打ち出
してきたが、昨年後半のロシア経済減速の影響も加
50
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
2009
2010
ユーロ圏
▲4.5
2.0
2011
(単位:%)
2012
2013
2014
2015
(予想)
(予想)
1.6
▲0.7
▲0.5
0.8
1.3
1.7
EU
▲4.4
2.0
1.8
▲0.3
0.0
1.3
ドイツ
▲5.1
3.9
3.4
0.9
0.1
1.5
1.5
フランス
▲2.9
2.0
2.1
0.3
0.3
0.4
1.0
イタリア
▲5.5
1.7
0.5
▲2.4
▲1.9
▲0.5
0.6
英国
▲5.2
1.7
1.1
0.3
1.7
2.6
2.6
チェコ
▲4.5
2.5
1.8
▲1.0
▲0.7
2.3
2.5
ポーランド
1.6
3.9
4.5
2.0
1.7
3.3
3.2
ハンガリー
▲6.8
1.1
1.6
▲1.7
1.5
3.3
2.4
出所:International Monetary Fund および欧州委員会
表2 欧州物価上昇率
2009
(単位:%)
2010
2011
2012
2013
2014
2015
(予想)
(予想)
0.9
ユーロ圏
0.3
1.6
2.7
2.5
1.3
0.5
EU
0.9
2.0
3.1
2.6
1.5
0.7
1.1
ドイツ
0.2
1.2
2.5
2.1
1.6
0.9
1.1
フランス
0.1
1.7
2.3
2.2
0.9
0.6
0.9
イタリア
0.8
1.6
2.9
3.3
1.3
0.9
1.2
英国
2.2
3.3
4.5
2.8
2.6
1.5
1.2
チェコ
1.0
1.5
1.9
3.3
1.4
0.5
1.5
ポーランド
3.5
2.6
4.3
3.7
0.9
0.1
1.2
ハンガリー
4.2
4.9
4.0
5.7
1.7
0.0
1.8
出所:International Monetary FundおよびJETRO
欧州の建設業界にとっても、昨年は長らく続いた
ユーロの約 2 倍となっている。また、EC19 カ国に
景気後退が底を打ち、EC19 カ国(ユーロコンストラク
おける昨年度の建設事業の GDP の割合は 9.3% 程
ト加盟国〈注〉
)全体での建設投資が+ 1.0% と僅かな
度であり、2006 年の 12.1% から大きく下落、近年
がら増加に転じる年となった(表 3、表 4)。
における経済への建設市場の役割も大きく変化し
EC19 カ国の昨年の市場規模は、GDP 総額が 13.6
兆ユーロで、米国 12.8 兆ユーロより大きく、中国 7.6
てきたと言える。ちなみに、発展目覚しいアジアで
16.6%、北米では 6.7% である。
また、EC19 カ国における昨年度の建設投資高 1
兆ユーロの約 2 倍となっている。
しかしながら、建設市場においては 1.3 兆ユーロ
兆 3,050 億ユーロの内訳(図 1)であるが、住宅が市
と、中国 1.8 兆ユーロに次いで世界 2 位、米国 0.7 兆
場の約 45% と大きな部分を占めた。非住宅(新築・
図1 欧州(EC19カ国)建設市場割合
図2 土木事業別割合(2014年見込み)
(単位:10億Euro)
(単位:%)
建設市場:1,305
住宅
227(17%)
住宅
363(28%)
改修:
683(52%)
治水
12%
非住宅 新築:
622(48%)
217(16%)
非住宅
208(16%)
道路・橋
32%
エネルギー
16%
土木
178(14%)
通信
9%
土木
112(9%)
出所:78th Euroconstruct Conference, Milan, November 2014,
Summary Report
注:通貨換算は 2013 年平均レートを使用
その他
7%
鉄道
16%
その他
交通 8%
出所:78th Euroconstruct Conference, Milan, November 2014,
Summary Report
表3 欧州(EC19カ国)建設投資高
(単位:百万Euro)
2011年 実績
2013年 実績
2014年 見込み
2015年 予想
2016年 予想
2017年 予想
フランス
212,163
212,118
205,273
199,598
198,898
202,405
205,629
ドイツ
282,702
279,655
278,761
285,492
290,598
291,255
290,153
イタリア
184,190
172,509
166,484
162,835
164,685
168,821
173,621
スペイン
115,534
79,497
64,575
63,030
64,190
66,504
69,849
イギリス
178,510
164,983
167,905
176,655
185,650
192,113
196,793
973,099
908,762
882,998
887,610
904,021
921,098
936,045
351,250
343,669
338,683
344,024
350,693
359,291
370,390
1,324,349
1,252,431
1,221,681
1,231,634
1,254,714
1,280,389
1,306,435
(※西欧主要5カ国計)
その他西欧諸国
西欧15カ国計
チェコ
18,393
16,970
15,786
15,949
16,345
16,881
17,556
ハンガリー
7,633
7,381
7,840
8,958
9,417
9,773
10,054
ポーランド
47,597
46,088
42,021
44,097
47,229
50,170
53,522
スロバキア
5,372
4,629
4,382
4,363
4,442
4,564
4,699
78,995
75,068
70,029
73,366
77,433
81,388
85,831
中東欧4カ国計
(西欧主要5カ国除く計)
EC19カ国合計
2012年 実績
430,245
418,737
408,712
417,390
428,126
440,679
456,221
1,403,344
1,327,499
1,291,710
1,305,000
