● ● ● 経営情報あれこれ ● ● ● ≫≫≫≫≫≫≫≫ 平成26年9月号 ≪≪≪≪≪≪≪≪ ★インド経済★ 9 月 1 日、インドのモディ首相との首脳会談後、日本政府はインドと共同声明に署名しまし た。その内容は次のとおりです。 ①政治・安全保障 両国間で包括的な安保・防衛協力の推進、防衛装備協力、原子力協定交渉の推進 ②経済協力 対印直接投資及び進出日系企業数の倍増、今後 5 年間で 3.5 兆円規模の投融資、規制緩 和やジャパン・ヘルプ・デスクの創設、新幹線システム等インフラ整備・下水道整備協力 ③その他 留学生数の増加、科学技術協力、国連改革での連携等 インドは人口の約 47%が 25 歳未満であり、若い人が多く、近い将来、中国を抜いて世界一 の人口を有する国になることが見込まれています。 今月は、グジャラート州の経済改革に成功したモディ氏が 2014 年の総選挙により首相とな り、今後、経済発展が期待されるインド経済について紹介します。 1、インド経済の状況 (1)経済成長率 インドは、1947 年にイギリスによる植民地支配から独立し、重工業の育成、国内産 業保護を政策とし、インド型社会主義に基づいて、中央政府による計画経済により経済 運営がなされていたが、1991 年の通貨危機を契機に、経済自由化政策に転換し、外資 の導入、財政出動等により高い経済成長を実現し、名目 GDP は、2003 年の 6180 億ド ルから 2013 年には 1 兆 8580 億ドルとなり、世界第 10 位の経済大国となりました。 また、購買力平価 GDP(5 兆 4250 億ドル)では 2012 年に日本を抜いて世界第 3 位 の国となりました。 2007 年のゴールドマンサックス社の資料によると、インド経済は 21 世紀半ばに米国 を抜き、中国に次ぎ世界第 2 位の経済大国になると予測されていましたが、2008 年以 後、世界経済の低迷、巨大な政府債務、進まない経済改革、補助金による市場経済の歪 みと生産性の低さが目立つようなり、2013 年、経済成長率は 4.7%まで落ちました。 (2)産業 インドの産業構造の特徴は、第 3 次産業のウエイトが高く、GDP に占めるシェアは 55.7%であり、次いで第 2 次産業が 26.7%であり、最も就労人口の多い第 1 次産業は 17.5%です(2011 年度) 。 1 ①第一次産業 インドの経済指標等 食料自給率は 100%超であ (出典は外務省等) るが、生産物の 30%が破棄さ 項目 れる非効率さが問題です。 指標 参考 就業人口に占める第一次 面積 3,287 千㎢ 日本の 8.8 倍 産業の比率は約 60%であり、 人口 12 億 1 千万 世界第 2 位 低い生産性、1 世帯当たりの 宗教 ヒンドゥ教(80.5%) イスラム教(13.4%) 耕作面積が狭く、インフラ 州 の整備ができていない。 名目 GDP 29 州 1 兆 8706 億ドル 世界第 10 位 購買力 GDP 5 兆 690 億ドル 世界第 3 位 建設、鉄鋼等が主である 実質成長率 4.70% が、成長している分野は次の 物価上昇率 9.70% 消費者物価 2 つです。この分野での外資 貿易収支 △1,476 億ドル 国際収支ベース の導入が積極的に進められ 対日輸入額 86 億ドル 機械、鉄鋼等 ています。 対日輸出額 70 億ドル 石油製品、貴金属 イ、電気電子産業 対印投資額 14 億 2 千万ドル ②第二次産業 電気機器、メディア機器 ロ、自動車産業 自動車、その他輸送 日系企業 1,027 社 在留邦人 7,132 人 2,542 拠点 (人口は 2011 年の指標、他は 2013 年の指標です。) 他のアジア諸国と比較し、 産業の集積度が低く、急速に 増大する労働人口を吸収するには、労働集約的な製造業の発展が不可欠です。 ③第三次産業 インドでは第三次産業の比率が高く、インド経済を牽引してきたのは、 第 3 次産業です。 政府の進めるインフラ整備に合わせ、成長してきたのが金融・保険・不動産、卸売・小売、 ホテル・レストラン等のサービス業種です。これに IT 分野がありますが経済全体の 1% にすぎません。 2、インド経済の問題点 (1)社会的問題 ①カースト制度と貧困 インドではカースト制が根強く残り、バラモン(司祭)、クシャトリア(王族・氏 族) 、バイシャ(商工業者) 、シュウードラ(農民・奴隷)の 4 つの階級に加え、不可 触民といわれる最下層の人が 2.5 億~3 億人おります。また、カーストの分類は職業 別に 2 千~3 千にもおよび、上位カーストによる差別が残り、貧困の温床となってい ます。 特に、農村部では自作農や小作農を手伝う不可触民は、農村部の底辺にあり、貧し い生活をしています。 2 ②非組織部門の増大 インドの労働者は、組織部門で雇用される労働者と非組織部門で雇用される労働者 に分けられ、製造業就業者のうち 80%は务悪な労働環境にある非組織部門(従業員 数 10 人~20 人未満の事業所)の労働者です。 地方からの出稼ぎや単純労働者は、この非組織部門で雇用され、低い賃金での生活 をしています。 (2)汚職と補助金 社会主義政策を採用し、肥大化した政府を有するインドでは、国家、地方政府におけ る公務員の汚職が蔓延し、民間企業の発展を妨げ、非効率な経済運営の温床となってい ます。また、政府は多額の補助金を支出し、公正な競争を妨げ、民間企業の健全な発展 を妨げています。 (3)赤字と失業 インドでは、肥大化した政府部門による財政赤字と国内産業の保護政策を推進してき たため貿易赤字が継続しています。 人口が増大しているインドでは、増加人口を吸収できる産業が尐なく、また識字率や 教育水準も低く、職業訓練体制ができていないことから、単純労働者が多く、その失業 者が社会問題となっています。 3、インドの変革と日系企業の進出 (1)新政権による経済改革期待 インドの新首相となったモディ氏は、州首相時代に経済改革を実行し、州経済の発展 を成功させた実力者であり、国民からの期待も高い人物といわれています。首相就任後、 政府部門の改革、経済改革、行政改革を進めており、今後の展開が期待されます。 上記2の問題に対し、インド政府は積極的にインフラ投資をすすめ、雇用環境を改善 し、就業の機会と所得水準の向上を目指しており、また教育にも力を入れています。 このような改革が長期的に続けば、所得水準と教育水準の上昇により、これらの問題 が次第に解決されて行くもの考えられます。 (2)積極的な展開 日本政府はインドとの関係を強化し、政府や日系企業によるインド投資を積極的に推 進する姿勢を打ち出しています。 インドは、今後人口が世界一となり、生産国としてばかりでなく、消費国としても有 望な市場です。また、インド国民は親日的といわれ、日系企業にとっても事業活動がし やすい国でもあります。グローバル化の中で、インドにおいても積極的に事業を展開す る時期にきているといえます。 ★事務所から★ 世界経済は、各地での紛争を抱え、景気の先行きに不透明感が出てきています。また、日 本経済も消費税の影響を受け、低迷が続いています。環境変化は絶えず起こり、グローバル 化の中で、その変化度合いは高くなります。積極的に対応を! 3 (公認会計士辻中事務所)
© Copyright 2024 Paperzz