長期的な方向 貧困削減とミレニアム開発目標の実現は極めて多難な挑戦です。 貧困削減への努力は、ここ 20 年間で 2 億人を貧困から救い大きな成果を上げましたが、それでも、この 地球には、1 日 1 ドル未満で生活する人々が 12 億人、1 日 2 ドル未満で生活する人々が 28 億人もい ます。世界の人口は今後 50 年間に、現在の 60 億人から 90 億人に増大すると予想され、そのうちのお よそ 95%は途上国で増えるといわれています。 開発目標 ミレニアム開発目標(MDG)は、2002 年に国連のミレニアム・サミットで、持続的な貧困削減を実現するに はどうすべきかを検討し、189 ヵ国による前例のない圧倒的な合意を得て設定された目標です。この目 標には、ドナーと受益国など開発コミュニティー全体が目指すべき具体的な標的が定められています。 1. 極貧と飢餓の撲滅 2. 初等教育の普遍的普及 3. ジェンダー平等と女性のエンパワメントの促進 4. 子どもの死亡率の低減 5. HIV/エイズ、マラリアなどの疾病との戦い 6. 環境の持続性保全 7. 開発のためのグローバル・パートナーシップの形成 まず、1990 年から 2015 年までの間に最貧困層の人口を半減するという最初の目標は、現時点で達成 が見込まれています。しかし、このデータは世界的な平均を示しているだけで、実際には世界各地で格 差が見られ、特にアフリカではあまりはかばかしい成果は期待できません。 最後の目標は、ドナーと受益国が果すべき役割などについて定義しています。メキシコのモンテレーで 開催された 2002 年国連開発資金会議や、ヨハネスブルグで開かれた持続可能な開発に関する世界首 脳会議など、最近の世界サミットでは、先進国の間で、貿易障壁の緩和、援助の増額、債務削減などの 必要性が認識されるなど、新たな規範が浮上しました。さらに、MDG を実現するには、多くの途上国の 間で、健全な経済政策、汚職のない効果的な公共セクター運営、民間投資を育む環境作りなど、真の前 向きな行動が必要となります。 世銀の役割 世界銀行は、貸付、保証、分析・助言サービス、債務救済、能力強化、世界規模の監視と支持などを通 じて、先進国と途上国の両方を支援しています。 世界銀行の貧困削減戦略は、投資環境の整備と貧困者への投資に基づいています。 2001 年の戦略的フレームワーク・ペーパーには、世銀の貸付、支援、能力構築活動を MDG の実現に方 向付けるための 2 つの柱が指摘されています。その一つは、投資、雇用、持続的な成長に適した環境を 整備することと、もう一つは、貧しい人々を対象に人的投資とエンパワメントを行って開発に参加させるこ とです。 第一の柱は、民間セクター主導の開発を主体とし、政府が、起業家と経済活動を育む環境作りと、インフ ラ・人的資本・充分な司法制度の確立を実践して開発を後押しすると、最大の成功を収めるという事実を もとにしています。 第二の柱は、保健と教育の重要性をはじめ、貧しい人々が経済的機会の創出に参加しそれを支援でき るようにするためにショックに対する脆弱性を低減する必要性を反映したものです。 つのカギとなる分野: 7 つのカギ となる分野: 世銀の運営陣は、2003 年初頭に、教育の普遍的普及、HIV/エイズ、母子の健 康、給水・衛生、投資環境と金融、貿易、環境の持続性という特に強調すべき 7 つの分野を特定しました。 世銀が資金を提供するあらゆる地域において極めて重要とされたこれらの分野は、世銀が短期的な効 果を高めようとしている分野でもあります。これは、従来の融資活動やグラント提供活動に加えて、能力 構築プログラムがさらに増え、様々なプロセスの加速化が推進されることを意味します。 国際復興開発銀行が 1944 年に設立された当初は、「開発」など二の次の存在でした。当時の世界銀行 の主な機能は戦後のヨーロッパ復興だったからです。 先進国が、貧困国の生活水準の向上という原則にたって活動を開始したのは戦後になってからのことで す。その後数十年にわたり、貧困削減と経済開発の相互関係に対する国際社会の考えは、官民のパー トナーシップ、参加、エンパワメント、ガバナンスを導入することへと変化してゆきました。 最も基本的な点で明白なのは、経済開発だけで貧困削減を実現できるわけではないことです。 世界銀行は 2000 年にこれまでにない画期的な貧困調査書「貧しい人々の声」を出版しました。これは、 貧しい人々と直接接して、世界の貧困の原因と結果を探ろうとしたもので、60 ヵ国の男女 6 万人が貧困 の現実を個人的な体験から詳細に語った声と、何を改善すればこれらの人々の生活が向上するのかを まとめたものです。この調査により、貧困が根本的に、人的開発の他の要素(保健、教育、政治参加は ほんの一例)とどの程度結び付いているか、そして公的プログラムにおいて汚職や非効率性がどの程度 の役割を担っているかなどが判明しました。 「貧しい人々の声」の調査は、「貧困との闘い」を取り上げた世界銀行世界開発報告 2000/2001を補完す るために行われたもので、最近の世銀業務の取組み方の変化に少なからず影響を与えています。貧困 との闘いに向けた新しいアジェンダは、同報告書の中でその概略がまとめられています。 • 機会の増大。これは、貧困者に対して公平な市場アクセスと社会サービスの配給を約束する経 済成長を支援することを意味します。 • エンパワメント。これは、貧困者を活動に含め参加させることのほか、政府の説明責任や透明 性も意味します。 • 安全の保障。