1,332,146
1,361,777
1,392,266
出所:78th Euroconstruct Conference, Milan, November 2014, Summary Report
2015 2–3
51
改修)は市場の 3 分の 1 で約 4,350 億ユーロの投資が
場の急速な拡大により好調な英国に比べ、建設市場
あったが、これは過去 15 年間大きな変動はない。ま
でも景気回復の遅れるフランスやイタリア、2007 年
た、土木は約 2,900 億ユーロで全体の約 23% を占
の 20% 以下(80% 超減)まで建設市場規模が落ち込ん
め、今後も安定した割合が見込まれる(セグメントは
でいるスペインは対照的な状況となっている。
図 2 を参照)
。新築・改修別では、改修が全体の 52%
ドイツは、依然として欧州全体の約 22% を占め
を占めている(図 1)。
ており、健全な状態にある。しかしながら今後 3
今後の建設市場の見通しに関しては、増加に転じた
年間の予想では、経済不安からやや速度が弱まり
2014 年に続いて、2015 年以降も緩やかながら年 2% 程
2016 年には安定から停滞期に入り、2017 年には緩
度の伸び率を予想する。今後 3 年間の計約 7% 程度の
やかな減少を予想、それに伴って欧州全体の建設市
伸び率により 2017 年の建設市場規模は、約 1 兆 4,000
場が減速するのではないかという懸念もある。
億ユーロが見込まれるが、これはリーマンショック以
英国は、2015 年も 5% 台の市場拡大が見込まれ、
前である 2007 年の建設市場の約 85% にすぎず、この
特に住宅はリーマンショック前の水準まで回復、非
水準まで回復する道のりはまだ遠い。しかし、長期的
住宅市場についても、学校や商業施設への投資が増
な目で見ると、伸びは緩やかではあるが経済の回復よ
加する見込みである。また、土木では、ほぼ 20 年ぶ
りも早い建設市場の回復が期待される(図 3、図 4)。
りとなる新たな原子力発電所建設が欧州委員会より
国別に見てみると、2013 年には EC19 カ中 14 カ
許可されたことで、新たな局面を迎えそうだ。
国で減少もしくは停滞が見られたが、2014 年には
一方、この 2 カ国とは対照的に 2014 年もマイナ
既にいくつかの国で回復の兆しが見え、投資が増加
ス成長となった、フランス、イタリア、スペインで
に転じた(表 4)。市場規模では、主要 5 カ国(ドイツ、
あるが、今後 3 年では緩やかな成長が期待される。
フランス、英国、イタリア、スペイン)が欧州(EC19 カ国)
ドイツに次いで欧州建設市場全体の約 15% を占め
建設市場の約 7 割を占めている状況に変わりはな
るフランスは、市場規模の落ち込みはスペインやイ
い。しかし、欧州を牽引する堅調なドイツや住宅市
タリアに比べて小さいが、しばらくは下降予想のイ
図3 欧州(EC19カ国)における建設投資高
図4 GDP成長率と欧州(EC19カ国)建設投資の伸び率(単位:%)
(単位:10億Euro)
出所:78th Euroconstruct Conference, Milan, November 2014,
Summary Report
注:通貨換算は 2013 年平均レートを使用
52
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
出所:78th Euroconstruct Conference, Milan, November 2014,
Summary Report
ンフラ関連の影響で、2015 年(予想− 0.4%)までは
厳しい状況が続きそうだ。イタリアは、2007 年か
と共にタフに前に進んでいくだろう。
昨年 11 月、EU 銀行同盟の柱のひとつである単一
ら約 30% の落ち込みとなっている状況ではあるが、
監督制度(SSM = Single Supervisory Mechanism)が開始
インフラ事業が堅調な回復傾向にあるため、新しい
した。これにより、これまで各国の主権に委ねられて
建設市場のサイクルが始まることを期待する。 きた銀行監督権限がユーロ圏(欧州中央銀行)において
中東欧では、最も大きな建設市場であり、2012 −
一元化された。通貨統合も然りで、それまでは想像も
2013 年の 2 年間を除いて拡大基調にあるポーラン
できなかった出来事が、着実に具現化されている。
ドが今後も牽引し、目覚ましい経済発展と EU ファ
ちなみに今年の G7 サミットはドイツのドレスデ
ンドを背景にすべてのセグメントで大きな伸びを予
ンで開催される。倒壊した教会の瓦礫の破片パーツ
想する。特に、今後の 3 年間でインフラ関連を中心
をひとつひとつ時間をかけて組み合わせて再建した
に、土木では 30∼ 40% の伸び率を予想する。
ドレスデン聖母教会のように、時間はかかっても、
緩やかに着実に前に進んでいくことを期待したい。
3. おわりに
今年 2015 年は、第 2 次世界大戦終結から 70 年、
東西ドイツ統一から 25 年の節目の年ではあるが、
ユーロ圏経済は、ロシア・ウクライナ問題とデフレ
懸念、また再燃懸念のあるギリシャ問題など、すっ
きりしない展開が続くと予想される。しかし、さま
ざまな問題に直面しながらも、欧州経済は欧州統合
〈参考および引用〉
・78th Euroconstruct Conference, Milan, November 2014
〈注〉EC19 カ国は以下の通り
ドイツ、フランス、英国、イタリア、スペイン、オランダ、ベ
ルギー、オーストリア、デンマーク、フィンランド、アイル
ランド、ノルウェー、ポルトガル、スウェーデン、スイス、ポー
ランド、チェコ、ハンガリー、スロバキア
表4 欧州(EC19カ国)建設投資高の伸び率
2011年 実績
2013年 実績
2014年 見込み
2015年 予想
2016年 予想
2017年 予想
フランス
4.1
0.0
▲3.2
▲ 2.8
▲ 0.4
1.8
1.6
ドイツ
5.2
▲ 1.1
▲ 0.3
2.4
1.8
0.2
▲ 0.4
2.8
イタリア
▲ 2.2
▲ 6.3
▲ 3.5
▲ 2.2
1.1
2.5
スペイン
▲ 20.3
▲ 31.2
▲ 18.8
▲ 2.4
