ボストン コンサルティング グループ 東京事務所 東京都千代田区紀尾井町 4-1 ニューオータニガーデンコート〒102-0094 Tel.03-5211-0300 Fax.03-5211-0333 名古屋事務所 愛知県名古屋市中村区名駅 1-1-4 JR セントラルタワーズ〒450-6036 Tel.052-533-3466 Fax.052-533-3468 展望 PERSPECTIVES フロント係のジレンマ: 変革マネジメントの 迷信を打ち破る アムステルダム アテネ アトランタ オークランド バンコク バルセロナ 北 京 ベルリン ボストン ブリュッセル ブダペスト ブエノスアイレス シカゴ ケルン コペンハーゲン ダラス デトロイト デュッセルドルフ フランクフルト ハンブルグ ヘルシンキ 香 港 ヒューストン ジャカルタ クアラルンプール リスボン ロンドン ロサンゼルス マドリッド メルボルン メキシコシティ マイアミ ミラノ モンテレー モスクワ ムンバイ ミュンヘン 名古屋 ニューデリー ニュージャージー ニューヨーク オスロ パリ プラハ ローマ サンフランシスコ サンティアゴ サンパウロ ソウル 上 海 シンガポール ストックホルム シュツットガルト シドニー 台 北 東 京 トロント ウィーン ワルシャワ ワシントン チューリッヒ Vol.160 フロント係のジレンマ: 変革マネジメントの迷信を打ち破る この人間、まさに自然の傑作、智にはすぐれ、 五体、五感の働きは精妙をきわめ、つりあいの美 しさ、動きの敏活、…… ―― ウィリアム・シェイクスピア 「ハムレット」より (福田恒存訳、新潮文庫) 「あのフロント係は問題でした。あらゆるトレー ニングを行い、報奨金も提示したのに、満室にする ことを拒んでいたのです。需要はたくさんあったと いうのに。どうしてあのフロント係は、当ホテルの 戦略を理解しなかったのでしょうか?」 経営幹部の方々には、 「従業員が変われなかった」 とは決して言わないと、ぜひ決意していただきたい。 上のような場合、実は、「従業員が変わらなかった のは、行動を変革することが自分たち自身のために なると思える組織を、私たちが作れなかったからだ」 01 と言うほうがずっと的確だし、正直だ。 以下に示す原則を出発点としなければならない。 変革への取り組みの多くが失敗するのは、変革に 対する従業員の抵抗や、「実行」上の細部の問題と いうより、組織と行動の間の相互作用を十分に理解 人間の行動には必ず理由がある 行動とは、「人が自身の持つリソースと制約を考 できていないことが大きな原因だ。 慮しながら、自らの抱える問題に対処するために見 一般に広く信じられている考え方に次のようなもの 出す解決策」である。人々の行動の原因について、 がある。 その人が合理的でないからだとか、そういう精神構 造なのだ、などという説明は疑ってかかることだ。 ・ルールを増やすとコントロールが行き届くよう せいぜいすでに言われていることを理屈っぽく言っ になるが、同時に従業員個人の自由や裁量の幅 ているにすぎず、何の解決にもつながらない。必要 は狭められる。 なことは、従業員の視点で、それぞれの場合のその ・人間関係が改善されると、人々はより協力し合 従業員の「問題(オペレーション上の課題、個人的 うようになり、パフォーマンスも向上する。 な目標や願望)」、「リソース(スキル、権限、人的 ・行動を測定することは可能であり、変革を実現 ネットワーク)」、「制約(他者への依存度、従わな するためには行動を測定すべきである。 ・適切な報奨制度を設定し、職務に関連するスキ ルを向上させることで、従業員は適正な行動を とるようになる。 ければならないルール)」が何であるかを、理解す ることである。 これらの要素の中には単純にはいかないものもあ る。例えば「ルール」について考えてみよう。