中国軸に大きな成長の可能性 - 伊藤忠商事繊維カンパニー

vol.632
2012
since 1960
12
毎月1回発行
■ 発行:伊藤忠商事株式会社 繊維経営企画部
大阪市北区梅田3-1-3
■ TEL:06-7638-2027 ■ FAX:06-7638-2008
■ URL:http://www.itochu-tex.net
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Vol.632 CONTENTS
Special Feature /
─ ITOCHU Mission ─
Committed to the global good
豊
か
さ を
担
う
責
任
アジアのラグジュアリー市場
1-4面
Topics /
ニュース・クリッピング
4面
World Report /
フランス 華やかさと、その裏側
5面
Fashion Report /
繊維業界が期待! ファッションと自転車のクロスオーバーイベント
Tweed Run Tokyo 2012
6面
アジアのラグジュアリー市場
座談会 in 香港
中国軸に大きな成長の可能性
S
pecial
Feature
今月号は、在香港のブランド、小売り企業関係者の皆さんにお集まり願い、ファッショングッズなどを含むアジアのラグジュアリー市場について、話
し合っていただきました。中国の経済成長はやや鈍化してきましたが、大中国圏や日本を含むアジア市場を見れば、発展への潜在力や可能性がまだ
多く残されています。市場が今どのような状況にあるのか、その特徴などをお聞きするとともに、アジア市場の近未来について展望しました。
出席者
(社名50音順)
ゴールドストーン・デベロップメント・リミテッド マネージングディレクター
周 偉祥氏
フェニックスグループ・ホールディングス会長
荻野 正明氏
ブルーベル(アジア)リミテッド 社長兼最高経営責任者(CEO)
アシュリー・ミッケルライト氏
司 会
伊藤忠テキスタイルプロミネント
(アジア)リミテッド 社長
清水 源也
香港九龍サイドのカントンロードにはラグジュアリーブランドが軒を連ねる
みだったのですが、結果的に成功しました。
1992年頃には、プラダのデザイン協力を得て
「ア
ンテプリマ」ブランドを立ち上げました。そ
ブランドビジネスに進出
れから約5年間、
プラダにアンテプリマの靴、バッ
ニット糸販売からスタート
グのコレクションを監修していただきました。
清水 まず、フェニックスグループ・ホール
1996年には、中・高級スタイルの食品を中
ディングス(HD)の荻野さんから自己紹介を
心とした小売店「シティスーパー」を始めまし
お願いします。
た。これは香港の人々にとって新しい形態で
荻野 わたしは1966年からほぼ半世紀の
した。中国にも進出し、第1号店は上海の浦
間、香港で暮らしてきたので、自分のことを
東地区にオープンしました。業績は好調で、
語りだすと少し時間がかかるかもしれません。 シティスーパーの本格的な店舗を来年上海中
最初はニッターへの編み糸サプライヤーとして
心部に2店舗、出店することを決めました。
ビジネスキャリアをスタート。それから双方向
清水 「A/T」
「アツロウ・タヤマ」ブラ
の事業になるように、糸の売り先工場からセー
ンドはいかがですか。販売されている店舗は
ターを買い始め、おそらく1980年代と思いま
現在いくつあるのでしょうか。
すが、日本市場向けでは世界最大のニット製
荻野 中国と香港を合わせて50∼60店舗
品サプライヤーになりました。
です。当社の成功の要因は、他のフランチャ
しかし、1990年代初めからは、日本がカジュ
イジーのように単に代理店業務ではないこと。
アルウエアを志向するようになり、日本の顧客
我々は代理店であるとともに、ブランドのライ
も
「どれだけ安く」
「どれだけ早く供給できるか」 センシーでもあります。我々自身もある一定の
などを求めるようになってきました。いわゆるQ
割合で製品を生産し、もちろんブランドに対
R
(クイック・レスポンス)です。このため、我々
するロイヤルティーを払っています。
は米国と欧州向け販売に方向転換を余儀な
香港と日本の市場の違いを考えると、香港、
くされ、その結果、当社の事業における日本
例えば九龍サイドのカントンロードのショップに
向けのシェアが当時の95∼96%から現在では
は非常に高い家賃を払っています。日本の銀
わずか15%にまで低下しました。我々にとって
座でもこんな高い家賃は誰も払っていないと
大きな変化でした。
思います(苦笑)
。今の銀座の家賃は、カン
1986年に、イタリアの「プラダ」の日本を除
トンロード沿いのお店が支払う家賃の約3分の
くほぼすべてのアジア地域の独占販売権を
1から4分の1と言われています。この高い家
取得しました。ファッションビジネスへの初の試
賃が、経営を困難にする要因となります。
フェニックスグループHD
写真前列右から、周偉祥氏、アシュリー・ミッケルライト氏、後列右から、荻野 正明氏、清水 源也
こうした違いを克服するためにも、ブランド
ライセンス権を持つことが大きな武器になりま
す。単なる代理店ではなくオペレーターにもな
る。たとえロイヤルティーをブランドホルダーに
支払ってもはるかに有利です。
振り返ってみると以前は必ずしも効率的では
ないこともやっていました。例えば、中国で生
産された製品を日本へ輸出し、日本のLDPコ
スト(送料、関税、通関手数料など含む金額)
やブランドのロイヤルティーを加算して香港へ再
輸出したこともあります。今は中国・香港間の
ルートができ、一定の範囲を超えないようにして
いますが、当時は今から思うととても非効率な
ことをやらざるを得なかったわけです。
ゴールドストーン
中国本土市場で伸長
ブランドライセンス軸に
周 ゴールドストーン社は、腕時計などの
ラグジュアリー品分野でサービスを提供する会
2
2012年12月号
アジアのラグジュアリー市場
香港で立ち上げた「アンテプリマ」
フェニックスグループ・ホールディングス
会長
荻野 正明氏
タイムズスクエアの「シティスーパー」
社として1985年に設立されました。それから
約25年の間、当社は様々な分野に進出し、
「グレゴリー」ブランドのほか、
「レオナール」
「ジ
バンシー」「ニナリッチ」のアジア市場におけ
るライセンス、「バレンシアガ」腕時計の全世
界ライセンスを取得してきました。
1999年、腕時計業界で多くの企業買収が
行われ、事業が困難になってきました。この