1.8
3.6
5.0
イギリス
2.3
▲ 7.6
1.8
5.2
5.1
3.5
2.4
(※西欧主要5カ国計)
その他西欧諸国
西欧15カ国計
チェコ
0.1
▲ 7.1
▲ 2.9
0.5
1.8
1.9
1.6
0.6
▲ 2.2
▲ 1.5
1.6
1.9
2.4
3.0
0.0
▲ 5.4
▲ 2.5
0.8
1.9
2.0
2.0
▲ 3.8
▲ 7.7
▲ 7.0
1.0
2.5
3.3
4.0
2.9
ハンガリー
▲ 10.6
▲ 3.3
6.2
14.3
5.1
3.8
ポーランド
11.7
▲ 3.2
▲ 8.8
4.9
7.1
6.2
6.7
スロバキア
▲ 2.7
▲ 13.8
▲ 5.3
▲ 0.4
1.8
2.7
3.0
4.2
▲ 5.0
▲ 6.7
4.8
5.5
5.1
5.5
1.1
▲ 2.7
▲ 2.5
2.1
2.5
2.8
3.4
0.3
▲ 5.4
▲ 2.7
1.0
2.1
2.2
2.2
2015 2–3
53
中東欧4カ国計
(西欧主要5カ国除く計)
EC19カ国合計
(単位:%)
2012年 実績
出所:78th Euroconstruct Conference, Milan, November 2014, Summary Report
特集
米国
立花 章夫[(株)大林組 海外支店 北米統括事務所 建築部 部長]/ロサンゼルス支部
1. 米国経済の動向
金融政策決定会合でも低金利政策の継続が決定され
米国経済は緩やかな回復基調にあり、2013 年の
ている。しかし、雇用環境の改善や原油価格上昇の
実質 GDP 成長率は+ 2.2% を記録、2014 年の成長
可能性に伴うインフレ懸念もあり、今年は低金利政
率も+ 2.4% と見込まれており、金融機関の経済見
策からの転換、利上げが行われるのではないかと予
通しによると今後も引き続き 3% 前後で推移してい
想されている。
くと予測されている(図1を参考)。2014 年の回復に
今のところ利上げのタイミングについては明らか
は、主に個人消費、非住宅系投資、輸出、州政府や
にされていないが、早ければ 6 月との観測もある。
地方政府支出の伸びが貢献しており、原油価格の下
なお、2014 年の物価上昇率は速報値で 1.5% であっ
落は個人消費などに好影響を与えた一方で、エネル
た。IMF によると、物価上昇率は 2015 年以降も概
ギー施設関連の投資にマイナス影響を与えたと考え
ね 2% 程度で推移すると予測されている。また、原
られている。
油価格は 2014 年後半から急激に下落し、さまざま
雇用環境は継続的に改善されており、失業率は
な分野に影響を与えていると考えられる。原油価格
2009 年 10 月の 10% をピークに、2014 年 12 月には
の動向については、低価格傾向が続き個人消費への
5.6% まで低下し、リーマンショック直前の水準ま
追い風になるという見方がある一方で、低価格は過
で回復した。米国経済が回復を続け雇用環境が改善
渡的な現象との見方もある。
する中、個人消費のさらなる回復に期待がかかって
年初時点では、2015 年の米国経済は個人消費の
いる。一方で、人件費の増加傾向も報告されており、
さらなる回復に牽引され引き続き回復基調を維持す
今後の動向に関心が寄せられている。
るとの予想が多くを占めており、今後、政策金利切
消費者物価は安定的に推移しており、直近ではイ
上げのタイミングや原油価格の推移など、米国経済
ンフレが進む可能性は低いと考えられている(図 2
に広範囲に影響を与える要因の動向が注目される。
を参考)
。 今年(2015 年)1 月の米連邦準備理事会の
図1 日米経済成長率推移
日本
(単位:%)
図2 日米物価上昇率推移
日本
アメリカ
10
15
5
10
0
5
-5
0
-10
-5
80 2 4 6 8 0 2 4 6 8 0 2 4 6 8 0 2 4
19 198 198 198 198 199 199 199 199 199 200 200 200 200 200 201 201 201
出典:(C)世界経済のネタ帳
54
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
(単位:%)
アメリカ
80 2 4 6 8 0 2 4 6 8 0 2 4 6 8 0 2 4
19 198 198 198 198 199 199 199 199 199 200 200 200 200 200 201 201 201
出典:(C)世界経済のネタ帳
2. 米国建設市場の動向と見通し
次のように予想されている。
1)2014年の概況
US Census Bureau の統計によれば、2014 年に記
①全般:2015 年も建設市場の回復基調に変化はな
録された建設投資額は約 9,610 億ドルであった。
く、昨年(2014 年)を上回る成長率を達成するものと
リーマンショック後の 2011 年に約 7,880 億ドルを
期待されている。
記録した後、対前年比で 2012 年は 9.2%、2013 年は
また、建設業者の景況感は明るく市場回復予想に
5.7%、2014 年には 5.6% 増と、建設投資が順調に回
自信を持っているため、2015 年は雇用拡大を計画
復している(図 3)。
するところが多い。
2014 年の民間部門および公共部門の建設投資に
占める割合はそれぞれ 76% と 24% で、民間部門は
②分野別の見通し:2015 年は幅広い分野での市場
前年比 7.2%、公共部門は 1.8% 増加した。また民間
拡大が予想されているが、特に民間投資が牽引役と
住宅投資は 4.1%、民間非住宅投資は 10.5% 増加し、
なることが期待される。
民間非住宅投資が 2014 年の成長を牽引したことが
一方で、民主党オバマ政権が2期目後半に入って
2014 年の住宅着工戸数は前年比 8.7%
分かる。なお、
共和党が議会の過半数を占める中、連邦政府の建設
増加し、年間約 100 万戸まで回復した。また戸建分
投資の伸びはほとんど期待されていない。
野と比較して集合住宅への投資は前年比 17.2% と
大きく伸びている。
・住宅投資については、戸建分野ではやや減速の
懸念があるものの、集合住宅分野の需要が強
く、引き続き大きな成長が見込まれる。
