2013年 春号

2013年
金融街にある満開の桜と工事中断のまま数年が過ぎた高層ビル
目
Ⅰ.レポート
次
~労働契約法の改正について~
Ⅱ.上海で開催される主な見本市・展示会等情報(2013 年 5 月~7 月)
Ⅲ.コラム
~「安心・安全」の追求~
春号
Ⅰ.レポート
労働契約法の改正について
1.はじめに
2012 年 12 月 28 日に全国人民代表大会常務委員会において
「中華人民共和国労働契約法」
の改正案が可決され、同日「
『中華人民共和国労働契約法』の改正に関する決定」が公布さ
れた。本改正は 2008 年 1 月 1 日に「労働契約法」が施行されて以来、初めてとなる改正で、
「労務派遣業務」に対する規制を強化する内容となっており、2013 年 7 月 1 日より施行さ
れる。
今回は労働契約法の改正点および改正に伴う留意点等についてレポートする。
2.改正の背景
今回の改正では、以下の現状を踏まえ、労務派遣業界全体の健全化、労務派遣形態で
の雇用に関する派遣労働者の権利保護を重視する内容となっている。
・正規社員と派遣労働者との格差、派遣労働者の不安定な地位の社会問題化
・人件費圧縮や社会保険費支払等を回避する手段としての乱用
・臨時的な職務にのみ適用されるはずのものが、長期間派遣労働者として雇用され、賃
金や福利厚生、雇用継続等の面での冷遇等、十分な社会保障が受けられない状態
3.労働契約法の主な改正点(改正条文の参考日本語訳はレポート巻末を参照)
(1)労務派遣企業の設立条件の厳格化(労働契約法第 57 条)
・最低登録資本金を 50 万元から 200 万元への引上げ
・労働行政部門の許認可取得を義務付け
(2)同一労働・同一賃金の原則(第 63 条)
・派遣労働者が直接雇用労働者と「同一労働同一賃金(中国語で同工同酬)」の権利を
享受できることを明確化
・受入先企業に対し「同一の労働報酬分配方法」の実施を義務付け
・「労働契約」(労務派遣企業と派遣労働者が締結)と「労務派遣契約」(労務派遣企
業と受入先企業が締結)における賃金について、上記原則に基づき約定することを義
務付け
-1-
(3)派遣労働者における業務範囲の明確化(第 66 条)
・労務派遣の位置付を明確化し、「臨時的」、「補助的」、「代替的」についての定義
を追加
・派遣労働者数の割合を「一定比率を超えてはならない」という総量規制の組入れ
(4)罰則規定の強化(第 92 条)
・労務派遣企業の違法行為に対する罰金の引上げ
・罰則対象を派遣労働者受入先企業までに拡大
・無許可経営に対する業務停止命令、違法所得の没収、罰金等の罰則の組入れ
4.改正に伴う派遣労働者受入先企業の対応・留意点等について
(1)営業許可証等による労務派遣企業の調査・確認等
労働契約法第 57 条の改正により、既存の労務派遣企業に対しても施行後 1 年以内
(2014 年 6 月 30 日まで)に行政許可の取得が義務付けられた。したがって、違法な業
者と労務派遣契約を締結することがないよう留意し、場合によっては利用中の労務派遣
企業が法改正に準じて行政許可の取得、登記変更の手続きを行っているかを営業許可証
等により調査・確認することも必要である。
(2)同一労働に従事する派遣労働者と直接雇用労働者の賃金体系の同一性の確保
労働契約法第 63 条の改正による「同一労働・同一賃金の原則」への対応として、労務
派遣企業との労務派遣契約締結時ならびに派遣労働者を受け入れる際の条件設定時に、
派遣労働者と同一労働に従事する直接雇用労働者の賃金との同一性が確保できる賃金
体系(各種支給手当等)にあるか、賃金体系の確認・変更が必要である。
(3)既存契約の取扱いおよび既存契約に基づく賃金体系、就業規則等の変更
本改正法の公布前(2012 年 12 月 28 日)に既に締結している労働契約と労務派遣契約
は期限満了まで履行可能である。ただし、派遣労働者か直接雇用労働者であるかの雇用
形態の違いのみを理由として賃金体系に差をつけることが許されない。したがって期限
満了前であっても、「同一労働同一賃金の原則」に基づく賃金体系の調整が求められる
ほか、場合によっては就業規則等において賃金等に関連する部分について、変更する必
要もある。
(4)既存派遣労働者の直接雇用への移行検討
労働契約法第 66 条の改正による「業務範囲の明確化」により、これまで上海市では
1 年、重慶市では 6 カ月などと地域毎に異なっていた派遣労働期間が一律「最長 6 カ月」
となる。また、派遣労働者が従事できる業務内容および派遣者労働者数を全従業員の一
定比率以内に抑制することが明確化されることにより、派遣形態の利用が限定される。
-2-
したがって、多数の派遣労働者を抱えている企業や、派遣労働者に主要業務とみなされ
る業務を担当させている企業にとっては、既存の派遣労働者の直接雇用への移行検討も
必要となる。
