THE DOUBLE RENNER EFFECT 論文要旨 ( ダブルレナー効果 ) 小鷹 恵利香 ボルンオッペンハイマー (BO) 近似のもとでは、原子核の座標を固定してシュレディンガー方程式を 解くことにより、分子の電子エネルギー状態を求める。最も良く用いられる計算方法に、 ab initio 分子軌道法がある。計算方法や計算技術の進歩により、より精密なポテンシャルエネルギー曲面が、 ab initio 分子軌道計算を用いて、低コストで求まるようになってきた。分子の振動回転状態のエネ ルギーは、分子のポテンシャルエネルギー曲面上で分子の振動回転ハミルトニアンについてシュレディ ンガー方程式を解くことにより求まる。分子の振動回転状態計算に BO 近似を用いると、一つのポテン シャル曲面についての振電回転エネルギー状態が求まる。しかし、二つ以上の分子の電子状態が近接し ている場合の分子の振動回転状態エネルギーを計算するには、 BO 近似は不適当であり、二つ以上の分 子の電子状態を同時に考慮することが必要となる。 1934 年レナーは三原子直線分子の縮退した電子状 態のポテンシャル曲面は、分子が曲がると 2 つに分裂することを発表した [R. Renner, Z. Phys., 92, 172 (1934)] 。以後、直線構造で縮退する電子状態を持つ分子はレナー効果を持つと定義される ようになった。 BO 近似が不適当な系の一つは、レナー効果をもつ三原子分子である。 本論文 Appendix A ~ E に、既発表論文を添付した。ともに直線構造をとる MgNC とその異性体 ~ MgCN の電子基底状態 Χ² MgNC/MgCN は非縮退電子状態を持ち、一枚の BO ポテンシャルエネル Σ ギー曲面からなる。 ab initio 電子状態計算により精密なポテンシャルエネルギー曲面を求め、非縮 退電子状態の振動回転エネルギーレベルを計算するプログラム、 MORBID [P. Jensen, J. Mol. ~ MgNC/MgCN 各平衡構造周辺でのエネルギーレベル、回転 Spec., 128, 478 (1988)] を用い、 Χ²Σ 定数を求め、スペクトルのシュミレーションを行った (Appendix A) 。 MgNC の第一励起状態 Α²~Π MgNC においては、二枚の BO ポテンシャルエネルギー曲面がその直線型の平衡構造で縮退する。 ab initio 電子状態計算によりこれら二枚のエネルギー曲面を精密に計算し、さらに摂動論を用いてレナ ー効果を加味した振電エネルギー状態を計算した (Appendix B) 。計算値は Wright & Miller の実験 スペクトル [R. R. Wright and T. A. Miller, J. Mol. Spec., 194, 219 (1999)] とよく一致 したが、ピークの帰属に食い違いが見られた。この帰属の違いを詳細に調べるため、さらなる ab initio 計算を行ってポテンシャルエネルギー曲面を拡張し、縮退電子状態の振電回転エネルギーレベ ルを計算するプログラム RENNER [P. Jensen et al., ” Computational Spectroscopy”, Wiley, Chichester, 2000] を用いて、振電回転エネルギー、有効回転定数、フランクコンドン因子 を計算した。結果は先の理論計算による帰属を支持した( Appendix C )。また、得られた振電回転波 動関数について全確率密度関数と各電子状態についての部分確率密度関数をプロットすることにより、 レナー効果についてのさらなる知見を得た (Appendix D) 。 Α²~Π MgNC の異性体 Α²~Π MgCN は、同じく 縮退した電子状態を持つ。 Α²~Π MgCN の二枚の BO ポテンシャルエネルギー曲面を詳細な ab initio + + 計算により求め、プログラム RENNER を用いてその振電回転状態を予測した (Appendix E) 。 直線構造で縮退する二枚のポテンシャルエネルギー曲面をもつ三原子分子 ABC は、同じく直線構造で 縮退する三原子分子 BCA への異性化が可能で、それら両直線構造でレナー効果が現れる。本論文ではこ れをダブルレナー効果と呼ぶ。プログラム RENNER では、直線構造で縮退した二枚のポテンシャルエネ ルギー曲面上に存在する一つの平衡構造周辺でのみ振電回転エネルギー状態を計算できるが、ダブルレ ナー効果を含めた計算はできない。本研究では、ダブルレナー効果、スピン軌道相互作用、三原子分子 のすべての振動回転運動を含む振電回転ハミルトニアンをヤコビ座標上に構築し、プログラム DR を作 成した。本論文 1 章にダブルレナー効果の背景、 2 章にプログラム DR の理論、 3 章にプログラムの概 要を述べた。 4 章では Α²~Π MgNC/MgCN の異性化を直線分子 ABC でのダブルレナー効果の例として挙 げ、 5 章では直線構造で縮退するヒドロキシラジカルの電子基底状態と第一励起状態( Χ~ ² Α´´ΗΟ と ~ Α ² Α´ΗΟ )のトンネル効果を含む振電回転状態を非直線分子 ABB でのダブルレナー効果の例として計算 した。得られた振電回転波動関数について全確率密度関数と各電子状態についての部分確率密度関数を プロットした。 Α²~Π MgNC/MgCN については、中間体である 2 A’MgNC の存在と、非局在波動関数中で のレナー効果の存在を確認した。 Χ~ ² Α´´ΗΟ と Α~ ²Α´ΗΟ については、レナー効果とトンネル効果双方が厳 密な振電回転エネルギーを求めるために重要であること、及びレナー効果のトンネル分裂エネルギーへ の関わりを明らかにした。 6 章に結論を記した。 2 2 2 2 2
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