ため、他の分野に目を向けるようになり、当
時バレンシアガの腕時計を取り扱っていたこと
もあって、2001年にバレンシアガの皮革製品
のライセンシーになりました。とくに中国市場に
力を注ぎ、2008年までに中国で220の販売拠
点を抱え、婦人靴のライセンスも取得しました。
また、当社は靴メーカーとの合弁会社も持っ
ていましたので、皮革製品需要の増加に伴
い、中国に皮革製品の製造工場を設立した
のですが、残念なことに2008年にグッチがバ
レンシアガを買収したために、その事業は終
了することになりました。
これを補うため、婦人・紳士の皮革製品、
靴の「ギラロッシュ」ブランドを取得したわけ
です。中国・香港に約200店舗を設け、シン
ガポール、マレーシア、インドネシア、タイなど
東南アジアのライセンシー向けにも生産を行っ
ています。
清水 現在、販売店舗が中国やアジアで
増加しているとのこと、どちらが伸びているの
でしょうか。
周 もちろん中国です。市場・消費者の
規模など、やはり他の市場よりも大きい。中
国ではギラロッシュを皮革製品のトップブランド
の一つとして位置づけています。価格は「コー
チ」などのブランドに匹敵しますね。
に買収されました。二度目は「ルイ・ヴィトン」、
三度目は2000年初めに婦人服で単独進出し
ました。われわれは基本的に婦人服の先駆
者でもありましたが、進出してから2、3年後
に再び撤退を余儀なくされた。しかし、今ま
た中国に戻ろうとしています。
当社のビジネスモデルは、世界中を飛び回
り、欧州や米国で十分にブランドが確立され
ている中小企業を探し出すことです。彼らは
アジアへ進出するには経営資源が限定されて
いるため、単独ではなかなか難しい。我々が、
彼らの市場拡大を支援するわけです。
過去50年間、アジアは必ずしも最優先市
場ではありませんでした。ヨーロッパの人々は、
まず欧州を第1市場、そして米国を第2市場
と考えていた。アメリカ人も米国が第1、ヨー
ロッパが第2で、アジアは常に後回しでした。
我々は長年にわたりアジアにブランドを持って
行き、またそれらのブランドを買い戻してもらう
ことで収益を稼ぎ出した。それが我々のビジ
ネスモデルでした。
しかし、ここ10年の間に課題がかなり多く
なってきました。まず、アジアはもはや後回し
の市場ではありません。今はアジアを最大の
ラグジュアリー市場としてみています。今の
米国や欧州の経済状況では、多くの人々が
アジアに目を向けざるを得ないという面もあり
ます。
我々を悩ませている第2の課題は競争の激
化です。10∼20年前にブランドを探している
人々はまだ少数でしたが、今はアジアの人々
が欧米に自分のチームを持ち、我々より先に
ブランド所有者と話している(苦笑)。さらに
悪いことに、プライベート・エクイティー(未
公開株に投資するファンドなど)の人々もブラ
ンドと交渉しています。
プライベート・エクイティーはブランドの永
遠の所有者ではありません。本来ブランドの
所有者は10年、15年や20年先を考えます
が、プライベート・エクイティーは3∼5年先
しか考えていない。事業目的は、プライベー
ト・エクイティーが4∼5年ごとにビジネスを回
転することを計画している一方で、我々は5
年、10年、15年先のことを常に考えて行動
しています。
さらに事態をより難しくしているのは、ここ
10∼15年、小売店舗、販売スペースを貸し
てくれていた家主が我々のライバル企業を買
収していることです。この動きは日本ではそれ
ほど顕著になっていませんが、香港、韓国、
東南アジアではよくみられる現象です。家主
はライバル企業も良い売り場を希望しているこ
とをよく知っており、だんだんと我々の立場は
不利になり、市場での競争はますます厳しく
なってきました。我々には建物、店舗などを
買う財源は正直言って乏しいので、競合を避
け、他のブランドなり事業にビジネスの力点を
変える必要が出てきました。
清水 力点を置かれている市場は。
ミッケルライト なんといっても今注力して
いる最大の市場は中国です。今後5年間で、
中国市場で自社の事業、アイデンティティーを
再確立するための方策を検討しており、積極
的に展開していくつもりです。借り物のブラン
ドではなく、今回は自社独自の形で進出する
計画です。もうひとつ非常に注目している市
場はインドネシア。また第3市場として、韓国
の国内市場があります。
ご 承 知 のように、当 社は韓 国に巨 大な
デューティーフリーショップを持っており、非常
に良いマーケットですが、韓国の国内市場と
は完全に異なります。韓国国内市場は販売
スペースの獲得が困難で、直面している課
題も大きい。競争相手は不動産を直接コント
ロールしているだけでなく、ブランドもコントロー
ルしていますから。
わたしは約1年前、最高経営責任者(CEO)
として会社に入り、これらすべての課題を含
めて事業の方向性を変えることに努めてきまし
た。これは非常に難しい作業ですが、製造
工程に進出する試みにも着手し、なんとか軌
道に乗せたいと考えています。
アジア市場
異常高騰の店舗家賃
共同モールに可能性
清水 荻野さん、香港やアジア市場につ
いて、どのようにご覧でしょうか。
荻野 ブランドビジネスの重要な課題であ
る家賃。先ほど申し上げたように我々は香港
で他の国や地域では見られないようなクレイ
ジーな家賃を払っています。このため類似事
業を手掛ける多くの人々は「株主のためでは
なく、家主のために働いている」と愚痴を言
うありさまです(苦笑)。
考えられる唯一の解決策は、我々も資産を
取得することです。例えば、多くの仲間と一
緒に土地を取得しモールを建設する。その
モールの地下にシティスーパーが入り、他の
ブランドにも声をかけてテナントとして入居して
もらう。低層階にはショッピングモール、上層
階には住宅やオフィス部分を設置する。多く
の開発業者は「建設が開始される前にキー
テナントが決まっている場合は、全体の設計
から建築までが非常に簡単に進む」と言いま
す。ただ問題は、どうすれば我々が一致団
結して協力することができるか、です。
周 荻野さんの意見は素晴らしいと思い
ます。ただ、香港やシンガポールでは実現
可能ですが、中国でこのようなプロジェクトを
行うとすれば、それは難しい。また、重要
なのは中国では人気のエリアで広場の数が
ブルーベル
ブランド発掘がすべて
中小企業のアジア進出支援
ミッケルライト わたしが最初に香港を訪
れたのは1968年、子供の頃でしたが、17年
前にまた仕事で戻ってきました。ブルーベル
