SPC最新労働判例 X運輸事件 【 大阪高判 H22.9.14 】 社会保険労務士法人 労務管理センター/㈲人事労務管理研究所 2011.08.03 [ № 7] 原告: 嘱託社員A / 被告: X社 請求内容 嘱託社員Aが、再雇用後の賃金が正社員当時と比べ極めて低額であるとして給与差額の支払いを求めた。 争 点 定年退職後の再雇用者の給与が正社員当時の給与のほぼ半額にされたことは、公序良俗違反となるか? 判 決 今回の再雇用後の賃金等は高年齢者雇用安定法の予定範囲内であり、公序良俗違反とはいえない。 概 要 X社の正社員であったAは定年退職後、シニア(嘱託)社員として再雇用された。しかし、従前と同様の業務をして いるにも関らず、正社員当時の給与が月額42万円程度(賞与含む)であったのに比べ、シニア社員の「時間給1000 円、賞与なし」は極めて低額であり、「同一労働・同一賃金の原則」「労働条件の不利益変更」の観点から、公序良 俗違反であるとして給与差額の支払いを求めて提訴したものの控訴審。 確 認 【同一労働同一賃金】 性別、雇用形態(フルタイム、パートタイム、派遣社員など)、人種、宗教、国籍などに関係なく、同一の職種に従 事する労働者に対して同一の賃金水準を適用し、労働の量に応じて賃金を支払う賃金政策のこと。さらに、職種が異 なる場合であっても労働の質が同等であれば、同一の賃金水準を適用させる。 判決のポイント ① 契約書に署名押印しているので、「時間給1000円、賞与なし」について合意が成立している。 ② 正社員とシニア(嘱託)社員とは労働契約の種類・内容が異なり、「同一労働・同一賃金の原則」「均等 待遇の原則」の適用は予定されていない。 ③ 「同一労働・同一賃金の原則」は労働関係を規律する一般的な法規範と認められない。 ④ 高年齢雇用継続給付金は賃金月額が61%になることを予測している。 ⑤ 他社の扱いを見ても60歳を超えてからの賃金は定年前の50∼70%の間に73.8%が集中しており、 60∼69%の間とする企業が最多であり特段に偏向しているとはいえない。 ※但し、全く必要性・合理性なく、いかにも辞めてほしいといわんばかりの条件を提示する場合は、実質的な 高年齢者雇用安定法違反として行政指導の対象となる余地がある。 ※嘱託社員が、パートタイム労働法の規定するパートタイマーとしての勤務であれば、同法の「均衡考慮」に ついては適用があるため、この点は留意が必要である。 SPCの見解 ■定年退職者との再雇用(嘱託)契約については、更新の基準を明確にしておくことが重要である。また、今回の判 例では、原告が契約書に署名押印している事が大変重要視されているため、再雇用契約締結時には必ず契約書を交 わすべきである。また、再雇用の詳細な契約内容は統一の定めを別途作成し、個々の再雇用契約書では「別に定め る再雇用基準による」とするのが良いのではないか。 ■60歳を超えてからの賃金は定年前の60∼69%の間とする企業が最多であることは、賃金低下の合理性を判断する上 で、大変重要な基準となりうる。 ■正社員当時と同様の業務をしていながら給与がほぼ半額に低下することは、確かに納得が得られにくい場合がある ため、嘱託社員の業務については、例え本人が希望したとしても、正社員当時と比較して労働時間や日数について 減らすことが、無用な争いを避けるためには望ましいと考えられる。 労働新聞 平成23年07月18日 / 2833 号より 本紙の無断複写・転載等は、固くお断りします。
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