・事務所ビルやホテルなど商業ビルの伸び率も大
2)2015年の市場予想
建設業団体会員へのアンケート調査結果や ENR
きいと予想されており、特に事務所ビルへの期
誌の関連記事によれば、2015 年の建設市場は概ね
待が大きい。
図3 年間建設投資額推移
図4 米国の地域区分
億ドル
12,000
民間非住宅建設投資
10,000
民間住宅建設投資
公共部門建設投資
8,000
中西部地域
西部地域
北東部地域
6,000
4,000
南部中央地域
2,000
0
2010
2011
2012 2013
南東部地域
2014年
資料:US Census Bureau 統計データより作成
出典:ENR誌 Nov17/24, 2014
2015 2–3
55
・生産施設は 2014 年に大きく伸びたため 2015
なっている。たとえば、上下水道施設は西部地域で期
年は減少が予想されるが、この分野への建設業
待が高く北東部地域で低いが、逆に道路関連は北東
者の期待は大きい。
部地域で期待が高く西部地域で低い。また、南部中央
・公共部門では、
学校建築や上下水道施設など州・
地域では高速道路整備や高速鉄道計画など輸送関連
地方政府の建設投資が期待されている。以前に
の投資増加が見込まれている。学校建築でも地域差
比べて州・地方政府の財政状況が改善する傾向
が見られ、西部地域で期待が高く中西部地域は低い。
がある。
・道路や橋梁のインフラ整備は引き続き前年と同
レベルの投資が行われるものと予想されている。
3. 終わりに
ここまで米国建設市場の動向と見通しについてま
とめた。既に触れたが、国土の広範さのため各地域
③地域別の見通し:昨年は五大湖周辺を含む中西部
によって建設市場の見通しは異なる。さらに、各州
地域で若干マイナス成長であったのに対して、テキ
政府が連邦政府より政治的に独立しており、その経
サス州を含む南部中央地域で特に高い成長率を記
済政策や経済基盤が州ごとに大きく異なることか
録した。今年は米国のすべての地域で市場拡大が期
ら、同じ地域でも州が異なれば成長の期待される分
待されている。カリフォルニア州を含む西部地域、
野も異なる。建設事業の計画に際しては、全米ない
ニューヨーク州のある北東部地域、および、南部中
し地域ごとの建設市場の動向と共に、各州ごとの動
央地域で市場規模の拡大幅が大きいと予想されてい
向にも注意を払い、また、大都市圏以外での建設計
る(図 4 参照)。
画であれば、州と地方の間での市場環境の違いも考
しかし、地域によって期待される成長分野が異
56
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
慮に入れる必要があると考えられる。
特集
メキシコ
古賀 和夫[(株)安藤・間 北米支店 メキシコ営業所 所長]/メキシコ支部
1. 2014年のメキシコ経済
業の入札を行うことが決議され、エネルギー改革が本
昨年(2014 年)のメキシコ経済は、メキシコの主要
格化すれば、外国の企業のメキシコ進出がさらに増加
輸出品のひとつである原油の価格が 1 年間で 1 バレ
することが見込まれ得るためであり、2016 年は 6.2%
ル 90 ドル台から 30 ドル台まで下落したことも影響
と予想していた。ところが、先日の政府の今年度予算
して、年初予想を下回る結果となった。GDP 成長率
削減の影響を受けて、鉄道プロジェクトはもとより、
は通年見通しを下方修正して 2.7% と推定されてお
CFE や PEMEX などの公共建設投資の減少が予想さ
り、アメリカの不況に連動して 1.3% しかなかった。
れるため、建設市場の成長率を 2.2∼ 2.9% と大幅に
昨年の値からは上昇したものの、製造業では自動車
下方修正することとなった。
一昨年(2013 年)が− 7.7%
産業を除いて勢いを欠いた 1 年となった。
だったことを考えると、一応プラス成長ではあるが、
しかしながら、一昨年大幅なマイナス成長だった
まだ完全に回復したと言える状態ではない。
建設部門でも回復の兆しが見えてきており、建設業
も昨年はプラス成長となっている。
3. 自動車産業の活況
輸出産業における原油依存率がロシアや中東産油
昨年の記事でも述べたが、現時点でのメキシコの
国よりも低いメキシコであっても原油価格下落の影
日系建設業界は自動車産業に大きく依存している状
響は大きく、ビデガライ財務大臣は今年(2015 年)予
態が続いている。メキシコの自動車産業はここ数年
算の歳出を 1,243 億ペソ削減すると発表している。
順調に業績を伸ばし、2014 年の年間生産台数は 320
万台を超えて世界 8 位であり、生産台数の 8 割を北
2. 2015年の建設市場動向
米へ輸出している。昨年は BMW(1 年当たり 15 万台)、
上記歳出削減に伴い、連邦政府の中で一番大き
ダイムラー(1 年当たり 15 万台)、起亜自動車(1 年当た
な影響を受けたのが通信・運輸省であり、予算は
り 30 万台)のメキシコ新工場建設が発表され、完成
120 億ペソ削減されることになった。このあおりを
車組み立てメーカーの新規進出は相変わらず続いて
受け、通信・運輸省が今年予定していたユカタン∼
いる。既存組み立てメーカーも増産計画を発表して
キンタナロー間の鉄道計画が中止され、メキシコ市
いる会社が多く、いずれメキシコが世界ランキング
∼ケレタロ間の高速鉄道プロジェクトが一時中断
7 位のブラジルを抜き去る日も近いと思われる。既
となった。また連邦政府以外ではメキシコ連邦電力
にアメリカ国内で販売される乗用車における製造国
公社(CFE)は 100 億ペソ、メキシコ国営石油会社
別順位では、2 位だった日本を抜いて昨年ついにメ
(PEMEX)は 650 億ペソ予算を削減された。しかし、
ビデガライ財務大臣は国際化に対応するためメキシ
コ市の新国際空港建設と道路建設プロジェクトの予
算には影響がないと発表した。
キシコが 2 位になっている。
これまで、メキシコでは自動車産業の一次下請け
(ティア 1)数に対し、二次(ティア 2)
、三次(ティア 3)
や周辺の関連産業や素材産業の企業数不足が指摘さ
商工会議所の建設部会は、昨年 12 月に 2015 年は約
れていたが、最近はそれらの企業の中小規模での進
4.4% の建設市場の成長を予測していると発表してい