一定 限度を超えてルールを増やすと、対象となる従業員 まず興味深いことは、これらは、チェンジ・マネ に対するコントロールの度合いは、実は高まるどこ ジメントにおいて重要だと考えられていることばか ろか、かえって低下する。ある職業に就く人々がス りだ。だがさらに興味深いことには、これらの考え トライキを行うにいたるまでの過程を考えてみよう。 方はすべて間違っている。行動を変えるためには、 これらの人々はルールに厳格に従って仕事をし、そ 02 03 の挙句、すべてが止まってしまう結果となるのだ。 合、どうやって折り合いをつけるのだろうか? そ システム内のルールが多ければ多いほど、システム れは、結果を他人に負わせるか(「調整コスト」は に属する人々が、字面だけではなくルールの奥にあ 同僚や顧客といった第三者に回される)、もしくは る意味を進んで見出そうとしない限り、システムは リソースを追加投入して、相互依存の関係、ひいて 立ち行かなくなる。ルールを細かく定めてパフォー は連携の必要性を根本的になくすかのどちらかだ マンスの向上を図ろうとする努力は例外なく失敗す (チャンネル争いを避けるために一家に2台目のテレ る。それは、ルールが従業員の自由を制限するから ビを購入する例を考えていただきたい)。 ではなく、ルールによって、自由を許容しないシス 「結束」は決して万能薬ではない。表面的にはう テム内に、別の種類の「自由」が生み出されてしま まくいっているように見え、スタッフ間の雰囲気は うからだ。こういう環境では、「自由」を建設的に 実に良いのに連携のレベルは低い場合もある。実際、 作用させることはできない。 職場において最も重要な行動の一つである連携の度 物事が単純に進まない別の例としては、対人関係 合いは、測定できない。測定できるのは、その連携 が組織内の連携に及ぼす影響が挙げられる。互いに の結果(全体の結果としてのパフォーマンス)であ 反感を抱いている状況では対立が生じるし、連携し って、個人がその過程でどれだけの貢献をしたか 合うことも難しいのは事実だ。しかし、好感を持ち (誰が何をしたか)ではない。連携関係にある場合 合うような人間関係も、限度を超えると良好な連携 は、個人の努力の一部は、他の人の仕事に組み込ま は築けない。個々に明確な責任を負う人々が連携す れて初めて結果として現れてくる。したがって、 るには、それぞれの理想の間で歩み寄り、妥協点を 個々の貢献を明確に区別することは不可能というこ 見出さねばならない。このような双方の相違点に対 とになる。可能だとすれば、それは本当の意味の連 して解決を図ろうとせず、最終的にどのようなとこ 携ではなく、単なる力の寄せ集めにすぎない。チー ろに落ち着かせるか、はっきり話し合うことも、遠 ムワークに対してどれほど個人的貢献があったかを 回しに探り合うこともせずに済むなら、対人関係は 測定することを狙った指標は、連携を妨げるか、努 ずっと良好なままで維持できるだろう。だがその場 力が認められない(測定できない)ことによる苦悩 04 05 をもたらすだけである。 ホテルチェーンの経営幹部の中には、トレーニン グを行ない、報奨金を出しているにも関わらず、フ 人間の行動の相互作用を理解する ロント係がぎりぎりに駆け込んでくる客に空室を案 組織は、所属する人々の性格や行動の総和ではな 内しようとしないといって憤慨する方もいる。こう く、人々が互いに影響を与えあう人的システムであ いう場合、「問題はフロント係の考え方や、熱意が る。組織の状況(イノベーションや生産性のレベル 欠けていることにある。それは多くの場合、若いフ など)を理解するには、人々の行動と、それらがど ロント係の離職率が高いことからも分かろうという のように合わさって現在の状況を生み出したのかを ものだ」というような理由付けをされることが多い。 理解する必要がある。組織の結果を見て、一人ひと しかし、このように考える経営幹部は、フロント係 りの行動や意図についていきなり結論を出すべきで が何かトラブルのあった時に責められる立場にいる はない。