残された者たちの苦悩

残された者たちの苦悩
6 月 22 日(火)
今日から、都城地区3km 区域内の抗体検査によるサーベランスが始まった。当診療所か
らも獣医師が一名出動している。9日の発生以来続発はみられていない。このまま、清浄
性が確認されれば7月2日には移動制限、搬出制限が解除される見込みだ。
NOSAI 都城の診療所では、4月20日の発生以来、診療業務の自粛をしていた。重症患
畜のみ往診し、繁殖障害や去勢といった診療は中止していた。その時も、農家さんからは、
まだ去勢はできないのか、繁殖障害は診てもらえないのか等の往診依頼がきていたが、事
情を説明するとしょうがないなという風に納得されていた。去勢に関して子牛が大きくな
り過ぎ、早急になんとかしなければといった事情で、えびの市の清浄性が確認された後、
去勢の実施を行うことに決定した。去勢実施2日後に、都城市で口蹄疫が発生した。当診
療所管内は発生地から10km 圏内にほとんどが含まれるようになった。診療業務はすべて
中止。一切の診療行為が止まった。連合会の発生マニュアルでは20km 以内は診療業務の
ほかすべての業務を一時中止するようになっている。
診療業務のできない診療所の苦悩が始まった。6月9日までは、幾分不都合が生じる程
度で急患や重症患畜には対応できていたのだが、9日以降はすべて電話対応。この電話で
対応することがまた難しい。夜間当番も同じように電話のみ。どんな症状か、薬は持って
いるか、飲ませられるか、などを聞いて、往診できない事情を説明して、農家さんででき
ることを指示してといった具合だ。下痢や風邪といった症状の場合は薬を取りに来てもら
ったりしてなんとかしのいでいる。
それでも、こんなことがあった。9日まで下痢で補液をしていた子牛が10日からそれ
もできず、経口補液剤等で様子をみてもらっていたが、数日後に死亡した。悲しいことだ。
治療していたら死なずにすんだかもと思うと、今の状況に腹立たしささえ感じる。殺処分
にいった獣医師の話や処分された農家さんの話を聞くと、口蹄疫が入った時の悲惨さを思
えば致し方ないと納得せざるを得ない。
他の診療所では、一件の難産で何時間も電話で対応したという話も聞く。破水したか、
手を入れてみて頭は確認できるか、足にロープをかけるときはどうするか、それでどうに
か引っ張りだしてくれ…。という風に。それでうまくいくときはまだいい方で、胎児が死
亡したとか、母牛が起きられなくなったとかという話も聞く。
新型インフルエンザが流行したとき、病院に行くとインフルエンザにかかるから病院に
行けないといった状況に似ている。人はインフルエンザにかかっても殺処分されないが…。
口蹄疫の防疫要領では診療の中止は記載されていない。十分な防疫体制でかつ軒数を控
えればよいのだろうが、万が一、感染を拡大する原因の一つに獣医師の往診があるとすれ
ば中止という措置もやむをえないだろう。
思いは行ったり来たり。見えない敵との戦いが、殺処分の現場以外でも行われている。
Mocky