出も続いており、いずれ、この不足状態も解消に向
た。これは、2015 年にメキシコ湾の採油技術支援企
かうことが予想される。
2015 2–3
57
4. トピック
を中心とするコンソーシアムグループによって落札
通信 ・ 運輸大臣は予算削減を受けて、30 年以上行
されていたのである。しかし、応札した他の企業か
われていなかった同省組織の見直しを行うと発表
ら、多額の政治献金や汚職に関する告発があったた
した。それと同時に、公共建設分野への一般企業の
め、同年 11 月に急遽ペニャニエート大統領によっ
投資導入拡大、事業運営の一般企業への委託などを
て入札結果が取り消され、改めて入札を行うことに
対策として挙げている。また、新国際空港の建設と
なったという経緯がある。これに対し、落札を取り
「MEXICO CONECTADO」と呼ばれるメキシコ
消された中国企業はメキシコ政府に賠償金を請求し
全土にある 25 万カ所の公共スペースのフリー WIFI
ており、メキシコ政府は 1,600 万ドルを支払ってい
の設置など、国の発展を持続させるのに不可欠な事
る。何とも理解しがたい展開である。
業を優先するとしている。
新空港は国際コンペの結果、イギリスの建築家
あるアンケート調査によれば、メキシコでは建物
の開発・許認可申請に関わる汚職が増加傾向にあり、
ノーマン・フォスターと、メキシコの億万長者カル
このコストは当然建物の最終価格に影響していると
ロス・スリムの娘婿、フェルナンド・ロメロが共同
される。こういった汚職が起こる主な原因は、法律
で設計を行った案が採用された。建設敷地はメキシ
や基準が明確でないことや、建築許可などの申請手
コ市近郊のテスココに予定されており、4,430 ヘク
続きに時間を要することなどが挙げられており、法
タールの敷地に 6 本の滑走路を備え、年間 1 億 2,000
律はあってもその運用が曖昧である場合も多く、役
万人の利用客を見込んでいる。メキシコ市空港開発
所担当者の判断に委ねられる部分が多いため、その
グループの報告によると、予定通り 2015 年 2 月に
部分が汚職の温床となりやすいとされている。
着工、工事を始めるとしている。完成は 2018 年 10
GDP 規模では、世界 15 位、ラテンアメリカでは
月 20 日、オープンはその 2 年後の 2020 年 10 月 20
ブラジルに次いで 2 位となるメキシコであるが、投
日を予定している。現在は環境許可申請中で、環境
資対象国として位置付けた場合、治安やコンプライ
省から要請された各種調査書を作成している。
アンスといった側面では、まだまだ今後の改善が望
しかし、現状では問題も多く存在する。メキシコ
まれる部分も少なくない。投資企業もさることなが
市とケレタロ市を結ぶ高速鉄道に関しては、計画が
ら、われわれ日系ゼネコンも、十分な情報収集と認
一時中断となったことは前述した通りであるが、そ
識を前提とした、細心の注意が求められる。
もそもこのプロジェクトは、昨年 10 月に中国企業
58
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
特集
ブラジル
山田 哲也[ブラジル戸田建設(株)取締役支配人]/サンパウロ支部
1. ブラジル経済の推移
1)2014年の回顧
昨年のブラジルでは大きなトピックスがふたつ
あった。
前半まで戻ったが、以前の人気を回復することはで
きず、自身 2 期目を目指した選挙戦を迎えることと
なった。その状況でも、選挙戦の開始前は、ルセフ
大統領圧勝との見方も強かった。しかし、選挙期間
ひとつは 6 月から開催された FIFA ワールドカッ
中にライバル候補者が飛行機事故で墜落死し、以前
プである。念のため結果を記載しておくと日本代表
から知名度のあった女性候補が代わりに参戦すると
は 0 勝 2 敗 1 引き分けでグループリーグ敗退。地元
いう急展開もあり、選挙の結果はそれこそフタを開
ブラジルは順調に勝ち上がったものの、準決勝では
けてみないと分からない状況となった(ちなみにブラ
ドイツに 1 対 7 で大敗、3 位決定戦でもオランダに
ジルでは電子投票で行うのでフタはないのであるが)
。
0 対 3 で敗戦という悔しい結果であった。2013 年以
一次投票では決着せず、上位 2 名の決選投票にも
降減速していたブラジルの経済であるが、ワールド
つれ込んだ選挙戦は 51.6 対 48.4 という結果で辛勝
カップ終了後には景気も回復するのではないかと期
し、2018 年 12 月までルセフ大統領は政権を運営す
待していたところ、
サッカーの結果が影響したのか、
ることとなった。選挙戦中、ルセフ大統領は、失業
ワールドカップ以降もブラジル経済の減速は残念な
率の改善や低所得者層への補助など、利益再配分を
がらさらに強まった。
今後の方針に掲げていた。そのため、得票の内訳は、
ふたつめは、その 3 カ月後の 10 月に行われた 4 年
貧困層が比較的多い北部の州では圧勝、経済活動の
に一度の大統領選挙である。4 年前に就任したルセ
中心であるサンパウロや高所得者が比較的多い南部
フ大統領は順調に政権を運営していたものの、2013
の州では大差で敗北するという結果となった。経済
年 6 月にブラジル全土で起こった反政府デモ以降、
界はこの結果に失望し、選挙後は国内株式市場や通
支持率は 60% から 30% 近くまで低下。その後 40%
貨レアル相場は大幅に下落することとなった。
写真1 首都ブラジリア 三権広場
写真2 2014年FIFA ワールドカップ 日本対コートジボアール
2015 2–3
59
また、昨年(2014 年)末には半官半民の石油会社で
年の 6.7% から年々減少し、2014 年は史上最低の
南半球最大の事業会社でもあるペトロブラスの汚職
4.9% と改善へと向かっていたが、2015 年は 5.7%
スキャンダルが発覚し、ブラジルの政界、特にルセ
まで増加すると予想されている。
フ大統領が所属する労働者党(PT)は大打撃を受け
来年(2016 年)には、リオデジャネイロでもうひと
た。政府関係者に流れたと言われる金額は数十億レ
つの世界的なイベントである夏季オリンピックが開
アル(数百億円)に達し、
少なくとも 12 人の上院議員、
催されるが、リオデジャネイロ一都市に限定された