例えば、ある企業の顧客サービスが弱いか ことを忘れているか分かっていないかのいずれかだ。 らといって、必ずしも従業員が顧客を大事にしてい フロント係の一番の目標は、不満を抱える客からの ないとは限らない。一方、一人ひとりの行動や姿勢 苦情を避けることだ。だが、顧客満足度に関して、 についてわかっていることをもとに、組織全体の成 フロント係はメンテナンスやハウスキーピングとい 果について性急に結論を出すべきでもない。例えば、 ったバックオフィス部門に完全に依存している。こ とても熱心で忠実な従業員たちのほうが高い離職率 のような制約を受けているフロント係にとって、宿 を示すこともある。人々の行為が他者の行動に影響 泊客から苦情を受けた場合の一番の解決策は、別の される状況では、単に個人の姿勢のみを考えるので 部屋を提供することだ。予備の部屋を確保すること はなく、常に人々の間の相互作用の影響を理解し、 は彼らにとって重要なリソースであり、だからこそ、 適切に対処する必要がある。 客室稼働率と連動した報奨金を出されても、満室は 要するにこれが、研究者が「チェンジ・マネジメ 避けたいのである。つまりこの場合、バックオフィ ント」と呼ぶテーマにおける課題の最初の半分にあ スへの依存関係が、報奨金では解決できない妨げと たる。 なって、フロント係の行動を抑制しているのだ。 06 07 また他の解決策を実行せず、フロント係に対する ではない。その反対なのだ。新入社員がどうでもい トレーニング(いくつかの例では「顧客との対話」 いという気持ちでやっていたとしたら、もっと長く のトレーニングを行っていた)だけで問題を解決し 職場に留まっているはずなのだから。このような場 ようとすると、かえって問題を悪化させ、これまで 合、離職率が高いのは、新入社員の熱意とバックオ とは異なる原因でホテルの売上が落ち込む結果にな フィスの非協力的姿勢という双方の要素が相互作用 ることがある。トレーニングの結果、例えば宿泊客 した結果なのである。 がヒーターの調子が悪いと苦情を言った場合でも、 組織を変革するにはまず現実、すなわち、第一線 フロント係は遠慮なくフロントとバックオフィスの の現場における行動と部門・スタッフ間の相互作用 役割分担について説明できるようになったとする。 を理解することが肝要だ。インタビューやアンケー そんな説明で宿泊客が納得することはほとんどなく、 トの回答などで分かる表面的な症状よりもさらに深 フロント係は今度は、新たに身につけたスキルで値 層に迫る分析が必要である。現実とは、現実に対す 引き交渉をして、客の怒りを鎮めようとしたりする。 る認識を平均したものではない。実りある分析をす 一方、熱意に溢れてお客様のためにと張り切って るには、組織構造や業務プロセスの表面的な部分、 いるが、まだそんな技を身につけていない入社した つまり「当然こうあるはずだ」と想定される範囲よ ての若いフロント係は、宿泊客からテレビのリモコ り深く踏み込むことも必要だ。社会学的分析で「問 ンがないと言われると、バックオフィスの手落ちを 題」「リソース」「行動の制約」と呼ばれる、「なぜ 補うために、廊下を駆けずり回って正常に動くリモ その人たちがその行動をとったのか」という要因を コンがある空き部屋を探し出し、そのリモコンを代 明らかにすることが求められる。 わりに提供する。そしてフロントに戻った頃には、 チェックインできずに苛立つ宿泊客が列を成してい 行動と相互作用を形成する土壌とは るという次第だ。こんな状態が3ヶ月も続けば、フ チェンジ・マネジメントにおける課題の残り半分 ロント係は疲れ果てて辞めてしまう。離職率が高い は、戦略を実現するシステムをつくること、具体的 のは、新入社員が熱意に欠けている結果というわけ には、行動と相互作用を形成する土壌を変えること 08 09 だ。変革のための打ち手はいくつもある。例えば、 協力するように仕向けた。協力しなければ自分が制 役割・責任の分化あるいは統合、新しい指示系統、 約を受け、その結果生じる不利益を他者(バックオ プロセス、指標、報奨制度、トレーニングなどだ。 