社は55年前から事業を展開しています。事
業の大部分を日本で展開しており、韓国、台
湾、香港、東南アジアでも活動していますが、
ビジネスは南へ行けば行くほど規模が小さく
なっているのが現状です。
まず中国について申し上げると、ブルーベ
ルはこれまで三度中国に進出したことがありま
す。うち二度は成功しましたが、一度は残念
ながら成功しなかった。最初は「ダビドフ」と
共に進出しましたが、その後合弁パートナー
ブルーベル(アジア)リミテッド
社長兼最高経営責任者(CEO)
アシュリー ・
ミッケ ルライト 氏
ブルーベルは多くのブランドを掘り起こし紹介してきた
アジアのラグジュアリー市場
2012年12月号
3
このアプローチ手法は、中国市場へ浸透す
る武器として大変成功したといえます。
ブランドビジネス
価値観が変化
“お金ありき”は残念
ゴールドストーン・デベロップメント・リミテッド
マネージングディレクター
周 偉祥氏
ゴールドストーンが中国・東南アジアで展開する「ギラロッシュ」
急増し、ショッピングモール事業は厳しい競
争にさらされていることです。今後5年で、
中国の売り場 面 積は日本、シンガポール、
中東、さらに米国の合計に匹敵するという
記事を最近読みました。そして、今後も中
国ではショッピングモールが増え続け、一等
地、ショッピングモールなどは一流ブランドが
占めることでしょう。
清水 中国では非常に多くの規制がある
のに対して、アジア、香港では規制緩和が
かなり進んでいます。
ミッケルライト 買い物について、香港で
はショッピングモールに多く依存しており、日本
では百貨店やファッションビル、地域によって
は路面店など独立店舗になります。シンガポー
ルやマレーシアはショッピングモールに支配さ
れています。このため、我々の方向性として
はショッピングモールとは別の新しい販売拠点
を作る可能性を追求することになります。
香港市場で考えているのは、新たにショッ
ピングエリアに変えることができる地域を見つ
け出すことです。例えば、今後成長するとみ
られるシップ・ストリート周辺のエリアや現時
点では必ずしも高級なイメージではない地域。
これらトレンディーなエリアは、主要ショッピン
グエリアからもあまり離れていません。ソウル
ではそのようなエリアができ始めています。5
年前は決して進出しなかった地域が、今では
結構トレンディーなエリアになってきました。
日本市場はうまく行っていますね。ほかの
地域と異なり、大家さんの脅威(笑)を感じ
ません。日本では力のバランスが百貨店、専
門店などに分散されているため、香港のよう
に家賃を支配するような巨大な力を持ってい
る存在がないようです。このため、日本市場
は取り組みやすいマーケットです。もし、不動
産会社の幹部に日本の不動産を1つ2つ買う
べきだと勧められたら、間違いなく検討する
でしょう。
また、シンガポールの不動産市場に参入す
る唯一の方法は、小売店がまだ多くない地
域を訪れ、グループの力でその地域を変える
ことでしょう。これは、ロンドンで“ポップアップ・
ショッピングモール”
と呼ばれている手法で、
それほど困難ではありません。数百、数千の
コンテナを購入して、それらをある場所に設
置し、コンテナの前面に素敵なガラスを入れ
てショップに仕立てる。ショップはコンテナの長
さほどですが、多くのブランドのニーズにマッ
チし、またトレンディーでカッコいい。これらの
ショップは最初一時的なものとして設置されま
したが、多くの人がその存在を知り、人気が
出たため恒久的なものに変わってきました。
インドネシアに注目も
清水 ミッケルライトさんはインドネシアが注
目市場と指摘されました。これまでの経験をも
とに中国を含むアジアのなかで、どの国や地
域で成功を収められたのか、また今後期待
できるのかについてお話しください。
ミッケルライト 先ほども申し上げましたが、
当社が課題を抱えているのは、中国、韓国、
インドネシアの3市場です。日本市場は非常に
良好で、東日本大震災からいち早く回復しま
した。我々の売上高も地震から2カ月以内に
以前の水準にまで戻ってきたことに非常に驚き
ました。ただ日本円の強さについて少し懸念
しています(苦笑)
。台湾はビジネスが堅調。
景気自体はまあまあで、とくに大きな問題はな
いですが、すでにかなりの規模になってきて
おり、事業の拡大や縮小は今のところ考えて
いません。
香港市場は非常に良好です。以前は絶好
調でしたが、今でもまだ良い状態にある。業
界ではここ2、3カ月売り上げが落ち込んだこ
とに文句を言っている人がいますが(苦笑)
、
それは売り上げが「例外的なレベル」から「良
いレベル」に下がっただけです。香港で当
社は、好調だったブランドとの契約が終了し、
今は新しいブランドに投資していますが、問
題は好調なブランドがそれほど多くないことで
す。新たに1∼2ブランドの購入を検討してい
ます。
東南アジアは今のところ良い状態にありま
す。シンガポールは堅調ですがマレーシアは
後退し、ここ2、3カ月は苦戦中。韓国のデュー
ティーフリーショップは日本人、中国人、韓国
人客に依存していますが、好みがそれぞれ
異なるため、ブランドによって変動が激しい。
韓国国内市場は、とくに9月頃から非常に
厳しい状況になっています。消費者は財布の
ヒモを締め始めています。中国でもそのような
懸念が見え始めており、台湾ではすでに約
半年前からこのような状態にあります。これは
ここ2年欧米でおきていることへの反応かどう
かが分からないですが心配です。
やはり中国がナンバーワン
周 統計をみると、この10年間、中国は
国内総生産(GDP)が連続してほぼ2ケタ%
の成長率を達成しているに対して、他のアジ
ア諸国は、シンガポールを除いて最小の成長
にとどまっていました。中国は世界第2の消費
市場で、アパレル、自動車などのラグジュアリー
品の輸入では、日本を追い抜いて世界第2
位になりました。また中国は米国に代わって日
本向け輸出国ではナンバーワンになり、日中
貿易は、両国の今後の経済成長のために、
重要な役割を果たしていることが明らかです。
香港、シンガポールを含むアジア市場を語
るとき、香港とシンガポールは同じように高い
固定費と高い賃金という問題に直面していま
す。これら2つの都市では多額の投資に対す
るリターンが非常に低く、事業運営には高い
リスクを伴います。しかし、中国からの観光
客が増え、またインドネシア、マレーシア、フィ
リピンなどほかのアジア諸国からの観光客もあ
り、近隣諸国の「窓口」として大きな存在と