(5)労務契約の内容変更や追加契約等の発生
現在締結している労働契約において、契約内容の変更や派遣労働者が実際に従事して
いる業務内容に関する確認書の提出等、追加での契約等が必要となる可能性がある。
5.おわりに
今回の労働契約法の改正は、直接雇用への移行促進による派遣労働者の保護を重視した
雇用環境の改善と労務派遣業界全体の健全化を図ることを目的としたものと考えられる。
現地スタッフとして多くの派遣労働者を雇用している現地法人にとっては、現時点で労
務派遣に関する制限等における詳細な比率等は発表されていないものの、その影響は決し
て少なくない。今次の改正が厳格に運用されることで、場合によっては派遣労働者を直接
雇用へ移行する必要が生じるなど、人件費負担の上昇要因等になりかねないことから、今
後の対応として、適正な雇用形態、人員構成・給与等の人事・労務管理への対策を検討、
実施していく必要がある。
一方、外資企業の中国国内に設置する駐在員事務所にとっては、もともと労務派遣によ
る雇用しか認められていないため、今回の改正による影響は殆どないと考えられるが、将
来的には現地法人と同様の適用を受けることも考えられることから、今後も労働契約法改
正に関する補充通達等の内容、実務上の運用等の動向に注視していくこととしたい。
【参考:労働契約法改正条文の日本語訳】
第 57 条
改正前
改正後
・登録資本金は 50 万元を下回ってはならない。
・登録資本金は 200 万元を下回ってはならない。
・固定の経営場所および施設を有していること。
・律法規に合致する労務派遣管理制度を有していること。
・労務派遣業務を経営する場合は、労働行政部門の行政許可を取得し、登記を行
うこと。
-3-
第 63 条
・派遣労働者は受入先企業の労働者と同一労働・同一報酬の権利を有する。同一
改正前
職務の労働者がいない場合 、受入先企業所在地の同一職務または類似する職
務に従事する労働者の労働報酬に従って確定する。
・派遣労働者は受入先企業の直接雇用にある労働者と同一の労働に対して、同一
の報酬を受ける権利を有する。
・受入先企業は同一労働同一賃金の原則に照らして、派遣労働者と受入先企業の
同一職務に従事する直接雇用の労働者に対し、同一の労働報酬分配方法を実施
改正後
しなければならない。
・受入企業に同一職務の直接雇用の労働者がいない場合 、受入先企業所在地の
同一職務または類似する職務に従事する労働者の労働報酬に従って確定する。
・労務派遣企業と派遣労働者が締結する労働契約及び受入先企業と締結する労務
派遣合意で、記載或いは約定する派遣労働者へ支払う労働報酬の内容は、前項
の規定に合致しなければならない。
第 66 条
改正前
・労務派遣は、通常、臨時的 、補助的あるいは代替的の職務において実施。
・労働契約による雇用はわが国の企業の基本雇用形式である。
・労務派遣での雇用形態は補完的な形式であり、臨時的、補助的、代替的な職務
においてのみ実施することができる。
・前項で規定する臨時的職務とは、継続期間が 6 カ月を超えない職務を指す。
・補助的とは、主要業務職務の為にサービスを提供する非主要職務を指す。
改正後
・代替的とは、受入先企業の労働者が学習、休暇などの原因で職場を離れて業務
に従事できない一定期間内に、その他の労働者が業務を代替することができる
職務を指す。
・受入先企業は、労務派遣による雇用人数を厳格に抑制しなければならず、雇用
者総数の一定割合を超えてはならない。具体的な割合は国務院の労働行政部門
が規定する。
-4-
第 92 条
・労務派遣企業が本法の規定に違反した場合、労働行政部門とその他の関係管
轄部門は改善を命じる。
改正前
・程度が重い場合には、1人につき 1,000元以上 5,000 元以下の罰金を課し、
工商行政管理部門が営業許可証を取消する。
・派遣された労働者に損害を与えた場合には、労務派遣企業と受入先企業は連
帯賠償責任を負う。
・本法の規定に関し、無許可で労務派遣業務を経営した場合、労働行政部門が
違法行為の停止を命じ、違法所得を没収し、且つ違法所得の 1 倍以上
5
倍以下の罰金に処し、違法所得がない場合、5 万元以下の罰金に処すること
ができる。
改正後
・労務派遣企業、受入先企業が本法の労務派遣に関する規定に違反した場合、
労働行政部門が期限を設けて是正を命じる。期限経過後においても是正しな
い場合、一人につき 5,000 元以上 10,000 元以下の罰金を課し、労務派遣企
業に対しては、当該営業許可証を取消する。
・派遣された労働者に損害を与えた場合には、労務派遣企業と受入先企業は連
帯責任を負う。
1.
法律上、会計上の助言:本資料記載の情報は、法律上、会計上、税務上の助言を含むものではありません。法律上、
会計上、税務上の助言を必要とされる場合は、それぞれの専門家にご相談ください。
2.
