日本における高圧ガス保安法の概要について

日本における高圧ガス保安法の概要について
1.はじめに
産業活動において広く利用されている高圧ガスは、その取扱を誤った場合、事業所の
みならず周辺地域に被害をもたらす恐れがある。このため、日本においては高圧ガス保
安法により、圧縮ガスの場合、原則として 1MPa 以上の気体(圧縮アセチレンガス、液
化ガスは 0.2MPa 以上)を高圧ガスと定義して、その製造、貯蔵、販売等に際して規制
が行われている。
規制の内容は、①施設・設備に対する技術基準の適合、②事業者の保安体制に関する
規定の整備、③有資格者の配置が中心である。
また、高圧ガスそのものを規制対象とした高圧ガス保安法に加えて、火災の予防、鎮
圧等を目的とした消防法、産業活動に従事する労働者の安全と健康を確保することを目
的とした労働安全衛生法、石油コンビナート地域において災害の発生を防止することを
目的とした石油コンビナート等災害防止法とも連携しながら、日本における高圧ガスの
安全が確保されている。(注)
(注)高圧ガス保安法、消防法、労働安全衛生法、石油コンビナート等災害防止法は通称保安四法と称
されている。
2.高圧ガス保安法
高圧ガスを取扱う場合、又は高圧ガスを取扱う設備を製作する場合は、
「高圧ガス保安
法」により規制されている。高圧ガスを取扱う者は、必ずこの高圧ガス保安法を理解し
た上で、高圧ガスの取扱をしなければならない。
(1)目的
この法律の目的は、高圧ガスによる災害を防止し、公共の安全を確保することにあ
る。(注)その目的を達成するため、以下の活動を行っている。
①高圧ガスを取り扱う者に対して行政による許可・検査等の規制を行うこと
②民間事業者や高圧ガス保安協会の自主的な保安に係る活動を促進すること
(注)高圧ガス保安法第 1 条「この法律は、高圧ガスによる災害を防止するため、高圧ガスの製造、
貯蔵、販売、移動その他の取扱及び消費並びに容器の製造及び取扱を規制するとともに、民間
事業者及び高圧ガス保安協会による高圧ガスの保安に関する自主的な活動を促進し、もつて公
共の安全を確保することを目的とする。
」
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(2)高圧ガスの定義
次のいずれかに該当するものを高圧ガスと言う。
(圧力はゲージ圧力である。
)
圧縮ガス
① 常用の温度(通常使用している温度)で圧力 1MPa 以上
② 温度 35℃で圧力 1MPa 以上
圧縮アセチレンガス
① 常用の温度で圧力 0.2MPa 以上
② 温度 15℃において圧力 0.2MPa 以上
液化ガス
① 常用の温度で圧力 0.2MPa 以上
② 0.2MPa となる温度が 35℃以下
その他(液化シアン化水
温度 35℃において圧力零 Pa を超えるもの
素、液化ブロムメチル、
液化酸化エチレン)
(3)高圧ガス保安法の特徴
高圧ガスの製造から貯蔵、販売、移動、消費、廃棄に至るまで、ライフサイクル全
般にわたって規制している。
(4)高圧ガスであるが高圧ガス保安法から除外されているもの(適用除外)
電気事業及びガス事業の用に供される高圧ガスについては電気事業法及びガス事業
法により、鉄道、船舶、航空機等における高圧ガスについては個別法により高圧ガス
保安法と同等の規制が別途行われていることから、基本的には本法の適用除外となっ
ている。
(5)
「製造」に対する主な規制
高圧ガスの「製造」とは、①高圧ガスでないガスを高圧ガスにする。②高圧ガスの
圧力をさらに上昇させる。③高圧ガスを当該高圧ガスより低い高圧ガスにする。④気
体を高圧ガスである液化ガスにする。⑤液化ガスを気化させ、高圧ガスにする。⑥高
圧ガスを容器に充填する等、人為的に高圧ガスの状態を生成することを言う。
一定容積以上の高圧ガスを製造する場合は次のような規制がある。
a) 事業所ごとに都道府県知事(以下、「知事」という)の許可を受けること。
b) 製造施設の設置工事を完成した後は、知事等による完成検査 (注1)を受け、合格す
ること。
c) 製造設備に関する“法で定められた技術上の基準”(以下、「技術上の基準」とい
う)に従って製造設備を維持し、製造の方法に関する技術上の基準に従って高圧ガ
スを製造すること。
d) 危害予防規程(災害の発生の防止や災害の発生が起きた場合において、事業所自ら
が行うべき保安活動について規定したもの)を定めること。
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e) 保安教育計画を定め、従業者に保安教育を施すこと。
f)
製造施設について、定められた期間内に保安検査(注2)を受けること。
g) 年1回以上の定期自主検査を行うこと。
h) 製造施設の変更又は製造方法の変更をしようとするときは、知事の許可を受け、変
更後は届出を行う。
i)
帳簿を備え、保安上必要な事項を記載すること。
j)
保安統括者、保安係員等を選任すること。
なお、一定容積未満の高圧ガスを製造する場合についても届出や技術基準の遵守な
どの規制がある。
(注1)完成検査とは、設置工事を完成した製造施設の位置、構造及び設備が、技術上の基準(例えば、
事業所の境界線を明示していること、ガス設備に使用する材料が適切であること、あるいは高
圧ガス設備が十分な強度を有していること等)に適合していることを目視、試験、記録又は図
面等により確認する検査のことを言い、知事等が行う同検査に合格しなければ施設を使用して
はならない。
(注2)保安検査とは、製造施設が技術上の基準に適合し維持されていることを目視、試験、記録又は