なっており、必要不可欠な地域です。
中国に関しては、世界で最大のビジネス・
ポテンシャルを持っていると思います。ラグ
ジュアリー品市場について、高級ブランドの
多くは近年米国、日本の次に中国に経営資
源を集中し尽力しています。中国人消費者
のニーズ、嗜好などを理解するために、多
くの高級ブランドは外国人スタッフを中国に常
駐させています。彼らもまた、ブランド構築
やイベント活動など地域でのPRをサポートし
ています。中国は世界第2位の高級品市場
ですが、実際、多くの中国観光客は香港、
韓国、日本、さらに欧州などに旅行していま
すので、実質的に中国はナンバーワン市場
になりつつあります。
中国では、プレミアム価格のタグを付ける
だけで物が売れるわけではない、ということ
を今、多くの企業が認識するようになりまし
た。中国で成功するためのカギは、
マーケティ
ング・ポジションと適正な価格。大きな成功
を収めるために、これらの分野に資源を集
中しています。
中国市場を香港や他の市場と比較したと
き、例えばプラダはナイロン、ルイヴィトンはP
VC製が非常に有名ですが、中国ではこれら
のブランドのバッグのほとんどが完全革製で
す。そのことからも分かるように、大手ブラン
ドも中国人消費者のニーズに対応するための
製品作りを行い、中国での商売を大きく伸ば
しています。また、中国向けに多くの皮革材
料を調達することによって、日本、香港など
の市場にもこうした製品を売り込むようになりま
した。この結果、日本では皮製のプラダやル
イヴィトンのバッグの売り上げが増えています。
また、コーチの場合、中国での小売価格
は米国市場よりも40∼60%低く抑えています。
コーチは高級品ですが、中国の人口の大部
分が高所得層ではないため、
「非常に低価
格である」と主張し、中国の大衆市場で高
級ブランドのイメージを作っているわけです。
清水 香港、シンガポールなどを含むアジ
ア市場全体をどのようにして確保するか、ま
たどの国・地域が市場として最も重要なので
しょうか。
荻野 全体としてのブランド事業が間違っ
た方向に向かっている、と懸念しています。
ブランドビジネスは、単にお金を払ってブランド
を取得するものと理解している人が多いです
が、そのような簡単なことではありません。今
日、ブランドビジネスのほとんどが「お金にさ
え余裕があれば、誰もがブランドを買収する
ことができる」というスタイルに変わったとみて
います。非常に残念です。
ブランドがどのように変化し今の姿になった
かを振り返ると、郷愁のようなものを感じます。
非常に勉強になるのは「ゴヤール」というブ
ランドです。ゴヤールはおそらくパリで1店だ
けを持ち、そこからすべて発信している。ブ
ランドはそのようにあるべきで、そのブランドの
生命は何であるのか、何を意味しているのか
などを理解しているお客さまを満足させなけれ
ばなりません。今日、そのようなブランドは非
常に少ないですね。
ブランドビジネス自体も変化が起きています。
ブランドが初めてビジネスの世界に足を踏み
込んだのはおそらく1950年代後半からでしょ
う。プラダ は1913年 から、ルイ・ヴィトンも
1918年頃からですが、これらのブランドを除
けば、ブランドは50年か60年の歴史しかない。
しかし、パリやミラノに店舗が1つしかなかっ
た当時と比べて、ブランドの姿が非常に変わっ
てきました。これらのブランドが再び過去の姿
に戻ることはないでしょうが、金融、経済情
勢の変化などに直面し、どのようにして今の
でっかい図体を維持していくのか。要するに、
ブランドは元の姿から離れ、別の種類のビジ
ネスに変わってきたと感じています。
ミッケルライト 全く同感です。新しいブラ
ンドに出会うときに、2つの異なるタイプの人々
に出会います。まず、一つは次のルイ・ヴィト
ンやプラダを目指すタイプで、マーケティング
が積極的でプレゼンテーションもうまい。もう一
つは製品――作るものに対して愛情を注いで
いるタイプ。我々は後者の方に関心がありま
す。彼らは将来大きくなるまでそう長くはかか
伊藤忠テキスタイルプロミネント(アジア)
リミテッド 社長
清水 源也
4
2012年12月号
アジアのラグジュアリー市場/ニュース・クリッピング
らないだろうと思います。我々は非常にニッチ
なブランドを大きく育てた経験があります。
また、企業が突然、投資銀行や「企業価
値を5年で10倍以上に増やす」と甘くささやく
ファンドなどの人々と交渉することもあります。
当該企業内部に投資銀行やプライベート・エ
クイティーのプロからなる経営チームが送り込
まれ、気が付くと会社は2年で完全に変貌し
ている、といった事例を見てきました。
荻野 ルイ・ヴィトンがそれで成功を収めた
ため、他のブランドも同じことをやってみたかっ
たというわけでしょう。しかし、今では2つのブ
ランド・グループしか残っていません。巨大な
富を持っている企業のみ生き残るのが現実で
す。しかし幸か不幸か成功率は低く、多くの
ブランドが途中であきらめた。ブランドが元の
姿に戻り、留まってくれることを願っています。
ブルーベル
日本と中国の2強体制に
清水 それぞれの会社の将来についてお
聞かせください。
ミッケルライト わたしは、アジアの将来
は中国市場にある、と考えています。日本
は以前、アジアのエンジンでした。日本はラ
グジュアリー品でアジア市場の50%を占めて
いましたが、今日では日本と中国の2強体制
になりました。
中国ラグジュアリー品市場はいま誕生した
ばかりであると考えています。しかし、他のア
ジア諸国では2∼3世代かかるところを中国の
消費者は1世代もたたないうちに知識を得まし
た。今後、中国以外で考えられるのはインド
ネシア、そしておそらくインドです。
誰もが10年ほど前に、中国市場が成長す
ることを予想していましたが、「問題はいつ中
国に進出すればよいか」と考えていたと思い
ます。ラグジュアリー品市場は消費者そのも
のがまだ非常に小人数であると思いますが、
エキサイティングなことは、もし民主化が始ま
N
ews
Clipping
るとその人数がとても高い成長率で増えてくる
ことです。
聞くところによると、10年や15年前から中
国にあったブランドは主にお母さんやお父さん
世代に向けたものでした。今の若い世代は、
お母さんやお父さんが買うブランドは買いたく
ない。彼らは何か別のものを希望しています。
これは、たとえば25歳あるいは45歳を対象と
したブランドにとってチャンスだと思います。こ
のようなブランドを我々は探しています。
そして香港ですが、ますます中国の一部