フィス部門にとってはフロント係もしくは宿泊客) しかし、どんな打ち手を取れば、戦略的要件に合致 に回すこともできないとなると、指標や報奨制度を する行動を導き出せるのだろうか? 人々の協力を 新たに設けなくても、連携が常に強化されていく。 得るためには、どんな打ち手をとればよいのか? そして、パフォーマンスの向上が、一人ひとりの目 改善を持続させるためには? その答えは打ち手そ 標や願望の達成に役立つ手段あるいはリソースにな のものにあるのではない。それらの打ち手によって、 るなら、従業員の職務に取り組む姿勢は向上し続け 行動を形成している問題やリソース、制約がどのよ ていく。 うに変わるかにかかっている。しかし実際は、それ ぞれの打ち手がどんな効果につながるかという連環 * * * が把握されていない場合が多い。 あるホテルチェーンは、こういう打ち手とその効 経営幹部が、可能なこと(技術・経済的側面)と 果の関係をきちんと理解した上で、変革のための打 社員がやりたいこと(「人間的」側面)との間で妥 ち手を選ぶことができるようになってから2年もし 協を強いられる局面はよくある。その結果、「解決 ないうちに、業務効率を20%も向上させた。同チェ 策を交渉」し、中間あたりのパフォーマンスに落ち ーンは、管理の強化やさらなるプレッシャーによる 着くことも多い。しかし、それでは責任を全うして のではなく、本質的に従業員が(良し悪しを問わず) いるとは言えない。従業員間に働くダイナミクスを 自分の行動が引き起こした結果に向き合わざるをえ 深く理解することで、戦略の実行を阻むダイナミク なくなる、新しい作業プロセスと役割分担、キャリ スを変え、業務効率を高め、なおかつ職場における アパスを設計した。そしてフィードバックループを 従業員満足度を向上させるシステムを構築できるの 作業プロセスそのものに組み込み、バックオフィス である。 部門が部門内およびフロントデスク部門と必然的に 010 011 既 刊「展望」 イブ・モリュー 原題:The Hotel Clerk イブ・モリュー: BCGパリ事務所 シニア・ヴァイス・プレジデント Vol. 142 Vol. 143 Vol. 144 Vol. 145 Vol. 146 Vol. 147 Vol. 148 Vol. 149 Vol. 150 Vol. 151 ディレクター Vol. 152 2006年8月発行 Vol. 153 Vol. 154 Vol. 155 Vol. 156 Vol. 157 Vol. 158 Vol. 159 「攻め」と「守り」 埋もれた資産を探し出せ 不透明な時代のリーダーシップ 企業価値ベースの競争戦略 チェンジモンスター リーダー就任:最初の100日間 デフレの定石:3+1 ローマ帝国の興亡に学ぶ:再創造と衰退の岐路 今また戦略の時代 キャッシュを生むR&D・商品開発: イノベーション・トゥ・キャッシュ(ITC) 「ニューラグジュアリー」型ブランドの創造 ―ワンランクアップの新商品開発・需要創造のカギ 新視点での調達戦略―ネットワークと情報 ベン・ホーガン 完璧を求めて 成果主義を超えて 営業現場を変える:SFE(営業生産性向上) 投資家の顔が見えているか ポートフォリオ戦略:悪循環から抜け出すステップ M&Aの幻想と真実 バックナンバーは、弊社ホームページでご覧いただけます。 http://www.bcg.co.jp/ 弊グループでは、企業経営に関する様々なテーマについて コンサルティングサービスを提供しております。 ご関心をお持ちの方は、下記までお問合せください。 く 秘 室 す み 久須美 電話:03-5211-0386 FAX:03-5211-7149 電 子 メ ー ル [email protected] 012 書 ( ) 013
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