図面等により確認する検査のことを言い、知事等が行う同検査を年に1回受けなければならな
い。
(6)
「貯蔵」に対する主な規制
高圧ガスの「貯蔵」とは、高圧ガスが容器や貯槽などの中にあって溜まっている状
態を言う。高圧ガスを貯蔵する場合は次のような規制がある。
① 一定容量以上の高圧ガスを貯蔵する場合は、知事の許可又は、知事への届出が必
要となる。
② 「貯蔵の方法に係る技術上の基準」に従って貯蔵所を管理すること。
③ 一定容量以上の高圧ガスを貯蔵する第一種貯蔵所については、貯蔵設備に係る完
成検査を受けること。
④ 従業者に保安教育を施すこと。
⑤ 帳簿を備え、保安上必要な事項を記載すること。
(7)
「販売」に対する主な規制
高圧ガスの「販売」とは、高圧ガスの引渡しを継続かつ反復して、営利の目的をも
って行うことを言う。高圧ガスを販売する場合は次のような規制がある。
① 販売所ごとに知事に届け出ること。
② 災害防止に必要な事項をその購入者に周知させること。
③ 基準(販売事業者等に係る技術上の基準、貯蔵の方法に係る技術上の基準、移動
に関する技術上の基準)に従って高圧ガスを販売すること。
④ 従業者に保安教育を施すこと。
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⑤ 帳簿を備え、保安上必要な事項を記載すること。
⑥ 販売主任者を選任すること。
ただし、液化石油ガス(LPガス)を一般消費者等(家庭用又は飲食店等の業務の
ための消費者)に販売する場合は、液化石油ガス法が適用される。
(8)
「移動」に対する主な規制
高圧ガスの「移動」とは、高圧ガスを充填した容器を移動する場合又は導管により
高圧ガスを輸送する場合をいう。高圧ガスを移動する場合は次のような規制がある。
① 高圧ガスを移動する場合には、その容器について保安上必要な措置を講じること。
② 車両により高圧ガスを移動する場合は、その積載方法及び移動方法について技術
上の基準に従うこと。
③ 導管により高圧ガスを輸送する場合は、技術上の基準に従って設置し・維持する
こと。
④ 資格者が移動を監視すること。
(9)
「消費」に対する主な規制
高圧ガスの「消費」とは、高圧ガスを高圧ガスでない状態にし、使用することをい
う。指定された高圧ガスを消費する場合は次のような規制がある。
① 知事に届け出ること。
② 消費のための施設を技術上の基準に適合するよう維持すること。
③ 技術上の基準に従って消費すること。
④ 特定高圧ガス取扱主任者を選任すること。
(10)
「廃棄」に対する主な規制
高圧ガスの「廃棄」とは、容器又は設備内にある高圧ガスを安全な状態で大気等に
放散させて捨てることを言う。指定された高圧ガスを廃棄する場合は次のような規制
がある。
① 廃棄の場所、数量その他廃棄の方法について技術上の基準に従うこと。
3.FAQ
Q1:文中の事業所とは具体的に何を指すか?
A1:事業所とは、一つの事業活動が行われる場所であって、その場所が第三者の道路など
によって分離されていないなど、地縁的に一体化している場所を指す。具体的には、
ある会社の工場全体を一つの事業所として考える。ただし、冷凍の場合には、一般的
に一つの冷凍設備を一つの事業所としてみなす。従って、一つの工場内に独立した複
数の冷凍設備がある場合は、通常その一台一台がそれぞれ事業所になる。
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Q2:製造施設とは何か?
A2:高圧ガスの製造のための施設のことをいい、製造設備や次に挙げるようなものを備え
ている。
鉄道引込線、事務所その他の建築物、プラットホーム、容器置場、貯水槽、給水ポン
プ
(管を含む。)、保護柵、障壁、地下貯槽室、消火器、検知警報器、警戒標、除外
設備など
Q3:製造設備とは何か?
A3:高圧ガスの製造のために用いられる設備のことをいい、具体的には次のようなものが
該当する。
ガス設備(ポンプ、圧縮機、塔槽類、熱交換器、配管、継手、附属弁類及びこれらの
附属品等)
、加熱炉、計測器、電力その他の動力設備、ディスペンサー、転倒台など
Q4:日本に高圧ガスを輸出したいが、どうすればいいか?
A4:日本に高圧ガスを輸出する場合は、知事による検査に合格しない限り、日本に輸出が
できない。この検査は高圧ガス保安法では輸入検査と呼ばれ、内容物確認試験及び容
器に関する安全度試験に適合しているか等を確認するものである。
ただし、例えば、自動車用ショックアブソーバ、エア・サスペンションのような経済
産業省の省令で定めた緩衝装置内における高圧ガスや、航空機用の救命胴衣の容器内
の不活性ガス等は知事による輸入検査は必要はない。
Q5:高圧ガス関連の事故が起きた場合は?
A5:事故が起こった場合は事業者から警察、消防及び都道府県等に届け出ることとなって
いる。重大な高圧ガス事故の場合は、事故の収束後、経済産業省及び高圧ガス保安協
会の担当者が現地に入り、事故状況を確認することとなる。また、高圧ガス保安協会
ではこの他に、小規模な事故でも今後の教訓になりそうなものをピックアップして詳
細調査を行ったり、数年間の事故傾向を分析する等、事故防止に注力している。
【本資料に対するお問合せ先】
高圧ガス保安協会 情報調査部国際室
〒105-8447 東京都港区虎ノ門 4-3-13
TEL:03-3436-2201 FAX:03-3438-4163
MAIL:[email protected]
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