三十、『 少 女亀』

 三十、『少女亀』
1
世の中上手く出来ている。
"過ぎる"と"減らす"クセがアル。
幸福が増えると不幸で調節しようとする。
そんな操作をする「負の調和」の力が働くように思う。
昔からそんな理論はありそうだが、世間話し程度でも、
人は経験的に感じていて、いつも囁かれる内容だ。
幸運なコトが続けば、逆に反動で良からぬコトを
予感し、恐れる傾向にある。幸せが続くと恐くなる。
地球規模でも引力のようにそんな力が発生するならば、
増えすぎた人口は削られるし、繁栄したら衰退する。
2
儲け過ぎたら損をし、幸福過ぎたら不幸を混ぜられる。
では、不幸ばかりを貯め込んでいる人はこれから先
イイ事だらけなハズだろうに、富を独占する事に秀で、
流出を調節する人達の保身の為、不幸なままだ。
自らの繁栄にヤッキだから、幸福の分配はまずしない。
言いたい気持ちは分からないでもナイが、アイドルの
「みんな大好き!」に集約されるモノ言いは上っ面。
しかしモノは考えよう。幸福の屹水線、幸福の温度
それらが保たれば幸福は鮮度が保たれ、腐らないかも。
もちろんカツカツの幸福感だが、満腹感も無ければ
3
酷い枯渇もしない程度にある。
であれば、現代社会でいいじゃないか。
ご尤もだが、あまりに利己的、バランスが悪い。
水草の上のボートピープルの気持ちは不安だらけか、
それとも快適でこの上ないと思っているか。
オカに揚がればセチガライ事ばかり。
せっかくの笑顔が消え失せてしまう。
富で測れない価値であればイイ訳で。
ココロの豊かさで補える。ある程度は。
差し引きゼロにしたいのなら、何か理由があるハズ。
4
科学で解明されないヨキコト/アシキコトの比率が。
地球の水分は海にプールされてるから、循環するだけ。
雲が湧き、雨が降り、また海に流れ込む。
その気になれば止まない雨を降らせ続けられる。
幸運はあっという間に蒸発し、誰かの頭上に降り注ぐ。
幸福の絶対量は決まっていて、何処かのダムが関止め、
「一生分の運を使い果たしました」とヨク言うが、
それだけ幸運のオコボレは少ないのが現状。
よくもエターナルな愛が約束出来るなあと感心する。
自らの安泰は疑わないのか、"永遠不滅の愛"らしい。
5
サテサテつまらん繰り言をモゾモゾゆーとりますが、
『ワレワレには猫がいるではナイカ!』
と、声高に申しておきます。
世の中には猫が居るというだけで、どれだけの人が
助けられ、生きて行けていることか。
貧しくとも、猫とゴハンが食べれればイイという人。
自分の子供よりも猫の方がカワイイ人も多い。
猫にはニャンゲンの都合などどーでもイイこって。
金は無価値。食って寝て、好きにさせるしかない。
最近お源さんの大切な猫が一匹戻らないらしい。
6
落ち込みようはヒドク、ついつい泣いてしまうようだ。
自分がその立場であったらと思うとゾッとする。。
何処かの家にちゃっかり居座っていてくれればいいが…
外は物凄い雨になった。側溝に濁流が流れ込む。
死期を悟った猫は死に場所を探す為に
弱った身体で家を出るようだ。お源さんの猫もそう。
浜の温泉はお湯を海に流している?せいか、
眼下に海ガメが集まって来ている。
波間に黒い頭を出しては息をして、またすぐに潜る。
初め、俄かに信じ難かったが、四匹、五匹と見かける。
まだ小さな個体なので少年少女だろうか。亀は長生き。
波に揉まれながらも漂う亀たち。ええなあと思う。
主人と別れ、こっそり亡くなる猫。悲しいコトだが、
ええなあ。と思う。ただし行方不明なのだから、
生涯ずっと気になるだろう。。
「いいネ」は止めて「ええなあ」にしたらどうだろう。
本当に羨ましいくらいイイと思う人が賛同すればイイ。
シヤワセの分配はそれくらいの人でなきゃあダメかも。
つくづく「ええなあ」と共感した人だけが分かる世界。
8
9
波に翻弄されながらも、まだ甲羅の小さい少年の亀は
波間を漂い、少女亀と遊んでいるかのようだ。
もし露天風呂の温かい排水がこの亀達を呼び込んで
いるのであれば、自然に分配を行っているのだ。
「ええなあ」を三つ付けたい気分だ。
若い個体、少女の亀は今後砂浜に上陸して産卵をする。
何年か後には多くの海ガメの見られる温泉として、
人気を博すのではないだろうか。
今のうちアンコ亀を作っておこうか。
10
座敷展の最中、縁あって人間の少女亀が舞いを舞った。
初々しい少女亀の踊りは波間のキラキラに浮き沈む。
決して泳ぎが上手という訳ではナイ。
ただ必死さと健気さが遊びながら見え隠れする。
歳をとったのか、生命力の煌めきが妙に目眩く映る。
この時期にこの二つが目撃出来たコトに感謝しよう。
「シアワセの分配」を確かに受けた気がする。
●次回『半ドアの函』
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