として扱われるようになり、そのアイデンティ
ティーを少し失い始めていますが、文化的
な意味とは別の高級品市場としては、これま
で通り強力な市場のままでいると思います。
台湾は常に良好な市場ですが、人口から見
ても大きな市場ではありません。また、シン
ガポール、マレーシア、タイなどの市場は、
これらをひとつにまとめても中国ほどの強力な
市場にはなりえません。インドネシアは潜在
力を秘めていますが、未知数。巨大な人口
を持っていますが、ビジネスは非常に困難だ
と申し上げたいですね。
ゴールドストーン
中国国内と免税品市場へ
周 大国は非常に保護主義的になるた
め、日本や韓国と比較して、中国本土は最も
難しい市場といえます。中国で商売する場合
は、多くの問題にぶつかるでしょう。わたしは
20年間も中国で仕事をしてきましたが、今で
も中国のやり方を学んでいます。中国人のメ
ンタリティー、商売のやり方などを理解するこ
とは非常に難しい。中国市場はいま始まった
ばかりだと思います。
もう一つの重要なことは、どの地域でどの
ような方法で強化するかです。今後の戦略
は、中国では国内市場とデューティーフリー
ショップの2つの大きな分野に注目しています。
中国は巨大な市場であると同時に非常に難し
い市場でもあります。物流コスト、賃金、地
代などの経費は毎年軒並み上がっています。
中国人消費者も商品の価値を理解するように
なり、賢くなってきました。また、インターネット
により中国の人々は中国の外で何が起こって
いるかを分かってきました。
免税品事業にも同じことが言えます。今日、
年間7000万人にのぼる中国人が海外旅行を
しています。これが2015年までに1億人に達
すると予想され、免税品事業は非常に重要
になるでしょうし、この事業に力を注ぎたいと
考えています。
フェニックスグループ
値引きしないビジネスモデルを
荻野 中国は西洋人やメディアの影響を
受けて消費バブルにあると思います。幸か不
幸か、このバブルが弾けたら、中国はブラン
ドの意味を理解するようになり、またブランドに
引き続き費やす人々がどれくらい残るかも分か
るでしょう。このバブルは日本よりも早く終わる
かもしれません。
中国の消費は今後10年間にかなりの変化
が起きるでしょう。もちろん、より多くの人々は
高所得レベルに入り、贅沢品を買う余裕がで
きるようになる可能性が大きい。一方、ありと
あらゆる贅沢品を買いあさっている人々はきっ
と減少します。
中国人観光客が日本の店で数百万円を費
やす姿など信じられない光景です。販売員
は中国の紳士がどのようにして巨額のお金を
中国から持ち出して1000万円もする腕時計
を、さもアイスキャンディーを買うように購入す
ることができるのか驚いています(苦笑)。バ
ブルが弾けた後、市場はおそらく長期間にわ
たって徐々に縮小されていくでしょう。
当社のアンテプリマを例に挙げると、最も
重要なことはブランドの位置づけです。プラダ
で最初にとった方針は、割引価格で製品を
販売しないこと。当時は靴とバッグしか販売し
ておらず、既製服は扱っていなかったのでこ
の方針を6年間続けることができました。
香港市場ではルイ・ヴィトンや「シャネル」
などのトップブランドは割引をしていませんが、
ランク下のブランドの多くは値引き販売をして
います。アンテプリマもワイヤーバッグについ
てはしばらく前に値引き販売をやめました。今
は既製服や他の商品でもバーゲンセールをど
うすればやめられるか、考えています。理論
的には可能です。バーゲンは間違いなく利益
拡大の妨げになります。長い目で見れば、す
べてのブランドはそうすべきでしょう。
周 同感ですね。
ミッケルライト おっしゃることはよく分かる
のですが、それは靴とバッグでは可能かもし
れませんが、アパレルについては難しいと思
います。アパレルには季節性があり、割引を
しないと後で廃棄など処分をせねばなりませ
ん。バッグの場合、比較的季節性が薄いの
で割引しなくても販売し続けることができます。
荻野 アパレルに関して季節性の問題を
克服するためには、市場にあまり利害を与え
ないアウトレットモールのようなものが必要と思
います。日本にあるアウトレットモールは割引
販売しても通常の販売に支障が出ないよう
に、非常にうまく配置されています。アウトレッ
トモールに行く人々は百貨店でプロパーの価
格で買い物している人々とは異なるタイプであ
ることが分かってきました。別のタイプの顧客
です。アジア市場においても研究したいと思っ
ています。
清水 わたしたち伊藤忠テキスタイルプロミ
ネントは、成長するアジア市場で事業拡大に
注力しています。日本を取り巻く環境は厳しさ
が増すばかりですが、中国市場もさることな
がら、伸び行くアジア市場を取り込んで行くこ
とも非常に重要な課題です。
今回の座談会は我々にとって非常に有意
義で、しかも示唆に富む内容のもので、今後
の指針としていきたく思います。本日は本当に
ありがとうございました。
米国『アウトドアプロダクツ(OUTDOOR PRODUCTS)
』
ブランドの商標権取得、アジアなど世界19地域で
伊 藤 忠 商 事 はこの ほど、 米 国 T H E
世界60カ国以上の国で販売されています。
OUTDOOR RECREATION GROUP社 の
アジアを中心とした新興国市場において
保 有 するブランド「アウトドアプロダクツ
は、昨今の著しい経済成長を背景に、中間
(OUTDOOR PRODUCTS)」の ア ジ ア13
所得者層を中心に充実したライフスタイルを求
地域(日本、中国、香港、韓国、台湾、タイ、 める傾向が強まっています。日常生活や余暇
インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベト
を楽しむためのアウトドアグッズの需要も高ま
ナム、インド、フィリピン、ブルネイ)、及び中
り、『アウトドアプロダクツ』ブランドが展開す
東4地域、南米2地域、計19地域における
る商品群に対するニーズは今後も更に増加し
商標権を取得しました。
ていくことが期待されます。
「アウトドアプロダクツ」ブランドは、1973年
伊藤忠は、このたびの商標権取得を機に、
に米国ロサンゼルスで生まれました。「お客様
『アウトドアプロダクツ』ブランドの世界観をより
の要望を最優先に」をコンセプトに、デザイン
広い範囲で一層強固なものとして発信してい
性、耐久性、バリュープライスを同時に実現
きます。また、ブランドの更なる価値向上と、
した商品が高く評価されており、米国のみな
