医師国家試験問題を解答する人工知能プログラムを開発

プレスリリース
2015 年 9 月 16 日
報道関係者各位
慶應義塾大学
医師国家試験問題を解答する人工知能プログラムを開発
∼医療情報のビッグデータを活用した診療支援システムの実用化に期待∼
慶應義塾大学理工学部の榊原康文教授と医学部の研究グループは、静岡大学情報学部の狩野研
究室等と共同で、医師国家試験を一部自動解答する人工知能プログラムを日本で初めて開発しま
した。電子カルテに代表される医療情報のビッグデータ化に対して、人工知能を応用する技術の
開発は近年非常に注目されており、今回の自動解答プログラムの成果は、膨大な医療データをも
とに医師の診療を支援するシステムの開発など、医学・医療を飛躍的に発展させる分野として期
待されています。
本研究成果は、2015 年 9 月 16 日から愛媛県で開催された情報科学技術フォーラム FIT2015 で
発表されました。
1.研究の背景
近年、電子カルテなどの診療データ、健康診断データ、服薬履歴データ、などに代表される医
療・健康データの電子化が急速に行われています。患者の状態を把握し、診療に必要な判断を的
確に下す作業は、難易度が高く、専門性が要求されます。電子化された医療・健康情報を用いた
応用システムの一つとして、電子カルテ等に記録された内容から患者の情報を適切に読み取り、
医師の診療を支援するシステムの構築が期待されています。本研究は、診療支援システム(注 1)
の構築を最終目標として、そのパイロット(先行)研究として、医師国家試験を解答するプログ
ラムの構築を行いました。
2.研究の概要と成果
医師国家試験問題は、問題文として患者の情報や検査結果が与えられ、複数の選択肢の中から
適切な回答を選択する臨床実地問題形式のものが大半を占めています。今回は、このタイプの問
題を解答するプログラムの開発を目指しました。医師国家試験を解答することのできる人工知能
(注 2)を開発することによって、医療ビッグデータ情報処理における課題とその対処法につい
て考察し、最終的には様々な患者情報を適切に解析し、必要な診療支援を行うための基礎を築く
ことを目的とします。第 107 回(平成 25 年度)
・第 108 回(平成 26 年度)の医師国家試験問
題のうち、臨床実地問題の 27 題について解答を行いました。その結果、開発したプログラムの
正答率は 42.6%となり、ランダムに解答して得られる正答率 19.6%とくらべて優位に高い正答
率を記録しました。医師国家試験の合格判定基準は約 60%程度と言われておりますので、正解を
導くための教師データを大量に準備することができれば、2-3 年以内に医師国家試験に合格でき
る解答機の完成が可能と考えています。
3.今後の展望
近年、医療・健康情報の電子化に伴い、患者の個人情報を匿名化することで医療・健康情報を
ビッグデータ化し、それらを解析することで有用な医学情報が得られると考えられています。し
かし、今後たとえ医療・健康情報のビッグデータ化が可能になったとしても、それを解析する手
段がほとんどないのが現状です。医療情報ビッグデータを解析する手段の一つとして、近年開発
が盛んに進められている人工知能に非常に注目が集まっています。今回の解答プログラムの成果
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は、今後これらの分野の発展に貢献するものと期待されます。
医師国家試験以外の医療関係国家試験としては、歯科医師、薬剤師、看護師、助産師、放射線
技師、診療検査技師等の国家試験がありますが、これらの医療関係国家試験の中でも、医師国家
試験は問題の難易度、解答に要求される知識量などから最難関試験の一つと考えられています。
今後、本格的に医師国家試験の解答を行う人工知能の開発が可能になれば、他の医療関係資格試
験の解答機の開発へも応用可能と考えています。また医師国家試験より難易度の高い各科専門医
試験は、解答に要する知識量が多いですが、医師国家試験に比べ範囲が限定されるため、教師デ
ータを十分準備して機械学習手法を応用することで、専門医試験の自動解答機の構築も可能にな
ると期待されます。
4.特記事項
本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・
イノベーション(COI)プログラム」の支援により、慶應義塾大学 COI トライアル拠点(代表 洪
実教授)のプロジェクトの一環として行われました。
5.発表論文
論文名:
「医師国家試験を自動解答するプログラムの構築」
(Construction of a question-answering program that automatically answers the medical
licensing examination)
発表学会:FIT2015 第 14 回情報科学技術フォーラム
http://www.ipsj.or.jp/event/fit/fit2015/index.html
著者名:伊藤詩乃、田中佑岳、佐藤健吾、洪繁、狩野芳伸、榊原康文
発表日:2015 年 9 月 16 日
【用語解説】
(注 1)診療支援システム
コンピュータが医師などの診療支援を行う情報処理システム。技術的にはエキスパートシステム
の一種でもある。
(注 2)人工知能
コンピュータ上に人間と同様の知能を人工的に実現させようという試み、またはそのための一連
の情報処理技術。
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【本リリースの発信元】
慶應義塾大学理工学部生命情報学科
慶應義塾広報室(平良)
榊原 康文 教授
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