49 人の下院議員、1 人の州知事に賄賂受領の疑惑が
イベントのため観光業などの一部の市場を除いて、
強まっている。2015 年に入っても捜査は進行中で、
ブラジル経済は 2015 年は停滞を続けるという見通
ルセフ政権および経済界の不安要因となっている。
しである。
それ以外にも経済の中心地であるサンパウロ州を
2)2015年の動向
中心に昨年から続く深刻な水不足は、断水や水圧の
昨年 7 月まで開催されていた FIFA ワールドカッ
低下が起こるなど、市民生活にも影響が出始めてい
プにより停滞していたブラジル経済であるが、10 月
る。政府も昨年末頃からようやく対策に乗り出した
の大統領選挙で、経済対策があまり熱心ではないと
が、水を多く使った世帯に罰金を科すといった、そ
言われているルセフ大統領が再選したことにより、
の場しのぎの案しか出ておらず、抜本的な対策がな
今年の見通しもあまりよいものではない。もし、選
いのが現状である。ブラジルでは電力供給の 70%
挙公約である減税と歳出削減を実行すれば、短期的
以上を水力発電に頼っているため、水不足と共に電
には経済の成長は抑制されると予想されている。
力不足も心配されており、こちらも経済活動に大き
このように景気が低迷しているとされるブラジ
な影響を与えると思われる。
ルであるが、物価上昇率は相変わらず高止まりの状
況で、2014 年が 6.4%、2015 年は 6.2% のインフレ
率が予想されている。それに対する政策として、政
策金利の利上げを実行しているが(2015 年 1 月現在
12.25%)、目標値内に抑えることは困難視されてい
る。国内の基幹産業のひとつである自動車産業も販
売台数が伸び悩んでおり、今年に入り国内シェア
NO.1 に輝いたフォルクスワーゲンはサンパウロ州
の工場で働く 800 人に解雇通告(後日抗議活動収拾の
ため撤回)
、ダイムラーベンツでも 244 人が解雇され
ている。これらの解雇の波は他社、他業種にも波及
すると見られ、唯一よい数字を保ち続けていた失業
率も、今年は悪化へと転じそうである。国土地理院
のデータによれば、ブラジル国内の失業率は 2010
60
特集 2015年 海外市場の動向と見通し
(ブラジル
・
パラグアイ国境にある世界第二位の水力発電用ダム)
写真3 イタイプダム
2. ブラジルの建設市場の動向と見通し
サンパウロ市公共工事企業協会(Apeop)によると、
まれている港湾と鉄道の拡張整備プロジェクトは、
いまだ計画中のままである。
FIFA ワールドカップ終了後インフラ投資は減少し
前述したペトロブラスのスキャンダルは政治家だ
た上、経済減速により成長に力強さがなくなり業界
けでなく、ペトロブラス発注工事に関する入札情報
成長率は名目 6.2% 程度に止まり、インフレを差し
を政治家から受け取ったとして、ブラジル国内の大
引いた実質ベースで− 5% となり、昨年の建設業界
手建設企業の名前が多く挙がっている。捜査の進展
は過去 14 年間で最低となった。昨年は業界売上が
状況によっては、官庁工事だけではなく民間工事の
GDP の約 5.4% を占めていたが、割合が最も高かっ
発注にも影響が出る可能性がある。
たのは 2010 年の 11.6% であった。
不動産業界では貧困層向けの持ち家プログラムが
2014 年に入ってからの業界売上収入の急激な落
好調をもたらしており、Secovi によると、2015 年に
ち込みの原因は、政府資金に頼っているインフラ投
は 35 万戸の建設が見込まれている。しかし、同プロ
資予算の執行の先延ばしと国民の累積債務の増加に
グラムで発生する受注量は建設業界全体の底上げに
より、住宅建設市場の需要が冷え込んでいるためで
は至らず、他の分野からの受注が伸びない限り回復
ある。
は困難である。また、業界の 2015 年の雇用水準は前
サンパウロ商業・住宅不動産企業組合(Secovi)に
よると、2014 年 1∼ 7 月の新築不動産の販売は前年
年度に比べ人員削減が発生し低下すると予想されて
いる。
同期比 49% 減少しており、新築発売件数も 21.5%
Apeop の広報誌によると、既にインフラ建設分野
減少している。Secovi では下半期になれば需要は上
では 3,200 人の人員が削減されている。その他の大
向くと期待していたが、その予想ははずれ、2014 年
型土木工事、電気、通信、上下水道、輸送、などの建
の新築物件の年間発売件数は、前年比 20∼ 25% 減
設分野の就労者数は増加傾向を維持しているが、新
となった。
規雇用の募集数は減少し続けている。
2015 年の展望については、大統領選挙の結果と
ブラジル地理統計院(IBGE)が発表した 2014 年
その後の社会の雰囲気によるところが大きく、現時
国内建設コストの上昇率は 6.2%、1 平方メートル当
点で確実性のあるデータに基づいた予測をすること
たりの建設コストは 913.32 レアル(約 41,100 円)で
は難しい。2014 年下半期は、ワールドカップ向けの
内訳は材料費 497.37 レアル(約 22,380 円)、人件費が
スタジアムや関連施設の工事が下火となり、代わる
415.95 レアル(約 18,720 円)となりそれぞれの上昇
新建設物件がないこと、また未完成のインフラ工事
率は材料費 4.9%、人件費 7.7% となった。
も緩慢にしか進んでおらず、政府主導のインフラの
暗い話が多くなってしまったが、2015 年は調整
整備拡張投資は、鈍ると予想されることから、希望
の年、2016 年が飛躍の年になること、そしてサンパ
の持てない状況が続くと予想されている。巨額の資
ウロを中心とした水不足が早期に解消することを
金が動員され、多くの就労機会を出現させると見込
祈っている。
2015 2–3
61
海外受注実績
1. 月別の海外工事受注実績
2014年度
月
件数
本邦法人
4 現地法人
計
18
受注額
(単位:百万円)
伸び率(%)
*受注額に
受注額
よる
2013年度
件数
9,961
25
10,037
-0.8%
155 109,447
152
67,556
62.0%
173 119,408
177
77,593
53.9%
33
17,953
308.8%
本邦法人
50
73,388
5 現地法人