アジアを中心とする地域における展開拡大を
らず世界中のアウトドアシーンにおいて、確固
視野に、伊藤忠商事のグローバルなネットワー
たる地位を確立しています。
クをフルに活用し、生産や物流面での効率
中でも頑丈なコーデュラ®ナイロン生地を
化を図っていきます。
使った
“452”
というモデルは「デイパックの代名
日本国内においては、大手量販店・専門
詞」とも言われています。現在、デイパック、ダッ
店などの販路を中心とする既存のビジネスを
フルバックから、
ラゲージ、
アパレル、
レイングッズ、 継承しつつ、新たな地域でも順次展開を加
サングラス、自転車、時計、タオルなど多岐に
速し、5年後には小売価格ベースで売り上げ
亘る商品を展開しており、米国、日本を中心に、 300億円を目指します。
本件に関するお問い合わせ先
伊藤忠商事㈱ ブランドマーケティング第一部
ブランドマーケティング第十一課
課長:塩川 弘晃、担当:河田 晃一、中川 弘國
電話:06-7638-2253
海外報告
orld
RW
eport
5
フランス 華やかさと、その裏側
緒方 大
伊藤忠フランス会社 か? 本当のところ、パリに来る人々は、そ
れている。フランス全体だと年間に7500万人
れぞれが、自分特定の「憧れのパリ」を求
もの外国人観光客を迎えているというから
めて来るのではないだろうか。
驚 異的な数字だ。フランス全体で人口が約
そこに込められた思いはいろいろで、人に
6500万人、パリで約200万人。
「観光客」
=
「お
よって、
「ルーブルがあるパリ」
「モナリザがある
客さん」の方がずっと多い計算になる。
パリ」
「マリー・アントワネッ
トが生活したパリ」
「ナ
パリを訪れる外国人を国別にみると、第1
ポレオンがいたパリ」
「藤田が住んでいたパリ」
位が米 国(163万人)
、第2位が英 国(145
「ブランドの本店があ
万人)、第3位がイタリア(69万人)、そして 「美しい街角があるパリ」
るパリ」
「美味しいレストランがあるパリ」
「映画
第4位 が日本(66万人)
。以 下、ドイツ、ス
の舞台となったパリ」
「スウィーツのパリ」
「ワイ
ペインと続く。中国、韓国、ロシア、インドといっ
イルミネーションが美しいギャラリー・ラファイエット
た新興国からの観光客は増加しつつあるが、 ンの美味しいパリ」……ときりがないように思う。
しかし、こうしたパリへの思い入れの強さ
実際の印象ほどには絶対数が多いわけでは
経済は「負のスパイラル」懸念
が高じて、現実のパリと思い描いてきたパリと
ないことに多少驚きはある。
フランスの最近の経済動向からみてみよう。 とくに中国人観光客は実際に多く目に付く
の違いにショックを受けて「パリ症候群」とい
2013年の実質 GDP成長率は民間予測で
う一種の適応障害になる日本人も多いとも言
が、これは一人当たり支出額が国別で第2位
0.3%。緊縮財政による「負のスパイラル」が
となかなかに羽振りがよいためかもしれない。 われている。パリ症候群は、流行の最先端、
懸念されている。
エスプリと文化の都であるパリに憧れて渡仏
ちなみに、一人当たり支出額の第1位は、ま
民間の経済研究機関18社による2013年実
した外国人が、パリの生活の現状にショックを
だ日本であると言われている。
質GDP成長率の予測値は平均で0.3%と、9
感じて、抑うつ的になるストレス症状だ。
月13日付「レ・ゼコー」紙が伝えた。政府
パリは美しく華麗な印象とは裏腹に、汚く
9割超えるリピーター率
は2013年の経済見通しを従来の1.2%から
治安の悪い街や通りも多く、身の危険を感じ
0.8%に下方修正したばかり。オランド大統領
特筆すべきはパリを訪れる観光客のリピー
ることも少なくない。さらに英語すら通じにくい
は9月9日、財政赤字のGDP比3.0%の目標達
ター率の高さである。リピーターは9割を超え
環境に、戸惑うことも多い。クセのあるパリジャ
成に向け、総額200億ユーロの追加増税の
るともいい、「パリはもう○○回目!」といった、 ン、パリジェンヌとのコミュニケーションに、不
実施を明らかにしていた。エコノミストの間で
パリに「はまっている」人が多いことをうかが
便さを感じることもある。
は「緊縮財政が経済成長の足を引っ張り、 わせる。
さらなる財政悪化につながる悪循環」を懸念
一体、何がそれほど人々をパリに引き寄せ
外国人観光客頼りの小売店
する声が強くなってきた。
るのか。パリに来た外国人がどこに行ってい
現在の欧州ユーロ危機によって、フランス
るのかをみると、ノートルダム寺院(1000万
観光客の話と結びつくのだが、中国人旅
も多大な影響を受けているが、こちらに住ん
人)、サクレクール(800万人)、エッフェル塔
行者の購買力は世界の主要都市でますます
でいると、それをあまり感じさせない。失業率 (600万人)、ルーブル美術館(600万人)、と
注目されている。フランスにおいても同じだ。
は高く、街中にはスリも増え、治安も決して良
いわゆる観光名所や美術館が集客を誇って
とくにユーロ危機で消費に影が差しているフラ
いとは言えないが、それは一体なぜだろうか。 いる。別カテゴリーかもしれないが、ルイ・ヴィ
ンスの小売業界にとって、中国人買い物客を
パリという街が常に観光客であふれ、華やか
トン本店にも、相当の観光客が訪れていると
取り込めるか否かは、彼らの業績に決定的な
さがあるからかもしれない。
思われる。
影響を与える。
しかし、こうした観光名所だけでこれほど
ある統計によると、中国人観光客が2010
のリピーター客を引き寄せることができるだろう
年にフランスで落としたお金は前年比60%増
世界最大の観光大国
日本政府観光局(JNTO)の統計によれば、
2010年の確定値で訪日外国人客数は過去最
高の861万人だった。そのうちアジア地域から
の外国人観光客が652万人と75%をも占めて
いる。他の先進国の観光集客はどうだろうか。
結果はグラフの通りである。
フランスは世界で一番多くの外国人観光客
が訪れる国であり、パリは世界で最も多くの
外国人観光客を引き寄せる都市である。パリ
を訪れる外国人観光客は約1500万人と言わ
観光集客(万人)
8000
7420
6000
5488
4323
4000
2803
2422
2000
1942
1527
0
フランス アメリカ イタリア イギリス ドイツ
為替(円/US$)
Data
2012年12月号
ロシア
カナダ
と急増。前述の通り、観光客数としては米国
人のほうが多いが、彼らはあまりお金を使わ