著作権:本資料記載の情報の著作権は原則として弊行に帰属します。いかなる目的であれ本資料の一部または全部
について無断で、いかなる方法においても複写、複製、引用、転載、翻訳、貸与等を行うことを禁止します。
3.
免責:本資料記載の情報は、弊行が信頼できると考える各方面から取得しておりますが、その内容の正確性、信頼
性、完全性を保証するものではありません。弊行は当該情報に起因して発生した損害については、その内容如何に
かかわらず一切責任を負いません。
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Ⅱ.上海で開催される主な見本市・展示会等情報(2013 年 5 月~2013 年 7 月)
見本市・展示会等名
2013 上海国際キッズ用品展示会
会 期
ホームページ等
2013 年 5 月 3 日 ~
http://www.chinainfo-jp
(春季)
第 23 回中国国際自転車展覧会
SIALCHINA2013 (中国最大級の食
5 月 5 日 .com/expo/child.html
2013 年 5 月 6 日 ~
5月9日
2013 年 5 月 7 日 ~
品・飲料関連見本市)
上海世界旅游博覧会
第 8 回中国国際福祉機器展示会
2013 上海国際医療設備&生物技術
Exhibition on Textile Industry
2013 年 5 月 9 日 ~
2013 年 5 月 16 日 ~
2013 中国上海国際照明産業総合展
中国国際モーター展示会
http://www.sialchina.co
http://www.worldtravelf
http://www.china-aid.co
5 月 18 日 m/
2013 年 5 月 29 日 ~
http://www.chinainfo-jp
5 月 31 日 .com/expo/med.html
2013 年 6 月 10 日 ~
6 月 13 日
2013 年 6 月 18 日 ~
(中国国際技術設備展覧会)
ALUMINIUM CHINA 2013
px
5 月 12 日 air.com.cn/
(ShanghaiTex 2013)
Die & Mould China 2013
.com/Website/Default.as
5 月 9 日 m/
展示会
The 16th International
http://www.e-chinacycle
6 月 21 日
2013 年 7 月 2 日 ~
http://www.shanghaitexo
nline.com/STX13/Main/la
ng-eng/Information.aspx
http://www.dmcexpo.com/
http://www.aluminiumchi
7 月 4 日 na.com/
2013 年 7 月 10 日 ~
http://www.chinainfo-jp
7 月 13 日 .com/expo/lighting.html
2013 年 7 月 18 日 ~
http://www.motor-china.
7 月 20 日 org/djexpo/index.asp
※各見本市・展示会等の開催時期や内容等は、主催者により変更、延期、中止されること
があります。詳細については、直接各主催者等にお問合せの上、ご確認願います。
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Ⅲ.コラム
「安全・安心」の追求
今年3月、上海の世間を騒がせたものと言えば、
「豚」です。上海を代表する観光スポ
ット「外灘(バンド)
」を流れる黄浦江の上流は、上海市民が使用する水道水を汲み上げ
る水源でもあります。その水源に隣接する浙江省嘉興市では、畜産農家が伝染病で大量
死した豚の死骸を黄浦江に不法投棄し、その数は一万匹を超えました。上海市環境当局
によると現時点で水道水は汚染されていないと公表していますが、市民の間では、冗談
で「水道水を沸かすと豚骨スープができる」と皮肉られています。
昨今、様々な環境問題に直面している中国。メラミンの混入した汚染粉ミルクや下水
から精製した食用油、可塑剤などの添加物、抗生物質を投与されたブロイラー鶏など、
中国では次々に食品安全性の問題が発生しています。しかし、このような問題が明るみ
になってきているのは、人々の食品の安全に対する関心が高まっていることを受け、マ
スコミも話題として大きく取り上げ、また、行政もその取締りを強化しているからでも
あると言えます。
4月に入りますと、
「鳥インフルエンザ」の発生とともに、話題にならなくなってしま
った微小粒子状物質「PM2.5」による大気汚染も、依然深刻な問題です。上海に駐在する
在留邦人のみならず、多くの中国人も日系ブランドの空気清浄器を求め、1台約 4,000
元(日本円で約 6 万円)もする製品が飛ぶように売れ、メーカーは増産体制に入ってい
るほどです。この分野に限っては、日本製品の不買運動は見られないようです。この大
気汚染が改善されるには、早くても 10 年、一説には 30 年かかるとも言われています。
中国では、急速な経済成長と国民の所得増加を背景とした生活レベルの向上や「健康
志向」の高まりによって、国民の生活環境に対する「安全・安心」を重視した消費の傾
向が非常に強まってきています。今後、中国での企業活動において、この「安全・安心」
に対する責任を持った取組みが欠かすことのできないものであり、また、それらに対す
る技術やノウハウが今の中国にとって一番必要なものと言え、日系企業の活路もここに
あるのではないかと思います。
【同じ場所を撮影した写真】
悪天候と大気汚染による霧で霞む上海の様子(右)
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