108
52,932
103 102,405
-48.3%
158 126,320
136 120,358
5.0%
計
本邦法人
6 現地法人
計
60
31,486
123
84,743
183 116,229
83.4%
-41.4%
180 133,967
7.5%
本邦法人
北米
21
0
0
0.0%
9
7,235
0.5%
12
6,768
0.4%
20
952,302 68.8%
12.7%
40,117
2.9%
-82.0%
1
32,879
2.4%
-100.0%
22
72,996
5.3%
-90.1%
31,146
2.2%
-78.3%
0
0
0.0%
0
0
0.0%
0.0%
12
6,768
0.4%
20
31,146
2.2%
-78.3%
15
2,121
3,370
0.2%
-37.1%
0.1%
9
現地法人
141 358,172 23.1%
112
246,113 17.8%
45.5%
計
156 360,293 23.2%
121
249,483 18.0%
44.4%
465.4%
本邦法人
129
26,967
1.7%
102
35,306
2.5%
-23.6%
120
81,771
-40.8%
中南米 現地法人
41
15,885
1.0%
49
9,053
0.7%
75.5%
160 110,399
90.5%
計
170
42,852
2.7%
151
44,359
3.2%
-3.4%
56 103,028
-76.0%
本邦法人
2
4,524
0.3%
1
13
9 現地法人
129
62,752
108
50,050
25.4%
165
87,478
164 153,078
-42.9%
本邦法人
35 114,752
45
46,294
147.9%
10 現地法人
149 145,734
106
56,319
158.8%
184 260,486
151 102,613
計
計
0.5%
28,628
36
計
計
7,235
40
本邦法人
24,726
現地法人
アフリカ 現地法人
81,427
166 210,318
9
-3.6%
52,540
計
中東
1,349 1,073,006 69.3% 1,335
本邦法人
41.3%
49
48,444
15.9%
59,975
131
130
10.2%
413,805 29.9%
133
96,359
8 現地法人
538,497 38.9%
計
261 593,372 38.3%
受注額
伸び率(%)
構成比 *受注 額に
(%) よる
287
199 120,595
47,700
36 161,874
本邦法人
受注額
構成比
件数
(%)
2013年度
アジア 現地法人 1,088 479,634 31.0% 1048
本邦法人
99
本邦法人
件数
-48.1%
42
141 144,059
地域別
60,620
本邦法人
(単位:百万円)
2014年度
66
7 現地法人
計
2. 地域別海外工事受注実績
欧州
東欧
0.0% 34700.0%
現地法人
56
11,885
0.8%
30
4,855
0.4%
144.8%
計
58
16,409
1.1%
31
4,868
0.4%
237.1%
本邦法人
1
132
0.0%
0
0
0.0%
−
現地法人
67
32,333
2.1%
42
26,165
1.9%
23.6%
153.9%
計
68
32,465
2.1%
42
26,165
1.9%
24.1%
本邦法人
39
25,523
52
77,979
-67.3%
本邦法人
35
8,896
0.6%
37
3,528
0.3%
152.2%
11 現地法人
109
96,305
106
33,479
187.7%
1
50
0.0%
2
880
0.1%
-94.3%
36
8,946
0.6%
39
4,408
0.4%
102.9%
464 650,015 42.0%
477
651,977 47.0%
-0.3%
現地法人 1,394 897,959 58.0% 1,284
733,750 53.0%
22.4%
総合計 1,858 1,547,974 100.0% 1,761 1,385,727 100.0%
11.7%
計
9.3%
大洋州
現地法人
その他
計
22,963
230.7%
本邦法人
97,189
156 105,475
-7.9%
270 173,131
205 128,438
148 121,828
本邦法人
65
75,942
12 現地法人
205
計
本邦法人
1 現地法人
31
13,962
158 111,458
49
33
60,128
94
34.8%
-76.8%
85
61,005
47,784
27.7%
116
74,967
127 107,912
-30.5%
本邦法人
52
22,042
29 171,807
-87.2%
2 現地法人
102
91,708
75
計
47,509
93.0%
104 219,316
-48.1%
累 本邦法人 464 650,015 477 651,977
計 現地法人 1,394 897,959 1,284 733,750
22.4%
総合計 1,858 1,547,974 1,761 1,385,727
11.7%
計
62
154 113,750
-0.3%
累計
3. 本邦・現法主要工事〈10億円以上〉
〈1月受注分〉
(単位:百万円)
国 名
件 名
契約金額
会社名
台湾
C社事務所兼宿舎棟増築
1,079 清水建設
ベトナム
N社工場建設工事
1,008 フジタ
タイ
I社新工場建設(Step2)
3,687 清水建設
マレーシア
ショッピングセンター工事
1,097 鹿島建設
マレーシア
Q社工場新築
1,496 清水建設
シンガポール
A社向けビル新築電気空調衛生設備工事
2,487 きんでん
インドネシア
A社工場建設工事
3,737 大成建設
ミャンマー
ロイコー総合病院整備計画
1,188 戸田建設
インド
M社新工場
1,459 竹中工務店
モザンビーク
マプト医療従事者養成学校建設計画
1,635 大日本土木
米国
大学寮建設工事
19,508 大林組
米国
新築工事
1,970 鹿島建設
米国
新築工事
7,530 鹿島建設
ニカラグア
パソ・レアル橋建設計画