ない。1人当たり支出額は中国人の4割にとど
まるという。
パリの大手デパート、ラファイエット、プラン
タンの売り上げの40%は海外からの旅行者
で、そのうちの3分の1が中国人と言われて
いる。これらのデパートは、過去には日本人
旅行者用のカウンターを大々的に設置したりし
ていたが、現在では、ターゲットを明らかに日
本人から中国人に移している。中国語を話
百貨店衣料品売上高の推移(億円)
75.00
パリ店繊維スタッフと(右端が筆者)
す店員が大勢配置され、以前までは、日本
人用カウンターだったところも、今では中国人
用のスペースとなっている。
“日本食ブーム”続く
一方、フランスで数年来続いている日本食
の人気が、社会現象と言えるレベルになって
きた。日本食のレストランは、過去には主に首
都パリの中心部オペラ地区に集中していた
が、現在では全国に広がり、パリ市内だけで
も、数百店舗あると言われている。
日本食のレストランの客層も、以前とは変わ
りつつあるようだ。日本食は洗練された雰囲
気や、胃に負担がかからず軽いといった理由
からモード・流行=おしゃれとなっており、そ
のため流行に敏感な若い層を中心に、フラン
ス人客の割合が多くなってきている。
日本にも海外の人々から強い思い入れを
持ってもらえるものは、食べ物以外にもたくさ
んあると思われる。筆者もフランスに長く生活
したことにより、改めて日本の魅力を感じるこ
とができたし、海外にいると様々な国の人と出
会うが、各自、自国のことは誇りを持って自慢
してくる。日本は、食文化やファッションにお
いてもフランスに負けないくらいの魅力のある
国だ。世界中から観光客を呼び込む努力を
続けてほしいと願う。
フランス基礎知識
国・地域名:フランス共和国
(FRENCH REPUBLIC)
面積:632,759平方メートル
(本国のみ、
日本の1.7倍)
人口:6,545万人
(2012年、暫定値)
在仏日本人:約3万人
(首都パリに約2万人)
エッフェル塔と左後方にパリ店が入居する高層ビル
チェーン店衣料品売上高の推移(億円)
3,000
3,000
2,000
2,000
1,000
1,000
80.00
85.00
8/20
9/10
10/1
10/29
11/19
0
2010.10
2011.10
2012.10
出所:日本百貨店協会
0
2010.10
2011.10
2012.10
出所:日本チェーンストア協会
ドル/円は、80円を挟んでのもみ合いが続いた後、米国の財政の崖への不透明感や
全体では4955億円で、2.4%減と6カ月連続の前年同月比マイナスだった
10月は中旬まで気温が高く、気温が下がるとともに秋冬物商品が動いた
欧州景気減速懸念を背景として11/9に安値79円07銭をつけた。その後は、野田首
が、休日が2日減少したことを勘案すれば、
ほぼ前年並みに推移したといえる。
が、全体をカバーできず総額では1兆36億円と前年同月を4.0%下回った。
前年割れは8カ月連続。衣料品は1087億円で同8.0%減。紳士衣料は長
相による衆議院解散表明を受けて、次期政権と目される自民党が主導して金融緩和圧
中旬まで全国的に気温が高く、重衣料を中心とした衣料品(1911億円。マ
力が強まるとの思惑から円売りが加速し、11/19に高値81円59銭まで上昇。目先のド
イナス3.3%)
が低調だった。月後半からは気温の低下とともに秋冬物衣料が
袖ポロシャツやカジュアルパンツは好調だが、
トレーナー、
アウターが鈍い。
ビ
ル/円は、衆院選(12/16)後に日銀が更なる金融緩和策を講じるとの期待から円が売
盛り返したほか、高額商材も引き続き堅調だった。衣料品は2カ月連続のマイ
ジネス関連はスーツ、
スラックス、
ネクタイが不調。婦人衣料はカットソー、
ブラ
られやすい展開が続くと予想する。ただし、米国の財政の崖や欧州信用不安・景気減
ナス。紳士服・洋品4.5%減(2カ月連続減)、婦人服・洋品2.6%減(同)、子
ウスは好調だが、
フォーマル、
ジャケット、
ニットが不調。
ジーンズ、パンツは好
速懸念などの不透明感が上値をおさえる可能性には注意が必要である。
( 11/20)
供服・洋品5.3%減(7カ月連続減)、
その他衣料品4.4%減(同)
だった。
調だった。その他衣料・洋品では、肌着が紳士で好調も婦人で不調だった。
6
2012年12月号
F
ashion
Report
No.588
ファッションリポート
繊維業界が期待! ファッションと自転車のクロスオーバーイベント
Tweed Run Tokyo 2012
伊藤忠ファッションシステム株式会社 ブランディング第1グループ コミュニケーションプランニングビジネスユニット 三田 園子
一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構(以下、JFWO)が主催する「MercedesBenz Fashion Week TOKYO 2013 S/S」の最終日、10月20日(土)に「街との連携イベント」
のひとつとして「Tweed Run Tokyo 2012(ツイード・ラン東京 2012)
」
(以下、TRT2012)
が開催された。株式会社ユナイテッドアローズの栗野宏文氏を実行委員長として、LOOP
MAGAZINE(株式会社三栄書房)、Tweed Club by Team Bishu∼*、JFWO、GYPSY
THREE ORCHESTRAの4団体でTRT2012実行委員会を結成し、実施された。
「The Tweed Run」とは、ツイードを着て、自転車で街を走るイベント。2007年にテッド・
ヤング・イング氏によってロンドンでスタートした。現在では米国、イタリア、カナダなど世界各
国で同コンセプトのイベントが開催されている。今回、発起人のテッド氏を招聘し、日本で初の
公式開催となったが、ファッション系、カルチャー系のメディアを中心に大きな反響があった。
その背景や参加企業の声、今後の課題などをレポートする。
①
[email protected]
②
*浅四毛織工業株式会社 / 中外国島株式会社 / 中隆毛織株式会社 / 中伝毛織株式会社 / 藤井整絨株式会社 / 三星テ
キスタイルグループ / 宮田毛織工業株式会社 / 虫文毛織株式会社 / 森織物合資会社 / 渡六毛織株式会社 / 財団法人
③
一宮地場産業ファッションデザインセンター
グループライド前、渋谷公会堂前広場にて記念撮影(① テッド・ヤング・イング = The Tweed Run創設者/主宰者、
