バイタルサインが「何かおかしい」 SpO2が低下しているが, 1 患者に自覚症状がなく, 特に訴えもない ケース もともと呼吸状態の悪い患者やSpO2が低い患者では,特に判断 が難しく,ドクターコールを迷います。 慌てずに次の4点を確認して,ドクターコールしましょう! SpO2の低下は,通常95 ∼100%以内の変化であれば,PaO2も大き く変化することはなく,呼吸状態の変化も少ない。95%以下では, 呼吸状態が急速に変化する可能性が大きい。 ①機械の異常はないか 接続部の緩みやチューブの破損がないか,また感知部分の汚染 の有無や発光が安定しているかを確認します。 ②確実に測定できているか 患者の体動や低灌流,強すぎる圧迫などは,SpO2の値に影響 を与えます。測定が確実にできているか,表1の内容を確認しま しょう。 表1 SpO2の値に影響を及ぼす因子 原因 内容・理由 体動やセンサーのずれ センサーの装着部の揺れにより,数値が不安定 になる 心不全やショック状態など,末梢循環不全を起 測定部分の血液低灌流 した患者では,測定部分の血流不足により数値 が不安定になる 圧迫 センサー部分の圧迫が強い場合,センサーが静 脈の拍動を感知し,測定値が低下する その他:マニキュアや絆創膏,皮膚の色素沈着,異常ヘモグロビン,直 射日光など 186 SpO2が低下しているが,患者に自覚症状がなく,特に訴えもない ③SpO2低下時の身体症状(所見)に変化はないか SpO2は,呼吸状態を評価する一つの指標に過ぎません。SpO2 の変化を確認したら,それ以外の状態確認を行い,「呼吸状態の 変化」を評価しましょう。また,低酸素状態であれば,呼吸だけ でなく,循環にも影響するため,脈拍や末梢循環なども確認しま す(表2) 。 表2 SpO2低下時に確認する項目とポイント 呼吸 循環 項目 ポイント 呼吸数・呼吸リズム 頻呼吸,徐呼吸,浅表性呼吸,不規則な呼 吸パターンなどの変化(もともと症状の強 い患者では,特に客観的データに注意) 呼吸音 肺雑音の有無。微小の無気肺では,自覚症 状がないことが多い 体位 自然と起座呼吸や側臥位を取り,症状の軽 快を図る場合もあるため,体位を変えて症 状の出現がないかを確認する 血圧 末梢冷感・チアノーゼ 低血圧の患者は,末梢循環血液量が不足し, 正しく測定できないことがある 脈拍 低酸素状態では頻脈傾向を示す ④SpO2低下の原因はないか SpO2は,患者の身体的な要因以外に,処置やケアなどの影響 や酸素トラブルなど,外的な要因によっても低下します。ドク ターコールの際には,これらの要因の有無を確認しましょう。 Dr.コメント ●これがすぐにドクターコールすべきかどうかのポイント SpO2が90%を下回ったら,あるいは急に低下したら,重篤な低 酸素血症やその危険を意味します。この場合には緊急処置,例えば 酸素療法や,さらに気管挿管による人工呼吸が必要になるかもしれ 187 ません。よって,直ちにドクターコールをし,すぐに診察してもら えるような緊急度を十分にアピールしてください。 ただし,特に患者がけろっとして,緊急性が感じられない時の2 つのピットフォールを理解しましょう。 ピットフォール①: すでに高濃度酸素が投与されている時は要注意 この時はSpO2よりもPaO2を見る SpO2とPaO2は,酸素濃度により影響を受けるので,それらの関 係を理解することが重要です。PaO2は,吸入している酸素濃度に ほぼ比例して変化しますので,肺での酸素化の能力の指標に用いる ことができます。いわゆるP/F比のことです。 酸素飽和度は,通常SpO2で見ますが,PaO2が約100mmHgを超 えれば,ほぼ100%を示し続けます。しかし,ひとたびPaO2 が約 100mmHgを下回りだすと,急速にSpO2は低下しだします。SpO2 とPaO2には,いわゆるジグソイド型の関係があります。 すなわち,高濃度の酸素がすでに投与されている場合には要注意 で,肺の酸素化能が破綻直前の場合でも,ぎりぎりまでSpO2は100% 近くを示すことがあり得ることを,決して見逃してはいけません。 酸素濃度のわりにPaO2が低いことに気付けるとよいでしょう。 ピットフォール②: 酸素を投与する前にCO2ナルコーシスの可能性を考える 日頃から低酸素血症にさらされている場合には,その低酸素血症 が換気ドライブ中枢を刺激して呼吸が行われています。この場合に 安易に酸素を投与して低酸素血症を解除すると,この換気ドライブ が抑制されて,呼吸抑制が起きます。すなわち,最悪の場合,急速 に息が止まり,意識も消失し,命にかかわる事態に陥ります。 ただし,この話に矛盾するように見えますが,すでにCO2ナルコー シスになってしまっている場合には,酸素療法を躊躇せず実行すべ き,という難しい場面もあります。 188 SpO2が低下しているが,患者に自覚症状がなく,特に訴えもない 難解だが大事なポイント: 低酸素血症と低酸素症の違いを理解する このケースのように,SpO2が低下しているがけろっとしている 状況,すなわち動脈血ガス分析など検査上の低酸素血症の状態から, 具体的な症状(例えば,不穏,高血圧,頻脈など)が現れる低酸素 症となっていく経過を理解して急変を予測します。 ここまでできたら上級者: 悪化のサインを見逃さずにタイミングよく報告する 原疾患が心臓に関係する場合には,いわゆる心原性肺水腫が急速 に悪化している場合です。肺に関係するならば,肺炎や,肺以外の 全身性の疾患からもARDSは起こり得ます。これらの情報も的確に 伝達できるとよいと思います。 しかし,そこまでになる前の軽微な症状に気が付いて,ドクター コールできたならば,素晴らしいタイミングでのドクターコールと言 えるでしょう。 そういった患者の情報が十分にドクターに伝わらないと,ドクター による十分な診察がないままに行われ得る処置,特にこのケースでは 酸素療法に危険が潜んでいることが予測できるでしょう。 低酸素血症の治療の基本は,適切な酸素療法ができるかどうかに すべてが掛かっています。ドクターコールの掛け方次第で,患者が 不利益を被ることがあることをぜひ理解して,常日頃からの勉強と 準備が大切であると思います。あっ,これはドクターもか…。 な ドクターコール ●急速な酸素化能の低下を見逃しているドクターコー ルは,急変の恐れがあります。 ●ドクターに不用意に酸素指示を出せばよいかと思わ せるドクターコールは,CO2ナルコーシスの恐れが あります。 189
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