これは、経済ショックであれ、病気であれ、自然災害や暴力であれ、貧困者が直 面するリスクを軽減することに関係があります。 コミュニティー主導の開発: コミュ ニティー主導の開発:この調査で浮上した重要な結果の一つとして、貧困は、所得の欠如だけでは なく、広い課題と関係があることが分かりました。貧困とは、貧しい人々の生活を左右する主な意思決定 に加わる「声」を持たないことであり、自治体や国家の政治機関に代表者がいないことを意味します。 このことは、“コミュニティー主導の開発”にもっと重点を置くことへとつながりました。これは、資金や資源 の配分に当り、地元コミュニティー・グループにこれまで以上の権限と管理力を与えて(従って、汚職の防 止になる)、組織や機構の中でこれらグループの声を強めることです。以下はその一例です。 • エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスでは、農村地域のコミュニティー教育委員会に資金 を供与して、両親が学校の資金管理、児童の出席率徹底、教師の雇用、そして教師のパフォー マンスの監視を行っています。 • ラテンアメリカのグアテマラシティー、カラカス、サンパウロ、レシフェの 4 都市を対象としたスラ ム一掃プログラムでは、地元の協会や、市民団体、自治体政府、民間企業が、コミュニティーの 健康向上と犯罪低減を目指して、住宅や地元サービスの改善に力を入れています。 経済成長のほかに、インフラ投資を含めた官民の投資を増やすことが、なおも貧困削減に不可欠となっ ています。一般に、近代的でよく整備されたインフラ・サービスにアクセスできるようにすると、水系感染 症や呼吸器系疾病で死亡する子どもの数を低減し、学校や診療所に通い易くなるなど、保健と教育の結 果に直接貢献します。 こうした業務で成果を上げるには、複数のセクターで同時に活動を進めるのが前提です。 • ペルーでは、インフラにアクセスできる家庭の所得は、アクセスできない家庭の所得に比べ 45%高い割合で伸びています。 • ニカラグアの都市部では、下水施設を整備したコミュニティーで子どもの死亡率が 50%も低下し ました。 • モロッコでは、舗装道路の整備された地域で女子の登校率が 50%以上増大しました。 途上国のニーズは莫大な規模である一方、世銀が利用できる資源は限られています。そのため、あらゆ る方面から資金を調達するのは並大抵のことではありません。世銀が、政策改革、能力構築、投資業務 の厳選に焦点を絞れば、他の筋からの資金を増額する可能性が高まります。 包括的な開発のフレームワーク 包括的な開発のフレームワーク(CDF) 発のフレームワーク(CDF) 各国内でどのような活動を選択するかは概ね、その国の開発優先項目に基づいて行われます。世銀が 提唱し、その後開発コミュニティーの支持をますます受けている包括的な開発のフレームワークはあらゆ る業務を支えています。 CDF の基本的原則は、当事国のオーナーシップ、長期的かつ全体的な視野と戦略、当事者間の戦略的 パートナーシップ、開発結果に対する説明責任の重視が挙げられます。 貧困者への人的投資の方法であれ、開発への参加を促すエンパワメントの方策であれ、あるいは、投資 や雇用、持続的な成長を促進する環境整備対策であれ、活動を成功させる第一の秘訣は、対外援助を 効果的に利用しようという受益国の責任ある姿勢です。今では、開発アジェンダの概略は世銀ではなく 借入国が作成し、世銀は助言を行う役割を果たしているだけです。 CDF は、経済面、金融面だけでなく、社会、構造、人的資源、ガバナンス、環境といったあらゆる開発の 側面を考慮して、各国の開発プログラムを指導するものです。どのプログラムも、政府とドナーのほかに、 市民団体や民間セクターなど、当事者全員の参加が条件となっています。 世銀にとって、CDF は、選択した活動が予定通りのインパクトを最大限にもたらすようにするためのもの であり、国別援助戦略(CAS)の枠組みを提供するものです。通常、向こう 3 年間をカバーする国別援助 戦略には、各国における世銀の貸付プログラムとそれ以外のプログラムの概略が記述されています。最 貧困国の場合は、この CAS とあらゆる形の援助(可能な場合は債務救済も含まれる)を含めることが、 受益国政府による貧困削減戦略ペーパーの草案(ドラフト)作成の前提条件とされています。ちなみにこ の戦略ペーパーは、貧困を重点を置き、広域にわたる参加型の内容でなければなりません。 セクター別戦略 援助を指導するフレームワークは、個々の国だけでなく、個々のセクターにも適用されます。セクター別 戦略は、優先的分野で比較的にパフォーマンスの低い諸国を認識できるなど、特定のセクターまたはテ ーマで世銀の方策と活動を形づけるのに役立ちます。この戦略は、幅広い協議を重ねたうえで作成され、 3 年ごとに改訂されます。今では、オンラインで協議へ参加できるなど、その公開性が増しています。 都市輸送セクターの戦略は現在審査中です。 世銀は最近、森林、 水資源、農村開発、環境、ジェンダー、情報通信技術、民間セクター開発について の新しいセクター戦略を公表しました。 以下の分野でもセクター戦略を入手することができます。 汚職防止 教育 ガバナンスおよび公共セクター改革 保健、栄養、人口 (アフリカの HIV/エイズ戦略も参照) 鉱業(地域戦略) 都市および地方政府 水資源管理
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