② ジャッキー・シャノン = The Tweed Runイベントディレクター、 ③ 栗野宏文 = Tweed Run Tokyo 2012実行委員長)
おしゃれで
かっこいいだけじゃない。
自転車マナーのアピールも
「Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO」
(以 下、MBFWT)は今シーズンより、公
式 会 場 のひとつを渋 谷ヒカリエ へ 移し、
TRT2012のルートは、渋谷公会堂前広場
をスタート地点として、代々木 公園、代官山
T-SITE、渋谷ヒカリエ、宮下公園などを通
過し、渋谷区役所がゴールとなった。
土曜日の午前中とは言え、東京を代表する
ファッションエリアを、ツイードを着た150人のライ
ダーたちが颯爽と走る姿は、多くの来街者の
注目を集めた。またかっこいいだけでなく、自
転車専用道路もしくは車道を1列で走行し、歩
道を通る際は自転車から降りて手で押すという
交通ルールも遵守。自転車の走行マナーのア
ピールも、このイベントの大きな趣旨のひとつだ。
ファッションを楽しむ
新たなシーンに
TRT2012開催の背景には、実行委員長
の栗野氏の「小売店としてお客様に洋服を
買って頂くだけでなく、それを着て行く楽しい
場の提供は出来ないものだろうか」という思
いがあった。ロンドンのツイード・ランを知って
「これだ!」と思い、JFWOに提案。ここ数
年、B to Cイベントの強 化に尽 力している
JFWOとしても、ツイード・ランがファッション
のひとつのジャンルとして確立すれば、消費
者を巻き込むだけでなく、小売さらにはメー
カーの活性化にもつながると考え、MBFWT
のイベントのひとつとして実施することとなった。
TRT2012実 行 委 員 会 はJFWOのほ か、
ストリートカルチャーやファッションも取り上げる
自転 車 の 専 門 誌「LOOP MAGAZINE」
、
国内のウール産地として歴史と実績のある愛
知県尾州のメーカーの連合チーム「Tweed
Club by Team Bishu∼」
、ファッションを軸
に幅広い活動を行っているクリエイティブク
ルー「GYPSY THREE ORCHESTRA」が
加わり、ファッションと自転車それぞれの専門
性を生かして、企画から運営までを行った。
これまでのファッション・ウィークの歴史を振
り返ってみても
“自転車”
という全く異なる業界
との取り組みは珍しいが、メンズファッション誌
や、カルチャー系のメディアからの取材依頼
が増え、MBFWTの認知度アップにも一役
買った。逆に、そこまで自転車にこだわりのな
かったファッション関係の参加者の中には、自
転車に目覚める人も現れ、それぞれの業界に
新たなファンを増やす良いきっかけにもなった
ようだ。
メーカー・産地と消費者を
つなぐ場
今回の参加者の年齢層は20代∼60代と幅
広かったが、男女比では女性は3割弱。「ツ
イードは紳士物のイメージが強いと思います
が、女性にこそ着てほしい素材。TRT2012
でも女性の参加者のツイードの着こなしが素
敵だったので、今後、女性の参加者が多く
なるといいですね」と話すのは、中伝毛織
株 式会社副社長で、今回Tweed Club by
Team Bishu∼の代表を務めた中島君浩氏。
MBFWT全体としては、女性向けのイベ
ントが多いが、自転車という男性的なアイテム
では、女性参加者の華やかさがさらにイベン
トを盛り上げ、話題性も広がるように思う。ま
た今後は、日本各地での開催も視野に入れ、
素材もツイードに限らず、たとえば日本的なデ
ニムなどをドレスコードにして展開することも検
討していると言う。
最近、TRT2012以外にも、ザ・ウールマー
ク・カンパニーが百貨店主催のB to Cイベ
ントに協賛したり、尾州産地が「東京ガール
ズコレクション in 名古屋」に協賛、繊維メー
カーや産地といった川上∼川中にあたる企
業が、消費者への直接的なアプローチの試
みを活発化させていることも興味深い。中
島氏は「産直野菜のように、どこに産地が
あって、こういう素材が作られている、とい
う部分を消費者に積極的にアピールしていき
たい」と話す。
元気のない日本の繊維業界を盛り上げるた
めにも、小売りに任せるだけでなく、自ら消費
者に対して、日本には優秀な産地がいくつも
あり、良質で魅力的な素材が作られている、
ということをPRしていくことが重要になってい
ると言えそうだ。
ザ・ウールマーク・カンパニー /
IWSノミニー・コンパニー・リミテッド
日本支社 日本支社長
中伝毛織株式会社 取締役副社長 /
Tweed Club by Team Bishu∼
代表
井上 俊哉氏
中島 君浩氏
英国チャールズ皇太子によって提唱され、国や業種を越えて
参加を呼びかける「キャンペーン・フォー・ウール」の一環とし
てTRT2012に協賛した。初めてツイード・ランを見たのは、フィ
レツェのピッティ・ウオモ。テッドさんはじめ5、6人程度のデモンス
トレーション的なランだったが、ツイードを着用したライダーとフィレ
ツェの景色が相まって、素晴らしい画だった。規模の大きなもの
になったら、もっと素晴らしいだろうと思っていたところ、今回のお
“ツイード=尾州”
ということで声をかけて頂き、非常にありが
たかった。ツイードの魅力を新しい形で発信できたと思う。日本
の産地では、北陸の合繊が最も有名だが、北陸と尾州で、お
互い持っている技術を持ち寄り、面白いハイブリッド素材を生み
出している。ほかにも産地間コラボレーションを行って、百貨店
やセレクトショップなどで展開している。TRTのような異業種との
コラボレーションは楽しかったし、ツイードの魅力を新しい形で見
話を頂いた。TRT2012では参加者だけでなく関係者も楽しんで
いて、ボランタリーに広がっていく良いイベントだと思う。
せられた。尾州の御膝下、名古屋でも、ぜひツイード・ランを
開催したい!
Tweed Run Tokyo
のスローガン
(1)自転車の正しい乗り方、マナーをPR
(2)自転車ユーザーに交通ルール順守を訴求
(3)東京を、楽しく自転車で走ることができる街として
国内外に発信
(4)自転車をもっと楽しむために、おしゃれをして走る
ことを提案
(5)ファッションのひとつのジャンルとして確立させ、
ファッション産業を活性化
「TAKEO KIKUCHI」クリエイティブディレクター
菊池武夫氏も参加
グループライドスタート直後の様子
颯爽と走る参加者たち
グループライド後にはティーパーティが開催され、
ベストドレッサー賞などの授賞式も行われた