1,105 安藤・間
〈2月受注分〉
(単位:百万円)
国 名
香港
件 名
N社駅舎改修
契約金額
会社名
1,022 清水建設
台湾
新築工事
1,181 鹿島建設
台湾
新築工事
3,114 鹿島建設
タイ
J社新工場新築
4,798 清水建設
タイ
S社物流倉庫建設工事
1,056 大成建設
タイ
T社ショールーム
1,764 竹中工務店
シンガポール
病院新築工事
ミャンマー
T大学
2,053 熊谷組
スリランカ
国道網主要橋梁建設計画-パッケージ1
6,027 若築建設
アルジェリア
A国高速道路建設工事
2,220 西松建設
米国
G社工場増築
1,238 清水建設
米国
N社事務所移転内装
1,183 清水建設
イギリス
N社事務所移転(その2)
3,718 清水建設
ポーランド
倉庫新築
1,062 鹿島建設
ポーランド
工場新築
3,682 鹿島建設
55,031 鹿島建設
2015 2–3
63
主要会議・行事
とき
ところ
1月5日(月) OCAJI
仕事始め
東京プリンスホテル
第6回LCC分科会
19日(月) 都市センターホテル
新年懇親会
20日(火) OCAJI
第2回海外要員養成講座−基礎編
第9回契約管理
22日(木) OCAJI
第2回STEP分科会
第2回LCC講演会・第7回LCC分科会
OCAJI
国際文化会館
23日(金) OCAJI
26日(月) OCAJI
第9回国際建設リーガルセミナー
第2回海外要員養成講座−応用編
第6回IFAWPCA準備委員会
27日(火) OCAJI
29日(木) 泉ガーデンタワー
2月2日(月) OCAJI
4日(水)∼6日(金) マレーシア
10日(火) 浜離宮建設プラザ
13日(金) OCAJI
・20日(金) マツダビル
19日(木)
19日(木) OCAJI
第14&15回海建塾(会計編&一般編)
第10回国際建設リーガルセミナー
第6回総務委員会 運営部会
IFAWPCA中間理事会
国土交通省アタッシェ等赴任事前説明会
第3回STEP分科会
第2回海外要員養成講座−契約管理編
第8回LCC分科会
24日(火) JICA竹橋
第4回無償研究会
第16回海建塾(現場管理編)
OCAJI
26日(木) OCAJI
第10回契約管理研究会
27日(金) OCAJI
第11回月例セミナー「テロ等の海外におけるリスクの現状と対策」
あとがき
今回、海外支部から寄せられた各国建設市場の見通しに
よると、アジア地域は、インフラ投資・民間投資とも順調に
推移し、2015 年度も引き続き安定成長が期待され、北米市
場は、米国経済の好調さを反映して建設市場も順調に拡大、
2015 年も期待できると予測している。欧州、中南米地域は
投資動向によるが、横ばいの前年度並み、中東地域のトルコ
は、2023 年の建国 100 周年に向け、インフラ整備が活発化
すると見られ、
多くのプロジェクトに期待が寄せられている。
海外建設受注は、2011 度以降、増加に転じており、今後も
堅調に推移すると予想される。今後の会員会社の海外活動の
64
建設業11団体新春賀詞交歓会
14日(水) OCAJI
15日(木) OCAJI
支援に注力したい。
主要会議・行事
(OCAJI 編集室 I)
IFAWPCA東京大会の概要
IFAWPCA(アジア・西太平洋建設業協会国際連盟 : International Federation of Asian and Western Pacific Contractors' Associations)と
は、1956 年 3 月、マニラで設立されたアジア・西太平洋の 16 カ国・地域の建設業団体が加盟する国際連盟です。
IFAWPCAでは、各国建設業者の友好関係増進、建設技術の交流と情報交換などを目的とし、各加盟協会が
持ち回りで大会(総会)を開催しています。次期大会は当協会主催で、2015 年 11 月に東京にて開催されます。
1. 大 会 名:第 42 回 IFAWPCA 東京大会
The 42nd International Federation of Asia & Western Pacific Contractors Associations(IFAWPCA)
Convention in Tokyo
2. 大会テーマ:Partnership and Sustaibability
[4 日間]
3. 会 期:2015 年(平成 27 年)11月16日(月)∼19日(木)
4. 開 催 地:東京
ザ・プリンスパークタワー東京(東京都港区芝公園 4-8-1)
メイン会場 B2 階 コンベンションホール、ボールルーム
5. 主 催:一般社団法人海外建設協会
6. 参加協会数:18 協会団体
①バングラディッシュ建設業協会(BACI)
、②インド建設業協会(BAI)
、③大韓建設協会(CAK)
、④ネパー
ル建設業協会(FCAN)
、⑤香港建設業協会(HKCA)
、⑥インドネシア建設業協会(ICA)
、⑦モルディブ
建設業協会(MACI)
、⑧オーストラリア建設業協会(MBA)
、⑨マレーシア建設業協会(MBAM)
、⑩スリ
ランカ建設業協会(NCASL)
、⑪ニュージーランド建設業協会(NZMBF)
、⑫海外建設協会(OCAJI)
、⑬フィ
リピン建設業協会(PCA)
、⑭シンガポール建設業協会(SCAL)
、⑮タイ建設業協会(TCA)
、⑯台湾建設
業協会(TGCA)
〈新規加盟協会〉
⑰カンボジア建設業協会(CCA)
、⑱モンゴル建設業協会(MNCA)
7. 参 加 者 数:海外参加者 500 名、国内参加者 300 名、計 800 名(想定)
8. 公 用 語:英語(メイン行事のみ英語/日本語の同時通訳)
9. プログラム:Day1 11/16 財務委員会、第一次理事会
会長招宴晩餐会
Day2 11/17 開会式、第一次総会
常設委員会(6 委員会)
歓迎晩餐会
Day3 11/18 セミナー 1(New Construction Business Development)
セミナー 2(Sustainability)
第二次理事会
Day4 11/19 第二次総会
新理事会
歓送晩餐会
©一般社団法人 海外建設協会
Printed in Japan
一般社団法人 海外建設協会
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